誘電体基板
【課題】一部誘電率が異なる誘電体基板でありながらも、誘電率が異なる境界部分の剥がれや崩れがなく、また、内部の誘電率が異なる誘電体の厚みを厚くできるようにする。
【解決手段】第1誘電体基板10Aは、第1誘電率ε1を有する第1セラミック焼成体12と、該第1セラミック焼成体12の周りに形成された第2誘電率ε2を有する第2セラミック焼成体14とを有する。第1セラミック焼成体12及び第2セラミック焼成体14は、少なくとも熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末との混合物を硬化して得られる第1セラミック成形体16と、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリーを、少なくとも第1セラミック成形体16を被覆するように供給した後に硬化して得られる第2セラミック成形体18とが焼成されて構成されている。
【解決手段】第1誘電体基板10Aは、第1誘電率ε1を有する第1セラミック焼成体12と、該第1セラミック焼成体12の周りに形成された第2誘電率ε2を有する第2セラミック焼成体14とを有する。第1セラミック焼成体12及び第2セラミック焼成体14は、少なくとも熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末との混合物を硬化して得られる第1セラミック成形体16と、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリーを、少なくとも第1セラミック成形体16を被覆するように供給した後に硬化して得られる第2セラミック成形体18とが焼成されて構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部誘電率が異なる誘電体基板に関し、誘電率の違いを利用したコンデンサ等の電子部品や高周波回路等に用いて好適な誘電体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一部誘電率が異なる誘電体基板を使用した電子部品としては、例えば特許文献1〜3が提案されている。
【0003】
特許文献1は、分波回路を誘電体基板中に一体的に形成し、誘電体基板のうち、受信側フィルタ及び送信側フィルタを有する部分を高誘電率材料(例えば誘電率εr=80)で形成し、分波回路を有する部分を低誘電率材料(例えば誘電率εr=25)で形成する例が開示されている。この特許文献1によれば、フィルタを構成する共振器のほか、分波回路を構成する集中定数素子の小型化を図ることができる。
【0004】
特許文献2は、上側接地電極誘電体基板、段間結合容量誘電体基板、共振器誘電体基板、入出力結合容量誘電体基板を共にそれぞれ異なる誘電率を有する誘電体材料、すなわち高い比誘電率を有する第1の誘電体材料及び低い比誘電率を有する第2の誘電体材料よりなる複合誘電体基板で構成することが開示されている。この特許文献2によれば、低損失の誘電体フィルタを提供することができる。
【0005】
特許文献3は、以下の点が記載されている。すなわち、複数の誘電体膜からなる第1の多層誘電体膜上に、比誘電率及び膜厚が誘電体膜のそれらと異なる誘電体膜からなる第2の多層誘電体膜が形成されている。該第2の多層誘電体膜上にアンテナ素子が形成されている。該アンテナ素子の接地導体が、第1の多層誘電体膜の膜間に形成されている。該接地導体のアンテナ素子とは反対側に、ストリップ状導体が形成されている。該ストリップ状導体に入力した信号は、上記接地導体に形成されたスロットを介して、アンテナ素子と電磁界的に結合して、該アンテナ素子を励振する。この引用文献3によれば、広い周波数範囲の中から任意で、且つ、複数の動作周波数に対して、各アンテナがそれぞれ最適な誘電体基板厚を有し、良好に動作できるマルチバンドマイクロストリップアンテナを実現することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2000−223910号公報
【特許文献2】特開2002−280805号公報
【特許文献3】特開平9−51224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一部誘電率が異なる誘電体基板を構成する場合、例えば図18A及び図18Bに示す方法が考えられる。
【0008】
すなわち、図18Aに示すように、第1誘電率を有する第1セラミック粉末と樹脂を含む第1グリーンシート100上に下部導体パターン102aを印刷によって形成し、その上に、第2誘電率を有する第2セラミック粉末と樹脂を含む第2グリーンシート104を積層し、さらに、その上に、上部導体パターン102bを印刷によって形成する。
【0009】
その後、図18Bに示すように、全面に別の第1グリーンシート100を積層し、その後、加圧して焼成することにより、一対の電極で挟まれた部分とそれ以外の部分で誘電率が異なる誘電体基板を得ることができる。
【0010】
しかし、この方法の場合、図19に示すように、下部導体パターン102a、第2グリーンシート104及び上部導体パターン102bを含む積層膜106が第1グリーンシート上において凸形状に形成されるため、別の第1グリーンシート100を積層する際に、積層膜42の周縁近傍に圧力がかからず、積層した後に、剥がれが生じたり、積層膜42の端部がつぶれてしまい、上部導体パターン102bの電気的特性を劣化させる。また、これらの問題のために、下部導体パターン102a、第2グリーンシート104及び上部導体パターン102bの厚みを厚くできないため、一対の電極とその間に存在する誘電体からなるコンデンサの容量値の調整幅や抵抗値を下げるのに限界が生じ、また、高周波回路に適用した場合に、高周波特性の向上にも限界が生じるという問題がある。
【0011】
そこで、図20に示すように、同じ面積を有する第1グリーンシート100、第2グリーンシート104及び第1グリーンシート100を積層して3層構造とし、第1グリーンシート100と第2グリーンシート104との間にそれぞれ下部導体パターン102aと上部導体パターン102bを介在させることが考えられる。これにより、少なくとも第2グリーンシート104による凸形状の形成が回避でき、剥がれの頻度を低減することができる。しかし、依然下部導体パターン102a及び上部導体パターン102bの厚みを厚くできないため、低抵抗化ができないという問題は残る。
【0012】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、一部誘電率が異なる誘電体基板でありながらも、誘電率が異なる境界部分の剥がれや崩れがなく、また、内部の誘電率が異なる誘電体の厚みを厚くでき、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる誘電体基板を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明の他の目的は、一部誘電率が異なる誘電体基板でありながらも、導体パターンの剥がれや崩れがなく、また、導体パターンの厚みを厚くでき、抵抗値の低減化、高周波特性の向上を容易に図ることができ、しかも、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる誘電体基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る誘電体基板は、一部誘電率の異なる誘電体基板において、少なくとも熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末との混合物を硬化して得られる第1セラミック成形体と、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリーを、少なくとも前記第1セラミック成形体を被覆するように供給した後に硬化して得られる第2セラミック成形体とが焼成されて構成されていることを特徴とする。
【0015】
そして、本発明において、前記第1セラミック成形体は、熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末を含むペーストを所定の形状に成形した後、硬化して得られるようにしてもよい。この場合、前記第1セラミック成形体は、基体上に前記ペーストをパターン形成し、その後、硬化してなるようにしてもよい。前記第2セラミック成形体は、前記基体上に成形された前記第1セラミック成形体を被覆するように塗布した後に硬化して得られるようにしてもよい。
【0016】
また、本発明において、前記混合物に含まれる熱硬化性樹脂前駆体は、フェノール樹脂又はポリウレタン樹脂前駆体であってもよい。また、前記スラリーに含まれる前記熱硬化性樹脂前駆体は、ポリウレタン樹脂前駆体であってもよい。
【0017】
また、本発明において、前記第2セラミック成形体は、前記スラリーを前記第1セラミック成形体と導体成形体とを被覆するように供給した後に硬化して得られるようにしてもよい。この場合、前記導体成形体は、少なくとも前記第1セラミック成形体に接するように形成されていてもよい。また、前記導体成形体は、熱硬化性樹脂前駆体と銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)系の金属の少なくとも1種類の粉末を含む導体ペーストをパターン形成し、その後、硬化してなるようにしてもよい。前記導体ペーストに含まれる前記熱硬化性樹脂前駆体は、フェノール樹脂であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明に係る誘電体基板によれば、一部誘電率が異なる誘電体基板でありながらも、導体パターンの剥がれや崩れがなく、また、導体パターンの厚みを厚くでき、抵抗値の低減化、高周波特性の向上を容易に図ることができる。また、特定の層全体で誘電率が異なる構成のほか、部分的に誘電率が異なるようにも構成することができるため、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る誘電体基板の実施の形態例を図1〜図20を参照しながら説明する。
【0020】
[第1の実施の形態]
先ず、第1の実施の形態に係る誘電体基板(以下、第1誘電体基板10Aと記す)は、図1に示すように、第1誘電率ε1を有する第1セラミック焼成体12と、該第1セラミック焼成体12の周りに形成された第2誘電率ε2を有する第2セラミック焼成体14とを有する。
【0021】
第1セラミック焼成体12及び第2セラミック焼成体14は、少なくとも熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末との混合物を硬化して得られる第1セラミック成形体16と、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリーを、少なくとも第1セラミック成形体16を被覆するように供給した後に硬化して得られる第2セラミック成形体18とが焼成されて構成されている。
【0022】
そして、図2に示すように、この第1誘電体基板10Aに3つの一対の電極(第1上部電極20a、第1下部電極20b、第2上部電極22a、第2下部電極22b、第3上部電極24a、第3下部電極24b)が形成されることで、1つの第1誘電体基板10Aに3つのコンデンサC1〜C3が形成された複合コンデンサ部品26が構成されることになる。
【0023】
すなわち、第1上部電極20aと第1下部電極20bとその間の誘電体(第2誘電率ε2)による第1コンデンサC1と、第2上部電極22aと第2下部電極22bとその間の誘電体(第2誘電率ε2−第1誘電率ε1−第2誘電率ε2)による第2コンデンサC2と、第3上部電極24aと第3下部電極24bとその間の誘電体(第2誘電率ε2)による第3コンデンサC3とを有する複合コンデンサ部品26が構成されることになる。もちろん、第1コンデンサC1と第3コンデンサC3が一体化されて、第2コンデンサC2を囲む構成でもよい。
【0024】
ここで、第1誘電体基板10Aの製造方法について図3A〜図3Cを参照しながら説明する。
【0025】
先ず、図3Aに示すように、熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末を含むペースト28を印刷法によってパターン形成した後、硬化(室温硬化や乾燥硬化等)して第1セラミック成形体16を得る。
【0026】
その後、図3Bに示すように、第1セラミック成形体16を鋳込み型30内に設置し、その後、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶媒を含むゲルキャスト用スラリー(以下、スラリー32と記す)を鋳込み型30内に鋳込んだ後に、硬化(室温硬化や乾燥硬化等)することによって、図3Cに示すように、内部に第1セラミック成形体16を含む第2セラミック成形体18が得られる。なお、鋳込み型30は断面で示す構造の一部が開放されていてもスラリー32の漏洩がなければ問題ない。
【0027】
ペースト28に使用される熱硬化性樹脂前駆体は、自己反応性のレゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。
【0028】
スラリー32に使用される熱硬化性樹脂前駆体は、ポリウレタン樹脂前駆体であることが好ましい。
【0029】
なお、上述の例では、第1セラミック成形体16をペースト28を成形硬化して得るようにしたが、その他、別の鋳込み型に、熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末と溶媒を含むゲルキャスト用スラリーを鋳込んだ後に、硬化して第1セラミック成形体16を得るようにしてもよい。この場合、熱硬化性樹脂前駆体としては、ポリウレタン樹脂前駆体であることが好ましい。
【0030】
