説明

誘電体層用組成物、グリーンシート及び誘電体層形成基板

【課題】
ガラス成分及び熱分解性バインダーが均一に分散し、異物の混入が少ない誘電体層用組成物、その製造方法、該誘電体層用組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート、並びにこのグリーンシートから形成された誘電体層を有する誘電体層形成基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
ガラス成分及び熱分解性バインダーを含有する誘電体層用組成物であって、前記熱分解性バインダーが、前記ガラス成分の存在下に重合性単量体を重合させて得られたものであることを特徴とする誘電体層用組成物及びその製造方法、この誘電体層用組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート、前記誘電体層用組成物から形成された誘電体層を有する誘電体層形成基板、並びに前記グリーンシートを基板に貼り合わせる工程と、該グリーンシートを焼成する工程とを有することを特徴とする誘電体層形成基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルの誘電体層の形成に好適な誘電体層用組成物及びその製造方法、該組成物をフィルム化してなるグリーンシート、並びに誘電体層形成基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置には、液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマディスプレイパネル等がある。これらの中でも、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」ともいう)は、次世代のマルチメディアディスプレイとして注目を集めている。このPDPは基板表面に多数の層が積層されるものであることから、製造工程が煩雑である。したがって、それによる歩留まりの向上、作業工程の簡略化が進められている。
【0003】
図3にPDPの一例の断面図を示す。図3に示すPDPは、前面板用ガラス基板1及び背面板用ガラス基板2の1対のガラス基板からなる。この前面板用ガラス基板1と背面板用ガラス基板2の内面には、互いに直交する透明電極3及びデータ電極4がそれぞれ形成されている。透明電極3及びデータ電極4は、誘電体層5(前面板誘電体層)及び6(背面板誘電体層)によりそれぞれ覆われている。また、ガラス基板1及び2は、保護膜7を介してリブ(隔壁)8によって放電空間(画素)に分離され、各画素には蛍光体9が形成されている。
【0004】
ところで、PDPの誘電体層を形成する方法としては、ガラス成分及び熱分解性バインダー等からなる誘電体層用組成物を基板上に塗布し、その後焼成する方法や、誘電体層用組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシートを基板上に貼付け、その後焼成する方法等が知られている。これらの方法においては、気泡が少なく、耐電圧特性に優れる誘電体層を得るためには、用いる誘電体層用組成物中のガラス成分が均一に分散してなるものであることが好ましい。
【0005】
従来、均一な誘電体層用組成物を調製する方法としては、ガラス成分、熱分解性バインダー、分散剤及び必要に応じて添加される各種添加剤を溶剤とともにプレミキシングした後、分散機により、これらの混合物を機械的に撹拌して分散させる方法が一般的に採用されている(特許文献1)。
【0006】
しかし、この方法では、ガラス成分等の分散状態をより均一にするために、長時間分散機で処理する必要がある。すなわち、破砕されやすいガラス成分を含む混合物を分散機により長時間処理して誘電体層用組成物を調製する場合には、分散機の強い剪断力によりガラス成分表面が破砕され、剪断熱が上昇する。その結果、ガラス成分等が凝集しやすくなり、均一な誘電体層用組成物を得ることが困難になるという問題があった。また、分散機のメディアとガラス成分との衝突や摩擦により磨耗粉が発生しやすく、得られる誘電体層用組成物に異物が混入するおそれがあった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−2164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、ガラス成分及び熱分解性バインダーが均一に分散し、異物の混入が少ない誘電体層用組成物及びその製造方法、該誘電体層用組成物をフィルム化してなるグリーンシート、並びに、このグリーンシートから形成された誘電体層を有する誘電体層形成基板及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、溶媒中、ガラス成分の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物をラジカル重合することにより、ガラス成分と熱分解性バインダーが均一に分散し、異物の混入が少ない誘電体層用組成物を効率よく得ることができることを見出した。また、得られた誘電体層用組成物を使用すると、表面が平滑で、良好な膜質のグリーンシート及び気泡が少なく耐電圧特性に優れる誘電体層が得られること、及びこの誘電体層が形成された基板を用いることで、画素欠陥がないプラズマディスプレイパネルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明の第1によれば、ガラス成分及び熱分解性バインダーを含む誘電体層用組成物であって、前記熱分解性バインダーが、ガラス成分の存在下に重合性単量体を重合させて得られたものであることを特徴とする誘電体層用組成物が提供される。
【0011】
