説明

試料中のPUFA−PKSを同定するためのスクリーニング方法

本発明は、微生物中のPUFA PKSを迅速かつ簡潔に同定するための方法に関する。前記方法は、PUFA(ポリ不飽和脂肪酸)を特異的に生じるPKSを表すDNA部分がin vitroで複製されるという事実を特徴とする。PUFA PKSの特異的アミノ酸配列LGIDSIKRVEILにより、PUFA PKS遺伝子またはPUFA生成微生物の効率的なPCRスクリーニングのために使用されるオリゴヌクレオチドを得ることが可能になる。本発明の方法は、PUFA PKS遺伝子についての微生物のハイスループットなスクリーニングに特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばバイオマスなどの試料ル中、特に微生物中のPUFA PKS遺伝子(PUFA=ポリ不飽和脂肪酸;PKS=ポリケチドシンターゼ)を迅速かつ容易に同定するための方法を説明する。これは、PUFA生成PKSに特異的なDNA部分のin vitroでの複製を特徴とする。本発明は、適切なDNA配列の同定の他に、それらを増加させるための実験条件の確立にも基づいている。
【背景技術】
【0002】
PUFA(ポリ不飽和脂肪酸)という用語は、鎖長がC12より長くかつ少なくとも2つの二重結合を有する、多数連なった不飽和長鎖脂肪酸を意味する。PUFAには、ω−3脂肪酸およびω−6脂肪酸という2種の主要なファミリーがあり、これらは、アルキル末端に対する最初の二重結合の位置によって異なっている。これらは、細胞膜の重要な成分であり、脂質、特にリン脂質の形態で存在している。PUFAは、プロスタグランジン、ロイコトリエン、およびプロスタサイクリンなど、ヒトおよび動物において重要な分子の予備段階としても機能する(A.P.Simopoulos、essential fatty Acids in health and chronic disease、Am.J.Clin.Nutr.1999(70)、560〜569頁)。ω−3脂肪酸のグループの重要な代表例は、DHA(ドコサヘキサエン酸)およびEPA(エイコサペンタエン酸)であり、これらは魚油および海洋微生物中に見出すことができる。ω−6脂肪酸の重要な代表例は、例えば糸状菌(filamentary fungi)中に存在するが、肝臓や腎臓などの動物組織からも単離することができるARA(アラキドン酸)である。DHAおよびARAは、ヒトの母乳中に共に存在する。
【0003】
PUFAは、適切な発育に関して、特に発達中の脳、組織形成およびその修復のために、ヒトにとって不可欠である。したがって、DHAは、ヒト細胞膜、特に神経の細胞膜の重要な成分である。さらに、DNAは、脳機能の成熟に重要な役割を果たし、視覚の発達に不可欠である。DHAの十分な供給を伴うバランスのとれた栄養物はいくつかの疾患の予防に有利であるため、DHAやEPAなどのω−3 PUFAは、栄養補給物として使用されている(A.P.Simopoulos、Essential fatty acids in health and chronic disease、American Journal of Clinical Nutrition 1999(70)、560〜569頁)。例えば、非インスリン依存性糖尿病の成人は、後で発生する心臓の問題に関係のある欠乏または少なくとも均衡を欠いたDHAバランスを提示する。同様に、アルツハイマー病や精神分裂病などの神経性疾患は、低いDHAレベルを伴っている。例えば、海洋冷水魚、卵黄部分、または海洋微生物に由来する油など、DHAを商業用に抽出するための多数の供給源がある。n−3PUFAの抽出に適した微生物は、例えば、ビブリオ(Vibrio)属の細菌(例えば、ビブリオ・マリヌス(Vibrio marinus))において、または渦鞭毛藻類(渦鞭毛植物(Dinophyta))、特に、C.cohniiなどのクリプテコジニウム(Crypthecodinium)属において、または、例えば、グロッソマスチキス(Glossomastix)、ファエオモナス(Phaeomonas)、ピングイオクリシス(Pinguiochrysis)、ピングイオコッカス(Pinguiococcus)、およびポリポドクリシス(Polypodochrysis)などのピングイオ藻綱(Pinguiophyceae)などのストラメノパイル(もしくはラビリンツラ菌門(Labyrinthulomycota)において見出される。