このように、第1誘電体基板10Aにおいては、スラリー32に熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、スラリー32の硬化時における乾燥収縮に伴う第1セラミック成形体16周りの部分の変形は小さい。従って、第2セラミック成形体18のうち、第1セラミック成形体16の周りの部分の変形も小さい。また、ペースト28にも熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、第1セラミック成形体16が設置された鋳込み型30内にスラリー32を注入した際に、第1セラミック成形体16がスラリー32の溶剤に容易に溶解することがなく(耐溶剤性の向上)、パターン形状の崩れは生じない。
【0031】
従って、一部誘電率が異なる第1誘電体基板10Aでありながらも、誘電率が異なる境界部分の剥がれや崩れがなく、また、内部の誘電率が異なる誘電体(第1セラミック焼成体12)の厚みを厚くでき、図2のように、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる。
【0032】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る誘電体基板(以下、第2誘電体基板10Bと記す)について図4〜図7Bを参照しながら説明する。
【0033】
この第2誘電体基板10Bは、図4に示すように、上述した第1誘電体基板10Aとほぼ同様の構成を有するが、第1セラミック焼成体12の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面(例えば下面)から露出している点で異なる。
【0034】
この場合も、図5に示すように、第2誘電体基板10Bに3つの一対の電極(第1上部電極20a、第1下部電極20b、第2上部電極22a、第2下部電極22b、第3上部電極24a、第3下部電極24b)が形成されることで、1つの第2誘電体基板10Bに3つのコンデンサC1〜C3が形成された複合コンデンサ部品26が構成されることになる。
【0035】
すなわち、第1上部電極20aと第1下部電極20bとその間の誘電体(第2誘電率ε2)による第1コンデンサC1と、第2上部電極22aと第2下部電極22bとその間の誘電体(第2誘電率ε2−第1誘電率ε1)による第2コンデンサC2と、第3上部電極24aと第3下部電極24bとその間の誘電体(第2誘電率ε2)による第3コンデンサC3とを有する複合コンデンサ部品26が構成されることになる。
【0036】
ここで、第2誘電体基板10Bの製造方法について図6A〜図7Bを参照しながら説明する。
【0037】
先ず、図6Aに示すように、フィルム34上にペースト28を印刷法によってパターン形成した後、硬化してフィルム34上に第1セラミック成形体16を形成する。フィルム34は、表面にシリコーン離型剤がコートされたPET(ポリエチレンテレフタレート)である。ペースト28の加熱硬化時における収縮、歪を抑制するために、予めフィルム34に温度150℃で10分以上のアニール処理を施すことが好ましい。
【0038】
その後、図6Bに示すように、フィルム34を鋳込み型30内に設置し、スラリー32を鋳込み型30内に鋳込んだ後に硬化する。これによって、図6Cに示すように、第1セラミック成形体16を含んだ第2セラミック成形体18が得られる。この場合、図7Aに示すように、フィルム34上に第2セラミック成形体18が設置された状態になっているため、図7Bに示すように、第2セラミック成形体18を第1セラミック成形体16ごとフィルム34から離型し、その後、焼成することによって、図4に示すように、第1セラミック焼成体12の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面から露出した第2誘電体基板10Bが得られる。
【0039】
このように、第2誘電体基板10Bにおいても、スラリー32に熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、スラリー32の硬化時における乾燥収縮に伴う第1セラミック成形体16周りの部分の変形は小さい。従って、第2セラミック成形体18のうち、第1セラミック成形体16の周りの部分の変形も小さく、第2セラミック成形体18の一主面(第1セラミック成形体16の一主面が露出された面)の平滑性も良好となる。これは、図8に示すように、第1セラミック成形体16を含む第2セラミック成形体18を複数積層してセラミック積層体21とした場合にも有利であり、隣接する第2セラミック成形体18とが密着し、隣接する第1セラミック成形体16と第2セラミック成形体18とで密着し、これらの間での剥がれは生じない。
【0040】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態に係る誘電体基板(以下、第3誘電体基板10Cと記す)について図9〜図11Bを参照しながら説明する。
【0041】
この第3誘電体基板10Cは、図9に示すように、上述した第2誘電体基板10Bとほぼ同様の構成を有するが、第1導体パターン36a及び第2導体パターン36bが少なくとも第1セラミック焼成体12に接するように形成されている点で異なる。
【0042】
具体的には、第1導体パターン36a上に第1セラミック焼成体12が形成され、該第1セラミック焼成体12上に第2導体パターン36bが形成され、これら第1導体パターン36a、第1セラミック焼成体12及び第2導体パターン36bによる積層体37を含むように第2セラミック焼成体14が形成されている。
【0043】
ここで、第3誘電体基板10Cの製造方法について図10A〜図11Bを参照しながら説明する。
【0044】
先ず、図10Aに示すように、フィルム34上に第1導体ペースト38aを印刷法によってパターン形成した後、硬化してフィルム34上に第1導体成形体40aを形成する。その後、第1導体成形体40a上にペースト28を印刷法によってパターン形成した後、硬化して第1セラミック成形体16を形成する。その後、第1セラミック成形体16上に、第2導体ペースト38bを印刷法によってパターン形成した後、硬化して第2導体成形体40bを形成する。この段階で、フィルム34上に第1導体成形体40a、第1セラミック成形体16及び第2導体成形体40bによる積層膜42が形成される。
【0045】
その後、図10Bに示すように、フィルム34を鋳込み型30内に設置し、スラリー32を鋳込み型30内に鋳込んだ後に硬化する。これによって、図10Cに示すように、積層膜42を含んだ第2セラミック成形体18が得られる。この場合、図11Aに示すように、フィルム34上に第2セラミック成形体18が設置された状態になっているため、図11Bに示すように、第2セラミック成形体18を積層膜42ごとフィルム34から離型し、その後、焼成することによって、図9に示すように、積層体37が第2セラミック焼成体14で包まれ、且つ、積層体37の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面から露出した第3誘電体基板10Cが得られる。
【0046】
このように、第3誘電体基板10Cにおいては、スラリー32に熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、スラリー32の硬化時における乾燥収縮に伴う積層膜42周りの部分の変形は小さい。従って、第2セラミック成形体18のうち、積層膜42の周りの部分の変形も小さく、第2セラミック成形体18の一主面(積層膜42の一主面が露出された面)の平滑性も良好となる。また、第1セラミック成形体16のほか、第1導体ペースト38a及び第2導体ペースト38bにも熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、積層膜42が設置された鋳込み型30内にスラリー32を注入した際に、第1導体成形体40a及び第2導体成形体40bがスラリー32の溶剤に容易に溶解することがなく(耐溶剤性の向上)、パターン形状の崩れは生じない。
【0047】
そのため、一部誘電率が異なる第3誘電体基板10Cでありながらも、誘電率が異なる境界部分の剥がれや崩れがなく、また、内部の誘電率が異なる誘電体の厚みを厚くでき、しかも、第1導体パターン36a及び第2導体パターン36bの剥がれや崩れがなく、また、第1導体パターン36a及び第2導体パターン36bの厚みを厚くでき、抵抗値の低減化、高周波特性の向上を容易に図ることができる。つまり、第3誘電体基板10Cにおいても、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる。
【0048】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態に係る誘電体基板(以下、第4誘電体基板10Dと記す)について図12〜図14Bを参照しながら説明する。
【0049】
この第4誘電体基板10Dは、図12に示すように、上述した第3誘電体基板10Cとほぼ同様の構成を有するが、積層体37が第1導体パターン36a〜第3導体パターン36cを有する多層構造となっている点で異なる。
【0050】
具体的には、第1導体パターン36a上に下部第1セラミック焼成体12aが形成され、該下部第1セラミック焼成体12a上に第2導体パターン36bが形成され、該第2導体パターン36b上に上部第1セラミック焼成体12bが形成され、該上部第1セラミック焼成体12b上に第3導体パターン36cが形成され、これら第1導体パターン36a、下部第1セラミック焼成体12a、第2導体パターン36b、上部第1セラミック焼成体12b及び第3導体パターン36cによる多層構造の積層体37を含むように第2セラミック焼成体14が形成されている。
【0051】
ここで、第4誘電体基板10Dの製造方法について図13A〜図14Bを参照しながら説明する。
【0052】
先ず、図13Aに示すように、フィルム34上に第1導体ペースト38aを印刷法によってパターン形成した後、硬化してフィルム34上に第1導体成形体40aを形成する。その後、第1導体成形体40a上に第1ペースト28aを印刷法によってパターン形成した後、硬化して下部第1セラミック成形体16aを形成する。その後、下部第1セラミック成形体16a上に、第2導体ペースト38bを印刷法によってパターン形成した後、硬化して第2導体成形体40bを形成する。その後、第2導体成形体40b上に第2ペースト28bを印刷法によってパターン形成した後、硬化して上部第1セラミック成形体16bを形成する。その後、上部第1セラミック成形体16b上に、第3導体ペースト38cを印刷法によってパターン形成した後、硬化して第3導体成形体40cを形成する。この段階で、フィルム34上に第1導体成形体40a、下部第1セラミック成形体16a、第2導体成形体40b、上部第1セラミック成形体16b及び第3導体成形体40cによる積層膜42が形成される。
【0053】
その後、図13Bに示すように、フィルム34を鋳込み型30内に設置し、スラリー32を鋳込み型30内に鋳込んだ後に硬化する。これによって、図13Cに示すように、積層膜42を含んだ第2セラミック成形体18が得られる。この場合、図14Aに示すように、フィルム34上に第2セラミック成形体18が設置された状態になっているため、図14Bに示すように、第2セラミック成形体18を積層膜42ごとフィルム34から離型し、その後、焼成することによって、図12に示すように、積層体37が第2セラミック焼成体14で包まれ、且つ、積層体37の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面から露出した第4誘電体基板10Dが得られる。
【0054】
このように、第4誘電体基板10Dにおいても、誘電率が異なる境界部分の剥がれや崩れがなく、また、内部の誘電率が異なる誘電体の厚みを厚くでき、しかも、第1導体パターン36a〜第3導体パターン36cの剥がれや崩れがなく、また、第1導体パターン36a〜第3導体パターン36cの厚みを厚くでき、抵抗値の低減化、高周波特性の向上を容易に図ることができる。なお、上部第1セラミック焼成体12bの誘電率を第1誘電率ε1や第2誘電率ε2と異なる第3誘電率ε3にしてもよい。
【0055】
ここで、鋳込み型30を用いた製造方法(第1製造方法)での各構成部材の好ましい態様について説明する。
【0056】
[第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38c:第1製造方法]
第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cとしては、バインダとしてエポキシ、フェノール等の未硬化物を含有するものが好ましいが、とりわけ、レゾール型フェノール樹脂を含有するものが好ましい。また、金属粉末については、Ag、Pd、Au、Pt、Cu、Ni、Rhといった金属の単体又は合金、金属間化合物を用いることができるが、同時焼成されるセラミック部材に要求される特性、すなわち、焼成時の酸素分圧、温度、焼成収縮温度特性を考慮し、適宜選択される。焼成収縮温度特性については金属粉末組成だけではなく、金属粉末の粒径、比表面積、凝集度によっても適宜制御される。第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38c中のバインダ分量については、例えば、Ag粉末の場合、金属粉末重量の1%〜10%の範囲を使用するが、セラミック部材の焼成収縮率、スクリーン印刷時の印刷性を考慮し、3〜6%の範囲が好ましい。
【0057】
第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cは、上述したように、印刷後、加熱硬化させるが、硬化条件は、硬化剤の種類により異なり、例えば、第1の実施の形態で使用するレゾール型フェノール樹脂の場合、120℃で10分〜60分硬化させる。
【0058】
第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cによる第1導体成形体40a〜第3導体成形体40cが形成されたフィルム34(この場合、PETフィルム)を鋳込み型30に設置するが、PETフィルムを鋳込み型30に設置する際、PETフィルムのうねりを抑制するため、所望の平行度、平坦度を有する型板に真空吸着、糊付け、静電吸着等の手段により吸着させる。