本発明の誘電体層用組成物においては、前記熱分解性バインダーが、前記ガラス成分の存在下に、アクリル酸エステル化合物又はメタクリル酸エステル化合物をラジカル重合させて得られたものであるのが好ましく、ガラス成分及び分散剤の存在下に重合性単量体を重合させて得られたものであるのが好ましい。
【0012】
本発明の誘電体層用組成物は、フィラー成分を含んでいてもよい。
本発明の誘電体層用組成物は、プラズマディスプレイパネルの誘電体層に用いられるものであるのが好ましい。
【0013】
本発明の第2によれば、ガラス成分及び熱分解性バインダーを含む誘電体層用組成物の製造方法であって、溶媒中、ガラス成分の存在下に重合性単量体を重合することにより、ガラス成分及び熱分解性バインダーを含む分散液を得る工程を有する誘電体層用組成物の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の誘電体層用組成物の製造方法は、溶媒中、ガラス成分の存在下に、アクリル酸エステル化合物又はメタクリル酸エステル化合物をラジカル重合することにより、ガラス成分及び熱分解性バインダーを含む分散液を得る工程を有するのが好ましい。
本発明の誘電体層用組成物の製造方法は、溶媒中、ガラス成分及び分散剤の存在下に重合性単量体を重合することにより、ガラス成分、分散剤及び熱分解性バインダーを含む分散液を得る工程を有するのが好ましい。
【0015】
本発明の第3によれば、本発明の誘電体層用組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシートが提供される。
本発明の第4によれば、本発明の誘電体層用組成物から形成された誘電体層を有することを特徴とする誘電体層形成基板が提供される。
本発明の第5によれば、本発明のグリーンシートを貼付する工程と、該グリーンシートを焼成する工程とを有することを特徴とする誘電体層形成基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の誘電体層用組成物は、ガラス成分及び熱分解性バインダーが均一に分散し、異物の混入が少ないものである。
本発明の製造方法によれば、ガラス成分と濡れ性の良好な重合性単量体を選択し、ガラス成分の存在下で重合性単量体を重合することにより、低温・低剪断力下で分散が可能で、分散性に優れた誘電体層用組成物を調製することができる。
本発明のグリーンシートは、本発明の誘電体層用組成物をフィルム状に成形して得られるものであり、表面が平滑で、均一な膜質を有する。
本発明の誘電体層形成基板は、本発明のグリーンシートを基板上に貼付し、焼成することにより得られるものであり、気泡等がなく、耐電圧特性に優れる誘電体層を有する。従って、本発明の誘電体層用形成基板を用いることで、画素欠陥がないプラズマディスプレイパネルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を、1)誘電体層用組成物及びその製造方法、2)グリーンシート、並びに、3)誘電体層形成基板及びその製造方法に項分けして詳細に説明する。
【0018】
1)誘電体層用組成物及びその製造方法
本発明の誘電体層用組成物は、ガラス成分及び熱分解性バインダーを含有してなるものであって、前記熱分解性バインダーが、前記ガラス成分の存在下に重合性単量体を重合させて得られたものであることを特徴とする。
【0019】
(1)ガラス成分
本発明の誘電体層用組成物に含まれるガラス成分としては、例えば、PbO−B(酸化鉛−酸化ホウ素)系ガラス、PbO−B−SiO(酸化鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラス、PbO−B−SiO−A1(酸化鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素−酸化アルミニウム)系ガラス、PbO−BaO−SiO−A1(酸化鉛−酸化バリウム−酸化ケイ素−酸化アルミニウム)系ガラス、ZnO−B−SiO(酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラス、PbO−ZnO−B−SiO(酸化鉛−酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラス、NaO−B−SiO(酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラス、BaO−CaO−SiO(酸化バリウム−酸化カルシウム−酸化ケイ素)系ガラス等が挙げられる。これらの中でも、PbO−B−SiO系ガラス、PbO−B−SiO−A1系ガラス、PbO−BaO−SiO−A1系ガラスの使用が好ましい。
【0020】
本発明においては、これらのガラスを粉末状にして用いる。ガラス成分の平均粒径は、0.1〜5μmであり、ガラス成分の最大粒径は、好ましくは20μm以下である。ガラス成分の粒径をこのように設定することで、優れた耐電圧特性を有する誘電体層を形成することができる。
【0021】
また、本発明の誘電体層用組成物を背面板誘電体層用組成物として用いる場合は、白色の誘電体層を得るために、前記ガラス成分は、さらにフィラー成分を含むことが好ましい。用いるフィラー成分としては、TiO(酸化チタン)、Al(アルミナ)、SiO(シリカ)、ZrO(ジルコニア)等が挙げられる。これらの中では、TiO及びAlの使用が好ましい。フィラー成分の平均粒径は0.1〜5μmであり、最大粒径は、好ましくは10μm以下である。
【0022】
ガラス成分中のガラス粉末とフィラー成分の混合比は、通常、50:50〜100:0であるが、背面板誘電体層用組成物として用いる場合は、50:50〜95:5であり、前面板誘電体層用組成物として用いる場合は、90:10〜100:0であるのがそれぞれ好ましい。
【0023】
本発明においては、ガラス成分をガラスフリットとして用いることもできる。ガラスフリットは、ガラス成分及び所望によりフィラー成分を所定割合で混合し、得られた混合物を溶融し、次いで、冷却することで得ることができる。得られたガラスフリットは粉砕して粉末状にして用いる。
