誘電泳動装置
誘電泳動を用いて流体を濾過するための装置を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電泳動に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電泳動(DEP)とは、流体媒体中の懸濁粒子が、印加された電界の勾配に露出されたときに力を受けることである。印加電界の勾配により、粒子と流体媒体との誘電分極の差が、粒子に誘電泳動力を受けさせる。この作用は、電磁場の運動量バランスに関して、マクスウェル応力テンソルを用いて定量化されることができ、又は、印加電界により粒子上及び粒子内に誘起された電荷の大きさ及び分布に関して定量化されることができる。粒子、例えば血球は、強い誘電泳動作用を受けると、一般に、約10−11N(ニュートン)の誘電泳動力を受けることになり、これは、重力による沈降力よりも約40倍大きく、ブラウン運動による最大拡散力よりも約2×105倍大きい。
【0003】
粒子の構造特性及び物理化学的特性が、粒子の誘電泳動反応に影響することがある。この反応は、また、印加される電界の周波数に依存し得る。これらの依存性により、印加電界の周波数及び外部の環境条件の変化を用いて、様々な粒子の構造及び処理を同時に調べることができる。例えば、細胞の幾つかの基礎的な電気的特性、例えば、膜容量、膜抵抗、及び細胞質導電率は、細胞の誘電泳動反応に影響を与える。これらの特性は、また、細胞がイオンバランスを維持する能力を反映し、代謝作用及び生物学的組織の測定基準である。従って、誘電泳動は、細胞集団の電気特性を単一の細胞レベルに下って決定するための非侵襲的方法を提供することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘電泳動は、粒子の構造特性及び物理化学的特性を、粒子の並進力(その方向及び大きさが粒子の特性を反映する)として効率的に示すため、異なる特性を有する粒子間に、或る程度の分離が生じる。従って、誘電泳動を、粒子の混合物を分離するために用いることができる。誘電泳動による粒子の分離は、不均一な電界が、電界により誘起された粒子の電気分極と相互作用するときに、粒子が受ける誘電泳動力を利用する。これらの力は、懸濁媒体(例えば液体)に対する粒子の誘電特性に応じて、正の力又は負の力のいずれにもなり、また、粒子を、強電界領域又は弱電界領域に向けさせることができ、これらの電界領域にて、差別的な誘電特性を有する粒子が収集される。同じ状況下でも、異なる誘電特性を有する粒子は、異なる(例えば、低減された、又は反対の)力を受けることできる。従って、一連の特定の状況に関し、或るタイプの粒子の運動は、誘電泳動力(例えば、引き付ける、又は反発する誘電泳動力)により制御されることができ、別のタイプの粒子の運動は制御されない(例えば、粒子の運動は、流体流又は重力により支配されることができる)。このような状況下で、誘電泳動を用いて、このような2つの粒子タイプの混合物を分離することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
幾つかの態様において、本発明は、2つ以上の電極アレイが基板面上に配置されたコイル状基板を含む誘電泳動フィルタにより特徴付けられる。動作中、フィルタは、誘電泳動力を、コイル基板の離隔された層間を流れる流体中の粒子に加える。層の間隔及び電極の形状寸法は、フィルタを流れる最適な流体流、及び、最適な濾過効率をもたらすように設計されることが可能である。対向する電極アレイを基板の同一面に設けることにより、印加される電界は、層の間隔と、実質的に関係がない。従って、幾つかの実施形態において、狭い間隔(例えば、約数ミクロン)で配置された電極が、比較的広い間隔(例えば、約
数百ミクロン)で配置されたコイル層と共に用いられ得る。さらに、電極間隔と層間隔とが互いに独立であることが、フィルタの設計にさらなる融通性もたらすことができる。例えば、対向する電極アレイにおける電極間の間隔は一定のままで、コイル層間の間隔を、フィルタを横切る方向に変化させることができる。
【0006】
幾つかの態様において、本発明は、また、コイル層間の最適な流体流のために設計されたコイル状電極基板を含む誘電泳動フィルタにより特徴付けられる。螺旋上の基板ガイドが、コイル状基板の端部を固定することができ、層の間隔を、フィルタの作用領域(例えば電極付近)にスペーサを追加する必要なく維持する。さらに、層間隔と位置合わせされた入口チャネルを有するマニホルドが、流体を前記間隔に直接供給できる。さらに、フィルタは、これもまた層間隔と位置合わせされた出口チャネルを、出口マニホルドに含むことができる。こうして、フィルタは、実質的に妨害されない通路をフィルタの作用領域にもたらすことができ、これらの領域を流れる均一な流体流プロファイルを可能にする。
【0007】
フィルタ構造は、また、フィルタが同じ電極を用いて粒子をガイドし且つ捕捉することを、多数の積算された電界周波数を重畳することにより可能にする。これは、柔軟な基板上に要求される電極構造物の部品の数及び複雑さを最小にすることにより、濾過装置の構成及び組立を容易にする利点をもたらし得る。
【0008】
本発明の様々な態様を以下に示す。
概して、第1の態様において、本発明は、チャンバ、及び、チャンバ内に配置された基板を含む装置により特徴付けられ、前記基板は軸の周りにコイル状に巻き付けられ、このコイル状基板の隣り合う層は互いに離隔されている。この装置は、また、基板の面上に配置された1対の電極アレイを含み、電極アレイ間にて電位差が維持され得る。この装置は、また、コイル状基板の第1の端部に配置された入口マニホルドを含み、入口マニホルドは、複数の入口チャネルを、前記互いに離隔された層間の空間に隣接して含む。
【0009】
この装置の実施形態は、以下に記載する特徴及び/又は他の態様の特徴の1以上を含み得る。
前記1対の電極アレイは嵌合電極を含むことができる。入口チャネルの各々の寸法は、その他の入口チャネルの寸法と同一であることができる。
【0010】
概して、別の態様において、本発明は、軸の周りに巻き付けられたコイル状基板と、前記基板の第1の面上に配置された第1の電極及び第2の電極とを含む装置により特徴付けられ、この装置は、第1電極と第2電極の電位差を維持することができる。
【0011】
この装置の実施形態は、以下に記載する特徴及び/又は他の態様の特徴の1以上を含み得る。
この装置は、さらに、入口マニホルドを含むことができ、この入口マニホルドを通して流体がコイル状基板に供給されることができる。装置は、また、出口マニホルドを含むことができ、この出口マニホルドを通して流体がコイル状基板から除去されることができる。第1電極は、第1の電極アレイにおける電極であることができ、第2電極は、第2の電極アレイにおける電極であることができ、第1電極及び第2電極は前記第1の面上に配置されている。第1電極アレイと第2電極アレイは嵌合電極を含むことができる。コイル状基板は、少なくとも5ミクロン(例えば、少なくとも約10ミクロン、20ミクロン、30ミクロン、50ミクロン、100ミクロン、200ミクロン)離隔された複数の隣り合う基板層を含むことができる。隣り合う基板層は、第1電極及び第2電極における最小の電極間隔とは異なる(例えば、それより大きい)距離離隔されることができる。幾つかの実施形態において、隣り合う基板層は、軸から層までの距離に応じて変化する距離離隔される。隣り合う基板層は、少なくとも100ミクロン離隔されることができる。入口マニ
ホルドと出口マニホルドは、軸に沿った異なる位置に配置されることができる。
【0012】
この装置は、コイル状基板を収容するチャンバ、及び/又は、螺旋状のチャネルを含む第1の基板ガイドを含むことができ、螺旋状のチャネルにコイル状基板の第1の端部が差し込まれる。装置は、また、螺旋状のチャネルを含む第2の基板ガイドを含むことができ、螺旋状のチャネルに、コイル状基板の第2の端部が差し込まれ、前記第1端部は第2端部に対向している。基板はポリマー基板であることができる。幾つかの実施形態において、装置は、基板の第2の面上に配置された1以上のさらなる電極を含むことができ、基板の第2面は第1面と対向している。
【0013】
入口マニホルドは複数の入口チャネルを含むことができ、且つ/又は、出口マニホルドは複数の出口チャネルを含むことができる。基板は複数の穿孔を含むことができる。
電極は電極材料を含むことができ、装置は、さらに、第1電極上に配置された第1の材料の層を含むことができ、第1材料は電極材料と異なる。第1材料は電気絶縁材料であることができる。装置は、また、前記層の面上に配置されたさらなる電極を含むことができる。前記層は、電極材料とコイル状基板付近の粒子との化学反応を低減することができる。ターゲット粒子と第1材料との付着が、ターゲット粒子と電極材料との付着とは異なる(例えばより小さい)ことができる。幾つかの実施形態において、装置は、第2電極上に配置された第2の材料の層を含むことができ、第2材料は第1材料と異なる。細胞と第1材料との付着が、細胞と第2材料との付着とは異なることができる。
【0014】
別の態様において、本発明は、上記の態様の1つの装置、及び、前記装置に流体を供給するように構成された供給リザーバを含む、流体を濾過するためのシステムにより特徴付けられる。このシステムは、流体を装置に供給するように構成されたバッファリザーバ、及び/又はプレフィルタを含むことができ、プレフィルタは、リザーバからの流体を、前記装置に流体が供給される前に濾過するように構成されている。プレフィルタは、流体中の或る特定の粒子が装置内に入ることを実質的に防止することができる。或る特定の粒子は、粒子の閾値寸法よりも大きいことがある。(例えば、粒子の閾値寸法は、コイル状基板の隣り合う層の最小間隔と実質的に等しい最大寸法を有することができる)。幾つかの実施形態において、このシステムは、流体が装置に入る前に流体の密度変化をもたらすように構成されたトランスデューサを含むことができる。密度変化は、流体中の粒子を、粒子が装置に入る前に互いに分離させるために十分であることができる。
【0015】
概して、別の態様において、本発明は、流体を濾過するためのシステムであって、供給リザーバと、互いに離隔された複数の隣り合う層を含むコイル状基板の面上に配置された1対の電極アレイと、収集リザーバと、1対の電極アレイに電気接続された信号発生器とを含むシステムにより特徴付けられる。システムの動作中、供給リザーバが、流体を、コイル状基板の前記離隔された隣り合う層間の空間に供給し、収集リザーバが、前記空間から出てくる流体を収集し、信号発生器が、1対の電極アレイ間に電位差を与える。
【0016】
このシステムの実施形態は、以下に記載する特徴及び/又は他の態様の特徴の1以上を含み得る。
このシステムは、コイル状基板を収容するチャンバと、動作中に圧力をチャンバ内の流体に加えるポンプとを含むことができる。前記圧力は、負圧又は正圧であることができる。
【0017】
概して、別の態様において、本発明は、流体を濾過するための方法により特徴付けられる。この方法は、コイル状基板の隣り合う層間の空間に流体を導入することと、コイル状基板の面上に配置された第1電極と第2電極の間に電位差を与えることと、前記隣り合う層間から流体を除去することとを含み、除去される流体中のターゲット粒子の濃度は、導
入される前の流体中の粒子の濃度とは異なる。
【0018】
この方法の実施形態は、以下に記載する特徴及び/又は他の態様の特徴の1以上を含み得る。
この方法は、隣り合う層間の流体に圧力を加えて流体を流れさせることを含むことができる。圧力は、正圧又は負圧であることができる。流体流の向きは重力に対して逆であることができる。電圧を印加することが、前記空間内のターゲット粒子に誘電泳動力(例えば、正の誘電泳動力又は負の誘電泳動力)を受けさせることができる。ターゲット粒子は進行波誘電泳動力を受けることができる。
【0019】
この方法は、流体のパラメータを時間の関数として調節することを含み、前記パラメータは、導電率、誘電率、浮力、粘性、pH、オスモル濃度及び温度から成る群から選択される。前記除去された流体中のターゲット粒子の濃度は、導入される前の流体中のターゲット粒子の濃度とは異なることができる(例えば、より小さい)。ターゲット粒子は生物学的粒子であることができ、本発明の方法は、化合物を流体に導入し、化合物に対する生物学的粒子の反応を、前記除去された流体に基づいて決定することを含むことができる。この方法は、前記化合物を含む薬剤組成物を製剤化すること、及び、前記薬剤組成物を細胞培養物又は動物に投与することを含むことができる。
【0020】
この方法は、流体を導入している間に前記電位差の周波数を変えること、及び/又は、前記電位差を与えた後にコイル状基板の隣り合う層間の空間からターゲット粒子を排出することを含むことができる。前記除去された流体中の、ターゲット粒子とは異なる他の粒子の濃度は、導入される前の流体中の前記他の粒子の濃度と実質的に同じであることができる。
【0021】
上記の利点に加えて、本発明の実施形態は、以下の利点の1つ以上を含み得る。実施形態は、チャンバ容量に対する電極表面積の比率が高い誘電泳動フィルタを提供することができ、それにより、流体の効率的な濾過を可能にする。
【0022】
誘電泳動フィルタは、市販の材料及び既存の製造技術を用いて安価に製造されることができる。誘電泳動フィルタは、機械的に頑強である。
特に定義されていなければ、本文中に用いられる技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の技術者に一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本文中に記載されている方法及び材料と類似又は同等の方法及び材料が、本発明の実施又は試験にて用いられることができるが、適切な方法及び材料を以下に記載する。本文中に記載する全ての出版物、特許出願、特許及び他の参考文献は、それらの全てを援用して本文の記載の一部とする。論争が生じた場合、定義を含む本件の明細書が優先する。さらに、材料、方法及び例は、例示的なものに過ぎず、限定的であることを意図されていない。
【0023】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
複数の図面における類似の参照符号は、類似の要素を示す。
図1を参照すると、誘電泳動(DEP)濾過システム100が、フィルタ110、供給リザーバ120、バッファ(緩衝液)リザーバ170、収集リザーバ130、及び、プレフィルタ160を含む。供給リザーバ120は供給チューブ125によりプレフィルタに接続されている。プレフィルタ160及び収集リザーバ130は、それぞれ、供給チューブ126及び出口チューブ135によりフィルタ110に接続されている。バッファリザーバ170が、供給チューブ155により供給リザーバ120に接続されている。信号発
生器140が、ケーブル145によりフィルタ110に接続されている。DEP濾過システム100は、また、供給リザーバ120に接続されたポンプ150を含む。
【0025】
動作中、ポンプ150が、供給リザーバ120から流体を汲み出し、供給チューブ125、プレフィルタ160、及び供給チューブ126を通してフィルタ110に送出する。1以上のタイプの粒子が流体中に懸濁されている。フィルタ110は、1以上のタイプの粒子を流体から分離し、濾過された流体は、フィルタ110から出てチューブ135を通り、収集リザーバ130にて収集される。
【0026】
流体から粒子を分離させるために、信号発生器140が、フィルタ110の基板の面上に配置された対向する電極アレイを横切って電圧を印加する。電極及び基板に関して、以下に説明する。電圧を印加すると、電圧が印加された電極間に電界が発生する。粒子及び流体の誘電特性に応じて、電界は、粒子を電極に引き付けさせ、又は電極から反発させることができる。
【0027】
概して、印加される電圧の振幅及び周波数は、電極の形状寸法、並びに、ターゲット粒子及び濾過される流体のタイプに依存する。幾つかの実施形態において、電源装置140は、電極に直流電圧を印加できる。しかし、より典型的には交流電圧が印加される。交流波形は、正弦波、鋸歯状波、三角形波、方形波、又はその他の何らかの複合波形であり得る。幾つかの実施形態において、波形は、正弦的に変化する複数の波形の重ね合わせ(例えば、周波数成分ω,2ω,3ω・・・・を有する波形)であってよい。交流波形の周波数は、通常、所望の誘電泳動反応をターゲット粒子にもたらすように選択される。多くの実施形態において、周波数は、Hz(例えば、約10Hz、100Hz、1,000Hz)〜MHz以上(例えば、約0.1MHz、1MHz、100MHz、又はそれより高い周波数)の範囲である。波形が正弦波でない場合、周波数は、単位時間あたりに波形が繰り返される回数のことである。
【0028】
プレフィルタ160は、不都合に大きい粒子がフィルタ110に入ることを防止する。幾つかの実施形態において、プレフィルタ160は、所定の閾値寸法より小さい粒子を通過させる多孔質膜を含む。例えば、閾値寸法は、ターゲット粒子の最大予測寸法であることができ、プレフィルタ160は、これより大きい非ターゲット粒子を、流体から、濾過前に除去できる。幾つかの実施形態において、プレフィルタ160の粒子閾値寸法は、フィルタ110の物理的特性、例えば、フィルタ110を通過させられることができる最大粒子寸法に基づき得る。フィルタ110のこれらの特性を決定するパラメータに関して、以下に論じる。システム100において、プレフィルタ160は、独立したユニットとして示されているが、別の実施形態において、プレフィルタは、フィルタ110内に部品として含まれることができる。或いは、プレフィルタリング(予備濾過)を、システム100とは別個のシステムにて行うことができ、又は全く行わなくてもよい。フィルタの例は、不都合な粒子を排除するように設計された細孔寸法を有するシリコンフィルタ及びセラミックフィルタを含む。シリコンフィルタ及びセラミックフィルタは有利であり得る。なぜなら、フィルタの面を横切る直交流を用いて、不都合な粒子を除去することができ、フィルタのポア(細孔)寸法が均一であり得、且つ/又は、高いポア密度が得られる(高流量の可能性をもたらす)からである。これは、プレフィルタの閉塞又は詰りを防止できる。
【0029】
