説明

試薬層を有した高速バイオセンサ

試料内の標的分子、従って対応する分析物を検出するための検出システム(100)及びセンサチップ(1)が記述されている。一般的に、検出システム(100)はセンサチップ(1)を含む。センサチップ(1)は、その検出表面(33)上に溶解可能な試薬層(5)を含む。溶解可能な試薬層(5)が試料流体に接触されると、ラベルと標的分子との相互作用に寄与する自由な試薬が生じ、従って、ラベルベースの検出を可能にする。前記試料は、その結果、一気に可動性の試薬に曝露される。前記試薬層は、酵素アッセイを可能にする酵素を含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオセンサの分野に関する。特に、本発明は、例えば生物学的、化学的、若しくは生化学的な粒子の定性又は定量検出に使用されるような、分析物を検出する方法及びシステム、並びに、そのような検出法及びシステムを改善する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、一般的に、質的又は量的に、例えば血液、血清、血漿、唾液、組織抽出物、間質液、細胞培養抽出物、食物又はフィード抽出物、飲料水等の液体内の例えば蛋白質、ウイルス、バクテリア、細胞成分、細胞膜、胞子、DNA、RNA等の「分析物」とも呼ばれる標的分子の検出を可能にする装置である。ほぼ全ての場合において、バイオセンサは、前記分析物を捕獲する特異的認識要素を含む表面を使用する。従って、センサ装置の表面は、液体内に存在する標的分子に結合するのに適した特異的分子を結合させることにより修飾することができる。
【0003】
測定原理の一つは、バイオセンサ上の所定の部位にて結合したラベルされた分子のカウントである。例えば、前記分子は磁気粒子又は磁気ビーズでラベルすることができ、これらの磁気粒子又は磁気ビーズを磁気センサで検出することができる。あるいは、分析物の量を蛍光により検出することができる。この場合、分析物自体が蛍光ラベルを担持することができるか、又あるいは、蛍光でラベルされた第2の認識要素を用いた追加のインキュベーションを行うことができる。
【0004】
大部分のバイオセンサにおいて、センサチップには乾燥試薬が供給されており、検出器の表面は生物学的に活性な表面コーティングで覆われている。前記試薬は、例えば抗薬物抗体等の生物学的に活性な部分に結合されるラベルを例えば含む。検査流体が到達した場合、乾燥試薬は溶け、その流体内に混合する。その後流体はセンサ表面に向かって運ばれ、そのセンサ表面を濡らす。センサだけでなくラベルも、その薬物分子に曝露される。これは、検出されるラベルのセンサ表面に対する結合に影響を及ぼす。
【0005】
電気化学的なバイオセンサが、例えば米国特許第20050016844 A1号から、試験紙の形状で既知であり、乾いた溶解可能な層(dry dissolvable layer)が電極付近又は電極上に提供される。前記層は、一般的に、脱水及び再水和等の試薬の性質又は特徴を増やすための1又は複数のアジュバント、酵素、補酵素、補助因子、並びに、緩衝塩等、分析物又は標的分子と反応して試料流体内の分析物の存在を示す電気化学的信号を生じる化学要素を含む。後者は、一般的に、試料内に比較的高い濃度で存在する分析物を検出するために使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、生物学的、化学的、及び/又は生化学的な粒子を検出するための優れた方法及びシステムを得ることである。
【0007】
上記の目的は、本発明による装置及び方法によって実現される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも1つの標的分子を検出するための検出システムに関し、当該検出システムは少なくとも1つのセンサチップを有し、ラベル検出を可能にする少なくとも1つのラベルを受けるようされ、前記少なくとも1つのセンサチップは、試薬を含んだ少なくとも第1の溶解可能な層を有する検出表面を含み、前記少なくとも第1の溶解可能な層は、前記少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用を可能にし、従って、ラベルベースの検出信号の検出を可能にするようされている。
【0009】
ラベルベースのバイオセンサを使用して高感度な高速検出が可能になることが本発明の実施形態の利点である。高速の試薬の溶解を得ることができるということが本発明の特定の実施形態の利点である。流体との試薬の高速の混合を得ることができるということも本発明の特定の実施形態の利点である。試薬が検出領域に接近して提供されるということも本発明の特定の実施形態の利点である。高濃度の可動性試薬を検出領域内で得ることができ、センサ表面での優れた結合率又は非結合率の達成を可能にするということが本発明の特定の実施形態のさらなる利点である。
【0010】
取り扱いが容易であるということが本発明の特定の実施形態の利点である。当該センサチップ及び検出システムは検出に必要なもの全てを含むことができるため、試料流体以外のいかなる液体も投与される必要がない。
【0011】
検査に対して、非常に少ない試料体積のみが必要とされるということが本発明の特定の実施形態の利点である。独立したアッセイの同時の実行を可能にするいわゆるセンサ多重化のためのセンサチップのアレイをこの検出システムは含むことができるということが本発明の特定の実施形態の利点である。例えば較正目的用、及び/又は、平行走査用の正の対照若しくは負の対照として役立つよう、異なるセンサを多数の分析物検出に使用することができる。限定された試薬層の厚さ及び短時間のアッセイ持続時間により、試薬が隣接するセンサに達するには時間が不十分であるため、交差反応性又は相互汚染の問題が取り除かれる若しくは減少されることが本発明の特定の実施形態の利点である。
【0012】
当該検出システムは、前記少なくとも1つのラベルを検出するいかなる適した検出器も含むことができ、それによって、磁気検出器又は光学検出器が特に好ましい。低い分析物濃度、すなわち、例えば1mmol/L未満の分析物濃度を有した試料を正確に調査することができるということがそのようなシステムの利点である。当該検出システムは、前記ラベルを励起するための励起手段を含むことができる。前記励起手段は照射源であり得る。前記励起手段は、電磁場を生じる手段でもあり得る。
【0013】
前記第1の溶解可能な層は、0.1μm、好ましくは1μmの下限、及び、150μm、好ましくは50μm、さらにより好ましくは15μmの上限を有する範囲で厚さを有することができる。本願において言及される厚さは、層の平均の厚さであり得る。前記層の厚さは、層の多孔度、アッセイの種類、溶解の速度、及び、流体における輸送の速度(拡散による受動輸送又は操作による能動輸送)に依拠する。多孔性層に対しては、バイオセンサアッセイのために表面上に十分な試薬材料を有するために、より低い多孔性の層よりも厚い層を使用することが有利になる。より厚い層に対しては、センサ表面に対する試薬の接近を促進するために、能動輸送を適用することが有利になる。非常に薄い溶解可能な層に対しては、ラベル対表面の衝突の可能性は、流体内のラベル対ラベルの衝突に対して有利に釣り合っている。ラベル対ラベルの衝突の減少により、アッセイ中のラベルのクラスター形成の発生が減少され、ナノ粒子ラベル等のラベルを用いたアッセイの定量精度及び再現性を改善することができる。
【0014】
当該検出システムは、いわゆるセンサ多重化のためのセンサチップのアレイを含むことができる。例えば異なる生物学的分子を検出するために、正又は負の対照として役立つよう、又は、較正目的のために役立つよう異なるセンサを使用することができる。非常に薄い層及び短時間のアッセイのため、試薬が隣接するセンサに達するには時間が不十分であり、その結果、交差反応性又は相互汚染の問題を取り除く若しくは減少する。
【0015】
前記少なくとも第1の溶解可能な層は、均一性の層であり得る。あるいは、例えばアイランド、ストライプ、又は、他の構造若しくはパターンから成る不均一性の層であり得る。前記層は、溶解を促進するためにナノ多孔性及び/又はミクロ多孔性でもあり得る。少量のみの試薬が必要とされることが本発明の特定の実施形態の利点である。
【0016】
前記センサチップは、該センサチップの検出表面上で保持又は固定化された捕獲プローブを提供する第2の層をさらに含むことができる。この検出システムは、検出表面に対する結合又は非結合画分を捕獲することによってラベルされた及びラベルされていない標的の分離を可能にする。固定化された捕獲プローブと作用することは、パターン様式での堆積による多重化(すなわち、同時に異なる標的を決定すること)の容易さという利点も有している。
【0017】
前記捕獲プローブは、前記少なくとも1つのラベル、又は、該少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用の結果を保持又は固定化できるようされ得る。そのような保持又は固定化は、前記センサチップの検出表面上での固定化であり得る。
【0018】
前記センサチップは、較正試薬を提供する較正層を少なくとも1つさらに含むことができ、前記較正層は、較正を可能にするようされた溶解可能な層である。正確な検出システムをその結果得ることができるということが利点である。さらに、較正システムを当該検出システムのセンサチップ内に組み込むことができるということが利点である。
【0019】
前記センサチップは、保護を与えるために前記少なくとも第1の溶解可能な層の上面に置かれた保護層をさらに含むことができ、前記保護層は、溶解可能な層である。この検出システムは、前記センサチップの優れた保存及び貯蔵を可能にし、従って、貯蔵後の使用不能のセンサチップの数を減らす。複数の層は複数の機能性を提供し、例えば、製作工程中にいかなるラベルも生物学的に活性な種に結合するのを抑制するために生物学的に活性な種を含有しない緩衝層、較正材料を含んだ層、又は、例えば、処理又は貯蔵中に周囲のカートリッジ材料よって排出される有機汚染物質等の汚染に対する保護として作用するカバー層及びリフトオフ層を提供することができる。
【0020】
前記少なくとも1つのラベルを前記少なくとも第1の溶解可能な層内に含むことができる。前記センサチップが限定した数の異なる部分を含み、従って、必要とされる製造労力を減らすことが特定の実施形態の利点である。
【0021】
本発明の検出システムの前記少なくとも第1の溶解可能な層は、1又は複数の粘性モジュレーター、表面張力モジュレーター、接着レギュレーター、pHレギュレーター、ブロッキング材料、シックナー、塗膜形成剤、安定剤、緩衝液、洗浄剤、ゲル化剤、充填剤、塗膜開口剤(film opening agent)、着色剤、チキソトロープ剤、保護剤、又は、水和/溶解剤を含む溶解可能なマトリックスを含むことができる。他の溶解可能な層も、そのような溶解可能なマトリックスを含むことができる。
【0022】
当該検出システムは、少なくとも第1の層を含むセンサチップを含むことができ、前記少なくとも第1の層は、急速溶解を可能にし、前記少なくとも第1の層内でのラベルのクラスター形成を回避し、前記少なくとも1つのラベルの生物学的活性を保存し、さらに、前記少なくとも1つのラベルの前記標的との相互作用が最適又は非常に有利な状態で生じることを可能にする。
【0023】
本発明の検出システムは、酵素、補酵素、補助因子、ビタミン、ミネラル、酵素基質、若しくは酵素阻害薬であり得る又はそれらを含むことができる試薬を少なくとも1つ含むことができる。この検出システムは、前記少なくとも1つのラベルの前記分析物との相互作用が最適又は非常に有利な状態で生じることを可能にするために試薬を含んだ少なくとも第1の層を含むセンサチップを含むことができる。前記酵素は、活性化酵素であり得る。
【0024】
前記試薬は、折り畳み、遮蔽、キャップ形成、又はマスキングによる生化学的活性の損失を減らすようされ得る。前記少なくとも1つのラベルの前記標的分子との相互作用は、例えば競合アッセイ、阻害アッセイ、置換アッセイ、サンドイッチアッセイ、アンチコンプレックスアッセイ(anti−complex assay)、イムノアッセイ、クラスタリングアッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイ、又は、ブロッキングアッセイ等、いかなる適したアッセイによっても可能にされ得る。分析物の検出が検出信号の動特性に基づき得るということが本発明の特定の実施形態の利点である。
【0025】
当該検出システムは、前記検出表面への前記試料の到達時間を決定するセンサをさらに含むことができる。分析物の検出が検出信号の動特性に基づき得るということがそのような実施形態の利点である。
【0026】
当該検出システムは、前記試料流体又はその一部の体積を測定するようされたセンサをさらに含むことができる。そのような検出システムは、ラベルとの相互作用後に検出可能なラベルになる標的分子の正確な、例えば定量検出を可能にする。
【0027】
当該検出システムは、前記少なくとも1つのラベルの面密度を測定するようされたセンサをさらに含むことができる。そのようなシステムは、ラベルとの相互作用後に検出可能なラベルになる標的分子の正確な、例えば定量検出を可能にする。
【0028】
前記少なくとも1つの標的分子は、酵素的変換の産物であり得る。
【0029】
当該検出システムは、前記少なくとも1つの標的分子の量を決定するための分析手段をさらに含むことができる。前記少なくとも1つの標的分子は、試料内の分析物の有無を示すことができる。前記少なくとも1つの標的分子は、試料内の分析物と同じであり得る。当該検出システムは、定量結果を提供することができる。定量結果は、センサチップから検出された異なる検出信号を比較することにより得ることができる。
【0030】
前記分析手段は、酵素動力学を計算する計算手段を含むことができる。酵素活性を調査することができるということが本発明の実施形態の利点である。
【0031】
前記検出表面は、多孔性の表面であり得る。表面積/体積比を上げることができるということが本発明の実施形態の利点である。
【0032】
前記少なくとも1つのラベルは、標的特異的ラベルであり得る。該標的特異的ラベルは、標的特異的プローブを含むことができる。該標的特異的プローブは、前記標的分子内の配列に相補的な配列を有したヌクレオチド配列であり得る。前記標的特異的プローブは、抗標的抗体でもあり得る。