【0024】
ガラス成分の添加量は、誘電体層用組成物に対して、通常40〜80重量%である。この範囲でガラス成分を添加することによって、ガラス成分が均一に分散された誘電体層用組成物を得ることができる。
【0025】
(2)熱分解性バインダー
本発明の誘電体層用組成物に含まれる熱分解性バインダーとしては、結合剤としての機能を有し、焼成することにより分解して、容易に除去できる有機高分子であれば特に制限されない。また熱分解性バインダーとしては、一種類の重合性単量体のみを重合して得られる単独重合体であっても、複数種の重合性単量体を重合して得られる共重合体であってもよい。また、共重合体の種類は特に制限されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、いかなる形態のものであってもよい。
【0026】
本発明の誘電体層用組成物に含まれる熱分解性バインダーは、ガラス成分の存在下に重合性単量体を重合して得られたものであることを特徴とする。ガラス成分と濡れ性の良好な重合性単量体を選択し、ガラス成分の存在下で前記重合性単量体を重合することにより、低温・低剪断力下で分散が可能で、分散性に優れた誘電体層用組成物を調製することができる。
【0027】
熱分解性バインダーは、具体的には、適当な溶媒中に、ガラス成分と重合性単量体を溶解又は分散させ、重合性単量体を重合させることにより得ることができる。
【0028】
用いる重合性単量体は特に制限されず、熱分解性バインダーの種類や重合方法に応じて適宜なものを使用することができる。
【0029】
本発明においては、(i)ガラス成分との濡れ性に優れ、ガラス成分と熱分解性バインダーとが均一に分散した分散液が得られること、(ii)優れたバインダーとしての役割を果たすとともに、ガラス基板との感圧接着剤としての役割も果たす熱分解性バインダーを得ることができること等の理由から、アクリル酸エステル化合物又はメタクリル酸エステル化合物(以下、「(メタ)アクリル酸エステル化合物」ということがある)の使用が好ましい。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
【0031】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;
【0032】
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
前記(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合することにより、(メタ)アクリル樹脂が得られる。(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物の単独重合体、(メタ)アクリル酸エステル化合物の2種以上の共重合体、(メタ)アクリル酸エステル化合物と他の共重合性単量体との共重合体等が挙げられる。
【0034】
前記他の共重合性単量体としては、上記(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な化合物であれば特に制限はない。例えば、アクリル酸、メタクリル酸等の(メタ)アクリル酸;ビニル安息香酸、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;マレイン酸、ビニルフタル酸等の不飽和カルボン酸類;ビニルベンジルメチルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等のビニルエーテル化合物;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系化合物;が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル化合物と他の単量体との重量比は、通常100:0〜80:20、好ましくは99.5:0.5〜90:10である。
【0035】
重合性単量体の使用量は、固形分比でガラス成分100重量部に対し、用いる重合性単量体の総重量で10〜100重量部である。このような範囲で重合性単量体を用いることにより、ガラス成分と熱分解性バインダーが溶媒中に均一に分散された分散液を得ることができる。
【0036】
ガラス成分の存在下に重合性単量体を重合する際に用いる溶剤としては、重合反応を阻害しないものであれば特に制限されない。例えば、水;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類:N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセタミド、ヘキサメチルリン酸ホスホロアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;ε−カプロラクタム等のラクタム類;γ−ラクトン、δ−ラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。これらの中でも、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、又はこれらの2種以上からなる混合溶媒の使用が好ましい。
【0037】
溶剤の使用量は、誘電体層用組成物の全重量を基準として、通常5〜70重量%の範囲である。
【0038】
本発明においては、ガラス成分の存在下に重合性単量体を重合する際に、反応系に分散剤をさらに添加しておくのが好ましい。分散剤を添加しておくことにより、ガラス成分と熱分解性バインダーがより均一に分散してなる分散液を得ることができる。
【0039】