【0059】
[鋳込み型30(金型):第1製造方法]
型板は、吸着手段に応じた板部材を使用する。例えば真空吸着の場合は、金属、セラミック、樹脂等の材質は関係なく、多孔質板や吸着用孔を多数あけた板を使用し、糊付けの場合は、糊との反応性がなく、後に溶剤等で糊を拭き取る際にも変質を起こさない材質の板を使用し、静電吸着の場合は、PETと静電吸着し易い材料でできた板を使用することが好ましい。
【0060】
鋳込み型30は、内部にスラリー32が流通する経路を有し、鋳込み硬化後のスラリー32が所望の厚みの板状となるように、型板間に、積層膜42が形成されたフィルム34を設置することが好ましい。
【0061】
フィルム34は、PETフィルム、離型剤をコートした金属板・セラミック板、あるいはテフロン(登録商標)樹脂板等を用いることができる。
【0062】
そして、この鋳込み型30に、反応硬化する樹脂を含有するスラリー32を流し込み、硬化させる。
【0063】
[スラリー32:第1製造方法]
スラリー32は、用途に応じ、アルミナ、安定化ジルコニア、各種圧電セラミック材料、各種誘電セラミック材料、といった酸化物セラミックスをはじめ、シリコンナイトライド、アルミナイトライドといった窒化物セラミックス、シリコンカーバイド、タングステンカーバイドといった炭化物セラミックス粉末やバインダとしてのガラス成分を含んだセラミックス粉末を無機成分と、例えば分散剤とゲル化剤もしくはゲル化剤相互の化学反応が誘起される有機化合物とからなる。
【0064】
このスラリー32は、無機成分粉末の他、有機分散媒、ゲル化剤を含み、粘性や固化反応調整のための分散剤、触媒を含んでもよい。有機分散媒は反応性官能基を有していてよく、あるいは有していなくともよい。しかし、この有機分散媒は、反応性官能基を有することが特に好ましい。
【0065】
反応性官能基を有する有機分散媒としては、以下を例示することができる。
【0066】
すなわち、反応性官能基を有する有機分散媒は、ゲル化剤と化学結合し、スラリー32を固化可能な液状物質であること、及び鋳込みが容易な高流動性のスラリー32を形成できる液状物質であることの2つを満足する必要がある。
【0067】
ゲル化剤と化学結合し、スラリー32を固化するためには、反応性官能基、すなわち、水酸基、カルボキシル基、アミノ基のようなゲル化剤と化学結合を形成し得る官能基を分子内に有していることが必要である。分散媒は少なくとも1の反応性官能基を有するものであれば足りるが、より十分な固化状態を得るためには、2以上の反応性官能基を有する有機分散媒を使用することが好ましい。2以上の反応性官能基を有する液状物質としては、例えば多価アルコール、多塩基酸が考えられる。なお、分子内の反応性官能基は必ずしも同種の官能基である必要はなく、異なる官能基であってもよい。また、反応性官能基はポリグリセリンのように多数あってもよい。
【0068】
一方、注型が容易な高流動性のスラリー32を形成するためには、可能な限り粘性の低い液状物質を使用することが好ましく、特に、20℃における粘度が20cps以下の物質を使用することが好ましい。既述の多価アルコールや多塩基酸は水素結合の形成により粘性が高い場合があるため、たとえスラリー32を固化することが可能であっても反応性分散媒として好ましくない場合がある。従って、多塩基酸エステル、多価アルコールの酸エステル等の2以上のエステル基を有するエステル類を前記有機分散媒として使用することが好ましい。また、多価アルコールや多塩基酸も、スラリー32を大きく増粘させない程度の量であれば、強度補強のために使用することは有効である。エステル類は比較的安定ではあるものの、反応性が高いゲル化剤とであれば十分反応可能であり、粘性も低いため、上記2条件を満たすからである。特に、全体の炭素数が20以下のエステルは低粘性であるため、反応性分散媒として好適に用いることができる。
【0069】
スラリー32に含有されていてもよい反応性官能基を有する有機分散媒としては、具体的には、エステル系ノニオン、アルコールエチレンオキサイド、アミン縮合物、ノニオン系特殊アミド化合物、変性ポリエステル系化合物、カルボキシル基含有ポリマー、マレイン系ポリアニオン、ポリカルボン酸エステル、多鎖型高分子非イオン系、リン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸Na、マレイン酸系化合物を例示できる。また、非反応性分散媒としては、炭化水素、エーテル、トルエン等を例示できる。
【0070】
[ゲル化剤:第1製造方法]
スラリー32中に含有されるゲル化剤は、分散媒に含まれる反応性官能基と反応して固化反応を引き起こすものであり、以下を例示することができる。
【0071】
すなわち、ゲル化剤の20℃における粘度が3000cps以下であることが好ましい。具体的には、2以上のエステル基を有する有機分散媒と、イソシアナート基、及び/又はイソチオシアナート基を有するゲル化剤とを化学結合させることによりスラリー32を固化することが好ましい。
【0072】
具体的には、この反応性のゲル化剤は、分散媒と化学結合し、スラリー32を固化可能な物質である。従って、ゲル化剤は、分子内に、分散媒と化学反応し得る反応性官能基を有するものであればよく、例えば、モノマー、オリゴマー、架橋剤の添加により三次元的に架橋するプレポリマー(例えば、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等)等のいずれであってもよい。
【0073】
但し、反応性ゲル化剤は、スラリー32の流動性を確保する観点から、粘性が低いもの、具体的には20℃における粘度が3000cps以下の物質を使用することが好ましい。
【0074】
一般に、平均分子量が大きなプレポリマー及びポリマーは、粘性が高いため、本実施例では、これらより分子量が小さいもの、具体的には平均分子量(GPC法による)が2000以下のモノマー又はオリゴマーを使用することが好ましい。なお、ここでの「粘度」とは、ゲル化剤自体の粘度(ゲル化剤が100%の時の粘度)を意味し、市販のゲル化剤希釈溶液(例えば、ゲル化剤の水溶液等)の粘度を意味するものではない。
【0075】
ゲル化剤の反応性官能基は、反応性分散媒との反応性を考慮して適宜選択することが好ましい。例えば反応性分散媒として比較的反応性が低いエステル類を用いる場合は、反応性が高いイソシアナート基(−N=C=O)、及び/又はイソチオシアナート基(−N=C=S)を有するゲル化剤を選択することが好ましい。
【0076】
イソシアナート類は、ジオール類やジアミン類と反応させることが一般的であるが、ジオール類は既述の如く高粘性のものが多く、ジアミン類は反応性が高すぎて注型前にスラリー32が固化してしまう場合がある。
【0077】
このような観点からも、エステルからなる反応性分散媒と、イソシアナート基及び/又はイソチオシアナート基を有するゲル化剤との反応によりスラリー32を固化することが好ましく、より充分な固化状態を得るためには、2以上のエステル基を有する反応性分散媒と、イソシアナート基、及び/又はイソチオシアナート基を有するゲル化剤との反応によりスラリー32を固化することが好ましい。また、ジオール類、ジアミン類も、スラリー32を大きく増粘させない程度の量であれば、強度補強のために使用することは有効である。
【0078】
イソシアナート基及び/又はイソチオシアナート基を有するゲル化剤としては、例えば、MDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート)系イソシアナート(樹脂)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアナート)系イソシアネート(樹脂)、TDI(トリレンジイソシアナート)系イソシアナート(樹脂)、IPDI(イソホロンジイソシアナート)系イソシアナート(樹脂)、イソチオシアナート(樹脂)等を挙げることができる。
【0079】
また、反応性分散媒との相溶性等の化学的特性を考慮して、前述した基本化学構造中に他の官能基を導入することが好ましい。例えば、エステルからなる反応性分散媒と反応させる場合には、エステルとの相溶性を高めて、混合時の均質性を向上させる点から、親水性の官能基を導入することが好ましい。
【0080】
なお、ゲル化剤分子内に、イソシアナート基又はイソチオシアナート基以外の反応性官能基を含有させてもよく、イソシアナート基とイソチオシアナート基が混在してもよい。さらには、ポリイソシアナートのように、反応性官能基が多数存在してもよい。
【0081】
スラリー32には、上述した成分以外に、消泡剤、界面活性剤、焼結助剤、触媒、可塑剤、特性向上剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0082】
上述したスラリー32は、以下のように作製することができる。
【0083】
(a)分散媒に無機物粉体を分散してスラリー32とした後、ゲル化剤を添加する。
【0084】
(b)分散媒に無機物粉体及びゲル化剤を同時に添加して分散することによりスラリー32を製造する。
【0085】
注型時及び塗布時の作業性を考慮すると、20℃におけるスラリー32の粘度は30000cps以下であることが好ましく、20000cps以下であることがより好ましい。スラリー32の粘度は、既述した反応性分散媒やゲル化剤の粘度の他、粉体の種類、分散剤の量、スラリー32の濃度(スラリー32全体の体積に対する粉体体積%)によっても調整することができる。
【0086】
但し、スラリー32の濃度は、通常は、25〜75体積%のものが好ましく、乾燥収縮によるクラックを少なくすることを考慮すると、35〜75体積%のものがさらに好ましい。有機成分として分散媒、分散剤、反応硬化物、反応触媒を有する。このうち、例えば分散媒とゲル化剤もしくはゲル化剤相互の化学反応により固化する。
【0087】
上述の例では、鋳込み型30を用いて第1誘電体基板10A〜第4誘電体基板10Dを製造した例を示したが、その他、スラリー32の塗布によって第1誘電体基板10A〜第4誘電体基板10Dを製造することもできる。
【0088】
一例として、スラリー32の塗布によって第3誘電体基板10Cを製造する方法を図15A〜図17Bを参照しながら説明する。
【0089】
先ず、図15Aに示すように、基体64上に第1導体ペースト38aを印刷法によってパターン形成した後、硬化して基体64上に第1導体成形体40aを形成する。その後、第1導体成形体40a上にペースト28を印刷法によってパターン形成した後、硬化して第1セラミック成形体16を形成する。その後、第1セラミック成形体16上に、第2導体ペースト38bを印刷法によってパターン形成した後、硬化して第2導体成形体40bを形成する。この段階で、基体64上に第1導体成形体40a、第1セラミック成形体16及び第2導体成形体40bによる積層膜42が形成される。なお、基体64は、上述したフィルム34と同様に、表面にシリコーン離型剤がコートされたPET(ポリエチレンテレフタレート)を用いることができる。
【0090】
その後、図15Bに示すように、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリー32を、積層膜42を被覆するように基体64上に塗布する。塗布方法としては、ディスペンサー法や、図16A及び図16Bに示す方法やスピンコート法等がある。図16A及び図16Bに示す方法は、一対のガイド板66a及び66bの間に基体64(積層膜42が形成された基体64)を設置し、その後、スラリー32を、積層膜42を被覆するように基体64上に塗布した後、ブレード状の治具68を一対のガイド板66a及び66bの上面を滑らせて(摺り切って)、余分なスラリー32を取り除く方法である。一対のガイド板66a及び66bの高さを調整することによって、スラリー32の厚みを容易に調整することができる。
【0091】
その後、図17Aに示すように、基体64上に塗布されたスラリー32を硬化させ、さらに、図17Bに示すように、基体64を剥離、除去することによって、積層膜42を含んだ第2セラミック成形体18が得られる。この場合も、第2セラミック成形体18の一主面(積層膜42の一主面が露出された面)の平滑性は良好となる。
【0092】
そして、積層膜42を含んだ第2セラミック成形体18を焼成することによって、図9に示すように、積層体37の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面から露出した第3誘電体基板10Cが得られる。
【0093】
ここで、塗布方法を用いた製造方法(第2製造方法)での各構成部材の好ましい態様について説明する。
【0094】
[第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38c:第2製造方法]
第1製造方法と同様であるため、重複する記載を省略するが、第2製造方法における第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cは、樹脂と銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)系の金属の少なくとも1種類の粉末を含む。第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cに使用される樹脂は、熱硬化性樹脂前駆体であることが好ましい。この場合、熱硬化性樹脂前駆体は、自己反応性のレゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。
【0095】
第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cは、上述したように、印刷後、加熱硬化されるが、硬化条件は、硬化剤の種類により異なり、例えば、第2製造方法で使用するレゾール型フェノール樹脂の場合、温度80〜150℃、時間10分〜60分で硬化させることができる。