流体中の粒子が凝集して、フィルタ110を通過するには大きすぎる粒子塊を形成する場合がある。このような場合、システム100は、粒子塊がフィルタ110を通過する前又は通過中に粒子塊を分解するために、1以上のさらなる部品を含むことができる。例えば、システム100は、粒子塊を分解させる密度変化(例えば、周期的密度変化、例えば超音波パルス)を流体にもたらすトランスデューサを含むことができる。このようなトラ
ンスデューサは、供給リザーバ120からフィルタ110への通路に、独立した部品として含まれることができ、或いは、フィルタ、プレフィルタ、又は供給リザーバの一部品として含まれることができる。トランスデューサの例は、0.1Hz〜100kHzの範囲の周波数にて、粒子の集塊を分解させる力の振幅で試料を超音波処理するための、測定可能な圧電デバイスを含む。この力は、好ましくは、過剰な機械的応力、すなわち、粒子の崩壊、或いは、粒子が細胞である実施形態においては細胞の溶解をもたらす可能性のある過剰な機械的応力を生じない。或いは、又は、さらに、集塊を拡散させるための他の方法を用いることができ、これらの方法は、例えば、試料に局所的乱流をもたらすことであり、粒子塊を分解するための破壊的な機械的力を加えることにより行われる。
【0030】
図1は、供給リザーバ120がフィルタ110及び収集リザーバ130よりも高い位置にあるように示しているが、好ましい実施形態において、システムの構成要素は、流体が重力に抗して上方に汲み上げられるように配置される。これが、システムにおける粒子の沈降を低減できる。
【0031】
ポンプ150は、流体が適切な流量でフィルタを通過するように流体に適切な圧力を与えるいずれのポンプであってもよい。適切な流量とは、フィルタを通る流体流が層流であり(すなわち、理想的にはフィルタ内の乱流が回避されるべきである)、しかも流体の容量を適切な時間で濾過するように十分に速い流量である。好適なタイプのポンプは、蠕動ポンプ、ダイヤフラムポンプ、又は、低速度及び低剪断速度で動作されることができるポンプを含む。手動操作式ポンプ(例えば、シリンジ又はハンドポンプ)も用いられることができる。幾つかの実施形態において、流体は、重力によりフィルタを通過させられることができ、ポンプは必要でない。しかし、好ましい実施形態において、流体は、フィルタ内の泡を低減するために、また、重力による沈降力に抗する平衡力として作用するために、ポンプにより上方に汲み上げられてフィルタを通される。
【0032】
好ましい実施形態において、フィルタ110は、約50ミリリットルの容量を有し、システム100は、毎分約1ミリリットル/分の速度で流体を濾過することができる。しかし、他の実施形態において、システム100は、より少ない容量(例えば、約10ミリリットル、1ミリリットル、100マイクロリットル、又は10マイクロリットル以下)を、又は、より大きい容量(例えば、約100ミリリットル、500ミリリットル、又は1リットル以上)を濾過するように適合されることができる。さらに、濾過速度は所望のように変更できる。幾つかの実施形態において、濾過速度は、約1ミリリットル/分未満(例えば、約500マイクロリットル/分、100マイクロリットル/分、10マイクロリットル/分、又はそれより小さい濾過速度)である。或いは、濾過速度は、約1ミリリットル/分より高い速度(例えば、約5ミリリットル/分、10ミリリットル/分、50ミリリットル/分、又は100ミリリットル/分以上)であってもよい。
【0033】
システム100においては、流体を移動させてフィルタ110に通すために、ポンプ150が正圧を加えるが、他の実施形態において、ポンプ150は、負圧を加えることにより流体を供給リザーバ120からフィルタ110に引き出すように構成されることができる。負圧を加えるために、ポンプ150は、収集リザーバ130又は出口チューブ135に接続されることができる。この構成において、ポンプは、フィルタ110の出口側にかかる流体圧力を入口側よりも低くし、これにより、流体を供給リザーバ120から引き出してフィルタ110内に流通させる。負圧を用いて流体を汲み出す1つの利点は、フィルタ内の圧力が周囲圧力よりも低くなるために、システムからの流体の漏出(例えば、腐敗したシールを通って)が生じ難くなることである。
【0034】
図2A及び図2Bを参照すると、フィルタ110において誘電泳動作用をもたらす部品が電極要素であり、電極要素は、軸299の周囲に巻き付けられた(コイル状の)基板2
00を含む。1対の電極アレイ201が基板200の面上に配置されている。基板200は、基板ガイド215及び基板ガイド225により、螺旋状のチャネル218及び螺旋チャネル228に差し込むことにより支持され、これが、コイル状基板200の層間の間隔距離を維持する。基板200はチャンバ240に収容されている。チャンバ240は、基板200と同軸状に向けられた中空の円筒状管である。チャンバ240を通る流体流は、チャンバ240の一端にて、入口マニホルド210により制御され、チャンバ240の他端にて、出口マニホルド220により制御される。チャンバに、流体が、流体入口コネクタ230を介して供給され、コネクタ230は、試料流体を入口ポート211に、流体入口チャネル250を介して分与する。濾過された試料は、出口ポート221から集められて流体出口チャネル251を通った後、出口コネクタ231を通ってチャンバから出て行く。
【0035】
入口マニホルド210は多数の入口ポート211を含み、入口ポート211は、入口チューブ125(図1に示す)と流体連通されている。入口ポート211は、流体中に懸濁されている粒子を通過させるように十分に大きい。基板ガイド215も多数の入口ポート216を含み、入口ポート216は入口ポート211と位置合わせされ、且つ、コイル状基板200の隣り合う層間の空間と位置合わせされている。これにより、装置の動作中、汲み出されて入口チューブ125を通る流体が入口ポート211及び216を通り、コイル状基板200の隣り合う層間の空間に入る。
【0036】
同様に、出口マニホルド220及び基板ガイド225も、位置合わせされた多数の出口ポート(それぞれ、符号221及び226で示す)を含む。流体はこれらの出口ポートを通ってチャンバ240から出て、出口チューブ135(図1に示す)に流入する。流体の流れる方向が図2Aの矢印により示されている。
【0037】
動作中、供給リザーバから汲み出された流体は、ポート211及び216を通ってチャンバ240に入る。流体は、コイル軸299に対して平行に流れ、コイル基板200の層間の空間に入る。ポンプ動作中、信号発生器が電極201に電圧を印加し、基板面間の空間の電極付近に電界を発生させる。流体、及び、流体中の懸濁粒子の誘電泳動特性に応じて、電界は粒子に誘電泳動力を受けさせることができる。好ましい実施形態において、印加された電界は、電極にターゲットタイプの粒子を引き付けさせる。ターゲット粒子は電極付近に留まり、非ターゲット粒子(これも流体中に存在するのであれば)は、流体と共にチャンバを通って流れ続ける。こうして、ターゲット粒子が、チャンバから出ていく流体から離脱される。
【0038】
幾つかの実施形態において、誘電泳動の引付け力が、チャンバを通る非ターゲット粒子の流量のバランスを保つ。これらの力の均衡を保つことより、粒子がチャンバ内に留まる時間を、流体速度を低減せずに長くすることができ、これは、さらに、分離プロセスの純度及び回収を高めることができる。分離効率を高める他の手段(誘電泳動力の大きさを変えるために、流体及び/又は粒子の物理的及び/又は化学的特性を変えることによる)を分離手順に組み込むことができる。変えることができる特性の例は、試料の導電率、誘電率、オスモル濃度、温度及び/又はpHを含む。
【0039】
非ターゲット粒子を流体から除去したならば、電極がもはやターゲット粒子を引き付けないように印加電界を調節することにより、ターゲット粒子をチャンバから排出させることができる。ターゲット粒子と、電極材料及び/又は基板材料との相互作用に応じて、電極に印加される電圧を低減(又はスイッチオフ)することができ、又は、誘電泳動力の性質を変化させるように周波数を変化させることができる。例えば、粒子の面と電極の面との相互作用が粒子を電極に付着させている場合、負の誘電泳動力を加えることにより粒子を引き離すことが必要であろう。しかし、この相互作用が弱い場合には、流れる流体によ
る粘性力及び/又は重力が、ターゲット粒子を電極から引き離すのに十分であり得る。
【0040】
システム100は、流体容量中のターゲット粒子の濃度を増大するために用いられることができる。チャンバの容量が、濾過されるべき容量よりも小さい場合、チャンバ内のターゲット粒子の濃度は、より多くのターゲット粒子が流体から濾過されるにしたがって増大する。最終的に、捕捉された粒子を電極から解放した後、チャンバから排出される量の流体が有するターゲット粒子濃度は、最初の試料のターゲット粒子濃度よりも高くなる。
【0041】
この実施形態において、入口ポート211及び216と、出口ポート221及び226とは寸法及び形状が同一である。しかし、一般に、入口ポート及び/又は出口ポートの寸法及び形状は、所望のように変えられ得る。さらに、流体チャネル、並びに/又は、入口ポート及び/若しくは出口ポートの組合せは、装置を通って流れる所望の流体流をもたらすように設計されることができる。例えば、幾つかの実施形態においては、フィルタ全体の電極にわたり同一の流量を維持することが望ましいであろう。均等な流れは、各チャネルの寸法及び/又は各ポートの寸法を等しくすることにより達成され得る。別の実施形態においては、差別的流量が、ポート寸法及び/又はチャネル寸法を変えることにより得られる。このような一例は、コイル軸付近に、より小さいポートを有し、軸からより遠い位置に、より大きいポートを有することであろう。これにより、フィルタの異なる部分を通過する試料の流量に差を生じることができる。この例において、試料流体は、コイル軸からより遠い、ポートがより大きい部分にて、より迅速に流通するであろう。
【0042】
幾つかの実施形態において、出口ポート231に続く多数の出口路を組み込むことにより、連続的な分離を達成できる。このような出口ポートシステムは、異なる様々な流れプロファイルからの同時の連続サンプリングを可能にすることができ、また、幾つかの出口からの再循環が、試料の純度及び所望のターゲット粒子の回収を増大させることを可能にする。例えば、フィルタの、流速が比較的速い領域から引き出された流体を第1の収集リザーバに向けることができ、フィルタの、流速がより遅い領域から引き出された流体を第2の収集リザーバに向けることができる。フィルタの、異なる流速領域からの流体内容の分析を用いて、試料から特定のターゲット粒子を得るための最適な流量を実験に基づいて決定することができる。
【0043】
理論にとらわれず、誘電泳動力をパラメータ化するために用いられる理論モデルの概要を示すことが有益である。絶対誘電率εmを有する媒体中に懸濁された、半径rを有する球形の粒子に関し、誘電泳動力は理論的に、
FDEP=2πr3εmα(∇E2)
により示される。式中、αは、懸濁媒体に対する粒子の有効分極率を定義するパラメータ(クラウジウス・モソッティの式の係数の実数部)であり、係数(∇E2)は、粒子に作用する電界Eの勾配及び強度を定量化する。分極率パラメータは、粒子の有効キャパシタンス及び導電率を反映し、理論上、+1.0〜−0.5の範囲の値を有することができる。αが正値であることは、印加された電界が、粒子内に、印加電界に整列される双極子モーメントを誘起することを意味し、これは正の誘電泳動力を生じる。αが負であれば、誘起された双極子モーメントが印加電界と反対向きに整列されることになり、粒子に負の誘電泳動力を受けさせる。
【0044】
式(1)は、誘電泳動力が粒子の容量に比例することを示し、電界Eが二乗項として現れるため、これは、力が電界の極性とは独立であり、従って、電極に印加されるAC電圧及びDC電圧のいずれもが誘電泳動力を生じることができることを意味する。しかし、多くの粒子の分極率関数αがAC周波数に依存し得る。従って、誘電泳動濾過システムは、或るタイプの粒子の誘電泳動反応が他のタイプの粒子の誘電泳動反応と異なる周波数で動作することができる。異なるタイプの粒子が流体中に懸濁されている場合、差別的反応を
用いて、異なるタイプの粒子を、チャンバ内の異なる領域に移動させ、これらの粒子の分離を促進することができる。
【0045】
印加される一定の大きさの電圧信号に関して、式(1)中の係数(∇E2)は、主に電極の形状寸法(例えば、電極の形状及び/又は電極間の間隔)により決定される。幾つかの理想的な場合を除き、この係数の定量化は、通常、コンピュータを用いた数値法を用いて行われる。電極の形状寸法の多くに関し、この係数は、電極からの粒子の距離の関数として減衰する(例えば、指数関数的に、又はほぼ指数関数的に減衰する)。従って、粒子が受ける誘電泳動力も、電極からの粒子の距離の関数として減衰する。電界を用いて粒子を効果的に操作するために、粒子が受ける誘電泳動力は、粒子が受ける他の力(例えば、重力、又はブラウン運動による力)よりも大きくなくてはならない。従って、有効電極要素は、誘電泳動力が流体中の粒子を操作できるように、最大量の流体を電極に十分に近づけさせるべきである。
【0046】
コイル基板の隣り合う層間の距離は、フィルタ内の粒子の、電極に対する近接性に響を与える。図3を参照すると、コイル状基板300の層は、距離310離隔されている。基板300は、軸399の周囲に巻かれている。電極に対する粒子の近接性に影響することに加え、フィルタ設計における間隔距離310の選択に影響を与える因子は、濾過される粒子のタイプ、及び、流体媒体のタイプを含む。基板の間隔は、粒子の寸法を収容するように十分に大きくなければならない(すなわち、基板の間隔は、濾過される流体と共に通過させられる最も大きい粒子の直径よりも大きくなければならない)。さらに、間隔距離310は、流体媒体が乱流を生じずにポンプの力によりチャンバを通過することを可能にするように、十分に大きくなければならない。基板及び電極材料の厚さ及び機械的特性も、設計者による間隔距離の選択に影響を与える。基板300は、電極の機械的欠陥を生じるほどにきつく巻き付けられてはならない。幾つかの実施形態において、基板間隔310は、約数ミクロン(例えば、約2ミクロン〜20ミクロン)であり得る。より典型的には、基板間隔は、数十ミクロン〜数百ミクロン(例えば、約50ミクロン、100ミクロン、200ミクロン、300ミクロン、500ミクロン)である。幾つかの実施形態において、基板間隔は、約数ミリメータ以上(例えば、約1ミリメータより大きく、2ミリメータ、5ミリメータ、10ミリメータ)であり得る。多くの生物学的用途において、基板間隔310は、100ミクロン〜1ミリメータ(例えば、約300ミクロン〜500ミクロン)の範囲である。
【0047】
隣り合う層間の間隔は、一定であっても、又は変化してもよい。例えば、コイル軸からより遠い位置にある複数の層を、より軸に近い複数の層よりも互いに近づけることができる。層の間隔に関する他の変型(例えば、周期的変化、又は、コイル軸からの半径方向距離の関数としての他の単調な変化)が考えられる。
【0048】
コイル状基板の隣り合う層間の空間には、流体流を妨害する可能性のあるいずれの物体(例えば、スペーサ要素)も、実質的に存在しなくてよい。
各フィルタに関し、電極の形状寸法及び層の間隔を、フィルタの特定の最終用途のために最適化できる。対向する電極アレイを基板の一面に設けることにより、電極間隔と層間隔とは異なり得る。一方、対向する電極を対向する基板面に配置する場合、電極間隔は層間隔と同一である。好ましい実施形態において、電極は、層間隔距離よりも狭い間隔で配置される。例えば、電極間隔は、層間隔の約0.5倍未満(例えば、層間隔の約0.2倍未満、例えば0.1倍未満)である。本文において、電極間隔とは、対向する電極アレイにおける電極間の最小間隔を示す。
【0049】
幾つかの実施形態において、対向する電極アレイは、嵌合電極(interdigitated electrode)を含む。図4Aを参照すると、電極アレイ201の一部400が、10個の平行な嵌
合電極を含む。電極411,412,413,414及び415が、第1のバスライン410と電気接触し、電極421,422,423,424及び425が、バスライン420と電気接触している。動作中、信号発生器がAC電圧を、バスライン410とバスライン420の間に印加する。この結果、電極411〜415と電極421〜425との電位差が、電極間に電界を発生させる。
【0050】
嵌合電極の寸法は、所望のように変化させることができる。幾つかの実施形態において、電極は、約5ミクロン以上(例えば、約10ミクロン、20ミクロン、50ミクロン、100ミクロン)の幅を有し、また、約20ミクロン以上(例えば、30ミクロン、40ミクロン、50ミクロン、75ミクロン、100ミクロン、200ミクロン、500ミクロン)の長さを有する。さらに、隣り合う電極間の間隔を変化させることができる。幾つかの実施形態において、隣り合う電極間の間隔は、電極の幅より大きい。間隔は、例えば、約10ミクロンより大きくてよい(例えば、約20ミクロン、30ミクロン、50ミクロン、100ミクロン、200ミクロン、又はそれより大きい)。
【0051】
部分400は、嵌合電極を10個だけ示しているが、電極アレイ201は、より少数又はより多数の嵌合電極(例えば、50個より多くの電極、100個の電極、250個の電極、又はこれより多くの電極)を有し得る。
【0052】
図4Bを参照すると、負の誘電泳動力の作用下で、粒子が嵌合電極から反発されている。これは、AC波形の特定の周波数にて懸濁媒体の電気分極率が粒子の電気分極率を上回るときに生じる。粒子が、正の誘電泳動力の作用により嵌合電極に引き付けられる場合が、図4Cに示されている。この状態は、粒子の分極率が懸濁媒体の分極率を上回るときに生じる。
【0053】
電極の他の形状寸法を用いることもできる。概して、電極の形状寸法は、所望の電界プロファイルをもたらすように選択される。電極の他の形状寸法の例は、ポリノミアル(polynomial)電極、キャステレテッド(城塞状)電極、ポスト又はスタブ電極のアレイ、相互嵌合型のジグザグ電極、又は、ピッチ及び/又は振幅の周期パターンが一定又は可変であり得る湾曲電極を含み得る。
【0054】
