説明

誘電体上のアクティブマトリクス液滴駆動およびその駆動方法

【課題】アクティブマトリクス上で液滴を駆動する装置及び方法を提供する。
【解決手段】マトリクス上にある1つ以上の液滴4を操作するための、複数の配列素子から構成されるアクティブマトリクス液滴駆動装置であって、各配列素子は対応する配列素子回路を備え、配列素子回路は上面基板電極28および駆動電極38A及び38Bを含んでおり、それらの間に液滴が配置され、所定の時間変化電圧波形VまたはVの逆論理である時間変化電圧波形Vのいずれか一方を前記駆動電極に選択的に印加することによって配列素子にデータを書き込むように構成され、かつ、前記Vと所定のオフセット電圧の和で表される時間変化電圧波形を上面基板電極に印加する回路を有する、アクティブマトリクス液滴駆動装置、及びこの装置を用いる液滴駆動方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクティブマトリクスの配列および素子に関する。特に、本発明はデジタル微小流体技術(digital microfluidics)に関し、より具体的には誘電体上のアクティブマトリクス液滴駆動(Electrowetting-On-Dielectric;AM−EWOD)に関する。誘電体上の液滴駆動(EWOD)は、配列の液滴を操作する公知技術である。アクティブマトリクスEWOD(AM−EWOD)とは、例えば薄膜トランジスタ(TFT)を使用することで、アクティブマトリクス配列内でEWODを実施することを指す。本発明は、さらに、このような装置を駆動する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体上の液滴駆動(EWOD)は、電場を印加することによって液滴を操作する、よく知られた技術である。そのため、上記技術はラボオンチップ(lab-on-a-chip)技術のためのデジタル微小流体の候補技術である。上記技術の基本原理の序論は、“Digital microfluidics: is a true lab-on-a-chip possible?”, R.B. Fair, Microfluid Nanofluid (2007)3:245-281に載っている。
【0003】
US6565727(Shenderov, issued May 20, 2003)には、配列を通って液滴を移動させるためのパッシブマトリクスEWOD装置が開示されている。
【0004】
US6911132(Pamula et al, issued June 28, 2005)には、液滴の位置および移動を2次元内で制御する2次元EWOD配列が開示されている。
【0005】
US6565727には、液滴の分離、結合、および異なる物質で構成された液滴の混合を含む、さらに他の液滴操作方法が開示されている。一般的に、典型的な液滴操作を実行するために必要な電圧は、比較的高い。従来技術(例えば、US7329545(Pamula et al., issued February 12, 2008))では、20−60Vの範囲の値が示されている。必要とされる値は、原理的に、絶縁体および疎水層を形成するために用いられる技術に基づいている。
【0006】
EWODの作動メカニズムの注意すべき特徴は、硬い面に対する液滴の接触角が作動電圧の2乗に依存していることである。すなわち、印加した電圧の向きは、第一義的には重要ではない。そのため、AC駆動方式またはDC駆動方式のどちらの方式でも、EWODを実施することが可能である。図1はAC駆動方式での典型的なタイミングシーケンスを示す。電圧Vは上面基板の電極に印加される。簡単のため、以下では、上記上面基板は接地されているとする。EW駆動電極が低に設定されている場合、該EW駆動電極にも電圧Vが印加される。EWOD駆動電極が高に設定されている場合、電圧VがEW駆動電極に印加される。Vは、高いレベルが+Vであり低いレベルが−Vである振幅2Vの矩形波形である。AC波形の周波数が、(液滴の伝導度によって決まる)固有の液滴反応周波数よりも低い場合、液滴駆動(electrowetting)電圧VEWは、VからVまでの電圧差(=V)の二乗平均平方根(rms)で与えられる。
【0007】
AC駆動方式によるEWODの実施にはいくつかの利点がある。その利点には、
・装置の耐用期間における滅損を減少させること
・絶縁体の信頼度を向上させること
・液滴のダイナミクスを改善させること
が含まれる。
【0008】
これらの理由から、EWODについて仕事をするほとんどのグループでは、典型的には10kHzかまたはそれ以上の駆動周波数でAC駆動方式を使用する。
【0009】
多くの現代の液晶(LC)ディスプレイでは、薄膜トランジスタが液晶層に掛かる電圧を一定に制御するアクティブマトリクス(AM)配列が使用される。
【0010】
LCディスプレイは、一般的に、DC電場の印加がLC材料に対して有害な効果を持っているため、液晶に掛かる電圧が交番(”反転”)することを必要とする。ほとんどのLC反転方式では、当該ディスプレイに書き込まれた情報を持つ各フレームについてLC印加電圧の向きを反転させるように動作させる。これは、典型的には50−60Hzの周波数である。
【0011】
“Ultra-Low Power System-LCD with Pixel Memory Circuit”, Matsuda et al., Proceedings of IDW '09, AMD1-2には、画素メモリ駆動方式のLCDが記載されている。画素メモリは、ディスプレイに書き込まれたデータが画素内のSRAMメモリセルによって保持されるという技術に関連する。上記ディスプレイは1ビットである、すなわち、黒または白のみを表示することができ、中間の灰色レベルは表示することができない。このような実施形態の効果は、ディスプレイに書き込まれた電圧の周期的な更新が必要なくなり、その結果、電力消費が減少することである。LC層に掛かる電圧を反転させるために、画素には追加の反転回路も含まれている。これにより、反転周波数をディスプレイのデータ更新速度よりも高くすることが可能になる。
【0012】
US7163612(J. Sterling et al.; issued Jan. 16, 2007)には、AMディスプレイ技術で使われる構成によく似た回路構成を用いることにより、TFTに基づく電子機器(TFT based electronics)を使用してEWOD配列に対する電圧パルスのアドレッシングを制御する方法が記載されている。