用いる分散剤としては、例えば、界面活性剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、アルキルスルホコハク酸ナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩、ホルマリン縮合物ナトリウム塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩等の陰イオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ラウリン酸ジエタノールアミド、デシルグルコシド、ラウリルグルコシド等の非イオン性界面活性剤;α−オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分エステル、脂肪族ポリカルボン酸塩、脂肪族ポリカルボン酸特殊シリコーン等のポリカルボン酸型高分子界面活性剤;ポリエーテルポリエステル酸、ポリエーテルポリオールポリエステル酸等のポリエーテルエステル酸類と、高分子ポリアミン等の有機アミン類とから得られる高分子分散剤(具体的には、ディスパロンDA−234(商品名、楠本化成(株)製)等)のポリエーテルエステル酸アミン塩;等が挙げられる。
【0040】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アンモニウムクロライド、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0041】
これらの中でも分散性に優れること等の理由から、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、ポリエーテルエステル酸アミン塩が好ましい。
分散剤の添加量は、誘電体層用組成物に対して、通常0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%、より好ましくは0〜3重量%となる量である。
【0042】
重合性単量体を重合する方法は特に制限されず、例えば、アニオン重合法、カチオン重合法及びラジカル重合法等が挙げられる。これらのうち、簡便な操作で、収率よく目的とする熱分解性バインダーを得ることができることから、ラジカル重合法が好ましい。
【0043】
ラジカル重合法を採用する場合には、重合性単量体としてラジカル重合性単量体を使用する。
ラジカル重合性単量体をラジカル重合法により重合させて、目的とする熱分解性バインダーを得る具体的な方法としては、(a)ガラス成分、溶剤及び所望により分散剤を重合用反応器に投入して混合攪拌し、得られた混合物に重合性単量体の一種又は二種以上及びラジカル重合開始剤を加えてさらに混合撹拌し、溶液重合する方法、(b)ガラス成分、重合性単量体、水及び所望により分散剤を重合用反応器に投入して混合攪拌し、得られた混合物にラジカル重合開始剤を加えてさらに混合撹拌し、乳化重合する方法、(c)ガラス成分及び水を重合用反応器に投入して混合攪拌し、得られた混合物に重合性単量体の一種又は二種以上及びラジカル重合開始剤を加えてさらに混合撹拌し、懸濁重合させる方法等が挙げられる。
【0044】
用いるラジカル重合開始剤は特に制限されず、例えば、過酸化水素、イソブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等のアゾ化合物;過酸化水素−アスコルビン酸、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸塩−亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス開始剤;等が挙げられる。
ラジカル重合開始剤の添加量は、用いる重合性単量体1重量部に対して、通常0.0005〜0.01重量部、好ましくは、0.002〜0.007重量部である。
【0045】
この他に、加工適性を向上させるため、可塑剤を使用してもよい。用いる可塑剤としては、アジピン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤等が挙げられる。可塑剤の使用量は、ガラス成分100重量部に対して、0〜10重量部である。
【0046】
重合温度は用いる重合性単量体の種類等にも依存するが、通常50〜180℃、好ましくは、60〜90℃である。
得られた重合体(熱分解性バンダー)が所望の分子量となるまで重合反応が進行した時点で重合反応を停止さる。重合反応終了の確認は、例えば、反応生成物をサンプリングし、粘度を測定することにより行うことができる。
重合時間は反応規模にも依存するが、通常数分から数時間である。
【0047】
得られる熱分解性バインダーの重量平均分子量は、通常15,000〜400,000、好ましくは100,000〜250,000である。
【0048】
以上のようにして、溶媒中に、ガラス成分、熱分解性バインダー、及び所望により分散剤が均一に分散してなる分散液を得ることができる。
本発明においては、このものをそのまま誘電体層用組成物として使用することもできるが、必要に応じて、粘着付与剤、保存安定剤、消泡剤、熱分解促進剤、酸化防止剤、及び濡れ剤等の添加剤を含有させることもできる。これらの添加剤は、特に限定されるものではなく、この分野で通常用いられるものを適宜選択することができる。
【0049】
本発明の誘電体層用組成物は、ガラス成分の存在下で、ガラス成分と濡れ性の良好な重合性単量体を重合して得られたものであるので、低温・低剪断力下で分散が可能で、分散性に優れる。また、低温・低剪断力下で分散が可能なので、分散機のメディアとガラス成分との衝突や摩擦による磨耗粉の発生がなく、異物の混入が少ない。
【0050】
2)グリーンシート
本発明のグリーンシートは、本発明の誘電体層用組成物をフィルム状に成形して得られたものであることを特徴とする。
本発明のグリーンシートは、具体的には、本発明の誘電体層用組成物をキャリアーフィルム上に塗工し、次いで乾燥してフィルム化することによって製造することができる。
【0051】
本発明のグリーンシートを製造する一例を図1に示す。
