説明

誘電体磁器組成物及びこれを用いた複合誘電体材料

【課題】 比誘電率εの温度特性τεが正である誘電体磁器組成物を提供し、比誘電率εの温度特性τεがゼロに近く、誘電特性にも優れた複合誘電体材料及び複合誘電体基板を提供する。
【解決手段】 組成式(A1−xLE)Nb(ただし、式中Aはアルカリ土類金属元素であり、LEはランタン系列元素である。また、0<x<1である。)で表される誘電体磁器組成物である。アルカリ土類金属元素はSrであり、ランタン系列元素LEはLaである。この誘電体磁器組成物を比誘電率εの温度特性τεが負である誘電体磁器組成物と組み合わせて誘電体セラミックスとし、これを有機高分子材料と複合化することで、複合誘電体材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体共振器やフィルター等に用いられる誘電体磁器組成物に関するものであり、さらには、これを用いた複合誘電体材料、複合誘電体基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、情報通信分野においては、使用周波数帯域が高周波数に移行する傾向にあり、衛星放送や衛星通信、携帯電話や自動車電話等の移動体通信では、ギガヘルツ(GHz)帯の高周波が使用されている。
【0003】
前述のような高周波帯域で使用される小型通信機器、電子機器、情報機器等に搭載される回路基板では、使用する誘電体材料は、Qが高く高周波伝送特性に優れた低損失材料であることが必要である。さらに、回路基板や電子部品の高性能化や小型化を図るためには、使用周波数帯域において高比誘電率εrを有する誘電体材料が必要である。特に小型化の点については、誘電体材料中の電磁波の波長が1/√εrによって短縮されるという原理に基づくものであり、比誘電率εrの大きい誘電体材料ほど回路基板や電子部品の小型化が可能である。また、コンデンサ機能を持たせた基板の要求もあることから、そのような誘電体材料を用いた高誘電率基板も必要とされている。
【0004】
ただし、一般的に、高周波誘電体は、比誘電率εrが高いものほど比誘電率εrの温度特性τεが悪くなる傾向にあることから、従来、誘電率が高く、温度特性τεが小さい(ゼロに近い)誘電体セラミックスの開発が各方面において行われている。中でも、ペロブスカイト構造を有するBaTiOや、BaサイトをSrやCaにより置換した(BaSrCa)TiOは、前記要求を満たすものとして知られている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0005】
特許文献1記載の発明は、積層セラミックコンデンサ用の誘電体磁器組成物に関するものであり、チタン酸バリウムを主成分とし、種々の添加物を加えることで、静電容量の温度変化を基準を満たすような小さな値としている。
【特許文献1】特開平10−297967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1等に開示されるチタン酸バリウム系の誘電体磁器組成物の場合、比誘電率εの温度特性τεは、温度に対して比誘電率εが減少傾向を示す負の温度特性であり、例えば有機高分子材料との複合化を考えた場合には不利である。
【0007】
誘電体磁器組成物と有機高分子材料を複合化した複合誘電体材料は、高温での焼成が不要であることから、広範な用途に使用可能であり、バルク焼結体の製造工程の一つにある焼成工程において収縮や変形、内部導体の特性劣化の問題もないこと、有機高分子材料を含有することから形状加工性の自由度が増し且つ軽量であること、誘電体セラミックス粉末の配合割合により比誘電率εr等を任意に変えることができること、等の利点を有するが、一般に有機高分子材料は比誘電率εの温度特性τεが負である。したがって、これに組み合わせる誘電体磁器組成物の比誘電率εの温度特性τεが負であると、これらが相乗されて複合誘電体材料全体の比誘電率εの温度特性τεが負側に大きくなってしまうことになる。
【0008】
本発明は、前述の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、本発明は、比誘電率εの温度特性τεが温度に対して増加傾向を示す正の特性を有し、例えば有機高分子材料と複合化して複合誘電体材料とした時に、前記有機高分子材料の温度に対する減少傾向を相殺し、比誘電率εの温度特性τεを小さな値とすることが可能な誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記誘電体磁器組成物を用いることで、比誘電率εの温度特性τεがゼロに近く、また誘電特性にも優れた複合誘電体材料及び複合誘電体基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決するために長期に亘り鋭意研究を行ってきた。その結果、アルカリ土類金属のニオブ酸化合物(例えばニオブ酸ストロンチウム)のアルカリ土類金属サイトを一部ランタン系列元素(例えばLa)で置換することにより、比誘電率εrが上昇するとともに、比誘電率εrの温度特性τεも正の温度特性となることを見出すに至った。