【0013】
このようなアプローチは”誘電体上のアクティブマトリクス液滴駆動(AM−EWOD)”と呼ばれることもある。EWOD配列を制御するためにTFT電子技術を使用することにはいくつかの効果がある。すなわち、
・AM−EWOD配列基板上に駆動回路を集積することができる。
・TFT電子技術はAM−EWODの応用として大変適している。上記電子技術は安価であるため、比較的大きな基板領域を比較的低いコストで生産することができる。
・標準的な製造方法で製造されたTFTは、標準的なCMOS製造方法で製造されたトランジスタよりずっと高い電圧で作動するように設計することができる。このことは、多くのEWOD技術が、20Vを超えるEWOD作動電圧の印加を必要とするため、重要である。
【0014】
US7163612(J. Sterling et al.; issued Jan. 16, 2007)の欠点は、AM−EWODのTFTバックプレーンを実現する回路の実施例が開示されていないことである。また、この特許は、上面基板上に接地面を使用することを指定している。このことは、TFTによって切替えられる電圧が、液滴駆動電圧に少なくとも等しくなければならないという欠点を持つ。
【0015】
しかしながら、いくつかの場合では、EWOD作動電圧がTFTの最大電圧の見積りを超える可能性がなお存在する。よく知られている通り、TFTを高電圧で作動させることで装置が滅損または故障する可能性がある。
【0016】
高い作動電圧の更なる欠点は、(寄生スイッチ容量の充電および放電によって)スイッチの作動による電力消費も大きくなる可能性があることである。この電力消費は電圧強度の2乗の大きさである。
【0017】
液滴の微小流体技術を実施するその他の技術として、誘電体泳動(dielectrophoresis)がある。誘電体泳動とは、変化する電場を掛けることによって誘電体に対して力が加わる現象である。“Integrated circuit/microfluidic chip to programmably trap and move cells and droplets with dielectrophoresis”,Thomas P Hunt et al, Lab Chip,2008,8, 81-87には、デジタル微小流体技術のための誘電体泳動配列を駆動する集積回路(IC)のバックプレーンが記載されている。この文献には、図2に示すように、配列素子に対するAC波形を駆動するための集積回路が記載されている。上記回路は、データを書き込み保存する標準的なSRAM記憶セル104、スイッチ回路106、および出力発振段108で構成される。スイッチ110および112の作動によって、AC信号
【0018】
【数1】

【0019】
(この例では5V、1MHzの矩形波)または相補的信号
【0020】
【数2】

【0021】
のどちらかが画素に書き込まれる。EWOD配列の場合とは異なり、誘電体泳動システムは上面基板を必要としない。さらに、EWODとは異なり、このような誘電体泳動システムは、比較的低い駆動電圧(典型的には5V)で作動することができる。この電圧は、ディスプレイに使用されるシリコンICおよびTFTの典型的な作動電圧と互換性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、基本的には、以下の特徴を備えるAC駆動方式を有するAM−EWODである。
・EW駆動電極に書き込まれたデータは、
1.振幅Vかつ周期tの時間変化電圧波形V、または、
2.Vの逆論理である時間変化電圧波形V
のいずれか一方で構成される。
・上面基板電極は、時間変化電圧波形Vで駆動される。
【0023】
作動時に印加される液滴駆動電圧VEW=V−Vは、
1.周期tで高い方のレベルV、低い方のレベル−Vの時間変化波形かまたは
2.0V
のいずれか一方である。
【0024】
ほとんどの場合には、電圧レベルVoffsetだけオフセットした波形Vであるところの時間変化波形Vによって上面基板電極を駆動することも可能である。電圧レベルVoffsetは、ACまたはDCの構成要素のどちらか一方または両方を原則的に有している。利点が生まれるのは、Vの高い方のレベルが電圧Vだけ増加し、低い方のレベルが電圧Vだけ減少する場合である。
【0025】
この場合、印加された液滴駆動電圧VEW=V−Vは、
1.周期tで高い方のレベルV+V、低い方のレベル−(V+V)を有する時間変化波形、または
2.V
のいずれか一方である。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一面によれば、配列上にある1つ以上の液滴を操作するために構成された複数の配列素子を含んでおり、上記配列素子の各々は対応する配列素子回路を含んでいる誘電体上のアクティブマトリクス液滴駆動(AM−EWOD)装置が提供される。上記配列素子回路の各々には、間に1つ以上の液滴が配置され得る上面基板電極および駆動電極、並びに、上記駆動電極に対して、(i)振幅Vかつ周期tの時間変化電圧波形V、または(ii)時間変化電圧波形V(VはVの逆論理)のどちらか一方を選択的に印加し、かつ上記上面基板電極に対して時間変化電圧波形V+Voffsetを印加することによって、対応する配列素子に対してデータを書き込めるように構成された回路が含まれる。ここで、Voffsetは、ACおよび/またはDC成分を有していてもよいしまたゼロに等しくてもよいオフセット電圧信号を表す。
【0027】
本発明の他の一面では、Voffsetはゼロに等しい。
【0028】
他の一面では、Voffsetはゼロではない。
【0029】
さらに他の一面では、VおよびVは矩形波電圧パルスである。
【0030】
さらに他の一面では、Voffsetは上記矩形波電圧パルスVと同相の矩形波電圧であって、周期tで最大振幅V、最小振幅−Vを有している。
【0031】
さらに他の一面では、上記Vの値は以下の表記を満たしている。
【0032】
【数3】

【0033】
ここで、θsatは上記配列素子内の上記1つ以上の液滴の飽和接触角を表しており、θはゼロ電圧における1つ以上の液滴の接触角であり、Cは上記配列素子内の絶縁体静電容量であり、またYLGは上記配列素子内の上記1つ以上の液滴と当該液滴を囲っている非イオン液体との界面に関する表面張力である。
