誘導加熱装置
【課題】全体として矩形状となるように線状部材を渦巻き状にした誘導コイルを、溶融金属の注入ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置して、注入ノズルを誘導加熱する誘導加熱装置において、その発熱効率を向上させる。
【解決手段】全体として矩形状となるように銅管2を渦巻き状にした誘導コイル1aを、溶融金属の注入ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置して、注入ノズルを誘導加熱する誘導加熱装置であって、矩形状の誘導コイル1aの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部3を挟んで隣り合う銅管2間の距離laに比べて、中心部3以外で隣り合う銅管2間の距離paが短くなっている。
【解決手段】全体として矩形状となるように銅管2を渦巻き状にした誘導コイル1aを、溶融金属の注入ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置して、注入ノズルを誘導加熱する誘導加熱装置であって、矩形状の誘導コイル1aの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部3を挟んで隣り合う銅管2間の距離laに比べて、中心部3以外で隣り合う銅管2間の距離paが短くなっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄鋼製造業の連続鋳造設備において、タンディッシュに溜められた溶鋼を鋳型に注入する浸漬ノズルを誘導加熱するのに好適な誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造設備では、図11に示すように、取鍋50の溶鋼がロングノズル52を介してタンディッシュ51に供給される。そして、タンディッシュ51に溜められた溶鋼は、浸漬ノズル53を介してモールド(水冷鋳型)54に注入され、冷却とともに下方に引き抜かれて固められる。
【0003】
このような連続鋳造設備において、浸漬ノズル53を通過する溶鋼の温度の低下を防ぐとともに、浸漬ノズル53の熱負荷を低減させるために、浸漬ノズル53を加熱することが行われている。
【0004】
例えば特許文献1には、浸漬ノズルの上部の注湯口又は下部の吐出孔から燃料ガスと酸素を供給可能なバーナーを用いる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、加熱に時間がかかり、加熱中に浸漬ノズルを構成する耐火物が劣化して、実操業時にスポーリング等のトラブルが発生しやすくなるおそれがある。また、バーナーによる加熱温度は、通常溶鋼の温度(1500〜1530℃)よりも低いので(1000〜1200℃)、実操業時に浸漬ノズルが溶鋼に接触すると、熱応力による割れ等のトラブルが発生してしまうおそれがある。
【0006】
一方、特許文献2には、浸漬ノズルの内側に円筒状の誘導コイルを挿入して誘導加熱を行う方法が、また、特許文献3には、浸漬ノズルの外側に円筒状のコイルを配置して誘導加熱を行う方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されている方法では、浸漬ノズルを1400℃程度の高温まで短時間で加熱できるが、浸漬ノズル中に誘導コイルを挿入するため、浸漬ノズルの耐火物と誘導コイルが接触して、浸漬ノズル及び誘導コイルが損傷し寿命が短くなってしまう。また、接触により浸漬ノズルの耐火物に配合された炭素や酸化防止材等が除去されて、実操業時にスポーリングや過度の溶損等のトラブルが発生するおそれもある。また、誘導コイルを浸漬ノズル内に挿入する機構が必要となるため、設置に多大な費用がかかってしまう。さらには、内径の異なる浸漬ノズルに合わせて、異なる外径の誘導コイルを準備する必要がある。
【0008】
また、特許文献3に開示されている方法では、浸漬ノズルの外表面に対して平行、すなわち、浸漬ノズルの軸心に対して平行に磁場が発生し、凹凸のある浸漬ノズルの外表面を均一に加熱することができず、特に他の部分に比べて突出しているスラグイン部が過度に加熱されてしまうおそれがある。また、外径の異なる浸漬ノズルに合わせて、異なる内径のコイルを準備する必要がある。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−262455号公報
【特許文献2】特開平9−122901号公報
【特許文献3】特開2002−336942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願出願人は、上述したような課題に鑑みて、特願2006−5104号において、誘導コイルを浸漬ノズルの外周面に沿わせて、誘導コイルの巻き心方向が浸漬ノズルに対して交差するように配置することによって、コイルの寿命が長く、浸漬ノズルの劣化が少なく、浸漬ノズルの外表面の凹凸の影響を少なくして、浸漬ノズルを均一に加熱することができるようにした加熱装置を提案している。
【0011】
以下、図5〜10を参照して、本願出願人が提案している加熱装置について説明する。図5に示すように、誘導加熱装置10は、連続鋳造設備11において、取鍋(図示せず)から供給された溶鋼をタンディッシュ12から鋳型(図示せず)に注湯する前に、タンディッシュ12に取付けられる浸漬ノズル13を加熱する装置である。なお、タンディッシュ12には、例えば、スライディングノズル14が設けられ、浸漬ノズル13は、スライディングノズル14を介して、タンディッシュ12に取付けられている。
【0012】
浸漬ノズル13は、タンディッシュ12から鋳型に注湯される溶鋼の酸化防止を目的とし、導電性を有する材料、例えば、炭素を含有したアルミナグラファイトで形成されている。図6に示すように、浸漬ノズル13の形状は、実質的に底部が閉塞された筒状であって、上部に溶鋼が注湯される注湯口15と、下部側面に対向して2つ穿設された吐出孔16が設けられ、高さ方向中央部には、肉厚のスラグライン部17が形成されている。また、浸漬ノズル13の内側には、酸化防止剤が塗布された耐火物18が設けられている。更に、浸漬ノズル13の上部には、浸漬ノズル13の外表面側から内側にアルゴンガスを供給するアルゴンガス供給孔19が設けられている。また、浸漬ノズル13の上端部外側には、浸漬ノズル13をタンディッシュ12に設置するための棒状の水平部材(図示せず)が設けられたステンレス製のトラニオン(図示せず)が一体的に取付けられている。
