説明

試料分析用ディスク

【課題】分析する試料に含まれる抗原や抗体の濃度が、低濃度から高濃度まで広い範囲で定量性の高い検出を可能とする。
【解決手段】ディスク面に設けられたグルーブおよびランドからなる溝構造またはピットが設けられた構造を有するトラック領域105に固定化された、生体高分子が結合している標識用ビーズを、光学的読み取り手段によって数量を計測するための試料分析用ディスク100において、前記試料分析用ディスク100の内周側に、前記生体高分子を含む試料を滴下する注入孔101、および前記注入孔101に連続し標識用ビーズと生体高分子が反応するための流路102を備え、前記試料分析用ディスク100の外周側に、流路102に接続し、前記標識用ビーズの直径と同等の幅を有する前記グルーブまたはピットを備える検出領域104を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な方法により血液等の生体試料に含まれる抗原もしくは抗体などの生体高分子を分析するための、試料分析用ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾患の診断や健康診断における疾病の早期発見などを目的として、血液等に含まれる生体試料から抗原や抗体を検出する免疫検査法(イムノアッセイ)が様々な場面で用いられている。免疫検査法(イムノアッセイ)とは、生体試料に含まれる特定の抗原(または抗体)と特異的に結合する抗体(または抗原)に測定が可能な標識をつけ、両者が反応した結果を定量することで試料に含まれる抗原(または抗体)の濃度を求め疾患の判定を行う方法である。
【0003】
この方法は比較的感度が高く、操作方法が簡単であることから様々な標識方法が開発された。例えば標識に放射性同位元素を使ったRIA法(ラジオイノムアッセイ)や酵素を利用したEIA法(エンザイムイムノアッセイ)、蛍光標識を使ったFIA法、化学発光を使ったCLIA法などがある。
【0004】
中でも酵素を利用した方法のひとつであるELISA法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)はマイクロプレートを用いた検査方法が広く一般に普及して利用されている。マイクロプレートを使った方法は、96穴プレートと汎用のマイクロプレートリーダーを用いて多数の検体を一度に測定することが可能で、コストが比較的安価である。また、放射性物質を使うRIA法と比べ、使用する場所の制限が少ないといったメリットがある。しかしながら、プレートに抗体を固定する前処理、抗体と抗原を反応させる反応時間、反応しなかった標識を洗い流すB/F(bond/free)分離、標識の酵素反応などそれぞれに数十分から数時間を要し、トータルの検査時間は数時間から1日程度かってしまうという問題がある。
【0005】
このため検査時間を短縮するために、微細加工の技術を利用してマイクロプレートの各ウェルでの操作手順を数センチ角のチップ上に置き換えた分析用チップ(Lab on a chip)も開発されている。抗体の固定や専用の試薬をチップ上に準備し、一般的なELISA法の前処理をあらかじめチップに施しておくことで処理時間を短縮する。また、抗原−抗体反応を数十マイクロメートルから数ミリメートルの狭い流路の中で行うことで反応時間を短縮している。これは、各検査用に専用の分析チップとすることで、検査時間を数十分に短縮することが可能としている。従来、患者の検体を採取した後、検査室に送り結果が出るまでに長い時間がかかっていた検査が、心筋マーカーなど一部の検査においては、診察室や患者のベッドサイドでの検査、いわゆるPOCT(ポイント・オブ・ケア・テスト)が可能な機器が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−533606号公報
【特許文献2】特表2006−521558号公報
【特許文献3】特表2002−530786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2には、多検体を同時に検査が可能というマイクロプレートの利点と、短い時間で検査結果が得られる分析用チップの利点を合わせた特徴を持つ分析デバイスとして、円盤型の分析デバイスが提案されている。具体的には、円盤状のデバイスに複数のマイクロチャネル構造を設け、試料に含まれる物質を反応させるための固相物質が流路の一部に充填されている。蛍光色素等の標識をレーザにより励起して得られる蛍光の強度を光検出器によって検出することにより測定が行われる。また特許文献3には、ディスクを使用した方法で、光ディスクの構造を利用した方法が開示されている。光ディスクのトラック形状が形成されている面と同一の面に生体試料や粒子を付着させ、光ピックアップを用いて信号の変化を検出する方法が示されている。
【0008】