【0034】
他の一面では、上記Vおよび上記Vは、少なくとも正弦曲線形、三角形、または櫛歯形のうちの1つである。
【0035】
さらに他の一面では、上記複数の配列素子は1つの上面基板電極を共有している。
【0036】
他の一面では、上記波形Vは上記複数の配列素子に共通である。
【0037】
さらに他の一面では、上記波形Vは上記複数の配列素子に共通である。
【0038】
さらに他の一面では、上記配列素子回路の各々は、書き込まれたデータの関数として上記波形Vを選択的に反転させることにより、上記駆動電極に上記波形Vを印加する反転回路を含んでいる。
【0039】
他の一面では、上記配列素子回路の各々は、上記配列素子に書き込まれるデータを記憶するためのメモリ機能を含んでいる。
【0040】
さらに他の一面では、上記メモリ機能はDRAM回路を含んでいる。
【0041】
さらに他の一面では、上記メモリ機能はSRAM回路を含んでいる。
【0042】
他の一面では、上記SRAM回路は複数のアナログスイッチを含んでいる。
【0043】
他の一面では、上記回路は、ACモード作動とDCモード作動との間で交替するように構成されている。ここで、上記ACモード動作の間、上記回路は、(i)振幅Vかつ周期tの上記波形Vまたは(ii)上記波形Vを上記駆動電極に選択的に印加し、上記上面基板電極に波形V+Voffsetを印加することによって、対応する配列素子にデータを書き込むようになっている。また、上記DCモード作動の間、上記回路は上記駆動電極および上記上面基板電極を一定の電位に保つようになっている。
【0044】
他の一面では、上記DCモード作動中の上記駆動電極および上記上面基板電極における上記一定の電位の極性は反対である。
【0045】
さらに他の一面では、上記DCモード作動のフレーム間で上記一定の電位の極性が交替する。
【0046】
さらに他の一面では、配列上の1つ以上の液滴を操作するように構成された複数の配列素子を含んでおり、上記配列素子の各々は、間に1つ以上の液滴が配置され得る上面基板電極および駆動電極を含んでいる誘電体上のアクティブマトリクス液滴駆動(AM−EWOD)装置を駆動する方法が提供される。本方法は、(i)振幅Vかつ周期tの時間変化電圧波形V、もしくは(ii)時間変化電圧波形V(VはVの逆論理)を上記駆動電極に選択的に印加すること、および、Voffsetがオフセット電圧信号を表し、ACおよび/またはDC成分を有していてもよくまたゼロに等しくてもよいとしたとき、上記上面基板電極に時間変化電圧波形V+Voffsetを印加することを含む。
【0047】
他の一面では、上記Voffsetはゼロに等しい。
【0048】
さらに他の一面では、上記Voffsetはゼロではない。
【0049】
他の一面では、上記Vおよび上記Vは矩形波電圧パルスである。
【0050】
他の一面では、上記Voffsetは、上記矩形波電圧パルスVと同相の矩形波電圧であって、周期tで最大振幅Vかつ最小振幅−Vを有している。
【0051】
さらに他の一面では、上記Vの値は以下の関係を満たしている。
【0052】
【数4】

【0053】
ここで、θsatは上記配列素子内の1つ以上の液滴の飽和接触角を表し、θは電圧ゼロにおける1つ以上の液滴の接触角であり、Cは上記配列素子内の絶縁体静電容量であり、YLGは上記配列素子内の上記1つ以上の液滴と該液滴を囲う非イオン液体との界面に関する表面張力である。
【0054】
他の一面では、VおよびVは少なくとも正弦曲線形、三角形または櫛歯形のうちいずれかの形状であってもよい。
【0055】
さらに他の一面では、上記方法は、ACモード作動とDCモード作動とを交替するステップを含んでいる。このステップでは、ACモード作動の間、(i)振幅Vかつ周期tの上記波形V、もしくは(ii)上記波形Vを上記駆動電極に選択的に印加し、上記上面基板電極に上記波形V+Voffsetを印加することによって、また、DCモード作動の間、上記配列素子回路は上記駆動電極および上記上面基板電極を一定の電圧に保つことによって、対応する配列素子にデータを書き込む。
【0056】
さらに他の一面では、DCモード作動中の上記駆動電極と上記上面基板電極とにおける一定の電位の極性は反対である。
【0057】
さらに他の一面では、上記一定の電位の極性はDCモード作動フレーム間で交替してもよい。
【発明の効果】
【0058】
本発明の効果は以下の通りである。
【0059】
・制御トランジスタ(例えばTFT)によって切替えられるために必要な最大電圧は、印加された液滴駆動電圧に等しい。液滴駆動電圧の値は、多くの場合、通常の製造法および設計規則に従って製造されたTFTの最大作動電圧を超える可能性があるため、このことは重要である。そのため、所定の最大TFT電圧において、印加可能なEW駆動電圧は、DC駆動方式の標準AM−EWODのEW駆動電圧と比べ2倍大きい。
【0060】
・液滴全体に印加されたAC波形の周波数は比較的高く、また、一般的にAM−EWODのフレーム書き込み周波数よりもかなり高くすることができる。そのためAM−EWODは、従来技術においてすでに議論した高周波数AC駆動の効果から利益を得ることができる。すなわち、上記利益とは、
○絶縁体の信頼性向上
○作動中の滅損の減少
○液滴のダイナミクスの改善
である。
【0061】
・TFT素子によって切替えられる電圧をEW駆動電圧まで減少させることによって、上面基板の電圧が一定電位に保たれるAC駆動方式と比較したときに、装置の動的な電力消費も減少させることができる。
【0062】
前述の目的および関連する目的を達成するために、本発明は、以下で詳細に説明する特徴および請求項に具体的に示された特徴を含む。以下の記載および添付の図面により、本発明のいくつかの実例となる実施形態を詳細に説明する。これらの実施形態は本発明の原理が用いられるいくつかの方法を示すが、しかしこれらの実施形態が示すのはその方法の一部である。本発明のその他の目的、効果および新規な特徴は、以下の、本発明の詳細な説明を図面と組み合わせて考慮することで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
添付図面では、同様の部材番号は同様の部材または特徴を指す。
【図1】従来技術を示しており、EWOD装置のAC駆動方式を示す。
【図2】従来技術を示しており、誘電体泳動によって液滴を制御するためのバックプレーンの配列素子回路を示す。
