説明

認知課題反応計測システムおよび認知課題反応計測方法

【課題】 比較的安価に、認知課題反応の正確な計測を行うことができ、しかも被験者
に行わせる作業の変更にも柔軟に対応することができる認知課題反応計測システムおよび
認知課題反応計測方法を提供する。
【解決手段】 反応検出用のタッチパネルをディスプレイの画面に設ける。グラフィカ
ルプログラミング言語を利用したプログラムにより、ディスプレイの画面に認知課題14
および複数の反応ボタン15a〜15eを表示するとともに、その認知課題14に対して
被験者がタッチパネル上から選択した反応ボタンに触れた時の反応時間の計測を行う。反
応ボタン15a〜15eは認知課題表示ボタン16から等距離に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、認知課題反応計測システムおよび認知課題反応計測方法に関し、特に、ヒ
トあるいはその他の動物の高次脳機能の評価や各種の刺激、疾病あるいは外傷などが高次
脳機能に与える影響の評価などに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
種々の刺激が高次脳機能に及ぼす影響を評価するためには、機能の変化を敏感に、かつ
効率よく検出することが必要である。この評価法の一つに、認知課題に対する反応時間を
計測する方法がある。この方法では、従来、専用の反応計測装置であるタッチパネル・デ
ィスプレイ一体型入力装置を用いて認知課題の反応時間を計測させたり、キーボード、専
用ボタンスイッチあるいはマウスなどのポインティングデバイスを入力装置として用い、
ディスプレイ画面上に表示される認知課題に対して被験者がこの入力装置を操作し、パー
ソナルコンピュータに認知課題の反応時間を計測させていた。
【0003】
特許文献1には、空間内の複数位置に配置され被験者による操作を受け付ける操作入力
手段と、この操作入力手段のうち何れを操作すべきかを被験者に対して指示する指示手段
と、この指示手段が被験者に対する指示を実行してから操作入力手段が被験者による操作
を受け付けるまでの時間差である反応時間を測定する反応時間測定手段とを少なくとも具
備し、被験者が操作する操作入力手段の体中心に対する相対的な配置と被験者が該操作入
力手段を操作するときに駆使する身体部位の体中心に対する相対的な配置とが不適合であ
る条件下での反応時間を測定し得るように構成した高次脳機能障害診断装置が開示されて
いる。しかしながら、この高次脳機能障害診断装置では、操作入力手段が例えばデスク上
などのディスプレイの外部に配置される点で、この発明とは大きく異なるものである。
【特許文献1】特許第3598385号明細書
【0004】
なお、前頭前野を賦活化することが確認されているストループ(Stroop)課題が知られ
ている(非特許文献1)。また、カフェインが脳酸素動態に及ぼす影響と改変ストループ
課題成績との関連性について報告されている(非特許文献2)。
【非特許文献1】Journal of Experimental Psychology, 1935, 18:643-662
【非特許文献2】脈管学 第43巻第8号(2003年)pp.355-358 日本脈管学会
【0005】
また、グラフィカルプログラミング言語として、LabVIEW(日本ナショナルイン
スツルメント株式会社製)が知られている(非特許文献3)。
【非特許文献3】[平成17年1月26日検索]、インターネット〈URL:http://www.ocs-lv.co.jp/LabVIEW/〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来の認知課題反応計測システムでは、タッチパネル・ディスプ
レイ一体型入力装置を用いる場合には、認知課題に対する反応を正確に捉えることは可能
であるものの、オーダーメードが必要となり、装置が非常に高額となるばかりでなく、被
験者に行わせる作業を変更する毎に専用装置が必要となり、融通がきかないという欠点が
ある。また、キーボードを入力装置に用いる場合には、ディスプレイの画面上の選択部分
と入力装置との空間的不一致があり、専用ボタンスイッチを入力装置として用いる場合に
