説明

誘導溶解炉

【課題】負荷インピーダンスに応じて電力変換部の出力周波数を最適に制御して、溶解時間の短縮を図ることができる誘導溶解炉を提供する。
【解決手段】コントローラは、被溶解材の溶解開始から負荷インピーダンスが上昇して第1閾値となる第1段階では、周波数基準Frefを、初期周波数fから周波数を低下させて第1周波数fとする。次に、負荷インピーダンスが上昇して第1閾値となった後、被溶解材の溶解終了までの第2段階においては、周波数基準Frefを、第1周波数fから加熱コイル側の負荷共振周波数に等しい第2周波数fに低下させると共に該第2周波数fに維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被溶解材を溶解させる誘導溶解炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導加熱装置としては、下記特許文献1に示すように、順変換器と逆変換器とが直列共振型回路(電圧型回路)を構成する電力変換部を備え、該電力変換部の出力周波数を予め設定されたプログラムに従って、該直列共振型回路の共振周波数よりも高く設定された起動周波数から共振周波数に向かって低減させる制御装置を備えるものが知られている。(下記特許文献1における請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−190082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、誘導溶解炉においては、被溶解材の溶解状態により負荷インピーダンスが経時変化するところ、従来の誘導加熱装置では予め設定されたプログラムに従って、電力変換部の出力周波数を起動周波数から共振周波数に向かって低減させるものである。
【0005】
そのため、負荷インピーダンスに応じて電力変換部の出力周波数を最適に制御することができず、溶解時間の短縮を図ることが困難であった。
【0006】
以上の事情に鑑みて、本発明は、負荷インピーダンスに応じて電力変換部の出力周波数を最適に制御して、溶解時間の短縮を図ることができる誘導溶解炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1発明の誘導溶解炉は、
炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被溶解材を溶解させる誘導溶解炉であって、
順変換器と、第1および第2スイッチング素子が交互に動作する逆変換器とが直列共振型回路を構成する電力変換部と、
前記加熱コイルへの電力の供給状態から負荷インピーダンスを検出する負荷インピーダンス検出部と、
前記第1および第2スイッチング素子に対する制御信号を生成する制御信号生成部と
を備え、
前記制御信号生成部は、前記第1および第2スイッチング素子に対する制御信号として、
被溶解材の溶解開始から、前記負荷インピーダンス検出部を介して検出される負荷インピーダンスが上昇して前記加熱コイルに過電流が流れ難くなる第1閾値となる第1段階において、予め設定された初期周波数から周波数を低下させて第1周波数とする制御信号を生成し、
前記負荷インピーダンスが上昇して第1閾値となった後、被溶解材の溶解終了までの第2段階において、前記第1周波数から前記加熱コイル側の負荷共振周波数に等しい第2周波数に低下させると共に該第2周波数に維持する制御信号を生成することを特徴とする。
【0008】
第1発明の誘導溶解炉によれば、負荷インピーダンス検出部により負荷インピーダンスを検出し、検出した負荷インピーダンスに基づいて、第1および第2スイッチング素子に対する制御信号を次のように生成する。
【0009】
負荷インピーダンスが比較的小さい第1段階では、負荷インピーダンスが上昇して加熱コイルに過電流が流れ難くなる第1閾値となるのに合わせて、予め設定された初期周波数から周波数を低下させて出力周波数を第1周波数とする。これにより、加熱コイルに過電流が流れることを防止しつつ、負荷インピーダンスに応じて電力変換部の出力周波数を最適に制御して、溶解時間の短縮を図ることができる。
【0010】
次に、負荷インピーダンスが被溶解材の溶解状態に応じて変化する第2段階では、負荷インピーダンスの上昇に合せて、第1周波数から前記加熱コイル側の負荷共振周波数に等しい第2周波数に低下させ、その負荷インピーダンスが下降して一定値となり溶解終了となるまでの間、第2周波数に維持する制御信号を生成する。これにより、負荷インピーダンスの上昇に合わせて、出力周波数が最大出力となる第2周波数に変化させてこれを維持することができ、負荷インピーダンスに応じて電力変換部の出力周波数を最適に制御して、溶解時間の短縮を図ることができる。
【0011】
第2発明の誘導溶解炉は、第1発明において、