【図3】本発明の一実施形態におけるAM−EWOD装置の概略斜視図を示す。
【図4】上記装置の幾つかの配列素子を通る断面図を示す。
【図5】上記装置における薄膜電子機器の構成を示す。
【図6】第1の実施形態における配列素子回路を示す。
【図7】本発明の第1の実施形態における電圧波形を示す。
【図8】本発明の第2の実施形態における配列素子回路を示す。
【図9】本発明の第3の実施形態における配列素子回路を示す。
【図10】本発明の第4の実施形態における電圧波形を示す。
【図11】本発明の第5の実施形態における電圧波形を示す。
【図12】本発明の第5の実施形態における電圧波形を示し、また集積センサが作動および非作動である時間を示す。
【0064】
<符号の説明>
4 液滴
6 接触角θ
16 疎水面
20 絶縁層
26 疎水層
28 電極
32 スペーサ
34 非イオン性液体
36 上面基板
38 電極
42 電極配列
72 基板
74 薄膜電子機器
76 行駆動回路
78 列駆動回路
80 シリアルインターフェイス
82 接続ワイヤ
84 配列要素回路
104 SRAM記憶セル
106 スイッチ回路
108 出力緩衝段
110 スイッチトランジスタ
112 スイッチトランジスタ
203 容量性記憶装置
206 スイッチトランジスタ
210 メモリノード
212 インバータ
214 第1アナログスイッチ
216 第2アナログスイッチ
226 第1インバータ
228 第2インバータ
230 スイッチトランジスタ
240 アナログスイッチ
242 アナログスイッチ
【発明を実施するための形態】
【0065】
図3を参照して、本発明の一実施形態に係るAM−EWOD装置を示す。上記AM−EWOD装置は、底部基板72を有しており、底部基板72の上には薄膜電子機器74が配置されている。薄膜電子機器74は配列素子電極(例えば38)を駆動するように構成されている。複数の配列素子電極38は電極配列42内に並べられており、M×Nの素子(MおよびNは任意の数)を有する。1つのEWOD液滴4が基板72と上面基板36との間に閉じ込められている。ただし、本発明の範囲から外れることなく、複数の液滴4が配置されていてもよいことが理解されるであろう。
【0066】
図4は1組の配列素子の断面を示す。上記装置は底部基板72を含み、該底部基板72はその上に薄膜電子機器74を有する。底部基板72の一番上の層(これは薄膜電子機器層74の一部であるとみなしてもよい)には、複数の電極38(例えば、図4では38Aおよび38B)が形成されるように、パターンが形成されている。これらはEW駆動素子と呼ぶこともできる。上記EW駆動素子という用語は、以下では、特定の配列素子に関連した電極38、および、この電極38と直接的に接続した電子回路のノードの両者を指すことがある。イオン性物質で構成される液滴4は底部基板72と上面基板36との間の面内に束縛されている。上記2つの基板の間には、スペーサ32によって適切な間隙が形成されていてもよい。また、液滴4によって占有されない容積を、非イオン性液体34(例えばオイル)で満たしてもよい。底部基板72の上に配置された絶縁層20によって、液滴4がθで表される接触角6で載っている疎水面16から伝導性電極38A、38Bを分離している。上面基板36の上には、他の疎水層26が存在する。該他の疎水層26に、液滴4が接触してもよい。上面基板36と疎水層26との間には、上面基板電極28が挿入されている。薄膜電子機器74の適切な構成および作動により、別の電圧、いわゆるEW駆動電圧(例えばV、VおよびV00)が、別の電極(例えば、それぞれ駆動素子電極28、38Aおよび38B)に印加されてもよい。こうすることで、疎水面16の疎水性の高さを制御することができ、その結果、2つの基板72と36との間の横方向の面における液滴移動が容易になる。
【0067】
底部基板72上の薄膜電子機器74の構成を図5に示す。電極配列42の各素子は、対応する電極38の電極電圧を制御するための配列素子回路84を含む。薄膜電子機器には集積された行駆動回路76および列駆動回路78も備えられており、配列素子回路84に制御信号を供給するようになっている。シリアル入力データストリームを処理し、かつ、必要とされる電圧を電極配列42に書き込むためのシリアルインターフェイス80も備えていてもよい。電圧供給インターフェイス83は、ここで述べるように、対応する供給電圧、上面基板駆動電圧などを供給する。配列基板72と外部駆動電子機器(電源など)との間にある接続ワイヤ82の数は、配列が大きなサイズであっても比較的少なくすることができる。
【0068】
第1の実施形態における配列素子回路84を図6に示す。上記AM−EWOD装置の残りの構成は前述の標準的構成であり、電極28を有する上面基板36を含む。
【0069】
各配列素子回路84は、液滴4に液滴駆動電圧VEWを印加できるように構成されており、また、以下の構成要素を含む。
・以下を含んだメモリ機能222
○(列駆動回路78から伸びる)列書込ラインCOL(同じ列内の配列素子において共通であってもよい)
○(行駆動回路76から伸びる)行選択ラインROW(同じ行内の配列素子において共通であってもよい)
○容量性記憶装置203
○DC供給電圧Vref
○スイッチトランジスタ206。
・以下を含んだ反転回路224
○第1アナログスイッチ214
○第2アナログスイッチ216
○供給電圧V(配列内の全ての素子について共通であってもよい)
○第2供給電圧V(配列内の全ての素子について共通であってもよい)
○インバータ212。
【0070】
配列素子回路84は以下のように接続されている。
【0071】
上記列書込ラインCOLはスイッチトランジスタ206のソースと接続されている。上記行選択ラインROWはスイッチトランジスタ206のゲートと接続されている。容量性記憶装置203は上記DC供給電圧Vrefとスイッチトランジスタ206のドレインとの間に接続されている。スイッチトランジスタ206のドレインはインバータ212の入力、第1アナログスイッチ214におけるn型トランジスタのゲート、および第2アナログスイッチ216におけるp型トランジスタのゲートと接続されている。インバータ212の出力は、第1アナログスイッチ214におけるp型トランジスタのゲートおよび第2アナログスイッチ216におけるn型トランジスタのゲートと接続されている。上記供給電圧Vは第1アナログスイッチ214の入力と接続されている。上記供給電圧Vは第2アナログスイッチ216の入力と接続されている。第1アナログスイッチ214の出力および第2アナログスイッチ216はそれぞれ、上記EW駆動電極を形成する伝導性電極38と接続されている。