【0010】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明の誘電体磁器組成物は、組成式(A1−xLE)Nb(ただし、式中Aはアルカリ土類金属元素であり、LEはランタン系列元素である。また、0<x<1である。)で表されることを特徴とする。
【0011】
誘電体磁器組成物の組成としては、多種多様のものが知られているが、比誘電率εrの温度特性τεが正の値である誘電体磁器組成物はほとんど見当たらない。本発明の誘電体磁器組成物は、比誘電率εrの温度特性τεが正の値である稀少な材料系である。
【0012】
また、前記本発明の誘電体磁器組成物を誘電体セラミックスとして用い、これを有機高分子材料と組み合わせて複合誘電体材料とし、例えば複合誘電体基板に用いることで、比誘電率εrの温度特性τεが小さな複合誘電体材料、複合誘電体基板が実現される。これを規定したのが本発明の複合誘電体材料、複合誘電体基板である。すなわち、本発明の複合誘電体材料は、誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料であって、前記誘電体セラミックスとして、前記本発明の誘電体磁器組成物と、比誘電率の温度特性が負である誘電体磁器組成物を含有することを特徴とし、本発明の複合誘電体基板は、前記複合誘電体材料を用いたことを特徴とする。
【0013】
通常、複合誘電体材料において、誘電体セラミックスと組み合わされる有機高分子材料は比誘電率εrの温度特性が負であり、前記温度特性が負である誘電体セラミックスと組み合わせると温度特性が負側で大きくなる傾向にある。これに対して正の温度特性τεを有する本発明の誘電体磁器組成物を組み合わせることで、温度特性が互いに相殺され、複合誘電体材料(あるいは複合誘電体基板)全体の温度特性が小さな値に抑えられる。また、誘電特性の高い誘電体磁器組成物(比誘電率の温度特性が負である誘電体磁器組成物)を組み合わせることで、温度特性が小さな値に抑えられるとともに、比誘電率εrやQf値等にも優れた複合誘電体材料や複合誘電体基板が実現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比誘電率εrの温度特性τεが正の値である誘電体磁器組成物を提供することが可能である。そして、前記温度特性が「正」である誘電体磁器組成物と、温度特性が「負」である有機高分子材料及び誘電体磁器組成物を組み合わせることで、複合誘電体材料全体の温度特性を制御することができ、比誘電率εrの温度特性τεが非常に小く、誘電特性にも優れた複合誘電体材料及び複合誘電体基板を実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を適用した誘電体磁器組成物及び複合誘電体材料、複合誘電体基板について詳細に説明する。
【0016】
本発明の誘電体磁器組成物は、アルカリ土類金属のニオブ酸化合物において、Aサイト元素(アルカリ土類金属)の一部をランタン系列元素で置換したものである。したがって、本発明の誘電体磁器組成物は、組成式(A1−xLE)Nb(ただし、式中Aはアルカリ土類金属元素であり、LEはランタン系列元素である。また、0<x<1である。)で表すことができる。
【0017】
ここで、アルカリ土類金属としては、Ba、Sr、Ca等を挙げることができるが、これらの中ではSrが最も好適である。Baのみ、あるいはCaのみでは所定の特性を得ることが難しくなるおそれがある。なお、Srの一部をBaやCaで置換することは可能である。
【0018】
一方、前記ランタン系列元素LEとしては、いわゆるランタン系列の元素であれば任意の元素を使用することができるが、Laよりもイオン半径が大きな元素を用いることが好ましく、最も好ましくはLaである。アルカリ土類金属の一部をLaで置換し、その置換量を制御することで、比誘電率εrの温度特性τεを「正」側で制御することが可能であり、「正」側において大きな温度特性τεを実現することが可能である。
【0019】
