誘電率の測定方法及び走査型非線形誘電率顕微鏡
【課題】カンチレバーを利用した微小領域のSNDMによる誘電率の定量測定時に、カンチレバーのレバー部等が受ける浮遊容量の影響により探針のみによる静電容量の測定が困難であった。
【解決手段】探針又は測定する試料をZ方向に所定の振幅による励振を作用させつつ静電容量の測定を行い、その励振振幅で差分することで、探針及びカンチレバーのレバー部等と、各々の試料表面間距離との関係における静電容量の微分値(微分容量)を測定できる。この方法により得られた探針及びカンチレバーのレバー部等についての微分容量の差分から、探針のみによる微分容量を分離取得でき、高さ方向の任意の2点間の微分容量の差分から微分容量変化を取得できる。また、映像電荷法に基づく比誘電率と前記微分容量変化の理論カーブを採用して、誘電率既知の試料による校正カーブを取得ることで、誘電率未知の試料の任意の微小領域の誘電率を求めることができる。
【解決手段】探針又は測定する試料をZ方向に所定の振幅による励振を作用させつつ静電容量の測定を行い、その励振振幅で差分することで、探針及びカンチレバーのレバー部等と、各々の試料表面間距離との関係における静電容量の微分値(微分容量)を測定できる。この方法により得られた探針及びカンチレバーのレバー部等についての微分容量の差分から、探針のみによる微分容量を分離取得でき、高さ方向の任意の2点間の微分容量の差分から微分容量変化を取得できる。また、映像電荷法に基づく比誘電率と前記微分容量変化の理論カーブを採用して、誘電率既知の試料による校正カーブを取得ることで、誘電率未知の試料の任意の微小領域の誘電率を求めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の極微小な領域における誘電率の測定を可能とする誘電率測定装置としての走査型非線形誘電率顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)は、探針を測定対象となる試料の表面に接触させ、該針の直下の静電容量の変化を測定することにより、強誘電体や半導体の誘電率測定を行うものとして知られている。
【0003】
SNDMは、通常リング状のグランド電極及びその中心位置に配置された探針、ならびに帰還増幅器に接続された外付けのコイルとコンデンサから成るプローブ構造を採る(たとえば、特許文献1参照)。また、近年においては、物質の局所的な微小領域の誘電率測定のニーズから、先端が先鋭な微小探針を使用するものがある。その場合、目的に応じてカンチレバーの先端に先鋭な微小探針を配置した構造のプローブを利用したものが知られている(たとえば、特許文献2参照)。この場合の利点は、非線形誘電率の測定と同時に試料表面の顕微鏡観察も行えることにある。この顕微鏡観察は、原子間力顕微鏡(AFM)のコンタクトモードの利用であり、試料表面と探針先端との距離制御(Z方向の距離制御)が比較的容易かつ高精度に行え、SNDMの性能向上にも寄与することから重要な要素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−75806号公報(図1)
【特許文献2】特開2002−286617号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、カンチレバーを利用したSNDMは、探針のZ方向の距離制御性に優れるため、誘電率の定量測定装置としても有用性が高いといえる。しかしながら、プローブ部にカンチレバーを備えた構造のSNDMでは、探針及びカンチレバーも微小化されており、カンチレバーのレバー部と試料表面の距離も探針長さに応じて極近距離でるため、該レバー部と試料表面との間に作用する浮遊容量の影響が問題となった。具体的には、探針が、その先鋭化した先端に相当する試料表面の極微小な領域の静電容量を対象とするのに対して、当該探針を固定するカンチレバーのレバー部又は該レバー部の固定端ベース部は、探針先端に比してはるかに広い面積であるため、それらの面積に相当する試料表面の面積部分との作用によって、より大きな静電容量を示すことになり、本来の探針先端部のみでの静電容量がそれに埋もれてしまうものである。従って、このような状況下では、微小かつ先鋭化した探針による測定を行った場合、静電容量は、カンチレバーのレバー部あるいはそのベース部(以下、単にレバー部という)による試料の浮遊容量との平均化された値となり、正確な値を得ることができないという問題があった。
【0006】
従って、本発明は、上記の問題を解決して、微小領域の誘電率測定において、カンチレバーを有するプローブを使用した良好なZ方向の距離制御性を維持しつつ、その探針と試料表面との極微小な領域の静電容量のみを測定可能とするSNDMの誘電率の測定方法及びSNDMの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のSNDMの誘電率の測定方法は、探針と試料とを相対的に微小振幅で励振させ、その励振振幅による静電容量の差分を微分容量として計測し、前記励振状態にて探針と試料とを接近させる際の前記微分容量の距離依存性から測定試料の所定箇所における誘電率を求めるものである。よって、「微分容量」とは、探針と試料表面との微小な距離変化による静電容量の変化と定義する。
【0008】
ここで、上記の微分容量の距離依存性とは、静電容量が、探針等と試料表面の距離との関係において、その変化形態として線形又は非線形の性質の相違を示すことをいう。具体的に、本発明者等は、鋭意研究を進める中で、(i)レバー部又はベース部と試料表面間距離に対する静電容量は、ほぼ線形に変化すること、(ii)探針と試料表面間距離に対する静電容量は、その値そのものは先述のレバー部及びそのベース部(以下、単にレバー部という)の場合に比べて数百〜数千分の一程度の変化であり小さいものの、非線形性が大きい変化形態であること、の2点に関する知見を得るに至った。そして、本発明者等は、これらの知見における探針と試料表面、及びレバー部と試料表面におけるそれぞれの距離変化に対する静電容量の変化形態の相違については、距離依存性の相違であるという認識を得た。その上で、探針とレバー部の場合の2つの試料表面への接近に伴うそれぞれのアプローチ曲線の微分曲線(微分容量曲線)が、それぞれ非線形曲線及び一定値を示す線形であることを確認した。よって、探針及びレバー部との複合的な微分容量の測定値からレバー部の影響による微分容量の値を差し引くことで探針のみによる微分容量を分離できることを確認し、その値に基づいて探針のみによる静電容量を求める工程を採ることで本発明のSNDMの測定方法を確立させたものである。
【0009】
本発明においては、探針のみによる静電容量の分離について直接的に実現できる方法について検討を重ねた結果、探針と試料を相対的に励振させた状況下において試料表面に探針を接近させることで、静電容量の励振信号として微分容量を得ることができ、探針によるものが非線形曲線を示し、レバー部によるものがほぼ一定値を示すことから、その差分を採ることで探針のみの静電容量による微分曲線であることを確認するに至った。
【0010】
更に、本発明者等は、測定時のレバー部の位置が試料中央あるいは端部により浮遊容量が変化することを予想し、そのことが探針により測定した静電容量の値に影響を及ぼすのか否かについても検証を行った。その結果、カンチレバーの位置が試料のいずれの位置であっても、探針による静電容量の基準となる非線形のSNDM信号(微分容量)に差を生じないことを確認している。
【0011】
前記探針と試料との相対的な励振は、試料側のみを微振動させても、探針側のみを微振動させてもいずれでもよい。本来、探針先端と試料表面との距離は、より短いことが好ましいため、その振幅は、1〜50nm が好ましく、1〜10nm がより好ましい。50nm を超える振幅では、探針先端と試料との接近度合いが十分ではなく、データの適正に欠けることが多い。
【0012】
また、探針と試料表面の接近は、試料表面極近傍において、探針が試料表面に引き付けられる場合がある。主要な要因としては、試料表面に形成した大気中の水分による水膜の表面張力やファン・デル・ワールス力等の影響が考えられる。この場合は、SNDM信号の急増となり、測定上好ましくない。従って、試料表面と探針間の距離は、原子間力が作用し、かつ、試料表面へ探針が引き付けられない範囲で測定を行う方がよい。当該距離は、5〜30nmが好ましく、10〜20nmがより好ましい。30nm以上離れる場合は、静電容量の変化が小さく、差異が明確にならない可能性がある。