特許文献1および特許文献2の方法は、ディスク上に設けられた流路に試料を展開し試薬と反応した結果を蛍光強度や吸光度の変化として検出し、試料に含まれる抗原や抗体の量を測定している。検出方法としてはウェルプレートを用いた方法と原理的に同じであり、溶液中に含まれる標識物質の濃度を蛍光や吸光度で測定している。そのため、定量的な測定が出来る濃度範囲が狭く、濃度の高い試料については数段階に希釈した複数のサンプルを用意する必要があった。一方、低濃度の試料を感度良く検出する方法として特許文献3では光ディスクのフォーカス面にラッテックスビーズや磁気ビーズを結合させて検出する方法が示されているが、濃度の高い試料の場合ディスク表面の広い領域にビーズが凝集することとなり、光ディスクの信号としは、表面のキズや信号面の欠陥との判別が不可能になり、ビーズの数量を検出することが出来ないという問題があった。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、分析する試料に含まれる抗原や抗体の濃度が、低濃度から高濃度まで広い範囲で定量性の高い検出が可能な、試料分析用ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明に係る試料分析用ディスク(100)は、ディスク面に設けられたグルーブ(107)およびランド(108)からなる溝構造またはピット(109)が設けられた構造を有するトラック領域(105)に固定化された、生体高分子が結合している標識用ビーズ(110)を、光学的読み取り手段によって数量を計測するための試料分析用ディスク(100)において、前記試料分析用ディスク(100)の内周側に、前記生体高分子を含む試料を滴下する注入孔(101)、および前記注入孔(101)に連続し前記標識用ビーズ(110)と生体高分子が反応するための流路(102)を備え、前記試料分析用ディスク(100)の外周側に、前記流路(102)に接続し、前記標識用ビーズ(110)の直径と同等の幅を有する前記グルーブ(107)または前記ピット(109)を備える検出領域(104)を備える、ことを特徴とする。
【0011】
第2の発明に係る試料分析用ディスク(100)は、第1の発明において、前記検出領域(104)の面積は、当該検出領域(104)が接続する前記流路(102)の面積より大きいことを特徴とする。
【0012】
第3の発明に係る試料分析用ディスク(100)は、第1または第2の発明において、前記検出領域(104)は、前記試料分析用ディスク(100)の外周方向に向かって前記検出領域(104)の幅が広くなることを特徴とする。
【0013】
第4の発明に係る試料分析用ディスク(100)は、第1から第3のいずれかの発明において、前記検出領域(104)は、前記試料分析用ディスク(100)における中心からの距離によって異なる種類の生体高分子が結合された前記標識用ビーズ(110)が固定されることを特徴とする。
【0014】
第5の発明に係る試料分析用ディスク(100)は、第1から第4のいずれかの発明において、前記検出領域(104)は、前記流路(102)に接続しない部分における前記グルーブ(107)または前記ピット(109)に、前記検出領域(109)の位置を特定するためのアドレス信号が記録されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の試料分析用ディスクによれば、光ディスクの情報を再生する光学ピックアップと同様の構成で検出が可能であり、装置の小型化、低価格化が可能となる。また、標識用ビーズを1つずつ高速に計数することが出来るので、低濃度から高濃度の試料まで定量的に測定することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る試料分析用ディスクの読み取り装置の概念ブロック図
【図2】本発明に係る試料分析用ディスクの構成概念図
【図3】本発明に係る試料分析用ディスクにおけるトラック領域の断面模式図
【図4】本発明に係る試料分析用ディスクの断面構造とビーズの読み取り状態を表した模式図
【図5】試料分析用ディスク上における試料の反応を示す模式図
【図6】試料分析用ディスク上における試料の反応を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明における試料分析用ディスク100を光学的に読み取り、抗体や抗原の検出を行う読み取り装置1の構成ブロック図である。
【0018】
読み取り装置1の構成は、データやコンテンツ情報が記録された光ディスクを読み取る装置と同一の構成である。読み取り装置1は、スピンドルモータ2、対物レンズ3、アクチュエータ4、ビームスプリッタ5、レーザ発振器6、コリメータレンズ7、集光レンズ8、光検出部9、制御部10を備える。
【0019】
