説明

許容可能な血清中テストステロン・レベルを信頼性高く達成するための方法及び医薬組成物

本発明は、ヒマシ油と補助溶剤とを含むビヒクル中にテストステロン・エステル、具体的にはテストステロン・ウンデカノエートを含む注射可能な投与のために調製された医薬組成物に関する。特定の投与スキームに従って組成物を注射すると、正常な生理学的範囲内の信頼性の高い血清中テストステロン・レベルが長時間にわたって達成される。このことは、医師による血清中テストステロン・レベルのモニタリングを伴うことなしに、ホルモン補充療法及び男性避妊においてこれらの組成物を使用するのを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製剤科学分野、並びに男性のホルモン補充療法及び男性避妊におけるホルモンの治療応用分野に関する。具体的には、本発明は、筋肉内注射時に、信頼性の高い、生理学的に許容可能な血清中テストステロン・レベルを長時間にわたって提供する、ヒマシ油中のテストステロン・エステルの組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テストステロンの正常な生理学的レベルに達するために、そしてアンドロゲン欠乏の症状を軽減するために、ここ数十年間にわたって、テストステロン調製物を臨床的に使用して、一次性及び二次性の男性性腺機能低下症が治療されている。さらに、テストステロン調製物は、精子形成を抑制するための単独の活性治療薬として、あるいはプロゲスチン又は更なるゴナドトロピン抑制剤と組み合わされた活性薬剤として、男性避妊に使用されている。
【0003】
男性性腺機能低下症は、異常に低レベルの循環テストステロン、すなわち10 nmol/l未満の血清中テストステロン・レベルをもたらす内生的テストステロン産出不足によって特徴付けられる。
【0004】
男性性腺機能低下症は、一次性原因と二次性原因とに分類することができる。すなわち、先天性又は後天性の一次性又は高ゴナドトロピン性腺機能低下症は、停留精巣、両側精巣捻転、精巣炎、精巣摘除、クラインフェルター症候群、化学療法、及びアルコール又は重金属からの毒性被害に起因する精巣不全に由来することがある。先天性又は後天性の二次性又は低ゴナドトロピン性腺機能低下症は、突発性ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)欠乏症、あるいは腫瘍、外傷又は放射線照射による下垂体-視床下部損傷に起因する。大部分の場合、性腺機能低下症は精巣の一次性欠陥に関連する。
【0005】
性腺機能低下症の成人男性の臨床像は極めて多種多様である。例えば、テストステロン欠乏には、性的不全、筋肉量及び筋力の低下、気分の落ち込み及び骨粗鬆症を含む、種々異なる深刻な症状が伴う。
【0006】
現在の標準的な治療は、生理学的に妥当な血清中テストステロン・レベルを回復させることを目標にする。このようなレベルは、約12 nmol〜約36 nmolの濃度に当てはまる。2〜3週間毎に投与されるテストステロン・エステル、例えばテストステロン・エナンテート又はテストステロン・シピオネートの筋肉内注射が依然として、世界のほとんどの国々におけるテストステロン補充療法の標準である。頻繁に通院しなければならない不便さは別にしても、患者は、例えばテストステロン・エナンテートの筋肉内注射後の薬物動態プロフィールから生じる血清中テストステロン・レベルの短期間のばらつきに起因して、健康状態が変動することに関して不満を持つ。
【0007】
最近では、より長い脂肪族鎖長及び/又はより高い疎水性を有するテストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートを使用することが、注射間のインターバルを長くするという点で興味深いものになっている。注射間のインターバルが長くなることは、患者の視点から有利である。
【0008】
例えば、Zhang G他が1998年に、2mlの茶油中250 mgの濃度のテストステロン・ウンデカノエートを含む組成物を注射することにより、500 mg又は1000 mgの用量のテストステロン・ウンデカノエートを投与することを報告している(Zhang G他、A pharmacokinetic study of injectable testosterone undecanoate in hypogonadal men. J. Andrology, 第19巻、第6号、1998)。Zhang G他は1999年に、潜在的な男性避妊薬としての注射可能なテストステロン・ウンデカノエートに関わっている(Zhang他、J clin Endocrin & metabolism, 1999, 第84巻、第10号、第3642-3646頁)。
【0009】
さらに、Behre他は1999年に、テストステロン補充療法のためのテストステロン・ウンデカノエート調製物、例えば茶油中テストステロン・ウンデカノエート125 mg/ml、及びヒマシ油中テストステロン・ウンデカノエート250 mg/mlに関わっている(Behre他、Intramuscular injection of testosteron undecanoate for the treatment of male hypogonadism: phase I studies. European J endocrin, 1999, 140, 第414-419頁)。
【0010】
250 mgのテストステロン・ウンデカノエート及び200 mgのMPAを毎日筋肉内注射することが、男性避妊のために示唆されている(Chen Zhao-dian他、clinical study of testosterone undecanoate compound on male contracption. J Clin androl, 1986, 第1巻、第1号、要約)。
【0011】
Wang Lie-zhen他は、250 mgのテストステロン・ウンデカノエートを毎月筋肉内注射することによる、テストステロン補充療法を報告している(Wang Lie-zhen他、The therapeutic effect of domestically producted testosterone undecanoate in Klinefelt syndrome. New Drugs Market 8: 28-32, 1991)。
【0012】
