説明

誘導加熱コイル、熱処理装置及び熱処理方法

【課題】均一な処理が可能な誘導加熱コイル、熱処理装置及び熱処理方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る誘導加熱コイル26は、被処理部A1の少なくとも一部に対向し、前記被処理部A1に対して相対的に回転移動しながら前記被処理部A1の熱処理を行う加熱導体部31を備え、前記加熱導体部31は、前記回転の周方向に対して交差して延びるとともに、前記回転移動の中心から遠い部位における前記周方向の長さが前記中心から近い部位における前記周方向の長さに比べて長く構成された導体部分36を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱コイル、熱処理装置及び熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材に高周波焼入れ等の熱処理を行う熱処理装置において、被処理部全域に対向する誘導加熱コイルを用いて一括して処理を行う一発加熱方式の熱処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような一発加熱方式の熱処理装置では、誘導加熱コイルは、被処理部全域に対応する形状に構成されている。例えば被処理部が円周形状の場合には円環状の誘導加熱コイルを被処理部に対面させ、被処理部が平面状の場合には平板状の誘導加熱コイルを被処理部に対面させている。このような一発加熱方式の加熱装置では、処理対象物及び被処理部の形状及び大きさに対応する誘導加熱コイルを用いるため、処理対象物及び被処理部が大きい場合には、大型の誘導加熱コイルが必要となり、また高出力の電力を要する。
【0003】
一方、被処理部の一部のみに対向する誘導加熱コイルを、被処理部に対して相対的に移動させながら加熱処理及び冷却処理を順次行う移動式の熱処理装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。このような移動式の熱処理装置において、誘導加熱コイルは、被処理部の一部に対応する形状に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−120415号公報
【特許文献2】特開2005−89803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術には以下のような問題がある。すなわち、上述の移動式の熱処理装置では、誘導加熱コイルが被処理部の一部に対応する場合において、ワークとコイルを相対的に回転移動させると、焼入れ開始部分と焼入れ終了部分にソフトゾーンができるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、均一な処理が可能な誘導加熱コイル、熱処理装置及び熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る誘導加熱コイルは、被処理部の少なくとも一部に対向し、前記被処理部に対して相対的に回転移動しながら前記被処理部の熱処理を行う加熱導体部を備え、前記加熱導体部は、前記回転の周方向に対して交差して延びるとともに、前記回転移動の中心から遠い部位における前記周方向の長さが前記中心から近い部位における前記周方向の長さに比べて長く構成された導体部分を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の他の一形態に係る熱処理方法は、前記誘導加熱コイルを、前記被処理部に対向させて誘導加熱により前記被処理部を加熱しながら、前記被処理部を前記誘導加熱コイルに対して前記周方向に沿って相対的に移動させる移動加熱工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、均一な処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る誘導加熱焼入装置を示す説明図。
【図2】同実施形態に係る誘導加熱装置を示す平面図。
【図3】同実施形態に係る加熱コイルを示す斜視図。
【図4】同実施形態に係る加熱コイルの導体部分の説明図。
【図5】同実施形態に係る加熱コイルの断面構造を示す説明図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る誘導加熱装置の加熱コイルを示す斜視図。
【図7】同加熱コイルを示す平面図。
【図8】同加熱コイルを示す側面図。