制御部10は、回転制御部11、計測部12、フォーカス・トラッキング制御部13を備える。読み取り装置1の構成は、上記以外にも必要に応じて他の要素を備えてもよい。
【0020】
スピンドルモータ2は、回転制御部11の制御によって試料分析用ディスク100を所定の回転速度で回転させる。対物レンズ3は、例えば開口数(NA)が0.85の対物レンズであり、レーザ発振器6から出力されたレーザ光を、試料分析用ディスク100の読み取り面に集光させる。
【0021】
アクチュエータ4は、フォーカス・トラッキング制御部13の制御によって、レーザ発振器6から出力されたレーザ光を、試料分析用ディスク100の読み取り面に集光させるための調整を行う、例えば2軸のアクチュエータである。ビームスプリッタ5は、レーザ発振器6から出力されたレーザ光を対物レンズ3の方向に反射させるとともに、試料分析用ディスク100からの反射光を光検出部9に導く。
【0022】
レーザ発振器6は、例えばBlu-ray(BD)ディスクの再生用と同一の波長405nmの半導体レーザ発振器である。コリメータレンズ7は、レーザ発振器6から出力されたレーザ光を並行な光束とする。
【0023】
集光レンズ8は、ビームスプリッタ5より導かれた光を光検出部9に導く。光検出部9は、フォトダイオードであり、試料分析用ディスク100から反射された光の光量に対応する検出信号を計測部12およびフォーカス・トラッキング制御部13に出力する。
【0024】
制御部10は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)により構成され、図示しない記憶部等を備える。制御部10は、図示しない操作部による操作に応じた各種制御、光検出部9により出力された検出信号に基づく各種制御等を行う。上記各種制御のうち、本発明の説明に必要な制御として、回転制御部11による制御、計測部12による制御、フォーカス・トラッキング制御部13による制御がある。回転制御部11、計測部12、フォーカス・トラッキング制御部13は、制御部10における処理やプログラム等によって実現される。
【0025】
回転制御部11は、スピンドルモータ2を制御し、試料分析用ディスク100を所定の回転数で回転させる。計測部12は、光検出部9により出力された検出信号よりRF信号を生成し、生成したRF信号によりグルーブ107やピット109上に固定化された標識用ビーズ110を計数する。
【0026】
フォーカス・トラッキング制御部13は、光検出部9により出力された検出信号よりFE(フォーカスエラー)信号やTE(トラッキングエラー)信号を生成し、生成した各信号の値によって、アクチュエータ4等を制御し、試料分析用ディスク100の読み取り面に集光させる制御や、トラックに追従させる制御を行う。
【0027】
次に、本発明の試料分析用ディスク100の構造について、図2から図4を用いて説明する。図2は、本発明に係る試料分析用ディスク100の概念図である。
【0028】
試料分析用ディスク100は、例えばCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)等と同じ直径の円盤形状であり、素材もポリカーボネートなど同様な素材を用いる。
【0029】
試料分析用ディスク100は、内周側に複数の注入孔101を、試料分析用ディスク100の中心Oに対して回転対象に備えられる。注入孔101は、分析対象となる試料を滴下させるための孔であり、その容積は検査に必要な試料を計量する大きさになっている。具体的には、試料は注入孔101の容積を注入可能となっており、注入された試料は、試料分析用ディスク101の回転により、後述する流路102を伝わり、検出領域104において標識用ビーズ110が検出されるために適切な量である。
【0030】
また、注入孔101の各々からは滴下された試料が流れる流路102が、試料分析用ディスク100の中心Oから見て放射状に備えられる。さらに、流路102の各々に接続され、試料分析用ディスク100の外周部に位置する検出領域104が備えられる。また、流路102の一部には、試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ110が規定量充填されているビーズ充填部103が備えられる。
【0031】
検出領域104の面積は、流路102を通過して流れてきた試料が、検出領域104において均等に広がり、確実に検出されるよう、接続されている流路102の面積より大きく構成されている。
【0032】
さらに、試料分析用ディスク100の外周部には、検出領域を含むように、光ディスクの信号面と同様の構造である、スパイラル状のグルーブ107またはピット109が形成される、トラック領域105が備えられる。トラック領域105にグルーブ107が形成されていることにより、試料分析用ディスク100の読み取り面には、図3(a)に示すように、溝となるグルーブ107とランド108とが存在する。また、トラック領域105にピット109が形成されている場合は、図3(b)に示すように、スパイラル状にピット109が形成されている。