は、複数ボタンと複数選択肢との対応を考えるための思考努力が必要となり、マウスなど
のポインティングデバイスを入力装置として用いる場合には、マウスを滑らせることなど
によってポインタを動かすための動作時間が余分にかかるなど、いずれも認知課題反応を
正確に捉えることが困難であるという欠点がある。
【0007】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、比較的安価に、認知課題反応の正確な計
測を行うことができ、しかも被験者に行わせる作業の変更にも柔軟に対応することができ
る認知課題反応計測システムおよび認知課題反応計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明は、
反応検出用のタッチパネルが画面に設けられたディスプレイと、
上記ディスプレイの画面に認知課題および複数の反応ボタンを表示するとともに、上記
認知課題に対して被験者が上記タッチパネル上から選択した上記反応ボタンに触れた時の
反応時間の計測を行う制御装置とを有することを特徴とする認知課題反応計測システムで
ある。
【0009】
ここで、反応検出用のタッチパネルは入力装置として用いられる。入力装置としてタッ
チパネルを用いることにより、マウスなどのポインティングデバイスを用いずにポインタ
を被験者である入力者がディスプレイの画面上の任意の位置に自由にかつ瞬時に移動・配
置させることが可能となる。タッチパネルが画面に設けられたディスプレイは、タッチパ
ネルをディスプレイの画面に取り付けたものであってもよいし、最初から画面がタッチパ
ネルで構成されたタッチパネルディスプレイであってもよい。ディスプレイは、CRTデ
ィスプレイや液晶ディスプレイなどの各種のものであってよい。制御装置は、必要に応じ
て、認知課題に対して被験者がタッチパネル上から選択した反応ボタンに触れた時の正誤
の判定も行うように構成する。ディスプレイの画面において、複数の反応ボタンは、反応
ボタンを配置する位置による反応時間の差をなくすため、好適には、所定の基準点から等
距離の位置に配置される。反応ボタンの数は必要に応じて決められるが、一般的には3以
上である。
【0010】
ディスプレイの画面への認知課題および複数の反応ボタンの表示、反応時間の計測なら
びに正誤の判定は、種々のプログラミング言語を用いてプログラムを作成することにより
行うことができるが、例えばグラフィカルプログラミング言語を用いてプログラムを作成
することにより、簡便に行うことができる。このグラフィカルプログラミング言語を用い
て作成したプログラムにより、ディスプレイの画面上の任意の位置に反応ボタンを配置す
ることができる。こうして作成された、グラフィカルプログラミング言語を利用したプロ
グラムとディスプレイの画面に設けられたタッチパネルとの組み合わせにより、ディスプ
レイの画面上の任意の位置に反応ボタンを配置して、ディスプレイの画面に表示される認
知課題に対してそれをタッチパネル上から触れることにより、あたかも反応ボタンがそこ
に存在し、それに触れることと同等の効果を実現することができる。
【0011】
第2の発明は、
反応検出用のタッチパネルが画面に設けられたディスプレイの画面に認知課題および複
数の反応ボタンを表示するステップと、
上記認知課題に対して被験者が上記タッチパネル上から選択した上記反応ボタンに触れ
るステップと、
上記認知課題を表示した時から上記被験者が上記反応ボタンに触れた時までの反応時間
の計測を行うステップとを有することを特徴とする認知課題反応計測方法である。
【0012】
この認知課題反応計測方法は、必要に応じて、被験者が選択した反応ボタンに触れた時
の正誤の判定を行うステップをさらに有するようにする。
第2の発明においては、上記以外のことについては、第1の発明に関連して説明したこ
とが成立する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、ディスプレイの画面への認知課題および複数の反応ボタンの表示、
反応時間の計測ならびに正誤の判定を行う機能は、例えばグラフィカルプログラミング言
