説明

誘電体セラミックスおよびその製造方法

【課題】 燃焼合成法により得られ、優れた焼結特性を有するBaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 系の誘電体セラミックスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )系の誘電体セラミックスであって、少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、TiO2 と、Re酸化物またはRe水酸化物と、BaO2と、酸素供給源となるイオン結合性物質とをそれぞれ所定割合で含む反応原料に、添加剤としてBi23 を所定割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )で表される酸化物系の誘電体セラミックス、特にBaRe2Ti514 またはBaRe2Ti412 およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動電話や衛星通信等の高周波通信技術の著しい発展に伴い、誘電体共振器、フィルター等の高周波デバイス用の誘電体セラミックスに対する需要はますます増えている。通信信号の周波数および通信機の大きさは、例えば、通信機内部に組み込まれたアンテナ基板の比誘電率が高くなると、より一層の高周波化および小型化が図れる。比誘電率は、誘電体内部の分極の程度を示すパラメータであり、アンテナ材料に用いられる誘電体セラミックスの比誘電率が高いほど、電子部品回路を伝播する信号の波長は短くなり、信号は高周波化する。従って、比誘電率の高い電子部品を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機等の小型化が図れる。また、上記のようなデバイスに用いられる誘電体セラミックスに対しては、低い誘電損失および良好な温度安定性も同時に要求される。
このような要求特性を満たす誘電体セラミックスとして、BaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 等(Re:希土類元素、以下に同じ)、および、これらにBi23等の所定の添加剤を配合したものが知られており、多種の用途に使用されている。これらは、常誘電相をベースとすることで、誘電損失を低く抑えている。
【0003】
従来の誘電体セラミックスの合成には、1000℃から 2000℃前後に加熱できる炉を用いて外部加熱を行なわなくてはならない。このため、セラミックスの合成には、膨大なエネルギーと大型の加熱機構を必要とし、これが製造コストを高くする原因となっている。上記BaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 を製造する場合も例外ではなく、例えば希土類元素としてネオジムを用いる場合では、BaO、Nd23 、TiO2 の各粉末をボールミルで湿式混合し、乾燥粉を 1100℃×5 時間の仮焼処理し、粉砕して誘電体セラミックス粉末としている。
【0004】
また、外部加熱を行なわない製造方法として、燃焼合成法(自己伝播高温合成( self propagating high temperature synthesis:SHS ))によるセラミックス粉末の合成が提案されている。該方法は、金属間化合物やセラミックスの生成時の発熱を利用するものであり、化合物の構成元素となる粉体をよく混合して圧粉体をつくり、その一部に高熱を与えると着火して、生成熱を発しながら合成反応が進行することで焼結体を得る方法である。燃焼合成法を利用するものとして、1種類の金属酸化物と2種類の異なる金属元素の計3種類の原料を出発原料とし、金属間化合物あるいは非酸化物セラミックスと酸化物セラミックスの2種類を合成する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の燃焼合成法では、上記BaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 等の酸化物系の誘電体セラミックスを得ることができない。燃焼合成法において燃焼波を完全に伝播させるためには、各構成元素源となる粉体の配合割合や、発熱源となる金属粉末等の物性(比表面積)等が重要となり、該方法により所望組成のセラミックスを高品位で製造することは容易ではない。例えば、安定成分と発熱源成分との配合割合が所定範囲外では、燃焼波が完全に伝播せず、未反応成分が混入する等して誘電特性が劣化するという問題がある
また、誘電体セラミックスの誘電特性向上のためBi23を配合する場合、通常の燃焼合成反応では、反応速度が速く燃焼温度が高いため、Bi23の分解が進行し、所望の誘電特性向上効果を得られないという問題がある。
【特許文献1】特開平5−9009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたものであり、燃焼合成法により得られ、優れた焼結特性を有するBaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 等の誘電体セラミックスおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体セラミックスは、組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )系の誘電体セラミックスであって、少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、TiO2 と、Re酸化物またはRe水酸化物と、BaO2と、酸素供給源となるイオン結合性物質とをそれぞれ所定割合で含む反応原料に、添加剤としてBi23 を所定割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られることを特徴とする。なお、各元素記号は、それぞれBa(バリウム)、Nd(ネオジム)、Ti(チタン)、Bi(ビスマス)、O(酸素)である。
なお、本発明の誘電体セラミックスは、BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )を主な組成式とするBaRe2Tim2m+4系のセラミックスであり、完全には上記組成式に従わず、上記添加剤であるBi23が含まれている。なお、添加剤として配合するBi23は反応原料と比較して微小量であるため、各化学反応式等においては該Bi23は省略する。
【0008】
上記組成式において m=5 であり、上記燃焼合成法で下記式(1)または(2)に示す反応により得られることを特徴とする。
【化1】

