試料核酸の分析方法、分析装置および分析キット
【課題】より汎用的な塩基変異の解析を実現するための方法、検査の簡便化・高効率化、検査時間と労力・コストの低減を図ることができる方法を提供する。
【解決手段】複数個の変異検出用プライマーを用いて、複数個の癌特異的遺伝子変異を一反応で効率よく検出する方法。癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所の組み合わせのパネルを作り、それらの変異に対応した複数個の特異的プライマーを同時に試料に作用させる。複数個のプライマーのうち一つ以上のプライマーが変異特異的に試料にハイブリダイズしたことを検出する。パネル内での各プライマーの反応効率の均質化は、プライマー濃度を調整することにより解決する。
【解決手段】複数個の変異検出用プライマーを用いて、複数個の癌特異的遺伝子変異を一反応で効率よく検出する方法。癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所の組み合わせのパネルを作り、それらの変異に対応した複数個の特異的プライマーを同時に試料に作用させる。複数個のプライマーのうち一つ以上のプライマーが変異特異的に試料にハイブリダイズしたことを検出する。パネル内での各プライマーの反応効率の均質化は、プライマー濃度を調整することにより解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検体中の試料核酸に存在する遺伝子変異を検出する技術に関するものであり、特に、癌細胞などの同定で必要となる複数の変異の候補部位を有する試料核酸中の変異の有無を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人口の高齢化と相まって癌の発生数が年々増加している。男性では胃癌の発生数が第1位を占め続いて肺癌・大腸癌の順となっており、女性では胃癌・乳癌・大腸癌の順となっている。生活習慣の欧米化に伴って胃癌は年々減少傾向を示している一方で大腸癌・乳癌の発生率の増加が顕著である。癌の治療の面においては、健診を含めた早期発見や治療法の進歩に伴い生存率の改善が計られている。たとえば、胃癌においては20年前までは40%に達しない治癒率であったのが最近では50%以上に及んでおり、大腸癌では60%以上、乳癌では75%前後となっている。
【0003】
癌にみられる遺伝子の異常は大きく分けて癌遺伝子、癌抑制遺伝子、および突然変異誘発遺伝子の3種類に分けられる。癌遺伝子は、発癌ウイルスにみられる原因遺伝子がヒトのDNA配列の中に見つかったことから発見されるようになった。多くは細胞が増殖するような信号を伝達したり、DNA合成に直接関わるような遺伝子でこれらが異常に増加したり、正常な調節から逸脱する事によって細胞を発癌に誘導する。癌抑制遺伝子は高率に癌を発生する家系で欠落している遺伝子として発見された。癌遺伝子と異なり、そのほとんどは細胞増殖に対し抑制的に働き、癌遺伝子がアクセルに例えられるのに対し癌抑制遺伝子はブレーキに例えられている。すなわち、癌抑制遺伝子の欠落や変異は癌遺伝子の暴走を止めることが出来ず発癌を招くことになる。突然変異誘発遺伝子は機能が欠損した場合に突然変異率が上昇する遺伝子である。正常においては細胞が増殖する際に遺伝子情報を載せたDNAの複製が行われるが、そのときに発生するミスコピーを修正する働きがある。従って、この働きを持つ遺伝子に異常が発生するとDNAのミスコピーの頻度が上昇し、遺伝子の異常から発癌に到ると考えられている。このように発癌には何らかの遺伝子、あるいは遺伝子異常が関与していることがわかってきている。遺伝子変異を利用すれば癌に関連した遺伝子診断も可能で、一部のものについてはすでに実用化されつつあり、今後より多くの面での臨床応用の可能性が期待されている。
【0004】
癌細胞では一般的にDNA配列異常が観察される。p53やrasファミリー・mycファミリーなど癌の種類を問わずに発生するものが多いが、癌の種類によっては同じ遺伝子内でも変異の起こる箇所は異なる場合もある。これらの遺伝子異常を観察するためには患部組織からDNAを抽出して検査を行う必要があるが、直接に病巣から採取する方法以外にも、肺癌なら喀痰、膀胱癌なら尿、大腸癌なら糞便中に少量含まれる剥離細胞を回収して用いることも可能である。また原発の腫瘍塊より離脱した癌細胞は血管やリンパ管内、あるいは腹腔内へと広がりながら全身に転移を起こすことから、体液組織を調べることも有効である。いずれにしろ検体よりDNAに変換されたあとは、同一の検査手法が適用される。
【0005】
個々の検体で見られる塩基変異を解析するのに適した手法として、BAMPER(Bioluminometric Assay coupled with Modified Primer Extension Reactions)法 (例えば非特許文献1)があり、実用化に向けた研究が行われている(例えば非特許文献2)。BAMPER法は生物発光を利用した塩基変異解析技術である。変異型に対応した2〜4種類のプライマー(3’末端がそれぞれA・G・C・T)を用いて伸長反応を行うと、検出部位の塩基型に一致するプライマーを用いた場合にのみ伸長反応が進行する。その際に生成するピロリン酸をATPに変換し、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応で発光させる。この発光を測定すると数分間で塩基型を判定することができる。試薬を加えるだけのシンプルな反応系であり、また簡単な光学系の発光測定装置で変異解析ができるため、BAMPER法は臨床現場を含む広く一般の研究室での使用に適していると考えられる。この簡便な方法は一般に癌組織細胞中で観察される点変異や、一から数塩基の挿入あるいは欠失、あるいは一塩基多型(SNP)の検出にも有効である。
【0006】
BAMPER法に限らず多くの遺伝子変異解析法では、試料調製としてゲノムから検査したい変異部位を含む領域をPCR反応などで増幅して用いることが一般的に行われている。PCR産物からDNAシーケンシングで塩基の変異型を判定したり、標的とする変異塩基の配列位置が3’末端に来るように設計したプライマーを用いてDNAポリメラーゼを用いた相補鎖伸長反応(相補鎖合成反応)を行い、相補鎖合成産物の有無を電気泳動で解析し、塩基型の判定を行う(例えば特許文献1)。上記BAMPER法の応用による遺伝子変異検出法では標的とする配列位置が3’末端に来るように設計したプライマーを用いてDNAポリメラーゼを用いた相補鎖伸長反応(相補鎖合成反応)を行い、生成するピロリン酸をATPに変換し、ルシフェラーゼを用いた生物発光の反応系を用いて伸長反応の有無を検出する。
【0007】
【特許文献1】特許第2853864号公報
【非特許文献1】Guo-hua Zhou,et al., Nucleic Acid research, 29, e93 (2001)
【非特許文献2】Y Nakashima,et al., Clinical Chemistry, 50, 8 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
癌細胞中に含まれる変異の検出キットとでは、反応容器内に変異検出用のプライマー(オリゴDNA)が固定されており、試料DNAとハイブリダイゼーションさせ、化学反応に引き続いておこる発色反応を測定することにより変異の有無を検出するものであり、一反応につき1つの塩基変異を検出するものである。一般に癌である可能性を検出したい場合で且つ確かめたい癌の種類が明らかである場合には、測定対象となる遺伝子内の変異挿入箇所の組み合わせが決まっている場合が多く、そのいずれか一箇所以上に変異が起こっているか否かの判別ができればよく、『遺伝子上のどこに変異が起こっているか』という情報は重要ではない。そこで、本発明は、癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所の組み合わせのパネルを作り、パネル内の一個あるいは複数個の遺伝子変異を同時に検出することにより『癌細胞中の一箇所以上の箇所に変異が存在する』という事実を明らかとするための簡便な実験形態を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
複数個の変異検出用プライマーを用いて、複数個の癌特異的遺伝子変異を一反応で効率よく検出するために、変異特異的なプライマーの設計と、複数個のプライマーを同一条件で同時に反応させる。癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所の組み合わせのパネルを作り、パネル内での各プライマーによる反応効率の均質化は、プライマー濃度を調整することにより解決することができる。
【0010】
本発明の分析方法は、一例として、複数の変異の候補部位を有する核酸の分析方法であって、複数の変異の候補部位と3’末端で各々対合する複数のプライマーを前記核酸にハイブリダイズさせる工程と、ハイブリダイズした前記複数のプライマーの伸長反応を行う工程と、前記伸長反応の結果を光学的に検出する工程と、前記検出する工程の結果から、前記核酸が変異部位を有するか否かを分析する工程とを有し、前記光学的に検出する工程では、前記複数のプライマーの種類によらない発光を検出することによって、前記伸長反応の有無を光学的に検出することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記光学的に検出する工程では、前記伸長反応を行う工程で生じるピロリン酸を用いた発光反応を行い、前記発光反応の結果を前記伸長反応の結果として検出してもよい。DNAポリメラーゼ等の存在下における反応基質dNTP(デオキシヌクレオチド3リン酸)のDNA相補鎖合成によって副産物としてピロリン酸(PPi; inorganic pyrophosphate)ができる。これをAPS(adenosine5-phosphosulfate)とATP sulfurylaseの存在下で反応させるとATPが生成される。ATPはルシフェリンとルシフェラーゼ存在下で発光反応し、光を発する。これを測定することで相補鎖伸長を検出することができる。
【0012】
前記伸長反応は、前記核酸と前記複数のプライマー(変異特異的プライマー)の3’末端の少なくとも2塩基とが相補的な場合に起こるようにしてもよい。
【0013】
また、前記光学的に検出する工程では、一種類の蛍光体で標識された複数のプローブを前記伸長反応の生成物にハイブリダイズさせ、前記生成物と前記プローブとのハイブリッド体からの蛍光を検出してもよく、また前記伸長反応の生成物は1の蛍光色素で標識され、前記光学的に検出する工程では、前記1の蛍光色素の発光波長を検出してもよい。
【0014】
また、前記ハイブリダイズさせる工程では、前記複数のプライマーの混合比率を変えてもよく、前記混合比率は、前記複数のプライマーのいずれのプライマーが前記核酸にハイブリダイズした場合にも実質的に同じ発光強度を得るために調整されてもよい。
【0015】
本発明の核酸分析キットは一例として、分析対象核酸の複数の変異の候補部位と、3’末端で各々対合する複数のプライマーと、前記プライマーを伸長させる酵素と、前記プライマーの伸長を光学的に検出するための発光試薬とを有し、前記複数のプライマーは前記変異に対応する配列を有する。ここで、前記複数のプライマーは表1に記載のプライマーの少なくとも1つであってもよい。また、分析対象の癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所の組み合わせパネルを作り、パネル内の複数個の遺伝子変異を同時に検出することにより、試料核酸中の少なくとも一つ以上の箇所に変異があることを明らかにするものであってもよい。また、癌に関連することが明らかなK-ras、p53、APCに現れる変異に対応する、表1に記載のプライマーの少なくとも一つを含むものであってもよい。
