説明

誘導加熱式調理器及び誘導加熱式調理器の製造方法

【課題】製造工程を簡素化できる上、強固な積層状態を確保でき、水の沸騰状態で優れた沸騰促進効果を確保できる誘導加熱式調理器及び誘導加熱式調理器の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この発明に係る誘導加熱式調理器の製造方法は、カーボンの粉粒と結合材との混合物を金型内に投入し、圧縮・硬化させることによって前駆体成形品を成形し、これを窒素で置換した無酸素状態の炉中に配置して焼成処理を行い成型品を作製する工程と、セラミックス粉末と、添加剤とを溶媒に分散させたスラリー液を成型品に塗布して乾燥した後に焼成処理を行う工程とから成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、誘電加熱に供する鍋または釜状の調理器に関するものであり、さらに詳しくはカーボンを基材とした表面にセラミックスを積層した構造を有する誘導加熱式調理器とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電加熱式調理器は、誘導加熱コイルが発生する渦電流が磁性金属を発熱させるように構成したもので、コンロや炊飯器に用いられている。しかし、磁性金属である鉄やステンレスなどは熱伝導率が劣る。そこで、食品を速やかに均一に加熱するために、アルミニウムや銅などの熱伝導に優れた金属を積層したクラッド材を圧延加工したものを用いていた。しかし、任意形状、特に肉厚の成型品を得ることが困難であった。
【0003】
このため、調理器本体に載置される鍋と、この鍋の外底面部または外周面部に対向するように設けられ鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルを通電制御する制御手段とを備え、鍋を黒鉛から構成し、鍋の表面にフッ素樹脂を塗布した誘導加熱調理器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、天然炭素もしくは人造炭素から選択される素材の炭素圧縮成型器物の表面にフッ素系合成樹脂膜が被着形成され、高周波磁場により発熱する電磁加熱調理器が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、カーボン粉粒の凝結体は、粉粒を凝結したことに伴う態様からくる脆くて割れ易いという課題があり、落下や衝突などの大きな応力の付与に対する破損に対しても十分な耐性を付与する必要があった。
【0006】
前記特許文献1によれば、コークスなどの高炭素含有物粉粒を1000〜3000℃の高温下で凝結させた焼結体は適度な導電性と誘電性を有しており、従来の鉄などに代わって誘電加熱の調理器、例えば炊飯釜などに用いることができる。このなかで、当該調理器はカーボン焼結体を切削加工して鍋の形状に加工した後、鍋の表面にフッ素樹脂または鍋の表面にガラス状カーボンを塗布することによって調理物を容易に剥離して洗浄を容易にする機能や耐摩耗性を向上させる機能を付与している。
【0007】
また、SiCを主成分とする焼成体の上部にSiを入れた坩堝を設置し、坩堝を加熱してSiを溶融状態とし、Siの融液を坩堝が有する孔を通じて焼成体表面に供給し、Siを含浸させるSi−SiC複合材の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また、予め製作した焼結体を金型内に載置し、この金型内に多孔質セラミックス体となる原料粉末を充填し、加圧成形して一体化した後焼成するセラミックス接合体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
さらに、反りのない、高強度の積層セラミックス薄板を製造することを主な目的とし、シート状セラミックス生成形体の厚さ方向における粉末充填率が低い面同士が接するように成形体を積層し、次いで焼成する積層セラミックス薄板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平09−075211号公報
【特許文献2】特開平09−070352号公報
【特許文献3】特開2003−071555号公報
【特許文献4】特開平06−144941号公報