【0033】
前記少なくとも1つのラベルは、前記検出表面上の捕獲プローブ上のストレプトアビジンタグ等の別のタグと相互作用することができるビオチンタグ等のタグを介して前記捕獲プローブに結合することができる。
【0034】
本発明は、試料内の少なくとも1つの標的分子を検出する方法にも関し、当該方法は:試薬を含んだ少なくとも第1の溶解可能な層を検出表面にて含むセンサチップと試料を接触させるステップ、前記検出表面の前記少なくとも第1の溶解可能な層と前記試料流体との相互作用を可能にし、従って少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用を可能にするステップ、さらに、ラベル依存性の検出信号を検出するステップを含む。当該方法は、さらに、例えば、電磁場を使用して照射することにより、又は、ラベルの物性を方向づけることにより、前記少なくとも1つのラベルを励起するステップを含むことができる。当該方法は、センサチップの感度を較正するよう、相互作用を可能にする前にセンサ信号を測定するステップも含むことができる。前記較正は、特異的ラベルの感度及び/又は試薬層の厚さに対する較正であり得る。当該方法は、さらに、例えば試料内に存在する分析物の量又は濃度を得るために、前記ラベル依存性の検出信号を処理するステップを含むことができる。当該方法は、さらに、結合及び非結合ラベルを分離するステップを含むことができる。
【0035】
本発明は、さらに、試料内の少なくとも1つの標的分子を検出するためのセンサチップに関し、当該センサチップは、ラベル検出を可能にするために少なくとも1つのラベルを受けるようされ、当該センサチップは、試薬を含んだ少なくとも第1の溶解可能な層を有する検出表面を含み、前記少なくとも第1の溶解可能な層は、前記少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用を可能し、従って、ラベルベースの検出信号の検出を可能にするようされる。前記少なくとも第1の溶解可能な層は、前記少なくとも1つのラベルを含むことができる。当該センサチップは使い捨てであり得る。
【0036】
本発明は、さらに、試料内の少なくとも1つの標的分子を検出する部分から成るキットに関し、当該キットは、ラベル検出を可能にするために少なくとも1つのラベルを受けるようされたセンサチップ、並びに、緩衝液内の所定の量の少なくとも1つの標的分子を含み、前記センサチップは、試薬を含んだ少なくとも第1の溶解可能な層を有する検出表面を含み、前記少なくとも第1の溶解可能な層は、前記少なくとも1つのラベルが前記少なくとも1つの標的分子と相互作用するよう、従って、ラベル依存性の検出信号の検出を可能にするようされる。前記緩衝液内の所定の量の少なくとも1つの標的分子は、正の対照及び/又は標準値として役立ち得る。当該キットは、負の対照として提供された、少なくとも1つの標的分子を含まない緩衝液をさらに含むことができる。
【0037】
前記溶解可能な層内の種及び濃度レベルを、所望の生化学的処理を最適化するよう調製することができるということが本発明の特定の実施形態の利点である。
【0038】
本発明の特定の及び好ましい態様は、付随の独立及び従属した請求項において述べられている。従属請求項由来の特徴は、必要に応じて、独立請求項の特徴及び他の従属請求項の特徴と組み合わせることができ、単に明白に特許請求の範囲内で述べられているものだけではない。
【0039】
本発明の教示は、化学的、生物学的、及び/又は生化学的粒子を検出するための改善された方法及び装置の設計を許可している。
【0040】
本発明の上記及び他の特徴、特色、並びに利点は、本発明の原理を例により示している添付の図面と共に、以下の詳細な説明から明らかになる。前記説明は、本発明の範囲を限定することなく、例のためだけに与えられている。以下に引用されている参考図は、添付の図面を言及している。
【0041】
異なる図において、同じ参照番号は同じ又は類似の要素を言及している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の態様における特定の実施形態による検出システムの概略図である。
【図2】本発明の第1の態様における特定の実施形態によるラベルベースの検出システムに適した溶解可能な試薬層を有したバイオセンサチップの概略図である。
【図3】本発明の第1の態様における別の特定の実施形態によるラベルベースの検出システムに適した溶解可能な試薬層を有したバイオセンサチップの概略図である。
【図4】本発明の第2の態様における特定の実施形態による検出方法において得ることができる、時間の関数としての検出表面付近の可動性ラベルの体積測定濃度(C1、m、s)の発展に関するグラフである。
【図5】本発明の第2の態様における別の特定の実施形態による検出方法において得ることができる、時間の関数としてのセンサ表面上の結合ラベルの面濃度(C1、b、s)の発展に関するグラフである。
【図6】本発明の第3の態様による、試料内の標的分子を検出する方法の流れ図である。
【図7】本発明に従った方法におけるモルヒネ競合アッセイの結果を示している。
【図8】本発明に基づくモルヒネ競合アッセイに対するDrying buffer内の界面活性物質の作用を示している。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、特定の実施形態に関して、及び、特定の図面を参考にして記述されるが、本発明はそれに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。特許請求の範囲におけるいかなる参照番号も、範囲を限定するとして解釈されない。描写されている図面は、概略的なだけであり、無制限的である。図面においては、要素のうちいくつかのサイズが過大視されている場合があり、例証目的のため尺度で描かれていない。「含む」という用語が本明細書及び特許請求の範囲において使用されている場合、他の要素又はステップを除外しない。単数名詞を言及する際に不定冠詞又は定冠詞が使用されている場合は、何か他に明確に述べられていない限りその名詞の複数形を含む。
【0044】
さらに、本明細書及び特許請求の範囲において第1、第2、第3等の用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも順番又は時系列順を記述するために使用されているのではない。そのように使用されている用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書において記述されている本発明の実施形態は、本明細書に記述又は例示された順序以外の順序で操作できることが理解されたい。
【0045】
さらに、本明細書及び特許請求の範囲において、上、下等の用語は、説明目的のために使用され、必ずしも相対的な位置を記述するために使用されているのではない。そのように使用されている用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書において記述されている本発明の実施形態は、本明細書に記述又は例示された定位以外の定位で操作できることが理解されたい。
【0046】
以下の用語又は定義は、単に本発明の理解に寄与するために提供されている。これらの定義は、当業者により理解されるものより狭い範囲を有していると解釈されるべきではない。
【0047】
「試料」という用語は、本明細書において使用される場合、関心のある少なくとも1つの分析物を含むことができる組成物に関する。試料は、例えば水溶性の組成物等の液体等、流体であることが好ましい。従って、試料を「試料流体」として提供することができる。
【0048】
「分析物」という用語は、本明細書において使用される場合、その有無又は濃度が本発明に従い決定されることになる物質を意味している。典型的な分析物は、それだけに限らないが、小さな有機分子、グルコース若しくはエタノール等の代謝物、蛋白質、ペプチド、核酸セグメント、小分子の医薬品等の分子、抗生物質若しくは薬物、プロモーター、アクチベーター、インヒビター、若しくは、コファクター等の酵素的処理において調節作用を有する分子、ウイルス、バクテリア、細胞、細胞成分、細胞膜、胞子、DNA、RNA、微生物、並びに、その断片及び産物、又は、結合部位、結合メンバー、若しくは(抗体等の)受容体を展開することができるか、又は、抗免疫若しくは抗原決定基を有するいかなる物質等の分子を含むことができる。分析物の有無又は濃度は、分析物自体の有無又は濃度を評価することによって直接決定することができるか、又は、あるいは、標的若しくは標的分子の有無若しくは濃度を評価することによって間接的に決定することができる。
【0049】
「基質」という用語は、本明細書において使用される場合、酵素反応を経ることができる分子又は物質を意味している。
【0050】
「標的」又は「標的分子」という用語は、本明細書において使用される場合、その有無又は濃度が本発明に従い実際に決定される物質を意味している。「標的分子」という用語は、広く解釈されるべきであり、例えば個々の分子、分子のクラスター、分子の複合体、基質等の他の物質に埋め込まれた分子であり得る。標的及び分析物は同一であり得るか、又は、標的は分析物の有無を示すことができる。特に、蛋白質又はDNA等の標的は、特有の要素、又は、ウイルス、バクテリア、若しくは他の生物等の分析物の産物でありえ、従って、その存在を示すことができる。検出が酵素アッセイを含む場合、標的は、酵素による基質の酵素的変換の産物でありえ、従って、基質の量又は酵素の活性を示すことができる。標的分子は、ポリマー、金属イオン、並びに、毒素、違法薬物、及び爆発物等、低分子量の有機化学種でもありえ、本発明は明白にそれに限定されない。検出アッセイ中、標的は、検出信号を発するようラベルされ得る。標的は、生物学的に活性なコーティングの一部として検出表面上に固定化することもできる。
【0051】
「ラベル」という用語は、本明細書において使用される場合、検出可能な信号を生じることができる分子又は物質を意味している。検出可能な信号を生じることは、信号の変更を含む。本発明の異なる検出システム及び方法において使用するのに適したラベルは多数存在し、当技術分野において広範に記載されている。これらは、光学ラベル、放射性ラベル、磁気ラベル等であり得る。ラベルは、センサにより直接検出することができる直接的なラベルであり得る。あるいは、ラベルは、後の展開処理後に検出可能になる間接的なラベルであり得る。一般的に、本発明の方法に使用されるラベルは、標的特異的ラベルであり、すなわち、標的に特異的に結合できるラベルである。それにもかかわらず、標的が精製された形で存在する場合、ラベルが標的に結合することが十分であることも予想される。
【0052】
「プローブ」という用語は、本明細書において使用される場合、標的分子に特異的に結合する結合分子を意味している。本発明の状況内で予想されるプローブは、可能な標的分子に選択的に結合することができる、抗体全体、Fab'断片等の抗体の断片、一本鎖Fv、単一可変領域(single variable domain)、VHH、重鎖抗体、ペプチド、エピトープ、膜受容体若しくはいかなる種類の受容体若しくはその一部、基質をトラップする酵素変異体、抗原性分子(ハプテン)全体若しくは抗原性断片、オリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、ミミトープ(mimitope)、核酸、及び/又はその混合物等の生物学的に活性な部分を含む。抗体は、蛋白質又はペプチドだけでなく、非蛋白性化合物に対しても産生することができる。プローブは、一般的に、結合ペアのうち免疫反応性又は親和反応性(affinity reactive)のメンバーである。プローブの性質は、検出されることになる標的の性質により決定される。最も一般的には、プローブは、それだけに限らないが、抗原−抗体結合、相補的なヌクレオチド配列、糖−レクチン、相補的なペプチド配列、リガンド−受容体、補酵素−酵素、酵素阻害剤−酵素等の標的との特異的相互作用に基づき展開される。プローブは、認識又は結合事象を介して標的及び/若しくはラベルされた標的を検出表面上に固定化するための「捕獲プローブ」も含む。プローブ及び捕獲プローブはラベルすることができる。捕獲プローブへの結合を介して標的分子が固定化される場合、結果として生じる複合体は「標的−捕獲複合体」と呼ばれる。本発明の装置及び方法に使用されるラベルが標的特異的ラベルである場合、これは、ラベルに結合される標的特異的プローブを使用することにより確実にすることができる。一般的に、標的が蛋白質である場合、標的特異的プローブは抗標的抗体であり得る。あるいは、標的がヌクレオチド配列である場合、標的特異的プローブは相補的なオリゴヌクレオチド配列であり得る。「標的類似体」という用語は、本明細書において使用される場合、標的ほど最適ではないがプローブ又は捕獲プローブと結合することができる物質を意味している。標的が、例えばプローブ又は捕獲プローブに対する競合的な結合における標的類似体との競合に基づき決定される競合アッセイにおいて、標的類似体は使用される。特に、標的のプローブ又は捕獲プローブへの結合と比較して減少した結合力で、標的類似体はプローブ又は捕獲プローブに結合する。
【0053】
第1の態様によると、本発明は、試料内の少なくとも1つの標的分子、従って分析物を検出及び/又は定量化するための検出システムを提供する。そのような検出システムは、例えば、化学的、生物学的、又は生化学的粒子を検出するための検出システムでありえ、本発明はそれに限定されない。当該検出システムは、一般的に、ラベルベースの検出を可能にするために少なくとも1つのラベルを受けるようされた少なくとも1つのセンサチップを用いて使用される。前記センサチップは、さらに、少なくとも第1の層を含んだ検出表面を有しており、前記第1の層は、前記少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的との相互作用を可能にし、従って、ラベルベースの検出信号の検出を可能にする少なくとも1つの試薬を提供するための溶解可能な層である。該溶解可能な層は、試薬の他に他の要素も層内に存在している場合があるけれども、溶解可能な試薬層と呼ぶことができる。「溶解可能な層」という用語は、本明細書において使用される場合、溶解可能なマトリックス、並びに、任意選択で、ラベル、プローブ、ラベルされたプローブ、標的、及び/又は標的類似体から成る層を意味している場合がある。溶解可能な試薬層が試料流体と接触する場合、一気に、すなわち短時間の間に前記試料は可動性試薬に曝露されることが好ましい。