したがって、本発明の誘電体磁器組成物としては、組成式(Sr1−xLa)Nb(ただし、0<x<1である。)で表される化合物が最適である。ここで、Laの置換量、すなわち、前記組成式中のxは、0〜1の範囲(0と1は除く)内で任意に設定することができ、特にLaの置換量xを増加させることで大きな「正」の温度特性τεが得られる。ただし、Laの置換量xが0.6以上になるとQf値の低下が見られることから、Q特性を重視する場合には、x<0.6とすることが好ましい。また、Laの置換量xが0.3未満になると比誘電率εrが低下し、温度特性τεも「正」側ではあっても値が小さくなることから、x≧0.3とすることが好ましい。したがって、前記組成式において、0<x<0.6であることが好ましく、比誘電率εr、Qf値、及び温度特性τεのバランスを考えた場合には、0.3≦x≦0.55であることがより好ましい。
【0020】
前記誘電体磁器組成物には、必要に応じて添加物を加えることも可能である。この場合の添加物としては、Mn、Cr、Siから選択される少なくとも1種の酸化物、すなわちMnO、Cr、SiOから選択される少なくとも1種を挙げることができる。これら酸化物を添加することにより、比誘電率εrを向上することができる。ただし、これら酸化物を過剰に添加すると比誘電率εrが却って低下することから、その添加量は1.5質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0021】
前述の本発明の誘電体磁器組成物は、例えば混合工程、仮焼成工程、粉砕工程、造粒工程、成形工程、及び焼成工程等を経ることにより作製される。すなわち、本発明の誘電体磁器組成物の製造に際しては、先ず、主成分の原料粉末を所定量秤量し、これらを混合する(混合工程)。主成分の原料粉末としては、酸化物粉末の他、加熱により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩等の粉末を用いることができる。この場合、1種類の金属の酸化物(化合物)に限らず、例えば2種類以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。各原料粉末の平均粒径は、0.1μm〜3.0μmの範囲内で適宜選択すればよい。
【0022】
混合方法としては、例えばボールミルによる湿式混合等を採用することができ、混合の後、乾燥、粉砕、篩いかけをし、仮焼成工程を行う。仮焼成工程では、例えば電気炉等を用い、900℃〜1300℃程度の温度範囲で所定時間保持し、仮焼を行う。このときの雰囲気は、Oまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。また、仮焼における前記保持時間は、0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0023】
仮焼後、粉砕工程において、仮焼体を例えば平均粒径0.5μm〜2.0μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、例えばボールミル等を用いることができる。なお、各成分の原料粉末を添加するタイミングは、前記混合工程のみに限定されるものではない。例えば、必要な原料粉末のうちの一部の成分の原料粉末のみを秤量、混合し、仮焼する。これを粉砕した後、他の成分の原料粉末を所定量添加し、混合するようにしてもよい。
【0024】
粉砕工程において粉砕した粉末は、後の成形工程を円滑に実行するために、造粒工程において、顆粒に造粒される。この際、粉砕粉末に適当なバインダ、例えばポリビニルアルコール(PVA)を少量添加することが望ましい。また、得られる顆粒の粒径は、80μm〜200μm程度とすることが望ましい。
【0025】
造粒した顆粒は、成形工程において、例えば200MPa〜300MPaの圧力で加圧成形し、所望の形状の成形体を得る。次いで、成形時に添加したバインダを除去した後、焼成工程において、1000℃〜1400℃程度の範囲内で所定時間成形体を加熱保持し、焼結体を得る。焼成工程における焼成雰囲気は、例えばOまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。加熱保持時間は、2〜6時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0026】
焼成後、必要に応じて研磨等により表面仕上げを行い、焼結体(誘電体磁器組成物)を得る。この誘電体磁器組成物は、比誘電率εrの温度特性τε(−30℃〜85℃)が「正」であり、優れた誘電特性を備える。したがって、本発明の誘電体磁器組成物は、高周波(特にマイクロ波)用の誘電体共振器、フィルタ等に用いることが可能である。
【0027】
また、本発明の誘電体磁器組成物は、有機高分子材料(樹脂)と複合化して複合誘電体材料とすることで、その機能をいかんなく発揮する。以下、本発明の誘電体磁器組成物を用いた複合誘電体材料及び複合誘電体基板について説明する。