【特許文献5】特開平07−291738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記特許文献1では、ブロックを切削加工した成型品の表面にフッ素樹脂などを塗布したために、沸騰時の気泡発生を促す効果が損なわれるという課題があった。このため、表面の保護を多孔質のセラミックスで行う素材構成とすることが好ましい。
【0011】
しかし、従来のセラミックス積層体の製造方法は、焼結体にセラミックス原料粉を載置して加圧・固化後、焼結させる前記特許文献4を事例とすれば、既に焼成処理をした成型品を用いて異種材料の積層を行うことにより達成している。しかし、調理器容器が鍋状の曲面を備えた成型品であるから、賦型された基材であるカーボン凝結体が気孔を有する加圧装置に、容器状成型品を極めて高い形状精度で保持面を備えることは非常に困難であり、成形時と両素材を強固に結合させるのに必要な加圧力に耐えることは非現実的である。
【0012】
一方、スラリー状セラミックスを乾燥させた後、粉末充填率の低い上面同士を重ねて加圧接合した状態で焼成する前記特許文献5の「積層セラミックス薄板の製造方法」を用いて、容器状成型品の表面に積層しようとすれば、乾燥状態のセラミックス前駆体が脆く、曲面を形成する際に割れを来して平滑な面を形成することが困難であるという課題があった。
【0013】
また、本質的に、セラミックスとカーボンの凝結体、特にグラファイトとの接着性が劣り、調理器として実用に耐えうる態様を成すことは困難である。
【0014】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、製造工程を簡素化できる上、強固な積層状態を確保でき、水の沸騰状態で優れた沸騰促進効果を確保できる誘導加熱式調理器及び誘導加熱式調理器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係る誘導加熱式調理器の製造方法は、カーボンの粉粒と結合材との混合物を金型内に投入し、圧縮・硬化させることによって前駆体成形品を成形し、これを窒素で置換した無酸素状態の炉中に配置して焼成処理を行い成型品を作製する工程と、セラミックス粉末と、添加剤とを溶媒に分散させたスラリー液を成型品に塗布して乾燥した後に焼成処理を行う工程とから成ることを特徴とする。
また、成形品上に塗布されたセラミックス粉末が、粒子間に備えた空隙を充填することなしに結合して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る誘導加熱式調理器の製造方法は、カーボン凝結体およびセラミックスの何れもが前駆体状態で積層状態を確保して同時に焼成処理を行うことができるので、製造工程を簡素化できる上、セラミックスが焼成時に形成するカーボン凝結体の気孔に侵入することができるので、強固な積層状態を確保できるという効果を有する。また、調理器容器の内面を成すセラミックス塗膜には、表面に開口した気孔を備えているので、水の沸騰状態では優れた沸騰促進効果を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1、図2は実施の形態1を示す図で、図1はジャー炊飯器の内釜10の断面図、図2はジャー炊飯器の内釜10の製造工程図である。
【0018】
本実施の形態における誘電加熱式調理器であるジャー炊飯器の内釜10は、図1に示す断面構造を有している。つまり、基材であるカーボン凝結体1の内面部分をセラミックスの層2で覆うことにより、カーボン凝結体1の弱点である引っ掻きや摩耗による損傷から保護している。併せて、沸騰時の気泡の発生を助長させる効果を有することにより、炊飯時の撹拌促進効果を具備している。
【0019】
以下に、実施の形態1におけるジャー炊飯器の内釜10の製造方法を、図2を参照しながら詳述する。
【0020】
自然木や種子殻の炭化物、石油コークスや石炭コークスを、無酸素状態下でカーボンがグラファイト結晶となる2600℃〜3000℃で焼成することによって得た10〜300μmの粒度分布を有するカーボンの粉粒を用い、これにフェノール樹脂を結合材として混合(混練)したものを鍋状の圧縮成形用金型内に投入して圧縮、硬化させることによって前駆体成形品を得た。
【0021】
カーボンの粉粒が、グラファイト結晶を有さないものであれば電気の伝導性が劣って誘電加熱を十分に行うことが出来ないので不適である。また、カーボン粒子とフェノール樹脂の混合物が金型内での圧縮力を付与せずに成形した場合、粒子間に空隙が残存して十分な結合力が確保できない他、焼成時にクラックが発生する原因となるので好ましくない。
