説明

誘電体磁器組成物及び誘電体磁器

【課題】比誘電率εrが高くQ×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現でき、低温焼成が可能な誘電体磁器組成物等を提供すること。
【解決手段】下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を主成分とし、ホウ素酸化物及びガラス組成物から選ばれる少なくとも1種を副成分として含有する誘電体磁器組成物。
a・CaO −b・LiO1/2 −c・BiO3/2 −d・REO3/2−e・TiO2 ・・・(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、4≦a≦26、10≦b≦23、0≦c<8、2.5≦d≦25、50≦e≦60、0.65≦b/(c+d)<1.0、0≦c/d≦a×0.04、a+b+c+d+e=100なる関係を満たす。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物及び誘電体磁器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の電子機器においては、使用周波数帯域が高周波に移行してきており、電子機器に用いられる誘電体フィルタには、高周波帯域で優れた誘電特性を有する誘電体材料を用いることが求められる。このような誘電特性として、主として、Q×f値(Q:品質係数、f:共振周波数)や共振周波数fの温度変化係数τfがある。ここで、品質係数Qは誘電正接tanδの逆数である。Q×f値は、誘電体材料の損失特性を表し、Q×f値が大きいほど損失が低い誘電体材料となる。また、τfは共振周波数fの温度安定性を表し、τfの絶対値が小さいほど温度変化に対する誘電特性の変化が小さい誘電体材料となる。従って、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度変化係数τfの絶対値が小さい誘電体材料を用いると、損失が小さく温度安定性に優れた誘電体フィルタを実現できる。
【0003】
一方、近年、携帯電話等の電子機器には小型化が求められ、それに伴い、誘電体フィルタにも小型化が求められている。そのためには一般に、誘電体中を伝わる電磁波の波長が比誘電率εrに応じて1/√εr倍に短縮されることから、高い比誘電率εrを有する誘電体材料を用いることが有効とされている。
【0004】
しかしながら、Q×f値と比誘電率εrとの間にはトレードオフの関係があり、Q×f値が大きくなると、比誘電率εrが小さくなり、逆にQ×f値が小さくなると比誘電率εrが大きくなる。そのため、上述したQ×f値、温度変化係数τf及び比誘電率εrの全てをバランスよく有する誘電体材料の開発が進められている。
【0005】
例えば下記特許文献1では、下記組成式:
a・CaO −b・LiO1/2 −c・BiO3/2 −d・REO3/2−e・TiO2 ・・・(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種の希土類元素を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、10≦a≦25、10≦b≦20、8≦c≦15、2≦d≦10、50≦e≦60、0.65≦b/(c+d)<1.0、a+b+c+d+e=100なる関係を満たす。〕で表される誘電体磁器組成物を用いることにより、Q×f値が大きく共振周波数の温度変化係数τfが小さく且つ高い比誘電率εrを有する誘電体磁器を実現することが提案されている。
【特許文献1】特開2006−273703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、融点が高く高価なPdやPtではなく、より導体抵抗の低いAg(融点960℃)などの導体材料が注目されており、これに伴い、この種の導体材料と同時に焼成可能な低温焼成材料(LTCC)が注目されてきている。
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の誘電体磁器組成物は、高温焼成材料としては適しているものの、そのままでは焼結が十分に進まないため、低温焼成材料としては適しているとは言えないことが本発明者らの実験によって明らかとなった。
【0008】
ここで、上記誘電体磁器組成物について低温焼成を可能とするためには、その誘電体磁器組成物にガラス系組成物を含めることが考えられる。
【0009】
しかし、そのようにガラス系組成物を上記誘電体磁器組成物に含めても、それだけでは、高温焼成したときのように、Q×f値が大きく共振周波数fの温度変化係数τfが小さく且つ高い比誘電率εrを有する誘電体磁器を実現できなかった。
【0010】