概して、基板は、任意の材料から、すなわち、コイル状に形成されることができ、電極材料と適合し、且つ、濾過される試料の成分と不都合に相互作用しない任意の材料からつくられることができる。好ましい実施形態において、基板は、電極アレイが形成された後に巻かれてコイルに形成されることができる柔軟な材料からつくられる。柔軟な基板材料を用いることは、電極アレイを形成するためにプレーナプロセス技術(例えば、プリント回路板の製造、マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)の製造、並びに、半導体及びフラットパネルディスプレイ産業にて用いられる既存の様々な蒸着技術及びパターニング化技術)を用いることを可能にする。基板は、ポリマー材料からつくられることができ、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート又はポリアクリルアミドを含む。
【0055】
幾つかの実施形態において、基板は、1以上の位置にて穿孔される。装置の動作中、穿孔が、コイルの、異なる層間の流体圧力を均等化でき、これが、隣り合う層が圧力差により互いの上に圧潰する可能性を低減できる。穿孔は、試料中のターゲット粒子及び/又は非ターゲット粒子の通過を可能にするように十分に大きくされ得る。
【0056】
電極アレイは、基板上に、リソグラフィ技術を用いて形成されることができる。例えば、電極アレイは、基板の面上にコーティングされた、電極材料(例えば、クロミウム、金、パラジウム又はバナジウム)のモノリシック(一体)層からエッチングされることがで
きる。基板は、コーティングされた導体を基板に接着することを促進するための接着層を含むことができる。クロムが、金電極のための接着層の例である。或いは、電極アレイは基板上にプリントされ、又は、例えば転写接着剤を用いて基板上に転写されることができる。
【0057】
幾つかの実施形態において、1以上のさらなる層を、電極及び/又は基板面の上面に設けることができる。電極面上及び基板上に表面コーティングを用いて、ターゲット試料に対する濾過装置の適合性を高めることができる。例えば、表面コーティングは、基板材料と粒子の間に生じる、不都合であり得る任意の反応を低減できる。電極材料の例である銅及びクロミウムが、細胞に対して有毒なことがある。このような場合、電極に施されたコーティングが、これらの電極材料が溶液中に浸出することを低減でき、それにより、電極材料と粒子との有毒な相互作用のいずれも低減する。幾つかの実施形態において、表面コーティングが、良好な表面濡れ特性をもたらすように選択されることができ、例えば、表面を親水性にすることにより、泡形成の低減を補助する。或いは、又は、さらに、表面コーティングは、細胞の表面付着を低減するための表面電荷(例えば、負の表面電荷)を生じるように選択されることができる。このようなコーティングの機能特性に加えて、コーティングは、薄く(例えば、約50ミクロン未満の厚さ)、均一で、安定的、不活性、滅菌可能で、耐久性があり、且つ/又は、電極材料及び基板材料に対して良好な付着性を有することができる。
【0058】
電極面及び/又は基板面が、細胞の付着を強化又は低減することが知られている物質でコーティングされる実施形態において、コーティングは、或る粒子タイプの選択的な捕捉、又は、粒子の付着効果の定量化を促進できる。例えば、或るタイプの線維芽細胞は、フィブロネクチンとして知られている糖タンパク質でコーティングされた面には良好に付着するが、サイトタクチン(cytotactin)でコーティングされた面には付着しない。同様に、Bリンパ球及びTリンパ球は、異なるタイプの糖タンパク質面に対して、かなり異なる付着傾向を有することが知られている。コーティングとして用いられることができる、細胞を付着させる知られた物質は、タンパク質、例えばフィブロネクチン若しくはラミニン、抗体若しくは抗体の断片、ペプチド、又は、血清アルブミンなどの不活性タンパク質に共役したペプチドを含む。
【0059】
表面コーティングは均質であることが多いが、幾つかの実施形態において、電極及び/又は基板面の異なる部分を異なる材料でコーティングすることができる。例えば、対向する電極(又は電極アレイ)を、異なる材料でコーティングすることができる。これの一例は、対向する電極アレイを、粒子を付着させる程度が異なる材料でコーティングすることである。
【0060】
図5A及び図5Bを参照する。幾つかの実施形態において、電極要素は、最初に、電極材料の層を、柔軟で平坦な基板(例えば、ポリマー基板)上に形成することにより準備される。電極材料層は、所望の導電率をもたらすように十分に厚く、且つ、コイル状に巻かれるための十分な機械的柔軟性を保持する。フォトリソグラフ技術を用いて電極材料層の一部をエッチングし、これにより嵌合電極510を形成する。次いで、基板をシャフト520の周りに巻きつける。シャフト520は、導電部530及び540を含む。基板が巻き付けられたならば、導電部530及び540は、それぞれ、バスライン512及び514との電気接触を維持する。シャフト520は、導電部530及び540がコイル状基板から外側に延在するように基板500の幅よりも長く、カートリッジ(ケーブル145(図1参照)を接続することができる)との電気接触点をもたらす。
【0061】
幾つかの実施形態において、コイル状基板500の外縁は、導電部560及び570を含む第2シャフト550に接続されることができ、導電部560及び570は、バスライ
ン512及びバスライン514と基板500の外側電気接触部との電気接触を形成する。第2シャフトは、バスラインに沿った電位降下の全てを低減し、信号発生器を基板に電気接続し続けることを補助する。バスラインと信号発生器とのさらなる電気接続を、類似のシャフトの追加により、又はワイヤ接続により設けることができる。
【0062】
幾つかの実施形態において、基板は、コイル状に巻かれている間に加熱されることができる。加熱された基板は、基板の材料に応じて、室温での基板よりも柔軟であり得る。加熱された基板を巻き付けたならば、基板を、基板材料がより硬くなる室温に冷却できる。巻き付け中に加熱され得る材料の例は、ガラス状材料、例えばガラスポリマーを含む。
【0063】
電極アレイは、基板の両側に配置されることができる。基板が十分にきつく巻き付けられている場合(すなわち、隣り合う層の面間の空間)、電極の形状寸法は、対向する面上の電極間の相互作用を最適化するように選択されることができる。
【0064】
システム100の性能パラメータの1つは、システムが試料を処理できる速度である。この速度は、例えば、試料の寸法、フィルタの容量、及び、フィルタを通る流量に依存する。フィルタチャンバの所与の断面積に関し、最大流量は、少なくとも部分的に、流体の最大速度(誘電泳動力、流体の流体力学的力、及び、細胞に加えられる剪断応力に関連して得られる)により決定される。一般に、流速は、層流状態を維持するように十分に遅くなければならず、また、誘電泳動力に不都合な影響を与えてはならない(例えば、ターゲット粒子に加えられる誘電泳動力を支配してはならない)。流速は、約0.001mm/秒〜10mm/秒(例えば、0.01mm/秒、0.05mm/秒、0.1mm/秒、1mm/秒) であることができる。フィルタのための設計条件は、ターゲット粒子の所望の純度レベル、及び試料からの回収程度をもたらす、試料の実際の処理時間を決定することにより決められる。
【0065】
多くの実施形態において、流体流の剪断応力は、応力が流体中の粒子を損傷しないように十分に小さくなければならない。粒子損傷の閾値は、粒子タイプに依存する。例えば、赤血球は、150N(ニュートン)/m2以上の剪断応力で破損されることがあり、リンパ球は20N/m2の剪断応力で破損されることがある。幾つかの実施形態において、フィルタ内の流体流の剪断応力は、約10N/m2未満、例えば、約1N/m2である。
【0066】
幾つかの実施形態において、懸濁流体の導電率は、或る粒子タイプが受ける誘電泳動力を変化させるように調節されることができる。例えば、流体の導電率は、数十段階の大きさ(例えば、0.1ミリジーメンス/m〜1000ミリジーメンス/m)にわたって調節されることができる。懸濁媒体の導電率は、元の懸濁媒体の導電率よりも高い又は低い導電率を有する媒体を、供給リザーバ120からフィルタ内に流すことにより変えることができる。幾つかの実施形態において、これは、試料リザーバ120にバッファリザーバ170から流体を供給し、流体が時変導電率を有して濾過されることにより達成されることができる。
【0067】
一般に、試料の導電率が増大すると、任意の一定のAC電圧に関し、細胞に作用する正の誘電泳動力が弱くなる。従って、より高い導電率を有する流体を入口ポートに導入することが、フィルタ内の流体の時変導電率をもたらし、これにより、ターゲット粒子をフィルタから差動的に解放させることができ、分別の達成を可能にする。また、増大された流体導電率は、しばしば、電力損に関する抑制を高め、電極に印加されることができる最大電圧にて発熱を生じることがある。従って、多くの実施形態において低い導電率を有する試料は、高い導電率を有する類似の試料よりも高い流体速度で汲み出されて、フィルタに通されることができる。時変導電率の概念は、「導電率勾配」とも称され、ジー・エイチ・マークス(G. H. Markx) 、ピー・エイ・ダイダ(P. A. Dyda)、及びアール・ペシグ(R.
Pethig) により、ジェイ・バイオテクノロジ(J. Biotechnology)誌 51号(1996年)の175頁〜180頁に記載されており、この内容の全てを援用して本文の記載の一部とする。
【0068】
上記の説明は、時変導電率を試料に生じることに関するものであるが、開示されたこの方法を、バッファ媒体の各々又は任意に組み合わせたバッファ媒体に用いて、導電率、誘電率、pH、オスモル濃度及び/又は温度を変えることにより、ターゲット粒子の分別純度及び回収を増大させることができる。さらに、システム100においては、バッファリザーバ170は、緩衝媒体をフィルタ110に、供給リザーバ120を通して供給するように構成されているが、バッファリザーバは、緩衝媒体をシステムの別の部品に供給するように構成されることができる。例えば、バッファリザーバ170は緩衝媒体をフィルタ110に直接供給することができ、又は、緩衝媒体をフィルタ110に、プレフィルタ160を通して、若しくは、システム部品を連結している1以上のチューブを通して供給することができる。幾つかの実施形態において、システム100は、バッファリザーバ170からの緩衝媒体の流れを制御するための弁を含む。
【0069】
幾つかの実施形態において、電極と信号発生器は、進行波電界をもたらすように構成される。図6Aを参照すると、矢印610の方向に進行する電界が発生されており、これは、隣り合う電極にそれぞれ90度位相がずれた正弦電圧を加えることによる。図6Aにおいて、基板601上に配置された、符号620,630,640及び650で示されている電極は、それぞれ、0度、90度、180度及び270度の相対位相を有する。これらの直角位相電圧は、各々、振幅が等しく(典型的に、最高最低振幅が1V〜5V)、約1kHz〜100MHzの範囲の周波数である。
【0070】
特定の懸濁媒体の導電率のための電圧周波数が、或る粒子タイプが正の誘電泳動力を受ける範囲にあるならば、粒子は電極に引き付けられ、電極から離れない。粒子が負の誘電泳動力を受けるならば、粒子は電極から反発される。粒子が、負の誘電泳力の作用により電極から遠ざけられるとき、粒子に作用する時間平均進行電界は、粒子を、電極に対して垂直方向に前進させることができる。この移動の速度及び方向は、粒子の物理化学的特性、印加される電界の大きさ及び周波数、並びに、懸濁媒体の誘電特性により決定される。
【0071】
粒子に作用する誘起力の方向に依存して、進行電界による誘電泳動を、或るターゲット粒子タイプをコイル状基板の内側の層又は外側の層に向って移動させるために用いることができる。幾つかの実施形態において、コイル状基板の内側層又は外側層から優先的に流体が導入又は引き出されるように、入口ポート及び出口ポートを、進行電界の誘電泳動が粒子をいずれの方向に移動させるかに応じて適合させることができる。例えば、流体は、コイル基板の外側層に対応した入口ポートを通して導入されることができる。進行電界の誘電泳動を、ターゲット粒子をコイル基板の内側層に向って移動させるために用いることができる。その結果、内側層から引き出される流体は、外側層から引き出される流体よりもかなり高いターゲット粒子濃度を有するはずである。出口マニホルドは、内側層から引き出された流体を第1のリザーバに向けさせ、外側層から引き出された流体を別のリザーバに向けるように構成されることができる。
【0072】
図6Bを参照すると、電極は、電極の長さに対して非平行(例えば垂直)に延在するチャネル605を有するように配置されることもできる。電極が直角位相信号により励起され、チャネル605の両側に配置された電極の位相が互いに180度ずれるとき、懸濁粒子が、電極間のチャネル605に移動されることができる。図6(b)は、チャネル605の両側の電極が互いに位置合わせされている様子を示すが、電極は、食違い配置(staggered) されてもよい。
【0073】
図7A及び図7Bを参照すると、幾つかの実施形態において、システムは、重なり電極(overlapping electrode) アレイを含むことができる。重なり電極アレイとは、基板の同じ領域に重ねて配置され、しかし電気的に互いに絶縁されたアレイを示す。図7Aは,基板901の同じ領域上に配置された電極アレイ910及び電極アレイ920の斜視図を示す。電極アレイ910と電極アレイ920は、絶縁層930により絶縁されている。
【0074】
動作中、適切な進行波信号を各アレイに印加することにより、システムは、誘電泳動力を、2つの非平行の方向に加えることができる。この実施形態において、例えば、電極アレイが嵌合電極から成り、且つ互いに直交するように向けられている場合、粒子は、基板の面に対して平行な2つの誘電泳動力のベクトルを受けることができ、これらの力ベクトルは互いに対して垂直である。より一般には、電極アレイは、非垂直の角度で力を加えるように向けられることができる。
【0075】
重なり電極を用いて、システムは、粒子を、基板の特定の位置(例えば、チャンバ内の粒子出口チャネル付近)に導くことができる。
幾つかの実施形態において、さらなる電極アレイが、フィルタの出口マニホルド付近の基板面上に含まれる。捕捉されたターゲット粒子は、第1の電極アレイにより解放され、出口付近のさらなる電極アレイ上にて再び捕捉されることができる。その後、これらの粒子は、フィルタ全体を洗い流す必要なくフィルタから洗い流されることができる。減少された容量の流体中のターゲット粒子をフィルタから洗い流すことにより、粒子の濃度が増大する。
【0076】
誘電泳動濾過システムは、2つ以上のフィルタを含むことができる。例えば、濾過システムは、直列に連結された複数のフィルタを含むことができ、これは、濾過される流体の純度を高めることができる。図8Aを参照すると、濾過システム700が、直列に連結された4つのフィルタを含む。ポンプ150が、流体を供給リザーバ120から第1フィルタ710に送出し、フィルタ710にて流体が最初に濾過される。フィルタ710から出た流体は、第2のフィルタ720に入り、流体はフィルタ720にて2度目に濾過される。同様に、流体は、収集リザーバ130に供給される前に、フィルタ730及びフィルタ740を通して濾過される。直列に配置された各フィルタにより濾過される粒子のタイプは、同じであっても、又は異なってもよい。
【0077】
直列に連結されたフィルタは、同じ容量又は異なる容量を有することができる。幾つかの実施形態において、流体は、より大きいフィルタからより小さいフィルタに流れることができる。このような構成で、両方のフィルタが同一タイプのターゲット粒子を捕捉する場合、流体中のターゲット粒子の濃度は、第1の、より大きいフィルタにて捕らえられたターゲット粒子を解放し、これらの解放された粒子をより小さいフィルタにて再び捕捉することにより、増大されることができる。次いで、より小さいフィルタを洗い流すことにより、最初の流体のターゲット粒子濃度より高いターゲット粒子濃度を有する流体が得られる。
【0078】
或いは、又は、さらに、複数のフィルタを並列に配置して供給リザーバに連結することができる。図8Bを参照すると、例示的な実施形態において、誘電泳動濾過システム710が、供給リザーバ120に連結された、並列に配置された4つのフィルタ、711,721,731及び741を含む。ポンプ150が、流体試料を供給リザーバから汲み出し、フィルタの1つを通して収集リザーバ130に送出する。並列配置のフィルタは、濾過システムの処理量を増大することができる。
【0079】
幾つかの実施形態において、濾過される流体を、分離の純度を高めるために、フィルタを複数回通過させることができる。例えば、図9を参照すると、誘電泳動濾過システム8
00は再循環チューブ810を含み、再循環チューブ810は、入口チューブ125に、弁820により連結され、出口チューブ135に、弁830により連結されている。弁830が第1の位置にあるとき、フィルタ110にて濾過されてフィルタ110から出た流体が、再循環チューブ810を通って流れ、弁820を通ってフィルタ110の入口に戻り、フィルタ110により再び濾過される。弁830がこの位置にあるとき、流体はフィルタ110を複数回通過させられることができる。濾過された流体は、それぞれの通過により、より純化される。流体が十分に純化されたならば、弁830を、濾過された流体が出口チューブ135を通って収集リザーバ130内に流れることを可能にする別の位置に切り替えることができる。この実施形態において、ポンプ150は、流体を汲み上げ、チューブ810を通して再循環させるように構成されることができる。
【0080】
概して、誘電泳動濾過システム100は、多くのタイプの誘電粒子を流体媒体から除去するように適合されることができる。例えば、濾過システムは、1以上の異なるタイプの細胞を血液から分離するために用いられることができる(例えば、ターゲット粒子は、血行性細菌、ウィルス、又は、白血球若しくは赤血球であり得る)。他の例は、様々な病原体(例えば、炭疽菌などの生物剤)を流体試料から除去することを含む。誘電泳動濾過システムは、流体試料中の1以上のターゲット粒子の濃度を増大するために、(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析のための試料(試料の相対濃度が約1:1,000,000以上でなければならない)を生成するために)用いられることができる。