【0072】
配列素子回路84の動作について以下に説明する。
【0073】
配列素子回路84は前述した2つの機能ブロックとして、メモリ機能222および反転回路224を含む。メモリ機能222は標準的なDRAM回路である。上記列書込ラインCOLに必要な電圧を充電し、その後上記行選択ラインROWに高レベル電圧パルスを印加することによって、論理“0”または論理“1”のどちらかの状態に対応するデジタル電圧VWRITEを、上記メモリに書き込んでもよい。これにより、スイッチトランジスタ206がオンになり、その後上記書き込み電圧がメモリノード210に書き込まれ、さらに容量性記憶装置203に蓄えられる。スイッチトランジスタ206は漏電するため、上記メモリに対しては、周期的に再書き込みを行うことで、メモリノード210における電圧を更新しなければならない。
【0074】
メモリ機能222に論理“1”状態が書き込まれる場合、反転回路224は第1アナログスイッチ214がオンであり、かつ第2アナログスイッチ216がオフである構成になる。その結果、上記EW駆動電極を形成する伝導性電極38に供給電圧Vが印加される。メモリ機能222に論理“0”状態が書き込まれる場合、反転回路224は第1アナログスイッチ214がオフであり、かつ第2アナログスイッチ216がオンである構成になる。この場合、上記EW駆動電極を形成する伝導性電極38に供給電圧Vが印加される。上記供給電圧Vは、上面基板の電極28にも印加される。その結果、液滴4において保持される液滴駆動電圧VEWは、
・0(上記メモリに論理“0”が書き込まれた場合)または
・V−V(上記メモリに論理“1”が書き込まれた場合)
のどちらか一方である。
【0075】
図7は、本実施形態における供給電圧Vおよび供給電圧Vの波形の時間依存性を示す。Vは振幅Vかつ周期tの矩形波であり、供給電圧VはVの逆論理である。
【0076】
従って、論理“1”が上記メモリに書き込まれる場合、液滴駆動電圧VEW(すなわちV−V)はrms振幅Vの矩形波である。
【0077】
これまでに述べた本実施形態の効果としては、
・アナログスイッチ214および216を構成するTFTによって切替えられる最大電圧は上記液滴駆動電圧に等しい。これにより、上記TFTに掛かる所定の最大電圧について、上面基板電極28が一定の電位に保たれていたAC作動の場合よりも、液滴駆動電圧を高くすることが容易になる。
・関連するさまざまな効果を備えた、上記AM−EWODの高周波ACモード作動が可能である。
【0078】
上記関連するさまざまな効果には、下記が含まれる。
【0079】
○AC駆動方式により、絶縁体の信頼性向上が容易になる。DC電場における作動では、液滴4内のイオンが、欠陥位置にある絶縁層誘電体を通って移動しがちであり、装置にピンホールを生じる。その結果、装置の故障が起こりうる。高いAC周波数では、移動するイオンがDC電場よりむしろ振動を受けるため、装置がこのような故障に侵され難い。
【0080】
○DC駆動方式で作動するEWOD装置では、作動のライフタイムにおいて、液滴の動きがだんだんと緩慢になってゆくという、性能品質の悪化現象に悩まされると言われている。この効果はまだ完全には理解されていないが、絶縁層および/または疎水層の分極によるのではないかと言われている。AC駆動方式で作動すると、上記絶縁層および上記疎水層がDC電場を受けていないため、この効果を避けることができる。
【0081】
○AC駆動方式により、輸送、混合などの操作に対する液滴のダイナミクスを改善することが容易になるかもしれない。ただし、その理由については完全には理解されていない。
・TFTの電圧が減少する結果、動的電力消費が減少する。
【0082】
本実施形態のさらなる効果は、
・ACモード作動を実施するための回路は7つの作動要素(TFT)のみを必要とする。そのため、レイアウトフットプリントを小さくし、高歩留まり/生産性を促進することができる。
・上記AC駆動信号VおよびVは配列中の全ての素子と接続されている。そのため、低い出力インピーダンスを有する適切なICバッファ回路によって、VおよびVをチップ外から直接的に駆動することができる。これにより、高周波数でのAC作動が容易になるかもしれない。
【0083】
本実施形態に対し多くの小さな修正を行うことが可能であることは、当業者にとって明らかであろう。例えば、上記上面基板の電極28に対して電圧Vのかわりに電圧Vを印加することが可能である。この場合、回路の動作は、前述したような動作にとても近いものになるであろう。ただし、論理“1”を上記メモリ機能に書き込むことで液滴に0Vを印加すること、および論理“0”を上記メモリに書き込むことで液滴に矩形波波形を印加することを除く。同様に、回路内におけるVとVとの接続を入れ換えることもできる。
【0084】
本発明は、ここではまず、実施形態の文脈において、供給電圧VおよびVは矩形波であり、また、矩形波電圧パルスVおよびVとしても説明されていることが理解されよう。しかし、本発明は、正弦波形、三角波形、および櫛歯形波形などのような、他の形状の時間変化波形を使用することも含む。広い意味では、本発明は特定の形状の波形に限定することを意図していない。
【0085】
例えば、前述の実施形態は非矩形波電圧パルスVおよびVを用いて実行できることは、当業者にとって明らかであろう。例えば、前述の実施形態は、
=Vsin(wt)
=−Vsin(wt)
などの正弦波電圧を用いて実施することができる。
この場合、液滴駆動電圧VEW(すなわちV−V)は
EW=[Vsin(wt)]
によって与えられ、時間平均液滴駆動電圧はV/√2である。
【0086】
第2の実施形態に係るAM−EWOD装置は、配列素子回路84が異なる他は、実施形態1と同様である。本実施形態の配列素子回路84を図8に示す。本実施形態では、メモリ機能222はSRAMセルで構成される。
【0087】
本実施形態の配列素子回路84は、以下の構成要素を含む。
・下記を含むメモリ機能222
○(列駆動用回路78から伸びる)列書込ラインCOL(同じ列の配列素子に共通であってもよい)
○(行駆動用回路76から伸びる)行選択ラインROL(同じ行の配列素子に共通であってもよい)
