説明

誘電体フィルタならびにそれを用いたアンテナ共用器および通信装置

【課題】 小型の電圧制御型周波数可変の誘電体フィルタ、アンテナ共用器および通信装置を提供する。
【解決手段】 誘電体ブロック10の内部に2つの共振体61,62が形成されており、誘電体ブロック10の表面に、外部導体11と、共振体61,62と接続されている接地用の外部導体12と、入出力用電極21,22と、制御用電極31,32,33と、共振体61,62に接続された電極41,42と、グランド電極51,52とが形成されている。さらに、誘電体ブロック10の表面に形成された電極間に、入出力用コンデンサC1,C2と、共振器61,62同士を結合させかつ減衰極をシフトさせるための制御用コンデンサT3と、通過帯域を可変させるための制御用コンデンサT1,T2と、制御電圧である直流電圧を遮断するための遮断用コンデンサC3,C4,C5とを設ける。小型の周波数可変帯域通過フィルタを実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機器等に用いられ、特にマイクロ波帯等(例えば数100MHzから数GHz)で使用される誘電体フィルタならびにそれを用いたアンテナ共用器および通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、同軸型誘電体共振器に結合用コンデンサ等を介してバラクタダイオード,PINダイオードもしくは可変容量コンデンサ等のリアクタンス素子を接続し、このリアクタンス素子を電圧制御することにより共振周波数を可変させる誘電体フィルタとして、帯域通過フィルタや帯域阻止フィルタが知られている。このような、電圧制御可能なリアクタンス素子を電圧制御することにより共振周波数を可変させる誘電体フィルタからなる帯域通過フィルタに関しては、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
また、誘電体ブロック上もしくは回路基板上に少なくとも1つの浮き電極を形成し、この浮き電極に電圧制御可能なリアクタンス素子を実装している誘電体フィルタからなる周波数可変誘電体フィルタに関しては、例えば特許文献2に開示されている。
【0004】
図4は従来の誘電体フィルタによる電圧制御型周波数可変帯域通過フィルタの構成例を示す斜視図であり、図5は図4に示した従来の誘電体フィルタの等価回路図である。この例の誘電体フィルタは、共振体を2段結合させた構造であり、共振体61,62と、入出力用コンデンサC1,C2と、共振体61,62同士を結合させかつ通過帯域外の減衰極をシフトさせるための可変容量コンデンサT3と、通過帯域を変化させるための可変容量コンデンサT1,T2と、これら可変容量コンデンサT1,T2,T3加える直流電圧を遮断するための遮断用コンデンサC3,C4,C5と、これらの部品を実装するための回路基板70とより構成されている。また、101,102は入出力端子であり、103,104,105は可変容量コンデンサT1,T2,T3に容量制御用電圧を印加するための制御用端子であり、71,72,73,74,75はグランドパターンであり、81,82は線材である。これらの各コンデンサや端子やパターンは回路基板70上に配置されている。
【0005】
このような誘電体フィルタは、直流電圧を電圧の大きさを変えて印加した場合に、遮断用コンデンサC3,C4,C5があることにより直流電圧を制御用の可変容量コンデンサT1,T2,T3に加えることができ、制御用の可変容量コンデンサT1,T2,T3の容量を変化させることができるので、誘電体フィルタの通過帯域および阻止帯域の周波数を変化させることができる。
【特許文献1】特開2003−163504号公報
【特許文献2】特開2001−274604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4に示した従来の誘電体フィルタは、入出力用コンデンサC1,C2や結合用コンデンサC3〜C5や可変容量コンデンサT1〜T3を回路基板70上に配置しているため、設計の自由度が比較的高く、様々な要求特性を満足し得る周波数可変帯域通過フィルタ回路を構成することができる。
【0007】
しかしながら、この従来の誘電体フィルタは、入出力用コンデンサC1,C2や結合用コンデンサC3〜C5や可変容量コンデンサT1〜T3等のリアクタンス素子を回路基板70上に配置しているため、小型化が困難であるという問題点がある。
【0008】
また、特許文献2に記載されている構造の誘電体フィルタでは、浮き電極と共振体の内導体との間隙で結合用コンデンサを形成しているため、大きな容量が得られにくく、かつ設計値通りの容量を持つ電極形状と間隙を作製することが困難であり、実用的でないという問題点がある。また、電圧制御可能なリアクタンス素子として可変容量コンデンサを使用する場合は、周波数可変量を大きくするためには大きな容量を持った結合用コンデンサが必要となるので、前述のような構造では実現が困難であるという問題点がある。