そこで、本発明は、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現でき、低温焼成が可能な誘電体磁器組成物及び誘電体磁器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため上記組成式(1)中のBiの量に着目し、さらにBiと、RE及びCaとの量的関係に着目して鋭意研究を重ねた結果、上記組成式(1)中のBi量を減少させるとともに、BiとREとの比(Bi/RE)をCaの量に応じて定まる範囲内にすることで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を主成分とし、ホウ素酸化物及びガラス組成物から選ばれる少なくとも1種を副成分として含有することを特徴とする誘電体磁器組成物である。
a・CaO - b・LiO1/2 −c・BiO3/2 -d・REO3/2−e・TiO2 …(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、
4≦a≦26
10≦b≦23
0≦c<8
2.5≦d≦25
50≦e≦60
0.65≦b/(c+d)<1.0
0≦c/d≦a×0.04
a+b+c+d+e=100
なる関係を満たす。〕
【0013】
本発明の誘電体磁器組成物によれば、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現でき、低温焼成が可能となる。
【0014】
なお、上記組成式(1)における各元素の組成は、酸化物誘電体についてそれ単独で誘導結合プラズマ発光分光分析及び蛍光X線分析により分析した分析値として表している。
【0015】
また、本発明は、上記誘電体磁器組成物を焼成して得られる誘電体磁器である。この誘電体磁器によれば、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好なものとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現でき、低温焼成が可能な誘電体磁器組成物及び誘電体磁器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
〔誘電体磁器組成物〕
本発明は、下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を主成分とし、ホウ素酸化物及びガラス組成物から選ばれる少なくとも1種を副成分として含有することを特徴とする誘電体磁器組成物である。
a・CaO −b・LiO1/2 −c・BiO3/2 −d・REO3/2−e・TiO2 …(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、
4≦a≦26
10≦b≦23
0≦c<8
2.5≦d≦25
50≦e≦60
0.65≦b/(c+d)<1.0
0≦c/d≦a×0.04
a+b+c+d+e=100
なる関係を満たす。〕
【0019】
上記酸化物誘電体中のCaには、比誘電率εrを向上させる効果と、共振周波数の温度変化係数τfをプラス側に大きくする効果がある。65を超える高い比誘電率εrを実現するためには、CaO換算で4モル以上のCaが含有されていることが必要であり、4モル%未満では、比誘電率εrが低下しすぎてしまう。一方、絶対値で250ppm/Kより小さい温度変化係数|τf|を実現するためには、CaはCaO換算で26モル%以下である必要がある。26モル%を超えると、比誘電率εrは高くできるが、共振周波数の温度変化係数τfがプラス側に大きくなり温度安定性が悪くなる。したがって、CaのCaO換算による含有量aは、4モル%以上26モル%以下となる。
【0020】
さらに、高い比誘電率εrと、安定した温度特性とを両立させるためには、CaのCaO換算による含有量aは、10モル%以上21モル%以下であることがより好ましい。
【0021】
前記酸化物誘電体においては、成分CaOのCaの一部がアルカリ土類金属元素(Sr,Ba,Mgから選択される1種又は2種以上)により置換されてもよい。Caの一部をSr、Ba等のイオン半径がCaより大きな元素で置換することで、比誘電率εrを高めることができる。また、Caの一部を、Mg等のイオン半径がCaより小さな元素で置換すると、Q×f値を高めることができる。
【0022】
前記酸化物誘電体中のLiは、比誘電率εrと共振周波数の温度変化係数τfに作用を及ぼす。LiのLiO1/2換算による含有量bは、10モル%以上23モル%以下とする。10モル%未満では、共振周波数の温度変化係数τfは、プラス側に大きくなりすぎる。一方、23モル%を超えると、比誘電率εrが低くなりすぎる。
【0023】
前記酸化物誘電体中のBiには、比誘電率εrを高める効果がある一方で、Q×f値を低下させてしまう。また、多くなりすぎると反対に比誘電率εrは低下し、さらにQ×f値も低下する。そのため、εrとQ×f値のバランスから適量範囲を決める必要がある。上記酸化物誘電体を高温焼成材料として使用する場合には、Bi量を8モル%以上15モル%以下とすることが適切である。これは、15モル%を超えるとQ×f値が悪化し、8モル%未満であると比誘電率εrの低下や温度不安定性が大きくなる懸念があるからである。しかし、ホウ素酸化物及びガラス組成物を副成分とする低温焼成が可能な誘電体磁器組成物の主成分組成について検討を進めた結果、8モル%以上では、Q×f値が大きく低下してしまうことが明らかとなった。そこで、本発明者らが8モル%未満についてさらに検討を行った結果、希土類元素RE量との比をCa量によって定まる上限値内とすることによって、高いQ×f値を実現できることがわかった。そこで、BiのBiO3/2換算による含有量cは、0モル%以上8モル%未満とし、かつ、0≦c/d≦a×0.04を満たす必要がある。
