説明

誘電率調整剤及び樹脂組成物

【課題】希望の比誘電率を達成でき、かつ樹脂の特性変化や反応性の変化の少ない誘電率調整剤及びそれを用いた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】多孔質材料の細孔内に、初めに有機物を細孔容量全体の1〜99容積%充填し、次いで有機物固定用樹脂を前記細孔容量の残存容積の30〜100容積%充填した誘電率調整剤。有機物と有機物固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔容量全体の5〜100容積%充填した誘電率調整剤。誘電率調整剤1〜700質量部を樹脂100質量部中に分散させたことを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電率調整剤及び誘電率調整剤を樹脂中に分散させた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の比誘電率の調整は、樹脂と、その樹脂と比誘電率が異なる材料(誘電率調整剤)とを混合することによって行わている。接触的混合方法としては、誘電率調整剤を樹脂に均一に溶解する方法、誘電率調整剤を樹脂に分散混合させる方法、樹脂中に空隙を設ける方法等がある。しかし、これらの方法では、必要とする樹脂の比誘電率を調整することは可能であるが、樹脂本来の強度やガラス転移温度等を維持することができず、これらの物性は樹脂と比誘電率の異なる材料との中間、あるいはそれ以下になることが知られている。また、混合する比誘電率の異なる材料の種類によっては、比誘電率の異なる材料を樹脂に均一に溶解(相溶化)する場合、樹脂の反応速度(例えば硬化速度)の低下、或いは上昇をまねき、反応制御が困難となる等の化学的特性の面で問題があり、加えて耐熱性(ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性を含む等)、誘電正接、接着性、機械的強度等の物理特性の面でも問題があった。このように、樹脂に誘電率調整剤を接触的混合させた場合には、樹脂から本来予期される特性の性能が低下し、所望の性能すべてが得られないという問題があった。
【0003】
また、多孔質材料に樹脂と比誘電率の異なる有機物を固定化し、こうして得られた多孔質材料を用いる方法も考えられる。しかし。この方法に従えば、有機物による反応性や物性への影響を抑制しながら比誘電率を低減できるメリットがあるが、多孔質材料を溶剤中に長期間保管した場合に、含浸した有機物が溶け出し、有機物の悪影響が出ることが分かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、所望の比誘電率を有する樹脂を達成することができ、かつ樹脂の特性変化や反応性の変化の少ない誘電率調整剤及びそれを用いた樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上述した課題を解決するために、多孔質材料の細孔内に有機物を充填し、細孔内に充填した有機物を樹脂で固定させ、かつ細孔内に充填した有機物を多孔質材料の細孔の外部の樹脂と接触させない又は外部に溶出させないようにすることにより、上記の目的を達成することができる誘電率調整剤及びそれを用いた樹脂組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして本発明によれば、以下の1〜11の発明が提供される。
1.多孔質材料の細孔内に、初めに有機物を細孔容量全体の1〜99容積%充填し、次いで有機物固定用樹脂を前記細孔容量の未充填容積の30〜100容積%充填したことを特徴とする誘電率調整剤。
2.有機物と有機物固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔容量全体の5〜100容積%充填したことを特徴とする誘電率調整剤。
3.有機物と有機物固定用樹脂とを混合した混合物中の有機物の割合が10〜90容積%であることを特徴とする項2に記載の誘電率調整剤。
4.多孔質材料の細孔に充填する有機物が、20℃で固体であることを特徴とする項1から3のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
5.多孔質材料の細孔容量が吸油量に換算して10〜700ml/100gであることを特徴とする項1から4のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
6.多孔質材料の平均粒径が0.1〜100μmであることを特徴とする項1から5のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