【0016】
上記の構成によれば、一の遺伝子内に複数個の変異候補部位(変異が生じ得る部位)がある場合に、上記一の遺伝子に少なくとも1つの変異があるか否かを、伸長反応の有無として一反応によって簡便に検出することができる。蛍光体の使用を伴う場合には、複数個の変異候補部位に対応したプローブについて各々異なる蛍光体で標識する必要がなく、簡便な検出が可能である。発光反応を伴う場合については、一般にマルチプルポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)での複数部位同時増幅にはプローブセットの設計が煩雑であるところ、上記発光反応における伸長反応の場合には、PCRほどプローブ配列への依存性が厳しくなく、安易に複数部位の同時伸長反応を実現できる。これは、PCRが非線形的な反応であるのに対して、発光反応における伸長反応が線形な反応であることに起因している。以上から、発光反応を伴う場合については、単一部位で設計したプローブがそのまま複数部位の一反応検出に使用でき、より簡便な検出が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、DNAポリメラーゼによる伸長反応を伴う核酸断片増幅あるいはハイブリダイゼーション反応とそれに引き続く発色あるいは呈色反応・蛍光検出を利用した遺伝子変異解析において、癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所を組み合わせたパネル内での一個あるいは複数個の遺伝子変異を同時に検出することができる。このことにより『癌細胞中の一箇所以上の箇所に変異が存在する』ことを明らかにする検査について、検査の簡便化・高効率化、検査時間と労力・コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず、本発明の実施例に用いる一般的な反応操作について説明する。DNAポリメラーゼを用いたPCRにおける相補鎖合成反応では、伸長反応用の温調器としてサーマルサイクラーであるDNA Engine Tetrad (MJ RESEARCH)を使用した。PCR産物の確認にはマイクロチップ電気泳動解析システムSV1210(日立電子エンジニアリング)を使用した。オリゴ合成はシグマジェノシスに委託した。DNAポリメラーゼはアマシャムバイオテック、その他使用した試薬はごく一般的な市販品を使用した。ゲノムはボランティアより提供された血液から精製を行った。ゲノムの精製は、Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Molecular Cloning (Second edition),1989出版)に従う。
【0019】
伸長反応の代表例としてPCRを説明する。96ウェル PCRプレートに10zmol/μLに調製したゲノム試料1μLを加え、氷上に置く。2.5 ユニット/μLの Taq.DNA ポリメラーゼ(QIAGEN社)を0.2 μL、2.5 mMのdNTPsを4μL、25 pmol/μLのプライマーセットを各0.8μLを混合する。各ウェルあたり100μLとなるように滅菌水で調製する。上記各容量は同じ比率で変更することが可能で、たとえばPCRは50μLスケールでもよい。粘着シートでシーリングし、サーマルサイクラーにセットする。ゲノムを変性させるため、94℃で2分間加熱した後、94℃で30秒間、57℃で30秒間、72℃で1分間のサーマルサイクルを35回繰り返す。PCR反応液をマイクロチップ電気泳動解析システムで解析し、目的PCR産物量を測定する。使用するマイクロチップ電気泳動解析システムでは、使用する試薬キットとしてi-SDNA12キットを使用する。これは、解析範囲が10-500bpで内部標準マーカーの塩基長と量から目的PCR産物の長さと量を自動的に算出できる。すべての実施例でマニュアルに従い、PCR反応液1μLを解析する。
【0020】
ここでは、サーマルサイクラーを用いたPCRを説明したが、片方のプライマーのみを用いた標的ゲノムないしDNAの片方の鎖のみの相補鎖合成も可能であり、PCRと同様にサイクル反応を行うことにより、伸長産物を増幅することができる。あるいは、大腸菌DNAポリメラーゼIないしその部分酵素であるクレノーフラグメント等の酵素を用い、等温(たとえば37℃一定)で伸長反応を行うことも可能である。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
近年、大腸癌の罹患率は増加傾向にあることから、免疫学的便潜血検査では偽陽性が多く、より特異性の高いスクリーニング方法の開発が望まれている。そこで大腸癌患者の50%において変異が確認されるといわれているK-ras遺伝子を例にして本発明の特徴を説明する。K-ras遺伝子は大腸癌以外にも肺癌や胃癌・肝癌など多くの癌細胞内で変異の発生が認められている一般的な癌マーカーである。
【0022】
伸長反応の代表例として相補鎖合成反応を用いて塩基変異の判定を行う方法を図1〜図3を用いて説明する。図1記載の1-1と1-2は試料である相補的2本鎖ゲノムである。本配列情報は(NCBI, [online],[平成16年9月27日検索],インターネット,<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov>)のアクセッションナンバー NT_009714から得ることができる。上記方法に従いNT_009714に含まれる配列18157098から18157675までの577塩基対を増幅する。このPCR産物は中央付近にcodon12とcodon13の6塩基(図1記載の1-3)を含む。PCR反応時のプライマーやdNTPsを除去するため、セファデックスG100を用いたゲル濾過でPCR産物を精製する。あるいは、次に示す酵素的なクリーンアップで目的PCR産物を精製する。PCR反応後の溶液50μLに1 unit/μLの濃度のshrimp alkaline phosphataseを0.7μL、 10 unit/μLのexonuclease Iを0.06 μL、10×PCR buffer(Amersham Pharmacia社製品)を0.3 μL、滅菌水3.94μLを混合する。37℃で40分間インキュベートによる酵素反応を行った後、80℃で15分間加熱により酵素を失活させる。これで、目的PCR産物が実質的に精製される。もちろん、酵素的なクリーンアップの前に、セファデックスG25かG50によるゲル濾過を行えばさらに精製度を上げることができる。
【0023】
こうして精製した相補的2本鎖からなるPCR産物中の1-3は、図2の2-1で示すcodon12と2-2で示すcodon13からなり、codon12の中には2-3で示すCがAに変わる変異と、2-4で示すCがAあるいはTに変わる変異がある。codon13の中には2-5で示すCがTに変わる変異がある。
【0024】
たとえば2-3(Kras codon12(A))を測定しようとするとき、Upper側とLower側のプライマーデザインを図1に1-4、1-5として示した。2-3の塩基型の判定を行うにはプライマー1-4あるいは1-5を鋳型DNA鎖1-2あるいは1-1にハイブリダイズさせて伸長反応を行う。このときプライマーの3’末端がちょうど2-3の位置に来るようにプライマーを設計する。プライマーの3’末端がPCR産物の鋳型DNA鎖1-1あるいは1-2の塩基2-3に相補であればDNAポリメラーゼによる相補鎖合成反応が起きる。相補でなければ相補鎖合成反応は起きないか、起きたとしても少ない量しか相補鎖合成が起きない。たとえば塩基2-3の配列がCであるなら、プライマー1-4の3’末端がGのときのみ相補鎖合成が起きるが、末端がC・A・Tの3種のプライマーでは相補鎖合成反応が起きにくい。このため3’末端がGとC・A・Tのプライマーで別々に伸長反応が起きるかどうかを調べることで2-3の塩基がどのタイプであるかを知ることができる。
【0025】
伸長反応が起きたかどうかは、相補鎖合成時に生成するピロリン酸を酵素PPDK(ピルビン酸オルトホスホジキナーゼ)でATPに変換し、このATP量をルシフェリン・ルシフェラーゼ系で定量することにより可能である。この場合は相補鎖合成反応が起きればピロリン酸が一塩基伸長するごとに一分子生成するので、プライマーがハイブリダイズし、PCR産物の末端まで伸長することにより442分子のピロリン酸が生成し、これがATPに変換され、ルシフェリン/ルシフェラーゼにより発光する。相補鎖合成が起きなければピロリン酸が生成しないので当然のことながら発光はしないが、実際にはプライマーの非特異反応や基質であるdNTPの分解により若干の発光が見られることがある。
【0026】
ルシフェリン/ルシフェラーゼの系での検出(発光反応による検出)についての具体的操作を示す。たとえば、上記のようにPCR反応液を酵素クリーンアップした後、4℃まで冷却しておく。この反応液を96ウェル PCRプレート(白色)に2μL分注する。プライマー1-6(5 pmoL/μL)を1μL添加する。あらかじめ5 unit/μL のTaq.DNA ポリメラーゼ0.0275 μLと、5 mM dNTPs 0.04 μLを混合し、 1.0μLとなるように滅菌水で調製した溶液を1.0μL加える。ミネラルオイルを4 μL重層する。94℃10秒間と55℃10秒間のサイクルを5回行った後、25℃まで冷却する。あらかじめ25℃にしておいた発光試薬(ピロリン酸をATPに変換し、ATPをホタル由来ルシフェリンを使用して検出する生物発光キット)を10μLずつ加え、ピペッティングにより混合し、ルミノメーターで測定する。これにより伸長反応が起きたかどうかをピロリン酸の量に依存する発光強度として容易に検出できる。
【0027】
塩基変異2-3・2-4・2-5の解析例を図3に示した。4種の異なる塩基を3’末端にもつよう設計された各プライマーを変異の無いことが明らかである培養細胞(健常者の試料のかわりとして用いた)のDNA由来のPCR産物に作用させた。図3の3-1と3-2は図2の2-3を検出しようとするものであり、2-3の塩基は健常者ではCである。2-3を検出するために上流側のプライマー(図1の1-4)を作用させた場合には3-1のように3’末端がGの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこり、発光強度に換算して検出されている。3’末端がA・C・Tのプライマーでは伸長反応はおこらず、発光による検出もできなかった。下流側のプライマー(図1の1-5)を作用させた場合には3-2のように3’末端がCの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこり、発光強度に換算して検出された。3’末端がA・G・Tのプライマーでは伸長反応はおこらず、発光による検出もできなかった。同様に3-3と3-4は図2の2-4を検出しようとするものであり、2-4の塩基は健常者ではCである。よって上流側のプライマーを作用させた場合には3-3のように3’末端がGの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこった。下流側のプライマーを作用させた場合には3-4のように3’末端がCの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこっていた。3-5と3-6は図2の2-5を検出しようとするものであり、2-5の塩基も健常者ではCである。よって上流側のプライマーを作用させた場合には3-5のように3’末端がGの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこり、下流側のプライマーを作用させた場合には3-6のように3’末端がCの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこったことにより正確な塩基の判定が可能であった。