○n型スイッチトランジスタ206
○p型スイッチトランジスタ230
○第1インバータ226
○第2インバータ228
・下記を含む反転回路224
○第1アナログスイッチ214
○第2アナログスイッチ216
○電圧供給V(配列内の全ての素子に共通であってもよい)
○第2の電圧V(配列内の全ての素子に共通であってもよい)
上記配列素子回路は以下のように接続される。
【0088】
上記列書込ラインCOLはスイッチトランジスタ206のソースと接続される。上記行選択ラインROWは、スイッチトランジスタ206のゲートおよびスイッチトランジスタ230のゲートと接続される。スイッチトランジスタ230のドレインは、スイッチトランジスタ206のドレインおよび第1インバータ226の入力と接続される。第1インバータ226の出力は、第2インバータ228の入力、第1アナログスイッチ214におけるp型トランジスタのゲート、および第2アナログスイッチ216におけるn型トランジスタのゲートと接続される。第2インバータ228の出力は、第1アナログスイッチ214におけるn型トランジスタのゲート、第2アナログスイッチ216におけるp型トランジスタのゲート、およびスイッチトランジスタ230のソースと接続される。電圧供給Vは第1アナログスイッチ214の入力と接続される。電圧Vは第2アナログスイッチ216の入力と接続される。第1アナログスイッチ214および第2アナログスイッチ216の出力は、それぞれ、上記EW駆動電極を形成する伝導性電極38と接続される。
【0089】
本実施形態の動作は、第1の実施形態と類似のものである。上記メモリ機能は、上記行選択ラインROWに高電圧パルスを印加することによって書き込みがなされ、スイッチトランジスタ206および230をオンにする。そして、上記列書込ラインCOL上の電圧はメモリノード210に書き込まれる。反転回路224の動作については、第1の実施形態で説明した通りであるが、反転したメモリノード信号を、SRAMセルの2つのインバータ226と228との間にあるノードと接続することによって取得できることを除く。
【0090】
本実施形態の効果は、SRAMのメモリ機能222が断続的な更新を必要としないことである。これにより、DRAMメモリ機能で可能なよりも低い電力消費で、装置を作動させることが容易になるかもしれない。配列素子回路84は最小限の数の能動要素(10個のTFT)で実行されるので、その結果、レイアウトフットプリントを最小化し、かつ生産性を最大化することができる。
【0091】
第3の実施形態を図9に示す。本実施形態は、スイッチトランジスタ206および230がアナログスイッチ240および242に置換されていることを除き、図8の第2の実施形態と同様である。上記ROW接続部は、アナログスイッチ240におけるn型トランジスタのゲート、およびアナログスイッチ242におけるp型トランジスタのゲートと接続されている。追加の接続部ROWBは、同じ行内の各配列素子に共通で供給される。これはROWの反転信号によって駆動され、また行駆動回路76によっても提供される。アナログスイッチ242におけるn型トランジスタのゲートおよびアナログスイッチ240におけるp型トランジスタのゲートは、ROWBと接続される。
【0092】
本実施形態の動作は、第2の実施形態で説明したのと同様である。本実施形態は、1つのSRAMスイッチトランジスタ206,230をアナログスイッチ240,242に置き換えることによって、SRAMセルにおける閾値電圧の降下による問題が避けられるという追加の効果を有する。
【0093】
本発明の第4の実施形態に係るAM−EWOD装置は、上面基板36の電極28に印加されるAC電圧信号の振幅の増加という駆動方法の修正を除いて、前述の各実施形態のAM−EWOD装置と同じである。
【0094】
具体的には、底部基板72上の薄膜電子機器74に形成された配列素子回路84は、前述の実施形態で述べた通り、供給電圧Vまたは供給電圧Vを切替えて、それらの一方をEW駆動電極38に供給するように構成されている。図10を参照すると、
・供給電圧Vは、振幅Vかつtの周期矩形波電圧パルスで構成される。以下では、説明の簡便さのため、Vを、ローレベル0VかつハイレベルVと定めることがある。
・供給電圧Vは、Vの逆論理すなわち振幅Vかつ周期tの矩形波電圧パルスで構成される。Vのローレベルは0V、ハイレベルはVであり、またVはVに対して逆相である。
供給電圧Vは、上面基板36の電極28に対して以下のように印加される。
・供給電圧VはV+Voffsetで表される矩形波電圧パルスで構成される。前述の各実施形態では、Voffsetはゼロであった。本実施形態では、Voffsetはゼロでなく、Vと同相の矩形波電圧であり、また周期tで最大振幅Vかつ最小振幅−Vを有する。その結果、供給電圧Vは振幅V+2Vかつ周期tを有する。Vのローレベルは−Vであり、またハイレベルはV+Vである。
【0095】
図10は、波形V、VおよびVの時間依存性および振幅を示す。
【0096】
本実施形態の効果は、上面基板36の電極28に印加する上記信号V(=V+Voffset)の振幅を増大させることによって、TFTによって切替えられるところの、前述の実施形態と同じ電圧(V)を有する一方、液滴4の作動状態と非作動状態との間のエネルギー差を最大化させることができる。印加された液滴駆動電圧VEWを受ける液滴4の接触角θの依存性は、Lippmann−Youngの式によって表される。
【0097】
【数5】

【0098】
ここでθはゼロボルトにおける接触角、Cは絶縁体静電容量であり、またYLGは液滴4とそれを囲う非イオン液体34との界面に関する表面張力である。
【0099】
作動に関する表面エネルギーはcos(θ)にほぼ比例する。そのため、配列素子に書き込まれる“1”と“0”との状態間のエネルギー差を最大化することが望ましい。
【0100】
AM−EWOD駆動電極38に“0”が書き込まれている場合、EWOD駆動電極38と上面基板26の電極である上面基板の電極28との間の電圧差の大きさは、V+V(この電圧の正負は波形の半周期で変化するが、その振幅は一定に保たれている)に等しい。従って、接触角は、
【0101】
【数6】

【0102】
で与えられる。
【0103】
AM−EWOD駆動の電極38に“1”が書き込まれている場合、EWOD駆動電極38と上面基板の電極28との間の電圧差の大きさは、V(前述のように、この電圧の正負は波形の半周期で変化するが、その振幅は一定に保たれている)に等しい。従って、接触角は、