PUFAを製造するのに好ましい他の微生物は、特に、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)、シゾキトリウム(Schizochytrium)、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)、アルトルニア(Althornia)、ラビリンツロイデス(Labyrinthuloides)、アプラノキトリウム(Aplanochytrium)、およびウルケニア(Ulkenia)属を含むヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)(ヤブレツボカビ科(Thraustchytriidea))に属する。モルティエラ(Mortierella)、ハエカビ(Entomophthora)、フィチム(Phytium)、およびチノリモ(Porphyridium)属の微生物は、ARAの商業的製造に使用されている。
【0004】
植物や動物などPUFA用に商業的に使用される供給源は、しばしば、それらから抽出される油の極めて不均一な組成を特徴とする。この方式で抽出される油は、1種または数種のPUFAの濃縮を可能にするために高価な精製工程にかけられなければならない。このような供給源からのPUFAの供給は、制御不可能な変動も被る。すなわち、病害および気候の影響により、動物および同様に植物の収量が低減され得る。魚類からのPUFAの抽出は、季節的変動の影響を受け、また、乱獲または気候の変化(例えば、エルニーニョ現象)のために一時的に著しく限定されることさえある。動物油、特に魚油は、食物連鎖を介して、環境に由来する有害物質を蓄積し得る。動物は、特に商業的な養魚場において、魚消費の健康的な側面の効果を打ち消す、例えばポリ塩化ビフェニルなどの有機塩化物によって著しくストレスを加えられることが知られるようになった(Hites他、2004年、Global assessment of organic contaminants in farmed salmon、Science 303、226〜229頁)。結果として魚製品の質が低下することにより、消費者は、魚および魚油をω−3PUFA供給源として受け入れないようになる。さらに、魚類からのDHAの精製は、高度な技術を要するため、比較的高価である。一方、DHAは、数種の海洋微生物中に細胞の全脂肪成分の約50%の量で存在し、これらの微生物は、大型発酵槽中で比較的経済的に培養することができる。微生物の別の利点は、数種の成分に限定されている、それらから抽出される油の組成である。
【0005】
長鎖PUFAの生合成に関して、2種の異なる生体触媒経路が知られている。いわゆるシュプレッヒャー(Sprecher)経路の場合、DHAやEPAなどの長鎖PUFAは、パルミチン酸から開始し、一連の伸長および不飽和化工程、ならびに短縮の終結によって合成される(H.Sprecher、Metabolism of highly unsaturated n−3 and n−6 fatty acids.Biochimica et Biophysica Acta 1486(2000年)219〜231頁)。この生合成経路は、大半の生物において、ヒトおよび植物においてさえ、前述したようにまたは同様の方式で行われる。しかし、いくつかの海洋生物は、EPAおよびDHAを生成するために異なる生合成経路を利用する。これらのPUFA産生微生物としては、γプロテオバクテリア、および、現在までのところ、真核原生生物シゾキトリウムが挙げられる。これらは、いわゆるポリケチドシンターゼ(PKS)によって長鎖PUFAを合成する。これらのPKSは、ケチド単位からなる二次代謝産物の合成を触媒する大型酵素を表す(G.W.Wallis,J.L.WattsおよびJ.Browse、Polyunsaturated fatty acid synthesis:what will they think of next? Trends in Biochemical Sciences 27(9)(2000年)467〜473頁)。ポリケチドの合成は、脂肪酸合成の酵素反応に類似したいくつかの酵素反応を含む(Hopwood&Sherman Annu.Rev.Genet.24(1990年)37〜66頁;Katz&Donadio Annu.Rev.of Microbiol.47(1993年)875〜912頁)。