【0009】
誘電体フィルタは、高周波帯の無線通信装置等に多く用いられている。中でも携帯電話に代表される移動体通信装置は、デジタルカメラやテレビ受像機としての機能、さらには家電製品をリモートコントロールする機能をも備えた多機能機器へと進化してきている。このような流れの中で移動体通信装置に使用されるデバイスは点数が増加する傾向にある。また、別の流れとしては、1つの移動体通信装置で複数の無線周波数帯をカバーして世界中で使えるようにするとの要求がある。しかし、市場の要求より移動体通信装置のサイズを大きくすることはできないため、移動体通信装置に使用されるデバイスにはさらなる小型化・低背化が求められている。
【0010】
これに対し、移動体通信装置の構成部品として用いられる誘電体フィルタを小型化するためには、共振体の径を小さくすることが考えられるが、共振体の径を小さくすればするほど損失が増大してしまい、誘電体フィルタの特性も劣化してしまうという問題点がある。
【0011】
本発明は以上のような従来の技術における問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、小型でかつ容量の大きな結合用コンデンサ素子を用いることにより周波数可変量を大きくした電圧制御型周波数可変の誘電体フィルタを提供することにある。また本発明の他の目的は、この誘電体フィルタを用いたアンテナ共用器およびこれら誘電体フィルタおよびアンテナ共用器の少なくとも1つを備えた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の誘電体フィルタは、誘電体ブロックの内部に、この誘電体ブロックを貫通する少なくとも1つの貫通孔の内側に内部導体を設けてなる共振体が形成され、この共振体の一端が接地されているともに、前記誘電体ブロックの表面または前記誘電体ブロックに取着された誘電体基板の表面に、前記共振体の他端に接続された入出力用リアクタンス素子と、前記共振体の前記他端に直流電圧を遮断する遮断用コンデンサを介して電気的に接続された、直流電圧の印加により容量が可変な制御用コンデンサとが設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の誘電体フィルタは、上記構成において、前記入出力用リアクタンス素子および前記遮断用コンデンサの少なくとも一方が、前記誘電体ブロックまたは前記誘電体基板の表面に形成された、ギャップを挟んで対向する導体層によるギャップ型コンデンサであることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のアンテナ共用器は、上記各構成のいずれかの本発明の誘電体フィルタを送信側フィルタおよび受信側フィルタの少なくとも一方に備えたことを特徴とするものである。
【0015】
そして、本発明の通信装置は、上記各構成のいずれかの本発明の誘電体フィルタを用いたフィルタ回路および上記構成の本発明のアンテナ共用器のうち少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の誘電体フィルタによれば、誘電体ブロックの内部に、この誘電体ブロックを貫通する少なくとも1つの貫通孔の内側に内部導体を設けてなる共振体が形成され、この共振体の一端が接地されているともに、誘電体ブロックの表面または誘電体ブロックに取着された誘電体基板の表面に、共振体の他端に接続された入出力用リアクタンス素子と、共振体の他端に直流電圧を遮断する遮断用コンデンサを介して電気的に接続された、直流電圧の印加により容量が可変な制御用コンデンサとが設けられていることから、直流電圧を電圧の大きさを変えて印加した場合に、遮断用コンデンサがあることにより直流電圧を制御用コンデンサに加えることができ、制御用コンデンサの容量を変化させることができるので、誘電体フィルタの通過帯域および阻止帯域の周波数を変化させることができる。
【0017】
また、誘電体ブロックを貫通して設けられた共振体の他端に電気的に接続された入出力用リアクタンス素子と、その他端に接続された遮断用コンデンサと、その他端に遮断用コンデンサを介して接続された制御用コンデンサとが誘電体ブロックの表面に配置されているときには、従来の誘電体フィルタではこれらの素子を配置するために必要であった誘電体ブロックとは別体の回路基板上の面積が削減できるので、電圧制御型周波数可変帯域通過フィルタを構成する誘電体フィルタを小型化することが可能となる。
【0018】