【0013】
図7〜図9に示すように、複数、例えば、2つに分割された誘導コイル20、21が浸漬ノズル13の外周面に沿って配置される。誘導コイル20、21は、例えば、断面矩形の銅管を溶接して渦巻き状とした後、浸漬ノズル13の外表面に沿って湾曲させて、図9に示すように、平面視して円弧状(曲平面となっている)としている。また、2つの誘導コイル20、21は、浸漬ノズル13を中央に挟んで対向し、しかも、誘導コイル20、21の巻き心が肉厚のスラグイン部17の近傍となるように配置されている。
【0014】
また、誘導コイル20、21のそれぞれの渦巻き中央の一端側は、それぞれ連結金具22を介して、外側が断熱材23で覆われた断面円形の銅管24で形成された連結管25によって連結され、誘導コイル20、21のそれぞれの他端側は対となって、図示しない電源に連結されて1つの回路が形成されている。電源は、例えば、AC200/220V、60Hz、及び26KvAであり、誘導コイル20、21の出力を最大20kWで、周波数5〜40kHz、例えば、20kHzとして、浸漬ノズル13を、例えば、1200〜1530℃に加熱する。更に、浸漬ノズル13を加熱した際の輻射熱及び抵抗加熱による誘導コイル20、21の加熱を防止するために、例えば、誘導コイル21を連結された誘導コイル20の他端側には、誘導コイル20、21の内部に冷却用の水を供給する図示しない冷却水供給管が接続されている。
【0015】
ここで、図10に示すように、対向配置される誘導コイル20、21の巻き方向は、例えば、誘導コイル20を浸漬ノズル13の正面側に、誘導コイル21を浸漬ノズル13の背面側に配置したとし、誘導コイル20側から誘導コイル21側へ連結管25を介して電流を流すと、誘導コイル20及び誘導コイル21に正面視して時計回りに電流が流れるようにしている。なお、誘導コイル20、21の巻き方向は、誘導コイル20側から誘導コイル21側へ連結管25を介して電流を流した場合に、誘導コイル20及び誘導コイル21に正面視して反時計回りに電流が流れるようにしてもよく、また、誘導コイル20、21に流れる電流が逆方向としてもよい。
【0016】
誘導コイル20、21は、浸漬ノズル13を平面視して、誘導コイル20、21の巻き心方向が浸漬ノズル13(例えば、軸心26又は浸漬ノズル13の中空部)と交差し、しかも、浸漬ノズル13を側面視して、誘導コイル20、21の面が浸漬ノズル13に対して、0度、すなわち、平行となるように配置され、誘導コイル20、21の巻き心方向が浸漬ノズル13に対して90度となっているので、浸漬ノズル13に対して交差する磁力線(図示せず)が多く発生し、この磁力線が浸漬ノズル13を通過して浸漬ノズル13に渦電流(図示せず)を発生させ、この渦電流により浸漬ノズル13が加熱される。これによって、浸漬ノズル13の外表面を、その凹凸の影響が少なく、均一に加熱することができる。なお、誘導コイル20、21の面が浸漬ノズル13に対して、例えば、0度を超え30度以下で傾くように、誘導コイル20、21を配置してもよく、これによって、浸漬ノズル13の例えば厚みの異なる各部位、特に、スラグイン部17及び誘導コイル20、21の距離と、吐出孔16及び誘導コイル20、21の距離とを異ならせ、浸漬ノズル13を均一に加熱することができる。
【0017】
更に、浸漬ノズル13を高温ガスで加熱するガス加熱手段30を有している。ガス加熱手段30は、浸漬ノズル13の吐出孔16から浸漬ノズル13内に差し込んで空気を供給する空気供給管31と、浸漬ノズル13の下方に配置され、エジェクター効果によって浸漬ノズル13内にコークス炉ガス(COG)を供給するCOGガス供給管32とを有し、COGを燃焼して生成した高温ガスによって、浸漬ノズル13の内面を加熱することができる。また、図5に示すように、ガス加熱手段30は、タンディッシュ12の上部に設置されたタンディッシュカバー40の貫通孔41に配置された予熱バーナー42を有し、予熱バーナー42によってタンディッシュ12内も同時に加熱可能となっている。予熱バーバー42では、タンディッシュ12内に配置された溶鋼のストッパー43と、タンディッシュ12の底部の溶鋼排出口44に設けた上ノズル45及び下ノズル46と、スライディングノズル14と、浸漬ノズル13の上部とを加熱することができる。
【0018】
次に、加熱装置10を使用した浸漬ノズル13の加熱方法について説明する。連続鋳造設備11のタンディッシュ12から溶鋼を鋳型に注湯する前に、タンディッシュ12にスライディングノズル14を介して取付けられた浸漬ノズル13の外周面に沿って湾曲した2つの誘導コイル20、21を、それぞれの誘導コイル20、21の巻き心方向が浸漬ノズル13に対して交差するように、浸漬ノズル13の吐出孔16及びスラグライン部17の外表面近傍に配置する。更に、空気供給管31を浸漬ノズル13の吐出孔16から浸漬ノズル13の内部に、COGガス供給管32を浸漬ノズル13の下方に配置する。また、タンディッシュ12の上部にタンディッシュカバー40を配置し、タンディッシュカバー40の貫通孔41に予熱バーナー42を配置する。
【0019】
まず、ガス加熱手段30によって、浸漬ノズル13の内面及び上部を、例えば、700℃以上の温度域(700〜1100℃)、例えば、1000℃まで加熱する。この際には、空気供給管31及びCOGガス供給管32からの高温ガスによって、浸漬ノズル13の内面が加熱され、予熱バーナー42によって浸漬ノズル13の上部及びタンディッシュ12内が加熱される。
【0020】
浸漬ノズル13の温度が、例えば、1000℃程度となった後、誘導コイル20、21に接続された電源から、誘導コイル20、21に出力が最大20kWで、周波数が、5〜40kHz、例えば、20kHzの電流を流して、浸漬ノズル13を1200〜1530℃、例えば、1400℃に加熱する。浸漬ノズル13の温度が700℃以上の温度域で、誘導コイル20、21による誘導加熱を行うので、浸漬ノズル13が700℃以上に暴露される時間が短くなり、浸漬ノズル13の耐火物18に塗布された酸化防止剤の劣化を防止できる。なお、浸漬ノズル13の温度が700℃未満で誘導コイル20、21によって、誘導加熱を行ってもよいが、電気代が高くなるので、誘導コイル20、21による誘導加熱は、浸漬ノズル13の温度が700℃以上の温度域で行うのが好ましい。また、誘導コイル20、21による誘導加熱時には、ガス加熱手段30による高温ガスでの加熱を行ってもよく、行わなくてもよい。
【0021】