【0028】
複合誘電体材料においては、前記誘電体磁器組成物を誘電体セラミックスとして用い、当該誘電体セラミックスが有機高分子材料と複合化される。この場合、前記誘電体セラミックスと組み合わせる有機高分子材料としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を挙げることができるが、耐熱性等を考慮すると熱硬化性樹脂が好ましい。
【0029】
熱硬化性樹脂としては、ビニルベンジル系樹脂、活性エステル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリオレフィン系樹脂、液晶ポリマー樹脂、及びこれらの混合物等を挙げることができる。これらの樹脂は、高周波域において比較的低損失(高Q)の樹脂群であるが、熱硬化性樹脂を用いた場合、はんだプロセス等での耐熱性に優れた複合誘電体材料となる。特に、ポリビニルベンジルエーテル樹脂等のビニルベンジル系樹脂は、温度や吸湿性に依存しにくい誘電特性を有し、耐熱性にも優れた材料である。なお、熱硬化性樹脂を硬化させる際には硬化剤を存在させてもよく、例えば、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0030】
本発明の複合誘電体材料では、前記温度特性τεが「正」の誘電体磁器組成物を有機高分子材料と組み合わせることで、温度特性を相殺し、複合誘電体材料全体の温度特性τεをゼロに近いものとし、あるいは正の値とするが、この場合、さらに比誘電率εrの温度特性τεが「負」である誘電体磁器組成物を組み合わせることで、より精密な温度特性の制御を行い、誘電特性の向上を図ることが可能である。
【0031】
この場合、組み合わせる誘電体磁器組成物(比誘電率εrの温度特性τεが負である誘電体磁器組成物)としては、(BaSrCa)TiO系セラミックスや(SrCa)TiO系セラミックス等を挙げることができる。これらセラミックスの1種類、または2種類以上を組み合わせることで、複合誘電体材料全体の比誘電率εrを向上することができる。
【0032】
前記(BaSrCa)TiO系セラミックスや(SrCa)TiO系セラミックスは、例えば(BaSrCa1−x−yTiOなる組成式で表される(ただし、0≦x<0.25、0≦y≦1.0、0.94≦a≦1.06)。
【0033】
ここで、前記組成式において、0≦x<0.25、0≦y≦1.0の範囲で設定されていることから、前記(BaSrCa)TiO系セラミックスや(SrCa)TiO系セラミックスの主組成として、以下の形態を包含していることになる。なお、以下の形態の中では、誘電特性のバランスの観点から(c)及び(f)が望ましい。
(a)…(SrTiO
(b)…(CaTiO
(c)…(SrCa1−yTiO
(d)…(Sr1−xBaTiO
(e)…(Ca1−xBaTiO
(f)…(BaSrCa1−x−yTiO
【0034】
また、前記主組成において、xが0.25以上になると、Qfが低くなる。そこで、前記主組成においては、xを0.25未満とする。望ましいxは0.23以下、さらに望ましいxは0.21以下である。さらに、前記主組成において、yは0〜1.0の範囲から適宜選択することができる。ただし、xが前記範囲内において一定の場合、yを低めに設定することにより高いQf及び低い比誘電率の温度係数τεを実現することができるので、この点を考慮しつつ所望の誘電特性に合わせてyの値を設定すればよい。
【0035】
一方、前記主組成において、aは0.94〜1.06の範囲とする。0.94未満又は1.06を超えると、比誘電率εrの低下が激しくなるからである。望ましいaは0.95〜1.05、さらに望ましいaは0.97〜1.04である
【0036】
本発明の複合誘電体材料は、前述の2種類の誘電体セラミックス粉末と有機高分子材料(樹脂)とを混合することにより得られる。このとき、2種類の誘電体セラミックス粉末を合計した混合割合は、任意に設定することができるが、20体積%以上、70体積%未満とすることが好ましい。有機高分子材料の混合割合は、30体積%以上、80体積%未満である。誘電体セラミックス粉末の割合が20体積%未満であると、誘電特性を十分に発現させることができなくなるおそれがある。逆に、誘電体セラミックス粉末の割合が70体積%以上になると、得られる複合誘電体材料の緻密性が悪くなり、例えば水分の侵入が容易となって誘電特性が劣化する等の問題が生ずるおそれがある。
【0037】
前記複合誘電体材料は、誘電体セラミックスのみからなるバルク焼結体とは異なり、誘電体セラミックス粉末を有機高分子材料と複合化することにより構成される。したがって、比重を小さくすることができ、材料の軽量化を図ることが可能である。また、200℃程度の低温で複合誘電体材料を作製できることから、高温での焼成によって生ずる収縮や変形等は見られず、例えば銀や銅等からなる内部導体の特性劣化も防ぐことができる。
