説明

誘導粘性栄養エマルション

(A)蛋白に結合したメチオニンスルホキシド含量がモル基準で蛋白に結合した総メチオニンの8%以下である蛋白質、(B)脂質、(C)300cps未満のパッケージ粘度及び少なくとも300cpsの消費後誘導粘度をエマルションに付与する誘導粘性繊維系を含有し、水中油エマルションである誘導粘性栄養エマルションを開示する。メチオニンスルホキシド含量の低い蛋白源を選択することにより製品安定性が改善し、貯蔵寿命が長くなることが判明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエマルション安定性を改善するような規定された蛋白に結合したメチオニンスルホキシド含量を有する蛋白成分を含有する誘導粘性栄養エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様な栄養エマルションが市販又は文献に開示されている。これらは一般に脂質、蛋白質、糖質、ビタミン及びミネラルをバランスよく配合した水中油エマルションである。数例を挙げると、Glucerna(登録商標)及びEnsure(登録商標)ブランドのパッケージ栄養液がAbbott Laboratories,Columbus,Ohioから市販されている。
【0003】
最近、糖質成分の一部として誘導粘性繊維系を含有する新型栄養液が開発されている。これらの栄養液は栄養エマルションに典型的なパッケージ粘度であるが、繊維系により、消費後誘導粘度が増加する。粘度増加は胃内容排出とその後の血中グルコース応答を低下させる効果がある。胃の内部の粘度増加により満腹感も得られ、飽満感が増加する。これらの誘導粘性飲料は糖尿病患者や、体重維持又は減量を望む人々に特に有用である。
【0004】
例えば、米国特許出願第20020193344号(Wolfら)は可溶性アニオン性繊維を非水溶性酸溶性カチオンと組み合わせた誘導粘性繊維系を含有する誘導粘性飲料を開示している。この飲料は消費後に胃の低pHに暴露されると、粘度が増加する。
【0005】
更に別の例として、米国特許出願第20030013679号(Wolfら)は中性可溶性繊維と共に澱粉部分水解物を含有する誘導粘性飲料を開示している。この飲料は消費後に胃の内部で酸とアミラーゼに暴露されると、粘度が増加する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘導粘性栄養エマルションは従来のエマルションよりもクリーミング及び蛋白沈殿を生じ易く、処方から僅か2週間後でもこれらの現象を生じることが今般判明した。蛋白に結合したメチオニンスルホキシド含量がモル基準で蛋白に結合した総メチオニンの8%以下の蛋白質を含有する誘導粘性エマルションを処方することによりこの固有の不安定性を有意に改善できることも判明した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本発明は、(A)蛋白に結合したメチオニンスルホキシド(MSO)含量がモル基準で蛋白に結合した総メチオニンの8%以下の蛋白質、(B)脂質並びに(C)300センチポアズ(cps)未満のパッケージ粘度及び少なくとも300cpsの消費後誘導粘度をエマルションに付与する誘導粘性繊維系を含有する誘導粘性栄養エマルションに関する。該栄養エマルションは水中油エマルションである。
【0008】
誘導粘性栄養エマルションの物理的安定性はエマルション中の蛋白成分のメチオニンスルホキシド含量に反比例することが今般判明した。より具体的には、メチオニンスルホキシド(MSO)含量がモル基準で蛋白に結合した総メチオニンの8%以下の蛋白源を誘導粘性栄養エマルションに使用すると、物理的に安定な改良型液体栄養製品が製造されることが判明した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の誘導粘性栄養エマルションは脂質と、メチオニンスルホキシド含量により規定された選択された蛋白質と、誘導粘性繊維系を含む糖質成分とを必須成分として含有する。本発明の栄養エマルションのこれら及び他の必須又は非必須成分又は特徴を以下に詳細に記載する。
【0010】