また、共振体の他端には、信号入出力のための入出力用電極が入出力用リアクタンス素子を介して結合され、さらに直流電圧を印加するための制御用電極が接続される制御用コンデンサが直流電圧を遮断する遮断用コンデンサを介して結合されているので、共振体の他端と入出力用電極および制御用電極との間の結合度をそれら入出力用リアクタンス素子および遮断用コンデンサの素子値を調節することによって容易に調整することができる。
【0019】
さらに、共振体の他端に形成された電極面積を大きくすることにより、共振体の長さを短くすることができ、さらなる小型化を図ることができる。
【0020】
また、制御用電圧としての直流電圧を印加するための制御用電極が誘電体ブロックからこれに取着された誘電体基板に跨って形成され、制御用コンデンサが誘電体基板上に設けられているときには、制御用コンデンサを搭載する制御用電極とグランド電極との間の間隙を形成する誘電体の比誘電率が異なり、誘電体ブロックの比誘電率より誘電体基板の比誘電率が小さいので、誘電体基板上に設けられた制御用電極とグランド電極との間の不要な浮遊容量の発生を抑えることができ、制御用コンデンサの容量変化の感度を上げることができるので、周波数可変量の大きい誘電体フィルタとすることができる。
【0021】
また、本発明の誘電体フィルタによれば、入出力用リアクタンス素子および遮断用コンデンサの少なくとも一方が、誘電体ブロックまたは誘電体基板の表面に形成された、ギャップを挟んで対向する導体層によるギャップ型コンデンサであるときには、搭載するコンデンサの数を少なくすることができるので、さらなる小型化を図ることができるとともに、製造コストを抑えることができる。
【0022】
また、本発明のアンテナ共用器によれば、上記各構成のいずれかの本発明の誘電体フィルタを送信側フィルタおよび受信側フィルタの少なくとも一方に備えたことから、送信側フィルタまたは受信側フィルタ、もしくは送信側フィルタおよび受信側フィルタの両方のフィルタの通過帯域および阻止帯域の周波数を変化させることができるので、複数の無線周波数帯を1つのアンテナ共用器でカバーしたり、送信帯域幅および受信帯域幅が広く帯域間の間隔が狭い場合にも、帯域幅の狭い急峻なフィルタで周波数を変化することによって対応したりすることができる。
【0023】
また、本発明の通信装置は、上記各構成のいずれかの本発明の誘電体フィルタを用いたフィルタ回路および上記構成の本発明のアンテナ共用器のうち少なくとも一方を備えたことから、本発明の誘電体フィルタを備えたときには、1つのフィルタ回路で複数の無線周波数帯をカバーすることができるので、部品の点数を少なくすることができ、小型で、かつ通信装置に使用する回路基板の設計の自由度を大きくすることができる。また、本発明のアンテナ共用器を備えたときには、1つのアンテナ共用器で複数の無線周波数帯をカバーすることができるので、部品の点数を少なくすることができ、小型で、かつ通信装置に使用する回路基板の設計の自由度を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の周波数可変の誘電体フィルタならびにそれを用いたアンテナ共用器および通信装置の実施の形態の例について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態の各例を示す図面において、同一部材および同一部分には同じ符号を付す。
【0025】
図1は本発明の誘電体フィルタの実施の形態の一例を示す分解斜視図である。図1に示すように、この例の誘電体フィルタは周波数可変帯域通過フィルタであり、略直方体形状を有する単一の誘電体ブロック10を備えている。この誘電体ブロック10には、対向する側面間を貫通する2つの貫通孔が形成され、その内側に内部導体を設けてなる共振体61,62が形成されている。共振体61,62は、それぞれ断面が円形であり、その内壁面には内部導体が形成されている。なお、この内部導体は貫通孔の内壁面に被着させて設けられていればよいが、貫通孔の内部を充填するように設けられていてもよい。さらに、これら共振体61,62は、誘電体ブロック10の中で平行に配置されており、誘電体ブロック10を介した誘導磁界による誘導結合と、可変容量コンデンサC3および遮断用コンデンサT3を介した容量結合とにより電磁界結合している。このような電磁界結合をすることによって、通過帯域の近傍に減衰極を生じさせることができ、急峻なフィルタ特性を持つものとすることができる。さらに、可変容量コンデンサC3の容量を変化させることにより、電磁界結合の大きさを変えて減衰極の位置をコントロールすることができるので、減衰極を阻止帯域に配置すると、阻止帯域も変化させることができる。
【0026】