【0028】
大腸癌で一般的におこると言われている遺伝子変異(K-rasおよびp53およびAPC)を解析するためにデザインしたミスマッチを入れたプライマーを図12中の表及び下記表1に示す(図12は説明の簡単のために示すものである)。ここで100-1はK-ras遺伝子(NCBIのアクセッションナンバーNT_009714)、100-2はp53遺伝子(NCBIのアクセッションナンバーNT_010718)、100-3はAPC遺伝子(NCBIのアクセッションナンバーNT_034772)である。100-4の数字は前記の遺伝子上に変異が生じているcodonの番号であり、ひとつのcodon内に2箇所以上の変異が生じる場合にはトリプレットの前から(A)(B)(C)とする。ひとつのcodon内に生じる変異のパターンが2つ以上ある場合にはそれぞれ(i)(ii)(iii)・・・とする。100-5は前記のNCBIアクセッションナンバーに記された塩基配列上の変異箇所を示す。100-6は標的とする変異部位周辺のオリジナルな配列、100-7は実際に解析に用いたミスマッチ入りプライマーの配列(3’末端のNが4種の塩基A・G・C・Tのうち任意の組み合わせをとる)である。各プライマーは100-8で示すミスマッチを必ず含むものする。
【0029】
ミスマッチは、プライマー用の合成オリゴDNAが分子内で連続する3塩基以上で分子内ハイブリダイゼーションを起こしてホールディングする構造をとることがないように導入した。合成オリゴDNA中のホールディングに関与する連続する3塩基のいずれかの1塩基ないし2塩基を鋳型DNAと非相補な塩基ないしスペーサーに置き換えた構造で、かつ非相補な塩基ないしスペーサーに置き換えた部位がプライマーの3’末端から3塩基以上離れたところに位置する構造とした。
【0030】
スペーサーとしては図4で示されるような、4-1の構造でR1=H、R2=Hのスペーサーや4-5の構造でR3=H、R4=Hのものを使うことができる。プライマーの長さとしては3’末端の標的とする塩基から数えて10塩基以上、最大で50塩基までをとる可能性があり必ずしも表1に示したプライマー長に限定されるものではなく、固相反応と液相反応の別、あるいは反応容量液量の違いや、反応容器の形態による反応効率の悪化あるいは効率化などによって任意の長さに変更される可能性がある。上記の実験形態をとった場合では表1に示されるプライマー長が最適であり、いずれの配列を用いた場合でも変異塩基を検出できた。ここでは、本発明の一実施例としてPCRを用いる増幅の例を示したが、NASBA法やローリングサイクル法、ASP-PCR法などおよそ反応にプライミングサイトに対してプライマーをハイブリダイズさせ、ポリメラーゼを利用して相補鎖合成反応を行わせる増幅法に汎用的にも使える。
【0031】
【表1】
【0032】
(実施例2)
実際の検体を用いて遺伝子変異の解析を行う場合、癌組織から、あるいは喀痰・尿・糞便、あるいは血液等の体液組織から純粋に癌細胞だけを回収し、DNAの抽出を行うことは困難である。したがって変異検出に用いるプライマーは、正常細胞には反応しないように十分に特異性の確保されたものでなければならない。
【0033】
大腸癌で観察されるK-ras遺伝子の変異はcodon12とcodon13でおこる可能性が高いといわれており、正常型も含めるとこの2codon・6塩基のパターンは図5に示す5種類となる。wt(正常型)の塩基配列に対して、2-3の塩基CがA(2-3’)に変化する場合をここではcodon12(A)mtAと呼ぶことにする。同様に、2-4の塩基CがA(2-4’)に変化する場合をここではcodon12(B)mtA、T(2-4’’)に変化する場合をここではcodon12(B)mtT、2-5の塩基CがT(2-5’)に変化する場合をここではcodon13mtTと呼ぶことにする。
【0034】
これらを任意の比率で混合したものを、実検体を扱う際のモデルとして用いた。測定を行う際には試料DNA中に混入している正常細胞由来の塩基を検出しないように、プライマーの3’末端の塩基型が上記の2-3’・2-4’・2-4’’・2-5’にそれぞれ対応するような4種類のプライマーを使って測定を行った。図6では各mt(変異型)の塩基配列を持つ試料及びwt(正常型)の塩基配列を持つ試料がそれぞれ100%の場合と、各mtの試料に対してwtの試料を25%・50%・75%となるように混合した試料の5種類を用意した。これらに対してプライマーの3’末端の塩基型が2-3’・2-4’・2-4’’・2-5’にそれぞれ対応するような4種類のプライマーを作用させて変異型の検出を試みた。
【0035】
解析結果では、試料にプライマーを加えなかった場合に得られた発光強度(バックグラウンド発光)を1としたときに、プライマー伸長反応により何倍の発光強度が得られたかを伸長度合として表している。6-6はバックグラウンド発光の2倍以上の発光が得られなかった領域を示し、BAMPER法による検出ではこの範囲を検出限界以下の範囲であると定めている。6-1はmt試料が100%、6-2は75%、6-3は50%、6-4は25%、6-5は0%(wtが100%)の時に、各mtに対応する4種のプライマーで検出を行ったところいずれの場合でもmt検出は可能であり、wtは検出されなかった。このとき各プライマーは最終濃度が5pmol/反応となるように調整した。
【0036】
次に4種の変異検出用プライマーを最終濃度が5pmol/反応となるように混合したものを検出に用いた結果を図7に示す。このとき図6と同様に7-1はmt試料が100%、7-2は75%、7-3は50%、7-4は25%、7-5は0%(wtが100%)となっている。7-6は検出限界以下の範囲である。プライマーの3’末端の塩基型が2-3’となるようにデザインされたcodon12(A)mtA検出用のプライマーは、他の3種の変異検出用プライマーの作用に阻害されることなくcodon12(A)mtAのみを正確に認識して反応することが可能であった。codon12(B)mtAやcodon12(B)mtT、codon13mtTの検出においても4種混合プライマーはターゲット特異的な反応による正確な変異の検出を可能とした。
【0037】
マルチプル(定量)PCRで多サイトの同時増幅をするためには、プライマーセットの設計に多大の時間と手間がかかるだけでなく、必ずしも任意の複数サイトの同時増幅が常に可能なわけではない。これに対してBAMPER法における伸長反応条件はPCRほどプライマー配列や塩濃度、あるいは温度への依存性が厳しくなく、容易に多サイトの同時伸長反応を実現できる。これはPCRが非線形な反応であるのと比較して、BAMPER法が線形な反応であることに起因する。即ちBAMPER法では単一箇所の変異検出を対象として設計したプライマーが複数箇所同時検出の場合でもそのまま使えるのに対して、PCRでは、単一箇所の検出から複数箇所同時検出に拡張するときに一からプライマー設計をやり直す必要があることを意味している。以上のことは複数箇所で同時に反応させるときに顕著に現れる効果であり、複数箇所同時検出BAMPER法の独自の効果と考えられる。
【0038】
(実施例3)
実施例2で示した4箇所の変異の検出(図6および図7)では、4種の変異検出用のプライマーの反応性がそれぞれ異なっており、プライマーの3’末端の塩基型が2-4’’となるようにデザインされたcodon12(B)mtTに対応するプライマーが最も伸長反応が起こりやすく、3’末端の塩基型が2-3’となるようにデザインされたcodon12(A)mtA検出用のプライマーが最も反応しにくくなっている。遺伝子上の特定の変異を検出するような場合にはプライマーの設計できる条件範囲は非常に狭くなっているために、プライマーのわずかな塩基配列の差(この場合は一塩基の型の違い、あるいは長さの違い)が、鋳型DNA(PCR産物)へのハイブリダイゼーション効率に影響を与え、結果として伸長反応効率の差を生み出してしまう。複数箇所同時検出を行う場合には、各プライマーの最適なアニール温度をそれぞれに適用することは非常に難しくなるために、組み合わせたプライマー(ここでは4種)全ての反応効率を確保できる条件に落ちつかざるをえない。しかしながら(PCR反応のような非線形の反応ではなく)BAMPER法のような線形な反応では混合するプライマーの量比を変化させることにより、見かけのシグナル強度を任意にコントロールすることが可能である。
【0039】
図8の8-1はプライマー濃度と発光強度の関係を表している。8-2でcodon12(B)mtTを示すことがあらかじめ知られている試料100%に対して、2-4’’を検出するプライマーの濃度を5pmol/反応あるいは2.5pmol/反応で作用させたとき、プライマー量の低下に伴って発光強度の低下も観察された。同様の効果は8-3(codon12(A)mtAを示す試料100%に対して、2-3’を検出するプライマーの濃度を5pmol/反応あるいは2.5pmol/反応で作用させたとき)にも観察された。8-4はバックグラウンド発光の2倍以上の発光が得られなかった領域を示し、BAMPER法による検出ではこの範囲を検出限界以下の範囲であると定めている。このとき8-2の2-4’’を検出するプライマーの濃度が2.5pmol/反応の時に得られたプライマー伸長度合と、8-3の2-3’を検出するプライマーの濃度が5pmol/反応の時に得られたプライマー伸長度合はほぼ同じであった。そこで2-4’’と2-3’の変異を同時に検出する系においてはその混合するプライマー濃度比を1:2(2.5pmol/反応と5pmol/反応)とすることにした。
【0040】
8-5・8-6・8-7は当該箇所における変異の有無があらかじめわかっている培養細胞を用いて得られた結果である。上記2種類の変異検出用プライマーを混合したものを8-5ではcodon12(B)mtTの変異を持つ培養細胞(患者のモデルとして用いた)から得られた検体に対して作用させたところ、codon12(B)mtTに対するプライマー2-4’’のみが反応し(8-8)、いずれのプライマーも加えていないコントロール(8-9)では伸長反応はおこらなかった。8-6で2種類の変異検出用プライマーを混合したものをcodon12(A)mtAの変異を持つ培養細胞(患者のモデル)から得られた検体に対して作用させたところ、codon12(A)mtAに対するプライマー2-3’のみが反応し(8-10)、コントロール(8-11)では伸長反応はおこらなかった。
【0041】
8-7のように変異の無いことがあらかじめわかっている培養細胞(健常者のモデル)から得られた検体に作用させたところ、いずれのプライマーも反応を示さず(8-12)、コントロール(8-13)と同じであった。
【0042】