【0024】
Biを含有しなくても高いQ×f値となるが、比誘電率εrを高める効果とのバランスを考えると、0.5モル%以上8モル%未満がより好ましい。
【0025】
前記酸化物誘電体中の希土類元素REは、共振周波数の温度変化係数τfの制御に寄与し、RE量が増加するとτfはマイナス方向での絶対値が大きくなる。
【0026】
また、ホウ素酸化物及びガラス組成物を副成分として低温焼成を行った場合、RE量が増加すると、Q×f値が向上する傾向も確認された。さらに詳細に調べた結果、BiとREの比が、低温焼成材料における高いQ×f値と密接な関わりを有することがわかった。
【0027】
REO3/2の量(d)は、0.65≦b/(c+d)<1.0、0≦c/d≦a×0.04及びa+b+c+d+e=100を満足する限り特に制限されない。
【0028】
また、前記酸化物誘電体を構成する成分のうち、REO3/2において、REはNdであることが好ましく、さらにはその一部がランタニド族元素(La,Ce,Pr,Sm,Y,Yb,Dyから選択される1種又は2種以上)によって置換されていてもよい。REをNdとすることで、比誘電率εr、Q×f値と温度特性(温度安定性)の各特性のバランスが良いうえ、特性と材料コストのバランスも良好なものとなる。また、Ndの一部を、La,Ce,Pr等、イオン半径がNdより大きな元素で置換することで、比誘電率εrをより一層高くすることができる。Ndの一部を、Sm,Y,Yb,Dy等、イオン半径がNdよりも小さな元素で置換することで、Q×f値をより高くすることができる。
【0029】
Tiが多すぎると、ペロブスカイト結晶相の形成に必要以上の過剰なTiにより、TiOなどのTiを多く含む異相が生成しやすい。逆にTiが少なすぎると、ペロブスカイトのAサイトに入るはずの他の金属元素を多く含む異相が発生しやすい。何れの場合にも、異相の発生により特性が大幅に低下するおそれがある。そのため、TiのTiO換算による含有量eは50モル%以上、60モル%以下とする必要がある。
【0030】
前述の酸化物誘電体においては、1価元素Liと、3価元素であるBi及び希土類元素REの総和とのモル比b/(c+d)を、適正範囲に制御する必要がある。b/(c+d)<1とすることで、ほぼ単相のペロブスカイト構造を持つ酸化物誘電体が得られる。b/(c+d)≧1であると、LiO・TiOからなる異相の生成により比誘電率εrが低下する。逆に、Liが少なくなりすぎる、すなわちb/(c+d)<0.65であると、BiTiやBiTi等の異相が生成し、これにより比誘電率εr及びQ×f値が低下し、温度変化係数τfはプラス方向での絶対値が大きくなる。したがって、0.65≦b/(c+d)<1とすることで、高特性の酸化物誘電体が実現される。
【0031】
誘電体磁器組成物が高いQ×f値を有するためには、単にBi量を減じたり、RE量を増加させるだけでなく、Bi量とRE量のモル比(c/d)をCa量に応じて制御することが必要である。すなわち、このc/dをCaのモル比(a)に0.04を乗じた値を上限とする範囲内にする。この上限値を超えると、Q×f値が著しく低下してしまう。
【0032】
また、前述の酸化物誘電体においては、異相の析出量を低減し、特性を高める観点で、ペロブスカイト構造におけるAサイトの原子とBサイトの原子とのモル比A/B、すなわち、(a+b+c+d)/eを適正範囲内にすることが好ましい。前記酸化物誘電体において、Aサイトに一部空孔ができると考えられるため、A/Bが1より小さいことが異相の低減や特性の向上に必要である。つまり、(a+b+c+d)/e≧1であると、異相が生成し、比誘電率εrやQ×f値の低下を招くおそれがある。また、Bサイトの原子のモル量Bに比べAサイトの原子のモル量Aが少なすぎる場合にも異相の発生により、比誘電率εrやQ×f値の低下を招くおそれがある。本発明者らが各元素の配合を様々に変化させ、得られた誘電体についての特性評価及び構造分析の結果を詳細に解析した結果、(a+b+c+d)/eの望ましい範囲は、0.93≦(a+b+c+d)/e<1であることが確認されている。
【0033】
また、前述の酸化物誘電体においては、上記式(1)中、a、b、d、eが下記式:
b/d≧0.90
(a+b+d)/e<1.0
を満たすことが好ましい。
b、dが下記式:
b/d≧0.90
を満たす場合、Biと反応できるだけの余剰のLiを酸化物誘電体が含有することによって、主成分となる酸化物誘電体材料作製時おいて、LiとBiの低融点化合物、例えばLiBiO(融点が約700℃)などを生成し、反応性を促進させることができる。その結果、誘電特性に優れた、特に「比誘電率εrが高い」酸化物誘電体粉末を作製することができる。
【0034】