本明細書で使用する「栄養エマルション」なる用語は、特に指定しない限り、脂質、蛋白質及び糖質を含有しており、代用食品、栄養補助剤又は連続(又は間欠)経腸栄養として処方可能な水中油エマルション形態の経口液体を意味する。
【0011】
本明細書で使用する「誘導粘性栄養エマルション」なる用語は、特に指定しない限り、本明細書に定義する誘導粘性繊維系を含有する栄養エマルションを意味する。
【0012】
本明細書で使用する「誘導粘性繊維系」なる用語は、特に指定しない限り、栄養エマルションに添加した場合に室温で飲用可能なエマルション粘度(パッケージ粘度)と消費後に増加(誘導)したエマルション粘度を可能にするいずれもの繊維含有材料又は組成物を意味する。
【0013】
本発明の栄養エマルションは本明細書に記載する本発明の必須成分及び限定成分と、本明細書に記載する又は栄養もしくは医薬用途で有用ないずれかの補助又は非必須成分、構成成分又は限定成分を含有するもの、これらから構成されるもの、あるいは本質的にこれらから構成されるものである。
【0014】
本明細書で使用する全百分率、部及び比は特に指定しない限り、合計組成の重量に基づく。記載する成分のこのような全重量は活性濃度に基づき、従って、特に指定しない限り、場合により市販材料に混在している溶媒や副生物を含まない。
【0015】
本明細書で使用する全数値範囲は「約」なる用語を明記しているか否かに拘わらず、特に指定しない限り、この用語を伴うものとみなす。
【0016】
特に指定する場合又は前後関係からそうでないことが明白な場合を除き、本発明の単数の特徴又は限定事項の全記載は、対応する複数の特徴又は限定事項を含み、逆も同様である。
【0017】
特に指定する場合又は前後関係からそうでないことが明白な場合を除き、本明細書で使用する方法又は工程段階の全組み合わせは任意順序で実施することができる。
【0018】
残余組成が本明細書に記載する必要な全成分又は特徴を含んでいるならば、本発明の栄養エマルションは本明細書に記載する非必須又は選択された必須成分又は特徴を実質的に含んでいなくてもよい。これに関連して、「実質的に含まない」なる用語は選択された組成物の非必須成分含有量が機能的量よりも少なく、一般にはこのような非必須成分又は選択された必須成分の含有量が0.1重量%未満(0重量%を含む)であることを意味する。
【0019】
エマルション粘度
本発明の栄養エマルションは主に以下に記載する誘導粘性繊維系により消費後に粘度が増加する水中油エマルションである。これらのエマルションは消費前の飲用可能な粘度(本明細書ではパッケージ粘度と言う)と、消費後の増加した粘度(本明細書では誘導粘度と言う)をもつ。
【0020】
これらの栄養エマルションにより提供される誘導粘度は胃内容排出とその後の血中グルコース応答を低下させる効果がある。誘導粘度により満腹感も得られ、飽満感が増加する。これらの誘導粘性栄養エマルションは糖尿病患者や、体重維持又は減量を望む人々に特に有用である。
【0021】
誘導粘性飲料として、本発明の栄養エマルションは消費前の飲用可能な粘度(即ちパッケージ粘度)をもち、その後、消費後に胃に流入すると粘度が増加する(即ち誘導粘度)。粘度増加は主に栄養エマルション中の誘導粘性繊維系(以下に記載)に起因する。
【0022】
本発明の栄養エマルションはパッケージ粘度が300cps未満、好ましくは40〜250cps、より好ましくは40〜150cps、例えば75〜125cpsである。これに関連して、本発明の栄養エマルションを定義する目的で、パッケージ粘度はレトルト処理又は無菌充填缶、びん又は他の容器等の密閉パッケージからエマルションを排出後に測定される。粘度測定は室温でブルックフィールド(モデルDVII+)粘度計を62スピンドルで使用して実施する。パッケージ粘度はスピンドル速度を目盛で読み取ることが可能な最高速度に設定して粘度計を操作することにより測定する。
【0023】