【0009】
上記組成式において m=4 であり、上記燃焼合成法で下記式(3)または(4)に示す反応により得られることを特徴とする。
【化2】

【0010】
上記誘電体セラミックスは燃焼合成後に仮焼され、上記添加剤であるBi23は、該仮焼時に配合されることを特徴とする。
【0011】
本発明の誘電体セラミックスの製造方法は組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )系の誘電体セラミックスの製造方法であって、少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、TiO2 と、Re酸化物またはRe水酸化物と、BaO2 と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、添加剤であるBi23 とをそれぞれ所定割合で配合する工程と、上記所定割合で配合された配合物を断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により反応させる工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の誘電体セラミックスは、少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、TiO2 と、Re酸化物またはRe水酸化物と、BaO2 と、酸素供給源となるイオン結合性物質とをそれぞれ所定割合で含む反応原料に、添加剤としてBi23 を所定割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上の燃焼合成により得られるので焼結体特性に優れる。Bi23 を配合することより、配合しない場合と比較して、比誘電率が向上するとともに、誘電正接が小さくなる。
また、添加剤のBi23 を仮焼時に添加することにより、Bi23 の分解が抑制されるので、誘電特性が改良された誘電体セラミックスとなる。
【0013】
本発明の誘電体セラミックスの製造方法は、添加剤としてBi23 を所定割合で配合した上記原料を用い、燃焼合成法で、BaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 系の誘電体セラミックスを製造することができる。
反応原料において、反応希釈剤であるTiO2 を反応原料に所定量配合することにより、Bi23 の分解が抑制されるので、誘電特性が改良された誘電体セラミックスを製造することができる。
また、燃焼合成法を用いることにより、従来の外部加熱を行なう方法と比較して、低コスト、短時間で誘電体セラミックスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の誘電体セラミックスは、主な組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )で表され、少なくともTi粉末と、TiO2 と、Re酸化物またはRe水酸化物と、BaO2 と、イオン結合性物質とをそれぞれ所定割合で含む反応原料に、添加剤としてBi23 を所定割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られる。
本発明において添加剤として使用するBi23 (三酸化ビスマス)は比重 8.9 、融点 820℃、沸点 1900℃、水およびアルカリに不溶、酸に可溶の黄色単斜晶系結晶粉末である。Bi23の市販品としては、和光純薬工業社製試薬、関東化学社製試薬等がある。
【0015】
本発明において使用するBi23 は燃焼合成法により得られる誘電体セラミックスの誘電特性改良のために配合する。
Bi23 の配合割合を増加させると、得られる誘電体セラミックスの比誘電率が向上し、温度依存性が平坦になり、誘電正接が小さくなる等、誘電特性が改良される。これは、Bi23を 配合することにより、Bi+3 がイオン半径の近い希土類元素イオン(La+3 、Nd+3 、Sm+3 等)の位置で置換され、結晶格子に歪が生じるため、誘電体セラミックスの誘電特性が改良されるものと考えられる。
また、Bi23は反応原料全体に対して 2〜15 重量%配合することが好ましい。
【0016】
本発明で使用するTi粉末は、微粉末であることが好ましく、比表面積が 0.01〜2 m2/gである。燃焼波が伝播し、かつ取り扱いやすいので好ましい比表面積の範囲は 0.1〜0.6 m2/g である。比表面積が 0.01 m2/g 未満の場合、発熱源となるTi粉未と酸素供給源となる物質との接触面積が少ないため、燃焼波が伝播せず、誘電体セラミックスが合成できない場合がある。また、比表面積が 2 m2/g をこえるTi粉未は極めて活性であり、取り扱いが困難となるため好ましくない。なお、本発明においてTi粉未の比表面積は、BET法により測定された値をいう。
また、Ti粉末に代えて水素化Ti粉末を使用することもできる。
【0017】
燃焼合成に使用できるTi微粉末は、平均粒子径が同一であっても、比表面積が異なると反応性に差が認められた。すなわち、球状よりも比表面積が大きくなる形状の金属粉末を用いると燃焼合成反応がより速やかに進行した。比表面積が大きくなる形状としては、球状粒子表面に複数の凹凸が形成された粒子、粒子全体としていびつな形状の粒子、またはこれらの組み合わせがある。
本発明に使用できる平均粒子径としては 150μm 以下、好ましくは 0.1〜100μm である。150μmをこえると、他の原材料との混合が十分でなくなり、燃焼波が伝播しない場合が生じる。
表面に凹凸が形成された粒子またはいびつな形状の平均粒子径の測定方法は、画像解析法が好ましい。
【0018】
また、燃焼合成反応時におけるBi23の分解を防止するため、上記Ti粉末に加えて、Tiの酸化物であるTiO2(酸化チタン)を併用する。TiO2 は、燃焼合成反応において反応希釈剤として働き、この配合量を調整することで断熱火炎温度を制御できる。
具体的には、TiO2 の配合割合を上げると、反応の進行速度が低下し、断熱火炎温度が下がるので、Bi23の分解を抑制できる。
TiO2 は、目的となる本発明の誘電体セラミックスを構成する元素のみからなるため、併用しても副生成物を生じない。また、一般に金属単体とするためには精製が必要であり、Ti粉末はコストが高いので、該Ti粉末とTiO2 とを併用することにより、コスト削減を図れるという効果も有する。
【0019】
希土類元素Reの供給源としては、希土類元素の酸化物(Re23)または水酸化物(Re(OH)2)を使用する。Reとしては、Nd(ネオジム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)が挙げられる。これらの中で工業的に特に重要となるのは、La、Pr、Nd、Sm等である。
本発明の誘電体セラミックス(BaRe2Tim2m+4)におけるReは、上記希土類元素が1種単独であっても、2種以上を混合したものであってもよい。
該希土類元素は、比誘電率の温度変化を小さくする等の温度特性改善に寄与する。安定であり吸湿等を考慮する必要がなく取り扱い性に優れることから、Nd(OH)2を用いることが好ましい。
【0020】
Ba供給源としては、BaO2 を使用する。該BaO2 は、Ba供給源であると同時に酸素供給源でもある。また、Ba供給源としてBaCO3 も使用可能である。
【0021】
本発明は上記Ti粉末、TiO2 、Re酸化物またはRe水酸化物、BaO2 とともに酸素供給源となる物質が配合される。
酸素供給源としては、加熱により酸素を発生させるイオン結合性物質が配合される。該イオン結合性物質としては、KClO3 、NaClO3 、NH4ClO3 等の塩素酸塩類、KClO4 、NaClO4 、NH4ClO4 等の過塩素酸塩類、NaClO2 などの亜塩素酸塩類、KBrO3 などの臭素酸塩類、KNO3 、NaNO3 、NH4NO3 等の硝酸塩類、NaIO3 、KIO3 等のよう素酸塩類、KMnO4 、NaMnO4・3H2O の過マンガン酸塩類、K2Cr27 、(NH42Cr27 等の重クロム酸塩類、NaIO4 などの過よう素酸塩類、HIO4・2H2O などのメタよう素酸、CrO3 などの無水クロム酸塩、NaNO2などの亜硝酸塩、Ca(ClO)2・3H2O などの次亜塩素酸カルシウム三水塩類等が挙げられる。
これらの中で過塩素酸塩類、塩素酸塩類、亜塩素酸塩類が好ましく、特にNaClO4 、KClO4 は、副生成物であるNaCl、KClが繰り返し純水で洗浄することで除去できるので好適である。なお、過塩素酸塩類の場合、生成する炭酸ガスがガス化するため、合成粉末には残存しない。
【0022】
本発明の誘電体セラミックスは、上記Bi23を含む各反応原料を所定割合で配合した後、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られる。本発明の誘電体セラミックスの一具体例であるBaNd2Ti514 を合成する場合の化学反応式は下記式(5)または(6)に示すとおりである。
【化3】

