説明

誘導加熱用調理具

【課題】土鍋など各種の非磁性体の調理用容器内に入れて食品の加熱調理に便利に且つ安全に使用することができ、上側加熱にも使用することができる誘導加熱用調理具を提供することを目的とする。
【解決手段】この誘導加熱用調理具は、導電性の磁性金属板1を調理用容器3内に入れ、高周波磁界によって渦電流を発生させて調理用容器3内を加熱する誘導加熱用調理具である。磁性金属板1には、多数の貫通孔12が上面と下面を貫通して形成される。磁性金属板1の略中央にねじ孔11が形成され、ねじ孔11に棒状の把手2が着脱可能にねじ込み装着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱を用いて調理する誘導加熱用調理具に関し、特に土鍋などの非磁性体の調理用容器を使用して調理を行う際、鍋内の食品を良好に加熱することができる誘導加熱用調理具に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波誘導加熱は、誘導加熱コイルに高周波電流を供給することによって、誘導加熱コイルの近傍に配置した導電性磁性金属に高周波磁界を発生させると共に、その磁性金属に誘導電流としての渦電流を発生させ、この渦電流によって磁性金属内にジュール熱を発生させる。
【0003】
このような渦電流による発熱作用を用いる誘導加熱調理器は、トッププレートの下側に加熱コイルを配設し、加熱コイルに高周波電流を供給することにより、高周波磁界を発生させ、トッププレートの上に載置した誘導加熱用調理鍋の底部に渦電流を生じさせ、これにより、調理鍋に自己発熱を生じさせ、鍋の内部の被調理物を加熱する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の誘導加熱調理器に使用される調理鍋は、高周波磁界によって渦電流を発生する必要があるため、必然的に磁性金属製の鍋となり、非磁性金属材料製の鍋を使用する場合、調理鍋の底部外側に磁性金属板を圧接等して一体化した構造のものが知られている。しかし、この種の磁性金属板は、鍋自体の材質によっては、一体化するように取着することが難しいという課題があった。
【0005】
そこで、従来では、下記特許文献1において、非磁性鍋の中に入れて使用する板状の誘導加熱用調理具が提案されている。
【特許文献1】特開2006−338902号公報
【0006】
この従来の誘導加熱用調理具は、磁性金属製で円板状の導電板の周囲を、隙間をあけた状態で包むように、PPなど合成樹脂層で被覆すると共に、合成樹脂層と導電板との間に、油などの熱伝導媒体を封入して形成されていた。このため、この種の誘導加熱用調理具は、合成樹脂層が外側に現れて加熱されることから、高温加熱時において化学物質が溶出しやすく、また合成樹脂層が劣化して食品に付着すると、食品の安全性に問題が生じるという課題があった。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、土鍋など各種の非磁性体の調理用容器内に入れて食品の加熱調理に便利に且つ安全に使用することができ、上側加熱にも使用することができる誘導加熱用調理具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の誘導加熱用調理具は、導電性の磁性金属板を調理用容器内に入れ、高周波磁界によって渦電流を発生させて該調理用容器内を加熱する誘導加熱用調理具であって、該磁性金属板には、多数の貫通孔が上面と下面を貫通して形成されると共に、該磁性金属板の略中央にねじ孔が形成され、該ねじ孔に棒状の把手が着脱可能にねじ込み装着されることを特徴とする。
【0009】
ここで、上記把手は、棒状本体の上端部に把持部を設け、該棒状本体の下端部におねじ部を設けて形成され、該おねじ部を前記ねじ孔にねじ込んで、上記磁性金属板に取り付けられる構成とすることができる。
【0010】
また、上記磁性金属板は、平面を略円形に形成され、該磁性金属板には前記貫通孔をその平面全体に略均一に分布させて形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の誘導加熱用調理具は、土鍋などの非磁性体製の調理用容器内に入れて使用される。加熱する場合、磁性金属板から把手を外しておけば、把手が鍋の蓋や鍋に入れる食材の邪魔になることはない。誘導加熱用調理具の磁性金属板を収容した調理用容器を、誘導加熱調理器のトッププレートの上に載せ、その下の加熱コイルに高周波電流を供給すると、その周囲に高周波磁界が発生する。その磁界による磁束が調理用容器内の磁性金属板に作用し、高周波磁界によって渦電流が発生する。そして、渦電流によって磁性金属板にジュール熱が発生して発熱し、調理用容器内の食材が加熱される。
【0012】
容器の内部が加熱される間、誘導加熱用調理具の磁性金属板には、把手が取り付けられていないため、把手が容器内で邪魔にならず、蓋の邪魔になることもない。そして、食材の加熱が終了した後、誘導加熱用調理具の磁性金属板を取り出す場合には、棒状の把手を磁性金属板の中央のねじ孔にねじ込み、把手を持って磁性金属板を簡単に取り出すことができる。