図1において、13はキャリアーフィルム、14は本発明の誘電体層用組成物を塗工する塗工装置、18は誘電体層用組成物の塗膜を乾燥する(溶媒を除去する)乾燥装置、20a及び20bは、グリーンシート上に保護フィルムを積層する積層ロールである。
以下、図1を参照しながら、本発明のグリーンシートの製造方法を説明する。
【0052】
先ず、ロール状に巻き取られたキャリアーフィルム13が塗工装置14へ送られる。キャリアーフィルム13としては、誘電体層用組成物の塗膜との剥離性に優れるものであれば特に制限されない。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のプラスチックフィルムを用いることができる。また、前記プラスチックフィルムの片面に、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、長鎖アルキル樹脂等の剥離剤を塗布したものを用いるのが好ましい。さらに、上記プラスチックフィルム上に剥離性を有する樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にポリオレフィン樹脂を押し出したものでもよい。キャリアーフィルムの厚さは、通常10〜200μmである。
【0053】
次に、塗工装置14により、キャリアーフィルム13上に誘電体層用組成物が塗布される。塗工装置14は貯蔵部15と塗工部16からなる。貯蔵部15は、スラリー状の本発明の誘電体層用組成物を貯蔵し、本発明の誘電体層用組成物を一定量ずつ塗工部16に送液する。本発明の誘電体層用組成物は分散性及び貯蔵安定性に優れるので、貯蔵部15中において、ガラス成分等が沈降することなく均一に分散されている。また、塗工部16としては特に制限されない。例えば、ナイフコーター、ダイコーター等の公知のコーターを用いることができる。
【0054】
本発明の誘電体層用組成物の塗工量は、形成する誘電体層用組成物の塗膜17aの厚みに応じて適宜設定することができる。本発明の誘電体層用組成物は分散性及び貯蔵安定性に優れるので、均一な膜質を有する誘電体層用組成物の塗膜17aを形成することができる。
【0055】
次に、表面に誘電体層用組成物の塗膜17aが形成されたキャリアーフィルム13は、乾燥装置18に送り込まれる。この乾燥装置18内で誘電体層用組成物の塗膜17aを乾燥する(すなわち、溶剤等の揮発成分を除去する)ことにより、誘電体層用組成物の乾燥塗膜、すなわち、グリーンシート17がキャリアーフィルム13上に積層された積層物を得ることができる。
【0056】
誘電体層用組成物の塗膜17aを乾燥する方法としては特に制限されないが、例えば、(イ)塗膜が形成されたキャリアーフィルムを所定温度に加熱する方法、(ロ)前記塗膜表面に乾燥空気又は熱風を送り込む方法、(ハ)前記(イ)及び(ロ)を組み合わせる方法等が挙げられる。
乾燥するときの温度は、キャリアーフィルムが熱変形を生じることのない温度以下であれば特に制限されず、通常室温から150℃、好ましくは60〜130℃であり、乾燥時間は1〜10分である。
乾燥後の塗膜17aの厚みは、通常10〜200μm、好ましくは20〜120μmである。
【0057】
次いで、グリーンシート17上に保護フィルム19を積層する。
図1中、保護フィルム19はロール状に巻き取られた長尺のフィルムである。用いる保護フィルムとしては、前記キャリアーフィルムと同じものを使用することができる。保護フィルムの厚みは、通常10〜200μmである。
【0058】
グリーンシート17上に保護フィルム19を積層するには、図1中、2つの積層ロール20a及び20bの間をグリーンシート17と保護フィルム19とを通過させて、貼り合わせる(ラミネートする)。この場合、積層ロール20a及び20bの両方又は一方、例えば、保護フィルム面側のロール20bを加熱してもよい。
【0059】
以上のようにして、キャリアーフィルム13−グリーンシート17−保護フィルム19の3層からなる積層フィルム21を得ることができる。
得られた積層フィルム21は、ロール状に巻き取り、回収して保存、運搬することができる。
【0060】
本発明のグリーンシートは、本発明の誘電体層用組成物をフィルム状に成形して得られたものであるので、表面が平滑で、異物の混入が少なく、均一な膜質を有する。
本発明のグリーンシートは、以下に述べるように、誘電体層形成基板の製造原料として有用である。
【0061】
3)誘電体層形成基板及びその製造方法
本発明の誘電体層形成基板は、基板表面に本発明の誘電体層用組成物から形成された誘電体層を有することを特徴とする。
本発明の誘電体層形成基板は、(A)本発明の誘電体層用組成物をスクリーン印刷法により基板上に塗布し、後に焼成する方法、及び(B)上記のようにして得られたグリーンシートから保護フィルムを剥離した後、前面板用基板又は背面板用基板にラミネートし、次いで、キャリアーフィルムを剥離した後、該グリーンシートを焼成する方法等により得ることができるが、(B)の方法が好ましい。
【0062】
ここで用いる基板としては、ガラス基板、セラミック基板等が挙げられ、ガラス基板が好ましい。また、ガラス基板としては、表面に電極が形成されたものであれば特に制限されず、公知のものを使用することができる。例えば、表面に透明電極が形成された前面板用ガラス基板、表面にデータ電極が形成された背面板用ガラス基板が挙げられる。基板の厚みは特に制限されないが、通常1〜10mm程度である。
【0063】
本発明の誘電体層形成基板を前記(B)の方法により製造する一例を図2に示す。以下、図2を参照しながら、本発明の誘電体層形成基板を形成する方法を説明する。図2に示すものは、図3中、前面板用ガラス基板1上に透明誘電体層5を形成する例である。
【0064】
先ず、図2(a)に示すように、積層フィルム21の片面の保護フィルム19を剥離除去する。