【0033】
このため、図3(a)においては、グルーブ107が凹部120であり、ランド108が凸部121である。また、図3(b)においては、ピット109が凹部120であり、ピット109以外が凸部121となる。
【0034】
図4は、試料分析用ディスク100の断面構造と標識用ビーズ110の読み取り状態を表した模式図である。試料分析用ディスク100の内周側には、注入孔101と、注入孔101に連続している深さ100μmから500μmの流路102が形成されており、分析対象の試料が通過する流路102の一部に特定の抗体が修飾された標識用ビーズ110が充填されているビーズ充填部103が備えられる。また、試料分析用ディスク100の読み取り面側は、保護層106が設けられている。保護層106は、流路102、ビーズ充填部103および検出領域104を覆うように設けられていてもよい。図4においては、検出領域104の上方にグルーブ107またはピット109が形成されている。
【0035】
抗原−抗体反応は溶液中で抗原と抗体が接触することで反応し標識用ビーズ110と分析対象の抗原が結合する。一般にイムノアッセイで対象としている抗原の溶液中の濃度は非常に薄い。そのため流路102の大きさを小さくし、狭い領域に多くの標識用ビーズ110を充填し反応効率を上げることで短時間に標識用ビーズ110と結合するようにする。
【0036】
ビーズ充填部103において試料と反応した標識用ビーズ110は試料分析用ディスク100の回転による遠心力でさらに外側の領域に流れ検出領域104に展開される。検出領域104は光ディスクと同様にグルーブ107やピット109が設けられている。BDの場合、厚さ0.1mmの保護層106を通して信号を読み取るように規格が定められている。一般的なBD用光ピックアップの対物レンズ3は、保護層106までの距離(作動距離)が0.3mmから0.4mm程度で設計されているものが多い。よって、装置の設計余裕を考慮すると流路102の深さに対して検出領域104で試料が展開される厚さ方向のスペースは薄くすることが好ましい。図4においては、流路102の深さと検出領域104の深さを階段的に異なる構成としているが、流路102において徐々に薄くしていってもよい。
【0037】
また標識用ビーズ110を1個ずつ計数するために、流路102に充填されている標識用ビーズ110が厚さ方向に重ならない十分な面積となる必要がある。検出領域104の面積は、流路102に充填された標識用ビーズ110の個数と標識用ビーズ110の直径から決まる面積を掛けた面積よりも、グルーブ107もしくはピット109の面積が大きくなるように作られている。標識用ビーズ110に磁気ビーズを使用した場合には、磁気によりグルーブ107やピット109の形成された面に標識用ビーズ110を誘導することで反応時間を短縮することも出来る。
【0038】
試料分析用ディスク100の構造がグルーブ構造またはピット構造の場合、検出領域104に捕捉されている標識用ビーズ110の位置を、対物レンズ3により集光されたスポット光が通過した場合、反射した反射光の位相が変化し、光検出部9で得られる検出信号の光量が変化する。標識用ビーズ110の直径がBDの最短ピット長とほぼ等しい場合、トラック上に標識用ビーズ110が1個から検出することが出来る。
【0039】
標識用ビーズ110を検出する位置は試料分析用ディスク100の検出領域104であり、すなわちトラック領域105としてグルーブ107やピット109を有する部分で流路102と接続されている部分である。トラック領域105において、流路102と接続していない部分には、予めアドレス信号として記録しておくことで半径方向とトラック方向の情報を得ることが出来る。このため、記録されているアドレス情報に基づき、標識用ビーズ110が検出された位置を特定することができる。
【0040】
その他の方法として、グルーブ構造の場合はグルーブ107をカッティングする際にディスクの半径方向にうねりを生じるように試料分析用ディスク100を製作し、その変動をTE信号から検出して、周波数からディスク上のアドレスを計算する方法であるウォブル検出を利用しても良い。
【0041】
また、信号面にBD―RやBD−RWのような記録型または追記型のディスクと同様な相変化材料や色素材料を用いることで情報を追記することも可能である。例えば滴下した試料のIDナンバーを追記することで、装置から一旦試料分析用ディスク100を取り出し、再び分析のために装置で読み取る場合の試料の特定に利用する。また、すでに利用済みの試料分析用ディスク100の検出領域104に誤って別の試料を滴下してしまうことを防止することが出来る。
【0042】
次に、本発明の試料分析用ディスク100を用いた、分析用試料の分析について、図5および図6に基づき説明する。
