説明

調光光学素子を製造するための方法、および調光光学素子

本発明は、調光光学素子を調製するためのプロセスおよび対応する調光光学素子に関する。所定の光学体から開始して、本発明によるプロセスは、前記光学体の一部の上に少なくとも透明樹脂を含む第1の層を堆積させる工程と、先に堆積された前記第1の層の上に、調光色素を含む第2の層を堆積させる工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光光学体、光学体を製造するための革新的方法、およびこの方法によって製造された光学体に関する。さらに、本発明は、前記調光光学素子が適用される製品に関する。このような製品の例は、調光有機眼科用レンズ、調光太陽フィルター、ヘルメット用バイザーおよび調光マスクである。概して、本発明は、特定の光源に曝露されると、活性化され、暗くなる、光照射に感受性がある光学素子を提供する任意の種類の適用に関する。
【背景技術】
【0002】
最新の技術において、調光(フォトクロミック)レンズは、太陽光の存在下で暗くなり、太陽光に曝露されなくなると、それらの透過率を可逆的に再獲得する(つまり薄くなるか、または透明になる)それらの能力によって識別されていることが知られている。従って、これらのレンズは周囲の明度条件に適合する利点を有し、例えば、このようなレンズを使用する人が強烈な太陽光の存在下で目がくらむような過剰な光を回避する。この効果は、光学体またはレンズに含まれる調光色素の存在によって提供される。電磁放射線(光)によって提供されるエネルギーによる活性化は、調光色素、または色素の有機分子の立体配座を可逆的に変化させ、その後、多かれ少なかれ色の明度を変化させる。使用される色素または色素の混合物に応じて、特定の色になり、レンズが暗くなる。
【0003】
現在、市場に出回っているこの種類の光学体、レンズおよび他の吸収可能な製品を製造するための公知のプロセスは、以下の種類のうちの1つに入る。
【0004】
第1の種類のプロセスによれば、太陽光に曝露されると、多かれ少なかれ強く色をつけることができ、可逆的である有機色素は、光学体の全体の部分内、例えば重合する前の有機眼科用レンズを構成する材料内で分散される。レンズの部分の内部に分散される調光色素を用いるプロセスは、数年前まで、たった1つのみが知られており、使用されていた。
【0005】
第2の種類によれば、有機色素は、既に仕上げられた有機調光レンズの外側面のみに直接配置され、太陽光に曝露されると活性化されるフィルムを生成し、太陽光が存在しないと可逆的に薄くなる。第2の種類による方法は、レンズを構成する対象物の上に調光色素を含有するラッカー層の適用を提供する。その対象物が加温されると、対象物自体のマトリクス内へ調光色素の熱転写が生じる。次いでラッカー層が除去される。この方法は様々な不都合を有する。例えばその適用は、低いまたは中間の屈折率を有するレンズに制限され、調光色素によって提供される制限された数の着色にのみ適用可能であり、長い反応時間、すなわち暗くなるまたは透明になる時間を有する。調光層がモールドの内部に配置される、モールドの使用を提供する第2の種類によるさらなる方法は、例えばモールドの内部に調光色素を噴霧することによる。当該技術分野における公知の技術によれば、レンズは、そのレンズに分散される調光分子を含有する樹脂からなる薄層に隣接して、鋳造機内部で重合される。この薄い調光層は、レンズを構成する物質をモールド内に挿入する前に、凸面ガラスモールドの内面に適用される。部分的または完全に重合された調光層が適用されると、次いでプレポリマーが、その中に溶解された触媒と共に流体状態で成形される。次いで調光層は、レンズ本体の重合に必要な硬化処理(一般に熱)を受ける。つまり、レンズは調光層上で構成され、両方が一緒に硬化される。
【0006】
当該技術分野において公知の別の技術は、スピンコーティングからなる、レンズ上に直接、調光層を堆積することである。知られているように、スピンコーティングの技術は、制御された角速度で回転するディスク上に配置されるレンズの中心に流体ゾルを堆積させることからなり、その回転の角速度により、フィルムが、可能な限り厚さが均一なように、レンズの中心から周辺に堆積される。
【0007】
従って、上記の種類によれば、調光特性は、樹脂の最終細網化がモールド内部で起こる前に、プレポリマーの部分内に有機色素を分散させることによって、または様々な種類のプロセスに使用する、様々な色の調光色素の薄層を有する有機調光レンズの外面を覆うことによって提供される。しかしながら、これらの両方のプロセスは、以下に示すように様々な不都合および欠点を有する。
【0008】
第1の種類のプロセスによるレンズの全体部分に調光色素を分散する場合、その部分内に分散される有機色素の所与の濃度に関して、眼科用レンズの調光着色の明度は、色素の厚さに依存する。より厚い厚さは着色のより強い明度に対応する。従って、眼科用レンズにおいて、厚さは表面上の1点から別の方に変化するので、レンズの中心から周辺に移動して色の変わりやすい陰が目に見える。このように、凸面の眼科用レンズは周辺においてより明るく見え、中心においてより暗く見えるのに対し、凹面の眼科用レンズの場合、その反対に見える。異なるグラデーションを有するレンズ、または一部の場合、両眼で非常に異なるので、異なる厚さの2つのレンズを必要とする調光眼科用レンズを装着する人にとって、異なる明度の着色が存在し、両眼の間で矯正するグラデーションの相違がより大きくなり、知覚できるほどになる。製造プロセスの有用性および便宜性のために、レンズの部分内への有機色素の分散により製造される調光眼科用レンズは単一の屈折率を有し、異なる屈折率を有することができず、この単純化が示す厚さに起因するあらゆる不都合を有する。上記の不都合はまた、変化する厚さを有する他の種類の光学体でも生じる。さらなる不都合はまた、レンズまたは光学体を形成する物質内部の不均一の濃度の色素の存在下で存在し、不均一の調光作用を生じる。さらに、レンズまたは光学体の部分内への有機色素の分散によって製造されるレンズまたは光学体は、多くの場合、様々な種類の欠点が存在する。少しの欠点でさえも、品質管理に欠点があると見られるレンズは、あらゆる手段によっても利用することはできず、廃棄することになる。例えば、調光色素の分配が均一でないレンズを利用することは不可能である。
【0009】