各反応原料を所定割合で配合するとは、上記式を満たすモル質量比で配合することをいう。すなわち、上記式(5)の場合、Ti粉末の配合モル質量を x モルとすると、TiO2 は(10-x)モル、NaClO4 は(x-1)/2モルとなり、Ti粉末の配合モル質量に関係なく、BaO2 は 2 モル、Nd23 は 2 モル配合する。上記式(6)の場合は、Nd23の代わりにNd(OH)2を 4 モル、NaClO4 を x/2 モル配合する。
この割合で各反応原料を配合して燃焼合成することにより、目的のBaNd2Ti514 を容易に短時間で得ることができる。また、副生成物もNaCl、H2Oのみであり、後述する水洗浄等により容易に分離することができる。
【0023】
上記のようにTi粉末と、TiO2 との配合比は上記式(5)または(6)中における x の値で決定される。BaNd2Ti514 合成時における好ましい x の範囲としては、2 ≦ x ≦ 4 である。x が 2 未満であると、発熱源であるTi粉末が不足するとともに、反応希釈剤であるTiO2 が多すぎるため、燃焼波が完全には伝播しないこと等により焼結体特性に劣る可能性がある。また、x が 4 を越えると発熱源量が多く反応の進行が急激になり、添加剤のBi23が分解する、また合成粉が飛散する等の問題が生じる可能性がある。
【0024】
本発明の誘電体セラミックスの他の具体例としてBaNd2Ti412 を合成する場合の化学反応式は下記式(7)または(8)に示すとおりである。
【化4】

