説明

誘導加熱炉および加熱方法

【課題】磁気部材を回転させることにより、磁気抵抗を変化させることにより誘導加熱を行なう加熱方法においては、磁気抵抗の変化によるコギングトルクが機械的振動を与え、誘導加熱を行なう装置を破損させることがある。
【解決手段】誘導加熱炉100において、空間20の領域内に発生する磁束の全体の強度については、時間的に変化しない。しかし、被加熱物16の主表面のうち、局所的な領域に到達する磁束が時間的に変化する。このようにして、誘導加熱炉100の装置全体に対する機械的振動の発生を抑制しながら、被加熱物16を加熱させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱炉および加熱方法に関するものであり、より特定的には、加熱を行なう際に発生する振動を抑制した誘導加熱炉および、当該誘導加熱炉を用いた加熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間鍛造等において金属材料を加熱させる場合、たとえばバーナやヒータを用いて当該金属材料を直接加熱させることがある。しかし近年では、上述したバーナやヒータを用いて金属材料を直接加熱させる方式に代わり、以下に示す方法が用いられることがある。交流電流に接続されたコイル中に発生する磁束が通過する領域、すなわちコイルの内部またはコイルの長手方向の延在領域上に被加熱物である金属材料(たとえばコイルの内部に挿入させる金属棒)を非接触で配置させた状態で、コイルに交流電流を流す。このようにすれば、金属材料の表面付近の領域には、コイルに流れる交流電流により、電磁誘導効果による渦電流が発生する。したがって、渦電流が金属材料の表面付近の領域を発熱させる結果、金属材料を加熱させることができる。
【0003】
上述したような、コイルに交流電流を流すことにより、電磁誘導効果による渦電流を発生させる方法の他に、たとえば特開昭60−10581号公報(以下、「特許文献1」という)に開示される以下に示すような方法を用いることにより、電磁誘導効果による渦電流を発生させる方法もある。すなわち、コイルには直流電源を供給し、コイルの周囲の領域に配置させた磁気部材を回転させて、コイルを含む磁気回路全体の磁気抵抗を時間的に変化させることにより、コイルの長手方向の延在領域上に配置された、加熱させたい金属材料に渦電流を発生させて発熱させる方法である。
【特許文献1】特開昭60−10581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1中の、第7具体例に開示されている方法においては、非励磁状態で磁気部材のような回転子を回転させることにより、磁気回路全体の磁気抵抗を変化させる。このため、磁気回路には、磁気吸引力であるコギングトルクが発生し、磁気抵抗の変化が抵抗力として、磁気回路装置全体に対して機械的振動を与えることがある。また、被加熱物が磁性を有する材料から構成される場合には、当該被加熱物の周辺の領域における磁場が変化した際に吸引力が働き、これが上述したコギングトルクと同様に、磁気回路装置全体に対して機械的振動を与えることもある。これらの機械的振動は、磁気回路装置の破損の原因となることもある。
【0005】
本発明は、上述した問題に鑑みなされたものであり、その目的は、加熱を行なう際に発生する振動を抑制した誘導加熱炉および、当該誘導加熱炉を用いた加熱方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の局面における誘導加熱炉は、直流電源と接続された固定体と、固定体が分断された領域をなす空間に配置される、主表面上の一部に磁性体材料を含む回転体と、回転体を回転させる回転駆動源とを備えている。そして、当該回転体が回転することにより、固定体が分断された領域をなす空間の領域内で局所的に磁束密度が時間的に変化される。しかし、当該空間の領域内全体においては磁束が時間的に変化しない、誘導加熱炉である。なお、主表面とは、表面のうち最も面積の大きい、主要な面を指す。
【0007】
本発明の一の局面における誘導加熱炉においては、より特定的には、回転体の全体が、空間の領域内に収納されている。以上のような構成にすることにより、回転体が回転すれば、たとえば固定体が分断された領域をなす空間の領域内に配置された被加熱物の主表面上のある局所的な領域において、その領域が対向する、当該回転体の位相が、回転体の回転により、磁性体材料を含む領域に相当したり、磁性体材料を含まない領域に相当したり、時間的に変化する。このため、上述した被加熱物の主表面上のある領域に到達する磁束は、その局所的な領域が対向する回転体の位相に応じて変化する。具体的には、被加熱物の主表面上のある領域が対向する回転体の位相が、回転により、磁性体材料を含む領域から含まない領域へと変化したとき、あるいは磁性体を含まない領域から含む領域へと変化したとき、被加熱物の主表面上のある領域に到達する磁束が変化する。
【0008】
このように、到達する磁束が変化した領域については、電磁誘導効果による渦電流が発生する。したがって、渦電流が上述した被加熱物の主表面上のある領域に発生し、表面付近の領域を発熱させる結果、金属材料を加熱させることができる。
【0009】
しかしながら、回転体の一部に含まれる磁性体材料を通過する磁束は、常に固定体が分断された領域をなす空間の領域内に存在することになる。また、固定体にたとえばコイルを巻回して接続される電源は直流電源であるため、固定体の内部に発生する磁束については、向きも強度も時間的に変化しない。ゆえに、回転体が回転しても、上記空間の領域内全体においては磁束が時間的に変化しない。すなわち、固定体には、磁場の時間的変化に伴う吸引力によるコギングトルクが発生しないことから、誘導加熱炉の装置全体に対する機械的振動を抑制させることができる。その結果、誘導加熱炉の装置の破損を抑制させることができる。以上より、本発明の一の局面における誘導加熱炉を用いれば、振動を抑制させながら被加熱物を加熱させることができる。
【0010】
本発明の他の局面における誘導加熱炉は、直流電源と接続された固定体と、固定体が分断された領域をなす空間に配置される、主表面上の一部に磁性体材料を含む回転体と、回転体を回転させる回転駆動源とを備えている。そして、当該回転体が回転することにより、固定体が分断された領域をなす空間の領域内で局所的に磁束密度が時間的に変化される。そして、当該空間の領域内全体における磁束の時間変化率が±50%以内である、誘導加熱炉である。