前記電力変換部の出力電流および出力電圧からこれらの位相差を検出する位相差検出部を備え、
前記制御信号生成部は、前記第2段階において、前記位相差検出部により検出された位相差から、前記第1および第2スイッチング素子に対する制御信号が前記第2周波数よりも低下することを防止することを特徴とする。
【0012】
第2発明の誘導溶解炉によれば、電力変換部の出力電流および出力電圧からのこれらの間の位相差を検出することで、第1および第2スイッチング素子に対する制御信号が第2周波数よりも低下すること防止することができ、第2段階において、負荷インピーダンスに応じて電力変換部の出力周波数を最適に制御して、溶解時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】誘導溶解炉の構成を示す全体構成図。
【図2】制御回路の構成を示す説明図。
【図3】コントローラによる処理内容を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、本実施形態の誘導溶解炉について説明する。
【0015】
誘導溶解炉は、溶解炉内に収納された被溶解材Xを溶解させるものであり、具体的には、電源1と、高圧受電盤2と、変換装置用変圧器3と、電力変換装置4と、高周波整合装置5と、誘導加熱装置6と、コントローラ100とを備える。
【0016】
なお、電力変換装置4および高周波整合装置5が本発明の電力変換部に相当する。
【0017】
電源1は、交流電源であって、高圧受電盤2に接続されている。
【0018】
高圧受電盤2は、誘導加熱装置6への電源通電・停止と故障発生時の電源遮断を行う装置であって、パワーヒューズ2aと遮断機2bとを備える。パワーヒューズ2aは、短絡事故時に電流遮断する手段であって、遮断機2bは、電源の通電と停止に伴う開閉動作を行う。
【0019】
変換装置用変圧器3は、高圧受電盤2に接続され、電力変換装置4への入力電圧が所定の値となるように調整する。
【0020】
電力変換装置4は、変換装置用変圧器3に接続され、50Hzまたは60Hzの商用電源から任意の高周波電流を生成するための装置であって、制御回路10と、交流/直流変換器である順変換器41a,41bと、直流/交流変換器である逆変換器42a,42bとを備え、制御回路10からの出力制御信号により制御される。
【0021】
具体的に、電力変換装置4は、入力側にダイオード式順変換器41a,41bを備え、出力側にIGBT式逆変換器42a,42bを備え、順変換器41a,41bにはそれぞれ直列に平滑用リアクトル43a,43bが接続されると共に、順変換器41a,41bに並列に平滑用コンデンサ44aおよび44bが接続される。
【0022】
さらに、電力変換装置4は、順変換器41a,41bの出力側の直流電圧を検出して直流電圧信号(a)を出力する直流電圧検出器45と、直流電流を検出して直流電流信号(b)を出力する直流電流検出器46とを備え、直流電圧検出器45および直流電流検出器46の出力値は、制御回路10に出力される。
【0023】
なお、制御回路10による電力変換装置4の制御内容については詳細を後述する。
【0024】
高周波整合装置5は、電力変換装置4と誘導加熱装置6との間に設けられて、誘導加熱装置6が低力率であるため負荷力率を改善する。
【0025】
具体的に、高周波整合装置5は、共振用コンデンサ51a,51bと、高周波整合装置5の出力電流を検出して出力電流信号(d)を出力する電流検出器52および出力電圧を検出して出力電圧信号(e)を出力する電圧検出器53等から構成される。
【0026】
共振用コンデンサ51aおよび51bには、それぞれ並列に、調整用コンデンサ51acおよび51bcが設けられる。調整用コンデンサ51acおよび51bcには、それぞれコンタクタ51adおよび51bdが設けられており、コンタクタ51adおよび51bdにより、調整用コンデンサ51acおよび51bcが共振用コンデンサ51aおよび51bに並列接続される。調整用コンデンサ51acおよび51bcにより、負荷共振回路の共振周波数よりも十分に低い発振周波数を電力変換装置4から出力した場合にも、負荷共振回路の無効電力の増大を防止することができる。
【0027】
誘導加熱装置6は、電力変換装置4と高周波整合装置5とから供給される高周波電流を加熱コイル61に通電させることにより、溶解炉本体内に収納された被溶解材Xにうず電流を発生させ、うず電流により発生するジュール熱で被溶解材Xを加熱溶解させる。
【0028】
コントローラ100は、制御誘導溶解炉の運転・停止を始めとする誘導溶解炉の運転の全般を制御する。
【0029】
次に、説明を後回しにした制御回路10について、図2を参照して説明する。
【0030】