配合割合は、上記式(7)の場合、Ti粉末の配合モル質量を x モルとすると、TiO2 は(8-x )モル、NaClO4 は(x-1)/2モルとなり、Ti粉末の配合モル質量に関係なく、BaO2 は 2 モル、Nd23 は 2 モル配合する。また、上記式(8)の場合は、Nd23の代わりにNd(OH)2を 4 モル、NaClO4 を x/2 モル配合する。
この割合で各反応原料を配合して燃焼合成することにより、目的のBaNd2Ti412 を容易に短時間で得ることができる。また、副生成物もNaCl、H2Oのみであり、後述する水洗浄等により容易に分離することができる。
【0025】
上記のようにTi粉末と、TiO2 との配合比は上記式(7)または(8)中における x の値で決定される。BaNd2Ti412 合成時における好ましい x の範囲としては、1.5 ≦ x ≦ 3 である。x が 1.5 未満であると、発熱源であるTi粉末が不足するとともに、反応希釈剤であるTiO2 が多すぎるため、燃焼波が完全には伝播しないこと等により焼結体特性に劣る可能性がある。また、x が 3 を越えると発熱源量が多く反応の進行が急激になり、添加剤のBi23が分解する、また合成粉が飛散する等の問題が生じる可能性がある。
【0026】
上記反応原料をそれぞれ所定割合で配合する工程において、反応原料の混合は、ボールミル、乳鉢と乳棒等を用いた混合等特に制限されることなく使用できる。特に量産性に優れているボールミルを用いる混合が好ましい。
混合粉末は、るつぼに投入して燃焼合成を行なうが、そのるつぼの材質としては好ましくは非酸化物である炭素(C)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素Si34 等が使用できる。これらの中で炭素(C)材が熱伝導と形状加工性に優れているので好ましい。
混合粉末をるつぼへ投入する方法としては、混合粉末をパウダーベット状に敷き詰めたり、敷き詰めた後圧縮したり、ペレット状に押し固めたものをるつぼへ投入する方法等が使用できる。
【0027】
上記所定割合で配合された配合物を燃焼合成法により反応させる。燃焼合成法の条件について、反応系の断熱火炎温度は 1500℃以上である。1500℃以上であれば、燃焼波が伝播するからである。
燃焼合成はチャンバー内で行なうが、その雰囲気としては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)等の希ガス雰囲気が好ましい。なお、反応生成物の誘電特性を劣化させなければ、窒素ガス、炭酸ガス雰囲気等を利用することも可能である。また、酸素分圧を制御可能であれば、酸素ガスを使用することも可能である。
燃焼合成を開始させるための混合粉末への着火方法は、金属粉が着火発熱可能となる方法であれば特に限定されない。カーボンフイルムを着火発熱させて熱源とし、混合粉末に接触させて着火発熱させる方法が取り扱いに優れているので好ましい。燃焼合成反応は、約 1〜60 秒で終了する。
【0028】
反応生成物は、るつぼ中において塊状である。該反応生成物の粉砕は、平均粒径が 100μm 以下となる粉砕方法であれば特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、乳鉢と乳棒等で行なうことができる。平均粒径が 100μm をこえると、後工程の洗浄工程での洗浄が十分でなくなり、副生成物であるイオン結合性塩が残留しやすくなる。
【0029】
粉砕工程後の微粉末には、副生成物であるイオン結合性塩が含まれている。例えばNaClO4 を原料に用いた場合はNaClが、KClO4 を原料に用いた場合はKClがそれぞれ生成する。水で洗浄することでこれらの塩を除去できる。
塩類が燃焼合成反応後の合成粉末に存在すると焼結性が阻害される。焼結性を阻害しない程度まで塩類を減らす基準としては、洗浄液の電気伝導率が 150μS/cm 以下である。すなわち洗浄回数、洗浄量の如何にかかわらず、上記合成粉末を水で洗浄したとき洗浄後の洗浄水の電気伝導率が 150μS/cm 以下であればよい。
【0030】