上記の第2の種類のプロセスに係る、外面上に直接堆積することによって得られる調光眼科用プロセスでさえも、他の種類の欠点または不都合から免れることはできない。
【0010】
例えば、モールドの使用からなる第2の種類による技術は、それ自体、実際には複雑であり、コストがかかることが示され、その結果として、再生産することが困難であり、再現性が不十分となり、高い割合で製品の不良品が生じる。さらに、レンズを構成する材料を硬化するためのプロセスは、先に配置されている調光層に間接的に適用される。従って、調光特性は傷つく危険性にさらされる。眼科用レンズの外面上に活性な調光層を堆積させるためのスピンコーティングの技術を使用するプロセスは、表面の凹凸を生じる場合があり、それらの凹凸はあらゆる場合に有益とはならず、矯正眼科用レンズの場合、確実に回避されるべきである。
【0011】
いずれの場合にも、当該技術分野において公知の技術によって製造されるレンズは、太陽光の変化に適合する低い速度を有する。実際に、それらは、暗くなるのに長い時間を必要とし、太陽光の明度が減少した場合でも、透明になるのにさらに長い時間を必要とする。このことは、これらのレンズの使用において著しい不都合を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、その目的として、調光光学素子を製造するためのプロセス、およびこのプロセスによって製造された調光光学素子を提供し、その調光光学素子は当該技術分野における公知のレンズと比べて改良されている。いくつかある利点の中で特に、本発明によるプロセスは、実施するのが容易であり、高効率、低い廃棄率(高生産)を有し、現在公知のレンズと比べて太陽光の変化に対して短い反応時間を有する調光光学体を生産する。特に、本発明によるレンズは、公知のレンズのものより短い暗くなる時間(darkening time)を有する。さらに、透明になる時間(clearing time)は、当該技術分野において公知のレンズのものよりさらに速い。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、特許請求の範囲に記載された溶液により達成される。本発明の説明は、特許請求の範囲により規定される本発明の原理を明確にするのに適した実施形態および実施例を含む。本発明の第1の態様によれば、所定の光学体から開始する調光光学素子を調製するためのプロセスが提供される。この光学体は、規定の透明性が与えられ、特定の屈折率などの規定の光学特性を有する構成部分である。光学体は、好ましくは、当業者に公知の技術によって既に仕上げられ、製造されている。調光光学素子は、前記光学体を含む調光特性を有する構造である。本発明のこの態様によるプロセスは、前記光学体の上に、透明樹脂を含む第1の層を堆積させる工程を提供する。この第1の層は調光特性を有さず、後で堆積される層から光学体を隔離する機能を有する。従って、このプロセスは、先に堆積された第1の層の上に、調光色素(または粒子、本明細書以下では色素と言及する)を含む第2の層を堆積させる工程を含む、さらなる工程を提供する。すなわち、第1の層は、光学体と、調光色素を含む第2の層との間にある。従って、第1の層は、光学体に結合したままの状態になり、かつ結合される第2の調光層を維持するような把持特性を有する分離層である。この第1の層は、調光層と可溶化しないように選択される。従って、当業者は、第2の調光層に応じて第1の層を選択できる。すなわち、第2の調光層の組成が選択されると、当業者は、第2の層と可溶化せず、上述の把持特性を有するように第1の層の組成を選択する。他方で、第1の層の組成が最初に選択される場合、第2の層は第1の層と可溶化しないように選択される。順序は、第1の層が仕上げられた光学体の上に堆積され、次いで第2の層が第1の層の上に堆積されるような順序である。一例において、この堆積は、第1の層が、光学体の材料から調光色素を含む第2の層を隔離するように実施される。従って、第2の層は調光色素を含むものであるので、調光光学素子の調光特性に関与する。第1の層の機能は第2の層から光学体を隔離することであり、それにより、基礎となる光学体に対する後の調光層の強力な接着を可能にする。
【0014】
光学体の上に堆積され、第2の層と光学体との間にある第1の層の存在により、第2の層に含まれる調光色素が、最大の効率でそれらの調光特性を利用する目的に必要な立体位置をとることを可能にする。これにより、公知のレンズのものよりかなり優れた太陽光の変化に適合する能力を生じる。得られた調光素子は、比較試験により容易に実証されるように、公知のレンズより急速に暗くなり、公知のレンズよりさらに急速に透明になる。
【0015】
このプロセスはさらに、公知の方法と比べて、容易に再現可能であり、効率的であり、極度に低い廃棄物の要因を生じる。
【0016】
本発明の第2の態様は、上記のプロセスまたはそのプロセスの工程のうちの1つによって得られた調光光学素子を提供する。
【0017】
本発明の第3の態様は、所定の光学体と、光学体の上に配置される透明樹脂を含む第1の層と、調光色素を含む第2の層と、を含む調光光学素子を提供する。第2の層は第1の層の上に配置され、一例において、第1の層は、光学体の材料から調光色素を含む第2の層を隔離する。
【0018】
本発明のさらなる利点および実施形態は、従属の請求項および以下に記載される実施例および実施形態によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の実施形態によるディップコーティング法の一部の工程を示す。
【図2】図2は本発明の実施形態による調光光学体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施形態は、所定の光学体から開始する調光光学素子を調製するためのプロセスを特定する。所定の光学体は、規定の透過性が与えられ、特定の屈折率などの規定の光学特性を有する構成部分である。すなわち、光学体は、使用者がこの光学体を通して見ることができるように光を通過させる。このプロセスが適用される光学体は、当業者に公知の技術によって製造された仕上げられた光学体である。例えば光学体は、光学素子を構成する材料が処理されるモールドの内部で製造できる(すなわち、光学体を構成する材料の硬化がモールドの内部で実施され得る)。透過性および屈折率の特定の性質を有する仕上げられた光学体を得る他の技術が採用されてもよい。一部の例によれば、光学体は、凹面または凸面レンズ、薄い凹面または凸面透過層、バイザー、透明シート、眼科用レンズなどとして表され得る。本発明は、特定の屈折率を有する光学体を含む任意の製品に適用可能である。光学体を製造するのに有用な材料はモノマーからなり得る。本発明の別の実施形態を表す上述の調光光学素子は、本発明のプロセスにより作製され、調光特性、すなわち太陽光の種々の明度の存在下で透過率および/または着色を可逆的に変化させる能力が与えられる所定の光学体として表される。可逆性は、透過率および/または着色が太陽光に曝露されることにより引き起こされる前の状態に戻るという事実に関連する。