また、ペロブスカイト構造をもつ酸化物誘電体では、Aサイト原子とBサイト原子のモル比A/Bが誘電特性に大きく関係する。本発明の誘電体磁器組成物に含まれる酸化物誘電体では、A/Bが1よりも小さいことが異相の発生低減や特性の向上に好適である。そして、Aサイトは主として、Ca、Li及びREからなり、Bサイトは主としてTiからなり、Biは主にAサイトに配位する。しかし、本酸化物誘電体では、Biを除いて考えた組成においてもA/B<1.0であることが特性向上には好適である。そこで、上記の通り、式(1)中のa,b,d,eは、下記式:
(a(Ca)+b(Li)+d(RE))/e(Ti)<1.0
を満たすことが好ましい。
【0035】
〔誘電体磁器組成物の製造方法〕
本発明の誘電体磁器は、例えば図1に示す製造プロセスにしたがって作製することができる。図1は、酸化物誘電体の作製から誘電体磁器の作製までの一連の製造プロセスを示すものであり、混合工程1、仮焼成工程2、粉砕工程3、副成分の混合工程4、造粒工程5、成形工程6、及び焼成工程7とから構成される。酸化物誘電体の粉末は、図1に示す製造プロセスのうち、混合工程1から粉砕工程3までの工程により作製される。
【0036】
酸化物誘電体の製造に際しては、先ず、主成分の原料粉末を所定量秤量し、これらを混合する(混合工程1)。主成分の原料粉末としては、酸化物粉末の他、加熱により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩等の粉末を用いることができる。この場合、1種類の金属の酸化物(化合物)に限らず、例えば2種類以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。各原料粉末の平均粒径は、例えば0.1μm〜3.0μmの範囲内で適宜選択すればよい。
【0037】
混合方法としては、例えばボールミルによる湿式混合等を採用することができ、混合の後、乾燥、粉砕、篩いかけをし、仮焼成工程2を行う。仮焼成工程2では、例えば電気炉等を用い、900℃〜1300℃の温度範囲で所定時間保持し、仮焼を行う。このときの雰囲気は、O、Nまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。また、仮焼における前記保持時間は、例えば0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0038】
仮焼後、粉砕工程3において、仮焼体を例えば平均粒径0.1μm〜2.0μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、例えばボールミル等を用いることができる。
【0039】
なお、各成分の原料粉末を添加するタイミングは、前記混合工程1のみに限定されるものではない。例えば、必要な原料粉末のうちの一部の成分の原料粉末のみを秤量、混合し、仮焼する。これを粉砕した後、他の成分の原料粉末を所定量添加し、混合するようにしてもよい。
【0040】
本発明においては、以上により得られた酸化物誘電体の粉末にホウ素酸化物、あるいはガラス組成物を副成分として添加して誘電体磁器組成物とし、低温焼成化を実現している。以下、本発明の誘電体磁器組成物において用いられる副成分について説明する。
【0041】
前記副成分として用いられるホウ素酸化物は、主組成成分である酸化物誘電体粒子の界面において酸化物誘電体粒子中に拡散し、酸化物誘電体粒子間を結合する機能を果たす。したがって、前記ホウ素酸化物を加えることで酸化物誘電体粒子間が低温でも結合され、低温焼成化される。
【0042】
ホウ素酸化物としては、B等を用いることができ、誘電体磁器組成物における含有量は、主組成成分100質量部に対して0.1質量部〜6.0質量部とすることが好ましい。この場合、低温焼成化を達成することがより容易となり、且つ前記主組成成分とともに焼成しても異相の析出を十分に防止できる。
【0043】
一方、副成分として用いられるガラス組成物も、誘電体磁器組成物の低温焼成化に効果を有するが、ガラス組成物の場合には、ガラス組成物が酸化物誘電体粒子間に入り込み、隙間を埋める役割を果たすことで前記低温焼成化が図られる。
【0044】
前記ガラス組成物は、好ましくはSiOを酸化物成分として含むガラス組成物を用いるが、BやZnが構成成分としてさらに含まれることがより好ましく、例えばBやZnOをガラス構成酸化物として含むことが好ましい。ガラス組成物がBやZn(すなわちBやZnO)を構成成分として含むことで軟化点が下がり、誘電体磁器組成物を低温焼成化する上で有利である。
【0045】
前記ガラス組成物を副成分として用いる場合、誘電体磁器組成物における含有量は、主組成成分100質量部に対して0.1質量部〜35.0質量部とすることが好ましい。ガラス組成物の含有量が主組成成分100質量部に対して0.1質量部以上であると、密度向上効果が十分となり、低温焼成化が容易となる。ガラス組成物は、その含有量が多いほど焼成により得られる誘電体磁器の密度向上に繋がるが、ガラス組成物の含有量が多くなればなるほど主組成成分である酸化物誘電体の比率が低下することになり、誘電特性が相対的に低下するおそれがある。そこで、誘電特性(特に比誘電率εr)を考慮すると、ガラス組成物の含有量は上記の通り主組成成分100質量部に対して35.0質量部以下とすることが好ましい。ガラス組成物の含有量が主組成成分100質量部に対して35.0質量部以下であると、誘電体磁器全体の比誘電率εrが大きくなり、良好な誘電特性が得られる。