【0081】
より一般的には、粒子は、他のタイプの生物学的粒子を含み得る。例えば、粒子は、細胞、又は、細胞及び/若しくは微生物の構成要素を含むことができる。細胞の構成要素の例は、タンパク質及びDNAを含む。微生物の例は、細菌を含む。生物学的粒子の例は、ウィルスなどの病原体も含む。
【0082】
粒子は重合体であることができる。例えば、粒子は、ポリマーミクロスフェア(例えば、ポリスチレン・ミクロスフェア)を含み得る。
粒子は、固体、半固体、液体又は気体であることができる。固体粒子の例は、先に記載したポリマー球又はタンパク質巨大分子を含む。半固体粒子の例は、ポリアクリルアミド又は寒天ゲル粒子を含む。液体粒子の例は、エマルジョン中の分散相、例えば水中の油滴、又は、エアロゾル中の液体粒子を含み、気体粒子の例は、泡中の分散相、例えば、液体中のガス泡を含む。
【0083】
幾つかの実施形態において、粒子は、抗体被覆を施した部分、例えば、金ラベル又はポリマービードでタグ付けされることができ、このようなタグがターゲット粒子の表面上に存在することが、粒子が本来有する誘電特性を変え、分離プロセスの純度および回収を高める。粒子は、蛍光顕微鏡技術と共に用いるためにタグ付けされることができ、又は誘電泳動力を磁気力と組み合わせて用いる分離のために、磁気部分でタグ付けされることができる。
【0084】
粒子寸法は、変えられることができる。粒子は、概して、コイル基板の隣り合う層の面間の間隙を通過するように十分に小さい。幾つかの実施形態において、粒子は、光学顕微鏡を用いて観察されるように十分に大きい(例えば、直径が約0.5ミクロンより大きく、例えば、1ミクロンより大きい)。幾つかの実施形態において、粒子の直径は、約1ミリメートルより大きくてよい。
【0085】
誘電泳動フィルタ、例えば、上記の誘電泳動フィルタは、様々な用途に用いられることができる。例えば、誘電泳動フィルタを、創薬のために用いることができる。一般に、創薬に用いることにおいては、細胞集団の誘電泳動反応が、様々な化合物に応じて研究される。細胞の誘電泳動反応の変化が、化合物に対する好ましい反応又は不都合な反応を反映
し得る。
【0086】
細胞又は他の生体粒子の誘電泳動反応を特徴付けるために用いられることができるパラメータは、誘電泳動「クロスオーバー」('cross-over')(境界)周波数である。電極が、この「クロスオーバー」周波数より低い周波数の電圧を印加されるならば、細胞は、細胞を電極から反発させる負の誘電泳動力を受けることになる。「クロスオーバー」周波数より高い周波数の電圧が印加されるならば、細胞は、細胞を電極に引き付ける正の誘電泳動力を受けることになる。ペシグ(Pethig)らによれば、Tリンパ球のための「クロスオーバー」周波数は、Tリンパ球が、化学物質(これらのT細胞のいわゆる「活性化」及び細胞周期ステータスの変化を誘発する)に暴露されたときに変化する(「電気泳動」(Electrophoresis) 誌、第23巻(2002年)、2057頁〜2063頁を参照)。誘電泳動反応のこのような変化により、これらの細胞を誘電泳動フィルタから収集又は溶離する方法が、電極に印加される電気信号の周波数に応じて変えられることがある。こうして、誘電泳動フィルタは、T細胞が、細胞の活性化、又は、細胞懸濁液の細胞周期集団運動の変化を開始させ得る様々な化合物に対してどのように反応するかを検査するために用いられ得る。幾つかの実施形態において、誘電泳動フィルタは、アポトーシスの化学的誘発を検知及び定量化するために用いられることもできる(例えば、「電気化学および工業物理化学」(Electrochemistry)誌、第71巻(2003年)、203頁〜205頁)に記載されているペシグ(pethig)の記事を参照)。
【0087】
別の用途の例は、診断における用途である。診断用途において、誘電泳動フィルタは、粒子集団の濃度を増大するために用いられることができる。例えば、血液中の細菌のタイプを検査している場合、誘電泳動を用いて、細菌の濃度を、次の検査方法に適したレベルまで高めることができる。これを行うために、比較的小容量の誘電泳動フィルタを用いて、多量の血液試料を濾過しながら細菌を捕捉することができる。フィルタ内に保持された流体は、元の血液試料と比較して、増大された細菌濃度有するであろう。次いでフィルタを浄化することにより、診断作業用の試料が準備される。血球を同じ電極アレイから反発させながら、細菌ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus) を引き付けるために正の誘電泳動がどのように用いられることができるかを示す一例が、ワン(Wang)らにより、「応用物理」(Applied Physics D) 誌、第26巻(1993年)、1278頁〜1285頁に記載されている。チェン(Cheng) らは、血球と混合された大腸菌(E.coli)の場合と本質的に同じ効果を、ネイチャー・バイオテクノロジ(Nature Biotechnology)誌、第70巻(1998年)、2321頁〜2326頁に記載している。
【0088】
さらなる用途例は、細胞治療における用途である。細胞治療において、誘電泳動フィルタを、試料中の様々なタイプの細胞を他の細胞から分離させるために用いることができる。このような用途の一例は、幹細胞を、幹細胞と他の細胞の混合物を含む試料から分離させることである。誘電泳動フィルタを、幹細胞は捕捉され、試料のその他の部分はフィルタを通過させられる状態の下で動作させることができる。次いでフィルタを浄化すると、高純度の幹細胞の試料が得られる。誘電泳動を用いて抹消血から幹細胞亜集団を分離及び濃縮させる例が、スティーブンス(Stephens)らにより、「骨髄移植」(Bone Marrow Transplantation) 誌、第18巻(1996年)の777頁〜782頁に記載されている。
【0089】
誘電泳動フィルタのまた別の用途は、生物剤攻撃の検査である。しばしば、実際の状況において、毒素、例えば生物剤(例えば、炭疽菌または天然痘)が非常に低い濃度(例えば、約1/10,000,000以下)で存在し、従来の検知技術、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を用いてこれらの毒素を検知することを困難にしている。これらの毒素は、このような低濃度においてでさえ致死的であることがある。これらの毒素に関し、試料を、毒素がフィルタに捕捉される状態で動作する誘電泳動フィルタに通過させることにより検査することができる。フィルタより大きい容量の試料を濾過することによ
り、フィルタは、十分に濃縮された試料を、さらなる検査のために提供することができる。先に記載した例では、誘電泳動フィルタが電極アレイに細菌又は酵母菌を引き付けるために用いられているが、同じ電極アレイから血球を反発させることが、生物剤攻撃への適用としては適切であろう。
【0090】
本発明の多数の実施形態を記載してきた。しかし、様々な変更が、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに行われ得ることが理解されるであろう。例えば、上記の濾過システムは、さらなるシステムパラメータを制御するためのさらなる部品を含み得る。このような部品の1つは温度コントローラである。多数の重要なシステムパラメータ、例えば、流体の粘性、並びに/又は、流体及び/若しくは粒子の誘電特性は、通常、温度に依存する。従って、システムの温度を制御するための部品を含むことが有益であろう。従って、他の実施形態及び応用は、特許請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】誘電泳動(DEP)濾過システムの概略を示すブロック図。
【図2A】DEPフィルタの概略図。
【図2B】図2Aに示したDEPフィルタの部品の分解斜視図。
【図3】コイル状基板の上面図。
【図4A】DEP電極の概略図。
【図4B】電極付近の粒子が負の誘電泳動力を受けるように電圧印加された嵌合電極の斜視図。
【図4C】電極付近の粒子が正の誘電泳動力を受けるように電圧印加された嵌合電極の斜視図。
【図5A】DEPフィルタのためのコイル状電極要素を構成するステップを示す斜視図。
【図5B】DEPフィルタのためのコイル状電極要素を構成するステップを示す斜視図。
【図6A】進行波DEPのための電極アレイの概略図。
【図6B】進行波DEPのための電極アレイの概略図。
【図7A】重なり電極を示す概略図。
【図7B】重なり電極を示す概略図。
【図8A】4つのフィルタが直列に連結されている様子を示す、複数のフィルタを含むDEP濾過システムの概略図。
【図8B】4つのフィルタが並列に連結されている様子を示す、複数のフィルタを含むDEP濾過システムの概略図。
【図9】再循環チューブを含むDEP濾過システムの概略図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電泳動に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電泳動(DEP)とは、流体媒体中の懸濁粒子が、印加された電界の勾配に露出されたときに力を受けることである。印加電界の勾配により、粒子と流体媒体との誘電分極の差が、粒子に誘電泳動力を受けさせる。この作用は、電磁場の運動量バランスに関して、マクスウェル応力テンソルを用いて定量化されることができ、又は、印加電界により粒子上及び粒子内に誘起された電荷の大きさ及び分布に関して定量化されることができる。粒子、例えば血球は、強い誘電泳動作用を受けると、一般に、約10−11N(ニュートン)の誘電泳動力を受けることになり、これは、重力による沈降力よりも約40倍大きく、ブラウン運動による最大拡散力よりも約2×105倍大きい。
【0003】
粒子の構造特性及び物理化学的特性が、粒子の誘電泳動反応に影響することがある。この反応は、また、印加される電界の周波数に依存し得る。これらの依存性により、印加電界の周波数及び外部の環境条件の変化を用いて、様々な粒子の構造及び処理を同時に調べることができる。例えば、細胞の幾つかの基礎的な電気的特性、例えば、膜容量、膜抵抗、及び細胞質導電率は、細胞の誘電泳動反応に影響を与える。これらの特性は、また、細胞がイオンバランスを維持する能力を反映し、代謝作用及び生物学的組織の測定基準である。従って、誘電泳動は、細胞集団の電気特性を単一の細胞レベルに下って決定するための非侵襲的方法を提供することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘電泳動は、粒子の構造特性及び物理化学的特性を、粒子の並進力(その方向及び大きさが粒子の特性を反映する)として効率的に示すため、異なる特性を有する粒子間に、或る程度の分離が生じる。従って、誘電泳動を、粒子の混合物を分離するために用いることができる。誘電泳動による粒子の分離は、不均一な電界が、電界により誘起された粒子の電気分極と相互作用するときに、粒子が受ける誘電泳動力を利用する。これらの力は、懸濁媒体(例えば液体)に対する粒子の誘電特性に応じて、正の力又は負の力のいずれにもなり、また、粒子を、強電界領域又は弱電界領域に向けさせることができ、これらの電界領域にて、差別的な誘電特性を有する粒子が収集される。同じ状況下でも、異なる誘電特性を有する粒子は、異なる(例えば、低減された、又は反対の)力を受けることできる。従って、一連の特定の状況に関し、或るタイプの粒子の運動は、誘電泳動力(例えば、引き付ける、又は反発する誘電泳動力)により制御されることができ、別のタイプの粒子の運動は制御されない(例えば、粒子の運動は、流体流又は重力により支配されることができる)。このような状況下で、誘電泳動を用いて、このような2つの粒子タイプの混合物を分離することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
幾つかの態様において、本発明は、2つ以上の電極アレイが基板面上に配置されたコイル状基板を含む誘電泳動フィルタにより特徴付けられる。動作中、フィルタは、誘電泳動力を、コイル基板の離隔された層間を流れる流体中の粒子に加える。層の間隔及び電極の形状寸法は、フィルタを流れる最適な流体流、及び、最適な濾過効率をもたらすように設計されることが可能である。対向する電極アレイを基板の同一面に設けることにより、印加される電界は、層の間隔と、実質的に関係がない。従って、幾つかの実施形態において、狭い間隔(例えば、約数ミクロン)で配置された電極が、比較的広い間隔(例えば、約
数百ミクロン)で配置されたコイル層と共に用いられ得る。さらに、電極間隔と層間隔とが互いに独立であることが、フィルタの設計にさらなる融通性もたらすことができる。例えば、対向する電極アレイにおける電極間の間隔は一定のままで、コイル層間の間隔を、フィルタを横切る方向に変化させることができる。
【0006】
幾つかの態様において、本発明は、また、コイル層間の最適な流体流のために設計されたコイル状電極基板を含む誘電泳動フィルタにより特徴付けられる。螺旋上の基板ガイドが、コイル状基板の端部を固定することができ、層の間隔を、フィルタの作用領域(例えば電極付近)にスペーサを追加する必要なく維持する。さらに、層間隔と位置合わせされた入口チャネルを有するマニホルドが、流体を前記間隔に直接供給できる。さらに、フィルタは、これもまた層間隔と位置合わせされた出口チャネルを、出口マニホルドに含むことができる。こうして、フィルタは、実質的に妨害されない通路をフィルタの作用領域にもたらすことができ、これらの領域を流れる均一な流体流プロファイルを可能にする。
【0007】
フィルタ構造は、また、フィルタが同じ電極を用いて粒子をガイドし且つ捕捉することを、多数の積算された電界周波数を重畳することにより可能にする。これは、柔軟な基板上に要求される電極構造物の部品の数及び複雑さを最小にすることにより、濾過装置の構成及び組立を容易にする利点をもたらし得る。
【0008】
本発明の様々な態様を以下に示す。
概して、第1の態様において、本発明は、チャンバ、及び、チャンバ内に配置された基板を含む装置により特徴付けられ、前記基板は軸の周りにコイル状に巻き付けられ、このコイル状基板の隣り合う層は互いに離隔されている。この装置は、また、基板の面上に配置された1対の電極アレイを含み、電極アレイ間にて電位差が維持され得る。この装置は、また、コイル状基板の第1の端部に配置された入口マニホルドを含み、入口マニホルドは、複数の入口チャネルを、前記互いに離隔された層間の空間に隣接して含む。
【0009】
この装置の実施形態は、以下に記載する特徴及び/又は他の態様の特徴の1以上を含み得る。
前記1対の電極アレイは嵌合電極を含むことができる。入口チャネルの各々の寸法は、その他の入口チャネルの寸法と同一であることができる。
【0010】
概して、別の態様において、本発明は、軸の周りに巻き付けられたコイル状基板と、前記基板の第1の面上に配置された第1の電極及び第2の電極とを含む装置により特徴付けられ、この装置は、第1電極と第2電極の電位差を維持することができる。
【0011】
この装置の実施形態は、以下に記載する特徴及び/又は他の態様の特徴の1以上を含み得る。
この装置は、さらに、入口マニホルドを含むことができ、この入口マニホルドを通して流体がコイル状基板に供給されることができる。装置は、また、出口マニホルドを含むことができ、この出口マニホルドを通して流体がコイル状基板から除去されることができる。第1電極は、第1の電極アレイにおける電極であることができ、第2電極は、第2の電極アレイにおける電極であることができ、第1電極及び第2電極は前記第1の面上に配置されている。第1電極アレイと第2電極アレイは嵌合電極を含むことができる。コイル状基板は、少なくとも5ミクロン(例えば、少なくとも約10ミクロン、20ミクロン、30ミクロン、50ミクロン、100ミクロン、200ミクロン)離隔された複数の隣り合う基板層を含むことができる。隣り合う基板層は、第1電極及び第2電極における最小の電極間隔とは異なる(例えば、それより大きい)距離離隔されることができる。幾つかの実施形態において、隣り合う基板層は、軸から層までの距離に応じて変化する距離離隔される。隣り合う基板層は、少なくとも100ミクロン離隔されることができる。入口マニ
ホルドと出口マニホルドは、軸に沿った異なる位置に配置されることができる。
【0012】
この装置は、コイル状基板を収容するチャンバ、及び/又は、螺旋状のチャネルを含む第1の基板ガイドを含むことができ、螺旋状のチャネルにコイル状基板の第1の端部が差し込まれる。装置は、また、螺旋状のチャネルを含む第2の基板ガイドを含むことができ、螺旋状のチャネルに、コイル状基板の第2の端部が差し込まれ、前記第1端部は第2端部に対向している。基板はポリマー基板であることができる。幾つかの実施形態において、装置は、基板の第2の面上に配置された1以上のさらなる電極を含むことができ、基板の第2面は第1面と対向している。
【0013】
入口マニホルドは複数の入口チャネルを含むことができ、且つ/又は、出口マニホルドは複数の出口チャネルを含むことができる。基板は複数の穿孔を含むことができる。
電極は電極材料を含むことができ、装置は、さらに、第1電極上に配置された第1の材料の層を含むことができ、第1材料は電極材料と異なる。第1材料は電気絶縁材料であることができる。装置は、また、前記層の面上に配置されたさらなる電極を含むことができる。前記層は、電極材料とコイル状基板付近の粒子との化学反応を低減することができる。ターゲット粒子と第1材料との付着が、ターゲット粒子と電極材料との付着とは異なる(例えばより小さい)ことができる。幾つかの実施形態において、装置は、第2電極上に配置された第2の材料の層を含むことができ、第2材料は第1材料と異なる。細胞と第1材料との付着が、細胞と第2材料との付着とは異なることができる。
【0014】