【0006】
様々なPUFA-PKS(PUFA合成PKS)の遺伝子配列が既知である。すなわち、エイコサペンタエン酸(EPA)を生成するための情報を有する38kbのゲノム断片が、海洋細菌シュワネラ種(Shewanella sp.)から単離された。このゲノム断片中に含有される遺伝子クラスターを導入することによって、大腸菌およびシネコッカス(Synechoccus)においてEPAを生成することが可能であった。続いてこの断片が配列決定され、8つの読み取り枠(ORF、オープンリーディングフレーム)が同定された(H.Takeyama他、Microbiology 143(1997年)2725〜2731頁)。シュワネラに由来するこれらの読み取り枠のうちの5つは、ポリケチドシンターゼ遺伝子に密接な関係がある。別のPKS様の遺伝子クラスターも、例えばビブリオ・マリヌスなど他のPUFA生成海洋細菌において発見された(M.Tanaka他、21(1999年)939〜945頁)。類似した、PUFAを生成するPKS様のORFも、真核原生生物シゾキトリウムにおいて同定することができた(Metz他、Science 293(2001年)290〜293頁およびWO00/42195号)。シュワネラに由来するEPA遺伝子クラスターと部分的な一致を示す3つのORFがシゾキトリウムにおいて決定された。数種の原核生物および真核生物シゾキトリウムにおいてこれらの保存されたPKS遺伝子が存在することは、原核生物と真核生物の間の、PUFA−PKS遺伝子の水平伝播が可能であることを暗示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在のところ、個々の種間のPKSの分布については、いまだほとんど知られていない。したがって、例えば、シゾキトリウムの系統学的な近縁種である海洋原生生物トラウストキトリウム種は、シゾキトリウムと同様にDHAに富んでいるにも関わらず、PKSを有していないようである。この種は、めったに存在しないδ−4不飽和化酵素を用いて、特に、長鎖PUFAを生成する(X Qiu他、J.Biol.Chem.(2001年)31561〜31566頁)。トラウストキトリウムとシゾキトリウムの双方とも、ヤブレツボカビ目に属しているが、長鎖PUFAを生成するための生合成経路は全く異なっている。したがって、特に、商業規模で個々のPUFAを製造できるようにするための新しい潜在的なPUFA生産者を発見することに関して、海洋微生物におけるPUFA−PKS遺伝子の分布を決定することに大きな関心が持たれている。さらに、PUFA生産者を求めて多数の海洋微生物をハイスループットに検査するために、特に効率的なスクリーニング方法が現在必要とされている。さらに、多くの様々なPUFA−PKSを知ることにより、対応する酵素の遺伝子配置および構造に関する情報、ならびに、それによって、様々なPUFAを製造するための情報が与えられるはずである。このことは、例えば、トランスジェニック微生物または植物におけるPUFAの製造のためなど多くのさらなる応用にとって特に重要である。遺伝子の変異によってトランスジェニック的に、様々なPUFAの組合せを有するデザイナーオイルを製造することができるはずである。
【0008】
特許出願WO02/083870 A2号では、PUFA−PKS遺伝子を有する生物を同定するための方法を記載している。これは、一方では、脂肪酸スペクトルに関する5つの選択基準に基づいており、これらの基準は、PUFA−PKS系に対する指標として機能するように特定の培養条件下で与えられるべきである。より多くの選択基準が満たされるほど、PUFA−PKS系に対する指標はより強くなる。もう一方で、これは、ブロットメンブレン上に移された、制限的に切断されたゲノムDNAが、PUFA−PKSに特異的な核酸配列を有する潜在的なPUFA−PKS候補(5つの選択基準を満たすもの)からハイブリダイズされる、サザンブロット解析に基づいている。この第2の検出工程は、続いて、ゲノムDNAバンクのスクリーニングに対する結果を検証するための例示的な実施形態において発展させられた。さらに、特許出願WO02/083870号では、上記のスクリーニング方法のための予備選択として、適切な微生物を濃縮および選択するための戦略を記載している。
【0009】