本発明の栄養エマルションは更に少なくとも300cps、好ましくは少なくとも350cps、例えば400〜20,000cps、更に約800〜約15,000cpsの誘導粘度により定義される。ポリマー制御型誘導粘性繊維系を含有するエマルションでは、誘導粘性はエマルション250グラム(g)に細菌由来α−アミラーゼ(Sigma)20μLを添加し、Glass−Colミキサーを使用して酵素添加エマルションを30分間剪断し、室温でブルックフィールド粘度計(Model DV−II+)を62スピンドルで使用して粘度を測定することにより測定される。誘導粘度はスピンドル速度を目盛で読み取ることが可能な最高速度に設定して粘度計を操作することにより測定する。この誘導粘度測定は消費後に胃に導入後の製品の予想誘導粘度に適合するように計画する。
【0024】
酸制御型誘導粘性繊維系を含有するエマルションでは、誘導粘度は0.1N HCL溶液60mlをエマルション250gに加え、Glass−Colミキサーを使用して酸性化エマルションを30分間剪断し、室温でブルックフィールド粘度計(モデルDVII+)を62スピンドルで使用して粘度を測定することにより測定される。粘度はスピンドル速度を目盛で読み取ることが可能な最高速度に設定して粘度計を操作することにより測定する。
【0025】
低MSO蛋白質
本発明の栄養エマルションは蛋白に結合したメチオニンスルホキシドとしての蛋白に結合したメチオニンがモル基準で8%以下、好ましくは0〜5%、例えば1〜3%の蛋白源を含有する。
【0026】
従って、栄養エマルションは他の蛋白源を実質的に含まないことが好ましい。これに関連して、「実質的に含まない」なる用語は栄養エマルションの他の蛋白源含有量が0.5重量%未満、より好ましくは0%であることを意味する。このような他の蛋白源はMSO含量が8%を上回るものである。
【0027】
「MSO含量」、「メチオニンスルホキシド含量」及び「蛋白に結合したメチオニンスルホキシド含量」なる用語は本明細書では同義に使用し、蛋白源の蛋白に結合した総メチオニンのモル百分率としての蛋白に結合したメチオニンスルホキシドの量を意味する。MSO含量は本明細書に記載する分析法により決定される。
【0028】
エマルション内の蛋白源が本明細書に定義するような十分に低いMSO含量であるならば、安定性を改善し、従って貯蔵寿命を延ばしながら本発明の誘導粘性栄養エマルションを処方できることが判明した。安定性の改善は初期処方又はパッケージングから2週間後、好ましくは6週間後、より好ましくは6か月後以降に測定した場合のクリーミングの低下、蛋白沈殿の低下又はその両者として観察される。
【0029】
栄養製品で使用する蛋白源を製造する際に、蛋白に結合したメチオニンの量を変えて酸化させると、蛋白に結合したメチオニンスルホキシド部分を形成することが判明した。その後、MSO含量が8%を上回る蛋白源を使用して処方すると、誘導粘性栄養エマルションは不安定であるが、蛋白源のMSO含量が8%以下の場合には安定であることが判明した。
【0030】
MSO含量が8%以下となるように処理又は選択するならば、栄養製品に使用するのに適したいずれもの蛋白源が本発明で使用するのに適している。適切な蛋白質を選択又は処理するのに適した蛋白源としては牛乳(例えばカゼイン、乳漿)、動物(例えば獣肉、魚肉)、穀類(例えばコメ、トウモロコシ)、野菜(例えば大豆)又はその組み合わせが挙げられる。
【0031】
適切な乳蛋白源の非限定的な例としては乳蛋白単離物、カゼイン蛋白単離物、乳蛋白濃縮物、全牛乳、部分又は完全脱脂乳等が挙げられる。乳蛋白単離物が好ましいが、当然のことながら、これらの単離物のMSO含量が常に8%以下であるとは限らないので、このような単離物が本発明で使用するのに常に適している訳ではない。他の蛋白源についても同じことが言える。
【0032】
所定の市販蛋白源と各々の対応するMSO含量(測定値)を以下に記載する。本発明で使用するにはMSO含量が8%以下のものが適している。
【0033】
【表1】

【0034】
指定MSO含量(最終製品からの測定値)の蛋白源を各々含有する市販栄養製品を下表に記載する。しかし、下表の製品はいずれも誘導粘性繊維系を含有する誘導粘性エマルションには相当しない。
【0035】
【表2】

【0036】
MSO含量は一般に処理中に増加するので、本発明の定義を目的とするMSO含量は最終製品から測定することが好ましいが、当然のことながら、本発明は特に指定しない限り、処方及び処理前の蛋白源のMSO含量が8%以下の最終製品も含む。
