説明

誘電体セラミックスおよび共振器

【課題】 比誘電率εrが40前後において、Q値が高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さく、高温域および低温域にわたる広範囲な温度域において、共振周波数の変化の少ない誘電体セラミックスを提供する。
【解決手段】 組成式をαSm・βMgO・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)で表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.162<α<0.386,0.049<β<0.113,0.206<γ<0.357,0.340<δ<0.417、かつα+β+γ+δ=1を満足し、前記組成式の成分100質量%に対してアルミニウムを酸化物換算で6質量%以下(0質量%を除く
)含む誘電体セラミックスである。この誘電体セラミックスは、比誘電率εrが38前後において、Q値が30000以上であり、共振周波数の温度係数τfの絶対値が10ppm/℃以
下であり、高温域および低温域の共振周波数の温度係数τfの値の差が2ppm/℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話の中継基地局およびBSアンテナの共振器に使用される誘電体セラミックスに関する。また、この誘電体セラミックスを用いた共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の中継基地局およびBSアンテナ等には共振器が組み込まれており、この共振器の中核部には誘電体セラミックスが使用されている。この誘電体セラミックスに求められる特性としては、比誘電率εr,高周波の誘電損失(tanδ)の逆数として求められるQ値(1/tanδ)および共振周波数の温度に対する変化を示す温度係数τfがある。そして、共振器への要求特性の違いから、誘電体セラミックスに求められる比誘電率εrは様々であるが、それぞれの比誘電率εrについて、Q値が高く共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さいことが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、希土類元素(Ln)、Mg、Ta、Ti、およびM(M:CaおよびSrのうちの少なくとも1種)を含み、モル比による組成式:aLnOx/2−bMgO−cTaO5/2−dMO−eTiO組成を有し、a、b、c、d、eおよびxが、0.100≦a≦0.350、0.067≦b≦0.233、0.033≦c≦0.117、0.150≦d≦0.400、0.150≦e≦0.400、a+b+c+d+e=1、3≦x≦4の範囲内にある高周波用誘電体磁器組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3376933号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のaLnOx/2−bMgO−cTaO5/2−dMO−eTiO(Ln=希土類元素)の組成式で表される高周波用誘電体磁器組成物は、実施例に示されている比誘電率εrが38付近の試料によれば、Q値が高ければ共振周波数の温度係数τfの値が大きくなり、共振周波数の温度係数τfの値が小さければQ値が低くなっており、特に比誘電率εrが38前後において、Q値が高く共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さい誘電体セラミックスではなかった。また、この実施例において示されているのは、25〜55℃での共振周波数の温度係数τfであり、今般の誘電体セラミックスには、さらに高温域および低温域において共振周波数の変化が少ないことが求められている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、比誘電率εrが38前後において、Q値が高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さく、高温域および低温域にわたる広範囲な温度域における共振周波数の変化の少ない誘電体セラミックスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の誘電体セラミックスは、組成式をαSm・βMgO・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.162<α<0.386,0.049<β<0.113,0.206<γ<0.357,0.340<δ<0.417、かつα+β+γ+δ=1を満足し、前記組成式の成分100質量%に対してアルミニウムを酸化物換算で6質量%以下
(0質量%を除く)含むことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の誘電体セラミックスは、上記構成において、前記組成式の成分100質量