洗浄に用いる水の電気伝導率は 50μS/cm 未満が好ましい。50μS/cm 以上であると、溶出したNa 、Cl などのイオン性物質の量が十分に少なくても、洗浄液の電気伝導率が高くなる。電気伝導率が 50μS/cm 未満の洗浄水としては、取り扱い上、蒸留水などの純水が特に好ましい。洗浄容器に微細化された合成粉末と洗浄液を入れ、超音波洗浄を行ない、副生成物をNa 、Cl などのイオンにして純水に溶出させる。洗浄液の交換回数を増やす、あるいは合成粉末に対する洗浄液量を増やすことで、除去量を増すことが可能となる。溶出を促進させるには、洗浄液の温度を上げることも効果的である。副生成物のイオン性物質の残存量が多くなると、セラミックス粉末を焼成する際、イオン性物質が焼結を阻害するので好ましくない。残存イオン性物質を管理する手法として、洗浄液の電気伝導率の測定がある。洗浄後の洗浄水の電気伝導率が 150μS/cm をこえると、誘電体セラミックスの焼結性を阻害するので好ましくない。
【0031】
上記合成粉末は、洗浄乾燥後、焼結することにより、誘電体セラミックスが得られる。焼結するとき、ポリビニルブチラールなどの成形用粘結剤を配合できる。焼結条件としては、10〜100 MPa の圧力で成形後、大気雰囲気下、1200〜1500℃の温度で焼成する条件が挙げられる。
また、燃焼合成で得られた合成粉末の結晶構造をさらに安定させたり、微量な不純物を除去するため、900〜1100℃で仮焼することも可能である。なお、Bi23を、反応原料混合時ではなく、該仮焼時において配合してもよい。該仮焼時に配合することより、Bi23の分解を抑制できる。
【0032】
得られる誘電体セラミックスは、理論密度に近く緻密化され、優れた誘電特性を有するので、誘電体アンテナ、コンデンサ、誘電体共振器、フィルター、圧力センサ、超音波モータ等に使用できる。
【実施例】
【0033】
実施例1〜実施例13
各反応原料を表1に示すモル質量比でボールミルを用いて 5 時間混合することにより混合粉末を得た。合成装置内のチャンバー内にカーボンるつぼを設置し、混合粉末(100 g )をカーボンるつぼ内に敷き詰め、着火用のカーボンフイルムを混合粉の一部と接触させて、チャンバーを閉じた。真空ポンプを用いて、チャンバー内の残留酸素を減少させた後、アルゴン(Ar)ガスを封入し、チャンバーの内圧を 0.1 MPa とした。
なお、表1中において、Ti金属粉末は住友チタニウム社製TSP−350を、TiO2、Bi23、NaClO4は和光純薬工業社製各試薬を、BaO2は関東化学工業社製試薬を、La23、Nd23、Pr23、Sm23は信越化学工業社製品を、それぞれ用いた。
【0034】
反応生成物に、Bi23 を配合して 1000℃で 2 時間、仮焼して合成粉末を得た。アルミナ製乳鉢を用いて合成粉末を粉砕し、平均粒子径が 1μm の未洗浄誘電体セラミックス粉末を得た。
上記未洗浄誘電体セラミックス粉末を十分水洗し、この粉末に付着したNaClを除去して誘電体セラミックスを得た。
得られた誘電体セラミックス粉末の結晶相の同定をX線回折装置(XRD)を用いて行なった。結果を表2に示す。また、比誘電率および誘電正接を以下の方法で測定した。
得られた誘電体セラミックス粉末に成形用バインダ(ポリビニルブチラール樹脂)を 1 質量%添加して混合した。次に混合粉末を 10 mm×80 mm の金型に投入し、1.5 トン/cm2 の圧力を加えてグリーン体(10 mm×90 mm×3 mm )を得た。このグリーン体を 600℃で 1 時間保持し、有機分を除去した後、1300℃で 3 時間焼成した。得られた焼結体を 70 mm×1.5 mm×1.5 mm の試験片に加工し、空洞共振器法を用いて、1 、3 、5 GHz の周波数帯で比誘電率および誘電正接を測定した。ここで、比誘電率および誘電正接は 25℃での値である。結果を表2に示す。
【0035】
実施例14〜実施例26および比較例1〜比較例13
各反応原料を表1に示すモル比でボールミルを用いて 5 時間混合することにより混合粉末を得た。合成装置内のチャンバー内にカーボンるつぼを設置し、混合粉末(100 g )をカーボンるつぼ内に敷き詰め、着火用のカーボンフイルムを混合粉の一部と接触させて、チャンバーを閉じた。真空ポンプを用いて、チャンバー内の残留酸素を減少させた後、アルゴン(Ar)ガスを封入し、チャンバーの内圧を 0.1 MPa とした。
【0036】
合成粉末および副生成物(NaCl)が得られたものについて、アルミナ製乳鉢を用いて合成粉末を粉砕し、平均粒子径が 1μm の未洗浄誘電体セラミックス粉末を得た。
上記未洗浄誘電体セラミックス粉末を十分水洗し、この粉末に付着したNaClを除去して誘電体セラミックスを得た。
得られた誘電体セラミックス粉末の結晶相の同定をX線回折装置(XRD)を用いて行なった。結果を表2に示す。また、比誘電率および誘電正接を以下の方法で測定した。
得られた誘電体セラミックス粉末を実施例1と同様に処理して、1 、3 、5 GHz の周波数帯で比誘電率および誘電正接を測定した。結果を表2に示す。
【0037】
【表1】