【0013】
また、被検体試料の誘電率は、その被検体試料の所定の探針−試料間距離における微分容量の差分(以下、微分容量変化という)を求め、該微分容量変化と比誘電率の関係から求める。当該関係は、使用する探針先端を球形と近似した映像電荷法に基づいて計算により求めた理論カーブを基本とする。本発明においては、更に測定精度を上げるために、誘電率既知の数種類の標準試料を用いて上記の方法により微分容量変化を求めて、上記理論カーブを実測値で校正して得た校正カーブを用いることで、被検体試料の誘電率を求めようとするものである。このような校正曲線を採用した結果、実測値との高い相関性を示し、本発明の優位性を向上できた。
【0014】
また、本発明のSNDMは、各測定点にて探針を試料表面に接近させて微分容量曲線を求めた後、該探針と試料表面との接触をカンチレバーの撓みとして感知した際、直ちに探針を引き上げて次の測定点上部に移動するよう動作する。あるいは、最初の測定点のみ接触を行い、AFM走査により他の測定点への接触を回避した。
このような測定方法を採用したことで、データの再現性を低下させる影響因子となる探針先端径の変化について、それを誘発する磨耗を極力抑制して、微分容量データの繰り返し測定における高い再現性を保持することができた。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極微小な領域の線形誘電率測定において、カンチレバーを用いたAFM原理によるSNDM構造を採る測定装置を提供する。その効果は、顕微鏡観察と共に線形誘電率の測定を実施可能とし、特に微小領域の場合であっても優れた適応性を示す。更に、試料表面との接触により探針先端が受けるダメージは、極力小さくしたことにより、探針の形状維持、それによる測定結果の高い再現性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例における装置の全体を示す図である。
【図2】本発明に係わる探針及びレバー部と試料表面間の静電容量を示す模式図である。
【図3】本発明の装置により測定した探針-試料表面間距離と浮遊容量との関係を示す図である。
【図4】本発明の装置により測定した探針-試料表面間距離と探針による浮遊容量との関係を示す図である。
【図5】本発明の装置により測定した探針-試料表面間距離とレバー部による浮遊容量との関係を示す図である。
【図6】非導電性探針の場合と、本発明の装置に係わる導電性探針の場合との比較をした図である。
【図7】本発明の装置に係わる映像電荷法に基づいて探針先端を球と擬制した場合の模式図である。
【図8】本発明に係わる映像電荷法により算定した静電容量のZ方向の距離依存性を示す図である。
【図9】本発明に係わる静電容量に基づき算定した微分容量のZ方向の距離依存性を示す図である。
【図10】本発明に係わる理論カーブ(微分容量変化と比誘電率の関係)を示す図である。
【図11】本発明に係わる校正カーブを示す図である。
【図12】本発明の実施例におけるポイントコンタクトモードのステップを示す図である。
【図13】本発明の実施例におけるポイントコンタクトモードの動作を示す概要図である。
【図14】本発明の実施例における他の測定モードのステップを示す図である。
【図15】本発明の実施例における他の測定モードの動作を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、第一の実施例として図1〜13を参照して説明する。
<SNDMの構成>
図1には、本発明に係わるSNDMの構成を示す。本発明のSNDMにおいては、レバー部2とその固定端と反対の先端部に探針3を備えたカンチレバー1を採用した。従って、AFMとしての機能を利用でき、SNDM信号(静電容量)と共に形状信号を取得することができる。このように、本願にかかわるSNDMは、顕微鏡並びに線形誘電率測定の各機能を兼ね備えた装置となる。
【0019】
顕微鏡としての形状信号は、通常のAFMのコンタクトモードで得られ、探針3の変位検出方法は通常の光てこ方式により成される。具体的には、レバー部2の撓み信号は、該カンチレバー1の探針の背面側に設けた反射面を反射した位置検出用レーザー光源23からのレーザー光の反射位置を位置センサー24で検出する。検出した撓み信号はプリアンプ25により増幅されて、Z電圧フィード・バック回路26により設定値との差異が誤差信号としてZスキャナ制御部22のZサーボ系の高圧電源に供給されてZスキャナ21に印加される。その結果、その後差分を補正するように、つまり撓み量が一定になるように制御されZ方向の形状データとなる。
【0020】
なお、前記光てこに変えて、カンチレバーにピエゾ素子を備えて、それによる自己検知式のカンチレバーを用いても良い。
【0021】
また、誘電率は、試料台5と試料4との間に備えた試料励振用素子34により、試料4をZ方向に励振させて試料表面の各測定ポイントのSNDM信号(静電容量)を実測し、後に詳述する構成カーブから算出することによって決定する。この試料の励振周波数は、測定の迅速化を図るため、高い周波数での励振が好ましいが、FM復調器31やロックインアンプ32等の測定系が追従できる範囲とし、50〜150kHzが好ましい。また、試料4の励振は、Zスキャナ21により前記試料励信用素子34を代用することが可能である。この場合、たとえば、Zスキャナの応答可能な周波数範囲が1〜2kHzであり、該Zスキャナの共振周波数が10kHz程度であれば、微小励振周波数は共振を避けるために4〜5kHzを選択すれば良い。
【0022】
ここで、前述のカンチレバー1は、導電性金属をコートしたものがSNDM検出器30に取り付けられており、探針3を試料表面に接近することに伴い、該SNDM検出器30の共振周波数が変化する。その周波数の変化は、FM復調器31で検出され、その検出信号はロックインアンプ32に送られる。また、前記励振信号発生器33から発信された微小励振信号は、参照信号としてロックインアンプ32に伝達されSNDM信号(静電容量)の周波数変化の同期検波を行うことで微分容量信号を得ることができる。
【0023】
なお、本実施例では試料を励振したが、探針と試料の相対的な励振であればよいため、探針を励振させても良い。その場合は、従来の走査型プローブ顕微鏡において知られるように、カンチレバー上に圧電素子などの励振手段を設けることにより実施することができる。
<探針とカンチレバーのレバー部による各微分容量の分離>
上記のSNDMを採用した場合の、微分容量検出による誘電率測定の際の探針3及びレバー部2と試料4の表面間の静電容量に関して模式図を図2に示す。また、その測定結果として、探針3と試料4の表面間の距離の変化に対する静電容量の変化を図3に示す。この図からは、カンチレバープローブによる静電容量の測定値CΣは、非線形性を示すことが判った。
【0024】