【0096】
[スラリー32:第2製造方法]
第1製造方法と同様であるため、重複する記載を省略するが、第2製造方法におけるスラリー32に含まれるセラミック粉末は、用途に応じて、アルミナ、安定化ジルコニア、各種圧電セラミック材料、各種誘電セラミック材料、といった酸化物セラミックスをはじめ、シリコンナイトライド、アルミナイトライドといった窒化物セラミックス、シリコンカーバイド、タングステンカーバイドといった炭化物セラミックス粉末やバインダとしてのガラス成分を含む。
【0097】
スラリー32に含まれる熱硬化性樹脂前駆体は、イソシアネート基又はイソチオシアネート基を有するゲル化剤と、水酸基を有する高分子とを有する。
【0098】
上述した塗布方法のうち、ディスペンサー法や図16A及び図16Bに示す方法にてスラリー32を基体64上に塗布する場合、スラリー32の粘度は比較的高いことが好ましい。スラリー32の粘度は第1製造方法と同様でもよいが、スラリー32が低粘度だと、塗布した後の保形性が低く、流動による厚みバラつきが発生し易い。そのため、スラリー32の粘度は200cps〜2000cpsが好ましい。
【0099】
そこで、水酸基を有する高分子として分子量の大きい樹脂を用いることで、スラリー32の粘度を高くできる。一例としてブチラール樹脂は分子量が大きいため、スラリー32の粘度を高くするには好適である。もちろん、高分子の分子量でスラリー32の粘度の制御が可能となることから、塗布方法に応じて、高分子として使用する樹脂を適宜選択すればよい。
【0100】
上述したブチラール樹脂は、一般に、ポリビニルアセタール樹脂であるが、その中には原料のポリビニルアルコール樹脂に由来するOH基が残るので、このOH基がゲル化剤のイソシアネート基又はイソチオシアネート基と反応するものと考えられる。
【0101】
特に、イソシアネート基又はイソチオシアネート基と反応に必要な量を超えてブチラール樹脂を添加すると、反応後に残ったブチラール樹脂は熱可塑性樹脂として作用するので、熱硬化性樹脂の欠点である、硬化後の接着性が悪くなるという特性を改善することができる。その結果、例えば図8に示すように、第2セラミック成形体18を複数積層してセラミック積層体21を構成する場合に、各第2セラミック成形体18の接着性が良好となることから、製造過程において第2セラミック成形体18が剥離するという不都合を回避でき、複数の第2セラミック成形体18のセラミック積層体21による誘電体基板の歩留まりを向上させることができる。
【0102】
水酸基を有する高分子としては、その他、エチルセルロース系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、あるいはポリエーテル系樹脂を好ましく用いることができる。
【0103】
次に、スラリーに含まれる樹脂として、熱可塑性樹脂前駆体を用いた従来の誘電体基板の問題点と、第1誘電体基板10A〜第4誘電体基板10D(以下、まとめて本実施の形態とも記す)による問題解決について説明する。なお、第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cを総称して導体ペースト38と記し、第1導体成形体40a〜第3導体成形体40cを総称して導体成形体40と記す。
【0104】
従来においては、熱可塑性樹脂を含むスラリーの乾燥収縮時に導体成形体との界面で隙間やクラックが発生したり、グリーンシートが凹凸形状になったりする。
【0105】
一方、本実施の形態では、スラリー32に熱硬化性樹脂前駆体を含ませて、乾燥時に熱硬化性樹脂前駆体を硬化させて三次元網目構造を生成させ、収縮を小さくすることで前記問題は解決される。
【0106】
この場合、スラリー32に使用する溶剤に、熱硬化性樹脂前駆体が硬化する温度での蒸気圧が小さいものを選定し、熱硬化時の溶剤乾燥による収縮を小さくすることが望ましい。室温で硬化する樹脂を用いた場合は、特に作業や装置が簡単になる。
【0107】
ポリウレタン樹脂は、硬化後の弾性を制御し易く、柔軟な成形体も可能となる等の利点を有する。後工程での取り扱いを考えると、あまり硬い成形体は適さない場合があり、熱硬化性樹脂は三次元網目構造をとるので一般に硬いが、ポリウレタン樹脂は、柔軟性のある成形体も可能で、特にテープ状の成形体は、柔軟性が要求される場合が多いため望ましい。また、スラリー性状の制御のため、熱可塑性樹脂を含ませてもよい。
【0108】
従来においては、熱可塑性樹脂を含むペーストや導体ペーストが、スラリーを塗布する際に、スラリーの溶剤に溶解して、パターン形状が崩れる。
【0109】
一方、本実施の形態においては、ペースト28や導体ペースト38に熱硬化性樹脂前駆体を含ませているため、耐溶剤性が向上し、パターン形状の崩れは生じない。
【0110】
熱硬化性樹脂前駆体は、硬化後は三次元の網目構造となり、元に戻らないため、硬化後は、溶剤への再溶解性がなくなり、一般に、熱可塑性樹脂よりも耐溶剤性が高い。
【0111】
熱硬化性樹脂前駆体の中では、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂が硬化前プレポリマーの分子量の制御ができ、ペースト性状のコントロールが可能なため、好適である。なお、熱可塑性樹脂をペースト性状の制御のために、熱硬化性樹脂と一緒に含めるようにしてもよい。
【0112】
特に、エポキシ樹脂、フェノール樹脂は、硬化剤が必要なく、加熱するだけで硬化するタイプがあり、導体ペースト38の効率的な使用に適する。つまり、硬化剤の添加が必要な他の熱硬化性樹脂前駆体は、ペースト28や導体ペースト38を印刷する前に、硬化剤を混合する必要があるが、混合すると保存がきかない。従って、印刷後に残ったペースト28や導体ペースト38を回収して保存する必要のある印刷法によってペースト28や導体ペースト38を印刷する場合は、硬化剤を混合する必要がない熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型フェノール樹脂が好適である。
【0113】
従来において、熱可塑性樹脂をバインダとするセラミック成形体は、該セラミック成形体の密度ばらつきが発生し易く、そのために、焼成後のセラミック焼成体の寸法ばらつきが大きく、埋設された導体成形体の焼成寸法のばらつきも大きくなる。
【0114】
一方、本実施の形態においては、熱硬化性樹脂前駆体をバインダに使用して第1セラミック成形体16や導体成形体40を埋設した第2セラミック成形体18を得ることにより、焼成ばらつきを小さくすることができる。
【0115】
例えば第2セラミック成形体18の焼成後の寸法は、第2セラミック成形体18のうち、第1セラミック成形体16や導体成形体40を除く部分の生密度により主に決まる。これは第2セラミック焼成体14の構造は空隙が非常に少ないのに対し、第2セラミック成形体18の上記部分は空隙が多いため、その空隙量の多少が、焼成中の収縮量を決めるからである。
【0116】
従来の熱可塑性樹脂をバインダとして含むスラリーは、溶媒を乾燥してセラミック成形体を得るが、乾燥する際の塗工比(スラリー体積と成形後の成形体体積の比)が大きく、この大きな塗工比が成形体密度のばらつきの原因となる。
【0117】
しかし、本実施の形態のように、熱硬化性樹脂前駆体をスラリー32のバインダとして使用した場合は、溶剤を含んだままでも硬化するため、塗工比を小さくすることができ、生密度のばらつきを小さくすることができる。その結果、焼成後の寸法ばらつきが小さくなり、埋設した第1セラミック成形体16や導体成形体40の寸法ばらつきも小さくすることができる。
【0118】
なお、本発明に係る誘電体基板は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】第1誘電体基板を示す断面図である。
【図2】第1誘電体基板を使用して複合コンデンサ部品を構成した例を示す断面図である。
【図3】図3Aはペーストによる第1セラミック成形体を形成した状態を示す断面図であり、図3Bは鋳込み型内に第1セラミック成形体を設置した後、鋳込み型内にスラリーを注入した状態を示す断面図であり、図3Cは鋳込み型内に注入されたスラリーを硬化して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図4】第2誘電体基板を示す断面図である。
【図5】第2誘電体基板を使用して複合コンデンサ部品を構成した例を示す断面図である。
【図6】図6Aはフィルム上にペーストによる第1セラミック成形体を形成した状態を示す断面図であり、図6Bは鋳込み型内にフィルムを設置した後、鋳込み型内にスラリーを注入した状態を示す断面図であり、図6Cは鋳込み型内に注入されたスラリーを硬化して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図7】図7Aは鋳込み型から第2セラミック成形体をフィルムごと離型した状態を示す断面図であり、図7Bはフィルムから第2セラミック成形体を第1セラミック成形体と共に離型した状態を示す断面図である。
【図8】セラミック積層体を示す断面図である。
【図9】第3誘電体基板を示す断面図である。
【図10】図10Aはフィルム上に積層膜を形成した状態を示す断面図であり、図10Bは鋳込み型内にフィルムを設置した後、鋳込み型内にスラリーを注入した状態を示す断面図であり、図10Cは鋳込み型内に注入されたスラリーを硬化して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図11】図11Aは鋳込み型から第2セラミック成形体をフィルムごと離型した状態を示す断面図であり、図11Bはフィルムから第2セラミック成形体を積層膜と共に離型した状態を示す断面図である。
【図12】第4誘電体基板を示す断面図である。
【図13】図13Aはフィルム上に積層膜を形成した状態を示す断面図であり、図13Bは鋳込み型内にフィルムを設置した後、鋳込み型内にスラリーを注入した状態を示す断面図であり、図13Cは鋳込み型内に注入されたスラリーを硬化して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図14】図14Aは鋳込み型から第2セラミック成形体をフィルムごと離型した状態を示す断面図であり、図14Bはフィルムから第2セラミック成形体を積層膜と共に離型した状態を示す断面図である。
【図15】図15Aは基体上に積層膜を形成した状態を示す断面図であり、図15Bは積層膜を被覆するように基体上にスラリーを塗布した状態を示す断面図である。
【図16】図16Aは基体上にスラリーを塗布する方法の一例を示す斜視図であり、図16Bはその側面図である。
【図17】図17Aは基体上に塗布したスラリーを硬化した状態を示す断面図であり、図17Bは基体を剥離して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図18】図18Aは第1グリーンシート上に積層膜を形成した状態を示す断面図であり、図18Bは別の第1グリーンシートを積層する状態を示す断面図である。
【図19】積層膜の周辺に剥がれが生じた状態を示す説明図である。
【図20】同一面積のグリーンシートを3層構造にした状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0120】
10A〜10D…第1誘電体基板〜第4誘電体基板
12…第1セラミック焼成体
14…第2セラミック焼成体
16…第1セラミック成形体
18…第2セラミック成形体
21…セラミック積層体
28…ペースト
30…鋳込み型
32…スラリー
34…フィルム
36a…第1導体パターン
36b…第2導体パターン
37…積層体
38a…第1導体ペースト
38b…第2導体ペースト
40a…第1導体成形体
40b…第2導体成形体
42…積層膜
64…基体
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部誘電率が異なる誘電体基板に関し、誘電率の違いを利用したコンデンサ等の電子部品や高周波回路等に用いて好適な誘電体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一部誘電率が異なる誘電体基板を使用した電子部品としては、例えば特許文献1〜3が提案されている。
【0003】
特許文献1は、分波回路を誘電体基板中に一体的に形成し、誘電体基板のうち、受信側フィルタ及び送信側フィルタを有する部分を高誘電率材料(例えば誘電率εr=80)で形成し、分波回路を有する部分を低誘電率材料(例えば誘電率εr=25)で形成する例が開示されている。この特許文献1によれば、フィルタを構成する共振器のほか、分波回路を構成する集中定数素子の小型化を図ることができる。
【0004】
特許文献2は、上側接地電極誘電体基板、段間結合容量誘電体基板、共振器誘電体基板、入出力結合容量誘電体基板を共にそれぞれ異なる誘電率を有する誘電体材料、すなわち高い比誘電率を有する第1の誘電体材料及び低い比誘電率を有する第2の誘電体材料よりなる複合誘電体基板で構成することが開示されている。この特許文献2によれば、低損失の誘電体フィルタを提供することができる。
【0005】
特許文献3は、以下の点が記載されている。すなわち、複数の誘電体膜からなる第1の多層誘電体膜上に、比誘電率及び膜厚が誘電体膜のそれらと異なる誘電体膜からなる第2の多層誘電体膜が形成されている。該第2の多層誘電体膜上にアンテナ素子が形成されている。該アンテナ素子の接地導体が、第1の多層誘電体膜の膜間に形成されている。該接地導体のアンテナ素子とは反対側に、ストリップ状導体が形成されている。該ストリップ状導体に入力した信号は、上記接地導体に形成されたスロットを介して、アンテナ素子と電磁界的に結合して、該アンテナ素子を励振する。この引用文献3によれば、広い周波数範囲の中から任意で、且つ、複数の動作周波数に対して、各アンテナがそれぞれ最適な誘電体基板厚を有し、良好に動作できるマルチバンドマイクロストリップアンテナを実現することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2000−223910号公報