しかし、WO02/083870 A2号で記載されているスクリーニング方法が非常に高価であり、したがって、ハイスループットなスクリーニングには不適切であることは、当業者には明らかである。さらに、第1のスクリーニング工程における選択条件の評価は非常にあいまいと思われ、このため、第2のスクリーニング工程において陰性の結果が生じる可能性がある。
【0010】
したがって、本発明は、現況技術を考慮して、様々な微生物中のPUFA−PKS遺伝子を同定するための方法を利用可能にするという課題を有した。本方法は、効率的に、経済的に、かつ短時間に微生物を広範にスクリーニングすることを可能にするはずである。スクリーニングは、費用のかかるサンプル調製無しでハイスループットに行われるはずである。
【0011】
この課題、ならびに明示的に引用はしなかったが、本文書で最初に論じた文脈から容易に推論または推断することができる他の課題は、本発明の特許請求の範囲において定義する主題によって解決される。
【0012】
微生物中のPUFA−PKS遺伝子を同定するための有利な方法は、請求項1において定義される方法によって利用可能になる。本方法は、アミノ酸連続(succession)LGIDSIKRVEIL(配列番号5)から導き出される縮重オリゴヌクレオチド(プライマー)を用いたポリメラーゼ連鎖反応法(PCR:ポリメラーゼチェーンリアクション)によって、サンプル、好ましくはバイオマス、特に微生物に由来する核酸をin vitroで増幅することを含む。アミノ酸連続LGIDSIKRVEIL(配列番号5)から導き出される核酸配列は、例えば、配列連続5’−CTC GGC ATT GAC TCC ATC AAG CGT GTC GAG ATT CTC -3’(配列番号6)に相当する。本明細書において記述する縮重プライマーを本発明に従って使用することにより、PUFA生成微生物中のPKS遺伝子断片が同定される。
【0013】
本発明による方法は、驚くべきことに、上述したこの1種のアミノ酸配列部分のみから導き出されるオリゴヌクレオチドで間に合わせる。
【0014】
さらにまた驚くべきことに、多数のN塩基、または例えばイノシンを含有する極めて縮重したオリゴヌクレオチド無しで大抵済ませることができる。
【0015】
この方法は、PUFA−PKS遺伝子を増幅および同定するために、上述のアミノ酸配列LGIDSIKRVEIL(配列番号5)から導き出され得るすべてのオリゴヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドの選択は、選択された部分の配列の長さおよびその向き(センスもしくはアンチセンスまたは相補的もしくは非相補的)とは無関係である。
【0016】
好ましい形態では、長さが10〜36bp、好ましくは15〜25bp、特に好ましくは18bpのオリゴヌクレオチドが、本発明の検出方法において使用される。
【0017】
使用されるオリゴヌクレオチドの量は、存在するPUFA−PKSの検出方法に対する負の影響が無い限りにおいて、変動してよい。このことは、PCR反応において使用される他のすべての成分にも適用される。
【0018】
好ましい実施形態では、使用されるオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、45℃〜65℃、好ましくは50℃〜60℃、特に好ましくは53℃〜57℃のアニーリング温度で行われる。
【0019】
PCRの個々の段階すなわち、変性、アニーリング、および伸長の段階の持続期間も、存在するPUFA−PKSの検出方法に対する負の影響が無い限りにおいて、変動してよい。
【0020】
PCRサイクルの回数も、変動してよいが、好ましくは20〜40サイクル、特に好ましくは25〜35サイクル、さらに特に好ましくは約30サイクルである。
【0021】
調査対象の微生物から単離可能なすべてのDNAおよびRNA核酸、ならびにmRNAから作製されるcDNAをPCR用の鋳型として使用することができる。特定の実施形態では、細胞全体またはバイオマスをPCR用の鋳型として使用することもできる。
【0022】
別の実施形態では、本発明によるオリゴヌクレオチドを、相補的な核酸配列を検出するためのハイブリダイゼーションプローブとして使用することもできる。
【0023】
特に、本発明による方法は、PUFA−PKS遺伝子についての微生物のハイスループットなスクリーニングに適している。
【0024】