別の態様において、本発明は、上記の態様の1つの装置、及び、前記装置に流体を供給するように構成された供給リザーバを含む、流体を濾過するためのシステムにより特徴付けられる。このシステムは、流体を装置に供給するように構成されたバッファリザーバ、及び/又はプレフィルタを含むことができ、プレフィルタは、リザーバからの流体を、前記装置に流体が供給される前に濾過するように構成されている。プレフィルタは、流体中の或る特定の粒子が装置内に入ることを実質的に防止することができる。或る特定の粒子は、粒子の閾値寸法よりも大きいことがある。(例えば、粒子の閾値寸法は、コイル状基板の隣り合う層の最小間隔と実質的に等しい最大寸法を有することができる)。幾つかの実施形態において、このシステムは、流体が装置に入る前に流体の密度変化をもたらすように構成されたトランスデューサを含むことができる。密度変化は、流体中の粒子を、粒子が装置に入る前に互いに分離させるために十分であることができる。
【0015】
概して、別の態様において、本発明は、流体を濾過するためのシステムであって、供給リザーバと、互いに離隔された複数の隣り合う層を含むコイル状基板の面上に配置された1対の電極アレイと、収集リザーバと、1対の電極アレイに電気接続された信号発生器とを含むシステムにより特徴付けられる。システムの動作中、供給リザーバが、流体を、コイル状基板の前記離隔された隣り合う層間の空間に供給し、収集リザーバが、前記空間から出てくる流体を収集し、信号発生器が、1対の電極アレイ間に電位差を与える。
【0016】
このシステムの実施形態は、以下に記載する特徴及び/又は他の態様の特徴の1以上を含み得る。
このシステムは、コイル状基板を収容するチャンバと、動作中に圧力をチャンバ内の流体に加えるポンプとを含むことができる。前記圧力は、負圧又は正圧であることができる。
【0017】
概して、別の態様において、本発明は、流体を濾過するための方法により特徴付けられる。この方法は、コイル状基板の隣り合う層間の空間に流体を導入することと、コイル状基板の面上に配置された第1電極と第2電極の間に電位差を与えることと、前記隣り合う層間から流体を除去することとを含み、除去される流体中のターゲット粒子の濃度は、導
入される前の流体中の粒子の濃度とは異なる。
【0018】
この方法の実施形態は、以下に記載する特徴及び/又は他の態様の特徴の1以上を含み得る。
この方法は、隣り合う層間の流体に圧力を加えて流体を流れさせることを含むことができる。圧力は、正圧又は負圧であることができる。流体流の向きは重力に対して逆であることができる。電圧を印加することが、前記空間内のターゲット粒子に誘電泳動力(例えば、正の誘電泳動力又は負の誘電泳動力)を受けさせることができる。ターゲット粒子は進行波誘電泳動力を受けることができる。
【0019】
この方法は、流体のパラメータを時間の関数として調節することを含み、前記パラメータは、導電率、誘電率、浮力、粘性、pH、オスモル濃度及び温度から成る群から選択される。前記除去された流体中のターゲット粒子の濃度は、導入される前の流体中のターゲット粒子の濃度とは異なることができる(例えば、より小さい)。ターゲット粒子は生物学的粒子であることができ、本発明の方法は、化合物を流体に導入し、化合物に対する生物学的粒子の反応を、前記除去された流体に基づいて決定することを含むことができる。この方法は、前記化合物を含む薬剤組成物を製剤化すること、及び、前記薬剤組成物を細胞培養物又は動物に投与することを含むことができる。
【0020】
この方法は、流体を導入している間に前記電位差の周波数を変えること、及び/又は、前記電位差を与えた後にコイル状基板の隣り合う層間の空間からターゲット粒子を排出することを含むことができる。前記除去された流体中の、ターゲット粒子とは異なる他の粒子の濃度は、導入される前の流体中の前記他の粒子の濃度と実質的に同じであることができる。
【0021】
上記の利点に加えて、本発明の実施形態は、以下の利点の1つ以上を含み得る。実施形態は、チャンバ容量に対する電極表面積の比率が高い誘電泳動フィルタを提供することができ、それにより、流体の効率的な濾過を可能にする。
【0022】
誘電泳動フィルタは、市販の材料及び既存の製造技術を用いて安価に製造されることができる。誘電泳動フィルタは、機械的に頑強である。
特に定義されていなければ、本文中に用いられる技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の技術者に一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本文中に記載されている方法及び材料と類似又は同等の方法及び材料が、本発明の実施又は試験にて用いられることができるが、適切な方法及び材料を以下に記載する。本文中に記載する全ての出版物、特許出願、特許及び他の参考文献は、それらの全てを援用して本文の記載の一部とする。論争が生じた場合、定義を含む本件の明細書が優先する。さらに、材料、方法及び例は、例示的なものに過ぎず、限定的であることを意図されていない。
【0023】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
複数の図面における類似の参照符号は、類似の要素を示す。
図1を参照すると、誘電泳動(DEP)濾過システム100が、フィルタ110、供給リザーバ120、バッファ(緩衝液)リザーバ170、収集リザーバ130、及び、プレフィルタ160を含む。供給リザーバ120は供給チューブ125によりプレフィルタに接続されている。プレフィルタ160及び収集リザーバ130は、それぞれ、供給チューブ126及び出口チューブ135によりフィルタ110に接続されている。バッファリザーバ170が、供給チューブ155により供給リザーバ120に接続されている。信号発
生器140が、ケーブル145によりフィルタ110に接続されている。DEP濾過システム100は、また、供給リザーバ120に接続されたポンプ150を含む。
【0025】
動作中、ポンプ150が、供給リザーバ120から流体を汲み出し、供給チューブ125、プレフィルタ160、及び供給チューブ126を通してフィルタ110に送出する。1以上のタイプの粒子が流体中に懸濁されている。フィルタ110は、1以上のタイプの粒子を流体から分離し、濾過された流体は、フィルタ110から出てチューブ135を通り、収集リザーバ130にて収集される。
【0026】
流体から粒子を分離させるために、信号発生器140が、フィルタ110の基板の面上に配置された対向する電極アレイを横切って電圧を印加する。電極及び基板に関して、以下に説明する。電圧を印加すると、電圧が印加された電極間に電界が発生する。粒子及び流体の誘電特性に応じて、電界は、粒子を電極に引き付けさせ、又は電極から反発させることができる。
【0027】
概して、印加される電圧の振幅及び周波数は、電極の形状寸法、並びに、ターゲット粒子及び濾過される流体のタイプに依存する。幾つかの実施形態において、電源装置140は、電極に直流電圧を印加できる。しかし、より典型的には交流電圧が印加される。交流波形は、正弦波、鋸歯状波、三角形波、方形波、又はその他の何らかの複合波形であり得る。幾つかの実施形態において、波形は、正弦的に変化する複数の波形の重ね合わせ(例えば、周波数成分ω,2ω,3ω・・・・を有する波形)であってよい。交流波形の周波数は、通常、所望の誘電泳動反応をターゲット粒子にもたらすように選択される。多くの実施形態において、周波数は、Hz(例えば、約10Hz、100Hz、1,000Hz)〜MHz以上(例えば、約0.1MHz、1MHz、100MHz、又はそれより高い周波数)の範囲である。波形が正弦波でない場合、周波数は、単位時間あたりに波形が繰り返される回数のことである。
【0028】
プレフィルタ160は、不都合に大きい粒子がフィルタ110に入ることを防止する。幾つかの実施形態において、プレフィルタ160は、所定の閾値寸法より小さい粒子を通過させる多孔質膜を含む。例えば、閾値寸法は、ターゲット粒子の最大予測寸法であることができ、プレフィルタ160は、これより大きい非ターゲット粒子を、流体から、濾過前に除去できる。幾つかの実施形態において、プレフィルタ160の粒子閾値寸法は、フィルタ110の物理的特性、例えば、フィルタ110を通過させられることができる最大粒子寸法に基づき得る。フィルタ110のこれらの特性を決定するパラメータに関して、以下に論じる。システム100において、プレフィルタ160は、独立したユニットとして示されているが、別の実施形態において、プレフィルタは、フィルタ110内に部品として含まれることができる。或いは、プレフィルタリング(予備濾過)を、システム100とは別個のシステムにて行うことができ、又は全く行わなくてもよい。フィルタの例は、不都合な粒子を排除するように設計された細孔寸法を有するシリコンフィルタ及びセラミックフィルタを含む。シリコンフィルタ及びセラミックフィルタは有利であり得る。なぜなら、フィルタの面を横切る直交流を用いて、不都合な粒子を除去することができ、フィルタのポア(細孔)寸法が均一であり得、且つ/又は、高いポア密度が得られる(高流量の可能性をもたらす)からである。これは、プレフィルタの閉塞又は詰りを防止できる。
【0029】
流体中の粒子が凝集して、フィルタ110を通過するには大きすぎる粒子塊を形成する場合がある。このような場合、システム100は、粒子塊がフィルタ110を通過する前又は通過中に粒子塊を分解するために、1以上のさらなる部品を含むことができる。例えば、システム100は、粒子塊を分解させる密度変化(例えば、周期的密度変化、例えば超音波パルス)を流体にもたらすトランスデューサを含むことができる。このようなトラ
ンスデューサは、供給リザーバ120からフィルタ110への通路に、独立した部品として含まれることができ、或いは、フィルタ、プレフィルタ、又は供給リザーバの一部品として含まれることができる。トランスデューサの例は、0.1Hz〜100kHzの範囲の周波数にて、粒子の集塊を分解させる力の振幅で試料を超音波処理するための、測定可能な圧電デバイスを含む。この力は、好ましくは、過剰な機械的応力、すなわち、粒子の崩壊、或いは、粒子が細胞である実施形態においては細胞の溶解をもたらす可能性のある過剰な機械的応力を生じない。或いは、又は、さらに、集塊を拡散させるための他の方法を用いることができ、これらの方法は、例えば、試料に局所的乱流をもたらすことであり、粒子塊を分解するための破壊的な機械的力を加えることにより行われる。
【0030】
図1は、供給リザーバ120がフィルタ110及び収集リザーバ130よりも高い位置にあるように示しているが、好ましい実施形態において、システムの構成要素は、流体が重力に抗して上方に汲み上げられるように配置される。これが、システムにおける粒子の沈降を低減できる。
【0031】
ポンプ150は、流体が適切な流量でフィルタを通過するように流体に適切な圧力を与えるいずれのポンプであってもよい。適切な流量とは、フィルタを通る流体流が層流であり(すなわち、理想的にはフィルタ内の乱流が回避されるべきである)、しかも流体の容量を適切な時間で濾過するように十分に速い流量である。好適なタイプのポンプは、蠕動ポンプ、ダイヤフラムポンプ、又は、低速度及び低剪断速度で動作されることができるポンプを含む。手動操作式ポンプ(例えば、シリンジ又はハンドポンプ)も用いられることができる。幾つかの実施形態において、流体は、重力によりフィルタを通過させられることができ、ポンプは必要でない。しかし、好ましい実施形態において、流体は、フィルタ内の泡を低減するために、また、重力による沈降力に抗する平衡力として作用するために、ポンプにより上方に汲み上げられてフィルタを通される。
【0032】
好ましい実施形態において、フィルタ110は、約50ミリリットルの容量を有し、システム100は、毎分約1ミリリットル/分の速度で流体を濾過することができる。しかし、他の実施形態において、システム100は、より少ない容量(例えば、約10ミリリットル、1ミリリットル、100マイクロリットル、又は10マイクロリットル以下)を、又は、より大きい容量(例えば、約100ミリリットル、500ミリリットル、又は1リットル以上)を濾過するように適合されることができる。さらに、濾過速度は所望のように変更できる。幾つかの実施形態において、濾過速度は、約1ミリリットル/分未満(例えば、約500マイクロリットル/分、100マイクロリットル/分、10マイクロリットル/分、又はそれより小さい濾過速度)である。或いは、濾過速度は、約1ミリリットル/分より高い速度(例えば、約5ミリリットル/分、10ミリリットル/分、50ミリリットル/分、又は100ミリリットル/分以上)であってもよい。
【0033】
システム100においては、流体を移動させてフィルタ110に通すために、ポンプ150が正圧を加えるが、他の実施形態において、ポンプ150は、負圧を加えることにより流体を供給リザーバ120からフィルタ110に引き出すように構成されることができる。負圧を加えるために、ポンプ150は、収集リザーバ130又は出口チューブ135に接続されることができる。この構成において、ポンプは、フィルタ110の出口側にかかる流体圧力を入口側よりも低くし、これにより、流体を供給リザーバ120から引き出してフィルタ110内に流通させる。負圧を用いて流体を汲み出す1つの利点は、フィルタ内の圧力が周囲圧力よりも低くなるために、システムからの流体の漏出(例えば、腐敗したシールを通って)が生じ難くなることである。
【0034】
図2A及び図2Bを参照すると、フィルタ110において誘電泳動作用をもたらす部品が電極要素であり、電極要素は、軸299の周囲に巻き付けられた(コイル状の)基板2
00を含む。1対の電極アレイ201が基板200の面上に配置されている。基板200は、基板ガイド215及び基板ガイド225により、螺旋状のチャネル218及び螺旋チャネル228に差し込むことにより支持され、これが、コイル状基板200の層間の間隔距離を維持する。基板200はチャンバ240に収容されている。チャンバ240は、基板200と同軸状に向けられた中空の円筒状管である。チャンバ240を通る流体流は、チャンバ240の一端にて、入口マニホルド210により制御され、チャンバ240の他端にて、出口マニホルド220により制御される。チャンバに、流体が、流体入口コネクタ230を介して供給され、コネクタ230は、試料流体を入口ポート211に、流体入口チャネル250を介して分与する。濾過された試料は、出口ポート221から集められて流体出口チャネル251を通った後、出口コネクタ231を通ってチャンバから出て行く。
【0035】
入口マニホルド210は多数の入口ポート211を含み、入口ポート211は、入口チューブ125(図1に示す)と流体連通されている。入口ポート211は、流体中に懸濁されている粒子を通過させるように十分に大きい。基板ガイド215も多数の入口ポート216を含み、入口ポート216は入口ポート211と位置合わせされ、且つ、コイル状基板200の隣り合う層間の空間と位置合わせされている。これにより、装置の動作中、汲み出されて入口チューブ125を通る流体が入口ポート211及び216を通り、コイル状基板200の隣り合う層間の空間に入る。
【0036】
同様に、出口マニホルド220及び基板ガイド225も、位置合わせされた多数の出口ポート(それぞれ、符号221及び226で示す)を含む。流体はこれらの出口ポートを通ってチャンバ240から出て、出口チューブ135(図1に示す)に流入する。流体の流れる方向が図2Aの矢印により示されている。
【0037】
動作中、供給リザーバから汲み出された流体は、ポート211及び216を通ってチャンバ240に入る。流体は、コイル軸299に対して平行に流れ、コイル基板200の層間の空間に入る。ポンプ動作中、信号発生器が電極201に電圧を印加し、基板面間の空間の電極付近に電界を発生させる。流体、及び、流体中の懸濁粒子の誘電泳動特性に応じて、電界は粒子に誘電泳動力を受けさせることができる。好ましい実施形態において、印加された電界は、電極にターゲットタイプの粒子を引き付けさせる。ターゲット粒子は電極付近に留まり、非ターゲット粒子(これも流体中に存在するのであれば)は、流体と共にチャンバを通って流れ続ける。こうして、ターゲット粒子が、チャンバから出ていく流体から離脱される。
【0038】
幾つかの実施形態において、誘電泳動の引付け力が、チャンバを通る非ターゲット粒子の流量のバランスを保つ。これらの力の均衡を保つことより、粒子がチャンバ内に留まる時間を、流体速度を低減せずに長くすることができ、これは、さらに、分離プロセスの純度及び回収を高めることができる。分離効率を高める他の手段(誘電泳動力の大きさを変えるために、流体及び/又は粒子の物理的及び/又は化学的特性を変えることによる)を分離手順に組み込むことができる。変えることができる特性の例は、試料の導電率、誘電率、オスモル濃度、温度及び/又はpHを含む。
【0039】
非ターゲット粒子を流体から除去したならば、電極がもはやターゲット粒子を引き付けないように印加電界を調節することにより、ターゲット粒子をチャンバから排出させることができる。ターゲット粒子と、電極材料及び/又は基板材料との相互作用に応じて、電極に印加される電圧を低減(又はスイッチオフ)することができ、又は、誘電泳動力の性質を変化させるように周波数を変化させることができる。例えば、粒子の面と電極の面との相互作用が粒子を電極に付着させている場合、負の誘電泳動力を加えることにより粒子を引き離すことが必要であろう。しかし、この相互作用が弱い場合には、流れる流体によ
る粘性力及び/又は重力が、ターゲット粒子を電極から引き離すのに十分であり得る。
【0040】
システム100は、流体容量中のターゲット粒子の濃度を増大するために用いられることができる。チャンバの容量が、濾過されるべき容量よりも小さい場合、チャンバ内のターゲット粒子の濃度は、より多くのターゲット粒子が流体から濾過されるにしたがって増大する。最終的に、捕捉された粒子を電極から解放した後、チャンバから排出される量の流体が有するターゲット粒子濃度は、最初の試料のターゲット粒子濃度よりも高くなる。
【0041】