国際公開第95/12383号パンフレット(中国出願)は、植物油中、任意には安息香酸ベンジルとの混和物中のテストステロン・ウンデカノエートの注射可能な組成物に関する。これらの組成物は、男性避妊及び補充療法に適用するときには毎月注射される。
【0013】
米国特許第4212863号明細書は、任意には安息香酸ベンジルを含む種々の油キャリヤを含む、経口又は非経口投与のための、ステロイドの脂質配合物に関する特許明細書である。この配合物は脂質キャリヤの粘性を低くし、且つ/又は可溶性を高めると述べられている。
【0014】
Eckardstein及びNiesclagが2002年に報告した、テストステロン・ウンデカノエートによる性腺機能低下症男性の治療の場合、最初に6週間のインターバルで4回、テストステロン・ウンデカノエートを注射した後、より長いインターバルで続いて注射すると、生理学的に妥当なレベルのテストステロンに達することができる(Eckardstein及びNiesclag, treatment of male hypogonadism with testosterone undecanoate injected at extended intervals of 12 weeks, J Andrology, 第23巻、第3号, 2002)。
【0015】
しかし、テストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートによる治療には、長期間にわたって生理学的に許容可能な範囲の信頼性の高い血清中テストステロン・レベルを獲得するという点でまだ改善の必要があることが良く知られている。投与を必要とする幅広い男性患者人口に受け入れられる信頼性の高い標準投与計画、好ましくは、血清中テストステロン・レベルを時々コントロールする必要のない投与計画、及び短期間のうちに定常状態条件に達する投与計画を提供する必要がある。
【0016】
発明の要約
本発明は、テストステロン補充療法において使用するための長時間作用性のテストステロン・エステルを含む注射可能な組成物に関する。これらの組成物を注射すると、生理学的に正常な血清中テストステロン・レベルに短期間のうちに到達する。さらに、生理学的に正常なテストステロン・レベルは、性腺機能低下症の範囲の変動を示すことなしに、長期間にわたって維持される。組成物は、テストステロン・エステルに関して化学的に安定しており、また、ビヒクルに関しては長時間にわたって物理的に安定している。
【0017】
従って、第1の観点において本発明は、例えば筋肉内注射による注射可能な投与のために意図された組成物であって、直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステル、好ましくはテストステロン・ウンデカノエートと;ヒマシ油及び補助溶剤を含むビヒクルとを含む、組成物に関する。
【0018】
さらに、第2の観点において本発明は、男性における欠乏した内生的テストステロン・レベルと関連する疾患及び症状を治療する方法に関する。この方法は例えば、一次性及び二次性の性腺機能低下症;下垂体疾患;性的不全の症状;筋肉量及び筋力の低下の症状;気分の落ち込みの症状;又は骨粗鬆症の症状の治療方法である。この方法は、
i) テストステロン・ウンデカノエート投与量500 mg〜2000 mgと治療上等しい量のそれぞれの前記テストステロン・エステル投与量を、各投与間に4〜8週間のインターバルを置いて2〜4回注射する初期段階と;これに続く、
ii) テストステロン・ウンデカノエート投与量500 mg〜2000 mgと治療上等しい量のそれぞれの前記テストステロン・エステル投与量を、各後続の投与間に9週間以上のインターバルを置いて続いて注射する維持段階と;
を含む特定のスキームに従って、
直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートを注射により投与することを含む。
【0019】
更なる観点は、男性避妊のために上述の組成物を使用することに関する。
【0020】
さらに別の観点は、薬剤を調製するための、直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステルの使用であって、前記薬剤が、非経口投与のための形態、例えば筋肉内注射のための形態を成しており、そしてさらにヒマシ油と補助溶剤とを含むビヒクルを含む、テストステロン・エステルの使用に関する。当該薬剤は主として、プロゲスチン又は別のゴナドトロピン抑制剤による治療を受けている男性における欠乏したテストステロン・レベルと関連する疾患及び症状を治療するために、男性の一次性及び二次性性腺機能低下症の治療用に使用される。
【0021】
本発明の詳細な説明
本発明者は、in vivoのテストステロンの優れた薬物動態プロフィールをもたらす標準的な方法をここに提供する。本発明のテストステロン調製物を用いて治療を開始した後、ただちに生理学的に正常な血清中テストステロン・レベルに達し、正常な生理学的範囲内の信頼性の高い血清中テストステロン・レベルが長期間にわたって維持される。有利には、本明細書中に報告した標準法は、注射間のインターバルを有意に長くするのを可能にし、血清中テストステロン・レベルのコントロールを必ずしも必要とせずにすむ。
【0022】
本発明の標準的な方法は、ゆっくりと分解可能なテストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートを含む組成物の好適な調製と、このようなテストステロン・エステルの十分に定義された投与量の好適な注射スキームとを組み合わせることを含む。
【0023】
特定の理論に合わせるわけではないが、特にデポ効果が望ましい場合には、筋肉内注射されるテストステロン・エステルの薬物動態プロフィールに、多数のパラメーターが影響を与えることになる。デポ効果は一般に、一旦血液循環中に入るとゆっくりと分解して遊離テストステロンになるテストステロン・エステルを選択することによって達成することができる。デポ効果に関与する付加的なファクターは、注射部位から循環血液系へのテストステロン・エステルの拡散速度である。投与部位におけるテストステロン・エステルの濃度勾配が拡散速度に影響を及ぼすと考えられる点で、拡散速度は、注射された投与量及び容積に依存し得る。さらに、テストステロン・エステルと一緒に注射されるビヒクルのタイプも、ビヒクルから周囲組織内へのテストステロン・エステルの拡散速度、及び血液循環中への吸収速度に影響を与えることになる。従って、テストステロン・エステルの筋肉内注射後のデポ効果を適合させるために、ビヒクル中のテストステロン・エステルの分配係数(n-オクタノール-水分配係数)、並びにビヒクルの粘度を検討するべきである。