したがって、本発明は、請求項1から7に記載の方法を用いて、または請求項9に記載の核酸配列をハイブリダイゼーションプローブとして使用することによって得られる(同定可能な)核酸も含む。
【0025】
請求項11に記載の核酸を含有している微生物もまた含まれる。
【0026】
PUFA生成微生物に対する大きな需要があるにも関わらず、本発明より前には、PUFA−PKS含有微生物を同定するためのPCRに基づく公知の効率的な検出方法はなかった。Gentile他による論文では、PUFA−PKS遺伝子配列を増幅するために実行できるオリゴヌクレオチドの使用法を記載しているが、記載されているオリゴヌクレオチドはACPドメインからも、本発明が基づいているアミノ酸配列LGIDSIKRVEILからも導き出されていない(Gentile他、2003年 J.Appl.Microbiol.(95)1124〜1133頁)。
【0027】
複数のコピーが既に存在しているある配列部位(PKSのAPCドメイン)の増幅が、本明細書で記載するPCR法の高効率の根拠であると推測されている。おそらくは、PCRの開始時に多数の標的配列が存在することにより、効率が高められる。これは、その役目としては、スクリーニング期間中のより高いヒット率をもたらす。しかし、APCドメインはかなり多数の他の遺伝子、例えば、PUFAに特異的ではないPKS、ならびに通常ペプチドシンターゼおよび脂肪酸シンターゼ中に存在するため、アミノ酸配列LGIDSIKRVEILから導き出されるオリゴヌクレオチドを用いてPUFA−PKS遺伝子を特異的に単離できたことは極めて驚くべきことであった。このことは、LGIDSIKRVEIL配列からのオリゴ(oligo)の誘導を用いたPUFA−PKS遺伝子のクローニング検査が以前に試行されなかった原因とも考えられている。
【0028】
他の点では、これまでのところ、PUFA生産者の同定用のバイオマーカーに基づく、はるかに時間がかかり、かつ信頼度の低いスクリーニング方法しか開発されていなかった(D.S.NicholsおよびT.A.McMeekin 2002年 J.Microbiol.Methods 48(2〜3)、161〜170頁)。
【0029】
図1は、モリテラ・マリナ(Moritella marina)、フォトバクテリウム・プロファンダム(Photobacterium profundum)(SS9株)、およびシゾキトリウムに由来するいくつかの既知のPUFA−PKSのアシルキャリアタンパク質ドメインの位置および数の比較を示す。保存配列LGIDSIKRVEILの反復数も示されている。
【0030】
図2は、配列LGIDSIKRVEILから導き出されるオリゴヌクレオチドを用いて増幅された、Ulkenia種SAM 2179に由来するPCR生成物(ACPドメイン)の、シゾキトリウムに由来するPUFA−PKSに対する配列相同性を示す。
【0031】
いくつかの実施例を用いて、本発明による方法の基礎を構成している検出方法を以下に説明する。しかし、検出方法および本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0032】
実施例
実施例1
ウルケニア種SAM2179から単離されたDNAからのPUFA−PKS特異的配列の増幅
【0033】
1.1 ゲノムDNAの単離
フロースポイラー(flow spoiler)付き250mlエルレンマイヤーフラスコ中の50ml DH1培地(50g/lグルコース;12.5g/l酵母抽出物;16.65g/lトロピックマリン(Tropic Marin);pH6.0)にウルケニア種SAM2179(ウルケニア種 BP−5601;WO9803671号)を植菌し、28℃、150rpmで48時間培養した。続いて、滅菌した水道水で細胞を洗浄し、遠心分離し、細胞沈降物を−85℃で凍結した。乾燥重量約1.25gの細胞の塊が得られた。次いで、さらに検査するために、細胞沈降物を乳鉢に移し、液体窒素下で乳棒を用いて粉砕して微粉末にした。次いで、微粉砕された細胞物質の約10分の1を2mlの溶解緩衝液(50mMトリス/Cl pH7.2;50mM EDTA;3%(v/v)SDA;0.01%(v/v)2−メルカプトエタノール)と混合し、68℃で1時間インキュベートした。次いで、2mlのフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)を加え、攪拌し、10000rpmで20分間遠心分離した。