【0037】
誘導粘性繊維系
本発明の栄養エマルションは誘導粘性繊維系を含有しており、このような系は消費後にエマルションの粘度を増加し、パッケージ粘度と消費後のエマルションの誘導粘度が本明細書に定義する範囲内にある任意系を含む。
【0038】
安全で有効な経口投与に適切であるか又は公知の任意誘導粘性繊維系が本発明で使用するのに適しており、そのいくつかの例は参照によりその記載内容を本明細書に組込む米国特許出願第20020193344号、20030125301号及び20030013679号(Wolfら)に記載されている。
【0039】
同様に参照によりその記載内容を本明細書に組込む米国特許第6,733,769号(Ryanら)に記載されているグルコマンナン組成物も本発明で使用するのに適している。
【0040】
A)ポリマー制御型誘導粘性繊維系
誘導粘性繊維系は参照によりその記載内容を本明細書に組込む米国特許出願第20030013679号に記載されているもの等のポリマー制御型誘導粘性繊維系が好ましい。このような系は中性可溶性繊維と、重合度(DP)が少なくとも10の澱粉部分水解物を含む。
【0041】
本明細書で使用する「中性水溶性繊維」なる用語は室温で水に溶かすことができ、中性pHで電荷をもたない繊維を意味する。
【0042】
本発明の栄養エマルションはポリマー制御型誘導粘性繊維系における中性可溶性繊維と澱粉部分水解物の重量比が0.35:5.0〜1:5.0、例えば0.7:5.0〜1:5.0、更に1:5.0である態様を含む。
【0043】
ポリマー制御型誘導粘性繊維系を含有するエマルションにおいて、中性可溶性繊維は澱粉部分水解物の存在により分散不溶性状態に維持される。これらのポリマー等の2種以上のポリマーが同一溶液に存在する場合には、高溶解度のポリマー(即ち澱粉部分水解物)の濃度が増すにつれて低溶解度のポリマー(即ち中性可溶性繊維)の溶解度は低下する。しかし、澱粉部分水解物が胃でα−アミラーゼにより消化されると、胃内で次第に消失するため、消費された組成物中の中性可溶性繊維は胃内で可溶化し、従って、ゲルと高粘度組成物を形成することができる。その結果として胃内に粘性塊が形成され、胃内容排出を遅延させ、グルコース吸収を減速又は遅延させる。
【0044】
本発明のポリマー制御型誘導粘性繊維系で使用する中性可溶性繊維の非限定的な例としては、グアーガム、ペクチン、ローカストビーンガム、メチルセルロース、βグルカン、グルコマンナン、コンニャク粉及びその組み合わせが挙げられる。グルコマンナン繊維、グアーガム及びその組み合わせが好ましい。これらの中性可溶性繊維の濃度は一般に栄養エマルションの重量を基にして少なくとも0.4%、例えば0.55〜3.0%、更に0.65〜1.5%である。
【0045】
この特定誘導粘性繊維系で使用するのに適した澱粉部分水解物としては、DPが少なくとも10、好ましくは少なくとも20、例えば40〜250、例えば60〜120であり、経口栄養製品で使用するのに適したものが挙げられる。これに関連して、重合度(DP)は分子内で結合したグルコース又は単糖単位の数である。澱粉部分水解物の濃度は一般に栄養エマルションの重量を基にして少なくとも2%、例えば3〜20%、更に3.5〜6%である。
【0046】
本発明で使用するのに適した所定の澱粉部分水解物の非限定的な例としては酸加水分解、酵素加水分解又はその両者により得られるものが挙げられる。DPが40〜250のもの、例えばDP100マルトデキストリン及び他の適切な多糖類(例えばイヌリン、加水分解グアーガム、アラビアガム及びその組み合わせ)が好ましい。DP値は澱粉部分水解物の重合度、即ち澱粉部分水解物における単糖単位数である。
【0047】
澱粉部分水解物はDP値の代わりにデキストロース当量(DE)により特徴付けることもでき、澱粉部分水解物はDEが10未満、例えば1〜8である。デキストロース当量(DE)はデキストロース標準に比較したマルトデキストリン又は他の多糖類の平均還元力を表す慣用測定値である。DE値は式[DE=100÷DP]から得られ、ここで、DPはマルトデキストリン又は他の材料の重合度、即ち多糖における単糖単位数である。参考までに、グルコース(デキストロース)のDEは100であり、澱粉のDEは約0である。