語を用いてプログラムを作成することにより、制御装置に簡単に持たせることができ、被
験者に行わせる作業の変更にも柔軟に対応することができる。そして、こうして作成され
た、グラフィカルプログラミング言語を利用したプログラムとタッチパネルとの組み合わ
せにより、総合的に、専用の反応計測装置であるタッチパネル・ディスプレイ一体型入力
装置を用いる場合に比べて比較的安価に認知課題反応計測システムを構成することができ
る。また、キーボードを入力装置に用いる場合のように、ディスプレイの画面上の選択部
分と入力装置との空間的不一致もなく、専用ボタンスイッチを入力装置として用いる場合
のように、複数ボタンと複数選択肢との対応を考えるための思考努力も不要となり、マウ
スなどのポインティングデバイスを入力装置として用いる場合のように、マウスを滑らせ
ることなどによってポインタを動かすための動作時間が余分にかかることがなく、認知課
題反応の正確な計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1はこの一実施形態による認知課題反応計測システムを示す。図1に示すように、こ
の認知課題反応計測システムは、認知課題表示制御、反応計測および正誤判定を行う制御
装置(コンピュータ本体)11と認知課題表示および反応ボタン表示を行うディスプレイ
12とを有する。ディスプレイ12の画面には、透明なタッチパネル13が設けられてい
る。このタッチパネル13は、ディスプレイ12の画面に取り付けたものであってもよい
し、ディスプレイ12としてタッチパネルディスプレイを用いた場合にはその画面を構成
するタッチパネルであってもよい。このタッチパネル13は反応検出用の入力装置として
用いられる。
【0015】
図2に示すように、制御装置11は、プロセッサ11a、主記憶装置(メインメモリ)
11b、補助記憶装置11cなどを有する。補助記憶装置11cとしては、ハードディス
クドライブなどの各種のものを用いることができ、制御装置11に内蔵されたものであっ
ても外付けのものであってもよい。この補助記憶装置11cには、グラフィカルプログラ
ミング言語を利用したプログラムが格納されている。このプログラムの実行の際には、補
助記憶装置11cから主記憶装置11bにこのプログラムが読み込まれ、プロセッサ11
aによってそのプログラムが実行される。図示は省略するが、制御装置11には、必要に
応じて、キーボードなどの他の入力装置や他の周辺機器を接続してもよい。
【0016】
この一実施形態では、グラフィカルプログラミング言語を利用したプログラムの設計に
より、ディスプレイ12の画面に認知課題および複数の反応ボタンを表示し、表示された
認知課題に対して被験者がタッチパネル13上から、選択した反応ボタンにタッチペンや
指などで触れることで反応(回答)した時の反応時間の計測や正誤判定を行うことができ
るようになっている。また、認知課題の表示は、一対一に対応した数値によって制御され
るように設計されており、これにより、出現頻度などの設定や正誤判定などが容易となる

【0017】
グラフィカルプログラミング言語としては、例えば、LabVIEW(非特許文献3)
を用いることができる。LabVIEWは計測制御用グラフィカルプログラミング開発環
境であり、従来のテキストベースの開発環境と異なり、Gと呼ばれるグラフィカルなデー
タフロープログラミング手法で、ユーザーは直感的なプログラミングが可能である。La
bVIEWでは、プログラムを文字で作成する代わりにVIと呼ばれる単独でも動作する
モジュールを作成する。VIは、ユーザーインターフェースとなる制御器やデータ表示器
を配置するフロントパネルと制御を記述するブロックダイアグラムとから構成されている
。そして、フロントパネル上のオブジェクトと一対一に対応する端子と関数アイコン、V
Iをワイヤと呼ばれるデータの流れで接続し、プログラムを作成する。
【0018】
次に、この認知課題反応計測システムを用いて認知課題反応計測を行う方法について説
明する。
図3に示すように、ディスプレイ12の画面に認知課題14および反応ボタン群15を
表示し、表示された認知課題14に反応する形で被験者がタッチパネル13上から、反応