上層の水相を除去した後、下層を2つの新しい反応容器中に各600μl移し、再び、各600μlのフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)と混合し、攪拌し、13000rpmで15分間遠心分離した。次いで、個々の上層の相の各400μlを新しい反応容器に移し、各例において1mlエタノール(100%)を添加した後2〜3回逆さにした。次いで、沈殿したDNAをガラス棒上に巻き取り、70%エタノールで洗浄し、乾燥させ、50μlの蒸留水中に溶解させ、2μlのRNアーゼAと混合し、4℃で保存した。
【0034】
1.2 モチーフ特異的な(motive−specific)オリゴヌクレオチドを用いたPCR反応
モチーフ特異的なオリゴヌクレオチドとしてPCRプライマーMOF1およびMOR1を使用した。
MOF1:5’−CTC GGC ATT GAC TCC ATC−3’(配列番号7)
MOR1:5’−GAG AAT CTC GAC ACG CTT−3’(配列番号8)
1.1で説明したウルケニア種SAM2179から得たゲノムDNAを1:100に希釈した。次いで、この希釈物2μlを体積50μlのPCR反応混合物(1×緩衝液(Sigma社製);dNTP(各200μM);MOF1(20pmol)、MOR1(20pmol)、および2.5U Taq−DNAポリメラーゼ(Sigma社製))に移し入れた。以下の条件下でPCRを実施した:最初の変性を94℃で3分間、その後に続いて、それぞれ94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を30サイクル、最後に72℃で8分間。次いで、ゲル電気泳動によってPCR生成物を解析し、T/Aクローニング(Invitrogen社製)によってベクターpCR2.1 TOPO中に適切なサイズの断片を組み込んだ。大腸菌TOP 10F’を形質転換した後、プラスミドDNAを単離し(Qiaprepスピン、QUAGEN社製)、配列決定した。
【0035】
得られた配列データ(配列番号1)を公式にアクセス可能なEMBLヌクレオチド配列データベース(http://www.ebi.ac.uk/embl/)と比較し、評価した。FASTAXを用いて得られる配列比較により、ウルケニア種SAM2179に由来するPCRの主要生成物について、シゾキトリウム種ATCC20888に由来するPUFA−PKSのアシルキャリアタンパク質(ORF A;ORF:オープンリーディングフレーム)と部分的な一致が示され、この一致はアミノ酸レベルで約90%であった(図7)。驚くべきことに、ウルケニア種SAM2179中のこのPUFA−PKSを測定するために、わずか1回のPCR実験しか実施する必要がなかった。
【0036】
実施例2
シゾキトリウム種SR21から単離されたDNAからのPUFA−PKS特異的配列の増幅
【0037】
2.1 ゲノムDNAの単離
フロースポイラー付き250mlエルレンマイヤーフラスコ中の50ml DH1培地(50g/lグルコース;12.5g/l酵母抽出物;16.65g/lトロピックマリン;pH6/0)にシゾキトリウム種SR21(シゾキトリウム種 MYA−1381; EP0823475号)を植菌し、28℃、150rpmで48時間培養した。続いて、水道水で細胞を2回洗浄し、遠心分離し、細胞沈降物を−85℃で凍結した。乾燥重量約1.4gの細胞の塊が得られた。次いで、さらに検査するために、細胞沈降物を乳鉢に移し、ゲノムDNAを単離するために、前述したように(実施例1)して処理した。
【0038】
2.2 モチーフ特異的なオリゴヌクレオチドを用いたPCR反応
モチーフ特異的なオリゴヌクレオチドとしてPCRプライマーMOF1およびMOR1(実施例1を参照されたい)を使用した。
【0039】
シゾキトリウム種SR21から得た2μlのゲノムDNAを用いて、1.2で説明したようにしてPCRを実施した。
【0040】
得られた配列データ(配列番号2)を公式にアクセス可能なEMBLヌクレオチド配列データベース(http://www.ebi.ac.uk/embl/)と比較し、評価した。FASTAXを用いて得られる配列比較により、シゾキトリウム種SR21に由来するPCRの主要生成物について、シゾキトリウム種ATCC20888に由来するPUFA−PKSのアシルキャリアタンパク質(ORF A;ORF:オープンリーディングフレーム)との約90%の部分的な一致が示された。驚くべきことに、シゾキトリウムSR21中のこのPUFA−PKSを測定するためにも、わずか1回のPCR実験しか実施する必要がなかった。