【特許文献2】特開2002−280805号公報
【特許文献3】特開平9−51224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一部誘電率が異なる誘電体基板を構成する場合、例えば図18A及び図18Bに示す方法が考えられる。
【0008】
すなわち、図18Aに示すように、第1誘電率を有する第1セラミック粉末と樹脂を含む第1グリーンシート100上に下部導体パターン102aを印刷によって形成し、その上に、第2誘電率を有する第2セラミック粉末と樹脂を含む第2グリーンシート104を積層し、さらに、その上に、上部導体パターン102bを印刷によって形成する。
【0009】
その後、図18Bに示すように、全面に別の第1グリーンシート100を積層し、その後、加圧して焼成することにより、一対の電極で挟まれた部分とそれ以外の部分で誘電率が異なる誘電体基板を得ることができる。
【0010】
しかし、この方法の場合、図19に示すように、下部導体パターン102a、第2グリーンシート104及び上部導体パターン102bを含む積層膜106が第1グリーンシート上において凸形状に形成されるため、別の第1グリーンシート100を積層する際に、積層膜42の周縁近傍に圧力がかからず、積層した後に、剥がれが生じたり、積層膜42の端部がつぶれてしまい、上部導体パターン102bの電気的特性を劣化させる。また、これらの問題のために、下部導体パターン102a、第2グリーンシート104及び上部導体パターン102bの厚みを厚くできないため、一対の電極とその間に存在する誘電体からなるコンデンサの容量値の調整幅や抵抗値を下げるのに限界が生じ、また、高周波回路に適用した場合に、高周波特性の向上にも限界が生じるという問題がある。
【0011】
そこで、図20に示すように、同じ面積を有する第1グリーンシート100、第2グリーンシート104及び第1グリーンシート100を積層して3層構造とし、第1グリーンシート100と第2グリーンシート104との間にそれぞれ下部導体パターン102aと上部導体パターン102bを介在させることが考えられる。これにより、少なくとも第2グリーンシート104による凸形状の形成が回避でき、剥がれの頻度を低減することができる。しかし、依然下部導体パターン102a及び上部導体パターン102bの厚みを厚くできないため、低抵抗化ができないという問題は残る。
【0012】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、一部誘電率が異なる誘電体基板でありながらも、誘電率が異なる境界部分の剥がれや崩れがなく、また、内部の誘電率が異なる誘電体の厚みを厚くでき、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる誘電体基板を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明の他の目的は、一部誘電率が異なる誘電体基板でありながらも、導体パターンの剥がれや崩れがなく、また、導体パターンの厚みを厚くでき、抵抗値の低減化、高周波特性の向上を容易に図ることができ、しかも、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる誘電体基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る誘電体基板は、一部誘電率の異なる誘電体基板において、少なくとも熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末との混合物を硬化して得られる第1セラミック成形体と、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリーを、少なくとも前記第1セラミック成形体を被覆するように供給した後に硬化して得られる第2セラミック成形体とが焼成されて構成されていることを特徴とする。
【0015】
そして、本発明において、前記第1セラミック成形体は、熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末を含むペーストを所定の形状に成形した後、硬化して得られるようにしてもよい。この場合、前記第1セラミック成形体は、基体上に前記ペーストをパターン形成し、その後、硬化してなるようにしてもよい。前記第2セラミック成形体は、前記基体上に成形された前記第1セラミック成形体を被覆するように塗布した後に硬化して得られるようにしてもよい。
【0016】
また、本発明において、前記混合物に含まれる熱硬化性樹脂前駆体は、フェノール樹脂又はポリウレタン樹脂前駆体であってもよい。また、前記スラリーに含まれる前記熱硬化性樹脂前駆体は、ポリウレタン樹脂前駆体であってもよい。
【0017】
また、本発明において、前記第2セラミック成形体は、前記スラリーを前記第1セラミック成形体と導体成形体とを被覆するように供給した後に硬化して得られるようにしてもよい。この場合、前記導体成形体は、少なくとも前記第1セラミック成形体に接するように形成されていてもよい。また、前記導体成形体は、熱硬化性樹脂前駆体と銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)系の金属の少なくとも1種類の粉末を含む導体ペーストをパターン形成し、その後、硬化してなるようにしてもよい。前記導体ペーストに含まれる前記熱硬化性樹脂前駆体は、フェノール樹脂であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明に係る誘電体基板によれば、一部誘電率が異なる誘電体基板でありながらも、導体パターンの剥がれや崩れがなく、また、導体パターンの厚みを厚くでき、抵抗値の低減化、高周波特性の向上を容易に図ることができる。また、特定の層全体で誘電率が異なる構成のほか、部分的に誘電率が異なるようにも構成することができるため、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る誘電体基板の実施の形態例を図1〜図20を参照しながら説明する。
【0020】
[第1の実施の形態]
先ず、第1の実施の形態に係る誘電体基板(以下、第1誘電体基板10Aと記す)は、図1に示すように、第1誘電率ε1を有する第1セラミック焼成体12と、該第1セラミック焼成体12の周りに形成された第2誘電率ε2を有する第2セラミック焼成体14とを有する。
【0021】
第1セラミック焼成体12及び第2セラミック焼成体14は、少なくとも熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末との混合物を硬化して得られる第1セラミック成形体16と、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリーを、少なくとも第1セラミック成形体16を被覆するように供給した後に硬化して得られる第2セラミック成形体18とが焼成されて構成されている。
【0022】
そして、図2に示すように、この第1誘電体基板10Aに3つの一対の電極(第1上部電極20a、第1下部電極20b、第2上部電極22a、第2下部電極22b、第3上部電極24a、第3下部電極24b)が形成されることで、1つの第1誘電体基板10Aに3つのコンデンサC1〜C3が形成された複合コンデンサ部品26が構成されることになる。
【0023】
すなわち、第1上部電極20aと第1下部電極20bとその間の誘電体(第2誘電率ε2)による第1コンデンサC1と、第2上部電極22aと第2下部電極22bとその間の誘電体(第2誘電率ε2−第1誘電率ε1−第2誘電率ε2)による第2コンデンサC2と、第3上部電極24aと第3下部電極24bとその間の誘電体(第2誘電率ε2)による第3コンデンサC3とを有する複合コンデンサ部品26が構成されることになる。もちろん、第1コンデンサC1と第3コンデンサC3が一体化されて、第2コンデンサC2を囲む構成でもよい。
【0024】
ここで、第1誘電体基板10Aの製造方法について図3A〜図3Cを参照しながら説明する。
【0025】
先ず、図3Aに示すように、熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末を含むペースト28を印刷法によってパターン形成した後、硬化(室温硬化や乾燥硬化等)して第1セラミック成形体16を得る。
【0026】
その後、図3Bに示すように、第1セラミック成形体16を鋳込み型30内に設置し、その後、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶媒を含むゲルキャスト用スラリー(以下、スラリー32と記す)を鋳込み型30内に鋳込んだ後に、硬化(室温硬化や乾燥硬化等)することによって、図3Cに示すように、内部に第1セラミック成形体16を含む第2セラミック成形体18が得られる。なお、鋳込み型30は断面で示す構造の一部が開放されていてもスラリー32の漏洩がなければ問題ない。
【0027】
ペースト28に使用される熱硬化性樹脂前駆体は、自己反応性のレゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。
【0028】
スラリー32に使用される熱硬化性樹脂前駆体は、ポリウレタン樹脂前駆体であることが好ましい。
【0029】
なお、上述の例では、第1セラミック成形体16をペースト28を成形硬化して得るようにしたが、その他、別の鋳込み型に、熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末と溶媒を含むゲルキャスト用スラリーを鋳込んだ後に、硬化して第1セラミック成形体16を得るようにしてもよい。この場合、熱硬化性樹脂前駆体としては、ポリウレタン樹脂前駆体であることが好ましい。
【0030】
このように、第1誘電体基板10Aにおいては、スラリー32に熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、スラリー32の硬化時における乾燥収縮に伴う第1セラミック成形体16周りの部分の変形は小さい。従って、第2セラミック成形体18のうち、第1セラミック成形体16の周りの部分の変形も小さい。また、ペースト28にも熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、第1セラミック成形体16が設置された鋳込み型30内にスラリー32を注入した際に、第1セラミック成形体16がスラリー32の溶剤に容易に溶解することがなく(耐溶剤性の向上)、パターン形状の崩れは生じない。
【0031】
従って、一部誘電率が異なる第1誘電体基板10Aでありながらも、誘電率が異なる境界部分の剥がれや崩れがなく、また、内部の誘電率が異なる誘電体(第1セラミック焼成体12)の厚みを厚くでき、図2のように、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる。
【0032】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る誘電体基板(以下、第2誘電体基板10Bと記す)について図4〜図7Bを参照しながら説明する。
【0033】
この第2誘電体基板10Bは、図4に示すように、上述した第1誘電体基板10Aとほぼ同様の構成を有するが、第1セラミック焼成体12の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面(例えば下面)から露出している点で異なる。
【0034】
この場合も、図5に示すように、第2誘電体基板10Bに3つの一対の電極(第1上部電極20a、第1下部電極20b、第2上部電極22a、第2下部電極22b、第3上部電極24a、第3下部電極24b)が形成されることで、1つの第2誘電体基板10Bに3つのコンデンサC1〜C3が形成された複合コンデンサ部品26が構成されることになる。
【0035】
すなわち、第1上部電極20aと第1下部電極20bとその間の誘電体(第2誘電率ε2)による第1コンデンサC1と、第2上部電極22aと第2下部電極22bとその間の誘電体(第2誘電率ε2−第1誘電率ε1)による第2コンデンサC2と、第3上部電極24aと第3下部電極24bとその間の誘電体(第2誘電率ε2)による第3コンデンサC3とを有する複合コンデンサ部品26が構成されることになる。
【0036】
ここで、第2誘電体基板10Bの製造方法について図6A〜図7Bを参照しながら説明する。
【0037】
先ず、図6Aに示すように、フィルム34上にペースト28を印刷法によってパターン形成した後、硬化してフィルム34上に第1セラミック成形体16を形成する。フィルム34は、表面にシリコーン離型剤がコートされたPET(ポリエチレンテレフタレート)である。ペースト28の加熱硬化時における収縮、歪を抑制するために、予めフィルム34に温度150℃で10分以上のアニール処理を施すことが好ましい。
【0038】
その後、図6Bに示すように、フィルム34を鋳込み型30内に設置し、スラリー32を鋳込み型30内に鋳込んだ後に硬化する。これによって、図6Cに示すように、第1セラミック成形体16を含んだ第2セラミック成形体18が得られる。この場合、図7Aに示すように、フィルム34上に第2セラミック成形体18が設置された状態になっているため、図7Bに示すように、第2セラミック成形体18を第1セラミック成形体16ごとフィルム34から離型し、その後、焼成することによって、図4に示すように、第1セラミック焼成体12の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面から露出した第2誘電体基板10Bが得られる。
【0039】