%に対して、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の共振器は、上記いずれかの構成の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘電体セラミックスによれば、組成式をαSm・βMgO・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.162<α
<0.386,0.049<β<0.113,0.206<γ<0.357,0.340<δ<0.417、かつα+β+γ+
δ=1を満足し、前記組成式の成分100質量%に対してアルミニウムを酸化物換算で6質
量%以下(0質量%を除く)含むことにより、比誘電率εrが33〜43となり、30000以上
のQ値とすることができる。また、共振周波数の温度係数τfの絶対値が10ppm/℃以下であり、高温域および低温域の共振周波数の温度係数τfの値の差が2ppm/℃以下であり、高温域から低温域にわたる広範囲な温度域において共振周波数の変化の小さい誘電体セラミックスとすることができる。
【0011】
また、本発明の誘電体セラミックスによれば、前記組成式の成分100質量%に対して、
マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むときには、焼成時のマンガン酸化物の価数変化によって生じる酸素が、誘電体セラミックス内の酸素欠陥に入ることによって、誘電体セラミックス内に酸素欠陥を生じにくくすることができるので、Q値を向上させることができる。また、高温域および低温域のそれぞれの温度域の共振周波数の変化をさらに小さくすることができる。
【0012】
本発明の共振器によれば、本発明の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことにより、比誘電率εrが33〜43であり、Q値が高く、気温差の激しい場所においても共振周波数の変化が小さいことから、長期間にわたって安定して良好な性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の誘電体セラミックスを含むセラミック体をフィルタとして用いた共振器の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本実施形態の誘電体セラミックスの一例について説明する。
【0015】
本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式をαSm・βMgO・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.162<α<0.386,0.049<β<0.113,0.206<γ<0.357,0.340<δ<0.417、かつα+β+γ+δ=1(小数点以下を四捨五入)を満足し、前記組成式の成分100質量%に対してアルミニウ
ムを酸化物換算で6質量%以下(0質量%を除く)含むものである。
【0016】
ここで、モル比α,β,γおよびδが上記数値範囲を満足することにより、比誘電率εrが33〜43となり、30000以上と高いQ値を得ることができる。また、共振周波数の温度
係数τfの値を小さくすることができる。具体的には、−40〜85℃の温度範囲における共振周波数を測定し、20℃での共振周波数を基準にして算出した20〜85℃(以下、高温域という。),−40〜20℃(以下、低温域という。)の共振周波数の温度係数τfの絶対値を10ppm/℃以下とすることができる。すなわち、それぞれの温度域において、共振周波
数の変化を小さくすることができる。
【0017】
そして、組成式の成分100質量%に対してアルミニウムを酸化物換算で6質量%以下(
0質量%を除く)含むことにより、高温域および低温域の共振周波数の温度係数τfの値の差を2ppm/℃以下とすることができる。すなわち、高温域から低温域にわたる広範囲な温度域において、共振周波数の変化を小さくすることができる。
【0018】
ここで、本実施形態の誘電体セラミックスの結晶形態は、組成式をαSm・βMgO・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したとき、モル比α,β,γ,δが、0.162<α<0.386,0.049<β<0.113,0.206<γ<0.357,0.340<δ<0.417、かつα+β+γ+δ=1を満足する成分により、Sm(Mg1/2Ti1/2)OおよびCaTiOからなる結晶相が形成され、また、この組成式の成分100質量%に対してア
ルミニウムを酸化物換算で6質量%以下(0質量%を除く)含むことにより、SmAlOの結晶相が形成され、Sm(Mg1/2Ti1/2)O,CaTiOおよびSmAlOの3種を主結晶とする混合相からなる。
【0019】
このように、Sm(Mg1/2Ti1/2)OおよびCaTiO結晶相のみならず、SmAlOの結晶相が存在していることにより、理由は明らかではないが、広範囲な温度域において、共振周波数の変化を小さくすることができると考えられる。好ましくは、組成式の成分100質量%に対してアルミニウムを酸化物換算で2〜5質量%含むことに