【0011】
本発明の他の局面における誘導加熱炉においては、より特定的には、たとえば回転体の一部の領域のみが、固定体が分断された領域をなす空間の領域内に収納されており、回転体の一部の領域は、空間の領域の外部にはみ出した状態となっていることがある。以上のような構成においても、回転体が回転した際に、固定体が分断された領域をなす空間の領域内における、回転体の一部に含まれる磁性体材料を通過する磁束は時間的に変化しないことが好ましい。しかし、たとえば回転体の一部の領域が、空間の領域の外部にはみ出した状態となっている場合には、回転体の回転にかかわらず常時、空間の領域内全体における磁束を一定とすることができない場合もある。この場合においても、上述したように、空間の領域内全体における磁束の時間変化率を±50%以内に抑えれば、磁束の変化により発生する吸引力によるコギングトルクにより、装置に発生する機械的振動を許容範囲内に抑えることができる。このように、本発明の他の局面における誘導加熱炉を用いれば、誘導加熱炉に発生する機械的振動を許容範囲内に抑えながら、被加熱物を加熱させることができる。
【0012】
上述した本発明の一の局面における誘導加熱炉および、本発明の他の局面における誘導加熱炉においては、固定体が分断された領域をなす空間を形成することにより、固定体の主表面は、たとえばC型形状を形成する。固定体が分断された領域は、Cの字の右側の、曲線が分断された領域に相当する。
【0013】
また、本発明の一の局面における誘導加熱炉および、本発明の他の局面における誘導加熱炉においては、上述した固定体は、珪素鋼板を複数の層に積層することにより形成させることが好ましい。固定体を形成させる工程において、たとえば鍛造を行なったときのように、固定体の前駆材料自身が発熱することを抑制するためには、珪素鋼板を複数の層に積層することにより形成させるか、たとえばフェライトのような粉末焼結鉄芯を用いて固定体を形成させることが好ましい。
【0014】
以上の本発明の一の局面における誘導加熱炉および、本発明の他の局面における誘導加熱炉においては、たとえばC型形状を形成する、固定体の一部の領域に、直流電源と接続したコイルを巻回させることにより、直流電源と固定体とを接続させることが好ましい。
【0015】
このように固定体と直流電源とを、コイルを介して接続させる。すると、コイルには直流電流が流れるため、固定体の内部における磁束は時間的に変化しない。そして、上述のように、固定体が分断された領域内の全体についても、回転体が回転しても磁束の変化はない(あるいはごく少ない)。このため、本発明による誘導加熱炉では、磁場の時間的変化に伴う吸引力によるコギングトルクが発生しないことから、誘導加熱炉の装置全体に対する機械的振動を抑制させることができる。その結果、誘導加熱炉の装置の破損を抑制させることができる。以上により、固定体の一部の領域には、直流電源と接続したコイルを巻回させることにより、直流電源と固定体とを接続させることが好ましい。
【0016】
以上の本発明の一の局面における誘導加熱炉および、本発明の他の局面における誘導加熱炉においては、上述した直流電源と接続するコイルとして超電導コイルを用いることがさらに好ましい。
【0017】
超電導コイルに直流電流を流した場合、コイルの内部に電気抵抗をほとんど発生しない。このため、超電導コイルには発熱をほとんど生じない。あるいは、超電導コイルに発生する発熱量を最小限とすることが可能である。したがって、被加熱物を加熱させるために誘導加熱炉に投入させるエネルギーのうち、超電導コイルの発熱により損失する割合が極めて少なくなる。以上により、直流電源と接続するコイルとして超電導コイルを用いることにより、被加熱物を加熱させるために誘導加熱炉に投入させるエネルギーを、高効率で回転体を回転させる回転駆動源を駆動させるためのエネルギーとして利用させることができる。また、発熱によるエネルギー損失を小さくすることができるため、超電導コイルに流れる直流電流の損失も小さくなる。その結果、超電導コイルに流れる電流により発生する磁束を高効率に固定体が分断された領域をなす空間の領域内に供給することができ、誘導加熱炉全体のランニングコストを低減させることもできる。
【0018】
先述したように、コイルは、直流電源から供給される電流により、固定体の内部に磁束を形成するために用いる。しかしながら、コイルの位置を、固定体のうち、当該空間に近い領域に巻回させた方が、コイルに直流電流を流した際に固定体の内部に発生する磁束を効率よく当該空間の領域内に供給させることができる。この結果、効率よく被加熱物を加熱させることができる。
【0019】
したがって、以上に述べたコイルは、固定体が分断された領域をなす空間に対向する1対の表面の少なくともいずれか一方から300mm以内の領域内に巻回させることにより配置されることがさらに好ましい。具体的には、当該空間に対向する表面のいずれか一方から300mm以内の領域、すなわちたとえば固定体がC型形状をなす場合、主表面をなすC型形状の一方の端部から300mm以内の領域のみにコイルを巻回させてもよい。または、当該空間に対向する1対の表面のそれぞれから300mm以内の領域内に1対のコイルを巻回させることにより配置されることがより好ましい。
【0020】
このように、2台のコイルが当該空間を挟むように、C型形状の両方の端部から300mm以内の領域に配置させれば、当該空間の領域内に供給させることができる磁束が2倍になる。したがって、さらに効率よく、被加熱物を加熱させることができる。
【0021】
ここまで述べた、本発明における誘導加熱炉は、固定体が分断された領域をなす空間に対して磁束を供給するために、直流電流を流すためのコイルを用いている。しかし、コイルを用いずに、誘導加熱炉を構成する固定体として、たとえばC型形状ないしU型形状をなすバルク超電導体からなる永久磁石を用いてもよい。このようにすれば、直流電源を用いなくても、永久磁石の働きにより、永久磁石の分断された領域をなす空間の領域内には常時一定の向きや強度を有する磁束が存在する。したがって、当該空間の領域内に配置される、少なくとも主表面上の一部に磁性体材料を含む回転体が回転しても、上記空間の領域内全体においては磁束が時間的に変化しない。また、たとえば永久磁石がバルク超電導体から形成されることにより、固定体に発生する発熱量を最小限とすることが可能である。以上より、空間に対して磁束を供給する手段としてバルク超電導体からなる永久磁石を用いた場合においても、コイルを用いた場合と同様の効果を奏する。