【0021】
第1の実施形態によるプロセスは、前記光学体上に透明樹脂を含む第1の層を堆積させることを含む工程を特定する。この第1の層は調光特性を有さず、後で堆積される層から光学体を隔離する機能を有する。
【0022】
従って、第1の層は、光学体または光学体のマトリクスに結合された状態であり、結合される第2の調光層を維持するような把持特性を有する分離層である。この第1の層は調光層と可溶性でないように選択される。下層の光学体の光学特性を損なわないように特定のレベルの透過率を維持する種々のタイプの樹脂が使用されてもよい。当業者は、所望の透過率の等級に従って、および前記樹脂が結合に適さなければならない光学体の材料に従って、上記のような適切な樹脂を選択することができる。
【0023】
従って、この実施形態によるプロセスは、以前に堆積された第1の層の上に、調光色素を含む第2の層を堆積させることを含む、さらなる工程を特定する。すなわち、第1の層は、光学体と、調光色素を含む第2の層との間に入る。順序は、第1の層が仕上げられた光学体の上に堆積され、続いて第2の層が第1の層の上に堆積される順序である。一例において、この堆積は、第1の層が、光学体の材料から調光色素を含む第2の層を隔離するように実施される。従って、第2の層は調光色素を含むものであるので、調光光学素子の調光特性に関与する。第1の層の機能は第2の層から光学体を隔離することである。従って、当業者は、状況により、第2の層が光学体または光学体の表面と接触しないことを十分に確保しているかを計測する。既に述べたように、第1の層は、光学体から調光層を隔離できる。従って、調光色素は、光学体の表面構造に影響を受けずにそれらの適切な調光機能を有効にするための最適形態を自由にとることができる。実際に、調光色素は、最大の効率でそれらの調光特性を有効にするのに必要な立体位置をとることができる。実際に、第1の層を用いなければ、調光色素は光学体のマトリクスにより立体的に制限され、本発明と同じ速度および可逆性で太陽光の明度に変化するように反応しない。これが、光学体が曝露される光の変化により暗くなったり透明になったりするのが非常に急速である理由である。さらに、調光層は既に仕上げられた光学体の上に配置されているので、調光色素は光学体を形成するのに必要な処理を受けなくてもよい。従って、調光特性は、光学体を製造するのに必要なプロセスによって損傷を受けない。
【0024】
第1の実施形態のプロセスの第1の非限定的な例によれば、第1の層の堆積は、透明樹脂を含む第1の基剤を有する第1の溶液を堆積させることを含んでもよく、加えて、第2の層の堆積は、調光色素を含む第2の基剤を有する第2の溶液を堆積させることを含んでもよく、ここで、第2の基剤は第1の基剤と異なる。この例によれば、液体溶液の堆積を用いる第1および第2の層の適用からなる、いわゆる「ウェットコーティング」法が使用されてもよい。「ウェットコーティング」は、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティングなどの種々の技術を使用してなされてもよく、それらによって、液体溶液が光学体として表されている基板上に堆積される。液体溶液において、堆積することが望まれる層に応じて、規定の化合物および物質が含まれる。この例に従う本発明は、使用される溶液が2つの異なる基剤によって特徴付けられる限り、任意の「ウェットコーティング」技術によって実施され得る。
【0025】
本発明において、「規定の基剤を有する溶液」とは、規定の物質または化合物を含む溶液を意味し、規定の物質または化合物は、同じ溶液に存在し得る他の物質または他の化合物と比べて主要な量で存在する。「主要な量」とは、前記規定の物質または化合物が、溶液に存在する他の物質または化合物より多い量(例えば%において)で存在することを意味する。例えば、以下に記載するように、水性溶液は、その溶液が同じ溶液に存在する他の物質または化合物と比べて高い割合の水を含むことを示す。その割合は重量パーセントとして表され得る。従って、この例によれば、2層を形成するように連続して堆積される溶液は、2つの異なる主要な物質または化合物を含むことによって相違する。堆積させる工程は連続して行われるが、溶剤の蒸発による層のゲル化を可能にするように、第1の層の堆積の第1の工程と第2の層の堆積の第2の工程との間に時間を経過させることが望ましい。第2の工程は、例えば加熱チャンバなどの適切な加熱手段により、速められ、完了されてもよい。第1の実施形態の第1の例による溶液の利点は、第2の層の堆積の工程の間に、第1の層の組成が乱されず、損傷を受けないという事実からなる。実際に、第1の層は第2の溶液と異なる基剤を有する溶液を使用して堆積されるので、第1の層は第2の層の溶液に移動せず(これはウェットのままで堆積される場合、すなわちまだ乾燥していない状態)、この第2の層で可溶化しない(または少なくとも最低限で可溶化するかもしくは実際にはごくわずかな量で可溶化する)。従って、第2の調光層は、第1の層を損傷させずに(または最低限のみ乱して)連続して堆積され、これにより、調光分子が光学体から均一に分離でき、(本発明の他の部分でも説明されているように)可能な限り高い反応速度および高い可逆速度でそれらの調光機能を満たすことができる。
【0026】
第1の実施形態のプロセスのさらなる例によれば、第1の基剤を有する第1の溶液は、水性溶液を含む。上述のように、これは、水性溶液が、存在する他の物質と比べて主要な割合で水を含むことを意味する。すなわち、その水は、溶液に存在する他の物質より高い割合で存在する物質である。これは、例えば他の有機溶剤などの他の物質または化合物が存在する可能性を除外しない。しかしながら、この場合、これらの有機溶剤の含有量は水の含有量より低い。
【0027】