【0024】
さらに、安全性及び取り扱い易さの理由から、テストステロン・エステルは、ビヒクル中に適正に溶解されるべきである。どの種類のビヒクルがテストステロン・エステルを溶解させることができ、しかも所要のデポ効果を提供することもできるかを予測するのはしばしば不可能である。従って、製造の観点からは望ましくないものの、種々の溶剤の混合物が必要となることがある。
【0025】
ヒマシ油と好適な補助溶剤とを含むビヒクル中のテストステロン・エステルを筋肉内注射すると、テストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートの効果的なin vivoデポ効果が達成されることを、本発明者は認識している。補助溶剤はヒマシ油の粘度を低下させ、そしてその結果注射の際のヒマシ油の高粘度の問題を解決することができる。他方において、補助溶剤はテストステロン・エステルの拡散速度を高め、その結果、筋肉内注射後のデポ効果を低くしてしまうおそれがある。
【0026】
言うまでもなく、本発明の第1の観点は、直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステルと;ヒマシ油及び補助溶剤を含むビヒクルとを含む組成物に関する。
【0027】
組成物は、非経口投与、好ましくは筋肉内注射のために調製される。
【0028】
「直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエート」は、炭素原子数9〜16の鎖長の脂肪族エステルを意味するために表される。すなわち、脂肪族エステルは、9〜16個の炭素原子から形成されている。従って、本発明の好適な実施態様の場合、テストステロン・エステルは、エステル基がノンカノエート、デカノエート、ウンデカノエート、ドデカノエート、トリデカノエート、テトラデカノエート、ペンタデカノエート、又はヘキサデカノエートであるエステルから選択される。好ましくはエステル基は、テストステロン分子の17β位に配置することができる。現在注目される態様において、テストステロン・エステルはテストステロン・ウンデカノエートであって、これは17β位に脂肪族側鎖を有するテストステロン・エステルである。化学名は17β−ヒドロキシアンドロスト−4−エン−3−オン・ウンデカノエートである。
【0029】
「ヒマシ油」という用語は、例えばDABに記載されているように、非経口用途のために精製されたヒマシ油を含むものとする。ヒマシ油は、抗酸化剤を含有しない形態で提供され、抽出過程を用いずにトウゴマ(ricinus communis)を一番圧搾することにより得られる。なお、ヒマシ油は、水素化されておらず、又は少なくとも部分的には水素化されていないと解されるべきである。実施態様によっては、二重結合のわずかな部分が水素化されていてよい。例えば、二重結合の20% w/w未満が水素化されていてよい。好ましくは二重結合の10% w/w未満が水素化されていてよく、より好ましくは二重結合の5% w/w未満、さらにより好ましくは2% w/w未満、最も好ましくは1% w/w未満が水素化されている。ヒマシ油は、室温で液体として出現する。
【0030】
上述のように、ビヒクルの補助溶剤は少なくとも部分的に、本発明の組成物の必須要素である。このような補助溶剤は一般に、Hoeppler粘度計によって測定して、ヒマシ油の粘度を低減するその能力によって定義することができる。
【0031】
高粘度ビヒクル、例えばヒマシ油の注射には技術的な限界が伴う。このような限界は、カニューレ通過時のビヒクルの抵抗により、カニューレのサイズを制限する。注射溶液の粘度が100 mPAS未満に保たれることが一般には推奨される。或る特定の事例において、注射の準備ができた状態の最終生成物、例えば液体に戻された生成物の粘度は、室温で例えば100 mPAS未満(例えば90 mPAS、80 mPAS、70 mPAS)であってよい。実施態様によっては、ビヒクルの粘度は、室温で60 mPAS未満、50 mPAS未満、40 mPAS未満、30 mPAS未満である。
【0032】
従って本発明の好適な実施態様の場合、補助溶剤は、油:補助溶剤容積比1:0.2〜1:3でヒマシ油と混合されたときに、粘度が室温で950〜1100 mPasから約20 mPasに低下する補助溶剤から選択される。好ましくは補助溶剤は、これが油:補助溶剤容積比1:1〜1:3でヒマシ油と混合されたときに、粘度が950〜1100 mPasから約80〜100 mPasに低下する補助溶剤から選択される。ビヒクルの粘度は、Hoeppler型粘度計で測定することができる。Hoeppler型粘度計は、傾斜したガラス管から成っており、このガラス管内で、既知の密度、質量及び直径を有する球体が被測定液体中を滑走し、そしてこの球体の降下時間が測定される。粘度は固定温度、しばしば室温、例えば20℃又は25℃で測定される。測定は、値が一定になるまで繰り返される。
【0033】
補助溶剤は、ビヒクル、例えばヒマシ油の粘度を比に応じて低減する溶剤の能力によって特徴付けることができる。
【0034】
本発明の1つの注目の実施態様において、容積比1:0.1〜1:1.7のヒマシ油と補助溶剤との混合物の粘度は、ヒマシ油の粘度に対して60%から5%に低減される。
【0035】
本発明の好適な実施態様において、容積比1:0.02のヒマシ油と補助溶剤との混合物の粘度は、ヒマシ油の粘度に対して約10 %低減される。他の種々の実施態様において、ヒマシ油と補助溶剤との容積比が1:0.04である場合、粘度はヒマシ油の粘度に対して約20 %低減され、容積比が1:0.08である場合、粘度は約25 %低減され、容積比が1:0.1である場合、粘度は約40 %低減され、容積比が1:0.2である場合、粘度は約50 %低減され、容積比が1:0.35である場合、粘度は約75 %低減され、容積比が1:0.5である場合、粘度は約80 %低減され、容積比が1:1である場合、粘度は約90 %低減され、又は容積比が1:1.6である場合、粘度は約95 %低減される。
【0036】
更に注目の実施態様において、組成物の粘度は100 mPas未満である。さらに、実施態様によっては、ビヒクル、例えばヒマシ油と補助溶剤、例えば安息香酸ベンジル)との混合物の粘度は、90 mPas未満であり、ビヒクルの粘度は室温(20℃〜25℃)で、約60〜100 mPas、例えば70〜100 mPas、例えば80〜90 mPAsである。