【0022】
上述した圧縮成型品である前駆体成形品を窒素で置換した無酸素状態の炉中に配置して、700℃以上、好ましくは1300℃以上の無酸素下で焼成処理(第一の焼成処理)を行い、電気伝導性に優れた鍋状の成型品を得た。このとき、カーボン凝結体1の結合材であるフェノール樹脂は、主に400〜450℃で分解してカーボン凝結体1に微細な気孔を形成しながら気散して収縮する。そこで、1〜10℃/hrのゆっくりした昇温と冷却を行う焼成処理において、350℃〜550℃の昇温時に限っては1〜3℃/hrの昇温速度で焼成を行った。
【0023】
また、結合材であるフェノール樹脂の含有量の多い場合や、本実施の形態の圧縮成形に代えて射出成形で賦型した成型品の場合には、成形時に混合物が流動することに伴って結合材が表面に多く保持され、その結果、形成される気孔が極めて微細になる傾向から、後段の工程である塗布したガラス質セラミックスの含浸が不十分でとなり、気孔内部への侵入に伴う機械的に塗膜を固着させることが困難な場合がある。このような極めて微細な気孔が表面に保持され、ガラス質のセラミックスの含浸が困難な態様を成したときには、表面に形成された結合材が多く保持されて形成された薄い層を、焼成処理(第一の焼成処理)の前にブラストやサンドペーパなどで削除することが好ましい(表面層の削除)。これにより、後段の工程におけるガラス質セラミックスの含浸が十分に行えるようになる。
【0024】
次に、焼成を完了した鍋状の成型品は、調理具として調理に伴う食品の付着防止や付着物除去に伴う摩擦などによる摩耗損傷などの破損抑制、さらに沸騰促進効果の付与を目的とした表面処理としてセラミックスを塗布したのち、これを1000℃以上、好ましくは1300℃以上で焼成処理を行う。
【0025】
前記成型品は結合材が炭化する際、主に残留有機物が分解して生成する種々物質が飛散したことに伴って生成した多くの気孔を備える。また、表面層に付着する塗膜の態様を接着のみで得た場合、カーボン凝結体1を構成するカーボン粒子同士の結合力が十分でなく、剥離時にカーボン粒子の脱離を含んだ見掛けの強度が得難い。さらに、グラファイト化したカーボンは、本質的にセラミックスとの接着性に劣るため、表面層にある気孔内部に塗膜の一部が侵入して機械的な結合力を醸し出す構造とすることが肝要である。
【0026】
従って、塗膜を構成する高融点セラミックスにガラス質セラミックスを混合することによって、表面層上には融点が高くて摩耗などの機械的強度に優れたセラミックスが残るように各粒子の大きさを調整した。高融点セラミックスとガラス質セラミックスとの混合物をセラミックス粉末と呼ぶ。また、ガラス質セラミックスを第一のセラミックス、高融点セラミックスを第二のセラミックスと呼ぶ。つまり、本実施の形態に係るセラミックス粉末は、調理器としての使用温度以上の耐熱性を有し、前記気孔内に侵入および加熱溶融時に流動性を呈して容易に含浸し、機械的に塗膜を固着させる態様を備えることが肝要である。具体的には、ガラス質セラミックス(ガラス質物質)は、第一の焼成処理によって得たカーボン粉粒を含む成型品が備える気孔の径よりも小さいものを含む。
【0027】
従って、セラミックス粉末にはジルコニアやアルミナなどの酸化物系のほか、窒化硼素や窒化ケイ素などの非酸化物系の融点の高い高融点セラミックスを使用する。また、ガラス質粒子として酸化ケイ素や酸化硼素を含んで成り、次工程での焼成処理において溶融して低粘度を呈して気孔内部を充填する挙動を呈するものが好ましい。また、上記セラミックス粉末を分散させる溶媒には水のほかにエタノールなどの有機溶媒を使用し、塗布後の乾燥時に各粒子同士を保持して塗布状態を維持する目的でバインダーを添加する。当該添加剤には焼成時に過度に灰分が残留しないポリビニルアルコールとその誘導体が好適であり、他に可塑性や分散性を向上させる界面活性剤や油脂類などを添加することも有効である。
【0028】
ここで、高融点セラミックス粉末とガラス質粒子の混合比は、前者の10に対して、後者を2.5〜5.0、好ましくは10:3.0〜3.5とした。高融点セラミックス粉末は、第一の焼成処理によって得たカーボン粉粒を含む成型品が備える気孔の径よりも大きいので、カーボン凝結体1の表面から含浸しない。一方、ガラス質セラミックスは、上述したセラミックス粉末等を分散させたスラリー液の塗布段階と高温での溶融状態でカーボン凝結体の表面から含浸する。即ち、ガラス質セラミックス(ガラス質物質)は、第一の焼成処理によって得たカーボン粉粒を含む成型品が備える気孔の径よりも小さいものを含む。後者の場合、ガラス質セラミックスは、カーボン凝結体に含浸せずに表面部分を覆う態様にある焼成時の高温で溶融しないセラミックス粒子同士が接したことで形成した空隙を埋めるに至らず、単に結合する機能が主となる。従って、焼成後のセラミックス塗膜には、表面に微細な空隙を備えた態様を成すようにしたものである。