この実施形態において、入口ポート211及び216と、出口ポート221及び226とは寸法及び形状が同一である。しかし、一般に、入口ポート及び/又は出口ポートの寸法及び形状は、所望のように変えられ得る。さらに、流体チャネル、並びに/又は、入口ポート及び/若しくは出口ポートの組合せは、装置を通って流れる所望の流体流をもたらすように設計されることができる。例えば、幾つかの実施形態においては、フィルタ全体の電極にわたり同一の流量を維持することが望ましいであろう。均等な流れは、各チャネルの寸法及び/又は各ポートの寸法を等しくすることにより達成され得る。別の実施形態においては、差別的流量が、ポート寸法及び/又はチャネル寸法を変えることにより得られる。このような一例は、コイル軸付近に、より小さいポートを有し、軸からより遠い位置に、より大きいポートを有することであろう。これにより、フィルタの異なる部分を通過する試料の流量に差を生じることができる。この例において、試料流体は、コイル軸からより遠い、ポートがより大きい部分にて、より迅速に流通するであろう。
【0042】
幾つかの実施形態において、出口ポート231に続く多数の出口路を組み込むことにより、連続的な分離を達成できる。このような出口ポートシステムは、異なる様々な流れプロファイルからの同時の連続サンプリングを可能にすることができ、また、幾つかの出口からの再循環が、試料の純度及び所望のターゲット粒子の回収を増大させることを可能にする。例えば、フィルタの、流速が比較的速い領域から引き出された流体を第1の収集リザーバに向けることができ、フィルタの、流速がより遅い領域から引き出された流体を第2の収集リザーバに向けることができる。フィルタの、異なる流速領域からの流体内容の分析を用いて、試料から特定のターゲット粒子を得るための最適な流量を実験に基づいて決定することができる。
【0043】
理論にとらわれず、誘電泳動力をパラメータ化するために用いられる理論モデルの概要を示すことが有益である。絶対誘電率εmを有する媒体中に懸濁された、半径rを有する球形の粒子に関し、誘電泳動力は理論的に、
FDEP=2πr3εmα(∇E2)
により示される。式中、αは、懸濁媒体に対する粒子の有効分極率を定義するパラメータ(クラウジウス・モソッティの式の係数の実数部)であり、係数(∇E2)は、粒子に作用する電界Eの勾配及び強度を定量化する。分極率パラメータは、粒子の有効キャパシタンス及び導電率を反映し、理論上、+1.0〜−0.5の範囲の値を有することができる。αが正値であることは、印加された電界が、粒子内に、印加電界に整列される双極子モーメントを誘起することを意味し、これは正の誘電泳動力を生じる。αが負であれば、誘起された双極子モーメントが印加電界と反対向きに整列されることになり、粒子に負の誘電泳動力を受けさせる。
【0044】
式(1)は、誘電泳動力が粒子の容量に比例することを示し、電界Eが二乗項として現れるため、これは、力が電界の極性とは独立であり、従って、電極に印加されるAC電圧及びDC電圧のいずれもが誘電泳動力を生じることができることを意味する。しかし、多くの粒子の分極率関数αがAC周波数に依存し得る。従って、誘電泳動濾過システムは、或るタイプの粒子の誘電泳動反応が他のタイプの粒子の誘電泳動反応と異なる周波数で動作することができる。異なるタイプの粒子が流体中に懸濁されている場合、差別的反応を
用いて、異なるタイプの粒子を、チャンバ内の異なる領域に移動させ、これらの粒子の分離を促進することができる。
【0045】
印加される一定の大きさの電圧信号に関して、式(1)中の係数(∇E2)は、主に電極の形状寸法(例えば、電極の形状及び/又は電極間の間隔)により決定される。幾つかの理想的な場合を除き、この係数の定量化は、通常、コンピュータを用いた数値法を用いて行われる。電極の形状寸法の多くに関し、この係数は、電極からの粒子の距離の関数として減衰する(例えば、指数関数的に、又はほぼ指数関数的に減衰する)。従って、粒子が受ける誘電泳動力も、電極からの粒子の距離の関数として減衰する。電界を用いて粒子を効果的に操作するために、粒子が受ける誘電泳動力は、粒子が受ける他の力(例えば、重力、又はブラウン運動による力)よりも大きくなくてはならない。従って、有効電極要素は、誘電泳動力が流体中の粒子を操作できるように、最大量の流体を電極に十分に近づけさせるべきである。
【0046】
コイル基板の隣り合う層間の距離は、フィルタ内の粒子の、電極に対する近接性に響を与える。図3を参照すると、コイル状基板300の層は、距離310離隔されている。基板300は、軸399の周囲に巻かれている。電極に対する粒子の近接性に影響することに加え、フィルタ設計における間隔距離310の選択に影響を与える因子は、濾過される粒子のタイプ、及び、流体媒体のタイプを含む。基板の間隔は、粒子の寸法を収容するように十分に大きくなければならない(すなわち、基板の間隔は、濾過される流体と共に通過させられる最も大きい粒子の直径よりも大きくなければならない)。さらに、間隔距離310は、流体媒体が乱流を生じずにポンプの力によりチャンバを通過することを可能にするように、十分に大きくなければならない。基板及び電極材料の厚さ及び機械的特性も、設計者による間隔距離の選択に影響を与える。基板300は、電極の機械的欠陥を生じるほどにきつく巻き付けられてはならない。幾つかの実施形態において、基板間隔310は、約数ミクロン(例えば、約2ミクロン〜20ミクロン)であり得る。より典型的には、基板間隔は、数十ミクロン〜数百ミクロン(例えば、約50ミクロン、100ミクロン、200ミクロン、300ミクロン、500ミクロン)である。幾つかの実施形態において、基板間隔は、約数ミリメータ以上(例えば、約1ミリメータより大きく、2ミリメータ、5ミリメータ、10ミリメータ)であり得る。多くの生物学的用途において、基板間隔310は、100ミクロン〜1ミリメータ(例えば、約300ミクロン〜500ミクロン)の範囲である。
【0047】
隣り合う層間の間隔は、一定であっても、又は変化してもよい。例えば、コイル軸からより遠い位置にある複数の層を、より軸に近い複数の層よりも互いに近づけることができる。層の間隔に関する他の変型(例えば、周期的変化、又は、コイル軸からの半径方向距離の関数としての他の単調な変化)が考えられる。
【0048】
コイル状基板の隣り合う層間の空間には、流体流を妨害する可能性のあるいずれの物体(例えば、スペーサ要素)も、実質的に存在しなくてよい。
各フィルタに関し、電極の形状寸法及び層の間隔を、フィルタの特定の最終用途のために最適化できる。対向する電極アレイを基板の一面に設けることにより、電極間隔と層間隔とは異なり得る。一方、対向する電極を対向する基板面に配置する場合、電極間隔は層間隔と同一である。好ましい実施形態において、電極は、層間隔距離よりも狭い間隔で配置される。例えば、電極間隔は、層間隔の約0.5倍未満(例えば、層間隔の約0.2倍未満、例えば0.1倍未満)である。本文において、電極間隔とは、対向する電極アレイにおける電極間の最小間隔を示す。
【0049】
幾つかの実施形態において、対向する電極アレイは、嵌合電極(interdigitated electrode)を含む。図4Aを参照すると、電極アレイ201の一部400が、10個の平行な嵌
合電極を含む。電極411,412,413,414及び415が、第1のバスライン410と電気接触し、電極421,422,423,424及び425が、バスライン420と電気接触している。動作中、信号発生器がAC電圧を、バスライン410とバスライン420の間に印加する。この結果、電極411〜415と電極421〜425との電位差が、電極間に電界を発生させる。
【0050】
嵌合電極の寸法は、所望のように変化させることができる。幾つかの実施形態において、電極は、約5ミクロン以上(例えば、約10ミクロン、20ミクロン、50ミクロン、100ミクロン)の幅を有し、また、約20ミクロン以上(例えば、30ミクロン、40ミクロン、50ミクロン、75ミクロン、100ミクロン、200ミクロン、500ミクロン)の長さを有する。さらに、隣り合う電極間の間隔を変化させることができる。幾つかの実施形態において、隣り合う電極間の間隔は、電極の幅より大きい。間隔は、例えば、約10ミクロンより大きくてよい(例えば、約20ミクロン、30ミクロン、50ミクロン、100ミクロン、200ミクロン、又はそれより大きい)。
【0051】
部分400は、嵌合電極を10個だけ示しているが、電極アレイ201は、より少数又はより多数の嵌合電極(例えば、50個より多くの電極、100個の電極、250個の電極、又はこれより多くの電極)を有し得る。
【0052】
図4Bを参照すると、負の誘電泳動力の作用下で、粒子が嵌合電極から反発されている。これは、AC波形の特定の周波数にて懸濁媒体の電気分極率が粒子の電気分極率を上回るときに生じる。粒子が、正の誘電泳動力の作用により嵌合電極に引き付けられる場合が、図4Cに示されている。この状態は、粒子の分極率が懸濁媒体の分極率を上回るときに生じる。
【0053】
電極の他の形状寸法を用いることもできる。概して、電極の形状寸法は、所望の電界プロファイルをもたらすように選択される。電極の他の形状寸法の例は、ポリノミアル(polynomial)電極、キャステレテッド(城塞状)電極、ポスト又はスタブ電極のアレイ、相互嵌合型のジグザグ電極、又は、ピッチ及び/又は振幅の周期パターンが一定又は可変であり得る湾曲電極を含み得る。
【0054】
概して、基板は、任意の材料から、すなわち、コイル状に形成されることができ、電極材料と適合し、且つ、濾過される試料の成分と不都合に相互作用しない任意の材料からつくられることができる。好ましい実施形態において、基板は、電極アレイが形成された後に巻かれてコイルに形成されることができる柔軟な材料からつくられる。柔軟な基板材料を用いることは、電極アレイを形成するためにプレーナプロセス技術(例えば、プリント回路板の製造、マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)の製造、並びに、半導体及びフラットパネルディスプレイ産業にて用いられる既存の様々な蒸着技術及びパターニング化技術)を用いることを可能にする。基板は、ポリマー材料からつくられることができ、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート又はポリアクリルアミドを含む。
【0055】
幾つかの実施形態において、基板は、1以上の位置にて穿孔される。装置の動作中、穿孔が、コイルの、異なる層間の流体圧力を均等化でき、これが、隣り合う層が圧力差により互いの上に圧潰する可能性を低減できる。穿孔は、試料中のターゲット粒子及び/又は非ターゲット粒子の通過を可能にするように十分に大きくされ得る。
【0056】
電極アレイは、基板上に、リソグラフィ技術を用いて形成されることができる。例えば、電極アレイは、基板の面上にコーティングされた、電極材料(例えば、クロミウム、金、パラジウム又はバナジウム)のモノリシック(一体)層からエッチングされることがで
きる。基板は、コーティングされた導体を基板に接着することを促進するための接着層を含むことができる。クロムが、金電極のための接着層の例である。或いは、電極アレイは基板上にプリントされ、又は、例えば転写接着剤を用いて基板上に転写されることができる。
【0057】
幾つかの実施形態において、1以上のさらなる層を、電極及び/又は基板面の上面に設けることができる。電極面上及び基板上に表面コーティングを用いて、ターゲット試料に対する濾過装置の適合性を高めることができる。例えば、表面コーティングは、基板材料と粒子の間に生じる、不都合であり得る任意の反応を低減できる。電極材料の例である銅及びクロミウムが、細胞に対して有毒なことがある。このような場合、電極に施されたコーティングが、これらの電極材料が溶液中に浸出することを低減でき、それにより、電極材料と粒子との有毒な相互作用のいずれも低減する。幾つかの実施形態において、表面コーティングが、良好な表面濡れ特性をもたらすように選択されることができ、例えば、表面を親水性にすることにより、泡形成の低減を補助する。或いは、又は、さらに、表面コーティングは、細胞の表面付着を低減するための表面電荷(例えば、負の表面電荷)を生じるように選択されることができる。このようなコーティングの機能特性に加えて、コーティングは、薄く(例えば、約50ミクロン未満の厚さ)、均一で、安定的、不活性、滅菌可能で、耐久性があり、且つ/又は、電極材料及び基板材料に対して良好な付着性を有することができる。
【0058】
電極面及び/又は基板面が、細胞の付着を強化又は低減することが知られている物質でコーティングされる実施形態において、コーティングは、或る粒子タイプの選択的な捕捉、又は、粒子の付着効果の定量化を促進できる。例えば、或るタイプの線維芽細胞は、フィブロネクチンとして知られている糖タンパク質でコーティングされた面には良好に付着するが、サイトタクチン(cytotactin)でコーティングされた面には付着しない。同様に、Bリンパ球及びTリンパ球は、異なるタイプの糖タンパク質面に対して、かなり異なる付着傾向を有することが知られている。コーティングとして用いられることができる、細胞を付着させる知られた物質は、タンパク質、例えばフィブロネクチン若しくはラミニン、抗体若しくは抗体の断片、ペプチド、又は、血清アルブミンなどの不活性タンパク質に共役したペプチドを含む。
【0059】
表面コーティングは均質であることが多いが、幾つかの実施形態において、電極及び/又は基板面の異なる部分を異なる材料でコーティングすることができる。例えば、対向する電極(又は電極アレイ)を、異なる材料でコーティングすることができる。これの一例は、対向する電極アレイを、粒子を付着させる程度が異なる材料でコーティングすることである。
【0060】
図5A及び図5Bを参照する。幾つかの実施形態において、電極要素は、最初に、電極材料の層を、柔軟で平坦な基板(例えば、ポリマー基板)上に形成することにより準備される。電極材料層は、所望の導電率をもたらすように十分に厚く、且つ、コイル状に巻かれるための十分な機械的柔軟性を保持する。フォトリソグラフ技術を用いて電極材料層の一部をエッチングし、これにより嵌合電極510を形成する。次いで、基板をシャフト520の周りに巻きつける。シャフト520は、導電部530及び540を含む。基板が巻き付けられたならば、導電部530及び540は、それぞれ、バスライン512及び514との電気接触を維持する。シャフト520は、導電部530及び540がコイル状基板から外側に延在するように基板500の幅よりも長く、カートリッジ(ケーブル145(図1参照)を接続することができる)との電気接触点をもたらす。
【0061】
幾つかの実施形態において、コイル状基板500の外縁は、導電部560及び570を含む第2シャフト550に接続されることができ、導電部560及び570は、バスライ
ン512及びバスライン514と基板500の外側電気接触部との電気接触を形成する。第2シャフトは、バスラインに沿った電位降下の全てを低減し、信号発生器を基板に電気接続し続けることを補助する。バスラインと信号発生器とのさらなる電気接続を、類似のシャフトの追加により、又はワイヤ接続により設けることができる。
【0062】
幾つかの実施形態において、基板は、コイル状に巻かれている間に加熱されることができる。加熱された基板は、基板の材料に応じて、室温での基板よりも柔軟であり得る。加熱された基板を巻き付けたならば、基板を、基板材料がより硬くなる室温に冷却できる。巻き付け中に加熱され得る材料の例は、ガラス状材料、例えばガラスポリマーを含む。
【0063】
電極アレイは、基板の両側に配置されることができる。基板が十分にきつく巻き付けられている場合(すなわち、隣り合う層の面間の空間)、電極の形状寸法は、対向する面上の電極間の相互作用を最適化するように選択されることができる。
【0064】
システム100の性能パラメータの1つは、システムが試料を処理できる速度である。この速度は、例えば、試料の寸法、フィルタの容量、及び、フィルタを通る流量に依存する。フィルタチャンバの所与の断面積に関し、最大流量は、少なくとも部分的に、流体の最大速度(誘電泳動力、流体の流体力学的力、及び、細胞に加えられる剪断応力に関連して得られる)により決定される。一般に、流速は、層流状態を維持するように十分に遅くなければならず、また、誘電泳動力に不都合な影響を与えてはならない(例えば、ターゲット粒子に加えられる誘電泳動力を支配してはならない)。流速は、約0.001mm/秒〜10mm/秒(例えば、0.01mm/秒、0.05mm/秒、0.1mm/秒、1mm/秒) であることができる。フィルタのための設計条件は、ターゲット粒子の所望の純度レベル、及び試料からの回収程度をもたらす、試料の実際の処理時間を決定することにより決められる。
【0065】
多くの実施形態において、流体流の剪断応力は、応力が流体中の粒子を損傷しないように十分に小さくなければならない。粒子損傷の閾値は、粒子タイプに依存する。例えば、赤血球は、150N(ニュートン)/m2以上の剪断応力で破損されることがあり、リンパ球は20N/m2の剪断応力で破損されることがある。幾つかの実施形態において、フィルタ内の流体流の剪断応力は、約10N/m2未満、例えば、約1N/m2である。
【0066】
幾つかの実施形態において、懸濁流体の導電率は、或る粒子タイプが受ける誘電泳動力を変化させるように調節されることができる。例えば、流体の導電率は、数十段階の大きさ(例えば、0.1ミリジーメンス/m〜1000ミリジーメンス/m)にわたって調節されることができる。懸濁媒体の導電率は、元の懸濁媒体の導電率よりも高い又は低い導電率を有する媒体を、供給リザーバ120からフィルタ内に流すことにより変えることができる。幾つかの実施形態において、これは、試料リザーバ120にバッファリザーバ170から流体を供給し、流体が時変導電率を有して濾過されることにより達成されることができる。
【0067】
一般に、試料の導電率が増大すると、任意の一定のAC電圧に関し、細胞に作用する正の誘電泳動力が弱くなる。従って、より高い導電率を有する流体を入口ポートに導入することが、フィルタ内の流体の時変導電率をもたらし、これにより、ターゲット粒子をフィルタから差動的に解放させることができ、分別の達成を可能にする。また、増大された流体導電率は、しばしば、電力損に関する抑制を高め、電極に印加されることができる最大電圧にて発熱を生じることがある。従って、多くの実施形態において低い導電率を有する試料は、高い導電率を有する類似の試料よりも高い流体速度で汲み出されて、フィルタに通されることができる。時変導電率の概念は、「導電率勾配」とも称され、ジー・エイチ・マークス(G. H. Markx) 、ピー・エイ・ダイダ(P. A. Dyda)、及びアール・ペシグ(R.