7.多孔質材料の平均細孔径が0.5〜1000nmであることを特徴とする項1から6のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
8.多孔質材料が、多孔質シリカであることを特徴とする項1から7のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
9.細孔内に充填する有機物または有機物固定用樹脂が熱硬化性を有することを特徴とする項1から8のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
10.項1から9のいずれか一に記載の誘電率調整剤1〜700質量部を樹脂100質量部中に分散させたことを特徴とする樹脂組成物。
11.熱硬化性を有することを特徴とする項10に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の誘電率調整剤及びそれを用いた樹脂組成物は、樹脂の比誘電率を所望の比誘電率に変えることができ、しかも樹脂に与える特性変化や反応性の変化の影響が小さい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において用いる多孔質材料は、細孔を有していれば任意の物でよく、特に材質を限定するものではない。多孔質材料として、例えば球状ポーラスシリカ粉末、多孔質シリカ粉末、細孔シリカゲル、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、活性炭等を挙げることができ、特に多孔質シリカ粉末が好ましい。また、多孔質材料は、その形状も特に限定するものではなく、球状、鱗片状、不定形等を挙げることができ、特に球状のものは、樹脂の流動性への阻害が小さいことから好ましい。また、多孔質材料の平均粒径は0.1〜100μm、好ましくは0.2〜20μm、更に好ましくは0.3〜10μmである。
【0009】
多孔質材料の細孔容量はJIS K 510.01あまに油法の吸油量に換算して10〜700ml/100g、好ましくは50〜500ml/100g、更に好ましくは100〜400ml/100gである。吸油量が10ml/100g以上であれば、難燃性の発現効果が良好であり、他方、700ml/100g以下であれば、多孔質材料の強度が十分である。平均細孔径は0.5〜1000nm、好ましくは3〜100nm、更に好ましくは5〜50nmである。平均細孔径が0.5nm以上であれば、有機物の充填が容易であり、他方、1000nm以下であれば、樹脂との接触面積が大きくなく、有機物の流出量が増えない。多孔質材料の材質、形状、平均細孔径、吸油量、平均粒径は同一でもよいし、2種類以上異なってもよい。
【0010】
多孔質材料の細孔内に有機物を充填し、有機物の上部に有機物固定用樹脂を充填する場合には、多孔質材料の細孔内への有機物の充填割合は、細孔容量全体の1〜99容積%で、好ましくは1〜90容積%、更に好ましくは20〜80容積%である。細孔内への有機物の充填割合が細孔容量全体の1容積%以上では、多孔質材料の細孔内外の隔離が十分である。このことは、例えば、常圧下で有機物を細孔内に充填する場合に、有機物充填後の細孔内部に空気が残存する。空気が残存する部分の周囲は有機物及び有機物固定用樹脂で囲われて外部から遮断され、細孔内部に空気を固定することが可能になる。空気の誘電率は材料中で一番低く、ほぼ1であるから、この空気分誘電率を低減することが可能になる。また、この空気量は、減圧条件で変更することができる。細孔内部に残存する空気が細孔外部に漏れ出さないように細孔内部に隔離でき、かつ多孔質材料の強度により、外部からかかる圧力にも耐えることを意味する。
【0011】
また有機物固定用樹脂の充填割合は、有機物を充填した前記細孔容量の未充填容積の30〜100容積%、好ましくは40〜95容積%、更に好ましくは50〜90容積%である。有機物固定用樹脂の充填割合が未充填容積の30容積%以上では、有機物の隔離効果が十分である。すなわち、有機物が有機物固定用樹脂によって溶剤や周りの樹脂と接触しない。
【0012】
有機物と有機物固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔内部に充填して誘電率調整剤を得る場合には、まず有機物固定用樹脂を作製し、溶解させ、その中に有機物を溶解させ、十分に混合して混合物を作製する。その後、有機物と有機物固定用樹脂との混合物を多孔質材料の細孔容量全体の5〜100容積%充填する。また、混合物中の有機物の割合は、10〜90容積%、好ましくは30〜80容積%、更に好ましくは30〜70容積%である。有機物が10容積%以上では、低誘電率化効果が発現し、他方、90容積%以下では、有機物固定用樹脂による有機物の固定効果が発現する。