ここで、探針3と試料4の表面、及びレバー部2と試料4の表面におけるそれぞれのZ方向の距離変化に対するSNDM信号(静電容量)の変化形態を確認するために、本発明に係わる導電性の探針(導電材のコート)の場合と、比較のための非導電性の探針(Si製)に変えて同様の測定を行った。この場合、非導電性の探針の場合は、レバー部2のみの静電容量を測定することになる。図4には、その測定結果の概念図を示す。図4(a)及び(b)は、それぞれZ方向の距離変化に対する、(a)探針3とレバー部2による浮遊容量CS+Lの変化、(b)レバー部2による浮遊容量CLの変化 である。このように、浮遊容量CS+L が非線形に変化するのに対して、レバー部2による浮遊容量CL は、ほぼ線形に変化した。従って、静電容量の微分値によれば、レバー部2による浮遊容量は、探針3とレバー部2による浮遊容量、つまり装置全体として測定した浮遊容量から分離可能であることを示唆したため、それを確認すべくそれぞれの微分容量として測定した。ここで、微分容量の測定方法は、上記したように探針3に微小な励振を与え、その微小励振信号についてSNDM信号(静電容量)の周波数変化の同期検波を行うことにより微分容量(dC/dz)信号として得るものとした。図5には、その測定結果の概念図を示す。図5(a)及び(b)は、それぞれZ方向の距離変化に対する、(a)探針3とレバー部2による微分容量dCS+L/dzの変化、(b)レバー部2による微分容量dCL/dzの変化である。このように、上記した浮遊容量から推察したように、探針3とレバー部2による微分容量dCS+L/dzは、非線形に変化した。また、レバー部2による微分容量dCL/dzは、その試料との距離によらず一定値を示した。従って、構成全体の静電容量の測定値CΣ(=CS+L)からレバー部2による浮遊容量の影響を分離するには、構成全体の静電容量について微分容量dC/dzとして評価し、レバー部2の微分容量dCL/dzを信号のバックグラウンドとして除する処理を行うことで、探針のみによる微分容量dCS/dzを得ることができ、探針3のみによる静電容量CSまでも知ることが可能であることを明確にした。図6には、その確認として、(a)SNDMとして用いる金属コートによる導電性の探針と(b)Si製非導電性の探針 とによる測定をそれぞれ行い比較した結果を示す。非導電性探針(b)の場合は、試料間との距離の変化によっても、微分容量は、ほぼ一定の値で推移する。それに対して、導電性の探針(a)では、非線形性が強く、試料との距離が縮まるのに伴い、微分容量の急激な増加を伴うことが判る。これは、図5の結果と同様である。また、2つの微分曲線のベースラインは重なりを示し、Z方向の試料表面との距離が数百nmレベルでは、レバー部2等の浮遊容量が支配的であることを確認した。よって、微分容量を求めることで、探針と試料表面との距離が相当量以上での部分の線形性は、バックグランドとして評価し、該距離が短くなった際の微分容量の非線形性を示す部分が探針のみの静電容量測定に相当すると考えてよいことが明確になった。このように、静電容量測定を探針あるいは試料の励振に基づく微分容量測定とすることで、装置全体としての微分容量からレバー部による微分容量を除して探針のみによる静電容量を評価可能であることを確認した。この結果に伴い、探針3を試料4の表面に近づける際の微分容量変化をアプローチカーブとして得ることで、探針のみの静電容量を得る方法を確立した。
【0025】
<微分容量変化の決定>
次に、前記アプローチカーブを用いた微分容量変化(ΔdC/dz)の算出について説明する。上述のように大気中において、探針3を試料4の表面に接近させる際、極短距離の場面では探針3が試料4の表面に引き付けられるため、この状況下では微分容量を正確に知ることができない。従って、前述の要領により得た探針3と試料4の表面とのアプローチカーブにおいて、この影響を受ける範囲のSNDM信号はデータとして採用しない高さを決定する。ここでは、例えば、試料表面から高さ方向に20nmより短距離の部分は採用せず、20nmでの微分容量から、高さが100nmでの微分容量の差分を求めることにより、微分容量変化(ΔdC/dz)を決定できる。この高さ100nmでの微分容量とは、前記アプローチカーブにおいてレバー部2による微分容量分に相当するから、この値を高さ20nmでの微分容量を探針3による微分容量のバックブランドとして除するのである。
【0026】
<理論カーブの算出>
本発明における誘電率は、探針−試料の間の距離と静電容量の関係に基づいて決定する。従って、その装置固有の静電容量の距離依存性は、理論カーブとして定められる。ここで、距離依存性とは、前述のように該静電容量が、探針等と試料表面の距離との関係において、その変化形態として線形又は非線形の性質の相違を示すことをいう。そこで、本発明者等は、該静電容量を計算するために、図7に示すように探針3の先端を微小な球体3aと考え、その半径aを想定し、映像電荷法を適用した。その結果、本発明者等が最終的に採用した該静電容量の算出式は、次式となる。
【0027】
【数1】
【0028】
ここで、D=z/a、b=(1−εγ)/(1+εγ)である。 z は探針半径により規格化されたZ方向の球体3aの中心からの距離、εγ は測定する試料の比誘電率である。式(1)により静電容量Cと探針3aの中心から試料4の表面までの距離に相当する z との関係を図8に示す。ここでは、探針半径a=100nm、試料の比誘電率εγ=3,30,300として、それぞれ算出している。このグラフからは、比誘電率が大きいと静電容量の変化が大きいことが確認できる。次に、微分容量(dC/dz)の距離依存性を求めるために、試料励振用素子34による試料4の励振振幅で差分した結果を、図9に示す。この微分容量の距離依存性から各比誘電率において微分容量変化値(ΔdC/dz)を求めた。ここでは、探針半径a=100nm、励振振幅を10nmとし、探針−試料間距離z は微分容量の変化が認められる範囲として、z1=20nmおよびz2=70nmを採り([dC/dz]z1および[dC/dz]z2)、その2点間の微分容量の差分を変化として計算している(ΔdC/dz=[dC/dz]z1 −[dC/dz]z2)。この微分容量の変化と比誘電率との関係をプロットした結果を、図10に示す。この曲線が装置固有の理論カーブ50となり、このように計算により求めることができる。次に、該理論カーブ50と、誘電率既知の標準試料による誘電率の実測値とから、検量線となる校正カーブ51の作成について説明する。
【0029】
<校正カーブの作成>
上述した微分容量の測定方法により、誘電率が既知の標準試料を用いて、前記したZ方向の試料表面から所定の2点の距離(z1=20nmおよびz2=70nm)における微分容量を求め、その差分を微分容量変化として決定した。該標準試料の微分容量変化と誘電率との関係から線形誘電率の定量測定を行った。 ここで、標準試料には、アルミナAl2O3(誘電率 12[F/m])、リチュ−ム・タンタレイト LT(同 38[F/m]) 及びチタニア TiO2(100)(同 89[F/m])を用いた。図11は、この測定結果及び標準試料の誘電率から前述の方法により取得した理論カーブ50のプロットを示す。該実測値による曲線に基づいて、この理論カーブ50を補正して校正カーブ51を決定する。
【0030】
<未知試料の比誘電率の算出>
未知試料の比誘電率は、上記のように求めた校正カーブ51により、前述した方法に則して求めた微分容量変化値を当てはめることにより算出して得ることができる。
【0031】
<微分容量の測定モード>
図12及び図13は、本発明における微分容量の測定に採用した“ポイントコンタクトモード”の動作について示している。従来は、“コンタクトモード”、つまり探針先端を試料表面への押圧状態において測定点間を移動しており、測定を続けることで探針先端の半径が磨耗等により徐々に変化するため、測定の再現性に劣る不具合があった。本発明は、上述のように微分容量の測定が探針の先端半径に依存することが明らかであり、コンタクトモードによる測定は、適しているとは言えない。“ポイントコンタクトモード”は、探針を測定点毎に試料表面からZ方向に上下させ、探針と試料とは必要最小限の接触とし、測定点間の移動の際は探針を試料表面から離間させる動作を採る。具体的には、図12のフローに従い、まず測定条件の設定(S1)を行い、図13の最初の測定点となるP1に対して探針の位置合わせを行う(S2)。その後、該探針先端が図13のSから試料表面に近接および接触するのに伴い(S3)、SNDM信号(静電容量)と形状信号(Z高さ)を取得し、該探針の下降終点にて試料表面の位置検出を行う(S4)。試料表面の位置データ、Z方向の高さ及び相当する静電容量のデータにより、試料表面からの所定の高さ間(図12のz1とz2)の微分容量変化を算定する(S5)。次に、探針先端は、図13の h だけZ方向に引き上げられ、次の測定点P2へ空中を移動し、P2上部に到着後は再びP1に対するのと同様の動作を繰り返す。このように、必要な測定点に対してZ高さと該高さ(距離)に対応したSNDM信号(静電容量)を取得する。以降は、上述のように試料表面からの所定の高さにおける静電容量の測定値から微分容量変化を求め、校正カーブにより未知試料の比誘電率を決定する(S7)。
【0032】