【0029】
また、下層を形成する初期の塗布は、カーボン凝結体1に含浸して表面が乾燥した後、次の塗布を行うようにすることが、カーボン凝結体1への含浸を十分に達成し、高い耐剥離性を醸し出すうえで有効である。
【0030】
上述したセラミックス粉末等を分散させたスラリー液は、焼成処理を行う鍋状成型品内面を均一に濡らすようにして50〜200μm程度の厚さになるまで数回に分けて塗布した後、静置状態で風乾させる。塗布したスラリー液が乾燥後、これを1000℃以上、好ましくは1300℃以上に保った炉中で焼成処理(第二の焼成処理)することによってカーボン凝結体1の表面に保持される。さらに、焼成完了後、成形品が備える曲率や厚さの異なる部位に冷却時に生じる応力の差異に基づく歪みを残存させないように、1〜10℃/hrのゆっくりした冷却を行う。これによって、クラックや変形などの不具合を防止するうえで有効である。
【0031】
得られたセラミックス塗装膜には、表面に硬度の高いアルミナなどの粒子が多く突出した状態で保持された耐摩耗性に優れた粗面を形成して成り、調理時の摩耗などや、物品の落下による変形にも十分な耐性を備えて、調理器としての機能を十分に満たしていることを確認した。
【0032】
また、当該セラミックス塗膜を備えたことにより、炊飯および汁物調理において、沸騰状態を助長させて、米飯や具材などの撹拌が促進されるなど、調理上の都合が良いという利点を備えたことも確認した。
【0033】
実施の形態2.
実施の形態1と同じ形状の誘電加熱式調理器のうち、特に結合材が比較的少なく配合した混合物を用いて得た成型品であるジャー炊飯器の内釜10について、以下に製造方法を詳述する。
【0034】
本実施の形態は、原料中の結合材量を少なくして、気孔を大きく、かつ多くする。これにより、ガラス質セラミックスの含浸が十分に行えるので、表面層の削除等が不要であり工程を簡略化することができる。また、成型品の焼成処理時に、セラミックスの焼成・固化を同時に達成して、効率的なセラミックス層の形成を達成するものである。
【0035】
図3は実施の形態2を示す図で、ジャー炊飯器の内釜10の製造工程図である。
【0036】
自然木の炭化物やコークス類を無酸素の状態でカーボンを2600℃〜3000℃で焼成したグラファイト結晶の300μm以下の粉粒と、前記粉粒の結合材である粉末状のフェノール樹脂との混合物を鍋状の圧縮成形用金型内に投入して圧縮、硬化させて前駆体成形品を得た。このとき、金型はフェノール樹脂の硬化に適した温度、例えば120〜210℃であって、好ましくは30〜90秒でゲル化する高温状態としてカーボンの粉粒に濡れ性が十分な条件とすることが肝要である。結合材は、焼成処理(後述)に供する温度以下で分解して飛散する熱硬化性樹脂である。
【0037】
次に、調理食品の付着防止や付着した具材の除去に伴う摩擦による摩耗損傷などの破損抑制を機能として備える表面層を成すセラミックスを塗布する。ここで用いるセラミックス粉末等が分散したスラリー液は、鍋状成型品内面を均一に濡らすようにして50〜200μm程度に塗布して風乾後、これを1000℃以上、好ましくは1300℃に保った炉中での焼成によってカーボン凝結体1の表面に強固に保持した状態を確保した後、歪みを塗膜内および成型品との界面に残存させないように室温近傍まで1〜10℃のゆっくりとした速度で冷却することによって、セラミックス塗装を形成した。
【0038】
上述の塗膜を構成するセラミックスは、融点が1000℃以下のガラス質セラミックス(ガラス質物質)と、焼成温度以上で溶融せずに摩耗などの機械強度に優れる高融点セラミックスを混合して用い、前者が20〜40vol%の含有率であることが好ましい。ガラス質セラミックスの粒径は、高融点セラミックスの粉粒よりも小さい。また、上記セラミックス粉末を分散させる溶媒には水のほかにエタノールなどの有機溶媒を使用、塗布後の乾燥時に鍋状成型品の表面と剥離することなく保持するバインダーであり、焼成後の灰分が残留し難いポリビニルアルコールとその誘導体を好適に用い、可塑性や分散性を向上させる界面活性剤や油脂類などを添加しても良い。