【0054】
必要不可欠な要素及び任意の要素を含んだ検出システム100の概略図が、図1の例証により示されている。検出システム100は、試料内の少なくとも1つの標的分子、従って分析物を検出及び/又は定量化するのに適している。システム100は、試料内の標的分子、又は、そこから由来した分析物の存在を検出及び任意選択で定量化するのに適しており、それによって、センサチップの検出表面上への試薬を含んだ溶解可能な層の提供が、分析物の存在又は活性の直接指示又は間接指示としてのラベルの急速検出を可能にする。図1に示されているように、検出システム100は、少なくとも1つのセンサチップ1を用いて使用されるようになされている。図1に示されているように、例証的な検出システム100のこれら及び他のさらなる又は任意の要素は、以下でより詳細にさらに記述される。センサチップ1は、例証により図2及び図3を参考にして記述され、センサチップ1はそれに限定されない。
【0055】
センサチップ1は、表面3を有したチップキャリア2等のいくつかの要素を含むことができる。表面3の少なくとも一部は、検出器30を用いた検出の場所であるようされ得る。言い換えると、表面3は、ラベルベースの検出を行うことができる検出表面33を含むことができる。チップキャリア2内及び/又はその上に存在する種々の要素をチップキャリア2が支持するのを可能にする材料から、チップキャリア2は作製することができる。本発明はそれに限定されないけれども、前記材料は絶縁材料を含むことができる。ビニルポリマー、ポリイミド、ポリエステル、及びスチレン等のプラスチックは、必要とされる構造特性を提供することができる。センサチップは大量生産可能であることが好ましいため、例えば、完成したチップに対して有用な堅さも与えるけれども、ロール処理のために十分な柔軟性を有した材料から作製することができる。チップキャリア2は、従って、例えばポリエステル、特に高温ポリエステル材料、ポリエチレンナフタレン(PEN)及びポリイミド、又は、これらのうち2つ以上の混合物等の高分子材料等、柔軟な有機材料を含むことができる。別の特に好ましいチップキャリア材料は、例えば、シリコン等の半導体、又は、ガラス等の材料等、無機材料である。
【0056】
センサチップ2の表面3は、一般的にキャリアチップ材料を含むことができ、前記材料には、捕獲プローブ、標的、又は標的類似体の生物学的に活性な層を結合させることができるか、又は、生物学的に活性な層が固定化される。センサチップ2の表面3は、表面積/体積比を上げるために、多孔性の表面であり得る。
【0057】
「生物学的に活性なコーティング」という用語は、センサチップの検出表面等の固体の表面により保持されたか、若しくは、そこに結合された捕獲プローブ及び/又は標的分子、並びに、それぞれ標的又はラベルされたプローブに結合することができる、又は、それぞれ標的又はラベルされたプローブと反応性のある捕獲プローブ及び/又は標的分子等の生物学的に活性な部分の層を意味している場合がある。生物学的に活性な層の捕獲プローブ及び/又は標的分子は、当技術分野において既知のいかなる方法によっても表面上に保持若しくは固定化することができる。これらの生物学的に活性な部分は、部位特異的な様式で検出表面により保持する又はそこに結合することができ、これらの部分上の特異的部位は、例えば基板上の蛋白質耐性層を介した結合に関与することを意味している。あるいは、表面3は、例えば、キャリアチップ又はその一部を覆う貴金属層等の金属層を含むことができる。
【0058】
本発明の実施形態によると、キャリアチップ2の表面3は、溶解可能な試薬層5とも呼ばれる、試薬を含んだ溶解可能な層を少なくとも1つ含み、ラベルベースの分析物検出に寄与している。そのような層は、乾燥層であり得る。一般的に、センサチップ1の少なくとも1つの試薬層5は、試料内の分析物の存在を表す検出可能な信号を生じるために標的と反応する化学的又は生化学的性質の試薬を含むことができる。「試薬」という用語は、本明細書において使用される場合、分析物及び/又は標的と反応して、試料内の分析物の存在を表す検出可能な信号を生じる化学的、生物学的、又は生化学的な試薬である。本発明の異なる検出システム及び方法に使用するための適した試薬は、種々の分析物の存在及び/又は濃度を決定するよう選択された種々の活性要素を含む。適切な試薬の選択は、当業者の間では周知である。当技術分野において周知のように、種々の標的のそれぞれを用いた使用に利用可能な多くの化学的性質がある。それらは、評価されることになる標的に対して選択される。試薬は、例えば酵素、補酵素、酵素阻害剤、酵素基質、酵素的変換を促進するためのATP、NADH等の補助因子、ビタミン、ミネラルを含むことができ、本発明はそれに限定されない。例えば、1つの好ましい実施形態において、本発明のセンサチップは、試料内の代謝物又は小分子の存在を決定するよう選択することができる1又は複数の酵素、補酵素、及び補助因子を含むことができる。さらに、センサチップ1の少なくとも第1の層は、ラベル、緩衝塩、洗浄剤、糖等をさらに含むことができる。
【0059】
少なくとも1つの試薬層5は、薄い層であり得る。少なくとも1つの試薬層5は、試料流体が急速に薄い試薬層5を水和又は溶解するよう十分に薄くあるべきである。好ましくは、少なくとも1つの試薬層5は、0.1μm、好ましくは1μmの下限、及び、150μm、好ましくは50μm、さらにより好ましくは15μmの上限を有する範囲で厚さを有することができる。本願において言及される厚さは、層の平均の厚さであり得る。試薬層5は、実質的に均一性の層であり得るか、アイランド若しくはストライプ構造等の構造若しくはパターンを含むことができるか、又は、あるいは若しくはさらに、溶解を改善するために多孔性であり得る。従って、厚さは、パターン、構造、アイランド、又はストライプ等における物質の平均の厚さを意味している。試薬層は、溶解を促進するために、例えばミクロ多孔性及び/又はナノ多孔性の層等の多孔性物質でもあり得る。製造中、試薬層は、例えば、製造の瞬間における試薬層と検出表面との相互作用を減らすために、冷却された基板上に提供することができる。試薬層は、例えば、凍結乾燥を使用して提供することもできる。好ましい実施形態において、ラベル6は試薬層5内に含まれており、検出表面33を試料流体に接触させることにより、検出表面33まで試薬層5を通って及び試薬層5内で拡散する。ラベル6が薄い試薬層を通って拡散するのは短い距離であるはずであり、従って、検出表面33までの拡散は迅速に生じるであろう。さらに、捕獲効率は、厚い層よりも薄い層に対してより良くなる。厚い試薬層では、試料流体が水和又は溶解するのにより時間がかかり、試薬又はラベル6が検出表面33に近づくのにより長い時間が必要とされる。これは、分析物濃度を決定する時間を遅らせ、さらに、その決定にエラーをもたらす恐れがある。比較的厚い層が使用される場合、センサ表面に対する試薬の接近を促進するために能動輸送を適用することが有利である。
【0060】
本発明の実施形態が理論により限定されない例証によって、溶解可能な試薬層5の適した厚さは拡散法に基づき決定することができる。迅速な試薬の溶解及び拡散はバ―ストプロセスである。拡散が優勢な輸送機構である(すなわち、能動物質輸送が使用されない)場合、適した層の厚さLは、以下のようにおおよそ見積もることができる。
【数1】

Dは溶解された層における試薬の拡散係数であり、tは所望の反応時間である。言い換えると、適した層の厚さLは、溶解された層における試薬の拡散係数Dと所望の反応時間tの積の平方根により概算することができる。拡散係数Dは、一般的に(生)化学種によって異なる。Dが10−10・s−1程度のものである場合、例えば酵素基質として機能する小さな蛋白質のための試薬が流体内に放出され、所望の反応時間が1sであると、適した層の厚さLは、約10μmである。はるかに薄い層は、反応工程中、試薬濃度の強度の時間依存性を与えることになる。はるかに厚い層は、不必要に多量の試薬を消費し、さらに、検出表面からさらに離れた標的分子の分布を生じる。試薬層5内の試薬が、例えば300nmのサイズを有したナノ粒子等のより大きな物質に結合した場合、Dは10−12・s−1程度のものである。10sの所望の反応時間では、適した層の厚さLは約3μmである。ラベル6が試薬層5内に含まれる実施形態において、同様に考慮することができる。拡散が優勢な輸送機構である場合、バースト又は拡散時間は、従って、
【数2】

により概算することができる。
Lは層の厚さ(単位:m)、Dは流体内のラベルの拡散係数(単位:m・s−1)、さらに、Tは層の拡散時間であり、それによって、容易さのために、表面の存在による増加した摩擦は無視される。例えば、水溶性流体内の直径が300nmのナノ粒子等のラベルは、一般的に、10−12・s−1程度の拡散係数Dを有している場合がある。3.2μmの層の厚さLで、見積もられた拡散時間Tは約10秒である。これから、バースト時間Tは距離の二乗に依拠していることが明らかになり、より短い検出時間を得たい場合に非常に薄い層を使用することの重要性を強調している。
【0061】
検査の速度は、さらに、標的と捕獲プローブの結合率により制限される。抗体等の所与の捕獲プローブに対して、例えば抗原−抗体結合等の標的−捕獲複合体が形成される可能性pは、指値p<1内で時間tと共に直線的に増加する。単位時間あたりの前記可能性の増加(dp/dt)は、
dp/dt=Kon・〔T〕
により与えられる。
onは捕獲プローブに対する標的分子の結合における結合定数(単位:L・mol−1−1)であり、〔T〕は流体内の標的濃度(単位:mol・L−1)である。例えば、薬物−抗体結合に対するKon=10Lmol−1−1及び〔T〕=100nmol・L−1は、dp/dt=0.01s−1を与える。これは、上記の選ばれたパラメータで標的−捕獲複合体は10s後に10%の可能性で形成されることを意味している。
【0062】
センサチップ1の少なくとも1つの溶解可能な試薬層5は、試薬、ラベル、試薬特性若しくは特徴を高めるための種々のアジュバント、並びに/又は、処理、貯蔵、及び取り扱い中に溶解可能な層5に要素を保存するための保護薬を保持する溶解可能なマトリックス7又は乾燥した多孔性材料を含むことができる。マトリックス7は、一般的に、急速溶解を促進し、ラベルのクラスター形成を回避し、さらに、生物学的活性部分を保存することができる。化学的結合は、キャリアチップ2の表面3上への試薬組成物の配置を促進する、及び、キャリアチップ表面3へのその接着を改善するための材料、又は、試料流体による試薬組成物の水和率を上げるための材料を含むことができる。さらに、試薬層5は、結果として生じる乾燥した試薬層の物理的特性、及び、分析用液体検査試料の取込みを高めるよう選択された要素を含むことができる。試薬組成物と共に使用されることになるアジュバント材料の例として、粘性モジュレーター、表面張力モジュレーター、接着レギュレーター、pHレギュレーター、ブロッキング材料、シックナー、塗膜形成剤、安定剤、緩衝液、洗浄剤、ゲル化剤、充填剤、塗膜開口剤(film opener)、着色剤、チキソトロープを賦与する薬剤、シリカ、並びに、溶解及び水和を促進する薬剤が挙げられる。
【0063】
センサチップ1は、予想された反応が起こる液体を操作するための操作手段を含むことが好ましい。この操作は、例えば、試薬を流体内に混合することによって、検出領域への試薬の輸送及び/又は濃縮増加(upconcentration)によって、並びに、例えば洗浄を介して若しくは電磁ストリンジェンシー力(electromagnetic stringency force)を介してストリンジェンシーを適用することによって、検査の速度、精度、感度、及び/又は、特異性を改善するのに有利である。従って、操作は、バイオセンサチップに近接して試薬を調製するよう使用されるのが好ましい。非常に好ましい操作方法は、磁気操作に基づいている。モニターされる反応において役割を果たすプローブ又は他の化合物が磁気粒子に連結された場合、及び/又は、非反応磁気粒子が反応チャンバに添加された場合に磁気操作は可能である。従って、非常に好ましい実施形態において、センサチップ1及び/又はリーダーシステムは、センサ表面付近で磁場を生じるための電磁ワイヤ又は電流ワイヤ等、少なくとも1つの磁気操作部分を含む。磁気操作が使用された場合、検出は、磁気検出及び/又はさらに光学ラベルを使用した光学検出を依然として介し得る。これは、以下で詳細に記述される。
【0064】