Pethig) により、ジェイ・バイオテクノロジ(J. Biotechnology)誌 51号(1996年)の175頁〜180頁に記載されており、この内容の全てを援用して本文の記載の一部とする。
【0068】
上記の説明は、時変導電率を試料に生じることに関するものであるが、開示されたこの方法を、バッファ媒体の各々又は任意に組み合わせたバッファ媒体に用いて、導電率、誘電率、pH、オスモル濃度及び/又は温度を変えることにより、ターゲット粒子の分別純度及び回収を増大させることができる。さらに、システム100においては、バッファリザーバ170は、緩衝媒体をフィルタ110に、供給リザーバ120を通して供給するように構成されているが、バッファリザーバは、緩衝媒体をシステムの別の部品に供給するように構成されることができる。例えば、バッファリザーバ170は緩衝媒体をフィルタ110に直接供給することができ、又は、緩衝媒体をフィルタ110に、プレフィルタ160を通して、若しくは、システム部品を連結している1以上のチューブを通して供給することができる。幾つかの実施形態において、システム100は、バッファリザーバ170からの緩衝媒体の流れを制御するための弁を含む。
【0069】
幾つかの実施形態において、電極と信号発生器は、進行波電界をもたらすように構成される。図6Aを参照すると、矢印610の方向に進行する電界が発生されており、これは、隣り合う電極にそれぞれ90度位相がずれた正弦電圧を加えることによる。図6Aにおいて、基板601上に配置された、符号620,630,640及び650で示されている電極は、それぞれ、0度、90度、180度及び270度の相対位相を有する。これらの直角位相電圧は、各々、振幅が等しく(典型的に、最高最低振幅が1V〜5V)、約1kHz〜100MHzの範囲の周波数である。
【0070】
特定の懸濁媒体の導電率のための電圧周波数が、或る粒子タイプが正の誘電泳動力を受ける範囲にあるならば、粒子は電極に引き付けられ、電極から離れない。粒子が負の誘電泳動力を受けるならば、粒子は電極から反発される。粒子が、負の誘電泳力の作用により電極から遠ざけられるとき、粒子に作用する時間平均進行電界は、粒子を、電極に対して垂直方向に前進させることができる。この移動の速度及び方向は、粒子の物理化学的特性、印加される電界の大きさ及び周波数、並びに、懸濁媒体の誘電特性により決定される。
【0071】
粒子に作用する誘起力の方向に依存して、進行電界による誘電泳動を、或るターゲット粒子タイプをコイル状基板の内側の層又は外側の層に向って移動させるために用いることができる。幾つかの実施形態において、コイル状基板の内側層又は外側層から優先的に流体が導入又は引き出されるように、入口ポート及び出口ポートを、進行電界の誘電泳動が粒子をいずれの方向に移動させるかに応じて適合させることができる。例えば、流体は、コイル基板の外側層に対応した入口ポートを通して導入されることができる。進行電界の誘電泳動を、ターゲット粒子をコイル基板の内側層に向って移動させるために用いることができる。その結果、内側層から引き出される流体は、外側層から引き出される流体よりもかなり高いターゲット粒子濃度を有するはずである。出口マニホルドは、内側層から引き出された流体を第1のリザーバに向けさせ、外側層から引き出された流体を別のリザーバに向けるように構成されることができる。
【0072】
図6Bを参照すると、電極は、電極の長さに対して非平行(例えば垂直)に延在するチャネル605を有するように配置されることもできる。電極が直角位相信号により励起され、チャネル605の両側に配置された電極の位相が互いに180度ずれるとき、懸濁粒子が、電極間のチャネル605に移動されることができる。図6(b)は、チャネル605の両側の電極が互いに位置合わせされている様子を示すが、電極は、食違い配置(staggered) されてもよい。
【0073】
図7A及び図7Bを参照すると、幾つかの実施形態において、システムは、重なり電極(overlapping electrode) アレイを含むことができる。重なり電極アレイとは、基板の同じ領域に重ねて配置され、しかし電気的に互いに絶縁されたアレイを示す。図7Aは,基板901の同じ領域上に配置された電極アレイ910及び電極アレイ920の斜視図を示す。電極アレイ910と電極アレイ920は、絶縁層930により絶縁されている。
【0074】
動作中、適切な進行波信号を各アレイに印加することにより、システムは、誘電泳動力を、2つの非平行の方向に加えることができる。この実施形態において、例えば、電極アレイが嵌合電極から成り、且つ互いに直交するように向けられている場合、粒子は、基板の面に対して平行な2つの誘電泳動力のベクトルを受けることができ、これらの力ベクトルは互いに対して垂直である。より一般には、電極アレイは、非垂直の角度で力を加えるように向けられることができる。
【0075】
重なり電極を用いて、システムは、粒子を、基板の特定の位置(例えば、チャンバ内の粒子出口チャネル付近)に導くことができる。
幾つかの実施形態において、さらなる電極アレイが、フィルタの出口マニホルド付近の基板面上に含まれる。捕捉されたターゲット粒子は、第1の電極アレイにより解放され、出口付近のさらなる電極アレイ上にて再び捕捉されることができる。その後、これらの粒子は、フィルタ全体を洗い流す必要なくフィルタから洗い流されることができる。減少された容量の流体中のターゲット粒子をフィルタから洗い流すことにより、粒子の濃度が増大する。
【0076】
誘電泳動濾過システムは、2つ以上のフィルタを含むことができる。例えば、濾過システムは、直列に連結された複数のフィルタを含むことができ、これは、濾過される流体の純度を高めることができる。図8Aを参照すると、濾過システム700が、直列に連結された4つのフィルタを含む。ポンプ150が、流体を供給リザーバ120から第1フィルタ710に送出し、フィルタ710にて流体が最初に濾過される。フィルタ710から出た流体は、第2のフィルタ720に入り、流体はフィルタ720にて2度目に濾過される。同様に、流体は、収集リザーバ130に供給される前に、フィルタ730及びフィルタ740を通して濾過される。直列に配置された各フィルタにより濾過される粒子のタイプは、同じであっても、又は異なってもよい。
【0077】
直列に連結されたフィルタは、同じ容量又は異なる容量を有することができる。幾つかの実施形態において、流体は、より大きいフィルタからより小さいフィルタに流れることができる。このような構成で、両方のフィルタが同一タイプのターゲット粒子を捕捉する場合、流体中のターゲット粒子の濃度は、第1の、より大きいフィルタにて捕らえられたターゲット粒子を解放し、これらの解放された粒子をより小さいフィルタにて再び捕捉することにより、増大されることができる。次いで、より小さいフィルタを洗い流すことにより、最初の流体のターゲット粒子濃度より高いターゲット粒子濃度を有する流体が得られる。
【0078】
或いは、又は、さらに、複数のフィルタを並列に配置して供給リザーバに連結することができる。図8Bを参照すると、例示的な実施形態において、誘電泳動濾過システム710が、供給リザーバ120に連結された、並列に配置された4つのフィルタ、711,721,731及び741を含む。ポンプ150が、流体試料を供給リザーバから汲み出し、フィルタの1つを通して収集リザーバ130に送出する。並列配置のフィルタは、濾過システムの処理量を増大することができる。
【0079】
幾つかの実施形態において、濾過される流体を、分離の純度を高めるために、フィルタを複数回通過させることができる。例えば、図9を参照すると、誘電泳動濾過システム8
00は再循環チューブ810を含み、再循環チューブ810は、入口チューブ125に、弁820により連結され、出口チューブ135に、弁830により連結されている。弁830が第1の位置にあるとき、フィルタ110にて濾過されてフィルタ110から出た流体が、再循環チューブ810を通って流れ、弁820を通ってフィルタ110の入口に戻り、フィルタ110により再び濾過される。弁830がこの位置にあるとき、流体はフィルタ110を複数回通過させられることができる。濾過された流体は、それぞれの通過により、より純化される。流体が十分に純化されたならば、弁830を、濾過された流体が出口チューブ135を通って収集リザーバ130内に流れることを可能にする別の位置に切り替えることができる。この実施形態において、ポンプ150は、流体を汲み上げ、チューブ810を通して再循環させるように構成されることができる。
【0080】
概して、誘電泳動濾過システム100は、多くのタイプの誘電粒子を流体媒体から除去するように適合されることができる。例えば、濾過システムは、1以上の異なるタイプの細胞を血液から分離するために用いられることができる(例えば、ターゲット粒子は、血行性細菌、ウィルス、又は、白血球若しくは赤血球であり得る)。他の例は、様々な病原体(例えば、炭疽菌などの生物剤)を流体試料から除去することを含む。誘電泳動濾過システムは、流体試料中の1以上のターゲット粒子の濃度を増大するために、(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析のための試料(試料の相対濃度が約1:1,000,000以上でなければならない)を生成するために)用いられることができる。
【0081】
より一般的には、粒子は、他のタイプの生物学的粒子を含み得る。例えば、粒子は、細胞、又は、細胞及び/若しくは微生物の構成要素を含むことができる。細胞の構成要素の例は、タンパク質及びDNAを含む。微生物の例は、細菌を含む。生物学的粒子の例は、ウィルスなどの病原体も含む。
【0082】
粒子は重合体であることができる。例えば、粒子は、ポリマーミクロスフェア(例えば、ポリスチレン・ミクロスフェア)を含み得る。
粒子は、固体、半固体、液体又は気体であることができる。固体粒子の例は、先に記載したポリマー球又はタンパク質巨大分子を含む。半固体粒子の例は、ポリアクリルアミド又は寒天ゲル粒子を含む。液体粒子の例は、エマルジョン中の分散相、例えば水中の油滴、又は、エアロゾル中の液体粒子を含み、気体粒子の例は、泡中の分散相、例えば、液体中のガス泡を含む。
【0083】
幾つかの実施形態において、粒子は、抗体被覆を施した部分、例えば、金ラベル又はポリマービードでタグ付けされることができ、このようなタグがターゲット粒子の表面上に存在することが、粒子が本来有する誘電特性を変え、分離プロセスの純度および回収を高める。粒子は、蛍光顕微鏡技術と共に用いるためにタグ付けされることができ、又は誘電泳動力を磁気力と組み合わせて用いる分離のために、磁気部分でタグ付けされることができる。
【0084】
粒子寸法は、変えられることができる。粒子は、概して、コイル基板の隣り合う層の面間の間隙を通過するように十分に小さい。幾つかの実施形態において、粒子は、光学顕微鏡を用いて観察されるように十分に大きい(例えば、直径が約0.5ミクロンより大きく、例えば、1ミクロンより大きい)。幾つかの実施形態において、粒子の直径は、約1ミリメートルより大きくてよい。
【0085】
誘電泳動フィルタ、例えば、上記の誘電泳動フィルタは、様々な用途に用いられることができる。例えば、誘電泳動フィルタを、創薬のために用いることができる。一般に、創薬に用いることにおいては、細胞集団の誘電泳動反応が、様々な化合物に応じて研究される。細胞の誘電泳動反応の変化が、化合物に対する好ましい反応又は不都合な反応を反映
し得る。
【0086】
細胞又は他の生体粒子の誘電泳動反応を特徴付けるために用いられることができるパラメータは、誘電泳動「クロスオーバー」('cross-over')(境界)周波数である。電極が、この「クロスオーバー」周波数より低い周波数の電圧を印加されるならば、細胞は、細胞を電極から反発させる負の誘電泳動力を受けることになる。「クロスオーバー」周波数より高い周波数の電圧が印加されるならば、細胞は、細胞を電極に引き付ける正の誘電泳動力を受けることになる。ペシグ(Pethig)らによれば、Tリンパ球のための「クロスオーバー」周波数は、Tリンパ球が、化学物質(これらのT細胞のいわゆる「活性化」及び細胞周期ステータスの変化を誘発する)に暴露されたときに変化する(「電気泳動」(Electrophoresis) 誌、第23巻(2002年)、2057頁〜2063頁を参照)。誘電泳動反応のこのような変化により、これらの細胞を誘電泳動フィルタから収集又は溶離する方法が、電極に印加される電気信号の周波数に応じて変えられることがある。こうして、誘電泳動フィルタは、T細胞が、細胞の活性化、又は、細胞懸濁液の細胞周期集団運動の変化を開始させ得る様々な化合物に対してどのように反応するかを検査するために用いられ得る。幾つかの実施形態において、誘電泳動フィルタは、アポトーシスの化学的誘発を検知及び定量化するために用いられることもできる(例えば、「電気化学および工業物理化学」(Electrochemistry)誌、第71巻(2003年)、203頁〜205頁)に記載されているペシグ(pethig)の記事を参照)。
【0087】
別の用途の例は、診断における用途である。診断用途において、誘電泳動フィルタは、粒子集団の濃度を増大するために用いられることができる。例えば、血液中の細菌のタイプを検査している場合、誘電泳動を用いて、細菌の濃度を、次の検査方法に適したレベルまで高めることができる。これを行うために、比較的小容量の誘電泳動フィルタを用いて、多量の血液試料を濾過しながら細菌を捕捉することができる。フィルタ内に保持された流体は、元の血液試料と比較して、増大された細菌濃度有するであろう。次いでフィルタを浄化することにより、診断作業用の試料が準備される。血球を同じ電極アレイから反発させながら、細菌ミクロコッカス・ルテウス(M. luteus) を引き付けるために正の誘電泳動がどのように用いられることができるかを示す一例が、ワン(Wang)らにより、「応用物理」(Applied Physics D) 誌、第26巻(1993年)、1278頁〜1285頁に記載されている。チェン(Cheng) らは、血球と混合された大腸菌(E.coli)の場合と本質的に同じ効果を、ネイチャー・バイオテクノロジ(Nature Biotechnology)誌、第70巻(1998年)、2321頁〜2326頁に記載している。
【0088】
さらなる用途例は、細胞治療における用途である。細胞治療において、誘電泳動フィルタを、試料中の様々なタイプの細胞を他の細胞から分離させるために用いることができる。このような用途の一例は、幹細胞を、幹細胞と他の細胞の混合物を含む試料から分離させることである。誘電泳動フィルタを、幹細胞は捕捉され、試料のその他の部分はフィルタを通過させられる状態の下で動作させることができる。次いでフィルタを浄化すると、高純度の幹細胞の試料が得られる。誘電泳動を用いて抹消血から幹細胞亜集団を分離及び濃縮させる例が、スティーブンス(Stephens)らにより、「骨髄移植」(Bone Marrow Transplantation) 誌、第18巻(1996年)の777頁〜782頁に記載されている。
【0089】
誘電泳動フィルタのまた別の用途は、生物剤攻撃の検査である。しばしば、実際の状況において、毒素、例えば生物剤(例えば、炭疽菌または天然痘)が非常に低い濃度(例えば、約1/10,000,000以下)で存在し、従来の検知技術、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を用いてこれらの毒素を検知することを困難にしている。これらの毒素は、このような低濃度においてでさえ致死的であることがある。これらの毒素に関し、試料を、毒素がフィルタに捕捉される状態で動作する誘電泳動フィルタに通過させることにより検査することができる。フィルタより大きい容量の試料を濾過することによ
り、フィルタは、十分に濃縮された試料を、さらなる検査のために提供することができる。先に記載した例では、誘電泳動フィルタが電極アレイに細菌又は酵母菌を引き付けるために用いられているが、同じ電極アレイから血球を反発させることが、生物剤攻撃への適用としては適切であろう。
【0090】
本発明の多数の実施形態を記載してきた。しかし、様々な変更が、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに行われ得ることが理解されるであろう。例えば、上記の濾過システムは、さらなるシステムパラメータを制御するためのさらなる部品を含み得る。このような部品の1つは温度コントローラである。多数の重要なシステムパラメータ、例えば、流体の粘性、並びに/又は、流体及び/若しくは粒子の誘電特性は、通常、温度に依存する。従って、システムの温度を制御するための部品を含むことが有益であろう。従って、他の実施形態及び応用は、特許請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】誘電泳動(DEP)濾過システムの概略を示すブロック図。
【図2A】DEPフィルタの概略図。
【図2B】図2Aに示したDEPフィルタの部品の分解斜視図。
【図3】コイル状基板の上面図。
【図4A】DEP電極の概略図。
【図4B】電極付近の粒子が負の誘電泳動力を受けるように電圧印加された嵌合電極の斜視図。
【図4C】電極付近の粒子が正の誘電泳動力を受けるように電圧印加された嵌合電極の斜視図。
【図5A】DEPフィルタのためのコイル状電極要素を構成するステップを示す斜視図。
【図5B】DEPフィルタのためのコイル状電極要素を構成するステップを示す斜視図。
【図6A】進行波DEPのための電極アレイの概略図。
【図6B】進行波DEPのための電極アレイの概略図。
【図7A】重なり電極を示す概略図。
【図7B】重なり電極を示す概略図。
【図8A】4つのフィルタが直列に連結されている様子を示す、複数のフィルタを含むDEP濾過システムの概略図。
【図8B】4つのフィルタが並列に連結されている様子を示す、複数のフィルタを含むDEP濾過システムの概略図。
【図9】再循環チューブを含むDEP濾過システムの概略図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
チャンバ内に配置された基板であって、軸の周りにコイル状に巻き付けられ、前記コイル状基板の隣り合う層が互いに離隔された基板と、
基板の面上に配置された1対の電極アレイであって、電極アレイ間にて電位差が維持され得る電極アレイと、
前記コイル状基板の第1の端部に配置された入口マニホールドとを備え、前記入口マニホルドが複数の入口チャネルを、前記互いに離隔された層間の空間付近に設けた装置。
【請求項2】
前記1対の電極アレイは嵌合した電極を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
入口チャネルの各々の寸法がその他の入口チャネルの寸法と同一である請求項1に記載の装置。
【請求項4】
軸の周りに巻き付けられたコイル状基板と、
前記基板の第1の面上に配置された第1の電極及び第2の電極とを備え、
第1電極と第2電極との電位差を維持することができる装置。
【請求項5】
入口マニホルドをさらに備え、当該入口マニホルドを通して流体がコイル状基板に供給可能である請求項4に記載の装置。
【請求項6】
出口マニホルドをさらに備え、当該出口マニホルドを通して流体がコイル状基板から除去可能である請求項5に記載の装置。
【請求項7】
第1電極が、第1の電極アレイにおける電極であり、第2電極が、第2の電極アレイにおける電極であり、第1電極及び第2電極が前記第1の面上に配置されている請求項4に記載の装置。
【請求項8】