【0013】
本発明において、有機物や有機物固定用樹脂を充填するには、これらの材料を液体にすることが必要である。材料を液体状態にすれば、多孔質材料の細孔径が小さいため、液体材料は毛管現象で細孔内部に充填される。従って、多孔質材料の細孔容量より液体材料の容量が小さい場合には、液体材料は、多孔質材料の細孔空間内に全て吸い込まれることになる。このため、細孔内部への液体材料の充填量は、有機物及び有機物固定用樹脂の配合量に依存し、充填量の調節は、それらの配合量を調節することによって行う。ただし、液体材料を細孔内部に完全充填するためには、材料を充填する前に減圧して細孔内部から空気を抜く必要がある。これは、細孔内部に空気があると最終的に材料を細孔内部に完全充填するのが難しくなるからである。しかし、常圧で充填を行い内部に空気を閉じ込めた場合、誘電率は完全充填よりも低くなる。常圧では、多孔質材料の細孔容量の70〜80%位の空間容積までしか充填はできない。逆に、空気量を増やしたい場合には、加圧下での充填が有効である。
【0014】
本発明で多孔質材料の細孔内に充填する有機物は、誘電率調整剤を配合する樹脂より誘電率が異なれば、任意の物でよく、樹脂への有機物の溶解を抑制するために20℃で固体である物が好ましく、また、細孔内に流入する点から、流動時の粘度が1000Pa・s以下(10000ポイズ以下)、好ましくは10Pa・s以下(100ポイズ以下)、更に好ましくは5Pa・s以下(50ポイズ以下)である物である。有機物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート等の感光性樹脂、融点、軟化点を有し加熱することで流動性を有する有機物、ワックス等の加圧することで流動性を有する有機物、溶剤等の室温で液状の有機物等を挙げることができる。しかし、本発明において用いる有機物は、特に限定するものではない。また、充填する有機物は1種類でも、又は2種類以上を用いてもよい。
【0015】
本発明で多孔質材料の細孔内に充填する有機物固定用樹脂は、誘電率調整剤を配合することができかつ溶剤に溶解しなければ任意の物でよい。しかし、有機物固定用樹脂は、樹脂への溶解を抑制するために20℃で固体である物が好ましく、また、細孔内に流入する点から、流動時の粘度が1000Pa・s以下(10000ポイズ以下)である物がより好ましく、硬化性があるとさらに好ましい。
【0016】
有機物固定用樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル等の熱可塑樹脂、モノマーあるいは半硬化状態のエポキシ樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、モノマーあるいは半硬化状態のエポキシアクリレート等の感光性樹脂等を挙げることができる。しかし、本発明において用いる有機物固定用樹脂は、特に限定するものではない。また、充填する有機物固定樹脂は1種類でも、又は2種類以上を用いてもよい。
【0017】
本発明で多孔質材料の細孔内に有機物を充填する方法は特に限定するものではない。例えば,液状の有機物と多孔質材料とを撹拌して細孔内に充填する方法、加圧下で液状の有機物と多孔質材料とを撹拌して細孔内に充填する方法、減圧してから液状の有機物に多孔質材料を投入し撹拌して細孔内に充填する方法、予め多孔質材料と有機物とを混合しておき加熱により有機物を溶解して細孔内に充填する方法、予め多孔質材料と有機物とを混合しておき減圧してから加熱により有機物を溶解して細孔内に充填する方法、予め多孔質材料と有機物とを混合しておき加圧、加熱により有機物を溶解して細孔内に充填する方法、有機物を溶剤等で溶解して多孔質材料と撹拌し細孔内に充填する方法、有機物を溶剤等で溶解して多孔質材料と撹拌し細孔内に充填した後、加熱により溶剤を除去する方法、有機物を溶剤等で溶解して多孔質材料と撹拌し、細孔内に充填した後、減圧加熱により溶剤を除去する方法等を挙げることができる。
【0018】
有機物の充填が終了した多孔質材料は、誘電率調整剤として使用する前に多孔質材料外部に残る有機物を除去するために、溶剤等で洗浄してもよい。また、有機物を充填する前に有機物の充填性を高めるために、カップリン剤等で多孔質材料の細孔表面を処理してもよい。有機物を充填した誘電率調整剤は、分散性を高めるためにカップリン剤等で表面処理してもよく、粉砕等の処理を行って粒径を小さくしてもよい。
【0019】