誘電体ブロック10の表面には、共振体61,62に平行な側面に形成された接地用の外部導体11と、共振体61,62の一端側の側面に形成され、共振体61,62に接続されている同じく接地用の外部導体12と、共振体61,62の他端側の側面に形成され、共振体61,62の他端にそれぞれ電気的に接続される入出力用電極21,22と、同じく共振体61,62の他端側の側面に形成され、共振体61,62の他端にそれぞれ電気的に接続される制御用電極31,32,33と、共振体61,62の他端にそれぞれ接続された電極41,42と、入出力用電極21,22および制御用電極31,32,33の近傍に配置されたグランド電極51,52とが形成されている。
【0027】
誘電体ブロック10は、比誘電率が例えば39であるとすると、800MHz帯で使用する場合には例えば4×8×4.5mmの大きさである。また以上の内部導体、外部導体11,12、入出力用電極21,22、制御用電極31,32,33および電極41,42は、例えば銀で形成されている。
【0028】
外部導体11および接地用の外部導体12は、銀もしくは銅で形成されており、これらをグランド電位とすることによって、共振体61,62を、一端がショートされ、他端がオープンの1/4波長の共振器とすることができる。なおこの場合、共振体61,62の一端が接地されていれば、外部導体11および12はどのような形状であってもよい。
【0029】
また、入出力用電極21,22と、制御用電極31,32,33と、グランド電極51,52とは、誘電体ブロック10の側面から底面13に跨って形成されている。このように各電極が誘電体ブロックの共振体61,62の他端側の側面から底面13に跨がって形成されていることにより、回路基板に誘電体ブロック10の底面13側の各電極を半田付けするだけで、この誘電体フィルタを回路基板に実装できるものとなる。この底面13は誘電体フィルタの実装面であり、誘電体フィルタは誘電体ブロック10の底面13を通信装置の内部のプリント基板等に接着されて実装される。
【0030】
さらに、誘電体ブロック10の側面に形成された電極間に、入出力用リアクタンス素子としての入出力用コンデンサC1,C2と、共振器61,62同士を結合させかつ減衰極をシフトさせるための制御用コンデンサとしての可変容量コンデンサT3と、通過帯域を変化させるための制御用コンデンサとしての可変容量コンデンサT1,T2と、共振体61,62と可変容量コンデンサT1,T2,T3とを、制御電圧である直流電圧を遮断しつつ結合させるための遮断用コンデンサC3,C4,C5とを実装して設けている。
【0031】
入出力用コンデンサC1,C2は共振体61,62を外部の入出力回路と結合させるものである。また、可変容量コンデンサT3は、制御電圧により容量を変化させることによって、共振体61,62の電磁界結合の大きさを変化させ減衰極の位置を変化させるものである。また、可変容量コンデンサT1,T2は、制御電圧により容量を変化させることによって、通過帯域を変化させるものである。また、遮断用コンデンサC3,C4,C5は、制御電圧である直流電圧が短絡されるのを防ぎ、可変容量コンデンサT1,T2,T3に直流電圧を印加するためのものである。
【0032】
また、直流電圧の印加により容量の制御が可能な制御用コンデンサとしては、電圧制御可能なリアクタンス素子として、可変容量コンデンサ,バラクタダイオード,PINダイオード,あるいは電界効果トランジスタ等を用いることができる。
【0033】
本発明の誘電体フィルタでは、このように各コンデンサを誘電体ブロック10の側面に設けることにより、従来の誘電体フィルタでは回路基板上に実装していたこれらコンデンサのための面積を削減でき、誘電体フィルタを小型化することができる。
【0034】
さらに、誘電体ブロック10の共振体61,62の他端側の側面に電極41,42を形成してそれぞれ共振体61,62の他端に接続し、外部導体11との間にギャップが形成されることにより、電極41,42と外部導体11との間に容量が装荷されているので、共振器の電気エネルギーが増大し、共振器の共振周波数が所望の周波数から低くなる。そこで、共振体61,62の長さを短くして所望の共振周波数を得る必要があるが、これによって共振体61,62の長さを短くすることができ、誘電体フィルタをさらに小型化できる利点がある。
【0035】
そして、周波数可変帯域通過フィルタとして動作させるには、制御電圧である直流電圧を印加することにより、可変容量コンデンサT1,T2,T3の容量を例えば1pFから0.4pFまで変化させると、通過帯域および減衰極の周波数は47MHzから57MHz程へと周波数の高い方向へ移動する。
【0036】