【0037】
上述のように、注射されるビヒクルの粘度は、注射される物質の薬物動態プロフィールを決定することができる。従って、in vivoでの好適なデポ効果を有する最終生成物を得るために、ヒマシ油と補助溶剤との容積比は、1:0.2〜1:3、例えば1:0.5〜1:3、又は1:0.75〜1:2.5の範囲にある。好ましくは容積比は1.1〜1.2の範囲にある。
【0038】
本発明の現在注目の実施態様において、補助溶剤は安息香酸ベンジルである。原則的には、他のタイプの補助溶剤、例えばエタノール又はベンジルアルコールを、ヒマシ油と組み合わせて使用するために適用することができる。本発明の注目の補助溶剤は、テストステロン・エステルを溶解させることができ、しかもヒマシ油と混和可能なものである。特に注目すべきは、約100〜500 mg、例えば約250 mgのテストステロン・ウンデカノエートを1 mLの補助溶剤中に、40℃で50分以内、又は60℃で20分以内で溶解させるのに適した補助溶剤である。
【0039】
ヒマシ油ビヒクルに補助溶剤を添加すると、テストステロン・エステルの溶解度に影響を与えることができる。おそらく溶解度は改善されうる。従って、実施態様によっては、テストステロン・エステルは組成物中に完全に溶解され、そして他の実施態様において、テストステロン・エステルは組成物中に部分的に分散される。好ましくは、テストステロン・エステルはビヒクル中に完全に溶解される。すなわち、X線回折分析によってテストステロン粒子を検出することができない。
【0040】
本発明が提供する組成物において、補助溶剤はビヒクル中に、10〜90 vol%の濃度範囲で存在する。好ましくはビヒクル中の補助溶剤の濃度範囲は、15〜85 vol%、より好ましくは20〜80 vol%、例えば45〜85 vol%又は55〜85 vol%である。
【0041】
換言すれば、ビヒクルは、約20〜85 vol%の範囲の容積濃度でヒマシ油を含む。好ましくは、ビヒクル中のヒマシ油の濃度範囲は、約25〜60 vol%、例えば約25〜55 vol%である。本発明の好ましい実施態様の場合、ビヒクル中のヒマシ油の濃度範囲は、約25〜50 vol%、例えば約25〜45 vol%又は25〜40 vol%である。
【0042】
なお、意図的にこの組成物は別の植物油、例えば茶油を含むべきではないと解されるべきである。すなわち、ヒマシ油は組成物中に存在する唯一の植物油であり、或いは、ヒマシ油は、ビヒクル中の植物油総含量の50容積%以上、例えば60容積%以上、70容積%以上、80容積%以上、90容積%以上を形成する。
【0043】
補助溶剤の所要濃度は多数のファクター、例えばi)注射ビヒクル中のテストステロン・エステルの量、ii)粘度の所要の低減、及びiii)注射部位におけるテストステロン・エステルに関する注射ビヒクルの放出特性(拡散速度)に依存することが、一般に考えられる。本発明の注目の実施態様において、補助溶剤は、ビヒクルの10 vol%以上、好ましくは15 vol%以上、より好ましくは25 vol%以上、最も好ましくは40 vol%以上、例えば50 vol%以上を形成する。補助溶剤は、ビヒクルの約40〜80 vol%、例えば約50〜70 vol%の量であると興味深く、最も好ましくは、補助溶剤はビヒクルの約55〜65 vol%の量である。
【0044】
本発明の実施態様によっては、ビヒクル中の補助溶剤の濃度は、例えば注射部位におけるテストステロン・エステルの拡散速度を低減するために制限されるべきである。従って、実施態様によっては、ビヒクル中の補助溶剤の濃度は、90 vol%未満、好ましくは85 vol%未満、より好ましくは80 vol%未満、例えば75 vol%未満であるべきである。
【0045】
筋肉内注射することができる容積は、ビヒクルから活性成分の放出速度に影響を与えることが知られている。1単回筋肉内注射によって1つの注射部位に投与することのできる最大容積として、5 mLの注射容積が一般に考えられる。5 mLよりも大きい容積の筋肉内注射が必要となる場合、注射容積は、異なる注射部位への2回又は3回以上の別個の注射に分けることが必要である。しかし、1投与量を投与するために複数回注射することは、患者に不便をかけることになるため、一般には好ましくはない。
【0046】
単回投与量を複数に分けて注射するのではなく、1つの注射部位へ単回投与量を注射することは、活性成分の放出をコントロールする上で大きな利点をもたらす。本発明が関わる注射スキームの場合、テストステロン・エステルの単回投与量を、2回以下の注射に分けて1つ又は2つ以上の注射部位に注射する。最も好ましくは、テストステロン・エステルの単回投与量を、1つの注射部位への1回の注射量として注射する。従って本発明の現在注目の実施態様において、テストステロン・エステル投与量は、1つの注射部位への単回注射量として投与され、注射容積は1〜5 mL、好ましくは1〜4 mL、好ましくは1.5〜4 mLである。再現可能な投与容積及びテストステロン・エステルの均一な放出を保証するための本発明の好適な注射容積は、5 mL未満、例えば約5 mL、約4 mL、約3 mL、約2 mL、及び約1 mLである。
【0047】
単回注射及び低い注射容積を利用するために、組成物中のテストステロン・エステルの濃度は比較的高いことが必要となる。従って、テストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートは、ビヒクル1 mL当たり100 mg〜1000 mgの濃度である。さらに注目の実施態様において、テストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートは、ビヒクル1 mL当たり130 mg〜750 mgの濃度、より好ましくはビヒクル1 mL当たり150 mg〜500 mgの濃度、最も好ましくはビヒクル1 mL当たり175 mg〜400 mgの濃度、例えばビヒクル1 mL当たり約250 mgの濃度である。
【0048】
組成物は、一単回用量として注射されることが意図される単位剤形、例えば単位用量で調製することができる。このような実施態様において、テストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートは、500〜4000 mg、好ましくは500〜3000 mg、より好ましくは750〜2000 mg、最も好ましくは750〜1500 mg、例えば1000 mgの投与量である。