【0041】
実施例3
シゾキトリウム種SR21のバイオマスからのPUFA−PKS特異的配列の直接的な増幅
【0042】
3.1 バイオマスの獲得
フロースポイラー付き250mlエルレンマイヤーフラスコ中の50ml DH1培地(50g/lグルコース;12.5g/l酵母抽出物;16.65g/lトロピックマリン;pH6/0)にシゾキトリウム種SR21を植菌し、28℃、150rpmで48時間培養した。続いて、水道水で細胞を2回洗浄し、遠心分離した。続いて、この方法で得られたバイオマスを、対応するPCR反応物に直接加えた。
【0043】
3.2 モチーフ特異的なオリゴヌクレオチドを用いたPCR反応
モチーフ特異的なオリゴヌクレオチドとしてPCRプライマーMOF1およびMOR1(実施例1を参照されたい)を使用した。
【0044】
3.1で得たシゾキトリウム種SR21に由来するバイオマスの一定量を滅菌爪楊枝を用いて取り出し、体積50μlのPCR反応混合物(1×緩衝液(Sigma社製);dNTP(各200μM);MOF1(20pmol)、MOR1(20pmol)、および2.5U Taq−DNAポリメラーゼ(Sigma社製))に移し入れた。1.2の項目で説明したようにしてPCRを実施した。
【0045】
得られた配列データ(配列番号2)を公式にアクセス可能なEMBLヌクレオチド配列データベース(http://www.ebi.ac.uk/embl/)と比較し、評価した。FASTAXを用いて得られる配列比較により、シゾキトリウム種SR21に由来するPCRの主要生成物について、シゾキトリウム種ATCC20888に由来するPUFA−PKSのアシルキャリアタンパク質(ORF A;ORF:オープンリーディングフレーム)との約90%の部分的な一致が示された。シゾキトリウムのバイオマスから得られたPCR生成物の配列は、実施例2の配列と同一であった。
【0046】
驚くべきことに、シゾキトリウム種SR21のバイオマスに由来するPUFA−PKSを測定するために、この場合でさえ、わずか1回のPCR実験しか実施する必要がなかった。
【0047】
実施例4
様々なウルケニアのバイオマスからのPUFA−PKS特異的配列の直接的な増幅
4.1 バイオマスの獲得
フロースポイラー付き250mlエルレンマイヤーフラスコ中の50ml DH1培地(50g/lグルコース;12.5g/l酵母抽出物;16.65g/lトロピックマリン;pH6/0)にウルケニア種SAM2179もしくはウルケニア・ビサルゲンシス(Ulkenia visurgensis)または別のウルケニア種を植菌し、28℃、150rpmで48時間培養した。続いて、水道水で細胞を2回洗浄し、遠心分離した。続いて、この方法で得られたバイオマスを適切なPCR反応物中に直接加えた。
4.2 モチーフ特異的なオリゴヌクレオチドを用いたPCR反応
モチーフ特異的なオリゴヌクレオチドとしてPCRプライマーMOF1およびMOR1(実施例1を参照されたい)を使用した。
【0048】
4.1で得た様々なウルケニアに由来するバイオマスの一定量を滅菌爪楊枝を用いて取り出し、それぞれ、体積50μlのPCR反応混合物(1×緩衝液(Sigma社製);dNTP(各200μM);MOF1(20pmol)、MOR1(20pmol)、および2.5U Taq−DNAポリメラーゼ(Sigma社製))に移し入れた。1.2の項目で説明したようにしてPCRを実施した。
【0049】
得られた配列データ(配列番号1、3、および4)を、公式にアクセス可能なEMBLヌクレオチド配列データベース(http://www.ebi.ac.uk/embl/)と比較し、評価した。FASTAXを用いて得られる配列比較により、シゾキトリウム種ATCC20888に由来するPUFA−PKSのアシルキャリアタンパク質(ORF A;ORF:オープンリーディングフレーム)との高率の部分的一致が示された。ウルケニア種SAM2179のバイオマスから得られたPCR生成物の配列は、実施例1の配列と同一であった。
【0050】