また、浸漬ノズルの加熱温度は、下限が1200℃、好ましくは1300℃、更に好ましくは1350℃であって、上限は溶鋼の温度である1530℃程度とするのがよい。なお、浸漬ノズル13の加熱終了後から溶鋼の注湯までに、浸漬ノズル13の温度が低下するので、浸漬ノズル13の加熱温度を溶鋼の温度よりも高く、例えば1600℃程度としてもよい。また、加熱時には、誘導コイル20、21の内部に冷却水を、例えば、4リットル/分で供給し、浸漬ノズル13の輻射熱及び抵抗加熱による誘導コイル20、21の加熱を防止している。
【0022】
以上述べたように、誘導コイル20、21によって、浸漬ノズル13の外表面に対して交差する方向に磁場を多く発生させることによって、浸漬ノズル13の外表面の凹凸の影響を少なくして、浸漬ノズル13を均一に加熱している。また、誘導コイル20、21を浸漬ノズル13の外表面に沿って湾曲させて、誘導コイル20、21と浸漬ノズル13との距離を一定にして、浸漬ノズル13をより均一に加熱している。
【0023】
また、誘導コイル20、21を複数に分割して、浸漬ノズル13に容易に着脱可能とし、特に、誘導コイル20、21を浸漬ノズル13に着脱する際に、誘導コイル20、21と浸漬ノズル13を摺動及び接触させず、浸漬ノズル13及び誘導コイル20、21の劣化を防止している。更に、複数の誘導コイル20、21は、浸漬ノズル13の外径に合わせて調整して配置できるので、従来のように浸漬ノズル13の外径に合わせた様々な内径の円筒状の誘導コイルを必要とせず、非稼動の誘導コイルの予備品数を少なくできる。
【0024】
また、誘導コイル20、21を、浸漬ノズル13の吐出孔16及びスラグイン部17の外表面近傍に配置して、スポーリングしやすい部位を均一に加熱し、浸漬ノズル13の破損を防止している。更に、誘導コイル20、21では加熱しにくい部位を、ガス加熱手段30によって加熱するので、浸漬ノズル13をより均一に加熱できる。
【0025】
以上、本願出願人が提案している加熱装置について述べたが、このように誘導コイル20、21によって誘導加熱を行う場合に、その発熱効率を向上させることが要求される。
【0026】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、全体として矩形状となるように線状部材を渦巻き状にした誘導コイルを、溶融金属の注入ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置して、注入ノズルを誘導加熱する誘導加熱装置において、誘導コイルに対向した部分の注入ノズル内を均一に加熱し、且つその発熱効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の誘導加熱装置は、全体として矩形状となるように線状部材を渦巻き状にした誘導コイルを、溶融金属の注入ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置して、前記注入ノズルを誘導加熱する誘導加熱装置であって、前記矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部を挟んで隣り合う線状部材間の距離に比べて、中心部以外で隣り合う線状部材間の距離が短くなっていることを特徴とする。
また、本発明の誘導加熱装置の他の特徴とするところは、前記注入ノズルは、連続鋳造設備において取鍋からタンディッシュに溶融金属を注入するノズル、又は、タンディッシュから鋳型に溶融金属を注入するノズルである点にある。
また、本発明の誘導加熱装置の他の特徴とするところは、前記矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部以外で隣り合う各線状部材間は等間隔となっている点にある。
また、本発明の誘導加熱装置の他の特徴とするところは、前記線状部材は金属管からなる点にある。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部を挟んで隣り合う線状部材間の距離に比べて、中心部以外で隣り合う線状部材間の距離を短くすることによって、誘導コイルに対向した部分の注入ノズル内を均一に加熱し、且つ発熱効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1(a)には、本発明の実施形態に係る誘導加熱装置の誘導コイル1aを示す。誘導コイル1aは、断面矩形の銅管2を略同一平面上で渦巻き状にし、全体が矩形状となるようにしたものである。この矩形状をなす誘導コイル1aが、上述した誘導コイル20、21に相当するものであり、浸漬ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置する。
【0030】
図1(a)において、xは、中心部(渦巻き中央部)3の上下の間隔la、すなわち中心部3を挟んで上下に隣り合う銅管2間の距離laを、誘導コイル1aの縦方向(上下方向)高さLに対する比率で表わしたものである。例えばx=0.5であれば、中心部3の上下の間隔が、誘導コイルの高さLの半分になることを意味する。誘導コイル1aにおいては、x=0.65となっている。
【0031】
誘導コイル1aでは、中心部3以外で上下に隣り合う各銅管2間の距離はいずれもpaであり、等間隔となっている。そして、中心部3で上下に隣り合う銅管2間の距離laに比べて、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離paが短くなっている。すなわち、中心部3に比べて、その周囲(中心部3以外)では銅管2が密に配置されている。
【0032】
図1(b)に示す誘導コイル1bも、断面矩形の銅管2を略同一平面上で渦巻き状にし、全体が矩形状となるようにしたものであり、x=0.11となっている。
【0033】
誘導コイル1bでは、中心部3以外で上下に隣り合う各銅管2間の距離はいずれもpbであり、等間隔となっている。そして、中心部3で上下に隣り合う銅管2間の距離lbに比べて、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離pbが短くなっている。すなわち、中心部3に比べて、その周囲(中心部3以外)では銅管2が密に配置されている。
【0034】
ここで、図1(a)、(b)に示す誘導コイル1a、1bは、同じ銅管2、同じ大きさ(矩形面積)、同じターン数であるが、比率xが異なっている。すなわち、誘導コイル1bでは、x=0.11であり、誘導コイル1bの縦方向において、中心部3の上下の間隔lbが比較的短くなっている。一方、誘導コイル1aでは、x=0.65であり、誘導コイル1aの縦方向において、中心部3の上下の間隔laが比較的長くなっている。