このように2種類以上の変異検出用プライマーを混合して一つの検体に作用させる場合に、各プライマーの混合比率を変化させることによってプライマー毎の作用効率をあらかじめそろえておけば、得られた発光強度(プライマー伸長度合)は検体DNA量あるいはPCR増幅産物量にのみ依存することとなる。よって上記の混合プライマーを未知試料に対して作用させた場合に、プライマー伸長反応が起これば混合プライマーのいずれかが対応する箇所に変異があることが示され、プライマー伸長反応が起こらなかった場合には混合プライマーのいずれかが対応する箇所に変異が存在しないか、あるいは診断用に回収された試料検体中に含まれている癌細胞の比率が少ないために検出することができなかったことを意味する。これより、反応しやすいプライマーに対応する変異は検出の可能性が高く、反応しにくいプライマーに対応する変異は検出されにくいといったプライマー毎の反応効率の差異をなくすことができる。
【0043】
癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所を組み合わせたパネル内で組み合わせる変異検出用プライマーの種類が増えても上記のような効果は期待でき、複数箇所同時検出BAMPER法の独自の効果と考えられる。本発明はSTA法(Shifted Termination Assay)のような、Sequence specific primerを用いた伸長反応の有無によりおこる呈色反応を検出する場合にも適用が可能である。また、最終的に検出物をDNPで標識し、抗DNP-アルカリフォスファターゼ抗体と反応させ、アルカリフォスファターゼと発色基質との反応によっておこる呈色反応を検出する場合にも適用が可能である。BAMPER法と同様に変異特異的なプライマーによる伸長反応とそれに伴って発生するピロリン酸を、一般的な種々の化学反応を経てホルマザンや過酸化水素・スーパーオキシド・二酸化炭素・L-フェニルアラニン・硫酸イオンなどに変換し、検出機を用いて、あるいは目視により判断する方法(特開2003-174900号公報)などにも適用が可能である。あるいは変異特異的なプライマーによる伸長反応に伴って発生したピロリン酸が有する金属イオンとの結合作用により、消光材として作用していた金属イオンが奪われることにより蛍光を発する物質の量を、検出機を用いて、あるいは目視により判断する方法にも適用が可能である。
【0044】
(実施例4)
以上の実施例では変異特異的プライマーによって生ずる伸長反応の有無を、伸長反応の際に生成するピロリン酸を用いた発光反応で検出していたが、これを蛍光により検出することも可能である。プライマーのデザインやハイブリダイゼーション反応の条件、伸長反応条件は上記と全く同じである。ここでは伸長反応後に、候補となる複数の伸長反応生成物にハイブリダイズする、一種類の蛍光体で標識された複数のプローブを加え、伸長反応性生物とハイブリダイゼーション反応をさせる。蛍光体としては、570nmに発光波長をもつCy3を用いた。生成するハイブリッド体を含む反応溶液を、ゲル濾過カラムを通して未反応のプライマーを除去した後で、回収した溶液中のハイブリッド体を波長534.5nmのYAGレーザーで励起して、生ずる蛍光量から伸長反応の有無を判定した。図9に結果を示す。上記の2-3’、2-4’、2-4’’および2-5’に変異が入っていることが明らかな試料からは基準量以上の蛍光発光が得られ、変異が入っていない試料からはバックグラウンドと同程度の蛍光発光しか得られなかった。9-1は検出限界以下の範囲である。この結果、蛍光標識プライマーのハイブリダイゼーションによっても変異特異的プライマーによる伸長反応の有無を判定できることが分かる。発売されている蛍光体は多くの種類が知られており、使用する測定装置の特性によって使用者が任意の蛍光体を選ぶこともできる。
【0045】
また、蛍光体で標識されたプライマーではなく、二本鎖核酸にインターカレートしたときに蛍光を発する物質(インターカレータ)を反応させ、その結果得られる蛍光を検出することによっても同様の効果を期待できる。インターカレータを用いるときは相補鎖伸長反応溶液中にインターカレータを混ぜておけばよい。インターカレータとしては、YOYOあるいはCyber Greenを用いることができる。図10に、YOYOを用いた例を示す。この場合にも、2-3’、2-4’、2-4’’および2-5’に変異が入っていることが明らかな試料からは基準量以上の蛍光発光が得られ、変異が入っていない試料からはバックグラウンドと同程度の蛍光発光しか得られなかった。10-1は検出限界以下の範囲である。
【0046】
本実施例により、変異特異的プライマーによる複数の変異候補サイトの伸長反応の有無を蛍光検出で判定できることが示された。発売されているインターカレータは多くの種類が知られており、使用する測定装置の特性によって使用者が任意のインターカレータを選ぶこともできる。
【0047】
(実施例5)
図11は、複数の変異の候補部位を有する試料核酸が少なくとも一つの変異部位を有するか否かを判定する装置の構成を示す。検体から得られた試料核酸は、プライマー等とともに反応槽11-1に収められる。この反応槽内において、複数の変異の候補部位と3’末端で各々対合する複数のプライマーを前記試料核酸にハイブリダイズされ、上記複数プライマーと試料核酸とのハイブリッド体が生成される。反応槽は反応部11-2に格納されており、温度調整機構11-5によって温度を制御されている。ハイブリダイズした前記複数のプライマーは、温度調整機構による温度制御を受けて、反応槽の内部で伸長反応し、各プライマーの3’末端が試料核酸と完全に対合した場合に相補鎖伸長反応が進行する。
【0048】
さらに前記伸長反応の結果は、伸長反応の結果生成したピロリン酸と発光試薬との反応で生じる生物発光として、光学系を有する検出部11-3によって検出する。検出部は反応槽の上部に設置されても下部に設置されてもよい。ここでは、複数のプライマーの種類によらない発光を検出することになる。
【0049】
検出部11-3での検出結果は、制御部11-4に送られる。制御部11-4は、発光量が基準値以上かどうかを判定することにより、上記伸長反応の有無、即ち候補部位に変異があるかどうかを分析し、試料核酸が変異部位を有するか否かを分析する。本実施例により、複数の候補となる変異部位が存在する試料核酸に、実際に変異が存在するかどうか検出する分析装置が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
医療分野では罹患とその進行により患部に発生する、点突然変異などを代表とする遺伝子発現の解析がさかんに行われるようになっている。情報の蓄積に伴い、特定の遺伝子の特定の箇所に発生する特定の塩基の変化と病状進行度合の関係なども明らかにされつつある。これらの情報を利用して効率よく健康診断を行うためには、まず変異の可能性のある塩基箇所を網羅的に調べて「変異の有無」の情報を「癌の可能性の有無」の情報へと結びつける作業が重要である。本発明の複数箇所同時検出BAMPER法では『癌細胞中の一箇所以上の箇所に変異が存在する』ことを明らかにすることを目的とする検査を行う場合に、検査の簡便化・高効率化、検査時間と労力・コストの低減を図ることができ、医療産業上きわめて有用と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明を説明するための塩基変異部位とその周辺配列
【図2】本発明を説明するための塩基変異部位
【図3】本発明で用いるプライマーの変異塩基特異的伸長反応の説明図-1
【図4】本発明のプライマー及びプライマーに挿入するスペーサーの構造の説明図
【図5】本発明で検出しようとする遺伝子変異の例
【図6】本発明で用いるプライマーの変異塩基特異的伸長反応の説明図-2
【図7】本発明で用いる混合プライマーの変異塩基特異的伸長反応の説明図
【図8】本発明で用いる混合プライマーの混合比率とプライマー伸長度合の関係
【図9】本発明の混合プライマーを用いた塩基変異解析の結果-1
【図10】本発明の混合プライマーを用いた塩基変異解析の結果-2
【図11】本発明を実施するための分析装置
【図12】本発明のプライマーの例
【配列表フリーテキスト】
【0052】
配列番号1〜60−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
【技術分野】
【0001】
本発明は検体中の試料核酸に存在する遺伝子変異を検出する技術に関するものであり、特に、癌細胞などの同定で必要となる複数の変異の候補部位を有する試料核酸中の変異の有無を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人口の高齢化と相まって癌の発生数が年々増加している。男性では胃癌の発生数が第1位を占め続いて肺癌・大腸癌の順となっており、女性では胃癌・乳癌・大腸癌の順となっている。生活習慣の欧米化に伴って胃癌は年々減少傾向を示している一方で大腸癌・乳癌の発生率の増加が顕著である。癌の治療の面においては、健診を含めた早期発見や治療法の進歩に伴い生存率の改善が計られている。たとえば、胃癌においては20年前までは40%に達しない治癒率であったのが最近では50%以上に及んでおり、大腸癌では60%以上、乳癌では75%前後となっている。
【0003】
癌にみられる遺伝子の異常は大きく分けて癌遺伝子、癌抑制遺伝子、および突然変異誘発遺伝子の3種類に分けられる。癌遺伝子は、発癌ウイルスにみられる原因遺伝子がヒトのDNA配列の中に見つかったことから発見されるようになった。多くは細胞が増殖するような信号を伝達したり、DNA合成に直接関わるような遺伝子でこれらが異常に増加したり、正常な調節から逸脱する事によって細胞を発癌に誘導する。癌抑制遺伝子は高率に癌を発生する家系で欠落している遺伝子として発見された。癌遺伝子と異なり、そのほとんどは細胞増殖に対し抑制的に働き、癌遺伝子がアクセルに例えられるのに対し癌抑制遺伝子はブレーキに例えられている。すなわち、癌抑制遺伝子の欠落や変異は癌遺伝子の暴走を止めることが出来ず発癌を招くことになる。突然変異誘発遺伝子は機能が欠損した場合に突然変異率が上昇する遺伝子である。正常においては細胞が増殖する際に遺伝子情報を載せたDNAの複製が行われるが、そのときに発生するミスコピーを修正する働きがある。従って、この働きを持つ遺伝子に異常が発生するとDNAのミスコピーの頻度が上昇し、遺伝子の異常から発癌に到ると考えられている。このように発癌には何らかの遺伝子、あるいは遺伝子異常が関与していることがわかってきている。遺伝子変異を利用すれば癌に関連した遺伝子診断も可能で、一部のものについてはすでに実用化されつつあり、今後より多くの面での臨床応用の可能性が期待されている。
【0004】
癌細胞では一般的にDNA配列異常が観察される。p53やrasファミリー・mycファミリーなど癌の種類を問わずに発生するものが多いが、癌の種類によっては同じ遺伝子内でも変異の起こる箇所は異なる場合もある。これらの遺伝子異常を観察するためには患部組織からDNAを抽出して検査を行う必要があるが、直接に病巣から採取する方法以外にも、肺癌なら喀痰、膀胱癌なら尿、大腸癌なら糞便中に少量含まれる剥離細胞を回収して用いることも可能である。また原発の腫瘍塊より離脱した癌細胞は血管やリンパ管内、あるいは腹腔内へと広がりながら全身に転移を起こすことから、体液組織を調べることも有効である。いずれにしろ検体よりDNAに変換されたあとは、同一の検査手法が適用される。
【0005】