【図9】同加熱コイルの導体部分の構成を示す説明図。
【図10】本発明の他の実施形態に係る誘導加熱焼入装置を示す説明図。
【図11】本発明の他の実施形態に係る導体部分の構成を示す説明図。
【図12】本発明の他の実施形態に係る導体部分の構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態にかかる誘導加熱焼入装置1(熱処理装置)について、図1乃至図5を参照して説明する。図中矢印X,Y,Zはそれぞれ互いに直交する3方向を示す。また、各図において説明のため、適宜構成を拡大、縮小または省略して示している。
【0012】
図1は本実施形態に係る誘導加熱焼入装置1の全体構成を概略的に示す説明図である。図1に示すように、誘導加熱焼入装置1は、高周波焼入れを行う装置であり、処理対象物であるワークW1を移動可能に支持する移動支持部(ワーク移動回転支持台)11と、ワークW1の被処理部A1を誘導加熱する誘導加熱装置10(熱処理装置)と、被処理部A1の加熱処理工程の後にワークW1を冷却する冷却部13(冷却手段)と、を備えて構成される。誘導加熱装置10には、高周波電源21に接続される整合盤が内蔵されている。移動支持部11は、ワークW1を、所定位置にセットした状態で、軸C1を中心に回転方向(周方向)に回転移動させる。このとき、移動支持部11は、加熱導体部31とワークW1との間のギャップ寸法G1を所定値に維持するよう制御する。さらに、移動支持部11は、被処理部A1の全周(全行程)にわたって加熱処理が終了した後、ワークW1を冷却部13に移動させる。冷却部13は、加熱処理終了後にワークW1を冷却する。
【0013】
図2乃至図5に示すように、誘導加熱装置10は、電力供給手段としての高周波電源21と、高周波電源21に接続されるリード線22、23と、リード線22,23に接続される一対の導電板24,25を備えるスペーサ28と、両端が一対の導電板24,25にそれぞれ接続された誘導加熱コイル26と、誘導加熱コイル26の加熱導体部31の裏側に配置されるコア27(図5のみに図示)と、を備えて構成されている。
【0014】
図1に示すように、処理対象物の一例としてのワークW1は厚さ25mm以上の肉厚部品であり、例えばここでは、軸C1を中心として、外側直径d1=500mm、内側直径d2=250mm、軸方向長さh1=100mmの円筒状部材を用いる。
【0015】
本実施形態においては、例えば、ワークW1の軸方向一端面である軸C1に直交する円環形状の平面領域を被処理部A1とする。被処理部A1は、ワークW1の周方向に沿って連続する無端のループ状を成す。ここでは、被処理部A1の一部分に対向して加熱導体部31が配置された状態で、移動支持部11によってワークW1が軸C1を中心に回転することにより、被処理部A1が加熱導体部31に対して軸C1を中心とした周方向R(回転方向)に沿って相対移動し、被処理部A1を全周にわたって熱処理する場合を示す。
【0016】
図1及び図2に示すように、誘導加熱コイル26は、ワークW1の被処理部A1の一部分に対向するジグザグ形状の加熱導体部31と、加熱導体部31の一端側31bに連続する第1の接続導体部32と、加熱導体部31の他端側31aに連続する第2の接続導体部33と、を連続して一体に備えている。第1の接続導体部32は、加熱導体部31の一端側の端部31bに連続して延び、その端部には冷却液用のホースなどの部品を接続するためのカップラ37が設けられている。第2の接続導体部33は、加熱導体部31の他端側の端部31aに連続して延び、その端部には冷却液用のホースなどの部品を接続するためのカップラ37が設けられている。
【0017】
第1の接続導体部32と第2の接続導体部33とは、スペーサ28を挟んで配置されている。スペーサ28は、それぞれ矩形の平板状を成す一対の導電板24,25と、これら一対の導電板24,25の間に挟まれる矩形の平板状の絶縁板38とが重ねて配置されるとともに、これら導電板24,25及び絶縁板38が絶縁ブッシュ39を介してボルト41及びナット42により固定されて構成されている。各導電板24,25は、リード線22、23を介して高周波電源21に接続されている。
【0018】
図2乃至図4に示すように、加熱導体部31は複数の屈曲部34、35が交互に対向する向きで周方向Rに沿って複数連続して配置されるとともに、対向する屈曲部34、35の間にそれぞれ曲成された導体部分36が配されるジグザグ形状を成す。複数の屈曲部34は移動方向に交差する方向の一方側である外側向きに開口した屈曲形状を成し、屈曲部35は他方側である径方向内側向きに開口した屈曲形状を成す。