以上の例では本発明の誘電体フィルタによって周波数可変帯域通過フィルタを構成した例を示したが、可変容量コンデンサを用いた周波数可変のフィルタは、誘電体フィルタだけでなく、SAW(Surface Acoustic Wave:弾性表面波)やFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator:薄膜バルク音響波共振子)等の圧電現象を用いたフィルタについても同じ原理を用いて周波数をシフトさせることができる。すなわち、共振現象を用いるフィルタにおいては、フィルタを構成する容量を変化させることにより、共振周波数を変化させることができる。
【0037】
なお、図2に本発明の誘電体フィルタの実施の形態の他の例を図1と同様の分解斜視図で示すように、入出力用コンデンサC1,C2をそれぞれ誘電体ブロック10の表面に形成された導体層によるギャップ型コンデンサ、この例では誘電体ブロック10の側面に形成された電極41,42と入出力用電極21,22とをギャップを挟んで対向させたギャップ型コンデンサにより形成してもよい。このように、チップコンデンサ等に代えて導体層をギャップを挟んで結合させたギャップ型コンデンサを用いることにより、入出力用コンデンサC1,C2のためのコンデンサ素子が不要となるので、誘電体フィルタをさらに小型化することができるとともにコストを抑えることができる。このようなギャップ型コンデンサは、誘電体ブロック10に取着した誘電体基板(図示せず)の表面に同様にギャップを挟んで対向する導体層によって形成してもよい。また、遮断用コンデンサC3,C4,C5を同様に誘電体ブロック10または誘電体基板の表面に形成したギャップ型コンデンサとしてもよい。
【0038】
次に、図3は本発明の誘電体フィルタの実施の形態のさらに他の例を示す分解斜視図である。図3に示すように、この例の周波数可変帯域通過フィルタとしての誘電体フィルタは、略直方体形状を有する単一の誘電体ブロック10と、誘電体ブロック10の底面13に取着された誘電体基板70とを備えている。この誘電体ブロック10には、対向する側面間を貫通する2つの貫通孔が形成され、その内側に内部導体を設けてなる共振体61,62が形成されている。共振体61,62は、それぞれ断面が円形であり、その内壁面には内部導体が形成されている。なお、この内部導体も貫通孔の内部を充填するように設けられていてもよい。さらに、これら共振体61,62は、誘電体ブロック10内で平行に配置されており、誘電体ブロック10を介した誘導磁界による誘導結合と、可変容量コンデンサC3および遮断用コンデンサT3を介した容量結合とにより電磁界結合しており、このような電磁界結合をすることによって通過帯域の近傍に減衰極を生じさせることができ、急峻なフィルタ特性を持つものとすることができる。さらに、可変容量コンデンサC3の容量を変化させることにより、電磁界結合の大きさを変えて減衰極の位置をコントロールすることができるので、減衰極を阻止帯域に配置すると、阻止帯域も変化させることができる。
【0039】
誘電体ブロック10の表面には、共振体61,62に平行な側面に形成された接地用の外部導体11と、共振体61,62の一端側の側面に形成され、共振体61,62に接続されている同じく接地用の外部導体12と、共振体61,62の他端側の側面に形成され、共振体61,62の他端にそれぞれ電気的に接続される入出力用電極21,22と、同じく共振体61,62の他端側の側面に形成され、共振体61,62の他端にそれぞれ電気的に接続される制御用電極31,32,33と、共振体61,62の他端にそれぞれ接続された電極41,42とが形成されている。これらのうち入出力用電極21,22と、制御用電極31,32,33と、共振体61,62に接続された電極41,42とは、誘電体ブロック10の側面から底面13に跨って形成されている。
【0040】
またこの例では、誘電体ブロック10の底面13に誘電体基板70が取着されてあり、誘電体基板70の表面には、入出力用電極21,22にそれぞれ接続された入出力端子101,102と、制御用電極31,32,33にそれぞれ接続された制御用端子103,104,105と、誘電体ブロック10の側面に形成された接地用の外部導体11に接続されたグランド導体71,72,73とが形成されている。
【0041】
さらに、誘電体ブロック10の側面に形成された電極間に、入出力用コンデンサC1,C2と、共振器61,62同士を結合させかつ減衰極をシフトさせるための制御用コンデンサとしての可変容量コンデンサT3とを実装して設けている。また、通過帯域を変化させるための制御用コンデンサとしての可変容量コンデンサT1,T2を誘電体基板70の表面の端子間に実装して設けている。さらに、誘電体ブロック10の側面には、共振体61,62と可変容量コンデンサT1,T2,T3とを、制御電圧である直流電圧を遮断しつつ結合させるための遮断用コンデンサC3,C4,C5を実装して設けている。
【0042】