このように、第2誘電体基板10Bにおいても、スラリー32に熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、スラリー32の硬化時における乾燥収縮に伴う第1セラミック成形体16周りの部分の変形は小さい。従って、第2セラミック成形体18のうち、第1セラミック成形体16の周りの部分の変形も小さく、第2セラミック成形体18の一主面(第1セラミック成形体16の一主面が露出された面)の平滑性も良好となる。これは、図8に示すように、第1セラミック成形体16を含む第2セラミック成形体18を複数積層してセラミック積層体21とした場合にも有利であり、隣接する第2セラミック成形体18とが密着し、隣接する第1セラミック成形体16と第2セラミック成形体18とで密着し、これらの間での剥がれは生じない。
【0040】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態に係る誘電体基板(以下、第3誘電体基板10Cと記す)について図9〜図11Bを参照しながら説明する。
【0041】
この第3誘電体基板10Cは、図9に示すように、上述した第2誘電体基板10Bとほぼ同様の構成を有するが、第1導体パターン36a及び第2導体パターン36bが少なくとも第1セラミック焼成体12に接するように形成されている点で異なる。
【0042】
具体的には、第1導体パターン36a上に第1セラミック焼成体12が形成され、該第1セラミック焼成体12上に第2導体パターン36bが形成され、これら第1導体パターン36a、第1セラミック焼成体12及び第2導体パターン36bによる積層体37を含むように第2セラミック焼成体14が形成されている。
【0043】
ここで、第3誘電体基板10Cの製造方法について図10A〜図11Bを参照しながら説明する。
【0044】
先ず、図10Aに示すように、フィルム34上に第1導体ペースト38aを印刷法によってパターン形成した後、硬化してフィルム34上に第1導体成形体40aを形成する。その後、第1導体成形体40a上にペースト28を印刷法によってパターン形成した後、硬化して第1セラミック成形体16を形成する。その後、第1セラミック成形体16上に、第2導体ペースト38bを印刷法によってパターン形成した後、硬化して第2導体成形体40bを形成する。この段階で、フィルム34上に第1導体成形体40a、第1セラミック成形体16及び第2導体成形体40bによる積層膜42が形成される。
【0045】
その後、図10Bに示すように、フィルム34を鋳込み型30内に設置し、スラリー32を鋳込み型30内に鋳込んだ後に硬化する。これによって、図10Cに示すように、積層膜42を含んだ第2セラミック成形体18が得られる。この場合、図11Aに示すように、フィルム34上に第2セラミック成形体18が設置された状態になっているため、図11Bに示すように、第2セラミック成形体18を積層膜42ごとフィルム34から離型し、その後、焼成することによって、図9に示すように、積層体37が第2セラミック焼成体14で包まれ、且つ、積層体37の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面から露出した第3誘電体基板10Cが得られる。
【0046】
このように、第3誘電体基板10Cにおいては、スラリー32に熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、スラリー32の硬化時における乾燥収縮に伴う積層膜42周りの部分の変形は小さい。従って、第2セラミック成形体18のうち、積層膜42の周りの部分の変形も小さく、第2セラミック成形体18の一主面(積層膜42の一主面が露出された面)の平滑性も良好となる。また、第1セラミック成形体16のほか、第1導体ペースト38a及び第2導体ペースト38bにも熱硬化性樹脂前駆体を含んでいるため、積層膜42が設置された鋳込み型30内にスラリー32を注入した際に、第1導体成形体40a及び第2導体成形体40bがスラリー32の溶剤に容易に溶解することがなく(耐溶剤性の向上)、パターン形状の崩れは生じない。
【0047】
そのため、一部誘電率が異なる第3誘電体基板10Cでありながらも、誘電率が異なる境界部分の剥がれや崩れがなく、また、内部の誘電率が異なる誘電体の厚みを厚くでき、しかも、第1導体パターン36a及び第2導体パターン36bの剥がれや崩れがなく、また、第1導体パターン36a及び第2導体パターン36bの厚みを厚くでき、抵抗値の低減化、高周波特性の向上を容易に図ることができる。つまり、第3誘電体基板10Cにおいても、回路基板や回路部品に使用した場合の構造設計や回路設計の自由度を向上させることができる。
【0048】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態に係る誘電体基板(以下、第4誘電体基板10Dと記す)について図12〜図14Bを参照しながら説明する。
【0049】
この第4誘電体基板10Dは、図12に示すように、上述した第3誘電体基板10Cとほぼ同様の構成を有するが、積層体37が第1導体パターン36a〜第3導体パターン36cを有する多層構造となっている点で異なる。
【0050】
具体的には、第1導体パターン36a上に下部第1セラミック焼成体12aが形成され、該下部第1セラミック焼成体12a上に第2導体パターン36bが形成され、該第2導体パターン36b上に上部第1セラミック焼成体12bが形成され、該上部第1セラミック焼成体12b上に第3導体パターン36cが形成され、これら第1導体パターン36a、下部第1セラミック焼成体12a、第2導体パターン36b、上部第1セラミック焼成体12b及び第3導体パターン36cによる多層構造の積層体37を含むように第2セラミック焼成体14が形成されている。
【0051】
ここで、第4誘電体基板10Dの製造方法について図13A〜図14Bを参照しながら説明する。
【0052】
先ず、図13Aに示すように、フィルム34上に第1導体ペースト38aを印刷法によってパターン形成した後、硬化してフィルム34上に第1導体成形体40aを形成する。その後、第1導体成形体40a上に第1ペースト28aを印刷法によってパターン形成した後、硬化して下部第1セラミック成形体16aを形成する。その後、下部第1セラミック成形体16a上に、第2導体ペースト38bを印刷法によってパターン形成した後、硬化して第2導体成形体40bを形成する。その後、第2導体成形体40b上に第2ペースト28bを印刷法によってパターン形成した後、硬化して上部第1セラミック成形体16bを形成する。その後、上部第1セラミック成形体16b上に、第3導体ペースト38cを印刷法によってパターン形成した後、硬化して第3導体成形体40cを形成する。この段階で、フィルム34上に第1導体成形体40a、下部第1セラミック成形体16a、第2導体成形体40b、上部第1セラミック成形体16b及び第3導体成形体40cによる積層膜42が形成される。
【0053】
その後、図13Bに示すように、フィルム34を鋳込み型30内に設置し、スラリー32を鋳込み型30内に鋳込んだ後に硬化する。これによって、図13Cに示すように、積層膜42を含んだ第2セラミック成形体18が得られる。この場合、図14Aに示すように、フィルム34上に第2セラミック成形体18が設置された状態になっているため、図14Bに示すように、第2セラミック成形体18を積層膜42ごとフィルム34から離型し、その後、焼成することによって、図12に示すように、積層体37が第2セラミック焼成体14で包まれ、且つ、積層体37の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面から露出した第4誘電体基板10Dが得られる。
【0054】
このように、第4誘電体基板10Dにおいても、誘電率が異なる境界部分の剥がれや崩れがなく、また、内部の誘電率が異なる誘電体の厚みを厚くでき、しかも、第1導体パターン36a〜第3導体パターン36cの剥がれや崩れがなく、また、第1導体パターン36a〜第3導体パターン36cの厚みを厚くでき、抵抗値の低減化、高周波特性の向上を容易に図ることができる。なお、上部第1セラミック焼成体12bの誘電率を第1誘電率ε1や第2誘電率ε2と異なる第3誘電率ε3にしてもよい。
【0055】
ここで、鋳込み型30を用いた製造方法(第1製造方法)での各構成部材の好ましい態様について説明する。
【0056】
[第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38c:第1製造方法]
第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cとしては、バインダとしてエポキシ、フェノール等の未硬化物を含有するものが好ましいが、とりわけ、レゾール型フェノール樹脂を含有するものが好ましい。また、金属粉末については、Ag、Pd、Au、Pt、Cu、Ni、Rhといった金属の単体又は合金、金属間化合物を用いることができるが、同時焼成されるセラミック部材に要求される特性、すなわち、焼成時の酸素分圧、温度、焼成収縮温度特性を考慮し、適宜選択される。焼成収縮温度特性については金属粉末組成だけではなく、金属粉末の粒径、比表面積、凝集度によっても適宜制御される。第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38c中のバインダ分量については、例えば、Ag粉末の場合、金属粉末重量の1%〜10%の範囲を使用するが、セラミック部材の焼成収縮率、スクリーン印刷時の印刷性を考慮し、3〜6%の範囲が好ましい。
【0057】
第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cは、上述したように、印刷後、加熱硬化させるが、硬化条件は、硬化剤の種類により異なり、例えば、第1の実施の形態で使用するレゾール型フェノール樹脂の場合、120℃で10分〜60分硬化させる。
【0058】
第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cによる第1導体成形体40a〜第3導体成形体40cが形成されたフィルム34(この場合、PETフィルム)を鋳込み型30に設置するが、PETフィルムを鋳込み型30に設置する際、PETフィルムのうねりを抑制するため、所望の平行度、平坦度を有する型板に真空吸着、糊付け、静電吸着等の手段により吸着させる。
【0059】
[鋳込み型30(金型):第1製造方法]
型板は、吸着手段に応じた板部材を使用する。例えば真空吸着の場合は、金属、セラミック、樹脂等の材質は関係なく、多孔質板や吸着用孔を多数あけた板を使用し、糊付けの場合は、糊との反応性がなく、後に溶剤等で糊を拭き取る際にも変質を起こさない材質の板を使用し、静電吸着の場合は、PETと静電吸着し易い材料でできた板を使用することが好ましい。
【0060】
鋳込み型30は、内部にスラリー32が流通する経路を有し、鋳込み硬化後のスラリー32が所望の厚みの板状となるように、型板間に、積層膜42が形成されたフィルム34を設置することが好ましい。
【0061】
フィルム34は、PETフィルム、離型剤をコートした金属板・セラミック板、あるいはテフロン(登録商標)樹脂板等を用いることができる。
【0062】
そして、この鋳込み型30に、反応硬化する樹脂を含有するスラリー32を流し込み、硬化させる。
【0063】
[スラリー32:第1製造方法]
スラリー32は、用途に応じ、アルミナ、安定化ジルコニア、各種圧電セラミック材料、各種誘電セラミック材料、といった酸化物セラミックスをはじめ、シリコンナイトライド、アルミナイトライドといった窒化物セラミックス、シリコンカーバイド、タングステンカーバイドといった炭化物セラミックス粉末やバインダとしてのガラス成分を含んだセラミックス粉末を無機成分と、例えば分散剤とゲル化剤もしくはゲル化剤相互の化学反応が誘起される有機化合物とからなる。
【0064】
このスラリー32は、無機成分粉末の他、有機分散媒、ゲル化剤を含み、粘性や固化反応調整のための分散剤、触媒を含んでもよい。有機分散媒は反応性官能基を有していてよく、あるいは有していなくともよい。しかし、この有機分散媒は、反応性官能基を有することが特に好ましい。
【0065】
反応性官能基を有する有機分散媒としては、以下を例示することができる。
【0066】
すなわち、反応性官能基を有する有機分散媒は、ゲル化剤と化学結合し、スラリー32を固化可能な液状物質であること、及び鋳込みが容易な高流動性のスラリー32を形成できる液状物質であることの2つを満足する必要がある。
【0067】
ゲル化剤と化学結合し、スラリー32を固化するためには、反応性官能基、すなわち、水酸基、カルボキシル基、アミノ基のようなゲル化剤と化学結合を形成し得る官能基を分子内に有していることが必要である。分散媒は少なくとも1の反応性官能基を有するものであれば足りるが、より十分な固化状態を得るためには、2以上の反応性官能基を有する有機分散媒を使用することが好ましい。2以上の反応性官能基を有する液状物質としては、例えば多価アルコール、多塩基酸が考えられる。なお、分子内の反応性官能基は必ずしも同種の官能基である必要はなく、異なる官能基であってもよい。また、反応性官能基はポリグリセリンのように多数あってもよい。
【0068】
一方、注型が容易な高流動性のスラリー32を形成するためには、可能な限り粘性の低い液状物質を使用することが好ましく、特に、20℃における粘度が20cps以下の物質を使用することが好ましい。既述の多価アルコールや多塩基酸は水素結合の形成により粘性が高い場合があるため、たとえスラリー32を固化することが可能であっても反応性分散媒として好ましくない場合がある。従って、多塩基酸エステル、多価アルコールの酸エステル等の2以上のエステル基を有するエステル類を前記有機分散媒として使用することが好ましい。また、多価アルコールや多塩基酸も、スラリー32を大きく増粘させない程度の量であれば、強度補強のために使用することは有効である。エステル類は比較的安定ではあるものの、反応性が高いゲル化剤とであれば十分反応可能であり、粘性も低いため、上記2条件を満たすからである。特に、全体の炭素数が20以下のエステルは低粘性であるため、反応性分散媒として好適に用いることができる。