【0019】
複数の屈曲部34,35及び、これらを連結する複数の導体部分36が連続して構成される加熱導体部31の周方向Rの寸法は、例えば被処理部A1の全周に対する加熱導体部31の周方向Rの寸法の割合であるカバー率が1/3であり、中心角β1=120度に設定されている。
【0020】
複数の導体部分36は、周方向Rに対して交差して延びるとともに、回転の中心である軸C1から遠い部位における周方向の長さが軸C1から近い部位における周方向の長さに比べて長く構成され、周方向における長さが前記周方向における速度に対応するように形成されている。導体部分36は、その延設方向に直交する断面積及び断面の形状を一定に保ったまま、軸C1から遠い部位における延設角度が、軸C1から近い部位における延設角度に比べて、周方向Rに対する角度が小さくなるように曲成されることで、周方向の速度と長さが対応するようになっている。
【0021】
本実施形態では、図4に示すように、複数の導体部分36は径方向において3つの部分に区分けされ、その中心線C2が隣り合う部分の境界においてそれぞれα1=α2=150度で、屈曲している。この中心線は各部分の延設方向に沿っている。径方向内側の第1部分36aは周方向Rに対してθ1=90度の角度を成し、中間の第2部分36bは周方向Rに対してθ2=60度の角度を成すように傾斜し、最も外側の第3部分36cは周方向Rに対してθ3=30度の角度を成すように傾斜している。すなわちθ1>θ2>θ3となっている。
【0022】
例えばここでは、ワークの最も内側の点P1と最も外側の点P3の2箇所を基準として寸法設定をする。第1部分36aに対向する被処理部A1上のある基準点P1の回転半径(軸心C1からの距離)r1=250mm、第3部分36cに対向する被処理部A1上のある基準点P3の回転半径(軸心C1からの距離)r3=500mmであり、P1に対向する第1部分36aの周方向寸法l1=15mm、P3に対向する第3部分36cの周方向寸法l3=30mmとする。すなわち、導体部分36は、l1:l3≒r1:r3となり回転中心である軸C1からの距離と周方向寸法とが対応している。このため、P1とP3を基準としてみれば、回転半径に比例する周方向速度に対して、周方向寸法(距離)が反比例することとなり、通過に係る時間すなわち加熱時間が一定に保たれる。また中間の第2部分36bの寸法l2は、l1とl3の間の寸法となるように、l1<l2<l3に設定した。
【0023】
すなわち、軸C1を中心としてワークW1が回転移動した場合に被処理部A1が加熱導体部31を横切って通過する速度が速くなる外周側において、速度が遅くなる内側よりも、加熱導体部31の移動方向の寸法が大きくなるように設定されているため、加熱時間を等しくすることができる。
【0024】
図5に断面を示すように、誘導加熱コイル26は銅などの材質から例えば矩形の中空形状に形成されている。この中空部分26aは冷却液が流通する通路となる。コア27は、ケイ素鋼板、ポリアイアンコア、フェロトン等の高透磁率を有する材料からなり、加熱導体部31の裏側に配置されている。コア27は、加熱導体部31の両側部及び後方の壁部を一体に備える断面コ字形状に形成されている。
【0025】
以下、本実施形態にかかる誘導加熱焼入方法(熱処理方法)について説明する。本実施形態の誘導加熱焼入方法は、被処理部A1を加熱しながら相対移動させる移動加熱工程と、移動加熱工程後に被処理部A1を冷却する冷却工程とで構成される。
【0026】
移動加熱工程において、図1乃至図4に示すように被処理部A1のうち一部に加熱導体部31を対向させた状態で、高周波電源21をON状態とすると、高周波電流が、リード線22、第1の導電板24、第1の接続導体部32、加熱導体部31、第2の接続導体部33、第2の導電板25、及びリード線23、を順に経て、高周波電源21に戻る。
【0027】
加熱導体部31において高周波電流は図中に矢印で示すように一端31b側から他端31a側へ向かって、屈曲部34、導体部分36及び屈曲部35、を経て流れ、加熱導体部31の表面に誘導電流が発生し、対向配置される被処理部A1が誘導加熱される。
【0028】
移動支持部11により、ワークW1の被処理部A1の表面と加熱導体部31の表面との間のギャップ寸法G1を所定値に維持した状態で、ワークW1を回転することにより、被処理部A1を加熱導体部31に対して周方向に所定の速度で相対移動させる。
【0029】