有機物の充填が終了した多孔質材料の未充填細孔内に、次いで有機物固定用樹脂を充填する。有機物固定用樹脂を充填する方法も本質的に有機物を充填する方法と変わりがない。有機物を含浸した多孔質材料を容器から取り出し,加熱して有機物固定用樹脂の硬化を行い,誘電率調整剤を作成する。充填した誘電率調整剤は、分散性を高めるためにカップリン剤等で表面処理してもよい。
【0020】
有機物と有機物固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔内に充填する方法は、あらかじめ有機物と有機物固定用樹脂とを混合した混合物を用いる他は,本質的に有機物、次いで有機物固定用樹脂を充填する方法と変わりがない。充填した誘電率調整剤は、分散性を高めるためにカップリン剤等で表面処理してもよく、粉砕の処理を行って粒径を小さくしてもよい。
【0021】
本発明の誘電率調整剤を樹脂中に配合する場合、樹脂100質量部に対し誘電率調整剤を1〜700質量部、好ましくは30〜600質量部、更に好ましくは50〜500質量部を用いるのが好ましい。誘電率調整剤の配合量が1質量部以上では、誘電率の調整効果が発現し、700質量部以下では、樹脂組成物の取扱いが容易である。また、誘電率調整剤の分散性を向上するために、ニーダー、ボールミル、ビーズミル、3本ロール、ナノマイザー等既知の混練方法を用いて分散させてもよく、誘電率調整剤を樹脂組成物の状態で粉砕し、粒径を小さくして分散させてもよい。
【0022】
本発明で誘電率調整剤を分散させる樹脂は任意の物でよい。このような樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート等の感光性樹脂等を挙げることができる。しかし、本発明において用いる樹脂は、特に限定するものではない。また、分散させる誘電率調整剤は1種類でも、又は2種類以上を用いてもよい。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例及び比較例では、有機物と有機物固定用樹脂とを細孔中に充填した後での容積%の確認方法は、TG−DTAを用いた。すなわち、有機物と有機物固定用樹脂とを1000℃まで昇温して燃焼して、分解残渣を多孔質材料の質量、分解成分を有機物等として、比重から計算した。また、2段階充填では、途中段階と最終段階との2回燃焼して、分解残渣測定をして確認した。
誘電率は、RFインピーダンス/マテリアルアナライザ(アジレントテクノロジー社製、HP 4291B)を用いて1GHzでの誘電率を測定した。
【0024】
(実施例1)
(1)有機物固定用樹脂を製造するのに、液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製エピコート815)、液状フェノール(明和化成製、MEH−8000H)、硬化促進剤としてのイミダゾール(四国化成工業株式会社製2E4MZ)を用いた。液状エポキシ樹脂(エピコート815)50質量部、液状フェノール(MEH−8000H)37.9質量部、イミダゾール(2E4MZ)0.5質量部をビーカーに取り、25℃で1時間撹拌混合した。
(2)多孔質材料として、多孔質シリカ(吸油量150ml/100g、平均粒径1.1μm、鈴木油脂工業株式会社製ゴッドボールE−2C(商品名)))を、充填する有機物として縮合リン酸エステル(融点95℃、大八化学工業株式会社製PX−200(商品名))を用いた。多孔質シリカ(E−2C)200質量部、縮合リン酸エステル(PX−200)207質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg以下まで下がった事を確認後、内部温度が120℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま1時間加熱撹拌して縮合リン酸エステルを多孔質シリカの細孔内に、細孔容量に対して60容積%充填した。
(3)充填後、4つ口セパラブルフラスコを50℃まで冷却し、(1)で用意した有機物固定用樹脂72質量部を4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg以下まで下がった事を確認した後に、内部温度が120℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま1時間加熱撹拌して有機物固定用樹脂を多孔質シリカの細孔内に前記細孔容量の未充填容積の50容積%充填した。
(4)充填後、4つ口セパラブルフラスコを50℃まで冷却し、有機物を含浸した多孔質シリカを取り出し、180℃で2時間加熱して有機物固定用樹脂の硬化を行い、誘電率調整剤を作製した。