【0022】
さらに、固定体として永久磁石を用いた場合、永久磁石の分断された領域の両方の端部から密度の高い磁束が供給される。このため、永久磁石の分断された領域をなす空間の領域内における磁束は、たとえば先述したコイルを用いた場合における、固定体が分断された領域をなす空間に対向する1対の表面のそれぞれの付近の領域にコイルを巻回させた場合に相当する。したがって、固定体として永久磁石を用いた場合、この永久磁石により当該空間の領域内に供給される磁束が大きくなる。そのため、高効率で被加熱物を加熱させることができる。
【0023】
以上に述べた本発明の各局面における誘導加熱炉は、回転体と回転駆動源とを接続する回転軸が、空間の領域内における磁束の方向に沿った方向に配置されることが好ましい。このようにすれば、空間の領域内における磁束の総量をあまり変えずに局所的に磁束密度を変えることが可能となるという効果を奏する。
【0024】
以上に述べた本発明の各局面における誘導加熱炉を用いた加熱方法は、回転体を回転させる工程と、被加熱物の少なくとも一部を、回転体と対向するように配置させる工程とを備える加熱方法である。このようにすれば、先述した要領で、回転体が回転した際に、被加熱物には電磁誘導効果による渦電流が発生し、振動を抑制させながら被加熱物を加熱させることができる。また、エネルギー損失低減により誘導加熱炉全体のランニングコストを低減させることもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、加熱を行なう際に発生する振動を抑制した誘導加熱炉および、当該誘導加熱炉を用いた加熱方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態が説明される。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす部位には同一の参照符号が付されており、その説明は、特に必要がなければ、繰り返さない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における誘導加熱炉の概略斜視図である。また図2は、図1の線分II−IIにおける概略断面図である。図1、および図2の概略断面図に示すように、誘導加熱炉100は、コイル12を介して直流電源13と接続された固定体としての固定鉄心11を土台とした構成となっている。また、固定鉄心11が分断された領域である空間20の内部には、加熱させたい被加熱物16および、被加熱物16の主表面に対向するように、少なくとも主表面上の一部に磁性体材料を含む回転体24が配置される。
【0028】
図3は、回転体の主表面上を示す概略図である。図1および図3に示すように、回転体24は、たとえば一定の厚みを有する円盤状のベース体15と、磁性体材料14とからなる。回転体24をなすベース体15の材質としてはたとえば樹脂を用いるが、樹脂の代わりに、たとえば黄銅やアルミやステンレスなどの非磁性体を用いることもできる。ベース体15の主表面上の一部には、磁性体材料14を含む。磁性体材料14は、たとえば、鉄、コバルト、ニッケルを含む材料から構成されることが好ましい。この磁性体材料14は、ベース体15の主表面上に塗布(コーティング)された状態で存在してもよいし、ベース体15の一方の主表面から、一方の主表面に対向する他方の主表面まで、厚み方向に貫通するように存在してもよい。図3に示すように、上述したベース体15の主表面上の一部以外の領域については、磁性体材料14を配置しない。
【0029】
図1および図2に示すように、回転体24は、固定鉄心11の内部を貫通した、回転軸19を介して、回転駆動源としてのモータ18と接続している。このモータ18が回転体24を、回転軸19を中心として主表面に沿った方向に回転させる。この回転軸19は、空間20の領域内における磁束の方向に沿った方向に配置されることが好ましい。図1および図2において、空間20の領域内における磁束の方向は、紙面の上下方向に沿った方向である。このようにすれば、先述したように、空間20の領域内における磁束の総量をあまり変えずに局所的に磁束密度を変えることが可能となるという効果を奏する。
【0030】
上述したように固定鉄心11には、固定体が分断された空間20が存在する。このため、鉛直方向に沿った方向に存在する固定鉄心11の主表面は、図1および図2に示すように、たとえばおおよそC型形状を形成していることが好ましい。
【0031】
図4は、固定鉄心を形成するために珪素鋼板の薄板を複数の層に積層する状態を示す概略図である。後述するように、本発明の誘導加熱炉100においては、コイル12に流れる直流電流により、固定鉄心11の内部または固定鉄心11の延在領域上における磁束は時間的に変化しない。このため、固定鉄心11には渦電流は流れないので、固定鉄心11はたとえば電磁軟鉄などを材料にして形成してもよい。
【0032】
ただし、実際には固定鉄心11の内部においても、特に固定体が分断された空間20に対向する表面近傍の領域においては局所的に磁束が時間的に変化することがある。したがって、図4に示すように、固定鉄心11は珪素鋼板28の薄板を複数の層に積層することにより形成させることが好ましい。なお、以下のようにして固定鉄心11を形成させてもよい。まず、固定鉄心11の中核をなす部分については安価な鉄の塊を用いて形成させる。そして、固定鉄心11が分断された空間20に対向する表面近傍の領域においては珪素鋼板28を所望の形状に加工したものを複数の層に積層させる。以上の手順により固定鉄心11を形成させてもよい。
【0033】
このC型形状を形成する空間20から水平方向に見て対向する固定鉄心11の領域には、直流電源13と接続したコイル12が巻回されている。このコイル12を介して、固定鉄心11と、直流電源13とが電磁気的に接続される。すなわち、コイル12に流れる電流は直流であるため、固定鉄心11の内部に形成される磁束はその向きや強さが一定となる。
【0034】
コイル12としては、たとえば銅製のコイルを用いてもよい。しかし、銅製のコイルに直流電流を流すと、コイルが発熱することにより、コイルの電気抵抗が増加する。すると、銅製のコイルに流れる直流電流が減少するため、コイル12から発生する磁束を空間20の領域内に供給する効率が悪くなることがある。そこで、銅製のコイルを用いる場合には、コイルをたとえば冷却水で冷却させる設備を備えた水冷銅コイルを用いることが好ましい。このようにすれば、コイルの電気抵抗を低下させ、コイルに流れる直流電流を空間20に磁束を供給させるためのエネルギーとして用いることにより、ランニングコストを減少させることができる。