センサチップ1は、一般的に、標的分子との相互作用後のラベルベースの検出のため少なくとも1つのラベルを受けるようされる。好ましい実施形態において、ラベルは少なくとも第1の溶解可能な層に提供することができる。あるいは、いわゆる第2の溶解可能な層としてラベルを検出表面に結合することできる。ラベルは、例えば適切な濃度でラベルを含有した水溶性流体として、又は、試料流体の一部としてセンサチップ外から提供することもできる。ラベルは、好ましくは操作機構により制御された検出チャンバ又はカートリッジ内の別の位置から提供することもできる。1又は複数のラベルは、一般的に結合アッセイを経ることができる標的分子との相互作用のために提供される。ラベルされた結合分子の使用を介して、結合又は認識事象は、一般的に検出可能な信号を生じ、標的分子の有無又は活性を示すことができる。本発明において認識される結合及び非結合アッセイは、広範囲の標的分子に対する診断検査として医療コミュニティーにおいて広く使用されるイムノアッセイ、DNAハイブリダイゼーションアッセイ、及び、受容体ベースのアッセイを含む。あり得るアッセイには、サンドイッチアッセイ、アンチコンプレックスアッセイ、及びブロッキング剤アッセイも含まれ、例えば、Elsevier Scienceにより発表され、ディビッド ワイルド(David Wild)により編集された“The Immunoassay Handbook”を参照されたい。サンドイッチアッセイでは、ビーズプローブ61を使用して、標的がビーズプローブ61及び検出表面33と相互作用しながらビーズプローブ61が分子サンドイッチ構造の形成のために検出表面33に結合するように、ラベル6は、一般的に、例えば電場及び/又は磁場により検出表面33付近で保持される。多様な種類の(非)結合アッセイが、例えば蛍光性、色素生産性、散乱、吸収、屈折、反射、SERRS活性な、又は、(バイオ)化学発光のラベル、分子ビーコン等の光学ラベルを使用することができ、放射性ラベルを使用することができ、酵素ラベルを使用することができるか、又は、ラベルとして磁気粒子を使用することができる。光学ラベルは、一般的に、例えば可視、赤外、又は紫外波長領域で、検出器により検出可能な光を放出することができる。それにもかかわらず、本発明はそれに制限されず、光学ラベルは、本発明において、電磁スペクトルのいかなる適した及び検出可能な波長領域で放出するラベルを意味している場合がある。本発明の状況において認識される磁気ラベルは、それだけに限らないが、金属又は磁気のビーズ若しくはナノ粒子を含む。磁気ラベルは、例えば、永遠に又は一時的に磁場において磁気モーメントを生じるいかなる形状の磁性でもある、磁気、反磁性、常磁性、超常磁性、強磁性等、いかなる適した形状の磁気粒子も1又は複数含むことができる。適した磁気ラベル材料の例は、例えばFeビーズである。磁気ラベルのサイズは、大部分の実施形態において決定的ではないが、多くのバイオセンサ用途に対して、ラベルが小さいサイズのものであることが非常に好ましい。好ましい磁気ラベルは、5から5000nm、より好ましくは10から2000nm、さらにより好ましくは20から1000nm、さらにより好ましくは50から500nmの範囲で最長直径により一般的に表されるサイズを有することができる。磁気ラベルの検出は、電場、磁場、又は電磁場の適用、及び、磁気又は非磁気センサを使用することにより一般的に行われる。規定されていない限り、ラベルは、それ自体がプローブに共有結合的に結合されていない分子又は材料を意味している。ラベルは、好ましくは共有結合を介してプローブ、捕獲プローブ、基板、標的、又は分析物に結合することができるが、水素結合等の他の種類の結合も可能である。行われるアッセイの種類に応じて、ラベルされた標的分子は、固定化された捕獲プローブに結合するか(サンドイッチアッセイ)、又は、標的類似体と競合して捕獲プローブに結合する(競合アッセイ)。過剰な(非結合)ラベルを取り除いた後、結合ラベルの量が測定される。このように、結合アッセイは、標的分子の濃度又は存在を反映する、固体の基板に対する多数のラベルされた結合分子の付着を一般的に含むことができる。あるいは、ラベルされた標的類似体等のラベルされた結合分子は検出表面に結合させることができ、標的分子によるラベルされた標的類似体の置き換えは、検出表面近くのラベルを減らすことができる。結合アッセイ方法論に対する多数の変形が記述され、全て本発明の範囲内である。
【0065】
センサチップ1において、例えばおそらくその検出表面33上に、例えば保護層、較正層、又は緩衝層として機能する層等、追加の層を提供することができる。保護層は、内部若しくは外部の化学的又は機械的影響に対するセンサチップ1の特定の部分の保護を可能にすることができる。較正層は、一般的に、使用される特異的ラベル、使用される層の厚さ等に関してセンサチップを較正するために使用することができる。そのような較正を得るために、例えば、既知の量の標的分子又は標的のような分子をセンサチップ上の溶解可能な層に添加することができる。後者は、従って、チップ上でのアッセイの較正を可能にすることができる。さらに、正の検査対照層及び/又は負の検査対照層を提供することができる。確定的な正及び/又は確定的な負の応答を提供すべきであり、従ってセンサチップ1の品質検査を可能にするよう、センサチップを調べるための必要な要素をそのような層は一般的に提供することができる。緩衝層は、一般的に、互いに相互作用すべきではない、又は、初めは互いに相互作用すべきではない2つの異なる層を緩衝することを可能にする。そのような層のより詳しい例は、異なる実施形態においてより詳細に説明される。
【0066】
検出表面に接触されることになる試料流体は、濡らされることになる検出表面(33)に親水性/疎水性の力を及ぼすことができる。追加の保護層は、試料流体により導入された力に保護を与えるよう提供することができる。
【0067】
ラベルベースの信号を検出するために、検出システム100は、センサチップ1の表面上又はその付近にあるラベルを検出する検出器30を少なくとも1つさらに含むことができる。そのような検出システム100の検出器30は、従って、検出表面33にて、ラベル、又は、特にその励起に対する応答を検出できる場合がある。検出器30をチップキャリア2内に組み込み、従って、ラボオンチップバイオセンサを一般的に生じることができるか、又は、センサチップ1を含むようされた検出システム100内に組み込むことができる。あるいは、検出システムは、チップキャリアの検出表面を検出するよう関連した位置まで移動された独立型システムであり得る。ラボオンチップ機構において、検出された信号は、変換して、センサチップ1の外部の読み取り装置まで伝達することができるが、検出器30の活性要素は、センサチップのチップキャリア2内に置くことができる。あるいは、検出器30の活性要素は、センサチップ外の検出システム100内に置くことができる。検出器30は、従って、検出表面33からの信号を検出するようされる。例えば光学検出において、後者は、検出表面33に焦点を合わせて、検出表面33から回収することにより得ることができる。
【0068】
少なくとも1つの検出器30は、例えば、光学及び/若しくは磁気ラベル等のラベルを光学的に検出する光学検出器、並びに/又は、磁気ラベルを検出する磁気検出器等、いかなる適した検出器でもあり得る。例えば光学ラベルから蛍光信号等の光学信号、又は、磁気ラベルから間接蛍光ラベルを検出するための光学検出器は、例えば光検出器、電荷結合素子(CCD)、電荷注入素子(CID)、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)、光電子倍増管、アバランシェフォトダイオード、固体状態の光学検出装置、顕微鏡、又は、ビデオカメラであり得る。少なくとも1つの検出器30は、センサチップ1から収集された異なるルミネセンス照射ビーム(luminescence irradiation beams)を検出するようされた、いくつかの検出器であり得る。少なくとも1つの検出器30は、ピクセル化された検出器、又は、一連の多数の単一ピクセル検出器であり得る。そのような検出器は、例えば電荷結合素子(CCD)検出器若しくはCID、一列に並んだ光電子倍増管、一列に並んだアバランシェフォトダイオード、又は、個々の検出器ピクセルのアレイを含む他の照射検出器であり得る。少なくとも1つの検出器30の幅、又は、ピクセル化された検出器が使用された場合、少なくとも1つの検出器30の検出器要素の幅は、好ましくは、検出器がセンサチップ1若しくはセンサチップの全体、又は、センサチップ1上の空間的に離れた領域で生じることができるようあり得る。それによって、前記空間的に離れた領域は、1又は複数の試薬層のほぼ常に最大1つのストリップ又はスポットが、検査中に単一ピクセルにより検出される領域内に存在するようなものであり、1又は複数の試薬層5のストリップ又はスポットが試料流体と接触した場合にラベル検出を生じるかどうか検出することを可能にしている。
【0069】
少なくとも1つの検出器30は、例えばHall検出器等の磁気検出器、又は、例えばAMR(異方性磁気抵抗)検出器、GMR(巨大磁気抵抗)検出器、若しくはTMR(トンネル磁気抵抗)検出器等の磁気抵抗検出器でもあり得る。SQUIDS等の他の原理に基づく磁気センサ要素も、請求された検出システム100への適用に可能である。検出器30は、磁気粒子を検出する他の原理に基づくこともでき、従って、磁気粒子から/上の力が検出される、力増幅型バイオセンサ(FABS)、カンチレバーフォーストランスデューサ、微量はかり、電気インピーダンス計、又は、AFMでもあり得る。磁気ビーズの検出も、屈折、吸収、散乱、蛍光等の光学的原理に基づき生じることができる。それ自体で、検出器30は、磁気粒子を検出する光学検出器であり得る。一般的に、検出器30は、検出器30を駆動するために検出器駆動回路32に接続することができる。検出器駆動回路32は、一般的に、検出器30を制御するようされ得る。検出器駆動回路32は、一般的に、チップキャリア2の外部に位置するよう、センサチップ1の外部でさえも位置するよう、及び、検出器30に接続可能であるようされ得る。それにもかかわらず、チップキャリア2内又はセンサチップ1内に含むこともできる。前記検出器は、例えば、検出表面33にてラベル若しくはその検出可能な信号を検出するための位置にあるようされ得るか、又は、追加の焦点を合わす要素を提供することによって検出表面33にてラベル若しくはその検出可能な信号を検出するようされ得る。
【0070】
検出システム100は、さらに、使用されるラベルを励起するようされた励起手段31を含むことができる。使用されるラベルに応じて、励起手段31は、例えば光学励起手段又は磁気励起手段であり得る。励起手段31は、励起手段駆動回路34により制御することができる。励起手段駆動回路34は、一般的に、チップキャリア2の外部に位置するよう、センサチップ1の外部でさえも位置するよう、及び、励起手段31に接続可能であるようされ得る。それにもかかわらず、チップキャリア2内又はセンサチップ1内に含むこともできる。光学励起手段は、例えば、光学ラベルを含有したセンサチップ上の試料を照射するための照射ビームを生じる1又は複数の照射源を含んだ照射ユニットであり得る。少なくとも1つの照射手段31は、例えば光源等、光学検出システムにおいて使用するのに適したいかなる照射源でもあり得る。照射手段31は、特定の波長で又は特定の波長範囲内で放射線を有するいくつかの照射ビームに選別することができる白色光源を含むこともできる。照射手段31は、レーザー等単色の光学源も1又は複数含むことができる。照射手段31は、アルゴンレーザー、ダイオードレーザー、ヘリウムレーザー、色素レーザー、チタンサファイアレーザー、Nd:YAGレーザー、又は他の手段を含むことができる。照射手段31は、例えば、少なくとも1つの照射ビームを連続して供給するための例えば調整できる半導体レーザー、又は、少なくとも1つの放射ビームを同時に若しくは連続して供給するための少なくとも1つの半導体レーザー等の調整できる照射源を含むことができる。複数の照射手段31を提供し、多重化を可能にすることができる。前記照射ユニットは、光学ラベルを励起するのに適した電磁放射線を生じるようされ得る。例えば、生じた照射が蛍光照射である場合に、励起照射の光学波長は、一般的に、例えば200nmから2000nmの範囲内、又は、例えば400nmから1100の範囲内でありえ、本発明はそれに限定されない。後者は、チップキャリア2内に組み込むことができるか又はその外部にありえ、並びに、センサチップ1内に組み込むことができるか又はその外部にあり得る。磁気励起手段は、例えば、磁気ビーズを方向づけるために磁気ラベルを含有した試料に電場又は磁場を適用するための電磁場を生じる電磁ユニットであり得る。磁気励起手段31は、例えば、磁気ビーズを磁化する及び方向づけるための磁場を生じる磁場発生器であり得る。磁気励起手段は、チップキャリア2内に組み込むことができるか又はその外部にありえ、並びに、センサチップ1内に組み込むことができるか又はその外部にあり得る。磁気励起手段は、例えば、電磁石、空心型ワイヤコイル、直線のワイヤ、導電性微細加工トレース、永久磁石、コイルであり得る。外部の磁気励起手段であり得るか、又は、チップキャリア2内に統合することができる。
【0071】
上記のように、検出器30、励起手段31、及び/又は、その駆動回路32、34は、任意選択でセンサチップの外部にあり得るか、又は、センサチップ1、並びに、試料流体を提供する手段20及び/若しくは試料流体を含有するようされた手段11若しくは検査流体を含有するようされた手段12を含んだカートリッジ50の外部にさえあり得る。検出器30又は励起手段31がカートリッジ50の外にある場合、検出ユニット30が試料等を検出できるように窓をカートリッジ50内に提供することができる。
【0072】
上記の本発明の分析アルゴリズムのうちどれも実行するようされ得る分析回路40に、検出を反映する信号を供給することができる。
【0073】
検出システム100は、検出信号、又は、それに対応する信号を処理するようされた分析回路40をさらに含むことができる。分析回路40は、一般的に、得られた検出器の結果を処理するために所定のアルゴリズムを実行するようされ得る。分析回路40は、試料内の分析物の濃度又は分布を決定するよう、及び/又は、得られた検出結果を処理して例えば酵素活性を決定するようされ得る。さらに、分析回路40は、標的の濃度に対応する検出信号を評価するために、検出ユニット30との接続を従来法で含んでいる。1又は複数の分析物の濃度は、例えばセンサチップ1に対する試料の供給において異なる時点でセンサチップから検出された検出信号を比較することにより算出することができる。分析回路40は、ラベルされた標的が存在しているかどうかを示すデジタル二進値を提供することができる。システム100、特に分析回路40は、例えば2つの異なる測定値を相関させて、軽く結合したラベルが検出に影響を及ぼしているかどうかを調べるために、得られた検出結果の統計的処理をさらに提供することができる。分析回路40は、試料がセンサにより受け取られたかどうか、及び、試料の量が検査に対して十分であるかどうかを決定する手段も含むことができる。分析回路40は、例えばマイクロプロセッサ、並びに/又は、得られた及び/若しくは処理された評価情報を貯蔵するためのメモリ要素等の処理手段42を含むことができる。さらに、典型的な入力/出力手段が存在することができる。分析回路40は、評価ステップを実行するための適切なソフトウェア又は専用のハードウェア処理手段を使用して制御することができる。従って、分析回路40は、例えば専用のハードウェア若しくは適切にプログラムされたコンピュータ、マイクロコントローラ若しくはマイクロプロセッサ等の埋め込まれたプロセッサ、PAL、PLA若しくはFPGA等のプログラム可能なゲートアレイ、又は、類似のもの等、いかなる適した様式でも実行することができる。分析回路40は、一般的に、分析の結果を貯蔵して、視覚的表示装置、プロッター、プリンター等のいかなる適した出力手段44に分析の結果を表示することができるか、又あるいは、独立した装置にデータを提供することができる。分析回路40は、遠隔地への結果の伝達のための構内ネットワーク又は広域ネットワークへの接続も有することができる。分析回路40は、少なくとも部分的にカートリッジ50内にあり得るか、又は、任意選択でカートリッジ50の外部にあり得る。分析回路40は、例えば端末等、カートリッジの表面上の適した接触によりカートリッジ50に接続することができる。