(5)メタノール10質量部、ジフェニルジメトキシシラン40質量部、ジメチルジメトキシシラン20質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら蒸留水6質量部、酢酸0.5質量部を溶液に添加し、50℃で4時間加熱して加水分解、重縮合反応を行った。一旦、0℃に冷却した後に、トリメトキシメチルシラン8質量部を滴下して室温で2時間撹拌してシリコーン重合体を得た。
(6)(4)で作製した誘電率調整剤100質量部、メチルエチルケトン100質量部、(5)で作製したシリコーン重合体0.6質量部をビーカーに取り、1時間撹拌混合した。その後、下記の材料を加えて2時間撹拌し、評価用ワニスを作製した。このワニスを2日間室温で保管した後に18μmの銅箔上に塗工し、100℃−15分間乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
・誘電率調整剤溶液:120質量部
・ビフェニル系エポキシ樹脂:NC3000−H(日本化薬株式会社社製、商品名):78質量部
・熱硬化剤:ジシアンジアミド(日本カーバイド株式会社製、商品名):3.1質量部
・熱硬化剤ノボラックフェノール樹脂:HP−850(日立化成工業株式会社製、商品名):14.1質量部
・イミダゾール:2−フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2PZ):0.6質量部
・溶剤:メチルエチルケトン:100質量部
(7)次に、180℃―120分の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。その後、銅箔をエッチングで除去し、評価用フィルムを作製した。
【0025】
(実施例2)
誘電率調整剤の配合量を150質量部、メチルエチルケトン150質量部、シリコーン重合体1.0質量部、誘電率調整剤溶液240質量部とした以外は、実施例1と同様にして行った。
【0026】
(実施例3)
多孔質シリカを富士シリシア化学株式会社製多孔質シリカ(吸油量330ml/100g、平均粒径2.6μm、SYLYSIA310P(商品名))とし、配合量を100質量部とした。また縮合リン酸エステルの配合量は230質量部(細孔容量の60体積%充填)、有機物固定用樹脂は80質量部(細孔容量の残存体積の51%充填)、誘電率調整剤溶液は100質量部とし、シリコーン重合体1.0質量部とした以外は、実施例1と同様にして行った。
【0027】
(実施例4)
(1)実施例1で用いた液状エポキシ樹脂(エピコート815)41質量部、液状フェノール(MEH−8000H)31質量部、縮合リン酸エステル(PX−200)207質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、120℃で1時間撹拌して溶解し、混合した。その後50℃まで冷却し、イミダゾール(2E4MZ)0.4質量部を配合して30分間撹拌混合して有機物と有機物固定用樹脂を混合した。
(2)実施例1で用いた多孔質シリカ(E−2C)200質量部を加え、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg以下まで下がった事を確認した後に、内部温度が120℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま1時間加熱撹拌して有機物と有機物固定用樹脂を混合した樹脂を多孔質シリカの細孔内に、細孔容量に対して83体積%充填した。
(3)充填後、4つ口セパラブルフラスコを50℃まで冷却し、有機物を含浸した多孔質シリカを取り出し、180℃で2時間加熱して有機物固定用樹脂の硬化を行い、誘電率調整剤を作製した。
(4)メタノール10質量部、ジフェニルジメトキシシラン40質量部、ジメチルジメトキシシラン20質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら蒸留水6質量部、酢酸0.5質量部を溶液に添加し、50℃で4時間加熱して加水分解し、重縮合反応を行った。一旦、0℃に冷却した後に、トリメトキシメチルシラン8質量部を滴下して室温で2時間撹拌してシリコーン重合体を得た。
(5)(3)で作製した誘電率調整剤50質量部、メチルエチルケトン50質量部、(4)で作製したシリコーン重合体0.3質量部をビーカーに取り、1時間撹拌混合した。その後、下記の材料を加えて2時間撹拌し、評価用ワニスを作製した。このワニスを2日間室温で保管した後に18μmの銅箔上に塗工し、100℃−15分間乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