【0013】
また、鍬焼き料理のように、深さの浅い調理用容器内で肉類や魚介類を焼く場合、調理用容器内に先に食材を入れ、その上に誘導加熱用調理具の磁性金属板を、棒状の把手を持って載せ、その状態で、誘導加熱を行えば、肉類や魚介類の食材をその上側から加熱して美味しく調理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は誘導加熱用調理具の磁性金属板1の斜視図を示し、図2は把手2の側面図を示し、図3は把手2を取り付けた磁性金属板1の斜視図を示している。
【0015】
この誘導加熱用調理具の磁性金属板1は、導電性の磁性金属により平面を円形とした円板状に形成され、導電性磁性金属として、例えば耐腐食性の良好なステンレス鋼板を円形に裁断して形成される。ステンレス鋼板には、食品衛生上で問題なく認可されたSUS430、SUS410などを使用することができる。磁性金属板1は、土鍋などの非磁性の調理用容器内に入れて使用されるが、調理用容器の底部全体に配置されて収容される大きさに形成される。
【0016】
また、磁性金属板1には、図1のように、多数の貫通孔12が上面と下面間で貫通して形成されている。多数の貫通孔12は、磁性金属板1の平面全体に分布して形成され、さらに磁性金属板1の略中央には、めねじを螺刻したねじ孔11が形成されている。このねじ孔11には、後述の把手2のおねじ部23がねじ込み可能となっている。
【0017】
磁性金属板1は、例えば厚さが2〜3mmの金属板を約17cmの円板状に裁断して形成される。このような磁性金属板1に多数の貫通孔12が穿設されるが、それらの貫通孔12の内径は、例えば約6mm(金属板の厚さの約2倍〜3倍の内径)であり、約110〜180個の貫通孔12が円形の磁性金属板1の全平面に略均一に分布して形成される。
【0018】
約17cmの外径を有する円板状の磁性金属板1において、内径約6mmの貫通孔12を約150個形成した場合、磁性金属板1の平面の全面積に対する貫通孔12の全面積の割合は、約19%であり、このような割合(大きさと数)の貫通孔12を磁性金属板1に形成した場合、下記の実施例に示すように、効率の良い誘導加熱を行なうことができる。
【0019】
把手2は、図2に示すように、棒状本体21の上端部に把持部22を設け、棒状本体21の下端部におねじ部23を設けて、ステンレス鋼などにより形成される。把持部22は棒状本体21の外径より大径に形成され、把持しやすい茸状の形成されている。なお、把持部22は、木製或いはプラスチック製として棒状本体21の先端に取着することもできる。
【0020】
このような把手2は、図3に示すように、その下端部のおねじ部23を、磁性金属板1の中央のねじ孔11に、ねじ込んで誘導加熱用調理具に取り付けられる。ねじ込み具合を比較的緩くねじ込むようにすれば、磁性金属板1と把手2の着脱は容易に行なうことができる。
【0021】
上記構成の誘導加熱用調理具は、図5に示すように、誘導加熱調理器4により土鍋などの非磁性の調理用容器を加熱する場合に使用される。誘導加熱調理器4は、トッププレートの下側に加熱コイルを配設し、加熱コイルに高周波電流を供給することにより、高周波磁界を発生させ、トッププレートの上に載置した非磁性鍋内の磁性金属板1に渦電流を生じさせ、これにより、調理用容器3内の調理具の磁性金属板1に自己発熱を生じさせ、調理用容器3内の食材を加熱する。
【0022】
調理用容器3内に液体の食材(水や汁物)を入れ、その水や汁物を加熱する場合、水や汁物が磁性金属板1の多数の貫通孔12内に進入し、自己発熱する磁性金属板1の表面積が大幅に増大する。このため、効率の高い加熱を行なうことができ、水や汁物を効率よく加熱することができる。
【0023】
また、水や汁物を沸点以上に加熱すると、水蒸気が泡となって発生し、磁性金属板1の底面で発生した水蒸気の泡は磁性金属板1を下から持ち上げるため、土鍋などの内部で磁性金属板1が動き、異音などが発生しやすい。しかし、この誘導加熱用調理具の磁性金属板1には、多数の貫通孔12が全面に分布して穿設されているため、それらの貫通孔12を通して沸騰時の泡が上昇し、磁性金属板1が調理用容器内で殆ど動くことがなく、異音などは発生しない。
【0024】
また、鍬焼き料理のように、深さの浅い調理用容器内で肉類や魚介類を焼く場合、その調理用容器内に先に食材を入れ、その上に誘導加熱用調理具の磁性金属板1を、棒状の把手2を持って載せ、その状態で、誘導加熱を行えば、肉類や魚介類の食材をその上側から加熱して美味しく調理することができる。
【0025】
さらに、土鍋料理以外の非磁性体の調理用容器として、紙製の鍋を使用する紙鍋料理があるが、このような紙鍋内に上記磁性金属板1を入れて使用することもできる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の効果を確認するために行なった実施例について説明する。なお、下記実施例は本発明の一例であり、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例では、約17cmの外径を有する円板状の磁性金属板に、内径約6mmの貫通孔12を160個(実施例A)、150個(実施例B)、101個(実施例C)、75個(実施例D)形成した誘導加熱用調理具を製作し、調理用容器(土鍋)内に入れ、容器を誘導加熱調理器上に載置し、調理用容器内に入れた水を加熱し、水の温度上昇の経過を測定した。