ボタン群15から選択した反応ボタンにタッチペンや指などで触れる。この場合、認知課
題14が表示された時から被験者がタッチパネル13上からいずれかの反応ボタンに触れ
た時までの時間、すなわち認知課題に対する反応時間が自動的に計測される。併せて、認
知課題14に対して正しい反応ボタンに触れたか誤った反応ボタンに触れたかどうか、す
なわち回答の正誤判定が行われる。
【0019】
ディスプレイ12の画面上の認知課題14および反応ボタン群15を配置する領域の形
状、大きさ、位置などは、基本的には必要に応じて決めることができるものであるが、認
知課題14に対する反応ボタンの操作性の向上を図るために、両者を接近して配置するの
が望ましい。反応ボタン群15を構成する反応ボタンの数は、基本的には必要に応じて決
めることができるものである。例えば、反応ボタン毎に色を変え、反応ボタンを色で区別
する場合には、人間の目が容易に区別できる色は7色が限界であるため、反応ボタンは7
個以下とする一方、この手法の優位性は反応ボタンが3個以上であるときに顕著となる。
反応ボタン群15における反応ボタンの配置および間隔は、基本的には必要に応じて決め
ることができるものである。
【0020】
ディスプレイ12の画面上の認知課題14および反応ボタン群15の具体例を図4に示
す。図4に示すように、この例では、ディスプレイ12の画面の下部中央に反応ボタン群
15が配置され、この反応ボタン群15の直ぐ上の画面中央部に認知課題14が表示され
る。この認知課題14としては、前頭前野を賦活化することが確認されているストループ
課題(非特許文献1)を本発明者らが改変した改変ストループ色−語課題(5色)(非特
許文献2)を用いる。この場合、認知課題14の上部には、「いろ」または「もじ」のい
ずれかの指示が表示され(図4では「いろ」が表示されている)、下部には、その指示に
応じて判定すべき対象が表示されるようになっている(図4では漢字で「緑」と青色で表
示されている)。この判定対象は、種々のものであってよいが、この例では、「黄」、「
赤」、「青」、「緑」、「茶」の五種類の漢字を表示することができるようになっており
、それぞれの漢字をその漢字の意味する色を除く四色で表示することができるようになっ
ている。従って、この場合の判定対象の総数は、五種類の漢字に対して色の種類が四色あ
り、指示が「いろ」または「もじ」の二通りあるから、5×4×2=40である。この出
現順序はこの例ではランダム化されているが、基本的には必要に応じて決めることができ
るものである。反応ボタン群15は、次の課題に進む時に触る円形の認知課題表示ボタン
16を中心とする円(この例では半円)上に等間隔に配置された五つの円形の反応ボタン
15a、15b、15c、15d、15eからなる。これらの反応ボタン15a、15b
、15c、15d、15eは認知課題表示ボタン16から等距離にあるため、それらの配
置位置による反応時間の差がない。これらの反応ボタン15a、15b、15c、15d
、15eはそれぞれ黄色、赤色、青色、緑色および茶色のリングからなり、その内部はコ
ントラストを高めるため、また反応ボタンの目標中心を明確にするため、白色になってい
る。認知課題表示ボタン16の中心には点状の黒色部があり、その他の部分は白色になっ
ている。認知課題表示ボタン16をこのように構成したのは、目標中心を明確にしてここ
をめがけて触れるようにするためである。認知課題反応計測では被験者がディスプレイ1
2の画面を注視するため、画面全体の輝度が高いと被験者が疲れることから、輝度を少し
下げるため、画面の背景は彩度がない灰色、認知課題14の上部に表示する「いろ」また
は「もじ」の色は、やはり彩度がない色で、かつ黒より若干見やすく感じると思われる白
色とする。
ディスプレイ12の画面の表示部の大きさ、認知課題14として表示される文字の大き
さ、反応ボタン15a、15b、15c、15d、15eの大きさおよび間隔、認知課題
表示ボタン16の大きさの例(おおよその値)を挙げると次のとおりである。ディスプレ
イ12の画面の表示部は、表示幅が例えば300mm、表示高さが例えば190mmであ