【0039】
内面にセラミックスを塗布した鍋状の成型品は焼成処理に伴って結合材が炭化し、種々物質が飛散して多くの気孔を生成する。結合材およびスラリー液の添加剤が分解して飛散する。このとき、鍋状成型品から結合材が備える有機物起源の分解物が塗布したセラミックス層を透過して放散する350〜600℃の温度範囲を主とする初期の焼成段階では、前記セラミックス層が相応の気孔を備える態様が必要である。次いで、鍋状成型品の焼成が進行して表面に気孔を生成することに伴って前記分解物からの飛散物が急激に少なくなる段階では、セラミックスの塗布層におけるガラス質が溶融して鍋状成型品の前記気孔に含浸する挙動に支障を来さないようにすることが必須の条件となる。
【0040】
従って、鍋状成型品において気孔生成が発達する350〜600℃、好ましくは300〜750℃では、他の温度域の昇温と冷却が1〜10℃/hrで行うのに対して、1〜3℃/hrの緩い昇温速度を維持することが肝要である。
【0041】
さらに、昇温して1000℃近傍に達すると、酸化ケイ素や酸化硼素を含むガラス状物質が溶融して流動性を呈し、上述の焼成段階において生成した気孔内に含浸することによって機械的に塗膜を固着させる態様を備えるので、ガラス状物質が溶融時に低粘度を呈するものが好ましい。一方、ジルコニアやアルミナなどの酸化物系であって、他に、窒化硼素や窒化ケイ素などの非酸化物系のものであっても、融点が高くて1300℃まで昇温する焼成段階で溶融しないセラミックスは、ガラス状物質を結合材として粒子が鍋状成型品の表面に固定されるが、粒子間の空隙を埋めるに至らない量のガラス状物質しか混合していないため、空隙を残存した態様を成すに止まる。
【0042】
以上の手段により得たセラミックス塗装膜には、表面に硬度の高いアルミナなどの粒子が表面に滞留した状態で保持されるので耐摩耗性に優れ、調理時の摩耗や物品の落下による変形に十分な耐性を備えて成り、調理器としての機能を十分に満たしていることを確認した。
【0043】
実施の形態3.
実施の形態2と同じ形状の誘電加熱式調理器であるジャー炊飯器の内釜10について、以下に製造方法を詳述する。
【0044】
本実施の形態は、実施の形態1ほどではないが、比較的気孔の形成が微細で、ガラス質セラミックスの含浸が困難な場合にあっても、非溶融のアルミナなどのセラミックスを含有しないガラス質セラミックスのみの層を載置したことによって含浸が容易に行えるほか、非溶融のセラミックス粒子同士が接する空隙にガラス質セラミックスが過度に充填されずに気孔を残存されやすい、という特徴を備える。従って、実施の形態1,2に比較して、含浸が容易な成形方法である上、沸騰効果を備える表面層が形成し易いという特徴がある。
【0045】
図4は実施の形態3を示す図で、ジャー炊飯器の内釜10の製造工程図である。
【0046】
カーボンを2600℃〜3000℃で焼成したグラファイト結晶粉粒と結合材であるフェノール樹脂との混合物を鍋状の圧縮成形用金型内に投入して圧縮成形、硬化させて得た前駆体成形品に調理食品の付着防止や付着具材の除去に伴う摩擦による摩耗損傷などの破損抑制機能を備える表面層を成すセラミックスを塗布する。
【0047】
ここでは、まず、第一のスラリー液として、融点が1000℃以下のガラス質セラミックスを溶媒であるエタノールと、塗布後の乾燥時に鍋状成型品の表面と剥離することなく保持するバインダーで焼成後の灰分が残留し難いポリビニルアルコール、可塑性や分散性を向上させる界面活性剤や油脂類などを添加したものを用い、これを塗布した後、風乾させた。
【0048】
次に、融点が1000℃以下のガラス質のセラミックスと焼成温度で溶融せずに摩耗などの機械強度に優れる高融点セラミックスを、1:3〜5の比率で混合したものを、同様に、溶媒であるエタノール、塗布後の乾燥時に鍋状成型品の表面と剥離することなく保持するバインダーであるポリビニルアルコール、可塑性や分散性を向上させる界面活性剤や油脂類などを添加して均一に分散させた第二のスラリー液を、前記ガラス質セラミックスに重ねて塗布した後、風乾させた。
【0049】
下地となるガラス質セラミックスのみを含んだ第一のスラリー液は、ガラス質セラミックスが鍋状成型品に含浸し易いように均一な厚さで数μm〜十数μm程度の薄膜を形成する程度とし、その上層に位置する焼成温度で溶融しない高融点セラミックスを主体とする第二のスラリー液は30〜80μm程度のやや厚い薄膜を形成するようにした。