第1電極アレイと第2電極アレイが嵌合電極を含む請求項7に記載の装置。
【請求項9】
コイル状基板が、少なくとも5ミクロン離隔された複数の隣り合う基板層を含む請求項4に記載の装置。
【請求項10】
前記隣り合う基板層が、第1電極及び第2電極における最小の電極間隔とは異なる距離離隔されている請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記隣り合う基板層が、前記軸から層までの距離に応じて変化する距離離隔されている請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記隣り合う基板層が、少なくとも100ミクロン離隔されている請求項9に記載の装置。
【請求項13】
入口マニホルドと出口マニホルドが、前記軸に沿った異なる位置に配置されている請求項6に記載の装置。
【請求項14】
さらに、コイル状基板を収容するチャンバを含む請求項4に記載の装置。
【請求項15】
螺旋状のチャネルを含む第1の基板ガイドをさらに備え、前記螺旋状のチャネルにコイル状基板の第1の端部が差し込まれる請求項4に記載の装置。
【請求項16】
螺旋状のチャネルを含む第2の基板ガイドをさらに備え、前記螺旋状のチャネルに、コイル状基板の第2の端部が差し込まれ、前記第1の端部が前記第2の端部に対向している請求項15に記載の装置。
【請求項17】
基板がポリマー基板である請求項4に記載の装置。
【請求項18】
基板の第2の面上に配置された1以上のさらなる電極をさらに備え、前記第2面が前記第1面と対向している請求項4に記載の装置。
【請求項19】
入口マニホルドが複数の入口チャネルを含む請求項5に記載の装置。
【請求項20】
出口マニホルドが複数の出口チャネルを含む請求項6に記載の装置。
【請求項21】
基板が複数の穿孔を備える請求項4に記載の装置。
【請求項22】
電極が電極材料からなり、前記装置が、さらに、第1電極上に配置された第1の材料の層を含み、前記第1材料が電極材料と異なる請求項4に記載の装置。
【請求項23】
第1材料が電気絶縁材料である請求項22に記載の装置。
【請求項24】
さらに、前記層の面上に配置されたさらなる電極を含む請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記層が、電極材料とコイル状基板付近の粒子との化学反応を低減する請求項22に記載の装置。
【請求項26】
ターゲット粒子と第1材料との付着が、ターゲット粒子と電極材料との付着とは異なる請求項22に記載の装置。
【請求項27】
さらに、第2電極上に配置された第2の材料の層を含み、第2材料が第1材料と異なる請求項22に記載の装置。
【請求項28】
細胞と第1材料との付着が、細胞と第2材料との付着とは異なる請求項27に記載の装置。
【請求項29】
請求項4に記載の装置と供給リザーバとを含む、流体を濾過するためのシステムであって、前記供給リザーバが前記装置に流体を供給するように構成されているシステム。
【請求項30】
流体を前記装置に供給するように構成されたバッファリザーバをさらに備える請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
プレフィルタをさらに備え、当該プレフィルタが、リザーバからの流体を、前記装置に流体が供給される前に濾過するように構成されている請求項29に記載のシステム。
【請求項32】
前記プレフィルタが、流体中の或る特定の粒子が前記装置内に入ることを実質的に防止する請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記或る特定の粒子が、粒子の閾値寸法よりも大きい請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記粒子の閾値寸法が、前記コイル状基板の隣り合う層の最小間隔と実質的に等しい最
大寸法を有する請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
流体が前記装置に入る前に流体の密度変化をもたらすように構成されたトランスデューサをさらに備える請求項29に記載のシステム。
【請求項36】
前記密度変化が、流体中の粒子を、粒子が前記装置に入る前に互いに分離させるために十分である請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
流体を濾過するためのシステムであって、
供給リザーバと、
コイル状基板の面上に配置された1対の電極アレイであって、前記コイル状基板が、互いに離隔された複数の隣り合う層を含む、1対の電極アレイと、
収集リザーバと、
前記1対の電極アレイに電気接続された信号発生器とを備え、
動作中、供給リザーバが、流体を、コイル状基板の前記離隔された隣り合う層間の空間に供給し、収集リザーバが、前記空間から出る流体を収集し、信号発生器が前記1対の電極アレイ間に電位差を与えるシステム。
【請求項38】
コイル状基板を収容するチャンバをさらに備える請求項37に記載のシステム。
【請求項39】
動作中に圧力をチャンバ内の流体に加えるポンプをさらに備える請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記圧力が負圧である請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
前記圧力が正圧である請求項40に記載のシステム。
【請求項42】
流体を濾過するための方法であって、
コイル状基板の隣り合う層間の空間に流体を導入するステップと、
コイル状基板の面上に配置された第1電極と第2電極の間に電位差を与えるステップと、
前記隣り合う層間から流体を除去するステップとを備え、
前記除去された流体中のターゲット粒子の濃度が、導入される前の流体中の粒子の濃度と異なる方法。
【請求項43】
前記隣り合う層間の流体に圧力を加えて流体を流れさせるステップをさらに備える請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記圧力が正圧である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記圧力が負圧である請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記流体流の向きが重力に対して逆である請求項43に記載の方法。
【請求項47】
電圧を印加することが、前記空間内のターゲット粒子に誘電泳動力を受けさせる請求項42に記載の方法。
【請求項48】
ターゲット粒子が正の誘電泳動力を受ける請求項47に記載の方法。
【請求項49】
ターゲット粒子が負の誘電泳動力を受ける請求項47に記載の方法。
【請求項50】
ターゲット粒子が進行波誘電泳動力を受ける請求項47に記載の方法。
【請求項51】
流体のパラメータを時間の関数として調節するステップをさらに備え、前記パラメータが、導電率、誘電率、浮力、粘性、pH、オスモル濃度及び温度から成る群から選択される請求項42に記載の方法。
【請求項52】
前記除去された流体中のターゲット粒子の濃度が、導入される前の流体中のターゲット粒子の濃度とは異なる請求項42に記載の方法。
【請求項53】
ターゲット粒子が生物学的粒子である請求項42に記載の方法。
【請求項54】
化合物を流体に導入し、化合物に対する生物学的粒子の反応を、前記除去された流体に基づいて決定するステップをさらに備える請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記化合物を含む薬剤組成物を製剤化するステップをさらに備える請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記薬剤組成物を細胞培養物又は動物に投与するステップをさらに備える請求項55に記載の方法。
【請求項57】
流体を導入している間に電位差の周波数を変えるステップをさらに備える請求項42に記載の方法。
【請求項58】
電位差を与えた後にコイル状基板の隣り合う層間の空間からターゲット粒子を排出するステップをさらに備える請求項42に記載の方法。
【請求項59】
前記除去された流体中の、ターゲット粒子とは異なる他の粒子の濃度が、導入される前の流体中の前記他の粒子の濃度と実質的に同じである請求項42に記載の方法。
【請求項1】
チャンバと、
チャンバ内に配置された基板であって、軸の周りにコイル状に巻き付けられ、前記コイル状基板の隣り合う層が互いに離隔された基板と、
基板の面上に配置された1対の電極アレイであって、電極アレイ間にて電位差が維持され得る電極アレイと、
前記コイル状基板の第1の端部に配置された入口マニホールドとを備え、前記入口マニホルドが複数の入口チャネルを、前記互いに離隔された層間の空間付近に設けた装置。
【請求項2】
前記1対の電極アレイは嵌合した電極を含む請求項1に記載の装置。
【請求項3】
入口チャネルの各々の寸法がその他の入口チャネルの寸法と同一である請求項1に記載の装置。
【請求項4】
軸の周りに巻き付けられたコイル状基板と、
前記基板の第1の面上に配置された第1の電極及び第2の電極とを備え、
第1電極と第2電極との電位差を維持することができる装置。
【請求項5】
入口マニホルドをさらに備え、当該入口マニホルドを通して流体がコイル状基板に供給可能である請求項4に記載の装置。
【請求項6】
出口マニホルドをさらに備え、当該出口マニホルドを通して流体がコイル状基板から除去可能である請求項5に記載の装置。
【請求項7】
第1電極が、第1の電極アレイにおける電極であり、第2電極が、第2の電極アレイにおける電極であり、第1電極及び第2電極が前記第1の面上に配置されている請求項4に記載の装置。
【請求項8】
第1電極アレイと第2電極アレイが嵌合電極を含む請求項7に記載の装置。
【請求項9】
コイル状基板が、少なくとも5ミクロン離隔された複数の隣り合う基板層を含む請求項4に記載の装置。
【請求項10】
前記隣り合う基板層が、第1電極及び第2電極における最小の電極間隔とは異なる距離離隔されている請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記隣り合う基板層が、前記軸から層までの距離に応じて変化する距離離隔されている請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記隣り合う基板層が、少なくとも100ミクロン離隔されている請求項9に記載の装置。
【請求項13】
入口マニホルドと出口マニホルドが、前記軸に沿った異なる位置に配置されている請求項6に記載の装置。
【請求項14】
さらに、コイル状基板を収容するチャンバを含む請求項4に記載の装置。
【請求項15】
螺旋状のチャネルを含む第1の基板ガイドをさらに備え、前記螺旋状のチャネルにコイル状基板の第1の端部が差し込まれる請求項4に記載の装置。
【請求項16】
螺旋状のチャネルを含む第2の基板ガイドをさらに備え、前記螺旋状のチャネルに、コイル状基板の第2の端部が差し込まれ、前記第1の端部が前記第2の端部に対向している請求項15に記載の装置。
【請求項17】
基板がポリマー基板である請求項4に記載の装置。
【請求項18】
基板の第2の面上に配置された1以上のさらなる電極をさらに備え、前記第2面が前記第1面と対向している請求項4に記載の装置。
【請求項19】
入口マニホルドが複数の入口チャネルを含む請求項5に記載の装置。
【請求項20】
出口マニホルドが複数の出口チャネルを含む請求項6に記載の装置。
【請求項21】
基板が複数の穿孔を備える請求項4に記載の装置。
【請求項22】
電極が電極材料からなり、前記装置が、さらに、第1電極上に配置された第1の材料の層を含み、前記第1材料が電極材料と異なる請求項4に記載の装置。
【請求項23】
第1材料が電気絶縁材料である請求項22に記載の装置。
【請求項24】
さらに、前記層の面上に配置されたさらなる電極を含む請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記層が、電極材料とコイル状基板付近の粒子との化学反応を低減する請求項22に記載の装置。
【請求項26】
ターゲット粒子と第1材料との付着が、ターゲット粒子と電極材料との付着とは異なる請求項22に記載の装置。
【請求項27】
さらに、第2電極上に配置された第2の材料の層を含み、第2材料が第1材料と異なる請求項22に記載の装置。
【請求項28】
細胞と第1材料との付着が、細胞と第2材料との付着とは異なる請求項27に記載の装置。
【請求項29】
請求項4に記載の装置と供給リザーバとを含む、流体を濾過するためのシステムであって、前記供給リザーバが前記装置に流体を供給するように構成されているシステム。
【請求項30】
流体を前記装置に供給するように構成されたバッファリザーバをさらに備える請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
プレフィルタをさらに備え、当該プレフィルタが、リザーバからの流体を、前記装置に流体が供給される前に濾過するように構成されている請求項29に記載のシステム。
【請求項32】
前記プレフィルタが、流体中の或る特定の粒子が前記装置内に入ることを実質的に防止する請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記或る特定の粒子が、粒子の閾値寸法よりも大きい請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記粒子の閾値寸法が、前記コイル状基板の隣り合う層の最小間隔と実質的に等しい最
大寸法を有する請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
流体が前記装置に入る前に流体の密度変化をもたらすように構成されたトランスデューサをさらに備える請求項29に記載のシステム。
【請求項36】
前記密度変化が、流体中の粒子を、粒子が前記装置に入る前に互いに分離させるために十分である請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
流体を濾過するためのシステムであって、
供給リザーバと、
コイル状基板の面上に配置された1対の電極アレイであって、前記コイル状基板が、互いに離隔された複数の隣り合う層を含む、1対の電極アレイと、
収集リザーバと、
前記1対の電極アレイに電気接続された信号発生器とを備え、
動作中、供給リザーバが、流体を、コイル状基板の前記離隔された隣り合う層間の空間に供給し、収集リザーバが、前記空間から出る流体を収集し、信号発生器が前記1対の電極アレイ間に電位差を与えるシステム。
【請求項38】
コイル状基板を収容するチャンバをさらに備える請求項37に記載のシステム。
【請求項39】
動作中に圧力をチャンバ内の流体に加えるポンプをさらに備える請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記圧力が負圧である請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
前記圧力が正圧である請求項40に記載のシステム。
【請求項42】
流体を濾過するための方法であって、
コイル状基板の隣り合う層間の空間に流体を導入するステップと、
コイル状基板の面上に配置された第1電極と第2電極の間に電位差を与えるステップと、
前記隣り合う層間から流体を除去するステップとを備え、
前記除去された流体中のターゲット粒子の濃度が、導入される前の流体中の粒子の濃度と異なる方法。
【請求項43】
前記隣り合う層間の流体に圧力を加えて流体を流れさせるステップをさらに備える請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記圧力が正圧である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記圧力が負圧である請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記流体流の向きが重力に対して逆である請求項43に記載の方法。
【請求項47】
電圧を印加することが、前記空間内のターゲット粒子に誘電泳動力を受けさせる請求項42に記載の方法。
【請求項48】
ターゲット粒子が正の誘電泳動力を受ける請求項47に記載の方法。
【請求項49】
ターゲット粒子が負の誘電泳動力を受ける請求項47に記載の方法。
【請求項50】
ターゲット粒子が進行波誘電泳動力を受ける請求項47に記載の方法。
【請求項51】
流体のパラメータを時間の関数として調節するステップをさらに備え、前記パラメータが、導電率、誘電率、浮力、粘性、pH、オスモル濃度及び温度から成る群から選択される請求項42に記載の方法。
【請求項52】
前記除去された流体中のターゲット粒子の濃度が、導入される前の流体中のターゲット粒子の濃度とは異なる請求項42に記載の方法。
【請求項53】
ターゲット粒子が生物学的粒子である請求項42に記載の方法。
【請求項54】
化合物を流体に導入し、化合物に対する生物学的粒子の反応を、前記除去された流体に基づいて決定するステップをさらに備える請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記化合物を含む薬剤組成物を製剤化するステップをさらに備える請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記薬剤組成物を細胞培養物又は動物に投与するステップをさらに備える請求項55に記載の方法。
【請求項57】
流体を導入している間に電位差の周波数を変えるステップをさらに備える請求項42に記載の方法。
【請求項58】
電位差を与えた後にコイル状基板の隣り合う層間の空間からターゲット粒子を排出するステップをさらに備える請求項42に記載の方法。
【請求項59】
前記除去された流体中の、ターゲット粒子とは異なる他の粒子の濃度が、導入される前の流体中の前記他の粒子の濃度と実質的に同じである請求項42に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【公表番号】特表2007−504952(P2007−504952A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533056(P2006−533056)
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/015083
【国際公開番号】WO2005/007807
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(505420231)オーラ バイオシステムズ インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】AURA BIOSYSTEMS INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/015083
【国際公開番号】WO2005/007807
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(505420231)オーラ バイオシステムズ インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】AURA BIOSYSTEMS INC.
【Fターム(参考)】
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