る。認知課題14に表示される「いろ」は2文字全体の幅が39mm、高さが19mmで
ある。認知課題14に表示される「緑」は幅、高さとも63mmである。反応ボタン15
a、15b、15c、15d、15eの外径は20mm、内径は8mm、隣接する反応ボ
タン同士の間隔は22mmである。また、認知課題表示ボタン16の大きさは15mm、
中心の点状の黒色部の直径は1.5mmである。認知課題表示ボタン16と反応ボタン1
5a、15b、15c、15d、15eのそれぞれとの間隔は30mmである。認知課題
表示ボタン16と反応ボタン15a、15eとは横一線上に配置されており、それらの中
心と認知課題14に表示される「緑」の下端との高さの差は50mmである。
ディスプレイ12の画面と被験者の眼との間隔は、例えば30〜55cmである。
【0021】
図4に示す具体例に則して認知課題反応計測方法を説明すると、次のとおりである。
まず、例えば、認知課題14の上部に「いろ」を表示するとともに、下部に「緑」とい
う漢字を青色で表示する。この時、被験者が、「いろ」の指示に応じて、青色の反応ボタ
ン15cにタッチパネル13上からタッチペンや指などで触れた時は正解と判定され、そ
れ以外の反応ボタン15a、15b、15d、15eに触れた時は誤りと判定される。認
知課題14が表示された時から、青色の反応ボタン15cに触れた時までの時間がこの認
知課題14に対する反応時間として計測される。
一方、認知課題14の上部に「もじ」を表示するとともに、下部に「緑」という漢字を
緑色以外の色、具体的には黄色、赤色、青色または茶色で表示した時は、被験者が、「も
じ」の指示に応じて、緑色の反応ボタン15dに触れた時は正解と判定され、それ以外の
反応ボタン15a、15b、15c、15eに触れた時は誤りと判定される。認知課題1
4が表示された時から、緑色の反応ボタン15dに触れた時までの時間がこの認知課題1
4に対する反応時間として計測される。
決められた制限時間内に被験者が複数の認知課題14を遂行する際には、表示された認
知課題14を遂行しては認知課題表示ボタン16に触って次の認知課題14を表示させる
操作を繰り返す。
反応ボタン15a、15b、15c、15d、15eのいずれかに触れた後、次の課題
を表示させるための認知課題表示ボタン16に触れるまでの時間は動作時間として別に評
価することができる。
また、動作時間を評価せず、単に反応時間だけを評価したい場合は、認知課題14を一
定時間毎、例えば5秒毎に表示させて、認知課題14を被験者に課してもよい。この場合
、認知課題表示ボタン16は、認知課題14が表示されるまでの被験者のタッチペンある
いは指の待機場所を示す位置としての意味を持つ。
ディスプレイ12の画面上の認知課題14の他の具体例を図5に示す。図5に示すよう
に、この例では、認知課題14として、例えば大きさが51×51mmの正方形状色パッ
チ14aを漢字の代わりに表示する。その他のことは、上記の改変ストループ色−語課題
を用いる場合と同様である。この場合の認知課題14の上部の指示は全て「いろ」である
。この反応計測システムは、改変ストループ色−語課題に比べて非常に単純な反応の計測
を行うための単純色選択反応用システムである。これは、高次脳機能である改変ストルー
プ色−語課題で変化が生じた場合に、それが、判断に要した時間が変化したためか、ある
いは、判断は(ほとんど)必要なく単にある色を選択しようとする場合の手の動きを含ん
だ単純な反応時間に(も)変化が生じたか、を判定しようとするものである。
ディスプレイ12の画面上の反応ボタン群15の他の具体例を図6および図7に示す。
ここで、図6は図4に対応する例、図7は図5に対応する例である。図6および図7に示
すように、この例では、反応ボタン群15は、認知課題表示ボタン16を中心とする円上
に等間隔に配置された五つの円弧状の反応ボタン15a、15b、15c、15d、15
eからなる。
【実施例】
【0022】
グラフィカルプログラミング言語としてLabVIEW ver5.01(非特許文献
3)を用い、制御装置11としてアップルコンピュータ社製PowerMac7500/