【0028】
ここで、外径17cmの磁性金属板に対し内径6mmの貫通孔を160個形成した場合、磁性金属板の平面の全体面積に対する貫通孔の全面積の割合は、約19.9%となり、貫通孔を150個形成した場合、磁性金属板の平面の全体面積に対する貫通孔の全面積の割合は、約18.7%となる。また、外径17cmの磁性金属板に対し内径6mmの貫通孔を101個形成した場合、磁性金属板の平面の全体面積に対する貫通孔の全面積の割合は、約12.6%となり、貫通孔を75個形成した場合、磁性金属板の平面の全体面積に対する貫通孔の全面積の割合は、約9.3%となる。
【0029】
図6のグラフは、誘導加熱用調理具の磁性金属板により調理用容器内の水を加熱した際の温度上昇を示し、このグラフから、貫通孔12を160個(実施例A)または150個(実施例B)とした磁性金属板は、比較的効率の良い加熱を行ない得ることがわかる。これは、誘導加熱調理器の加熱コイルによって発生した磁束が磁性金属板に良好に作用して磁性金属板が効率良く発熱し、発熱した磁性金属板の表面積も充分に大きく、液体の加熱効率が良いと考えられる。
【0030】
一方、貫通孔12の数を101個(実施例C)または75個(実施例D)とした誘導加熱用調理具では、上記実施例A,Bより加熱効率が少し低いことがわかる。これは、加熱コイルによって発生した磁束が磁性金属板に作用して磁性金属板は発熱するが、発熱した磁性金属板の表面積が実施例A,Bより少ないため、液体の加熱効率は上記実施例A,Bよりは低いと考えられる。
【0031】
また、グラフでは示していないが、貫通孔12を全く設けない磁性金属板の場合、容器内の液体の加熱効率は、上記実施例A,Bより低い。さらに、磁性金属板の裏面に脚部を突設し、調理用容器の底部と磁性金属板の裏面にスペースを設けた場合、磁性金属板が誘導加熱調理器の加熱コイルから離れることにより、磁束が不安定となり、容器内の水の加熱効率は低下する。
【0032】
このような実施例の測定結果から、磁性金属板に形成する貫通孔の数は、110〜160個が好ましく、その貫通孔の内径は磁性金属板の厚さの2〜3倍が好ましい。さらに、磁性金属板の平面の全面積に対する貫通孔の全面積の割合は約13%〜20%が適当である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態を示す誘導加熱用調理具の磁性金属板の斜視図である。
【図2】同誘導加熱用調理具の把手の側面図である。
【図3】把手を取り付けた誘導加熱用調理具の斜視図である。
【図4】誘導加熱用調理具の使用状態を示す断面図である。
【図5】把手を取り付けた誘導加熱用調理具の使用状態を示す断面図である。
【図6】非磁性鍋内を誘導加熱用調理具により加熱した際の温度変化を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0034】
1 磁性金属板
2 把手
3 調理用容器
4 誘導加熱調理器
12 貫通孔
21 棒状本体
22 把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の磁性金属板を調理用容器内に入れ、高周波磁界によって渦電流を発生させて該調理用容器内を加熱する誘導加熱用調理具であって、
該磁性金属板には、多数の貫通孔が上面と下面を貫通して形成されると共に、該磁性金属板の略中央にねじ孔が形成され、該ねじ孔に棒状の把手が着脱可能にねじ込み装着されることを特徴とする誘導加熱用調理具。
【請求項2】
前記把手は、棒状本体の上端部に把持部を設け、該棒状本体の下端部におねじ部を設けて形成され、該おねじ部を前記ねじ孔にねじ込んで、前記磁性金属板に取り付けられることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱用調理具。
【請求項3】
前記磁性金属板は平面を略円形に形成され、該磁性金属板には前記貫通孔が平面全体に略均一に分布して形成されたことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱用調理具。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−307336(P2008−307336A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160639(P2007−160639)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(507075200)東亜ホールディングズ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】