このように、従来のコンタクトモードとは異なり、ポイントコンタクトモードによる効果は、必要に合せて探針を試料に近接させ、測定点間の移動時は、試料表面と離間させることにより、探針先端の半径を維持し、静電容量の算出に、ひいては理論カーブ50の適用性に影響を与えず、長期にわたり安定した測定の再現性を向上するものである。
【実施例2】
【0033】
次に、実施例1と同様のSNDMの構成において、実施例1でのSNDM信号(静電容量)の測定モードとは異なるモードの測定について説明する。本モードは、測定中における測定点への接触を最初の1箇所のみとする動作を採る。
【0034】
まず、図14において、測定条件を設定(S11)後、図15の最初の測定点P1に対して、探針3を位置合わせする(S12)。次に図15の測定点P1に向けて探針3を降下し(S13)、接触点から試料表面位置を検出する(S14)。その後、試料表面の所定の領域に対してAFM機能による走査を行い、試料表面の形状を記憶する(S15)。続いて、最初の測定点P1条に戻り、該試料表面位置を基準として、そこからZ方向に離間した位置z1(本実施例では20nm)の位置を決定して、全ステップで記憶した形状に合せて探針3と試料4の表面間の距離z1を維持するように走査する(S16)。その走査の際には、SNDMとして各測定点P1〜P4でのz1の静電容量のデータも取得する。次に、上述のアプローチカーブにおいて説明したように試料表面からの距離がある程度離れた位置での静電容量は、探針先端およびレバー部のいずれの場合も差異がなく、略一定値を取ることが判っている。したがって、そのような性質を維持するZ方向の高さ位置のうち任意の位置を所定のz2(本実施例では70nm)とし、最初のP1への近接時に、該高さで取得したSNDM信号(静電容量)を採用する(S17)。このようにして取得した図15に示す各点P1〜P4におけるz1でのそれぞれのSNDM信号(静電容量)から、z2でのSNDM信号(静電容量)を一律に除することで、各測定点での微分容量変化を算出し(S18)、最終的には比誘電率を算出する(S19)。
【0035】
このように、本測定モードにおいては、実施例1のポイントコンタクトモードよりも、更に探針先端が試料表面に接触する機会を減じ、かつ、測定点ごとのZ方向への探針の上下動作を不要とする。よって、探針の長寿命化による測定の再現性および測定のスループットが、向上する。
【0036】
また、本測定モードにおいて、試料面内の誘電率の絶対値ではなく、その分布が判ればよい場合には、Z方向の所定の高さ位置であるz2におけるSNDM信号(静電容量)を一定と擬制していることから、同z1でのSNDM信号(静電容量)のみを測定し、微分容量として評価し各測定点での比較を行えばよい。このようにすることで、更に簡便に試料面内の誘電率の分布が取得可能である。
【0037】
なお、前記した測定モード各ステップは、その順番にとらわれず、ステップの入れ替えを行っても本発明と同様の効果が得られれば、それは本発明の範囲に相当することはいうまでもない。
【符号の説明】
【0038】
1・・・カンチレバー
2・・・レバー部
3,3a・・・探針
4・・・試料
5・・・試料台
21・・・Zスキャナー
23・・・位置検出用レーザー光源
24・・・位置センサー
34・・・試料励振用素子
50・・・理論カーブ
51・・・校正カーブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の極微小な領域における誘電率の測定を可能とする誘電率測定装置としての走査型非線形誘電率顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)は、探針を測定対象となる試料の表面に接触させ、該針の直下の静電容量の変化を測定することにより、強誘電体や半導体の誘電率測定を行うものとして知られている。
【0003】
SNDMは、通常リング状のグランド電極及びその中心位置に配置された探針、ならびに帰還増幅器に接続された外付けのコイルとコンデンサから成るプローブ構造を採る(たとえば、特許文献1参照)。また、近年においては、物質の局所的な微小領域の誘電率測定のニーズから、先端が先鋭な微小探針を使用するものがある。その場合、目的に応じてカンチレバーの先端に先鋭な微小探針を配置した構造のプローブを利用したものが知られている(たとえば、特許文献2参照)。この場合の利点は、非線形誘電率の測定と同時に試料表面の顕微鏡観察も行えることにある。この顕微鏡観察は、原子間力顕微鏡(AFM)のコンタクトモードの利用であり、試料表面と探針先端との距離制御(Z方向の距離制御)が比較的容易かつ高精度に行え、SNDMの性能向上にも寄与することから重要な要素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−75806号公報(図1)
【特許文献2】特開2002−286617号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、カンチレバーを利用したSNDMは、探針のZ方向の距離制御性に優れるため、誘電率の定量測定装置としても有用性が高いといえる。しかしながら、プローブ部にカンチレバーを備えた構造のSNDMでは、探針及びカンチレバーも微小化されており、カンチレバーのレバー部と試料表面の距離も探針長さに応じて極近距離でるため、該レバー部と試料表面との間に作用する浮遊容量の影響が問題となった。具体的には、探針が、その先鋭化した先端に相当する試料表面の極微小な領域の静電容量を対象とするのに対して、当該探針を固定するカンチレバーのレバー部又は該レバー部の固定端ベース部は、探針先端に比してはるかに広い面積であるため、それらの面積に相当する試料表面の面積部分との作用によって、より大きな静電容量を示すことになり、本来の探針先端部のみでの静電容量がそれに埋もれてしまうものである。従って、このような状況下では、微小かつ先鋭化した探針による測定を行った場合、静電容量は、カンチレバーのレバー部あるいはそのベース部(以下、単にレバー部という)による試料の浮遊容量との平均化された値となり、正確な値を得ることができないという問題があった。
【0006】
従って、本発明は、上記の問題を解決して、微小領域の誘電率測定において、カンチレバーを有するプローブを使用した良好なZ方向の距離制御性を維持しつつ、その探針と試料表面との極微小な領域の静電容量のみを測定可能とするSNDMの誘電率の測定方法及びSNDMの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のSNDMの誘電率の測定方法は、探針と試料とを相対的に微小振幅で励振させ、その励振振幅による静電容量の差分を微分容量として計測し、前記励振状態にて探針と試料とを接近させる際の前記微分容量の距離依存性から測定試料の所定箇所における誘電率を求めるものである。よって、「微分容量」とは、探針と試料表面との微小な距離変化による静電容量の変化と定義する。
【0008】
ここで、上記の微分容量の距離依存性とは、静電容量が、探針等と試料表面の距離との関係において、その変化形態として線形又は非線形の性質の相違を示すことをいう。具体的に、本発明者等は、鋭意研究を進める中で、(i)レバー部又はベース部と試料表面間距離に対する静電容量は、ほぼ線形に変化すること、(ii)探針と試料表面間距離に対する静電容量は、その値そのものは先述のレバー部及びそのベース部(以下、単にレバー部という)の場合に比べて数百〜数千分の一程度の変化であり小さいものの、非線形性が大きい変化形態であること、の2点に関する知見を得るに至った。そして、本発明者等は、これらの知見における探針と試料表面、及びレバー部と試料表面におけるそれぞれの距離変化に対する静電容量の変化形態の相違については、距離依存性の相違であるという認識を得た。その上で、探針とレバー部の場合の2つの試料表面への接近に伴うそれぞれのアプローチ曲線の微分曲線(微分容量曲線)が、それぞれ非線形曲線及び一定値を示す線形であることを確認した。よって、探針及びレバー部との複合的な微分容量の測定値からレバー部の影響による微分容量の値を差し引くことで探針のみによる微分容量を分離できることを確認し、その値に基づいて探針のみによる静電容量を求める工程を採ることで本発明のSNDMの測定方法を確立させたものである。
【0009】