100,OS8.1を用い、反応計測部の時間分解能は10ミリ秒とした。なお、より高
性能のコンピュータを用いることによって時間分解能は向上する。また、ディスプレイ1
2の画面上の認知課題14および反応ボタン群15は、図4に例示されているものを用い
た。
ある被験者の場合、4分間で160試行を完遂した。指示が「いろ」の場合、反応時間
に、先行試行の指示による大きな違いは認められなかったが、指示が「もじ」の場合は、
先行試行の指示が「もじ」と「いろ」とで異なり、平均反応時間はそれぞれ1.43秒と
1.23秒となり(統計学的有意水準p<0.05)、認知課題における、先行処理によ
る後続処理への影響、すなわちプライミング効果を検出できたと考えられた。このことか
ら、この認知課題反応計測システムは、脳の高次機能評価システムとして有用であると考
えられる。
【0023】
次に、この認知課題反応計測システムを用いて、カフェインが脳酸素動態および認知課
題成績に及ぼす影響とその個体差について検証を行った結果について説明する。
カフェインは脳幹網様体の賦活系を刺激して知覚を敏感にすることが知られているが、
一方では脳細動脈を収縮させ、脳血流を減少させる。従って、カフェインに対する反応性
が異なる場合、脳血流が低下する人では脳機能が低下し、脳血流が影響を受けない人では
脳機能が亢進することも考えられる。そこで、カフェインが脳酸素動態および認知課題成
績に及ぼす影響をカフェインに対する反応性の個体差の面から明らかにすることを目的と
して、カフェイン摂取による思考作業中の前頭前野の酸素動態の変化を測定し、認知課題
成績の変化とどのように関係するのかについて検討した。さらに、低下した脳酸素供給能
を高濃度酸素吸入で補うことによって、認知課題成績が向上するか否かについて検討した

【0024】
測定方法は下記の通りである。
測定対象は健常な男子学生10名で、全員右利きで非喫煙者であった。認知課題として
ストループ課題を改変した改変ストループ課題(ST,4分間)を用いた。STには負、
正および非プライミング(それぞれNP,PP,UP)刺激が含まれる。各被験者は二重
盲検法およびクロスオーバー法にて、カフェイン(200mg)入りコーヒーを飲用し、
コーヒー飲用前と後とでSTを行い、その変化を求めた。脳酸素動態については、前頭前
野のoxy−Hb、deoxy−Hbおよびtotal−Hb(=oxy−Hb+deo
xy−Hb)の各濃度変化を非侵襲的に測定するために近赤外分光装置のプローブを左前
額部に装着した。その各測定値について安静2分間の平均を安静ベースライン(BL)、
ST中1分間毎の計測値を作業値とし、作業値からBLを引いた値を反応量とし、4分間
平均値を平均反応量とした。コーヒー飲用後の平均反応量からコーヒー飲用前のそれを引
いた値を平均反応量変化とした。各被験者のカフェイン摂取と非摂取のtotal−Hb
平均反応量変化に基づいて反応性ありと反応性なしとに分類した。STの作業成績の指標
として、増加課題成績変化(カフェイン摂取の課題成績変化からカフェイン非摂取のそれ
を引いた値)を用いた。高濃度酸素吸入実験では、コーヒー飲用後の30%酸素(酸素2
9.5%、窒素70.5%)吸入状態をコーヒー飲用前と比較した。
【0025】
上記の測定の結果および考察は次の通りである。
(1)脳酸素動態の平均反応量および平均反応量変化、認知課題成績間の相関分析を行っ
た結果、カフェインレス後のoxy−Hbおよびtotal−Hb平均反応量が増加する
人ほどSTの反応時間(RT)−NPが短縮することが分かった。
(2)反応性のある人5名に関する反応量変化についてのカフェイン有無および時間経過
による分散分析ならびに平均変化量変化におけるカフェイン有無についてのt検定から、
カフェイン摂取のSTにおいて、oxy−Hbおよびtotal−Hbはカフェインレス
に比べて有意に減少することが明らかとなった。従って、反応性のある人では、カフェイ
ン摂取によって前頭前野における酸素供給能が低下することを示している。一方、反応性
のない人5名については、カフェイン摂取は前頭前野のtotal−Hbを変化させない
あるいは増加させる傾向があることが示唆された。