より、高温域と低温域との共振周波数の温度係数τfの値の差をさらに小さくすることができる。
【0020】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、組成式の成分100質量%に対して、マンガ
ンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むことが好ましい。誘電体セラミックスに、組成式の成分100質量%に対して、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質
量%を除く)含むときには、焼成時のマンガン酸化物の価数変化によって生じる酸素が、誘電体セラミックス内の酸素欠陥に入ることによって、誘電体セラミックス内に酸素欠陥を生じにくくすることができるので、Q値を向上させることができる。また、高温域および低温域のそれぞれの温度域の共振周波数の温度係数τfの絶対値をさらに小さくすることができる。また、マンガンの酸化物換算で0.1〜2質量%の範囲で含むことにより、Q
値をより高めることができるので好ましい。
【0021】
また、本実施形態の誘電体セラミックスは、ケイ素,ナトリウム,ジルコニウム,タングステン,ニオブ,タンタル,銅およびクロムを酸化物換算の合計で0.5質量%以下の範
囲で含むものであってもよい。これらは、出発原料または製造時に用いる粉砕用のボール等により含まれることとなるものであるが、酸化物換算の合計で0.5質量%以下の範囲で
含むものであれば、ケイ素,ナトリウム,ジルコニウム,タングステン,ニオブ,タンタル,銅およびクロムは、誘電体セラミックスの粒界において、低融点化合物を形成しやすく、誘電体セラミックスの焼結温度よりも低温度域で液相を形成して焼結を促進させることができるので、誘電体セラミックスの焼結性を向上させて、高密度で優れた機械的特性を有する誘電体セラミックスとすることができる。
【0022】
なお、誘電体セラミックス中に含まれる各成分の含有量については、誘電体セラミックスの一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(島津製作所製:ICPS−8100)を用いて測定し、得られた各成分の金属量を酸化物換算することにより得られる。
【0023】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスをフィルタとして用いた共振器について図1に一例を示す断面図に基づいて以下に説明する。
【0024】
図1に示す例ように、TEモ−ド型の共振器1は、金属ケース2,入力端子3,出力端子4,セラミック体5および載置台6を有する。金属ケース2は、軽量なアルミニウム等の金属からなり、入力端子3および出力端子4は、金属ケース2の内壁の相対向する両側に設けられている。セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなり、入出力端子3と出力端子4の間の載置台6上に配置され、フィルタとして用いられるものである。このような共振器1において、入力端子3からマイクロ波が入力されると、入力されたマイクロ波は、セラミック体5と自由空間との境界における反射によってセラミック体5内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。そしてこの共振した信号が出力端子4と電磁界結合することにより、金属ケース2の外部に出力される。
【0025】
このような構成の共振器1は、携帯電話の基地局やBSアンテナに好適に使用されるものである。なお、共振器1の構成は上述した構成に限定されず、入力端子3および出力端子4をセラミック体5に直接設けてもよい。また、セラミック体5は、本実施形態の誘電体セラミックスからなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体,立方体,板状体,円板,円柱,多角柱またはその他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は500MHz〜500GHz程度であり、共振周波数としては2GHz〜80GHz程度が実用上好ましい。
【0026】
そして、共振器1に、本実施形態の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことにより、比誘電率εrが33〜43であり、Q値が高く、気温差の激しい場所においても共振周波数の変化が小さいことから、長期間にわたって安定して良好な性能を維持することができる。
【0027】
次に、本実施形態の誘電体セラミックスの製造方法について説明する。
【0028】