【0038】
以上の構成を有する複合誘電体材料は、例えば回路基板や回路基板用プリプレグ、各種電子部品等に用いることができる。例えば、回路基板に用いる場合には、いわゆるベースとなる基板に前記複合誘電体材料を用い、この上に配線パターンを形成し、必要な部品を実装することで、高周波用回路基板を構築することができる。また、前記複合誘電体材料からなる基板を複数層積層することで、多層基板とすることも可能である。例えば、前記複合誘電体材料をプリプレグとして用い、これを介して複合誘電体材料からなる基板を積層すれば、高性能な多層基板を構築することが可能である。
【0039】
そこで次に、本発明の複合誘電体材料の使用形態としてのプリプレグや金属箔塗工物、成形体、さらにはこれらを用いた複合誘電体基板、多層基板について説明する。
【0040】
先ず、プリプレグを作製する場合についての好ましい方法について述べる。プリプレグを作製するには、有機高分子材料として、例えばポリビニルベンジルエーテル化合物を用い、質量百分率で表して、40〜60%の溶液を調製する。この時に使用する溶剤はトルエン、キシレン、メチルエチルケトン等の揮発性溶剤が好ましい。その後、混合攪拌機にて前記誘電体セラミックス粉末を添加混合する。混合はボールミル等での混合も可能で、最終的には粘度調整のためにトルエン等の揮発性溶剤を加え、混合攪拌機にて10〜20分撹拌する。この時、脱気しながら撹拌することが望ましい。これにより、複合誘電体基板材料組成溶液(スラリー)を得ることができる。
【0041】
このようにして得られた複合誘電体材料組成物溶液(スラリー)をガラスクロス等のクロス基材に塗工する。特に、クロス基材としては、ガラスクロスの使用が好ましい。ガラスクロスは市販されている布質量40g/m以下、厚み50μm以下のもの(例えば、商品名旭シュエーベル等)が、誘電体セラミックス粉末の充填率を向上する上で好ましい。布質量の下限及び厚みの下限に特に制限はないが、それぞれ25g/m及び30μm程度である。
【0042】
前記ガラスクロスは、電気的な特性に応じてEガラスクロス、Dガラスクロス、Hガラスクロス等を使い分けることができる。また、層間密着力向上等の目的で、ガラスクロスに対してカップリング処理等を行ってもよい。なお、クロス基材としては、前記ガラスクロスの他に、ヤーンを織ったアラミドやポリエステル等の不織布等を用いて強化材としてもよい。この場合、厚み等はガラスクロスと同様とすればよい。
【0043】
前記塗工の際の塗工厚みとしては、現実的には、Bステージ化した後の厚みで50〜200μmとすることが好ましいが、板厚、フィラー含有率に従い適時選択することが可能である。また、塗工方法は、縦型塗工機で所定の厚みに塗工する方法、ドクターブレードコート法によりクロス基材に塗工する方法等、公知のいずれの方法であってもよく、用途に応じた生産法を選択することができる。このため生産性が高い。このような方法でフィルム化されたものを100〜120℃、0.5〜3時間熱処理し、プリプレグ(Bステージ)を得る。この際の条件は、樹脂コンテント、所望の流動性等によって適時選択すればよい。
【0044】
ここで得られたプリプレグを使用し、例えば両面銅箔基板を作製する場合について説明すると、所定厚みとなるように、プリプレグを重ね、その積層体の両面を銅箔で挟持して成形する。成形方法は、熱プレス等の公知の方法にて行う。成形条件は100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.5〜10時間が好ましく、必要に応じてステップキュアしてもよい。
【0045】
このときに使用する金属箔は、一般的には銅を用いるが、これに限らず、例えば金、銀、アルミ等から選択することも可能である。また、ピール強度を確保したい場合は電解箔を、高周波特性を重視したい場合は表面凹凸による表皮効果の少ない圧延箔を使用することが好ましい。金属箔の厚みに関しては、8〜70μmであり、用途、要求特性(パターン幅及び精度、直流抵抗等)に応じて適正な厚さのものを選定して使用すればよい。
【0046】
また、前述のような銅箔等の金属箔上に前記の複合誘電体材料組成物溶液をドクターブレードコート法等により塗工し、乾燥し、金属箔塗工物を得てもよく、これにより複合誘電体基板を作製してもよい。この場合の塗工厚みは、前記のプリプレグと同様にすればよい。乾燥は、100〜120℃で0.5〜3時間程度とすればよい。
【0047】