【0049】
本発明の組成物が更なる治療上活性の物質、例えばプロゲスチン、及び/又はテストステロン・エステル以外の更なるゴナドトロピン抑制剤を含むことがさらに考えられる。
【0050】
本明細書中に使用された「プロゲスチン」という用語は、プロゲスチン活性を有する全ての化合物、例えばシプロテロン、ドロスピレノン、エトノゲストレル、デソゲステル、ゲストデン、レボノルゲストレル、ノルエチステロン、ノルゲスチメート、ノルエチンドロン、ノルエチンドロンアセテート、ノルエチノドレル、ノルゲスチメート、ノルゲストレル、メドロゲストン、メドロキシプロゲステロンアセテート及びプロゲステロンを含む。
【0051】
本発明の組成物は、テストステロン・エステルに関して化学的に安定である。すなわち、分解プロセスを加速することが通常知られている条件で、例えば温度の変動、高温及び低温、並びに種々の相対湿度の条件で、長期貯蔵後(例えば7週間又は17週間後又はそれよりも長い時間の経過後)に分解生成物を検出することはできなかった。例えば7週間以上、例えば16又は17週間、6ヶ月、又は9又は12ヶ月にわたって、40℃及び25%RHで暗所において組成物を貯蔵したあとに存在するテストステロン・エステル分解生成物は、1重量%未満である。好ましくは、上述の条件で貯蔵したあとに存在するテストステロン・エステル分解生成物は、0.5 %w/w未満、例えば0.2 %w/w未満である。
【0052】
さらに、ヒマシ油と安息香酸ベンジルとを含むビヒクルも極めて安定しているので、種々の温度で長時間にわたって組成物を貯蔵したときに、溶液の昇華は見られない。
【0053】
本発明による組成物は、当業者に知られた技術に従って調製することができる。
【0054】
本発明の組成物の調製における第1工程は、補助溶剤中にテストステロン・エステルを溶解させることを含む。次いで、テストステロン・ウンデカノエート/補助溶剤溶液をヒマシ油と合体させる。次いで、最終溶液を0.2 μmフィルターを通してろ過し、任意には例えば褐色ガラス瓶内に充填し、その後180℃で3時間にわたって最後に滅菌することができる。
【0055】
テストステロン・エステルが溶解されているビヒクルは、さらに1種又は2種以上の賦形剤、例えば保存剤、安定剤、その他の補助溶剤及び抗酸化剤を含んでよいと考えられる。好適なビヒクルは滅菌性であり、そのビヒクル中には発熱物質がなく、そして粒子もない。
【0056】
上述のように、本発明者は、
・ 注射部位からテストステロン・エステルがゆっくりと拡散し、そしてテストステロン
・エステルがゆっくりと分解することにより血液中で遊離テストステロンになることを保証するように、テストステロン・エステルのための適正な注射ビヒクルを選択し、そして
・ 男性における欠乏した内生的テストステロン・レベルと関連する疾患及び症状を治療するためのこのような組成物のシンプルで信頼性の高い投与スキームを選択すること、
により、血中テストステロンの優れた薬物動態プロフィールを有するテストステロン・エステルの配合物を提供した。
【0057】
従って本発明の更なる観点は、男性、例えば哺乳動物のオス、例えばヒトの男性における欠乏した内生的テストステロン・レベルと関連する疾患及び症状を治療するための方法であって、直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステルを注射により、例えば筋肉内注射により投与することを含み、この方法はさらに、
i) テストステロン・ウンデカノエート投与量500 mg〜2000 mgと治療上等しい量のそれぞれの前記テストステロン・エステル単回投与量を、各注射間に4〜10週間のインターバルを置いて2〜4回注射することを含む初期段階と;これに続く、
ii) テストステロン・ウンデカノエート投与量500 mg〜2000 mgと治療上等しい量のそれぞれの前記テストステロン・エステル単回投与量を、各後続の注射間に9週間以上のインターバルを置いて続いて注射することを含む維持段階と
を含む。
【0058】
「治療上等しい」という用語は、テストステロン・ウンデカノエートの治療上妥当な投与量という意味で、本発明の任意のテストステロン・エステルの投与量を定義するものとする。例えば、血中テストステロン・レベル12〜35 nmolを回復するためのテストステロン・ウンデカノエートの治療上妥当な投与量が約1000 mgであることが判った場合、本発明の任意のテストステロン・エステルの投与量は、テストステロン・ウンデカノエートと同じ効果を達成する投与量である。
【0059】
「注射による投与」という用語は、筋肉内への注射又は皮下注射のための任意の形態を含むものとする。好ましい注射形態は、筋肉内注射によるものである。
【0060】
好ましくは、初期段階は、各注射間に4〜8週間のインターバルを置いて前記テストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートの投与量を2回又は3回注射することを含む。最も注目の実施態様において、初期段階は、各注射間に4〜10週間のインターバルを置いて前記テストステロン・エステルの単回投与量を2回注射することを含む。目下興味深い実施態様において、初期段階における注射間のインターバルは6週間である。
【0061】
更なる観点において、本発明は、男性における一次性及び二次性性腺機能低下症の治療のための薬剤を調製するために、直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステルを使用することであって、前記薬剤が、注射可能な投与のために意図された形態を成しており、さらに、ヒマシ油と補助溶剤とを含むビヒクルを含む、テストステロン・エステルの使用に関する。
【0062】
本発明者はここで、6週間の初回注射インターバルを適用する(初回投与量の注射に続いて、初回注射から6週間後に第2回投与量を注射する)と、定常状態に達するまでの時間が短くなるという証拠を提供する。こうして、維持段階は6週間の治療後に既に始まることができる。さらに本明細書中に示されるように、注射間に10週間又は12週間のインターバルを用いて、テストステロン・ウンデカノエートの後続の注射を実施することにより、注射間の期間全体にわたって、正常範囲10〜35 nmol/L以内に良好に留まる血清中テストステロン・レベルを得ることができる。こうして、10〜35 nmol/Lの範囲の信頼性の高い血清中テストステロン・レベルをもたらす注射スキームが見いだされた。