【0048】
本発明の誘導粘性繊維系は中性可溶性繊維がグルコマンナン又はコンニャク粉であり、澱粉部分水解物が分子量1,000〜50,000ダルトンのものである態様を含む。
【0049】
B)酸制御型誘導粘性繊維系
本発明で使用する誘導粘性繊維系は参照によりその記載内容を本明細書に組込む米国特許出願第20020193344号に記載されているもの等の酸制御型誘導粘性繊維系を含む。このような系は非水溶性酸溶性多価カチオン源と共に可溶性アニオン性繊維を含む。
【0050】
本明細書で使用する「アニオン性可溶性繊維」なる用語は室温で水に溶かした後に負電荷をもつ水溶性繊維を意味する。
【0051】
「非水溶性酸溶性多価カチオン」なる用語は中性pHの水に不溶性であり、酸と反応してカチオンを放出する塩を意味する。非水溶性又は実質的に非水溶性であり且つ酸溶性の多価カチオンとしてMerck Index,Tenth Editionに掲載されているものが適切な塩の例である。
【0052】
酸制御型誘導粘性繊維系の一部として、多価カチオンは栄養エマルションに不溶性である。消費後に胃に流入すると、酸溶性多価カチオンは胃の酸性環境で可溶化し、解離する。解離したカチオンはその後、アニオン性可溶性繊維と反応し、架橋した後、胃内で粘性ゲル又は塊を形成する。得られた粘性塊は胃内容排出を遅延させ、グルコース吸収を減速又は遅延させる。
【0053】
これらの酸制御型誘導粘性繊維系は非水溶性酸溶性多価カチオン源が栄養エマルションの重量を基にして(カチオンの重量を基にして)200〜9000ppm、例えば300〜4000ppm、更に400〜1000ppmに相当する態様を含む。
【0054】
誘導粘性繊維系で使用するのに適した適した非水溶性酸溶性多価カチオン源の非限定的な例としては、マグネシウム、カルシウム、鉄、クロム、マンガン、モリブデン、銅又は亜鉛の任意非水溶性酸溶性塩が挙げられ、具体例としては、炭酸カルシウム、弗化カルシウム、モリブデン酸カルシウム、蓚酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、カルシウムサッカラート、弗化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、過酸化マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、亜セレン酸マグネシウム、炭酸マンガン、酸化マンガン、硫化マンガン及びその組み合わせが挙げられる。炭酸カルシウム及び/又は三リン酸カルシウムが好ましい。
【0055】
従って、栄養エマルションは水溶性多価カチオン又は最終栄養製品に可溶性になるカチオンを実質的に含まないことが好ましい。これに関連して、実質的に含まないなる用語は栄養エマルションの水溶性又は製品可溶性多価カチオン含有量が0.2重量%未満、好ましくは0%であることを意味する。
【0056】
これらの酸制御型誘導粘性繊維系は可溶性アニオン性繊維が栄養エマルションの重量を基にして0.2〜5%、例えば0.4〜3%、更に0.8〜1.5%に相当する態様を含み、誘導粘性繊維系で使用するのに適した可溶性アニオン性繊維の非限定的な例としてはアルギン酸塩、低メトキシペクチン、カラゲーナン、キサンタン、ゲランガム及びその組み合わせが挙げられる。アルギン酸塩が好ましい。
【0057】
巨大栄養素
本発明の栄養エマルションは脂質と、蛋白質と、糖質を含有する。本明細書に記載するように、蛋白質は低MSO蛋白源でなければならず、糖質は誘導粘性繊維系を含んでいなければならない。脂質成分については以下に記載する。
【0058】
本発明の栄養エマルション中の各多量栄養素の濃度又は量は対象使用者の栄養要件に応じて大幅に変えることができ、このような濃度又は量は最も一般には下記態様の範囲の1種に該当する。
【0059】
【表3】

【0060】