また、プレス成形によって板状の成形体を作製する場合は、混合方法等は前述した方法と同じであるが、混合したスラリーを90〜120℃で乾燥し、混合体の固まりを作製する。さらに、この固まりを乳鉢または公知の方法で粉砕し、混合体の粉末を得る。この混合粉末を金型にて100〜150℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.1〜3時間でプレス成形し板状成形体を得る。板状成形体の厚みとしては、0.05〜5mmであることが好ましく、所望の板厚、誘電体セラミックス粉末含有率に応じて適時選択する。この成形体を100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、0.5〜10時間硬化させる。また、必要に応じてステップキュアしてもよい。
【0048】
以上のようにして作製したプリプレグ、銅箔等の金属箔塗工物、板状の成形体や、銅箔等の金属箔、ガラスクロス等のクロス基材等を適宜組み合わせて成形を行い、複合誘電体基板を作製する。成形条件は、100〜200℃、9.8×10〜7.8×10Pa、30〜120分とする。あるいは、前記プリプレグ、金属箔塗工物、成形体や、銅箔等の金属箔、ガラスクロス等のクロス基材等、さらにはこれらによって作製される複合誘電体基板等を積層要素とし、多層に重ねて積層することで、多層基板を構築することも可能である。
【0049】
以上の他、本発明の複合誘電体材料は、多層コンデンサや共振器、インダクタ、アンテナ等、種々の電子部品にも使用することが可能である。例えば、共振器の場合、前記複合誘電体材料からなる積層体の表面や積層体間に、ストリップ線路やグランドプレーン、外部導体、内部導体等を形成し、必要箇所を電気的に接続すればよい。本発明の複合誘電体材料を用いた共振器は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ等の各種フィルタや、これらフィルタを組み合わせた分波フィルタ、ディプレクサ、電圧制御発振器等に応用が可能である。なお、本発明の複合誘電体材料をこれら電子部品に使用する場合、誘電体セラミックスと有機高分子材料の配合比を調整することにより、使用環境に合わせて比誘電率εrの温度変化係数τεを制御することも可能である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0051】
誘電体磁器組成物の作製
原料粉末として、SrCO粉末、La(OH)粉末、Nb粉末を準備した。なお、各原料粉末の平均粒径は0.1〜1.0μmである。この原料粉末を組成式(Sr1−xLa)Nbにおいてxの値を0〜1モルまで変化させた組成となるように秤量した後、ボールミルを用いて湿式混合を16時間行った。得られたスラリーを十分に乾燥させた後、大気中、1200℃で2時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。仮焼体をボールミルにより16時間湿式粉砕した後、得られたスラリーを十分に乾燥させ、バインダとしてPVA(ポリビニルアルコール)を適量加えて造粒し、プレス成形を行った。得られた成形体を、1200〜1400℃の範囲で2〜4時間保持し焼成した後に、直径10mm、厚さ5mmに加工して誘電体磁器組成物からなる試料1〜7を得た。
【0052】
評価
得られた誘電体磁器組成物をHakki−Coleman 法により誘電特性[比誘電率εr、Qf、比誘電率の温度特性τε(−30〜85℃)]を測定した。測定は、ネットワークアナライザー(ヒューレッドパッカード社製8510C)の一方のプローブより高周波を発振して周波数特性を測定し、得られたTE01δモードの共振周波数ピークと試料の寸法より比誘電率εrを求めた。各試料における測定結果を表1及び図1に示す。また、各資料における比誘電率εrの温度変化の様子を図2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
これら表1及び図1、さらには図2から明らかな通り、組成式(Sr1−xLa)Nbにおいて、Laの置換量xを増加するのに伴って、「正」の大きな温度特性τεが得られている。ただし、図1に示されるように、x<0.3では比誘電率εrや前記「正」の温度特性τεが低下している。また、x>0.55ではQf値の低下が見られる。したがって、これらを勘案すると、前記組成式(Sr1−xLa)Nbにおいて、比誘電率εr、Qf値、及び温度特性τεのバランスを考えた場合には、0.3≦x≦0.55とすることが好ましいと言える。
【0055】
MnOの添加
添加物としてMnOを加え、他は先の作製方法と同様にして誘電体磁器組成物を作製した。なお、添加物であるMnOは、仮焼前の湿式混合の際に添加した。MnOの添加量を変えて試料8〜11を作製した。