【0063】
本発明の組成物の薬物動態プロフィールは、定常状態条件に最初に達したら、注射間の時間を長くすることを可能にする。こうして本発明の好ましい実施態様の場合、維持段階は、本発明の組成物の後続の注射間に10週間のインターバルを置いて、好ましくは11週間以上、例えば12, 13, 14, 15及び16週間のインターバルを置いて、後続の注射を実施することを含む。
【0064】
注射されるテストステロン・エステルの実際の投与量は、本発明の組成物のデポ効果を変化させることにもなる。従って、本発明の好適な実施態様の場合、前記テストステロン・エステルの単回注射投与量は、テストステロン・ウンデカノエートの単回投与量750〜1500 mgと治療上等しい量である。好ましくは1000 mgのテストステロン・ウンデカノエートが、単回投与量として、又は本発明の別のテストステロン・ウンデカノエートの任意の治療上等しい投与量として注射される。
【0065】
言うまでもなく、上述の単回投与量、例えば初期段階中に注射される投与量、及び維持段階中に注射される投与量は同様であるか、又は異なっていてよい。従って、本発明の実施態様によっては、初期段階中に注射される投与量は、同じ量のテストステロン・エステルを含む。他の実施態様の場合、初期段階中に注射される投与量は、注射間で異なっている。同様に、実施態様によっては、維持段階中に注射される投与量は、その期間全体にわたって同様であるか、又は変化してよい。明らかに、初期段階で適用される投与量は、維持段階で適用される投与量とは異なっていてよい。しかし好ましくは、初期段階及び維持段階で注射されるテストステロン・エステルの投与量とは同量のテストステロン・エステルを含む。
【0066】
上述のように、本発明は、男性、例えば哺乳動物のオス、例えばヒトの男性における欠乏した内生的テストステロン・レベルと関連する疾患及び症状を治療するための方法に関する。本明細書に使用される「男性における欠乏したテストステロン・レベル」は、10又は9 nmol/l未満の血清中テストステロン・レベルを含むものとする。
【0067】
本発明の1実施態様の場合、内生的テストステロン・レベルの欠乏は、プロゲスチン又はゴナドトロピン抑制剤による治療によって引き起こされることがある。こうして、男性における欠乏したテストステロン・レベルの治療方法は、男性避妊法を暗示する。従って本発明の実施態様によっては、治療法及び使用法が男性避妊に向けられ、任意には、プロゲスチン又は更なるゴナドトロピン抑制剤が治療に含まれる。
【0068】
従って、さらに別の観点において、本発明は、プロゲスチン又は別のゴナドトロピン抑制剤による治療を受けている男性における欠乏したテストステロン・レベルと関連する疾患及び症状を治療するために、直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステルを使用することであって、前記薬剤が、注射されるように意図された形態、例えば筋肉内注射のための形態を成しており、そしてテストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートが、ヒマシ油又は補助溶剤を含むビヒクル中にある、テストステロン・エステルの使用に関する。
【0069】
一般に、本発明は、男性避妊のために、又は男性における欠乏したテストステロン・レベルと関連する疾患及び症状を治療するために、本明細書中で定義された組成物を使用することに関する。
【0070】
一般的に言って、男性における欠乏した内生的テストステロン・レベルと関連する疾患及び症状は、性的不全、筋肉量及び筋力の低下、気分の落ち込み及び/又は骨粗鬆症を意味することがある。
【0071】
注目すべき疾患は一般に、一次性及び二次性の性腺機能低下症、並びに下垂体疾患に関する。従って、本発明の実施態様は、一次性及び二次性の性腺機能低下症、並びに下垂体疾患に関連する疾患の治療を含む。一次性性腺機能低下症は、精巣不全、例えば停留精巣、両側精巣捻転、精巣炎、精巣摘除、クラインフェルター症候群、化学療法、及びアルコール又は重金属からの毒性被害に起因する精巣不全に由来することがある。二次性性腺機能低下症は、突発性ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)欠乏症、あるいは腫瘍、外傷又は放射線照射に関連する下垂体-視床下部損傷に由来することがある。
【0072】
従って、本発明の実施態様によっては、本発明の治療及び使用は、性腺機能低下症の男性、下垂体疾患の男性、及び/又はゴナドトロピン抑制剤若しくはプロゲスチンによる治療を受けている男性に向けられる。
【0073】
さらに、上述のように、テストステロン・エステルの単回投与量は、信頼性の高い血清中テストステロン・レベルに達するように調整される必要がある。こうして、実施態様によっては、薬剤の調製のためのテストステロン・エステルの前記使用は、前記テストステロン・エステルがテストステロン・ウンデカノエートの投与量と治療上等しい単位投与量であること、又は前記テストステロン・エステルがテストステロン・ウンデカノエートの6週間投与量500 mg〜2000 mgに相当する投与量であることを含む。実施態様によっては、投与量は、9週間投与量500 mg〜2000 mg、10週間投与量500 mg〜2000 mg、11週間投与量500 mg〜2000 mg、12週間投与量500 mg〜2000 mg、13週間投与量500 mg〜2000 mg、14週間投与量500 mg〜2000 mg、15週間投与量500 mg〜2000 mg、及び16週間投与量500 mg〜2000 mgのテストステロン・ウンデカノエートに相当する。好ましくは、テストステロン・エステルのこのような6週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間及び16週間の投与量は、750 mg〜1500 mg、好ましくは1000 mgのテストステロン・ウンデカノエート投与量と治療上等しい。
【0074】
さらに明らかなように、本明細書中に記載された治療法及び使用は、テストステロン・エステル、例えばテストステロン・ウンデカノエートが、本明細書中で定義された組成物中に提供されているような実施態様を含む。
【0075】