【0069】
スラリー32に含有されていてもよい反応性官能基を有する有機分散媒としては、具体的には、エステル系ノニオン、アルコールエチレンオキサイド、アミン縮合物、ノニオン系特殊アミド化合物、変性ポリエステル系化合物、カルボキシル基含有ポリマー、マレイン系ポリアニオン、ポリカルボン酸エステル、多鎖型高分子非イオン系、リン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸Na、マレイン酸系化合物を例示できる。また、非反応性分散媒としては、炭化水素、エーテル、トルエン等を例示できる。
【0070】
[ゲル化剤:第1製造方法]
スラリー32中に含有されるゲル化剤は、分散媒に含まれる反応性官能基と反応して固化反応を引き起こすものであり、以下を例示することができる。
【0071】
すなわち、ゲル化剤の20℃における粘度が3000cps以下であることが好ましい。具体的には、2以上のエステル基を有する有機分散媒と、イソシアナート基、及び/又はイソチオシアナート基を有するゲル化剤とを化学結合させることによりスラリー32を固化することが好ましい。
【0072】
具体的には、この反応性のゲル化剤は、分散媒と化学結合し、スラリー32を固化可能な物質である。従って、ゲル化剤は、分子内に、分散媒と化学反応し得る反応性官能基を有するものであればよく、例えば、モノマー、オリゴマー、架橋剤の添加により三次元的に架橋するプレポリマー(例えば、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等)等のいずれであってもよい。
【0073】
但し、反応性ゲル化剤は、スラリー32の流動性を確保する観点から、粘性が低いもの、具体的には20℃における粘度が3000cps以下の物質を使用することが好ましい。
【0074】
一般に、平均分子量が大きなプレポリマー及びポリマーは、粘性が高いため、本実施例では、これらより分子量が小さいもの、具体的には平均分子量(GPC法による)が2000以下のモノマー又はオリゴマーを使用することが好ましい。なお、ここでの「粘度」とは、ゲル化剤自体の粘度(ゲル化剤が100%の時の粘度)を意味し、市販のゲル化剤希釈溶液(例えば、ゲル化剤の水溶液等)の粘度を意味するものではない。
【0075】
ゲル化剤の反応性官能基は、反応性分散媒との反応性を考慮して適宜選択することが好ましい。例えば反応性分散媒として比較的反応性が低いエステル類を用いる場合は、反応性が高いイソシアナート基(−N=C=O)、及び/又はイソチオシアナート基(−N=C=S)を有するゲル化剤を選択することが好ましい。
【0076】
イソシアナート類は、ジオール類やジアミン類と反応させることが一般的であるが、ジオール類は既述の如く高粘性のものが多く、ジアミン類は反応性が高すぎて注型前にスラリー32が固化してしまう場合がある。
【0077】
このような観点からも、エステルからなる反応性分散媒と、イソシアナート基及び/又はイソチオシアナート基を有するゲル化剤との反応によりスラリー32を固化することが好ましく、より充分な固化状態を得るためには、2以上のエステル基を有する反応性分散媒と、イソシアナート基、及び/又はイソチオシアナート基を有するゲル化剤との反応によりスラリー32を固化することが好ましい。また、ジオール類、ジアミン類も、スラリー32を大きく増粘させない程度の量であれば、強度補強のために使用することは有効である。
【0078】
イソシアナート基及び/又はイソチオシアナート基を有するゲル化剤としては、例えば、MDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート)系イソシアナート(樹脂)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアナート)系イソシアネート(樹脂)、TDI(トリレンジイソシアナート)系イソシアナート(樹脂)、IPDI(イソホロンジイソシアナート)系イソシアナート(樹脂)、イソチオシアナート(樹脂)等を挙げることができる。
【0079】
また、反応性分散媒との相溶性等の化学的特性を考慮して、前述した基本化学構造中に他の官能基を導入することが好ましい。例えば、エステルからなる反応性分散媒と反応させる場合には、エステルとの相溶性を高めて、混合時の均質性を向上させる点から、親水性の官能基を導入することが好ましい。
【0080】
なお、ゲル化剤分子内に、イソシアナート基又はイソチオシアナート基以外の反応性官能基を含有させてもよく、イソシアナート基とイソチオシアナート基が混在してもよい。さらには、ポリイソシアナートのように、反応性官能基が多数存在してもよい。
【0081】
スラリー32には、上述した成分以外に、消泡剤、界面活性剤、焼結助剤、触媒、可塑剤、特性向上剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0082】
上述したスラリー32は、以下のように作製することができる。
【0083】
(a)分散媒に無機物粉体を分散してスラリー32とした後、ゲル化剤を添加する。
【0084】
(b)分散媒に無機物粉体及びゲル化剤を同時に添加して分散することによりスラリー32を製造する。
【0085】
注型時及び塗布時の作業性を考慮すると、20℃におけるスラリー32の粘度は30000cps以下であることが好ましく、20000cps以下であることがより好ましい。スラリー32の粘度は、既述した反応性分散媒やゲル化剤の粘度の他、粉体の種類、分散剤の量、スラリー32の濃度(スラリー32全体の体積に対する粉体体積%)によっても調整することができる。
【0086】
但し、スラリー32の濃度は、通常は、25〜75体積%のものが好ましく、乾燥収縮によるクラックを少なくすることを考慮すると、35〜75体積%のものがさらに好ましい。有機成分として分散媒、分散剤、反応硬化物、反応触媒を有する。このうち、例えば分散媒とゲル化剤もしくはゲル化剤相互の化学反応により固化する。
【0087】
上述の例では、鋳込み型30を用いて第1誘電体基板10A〜第4誘電体基板10Dを製造した例を示したが、その他、スラリー32の塗布によって第1誘電体基板10A〜第4誘電体基板10Dを製造することもできる。
【0088】
一例として、スラリー32の塗布によって第3誘電体基板10Cを製造する方法を図15A〜図17Bを参照しながら説明する。
【0089】
先ず、図15Aに示すように、基体64上に第1導体ペースト38aを印刷法によってパターン形成した後、硬化して基体64上に第1導体成形体40aを形成する。その後、第1導体成形体40a上にペースト28を印刷法によってパターン形成した後、硬化して第1セラミック成形体16を形成する。その後、第1セラミック成形体16上に、第2導体ペースト38bを印刷法によってパターン形成した後、硬化して第2導体成形体40bを形成する。この段階で、基体64上に第1導体成形体40a、第1セラミック成形体16及び第2導体成形体40bによる積層膜42が形成される。なお、基体64は、上述したフィルム34と同様に、表面にシリコーン離型剤がコートされたPET(ポリエチレンテレフタレート)を用いることができる。
【0090】
その後、図15Bに示すように、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリー32を、積層膜42を被覆するように基体64上に塗布する。塗布方法としては、ディスペンサー法や、図16A及び図16Bに示す方法やスピンコート法等がある。図16A及び図16Bに示す方法は、一対のガイド板66a及び66bの間に基体64(積層膜42が形成された基体64)を設置し、その後、スラリー32を、積層膜42を被覆するように基体64上に塗布した後、ブレード状の治具68を一対のガイド板66a及び66bの上面を滑らせて(摺り切って)、余分なスラリー32を取り除く方法である。一対のガイド板66a及び66bの高さを調整することによって、スラリー32の厚みを容易に調整することができる。
【0091】
その後、図17Aに示すように、基体64上に塗布されたスラリー32を硬化させ、さらに、図17Bに示すように、基体64を剥離、除去することによって、積層膜42を含んだ第2セラミック成形体18が得られる。この場合も、第2セラミック成形体18の一主面(積層膜42の一主面が露出された面)の平滑性は良好となる。
【0092】
そして、積層膜42を含んだ第2セラミック成形体18を焼成することによって、図9に示すように、積層体37の一部の面が第2セラミック焼成体14の一主面から露出した第3誘電体基板10Cが得られる。
【0093】
ここで、塗布方法を用いた製造方法(第2製造方法)での各構成部材の好ましい態様について説明する。
【0094】
[第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38c:第2製造方法]
第1製造方法と同様であるため、重複する記載を省略するが、第2製造方法における第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cは、樹脂と銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)系の金属の少なくとも1種類の粉末を含む。第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cに使用される樹脂は、熱硬化性樹脂前駆体であることが好ましい。この場合、熱硬化性樹脂前駆体は、自己反応性のレゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。
【0095】
第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cは、上述したように、印刷後、加熱硬化されるが、硬化条件は、硬化剤の種類により異なり、例えば、第2製造方法で使用するレゾール型フェノール樹脂の場合、温度80〜150℃、時間10分〜60分で硬化させることができる。
【0096】
[スラリー32:第2製造方法]
第1製造方法と同様であるため、重複する記載を省略するが、第2製造方法におけるスラリー32に含まれるセラミック粉末は、用途に応じて、アルミナ、安定化ジルコニア、各種圧電セラミック材料、各種誘電セラミック材料、といった酸化物セラミックスをはじめ、シリコンナイトライド、アルミナイトライドといった窒化物セラミックス、シリコンカーバイド、タングステンカーバイドといった炭化物セラミックス粉末やバインダとしてのガラス成分を含む。
【0097】
スラリー32に含まれる熱硬化性樹脂前駆体は、イソシアネート基又はイソチオシアネート基を有するゲル化剤と、水酸基を有する高分子とを有する。
【0098】
上述した塗布方法のうち、ディスペンサー法や図16A及び図16Bに示す方法にてスラリー32を基体64上に塗布する場合、スラリー32の粘度は比較的高いことが好ましい。スラリー32の粘度は第1製造方法と同様でもよいが、スラリー32が低粘度だと、塗布した後の保形性が低く、流動による厚みバラつきが発生し易い。そのため、スラリー32の粘度は200cps〜2000cpsが好ましい。
【0099】
そこで、水酸基を有する高分子として分子量の大きい樹脂を用いることで、スラリー32の粘度を高くできる。一例としてブチラール樹脂は分子量が大きいため、スラリー32の粘度を高くするには好適である。もちろん、高分子の分子量でスラリー32の粘度の制御が可能となることから、塗布方法に応じて、高分子として使用する樹脂を適宜選択すればよい。
【0100】
上述したブチラール樹脂は、一般に、ポリビニルアセタール樹脂であるが、その中には原料のポリビニルアルコール樹脂に由来するOH基が残るので、このOH基がゲル化剤のイソシアネート基又はイソチオシアネート基と反応するものと考えられる。
【0101】
特に、イソシアネート基又はイソチオシアネート基と反応に必要な量を超えてブチラール樹脂を添加すると、反応後に残ったブチラール樹脂は熱可塑性樹脂として作用するので、熱硬化性樹脂の欠点である、硬化後の接着性が悪くなるという特性を改善することができる。その結果、例えば図8に示すように、第2セラミック成形体18を複数積層してセラミック積層体21を構成する場合に、各第2セラミック成形体18の接着性が良好となることから、製造過程において第2セラミック成形体18が剥離するという不都合を回避でき、複数の第2セラミック成形体18のセラミック積層体21による誘電体基板の歩留まりを向上させることができる。
【0102】
水酸基を有する高分子としては、その他、エチルセルロース系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、あるいはポリエーテル系樹脂を好ましく用いることができる。
【0103】
次に、スラリーに含まれる樹脂として、熱可塑性樹脂前駆体を用いた従来の誘電体基板の問題点と、第1誘電体基板10A〜第4誘電体基板10D(以下、まとめて本実施の形態とも記す)による問題解決について説明する。なお、第1導体ペースト38a〜第3導体ペースト38cを総称して導体ペースト38と記し、第1導体成形体40a〜第3導体成形体40cを総称して導体成形体40と記す。
【0104】
従来においては、熱可塑性樹脂を含むスラリーの乾燥収縮時に導体成形体との界面で隙間やクラックが発生したり、グリーンシートが凹凸形状になったりする。
【0105】
一方、本実施の形態では、スラリー32に熱硬化性樹脂前駆体を含ませて、乾燥時に熱硬化性樹脂前駆体を硬化させて三次元網目構造を生成させ、収縮を小さくすることで前記問題は解決される。
【0106】
この場合、スラリー32に使用する溶剤に、熱硬化性樹脂前駆体が硬化する温度での蒸気圧が小さいものを選定し、熱硬化時の溶剤乾燥による収縮を小さくすることが望ましい。室温で硬化する樹脂を用いた場合は、特に作業や装置が簡単になる。
【0107】