【0056】
これら試料についても、同様に誘電特性[比誘電率εr、Qf、比誘電率の温度特性τε(−30〜85℃)]を測定した。各試料における測定結果を表2及び図3に示す。MnOを添加することで、比誘電率εrが改善されている。ただし、MnOの添加量が0.5質量%を超えると、次第に各特性が低下しており、比誘電率εrについても、多量の添加では却って低下している。したがって、MnOの添加量については、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下とすることがより好ましいと言える。
【0057】
【表2】

【0058】
Crの添加
添加物としてCrを加え、他は先の作製方法と同様にして誘電体磁器組成物を作製した。なお、添加物であるCrは、仮焼前の湿式混合の際に添加した。Crの添加量を変えて試料12〜15を作製した。
【0059】
これら試料についても、同様に誘電特性[比誘電率εr、Qf、比誘電率の温度特性τε(−30〜85℃)]を測定した。各試料における測定結果を表3及び図4に示す。Crを添加することで、やはり比誘電率εrが改善されている。ただし、Crの添加量が1.0質量%を超えると、次第に各特性が低下しており、比誘電率εrについても、多量の添加では却って低下している。したがって、Crの添加量についても、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下とすることがより好ましいと言える。
【0060】
【表3】

【0061】
SiOの添加
添加物としてSiOを加え、他は先の作製方法と同様にして誘電体磁器組成物を作製した。なお、添加物であるSiOは、仮焼前の湿式混合の際に添加した。SiOの添加量を変えて試料16〜19を作製した。
【0062】
これら試料についても、同様に誘電特性[比誘電率εr、Qf、比誘電率の温度特性τε(−30〜85℃)]を測定した。各試料における測定結果を表4及び図5に示す。SiOを添加することで、比誘電率εrが改善されている。SiOの場合、添加量が増加しても比誘電率εrの低下は小さいが、多量の添加では温度特性τεが急激に低下している。したがって、SiOの添加量についても、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下とすることがより好ましいと言える。
【0063】
【表4】

【0064】
複合誘電体材料の作製
先ず、成分Aとしては、熱硬化性樹脂であるポリビニルベンジルエーテル樹脂を用いた。この成分Aの比誘電率εrは2.5、Qf値は330GHz、温度特性τεは−70ppm/℃である。
【0065】
成分Bは、原料粉末として、CaCO粉末、SrCO粉末、TiO粉末を準備し、先の誘電体磁器組成物と同様の工程を経て作製した。組成は、(Sr0.35Ca0.65)TiOである。得られた成分Aは、負の温度特性を有するものであり、比誘電率εrは−30℃において253.4、20℃において230.0、85℃において199.6であり、Qf値は8035GHz、温度特性τεは−2035ppm/℃である。
【0066】
成分Cは、次のようにして作製した。原料粉末として、SrCO粉末、La(OH)粉末、Nb粉末を準備した。なお、各原料粉末の平均粒径は0.1〜1.0μmである。この原料粉末を組成式(Sr1−xLa)Nbにおいてxの値が0.4となるように秤量した後、ボールミルを用いて湿式混合を16時間行った。得られたスラリーを十分に乾燥させた後、大気中、1200℃で2時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。仮焼体をボールミルにより16時間湿式粉砕した後、得られたスラリーを十分に乾燥させ、成分Cとした。
【0067】
複合誘電体材料を作製するため、複合誘電体材料全体の体積100体積%に対して成分Aを60体積%、成分B及びCの合計が40体積%となるよう秤量した。そして、成分A、B、Cと溶剤をボールミルにより2時間混合し、得られた複合材スラリーを十分乾燥させた。その後、乾燥した複合材を乳鉢により粉砕し複合材料粉末を得た。得られた複合材料粉末を100〜150℃で所望の形状にプレス成形し、この成形物を100〜200℃、30〜900分硬化させることで複合誘電体材料を得た。
【0068】
以上の方法にしたがって、成分Bと成分Cの配合比を変えて試料20〜25を作製した。複合誘電体材料(試料20〜25)それぞれについて、誘電率ε(2GHz)を空洞共振器法(摂動法)により測定した[ヒューレットパッカード(株)製 スカラーシンセサイザースウィーパー83620A、ネットワークアナライザー8757Cを使用]。さらにQ値を求めた。結果を表5及び図6に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