第1の実施形態のプロセスのさらなる例によれば、第2の基剤を有する第2の溶液は、有機溶剤の基剤を有する溶液を含む。従って、この第2の溶液は、有機溶剤が溶液に存在する他の物質または化合物より高い割合で存在する組成を有する。これはまた、水がこの第2の溶液に存在する可能性を排除しないことに留意されるべきである。しかしながら、この場合、その割合は第1の溶液に存在する水の割合より低く(好ましくは明らかに低い)、第2の溶液中の有機溶剤の全割合より低い(好ましくは明らかに低い)(実際に、複数の有機溶剤が存在する場合、水の割合は、有機溶剤の合計の割合より低いまたはかなり低い)。
【0028】
この実施形態によるプロセスはさらに任意である、樹脂溶液を含む第3の層を、第2の層の上に堆積させる工程を含んでもよく、この第3の層は外部から第2の層を隔離する。従って、第1および第3の層は、調光特性を有する第2の層を囲むようになる。すなわち、第2の層は、サンドイッチ構造となるように第1と第3との間に入る。従って、第2の層および第3の層の物質は、第2の層が第3の層を形成する溶液中で溶解できないように選択されなければならない。例えば、第2の層が既に決定されている場合、第3の層の溶液は、第2の層が第3の層を形成する溶液中で溶解できないように、選択されなければならない。さらに第2の層は、その上に第3の層を固定できるようにしなければならない。従って、当業者は、第1から第3の種々の層を選択できるだろう。ただし、それらは、第1の層が第2の層を形成する溶液中に溶解せず、第2の層が第3の層を形成する溶液中に溶解しないことが条件とされる。このプロセスの利点は、外部環境および光学体の表面との接触から調光物質の隔離を得ることができるという事実からなる。第3の層は、さらなる外部要因または光学体に適用される後の処理から調光層を保護し、調光層の性能およびこの性能の時間にわたる耐久性をさらに向上させる。非限定的な例として、第3の層は水性溶液により堆積されてもよい。さらなる例において、第3の層は、第1の層の堆積のために使用されるものと等しい溶液によって堆積されてもよい。
【0029】
第1の実施形態によるプロセスは、さらなる工程として(これは任意である)、前記第3の層の上に、シリコーンまたはポリウレタンラッカーを含む第4の層を堆積させる工程を含む。従って、最初の3つの層に関して述べたのと同様に、第3の層および第4の層の物質は、第3の層が第4の層を形成する溶液に溶解できないように選択されなければならない。第4の層のために、特に機械的または化学的種類の外部からの攻撃に対する耐性を与えるというさらに利点のある調光光学素子を提供することができる。第2の調光層と上述の第4の層との間の第3の層の介在により、第2の調光層の特性を損なわずに光学素子に与えられる機械的および化学的特性を前記第4の層により決定することができる。すなわち、第2の調光層の上に配置される第3の保護層のために、得られる光学素子の調光特性に損傷を与えずに光学素子に一連の処理を適用することができる。すなわち、第3の層は、外部から第2の調光層を隔離するだけでなく、光学素子の外側に他の層またはプロセスを適用することもできる機能を有する(そうでなければ調光層に損傷を与える)。
【0030】
上記のプロセスにおいて、第2の層は、有機溶液に溶解でき、樹脂溶液と混合される有機調光色素を含むことができる。上記のプロセスにおいて、前記第1の層を堆積させる工程は、透明樹脂を含む溶液に光学体を浸漬することにより実施され得る。次いで浸漬の後に、得られた生成物を熱乾燥させる。
【0031】
他の層を堆積させる連続工程は、さらなる例において上記で説明したように適切な溶液中に、以前に堆積された層(複数も含む)を含む光学素子を浸漬することによって同様に実施され得る。
【0032】
上記の浸漬工程は、非限定的な例としてディップコーティング技術に従って実施され得る。ディップコーティングについてのパラメーターは、当然に要件に従って選択され、次いでプロセスの種々の工程を実施している間、注意深く確認される。しかしながら、他の堆積システム、例えばスプレーコーティングもしくはスピンコーティング、または後で水分をなくすかもしくは乾燥させなければならない適切な溶液を堆積させる「ウェットコーティング」の他のシステムが考慮されてもよい。他の技術と比べてディップコーティングの適用の利点は各層を均一に適用することである。
【0033】
ここで、本発明によるプロセスの詳細な例を、ディップコーティング技術を参照して記載する。本発明はまた、適切なパラメーターを用いて他の「ウェットコーティング」技術を適用してもよい。ディップコーティング法は、液体コーティング溶液に物質(レンズ、光学素子)を浸漬し、次いで制御された温度かつ制御された環境条件にてダストのない環境(クリーンルーム)中で制御され、十分に規定された一定の速度で前記溶液からその物質を引き出すことからなる。そのプロセスの主な工程は以下の通りである(図1を参照のこと)。コーティング溶液に物質を浸漬させ、それを溶液から引き出した後、物質の両方の外面に湿潤層が形成する(しかし、上記のように、1つの面のみに堆積させてもよい)。溶剤を蒸発させることにより層をゲル化する。溶剤の揮発度に応じて、この後者の工程は加熱チャンバにおいて促進され完了されてもよい。流体(コーティング溶液)が「ニュートン(newtonian)」を考慮され得るように、溶液からの物質の引き出し速度が速くなく、粘度が過剰でない場合、薄層の厚さはLandau−Levichの式:
【数1】

(式中、h=薄層の厚さ、η=コーティング溶液の粘度、μ=コーティング溶液からの物質の引き出し直線速度係数、γ=液体−気体表面張力、ρ=コーティング溶液の密度、g=重力加速度)
により算出される。
【0034】
上記のように、調光レンズまたは光学素子の上に適切な厚さの薄層を形成し、高い光学的品質を有する感受性パラメーターは、溶液からの基板の引き出し速度、溶液の粘度、溶液の密度、溶液の表面張力である。式[1]から、堆積層の厚さは、コーティング液体の粘度および物質の引き出し直線速度が増加するにつれて増加し、溶液の表面張力および密度が増加すると減少する。
【0035】
最初の3つの層の堆積の詳細な説明を以下に与え、第3の層は完全に任意であり、上記に示したパラメーターは性質および特徴(例えば、公知の調光光学体よりとりわけ良い着色速度、または可逆性の速度)を導くが、他のパラメーターが使用されてもよいことに留意されるべきである。
【0036】
第1の薄いコーティング層(基層または「基礎層」)