【0035】
ただし、コイル12としては、水冷銅コイルを用いる代わりに、超電導コイルを用いることがさらに好ましい。たとえば図示しない液体窒素など、超電導コイルを臨界温度以下の温度に保持させる冷却媒体を備えたタンクの内部に配置させる。先述したように、コイル12として超電導コイルを用い、コイル12に直流電流を流した場合、コイル12の内部に電気抵抗をほとんど発生しない。このため、コイル12には発熱をほとんど発生しない。あるいは、コイル12に発生する発熱量を最小限とすることができる。以上により、直流電源13と接続するコイル12として超電導コイルを用いれば、コイル12に流れる電流により発生する磁束を高効率に空間20の領域内に供給することができる。
【0036】
本発明の実施の形態1における誘導加熱炉100の構成する、空間20の領域が、たとえば高さ(固定鉄心11の両側の対向する端面間の距離)100mmであり、幅(空間20の横幅)400mm、奥行き(空間20の奥行き)500mmである場合、特にコイル12に直流電流を流す場合においては、コイル12として同一重量(200kg)の水冷銅コイルを用いた場合に比べ、超電導コイルを用いた方が、長期間使用した際の累積コストを大幅に削減できる。
【0037】
より具体的には、超電導コイルは水冷銅コイルに比べ、初期設備投資が高額となるが、長期間使用時のランニングコストは水冷銅コイルに比べて大幅に削減される。従って、3年以上使用した場合の累積コストを比較すれば、超電導コイルの方が、水冷銅コイルに比べて大幅に削減される。
【0038】
ここで、直流電源13からコイル12を介して固定鉄心11の内部に磁束を供給した場合を考える。コイル12には、直流電流が流れる。しかしながら、コイル12に流れる直流電流により、固定鉄心11の内部または固定鉄心11の延在領域上における磁束は時間的に変化しない。したがって、コイル12に流れる直流電流により空間20の領域内全体に発生する磁束は、時間的に変化しない。
【0039】
また、図示しない電源を用いてモータ18を駆動させることにより、回転体24を回転させる。ここで回転体24は、空間20の領域内にて、分断された固定鉄心11の両側の端面と対向する配置を保ちながら回転する。このとき、空間20の領域内には、回転体24を構成するベース体15の主表面上の一部に含まれる磁性体材料14を通過する磁束が存在することになる。
【0040】
ところが、図1および図2に示すように、誘導加熱炉100においては、回転体24を構成するベース体15の全体が、空間20の領域内に収納された構成となっている。したがって、ベース体15が回転しても、常時ベース体15の全体が空間20の領域内に収納されている。また、上述したように、ベース体15は、空間20の領域内にて、分断された固定鉄心11の両側の端面と対向する配置を保ちながら回転する。このため、空間20の領域内全体に存在する、磁性体材料14による磁束は、ベース体15が回転しても、時間的に変化しない。以上より、本発明の実施の形態1における誘導加熱炉100において、空間20の領域内に発生する磁束の全体の強度については、時間的に変化しない。
【0041】
したがって、固定鉄心11には、磁場の時間的変化に伴う吸引力によるコギングトルクが発生しない。本発明の実施の形態1における誘導加熱炉100にはコギングトルクが発生しないため、誘導加熱炉100の装置全体に対する機械的振動の発生を抑制させることができる。
【0042】
なお、図3の回転体24においてはベース体15の主表面上における磁性体材料14は円形で、ベース体15の主表面の中心に対して対称となる位置に整然と配置させている。しかし、ベース体15の主表面上における磁性体材料14の形状や配置は任意である。誘導加熱炉100に示すように、ベース体15の全体が、空間20の領域内に収納されているため、ベース体15の主表面上における磁性体材料14の形状や配置によらず、ベース体15が回転しても、空間20の領域内全体に存在する、磁性体材料14における磁束は、時間的に変化しない。
【0043】
また、図示しない電源を用いてモータ18を駆動させることにより、回転体24を回転させる。すると、空間20の領域内にはベース体15の主表面上の一部に含まれる磁性体材料14による磁束が回転することにより、たとえば空間20の領域内に、回転体24と一定の距離を保って対向するように配置された被加熱物16の一方の(ベース体15と対向する)主表面上のある領域において、その領域が対向する、当該ベース体15の表面上の位置が、ベース体15の回転により、磁性体材料14を含む領域に相当したり、磁性体材料14を含まない領域に相当したり、時間的に変化することになる。この件に関して、以下により詳細に説明する。
【0044】
図5は、回転する回転体に対向するように被加熱物を移動させる状態を示す概略図である。たとえば図3に示すように、主表面が円盤状をなすベース体15の主表面の縁部に、一定間隔をおいて同一径である円形の磁性体材料14が配置されている回転体24を用いた場合を考える。この場合、ベース体15が空間20の領域内にて、分断された固定鉄心11の両側の端面と対向する配置を保ちながら回転すれば、図5に示すように、ベース体15の主表面上には、回転により磁性体材料14が通過する軌跡である磁性体軌跡14aと、磁性体材料14の軌跡でない非磁性体軌跡14bとが存在することになる。ここへ、図5中に矢印で示すように、空間20の領域内に、ベース体15と一定の距離を保って対向する配置となるように被加熱物16を移動させる。
【0045】
ここで、被加熱物16の主表面上のある局所的な領域を考えると、被加熱物16の主表面上の、ベース体15のうち磁性体軌跡14aと対向する領域に到達する磁束は、回転するベース体15の位相に応じて変化する。具体的には、被加熱物16の主表面上のある局所的な領域が、回転するベース体15の磁性体軌跡14aに対向する場合には、回転するベース体15の位相に応じて、当該局所的な領域は、ベース体15の磁性体材料14を含む領域に対向したり、磁性体材料14を含まない領域に対向したりする。ここで、当該局所的な領域が対向するベース体15の主表面上の領域が、ベース体15の回転により、磁性体材料14を含む領域から含まない領域へと変化したとき、あるいは磁性体材料14を含まない領域から含む領域へと変化したとき、被加熱物16の当該局所的な領域に到達する磁束が変化する。