【表2】

【0038】
表1および表2より、すべての実施例において燃焼波が伝播し、それぞれ焼結体を得ることができた。各実施例で得られた誘電体セラミックスは、比誘電率が 90 以上、誘電正接 0.0005 未満であり優れた誘電体特性を示した。
また、各比較例で得られた誘電体セラミックスは、比誘電率が 74 以上、誘電正接が 0.0005 未満であり、誘電特性は実施例を下回る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の誘電体セラミックスは、理論密度に近く緻密化され、優れた誘電特性を有するので、誘電体アンテナ、コンデンサ、誘電体共振器、フィルター、圧力センサ、超音波モータ等に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )系の誘電体セラミックスであって、
少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、TiO2 と、Re酸化物またはRe水酸化物と、BaO2 と、酸素供給源となるイオン結合性物質とをそれぞれ所定割合で含む反応原料に、添加剤としてBi23 を所定割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られることを特徴とする誘電体セラミックス。
【請求項2】
前記組成式において m=5 であり、前記燃焼合成法で下記式(1)または(2)に示す反応により得られることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミックス。
【化1】

【請求項3】
前記組成式において m=4 であり、前記燃焼合成法で下記式(3)または(4)に示す反応により得られることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミックス。
【化2】

【請求項4】
前記誘電体セラミックスは前記燃焼合成後に仮焼され、前記添加剤であるBi23は、該仮焼時に配合されることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の誘電体セラミックス。
【請求項5】
組成式BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )系の誘電体セラミックスの製造方法であって、
少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、TiO2 と、Re酸化物またはRe水酸化物と、BaO2 と、酸素供給源となるイオン結合性物質とをそれぞれ所定割合で配合する工程と、
前記所定割合で配合された配合物を断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により反応させる工程とを備えることを特徴とする誘電体セラミックスの製造方法。

【公開番号】特開2007−91496(P2007−91496A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280101(P2005−280101)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】