【0035】
その結果、図1(b)に示す誘導コイル1bでは、中心部3の上下の間隔lbに比べて、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離pbがわずかに短いだけで、略同程度となっている。一方、図1(a)に示す誘導コイル1aでは、中心部3の上下の間隔laに比べて、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離paが大幅に短くなっている。すなわち、誘導コイル1aでは、誘導コイル1bに比べて、中心部3の上下の間隔が長くなっているとともに、その周囲(中心部3以外)での銅管2の密の度合いが高くなっている。
【0036】
図2には、誘導コイル1a、1bに流れる電流により浸漬ノズル内に発生する空間磁束密度分布を示す。また、図3には、誘導コイル1a、1bが生成した磁場によって、被加熱物である浸漬ノズルの外壁内に誘起された渦電流が生成する磁場分布を示す。これら図2、図3において、横軸は正規化した磁束密度を、縦軸は正規化した誘導コイル下端からの距離(高さ)を表わす。また、これら図2、図3において、例1が誘導コイル1bによる結果、例2が誘導コイル1aによる結果を表わす。なお、誘導コイル1a、1bの湾曲の度合いや、誘導コイル1a、1bに印加する電流の条件等は一致させている。
【0037】
誘導コイル1bのように中心部3の上下の間隔lbを短くすると、誘導コイル自体の磁場は小さく、分布にもムラが生じている。それに対して、誘導コイル1aのように中心部3の上下の間隔laを長くし、その周囲(中心部3以外)における銅管2間の距離Paを短くして密の度合いを高くすると、誘導コイル1aの上下端付近において電流密度(アンペア×ターン数)を増大させることになり、中央部での磁場は小さくなるものの、誘導コイル全体の磁場放出能力が増大する。これによって、誘導コイルの中央部での発熱密度を大きく低下させることなく、上下端付近で発熱密度を増大させることができるので、全体発熱量を増大させることが可能である。
【0038】
図3において、渦電流∝渦電流による磁場、(渦電流の二乗)∝発熱密度であるので、(渦電流による磁場の二乗)∝発熱密度の関係が成り立つ。この図により、誘導コイル1a(例2)の方がコイル高さ方向に均一に発熱していることが分かる。また、全体発熱量は、図3のグラフと縦軸(磁束密度=0の直線)とで囲まれる面積に相関があるので、誘導コイル1a(例2)の方が全体発熱量も増大していることが分かる。
【0039】
図4には、同じ銅管2、同じ大きさ(矩形面積)、同じターン数であるが、比率xを変更した誘導コイル(誘導コイル1a、bを含む)を用いた場合の全体発熱量を示す図である。図4において、横軸はコイル全体に対する中央部間隔の比率xを、縦軸は誘導コイル1b(x=0.11)を1.0として正規化した全体発熱量を表わす。
【0040】
図4に示すように、同じ銅管2、同じ大きさ(矩形面積)、同じターン数である場合、xを大きくすれば、すなわち、中心部3の上下の間隔を長くするとともに、中心部3以外での銅管2の密の度合いを高くするほど、全体発熱量を増加させて、発熱効率を向上させることができる。例えば誘導コイル1aでの全体発熱量は、誘導コイル1bでの全体発熱量に比べて1.39倍に増大している。
【0041】
中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離pは、銅管2間で絶縁層を確保しなければならないため、その最短距離に限界がある。換言すれば、その限界の範囲で許容されるだけ、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離pを短くし、中心部3以外での銅管2の密の度合いが高くすれば、それだけ全体発熱量を増加させることができる。
【0042】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えば上記実施形態では、誘導コイル1a、1bの縦方向(上下方向)について説明したが、横方向においても、中心部3で左右に隣り合う銅管2間の距離に比べて、中心部3以外で左右に隣り合う銅管2間の距離が短くなっている場合にも、全体発熱量を増加させることができる。
【0043】
また、図5〜10を参照して説明した加熱装置は一例であり、例えば取鍋からタンディッシュに溶鋼を注入するロングノズルに本発明の誘導加熱装置を使用してもよい。また、浸漬ノズルまわりに1つ又は3以上の誘導コイルを配置してもよい。さらに、誘導コイルを浸漬ノズルに対して、浸漬ノズルの軸心を中心として相対的に回転させる回転手段を設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る誘導加熱装置の誘導コイルを示す図である。
【図2】誘導コイルに流れる電流による空間磁束密度分布を示す特性図である。
【図3】誘導コイルが生成した磁場によって、被加熱物である浸漬ノズル内に誘起された渦電流が生成する磁場分布を示す特性図である。
【図4】同じ銅管、同じ大きさ(矩形面積)、同じターン数であるが、比率xを変更した誘導コイルを用いた場合の全体発熱量を示す図である。
【図5】誘導コイルを用いた加熱装置の使用状態を示す図である。
【図6】誘導コイルを用いた加熱装置で加熱される浸漬ノズルの例を示す図である。
【図7】誘導コイルを用いた加熱装置の正面図である。
【図8】誘導コイルを用いた加熱装置の側面図である。
【図9】誘導コイルを用いた加熱装置の平面図である。
【図10】誘導コイルを説明するための図である。
【図11】連続鋳造設備を説明するための図である。
【符号の説明】
【0045】
1a 誘導コイル
1b 誘導コイル
2 銅管
3 誘導コイルの中心部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄鋼製造業の連続鋳造設備において、タンディッシュに溜められた溶鋼を鋳型に注入する浸漬ノズルを誘導加熱するのに好適な誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造設備では、図11に示すように、取鍋50の溶鋼がロングノズル52を介してタンディッシュ51に供給される。そして、タンディッシュ51に溜められた溶鋼は、浸漬ノズル53を介してモールド(水冷鋳型)54に注入され、冷却とともに下方に引き抜かれて固められる。
【0003】
このような連続鋳造設備において、浸漬ノズル53を通過する溶鋼の温度の低下を防ぐとともに、浸漬ノズル53の熱負荷を低減させるために、浸漬ノズル53を加熱することが行われている。