【0046】
本発明の誘電体磁器組成物においては、前述のホウ素酸化物かガラス組成物の一方が副成分として含有されていればよいが、ホウ素酸化物とガラス組成物が併用されることで、より一層の低温焼成化や高密度化を図ることができる。例えば、副成分としてホウ素酸化物を用いた場合には、酸化物誘電体粒子間を結合させることはできるが、酸化物誘電体の焼結体にある程度の隙間が残ってしまい、誘電体磁器の焼結密度を上げるのに限界がある。ガラス組成物を併用すれば、前記隙間を埋める形でガラス組成物が入り込み、誘電体磁器の焼結密度をより向上することができる。
【0047】
また、本発明の誘電体磁器組成物においては、前記副成分(ホウ素酸化物やガラス組成物)の他、Cu、V、Znのうちの少なくとも1種を第2の副成分として含有していてもよい。CuやV、Znを酸化物の形態(CuO、V、ZnO)で添加することで、より一層の密度向上を実現することができる。なお、例えばZnOはガラス組成物の成分としても用いられる酸化物であるが、ZnOを第2の副成分として加える場合には、ガラス組成物とは別に単独の酸化物の形態で加える。また、前記第2の副成分は、単独の添加ではほとんど効果が期待できず、第1の副成分(ホウ素酸化物やガラス組成物)の添加が前提となる。すなわち、第1の副成分の添加に加えて第2の副成分を添加することがより一層の密度向上の実現に必要である。
【0048】
前述の酸化物誘電体を第1の副成分(ホウ素酸化物やガラス組成物)や第2の副成分と混合することにより本発明の誘電体磁器組成物を得ることができる。本発明の誘電体磁器を製造するには、上記のようにして得られた誘電体磁器組成物を、造粒工程5において造粒し、成形工程6において造粒した顆粒を成形して所望の形状の成形体を得た後、焼成工程7において成形体を焼成する。造粒に際しては、適当なバインダー、例えばポリビニルアルコール(PVA)あるいはアクリル系樹脂を少量添加することが望ましい。また、得られる顆粒の粒径は、80μm〜200μm程度とすることが望ましい。
【0049】
成形工程6において、例えば100MPa〜300MPaの圧力で造粒した顆粒を加圧成形し、所望の形状の成形体を得る。焼成工程7においては、得られた成形体を所定の温度及び時間で加熱保持し、成形時に添加したバインダーを除去して焼結体を得る。こうして誘電体磁器を得ることができる。本発明の誘電体磁器組成物は、低温焼成可能であり、前記焼成工程7における焼成温度を1000℃以下とすることができ、例えばAgの融点以下の温度である900℃〜950℃程度の温度条件で焼成を行うことが可能である。焼成工程7における焼成雰囲気は、例えばO、Nまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。加熱保持時間は、例えば0.5〜6時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0050】
本発明の誘電体磁器組成物は、比誘電率εrやQ×f値、共振周波数の温度変化係数τf(−40℃〜85℃)についてバランス良く優れた誘電特性を備える誘電体磁器を実現でき、しかも1000℃以下での低温焼成が可能である。したがって、本発明の誘電体磁器組成物は、高周波、特にマイクロ波用の共振器を構成し、導体としてAgやAg−Pd合金を用いた積層誘電体フィルタ(バンドパスフィルタやローパスフィルタ、ハイパスフィルタ)、さらには、誘電体フィルタとして機能する構成を有する多層回路基板などの誘電体層を得るのに好適である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
主成分である酸化物誘電体粉末
原料粉末として、高純度のCaCO、LiCO、Bi、Nd(OH)、TiO等を用意した。各原料粉末の平均粒径は0.1〜1.0μmである。
【0053】
これら原料粉末を所定量秤量し、ボールミルを使用してイオン交換水中で湿式混合を16時間行った。得られたスラリーを十分に乾燥させた後、大気中1150℃で4時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。得られた仮焼体を平均粒径が0.5〜1.5μmの範囲となるようにボールミルを使用してイオン交換水中で湿式粉砕を行い、乾燥して微粉砕された酸化物誘電体粉末A1〜A47、B1〜B10を得た。なお、平均粒子径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製、MICROTRAC model 9320−X100)を使用した。また、作製した酸化物誘電体粉末の組成を蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX−100e)と誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)装置(島津社製ICPS−8000)で確認した。作製した酸化物誘電体粉末の一覧を表1と表2に示す。なお、表2において、B1〜B7については、CaOの右側の「置換」の欄が空欄となっているが、これは、Caの一部がBa、Sr、Mg等によって置換されていないことを表す。また、B8〜B10については、REO3/2の右側の欄が空欄となっているが、これは、REの全てがNdであり、REの一部がLa、Ce、Pr、Sm、Dy、Yb、Y等によって置換されていないことを表す。