本発明においては、探針のみによる静電容量の分離について直接的に実現できる方法について検討を重ねた結果、探針と試料を相対的に励振させた状況下において試料表面に探針を接近させることで、静電容量の励振信号として微分容量を得ることができ、探針によるものが非線形曲線を示し、レバー部によるものがほぼ一定値を示すことから、その差分を採ることで探針のみの静電容量による微分曲線であることを確認するに至った。
【0010】
更に、本発明者等は、測定時のレバー部の位置が試料中央あるいは端部により浮遊容量が変化することを予想し、そのことが探針により測定した静電容量の値に影響を及ぼすのか否かについても検証を行った。その結果、カンチレバーの位置が試料のいずれの位置であっても、探針による静電容量の基準となる非線形のSNDM信号(微分容量)に差を生じないことを確認している。
【0011】
前記探針と試料との相対的な励振は、試料側のみを微振動させても、探針側のみを微振動させてもいずれでもよい。本来、探針先端と試料表面との距離は、より短いことが好ましいため、その振幅は、1〜50nm が好ましく、1〜10nm がより好ましい。50nm を超える振幅では、探針先端と試料との接近度合いが十分ではなく、データの適正に欠けることが多い。
【0012】
また、探針と試料表面の接近は、試料表面極近傍において、探針が試料表面に引き付けられる場合がある。主要な要因としては、試料表面に形成した大気中の水分による水膜の表面張力やファン・デル・ワールス力等の影響が考えられる。この場合は、SNDM信号の急増となり、測定上好ましくない。従って、試料表面と探針間の距離は、原子間力が作用し、かつ、試料表面へ探針が引き付けられない範囲で測定を行う方がよい。当該距離は、5〜30nmが好ましく、10〜20nmがより好ましい。30nm以上離れる場合は、静電容量の変化が小さく、差異が明確にならない可能性がある。
【0013】
また、被検体試料の誘電率は、その被検体試料の所定の探針−試料間距離における微分容量の差分(以下、微分容量変化という)を求め、該微分容量変化と比誘電率の関係から求める。当該関係は、使用する探針先端を球形と近似した映像電荷法に基づいて計算により求めた理論カーブを基本とする。本発明においては、更に測定精度を上げるために、誘電率既知の数種類の標準試料を用いて上記の方法により微分容量変化を求めて、上記理論カーブを実測値で校正して得た校正カーブを用いることで、被検体試料の誘電率を求めようとするものである。このような校正曲線を採用した結果、実測値との高い相関性を示し、本発明の優位性を向上できた。
【0014】
また、本発明のSNDMは、各測定点にて探針を試料表面に接近させて微分容量曲線を求めた後、該探針と試料表面との接触をカンチレバーの撓みとして感知した際、直ちに探針を引き上げて次の測定点上部に移動するよう動作する。あるいは、最初の測定点のみ接触を行い、AFM走査により他の測定点への接触を回避した。
このような測定方法を採用したことで、データの再現性を低下させる影響因子となる探針先端径の変化について、それを誘発する磨耗を極力抑制して、微分容量データの繰り返し測定における高い再現性を保持することができた。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極微小な領域の線形誘電率測定において、カンチレバーを用いたAFM原理によるSNDM構造を採る測定装置を提供する。その効果は、顕微鏡観察と共に線形誘電率の測定を実施可能とし、特に微小領域の場合であっても優れた適応性を示す。更に、試料表面との接触により探針先端が受けるダメージは、極力小さくしたことにより、探針の形状維持、それによる測定結果の高い再現性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例における装置の全体を示す図である。
【図2】本発明に係わる探針及びレバー部と試料表面間の静電容量を示す模式図である。
【図3】本発明の装置により測定した探針-試料表面間距離と浮遊容量との関係を示す図である。
【図4】本発明の装置により測定した探針-試料表面間距離と探針による浮遊容量との関係を示す図である。
【図5】本発明の装置により測定した探針-試料表面間距離とレバー部による浮遊容量との関係を示す図である。
【図6】非導電性探針の場合と、本発明の装置に係わる導電性探針の場合との比較をした図である。
【図7】本発明の装置に係わる映像電荷法に基づいて探針先端を球と擬制した場合の模式図である。
【図8】本発明に係わる映像電荷法により算定した静電容量のZ方向の距離依存性を示す図である。
【図9】本発明に係わる静電容量に基づき算定した微分容量のZ方向の距離依存性を示す図である。
【図10】本発明に係わる理論カーブ(微分容量変化と比誘電率の関係)を示す図である。
【図11】本発明に係わる校正カーブを示す図である。
【図12】本発明の実施例におけるポイントコンタクトモードのステップを示す図である。
【図13】本発明の実施例におけるポイントコンタクトモードの動作を示す概要図である。
【図14】本発明の実施例における他の測定モードのステップを示す図である。
【図15】本発明の実施例における他の測定モードの動作を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、第一の実施例として図1〜13を参照して説明する。
<SNDMの構成>
図1には、本発明に係わるSNDMの構成を示す。本発明のSNDMにおいては、レバー部2とその固定端と反対の先端部に探針3を備えたカンチレバー1を採用した。従って、AFMとしての機能を利用でき、SNDM信号(静電容量)と共に形状信号を取得することができる。このように、本願にかかわるSNDMは、顕微鏡並びに線形誘電率測定の各機能を兼ね備えた装置となる。
【0019】
顕微鏡としての形状信号は、通常のAFMのコンタクトモードで得られ、探針3の変位検出方法は通常の光てこ方式により成される。具体的には、レバー部2の撓み信号は、該カンチレバー1の探針の背面側に設けた反射面を反射した位置検出用レーザー光源23からのレーザー光の反射位置を位置センサー24で検出する。検出した撓み信号はプリアンプ25により増幅されて、Z電圧フィード・バック回路26により設定値との差異が誤差信号としてZスキャナ制御部22のZサーボ系の高圧電源に供給されてZスキャナ21に印加される。その結果、その後差分を補正するように、つまり撓み量が一定になるように制御されZ方向の形状データとなる。
【0020】
なお、前記光てこに変えて、カンチレバーにピエゾ素子を備えて、それによる自己検知式のカンチレバーを用いても良い。
【0021】
また、誘電率は、試料台5と試料4との間に備えた試料励振用素子34により、試料4をZ方向に励振させて試料表面の各測定ポイントのSNDM信号(静電容量)を実測し、後に詳述する構成カーブから算出することによって決定する。この試料の励振周波数は、測定の迅速化を図るため、高い周波数での励振が好ましいが、FM復調器31やロックインアンプ32等の測定系が追従できる範囲とし、50〜150kHzが好ましい。また、試料4の励振は、Zスキャナ21により前記試料励信用素子34を代用することが可能である。この場合、たとえば、Zスキャナの応答可能な周波数範囲が1〜2kHzであり、該Zスキャナの共振周波数が10kHz程度であれば、微小励振周波数は共振を避けるために4〜5kHzを選択すれば良い。
【0022】
ここで、前述のカンチレバー1は、導電性金属をコートしたものがSNDM検出器30に取り付けられており、探針3を試料表面に接近することに伴い、該SNDM検出器30の共振周波数が変化する。その周波数の変化は、FM復調器31で検出され、その検出信号はロックインアンプ32に送られる。また、前記励振信号発生器33から発信された微小励振信号は、参照信号としてロックインアンプ32に伝達されSNDM信号(静電容量)の周波数変化の同期検波を行うことで微分容量信号を得ることができる。
【0023】
なお、本実施例では試料を励振したが、探針と試料の相対的な励振であればよいため、探針を励振させても良い。その場合は、従来の走査型プローブ顕微鏡において知られるように、カンチレバー上に圧電素子などの励振手段を設けることにより実施することができる。
<探針とカンチレバーのレバー部による各微分容量の分離>