次に、図2(b)に示すように、グリーンシート17を、表面に透明電極3が形成された前面板用ガラス基板1上(透明電極3が形成されている側)に熱圧着する。熱圧着は、例えば、加熱ローラーを用いて、加熱温度70〜130℃、圧力0.05〜1.0MPaの条件で行うことができる。本発明の誘電体層用組成物中の熱分解性バインダーは、バインダーであるとともに感圧性接着剤でもあるため、簡便な作業により、グリーンシート17をガラス基板1に均一に貼着することができる。
【0065】
次いで、図2(c)に示すように、グリーンシート17からキャリアーフィルム13を剥離除去し、グリーンシート17が熱圧着されたガラス基板1を焼成する。この過程で、誘電体層用組成物中の熱分解性バインダーが熱分解し、有機成分が完全に除去される。
【0066】
グリーンシート17が熱圧着されたガラス基板を焼成する方法としては、例えば、グリーンシート17が熱圧着されたガラス基板を加熱炉の中に入れて全体を加熱する方法が挙げられる。加熱温度及び加熱時間は、ガラス基板が熱により変形せず、熱分解性バインダーが熱分解し、有機成分が完全に除去され、かつ、無機成分(ガラス成分等)が均一な溶融状態となり、ガラス成分が溶融し、均一化する温度及び時間であれば特に制限されない。加熱温度は通常500〜700℃であり、加熱時間は通常数分から数時間である。
【0067】
本発明においては、この焼成を、300〜450℃の温度で10〜60分間加熱する仮焼成工程と、その後、さらに500〜700℃の温度で20〜120分間にわたって本焼成を行う本焼成工程とに分けて行うのが、より均一な膜質及び厚みで、透明性又は反射性及び表面平滑性に優れる誘電体層を得ることができることから好ましい。
【0068】
焼成後は、冷却することにより、図2(d)に示すように、厚さ5〜100μm、好ましくは5〜90μmの透明誘電体層5が積層されたガラス基板1を得ることができる。
【0069】
以上のようにして得られる透明誘電体層5は、高い全光線透過率を有し、かつヘイズ値が低いものであって、透明性に優れている。
透明誘電体層5の全光線透過率は、好ましくは75%以上である。透明誘電体層の全光線透過率は、例えば、HAZEMETER測定装置等を用いて測定することができる。
また透明誘電体層のヘイズは、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下である。透明誘電体層のヘイズは、例えば、HAZEMETER測定装置等を用いて測定することができる。
【0070】
本実施形態では、PDPの前面板用ガラス基板1に用いられる透明誘電体層5を形成する場合について説明したが、背面板用ガラス基板2に対する白色誘電体層6や、セラミック基板上に形成する誘電体層等も同様にして形成することができる。得られる白色誘電体層6の反射率は25〜100%あるのが好ましい。
白色誘電体層6の反射率は、例えば分光光度計等を用いて測定することができる。
【0071】
本発明の誘電体層は、ガラス成分及び熱分解性バインダーが均一に分散してなり、異物の混入が少ない本発明の誘電体層用組成物から得られたものであり、表面の平坦性に優れ、気泡が少なく、均一な誘電特性を有する。
【0072】
また、ガラス成分及び熱分解性バインダーを含むスラリーの平均粒径が小さいほど、分散性がよく、得られる誘電特性も良好である。平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0073】
得られる誘電体層表面の表面粗さは、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.1μm以下であり、白色誘電体層の場合には、0.05〜0.15μmが好ましい。表面粗さは、例えば、接触式表面粗さ計等を用いて測定することができる。
【0074】
本発明の誘電体層の単位面積あたりの気泡の数は、光学顕微鏡を使用して目視観察したときに、100cmあたりの直径50μm以上の気泡の数が、20個以下であることが好ましく、10個以下であることがより好ましい。
【0075】
本発明の誘電体層は、以上説明したように、表面の平坦性に優れ、気泡が少ないものであるので、均一な誘電特性及び優れた耐電圧特性を有する。誘電体層の耐電圧は、前面板用にあっては、1.5kV以上、背面板用にあっては、0.5kV以上必要である。耐電圧は、例えば、誘電体層の上に評価用の電極を形成して耐電圧測定用サンプルを作製し、耐電圧測定機を用いることにより測定することができる。
【0076】
本発明において、基板としてガラス基板を用いる場合は、誘電体層形成ガラス基板を製造することができる。この誘電体層形成ガラス基板を用いることによって、プラズマディスプレイ点灯時のプラズマ放電電圧に耐え、画素欠陥の少ない高品質なPDPを製造することができる。
【実施例】
【0077】
次に実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
ガラス成分、分散剤及び溶剤を重合用タンクに投入し混合攪拌した。次いで、重合用タンク中の混合物に重合性単量体及びラジカル重合開始剤を投入し、さらに混合撹拌し、温度を70℃に設定し重合を開始した。反応溶液を1時間毎にサンプリングし、粘度計(VISCOMETER、(株)トキメック)により粘度を測定した。反応溶液の粘度が2000mPa・Sとなったところで温度を25℃に下げ、反応を停止した。反応停止後に得られた生成物に可塑剤を添加して撹拌混合装置(T.K.ホモディスパー、特殊機化工業(株))により攪拌混合し、誘電体層用組成物のスラリーを得た。
【0079】
ガラス成分、分散剤、溶剤、重合性単量体、重合開始剤及び可塑剤は以下のものを用いた。
ガラス成分:
ガラス成分A−1(PbO、B、SiOが主成分、平均粒径1μm)を100重量部用いた。
分散剤:
ポリエーテルエステル酸のアミン塩(ディスパロン DA−234、楠本化成(株))を0.5重量部用いた。
溶剤:
メチルイソブチルケトン:トルエン:酢酸エチル=1:1:5(重量比)混合溶媒を70重量部用いた。