【0046】
以上に説明したように、被加熱物16の主表面のうち、磁性体軌跡14aと対向する局所的な領域に到達する磁束が時間的に変化すれば、当該局所的な領域においては、電磁誘導効果による渦電流が発生する。したがって、渦電流が被加熱物16の表面付近、特に被加熱物16のうち磁性体軌跡14aと対向する局所的な領域を発熱させる。この結果、被加熱物16を加熱させることができる。
【0047】
なお、図5および図1、図2においては、被加熱物16の主表面を、直方体状とし、被加熱物16を移動させることにより、被加熱物16が対向する回転体24と重なる構成としている。しかし、本発明の実施の形態1における誘導加熱炉100は、たとえば熱間鍛造に用いる金属製品を誘導加熱する用途に用いられる。したがって、金属製品(被加熱物16)の形状は必ずしも直方体状である必要はなく、たとえば円形状、帯状、矩形状など任意の形状をなす金属製品に用いられる。
【0048】
また、被加熱物16は、図1〜図5において、その全体が空間20の領域内に収納される構成としている。しかし、被加熱物16については、特に回転体24が回転したときの、図5における磁性体軌跡14aの少なくとも一部と対向していれば、磁性体軌跡14aと対向する被加熱物16の領域については渦電流の発生により加熱される。したがって、本発明の実施の形態1において、被加熱物16の全体が空間20の領域内に収納されていなくてもよい。
【0049】
図6は、図3の回転体の変形例として考えられる回転体の形状を示す概略図である。図6に示すように回転体25は、図3に示す回転体24のベース体15の代わりに、回転体中心部から四方に延びる接続籤17のそれぞれが存在し、それぞれの接続籤17の端部に、磁性体材料14が接続された構成となっている。ここで回転体25における磁性体材料14は、図6中においては円形としているが、たとえば円盤状であってもよいし、球形であってもよい。
【0050】
また、誘導加熱炉100に対して、図3に示す回転体24の代わりに図6に示す回転体25を用いる場合には、回転体25は、その全体が空間20の領域内に収納される大きさであることが好ましい。このようにすれば、空間20の領域内全体に存在する、磁性体材料14による磁束は、回転体25が回転しても、時間的に変化しない。以上より、本発明の実施の形態1における誘導加熱炉100において、回転体24の代わりに回転体25を用いても、空間20の領域内に発生する磁束の全体の強度については、時間的に変化しない。
【0051】
しかし、先述した回転体24を用いた場合と同様に、空間20の内部の領域にて回転体25と対向する被加熱物16の主表面上のある局所的な領域に到達する磁束は時間的に変化する。このため、当該局所的な領域においては、電磁誘導効果による渦電流が発生することにより、被加熱物16を加熱させることができる。
【0052】
図7は、図3の回転体の変形例として考えられる回転体の形状を示す概略図である。本発明の実施の形態1における誘導加熱炉100に用いる回転体としては、図7の回転体26のように、たとえば棒状(板状)の磁性体材料のみからなる構成とし、長軸方向の中心部分に回転軸19を接続させるための孔を設けた構造であってもよい。また、図示しないが、たとえば図7の回転体26に示す棒状(板状)の磁性体材料を2本以上(複数本)、それぞれの長軸方向の中心部分に回転軸19を接続させるための孔を設け、それぞれの長軸方向がたとえば直角など一定の角度をなすように配置した上で回転軸19と接続させた構成を有する回転体を用いてもよい。
【0053】
以上に述べた回転体26を用いた場合においても、先述した回転体24、25を用いた場合と同様に、空間20の領域内に発生する磁束の全体の強度については、時間的に変化しない。また、空間20の内部の領域にて回転体25と対向する被加熱物16の主表面上のある局所的な領域に到達する磁束は時間的に変化する。このため、当該局所的な領域においては、電磁誘導効果による渦電流が発生することにより、被加熱物16を加熱させることができる。
【0054】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2における誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。図8に示すように、本発明の実施の形態2における誘導加熱炉200は、図1、図2に示す誘導加熱炉100と基本的に同様の態様を備えている。しかし、誘導加熱炉200は、たとえば回転体として先述した回転体24を用いた場合、モータ18と接続される回転軸19だけでなく、回転体24の、回転軸19が接続されている主表面とは反対側の主表面についても、回転棒29で、固定鉄心11の一方の端面と固定されている。このようにすれば、回転体24
は両方の主表面から回転軸19ないし回転棒29で支持されることになるため、たとえば誘導加熱炉100の回転体24のように、一方の主表面から回転軸19のみで支持されている場合に比べて、回転体24の剛性を向上させることができる。
【0055】
本発明の実施の形態2における誘導加熱炉200を用いれば、被加熱物16は、図8に示すように、回転棒29と干渉しないように、空間20の領域のうち、中心付近の回転棒29が存在する領域から離れた領域にのみ配置させることができる。この場合、被加熱物16の主表面上のうち少なくとも一部が、回転体24を回転させたときの、図5に示す磁性体軌跡14aと対向することが好ましい。このようにすれば、磁性体軌跡14aと対向する被加熱物16の領域については渦電流の発生により加熱される。なお、本発明の実施の形態2においても、回転体24の代わりに、たとえば回転体25または回転体26を用いてもよい。
【0056】
図9は、本発明の実施の形態2において別形状の被加熱物を加熱させた場合の誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。図9に示すように、被加熱物16がたとえば一部が欠けた同心円状(ドーナツ形状)を有する場合や、C型形状を有する場合などは、これを回転棒29の干渉を受けずに空間20の内部の所望の箇所に配置させることができれば、誘導加熱炉200を用いて加熱させることができる好ましい形状であるといえる。または、被加熱物16がたとえば帯状や棒状の形状を有する金属材料から構成される場合には、空間20の内部の領域で被加熱物16を配置しうる領域が狭くても、回転棒29の干渉を受けずに空間20の内部の所望の箇所に被加熱物16を配置させることができる。なお、この場合においても、被加熱物16の主表面上のうち少なくとも一部が、回転体24を回転させたときの、図5に示す磁性体軌跡14aと対向することが好ましい。このようにすれば、磁性体軌跡14aと対向する被加熱物16の領域については渦電流の発生により加熱される。