処理される基板(レンズおよび光学素子)上に第1の層(基層)を堆積させるために使用される溶液は以下の特徴を有する。その溶液は、基板上で把持を確実にする連続薄膜を形成でき、また、その強力な接着を支持する、基板と後の活性調光層との間に配置される分離層として機能し、異なる屈折率を有するポリカーボネートから他の種類の熱により重合可能な樹脂(熱硬化性)の種々の有機物質からなる既に仕上げられた基板上に薄膜を形成できる。
【0037】
第1のコーティング溶液に含まれる、使用されるフィルム形成性(filmogenic)樹脂は、「水性」の種類である(一例によれば、溶液中の水含有量は68重量%〜75重量%であり、溶剤混合物の残存部分は、主要な水溶媒と相溶性および混和性がある有機溶剤からなり、1つ以上の有機溶剤が存在してもよいことに留意されるべきである)。基礎のコーティング溶液の機能的パラメーターの値は、必要とされる厚さおよび特徴を有する薄膜の獲得を確実にするように本発明の適用例において最適化される。それらの値は以下の通りである。
密度 1.0020−1.0030 g/cm
粘度 8.0−13.0 cp
表面張力 2.3*10−2 − 2.7*10−2 N/m。
【0038】
この例に見出される作用パラメーターの最適な値は以下の通りである。
溶液からの引き出し直線速度 1.5−1.8mm/s
コーティング溶液の温度 15.0−20.0℃
乾燥するために使用される加熱チャンバの温度 50−80℃
(乾燥チャンバの温度に依存する)熱による乾燥プロセスの時間 12−40分。
【0039】
しかしながら、本発明は、他の値を同様に適用されてもよいが、暗くなる点および可逆性の点でわずかに異なる結果が対応して得られる場合がある。
【0040】
第2のコーティング層(調光層)
既に堆積され、好ましくは乾燥されている基層上に、第2の層(調光層)をディップコーティングすることによって堆積させるために使用される溶液は、以下の特徴を有する。太陽光に曝露されると、活性化され、暗くなる薄層を形成でき;好ましくは以前に堆積された基層を接着する薄層を形成でき;樹脂結合剤を含む場合、溶剤の同じ混合物に溶解され、調光化合物または化合物の混合物を含む。結合剤として機能する樹脂は、連続薄層を形成するフィルム形成性剤である。結合剤として使用される樹脂を含む溶液は、この実施例によれば「水性」ではなく、「有機溶剤ベース」である(第2の溶液の組成の一例によれば、その中の水含有量は7重量%から最大12重量%の間である)。
【0041】
使用される溶剤混合物は、樹脂結合剤およびそれと相溶性の調光化合物の両方を溶解できる。調光色素は、分離または沈殿せずに樹脂結合剤の均一な溶液に分散する。任意の例において、また溶液の成分の中に、安定化剤(安定剤)が存在する。これは、まず光によって誘導される分解から樹脂結合剤を保護する機能を有し;この安定剤はまた、熱酸化に関して効果的である。この例によれば、「立体障害アミン」(ヒンダードアミン光安定剤すなわちHALS)、すなわち高い効率を長時間与えることが証明されている、2,2,6,6テトラメチルピペリジンの誘導体のクラスに属する安定剤が使用されてもよい。使用される調光素子は、オキサジン、ナフトピラン、スピロピラン、スピロオキサジン、インドリノナフトキサジン(indolinonaphthoxazine)、または当業者に公知の他の化合物のクラスに属する有機化合物である。溶液に溶解される調光色素は、種々の色素の純粋な化合物または混合物であってもよく、その目的は、それらが光により活性化されると、処理される光学素子のための様々な異なる着色を得ることである。
【0042】
基礎コーティング溶液の場合と同様に、主に有機溶剤から構成され、少しの割合で水を有する溶剤混合物中の必要とされる量で存在する組成の最適な溶解性を確実にするために、この第2のコーティング溶液の機能的パラメーターの値は、それらの間の最適な妥協(compromise)を求めることによって最適化され得る。溶液の機能的パラメーターの最適化により、所望の特徴を有する既定の厚さの層が得られることが確実にされる。
【0043】
しかしながら、最適な平均値を得るのは容易ではない。なぜなら、簡単な実験では十分でないからである。注意深い考察の後、公知の光学体に優れた特性および特徴を与える第2のコーティング溶液に関する機能的パラメーターを以下のように決定した。
密度 0.9300−0.9600 g/cm
粘度 4.0−9.0 cp
表面張力 2.5*10−2 − 3.0*10−2 N/m。
【0044】
この例により導かれる結果によれば、作用パラメーターに関して見出される最適な値は以下の通りである。
溶液からの引き出し直線速度 1.5−1.8mm/s
コーティング溶液の温度 16.0−22.0℃
乾燥するために使用される加熱チャンバの温度 50−80℃
(乾燥チャンバの温度に依存する)熱による乾燥プロセスの時間 12−40分。
【0045】
上述のように、第1の層の堆積に使用される溶液は水性であるが、一方、中間の調光層の堆積に利用される溶液は、この例によれば約10%の平均水含有量を有する有機溶剤ベースである。実際、この溶剤の混合物は、結合剤として使用されるフィルム形成樹脂および調光化合物または化合物の混合物の両方の十分な等しい溶解特性を有さなければならない。この理由のために、溶剤の混合物は、プロトンタイプではなく、極性がほとんどない有機溶剤と一緒に、大部分は強力に分極され、非プロトン性の親水性有機溶剤からなる。知られているように、多い量ではない(一例によれば約7〜10%)存在する水は、その誘電率の高い値のために、イオン化およびまた、分離特性を有する。従って、結合剤として選択される樹脂の種類および加えられる調光色素または色素の混合物、ならびにそれらの量に基づいて、特定の制限内で、溶剤の混合物の組成およびそれらの成分の濃度を変化させてもよい。上述の水の量以外に、アルコール、グリコールおよびグリコールエーテルなどのプロトン型の可変量の極性の親水性溶媒と共に、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)および同様の種類の他のものなどの非プロトン型の非常に極性の親水性有機溶媒を選択することも可能である。このように、調光コーティング溶液の成分は様々であってもよいが、それら由来の溶液はとにかく、この実施例に係る第2のコーティング溶液について本出願人によって既に報告したものと一致するかまたは近似する機能的パラメーター(密度、粘度、表面張力)に関する値を有さなければならず、実際にそれらのパラメーターは、得られる生成物について十分に満足できる結果を与えるようにこのディップコーティング法のために最適化され、試験される。上述のように、これらの2つの水性および有機溶剤ベースの溶液を、ディップコーティングまたはスプレーコーティングなどの他の方法にも適用することが想定される。