上記のSNDMを採用した場合の、微分容量検出による誘電率測定の際の探針3及びレバー部2と試料4の表面間の静電容量に関して模式図を図2に示す。また、その測定結果として、探針3と試料4の表面間の距離の変化に対する静電容量の変化を図3に示す。この図からは、カンチレバープローブによる静電容量の測定値CΣは、非線形性を示すことが判った。
【0024】
ここで、探針3と試料4の表面、及びレバー部2と試料4の表面におけるそれぞれのZ方向の距離変化に対するSNDM信号(静電容量)の変化形態を確認するために、本発明に係わる導電性の探針(導電材のコート)の場合と、比較のための非導電性の探針(Si製)に変えて同様の測定を行った。この場合、非導電性の探針の場合は、レバー部2のみの静電容量を測定することになる。図4には、その測定結果の概念図を示す。図4(a)及び(b)は、それぞれZ方向の距離変化に対する、(a)探針3とレバー部2による浮遊容量CS+Lの変化、(b)レバー部2による浮遊容量CLの変化 である。このように、浮遊容量CS+L が非線形に変化するのに対して、レバー部2による浮遊容量CL は、ほぼ線形に変化した。従って、静電容量の微分値によれば、レバー部2による浮遊容量は、探針3とレバー部2による浮遊容量、つまり装置全体として測定した浮遊容量から分離可能であることを示唆したため、それを確認すべくそれぞれの微分容量として測定した。ここで、微分容量の測定方法は、上記したように探針3に微小な励振を与え、その微小励振信号についてSNDM信号(静電容量)の周波数変化の同期検波を行うことにより微分容量(dC/dz)信号として得るものとした。図5には、その測定結果の概念図を示す。図5(a)及び(b)は、それぞれZ方向の距離変化に対する、(a)探針3とレバー部2による微分容量dCS+L/dzの変化、(b)レバー部2による微分容量dCL/dzの変化である。このように、上記した浮遊容量から推察したように、探針3とレバー部2による微分容量dCS+L/dzは、非線形に変化した。また、レバー部2による微分容量dCL/dzは、その試料との距離によらず一定値を示した。従って、構成全体の静電容量の測定値CΣ(=CS+L)からレバー部2による浮遊容量の影響を分離するには、構成全体の静電容量について微分容量dC/dzとして評価し、レバー部2の微分容量dCL/dzを信号のバックグラウンドとして除する処理を行うことで、探針のみによる微分容量dCS/dzを得ることができ、探針3のみによる静電容量CSまでも知ることが可能であることを明確にした。図6には、その確認として、(a)SNDMとして用いる金属コートによる導電性の探針と(b)Si製非導電性の探針 とによる測定をそれぞれ行い比較した結果を示す。非導電性探針(b)の場合は、試料間との距離の変化によっても、微分容量は、ほぼ一定の値で推移する。それに対して、導電性の探針(a)では、非線形性が強く、試料との距離が縮まるのに伴い、微分容量の急激な増加を伴うことが判る。これは、図5の結果と同様である。また、2つの微分曲線のベースラインは重なりを示し、Z方向の試料表面との距離が数百nmレベルでは、レバー部2等の浮遊容量が支配的であることを確認した。よって、微分容量を求めることで、探針と試料表面との距離が相当量以上での部分の線形性は、バックグランドとして評価し、該距離が短くなった際の微分容量の非線形性を示す部分が探針のみの静電容量測定に相当すると考えてよいことが明確になった。このように、静電容量測定を探針あるいは試料の励振に基づく微分容量測定とすることで、装置全体としての微分容量からレバー部による微分容量を除して探針のみによる静電容量を評価可能であることを確認した。この結果に伴い、探針3を試料4の表面に近づける際の微分容量変化をアプローチカーブとして得ることで、探針のみの静電容量を得る方法を確立した。
【0025】
<微分容量変化の決定>
次に、前記アプローチカーブを用いた微分容量変化(ΔdC/dz)の算出について説明する。上述のように大気中において、探針3を試料4の表面に接近させる際、極短距離の場面では探針3が試料4の表面に引き付けられるため、この状況下では微分容量を正確に知ることができない。従って、前述の要領により得た探針3と試料4の表面とのアプローチカーブにおいて、この影響を受ける範囲のSNDM信号はデータとして採用しない高さを決定する。ここでは、例えば、試料表面から高さ方向に20nmより短距離の部分は採用せず、20nmでの微分容量から、高さが100nmでの微分容量の差分を求めることにより、微分容量変化(ΔdC/dz)を決定できる。この高さ100nmでの微分容量とは、前記アプローチカーブにおいてレバー部2による微分容量分に相当するから、この値を高さ20nmでの微分容量を探針3による微分容量のバックブランドとして除するのである。
【0026】
<理論カーブの算出>
本発明における誘電率は、探針−試料の間の距離と静電容量の関係に基づいて決定する。従って、その装置固有の静電容量の距離依存性は、理論カーブとして定められる。ここで、距離依存性とは、前述のように該静電容量が、探針等と試料表面の距離との関係において、その変化形態として線形又は非線形の性質の相違を示すことをいう。そこで、本発明者等は、該静電容量を計算するために、図7に示すように探針3の先端を微小な球体3aと考え、その半径aを想定し、映像電荷法を適用した。その結果、本発明者等が最終的に採用した該静電容量の算出式は、次式となる。
【0027】
【数1】
【0028】
ここで、D=z/a、b=(1−εγ)/(1+εγ)である。 z は探針半径により規格化されたZ方向の球体3aの中心からの距離、εγ は測定する試料の比誘電率である。式(1)により静電容量Cと探針3aの中心から試料4の表面までの距離に相当する z との関係を図8に示す。ここでは、探針半径a=100nm、試料の比誘電率εγ=3,30,300として、それぞれ算出している。このグラフからは、比誘電率が大きいと静電容量の変化が大きいことが確認できる。次に、微分容量(dC/dz)の距離依存性を求めるために、試料励振用素子34による試料4の励振振幅で差分した結果を、図9に示す。この微分容量の距離依存性から各比誘電率において微分容量変化値(ΔdC/dz)を求めた。ここでは、探針半径a=100nm、励振振幅を10nmとし、探針−試料間距離z は微分容量の変化が認められる範囲として、z1=20nmおよびz2=70nmを採り([dC/dz]z1および[dC/dz]z2)、その2点間の微分容量の差分を変化として計算している(ΔdC/dz=[dC/dz]z1 −[dC/dz]z2)。この微分容量の変化と比誘電率との関係をプロットした結果を、図10に示す。この曲線が装置固有の理論カーブ50となり、このように計算により求めることができる。次に、該理論カーブ50と、誘電率既知の標準試料による誘電率の実測値とから、検量線となる校正カーブ51の作成について説明する。
【0029】
<校正カーブの作成>
上述した微分容量の測定方法により、誘電率が既知の標準試料を用いて、前記したZ方向の試料表面から所定の2点の距離(z1=20nmおよびz2=70nm)における微分容量を求め、その差分を微分容量変化として決定した。該標準試料の微分容量変化と誘電率との関係から線形誘電率の定量測定を行った。 ここで、標準試料には、アルミナAl2O3(誘電率 12[F/m])、リチュ−ム・タンタレイト LT(同 38[F/m]) 及びチタニア TiO2(100)(同 89[F/m])を用いた。図11は、この測定結果及び標準試料の誘電率から前述の方法により取得した理論カーブ50のプロットを示す。該実測値による曲線に基づいて、この理論カーブ50を補正して校正カーブ51を決定する。
【0030】
<未知試料の比誘電率の算出>
未知試料の比誘電率は、上記のように求めた校正カーブ51により、前述した方法に則して求めた微分容量変化値を当てはめることにより算出して得ることができる。
【0031】
<微分容量の測定モード>