【0057】
本発明の実施の形態2は、以上に述べた点においてのみ、本発明の実施の形態1と異なる。すなわち、本発明の実施の形態2に関して、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1に順ずる。
【0058】
(実施の形態3)
図10は、本発明の実施の形態3における誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。図10に示すように、本発明の実施の形態3における誘導加熱炉300は、図8、図9に示す誘導加熱炉200と基本的に同様の態様を備えている。しかし、図10に示す誘導加熱炉300は、たとえば回転体として先述した回転体24を用いた場合、回転体24の一部の領域のみが、空間20の領域内に収納された構成となっている。したがって、回転体24の他の一部の領域(円形の主表面の縁側の領域)は、空間20の外部にはみ出した状態となっている。
【0059】
図10の誘導加熱炉300が示すように、回転軸19および回転棒29が、固定鉄心11の両方の端面上の中心付近の領域で固定鉄心11と接続されている場合は、回転体24の磁性体材料14が、すべて空間20の領域内に収納される構成となることもある。たとえば磁性体材料14が、すべてベース体15の主表面上の、中心に近い(空間20の内部の領域内に収納される)領域に存在する場合である。この場合については、先述した誘導加熱炉200と同様の効果を奏することができる。
【0060】
図11は、本発明の実施の形態3において別形状の被加熱物を加熱させた場合の誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。図11に示す誘導加熱炉400は、誘導加熱炉300と基本的に同様の態様を備えている。具体的には、たとえば回転体として先述した回転体24を用いた場合、回転体24の一部の領域のみが、空間20の領域内に収納された構成となっている。しかし、誘導加熱炉400の場合、回転軸19および回転棒29が、固定鉄心11の両方の端面上の中心付近から離れた領域にて固定鉄心11と接続されている。
【0061】
以上のような構成においても、回転体24が回転した際に、空間20の領域内における、回転体24の磁性体材料14による磁束が時間的に変化しないことが好ましい。しかし、回転体24が空間20の領域内に対して対称となる位置からずれた位置に配置されているため、回転体24が回転しても、空間20の領域内全体における磁束が時間的に一定となるように磁性体材料14を配置させることは困難である。
【0062】
しかしながら、誘導加熱炉400の構成とした場合においても、空間20の領域内全体における磁束の時間変化率を±50%以内に抑えることができるよう、磁性体材料14を配置すれば、空間20の領域内全体における磁束の変化により発生する吸引力によるコギングトルクにより、装置(誘導加熱炉400)に発生する機械的振動の大きさを許容範囲内に抑えることができる。
【0063】
図12は、空間の領域内全体における磁束の時間変化率を±50%以内に抑えることができる、回転体の磁性体材料の配置の一例を示す概略図である。図12に示す回転体27は、ベース体15の主表面の縁部に近い領域に関しては、縁部に近い領域ほど、中心からの距離が一定の全周に対して磁性体材料14が施してある領域の割合が小さくなっており、縁部から中心に近づくにつれて、中心からの距離が一定の全周に対して磁性体材料14が施してある領域の割合が大きくなっている。そして、主表面の中心に近い領域にはほぼ全面に磁性体材料14が施してある。その結果、図12に示すように、回転体27の磁性体材料14全体は、ほぼ星型の形状を構成している。
【0064】
回転体27のように、回転体の主表面をなす円形の中心からの距離に応じて磁性体材料14を備える領域の割合を単調変化させる。このようにすれば、図11の誘導加熱炉400に設置される回転体27を回転させた場合の空間20の領域内全体における磁束の時間変化率を±50%以内に抑えることができる。磁束の時間変化率を±50%以内とすれば、磁性抵抗の変化によるコギングトルクが仮に発生しても、誘導加熱炉400に発生する機械的振動は、たとえば装置を破損させるレベルに比べて十分に小さく、装置の寿命に影響しないレベルの許容範囲内に抑えることができる。以上の点においてのみ、誘導加熱炉400は誘導加熱炉300と異なる。
【0065】
図13は、本発明の実施の形態3においてさらに別形状の被加熱物を加熱させた場合の誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。図13に示す誘導加熱炉500は、図11に示す誘導加熱炉400と、基本的に同様の態様を備える。しかし、誘導加熱炉500は、回転軸19および回転棒29が、空間20の外部(固定鉄心11の内側)に存在する。
【0066】
誘導加熱炉500のように、回転棒29が空間20の外部に存在する構成とすることにより、被加熱物16の全体が空間20の領域内に収納できる場合には、被加熱物16は回転棒29の干渉を受けることがない。そのため、誘導加熱炉500を用いた場合には、誘導加熱炉400を用いた場合に比べて、大きいサイズの被加熱物16を短時間で加熱させることができる。以上の点においてのみ、誘導加熱炉500は誘導加熱炉400と異なる。
【0067】
本発明の実施の形態3は、以上に述べた点においてのみ、本発明の実施の形態1または2と異なる。すなわち、本発明の実施の形態2に関して、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1または2に順ずる。
【0068】
(実施の形態4)
図14は、本発明の実施の形態4における誘導加熱炉に用いられる固定鉄心に関する、図2と同様の概略断面図である。図14における固定鉄心11は、先述した本発明の実施の形態1〜3における誘導加熱炉100、200、300、400、500のそれぞれにおける固定鉄心11と同様である。ただし、図14における固定鉄心11においては、コイル12が、固定鉄心11の一方(上側)の端面(空間20に対向する表面)から300mm以内の領域内に巻回されている。このように、固定鉄心11上においてコイル12が巻回されている位置が、本発明の実施の形態1〜3における誘導加熱炉における固定鉄心11とは異なる。