(3)カフェインが課題成績に及ぼす影響に関して、反応性あり群の成績変化は、カフェ
イン摂取後のRT変化のうち、NP(指示:もじ→いろ)が、カフェインレスにおいて−
0.393±0.274秒(平均±標準偏差)であるのに対して、カフェイン摂取時には
0.009±0.156秒(同)と有意に増加した(統計学的有意水準p<0.05)。
また、RT変化のうち、UP(指示:いろ→いろ)でカフェインレスにおいて−0.20
3±0.130秒(同)に対して、カフェイン摂取時には0.006±0.088秒(同
)とやはり有意に増加した(統計学的有意水準p<0.05)。さらに、RT変化でNP
,PP,UPを込みにした、RT−SUM(指示:いろ→いろ)でも−0.257±0.
066秒(同)から−0.093±0.066秒(同)へと、この項目もカフェイン摂取
により有意に増加した(統計学的有意水準p<0.05)。このことは反応性あり群では
、カフェイン摂取によってSTの課題成績がカフェインレスに比べて低下することを示し
ている。一方、反応性なし群の成績はカフェイン摂取後のRT変化のうち、PP(指示:
もじ→もじ)が、カフェインレスにおいて0.007±0.209秒(同)であるのに対
して、カフェイン摂取時には−0.177±0.150秒(同)と有意に減少する傾向(
統計学的有意水準p<0.1)があるなど、反応性なし群では、反応性あり群とは逆にカ
フェイン摂取でカフェインレスに比べて、有意に成績が向上する傾向があった。
(4)2名を対象とした30%酸素吸入実験に関しては、その増加成績変化はコーヒー単
独条件の増加成績変化に比べて、30項目中24項目の成績が改善された。実験毎の比較
が可能な酸素供給能の指標を用いたところ、カフェインによって低下した酸素供給能が高
濃度酸素吸入によって回復することが確認できたと考えられた。
【0026】
以上のことより、以下のように結論することができる。
脳酸素動態と認知課題成績とは関連することが確認された。また、脳酸素動態変化およ
び認知課題成績変化には個体差があり、カフェイン摂取によって脳酸素供給能が低下する
場合には認知課題成績が低下し、一方、脳酸素供給能が影響を受けない場合には成績が低
下しないと考えられた。さらに、カフェインによって低下した脳酸素供給能を酸素吸入で
向上させることによって、認知課題成績が改善されることを確認できたことから、カフェ
イン摂取によって認知課題成績が低下する場合、その原因は脳酸素供給能がカフェイン摂
取で低下するためであることが示唆された。
【0027】
以上のように、この一実施形態によれば、ディスプレイ12の画面への認知課題および
複数の反応ボタンの表示、反応時間の計測ならびに正誤の判定を行う機能を、グラフィカ
ルプログラミング言語を利用したプログラムにより制御装置11に簡単に持たせることが
でき、被験者に行わせる作業の変更にも柔軟に対応することができる。そして、このプロ
グラムとタッチパネル13との組み合わせにより、総合的に、専用の反応計測装置である
タッチパネル・ディスプレイ一体型入力装置を用いる場合に比べて比較的安価に認知課題
反応計測システムを構成することができる。また、入力装置としてディスプレイ12の画
面に設けられたタッチパネル13を用いているため、入力装置としてキーボード、専用ボ
タンスイッチあるいはマウスなどのポインティングデバイスを用いる場合の問題がなく、
認知課題反応の正確な計測を行うことができる。
この認知課題反応計測システムによれば、ヒトあるいはその他の動物の高次脳機能の評
価や各種の刺激、疾病あるいは外傷などが高次脳機能に与える影響の評価などを簡便に行
うことができ、脳科学、臨床神経科学、人間工学、生理心理学などの各分野における基礎
および応用研究に資することができる。
【0028】
以上、この発明の一実施形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、
上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく
各種の変形が可能である。
例えば、上述の一実施形態および実施例において挙げた数値、システム構成などはあく