本発明の栄養エマルションは脂質を含有する。適切な脂質又は脂質源としては経口栄養製品用として公知又は安全な任意のものが挙げられ、その非限定的な例としては、ココナッツ油、分留ココナッツ油、大豆油、コーン油、オリーブ油、サフラワー油、高オレイン酸サフラワー油、MCT油(中鎖トリグリセリド)、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、パーム及びパーム核油、パームオレイン、キャノーラ油、魚油、綿実油及びその組み合わせが挙げられる。
【0061】
栄養エマルションは脂質成分の一部としてポリ不飽和脂肪酸(ポリ不飽和脂肪酸エステルを含む)又は他の天然もしくは合成源を含有することができ、例えば2個以上の炭素:炭素二重結合をもつ短鎖(鎖当たり炭素原子数約6未満)、中鎖(鎖当たり炭素原子数約6〜18)及び長鎖(鎖当たり炭素原子数少なくとも約20)脂肪酸、例えばn−3(ω−3)及びn−6(ω−6)ポリ不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0062】
本発明で使用するのに適したポリ不飽和脂肪酸の非限定的な例としては、α−リノレン酸(ALA,C18:3n−3)、ステアリドン酸(C18:4n−3)、エイコサペンタエン酸(EPA,C20:5n−3)、ドコサペンタエン酸(C22:5n−3)、ドコサヘキサエン酸(DHA,C22:6n−3)、リノール酸(C18:2n−6)、γ−リノレン酸(GLA,C18:3n−6)、エイコサジエン酸(C20:2n−6)、アラキドン酸(ARA,C20:4n−6)、ジ−ホモ−γ−リノレン酸(DGLA,C20:3n−6)及びその組み合わせが挙げられる。
【0063】
本発明の栄養エマルションは更に本明細書に記載する誘導粘性繊維系により提供される糖質以外の糖質を含有することができる。このような他の糖質の非限定的な例としては他の加水分解又は修飾澱粉又はコーンスターチ、グルコースポリマー、コーンシロップ、コーンシロップ固形分、コメ由来糖質、グルコース、フルクトース、ラクトース、高フルクトースコーンシロップ、非消化性オリゴ糖(例えばフルクトオリゴ糖)、蜂蜜、糖アルコール(例えばマルチトール、エリスリトール、ソルビトール)及びその組み合わせが挙げられる。
【0064】
本発明の栄養エマルションは該当非必須成分が経口栄養で使用するのに安全であり、製品性能を過度に悪化させないならば、更に他のいずれかの栄養素、賦形剤又は他の添加剤を添加することができる。この点ではビタミンとミネラルが好ましい。
【0065】
MSO法
本発明で使用する蛋白源のメチオニンスルホキシド(MSO)含量は以下の方法に従って測定する。適正な蛋白質選択のためには、蛋白源候補を37℃で24時間酵素加水分解する。次に、得られた酵素消化物のMSOとメチオニン含量を逆相HPLCにより測定する。次に蛋白源におけるMSOの百分率を以下のように決定する。
【0066】
【表4】

【0067】
上記方法の1例として、蛋白源(カゼイン酸カルシウム及びカゼイン酸ナトリウム)を以下のように評価する:
A.標準調製
a.L−メチオニン100mgとDL−メチオニンスルホキシド(Fluka 64430)50mgを水1000mLに溶かす。これを高標準溶液とする。
b.高標準溶液25.0mLを水で50mLまで希釈する。これを低標準溶液とする。
B.サンプル調製
a.0.1%ナトリウムアジドを添加した0.05M PIPES(pH7.5)25mLにカゼイン酸塩成分90〜95mgを溶かす。
b.カゼイン酸塩溶液3.00mLを1ドラムバイアルにピペッティングする。
c.0.1%ナトリウムアジドを添加した0.05M PIPES(pH7.5)中2mg/mLの濃度でプロナーゼ(Sigma P−5147)150μLを加える。
d.水中2mg/mLの濃度でロイシンアミノペプチダーゼ(Sigma L−0632)60μLを加える。
e.水中2mg/mLの濃度でプロリダーゼ(Sigma P−6675)30μLを加える。
f.バイアルにキャップをし、静かに混合する。クリンプシールHPLCオートサンプラーバイアル(VWR 66020−953)2本に1600μLずつ分配し、バイアルを密閉する。
g.37℃で24時間インキュベートする。
h.MSOとMETを下記HPLCシステムにより試験する。