個々の検体で見られる塩基変異を解析するのに適した手法として、BAMPER(Bioluminometric Assay coupled with Modified Primer Extension Reactions)法 (例えば非特許文献1)があり、実用化に向けた研究が行われている(例えば非特許文献2)。BAMPER法は生物発光を利用した塩基変異解析技術である。変異型に対応した2〜4種類のプライマー(3’末端がそれぞれA・G・C・T)を用いて伸長反応を行うと、検出部位の塩基型に一致するプライマーを用いた場合にのみ伸長反応が進行する。その際に生成するピロリン酸をATPに変換し、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応で発光させる。この発光を測定すると数分間で塩基型を判定することができる。試薬を加えるだけのシンプルな反応系であり、また簡単な光学系の発光測定装置で変異解析ができるため、BAMPER法は臨床現場を含む広く一般の研究室での使用に適していると考えられる。この簡便な方法は一般に癌組織細胞中で観察される点変異や、一から数塩基の挿入あるいは欠失、あるいは一塩基多型(SNP)の検出にも有効である。
【0006】
BAMPER法に限らず多くの遺伝子変異解析法では、試料調製としてゲノムから検査したい変異部位を含む領域をPCR反応などで増幅して用いることが一般的に行われている。PCR産物からDNAシーケンシングで塩基の変異型を判定したり、標的とする変異塩基の配列位置が3’末端に来るように設計したプライマーを用いてDNAポリメラーゼを用いた相補鎖伸長反応(相補鎖合成反応)を行い、相補鎖合成産物の有無を電気泳動で解析し、塩基型の判定を行う(例えば特許文献1)。上記BAMPER法の応用による遺伝子変異検出法では標的とする配列位置が3’末端に来るように設計したプライマーを用いてDNAポリメラーゼを用いた相補鎖伸長反応(相補鎖合成反応)を行い、生成するピロリン酸をATPに変換し、ルシフェラーゼを用いた生物発光の反応系を用いて伸長反応の有無を検出する。
【0007】
【特許文献1】特許第2853864号公報
【非特許文献1】Guo-hua Zhou,et al., Nucleic Acid research, 29, e93 (2001)
【非特許文献2】Y Nakashima,et al., Clinical Chemistry, 50, 8 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
癌細胞中に含まれる変異の検出キットとでは、反応容器内に変異検出用のプライマー(オリゴDNA)が固定されており、試料DNAとハイブリダイゼーションさせ、化学反応に引き続いておこる発色反応を測定することにより変異の有無を検出するものであり、一反応につき1つの塩基変異を検出するものである。一般に癌である可能性を検出したい場合で且つ確かめたい癌の種類が明らかである場合には、測定対象となる遺伝子内の変異挿入箇所の組み合わせが決まっている場合が多く、そのいずれか一箇所以上に変異が起こっているか否かの判別ができればよく、『遺伝子上のどこに変異が起こっているか』という情報は重要ではない。そこで、本発明は、癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所の組み合わせのパネルを作り、パネル内の一個あるいは複数個の遺伝子変異を同時に検出することにより『癌細胞中の一箇所以上の箇所に変異が存在する』という事実を明らかとするための簡便な実験形態を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
複数個の変異検出用プライマーを用いて、複数個の癌特異的遺伝子変異を一反応で効率よく検出するために、変異特異的なプライマーの設計と、複数個のプライマーを同一条件で同時に反応させる。癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所の組み合わせのパネルを作り、パネル内での各プライマーによる反応効率の均質化は、プライマー濃度を調整することにより解決することができる。
【0010】
本発明の分析方法は、一例として、複数の変異の候補部位を有する核酸の分析方法であって、複数の変異の候補部位と3’末端で各々対合する複数のプライマーを前記核酸にハイブリダイズさせる工程と、ハイブリダイズした前記複数のプライマーの伸長反応を行う工程と、前記伸長反応の結果を光学的に検出する工程と、前記検出する工程の結果から、前記核酸が変異部位を有するか否かを分析する工程とを有し、前記光学的に検出する工程では、前記複数のプライマーの種類によらない発光を検出することによって、前記伸長反応の有無を光学的に検出することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記光学的に検出する工程では、前記伸長反応を行う工程で生じるピロリン酸を用いた発光反応を行い、前記発光反応の結果を前記伸長反応の結果として検出してもよい。DNAポリメラーゼ等の存在下における反応基質dNTP(デオキシヌクレオチド3リン酸)のDNA相補鎖合成によって副産物としてピロリン酸(PPi; inorganic pyrophosphate)ができる。これをAPS(adenosine5-phosphosulfate)とATP sulfurylaseの存在下で反応させるとATPが生成される。ATPはルシフェリンとルシフェラーゼ存在下で発光反応し、光を発する。これを測定することで相補鎖伸長を検出することができる。
【0012】
前記伸長反応は、前記核酸と前記複数のプライマー(変異特異的プライマー)の3’末端の少なくとも2塩基とが相補的な場合に起こるようにしてもよい。
【0013】
また、前記光学的に検出する工程では、一種類の蛍光体で標識された複数のプローブを前記伸長反応の生成物にハイブリダイズさせ、前記生成物と前記プローブとのハイブリッド体からの蛍光を検出してもよく、また前記伸長反応の生成物は1の蛍光色素で標識され、前記光学的に検出する工程では、前記1の蛍光色素の発光波長を検出してもよい。
【0014】
また、前記ハイブリダイズさせる工程では、前記複数のプライマーの混合比率を変えてもよく、前記混合比率は、前記複数のプライマーのいずれのプライマーが前記核酸にハイブリダイズした場合にも実質的に同じ発光強度を得るために調整されてもよい。
【0015】
本発明の核酸分析キットは一例として、分析対象核酸の複数の変異の候補部位と、3’末端で各々対合する複数のプライマーと、前記プライマーを伸長させる酵素と、前記プライマーの伸長を光学的に検出するための発光試薬とを有し、前記複数のプライマーは前記変異に対応する配列を有する。ここで、前記複数のプライマーは表1に記載のプライマーの少なくとも1つであってもよい。また、分析対象の癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所の組み合わせパネルを作り、パネル内の複数個の遺伝子変異を同時に検出することにより、試料核酸中の少なくとも一つ以上の箇所に変異があることを明らかにするものであってもよい。また、癌に関連することが明らかなK-ras、p53、APCに現れる変異に対応する、表1に記載のプライマーの少なくとも一つを含むものであってもよい。
【0016】
上記の構成によれば、一の遺伝子内に複数個の変異候補部位(変異が生じ得る部位)がある場合に、上記一の遺伝子に少なくとも1つの変異があるか否かを、伸長反応の有無として一反応によって簡便に検出することができる。蛍光体の使用を伴う場合には、複数個の変異候補部位に対応したプローブについて各々異なる蛍光体で標識する必要がなく、簡便な検出が可能である。発光反応を伴う場合については、一般にマルチプルポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)での複数部位同時増幅にはプローブセットの設計が煩雑であるところ、上記発光反応における伸長反応の場合には、PCRほどプローブ配列への依存性が厳しくなく、安易に複数部位の同時伸長反応を実現できる。これは、PCRが非線形的な反応であるのに対して、発光反応における伸長反応が線形な反応であることに起因している。以上から、発光反応を伴う場合については、単一部位で設計したプローブがそのまま複数部位の一反応検出に使用でき、より簡便な検出が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、DNAポリメラーゼによる伸長反応を伴う核酸断片増幅あるいはハイブリダイゼーション反応とそれに引き続く発色あるいは呈色反応・蛍光検出を利用した遺伝子変異解析において、癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所を組み合わせたパネル内での一個あるいは複数個の遺伝子変異を同時に検出することができる。このことにより『癌細胞中の一箇所以上の箇所に変異が存在する』ことを明らかにする検査について、検査の簡便化・高効率化、検査時間と労力・コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず、本発明の実施例に用いる一般的な反応操作について説明する。DNAポリメラーゼを用いたPCRにおける相補鎖合成反応では、伸長反応用の温調器としてサーマルサイクラーであるDNA Engine Tetrad (MJ RESEARCH)を使用した。PCR産物の確認にはマイクロチップ電気泳動解析システムSV1210(日立電子エンジニアリング)を使用した。オリゴ合成はシグマジェノシスに委託した。DNAポリメラーゼはアマシャムバイオテック、その他使用した試薬はごく一般的な市販品を使用した。ゲノムはボランティアより提供された血液から精製を行った。ゲノムの精製は、Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Molecular Cloning (Second edition),1989出版)に従う。
【0019】
伸長反応の代表例としてPCRを説明する。96ウェル PCRプレートに10zmol/μLに調製したゲノム試料1μLを加え、氷上に置く。2.5 ユニット/μLの Taq.DNA ポリメラーゼ(QIAGEN社)を0.2 μL、2.5 mMのdNTPsを4μL、25 pmol/μLのプライマーセットを各0.8μLを混合する。各ウェルあたり100μLとなるように滅菌水で調製する。上記各容量は同じ比率で変更することが可能で、たとえばPCRは50μLスケールでもよい。粘着シートでシーリングし、サーマルサイクラーにセットする。ゲノムを変性させるため、94℃で2分間加熱した後、94℃で30秒間、57℃で30秒間、72℃で1分間のサーマルサイクルを35回繰り返す。PCR反応液をマイクロチップ電気泳動解析システムで解析し、目的PCR産物量を測定する。使用するマイクロチップ電気泳動解析システムでは、使用する試薬キットとしてi-SDNA12キットを使用する。これは、解析範囲が10-500bpで内部標準マーカーの塩基長と量から目的PCR産物の長さと量を自動的に算出できる。すべての実施例でマニュアルに従い、PCR反応液1μLを解析する。
【0020】
ここでは、サーマルサイクラーを用いたPCRを説明したが、片方のプライマーのみを用いた標的ゲノムないしDNAの片方の鎖のみの相補鎖合成も可能であり、PCRと同様にサイクル反応を行うことにより、伸長産物を増幅することができる。あるいは、大腸菌DNAポリメラーゼIないしその部分酵素であるクレノーフラグメント等の酵素を用い、等温(たとえば37℃一定)で伸長反応を行うことも可能である。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