また、この例の本発明の誘電体フィルタは、制御用の直流電圧を印加するための制御用電極31,32,33が誘電体ブロック10の側面から誘電体基板70上に跨って形成されており、直流電圧の印加により容量の制御が可能な制御用コンデンサT1,T2が誘電体基板70上に実装されていることを特徴とする。このように、制御用コンデンサT1,T2を誘電体ブロック10上の電極間ではなく、比誘電率の小さい誘電体基板70上の電極間に配置することにより、制御用コンデンサT1,T2を搭載する制御用電極103,105とグランド電極72,73との間の間隙を形成する誘電体の比誘電率が誘電体ブロックの比誘電率より小さいので、誘電体基板70上に設けられた制御用電極103,105とグランド電極72,73との間の不要な浮遊容量の発生を抑えることができる。特に、制御用コンデンサT1,T2に生じる浮遊容量は、制御用コンデンサT1,T2の容量に合算されることになるので、浮遊容量が大きいと制御用コンデンサT1,T2の容量変化率が小さくなることとなり、周波数可変帯域通過フィルタにおける周波数可変量を悪くすることとなる。これに対し、通過帯域を可変させるための可変容量コンデンサT1,T2が例えば比誘電率が約4.7のガラスエポキシ樹脂から成る誘電体基板70上に実装されており、一方、誘電体ブロック10を例えばその比誘電率が約39であるものとすることによって、可変容量コンデンサT1,T2を比誘電率の低い誘電体基板70上に実装することにより不要な浮遊容量の発生を抑えることができ、可変容量コンデンサT1,T2の容量変化の感度を高くすることができるので、通過帯域特性に対する周波数可変量を大きくすることができる。
【0043】
以上のような構成の本発明の誘電体フィルタによれば、可変容量コンデンサT1,T2のみを誘電体基板70上に配置するので、小型でかつ周波数可変量を大きくすることができる周波数可変帯域通過フィルタとなる。
【0044】
そして、以上のような本発明の誘電体フィルタを送信側フィルタおよび受信側フィルタの少なくとも一方に備えることによって、本発明のアンテナ共用器が構成される。図6は本発明のアンテナ共用器の実施の形態の例を示す電気回路ブロック図である。図6に示す例における本発明のアンテナ共用器は、送信端子Txとアンテナ端子ANTとの間に送信フィルタ121が電気的に接続され、受信端子Rxとアンテナ端子ANTとの間に受信フィルタ122が電気的に接続されている。アンテナ共用器はデュプレクサとも言われ、CDMA方式等の同時送受信の通信方式を採用する通信機器において、アンテナと送信回路および受信回路との間に配置されて、アンテナから送受信される送信信号と受信信号とを分離するためのものである。
【0045】
この本発明のアンテナ共用器は、送信フィルタ121および受信フィルタ122の少なくとも一方に、帯域通過フィルタとして構成された本発明の誘電体フィルタのいずれかを備えている。送信フィルタ121あるいは受信フィルタ122として、例えば図1〜図3に示した例の本発明の誘電体フィルタを使用することができる。それらの誘電体フィルタをアンテナ共用器を構成するモジュール基板に実装することにより、1つのアンテナ共用器で複数の無線周波数帯をカバーすることができるので、部品点数が減ることによりモジュール基板の設計の自由度が大きく、かつ小型化を図ることができるアンテナ共用器を実現することができる。
【0046】
そして、本発明の通信装置は、以上のような本発明の誘電体フィルタを用いたフィルタ回路および本発明のアンテナ共用器のうち少なくとも一方を備えることを特徴とするものである。図7は本発明の通信装置の実施の形態の例を示す電気回路ブロック図であり、ここでは携帯電話を例にとって説明する。
【0047】
図7は本発明の通信装置としての携帯電話のRF部分の電気回路ブロック図である。図7に示す本発明の通信装置は、アンテナ素子131およびアンテナ素子131に接続されたアンテナ共用器132と、アンテナ共用器132に接続される送信用回路および受信用回路とから構成されている。送信用回路は、ディバイダ139により分割された電圧制御発振装置(VCO)140のローカル信号と送信信号とをミキシングするミキサ141と、必要な信号のみを通過させる送信側段間バンドパス(帯域通過)フィルタ138と、送信信号を増幅させるパワーアンプ137や受信信号を送信側に通過させないためのアイソレータ136等とを備えている。一方、受信用回路は、受信信号を増幅させるためのローノイズアンプ133と、受信信号を濾波する受信側段間バンドパスフィルタ134と、受信信号およびローカル信号をミキシングするための受信側ミキサ135等とを備えている。
【0048】