図1は、容積比1:1.7のヒマシ油と安息香酸ベンジルとの混合物4 mlを含有するビヒクル中のテストステロン・ウンデカノエートの配合物を注射した後の、テストステロン・レベル(総量)を示す。注射スキームに関しては実施例3を参照されたい。破線は、6週間のインターバルを置いてTU 1000mgを2回注射する初期段階と、これに続いて、注射間に10週間のインターバルを置いてTUを3回注射する段階とを示す。実線は、注射間に12週間のインターバルを置いて1000 mgのTUを連続して注射することを示す。
【実施例1】
【0076】
本発明による組成物を筋肉内注射用に配合し、また、当業者によく知られた技術に従って調製する。
【0077】
ヒマシ油と補助溶剤、例えば安息香酸ベンジルとを含む適切なビヒクル中に、本発明のテストステロン・エステルのいずれか、例えばテストステロン・ウンデカノエートの治療上有効量を組み入れることにより、組成物を全体的に調製する。さらに賦形剤を添加することができる。最後に、組成物に滅菌プロセスを施す。活性物質が溶解されているビヒクルは、賦形剤、例えば保存剤、安定剤、補助溶剤及び抗酸化剤を含んでよい。好適なビヒクルは滅菌性であり、そのビヒクル中には発熱物質がなく、そして粒子もない。
【0078】
これらの組成物は、単位投与形態、例えばアンプル、又は複数回投与用容器で提供することができる。
【0079】
本発明の1実施態様による組成物の調製は、下記工程:
i) 賦形剤及びテストステロン・エステルの前滅菌、
ii) テストステロン・エステル溶液の調製、
iii) テストステロン・エステル溶液への1種又は2種以上の賦形剤の添加、
iv) 組成物の濾過、
v) 単回投与用又は複数回投与用容器の調製/充填、
vi) 滅菌
を含むことができる。
【0080】
本発明の1つの具体例において、テストステロン・ウンデカノエートは補助溶剤中に溶解され、次いで、テストステロン・ウンデカノエート/補助溶剤溶液はヒマシ油と混合される。次いで、この溶液を0.2 μmフィルターを通してろ過し、褐色ガラス瓶内に充填し、最後に180℃で3時間にわたって滅菌する。
【実施例2】
【0081】
容積比1:1.7のヒマシ油と安息香酸ベンジルとの混合物4 mlから成るビヒクル中にテストステロン・ウンデカノエート1000 mgを含有する配合物の治療効力及び安全性を、性腺機能低下症の男性において調査した。この配合物(4 mL、1000 mgのテストステロン・ウンデカノエート)を、下記スキーム:
・注射間に6週間のインターバルを置いて配合物を4回注射することを含む初期段階、
・注射間に10又は12週間のインターバルを置いて配合物を注射することを含む維持段階、
に従って、性腺機能低下症の男性に筋肉内注射した。
【0082】
この研究は、男性における性腺機能低下症の症状を治療するために、テストステロン・ウンデカノエートを長期間筋肉内注射することの効力及び安全性を試験するワンアームの研究に関する。患者は、1000 mgの4回のテストステロン・ウンデカノエート注射を受けた。これらの注射のうち最初の3回は6週間のインターバルを置いて、また第4回注射及び後続の注射は12週間のインターバルを置いて行った。
【0083】
【表1】

【0084】
この研究の結果、下記の結論が得られる:
1年当たり4回にわたって1000mgのTUを筋肉内投与するだけの治療で、測定時点のほとんどにわたって、36名全ての患者に生理学的な血清中Tレベルを復活させるのに十分であった。このことは、12週間のインターバルを置いて注射することが、患者のほとんどにとって十分であることを示している。
【実施例3】
【0085】
本発明の組成物の薬物動態プロフィール:
容積比1:1.7のヒマシ油と安息香酸ベンジルとの混合物4 mlから成るビヒクル中にテストステロン・ウンデカノエート(TU)1000 mgを含有する配合物の薬物動態プロフィールを、性腺機能低下症の男性(血清中テストステロン・レベルが10 nmol/L未満である)において試験した。2回の注射間に6週間のインターバルを置いて、1000 mgのTUを最初に2回筋肉内注射することを含む初期段階と、これに続く、各注射間に10週間のインターバルを置いて1000 mgのTUを続いて3回筋肉内注射することを含む維持段階とを行った。次いで1000 mgのテストステロン・ウンデカノエート(TU)を12週間毎に筋肉注射した。5回の治療期間は、各注射間に12週間のインターバルで行った。
【0086】
この研究の結果が示すところによれば(図1参照)、治療スキームがもたらしたテストステロン・レベル(総レベル)において、最大レベルと最小レベルとは生理学的に許容可能な範囲内にあり、所定の時間経過後にテストステロンの蓄積が見られることはない。さらに12週間後の最小テストステロン・レベル(総レベル)は、テストステロンの許容可能な最低濃度約10 nmolを下回ることはない。血清中テストステロン・レベルを推定すると、同じことが14週間の治療期間にも当てはまることが判った。この研究はまた、注射間に12週間のインターバルを置いて上述の配合物中の1000 mgのTUを注射することが、14週間の期間にわたって効率的であることを実証した。
【実施例4】
【0087】
注射間に6週間を置いた初期段階と、注射間に10週間を置いた初期段階との比較
容積比1:1.7のヒマシ油と安息香酸ベンジルとの混合物4 mlから成るビヒクル中にテストステロン・ウンデカノエート(TU)1000 mgを含有する配合物の薬物動態プロフィールを、性腺機能低下症の男性において2つの異なる投与計画を用いて試験した。
【0088】
投与計画Aにおいて、最初の2回の注射間に平均9.2週間(64.4日間)を置いて、1000 mgのTUを最初に2回筋肉内注射することを含む初期段階と、これに続く、第2回注射後、平均10.2週間(76.2日)のインターバルを置いて1000 mgのTUを続いて筋肉内注射することを含む維持段階とを行った。
【0089】
投与計画Bにおいて、最初の2回の注射間に平均6.1週間(42.5日間)を置いて、1000 mgのTUを最初に2回筋肉内注射することを含む初期段階と、これに続く、第2回注射後、平均10.1週間(70.5日)のインターバルを置いて1000 mgのTUを続いて筋肉内注射することを含む維持段階とを行った。
【0090】
テストステロンの濃度(総濃度)を、それぞれの追加のTU注射前に血清中で測定した。
【0091】
結果
下記表は、6名の男性のデータに基づいて、投与計画A対投与計画Bの平均血清中テストステロン・レベル(総レベル)を示す。
【0092】
【表2】

【0093】