制御回路10は、主に、出力調整等の制御を行うと共に、誘導溶解炉の制御装置として出力力率を検出する力率検出部、IGBT式逆変換器42a,42bの制御を行う制御信号生成部としての機能を備える。
【0031】
図2に示すように、制御回路10は、電圧一定制御回路11(AVR(Automatic Voltage Regulator))と、電流一定制御回路12(ACR(Automatic Current Regulator))と、電力一定制御回路13(APR(Automatic Power Regulator))と、遅れ優先回路14と、力率制御回路15と、γ制御回路16(本発明の位相差検出部に相当する)と、基準周波数保持回路17と、電圧制御発振回路18と、フリップフロップ19とを備える。
【0032】
電圧一定制御回路11は、共振用コンデンサ51aおよび51bの電圧Vfが過電圧の場合に周波数調整を行うものである。
【0033】
電流一定制御回路12は、IGBT式逆変換器42a,42bの電流Ioが電流の場合に周波数調整を行うものある。
【0034】
電力一定制御回路13は、電力基準Prefによって直流電流Idc(a)と直流電圧Vdc(b)との乗算値が一定になるように制御するものである。
【0035】
そして、これら電圧一定制御回路11、電流一定制御回路12および電力一定制御回路13の調整値が遅れ優先回路14を介して、周波数基準Frefに対して加減する。
【0036】
なお、周波数基準Frefの決め方についてはその詳細を後述する。
【0037】
力率制御回路15は、電流検出器52の出力値である高周波整合装置5の出力電流信号Io(d)と、電圧検出器53の出力値である高周波整合装置5の出力電圧信号Vf(e)とから、高周波整合装置5から出力される交流電流・電圧の出力力率が常に1となるように制御する。
【0038】
γ制御回路16は、電力変換装置4の出力周波数を高周波数から低周波数に向って変化させた場合に、(これに対応して変化する出力が負荷共振周波数までは出力が上昇するが、それを過ぎると出力が下降する特性があるので)出力が下降し始めたことを検出する。具体的には、電流型インバータの転流余裕時間γに相当するγ信号によってスイッチSW1をオフすることで、電力変換装置4の周波数変化を防止する。
【0039】
そして、これら力率制御回路15およびγ制御回路16の調整値も、周波数基準Frefに対して加減する。
【0040】
基準周波数保持回路17は,その出力信号をもとに,電力変換装置4の出力周波数を決定し、電圧制御発振回路18は,基準周波数保持回路17の信号を基に発振周波数を確定すること共に、IGBT式逆変換器42a,42bのゲート制御を行うための信号(極性検出信号,READ信号,RESET信号)を出力する。そして、この出力信号をフリップフロップ19を介してIGBT式逆変換器42a,42bのON/OFF信号に変換する。
【0041】
次に、説明を後回しにした周波数基準Frefの決め方について図3を参照して説明する。
【0042】
周波数基準Frefは、コントローラ100により負荷インピーダンス[%R]に応じて、次のように決定される。なお、負荷インピーダンス[%R]は、コントローラ100において、電力変換装置4の出力電力Poおよび出力電圧Voから算出される(%R=Vo2/Po)。
【0043】
まず、被溶解材の溶解開始から負荷インピーダンスが上昇して第1閾値となる第1段階では、周波数基準Frefを、初期周波数fから周波数を低下させて第1周波数fとする。
【0044】
ここで、第1段階を規定する負荷インピーダンスの第1閾値は、加熱コイル61に過電流が流れ難くなる値であって、負荷共振周波数のときに定格インピーダンスとなる100[%R]になるため、これよりも50%以上高い負荷インピーダンスになるように決定される。なお、本実施形態で、第1閾値は、負荷インピーダンスが100[%R]に設定されている。
【0045】
初期周波数fは、負荷インピーダンスが極小であっても加熱コイル61に過電流が流れないように予め設定される。一方、第1周波数fは、負荷インピーダンスの第1閾値である100[%R]に対応して,50%以上高い周波数になるように決定される周波数である。
【0046】
そして、コントローラ100は、溶解開始の負荷インピーダンスの初期値から第1閾値(100[%R])までの変化の割合に応じて、周波数基準Frefが第1閾値(100[%R])において第1周波数fとなるように決定する。
【0047】
これにより、負荷インピーダンスが比較的小さい第1段階において、加熱コイル61に過電流が流れることを防止しつつ、負荷インピーダンスに応じて電力変換部4の出力周波数を最適に制御して、溶解時間の短縮を図ることができる。
【0048】
次に、負荷インピーダンスが上昇して第1閾値となった後、被溶解材の溶解終了までの第2段階においては、周波数基準Frefを、第1周波数fから加熱コイル61側の負荷共振周波数に等しい第2周波数fに低下させると共に該第2周波数fに維持する。