C.HPLCシステム
カラム:ODS−AQ,4.6×250mm,5μm,120A,Waters AQ12S052546WT
移動相A:水
移動相B:0.02 KHPO(pH2.9)350mL;アセトニトリル650mL
温度:40℃
検出:UV 221nm,214nm
注入量:1μL
溶出プログラム:「C.HPLCシステム」の付表Aの表参照。
【0068】
蛋白質サンプル
各種市販蛋白源のMSO含量を測定し、比較する。次に、誘導粘性栄養エマルションにおける各種蛋白源の物理的安定性を評価する。
【0069】
試験した9種の蛋白源のうち、MSO含量が8%以下のものは良好なエマルション安定性を示したが、MSO含量が8%未満のものは安定性が並又は不良であった。これらの結果から、MSO含量とHPLCピーク高の間及びMSO含量と誘導粘性エマルション安定性の間には反比例の関係があることが分かる。試験データを下表に要約する。
【0070】
【表5】

【0071】
以下、エマルションの適切な製法を含めた本発明の栄養エマルションの特定態様を実施例により例示する。以下の実施例は単に例示を目的とするものであり、本発明の精神と範囲から逸脱せずにその多数の変形が可能であるので、本発明の限定とみなすべきではない。
【実施例1】
【0072】
本実施例は本発明の誘導粘性栄養エマルションとその製造方法に関する。本態様は最終製品中のMSO含量が1〜3%の蛋白質と共にポリマー制御型誘導粘性繊維系を含有する。
【0073】
【表6】

【0074】
この栄養エマルション(〜1000kg)を製造するには、指定成分を配合することにより脂質ブレンドを別個に形成する。指定成分を配合することにより水中蛋白スラリーも別個に製造する。指定成分を配合することにより糖質/ミネラルスラリーも同様に別個の混合物として形成する。
【0075】
次に糖質/ミネラルスラリーを水中蛋白スラリーに加え、ブレンドpHを6.7〜7.0に調整する。得られたブレンドに脂質ブレンドを加える。こうして形成された混合物を次にUHT温度(295°Fで5秒間)で処理し、4000psiで均質化する。次にビタミン溶液の成分を配合し、45% KOHを使用してpHを6.5〜7.5に調整する。次にビタミン溶液を均質化ブレンドに標準化しながら加える。次に最終ブレンドを各8オンス容器にパッケージング及び密閉し、レトルト処理する。
【0076】
得られた製品はパッケージ粘度120cpsであり、(α−アミラーゼ処理後の)誘導粘度は14,000cpsを上回る。製品は2週間、6か月及び12か月後も有意クリーミング又は蛋白沈殿を生じず、安定に維持される。
【実施例2】
【0077】
本実施例は本発明の誘導粘性栄養エマルションとその製造方法に関する。本態様は最終製品中のMSO含量が1〜3%の蛋白質と共にポリマー制御型誘導粘性繊維系を含有する。
【0078】
【表7】

【0079】
この栄養エマルション(〜1000kg)を製造するには、指定成分を配合することにより脂質ブレンドを別個に形成する。指定成分を配合することにより水中蛋白スラリーも別個に製造する。指定成分を配合することにより糖質/ミネラルスラリーも同様に別個の混合物として形成する。
【0080】
次に糖質/ミネラルスラリーを水中蛋白スラリーに加え、ブレンドpHを6.7〜7.0に調整する。得られたブレンドに脂質ブレンドを加える。こうして形成された混合物を次にUHT温度(295°Fで5秒間)で処理し、4000psiで均質化する。次にビタミン溶液の成分を配合し、45% KOHを使用してpHを6.5〜7.5に調整する。次にビタミン溶液を均質化ブレンドに標準化しながら加える。次に最終ブレンドを各8オンス容器にパッケージング及び密閉し、レトルト処理する。
【0081】
得られた製品はパッケージ粘度120cpsであり、(α−アミラーゼ処理後の)誘導粘度は14,000cpsを上回る。製品は2週間、6か月及び12か月後も有意クリーミング又は蛋白沈殿を生じず、安定に維持される。
【実施例3】
【0082】
本実施例は本発明の誘導粘性栄養エマルションとその製造方法に関する。本態様は最終製品中のMSO含量が1〜3%の蛋白質と共にポリマー制御型誘導粘性繊維系を含有する。