図12及び図13は、本発明における微分容量の測定に採用した“ポイントコンタクトモード”の動作について示している。従来は、“コンタクトモード”、つまり探針先端を試料表面への押圧状態において測定点間を移動しており、測定を続けることで探針先端の半径が磨耗等により徐々に変化するため、測定の再現性に劣る不具合があった。本発明は、上述のように微分容量の測定が探針の先端半径に依存することが明らかであり、コンタクトモードによる測定は、適しているとは言えない。“ポイントコンタクトモード”は、探針を測定点毎に試料表面からZ方向に上下させ、探針と試料とは必要最小限の接触とし、測定点間の移動の際は探針を試料表面から離間させる動作を採る。具体的には、図12のフローに従い、まず測定条件の設定(S1)を行い、図13の最初の測定点となるP1に対して探針の位置合わせを行う(S2)。その後、該探針先端が図13のSから試料表面に近接および接触するのに伴い(S3)、SNDM信号(静電容量)と形状信号(Z高さ)を取得し、該探針の下降終点にて試料表面の位置検出を行う(S4)。試料表面の位置データ、Z方向の高さ及び相当する静電容量のデータにより、試料表面からの所定の高さ間(図12のz1とz2)の微分容量変化を算定する(S5)。次に、探針先端は、図13の h だけZ方向に引き上げられ、次の測定点P2へ空中を移動し、P2上部に到着後は再びP1に対するのと同様の動作を繰り返す。このように、必要な測定点に対してZ高さと該高さ(距離)に対応したSNDM信号(静電容量)を取得する。以降は、上述のように試料表面からの所定の高さにおける静電容量の測定値から微分容量変化を求め、校正カーブにより未知試料の比誘電率を決定する(S7)。
【0032】
このように、従来のコンタクトモードとは異なり、ポイントコンタクトモードによる効果は、必要に合せて探針を試料に近接させ、測定点間の移動時は、試料表面と離間させることにより、探針先端の半径を維持し、静電容量の算出に、ひいては理論カーブ50の適用性に影響を与えず、長期にわたり安定した測定の再現性を向上するものである。
【実施例2】
【0033】
次に、実施例1と同様のSNDMの構成において、実施例1でのSNDM信号(静電容量)の測定モードとは異なるモードの測定について説明する。本モードは、測定中における測定点への接触を最初の1箇所のみとする動作を採る。
【0034】
まず、図14において、測定条件を設定(S11)後、図15の最初の測定点P1に対して、探針3を位置合わせする(S12)。次に図15の測定点P1に向けて探針3を降下し(S13)、接触点から試料表面位置を検出する(S14)。その後、試料表面の所定の領域に対してAFM機能による走査を行い、試料表面の形状を記憶する(S15)。続いて、最初の測定点P1条に戻り、該試料表面位置を基準として、そこからZ方向に離間した位置z1(本実施例では20nm)の位置を決定して、全ステップで記憶した形状に合せて探針3と試料4の表面間の距離z1を維持するように走査する(S16)。その走査の際には、SNDMとして各測定点P1〜P4でのz1の静電容量のデータも取得する。次に、上述のアプローチカーブにおいて説明したように試料表面からの距離がある程度離れた位置での静電容量は、探針先端およびレバー部のいずれの場合も差異がなく、略一定値を取ることが判っている。したがって、そのような性質を維持するZ方向の高さ位置のうち任意の位置を所定のz2(本実施例では70nm)とし、最初のP1への近接時に、該高さで取得したSNDM信号(静電容量)を採用する(S17)。このようにして取得した図15に示す各点P1〜P4におけるz1でのそれぞれのSNDM信号(静電容量)から、z2でのSNDM信号(静電容量)を一律に除することで、各測定点での微分容量変化を算出し(S18)、最終的には比誘電率を算出する(S19)。
【0035】
このように、本測定モードにおいては、実施例1のポイントコンタクトモードよりも、更に探針先端が試料表面に接触する機会を減じ、かつ、測定点ごとのZ方向への探針の上下動作を不要とする。よって、探針の長寿命化による測定の再現性および測定のスループットが、向上する。
【0036】
また、本測定モードにおいて、試料面内の誘電率の絶対値ではなく、その分布が判ればよい場合には、Z方向の所定の高さ位置であるz2におけるSNDM信号(静電容量)を一定と擬制していることから、同z1でのSNDM信号(静電容量)のみを測定し、微分容量として評価し各測定点での比較を行えばよい。このようにすることで、更に簡便に試料面内の誘電率の分布が取得可能である。
【0037】
なお、前記した測定モード各ステップは、その順番にとらわれず、ステップの入れ替えを行っても本発明と同様の効果が得られれば、それは本発明の範囲に相当することはいうまでもない。
【符号の説明】
【0038】
1・・・カンチレバー
2・・・レバー部
3,3a・・・探針
4・・・試料
5・・・試料台
21・・・Zスキャナー
23・・・位置検出用レーザー光源
24・・・位置センサー
34・・・試料励振用素子
50・・・理論カーブ
51・・・校正カーブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンチレバーとその先端に配置した探針と、その探針の位置検出手段とを備え、該探針を試料表面に接近させると共に、前記探針と前記試料表面の所定の測定点との高さ方向の距離及び静電容量を計測する走査型プローブ顕微鏡による非線形誘電率の測定方法において、
前記静電容量の計測が、前記探針と前記試料とを相対的に任意の微小振幅で励振させ、その励振振幅による静電容量の差分である微分容量を計測し、前記励振状態での前記探針と前記試料との相対的な接近に際して、前記微分容量の距離依存性を求め、これ基づいて前記測定試料の所定箇所の誘電率を求めることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項2】
前記微分容量の距離依存性が、前記探針と前記試料間距離に関する微分容量の非線形性及び略線形性との関係に基づき探針のみによる微分容量を求めるものであって、その微分容量のうち所定の2点の前記探針と試料間の距離における差分を探針のみによる微分容量変化として算出し、それに基づいて前記誘電率を求めるものである請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項3】
前記探針のみによる微分容量を求める際の前記探針と試料間の距離の所定の2点が、微分容量の距離依存性が非線形性を示す範囲の任意の点及び線形性を示す範囲の任意の点であって、
前記探針のみによる微分容量が、前記非線形性を示す点の微分容量から前記線形性を示す点の微分容量を除したものである請求項2に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項4】
前記微分容量の計測が、
測定条件を設定する工程と、
前記探針を前記試料の測定点上部に位置合せを行う工程と、
該探針と前記試料表面間の高さ方向の距離及び静電容量を測定しながら前記試料表面の測定点に向けて前記探針を降下させる工程と、
前記位置検出手段により前記試料表面の位置を検出する工程と、
前記位置検出後に前記設定測定条件のうち所定の試料表面からの2点の高さでの微分容量変化を算出する工程と、
該微分容量変化に基づいて比誘電率を算出する工程と、を含み、
測定点の数に応じて前記探針の位置合せ工程から前記比誘電率の算出までの工程を繰り返すものである請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項5】
前記微分容量の計測が、
測定条件を設定する工程と、
前記探針を前記試料の測定点上部に位置合せを行う工程と、
該探針と前記試料表面間の高さ方向の距離及び微分容量を測定しながら前記試料表面の測定点に向けて前記探針を降下させる工程と、
前記位置検出手段により前記試料表面の位置を検出する工程と、
該位置検出結果に基づき前記試料表面の所定の領域をAFM走査して形状情報を取得する工程と、
前記探針の降下時に取得した高さの情報に基づいて前記微分容量の計測値が非線形性を示す高さのうち任意の高さz1を決定し、該高さを保つように前記試料表面の形状データに基づいて走査し、高さz1での前記試料の所定領域での微分容量データを取得する工程と、
前記探針の降下時に取得した高さの情報に基づいて前記微分容量の計測値が略線形性を示す高さのうち任意の高さz2を決定し、該高さz2での微分容量を検出する工程と、
前記高さz1の所定の測定点及びz2での微分容量変化を算出する工程と、