例えばここでは、電力を100〜150kW、ギャップ寸法G1=2.5mmを維持しながら、200〜300mm/secの速度で相対移動させる。ワークW1が回転することにより、加熱導体部31に対向配置されるワークW1の端面の円環状の領域である被処理部A1全域が均一に加熱される。
【0030】
ここで、導体部分36の基準点P1,P2,P3における熱処理の度合いを考えると、基準点P1,P2,P3は周速度が異なっても、対向する被処理部A1を通るのにかかる時間は一定に保たれることとなる。このため、被処理部A1に施される加熱の度合いが均一になる。
【0031】
ついで、被処理部の周方向Rにおける全行程に対する移動加熱工程の後に、移動支持部11は、ワーク12を軸方向に沿って下方の冷却部13に移動させる。冷却部13は冷却ジャケットに囲まれた冷却領域である空間13aに配置されたワーク12を冷却液で冷却する(冷却工程)。
【0032】
さらに、誘導加熱コイル26の内側の中空部分26aを通って、第1の接続導体部32、加熱導体部31、第2の接続導体部33、の中空部分26aを経由して冷却液が流れることにより、誘導加熱コイル26及び導電板24,25が冷却される。
【0033】
本実施形態にかかる誘導加熱コイル、誘導加熱装置及び誘導加熱方法によれば、以下のような効果が得られる。すなわち、加熱導体部31の導体部分36を、周方向の寸法を軸C1からの距離と対応するように変化させたことにより、通過に係る時間が一定に保たれるため、加熱時間が均一化される。このため、回転により部位ごとの移動速度が異なる場合にも均一な処理を実現できる。また、断面積は一定として周速度に対応する角度に曲成するだけの簡単な構成で、熱処理条件を複雑化することなく、加熱温度の均一化を容易に実現することが可能となる。
【0034】
加熱導体部31を、対向配置される複数の曲部を連続して有するジグザグ形状としたことにより、強磁界を確保できるとともに、良好な温度パターンが得られる。このため、少ない電力で、高速かつ均一な熱処理が可能となる。本実施形態にかかるジグザグ形状の加熱導体部31を用いた場合には、電力100kWとして、被処理部A1の表面の到達温度850度にする場合に200〜300mm/secの速度とし、加熱時間=300sで実現できる。このため、ワークの直径が3.5m程度の大型な場合にも、カバー率を1/3程度としてA3変態点を超える加熱が実現可能となる。
【0035】
ジグザグ形状の加熱導体部31を有する誘導加熱コイル26を用いることで、例えば平板状の誘導加熱コイルでは実現できない移動式の部分加熱による大型ワークの熱処理が実現可能となる。また、このように処理速度を早くすることができるため、最初に被処理部A1全体を移動しながら加熱処理した後に、冷却するという手順で処理することが可能となる。このため、部分加熱であっても、被処理部A1がループ状の場合にも処理開始端及び終了端においてソフトゾーンのない均一な熱処理が可能となる。
【0036】
被処理部A1の一部のみに対向させつつ相対移動させながら加熱処理を行うこととしたので、被処理部A1及びワークW1が大型となる場合であっても加熱導体部31のサイズを小さく抑えることができ、誘導加熱装置10全体を小型にすることができる。このため、必要な電力を低くするとともに製造コストを低く抑えることが可能となる。
【0037】
また、被処理部A1の一部のみに対向させつつ相対移動させながら加熱処理を行うこととしたので、熱膨張等の要因によりワークが変形しても、容易に、適正なギャップ寸法を維持することができる。例えば円形の被処理部に対応する円環状の誘導加熱コイルを用いて一発加熱方式で熱処理を行う場合には、熱膨張によりワークが変形するため、誘導加熱コイルを予め大きめに設定する必要があるので加熱効率が悪くなるという問題があるが、本実施形態のようにカバー率が小さい場合には、ワークとの配置を調整するだけで適正なギャップを維持することが出来る。
【0038】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態にかかる誘導加熱装置10について図6乃至9を参照して説明する。なお、被処理部A2及び加熱導体部131が軸C1に対して傾斜している点以外は上記第1実施形態と同様であるため、共通する説明を省略する。
【0039】
図6は、本実施形態に係る誘導加熱装置10の加熱導体部131及びワークW2の構成を示す斜視図であり、図7は平面図、図8は側面図、図9は一部を示す説明図である。
【0040】
この実施形態において、ワークW2は、中実の錐台状をなし、その軸方向一端側の面である被処理部A2は軸方向及び径方向に対して傾斜している。すなわち、第1実施形態では被処理部A1は、軸に直交する平面状の面であったが、この第2実施形態においては被処理部A2が軸に傾斜する傾斜面を成している。