【0004】
例えば特許文献1には、浸漬ノズルの上部の注湯口又は下部の吐出孔から燃料ガスと酸素を供給可能なバーナーを用いる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、加熱に時間がかかり、加熱中に浸漬ノズルを構成する耐火物が劣化して、実操業時にスポーリング等のトラブルが発生しやすくなるおそれがある。また、バーナーによる加熱温度は、通常溶鋼の温度(1500〜1530℃)よりも低いので(1000〜1200℃)、実操業時に浸漬ノズルが溶鋼に接触すると、熱応力による割れ等のトラブルが発生してしまうおそれがある。
【0006】
一方、特許文献2には、浸漬ノズルの内側に円筒状の誘導コイルを挿入して誘導加熱を行う方法が、また、特許文献3には、浸漬ノズルの外側に円筒状のコイルを配置して誘導加熱を行う方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されている方法では、浸漬ノズルを1400℃程度の高温まで短時間で加熱できるが、浸漬ノズル中に誘導コイルを挿入するため、浸漬ノズルの耐火物と誘導コイルが接触して、浸漬ノズル及び誘導コイルが損傷し寿命が短くなってしまう。また、接触により浸漬ノズルの耐火物に配合された炭素や酸化防止材等が除去されて、実操業時にスポーリングや過度の溶損等のトラブルが発生するおそれもある。また、誘導コイルを浸漬ノズル内に挿入する機構が必要となるため、設置に多大な費用がかかってしまう。さらには、内径の異なる浸漬ノズルに合わせて、異なる外径の誘導コイルを準備する必要がある。
【0008】
また、特許文献3に開示されている方法では、浸漬ノズルの外表面に対して平行、すなわち、浸漬ノズルの軸心に対して平行に磁場が発生し、凹凸のある浸漬ノズルの外表面を均一に加熱することができず、特に他の部分に比べて突出しているスラグイン部が過度に加熱されてしまうおそれがある。また、外径の異なる浸漬ノズルに合わせて、異なる内径のコイルを準備する必要がある。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−262455号公報
【特許文献2】特開平9−122901号公報
【特許文献3】特開2002−336942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願出願人は、上述したような課題に鑑みて、特願2006−5104号において、誘導コイルを浸漬ノズルの外周面に沿わせて、誘導コイルの巻き心方向が浸漬ノズルに対して交差するように配置することによって、コイルの寿命が長く、浸漬ノズルの劣化が少なく、浸漬ノズルの外表面の凹凸の影響を少なくして、浸漬ノズルを均一に加熱することができるようにした加熱装置を提案している。
【0011】
以下、図5〜10を参照して、本願出願人が提案している加熱装置について説明する。図5に示すように、誘導加熱装置10は、連続鋳造設備11において、取鍋(図示せず)から供給された溶鋼をタンディッシュ12から鋳型(図示せず)に注湯する前に、タンディッシュ12に取付けられる浸漬ノズル13を加熱する装置である。なお、タンディッシュ12には、例えば、スライディングノズル14が設けられ、浸漬ノズル13は、スライディングノズル14を介して、タンディッシュ12に取付けられている。
【0012】
浸漬ノズル13は、タンディッシュ12から鋳型に注湯される溶鋼の酸化防止を目的とし、導電性を有する材料、例えば、炭素を含有したアルミナグラファイトで形成されている。図6に示すように、浸漬ノズル13の形状は、実質的に底部が閉塞された筒状であって、上部に溶鋼が注湯される注湯口15と、下部側面に対向して2つ穿設された吐出孔16が設けられ、高さ方向中央部には、肉厚のスラグライン部17が形成されている。また、浸漬ノズル13の内側には、酸化防止剤が塗布された耐火物18が設けられている。更に、浸漬ノズル13の上部には、浸漬ノズル13の外表面側から内側にアルゴンガスを供給するアルゴンガス供給孔19が設けられている。また、浸漬ノズル13の上端部外側には、浸漬ノズル13をタンディッシュ12に設置するための棒状の水平部材(図示せず)が設けられたステンレス製のトラニオン(図示せず)が一体的に取付けられている。
【0013】
図7〜図9に示すように、複数、例えば、2つに分割された誘導コイル20、21が浸漬ノズル13の外周面に沿って配置される。誘導コイル20、21は、例えば、断面矩形の銅管を溶接して渦巻き状とした後、浸漬ノズル13の外表面に沿って湾曲させて、図9に示すように、平面視して円弧状(曲平面となっている)としている。また、2つの誘導コイル20、21は、浸漬ノズル13を中央に挟んで対向し、しかも、誘導コイル20、21の巻き心が肉厚のスラグイン部17の近傍となるように配置されている。
【0014】
また、誘導コイル20、21のそれぞれの渦巻き中央の一端側は、それぞれ連結金具22を介して、外側が断熱材23で覆われた断面円形の銅管24で形成された連結管25によって連結され、誘導コイル20、21のそれぞれの他端側は対となって、図示しない電源に連結されて1つの回路が形成されている。電源は、例えば、AC200/220V、60Hz、及び26KvAであり、誘導コイル20、21の出力を最大20kWで、周波数5〜40kHz、例えば、20kHzとして、浸漬ノズル13を、例えば、1200〜1530℃に加熱する。更に、浸漬ノズル13を加熱した際の輻射熱及び抵抗加熱による誘導コイル20、21の加熱を防止するために、例えば、誘導コイル21を連結された誘導コイル20の他端側には、誘導コイル20、21の内部に冷却用の水を供給する図示しない冷却水供給管が接続されている。
【0015】
ここで、図10に示すように、対向配置される誘導コイル20、21の巻き方向は、例えば、誘導コイル20を浸漬ノズル13の正面側に、誘導コイル21を浸漬ノズル13の背面側に配置したとし、誘導コイル20側から誘導コイル21側へ連結管25を介して電流を流すと、誘導コイル20及び誘導コイル21に正面視して時計回りに電流が流れるようにしている。なお、誘導コイル20、21の巻き方向は、誘導コイル20側から誘導コイル21側へ連結管25を介して電流を流した場合に、誘導コイル20及び誘導コイル21に正面視して反時計回りに電流が流れるようにしてもよく、また、誘導コイル20、21に流れる電流が逆方向としてもよい。
【0016】