前記各測定点における比誘電率を算出する工程と、を含むものである請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項6】
前記微分容量の計測が、
測定条件を設定する工程と、
前記探針を前記試料の測定点上部に位置合せを行う工程と、
該探針と前記試料表面間の高さ方向の距離及び微分容量を測定しながら前記試料表面の測定点に向けて前記探針を降下させる工程と、
前記位置検出手段により前記試料表面の位置を検出する工程と、
該位置検出結果に基づき前記試料表面の所定の領域をAFM走査して形状情報を取得する工程と、
前記探針の降下時に取得した高さの情報に基づいて前記微分容量の計測値が非線形性を示す高さのうち任意の高さz1を決定し、該高さを保つように前記試料表面の形状データに基づいて走査し、高さz1での前記試料の所定領域での微分容量データを取得する工程と、
前記各測定点における微分容量データに基づいて比誘電率を算出する工程と、を含むものであって、前記試料の各測定点間の相対的な誘電率を分布として求める請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項7】
カンチレバーと、
該カンチレバーの先端に備えた探針と、
該カンチレバーのたわみから該探針の位置を検出する位置検出手段と、
該位置検出手段の信号から、該探針と試料との相対位置を制御する制御部と、
該探針と該試料とを相対的に励振させる励振機構と、
前記励振状態における微分容量を検出する微分容量検出手段と、
前記微分容量の検出手段が検出した信号を処理する信号処理手段と
からなることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
前記励振機構が試料を励振させる試料励振手段を含むものである請求項7に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
前記励振機構がカンチレバーを励振させるカンチレバー励振手段を含むものである請求項7に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項1】
カンチレバーとその先端に配置した探針と、その探針の位置検出手段とを備え、該探針を試料表面に接近させると共に、前記探針と前記試料表面の所定の測定点との高さ方向の距離及び静電容量を計測する走査型プローブ顕微鏡による非線形誘電率の測定方法において、
前記静電容量の計測が、前記探針と前記試料とを相対的に任意の微小振幅で励振させ、その励振振幅による静電容量の差分である微分容量を計測し、前記励振状態での前記探針と前記試料との相対的な接近に際して、前記微分容量の距離依存性を求め、これ基づいて前記測定試料の所定箇所の誘電率を求めることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項2】
前記微分容量の距離依存性が、前記探針と前記試料間距離に関する微分容量の非線形性及び略線形性との関係に基づき探針のみによる微分容量を求めるものであって、その微分容量のうち所定の2点の前記探針と試料間の距離における差分を探針のみによる微分容量変化として算出し、それに基づいて前記誘電率を求めるものである請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項3】
前記探針のみによる微分容量を求める際の前記探針と試料間の距離の所定の2点が、微分容量の距離依存性が非線形性を示す範囲の任意の点及び線形性を示す範囲の任意の点であって、
前記探針のみによる微分容量が、前記非線形性を示す点の微分容量から前記線形性を示す点の微分容量を除したものである請求項2に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項4】
前記微分容量の計測が、
測定条件を設定する工程と、
前記探針を前記試料の測定点上部に位置合せを行う工程と、
該探針と前記試料表面間の高さ方向の距離及び静電容量を測定しながら前記試料表面の測定点に向けて前記探針を降下させる工程と、
前記位置検出手段により前記試料表面の位置を検出する工程と、
前記位置検出後に前記設定測定条件のうち所定の試料表面からの2点の高さでの微分容量変化を算出する工程と、
該微分容量変化に基づいて比誘電率を算出する工程と、を含み、
測定点の数に応じて前記探針の位置合せ工程から前記比誘電率の算出までの工程を繰り返すものである請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項5】
前記微分容量の計測が、
測定条件を設定する工程と、
前記探針を前記試料の測定点上部に位置合せを行う工程と、
該探針と前記試料表面間の高さ方向の距離及び微分容量を測定しながら前記試料表面の測定点に向けて前記探針を降下させる工程と、
前記位置検出手段により前記試料表面の位置を検出する工程と、
該位置検出結果に基づき前記試料表面の所定の領域をAFM走査して形状情報を取得する工程と、
前記探針の降下時に取得した高さの情報に基づいて前記微分容量の計測値が非線形性を示す高さのうち任意の高さz1を決定し、該高さを保つように前記試料表面の形状データに基づいて走査し、高さz1での前記試料の所定領域での微分容量データを取得する工程と、
前記探針の降下時に取得した高さの情報に基づいて前記微分容量の計測値が略線形性を示す高さのうち任意の高さz2を決定し、該高さz2での微分容量を検出する工程と、
前記高さz1の所定の測定点及びz2での微分容量変化を算出する工程と、
前記各測定点における比誘電率を算出する工程と、を含むものである請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項6】
前記微分容量の計測が、
測定条件を設定する工程と、
前記探針を前記試料の測定点上部に位置合せを行う工程と、
該探針と前記試料表面間の高さ方向の距離及び微分容量を測定しながら前記試料表面の測定点に向けて前記探針を降下させる工程と、
前記位置検出手段により前記試料表面の位置を検出する工程と、
該位置検出結果に基づき前記試料表面の所定の領域をAFM走査して形状情報を取得する工程と、
前記探針の降下時に取得した高さの情報に基づいて前記微分容量の計測値が非線形性を示す高さのうち任意の高さz1を決定し、該高さを保つように前記試料表面の形状データに基づいて走査し、高さz1での前記試料の所定領域での微分容量データを取得する工程と、
前記各測定点における微分容量データに基づいて比誘電率を算出する工程と、を含むものであって、前記試料の各測定点間の相対的な誘電率を分布として求める請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡による誘電率の測定方法。
【請求項7】
カンチレバーと、
該カンチレバーの先端に備えた探針と、
該カンチレバーのたわみから該探針の位置を検出する位置検出手段と、
該位置検出手段の信号から、該探針と試料との相対位置を制御する制御部と、
該探針と該試料とを相対的に励振させる励振機構と、
前記励振状態における微分容量を検出する微分容量検出手段と、
前記微分容量の検出手段が検出した信号を処理する信号処理手段と
からなることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
前記励振機構が試料を励振させる試料励振手段を含むものである請求項7に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
前記励振機構がカンチレバーを励振させるカンチレバー励振手段を含むものである請求項7に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−53154(P2011−53154A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204010(P2009−204010)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】
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