重合性単量体:
2−エチルへキシルメタクリレートとアクリル酸(重量比=99:1)を総重量30重量部用いた。
ラジカル重合開始剤:
アゾイソブチロニトリルを0.1重量部用いた。
可塑剤:
アジピン酸ジ2−エチルへキシルを5重量部用いた。
重合されたバインダーポリマー(熱分解性バインダー)の重量平均分子量は、210,000であった。
【0080】
キャリアーフィルムとして、片面をシリコーン樹脂により厚さ0.1μmで剥離処理された厚さ38μmの長尺のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。このフィルムの剥離処理された面上に、上記で得たスラリーをナイフコーターを用いて塗布した。次いで、100℃で2分間乾燥して、PETフィルム上に厚さ70μmのグリーンシート1を得た。
【0081】
次に、上記で得たグリーンシート1上に、前記PETフィルムと同じ長尺の、片面をシリコーン樹脂により厚さ0.1μmで剥離処理された保護用PETフィルムの剥離処理面をロール間圧着させることにより、PETフィルム−グリーンシート−PETフィルムの3層が積層されてなる積層フィルムを得た。
【0082】
次いで、上記で得たグリーンシート1上の保護用PETフィルムを剥離除去し、積層フィルムのグリーンシート面を、表面に透明電極が形成された厚さ3mmのガラス基板(50mm×50mm)表面に重ね合わせ、加熱ローラーを用いて熱圧着(100℃、0.2MPa)した。
【0083】
その後、キャリアーフィルム(PETフィルム)を剥離除去し、加熱炉内に入れ、昇温速度10℃/分で420℃まで昇温し、420℃で10分間加熱して、グリーンシート1内の樹脂を熱分解除去した。さらに590℃に昇温し、同温度で60分間焼成して、厚さ40μmの誘電体層が形成された誘電体層形成ガラス基板1を得た。
【0084】
(実施例2)
ガラス成分として、ガラス成分A−2(PbO、BaO、SiO、Alが主成分、平均粒径2μm)を100重量部用い、重合性単量体として、2−エチルへキシルメタクリレートと2−ヒドロキシエチルメタクリレート(重量比=95:5)を総重量35重量部用いた以外は、実施例1と同様にして誘電体層用組成物、グリーンシート2及び誘電体層形成ガラス基板2を得た。重合されたバインダーポリマー(熱分解性バインダー)の重量平均分子量は、200,000であった。
【0085】
(実施例3)
背面板用誘電体層の場合の例
ガラス成分(PbO、B、SiO、Alが主成分、平均粒径1.0μm)65重量部に、フィラー成分(Al、TiO、平均粒径1.0μm)35重量部を添加したガラス成分B−1を100重量部用い、重合性単量体として、2−エチルへキシルメタクリレートとアクリル酸(重量比=99:1)を総重量50重量部用いた以外は、実施例1と同様にして誘電体層用組成物、グリーンシート3及び誘電体層形成ガラス基板3を得た。重合されたバインダーポリマー(熱分解性バインダー)の重量平均分子量は、190,000であった。
【0086】
(比較例1)
ガラス成分、熱分解性バインダー、分散剤、可塑剤及び溶剤をタンクに投入し混合攪拌して混合物を得た。ビーズミル分散機の循環タンクに前記混合物を投入して2.0時間分散し、誘電体層用組成物のスラリーを得た。
【0087】
前記ガラス成分、熱分解性バインダー、分散剤、可塑剤及び溶剤としては以下のものを用いた。
ガラス成分:
ガラス成分A−1を100重量部用いた。
熱分解性バインダー:
2−エチルへキシルメタクリレートとアクリル酸を重量比99:1で共重合して得られた、重量平均分子量が210,000の(メタ)アクリレート樹脂を30重量部用いた。
分散剤:
ポリエーテルエステル酸のアミン塩を0.5重量部用いた。
可塑剤:
アジピン酸ジ2−エチルへキシルを5重量部用いた。
溶剤:
メチルイソブチルケトン:トルエン:酢酸エチル=1:1:5(重量比)混合溶媒を70重量部用いた。
【0088】
次いで、実施例1と同様にして誘電体層用組成物、グリーンシート4及び誘電体層形成ガラス基板4を得た。
【0089】
(比較例2)
背面板用誘電体層の場合の例
ガラス成分としてガラス成分B−1を100重量部用い、重合性単量体として、2−エチルへキシルメタクリレートとアクリル酸を重量比で99:1で共重合して得られた、重量平均分子量が210,000の(メタ)アクリレート樹脂を50重量部用いた以外は、比較例1と同様にして誘電体層用組成物、グリーンシート5及び誘電体層形成ガラス基板5を得た。
【0090】
実施例1〜3及び比較例1、2で用いたガラス成分の種類、ガラス成分重量に対する熱分解性バインダーの使用量(重量部)、実施例1〜3で得られた熱分解性バインダーの重量平均分子量(Mw)、及び比較例1,2で用いた熱分解性バインダーの重量平均分子量(Mw)、スラリーの平均粒径(μm)を第1表にまとめて示す。
なお、熱分解性バインダーの重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定装置(HLC−8020、東ソー(株)製)により測定した。また、スラリーの平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−920、(株)堀場製作所製)により測定した。
【0091】
【表1】

【0092】
(グリーンシートの表面性)
実施例1〜3及び比較例1、2で得たグリーンシート1〜5の表面性を、目視観察し評価した。表面が平滑な場合を○、平滑でない場合を×とした。評価結果を第2表に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
第2表より、実施例1〜3のグリーンシートは表面が平滑なものであった。それに比して、比較例1、2のグリーンシートは、面状態が悪く、焼成後の表面にも悪い結果となった。
【0095】
(誘電体層のヘイズの測定)