【表1】


【表2】

【0054】
副成分となるガラス組成物
各種酸化物原料を配合してガラス組成物G1〜G6を作製した。G1、G2、G4は、Bを含むガラス組成物であり、G3は、Znを含むガラス組成物である。また、G5、G6は、BとZnを共に含むガラス組成物である。得られたガラス組成物を平均粒径が1.0〜5.0μmの範囲となるようにボールミルを使用してエタノール中で湿式粉砕を行い、乾燥して粉砕されたガラス組成物粉末G1〜G6を得た。得られたガラス組成物G1〜G6の軟化点、密度、組成分析値を表3に示す。なお、ガラス組成物の軟化点は、示差熱(DTA)分析に基づき、熱分析装置(リガク社製、Thermo Plus TG8120)を用いて測定した。また、組成分析は、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX−100e)と誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)装置(島津社製ICPS−8000)を用いて行った。
【表3】

【0055】
誘電体磁器の作製1(副成分:B
先に作製した酸化物誘電体粉末A1〜A47、B1〜B10を主成分とし、Bを副成分として誘電体磁器の作製を行った。
【0056】
主成分である各酸化物誘電体粉末100質量部に対して、副成分であるBを2.0質量部秤量し、ボールミルを使用してイオン交換水中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。この成型体を950℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料(誘電体磁器)を得た。
【0057】
得られた円柱状焼結体試料について、誘電特性(比誘電率εr、Q×f値、共振周波数fの温度変化係数τf)を測定した。誘電特性の測定は、Hakki−Coleman法により行った。使用した測定器は、ネットワークアナライザ(ヒューレットパッカード社製、 8510C)及び恒温槽(デスパッチ社製、900シリーズ)である。なお、測定時の共振周波数は3〜5GHzであり、温度特性の測定は−40〜+85℃の範囲で行い、+20℃の共振周波数f(+20℃)を基準に下記式により算出した。
τf={[f0(+85℃)−f0(-40℃)]/[f0(+20℃)×(85+40)]}×10(ppm/K)
【0058】
なお、相対密度については、主成分の誘電体酸化物粉末や副成分のBの密度に基づいて誘電体磁器の理論密度を計算し、実際の焼結体の重量と寸法から求めた密度とを比較して相対密度を算出した。結果を表4と表5に示す。
【0059】
表4及び表5において、誘電体磁器の比誘電率εrが65以上、Q×f値が1000GHzより大きく、且つτfの絶対値が250ppm/Kより小さい場合に、比誘電率が高く、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好であるとした。この基準を超えた誘電特性を誘電体磁器組成物が有していれば、その低温焼成により得られる誘電体磁器を、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものである。
【表4】


【表5】

【0060】
表4及び表5に示すように、実施例1〜39の誘電体磁器では比誘電率εr、Q×f値、τfの絶対値の全てが上記基準を満たしていたのに対して、比較例1〜18の誘電体磁器では、比誘電率εr、Q×f値、τfの絶対値の少なくとも1つが上記基準を満たしていなかった。従って、実施例1〜39の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。これに対し、比較例1〜18の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能することが困難となるものと考えられる。
【0061】
誘電体磁器の作製2(副成分:ガラス組成物)
先に作製した酸化物誘電体粉末A4〜A45を主成分とし、表3に示したガラス組成物のうちBとZnを共に含むG6を副成分として、誘電体磁器の作製を行った。
【0062】
主成分である各酸化物誘電体粉末100質量部に対して、副成分であるガラス組成物G6を3.0質量部秤量し、ボールミルを使用してエタノール中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。この成型体を900℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。そして、「誘電体磁器の作製1」と同様にして誘電特性の測定を行った。なお、相対密度については、主成分の誘電体酸化物粉末や副成分のガラス組成物G6の密度に基づいて誘電体磁器の理論密度を計算し、実際の焼結体の重量と寸法から求めた密度とを比較して相対密度を算出した。結果を表6に示す。