【0104】
【数7】

【0105】
で与えられる。
【0106】
“1”が書き込まれている場合と“0”が書き込まれている場合との間のcos(θ)の差異は、式(3)から式(2)を減算することによって計算することができる。
【0107】
【数8】

【0108】
式(4)から、Vを増加することでエネルギー差(ほぼΔ(cos(θ))を増加させることができることが分かる。そのため、本実施形態の駆動方法によれば、電極38に印加する電圧信号Vの振幅を大きくすることによって、“1”状態と“0”状態との間の表面エネルギー差をより増加させることができる。上記エネルギー差を増加させることには、所定のTFT電圧における液滴のダイナミクスを改善できるという効果がある。
【0109】
式(4)は、Vをできるかぎり大きくすることが有益であることを意味する。実際には、接触角θが最小値で飽和するため、ある値においてはこのことは当たらない。この飽和接触角は液滴4の構造および接触面の性質の関数である。従って、Vには最適値が存在しており、その値は、“1”状態が書き込まれているときに上記接触角の達する飽和値θsatにほぼ対応する。Vの最適値は以下の式から計算することができる。
【0110】
【数9】

【0111】
第4の実施形態で述べた駆動方法を第1から第3の実施形態のいずれにも適用できることは明らかであろう。
【0112】
本発明の第5の実施形態は、供給電圧VおよびVの時間変化方式が図11に示すように使用されるところの、前述のすべての実施形態と同様である。
【0113】
本実施形態の動作によれば、本装置はAC作動が“バーストモード”中にあるように構成されている。例えば、
・作動時間のある部分ではAC駆動方式が用いられる。これは、図11に“AC駆動”と図示した期間で表すような、また、前述のような、VおよびVに印加された矩形波信号に対応する。
・作動時間のある部分ではDC駆動方式が用いられる。これは、図11に“DC駆動”として示した期間で示すように、および前述のように、一定の電圧に保たれたVおよびVに対応する。なお、同じ全体的な効果を達成しつつ、VおよびVを図に示したのとは反対の極性(すなわち、Vを高くVを低く)に維持することも可能である。
【0114】
本実施形態の効果は、DC駆動で作動する一部の時間を、同時に、薄膜電子機器74に集積された他の電子回路の作動のために使用してもよいことである。他の集積された電子回路の例として、インピーダンス感知回路および温度感知回路を含んでいてもよい。上記他の回路が作動中の期間においては、液滴駆動機能のDC作動が必要であるかまたは望ましい。例えば、AC作動が行われている期間中にインピーダンス感知回路も作動中であった場合、上面基板36の電極28に印加されたAC電圧信号Vは、上記感知回路の作動と干渉することにより望まない効果を受けるかもしれない。図12に示すように、AM−EWOD装置を“バースト”モードのAC作動で作動することによって、集積された感知回路の作動期間中にはDC駆動方式が使用され、集積された感知回路の非作動期間中にはAC駆動方式が使用されるようにタイミングを構成してもよい。
【0115】
図12の構成は、DCモード作動が使用される期間中のVおよびVの極性は、DC作動における偶数フレームと奇数フレームとの間で交替して使用されることを示している。奇数フレームについては、V1は低く、かつV2は高い。また、偶数フレームについては、Vは高く、かつVは低い。このモードの作動は、適切な長い期間について平均したとき、VおよびV電圧信号の時間平均は同一であるという、特有の効果を有する。その結果、この長い期間については、正味、上記液滴に掛かり続けるDC電圧成分が存在しない。これにより、前述のように、信頼性の向上、滅損の減少などの効果を奏する。
【0116】
本実施形態のさらなる効果は、DCモード作動がACモード作動と比較してより電力を消費しないことである。バーストモードで作動することにより、作動時間全体においてAC駆動方式が用いられた場合よりも電力消費を少なくしつつ、ACモード作動の効果を(多かれ少なかれ)達成することができるかもしれない。
【0117】
本実施形態の延長として、供給電圧VおよびVを、異なる時刻において異なる周波数の波形によって駆動してもよいことは明らかであろう。さらに、VおよびVを、必ずしも50%ではないデューティ周期を有する波形により駆動することができることは明らかであろう。
【0118】
本実施形態のさらなる延長として、供給電圧VおよびVを、例えば三角波形、正弦波形などの非矩形波で駆動してもよいことは明らかであろう。
【0119】
AM−EWOD装置は、従来技術において示されたように、完全なラボオンチップシステムの一部を形成してもよいことも明らかであろう。そのようなシステムでは、AM−EWOD装置内で感知および/または操作される液滴は、血液、唾液、尿などの化学的または生物学的な液体であってもよい。また、全体的な構成としては、化学的または生物学的な検査を実行するように、あるいは化学的または生物学的な合成物を合成するように構成されてもよい。
【0120】
ある1つまたは複数の実施例に関して、本発明を示し、また説明してきたが、当業者は、この具体例および添付図面を読み理解することで、同義の変形または修正に想到するかもしれない。とくに、前述の素子(成分、集合物、装置、および構成物など)によって実行されるさまざまな機能について、このような素子を説明するために使用される用語(“手段”についても含む)は、指摘がない限り、本発明の実施形態例中に開示されたその機能を実行する構造と構造的に等しくない素子であろうとも、前述の素子の特定の機能を実行するいかなる素子(すなわち機能的に等価な素子)にも対応する。さらに、ただ1つまたはそれ以上のいくつかの実施形態に関して、本発明の具体的な特徴をこれまで説明してきたが、このような特徴は、任意のまたは具体的な応用のために望ましくかつ効果を奏するように、他の実施形態における他の特徴の1つまたは複数と組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0121】