【0074】
検出システム100は、検出システムの供給源として機能する、1又は複数の容器として提供することができる、例えば試料流体等の流体を含有するための流体含有手段10をさらに含むことができる。そのような流体を含有するための流体含有手段10は、調査されることになる試料流体を含有するようされた少なくとも1つの手段11、すなわち、分析物を含有していると疑われた試料の特定化された供給源11であり得る。流体を含有するための流体含有手段10は、例えば正の対照として若しくは参照資料として役に立つ、例えば所定の濃度の分析物若しくは標的を含有した試料等の対照試料、及び/又は、例えば空白若しくは負の対照等の調査の下、分析物若しくは標的を含有していない試料を含有するようされた少なくとも1つの手段12も任意選択で含むことができる。前記試料は、流体試料であることが好ましい。水溶性組成物は、この検出システムに使用するのに非常に適している。任意選択で、ラベルが別に提供される場合、検出システム100は、図1には示されていないラベルの供給源を少なくとも1つさらに含むことができる。
【0075】
検出システム100は、例えばセンサチップ1を試料流体に接触させるための、試料を含有する流体含有手段10からセンサチップ1まで試料を提供する試料提供手段20をさらに含むことができる。試料提供手段20は、流体の重量分析フィード(gravimetric feed)を含むことができ、試料流体を含有するための手段11及び対照試料を含有するための手段12からセンサチップ1まで流体の供給を可能にするために、管/導管、並びに、例えば選択可能及び制御可能な弁等の弁の配列も含むことができる。あるいは、前記流体は、手段11、12からセンサチップ1まで能動的及び受動的に汲み出すことができる。上記要素の配列は、例えば使い捨てのカートリッジ50等のカートリッジ上に位置づけることができる。試料提供手段20を制御するための制御回路22も存在することができる。
【0076】
検出システム100は、任意選択で、1又は複数の溶解可能な層の溶解、及び、センサチップ1上又はその付近の溶解した要素の拡散に寄与する溶解促進手段60をさらに含むことができる。溶解促進手段60は、磁気アクチュエータ、加熱器、又は、溶解及び拡散を促進するいかなる他の適した機械的若しくは音響的手段も含むことができる。
【0077】
検出システム100は、任意選択で、センサチップ1上又はその付近の適した温度を確実にするための温度を制御する温度制御手段62をさらに含むことができる。温度制御手段62は、加熱及び/又は冷却要素を含み、従って、センサチップ1又はセンサチップ1内に存在する試料流体の温度の制御を可能にすることができる。温度制御手段62は、センサチップ1の内部又は外部にありえ、カートリッジ50の内部又は外部にあり得る。本明細書において言及したように検出システム内で有用な加熱及び冷却要素は、それだけに限らないが、電気加熱器、抵抗加熱器、熱電加熱器及び冷却器(ペルティエ装置)、容量結合RF加熱器、ヒートシンク、流体回路加熱器、熱パイプ、ケミカルヒーター、並びに、他の種類のものを含めた種々の形状で入手することができる。特定の実施形態において、検出システム100内の流体は、外部加熱機構を用いて加熱される。放射性加熱器も適用することができる。温度制御手段62は、一般的に、検出表面33又は該検出表面33付近の試料の温度を決定するための、温度センサも含むことができる。
【0078】
検出システム100は、任意選択で、検出システム、又は、例えばセンサチップ1若しくはセンサチップ1内の検出表面33等の検出システムの一部を洗浄するための、洗浄手段64も含むことができる。検出システム100の洗浄性は、一般的に、平滑面の存在次第である。生物学的に活性な化合物と接触する表面は、滑らかで、洗浄液が接近でき、さらに、容易にリンス可能であることが好ましい場合がある。広いpH範囲に抵抗性であることになる検出システムの部分に対する材料の選択は、極端なpH値を有している場合が多い生物学的材料に対する習慣的な洗浄液の使用を可能にする。表面の洗浄性は、その殺菌の可能性(sterilizability)も含む。平面のシステムの場合、紫外線殺菌は特に適しているが、対応する紫外線安定度を前提にしている。センサチップ1を構成する紫外線安定材料の選択は、使用に先立つ殺菌に対する紫外線照射処置を可能にする。
【0079】
検出システム100は、任意選択で、バイオセンサ表面上のラベル含有流体の体積並びに面密度を測定するセンサをさらに含むことができる。後者は、例えば、光学測定、圧力測定を使用して、流体を提供するための手段10における体積を測定することにより、又は、流体提供手段20の異なる部分において流体の存在若しくは流体の流速を測定することによって行うことができる。センサ表面への流体の到達時間も、例えば静電容量又は温度の変化により決定することができる。後者は、発光ラベルの応答時間に関するさらなる情報を提供することができる、及び/又は、検出器30、励起手段31の制御に対する入力として、若しくは、流体提供手段20を制御するための制御装置22へのフィードバック信号として使用することができる。検出表面33への流体の到達時間は、分析回路40により考慮に入れることもできる。
【0080】
前記少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用をさらに刺激するようされたアクチュエータも存在することができる。そのようなアクチュエータは、磁場、電場、又は音場であり得る。これは、結合動態を加速することによってアッセイの動力学を高めることができる。アクチュエータは、アッセイの特異性及び感度を高めるために、除去又はストリンジェンシー処理に適用することもできる。
【0081】
センサチップ1は、いわゆるセンサ多重化のために、センサのアレイを含有することができる。異なるセンサを使用して異なる生物学的分子を検出することができ、正又は負の対照として使用することができるか、又は、較正目的のために使用することができる。最新式のバイオセンサにおいて、異なるセンサは、一般的に、同じ試薬に曝露される。これは、例えば同じ種類のラベルが異なるセンサ表面に結合することができるため、交差反応性又は相互汚染といった問題を与えてしまう。試薬層は一般的に薄くあり得るため提供される試薬の制限された量により、及び、短時間のアッセイにより、本発明の特定の実施形態において、一般的に、試薬が基板上の隣接するセンサまで移動するには時間が不十分であり得る。移動距離は約(D.t)1/2になり、Dは拡散係数、及び、tは時間である。短い時間により、試薬は、従って、隣接するセンサには到達せず、交差反応性及び相互汚染の問題を取り除く。これは、バイオセンサにおける多重化の可能性を高める。
【0082】
本発明は、従って、試料のスクリーニングも可能にする。スクリーニングアッセイの制限しない例は以下のものである。一連のセンサには試薬が提供され、該試薬は異なる(生)化学的要素が欠損しているという事実において異なり、試料がその欠損した要素を供給する場合にセンサが正の信号を与え、試料がその欠損した要素を含有していない場合にセンサが負の信号を与えることにおいて特徴づけられる。例えば、この方法において、補助因子の存在を求めて試料をスクリーニングすることができる。
【0083】
第1の態様によるさらなる実施形態及び例が以下に提供される。
【0084】
第2の態様によると、本発明は、試料内の少なくとも1つの標的分子を検出する方法を提供する。後者は、一般的に、試料内の標的分子の定量化も可能にすることができる。そのような標的を検出する方法は、一般的に、少なくとも第1の、試薬を有した溶解可能な層を含んだセンサチップ1に試料を接触させるステップを含む。一般的に、当該方法は、さらに、前記少なくとも第1の溶解可能な試薬層と前記試料流体との相互作用を可能にして、第1の溶解可能な試薬層を溶解する、及び、少なくとも1つのラベルの少なくとも1つの標的分子との相互作用を生じるステップを含む。後者は、例証的な検出方法の標準的及び任意のステップを示した、本発明の第2の態様による方法200の流れ図を示した図6の例により示されている。
【0085】
第1のステップ202において、試料、及び、少なくとも第1の溶解可能な試薬層5を含んだセンサチップ1は、互いに接触される。これは、一般的に、重力又は毛管力によって、例えば試料流体の液滴等、試料流体をセンサチップ1に接触させるステップを含むことができる。あるいは、試料流体を、センサチップ1に向けて能動的又は受動的に汲み出すこともできる。試料をセンサチップ1に接触させるステップは、従って、試料提供手段を制御するステップを含むことができる。
【0086】
第2のステップ204において、当該方法は、少なくとも第1の溶解可能な試薬層5と前記試料流体との相互作用を可能にして、第1の溶解可能な試薬層5を溶解する、及び、少なくとも1つのラベル6の少なくとも1つの標的分子との相互作用を生じるステップを含む。少なくとも第1の溶解可能な試薬層5と試料流体との反応を可能にするステップは、それによって一般的に、検出表面にて少なくとも第1の溶解可能な試薬層5と試料流体との反応を可能にするステップである。後者は、従って、センサチップ1の検出表面33にて/付近で自由な試薬を生じることを可能にする。それは、一般的に、少なくとも1つのラベル6の少なくとも1つの標的分子との相互作用を可能にする。当該方法は、さらに、他の溶解可能な層と試料流体との相互作用を可能にし、従って、行われることになる他の相互作用の要素を提供するステップを含むことができる。ラベルは、溶解可能な試薬層内に又は別の溶解可能な層内に存在することができ、従って、少なくとも1つの標的分子と相互作用するために自由なラベルを生じることができる。あるいは、ラベルは、例えばラベル含有流体をセンサチップ1内に導入することにより、異なる方法で提供することができる。一般的に、溶解可能な層と試料流体との相互作用を可能にするために、試料流体のメニスカスは溶解可能な層上を通過するべきである。後者は、全アッセイ時間よりもはるかに短いタイムスパンを必要とすることが好ましい。一般的に、湿潤は、検出表面上に試料流体のメニスカスを通過させることにより行われる。
【0087】
第3のステップ206において、ラベルベースの検出信号の検出は、選ばれたラベルに従いいかなる適した検出方法によっても行うことができる。認識された適した検出方法には、それだけに限られないが、蛍光検出及びSERRS等の光学検出方法、並びに、例えばHallセンサ、GMR、TMR、又はAMRを使用した磁気検出方法が含まれる。一般的に、当該方法は、従って、ステップ208により示されているように、検出されることになるラベル信号の発生を可能にするラベルを励起するステップをさらに含むことができる。使用されるラベルの種類に応じて、そのような励起するステップは、例えば、試料を照射するステップ、又は、磁気ラベルの方向づけを誘発するために試料に電磁場を提供するステップであり得る。励起するステップが照射するステップである場合、一般的に、使用される照射ビームは、例えば、センサチップ1内の使用された光学ラベルを励起することができるような波長及び/又は強度にされる。励起するステップが電磁場を提供するステップである場合、電磁場は、一般的に、検出システム内の磁気センサで検出可能な磁気ラベルの方向づけを誘発するよう選ぶことができる。
【0088】
検出及び/又は定量化するための検出方法200は、さらに、ラベルベースの検出信号を処理するステップを含むことができる。後者は、ステップ210により示されている。処理するステップは、定性的な、又は、より好ましくは定量的な結果をラベルベースの検出信号から得るステップを含むことができる。処理するステップは、所定のアルゴリズムを使用するステップ、神経回路網を使用するステップ、又は、いかなる他の方法にも基づくことができる。処理するステップは、自動の及び/又は自動化された方法で行うことができる。
【0089】
一実施形態において、検出ステップに先立ち、任意の分離ステップ212を、非結合又は弱く結合したラベルを結合したラベルから分離するために行うことができる。後者は、非結合又は弱く結合したラベルによる検出結果への影響を回避するため、より正確な測定値を得るのに有利であり得る。非結合又は弱く結合したラベルの除去は、生化学的に活性な部分又はタグを介して検出表面に結合した、結合したラベルから非結合又は弱く結合したラベルを取り除くことにより確実にすることができる。後者は、流れ場、音場、重力、電磁場等の物理的又は化学的力を適用して、非結合のラベルを移動させる及び/又は取り除くことによって行うことができる。例証的な分離技術には、リンス、沈降、沈殿、遠心分離、超音波処理、磁場及び/又は電場並びに場の勾配の適用が含まれる。
【0090】
特定の実施形態において、結合及び非結合ラベルの分離ステップは必要とされない場合がある。これは、例えば、標的DNA配列に相補的なオリゴヌクレオチド配列を含み、その二つの末端のそれぞれにて、染料及びクエンチャー(例えばDabcyl)で二重にラベルされた分子ビーコンであるプローブの供給により達成することができる。その閉じられた状態において、染料の信号はクエンチャーによりクエンチされる。相補的な配列が標的DNAとハイブリッドを形成する場合、前記ビーコンは開き、信号を検出することができる。分子ビーコンの1つの例はSERRSビーコンであり、SERRSビーコンは、その2つの末端のそれぞれにて異なる染料で二重にラベルされるプローブである。第2の染料は、適切な金属表面である検出表面上にオリゴヌクレオチドプローブを固定化することができるように特異的に設計される。標的DNAの非存在下で、前記ビーコンは「閉じられた状態」で金属表面上に固定化され、両方の染料に対応する表面増強共鳴ラマン散乱(SERRS)スペクトルを検出する。相補的な配列が標的DNAとハイブリッドを形成する場合、前記ビーコンは開き、染料のうちの1つが表面から取り除かれる。これは、SERRS信号を変化させる。結合及び非結合ラベルの分離が必要とされない別の特定の実施形態において、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)結合の一部を形成する少なくとも2つの蛍光ラベルが存在することができ、第1のラベルは検出ラベルに結合し、第2のラベルは流体内で可動性である。前記2つのラベルが互いに近接している場合のみ、FRET結合の組み合わされた波長で蛍光が検出されるであろう。