【0046】
第3のコーティング層(保護層)(任意)
既に堆積され、好ましくは乾燥された薄い調光層(第2の層)の上に、第3の層を堆積させるために使用される溶液は、この任意の例による以下の特徴を有する。その溶液は、外部の要因によって引き起こされる機械的または化学的種類の作用に対する調光層の保護機能として働く薄層を形成でき;この層の下の調光層上で上述の機能として働く以外の薄層を形成でき、後でその上に堆積される、擦り傷防止機能を有するラッカーのさらなる層の接着を確実にする。その溶液は、第1の基層を堆積するために使用されるコーティング溶液と同じ組成を有する。
【0047】
従って、機能的パラメーターの最適化された値は、この例による第1の層(基層)について報告されているものと同じである。作用パラメーターの最適な値は、第1の層について報告されているものと同じである。ディップコーティングを使用する上述の例により、公知のレンズより非常に高い着色速度または薄くなる速度(可逆性)を有する調光光学体を得ることが可能である。
【0048】
本発明に係るプロセスは、例えばモールドによって製造された、既に形成され、仕上げられた光学体に適用される。光学体を製造する際の出発材料は一連の処理に供される。しかしながら、本発明のプロセスは、既に仕上げられた光学体に適用される。従って、前記層の1つ以上を前記仕上げられた光学体に適用することにより、調光色素が光学体の材料と混合され、硬化されるか、またはモールドに堆積され、続いて光学体を構成する材料と共に硬化されるか、または光学体の表面上に直接堆積される事象で生じる機械的、熱的および/または化学的ストレスが回避される。
【0049】
本発明によるプロセスは、既に重合されたレンズ(仕上げられたレンズ)の上に調光層(樹脂+溶解した色素)を固定し、さらに、この調光層はレンズの表面上に直接堆積されないが、基礎となるレンズのマトリクスから隔離する樹脂を構成する別の層の上に堆積され、同時に、強力かつ安定な接着を可能にする。調光色素が、それらを含む層の樹脂からレンズのマトリクスまで部分的にでも移動する可能性はない。なぜなら、レンズに接着性を与える第1の層は、実際にそのような移動を防ぐ障壁を構成するからである。加えて、基礎となるレンズのマトリクスの上に堆積される層についての熱乾燥システムは、(基礎となるレンズの形成に必要な硬化の長いサイクルのような)隣接している層の間の材料の移動を生じないような時間および温度である。一実施形態において、調光層を光学体に固定することを可能にする第1の層は、その後の層の固定を可能にするように把持特性を有する分離層である。この第1の層は、調光色素と可溶化できないように選択される。種々のタイプの樹脂が使用されてもよいが、但しそれらは、下層の光学体の光学特性を損なわないように、特定のレベルの透過率を維持する。これにより、光学体のマトリクスと調光色素との間の分離、および同時に調光層の安定な固定が可能となる。従って、1つの利点は経時的に安定な固定構造からなる。
【0050】
本発明は、調光光学素子の性能の改良を導くメカニズムのそれらの技術的考慮、および注意深い観察および確認(それらは即時ではなかった)から生じる。すなわち、ディップコーティング技術による多層堆積のプロセスにより、前記調光層が実質的に熱、機械的および/または化学的ストレスを受けずに、光学体の表面および任意に外部から保護される調光層の堆積を得ることが可能となる。結果として生じる調光光学素子は、光の明度の変化に反応する急激な(striking)速度によって識別される優れた調光特性を有する。その特性の中でも、可逆性の高い度合いが存在する。従って、本発明による光学素子は、非常に急速に暗くなり、そして透明になる。実験室での試験により、当該技術分野において既に公知の技術によって製造されたレンズと比べて注目すべき向上が証明されている。
【0051】
本発明の第2の実施形態は、上記のプロセスまたはプロセスの工程によって得られる調光光学素子を提供する。
【0052】
本発明の第3の実施形態は、所定の光学体、その光学体の上に配置される透明樹脂を含む第1の層、および調光色素を含む第2の層を含む調光光学素子を提供する。第2の層は第1の層の上に配置され、一例において第1の層は、調光色素を含む第2の層を光学体の材料から隔離するものである。
【0053】
第3の実施形態の任意の変更によれば、調光光学体は2つの反対側の面を有し、前記第1の層および前記第2の層の各々は、それぞれ、前記2つの反対側の面の各々に配置される。この構造の例を図2に表す。それは2つの反対側の面によって特徴付けられた形状を有する光学体を示す。前記面の各々に第1の層が配置され、次いで各々の面の各々の第1の層に第2の層が配置される。第1の層および第2の層は、本発明によって得られる2つの面に配置される。
【0054】
本発明のさらなる実施形態はまた、上記の調光光学素子を含む製品を提供する。この製品は、例えば、眼科用レンズ、太陽光フィルター、または太陽レンズから構成されてもよく、それらの透過率は、太陽光、バイザー、ヘルメット、光学フィルター、透過パネルまたは調光フロントガラスの明度により変化する。実際に、本発明の光学素子は、調光特性を適用することが望まれる規定の透過率を有する任意の光学体に適用されてもよい。
【0055】
本発明に係るプロセス、光学素子、光学素子を含む物品または製品は、調光色素が、ある環境において、分子自体の立体配座の可逆性の利用により適していることが見出され、活性化されていない、すなわち透明な光学体が強い太陽光に供されると、短い時間で暗くなり、活性化された、すなわち暗いレンズが、太陽光に照らされない閉じた環境に入ると、短い時間で薄くなるという利点を有する。これらの有益な光学体を得る本発明のプロセスはさらに、多量生産でき、再生産することが容易であり、実現するのが簡単で、それ自体で非常に効果的である。
【0056】
本発明の他の実施形態、または本発明の一部の工程または部分に関する一部の実施を以下に提示する。
【0057】