上記AM−EWOD装置は、ラボオンチップシステムの一部を形成してもよい。 このような装置は、化学的、生物学的または生理学的な物質の操作、反応、および感知において使用してもよい。応用としては、健康診断検査、化学的または生物学的な物質合成、プロテオミクス、および、生命科学と犯罪科学のための研究用具が含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列上にある1つ以上の液滴を操作するように構成された複数の配列素子であって、各々が、対応する配列素子回路を含んでいる配列素子を含み、
各配列素子回路は、
間に、1つ以上の液滴が配置され得る上面基板電極および駆動電極と、
(i)振幅Vかつ周期tの時間変化電圧波形Vまたは
(ii)Vの逆論理である時間変化電圧波形Vのどちらか一方
を上記駆動電極に選択的に印加することによって、対応する配列素子にデータを書き込むように構成され、かつ、VoffsetがACおよび/またはDC成分を有していてもよいしまたゼロに等しくてもよいオフセット電圧信号を表すとき、上記上面基板電極に時間変化電圧波形V+Voffsetを印加する回路と、を含んでいるアクティブマトリクス液滴駆動(AM−EWOD)装置。
【請求項2】
offsetはゼロに等しい請求項1記載の装置。
【請求項3】
offsetはゼロではない請求項1記載の装置。
【請求項4】
およびVは矩形波電圧パルスである請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
offsetは矩形波電圧パルスVと同相の矩形波電圧であり、また、周期tで最大振幅Vかつ最小振幅−Vを有する請求項4記載の装置。
【請求項6】
θsatは上記配列素子内の1つ以上の液滴の飽和接触角であり、θはゼロ電圧における1つ以上の液滴の接触角であり、Cは上記配列素子内部の絶縁体静電容量であり、またYLGは上記配列素子内の1つ以上の液滴と該液滴を囲う非イオン性液体との間の界面に関する表面張力であるとしたとき、Vの値は以下の表記を満たしている請求項5記載の装置。
【数1】

【請求項7】
およびVは少なくとも、正弦曲線形、三角形、または櫛歯形のいずれか1つの形状である請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
上記複数の配列素子は共通の上面基板電極を共有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
上記波形Vは上記複数の配列素子において共通である請求項1〜8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
上記波形Vは上記複数の配列素子において共通である請求項1〜9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
配列素子回路の各々は、上記配列素子に書き込まれたデータの関数として上記波形Vを選択的に反転させることによって、上記駆動電極に上記波形Vを印加する反転回路を含んでいる請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
上記配列素子回路の各々は、上記配列素子に書き込んだデータを記憶するメモリ機能を含んでいる請求項1〜11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
上記回路は、ACモード作動とDCモード作動との間で交替するように構成されており、上記ACモード作動の間、上記回路は、(i)振幅Vかつ周期tの上記波形V、または(ii)上記波形Vのいずれか一方を上記駆動電極に選択的に印加し、かつ、上記上面基板電極に波形V+Voffsetを印加することによって、対応する配列素子にデータを書き込み、また、上記DCモード作動の間、上記回路は、上記駆動電極および上記上面基板電極を一定の電位に保つ請求項1〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
上記DCモード作動の間、上記駆動電極および上記上面基板電極における上記一定の電位の極性が反対である請求項13記載の装置。
【請求項15】
上記一定の電位の極性が、上記DCモード作動のフレーム間で交替する請求項14記載の装置。
【請求項16】
誘電体上のアクティブマトリクス液滴駆動(AM−EWOD)装置であり、配列上の1つ以上の液滴を操作するように構成された複数の配列素子を含み、上記配列素子の各々は、間に、1つ以上の液滴が配置され得る上面基板電極および駆動電極を含んでいる上記装置を駆動する方法であって、
(i)振幅Vかつ周期tの時間変化電圧波形V、または
(ii)Vの逆論理である時間変化電圧波形V
のどちらか一方を上記駆動電極に選択的に印加し、
offsetを、ACおよび/またはDC成分を有していてもよくゼロに等しくてもよいオフセット電圧信号であるとしたとき、上記上面基板電極に時間変化電圧波形V+Voffsetを印加する方法。
【請求項17】
およびVは矩形波電圧パルスである請求項16記載の方法。
【請求項18】
上記Voffsetは、上記矩形波電圧パルスVと同相の矩形波電圧であり、また、周期tで最大振幅Vかつ最小振幅−Vを有している請求項17記載の方法。
【請求項19】
θsatは上記配列素子内の1つ以上の液滴の飽和接触角であり、θはゼロ電圧における1つ以上の液滴の接触角であり、Cは上記配列素子内部の絶縁体静電容量であり、YLGは上記配列素子内の1つ以上の液滴と該液滴を囲う非イオン性液体との間の界面に関する表面張力であるとしたとき、Vの値は以下の表記を満たす請求項18記載の方法。
【数2】

【請求項20】
ACモード作動とDCモード作動との間で交替するステップを含み、上記ACモード作動の間では、(i)振幅Vかつ周期tの上記波形V、または(ii)上記波形Vのいずれか一方を上記駆動電極に選択的に印加し、かつ、上記上面基板電極に上記波形V+Voffsetを印加することによって、対応する配列素子にデータが書き込まれ、また、上記DCモード作動の間では、上記駆動電極および上記上面基板電極を一定の電位に保つ請求項16〜19のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−176397(P2012−176397A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−4457(P2012−4457)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】