【0091】
検出方法200は、較正ステップも含むことができる。従って、ラベルに対するセンサチップの感度及び/又は試薬層の厚さを較正するように、センサ信号を湿潤の前後に測定することができる。そのような較正ステップは、所定のアルゴリズムを使用して行う又は処理することができ、そのような較正ステップの結果を、例えば検出結果の定量化中等、1つの処理ステップにおいて考慮に入れることができる。
【0092】
本発明による検出方法200は、溶液が磁気粒子でプレインキュベートされる磁気抽出及び捕獲アッセイと組み合わせることができる。湿潤の後すぐに、前記粒子はセンサ表面へと引っ張られる。試薬のバーストは、例えば、センサ表面に対する(非)結合の速度、感度、及び特異性を最適化する生化学的条件(例えばpH、塩、有機分子)を局所的に提供することによってセンシング処理を高めることができる。
【0093】
第3の態様によると、本発明は、試料内の1又は複数の分析物を検出するためのセンサチップ1を提供する。特に、センサチップ1は、上記のように検出システム100における使用に対して認識される。試料内の少なくとも1つの標的分子を検出及び/又は定量化するためのセンサチップ1は、ラベル検出を可能にする少なくとも1つのラベル6を含むよう、及び、少なくとも第1の溶解可能な層を提供する検出表面33を含むようされ得る。第1の溶解可能な層5は、一般的に少なくとも1つの試薬を含み、一般的に溶解可能な試薬層5と呼ぶこともできる。溶解可能な試薬層5は、一般的に、検出表面33上に置かれる。溶解可能な試薬層5は、試料流体と接触された場合、一般的に、少なくとも1つのラベル6の少なくとも1つの標的分子との相互作用を可能にし、従って、ラベルベースの検出信号の検出を可能にする。他の特徴、性質、及び利点は、一般的に、本発明の第1の態様におけるセンサチップに対して記述されたものと同じであり得る。
【0094】
第4の態様によると、本発明は、本発明の第1の態様に記述されたセンサチップを少なくとも1つ、緩衝液内の例えば所定の量等ある量の少なくとも1つの標的分子と組み合わせて含めた部分から成るキットを提供する。後者は、正の対照及び/又は標準値として役立つことができる。選択される緩衝液内の少なくとも1つの標的分子は、一般的に、センサチップを用いて行われることになるアッセイの種類次第である。本発明はそれだけに限られず、本発明の種々の態様のうちどれにも記述された、並びに/又は、提供された種々の実施形態及び/若しくは例のうちどれにも記述されたいかなる適した分析又はアッセイにも使用することができるけれども、そのようなセンサチップ1は、例えば、センサチップ上の試薬層内に埋め込まれた酵素基質を変えることができる酵素の酵素活性分析に適している。任意選択で、このキットは、負の対照の測定を行うことを可能にする所定の量の対照流体等の他の要素をさらに含み、それによって、センサチップが、検査される標的分子の非存在を示す負の検出信号を提供することを特に必要とする。
【0095】
本発明の種々の態様が、次に、いくつかの特定の実施形態及び例により示され、本発明はそれに限定されない。
【0096】
第1の特定の実施形態では、第1の態様に対して記述された検出システムが提供されており、検出システム100は、少なくとも1つのセンサチップ1を用いて使用するようされ、センサチップ1は、第1の溶解可能な試薬層5及び第2の溶解可能な層を含んでいる。特に図2の図面を参照すると、センサチップ1の好ましい実施形態が、本発明に従い使用するために示されている。センサチップ1は、検出表面33を含む表面3を有したチップキャリア2、並びに、溶解可能なマトリックス7及び少なくとも1つのラベル6を含んだ第1の溶解可能な試薬層5を含む。ラベル6には、プローブ61が与えられている。適した第1の溶解可能な試薬層5は一般的に検出表面33を覆うことができ、検出表面33に対するラベルの近接を可能にし、その結果、検出時間を短縮する。この第1の溶解可能な試薬層5は、例えば、重力作用若しくは毛管作用等の、又は、任意選択で圧力若しくは真空により寄与された適した手段によって、試料流体と接触させることができる。本実施形態のセンサチップ1の検出表面33は、例えば抗体若しくはオリゴヌクレオチド、標的、又は標的類似体等の捕獲プローブ41を含んだ生物学的に活性な層である第2の層4で覆われる。本例におけるチップキャリア2は、試料内の分析物を示す検出可能な信号を検出するセンシング/検出装置30を含んでいる。
【0097】
第2の特定の実施形態は、第1の態様に対して記述された検出システムを描写しており、当該検出システムは少なくとも1つのセンサチップ1を含むようされ、センサチップ1は、第1の溶解可能な試薬層5、第2の生物学的に活性な表面層4、及び、少なくとも1つの第3の溶解可能な層を含んでいる。特に図3の図面を参照すると、センサチップ1の好ましい実施形態が、本発明に従い使用するために示されている。センサチップ1は、一般的に、検出表面33を含む表面3を有したチップキャリア2、溶解可能なマトリックス7及び少なくとも1つのラベル6を含んだ第1の溶解可能な試薬層5、生物学的に活性な表面層4である第2の層、並びに、スペーシング層である第3の層を少なくとも1つ含むことができる。少なくとも1つの第3の層の例は、保護層、較正、及び/又は緩衝層として機能する層8及び層9により示されている。言い換えると、保護層を提供することができ、較正層と呼ばれる較正に寄与する層を提供することができ、及び/又は、緩衝層を提供することができる。多数の層をバイオセンサ上に適用することが有利であり得る。1つの例は、例えば生物学的に活性な種を含有していない層等の緩衝層として層8を挿入して、バイオセンサの作製中にラベル6が表面層4に結合した捕獲プローブ41に結合するのを抑制することであり得る。別の例は、センサチップ1を用いた検出の較正を可能にするために、センサチップに較正材料を添加することであり得る。さらに別の例は、例えば、処理又は貯蔵中に周囲のカートリッジ材料よって排出される有機汚染物質等の汚染に対する保護及びリフトオフ層として作用するカバー層9を加えることである。センサチップ1が試料流体と接触されると、前記1又は複数の層の溶解可能なマトリックスは、一般的に溶解することができ、その結果、試薬、ラベル、及び任意の較正試薬を提供する。さらなる層の提供は、本実施形態に例示されているように、ラベル6が溶解可能なマトリックス7内に貯蔵され、バイオセンサの作製中に、表面層に結合した捕獲プローブ41に結合されないことを可能にすることができる。後者は、生物学的分子及び/又は生物学的結合が貯蔵及び取り扱い中に変わってしまい、例えば、置換/競合/阻害アッセイ又は他の種類のアッセイに対するバイオセンサを不能にするラベル6とセンサ表面3との非特異的結合を引き起こすため、好ましい。従って、ラベル対表面の結合が、検査流体を用いたアッセイ中に実質的に新たに形成されることが、本発明の特定の実施形態の利点である。第3の特定の実施形態では、第1の態様に従い、又は、第1若しくは第2の実施形態のどちらにも従い記述されたセンサチップが提供され、バイオセンサは多層のバイオセンサであり、標的分子は置換/競合/阻害タイプのアッセイを介して検出可能である。試料は、例えば、薬物乱用検査に対しては唾液でありえ、本実施形態はそれに限定されない。検出表面33にて薬物類似体41を有したセンサ表面3を提供することができる。センサチップ1は一般的に第1の溶解可能な試薬層5を含み、それによって、その溶解可能なマトリックス7内にラベル6を埋め込むことができる。1又は複数の抗薬物抗体61を有したラベル6を提供することができる。試料流体がセンサチップ上に到達した場合、マトリックス7は一般的に流体内に溶解し、ラベル6は可動性になる。図4は、時間の関数としてのセンサ表面3付近の可動性ラベル6の体積測定濃度(C1、m、s)の発展に関する略図である。バーストピークの持続時間及び形状は、例えば、層5の厚さ、層5の材料の溶解率、及び、試料流体内のラベル6の速度により決定される。図4において、矢印150は検出表面の湿潤時間を示し、矢印152は可動性になるラベルを示している。可動性になると、ラベル6は、センサ表面3にて非常に高い濃度で存在する。一時的な高いラベル濃度、及び、検出表面33上の薬物類似体41に対するラベル6の高い生物学的結合性ため、ラベル6が検出表面33に結合するのに必要とされる時間は非常に短い。矢印154は、ラベルが実質的に検出表面から拡散する、又は、検出表面にて結合される瞬間を示している。一方、抗体61は、溶液内で薬物分子、すなわち標的分子に曝露される。薬物分子が抗体61に結合した場合、検出表面33上の薬物類似体41に対するラベル6の結合は弱まる、及び/又は、検出表面33上の薬物類似体41からラベル6の解離を引き起こす。溶液内の低、中、及び高濃度の標的分子に対する検出表面33に結合したラベル6の時間発展は、図5にスケッチされている。矢印150により示されているように、試料は第1の瞬間に濡らされる。所与の試薬層5及び所与のラベル6では、異なる濃度の分析物に対する時間の関数としたセンサ表面に結合した結合ラベルの表面濃度(C1、b、s)における持続時間及び形状が図5に示されている。曲線162は、低濃度の分析物に対する結合ラベルの濃度を示しており、結合ラベルの濃度は高いままでいることを示している。曲線164は、より高い濃度の分析物に対する結合ラベルの濃度を示しており、可動性ラベルの濃度はピークに達した後わずかに落ちることを示している。曲線166は、さらに高い濃度の分析物に対する結合ラベルの予想された濃度を示しており、結合ラベルの濃度はピークに達した後より激しく落ちていることを示している。ラベル6の表面濃度がセンサにより測定された場合、標的の濃度は、信号の時間依存性及び/又は特定時間後の信号サイズから引き出すことができる。ラベル6の検出は、一般的に、光学又は磁気検出法を介して検出表面33にて起こり得る。例えば、Hallセンサ等の磁気センサ30は、検出表面33に対する磁気ラベル6の結合を検出するためにキャリアチップ2内に埋め込むことができる。検出されたラベル6の量は標的分子の量と直接又は逆に比例し、従って、標的の濃度を決定することができる。検査の速度は、薬物と抗体の結合率により制限される。所与の抗体に対して、薬物抗体結合が形成される可能性pは、指値p<1内で時間と共に直線的に増加する。単位時間あたりの前記可能性の増加dp/dtは、
dp/dt=Kon・〔T〕
により与えられる。
onは抗体に対する薬物の結合における結合定数で、例えば、薬物−抗体結合に対して10Lmol−1−1であり、〔T〕は流体内の薬物濃度で、例えば、100nmol・L−1は、dp/dt=0.01s−1を与える。これは、10s後に10%の可能性で抗体−薬物結合が形成されることを意味している。
【0098】
第4の特定の実施形態では、図2に示されているセンサチップが提供されており、バイオセンサは試薬の溶解可能な層で被覆され、標的分子は酵素アッセイにより検出される。試薬の層は一般的に上記のように薄い層でありえ、複数の層を一般的に提供することができる。試料は、例えば、酵素活性を検出するために、酵素を含有した流体試料であり得る。通常、酵素の活性は、特定の時間枠において特定の量の基質を変えるのに必要とされる酵素の量として定義されるユニットで表すことができる。特異的活性も、試料の体積あたりのユニットとして表すことができる。酵素は、プロテアーゼ又はヌクレアーゼ等の切断酵素でありえ、それによって、切断活性を検出することができる。本発明の状況において、酵素は、例えばエンドペプチダーゼ若しくはエンドヌクレアーゼにより切断を、例えばエキソペプチダーゼ若しくはエキソヌクレアーゼにより分解を、又は、(例えばキナーゼ若しくはホスファターゼにより、オキシダーゼ若しくはレダクターゼにより)酵素基質の産物、すなわち分解産物への修飾を促進する生物学的に活性な部分として定義される。酵素は、リン酸基等の生化学的部分を追加若しくは除去するキナーゼ又はホスファターゼ等の修飾酵素でもあり得る。言い換えると、標的分子も、オキシダーゼ又はレダクターゼ酵素により特異的に変わることができる。酵素は、その結果、例えば検出表面上の薄膜の乾燥した試薬内に存在することができる。湿潤後、標的は一般的に変換され、反応産物のうちの1つが検出されるか、又は、さらに処理される。このように、修飾活性を検出することができる。通常、切断は、少なくとも2つの産物部分を放出することができる。酵素基質は、酵素的反応により容易に産物へと変換することができるために蛋白質又はペプチドであり得る。あるいは、酵素基質は、核酸、脂質、糖、及びキレーター等、他の生物学的物質並びに化学的物質であり得る。酵素基質は、試薬層5の一部であり得るか、又は、センサ表面3上に固定化することができる。試薬層5は、一般的に、曝露された試料流体内で溶解することができる。流体試料内の特異的酵素の活性の指標である反応は、センサ表面3付近で生じる。酵素的変換率は、以下のように見積もることができる。装置における所与の酵素基質に対して、酵素基質が酵素により変換される可能性pは、指値p<1内で時間と共に直線的に増加する。単位時間あたりの前記可能性の増加dp/dtは、
dp/dt=Kon・〔E〕
により与えられる。
onは変換定数で、例えば、10L・mol−1・s−1であり、〔E〕は試料流体内の酵素濃度で、例えば、100nmol・L−1は、dp/dt=0.1s−1を与える。これは、1s後に、10%の可能性で酵素基質が変換されることを意味している。試料流体内の酵素濃度〔E〕が例えば1μmol・L−1である場合、dp/dt=1s−1であり、100%近くの可能性で、1秒後に検出表面付近の酵素基質は変換されることを意味している。上記のように、試薬の急速な溶解及び拡散はバーストプロセスである。拡散が優勢な輸送機構である場合、適した層の厚さLは、
【数3】