【0043】
注入孔101より試料が注入され、試料分析用ディスク100を回転させると滴下された試料は遠心力により抗原−抗体反応のための流路102に導かれる。流路102につながるビーズ充填部103には試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ110が予め規定量充填されている。
【0044】
標識用ビーズ110は直径が100nmから1μm程度の大きさのポリマー粒子、または内部にフェライト等の磁性材料を含む磁気ビーズ等を用いる。また、金コロイドなどの金属微粒子やシリカビーズ等を用いることも可能である。標識用ビーズ110の直径は、検出に利用する読み取り装置1の光学系により検出に最適な大きさが決定し、読み取り装置1には、既存の光ディスクのドライブ、特に光ピックアップに利用されている部品を利用することが出来るという利点がある。
【0045】
現在一般に普及している光ディスクの読み取り装置の中で、もっとも高解像度のものはBlu-ray Disc(BD)で波長405nmのレーザ光を開口数(NA)0.85の対物レンズでディスク上にスポットを集光させることが出来る。ディスクの信号の最短ピット長は約0.14μmである。したがって、BDの光学系を利用する場合には、標識用ビーズ110の直径が約140nm程度の大きさまで信号として検出することが出来る。
【0046】
また、標識用ビーズ110の表面には試料に含まれる抗原200と特異的に結合する抗体210をあらかじめ結合させておく。抗体210の種類には様々なものがあり、例えばB型肝炎の検査の場合には血液中に含まれるHBs抗原と特異的に結合するHBsAgモノクローナル抗体を標識用ビーズ110に修飾しておく。修飾する抗体210の種類は検出する抗原200の種類にあわせ特異的に結合するものを選択する。
【0047】
流路102中のビーズ充填部103で抗体210が修飾された標識用ビーズ110と試料が混合されると、試料に含まれる抗原200が標識用ビーズ110の表面に修飾された抗体210と結合し、標識用ビーズ110、抗体210、抗原200の複合物が形成される。
【0048】
この段階で溶液中には試料に含まれる抗原200の量に応じて、抗原200と抗体210が反応した複合物の標識用ビーズ110と、抗原200と反応していない標識用ビーズ110が一定の割合で存在している。さらに試料分析用ディスク100の回転に伴う遠心力により、流路102で反応した溶液を外周部の検出領域104に展開させる。
【0049】
検出領域104の上面には、光ディスクの信号面と同様に、スパイラル状のグルーブ構造またはピット構造となっている。グルーブ構造の場合、グルーブ107の幅は標識として使用する標識用ビーズ110の直径とほぼ同じ幅になっていることが好ましい。また、ピット構造の場合は、各ピット109の幅が標識用ビーズ110の直径とほぼ同じ幅になっていることが好ましい。
【0050】
これらの検出領域104には、標識用ビーズ110の表面に修飾したものと同じ種類の抗体210がシランカップリング等の方法で固定されている。検出領域104に展開された溶液に含まれている抗原200、すなわち流路102の中で抗体210が修飾された標識用ビーズ110と反応した複合物は、さらに検出領域104に固定されている抗体210と結合し、標識用ビーズ110、抗体210、抗原200、検出領域に固定された抗体210(固相化抗体とも言う)によるサンドイッチ型の複合物を形成し、検出領域104の基板上に固定化される。抗原200と反応していない標識用ビーズ110は、検出領域104にとどまらず、試料分析用ディスク100の回転に伴う遠心力によりさらにディスク外周に送られ、検出領域104の外、具体的には試料分析用ディスク100の外に排出される。
【0051】
図5は試料分析用ディスク100上で、抗原200と抗体210が反応した後の複合物の構成を模式的に表した図である。図5(a)は、ウェルプレートで行われるのと同様の抗原−抗体反応を利用したサンドイッチ法による原理により、試料に含まれる抗原200に計測可能な標識である標識用ビーズ110が付けられた状態で、検出領域104に固定されていることになる。サンドイッチ法は検出対象の絶対量に対して出力がリニアに得られることから定量測定が行いやすい方法として多く用いられている。固定化の方法はこれに限らず、競合法など他の方法を用いることも出来る。
【0052】
また、検出対象が抗原200ではなく抗体210の場合には、図5(b)に示すように、抗体210に特異的に結合する抗原200を検出領域104に固定化しておき、二次抗体213により標識用ビーズ110を結合させる方法によって、抗原200の検出と同様に抗体210に対してもサンドイッチ法による測定を行うことが出来る。
【0053】