まず、出発原料として、高純度の酸化サマリウム(Sm),炭酸マグネシウム(MgCO),炭酸カルシウム(CaCO),酸化チタン(TiO),および酸化アルミニウム(Al)の各粉末を準備する。そして、酸化サマリウム(Sm),炭酸マグネシウム(MgCO),酸化チタン(TiO)および酸化アルミニウム(Al)を所望の割合となるように秤量して混合し、混合粉末とする。また、炭酸カルシウム(CaCO)および酸化チタン(TiO)を所望の割合となるように秤量して混合し、混合粉末とする。次に、これらの混合粉末をそれぞれ別のボールミル内に投入し、ボールミル内に純水を加え、平均粒径が0.5〜2.0μm以下となるまで1〜100時間、
ジルコニアボール等を使用したボールミルにより湿式混合および粉砕を行うことにより、それぞれ2種類の混合物を得る。
【0029】
次に、それぞれ2種類の混合物を乾燥後、1100〜1300℃でそれぞれ1〜10時間仮焼し、湿式粉砕によりそれぞれ0.5〜2μmの平均粒径となるように、ボールミルを使用して粉
砕し、2種類の仮焼原料を得る。
【0030】
次に、2種類の仮焼原料を混合し、純水を加えて1〜100時間、ジルコニアボール等を
使用したボールミルにより湿式混合を行なって、さらに1〜10質量%のバインダーを加えてから所定時間混合した後、スプレードライヤーで噴霧造粒して2次原料を得る。
【0031】
その後、2次原料を金型プレス成形法等により成形して成形体を得る。そして、得られた成形体を大気中1500℃〜1700℃で1〜10時間保持して焼成し焼成体を得る。より好ましくは1550〜1650℃で焼成するのが良い。また、必要に応じて、得られた焼成体を酸素5〜30体積%以上含むガス中において、温度1500〜1700℃、圧力30〜300MPaで、1分〜100時間熱処理する。より好ましくは、温度1550〜1650℃,圧力1000〜2500気圧で20分〜3時
間熱処理するのが良い。
【0032】
そして、上記製造方法により作製された本実施形態の誘電体セラミックスは共振器のフィルタとして用いることができる。また、本実施形態の誘電体セラミックスは、共振器以外に、MIC(Monolithic IC)用誘電体基板,誘電体導波路または積層型セラミックコンデンサに使用することができる。
【実施例1】
【0033】
組成式をαSm・βMgO・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したときのモル比α,β,γおよびδの値とアルミニウムの添加量を種々変更して試料を作製し、比誘電率εr,Q値および共振周波数の温度係数τfの測定を行なった。製造方法および特性測定方法の詳細を以下に説明する。
【0034】
出発原料として、純度が99.5%以上の酸化サマリウム(Sm),炭酸マグネシウム(MgCO),炭酸カルシウム(CaCO),酸化チタン(TiO)および酸化アルミニウム(Al)を準備した。
【0035】
次に、それぞれの原料を用いて表1に示す割合(モル%)となるように秤量した。なお、酸化アルミニウム(Al)については、組成式αSm・βMgO・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)の成分100質量%に対する添加量である。そして
、酸化サマリウム(Sm),炭酸マグネシウム(MgCO),酸化チタン(TiO)および酸化アルミニウム(Al)を混合したものと、並びに炭酸カルシウム(CaCO)および酸化チタン(TiO)を混合したものとを、それぞれ別のボールミル内に投入し、ボールミル内に純水を加えた。その後、平均粒径が0.5〜2μmの範囲
内となるまで、ジルコニアボールを使用したボールミルにより湿式混合および粉砕し、それぞれ2種類の混合物を得た。
【0036】
次に、それぞれ2種類の混合物を乾燥後、1200℃で仮焼し、湿式粉砕によりそれぞれ0.5〜2μmの平均粒径となるように、ボールミルを使用して粉砕し、2種類の仮焼原料を
得た。
【0037】
次に、2種類の仮焼原料を混合し、純水を加えて1〜100時間、ジルコニアボールを使
用したボールミルにより湿式混合を行なって、さらに1〜10質量%のバインダーを加えてから所定時間混合した後、スプレードライヤーで噴霧造粒して2次原料を得た。そして、この2次原料を金型プレス成形法によりφ20mm,高さが15mmの円柱体の成形体を得た。
【0038】
次に、円柱体の成形体を大気中1500℃〜1700℃で10時間保持して焼成し、φ16mm,高さが12mmの焼結体を得た。そして、焼結体の上下面と側面の一部に研磨加工を施し、アセトン中で超音波洗浄を行なったものを試料とした。なお、試料毎に以上の工程を経て、試料No.1〜33の誘電体セラミックスを得た。
【0039】
次に、これら試料No.1〜33について、誘電特性を測定した。誘電特性は円柱共振器法(国際規格IEC61338−1−3(1999))により測定周波数を3.5〜4.5GHzで比誘電
率εrおよびQ値を測定した。Q値は、マイクロ波誘電体において一般的に成立する(Q値)×(測定周波数f)=一定の関係から、1GHzでのQ値に換算した。また、−40〜85℃の温度範囲における共振周波数を測定し、20℃での共振周波数を基準にして20〜85℃,−40〜20℃の共振周波数の温度係数τfをそれぞれ算出した。
【0040】
結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から、モル比α,β,γ,δが、0.162<α<0.386,0.049<β<0.113,0.206<