誘導コイル20、21は、浸漬ノズル13を平面視して、誘導コイル20、21の巻き心方向が浸漬ノズル13(例えば、軸心26又は浸漬ノズル13の中空部)と交差し、しかも、浸漬ノズル13を側面視して、誘導コイル20、21の面が浸漬ノズル13に対して、0度、すなわち、平行となるように配置され、誘導コイル20、21の巻き心方向が浸漬ノズル13に対して90度となっているので、浸漬ノズル13に対して交差する磁力線(図示せず)が多く発生し、この磁力線が浸漬ノズル13を通過して浸漬ノズル13に渦電流(図示せず)を発生させ、この渦電流により浸漬ノズル13が加熱される。これによって、浸漬ノズル13の外表面を、その凹凸の影響が少なく、均一に加熱することができる。なお、誘導コイル20、21の面が浸漬ノズル13に対して、例えば、0度を超え30度以下で傾くように、誘導コイル20、21を配置してもよく、これによって、浸漬ノズル13の例えば厚みの異なる各部位、特に、スラグイン部17及び誘導コイル20、21の距離と、吐出孔16及び誘導コイル20、21の距離とを異ならせ、浸漬ノズル13を均一に加熱することができる。
【0017】
更に、浸漬ノズル13を高温ガスで加熱するガス加熱手段30を有している。ガス加熱手段30は、浸漬ノズル13の吐出孔16から浸漬ノズル13内に差し込んで空気を供給する空気供給管31と、浸漬ノズル13の下方に配置され、エジェクター効果によって浸漬ノズル13内にコークス炉ガス(COG)を供給するCOGガス供給管32とを有し、COGを燃焼して生成した高温ガスによって、浸漬ノズル13の内面を加熱することができる。また、図5に示すように、ガス加熱手段30は、タンディッシュ12の上部に設置されたタンディッシュカバー40の貫通孔41に配置された予熱バーナー42を有し、予熱バーナー42によってタンディッシュ12内も同時に加熱可能となっている。予熱バーバー42では、タンディッシュ12内に配置された溶鋼のストッパー43と、タンディッシュ12の底部の溶鋼排出口44に設けた上ノズル45及び下ノズル46と、スライディングノズル14と、浸漬ノズル13の上部とを加熱することができる。
【0018】
次に、加熱装置10を使用した浸漬ノズル13の加熱方法について説明する。連続鋳造設備11のタンディッシュ12から溶鋼を鋳型に注湯する前に、タンディッシュ12にスライディングノズル14を介して取付けられた浸漬ノズル13の外周面に沿って湾曲した2つの誘導コイル20、21を、それぞれの誘導コイル20、21の巻き心方向が浸漬ノズル13に対して交差するように、浸漬ノズル13の吐出孔16及びスラグライン部17の外表面近傍に配置する。更に、空気供給管31を浸漬ノズル13の吐出孔16から浸漬ノズル13の内部に、COGガス供給管32を浸漬ノズル13の下方に配置する。また、タンディッシュ12の上部にタンディッシュカバー40を配置し、タンディッシュカバー40の貫通孔41に予熱バーナー42を配置する。
【0019】
まず、ガス加熱手段30によって、浸漬ノズル13の内面及び上部を、例えば、700℃以上の温度域(700〜1100℃)、例えば、1000℃まで加熱する。この際には、空気供給管31及びCOGガス供給管32からの高温ガスによって、浸漬ノズル13の内面が加熱され、予熱バーナー42によって浸漬ノズル13の上部及びタンディッシュ12内が加熱される。
【0020】
浸漬ノズル13の温度が、例えば、1000℃程度となった後、誘導コイル20、21に接続された電源から、誘導コイル20、21に出力が最大20kWで、周波数が、5〜40kHz、例えば、20kHzの電流を流して、浸漬ノズル13を1200〜1530℃、例えば、1400℃に加熱する。浸漬ノズル13の温度が700℃以上の温度域で、誘導コイル20、21による誘導加熱を行うので、浸漬ノズル13が700℃以上に暴露される時間が短くなり、浸漬ノズル13の耐火物18に塗布された酸化防止剤の劣化を防止できる。なお、浸漬ノズル13の温度が700℃未満で誘導コイル20、21によって、誘導加熱を行ってもよいが、電気代が高くなるので、誘導コイル20、21による誘導加熱は、浸漬ノズル13の温度が700℃以上の温度域で行うのが好ましい。また、誘導コイル20、21による誘導加熱時には、ガス加熱手段30による高温ガスでの加熱を行ってもよく、行わなくてもよい。
【0021】
また、浸漬ノズルの加熱温度は、下限が1200℃、好ましくは1300℃、更に好ましくは1350℃であって、上限は溶鋼の温度である1530℃程度とするのがよい。なお、浸漬ノズル13の加熱終了後から溶鋼の注湯までに、浸漬ノズル13の温度が低下するので、浸漬ノズル13の加熱温度を溶鋼の温度よりも高く、例えば1600℃程度としてもよい。また、加熱時には、誘導コイル20、21の内部に冷却水を、例えば、4リットル/分で供給し、浸漬ノズル13の輻射熱及び抵抗加熱による誘導コイル20、21の加熱を防止している。
【0022】
以上述べたように、誘導コイル20、21によって、浸漬ノズル13の外表面に対して交差する方向に磁場を多く発生させることによって、浸漬ノズル13の外表面の凹凸の影響を少なくして、浸漬ノズル13を均一に加熱している。また、誘導コイル20、21を浸漬ノズル13の外表面に沿って湾曲させて、誘導コイル20、21と浸漬ノズル13との距離を一定にして、浸漬ノズル13をより均一に加熱している。
【0023】
また、誘導コイル20、21を複数に分割して、浸漬ノズル13に容易に着脱可能とし、特に、誘導コイル20、21を浸漬ノズル13に着脱する際に、誘導コイル20、21と浸漬ノズル13を摺動及び接触させず、浸漬ノズル13及び誘導コイル20、21の劣化を防止している。更に、複数の誘導コイル20、21は、浸漬ノズル13の外径に合わせて調整して配置できるので、従来のように浸漬ノズル13の外径に合わせた様々な内径の円筒状の誘導コイルを必要とせず、非稼動の誘導コイルの予備品数を少なくできる。
【0024】
また、誘導コイル20、21を、浸漬ノズル13の吐出孔16及びスラグイン部17の外表面近傍に配置して、スポーリングしやすい部位を均一に加熱し、浸漬ノズル13の破損を防止している。更に、誘導コイル20、21では加熱しにくい部位を、ガス加熱手段30によって加熱するので、浸漬ノズル13をより均一に加熱できる。
【0025】
以上、本願出願人が提案している加熱装置について述べたが、このように誘導コイル20、21によって誘導加熱を行う場合に、その発熱効率を向上させることが要求される。