これらの実施形態のうちの1つによれば、本発明は、有機眼科用レンズを処理するためのプロセスを提供する。同様のプロセスが、眼科用レンズ以外の仕上げられた光学体、例えばヘルメットバイザー、透明な平面、透明な凹面、透明な凸面などにも実施されてもよいことは明らかである。このプロセスは、他の種類の眼科用レンズに適用されてもよいことは明らかである。
【0058】
一実施形態による手順は、ゾル/ゲルディップコーティングの技術により順に実施される、種々の屈折率の仕上げられた眼科用レンズの表面の一連の処理に基づく。仕上げられたレンズは、当該技術分野で公知の方法の1つによって製造された仕上げられた眼科用レンズである。
【0059】
レンズは以下のように順に処理がなされる。全ての処理が実施されてなくてもよいことは理解されるべきである。実際に、以下の処理の1つだけでも、または2つ以上を組み合わせて、本発明を実施してもよい。
【0060】
仕上げられた有機眼科用レンズの処理
種々の屈折率の仕上げられた有機眼科用レンズは、ディップコーターによって透明樹脂の溶液を含むタンクに浸される。この操作は、後の処理のために眼科用レンズを調製し、調光色素を含む上の層からその眼科用レンズを隔離する役割を有する。覆う樹脂溶液の粘度、固体含有量、浸漬時間および樹脂溶液からの製品の引き出し速度は、厳密に制御され、規定の特徴を有する第1の覆っている層を得るのに重要である。このようにレンズは処理され、次いで熱乾燥を受ける。
【0061】
調光コーティングの調製
適切な色の調光有機色素の混合物の定量を樹脂溶液に溶解する。この溶液は、固体含有量(溶液中の樹脂の%w/w)および粘度の既定の特徴を有さなければならない。これらの特徴は、適切な溶剤で基礎の樹脂を希釈することによって固体含有量および粘度を管理するように、厳密に制御されなければならない。
【0062】
眼科用レンズの処理
次いで処理されるレンズを、プログラム制御できるディップコーターによって調光コーティングを含む別のタンクに浸漬する。以前の層の上に堆積される活性な調光層の厚さは非常に重要である。これはプロセスを調節する以下の重要なパラメーターによって確保される。
調光色素を含む樹脂溶液の厳密に制御された粘度;
タンクへの浸漬時間;
タンクからのレンズの一定の引き出し速度;
溶液中の色素を含む樹脂溶液の固体含有量およびその結果として生じる密度。
その後、堆積された第2の層が熱乾燥される。
【0063】
眼科用レンズの処理
既に2つの以前の処理に供され、適切に乾燥されているレンズを、ディップコーターを使用して、制御された粘度および固体含有量を有する樹脂溶液を含む別のタンクに浸漬する。この第3の処理に使用される樹脂は、外部から隔離することによって下層の調光層を保護する特徴を有する。規定の浸漬時間後、レンズを一定の制御された速度で引き出す。その後、堆積された層を熱乾燥する。
【0064】
眼科用レンズの処理
最終的に、さらにディップコーターを使用して、機械的および化学的種類の両方の外部の攻撃に対して耐性を与える機能を有するポリウレタン樹脂を含む最後のタンクにレンズを浸漬する。またこの最後の処理のために、適切な厚さの層を得ることを確保する溶液の粘度および固体含有量などの重要なパラメーターの制御が必須である。このように堆積されるこの最後の硬化層は、最終的に、反射防止コーティング(AR)の最後の処理を受けるのに適している。
【0065】
他の実施形態は、上記の処理の一部のみの適用を提供する。例えば、一実施形態によれば、レンズは、第1の隔離層を堆積させるための第1の処理および調光層を堆積させるための第2の処理のみを適用することによって得られる。
【0066】
他の実施形態によれば、上記の処理の1つ以上のプロセスもまた、スプレーコーティングまたはスピンコーティングなどの他の技術を使用して実施されてもよい。例えば、第1の層および第2の層を堆積させることは、スプレーコーティングもしくはスピンコーティングまたはスピンコーティング、スプレーコーティングおよびディップコーティングの任意の組み合わせによって実施されてもよい。例えば、第1の層はディップコーティングにより、第2の層はスプレーコーティングにより堆積されてもよい。実際に全ての組み合わせがさらなるコーティングにも可能である。
【0067】
他の実施形態は、以下に関係し得る記載されたプロセスに対する一部の変更を提供する。
仕上げられた眼科用レンズの種々の処理の過程に使用される樹脂の種類;
工業生産の工程のための自動化システム。
【0068】
本発明は、市場に出回っている調光眼科用レンズなどの光学体の生産において現在利用されている他のプロセスによって示される技術的問題を克服または減少できる最適な溶液を提供する。まとめると、本発明は、
樹脂の最終的な細網化がモールド内部で生じる前に、プレポリマーの主要部内の有機調光色素の分散に基づくシステムを完全に取り除き、その結果として、上記のように生産された調光眼科用レンズによって示される、上記の不都合な点が1つも起こらない;
調光色素を用いてレンズの外面のみを処理することに基づいたより複雑なプロセスを採用する;
ディップコーティングによって活性な表面層を堆積させることによって、調光層の均一かつ一定の厚さを適用するというさらなる利点を達成する;
眼科用レンズの最も外側の表面層に拡散することによって有機色素を熱的に移動させず、実際に、眼科用レンズを構成する材料と調光色素を含有する活性層との間のあらゆる直接の接触を回避する;
レンズの外側のより好適な環境を生じ、レンズを外側から分離し、調光色素の分子は、それらの種々の立体配座をより自由にとることができる。
【0069】
他の利点は眼科用レンズを参照してこのようにまとめられ得るが、同じ利点が本発明に従って任意の他の調光光学素子にも見出される。
この革新的なプロセスによって生産された調光眼科用レンズは、有機色素をレンズの主要部に分散させるシステムによって生産された眼科用レンズに関する上記の不都合な点を全く有さない;
このように生産された調光眼科用レンズは、処理に供される仕上げられたレンズの厚さに応じて明度の着色の大きな差を生じない;
このプロセスを用いて、異なる屈折率の仕上げられた眼科用レンズを処理することが可能である;
典型的に製造プロセスにおいて起こり得る誤差のために欠陥のあるレンズが生産される事象において、当該技術分野において公知の他のプロセスと異なり、既に処理された全ての基本製品を復旧させることができ、それらを、欠陥を含む処理から取り除き、調光化(photochromization)のプロセスに再度それらを供することができる;