【0083】
【表8】

【0084】
この栄養エマルション(〜1000kg)を製造するには、指定成分を配合することにより脂質ブレンドを別個に形成する。指定成分を配合することにより水中蛋白スラリーも別個に製造する。指定成分を配合することにより糖質/ミネラルスラリーも同様に別個の混合物として形成する。
【0085】
次に糖質/ミネラルスラリーを水中蛋白スラリーに加え、ブレンドpHを6.7〜7.0に調整する。得られたブレンドに脂質ブレンドを加える。こうして形成された混合物を次にUHT温度(295°Fで5秒間)で処理し、4000psiで均質化する。次にビタミン溶液の成分を配合し、45% KOHを使用してpHを6.5〜7.5に調整する。次にビタミン溶液を均質化ブレンドに標準化しながら加える。次に最終ブレンドを各8オンス容器にパッケージング及び密閉し、レトルト処理する。
【0086】
得られた製品はパッケージ粘度120cpsであり、(α−アミラーゼ処理後の)誘導粘度は14,000cpsを上回る。製品は2週間、6か月及び12か月後も有意クリーミング又は蛋白沈殿を生じず、安定に維持される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)蛋白に結合したメチオニンスルホキシド含量がモル基準で蛋白に結合した総メチオニンの8%以下である蛋白質、
(B)脂質、ならびに
(C)300cps未満のパッケージ粘度及び少なくとも300cpsの消費後誘導粘度をエマルションに付与する誘導粘性繊維系
を含有し、水中油エマルションである誘導粘性栄養エマルション。
【請求項2】
エマルションが総カロリーの百分率として糖質10〜85%、脂質10〜85%及び蛋白質5〜40%を含有する、請求項1に記載の栄養エマルション。
【請求項3】
蛋白に結合したメチオニンスルホキシド含量がモル基準で総蛋白に結合したメチオニンの1〜5%である、請求項2に記載の栄養エマルション。
【請求項4】
誘導粘性繊維系がエマルションの重量を基にして可溶性アニオン性繊維源0.2〜5%及び非水溶性酸溶性多価カチオン200〜9000ppmを含有する、請求項1に記載の栄養エマルション。
【請求項5】
エマルションが可溶性アニオン性繊維0.4〜3重量%及び非水溶性酸溶性多価カチオン源200〜1000重量ppmを含有する、請求項4に記載の栄養エマルション。
【請求項6】
エマルションが可溶性多価カチオンを実質的に含まない、請求項4に記載の栄養エマルション。
【請求項7】
可溶性アニオン性繊維がアルギン酸塩、低メトキシペクチン、カラゲーナン、キサンタン、ゲランガム及びその組み合わせから構成される群から選択される、請求項4に記載の栄養エマルション。
【請求項8】
誘導粘性繊維系がエマルションの重量を基にして少なくとも0.4%の中性可溶性繊維及び重合度が少なくとも10の澱粉部分水解物を少なくとも2%含有する、請求項1に記載の栄養エマルション。
【請求項9】
エマルションが中性可溶性繊維0.55〜3.0重量%及び澱粉部分水解物2〜6重量%を含有する、請求項8に記載の栄養エマルション。
【請求項10】
中性可溶性繊維がグアーガム、高メトキシペクチン、ローカストビーンガム、メチルセルロース、βグルカン、グルコマンナン、コンニャク粉及びその組み合わせから構成される群から選択される、請求項9に記載の栄養エマルション。
【請求項11】
澱粉部分水解物が重合度約40〜約250である、請求項10に記載の栄養エマルション。
【請求項12】
エマルションがパッケージ粘度40〜250cps及び誘導粘度400〜20,000cpsである、請求項1に記載の栄養エマルション。

【公表番号】特表2009−521450(P2009−521450A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547442(P2008−547442)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/048430
【国際公開番号】WO2007/075683
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】