【0050】
次に、これを1000℃(第一の温度)以上、好ましくは約1300℃(第二の温度)に保持した炉中での焼成処理(加熱処理)によってカーボン凝結体1の表面に強固に保持した状態を確保した後、歪みを塗膜内および成型品との界面に残存させないように室温近傍まで1〜10℃のゆっくりとした速度で冷却することによって、セラミックス塗装を形成した。加熱処理は、酸素を排除した不活性ガス雰囲気下で行う。
【0051】
内面にセラミックスを塗布した鍋状の成型品は焼成に伴って結合材が炭化し、種々物質が飛散して多くの気孔を生成する。このとき、鍋状成型品から結合材が備える有機物起源の分解物が塗布したセラミックス層を透過して放散する350〜600℃の温度範囲を主とする初期の焼成段階では、前記セラミックス層が相応の気孔を備える態様が必要である。次いで、鍋状成型品の焼成が進行して表面に気孔を生成することに伴って前記分解物の飛散が急激に少なくなる段階では、セラミックスの塗布層におけるガラス質セラミックスが溶融して鍋状成型品が形成した気孔に含浸する挙動に支障を来さないように分解物の飛散を完結させるようにすることが必須の条件となる。従って、気孔生成が発達する350〜600℃、好ましくは300〜750℃では1〜3℃/hrの緩い昇温速度を維持し、他の温度域の昇温と冷却は1〜10℃/hrで行うことが肝要である。
【0052】
さらに、昇温して1000℃近傍に達するとガラス状物質が溶融して流動性を呈し、上述の焼成段階に生成した気孔内に含浸して機械的に塗膜を固着させる態様を備える。このとき、ガラス状物質が溶融時に低粘度を呈するものが好ましい。一方、ジルコニアやアルミナなどの酸化物系、および窒化硼素や窒化ケイ素などの非酸化物系のもので、融点が高くて1300℃まで昇温する焼成段階で溶融しないセラミックスはガラス質のセラミックスを結合材として粒子が鍋状成型品の表面に固定されるが、粒子間の空隙を埋めない量に調整して混合している上、下面から浸透する挙動を成すので、空隙を残存した態様を成すに止まる。
【0053】
以上の手段により得たセラミックス塗装膜には、表面に硬度の高いアルミナなどの粒子が表面に滞留した状態で保持されるので耐摩耗性に優れ、調理時の摩耗や物品の落下による変形に十分な耐性を備えて成り、併せて、沸騰状態を促進する機能を備えた微細な気泡を内在する表面層の形成が、沸騰時に気泡発生が増加することから確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施の形態1を示す図で、ジャー炊飯器の内釜10の断面図。
【図2】実施の形態1を示す図で、ジャー炊飯器の内釜10の製造工程図。
【図3】実施の形態2を示す図で、ジャー炊飯器の内釜10の製造工程図。
【図4】実施の形態3を示す図で、ジャー炊飯器の内釜10の製造工程図。
【符号の説明】
【0055】
1 カーボン凝結体、2 セラミックスの層、10 ジャー炊飯器の内釜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンの粉粒と結合材との混合物を金型内に投入し、圧縮・硬化させることによって前駆体成形品を成形し、
前記前駆体成形品の表面層を削除し、
前記表面層を削除した前駆体成形品を窒素で置換した無酸素状態の炉中に配置して、第一の焼成処理を行い成型品を作製し、
セラミックス粉末と、添加剤とを溶媒に分散させたスラリー液を前記成型品に塗布し、
塗布した前記スラリー液が乾燥した後、第二の焼成処理を行うことを特徴とする誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス粉末が、前記第二の焼成処理の温度以上で液状を呈するガラス質物質を含んでいることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス質物質は、前記第一の焼成処理によって得たカーボン粉粒を含む前記成型品が備える気孔の径よりも小さいものを含むことを特徴とする請求項2記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックス粉末は、前記第一の焼成処理によって得たカーボン粉粒を含む前記成型品が備える気孔の径よりも大きく、且つ前記第二の焼成処理の温度で不溶融の粉粒を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックス粉末における前記ガラス質物質の混入量を、前記第二の焼成処理の温度で不溶融の粉粒が形成する空隙を充填しない量とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項6】