から見積もることができ、Dは溶解された試薬における活性部分の拡散係数であり、tは所望の反応時間である。酵素基質が小さな蛋白質である場合、蛋白質が溶液内に放出されると、Dは10−10・s−1程度のものである。1sの所望の反応時間で、適した層の厚さLは約10μmである。はるかに薄い層は、反応工程中、酵素基質濃度の強度の時間依存性を与えることになる。はるかに厚い層は、不必要に多量の試薬を消費し、さらに、検出表面3からさらに離れた、例えば酵素基質の酵素的変換における産物等の標的分子の分布を生じる。酵素が、例えば300nmのサイズを有したナノ粒子等のより大きな物質に結合した場合、Dは10−12・s−1程度のものである。10sの所望の反応時間で、適した層の厚さLは約3μmである。
【0099】
第4の実施形態のうち第1の特定の例において、試薬は、ラベルされた酵素基質(6、61)を含むことができる。センサ表面3は、一般的に、例えば抗基質抗体等の基質結合部分4で被覆される。例えば、水和のために糖分子を含有した部分を溶解可能な保護層内に埋め込むことができる。センサチップ1を試料流体で濡らした後、一般的に2つの事象が同時に起こり得る。試料由来の酵素は、一般的に、ラベルされた酵素基質(6、61)からラベル6を切断することができ、その結果酵素基質61を放出し、一方、センサ表面3上の抗基質抗体41は、ラベルされた酵素基質(6、61)も(切断された、脱ラベルの)酵素基質61も捕獲する。このように、調査中の酵素の切断活性は、ラベル6がセンサ表面3に結合する機会を減らす、及び/又は、センサ表面3から既に結合したラベル6を解放する。
【0100】
第4の実施形態のうち第2の特定の例において、センサ表面3は、一般的に、酵素的変換の産物に選択的に結合する産物結合部分41で被覆される。
【0101】
第4の実施形態のうち第3の特定の例において、試薬層5内の酵素基質61は、ラベル6に予め結合され、ビオチン等のタグを有している。センサ表面3は、ストレプトアビジン等のタグ結合部分41で被覆することができる。
【0102】
第4の実施形態のうち第4の特定の例において、試薬層5は、抗基質抗体等の基質結合部分61に予め結合したラベル6を含むことができる。センサ表面3は、酵素基質41で被覆される。ラベル6は、例えばビオチン等のタグを有したラベルであり得る。センサ表面3は、一般的に、ストレプトアビジン等の利用可能なタグ結合部分が与えられた酵素基質41で被覆することができる。
【0103】
第4の実施形態のうち第5の特定の例において、試薬層5は、第1及び第2のタグを有した酵素基質61を含み、さらに、前記第1のタグに結合することができる部分が与えられたラベル6を含有している。センサ表面3は、前記第2のタグに結合することができる捕獲プローブ41で被覆される。適したタグ/タグ結合の対は、例えば、アビジン/ビオチン、ストレプトアビジン/ビオチン、ハプテン/抗体、蛋白質/抗体、ペプチド/抗体、蛋白質/炭水化物、蛋白質/蛋白質、核酸/核酸、蛋白質/核酸、ハプテン/核酸である。
【0104】
第4の実施形態のうち第6の特定の例において、試薬層5は酵素基質を含み、酵素的変換の産物は、上記のように、競合−置換−阻害アッセイにおいて検出される。
【0105】
第4の実施形態のうち第7の特定の例において、試薬層5は、分析物特異的酵素、及び、ラベル6に予め結合された産物感受性化合物を含む。例えば、試料内の検出されることになる分析物はグルコースであり得る。センサチップを濡らした後、試料内のグルコース分子は、試薬層5内に存在するグルコースオキシダーゼにより過酸化水素へと変換される。この酸化による反応産物は、後に、例えば、ホスファターゼ等の蛋白質内に埋め込まれたシステイン残基等の酸化感受性部分と相互作用する。酸化感受性部分の酸化状態に感受性がある抗体41で行われるイムノアッセイは、流体試料内のグルコースレベルを示す。
【0106】
別の例において、検出されることになる分析物は、酵素的変換において調節作用を有しており、例えば、プロモーター、アクチベーター、インヒビター、又は、コファクターである。乾燥試薬多層は、酵素及び酵素基質を含んでいる。バイオセンサを濡らした後、酵素及び酵素基質は、溶液内に分散される。後に、溶液内の分析物の濃度に依拠した速度で酵素産物が生じる。前記産物を、次に、検出することができる。好ましくは、酵素基質は検出ラベル6に予め結合され、検出表面33には抗産物抗体41が与えられる。あるいは、産物類似体が、検出ラベル6又は検出表面33に予め結合される。好ましくは、検出ラベル6は磁気粒子である。
【0107】
別の例において、産物結合部分61はラベル6に予め結合され、産物類似体41はセンサ表面3上に存在する。さらなる例において、産物類似体61はラベル6に予め結合され、センサ表面3は産物結合部分41で被覆される。前述したように、1又は複数のタグを有した構造物も可能である。
【0108】
別の好ましい実施形態において、分散工程中、磁気操作が使用される。この工程は、再懸濁工程又は再分散工程とも呼ばれる。この実施形態では、乾燥した試薬が分散され、再分散中及び/又は再分散後に磁気操作が適用される。最も好ましい実施形態では、磁気粒子に結合された試薬が、磁場の適用によりセンサ表面に引きつけられる。この磁気操作はセンサ表面に対する結合処理を加速すると判った。任意選択で、別の操作ステップにおいて、非結合又は非特異的に結合した磁気ビーズが、後に、センサ表面から取り除かれる。この磁気操作は、センサチップ、並びに、センサ表面の一側面に置かれた磁気操作のためのシステム、及び、センサ表面のもう一方の側面に置かれた第2の磁気操作システムを含んだ読み取りシステムを用いて適切に実行することができる。
【0109】
さらに別の例において、標的分子は小さな有機分子であり、一般的に、小さすぎて抗体等の利用可能な捕獲分子では検出することができない。従って、湿潤後に、酵素が基質標的複合体を生じ、例えばその基質標的複合体に対する特異性を有した抗体を使用してより容易にその基質標的複合体を検出することができるように、試薬層は酵素及び適した融合部分を含むことができる。
【0110】
本発明の第5の実施形態によると、関心のある分析物はヌクレオチドであり、本発明の方法は、配列が関心のある分析物の少なくとも一部に相補的又は類似の、特に、分析物に特異的な分析物の配列のヌクレオチドプローブである、少なくとも1つのラベルされた分析物特異的プローブの使用を含む。このヌクレオチドプローブは、上記の分析物の特異的検出を可能にするようラベルに結合される。熱調節がハイブリダイゼーション反応を適切に支持することができるように、温度制御をヌクレオチドの検出のために検出システムに含むことができる。
【0111】
上記の実施形態のうちどの実施形態にも従ったさらに別の特定の実施形態において、センサチップ上の溶解可能な層は、既知の量の標的分子又は標的類似体をオンチップアッセイの較正のために含むことができる。後者は、センサチップの較正を可能にし、従って、より正確な結果を得ることを可能にしている。
【0112】
上記の実施形態のうちどの実施形態にも従った別の特定の実施形態において、センサチップ上の溶解可能な層4、5は、不活性な部分41、61、インヒビター、及び/又はブロッキング剤を含むことができる。
【0113】
上記の実施形態のうちどの実施形態にも従った別の特定の実施形態において、センサチップ上の溶解可能な層は、相互に生物学的に活性であるが、調査されることになる試料内に通常存在する要素に対して活性を有していない捕獲プローブ41、61を含むことができる。
【0114】
上記の実施形態のうちどの実施形態にも従った別の特定の実施形態において、センサチップ上の溶解可能な層は、例えば折り畳み、遮蔽、キャップ形成、若しくはマスキング条件によって、又は、保護剤の存在によって生化学的活性が減少される要素を少なくとも1つ含むことができる。保護剤は、例えば処理、貯蔵、及び取り扱い中に要素を保存するよう役立つことができる。センサチップ上の溶解可能な層は、例えば保護剤の作用を逆転させるために活性化酵素も含むことができる。例えば、表面が濡らされた場合、この活性化酵素は溶液内に分散され、生物学的に活性な要素を活性化する。
【0115】
本発明の種々の実施形態は、多数の有用なバイオアッセイが高速及び費用効果の高い様式で実行されるのを可能にしている。多数の色素生産性ラベルを、マイクロアレイ技術、フローサイトメトリー、2つの色素生産性染料分子における電子励起状態の相互作用により生じる蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づいた検出、例えばリアルタイム核酸検出及びリアルタイムPCR定量化等の分子ビーコンベースの検出技術、表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強蛍光(SEF)、又は、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)等の表面増強検出技術、マイクロフルイディック検出等において使用することができる。一部の実施形態において、本発明の検出システムは、励起光が上から表面に入射することを意味する落射蛍光バイオセンサであるが、励起光が下から入射し、バイオセンサ
を通り透過することを意味する透過型バイオセンサでもあり得る。
【0116】
本発明は、本発明によるシステムを調製する方法をさらに提供し、当該方法は、
(a)検出表面を有したセンサチップを提供するステップ、
(b)試薬を含んだ流体組成物に前記表面を接触させるステップであり、前記流体組成物が界面活性物質を本質的に含んでいない緩衝組成物である、ステップ、
(c)前記検出表面上に層を形成するために、反応物を有した前記緩衝組成物を乾燥させるステップ、
を含む。Tween等の界面活性物質を本質的に含んでいない乾燥用緩衝組成物の使用が、センサ表面に対する磁気粒子等の標的化合物の特異的結合を増加させることが意外にも判った。この状況において、界面活性物質を本質的に含まないとは、0.01%未満、より好ましくは0.001%未満の界面活性物質、より好ましくは0.0001%未満の界面活性物質を意味している。
【0117】
本発明は、高並列微細加工及び高並列処理に適した固体マイクロ技術も提供する。これは、診断アッセイにおける多重化を可能にする。この技術は、層の厚さ、試薬の組成物、異なる層の組合せ等、試薬変数の迅速なスクリーニングを可能にする。検出は、チップキャリア内に統合されたセンサ、又は、外部の機器(例えば光学イメージング)を使用したモニタリングで行うことができる。
【0118】
本発明の特定の実施形態の利点は、試料流体を接触させ、アッセイ時間を短縮する並びにアッセイの感度及び特異性を改善する1又は複数の試薬層を溶解した後すぐに最適なアッセイ状態が作られることである。例えば薄い試薬層の供給、及び、最小限の試薬の量に対して結果として生じる要求物の供給により費用効果の高い検出が得られることが本発明の特定の実施形態の利点である。
【0119】
アッセイ中のセンサ上又はラベル上での捕獲層の新たな形成があり得ることが本発明の特定の実施形態の利点である。ラベル又はセンサがタグ結合部分を含有する一方で、試薬は、例えばビオチン化された抗体又はビオチン化された分子ビーコン等のタグを有した捕獲又は検出部分を例えば含有することができる。生物学的複合体の新たな形成は、短命な複合体に対して、及び、より長い時間尺度で非特異的結合を起こしやすい複合体(例えば、センサ表面に対する粒子クラスター形成の非特異的結合)に対して利点を有している。
【0120】
バイオセンサにはセンサの表面上に試薬の薄い層が与えられることが本発明の特定の実施形態の利点である。センサチップが流体により濡らされると、試薬は急速に溶解し、センサ表面は試薬のバーストに曝露され、すなわち、センサ表面はすぐに高濃度の試薬に曝露される。薄い層及び高速のアッセイのため、センサのアレイを異なる試薬及び独立したアッセイで作製することができる。多層の適用は、オンチップアッセイの較正を可能にすることができる。提案されたバイオセンサは、高速のアッセイ、少ない試薬の使用、多重化、較正、及び少ない試料体積の可能性を有している。言い換えると、短いアッセイ時間及び実質的に即時のラベル検出を得ることができる。
【0121】
磁気バイオセンサにおける小さな有機分子の検出が可能になることが本発明の特定の実施形態の利点である。一般的に、例えば融合等の酵素的修飾により検出可能な複合体が得られるけれども、小さな有機分子は小さすぎて抗体等の入手可能な捕獲分子では検出することができない場合がある。試薬層内に酵素及び/又は適した融合部分を提供することにより、感度の高い及び迅速な検出を得ることができる。
【0122】
本発明を具体化する溶解可能な試薬層を有したバイオセンサの目的を成し遂げるための他の配置が当業者には明らかになる。好ましい実施形態、特定の構成及び配置、並びに材料が、本発明による装置に対して本明細書において記述されてきたけれども、形状及び詳細における種々の変更又は修正を本発明の範囲及び真意から逸脱することなく行うことができるということを理解されたい。
【0123】
本発明は、以下の制限しない実施例により説明される。
【実施例1】
【0124】
モデルシステムとして、試料流体由来のモルヒネがセンサ表面上に固定化されたモルヒネと抗モルヒネ抗体に結合された磁気粒子上の結合部位において競合するモルヒネ競合アッセイを使用した。内部全反射(FTIR)を、射出成形Cyclo Olefin Polymer(COP/Zeonex)から作製されたセンサ表面上のMPの検出に使用した。FTIRは、センサ表面上に結合している磁気粒子をリアルタイムでモニタリングするのに適している。
【0125】
〔緩衝液及び試薬〕
MES saline buffer(25mM MES、150mM NaCl、2mM EDTA、0.05% Tween20 pH7.4)、ホウ酸緩衝液(50mM ホウ酸ナトリウム、0.05% Tween20、pH9)、Coating buffer(15mM 炭酸ナトリウム、35mM 炭酸水素ナトリウム、0.05%Na−アジド、pH9.6)、Drying buffer(50mM TRIS−HCl、1%/5%BSA、5%トレハロース/スクロース)、再分散緩衝液(50mM Tris−HCl、0.1%BSA、0.05%Tween20、pH8)、又は、(76mM Na2HPO4、4mM KH2PO4、400mM NaCl、アジド、0.1%TritonX405、pH8)。BSA−モルヒネ溶液(15mM Na2CO3中10μg/mL BSA−モルヒネ、35mM NaHCO3、0.03%NaN3、pH9.6)及び抗モルヒネ抗体1mg/mLは、Cozart Bioscience社(Oxfordshire、UK)により親切にも提供された。Carboxyl−Adembeads300nm及びStorage bufferをAdemtech社(Pessac、France)から購入した。EDC(N−3−ジメチルアミノプロピル−N−エチルカルボジイミドヒドロクロリド)及びNHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)をPierce社(IL、USA)から購入した。