・誘電率調整剤溶液:120質量部
・ビフェニル系エポキシ樹脂:NC3000−H(日本化薬株式会社社製、商品名):78質量部
・熱硬化剤:ジシアンジアミド(日本カーバイド株式会社製、商品名):3.1質量部
・熱硬化剤:ノボラックフェノール樹脂、HP−850(日立化成工業株式会社製、商品名):14.1質量部
・イミダゾール:2−フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2PZ):0.6質量部
・溶剤:メチルエチルケトン:100質量部
(6)次に、180℃―120分間の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。その後、銅箔をエッチングで除去し、評価用フィルムを作製した。
【0028】
(比較例1)
(1)実施例1の誘電率調整剤と同質量と計算される無孔質シリカ、リン酸エステル、液状エポキシ樹脂、液状フェノール、硬化促進剤を下記の組成で配合し、評価用ワニスを作製した。このワニスを2日間室温で保管した後に18μmの銅箔上に塗工し、100℃−10分間乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
・縮合リン酸エステル:PX−200(大八化学工業株式会社製、商品名):26質量部
・無孔質シリカ:SO−25R、平均粒径0.5μm(株式会社アドマテックス製、商品名):25質量部
・液状エポキシ樹脂:エピコート815(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名):5.2質量部
・液状フェノール:MEH−8000H(明和化成株式会社製、商品名):3.8質量部
・イミダゾール:2E4MZ(四国化成工業株式会社、商品名):0.5質量部
・ビフェニル系エポキシ樹脂:NC3000−H(日本化薬株式会社社製、商品名):78質量部
・熱硬化剤:ジシアンジアミド(日本カーバイド株式会社製、商品名):3.1質量部
・熱硬化剤ノボラックフェノール樹脂:HP−850(日立化成工業株式会社製、商品名):14.1質量部
・イミダゾール:2−フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2PZ):0.6質量部
・溶剤:メチルエチルケトン:100質量部
(2)次に、180℃―120分の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。その後、銅箔をエッチングで除去し、評価用フィルムを作製した。
【0029】
(比較例2)
比較例1において、縮合リン酸エステルを除き、その他は比較例1と同様にして行った。
【0030】
(比較例3)
(1)多孔質材料として多孔質シリカ(吸油量150ml/100g、平均粒径1.1μm、鈴木油脂工業株式会社製ゴッドボールE−2C(商品名))、充填する有機物として縮合リン酸エステル(融点95℃、大八化学工業株式会社製PX−200(商品名))を用いた。多孔質シリカ(E−2C)200質量部、縮合リン酸エステル(PX−200)207質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg以下まで下がった事を確認した後に、内部温度が120℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま1時間加熱撹拌して縮合リン酸エステルを多孔質シリカ内の細孔内に、細孔容量に対して60体積%充填した。
(2)充填後、4つ口セパラブルフラスコを50℃まで冷却し、有機物を含浸した多孔質シリカを取り出し、180℃で2時間加熱して誘電率調整剤を作製した。
(3)メタノール10質量部、ジフェニルジメトキシシラン40質量部、ジメチルジメトキシシラン20質量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら蒸留水6質量部、酢酸0.5質量部を溶液に添加し、50
℃で4時間加熱して加水分解し、重縮合反応を行った。一旦、0℃に冷却後、トリメトキシメチルシラン8質量部を滴下して室温で2時間撹拌してシリコーン重合体を得た。
(4)(2)で作製した誘電率調整剤75質量部、メチルエチルケトン75質量部、(3)で作製したシリコーン重合体0.6質量部をビーカーに取り、1時間撹拌混合した。その後、下記の材料を加えて2時間撹拌し、評価用ワニスを作製した。このワニスを2日間室温で保管した後に18μmの銅箔上に塗工し、100℃−15分間乾燥して膜厚100±3μmの樹脂フィルムを作製した。