【表6】

【0063】
表6に示すように、実施例40〜68の誘電体磁器組成物では比誘電率εr、Q×f値、τfの絶対値の全てが上記基準を満たしていたのに対して、比較例19〜31の誘電体磁器組成物では、Q×f値が上記基準を満たしていなかった。従って、実施例40〜68の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。これに対し、比較例19〜31の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能することが困難となるものと考えられる。
【0064】
誘電体磁器の作製3(副成分:B+ガラス組成物)
先に作製した酸化物誘電体粉末A4〜A45、B1〜B10を主成分とし、Bとガラス組成物G6の双方を副成分として、誘電体磁器の作製を行った。
【0065】
主成分である各酸化物誘電体粉末100質量部に対して、副成分であるBを2.0質量部、ガラス組成物G6を3.0質量部秤量し、ボールミルを使用してエタノール中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。この成型体を900℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。そして、「誘電体磁器の作製1」と同様にして誘電特性の測定を行った。結果を表7と表8に示す。
【表7】


【表8】

【0066】
表7及び表8に示すように、実施例69〜107の誘電体磁器では比誘電率εr、Q×f値、τfの絶対値の全てが上記基準を満たしていたのに対して、比較例32〜44の誘電体磁器では、Q×f値が上記基準を満たしていなかった。従って、実施例69〜107の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。これに対し、比較例32〜44の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能することが困難となるものと考えられる。
【0067】
誘電体磁器の作製4(副成分:B+各種ガラス組成物)
先に作製した酸化物誘電体粉末のうちA28を主成分とし、副成分となるBとガラス組成物の種類を変えて誘電体磁器の作製を行った。
【0068】
主成分であるA28の酸化物誘電体粉末100質量部に対して、表9に示すように副成分であるBと各ガラス組成物を秤量し、ボールミルを使用してエタノール中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。この成型体を950℃あるいは900℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。そして、「誘電体磁器の作製1」と同様にして誘電特性の測定を行った。結果を表9に示す。
【表9】

【0069】
表9に示すように、実施例57、108〜118の誘電体磁器では比誘電率εr、Q×f値、τfの絶対値の全てが上記基準を満たしていたのに対して、比較例45〜46の誘電体磁器では、副成分を含有していないために焼結が進まず、比誘電率εrが上記基準を満たしていなかった。従って、実施例57、108〜118の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。これに対し、比較例45〜46の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能することが困難となるものと考えられる。
【0070】
誘電体磁器の作製5(副成分:B量の規定)
先に作製した酸化物誘電体粉末のうちA28を主成分とし、副成分となるB量を変えて誘電体磁器の作製を行った。
【0071】
主成分であるA28の酸化物誘電体粉末100質量部に対して、副成分であるBを0.1〜6.0質量部秤量し、ボールミルを使用してイオン交換水中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。この成型体を950℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。そして、「誘電体磁器の作製1」と同様にして誘電特性の測定を行った。結果を表10に示す。
【表10】

【0072】
表10に示すように、実施例18、119〜123の誘電体磁器では比誘電率εr、Q×f値、τfの絶対値の全てが上記基準を満たしていたのに対して、比較例45の誘電体磁器では、副成分を含有していないために焼結が進まず、比誘電率εrが上記基準を満たしていなかった。従って、実施例18、119〜123の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。これに対し、比較例45の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能することが困難となるものと考えられる。