ポリウレタン樹脂は、硬化後の弾性を制御し易く、柔軟な成形体も可能となる等の利点を有する。後工程での取り扱いを考えると、あまり硬い成形体は適さない場合があり、熱硬化性樹脂は三次元網目構造をとるので一般に硬いが、ポリウレタン樹脂は、柔軟性のある成形体も可能で、特にテープ状の成形体は、柔軟性が要求される場合が多いため望ましい。また、スラリー性状の制御のため、熱可塑性樹脂を含ませてもよい。
【0108】
従来においては、熱可塑性樹脂を含むペーストや導体ペーストが、スラリーを塗布する際に、スラリーの溶剤に溶解して、パターン形状が崩れる。
【0109】
一方、本実施の形態においては、ペースト28や導体ペースト38に熱硬化性樹脂前駆体を含ませているため、耐溶剤性が向上し、パターン形状の崩れは生じない。
【0110】
熱硬化性樹脂前駆体は、硬化後は三次元の網目構造となり、元に戻らないため、硬化後は、溶剤への再溶解性がなくなり、一般に、熱可塑性樹脂よりも耐溶剤性が高い。
【0111】
熱硬化性樹脂前駆体の中では、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂が硬化前プレポリマーの分子量の制御ができ、ペースト性状のコントロールが可能なため、好適である。なお、熱可塑性樹脂をペースト性状の制御のために、熱硬化性樹脂と一緒に含めるようにしてもよい。
【0112】
特に、エポキシ樹脂、フェノール樹脂は、硬化剤が必要なく、加熱するだけで硬化するタイプがあり、導体ペースト38の効率的な使用に適する。つまり、硬化剤の添加が必要な他の熱硬化性樹脂前駆体は、ペースト28や導体ペースト38を印刷する前に、硬化剤を混合する必要があるが、混合すると保存がきかない。従って、印刷後に残ったペースト28や導体ペースト38を回収して保存する必要のある印刷法によってペースト28や導体ペースト38を印刷する場合は、硬化剤を混合する必要がない熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型フェノール樹脂が好適である。
【0113】
従来において、熱可塑性樹脂をバインダとするセラミック成形体は、該セラミック成形体の密度ばらつきが発生し易く、そのために、焼成後のセラミック焼成体の寸法ばらつきが大きく、埋設された導体成形体の焼成寸法のばらつきも大きくなる。
【0114】
一方、本実施の形態においては、熱硬化性樹脂前駆体をバインダに使用して第1セラミック成形体16や導体成形体40を埋設した第2セラミック成形体18を得ることにより、焼成ばらつきを小さくすることができる。
【0115】
例えば第2セラミック成形体18の焼成後の寸法は、第2セラミック成形体18のうち、第1セラミック成形体16や導体成形体40を除く部分の生密度により主に決まる。これは第2セラミック焼成体14の構造は空隙が非常に少ないのに対し、第2セラミック成形体18の上記部分は空隙が多いため、その空隙量の多少が、焼成中の収縮量を決めるからである。
【0116】
従来の熱可塑性樹脂をバインダとして含むスラリーは、溶媒を乾燥してセラミック成形体を得るが、乾燥する際の塗工比(スラリー体積と成形後の成形体体積の比)が大きく、この大きな塗工比が成形体密度のばらつきの原因となる。
【0117】
しかし、本実施の形態のように、熱硬化性樹脂前駆体をスラリー32のバインダとして使用した場合は、溶剤を含んだままでも硬化するため、塗工比を小さくすることができ、生密度のばらつきを小さくすることができる。その結果、焼成後の寸法ばらつきが小さくなり、埋設した第1セラミック成形体16や導体成形体40の寸法ばらつきも小さくすることができる。
【0118】
なお、本発明に係る誘電体基板は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】第1誘電体基板を示す断面図である。
【図2】第1誘電体基板を使用して複合コンデンサ部品を構成した例を示す断面図である。
【図3】図3Aはペーストによる第1セラミック成形体を形成した状態を示す断面図であり、図3Bは鋳込み型内に第1セラミック成形体を設置した後、鋳込み型内にスラリーを注入した状態を示す断面図であり、図3Cは鋳込み型内に注入されたスラリーを硬化して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図4】第2誘電体基板を示す断面図である。
【図5】第2誘電体基板を使用して複合コンデンサ部品を構成した例を示す断面図である。
【図6】図6Aはフィルム上にペーストによる第1セラミック成形体を形成した状態を示す断面図であり、図6Bは鋳込み型内にフィルムを設置した後、鋳込み型内にスラリーを注入した状態を示す断面図であり、図6Cは鋳込み型内に注入されたスラリーを硬化して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図7】図7Aは鋳込み型から第2セラミック成形体をフィルムごと離型した状態を示す断面図であり、図7Bはフィルムから第2セラミック成形体を第1セラミック成形体と共に離型した状態を示す断面図である。
【図8】セラミック積層体を示す断面図である。
【図9】第3誘電体基板を示す断面図である。
【図10】図10Aはフィルム上に積層膜を形成した状態を示す断面図であり、図10Bは鋳込み型内にフィルムを設置した後、鋳込み型内にスラリーを注入した状態を示す断面図であり、図10Cは鋳込み型内に注入されたスラリーを硬化して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図11】図11Aは鋳込み型から第2セラミック成形体をフィルムごと離型した状態を示す断面図であり、図11Bはフィルムから第2セラミック成形体を積層膜と共に離型した状態を示す断面図である。
【図12】第4誘電体基板を示す断面図である。
【図13】図13Aはフィルム上に積層膜を形成した状態を示す断面図であり、図13Bは鋳込み型内にフィルムを設置した後、鋳込み型内にスラリーを注入した状態を示す断面図であり、図13Cは鋳込み型内に注入されたスラリーを硬化して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図14】図14Aは鋳込み型から第2セラミック成形体をフィルムごと離型した状態を示す断面図であり、図14Bはフィルムから第2セラミック成形体を積層膜と共に離型した状態を示す断面図である。
【図15】図15Aは基体上に積層膜を形成した状態を示す断面図であり、図15Bは積層膜を被覆するように基体上にスラリーを塗布した状態を示す断面図である。
【図16】図16Aは基体上にスラリーを塗布する方法の一例を示す斜視図であり、図16Bはその側面図である。
【図17】図17Aは基体上に塗布したスラリーを硬化した状態を示す断面図であり、図17Bは基体を剥離して第2セラミック成形体とした状態を示す断面図である。
【図18】図18Aは第1グリーンシート上に積層膜を形成した状態を示す断面図であり、図18Bは別の第1グリーンシートを積層する状態を示す断面図である。
【図19】積層膜の周辺に剥がれが生じた状態を示す説明図である。
【図20】同一面積のグリーンシートを3層構造にした状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0120】
10A〜10D…第1誘電体基板〜第4誘電体基板
12…第1セラミック焼成体
14…第2セラミック焼成体
16…第1セラミック成形体
18…第2セラミック成形体
21…セラミック積層体
28…ペースト
30…鋳込み型
32…スラリー
34…フィルム
36a…第1導体パターン
36b…第2導体パターン
37…積層体
38a…第1導体ペースト
38b…第2導体ペースト
40a…第1導体成形体
40b…第2導体成形体
42…積層膜
64…基体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部誘電率の異なる誘電体基板において、
少なくとも熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末との混合物を硬化して得られる第1セラミック成形体と、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリーを、少なくとも前記第1セラミック成形体を被覆するように供給した後に硬化して得られる第2セラミック成形体とが焼成されて構成されていることを特徴とする誘電体基板。
【請求項2】
請求項1記載の誘電体基板において、
前記第1セラミック成形体は、熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末を含むペーストを所定の形状に成形した後、硬化して得られることを特徴とする誘電体基板。
【請求項3】
請求項2記載の誘電体基板において、
前記第1セラミック成形体は、基体上に前記ペーストをパターン形成し、その後、硬化してなることを特徴とする誘電体基板。
【請求項4】
請求項3記載の誘電体基板において、
前記第2セラミック成形体は、前記基体上に成形された前記第1セラミック成形体を被覆するように塗布した後に硬化して得られることを特徴とする誘電体基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の誘電体基板において、
前記混合物に含まれる熱硬化性樹脂前駆体は、フェノール樹脂又はポリウレタン樹脂前駆体であることを特徴とする誘電体基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の誘電体基板において、
前記スラリーに含まれる前記熱硬化性樹脂前駆体は、ポリウレタン樹脂前駆体であることを特徴とする誘電体基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の誘電体基板において、
前記第2セラミック成形体は、前記スラリーを前記第1セラミック成形体と導体成形体とを被覆するように供給した後に硬化して得られることを特徴とする誘電体基板。
【請求項8】
請求項7記載の誘電体基板において、
前記導体成形体は、少なくとも前記第1セラミック成形体に接するように形成されていることを特徴とする誘電体基板。
【請求項9】
請求項7又は8記載の誘電体基板において、
前記導体成形体は、熱硬化性樹脂前駆体と銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)系の金属の少なくとも1種類の粉末を含む導体ペーストをパターン形成し、その後、硬化してなることを特徴とする誘電体基板。
【請求項10】
請求項9記載の誘電体基板において、
前記導体ペーストに含まれる前記熱硬化性樹脂前駆体は、フェノール樹脂であることを特徴とする誘電体基板。
【請求項1】
一部誘電率の異なる誘電体基板において、
少なくとも熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末との混合物を硬化して得られる第1セラミック成形体と、熱硬化性樹脂前駆体と第2セラミック粉末と溶剤とが混合されたスラリーを、少なくとも前記第1セラミック成形体を被覆するように供給した後に硬化して得られる第2セラミック成形体とが焼成されて構成されていることを特徴とする誘電体基板。
【請求項2】
請求項1記載の誘電体基板において、
前記第1セラミック成形体は、熱硬化性樹脂前駆体と第1セラミック粉末を含むペーストを所定の形状に成形した後、硬化して得られることを特徴とする誘電体基板。
【請求項3】
請求項2記載の誘電体基板において、
前記第1セラミック成形体は、基体上に前記ペーストをパターン形成し、その後、硬化してなることを特徴とする誘電体基板。
【請求項4】
請求項3記載の誘電体基板において、
前記第2セラミック成形体は、前記基体上に成形された前記第1セラミック成形体を被覆するように塗布した後に硬化して得られることを特徴とする誘電体基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の誘電体基板において、
前記混合物に含まれる熱硬化性樹脂前駆体は、フェノール樹脂又はポリウレタン樹脂前駆体であることを特徴とする誘電体基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の誘電体基板において、
前記スラリーに含まれる前記熱硬化性樹脂前駆体は、ポリウレタン樹脂前駆体であることを特徴とする誘電体基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の誘電体基板において、
前記第2セラミック成形体は、前記スラリーを前記第1セラミック成形体と導体成形体とを被覆するように供給した後に硬化して得られることを特徴とする誘電体基板。
【請求項8】
請求項7記載の誘電体基板において、
前記導体成形体は、少なくとも前記第1セラミック成形体に接するように形成されていることを特徴とする誘電体基板。
【請求項9】
請求項7又は8記載の誘電体基板において、
前記導体成形体は、熱硬化性樹脂前駆体と銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)系の金属の少なくとも1種類の粉末を含む導体ペーストをパターン形成し、その後、硬化してなることを特徴とする誘電体基板。
【請求項10】
請求項9記載の誘電体基板において、
前記導体ペーストに含まれる前記熱硬化性樹脂前駆体は、フェノール樹脂であることを特徴とする誘電体基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−241456(P2009−241456A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91692(P2008−91692)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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