γ<0.357,0.340<δ<0.417、かつα+β+γ+δ=1を満足しない、またはアルミニ
ウムを酸化物換算で6質量%を超えて含むもしくは含まない(0質量%)試料No.1,6,7,12,13,18,19,24,25,33については、比誘電率εrが33〜43の範囲内でなかったり、Q値が30000未満であったり、20〜85℃および−40〜20℃の少なくともいずれか
の共振周波数の温度係数τfの絶対値が10ppm/℃を超えたり、20〜85℃と−40〜20℃の共振周波数の温度係数τfの差が2ppm/℃を超えていた。
【0043】
これに対し、モル比α,β,γ,δが、0.162<α<0.386,0.049<β<0.113,0.206
<γ<0.357,0.340<δ<0.417、かつα+β+γ+δ=1を満足し、かつアルミニウム
を酸化物換算で6質量%以下(0質量%を除く)含む試料No.2〜5,8〜11,14〜17,20〜23および26〜32は、比誘電率εrが33〜43の範囲内であり、Q値が30000以上であ
り、25〜85℃および−40〜25℃のそれぞれの温度範囲内での共振周波数の温度係数τfの絶対値が10ppm/℃以下であり、20〜85℃と−40〜20℃の共振周波数の温度係数τfの差が2ppm/℃以下であった。
【0044】
以上の結果、モル比α,β,γ,δが、0.162<α<0.386,0.049<β<0.113,0.206
<γ<0.357,0.340<δ<0.417、かつα+β+γ+δ=1を満足し、かつアルミニウム
を酸化物換算で6質量%以下(0質量%を除く)含むことにより、33〜43の比誘電率εrにおいて、Q値が30000以上と高く、気温差の激しい場所においても共振周波数の変化が
小さいことから、長期間にわたって安定して良好な性能を示す誘電体セラミックスとできることがわかった。
【実施例2】
【0045】
次に、表1の試料No.10とα,β,γ,δが同様の組成範囲のものに、マンガンを酸化物換算で表2に示す添加量で添加した試料を数種類作製し、その誘電特性を確認する試験を実施した。
【0046】
試料の製造方法については、組成式の成分100質量%に対して、純度99.5%以上の炭酸
マンガン(MnCO)を所定量添加する以外は実施例1と同様の製造方法を用いた。また、各誘電特性の測定方法についても実施例1と同様の測定方法を用いた。
【0047】
結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含む試料については、試料No.10に対し、Q値が高くなるとともに、25〜85℃および−40〜25℃のそれぞれの温度範囲内での共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さくなっており、特性の向上が見られた。
【0050】
以上の結果、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むことにより、33〜43の比誘電率εrにおいて、さらにQ値を高めることができるとともに、広範囲な温度域において、共振周波数の変化を小さくすることができることがわかった。
【0051】
また、これらの実施例1,2の結果から、本実施形態の誘電体セラミックスは、Q値が30000以上と高く、気温差の激しい場所においても共振周波数の変化が小さいので、共振
器のフィルタとして長期間にわたって安定して用いることができることがわかった。
【符号の説明】
【0052】
1:共振器
2:金属ケース
3:入力端子
4:出力端子
5:セラミック体
6:載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式をαSm・βMgO・γCaO・δTiO(ただし、3≦x≦4)と表したときに、モル比α,β,γ,δが下記式を満足し、
0.162<α<0.386
0.049<β<0.113
0.206<γ<0.357
0.340<δ<0.417
α+β+γ+δ=1
前記組成式の成分100質量%に対してアルミニウムを6質量%以下(0質量%を除く)含むことを特徴とする誘電体セラミックス。
【請求項2】
前記組成式の成分100質量%に対して、マンガンを酸化物換算で3質量%以下(0質量%を除く)含むことを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミックス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘電体セラミックスをフィルタとして用いたことを特徴とする共振器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−30996(P2012−30996A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170746(P2010−170746)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】