成分Aのみでは温度特性τεは小さいが比誘電率εrも小さい。また、成分Aと成分Bのみの複合材料(試料20)では、比誘電率εrは大きいが、温度特性τεは負側に大きい。また、成分Aと成分Cのみ(試料25)では、比誘電率εrはある程度大きいが、温度特性τεは正側に大きい。成分Aと成分B、成分Cを複合した試料21〜24では、εr≧10、Q≧300、|τε|≦200と良好な特性が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】組成式(Sr1−xLa)Nbにおけるxの値と誘電体磁器組成物の誘電特性[比誘電率εr、Qf、比誘電率の温度特性τε(−30〜85℃)]の関係を示す特性図である。
【図2】試料1〜6の比誘電率εrの温度変化の様子を示す特性図である。
【図3】MnOの添加量と誘電体磁器組成物の誘電特性[比誘電率εr、Qf、比誘電率の温度特性τε(−30〜85℃)]の関係を示す特性図である。
【図4】Crの添加量と誘電体磁器組成物の誘電特性[比誘電率εr、Qf、比誘電率の温度特性τε(−30〜85℃)]の関係を示す特性図である。
【図5】SiOの添加量と誘電体磁器組成物の誘電特性[比誘電率εr、Qf、比誘電率の温度特性τε(−30〜85℃)]の関係を示す特性図である。
【図6】成分Cの配合比と複合誘電体材料の誘電特性[比誘電率εr、Qf、比誘電率の温度特性τε(−30〜85℃)]の関係を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(A1−xLE)Nb(ただし、式中Aはアルカリ土類金属元素であり、LEはランタン系列元素である。また、0<x<1である。)で表されることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属元素がSrであり、ランタン系列元素LEがLaであることを特徴とする請求項1記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記組成式において、0<x<0.6であることを特徴とする請求項1または2記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記組成式において、0.3≦x≦0.55であることを特徴とする請求項3記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記組成式で表される成分を主成分とし、Mn、Cr、Siから選択される少なくとも1種の酸化物を添加物として含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記添加物の添加量が1.5質量%以下であることを特徴とする請求項5記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
誘電体セラミックスと有機高分子材料とを含有する複合誘電体材料であって、
前記誘電体セラミックスとして、前記請求項1から6のいずれか1項記載の誘電体磁器組成物と、比誘電率の温度特性が負である誘電体磁器組成物を含有することを特徴とする複合誘電体材料。
【請求項8】
前記比誘電率の温度特性が負の値である誘電体磁器組成物が、(BaSrCa)TiO系セラミックス、(SrCa)TiO系セラミックスから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項7記載の複合誘電体材料。
【請求項9】
前記有機高分子材料は、熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項7または8記載の複合誘電体材料。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂が、ポリビニルベンジルエーテル樹脂を主体とするものであることを特徴とする請求項9記載の複合誘電体材料。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか1項記載の複合誘電体材料を用いたことを特徴とする複合誘電体基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−265078(P2006−265078A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89846(P2005−89846)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】