【0041】
加熱導体部131は、基本的な構成は第1実施形態の加熱導体部31と同様であり、複数の屈曲部134,135及びこれらを繋ぐ複数の導体部分136が連続して構成されている。複数の導体部分136は、周方向Rに対して交差して延びるとともに、回転の中心である軸C1から遠い部位における周方向の長さが軸C1から近い部位における周方向の長さに比べて長く構成され、周方向における長さが前記周方向における速度に対応するように形成されている。導体部分136は、その断面積を一定としたまま、軸C1から遠い部位における延設角度が、軸C1から近い部位における延設角度に比べて、周方向Rに対する角度が小さくなるように曲成されることで、周方向の速度と長さが対応するようになっている。
【0042】
例えばここでは、図9に示すように、屈曲角α3=α4=150度、θ4=90度、θ5=60度、θ6=30度とし、第1部分136aに対向する被処理部A2上の基準点P4の回転半径r1、第3部分136cに対向する基準点P6の回転半径r3、第1部分136aの周方向寸法l4、及び第3部分136cの周方向寸法l6の関係は、r1:r3≒l4:l6となるように設定した。すなわち、軸C1からの距離と周方向寸法とが対応するように変化させ、移動速度と移動方向の寸法を対応させている。
【0043】
本実施形態においても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0044】
なお、本発明は上記各実施形態に限られるものではなく、各構成は適宜変形実施可能である。また、前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。例えば、処理条件や、各構成要素の形状、材料、材質、寸法などは上記実施形態で例示したものに限られず、適宜変更可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態においては相対的に移動する例としてワークW1を回転させることにより相対移動をする例を挙げたが、これに限られるものではなく、加熱導体部31側を周方向Rに沿う所定の軌跡で移動させることにより相対移動させてもよい。
【0046】
上記実施形態においては、1つの被処理部A1,A2に対して加熱導体部31、131一箇所のみに配置した場合を例示したが、これに限られるものではなく、周方向Rに沿って等間隔で複数の誘導加熱装置10を配置してもよい。例えば2つの誘導加熱装置10を設置する場合には、図10に示す誘導加熱焼入装置2のように互いに対向するように中心角180度の位置に2つの誘導加熱装置10を配置する。また、3つの場合には中心角120度の位置に設置する。このように複数の誘導加熱装置10を用いると1つの加熱導体部のカバー率を小さくできるとともに、処理時間を短縮して加熱処理を早く完了することができるため、特にワークのサイズが大きい場合に好適である。
【0047】
上述の実施形態では、被処理部A1、A2は平面状あるいは傾斜した円環状の面を例示したが、これに限られるものではなく、円形状や、この他の凹部や段差を有する形状にも適用可能である。また、上記第2実施形態では中実の錐台形状を例示したが、中空であってもよい。
【0048】
上記実施形態では、曲部の端部が矩形に屈曲した屈曲部を例示したがこれに限られるものではなく、例えば半円周状に湾曲した形状の湾曲部を有する構造としてもよい。
【0049】
さらに、軸方向における一端面のみに適用する場合を例示したが、軸方向両端面が円形の平面または傾斜面を成す場合に、その両端面に適用することも可能である。
【0050】
上記実施形態においては、径方向において3つの部位に区分けして設定したが、これに限られるものではない。2つまたは4つ以上に区分けしてもよい。例えば図11に示す導体部分236のように4つ以上の部位236a〜236dを設定して細かく区切って周方向速度と周方向寸法を対応させてもよい。あるいは図12に示す導体部分336のように、径方向外側になるにつれて次第に角度が大きくなるように滑らかに湾曲させ、周方向速度と周方向寸法を対応させてもよい。導体部分236及び導体部分336は、いずれも、図中点線で示す延設方向C3,C4に直交する寸法(破線矢印)は一定として断面積を一様としたまま、移動方向Rの寸法(実線矢印)を、移動方向Rの速度に対応するように変化させている。また、径方向における区分けは等分としてもよい。
【0051】