近年、大腸癌の罹患率は増加傾向にあることから、免疫学的便潜血検査では偽陽性が多く、より特異性の高いスクリーニング方法の開発が望まれている。そこで大腸癌患者の50%において変異が確認されるといわれているK-ras遺伝子を例にして本発明の特徴を説明する。K-ras遺伝子は大腸癌以外にも肺癌や胃癌・肝癌など多くの癌細胞内で変異の発生が認められている一般的な癌マーカーである。
【0022】
伸長反応の代表例として相補鎖合成反応を用いて塩基変異の判定を行う方法を図1〜図3を用いて説明する。図1記載の1-1と1-2は試料である相補的2本鎖ゲノムである。本配列情報は(NCBI, [online],[平成16年9月27日検索],インターネット,<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov>)のアクセッションナンバー NT_009714から得ることができる。上記方法に従いNT_009714に含まれる配列18157098から18157675までの577塩基対を増幅する。このPCR産物は中央付近にcodon12とcodon13の6塩基(図1記載の1-3)を含む。PCR反応時のプライマーやdNTPsを除去するため、セファデックスG100を用いたゲル濾過でPCR産物を精製する。あるいは、次に示す酵素的なクリーンアップで目的PCR産物を精製する。PCR反応後の溶液50μLに1 unit/μLの濃度のshrimp alkaline phosphataseを0.7μL、 10 unit/μLのexonuclease Iを0.06 μL、10×PCR buffer(Amersham Pharmacia社製品)を0.3 μL、滅菌水3.94μLを混合する。37℃で40分間インキュベートによる酵素反応を行った後、80℃で15分間加熱により酵素を失活させる。これで、目的PCR産物が実質的に精製される。もちろん、酵素的なクリーンアップの前に、セファデックスG25かG50によるゲル濾過を行えばさらに精製度を上げることができる。
【0023】
こうして精製した相補的2本鎖からなるPCR産物中の1-3は、図2の2-1で示すcodon12と2-2で示すcodon13からなり、codon12の中には2-3で示すCがAに変わる変異と、2-4で示すCがAあるいはTに変わる変異がある。codon13の中には2-5で示すCがTに変わる変異がある。
【0024】
たとえば2-3(Kras codon12(A))を測定しようとするとき、Upper側とLower側のプライマーデザインを図1に1-4、1-5として示した。2-3の塩基型の判定を行うにはプライマー1-4あるいは1-5を鋳型DNA鎖1-2あるいは1-1にハイブリダイズさせて伸長反応を行う。このときプライマーの3’末端がちょうど2-3の位置に来るようにプライマーを設計する。プライマーの3’末端がPCR産物の鋳型DNA鎖1-1あるいは1-2の塩基2-3に相補であればDNAポリメラーゼによる相補鎖合成反応が起きる。相補でなければ相補鎖合成反応は起きないか、起きたとしても少ない量しか相補鎖合成が起きない。たとえば塩基2-3の配列がCであるなら、プライマー1-4の3’末端がGのときのみ相補鎖合成が起きるが、末端がC・A・Tの3種のプライマーでは相補鎖合成反応が起きにくい。このため3’末端がGとC・A・Tのプライマーで別々に伸長反応が起きるかどうかを調べることで2-3の塩基がどのタイプであるかを知ることができる。
【0025】
伸長反応が起きたかどうかは、相補鎖合成時に生成するピロリン酸を酵素PPDK(ピルビン酸オルトホスホジキナーゼ)でATPに変換し、このATP量をルシフェリン・ルシフェラーゼ系で定量することにより可能である。この場合は相補鎖合成反応が起きればピロリン酸が一塩基伸長するごとに一分子生成するので、プライマーがハイブリダイズし、PCR産物の末端まで伸長することにより442分子のピロリン酸が生成し、これがATPに変換され、ルシフェリン/ルシフェラーゼにより発光する。相補鎖合成が起きなければピロリン酸が生成しないので当然のことながら発光はしないが、実際にはプライマーの非特異反応や基質であるdNTPの分解により若干の発光が見られることがある。
【0026】
ルシフェリン/ルシフェラーゼの系での検出(発光反応による検出)についての具体的操作を示す。たとえば、上記のようにPCR反応液を酵素クリーンアップした後、4℃まで冷却しておく。この反応液を96ウェル PCRプレート(白色)に2μL分注する。プライマー1-6(5 pmoL/μL)を1μL添加する。あらかじめ5 unit/μL のTaq.DNA ポリメラーゼ0.0275 μLと、5 mM dNTPs 0.04 μLを混合し、 1.0μLとなるように滅菌水で調製した溶液を1.0μL加える。ミネラルオイルを4 μL重層する。94℃10秒間と55℃10秒間のサイクルを5回行った後、25℃まで冷却する。あらかじめ25℃にしておいた発光試薬(ピロリン酸をATPに変換し、ATPをホタル由来ルシフェリンを使用して検出する生物発光キット)を10μLずつ加え、ピペッティングにより混合し、ルミノメーターで測定する。これにより伸長反応が起きたかどうかをピロリン酸の量に依存する発光強度として容易に検出できる。
【0027】
塩基変異2-3・2-4・2-5の解析例を図3に示した。4種の異なる塩基を3’末端にもつよう設計された各プライマーを変異の無いことが明らかである培養細胞(健常者の試料のかわりとして用いた)のDNA由来のPCR産物に作用させた。図3の3-1と3-2は図2の2-3を検出しようとするものであり、2-3の塩基は健常者ではCである。2-3を検出するために上流側のプライマー(図1の1-4)を作用させた場合には3-1のように3’末端がGの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこり、発光強度に換算して検出されている。3’末端がA・C・Tのプライマーでは伸長反応はおこらず、発光による検出もできなかった。下流側のプライマー(図1の1-5)を作用させた場合には3-2のように3’末端がCの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこり、発光強度に換算して検出された。3’末端がA・G・Tのプライマーでは伸長反応はおこらず、発光による検出もできなかった。同様に3-3と3-4は図2の2-4を検出しようとするものであり、2-4の塩基は健常者ではCである。よって上流側のプライマーを作用させた場合には3-3のように3’末端がGの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこった。下流側のプライマーを作用させた場合には3-4のように3’末端がCの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこっていた。3-5と3-6は図2の2-5を検出しようとするものであり、2-5の塩基も健常者ではCである。よって上流側のプライマーを作用させた場合には3-5のように3’末端がGの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこり、下流側のプライマーを作用させた場合には3-6のように3’末端がCの塩基のプライマーを用いた場合にのみ伸長反応がおこったことにより正確な塩基の判定が可能であった。
【0028】
大腸癌で一般的におこると言われている遺伝子変異(K-rasおよびp53およびAPC)を解析するためにデザインしたミスマッチを入れたプライマーを図12中の表及び下記表1に示す(図12は説明の簡単のために示すものである)。ここで100-1はK-ras遺伝子(NCBIのアクセッションナンバーNT_009714)、100-2はp53遺伝子(NCBIのアクセッションナンバーNT_010718)、100-3はAPC遺伝子(NCBIのアクセッションナンバーNT_034772)である。100-4の数字は前記の遺伝子上に変異が生じているcodonの番号であり、ひとつのcodon内に2箇所以上の変異が生じる場合にはトリプレットの前から(A)(B)(C)とする。ひとつのcodon内に生じる変異のパターンが2つ以上ある場合にはそれぞれ(i)(ii)(iii)・・・とする。100-5は前記のNCBIアクセッションナンバーに記された塩基配列上の変異箇所を示す。100-6は標的とする変異部位周辺のオリジナルな配列、100-7は実際に解析に用いたミスマッチ入りプライマーの配列(3’末端のNが4種の塩基A・G・C・Tのうち任意の組み合わせをとる)である。各プライマーは100-8で示すミスマッチを必ず含むものする。
【0029】
ミスマッチは、プライマー用の合成オリゴDNAが分子内で連続する3塩基以上で分子内ハイブリダイゼーションを起こしてホールディングする構造をとることがないように導入した。合成オリゴDNA中のホールディングに関与する連続する3塩基のいずれかの1塩基ないし2塩基を鋳型DNAと非相補な塩基ないしスペーサーに置き換えた構造で、かつ非相補な塩基ないしスペーサーに置き換えた部位がプライマーの3’末端から3塩基以上離れたところに位置する構造とした。
【0030】
スペーサーとしては図4で示されるような、4-1の構造でR1=H、R2=Hのスペーサーや4-5の構造でR3=H、R4=Hのものを使うことができる。プライマーの長さとしては3’末端の標的とする塩基から数えて10塩基以上、最大で50塩基までをとる可能性があり必ずしも表1に示したプライマー長に限定されるものではなく、固相反応と液相反応の別、あるいは反応容量液量の違いや、反応容器の形態による反応効率の悪化あるいは効率化などによって任意の長さに変更される可能性がある。上記の実験形態をとった場合では表1に示されるプライマー長が最適であり、いずれの配列を用いた場合でも変異塩基を検出できた。ここでは、本発明の一実施例としてPCRを用いる増幅の例を示したが、NASBA法やローリングサイクル法、ASP-PCR法などおよそ反応にプライミングサイトに対してプライマーをハイブリダイズさせ、ポリメラーゼを利用して相補鎖合成反応を行わせる増幅法に汎用的にも使える。
【0031】
【表1】
【0032】
(実施例2)
実際の検体を用いて遺伝子変異の解析を行う場合、癌組織から、あるいは喀痰・尿・糞便、あるいは血液等の体液組織から純粋に癌細胞だけを回収し、DNAの抽出を行うことは困難である。したがって変異検出に用いるプライマーは、正常細胞には反応しないように十分に特異性の確保されたものでなければならない。
【0033】
大腸癌で観察されるK-ras遺伝子の変異はcodon12とcodon13でおこる可能性が高いといわれており、正常型も含めるとこの2codon・6塩基のパターンは図5に示す5種類となる。wt(正常型)の塩基配列に対して、2-3の塩基CがA(2-3’)に変化する場合をここではcodon12(A)mtAと呼ぶことにする。同様に、2-4の塩基CがA(2-4’)に変化する場合をここではcodon12(B)mtA、T(2-4’’)に変化する場合をここではcodon12(B)mtT、2-5の塩基CがT(2-5’)に変化する場合をここではcodon13mtTと呼ぶことにする。
【0034】