図6は、試料分析用ディスク100の半径方向に対して、所定範囲毎に各々異なる抗体をつけた場合の検出領域104の説明をするものである。分析対象の試料に含まれる複数種類の抗原200A〜200Cに対して特異的に結合するモノクローナル抗体211A〜211Cを試料分析用ディスク100における複数の領域に分けられたトラックに固定してある。
【0054】
標識用ビーズ110には、複数種類の抗原に結合するポリクローナル抗体212が修飾されている。検出領域104に展開された標識用ビーズ110は、試料分析用ディスク100の半径位置に応じて異なる種類の抗原と反応し、グルーブ107またはピット109に結合する。
【0055】
図6においては、検出領域104の内周側より所定範囲は、抗原200Aに特異的に結合するモノクローナル抗体211Aが固定されている。また、次の所定範囲には、抗原200Bに特異的に結合するモノクローナル抗体211Bが固定されており、さらに次の所定範囲には抗原200Cに特異的に結合するモノクローナル抗体211Cが固定されている。
【0056】
各々の種類のモノクローナル抗体211が固定されている範囲は、トラック領域105における流路102と接続されていない部分に記録されたアドレス信号により特定できる。
【0057】
通常、蛍光や酵素反応により複数種類の抗原を同時に検出するためには、複数種類の標識を利用して、蛍光波長の違いや発色の違いを検出しているが、その場合は複数種類の波長の光源や波長フィルターと光検出器の組み合わせが必要となる。図6に示した手法は、試料分析用ディスク100の半径位置をアドレスから得ることにより、同じ検出方法で複数種類の抗原をほぼ同時に計測することが出来る。さらに、複数種類の抗原の含まれる比率から、統計的に疾病の可能性を判定するような分析方法の場合にも、同一試料を同じ条件で測定することが出来、別々に計測した場合の誤差に比べ測定ばらつきを小さくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1:読み取り装置、2:スピンドルモータ、3:対物レンズ、4:アクチュエータ、5:ビームスプリッタ、6:レーザ発振器、7:コリメータレンズ、8:集光レンズ、9:光検出部、10:制御部、100:試料分析用ディスク、101:注入孔、102:流路、103:ビーズ充填部、104:検出領域、105:トラック領域、106:保護層、107:グルーブ、108:ランド、109:ピット、110:標識用ビーズ、200:抗原、210:抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク面に設けられたグルーブおよびランドからなる溝構造またはピットが設けられた構造を有するトラック領域に固定化された、生体高分子が結合している標識用ビーズを、光学的読み取り手段によって数量を計測するための試料分析用ディスクにおいて、
前記試料分析用ディスクの内周側に、前記生体高分子を含む試料を滴下する注入孔、および前記注入孔に連続し前記標識用ビーズと生体高分子が反応するための流路を備え、
前記試料分析用ディスクの外周側に、前記流路に接続し、前記標識用ビーズの直径と同等の幅を有する前記グルーブまたは前記ピットを備える検出領域を備える、
ことを特徴とする試料分析用ディスク。
【請求項2】
前記検出領域の面積は、当該検出領域が接続する前記流路の面積より大きいことを特徴とする、
請求項1に記載の試料分析用ディスク。
【請求項3】
前記検出領域は、前記試料分析用ディスクの外周方向に向かって前記検出領域の幅が広くなることを特徴とする、
請求項1または請求項2に記載の試料分析用ディスク。
【請求項4】
前記検出領域は、前記試料分析用ディスクにおける中心からの距離によって異なる種類の生体高分子が結合された前記標識用ビーズが固定されることを特徴とする、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の試料分析用ディスク。
【請求項5】
前記検出領域は、前記流路に接続しない部分における前記グルーブまたは前記ピットに、前記検出領域の位置を特定するためのアドレス信号が記録されていることを特徴とする、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の試料分析用ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−255772(P2012−255772A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109700(P2012−109700)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Blu−ray
2.BLU−RAY DISC
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】