【0073】
誘電体磁器の作製6(副成分:ガラス組成物の規定
先に作製した酸化物誘電体粉末のうちA28を主成分とし、副成分となるガラス組成物の量を変えて誘電体磁器の作製を行った。
【0074】
主成分であるA28の酸化物誘電体粉末100質量部に対して、副成分であるZnを含むガラス組成物G3を0.1〜35.0質量部秤量し、ボールミルを使用してエタノール中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。この成型体を950℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。そして、「誘電体磁器の作製1」と同様にして誘電特性の測定を行った。結果を表11に示す。
【表11】

【0075】
表11に示すように、実施例112、124〜130の誘電体磁器では比誘電率εr、Q×f値、τfの絶対値の全てが上記基準を満たしていたのに対して、比較例45の誘電体磁器では、副成分を含有していないために焼結が進まず、比誘電率εrが上記基準を満たしていなかった。従って、実施例112、124〜130の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。これに対し、比較例45の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能することが困難となるものと考えられる。
【0076】
以上より、本発明の誘電体磁器組成物によれば、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好な誘電体磁器を実現でき、しかも低温焼成が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る誘電体磁器の製造プロセスの一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0078】
1…混合工程、2…仮焼成工程、3…粉砕工程、4…副成分の混合工程、5…造粒工程、6…成形工程、7…焼成工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を主成分とし、ホウ素酸化物及びガラス組成物から選ばれる少なくとも1種を副成分として含有することを特徴とする誘電体磁器組成物。
a・CaO −b・LiO1/2 −c・BiO3/2 −d・REO3/2−e・TiO2 …(1)
〔但し、上記式(1)中、REはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種を表す。また、a〜eは各成分の比率(モル%)を表し、
4≦a≦26
10≦b≦23
0≦c<8
2.5≦d≦25
50≦e≦60
0.65≦b/(c+d)<1.0
0≦c/d≦a×0.04
a+b+c+d+e=100
なる関係を満たす。〕
【請求項2】
前記式(1)中、a〜eが下記式:
0.93≦(a+b+c+d)/e<1.0
を満たす、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記式(1)中、a、b、d、eが下記式:
b/d≧0.90
(a+b+d)/e<1.0
を満たす、請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記ホウ素酸化物が前記副成分として含まれており、前記ホウ素酸化物が、前記主成分100質量部に対してB換算で0.1質量部〜6.0質量部の割合で含まれている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記ガラス組成物が前記副成分として含まれており、前記ガラス組成物が前記主成分100質量部に対して0.1質量部〜35.0質量部の割合で含まれている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記式(1)中、REが少なくともNdを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
前記REにおいて、前記Ndの一部がLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選択される少なくとも1種により置換されている、請求項6に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
前記式(1)中、Caの一部がBa,Sr及びMgからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の誘電体磁器組成物を焼成して得られる誘電体磁器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−161411(P2009−161411A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2465(P2008−2465)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】