驚くべきことに、様々なウルケニアのバイオマスに由来する個々のPUFA−PKSを測定するために、この場合でさえ、毎回、わずか1回のPCR実験しか実施する必要がなかった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】モリテラ・マリナ(Moritella marina)、フォトバクテリウム・プロファンダム(Photobacterium profundum)(SS9株)、およびシゾキトリウムに由来するいくつかの既知のPUFA−PKSのアシルキャリアタンパク質ドメインの位置および数の比較を示す。
【図2】配列LGIDSIKRVEILから誘導されるオリゴヌクレオチドを用いて増幅された、Ulkenia種SAM 2179に由来するPCR生成物(ACPドメイン)の、シゾキトリウムに由来するPUFA−PKSに対する配列相同性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のPUFA−PKS遺伝子に特異的な核酸配列を証明するための方法であって、
(a)特異的オリゴヌクレオチドを用いて、かつ前記試料の小さな一部分を鋳型として用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が実施され、かつ、
(b)得られたPCR産物が配列決定され、かつ、既知の配列との部分的一致に基づいて新しいPUFA−PKS配列情報を特定するために、前記得られた配列情報がデータバンクと比較され、
使用される前記オリゴヌクレオチドが、アミノ酸配列LGIDSIKRVEILから導き出されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記オリゴヌクレオチドが縮重していることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オリゴヌクレオチドの長さが10〜36bp、好ましくは15〜25bp、特に好ましくは18bpであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
使用される前記オリゴヌクレオチドの量が好ましくは約20pmolであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アニーリング温度が約45〜65℃、好ましくは約50〜60℃、特に好ましくは約53〜57℃であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
サイクルの回数が約20〜40回、好ましくは約25〜35回、特に好ましくは約30回であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
バイオマスから単離された核酸またはバイオマスそれ自体がPCR用の鋳型として使用されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
配列番号5で表されるアミノ酸配列LGIDSIKRVEIL。
【請求項9】
配列番号5から導き出すことができる核酸配列、好ましくは配列番号6、7および8で表される核酸。
【請求項10】
ハイブリダイゼーションプローブとして使用するための、請求項9に記載の核酸。
【請求項11】
請求項1から7の方法を用いて、または請求項9に記載の核酸配列をハイブリダイゼーションプローブとして使用することによって得られる(同定可能な)核酸。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸を有する微生物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−532105(P2007−532105A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506733(P2007−506733)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003702
【国際公開番号】WO2005/098033
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(503053837)ニュートリノヴァ・ニュートリッション・スペシャルティーズ・アンド・フード・イングリーディエンツ・ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】