初期段階及び維持段階の双方に関して、注射間に長期間のインターバルを含む投与計画は、期間全体にわたって、そして後続の注射まで、10 nmolを上回る十分なテストステロン・レベルをもたらさないように見える(投与計画A)。しかし、初期段階における注射間のインターバルを6週間に短縮すると、信頼性の高い投与計画が達成され、十分なテストステロン・レベルが極めて急速に回復され、約10 nmol/Lを上回るレベルに留まる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、テストステロン・ウンデカノエート注射後の血清中総テストステロン・レベルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋肉内注射のために調製された組成物であって、
直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステルと;
45 vol%未満の濃度のヒマシ油及び補助溶剤を含むビヒクルと
を含む組成物。
【請求項2】
該テストステロン・エステルが、直鎖及び分枝のノンカノエート、デカノエート、ウンデカノエート、ドデカノエート、トリデカノエート、テトラデカノエート、ペンタデカノエート、及びヘキサデカノエートのテストステロン・エステルから成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該テストステロン・エステルが、テストステロン・ウンデカノエートである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
該テストステロン・ウンデカノエートの投与量が、1 mL当たり150〜500 mgである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
該ビヒクルが40 vol%未満の濃度のヒマシ油を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
該補助溶剤が安息香酸ベンジルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
男性避妊における請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項8】
男性の一次性及び二次性性腺機能低下症を治療する薬剤を調製するための、直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステルの使用であって、前記薬剤が筋肉内注射のための形態であり、且つ45 vol%未満の濃度のヒマシ油と補助溶剤とを含むビヒクルを含む、テストステロン・エステルの使用。
【請求項9】
前記一次性性腺機能低下症が、停留精巣、両側精巣捻転、精巣炎、精巣摘除、クラインフェルター症候群、化学療法、及びアルコール又は重金属に由来する毒性被害から成る群から選択された精巣不全に由来する、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記二次性性腺機能低下症が、突発性ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)欠乏症、あるいは腫瘍、外傷又は放射線照射に起因する下垂体-視床下部損傷に由来する、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
プロゲスチン又はゴナドトロピン抑制剤による治療を受けている男性における欠乏したテストステロン・レベルと関連する疾患及び症状を治療する薬剤を調製するための、直鎖及び分枝C-9〜C-16アルカノエートから成るエステル群から選択されたテストステロン・エステルの使用であって、前記薬剤が筋肉内注射のための形態であり、且つ45 vol%未満の濃度のヒマシ油と補助溶剤とを含むビヒクルを含む、テストステロン・エステルの使用。
【請求項12】
男性における前記欠乏したテストステロン・レベルが、血清中テストステロンの濃度が10 nmol/l未満であるようなレベルである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
該テストステロン・エステルが、直鎖及び分枝のノンカノエート、デカノエート、ウンデカノエート、ドデカノエート、トリデカノエート、テトラデカノエート、ペンタデカノエート、及びヘキサデカノエートのテストステロン・エステルから成る群から選択される、請求項7〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
該テストステロン・エステルが、テストステロン・ウンデカノエートである、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記薬剤が、6週間投与量500〜2000 mg、9週間投与量500〜2000 mg、10週間投与量500〜2000 mg、11週間投与量500〜2000 mg、12週間投与量500〜2000 mg、13週間投与量500〜2000 mg、14週間投与量500〜2000 mg、15週間投与量500〜2000 mg、又は16週間投与量500〜2000 mgの前記テストステロン・エステルを含む、請求項7〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記6週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間及び16週間の投与量が、750 mg〜1500 mgである、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
該補助溶剤が安息香酸ベンジルである、請求項8〜16のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2006−520377(P2006−520377A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506335(P2006−506335)
【出願日】平成16年3月15日(2004.3.15)
【国際出願番号】PCT/IB2004/000716
【国際公開番号】WO2004/080383
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(300049958)シエーリング アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】