実施例1、2及び比較例1で得られた、誘電体層形成ガラス基板1、2及び4のヘイズを、HAZEMETER測定装置(HAZE METER NDH2000、日本電色工業(株))により測定した。測定結果を第3表に示す。
【0096】
(全光線透過率及び反射率の測定)
実施例1、2及び比較例1で得られた、誘電体層形成ガラス基板1、2及び4の全光線透過率を、HAZEMETER測定装置(HAZE METER NDH2000、日本電色工業(株))により測定した。また、実施例3及び比較例2で得られた誘電体層形成ガラス基板3及び5の反射率を、分光光度計(MPC−3100、(株)島津製作所)を用いて、測定波長560nmで測定した。測定結果を第3表に示す。
【0097】
(表面粗さ及び誘電体層の厚みの測定)
実施例1〜3及び比較例1、2で得られた誘電体層形成ガラス基板1〜5の表面粗さ、及び誘電体層の厚みを、接触式表面粗さ計(SV3000、(株)ミツトヨ)を使用して測定した。測定結果を第3表に示す。
【0098】
(誘電体層の気泡の有無評価試験)
実施例1〜3及び比較例1、2で得られた誘電体層形成ガラス基板1〜5の誘電体層を光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープVHX−100、(株)キーエンス)で観察し、100cmあたりに確認される直径50μm以上の気泡数を数えた。評価結果を第3表に示す。
【0099】
(誘電体層の耐電圧測定)
実施例1〜3及び比較例1、2で得られた誘電体層形成ガラス基板1〜5の誘電体層の耐電圧を耐電圧測定装置(TOS9201、菊水電子工業(株))にて測定した。測定結果を第3表に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
第3表より、実施例1、2の誘電体層は比較例1の誘電体層に比較し、透明性に優れ、表面が平滑で、気泡が少なく、耐電圧特性に優れるものであった。従って、実施例1、2の誘電体層形成ガラス基板はPDPの誘電体層付前面板用ガラス基板として好適である。
また実施例3の誘電体層は、比較例2の誘電体層に比較して反射率が高く、表面が平滑で、耐電圧特性に優れるものであった。従って、実施例3の誘電体層形成ガラス基板はPDPの誘電体層付背面板用ガラス基板として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明のグリーンシートを製造する工程概略図である。
【図2】本発明の誘電体層形成基板の形成方法を示す工程断面図である。
【図3】プラズマディスプレイパネルの一例の構造断面図である。
【符号の説明】
【0103】
1…前面板用ガラス基板、2…背面板用ガラス基板、3…透明電極、4…データ電極、5…誘電体層(前面板誘電体層)、6…誘電体層(背面板誘電体層)、7…保護膜、8…リブ(隔壁)、9…蛍光体、13…キャリアーフィルム、14…塗工装置、15…貯蔵部、16…塗工部、17a…誘電体層用組成物の塗膜、17…グリーンシート、18…乾燥装置、19…保護フィルム、20a、20b…積層ロール、21…積層フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス成分及び熱分解性バインダーを含む誘電体層用組成物であって、前記熱分解性バインダーが、ガラス成分の存在下に重合性単量体を重合させて得られたものであることを特徴とする誘電体層用組成物。
【請求項2】
前記熱分解性バインダーが、前記ガラス成分の存在下に、アクリル酸エステル化合物又はメタクリル酸エステル化合物をラジカル重合させて得られたものである請求項1に記載の誘電体層用組成物。
【請求項3】
前記熱分解性バインダーが、ガラス成分及び分散剤の存在下に重合性単量体を重合させて得られたものである請求項1記載の誘電体層用組成物。
【請求項4】
フィラー成分をさらに含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体層用組成物。
【請求項5】
プラズマディスプレイパネルの誘電体層に用いられるものである請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体層用組成物。
【請求項6】
ガラス成分及び熱分解性バインダーを含む誘電体層用組成物の製造方法であって、溶媒中、ガラス成分の存在下に重合性単量体を重合することにより、ガラス成分及び熱分解性バインダーを含む分散液を得る工程を有する誘電体層用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス成分及び熱分解性バインダーを含む分散液を得る工程が、溶媒中、ガラス成分の存在下に、アクリル酸エステル化合物又はメタクリル酸エステル化合物をラジカル重合するものである請求項6に記載の誘電体組成物の製造方法。
【請求項8】
溶媒中、ガラス成分及び分散剤の存在下に重合性単量体を重合することにより、ガラス成分、分散剤及び熱分解性バインダーを含む分散液を得る工程を有することを特徴とする請求項6に記載の誘電体層用組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体層用組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体層用組成物から形成された誘電体層を有することを特徴とする誘電体層形成基板。
【請求項11】
基板上に、請求項9に記載のグリーンシートを貼付する工程と、該グリーンシートを焼成する工程とを有することを特徴とする誘電体層形成基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−127818(P2006−127818A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311813(P2004−311813)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】