までも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、システム構成などを用いてもよ
い。具体的には、認知課題表示ボタン16は必要に応じて省略してもよい。また、反応ボ
タン15a、15b、15c、15d、15eは、例えば、認知課題14を取り巻くよう
に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の一実施形態による認知課題反応計測システムの構成を説明するための略線図である。
【図2】この発明の一実施形態による認知課題反応計測システムのハードウェア構成例を示す略線図である。
【図3】この発明の一実施形態による認知課題反応計測システムにおけるディスプレイの画面の一例を示す略線図である。
【図4】この発明の一実施形態による認知課題反応計測システムにおけるディスプレイの画面の第1の具体例を示す略線図である。
【図5】この発明の一実施形態による認知課題反応計測システムにおけるディスプレイの画面の第2の具体例を示す略線図である。
【図6】この発明の一実施形態による認知課題反応計測システムにおけるディスプレイの画面の第3の具体例を示す略線図である。
【図7】この発明の一実施形態による認知課題反応計測システムにおけるディスプレイの画面の第4の具体例を示す略線図である。
【符号の説明】
【0030】
11…制御装置、12…ディスプレイ、13…タッチパネル、14…認知課題、14a
…色パッチ、15…反応ボタン群、15a〜15e…反応ボタン、16…認知課題表示ボ
タン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応検出用のタッチパネルが画面に設けられたディスプレイと、
上記ディスプレイの画面に認知課題および複数の反応ボタンを表示するとともに、上記
認知課題に対して被験者が上記タッチパネル上から選択した上記反応ボタンに触れた時の
反応時間の計測を行う制御装置とを有することを特徴とする認知課題反応計測システム。
【請求項2】
上記制御装置は、上記認知課題に対して上記被験者が上記タッチパネル上から選択した
上記反応ボタンに触れた時の正誤の判定も行うことを特徴とする請求項1記載の認知課題
反応計測システム。
【請求項3】
上記複数の反応ボタンが所定の基準点から等距離の位置に配置されることを特徴とする
請求項1または2記載の認知課題反応計測システム。
【請求項4】
上記反応ボタンの数が3以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載
の認知課題反応計測システム。
【請求項5】
上記ディスプレイの画面への認知課題および複数の反応ボタンの表示と上記反応時間の
計測とをグラフィカルプログラミング言語を利用したプログラムを用いて行うことを特徴
とする請求項1〜4のいずれか1項記載の認知課題反応計測システム。
【請求項6】
反応検出用のタッチパネルが画面に設けられたディスプレイの画面に認知課題および複
数の反応ボタンを表示するステップと、
上記認知課題に対して被験者が上記タッチパネル上から選択した上記反応ボタンに触れ
るステップと、
上記認知課題を表示した時から上記被験者が上記反応ボタンに触れた時までの反応時間
の計測を行うステップとを有することを特徴とする認知課題反応計測方法。
【請求項7】
上記被験者が選択した上記反応ボタンに触れた時の正誤の判定を行うステップをさらに
有することを特徴とする請求項6記載の認知課題反応計測方法。
【請求項8】
上記ディスプレイの画面への認知課題および複数の反応ボタンの表示と上記反応時間の
計測とをグラフィカルプログラミング言語を利用したプログラムを用いて行うことを特徴
とする請求項6または7記載の認知課題反応計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−218065(P2006−218065A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33973(P2005−33973)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】