【0069】
先述したように、コイル12に直流電源13が供給する直流電流を流すと、コイル12の内部またはコイル12の長手方向の延在領域上には磁束が発生する。この磁束を利用して、空間20の領域内に存在する被加熱物16を加熱させる。したがって、磁束の発生源であるコイル12が、固定鉄心11のうち、磁束を供給させたい空間20に近い領域にて巻回させた方がより好ましい。それは、空間20に近い領域にコイル12を配置させた方が、コイル12に直流電流を流した際にコイル12により発生する当該磁束を効率よく空間20の領域内に供給させることができるからである。この結果、より効率よく空間20の領域内に配置させた被加熱物16を加熱させることができる。
【0070】
なお、図14に示すコイル12の配置は、先述した本発明の実施の形態1〜3における誘導加熱炉100、200、300、400、500のいずれに対して採用してもよい。また、図14においては、コイル12を固定鉄心11の上側の端面から300mm以内の領域内に巻回されているが、コイル12は、固定鉄心11の下側の端面から300mm以内の領域内に巻回されていてもよい。
【0071】
図15は、本発明の実施の形態4における誘導加熱炉に用いられる別構成の固定鉄心に関する、図2と同様の概略断面図である。先述した図14における固定鉄心11が、固定鉄心11の一方の端面から300mm以内の領域内にコイル12が巻回されているのに対して、図15における固定鉄心11は、空間20に対向する1対の表面(両方の端面)のそれぞれから300mm以内の領域内にコイル12が巻回されている。
【0072】
このように、2台のコイル12が空間20を挟むように、C型形状の固定鉄心11の両方の端部から300mm以内の領域に配置させれば、当該空間20の領域内に供給させることができる磁束が図14の場合に比べて2倍になる。したがって、さらに効率よく、被加熱物16を加熱させることができる。
【0073】
なお、図15に示すコイル12の配置についても、先述した本発明の実施の形態1〜3における誘導加熱炉100、200、300、400、500のいずれに対して採用してもよい。
【0074】
(実施の形態5)
図16は、本発明の実施の形態5における誘導加熱炉の概略斜視図である。また図17は、図16の線分XVII−XVIIにおける概略断面図である。図16、および図17の概略断面図に示す誘導加熱炉600においては、U型形状を有する永久磁石21が、先述した本発明の実施の形態1〜4における固定体としての固定鉄心11に該当する。この永久磁石21としては、たとえばバルク超電導体からなる永久磁石を用いることが好ましい。バルク超電導体を用いることにより、永久磁石21に発生する発熱量を最小限に抑えることができる。また、通常の鉄製の永久磁石を用いてもよい。固定体として用いる永久磁石21のU型形状の両側の端部付近の領域に挟まれた、図16および図17において先述した本発明の実施の形態1〜4と同様の回転体としての回転体24および、被加熱物16が配置された領域を空間20とする。この空間20は、本発明の実施の形態1〜4における各誘導加熱炉の空間20と同等の機能を備えている。
【0075】
磁束は、コイルに直流電流を流すことにより発生する磁束と同等の強度を有する。このため、誘導加熱炉600においては、コイルを用いる必要はない。また、永久磁石を用いているため、空間20の領域内には常時一定の向きや強度を有する磁束を存在させることができる。この意味で、空間20に対して磁束を供給する手段としてバルク超電導体からなる永久磁石21を用いた場合においても、コイルを用いた場合と同様の効果を奏する。
【0076】
むしろ、固定体として永久磁石21を用いれば、永久磁石21のU型形状の両方の端部(永久磁石21の分断された領域の両方の端部)から密度の高い磁束が供給される。このため、永久磁石21の分断された領域をなす、回転体24および、被加熱物16が配置された空間20における磁束は、たとえば先述した本発明の実施の形態4におけるコイル12の配置とした場合と類似した状況になる。具体的には、永久磁石21を用いて空間20に磁束を供給する状況は、実施の形態4に開示したようにコイル12を、磁束を供給させたい空間20に近い領域にて巻回させた状況に類似している。したがって、固定体として永久磁石21を用いることにより、永久磁石21が空間20の領域内全体に供給する磁束を大きくすることができる。そのため、高効率で被加熱物16を加熱させることができる。
【0077】
本発明の実施の形態5は、以上に述べた点においてのみ、本発明の実施の形態1〜4と異なる。たとえば、図16および図17に示すように、空間20とする領域には、本発明の実施の形態1〜4に述べた各誘導加熱炉の空間20と同様に回転体24および被加熱物16が配置される。回転体24は永久磁石21の内部を貫通した、回転軸19を介して、回転駆動源としてのモータ18と接続している。たとえば回転体として、回転体24の代わりに、先述した回転体25、26、27を用いてもよい。
【0078】
また、図16および図17においては、回転体24は、本発明の実施の形態1に開示した回転体24と同様に、モータ18と接続される回転軸19のみに固定されている。しかし、たとえば本発明の実施の形態2に開示したように、回転体24を、モータ18と接続される回転軸19だけでなく、回転体24の、回転軸19が接続されている主表面とは反対側の主表面についても、回転棒29で、固定鉄心11の一方の端面と固定させてもよい。
【0079】