ここにアンテナ共用器132として、例えば前述の本発明のアンテナ共用器を使用することによって、複数の無線周波数帯域を1つのアンテナ共用器でカバーすることができ、部品の実装面積を小さくすることができるので、RF部分の誘電体基板の設計の自由度を向上させることができるとともに、小型の携帯電話を実現することができる。特に、本発明のアンテナ共用器として周波数可変帯域通過フィルタを備えたものを用いることによって、例えばデュアルバンドやトリプルバンドをカバーする携帯電話において、1つのアンテナ共用器でこれらの周波数帯をカバーすることができるので、デュアルバンドやトリプルバンドの携帯電話において通常必要となるダイプレクサやトリプレクサを削減することができ、部品点数を少なくすることができ小型化できるものとなる。
【0049】
また、本発明の通信装置によれば、フィルタ回路例えば送信側段間バンドパスフィルタ138に前述のような本発明の誘電体フィルタを用いることによって、複数の無線周波数帯に対応できるようになるので、デュアルバンドやトリプルバンドの携帯電話において部品点数を少なくすることができ小型化できるものとなる。
【0050】
また、受信側段間バンドパスフィルタ134に本発明の誘電体フィルタを用いることによって、複数の無線周波数帯に対応できるようになるので、デュアルバンドやトリプルバンドの携帯電話において部品点数を少なくすることができ小型化できるものとなる。
【0051】
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、共振体はストリップライン状としてもよく、その場合は、誘電体共振器の高さを低くすることができるので、小型化および低背化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の誘電体フィルタの実施の形態の一例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の誘電体フィルタの実施の形態の他の例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の誘電体フィルタの実施の形態のさらに他の例を示す分解斜視図である。
【図4】従来の誘電体フィルタによる電圧制御型周波数可変帯域通過フィルタの構成例を示す斜視図である。
【図5】図4に示した従来の誘電体フィルタおよび本発明の誘電体フィルタの等価回路図である。
【図6】本発明のアンテナ共用器の実施の形態の例を示す電気回路ブロック図である。
【図7】本発明の通信装置の実施の形態の例を示す電気回路ブロック図である。
【符号の説明】
【0053】
10・・・誘電体ブロック
11,12・・・外部導体
13・・・底面
21,22・・・入出力用電極
31,32,33・・・制御用電極
41,42・・・電極
51,52・・・グランド電極
61,62・・・共振体
70・・・誘電体基板
71,72,73・・・グランド導体
101,102・・・入出力端子
103,104,105・・・制御用端子
C1,C2・・・入出力用コンデンサ(入出力用リアクタンス素子)
C3,C4,C5・・・遮断用コンデンサ
T1,T2,T3・・・制御用コンデンサ(可変容量コンデンサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体ブロックの内部に、該誘電体ブロックを貫通する少なくとも1つの貫通孔の内側に内部導体を設けてなる共振体が形成され、該共振体の一端が接地されているとともに、前記誘電体ブロックの表面または前記誘電体ブロックに取着された誘電体基板の表面に、前記共振体の他端に電気的に接続された入出力用リアクタンス素子と、前記共振体の前記他端に直流電圧を遮断する遮断用コンデンサを介して電気的に接続された、直流電圧の印加により容量が可変な制御用コンデンサとが設けられていることを特徴とする誘電体フィルタ。
【請求項2】
前記入出力用リアクタンス素子および前記遮断用コンデンサの少なくとも一方が、前記誘電体ブロックまたは前記誘電体基板の表面に形成された、ギャップを挟んで対向する導体層によるギャップ型コンデンサであることを特徴とする請求項1記載の誘電体フィルタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の誘電体フィルタを送信側フィルタおよび受信側フィルタの少なくとも一方に備えたことを特徴とするアンテナ共用器。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の誘電体フィルタを用いたフィルタ回路および請求項3記載のアンテナ共用器のうち少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−253836(P2006−253836A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64378(P2005−64378)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】