・誘電率調整剤溶液:102質量部
・ビフェニル系エポキシ樹脂:NC3000−H(日本化薬株式会社社製、商品名):78質量部
・熱硬化剤:ジシアンジアミド(日本カーバイド株式会社製、商品名):3.1質量部
・熱硬化剤:ノボラックフェノール樹脂:HP−850(日立化成工業株式会社製、商品名):14.1質量部
・イミダゾール:2−フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2PZ):0.6質量部
・溶剤:メチルエチルケトン:100質量部
(5)次に、180℃―120分間の硬化条件で樹脂フィルムを硬化した。その後、銅箔をエッチングで除去し、評価用フィルムを作製した。
【0031】
作製した評価用フィルムを、RFインピーダンス/マテリアルアナライザ(アジレントテクノロジー社製、HP 4291B)を用いて1GHzでの誘電率を測定した。また、評価用フィルムから試験片を切出して熱機械分析装置(マックサイエンス株式会社製TMA−4000)を用いて昇温;5℃/minの条件でガラス転移温度(Tg)を測定した。結果を表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1より、実施例1〜4では、誘電率が変化しても、ガラス転移温度(Tg)に大きな変化が見られないのに対し、比較例1〜3では、誘電率の変化に伴って、ガラス転移温度(Tg)が大きく変化していることが分かる。
【0034】
これより、本発明の誘電率調整剤を樹脂に配合することにより、樹脂組成物の物性への影響や樹脂組成物の反応性を抑えながら誘電率を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の誘電率調整剤及び樹脂樹脂組成物は、電子部品に用いる樹脂の比誘電率を所望の比誘電率に変えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料の細孔内に、初めに有機物を細孔容量全体の1〜99容積%充填し、次いで有機物固定用樹脂を前記細孔容量の未充填容積の30〜100容積%充填することを特徴とする誘電率調整剤。
【請求項2】
有機物と有機物固定用樹脂とを混合した混合物を多孔質材料の細孔容量全体の5〜100容積%充填することを特徴とする誘電率調整剤。
【請求項3】
有機物と有機物固定用樹脂とを混合した混合物中の有機物の割合が10〜90容積%であることを特徴とする請求項2に記載の誘電率調整剤。
【請求項4】
多孔質材料の細孔に充填する有機物が、20℃で固体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
【請求項5】
多孔質材料の細孔容量が吸油量に換算して10〜700ml/100gであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
【請求項6】
多孔質材料の平均粒径が0.1〜100μmであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
【請求項7】
多孔質材料の平均細孔径が0.5〜1000nmであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
【請求項8】
多孔質材料が、多孔質シリカであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
【請求項9】
細孔内に充填する有機物または有機物固定用樹脂が熱硬化性を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか一に記載の誘電率調整剤。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一に記載の誘電率調整剤1〜700質量部を樹脂100質量部中に分散させたことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項11】
熱硬化性を有することを特徴とする請求項10に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−151118(P2012−151118A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−50126(P2012−50126)
【出願日】平成24年3月7日(2012.3.7)
【分割の表示】特願2005−341666(P2005−341666)の分割
【原出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】