【0126】
〔基板〕
Cyclo Olefin Polymer(COP/Zeonex)、及び、約1.52の屈折率を有した透明プラスチックのポリスチレン射出成形基板上で実験を行った。水溶液は、表面の疎水性特徴を示す(90°を超える)高い接触角をこれらの基板上で示し、明確な溶液の位置づけを可能にしている。
【0127】
〔バイオコンジュゲーション〕
磁気粒子濃縮装置(Dynal MPC−1、Magnetic Particle Concentrator、Dynal Biotech ASA社)を使用して、Carboxyl−Adembeads(Ademtech社)300nmの磁気粒子を1体積のMES saline bufferにおいて2回洗浄した。そのビーズを、10mg/mL(1%の固体重量)でMES saline bufferにおいて再懸濁した。カルボキシル基を活性化するために、HOにおいて1:1で混合された40mg/mL EDC及び40mg/mL NHSを用いて1000RPM(Thermomixer Comfort、Eppendorf、USA)で振盪しながら、ビーズを37℃で30分間インキュベートした。活性化されたビーズをMES saline bufferで1回、ホウ酸緩衝液で1回洗浄し、最終的に10mg/mLでホウ酸緩衝液において再懸濁した。結合前に、凝集を回避するために、ソニケータープローブ(VCX130、Sonics Vibra−Cell、Sonics&Materials,Inc.社、USA)を使用して、3回、40%の振幅で3秒間前記ビーズを超音波処理した。抗モルヒネ抗体を前記ビーズの溶液に2.8μg/mLで添加して、1000RPMで振盪しながら20℃でインキュベートし、その後、ソニケータープローブを使用して、3回、40%の振幅で3秒間超音波処理した。残りの活性カルボキシル基を不活性化するために、前記ビーズを、1000RPMで振盪しながら0.1Mグリシンを用いて20℃で30分間インキュベートした。被覆されたビーズを2時間ホウ酸緩衝液で洗浄し、次に、新たな試験管に移し、最後に2つの体積のStorage bufferで洗浄した。前記ビーズを、10mg/mLでStorage bufferにおいて4℃で貯蔵した。
【0128】
〔アッセイ〕
表面被覆
4℃で加湿した環境において、ポリスチレン基板を一晩Coating buffer中10μ/mLのBSA−モルヒネ2μLで被覆した。インキュベーション後、前記表面を100μLのPBSで3回洗浄した後に風乾した。
乾燥処理
抗モルヒネ抗体に結合した磁気ビーズをボルテックスすることにより再懸濁し、一定分量をきれいな試験管に移した。磁気粒子濃縮装置を使用して、そのビーズをDrying bufferにおいて3回洗浄した。前記ビーズをDrying bufferにおいて2%の最終濃度で再懸濁し、そのうち1μLをBSA−モルヒネコーティングの上面に堆積させた。乾燥処理は、閉じた箱の中でシリカの袋を使用して一晩実行してきた。
再分散処理
乾燥した試薬を、13μLのアッセイ緩衝液を添加することにより再分散した。再分散後、結合処理を加速するために、センサ表面下の電磁石を使用して磁場を適用することにより磁気粒子を表面に結合させた。表面の上に配置された電磁石を使用して、非結合のビーズを表面から取り除いた。再分散処理、表面に対するMPの結合及び洗浄の後に、光学イメージングを続けた。
【0129】
〔結果〕
実験を、基板表面上に乾燥試薬の非常に薄い層を用いて、超高速モルヒネ競合アッセイ上で行った。これらの実験に対して、BSA−モルヒネで被覆したポリスチレン基板の上面で2%抗体-結合磁気粒子溶液を乾燥させた。
【0130】
0ng/mlモルヒネを含有した緩衝液における2%磁気粒子(MP)層(1%BSA中抗モルヒネ抗体に結合した2%MP、5%トレハロース、50mM Tris、pH8.5)の再懸濁は、再分散中のセンサ表面に対するMP結合を生じた。再分散後の磁気操作は表面に対するMPの結合を増加させることが判った。10ng/mlのモルヒネを含有した緩衝液における再懸濁、操作、及び磁気洗浄と比較として、モルヒネのない緩衝液における再懸濁、操作、及び磁気洗浄の間の表面上に保持されたMPの量における差により示されているように、これらの結合は特異的であると判った。
【0131】
抗原で被覆された表面上に堆積された超常磁性ナノ粒子に結合した抗体に対しては、2種類の反応層を互いに反応することなく互いの上面に堆積することができると結果は示した。さらに、短いアッセイ時間を要求するバイオセンサに有用な、作製しやすいバイオ層(bio−layer)堆積の方法を示す、超高速(秒)の再分散アッセイ原理が示されている。
【0132】
図7は、モルヒネ濃度対MP結合による光学信号の差における用量反応曲線を示している。モルヒネ含有溶液内でのMPの再分散が、再分散、操作、及び磁気洗浄後の光学信号における用量依存的な減少を示したと観察した。これらの結果は、このアッセイ機構が、機能化された基板表面上への抗体が結合したMP層の直接的な堆積に非常に適していると示している。
【実施例2】
【0133】
モデルシステムとして、試料流体由来のモルヒネがセンサ表面上に固定化されたモルヒネと抗モルヒネ抗体に結合されたMP上の結合部位において競合するモルヒネ競合アッセイを使用した。内部全反射(FTIR)を、射出成形ポリスチレンから作製されたセンサ表面上のMPの検出に使用した。
【0134】
これらの実験に対して、4℃で加湿した環境において、ポリスチレン基板を一晩2μL BSA−モルヒネ溶液(15mM NaCO中10μg/ml BSA−モルヒネ、35mM NaHCO、0.03%NaN3、pH9.6)で被覆した。インキュベーション後、前記表面を1mlのHOで3回洗浄し、抗モルヒネ抗体に結合した1μlの1%w/vMPを前記BSA−モルヒネコーティングの上面に堆積させた。0.1%非イオン界面活性剤(Tween20)の存在を有した又は有していないDrying buffer(1%BSA、5%トレハロース、50mM Tris、pH8.5)においてビーズを事前に1:1に希釈した。MPの乾燥処理は、乾燥状態(シリカの袋)において24時間実行してきた。上部の流体カートリッジを光学カートリッジの上に接着させ、乾燥した試薬の再分散を、13μgのアッセイ緩衝液(NaHPO 10.76g/L、KHPO 0.577g/L、NaCl 23.38g/L、0.01%Na−アジド)を添加することにより行った。CCDカメラ機構を使用して、光学信号を1分間モニターした。
【0135】
図8は、再分散、操作、及び磁気洗浄中のFTIR信号を示している。1%MP−乾いた層の再分散の速度及びレベルは、どちらもDrying bufferと比較することができ、90%に近かったことを観察した。この計算は、きれいな未処理の表面の光学信号を測定し、ビーズが堆積された領域と比較して得ることができる。
【0136】
誘引ステップ中、TBT buffer(Tween20(登録商標)無しの緩衝液)において乾燥したMPは、(Tween20(登録商標)を有した)T bufferにおいて乾燥したMPに対してより多い量で表面に達し、非常に低い濃度のビーズが表面にて存在する。より多くのビーズが機能化された表面に引きつけられ、より多くのビーズが抗原に結合する機会を有していると気づくことが重要である。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのセンサチップを有し、ラベル検出を可能にする少なくとも1つのラベルを受けるようされた、少なくとも1つの標的分子を検出するための検出システムであって、
前記少なくとも1つのセンサチップが、試薬を含んだ少なくとも第1の溶解可能な層を有する検出表面を含み、
前記少なくとも第1の溶解可能な層が、前記少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用を可能にし、従って、ラベルベースの検出信号の検出を可能にするようされる、検出システム。
【請求項2】
少なくとも1つのラベルを検出するための検出器を含む、請求項1に記載の検出システム。
【請求項3】
前記検出器が、磁気検出器若しくは光学検出器、又は、その組合せである、請求項2に記載の検出システム。
【請求項4】
前記第1の溶解可能な層が1μmから50μmの厚さを有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項5】
前記センサチップが、該センサチップの前記検出表面上に固定化された捕獲プローブを提供する第2の層をさらに含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項6】
前記捕獲プローブが、前記少なくとも1つのラベル、又は、該少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用の結果の前記センサチップの検出表面上への固定化を可能にするようされる、請求項5に記載の検出システム。
【請求項7】
前記センサチップが、較正試薬を提供する較正層を少なくとも1つさらに含み、前記較正層が、較正を可能にするようされた溶解可能な層である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項8】
前記センサチップが、保護を与えるために前記少なくとも第1の溶解可能な層の上面に置かれた保護層をさらに含み、前記保護層は溶解可能な層である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのラベルが前記少なくとも第1の溶解可能な層内に含まれる、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項10】
操作システムを含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項11】
磁気操作手段を含む、請求項1に記載の検出システム。
【請求項12】
前記検出表面への前記試料の到達時間を決定するセンサをさらに含む、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項13】
前記試料流体又はその一部の体積を測定するようされたセンサをさらに含む、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項14】
前記検出表面が多孔性の表面である、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項15】
前記少なくとも1つのラベルが標的特異的ラベルである、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の検出システム。
【請求項16】
試料内の少なくとも1つの標的分子を検出する方法であって:
試薬を含んだ少なくとも第1の溶解可能な層を有した検出表面を有するセンサチップと試料を接触させるステップ、
前記検出表面の前記少なくとも第1の溶解可能な層と前記試料流体との相互作用を可能にし、従って、少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用を可能にするステップ、及び
ラベルベースの検出信号を検出するステップ、
を含む方法。
【請求項17】
操作ステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ラベル検出を可能にするために少なくとも1つのラベルを受けるようされ、試薬を含んだ少なくとも第1の溶解可能な層を有する検出表面を含む、試料内の少なくとも1つの標的分子を検出するためのセンサチップであって、
前記少なくとも第1の溶解可能な層が、前記少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用を可能し、従って、ラベルベースの検出信号の検出を可能にするようされる、センサチップ。
【請求項19】
試料内の少なくとも1つの標的分子を検出する部分から成るキットであって、
ラベル検出を可能にするために少なくとも1つのラベルを受けるようされたセンサチップ、及び、
緩衝液内の所定の量の少なくとも1つの標的分子を含み、
前記センサチップが、試薬を含んだ少なくとも第1の溶解可能な層を有する検出表面を含み、
前記少なくとも第1の溶解可能な層が、前記少なくとも1つのラベルの前記少なくとも1つの標的分子との相互作用を可能にするよう、従って、ラベルベースの検出信号の検出を可能にするようされる、キット。
【請求項20】
負の対照として、少なくとも1つの標的分子を含まない緩衝液をさらに含む、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
請求項1に記載のシステムを調製する方法であって、
(a)検出表面を有したセンサチップを提供するステップ、
(b)試薬を含んだ流体組成物に前記表面を接触させるステップであり、前記流体組成物が界面活性物質を本質的に含んでいない緩衝組成物である、ステップ、
(c)前記検出表面上に層を形成するために、反応物を有した前記緩衝組成物を乾燥させるステップ、
を含む方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−506191(P2010−506191A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531965(P2009−531965)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054131
【国際公開番号】WO2008/044214
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】