【0049】
このとき、コントローラ100は、負荷インピーダンスの上昇割合に応じて、周波数基準Frefが負荷インピーダンスが最大値(本実施形態では180[%R])において最大出力の第2周波数fとなるように決定する。
【0050】
そして、コントローラ100は、被溶解材の溶解終了まで、周波数基準Frefをこの最大出力の第2周波数fに維持する。
【0051】
このとき、たとえ第2周波数f(周波数基準Fref)が、前記共振周波数を超えて低下した場合であっても、γ制御回路16により力率制御回路15の働きが遮断されることにより、(周波数基準Frefが共振周波数からずれても)、IGBT式逆変換器42a,42bの制御信号は共振周波数に維持される。
【0052】
なお、コントローラ100は、負荷インピーダンスの変化曲線に鑑みて、負荷インピーダンスが上昇して最大値(本実施形態では180[%R])となるタイミング(t)を予め予測し、その予測値(t)に第2周波数fとなるように、周波数基準Frefを変化させるようにしてもよい。
【0053】
これにより、負荷インピーダンスが被溶解材の溶解状態に応じて変化する第2段階においても、負荷インピーダンスの変化に合わせて、周波数基準Frefを最大出力となる第2周波数に変化させてこれを維持することができ、負荷インピーダンスに応じて電力変換部4の出力周波数を最適に制御して、溶解時間の短縮を図ることができる。
【0054】
最後に、コントローラ100は、溶解終了後において、被溶解材の保温等が必要な場合にはこれに必要な出力となる周波数基準Frefに、また、保温等が不要な場合には周波数基準Frefを初期周波数fに変化させた上で終了する。
【0055】
以上が本実施形態の誘導溶解による被溶解材の溶解方法であり、負荷インピーダンスに応じて電力変換部の出力周波数を最適に制御して、溶解時間の短縮を図ることができる。
【0056】
なお、本実施形態では、コントローラ100により、誘導溶解炉における制御処理の全般が実行される場合について説明したが、これに限定されるものでなく、コントローラ100による処理の一部または全部がユーザにより実行されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…電源、2…高圧受電盤、3…変換装置用変圧器、4…電力変換装置、5…高周波整合装置、6…誘導加熱装置、10…制御回路(制御信号生成部)、16…γ制御回路(位相差検出部)、41a,41b…ダイオード式順変換器、42a,42b…IGBT式逆変換器、61…加熱コイル、100…コントローラ(制御信号生成部、負荷インピーダンス検出部)、X…被溶解材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被溶解材を溶解させる誘導溶解炉であって、
順変換器と、第1および第2スイッチング素子が交互に動作する逆変換器とが直列共振型回路を構成する電力変換部と、
前記加熱コイルへの電力の供給状態から負荷インピーダンスを検出する負荷インピーダンス検出部と、
前記第1および第2スイッチング素子に対する制御信号を生成する制御信号生成部と
を備え、
前記制御信号生成部は、前記第1および第2スイッチング素子に対する制御信号として、
被溶解材の溶解開始から、前記負荷インピーダンス検出部を介して検出される負荷インピーダンスが上昇して前記加熱コイルに過電流が流れ難くなる第1閾値となる第1段階において、予め設定された初期周波数から周波数を低下させて第1周波数とする制御信号を生成し、
前記負荷インピーダンスが上昇して第1閾値となった後、被溶解材の溶解終了までの第2段階において、前記第1周波数から前記加熱コイル側の負荷共振周波数に等しい第2周波数に低下させると共に該第2周波数に維持する制御信号を生成することを特徴とする誘導溶解炉。
【請求項2】
請求項1記載の誘導溶解炉において、
前記電力変換部の出力電流および出力電圧からこれらの位相差を検出する位相差検出部を備え、
前記制御信号生成部は、前記第2段階において、前記位相差検出部により検出された位相差から、前記第1および第2スイッチング素子に対する制御信号が前記第2周波数よりも低下することを防止することを特徴とする誘導溶解炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−123978(P2012−123978A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272726(P2010−272726)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000242127)北芝電機株式会社 (53)
【Fターム(参考)】