これらを任意の比率で混合したものを、実検体を扱う際のモデルとして用いた。測定を行う際には試料DNA中に混入している正常細胞由来の塩基を検出しないように、プライマーの3’末端の塩基型が上記の2-3’・2-4’・2-4’’・2-5’にそれぞれ対応するような4種類のプライマーを使って測定を行った。図6では各mt(変異型)の塩基配列を持つ試料及びwt(正常型)の塩基配列を持つ試料がそれぞれ100%の場合と、各mtの試料に対してwtの試料を25%・50%・75%となるように混合した試料の5種類を用意した。これらに対してプライマーの3’末端の塩基型が2-3’・2-4’・2-4’’・2-5’にそれぞれ対応するような4種類のプライマーを作用させて変異型の検出を試みた。
【0035】
解析結果では、試料にプライマーを加えなかった場合に得られた発光強度(バックグラウンド発光)を1としたときに、プライマー伸長反応により何倍の発光強度が得られたかを伸長度合として表している。6-6はバックグラウンド発光の2倍以上の発光が得られなかった領域を示し、BAMPER法による検出ではこの範囲を検出限界以下の範囲であると定めている。6-1はmt試料が100%、6-2は75%、6-3は50%、6-4は25%、6-5は0%(wtが100%)の時に、各mtに対応する4種のプライマーで検出を行ったところいずれの場合でもmt検出は可能であり、wtは検出されなかった。このとき各プライマーは最終濃度が5pmol/反応となるように調整した。
【0036】
次に4種の変異検出用プライマーを最終濃度が5pmol/反応となるように混合したものを検出に用いた結果を図7に示す。このとき図6と同様に7-1はmt試料が100%、7-2は75%、7-3は50%、7-4は25%、7-5は0%(wtが100%)となっている。7-6は検出限界以下の範囲である。プライマーの3’末端の塩基型が2-3’となるようにデザインされたcodon12(A)mtA検出用のプライマーは、他の3種の変異検出用プライマーの作用に阻害されることなくcodon12(A)mtAのみを正確に認識して反応することが可能であった。codon12(B)mtAやcodon12(B)mtT、codon13mtTの検出においても4種混合プライマーはターゲット特異的な反応による正確な変異の検出を可能とした。
【0037】
マルチプル(定量)PCRで多サイトの同時増幅をするためには、プライマーセットの設計に多大の時間と手間がかかるだけでなく、必ずしも任意の複数サイトの同時増幅が常に可能なわけではない。これに対してBAMPER法における伸長反応条件はPCRほどプライマー配列や塩濃度、あるいは温度への依存性が厳しくなく、容易に多サイトの同時伸長反応を実現できる。これはPCRが非線形な反応であるのと比較して、BAMPER法が線形な反応であることに起因する。即ちBAMPER法では単一箇所の変異検出を対象として設計したプライマーが複数箇所同時検出の場合でもそのまま使えるのに対して、PCRでは、単一箇所の検出から複数箇所同時検出に拡張するときに一からプライマー設計をやり直す必要があることを意味している。以上のことは複数箇所で同時に反応させるときに顕著に現れる効果であり、複数箇所同時検出BAMPER法の独自の効果と考えられる。
【0038】
(実施例3)
実施例2で示した4箇所の変異の検出(図6および図7)では、4種の変異検出用のプライマーの反応性がそれぞれ異なっており、プライマーの3’末端の塩基型が2-4’’となるようにデザインされたcodon12(B)mtTに対応するプライマーが最も伸長反応が起こりやすく、3’末端の塩基型が2-3’となるようにデザインされたcodon12(A)mtA検出用のプライマーが最も反応しにくくなっている。遺伝子上の特定の変異を検出するような場合にはプライマーの設計できる条件範囲は非常に狭くなっているために、プライマーのわずかな塩基配列の差(この場合は一塩基の型の違い、あるいは長さの違い)が、鋳型DNA(PCR産物)へのハイブリダイゼーション効率に影響を与え、結果として伸長反応効率の差を生み出してしまう。複数箇所同時検出を行う場合には、各プライマーの最適なアニール温度をそれぞれに適用することは非常に難しくなるために、組み合わせたプライマー(ここでは4種)全ての反応効率を確保できる条件に落ちつかざるをえない。しかしながら(PCR反応のような非線形の反応ではなく)BAMPER法のような線形な反応では混合するプライマーの量比を変化させることにより、見かけのシグナル強度を任意にコントロールすることが可能である。
【0039】
図8の8-1はプライマー濃度と発光強度の関係を表している。8-2でcodon12(B)mtTを示すことがあらかじめ知られている試料100%に対して、2-4’’を検出するプライマーの濃度を5pmol/反応あるいは2.5pmol/反応で作用させたとき、プライマー量の低下に伴って発光強度の低下も観察された。同様の効果は8-3(codon12(A)mtAを示す試料100%に対して、2-3’を検出するプライマーの濃度を5pmol/反応あるいは2.5pmol/反応で作用させたとき)にも観察された。8-4はバックグラウンド発光の2倍以上の発光が得られなかった領域を示し、BAMPER法による検出ではこの範囲を検出限界以下の範囲であると定めている。このとき8-2の2-4’’を検出するプライマーの濃度が2.5pmol/反応の時に得られたプライマー伸長度合と、8-3の2-3’を検出するプライマーの濃度が5pmol/反応の時に得られたプライマー伸長度合はほぼ同じであった。そこで2-4’’と2-3’の変異を同時に検出する系においてはその混合するプライマー濃度比を1:2(2.5pmol/反応と5pmol/反応)とすることにした。
【0040】
8-5・8-6・8-7は当該箇所における変異の有無があらかじめわかっている培養細胞を用いて得られた結果である。上記2種類の変異検出用プライマーを混合したものを8-5ではcodon12(B)mtTの変異を持つ培養細胞(患者のモデルとして用いた)から得られた検体に対して作用させたところ、codon12(B)mtTに対するプライマー2-4’’のみが反応し(8-8)、いずれのプライマーも加えていないコントロール(8-9)では伸長反応はおこらなかった。8-6で2種類の変異検出用プライマーを混合したものをcodon12(A)mtAの変異を持つ培養細胞(患者のモデル)から得られた検体に対して作用させたところ、codon12(A)mtAに対するプライマー2-3’のみが反応し(8-10)、コントロール(8-11)では伸長反応はおこらなかった。
【0041】
8-7のように変異の無いことがあらかじめわかっている培養細胞(健常者のモデル)から得られた検体に作用させたところ、いずれのプライマーも反応を示さず(8-12)、コントロール(8-13)と同じであった。
【0042】
このように2種類以上の変異検出用プライマーを混合して一つの検体に作用させる場合に、各プライマーの混合比率を変化させることによってプライマー毎の作用効率をあらかじめそろえておけば、得られた発光強度(プライマー伸長度合)は検体DNA量あるいはPCR増幅産物量にのみ依存することとなる。よって上記の混合プライマーを未知試料に対して作用させた場合に、プライマー伸長反応が起これば混合プライマーのいずれかが対応する箇所に変異があることが示され、プライマー伸長反応が起こらなかった場合には混合プライマーのいずれかが対応する箇所に変異が存在しないか、あるいは診断用に回収された試料検体中に含まれている癌細胞の比率が少ないために検出することができなかったことを意味する。これより、反応しやすいプライマーに対応する変異は検出の可能性が高く、反応しにくいプライマーに対応する変異は検出されにくいといったプライマー毎の反応効率の差異をなくすことができる。
【0043】
癌の種類毎あるいは遺伝子の種類毎に測定対象箇所を組み合わせたパネル内で組み合わせる変異検出用プライマーの種類が増えても上記のような効果は期待でき、複数箇所同時検出BAMPER法の独自の効果と考えられる。本発明はSTA法(Shifted Termination Assay)のような、Sequence specific primerを用いた伸長反応の有無によりおこる呈色反応を検出する場合にも適用が可能である。また、最終的に検出物をDNPで標識し、抗DNP-アルカリフォスファターゼ抗体と反応させ、アルカリフォスファターゼと発色基質との反応によっておこる呈色反応を検出する場合にも適用が可能である。BAMPER法と同様に変異特異的なプライマーによる伸長反応とそれに伴って発生するピロリン酸を、一般的な種々の化学反応を経てホルマザンや過酸化水素・スーパーオキシド・二酸化炭素・L-フェニルアラニン・硫酸イオンなどに変換し、検出機を用いて、あるいは目視により判断する方法(特開2003-174900号公報)などにも適用が可能である。あるいは変異特異的なプライマーによる伸長反応に伴って発生したピロリン酸が有する金属イオンとの結合作用により、消光材として作用していた金属イオンが奪われることにより蛍光を発する物質の量を、検出機を用いて、あるいは目視により判断する方法にも適用が可能である。
【0044】
(実施例4)
以上の実施例では変異特異的プライマーによって生ずる伸長反応の有無を、伸長反応の際に生成するピロリン酸を用いた発光反応で検出していたが、これを蛍光により検出することも可能である。プライマーのデザインやハイブリダイゼーション反応の条件、伸長反応条件は上記と全く同じである。ここでは伸長反応後に、候補となる複数の伸長反応生成物にハイブリダイズする、一種類の蛍光体で標識された複数のプローブを加え、伸長反応性生物とハイブリダイゼーション反応をさせる。蛍光体としては、570nmに発光波長をもつCy3を用いた。生成するハイブリッド体を含む反応溶液を、ゲル濾過カラムを通して未反応のプライマーを除去した後で、回収した溶液中のハイブリッド体を波長534.5nmのYAGレーザーで励起して、生ずる蛍光量から伸長反応の有無を判定した。図9に結果を示す。上記の2-3’、2-4’、2-4’’および2-5’に変異が入っていることが明らかな試料からは基準量以上の蛍光発光が得られ、変異が入っていない試料からはバックグラウンドと同程度の蛍光発光しか得られなかった。9-1は検出限界以下の範囲である。この結果、蛍光標識プライマーのハイブリダイゼーションによっても変異特異的プライマーによる伸長反応の有無を判定できることが分かる。発売されている蛍光体は多くの種類が知られており、使用する測定装置の特性によって使用者が任意の蛍光体を選ぶこともできる。
【0045】
また、蛍光体で標識されたプライマーではなく、二本鎖核酸にインターカレートしたときに蛍光を発する物質(インターカレータ)を反応させ、その結果得られる蛍光を検出することによっても同様の効果を期待できる。インターカレータを用いるときは相補鎖伸長反応溶液中にインターカレータを混ぜておけばよい。インターカレータとしては、YOYOあるいはCyber Greenを用いることができる。図10に、YOYOを用いた例を示す。この場合にも、2-3’、2-4’、2-4’’および2-5’に変異が入っていることが明らかな試料からは基準量以上の蛍光発光が得られ、変異が入っていない試料からはバックグラウンドと同程度の蛍光発光しか得られなかった。10-1は検出限界以下の範囲である。
【0046】
本実施例により、変異特異的プライマーによる複数の変異候補サイトの伸長反応の有無を蛍光検出で判定できることが示された。発売されているインターカレータは多くの種類が知られており、使用する測定装置の特性によって使用者が任意のインターカレータを選ぶこともできる。
【0047】
(実施例5)