カーボンの粉粒と結合材との混合物を金型内に投入し、圧縮・硬化させることによって前駆体成形品を成形し、
セラミックス粉末と、添加剤とを溶媒に分散させたスラリー液を前記前駆体成形品に塗布し、
塗布した前記スラリー液が乾燥した後、焼成処理を行うことを特徴とする誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項7】
前記結合材が、前記焼成処理に供する温度以下で分解して飛散する熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項6記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項8】
前記セラミックス粉末は、前記焼成処理の温度以下の融点を有するガラス質物質であって、焼成処理の温度で不溶融の粉粒よりも小さい粒径のものを含んで成ることを特徴とする請求項6記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項9】
前記焼成処理は、前記結合材および前記スラリー液の添加剤が分解して飛散するとともに、前記ガラス質物質が溶融する温度以上で行うことを特徴とする請求項8記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項10】
前記セラミックス粉末における前記ガラス質物質の混入量を、前記焼成処理の温度で不溶融の粉粒が形成する空隙を充填しない量とすることを特徴とする請求項8又は請求項9記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項11】
カーボンの粉粒と結合材との混合物を金型内に投入し、圧縮・硬化させることによって前駆体成形品を成形し、
第一の温度で前記前駆体成形品が備える気孔内に溶融して侵入するガラス質物質を添加剤と共に溶媒に分散させた第一のスラリー液を塗布し、
前記ガラス質物と、前記第一の温度より高い第二の温度で不溶性の粒子との混合物を分散させた第二のスラリー液を塗布し、
前記第一の温度又は前記第二の温度の範囲の任意の温度で加熱処理を行うことを特徴とする誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項12】
前記加熱処理を、前記ガラス質物質の融点以上で行うことを特徴とする請求項11記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項13】
前記加熱処理を、酸素を排除した不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項11又は請求項12記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項14】
前記セラミックス粉末における前記ガラス質物質の混入量を、前記加熱処理の温度で不溶融の粉粒が形成する空隙を充填しない量とすることを特徴とする請求項11乃至13のいずれかに記載の誘導加熱式調理器の製造方法。
【請求項15】
カーボンの粉粒と結合材との混合物を圧縮・硬化させることによって成形された前駆体成形品と、
この前駆体成形品の気孔の内部に侵入して表面部分を覆う第一のセラミックスと、
前記第一のセラミックスの上層に形成された第二のセラミックスとを備えたことを特徴とする誘導加熱式調理器。
【請求項16】
前記第二のセラミックスが、前記前駆体成形品が備える気孔に充填しないものを含むこと特徴とする請求項15記載の誘導加熱式調理器。
【請求項17】
前記第二のセラミックスが、前記第一のセラミックスで粒子間を結合され、前記粒子間に備えた空隙を充填することなく多くの気孔を残留して形成されていること特徴とする請求項15又は請求項16記載の誘導加熱式調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−174428(P2008−174428A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10923(P2007−10923)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】