【0026】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、全体として矩形状となるように線状部材を渦巻き状にした誘導コイルを、溶融金属の注入ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置して、注入ノズルを誘導加熱する誘導加熱装置において、誘導コイルに対向した部分の注入ノズル内を均一に加熱し、且つその発熱効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の誘導加熱装置は、全体として矩形状となるように線状部材を渦巻き状にした誘導コイルを、溶融金属の注入ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置して、前記注入ノズルを誘導加熱する誘導加熱装置であって、前記矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部を挟んで隣り合う線状部材間の距離に比べて、中心部以外で隣り合う線状部材間の距離が短くなっていることを特徴とする。
また、本発明の誘導加熱装置の他の特徴とするところは、前記注入ノズルは、連続鋳造設備において取鍋からタンディッシュに溶融金属を注入するノズル、又は、タンディッシュから鋳型に溶融金属を注入するノズルである点にある。
また、本発明の誘導加熱装置の他の特徴とするところは、前記矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部以外で隣り合う各線状部材間は等間隔となっている点にある。
また、本発明の誘導加熱装置の他の特徴とするところは、前記線状部材は金属管からなる点にある。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部を挟んで隣り合う線状部材間の距離に比べて、中心部以外で隣り合う線状部材間の距離を短くすることによって、誘導コイルに対向した部分の注入ノズル内を均一に加熱し、且つ発熱効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1(a)には、本発明の実施形態に係る誘導加熱装置の誘導コイル1aを示す。誘導コイル1aは、断面矩形の銅管2を略同一平面上で渦巻き状にし、全体が矩形状となるようにしたものである。この矩形状をなす誘導コイル1aが、上述した誘導コイル20、21に相当するものであり、浸漬ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置する。
【0030】
図1(a)において、xは、中心部(渦巻き中央部)3の上下の間隔la、すなわち中心部3を挟んで上下に隣り合う銅管2間の距離laを、誘導コイル1aの縦方向(上下方向)高さLに対する比率で表わしたものである。例えばx=0.5であれば、中心部3の上下の間隔が、誘導コイルの高さLの半分になることを意味する。誘導コイル1aにおいては、x=0.65となっている。
【0031】
誘導コイル1aでは、中心部3以外で上下に隣り合う各銅管2間の距離はいずれもpaであり、等間隔となっている。そして、中心部3で上下に隣り合う銅管2間の距離laに比べて、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離paが短くなっている。すなわち、中心部3に比べて、その周囲(中心部3以外)では銅管2が密に配置されている。
【0032】
図1(b)に示す誘導コイル1bも、断面矩形の銅管2を略同一平面上で渦巻き状にし、全体が矩形状となるようにしたものであり、x=0.11となっている。
【0033】
誘導コイル1bでは、中心部3以外で上下に隣り合う各銅管2間の距離はいずれもpbであり、等間隔となっている。そして、中心部3で上下に隣り合う銅管2間の距離lbに比べて、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離pbが短くなっている。すなわち、中心部3に比べて、その周囲(中心部3以外)では銅管2が密に配置されている。
【0034】
ここで、図1(a)、(b)に示す誘導コイル1a、1bは、同じ銅管2、同じ大きさ(矩形面積)、同じターン数であるが、比率xが異なっている。すなわち、誘導コイル1bでは、x=0.11であり、誘導コイル1bの縦方向において、中心部3の上下の間隔lbが比較的短くなっている。一方、誘導コイル1aでは、x=0.65であり、誘導コイル1aの縦方向において、中心部3の上下の間隔laが比較的長くなっている。
【0035】
その結果、図1(b)に示す誘導コイル1bでは、中心部3の上下の間隔lbに比べて、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離pbがわずかに短いだけで、略同程度となっている。一方、図1(a)に示す誘導コイル1aでは、中心部3の上下の間隔laに比べて、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離paが大幅に短くなっている。すなわち、誘導コイル1aでは、誘導コイル1bに比べて、中心部3の上下の間隔が長くなっているとともに、その周囲(中心部3以外)での銅管2の密の度合いが高くなっている。
【0036】
図2には、誘導コイル1a、1bに流れる電流により浸漬ノズル内に発生する空間磁束密度分布を示す。また、図3には、誘導コイル1a、1bが生成した磁場によって、被加熱物である浸漬ノズルの外壁内に誘起された渦電流が生成する磁場分布を示す。これら図2、図3において、横軸は正規化した磁束密度を、縦軸は正規化した誘導コイル下端からの距離(高さ)を表わす。また、これら図2、図3において、例1が誘導コイル1bによる結果、例2が誘導コイル1aによる結果を表わす。なお、誘導コイル1a、1bの湾曲の度合いや、誘導コイル1a、1bに印加する電流の条件等は一致させている。
【0037】
誘導コイル1bのように中心部3の上下の間隔lbを短くすると、誘導コイル自体の磁場は小さく、分布にもムラが生じている。それに対して、誘導コイル1aのように中心部3の上下の間隔laを長くし、その周囲(中心部3以外)における銅管2間の距離Paを短くして密の度合いを高くすると、誘導コイル1aの上下端付近において電流密度(アンペア×ターン数)を増大させることになり、中央部での磁場は小さくなるものの、誘導コイル全体の磁場放出能力が増大する。これによって、誘導コイルの中央部での発熱密度を大きく低下させることなく、上下端付近で発熱密度を増大させることができるので、全体発熱量を増大させることが可能である。
【0038】