図11は、複数の変異の候補部位を有する試料核酸が少なくとも一つの変異部位を有するか否かを判定する装置の構成を示す。検体から得られた試料核酸は、プライマー等とともに反応槽11-1に収められる。この反応槽内において、複数の変異の候補部位と3’末端で各々対合する複数のプライマーを前記試料核酸にハイブリダイズされ、上記複数プライマーと試料核酸とのハイブリッド体が生成される。反応槽は反応部11-2に格納されており、温度調整機構11-5によって温度を制御されている。ハイブリダイズした前記複数のプライマーは、温度調整機構による温度制御を受けて、反応槽の内部で伸長反応し、各プライマーの3’末端が試料核酸と完全に対合した場合に相補鎖伸長反応が進行する。
【0048】
さらに前記伸長反応の結果は、伸長反応の結果生成したピロリン酸と発光試薬との反応で生じる生物発光として、光学系を有する検出部11-3によって検出する。検出部は反応槽の上部に設置されても下部に設置されてもよい。ここでは、複数のプライマーの種類によらない発光を検出することになる。
【0049】
検出部11-3での検出結果は、制御部11-4に送られる。制御部11-4は、発光量が基準値以上かどうかを判定することにより、上記伸長反応の有無、即ち候補部位に変異があるかどうかを分析し、試料核酸が変異部位を有するか否かを分析する。本実施例により、複数の候補となる変異部位が存在する試料核酸に、実際に変異が存在するかどうか検出する分析装置が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
医療分野では罹患とその進行により患部に発生する、点突然変異などを代表とする遺伝子発現の解析がさかんに行われるようになっている。情報の蓄積に伴い、特定の遺伝子の特定の箇所に発生する特定の塩基の変化と病状進行度合の関係なども明らかにされつつある。これらの情報を利用して効率よく健康診断を行うためには、まず変異の可能性のある塩基箇所を網羅的に調べて「変異の有無」の情報を「癌の可能性の有無」の情報へと結びつける作業が重要である。本発明の複数箇所同時検出BAMPER法では『癌細胞中の一箇所以上の箇所に変異が存在する』ことを明らかにすることを目的とする検査を行う場合に、検査の簡便化・高効率化、検査時間と労力・コストの低減を図ることができ、医療産業上きわめて有用と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明を説明するための塩基変異部位とその周辺配列
【図2】本発明を説明するための塩基変異部位
【図3】本発明で用いるプライマーの変異塩基特異的伸長反応の説明図-1
【図4】本発明のプライマー及びプライマーに挿入するスペーサーの構造の説明図
【図5】本発明で検出しようとする遺伝子変異の例
【図6】本発明で用いるプライマーの変異塩基特異的伸長反応の説明図-2
【図7】本発明で用いる混合プライマーの変異塩基特異的伸長反応の説明図
【図8】本発明で用いる混合プライマーの混合比率とプライマー伸長度合の関係
【図9】本発明の混合プライマーを用いた塩基変異解析の結果-1
【図10】本発明の混合プライマーを用いた塩基変異解析の結果-2
【図11】本発明を実施するための分析装置
【図12】本発明のプライマーの例
【配列表フリーテキスト】
【0052】
配列番号1〜60−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の変異の候補部位を有する核酸の分析方法であって、
前記複数の変異の候補部位と3’末端で各々対合する複数のプライマーを前記核酸にハイブリダイズさせる工程と、
ハイブリダイズした前記複数のプライマーの伸長反応を行う工程と、
前記伸長反応の結果を光学的に検出する工程と、
前記検出する工程の結果から、前記核酸が変異部位を有するか否かを分析する工程とを有し、
前記光学的に検出する工程では、前記複数のプライマーの種類によらない発光を検出することによって、前記伸長反応の有無を光学的に検出することを特徴とする核酸分析方法。
【請求項2】
前記光学的に検出する工程では、前記伸長反応を行う工程で生じるピロリン酸を用いた発光反応を行い、前記発光反応の結果を前記伸長反応の結果として検出することを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項3】
前記発光反応は、前記ピロリン酸を用いて得るATPとルシフェラーゼとを反応させて生じることを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項4】
前記伸長反応は、前記核酸と前記複数のプライマーの3’末端の少なくとも2塩基とが相補的な場合に起こることを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項5】
前記光学的に検出する工程では、一種類の蛍光体で標識された複数のプローブを前記伸長反応の生成物にハイブリダイズさせ、前記生成物と前記プローブとのハイブリッド体からの蛍光を検出することを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項6】
前記伸長反応の生成物は1の蛍光色素で標識され、前記光学的に検出する工程では、前記1の蛍光色素の発光波長を検出することを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項7】
前記光学的に検出する工程では、前記伸長反応の生成物にインターカレータを反応させ、前記インターカレータに由来する蛍光を検出することを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項8】
前記ハイブリダイズさせる工程では、前記複数のプライマーの混合比率を変えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の核酸分析方法。
【請求項9】
前記混合比率は、前記複数のプライマーのいずれのプライマーが前記核酸にハイブリダイズした場合にも実質的に同じ発光強度を得るために調整されることを特徴とする請求項8に記載の核酸分析方法。
【請求項10】
少なくとも試料核酸と複数のプライマーとを収める反応槽と、
前記反応槽の温度を調整する温度調整機構と、
前記反応槽の内部で生じる発光を検出する検出部と、
前記検出部での検出結果を分析する制御部とを有し、
前記検出部は、前記試料核酸と前記複数のプライマーとの伸長反応を、前記複数のプライマーの種類によらない発光として検出するものであり、前記制御部は前記検出結果から前記試料核酸の変異の有無を分析することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項11】
分析対象核酸の複数の変異の候補部位と、3’末端で各々対合する複数のプライマーと、
前記プライマーを伸長させる酵素と、
前記プライマーの伸長を光学的に検出するための発光試薬とを有し、前記複数のプライマーは前記変異に対応する配列を有することを特徴とする核酸分析キット。
【請求項12】
前記複数のプライマーは表1に記載のプライマー(配列番号1〜60)の少なくとも1つであることを特徴とする請求項11に記載の核酸分析キット。
【請求項1】
複数の変異の候補部位を有する核酸の分析方法であって、
前記複数の変異の候補部位と3’末端で各々対合する複数のプライマーを前記核酸にハイブリダイズさせる工程と、
ハイブリダイズした前記複数のプライマーの伸長反応を行う工程と、
前記伸長反応の結果を光学的に検出する工程と、
前記検出する工程の結果から、前記核酸が変異部位を有するか否かを分析する工程とを有し、
前記光学的に検出する工程では、前記複数のプライマーの種類によらない発光を検出することによって、前記伸長反応の有無を光学的に検出することを特徴とする核酸分析方法。
【請求項2】
前記光学的に検出する工程では、前記伸長反応を行う工程で生じるピロリン酸を用いた発光反応を行い、前記発光反応の結果を前記伸長反応の結果として検出することを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項3】
前記発光反応は、前記ピロリン酸を用いて得るATPとルシフェラーゼとを反応させて生じることを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項4】
前記伸長反応は、前記核酸と前記複数のプライマーの3’末端の少なくとも2塩基とが相補的な場合に起こることを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項5】
前記光学的に検出する工程では、一種類の蛍光体で標識された複数のプローブを前記伸長反応の生成物にハイブリダイズさせ、前記生成物と前記プローブとのハイブリッド体からの蛍光を検出することを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項6】
前記伸長反応の生成物は1の蛍光色素で標識され、前記光学的に検出する工程では、前記1の蛍光色素の発光波長を検出することを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項7】
前記光学的に検出する工程では、前記伸長反応の生成物にインターカレータを反応させ、前記インターカレータに由来する蛍光を検出することを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
【請求項8】
前記ハイブリダイズさせる工程では、前記複数のプライマーの混合比率を変えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の核酸分析方法。
【請求項9】
前記混合比率は、前記複数のプライマーのいずれのプライマーが前記核酸にハイブリダイズした場合にも実質的に同じ発光強度を得るために調整されることを特徴とする請求項8に記載の核酸分析方法。
【請求項10】
少なくとも試料核酸と複数のプライマーとを収める反応槽と、
前記反応槽の温度を調整する温度調整機構と、
前記反応槽の内部で生じる発光を検出する検出部と、
前記検出部での検出結果を分析する制御部とを有し、
前記検出部は、前記試料核酸と前記複数のプライマーとの伸長反応を、前記複数のプライマーの種類によらない発光として検出するものであり、前記制御部は前記検出結果から前記試料核酸の変異の有無を分析することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項11】
分析対象核酸の複数の変異の候補部位と、3’末端で各々対合する複数のプライマーと、
前記プライマーを伸長させる酵素と、
前記プライマーの伸長を光学的に検出するための発光試薬とを有し、前記複数のプライマーは前記変異に対応する配列を有することを特徴とする核酸分析キット。
【請求項12】
前記複数のプライマーは表1に記載のプライマー(配列番号1〜60)の少なくとも1つであることを特徴とする請求項11に記載の核酸分析キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−129811(P2006−129811A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324138(P2004−324138)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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