さらに、回転中心からの距離と周方向寸法とが対応する例として、回転中心からの距離と周方向寸法とが比例する場合を例示したが、これに限られるものではなく、必ずしも厳密に比例していない場合であっても、本発明を適用可能である。
【0052】
また、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を組合せてもよい。
【符号の説明】
【0053】
W1,W2…ワーク(処理対象物)、A1,A2…被処理部、C1…軸、R…周方向、
C2…中心線、1…誘導加熱焼入装置(熱処理装置)、10…誘導加熱装置(熱処理装置)、11…移動支持部(移動手段)、13…冷却部、21…高周波電源、26…誘導加熱コイル、31…加熱導体部(導体部)、34.35…屈曲部(曲部)、
36、136,236,336…導体部分、36a,36b,36c…第1〜第3部位、
P1〜P6…基準点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理部の少なくとも一部に対向し、前記被処理部に対して相対的に回転移動しながら前記被処理部の熱処理を行う加熱導体部を備え、
前記加熱導体部は、前記回転の周方向に対して交差して延びるとともに、前記回転移動の中心から遠い部位における前記周方向の長さが前記中心から近い部位における前記周方向の長さに比べて長く構成された導体部分を有することを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項2】
前記導体部分は、その断面積が一定であって、前記中心から遠い部位における延設角度が、前記中心から近い部位における延設角度に比べて、前記周方向に対する角度が小さくなるように曲成されたことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記加熱導体部は、前記周方向に交差する方向の一方側に開口する曲部と、他方側に開口する曲部とが、交互に、対向する向きで、前記周方向に沿って連続して配置されるジグザグ形状を成し、対向する曲部間に前記導体部分が配されることを特徴とする請求項1または2記載の誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記被処理部は、前記回転の軸方向に直交する平面を成し、
前記導体部分は、前記平面に沿って、前記被処理部に対向して配されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の誘導加熱コイル。
【請求項5】
前記被処理部は、前記回転の軸方向に対して傾斜する傾斜面を成し、
前記導体部分は、前記傾斜面に沿って、前記傾斜面に対向して配されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の誘導加熱コイル。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の誘導加熱コイルと、
前記誘導加熱コイルに接続される高周波電源と、
前記被処理部及び前記誘導加熱コイルを相対的に前記周方向に移動させる移動手段と、を備えたことを特徴とする熱処理装置。
【請求項7】
前記誘導加熱コイルが前記周方向に沿って複数配置されたことを特徴とする請求項6記載の熱処理装置。
【請求項8】
前記被処理部の前記周方向における全行程に対する加熱処理の後に前記被処理部を冷却する冷却部を備えたことを特徴とする請求項6または7記載の熱処理装置。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の誘導加熱コイルを、前記被処理部に対向させて誘導加熱により前記被処理部を加熱しながら、前記被処理部を前記誘導加熱コイルに対して前記周方向に沿って相対的に移動させる移動加熱工程を備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項10】
前記被処理部の前記周方向における全行程に対する加熱処理の後に、前記被処理部を冷却する冷却工程を備えたことを特徴とする請求項9記載の熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−246771(P2011−246771A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121901(P2010−121901)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】