図18は、本発明に係る誘導加熱炉を用いた加熱方法の手順を示すフローチャートである。先述した実施の形態1〜5のいずれの誘導加熱炉を用いて被加熱物16の加熱を行なう場合においても、図18に示すように、回転体を回転させる工程(S10)において先述した図6に示すように回転体24を回転させる。そして回転体24を構成するベース体15の主表面上に、図6に示すように回転により磁性体材料14が通過する軌跡である磁性体軌跡14aと、磁性体材料14の軌跡でない非磁性体軌跡14bとが存在する状態で、被加熱物を配置させる工程(S20)として、被加熱物16の少なくとも一部が、回転体24と対向するように配置させる。すると、先述した要領により、回転体24が回転した際に、被加熱物16には電磁誘導効果による渦電流が発生し、振動を抑制させながら被加熱物を加熱させることができる。また、エネルギー損失低減により誘導加熱炉全体のランニングコストを低減させることもできる。なお、上述した工程(S10)と工程(S20)とは、その順序を逆にして処理を実施してもよい。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、誘導加熱時に発生する機械的振動を抑制しながら、高効率に被加熱物を加熱する技術として、特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態1における誘導加熱炉の概略斜視図である。
【図2】図1の線分II−IIにおける概略断面図である。
【図3】回転体の主表面上を示す概略図である。
【図4】固定鉄心を形成するために珪素鋼板の薄板を複数の層に積層する状態を示す概略図である。
【図5】回転する回転体に対向するように被加熱物を移動させる状態を示す概略図である。
【図6】図3の回転体の変形例として考えられる回転体の形状を示す概略図である。
【図7】図3の回転体の変形例として考えられる回転体の形状を示す概略図である。
【図8】本発明の実施の形態2における誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2において別形状の被加熱物を加熱させた場合の誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。
【図10】本発明の実施の形態3における誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。
【図11】本発明の実施の形態3において別形状の被加熱物を加熱させた場合の誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。
【図12】空間の領域内全体における磁束の時間変化率を±50%以内に抑えることができる、回転体の磁性体材料の配置の一例を示す概略図である。
【図13】本発明の実施の形態3においてさらに別形状の被加熱物を加熱させた場合の誘導加熱炉に関する、図2と同様の概略断面図である。
【図14】本発明の実施の形態4における誘導加熱炉に用いられる固定鉄心に関する、図2と同様の概略断面図である。
【図15】本発明の実施の形態4における誘導加熱炉に用いられる別構成の固定鉄心に関する、図2と同様の概略断面図である。
【図16】本発明の実施の形態5における誘導加熱炉の概略斜視図である。
【図17】図16の線分XVII−XVIIにおける概略断面図である。
【図18】本発明に係る誘導加熱炉を用いた加熱方法の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
11 固定鉄心、12 コイル、13 直流電源、14 磁性体材料、14a 磁性体軌跡、14b 非磁性体軌跡、15 ベース体、16 被加熱物、17 接続籤、18 モータ、19 回転軸、20 空間、21 永久磁石、24 回転体、25 回転体、26 回転体、27 回転体、28 珪素鋼板、29 回転棒、100 誘導加熱炉、200 誘導加熱炉、300 誘導加熱炉、400 誘導加熱炉、500 誘導加熱炉、600 誘導加熱炉。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と接続された固定体と、
前記固定体が分断された領域をなす空間に配置される、主表面上の一部に磁性体材料を含む回転体と、
前記回転体を回転させる回転駆動源とを備えており、
前記回転体が回転することにより、前記空間の領域内で局所的に磁束密度が時間的に変化されるが、前記空間の領域内全体においては磁束の強度が時間的に変化しない、誘導加熱炉。
【請求項2】
前記回転体の全体が、前記空間の領域内に収納される、請求項1に記載の誘導加熱炉。
【請求項3】
直流電源と接続された固定体と、
前記固定体が分断された領域をなす空間に配置される、主表面上の一部に磁性体材料を含む回転体と、
前記回転体を回転させる回転駆動源とを備えており、
前記回転体が回転することにより、前記空間の領域内で局所的に磁束密度が時間的に変化され、前記空間の領域内全体における磁束の強度の時間変化率が±50%以内である、誘導加熱炉。
【請求項4】
前記回転体の一部の領域のみが、前記空間の領域内に収納される、請求項3に記載の誘導加熱炉。
【請求項5】
前記空間を形成することにより、前記固定体の主表面がC型形状を形成する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の誘導加熱炉。
【請求項6】
前記固定体は、珪素鋼板を複数の層に積層することにより形成させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の誘導加熱炉。
【請求項7】
前記固定体の一部の領域に、前記直流電源と接続したコイルを巻回させることにより、前記直流電源と前記固定体とを接続させる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の誘導加熱炉。
【請求項8】
前記コイルは、前記固定体の、前記空間に対向する1対の表面の少なくともいずれか一方から300mm以内の領域内に巻回させることにより配置される、請求項7に記載の誘導加熱炉。
【請求項9】
前記回転体と前記回転駆動源とを接続する回転軸が、前記空間の領域内における磁束の方向に沿った方向に配置される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の誘導加熱炉。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の誘導加熱炉を用いた加熱方法であり、
前記回転体を回転させる工程と、
被加熱物の少なくとも一部を、前記回転体と対向するように配置させる工程とを備える、加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−55814(P2010−55814A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217060(P2008−217060)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】