図3において、渦電流∝渦電流による磁場、(渦電流の二乗)∝発熱密度であるので、(渦電流による磁場の二乗)∝発熱密度の関係が成り立つ。この図により、誘導コイル1a(例2)の方がコイル高さ方向に均一に発熱していることが分かる。また、全体発熱量は、図3のグラフと縦軸(磁束密度=0の直線)とで囲まれる面積に相関があるので、誘導コイル1a(例2)の方が全体発熱量も増大していることが分かる。
【0039】
図4には、同じ銅管2、同じ大きさ(矩形面積)、同じターン数であるが、比率xを変更した誘導コイル(誘導コイル1a、bを含む)を用いた場合の全体発熱量を示す図である。図4において、横軸はコイル全体に対する中央部間隔の比率xを、縦軸は誘導コイル1b(x=0.11)を1.0として正規化した全体発熱量を表わす。
【0040】
図4に示すように、同じ銅管2、同じ大きさ(矩形面積)、同じターン数である場合、xを大きくすれば、すなわち、中心部3の上下の間隔を長くするとともに、中心部3以外での銅管2の密の度合いを高くするほど、全体発熱量を増加させて、発熱効率を向上させることができる。例えば誘導コイル1aでの全体発熱量は、誘導コイル1bでの全体発熱量に比べて1.39倍に増大している。
【0041】
中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離pは、銅管2間で絶縁層を確保しなければならないため、その最短距離に限界がある。換言すれば、その限界の範囲で許容されるだけ、中心部3以外で上下に隣り合う銅管2間の距離pを短くし、中心部3以外での銅管2の密の度合いが高くすれば、それだけ全体発熱量を増加させることができる。
【0042】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えば上記実施形態では、誘導コイル1a、1bの縦方向(上下方向)について説明したが、横方向においても、中心部3で左右に隣り合う銅管2間の距離に比べて、中心部3以外で左右に隣り合う銅管2間の距離が短くなっている場合にも、全体発熱量を増加させることができる。
【0043】
また、図5〜10を参照して説明した加熱装置は一例であり、例えば取鍋からタンディッシュに溶鋼を注入するロングノズルに本発明の誘導加熱装置を使用してもよい。また、浸漬ノズルまわりに1つ又は3以上の誘導コイルを配置してもよい。さらに、誘導コイルを浸漬ノズルに対して、浸漬ノズルの軸心を中心として相対的に回転させる回転手段を設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る誘導加熱装置の誘導コイルを示す図である。
【図2】誘導コイルに流れる電流による空間磁束密度分布を示す特性図である。
【図3】誘導コイルが生成した磁場によって、被加熱物である浸漬ノズル内に誘起された渦電流が生成する磁場分布を示す特性図である。
【図4】同じ銅管、同じ大きさ(矩形面積)、同じターン数であるが、比率xを変更した誘導コイルを用いた場合の全体発熱量を示す図である。
【図5】誘導コイルを用いた加熱装置の使用状態を示す図である。
【図6】誘導コイルを用いた加熱装置で加熱される浸漬ノズルの例を示す図である。
【図7】誘導コイルを用いた加熱装置の正面図である。
【図8】誘導コイルを用いた加熱装置の側面図である。
【図9】誘導コイルを用いた加熱装置の平面図である。
【図10】誘導コイルを説明するための図である。
【図11】連続鋳造設備を説明するための図である。
【符号の説明】
【0045】
1a 誘導コイル
1b 誘導コイル
2 銅管
3 誘導コイルの中心部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体として矩形状となるように線状部材を渦巻き状にした誘導コイルを、溶融金属の注入ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置して、前記注入ノズルを誘導加熱する誘導加熱装置であって、
前記矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部を挟んで隣り合う線状部材間の距離に比べて、中心部以外で隣り合う線状部材間の距離が短くなっていることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記注入ノズルは、連続鋳造設備において取鍋からタンディッシュに溶融金属を注入するノズル、又は、タンディッシュから鋳型に溶融金属を注入するノズルであることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部以外で隣り合う各線状部材間は等間隔となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記線状部材は金属管からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項1】
全体として矩形状となるように線状部材を渦巻き状にした誘導コイルを、溶融金属の注入ノズルの外周面に沿って湾曲させて配置して、前記注入ノズルを誘導加熱する誘導加熱装置であって、
前記矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部を挟んで隣り合う線状部材間の距離に比べて、中心部以外で隣り合う線状部材間の距離が短くなっていることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記注入ノズルは、連続鋳造設備において取鍋からタンディッシュに溶融金属を注入するノズル、又は、タンディッシュから鋳型に溶融金属を注入するノズルであることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記矩形状の誘導コイルの縦方向及び横方向の少なくとも一方向において、中心部以外で隣り合う各線状部材間は等間隔となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記線状部材は金属管からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−132521(P2008−132521A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320800(P2006−320800)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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