このプロセスにおいて、色素の分子が、基礎眼科用レンズの表面から完全に分離される外側層に制限され、色素の分子と眼科用レンズとは接触せず、さらに調光色素を有する層は、一実施形態において2つの保護層の間に配置され、下層は有機眼科用レンズから「隔離し」、一方、上層は「中に閉じ込め」、外部からのあらゆる損傷(溶剤、清浄剤などに衝突し、擦られ、磨耗し、攻撃される)に対して保護する。
【0070】
採用される溶液は色素分子についてより有益な環境を生じ、それらの調光活性を与えるのに必要な立体配座をより自由にとることができる。この性質は、具体的に、急速かつより明白な可逆性の退色速度により示されている。
【0071】
層(複数も含む)の堆積がディップコーティングによってもたらされる事象において、以下のことも留意されるべきである。ディップコーティングは、規定の溶液に光学体を浸漬することを含む。その結果として、光学体は通常、その周りに全て堆積される層を有するようになる(上記のうちの1つの第1、第2、第3または第4に関わらず)。例えば、光学体が調光レンズ(その調光体には、上記の実施形態の1つに従ってディップコーティングが適用される)である事象において、レンズが、そのレンズの両面にそれぞれの層を有する光学素子を得ることが可能である。レンズの両面上の2つの調光層の存在により、暗くなる度合いを増加させるさらなる利点がもたらされ、さらに、調光特性の時間の永続性がより増加する。しかしながら、本発明による処理(複数も含む)に曝露される単一の面を有するディップコーティングによって眼科用レンズなどの光学素子を作製することも可能である。これは例えば、レンズまたは光学体全体にディップコーティングを実施することによって、その後、両面のうちの1つに堆積された層(複数も含む)を除去することによって可能となる。除去は、当業者に公知の任意の方法で行われてもよい。別の溶液を層(複数も含む)の堆積が望まれない両面のうちの1つに適用し、光学体またはレンズを浸漬する溶液の堆積ができないようにさらなる層を適用する。このさらなる層は、光学体を浸漬する溶液の物質の接着に影響を受けないように選択され得る。この場合、層が光学体の光学特性に影響を受けない場合、そのままでもよい。あるいは、さらなる層は、非常に容易に除去できるようなものであり得る。二重成層(すなわちレンズの両面上の層の堆積)の利点は、例えば1つの層を活性化させることができる場合、例えば光源に直接曝露されない内側が、反射光の結果として調光特性を増加させ、光学素子のその全体の反応時間を最適にすることである。さらなる利点は、調光光学素子の平均寿命が延びることである。
【0072】
従って、さらなる実施形態によれば、本発明のプロセスにより、調光の観点から、経時的により長い永続性および透明になる速い速度(退色速度)を保証する、2つの保護層の間に含まれ、完全に眼科用レンズの外側の調光色素を含み、レンズから分離する層を配置する多くの成層系を有する有機眼科用レンズの活性な両面、外側および内側を作製することが可能となる。新規のプロセスが、種々の屈折率および種々のグラデーションの既に仕上げられた有機眼科用レンズに適用され、レンズ自体を順に実施される表面処理の一連の操作に供することにより行われる。各々の処理は特定の機能を果たし、それらの製品が製造される材料の外部に薄い表面層を生成する。
【0073】
本発明のプロセスは、有機眼科用レンズなどの既に仕上げられた光学体を、太陽光に曝露されると活性化され、その透過率を可逆的に低下させる製品に変化させる。このように生産された調光レンズなどの光学体はさらに、その後、それらの外面で通常の反射防止(AR)処理に供されてもよい。別の実施形態によれば、本発明は、3つの薄層から構成されるサンドイッチ型の構造を含む光学素子からなる。サンドイッチの中心層は、適切な有機溶剤に可溶化され、樹脂溶液と混合される調光有機色素のフィルムからなる。
【0074】
今日、市場で見られ得る調光分子の通常のクラスに属する、使用されている調光色素または色素の混合物は、ゾルの調製に必要なトルエン、キシレン、THF、酢酸エチル、ジメチルケトン、エタノールまたは他のアルコール、炭化水素(石油エーテル)などの有機溶剤に溶解し、混合可能である特性を有する(有機溶剤中の樹脂+調光色素の溶液)。
【0075】
樹脂/調光色素/有機溶剤ゾルの粘度および固体含有量は厳密に制御されなければならない。なぜなら、それらは必要な特性を有する最適な調光層を得るための重要なパラメーターだからである。
【0076】
その中に調光色素を有する樹脂の層は最適な厚さを有し、13%から18%の間の透過率の値(T%)に対応する、暗くなる最大速度で、UVランプでの照射の終わりに眼科用レンズを生成するのに十分な高濃度の色素を含有する。その中心に調光層を含有するサンドイッチの下層は、仕上げられた眼科用レンズの表面に対する強力な接着特性を有する。
【0077】
外部環境から隔離することによって調光層を保護する機能を有する他に、サンドイッチの上層は、後の硬化処理を可能にする特性を有し、擦り傷防止レンズのように物理特性に関してさらなる利点を生じる。このプロセスによって処理されるレンズが供される試験は当業者に周知である(磨耗、屈曲および熱ショックに対する耐性のための試験は、通常の擦り傷防止レンズのものと同様の作用を示す)。
【0078】
活性なサンドイッチを構成する層を堆積させるために使用される方法は当業者に公知であり、通常、スピンコーティング、スプレーコーティングおよびディップコーティングなどが使用され、ディップコーティング法が好ましい。上記の見解は記載しているレンズについて妥当なものである。
【0079】
堆積される層は典型的に、制御された温度で熱乾燥処理に供される。このプロセスは、眼科用レンズの製造に現在使用されている種々の良質の材料に適用されてもよい。
【0080】
本発明は、屈折率に関係なく、異なる屈折率を有する眼科用レンズ(低い屈折率を有するものから高い屈折率を有するものまで)に適用されてもよい。
【0081】
レンズまたは支持マトリクスの材料から活性な調光層を隔離するサンドイッチ層のシステムは、可能な限りそれらの可逆性の調光活性を与えるのに必要な立体配座を調光色素が自由にとることができる、より適切かつ有益な環境を生じる。
【0082】
レンズの外側で十分に機能する色素の分子の位置、およびレンズを構成するマトリクスからの分離は、主要部に着色を有して製造されたレンズ、およびレンズの表面層への色素の熱移動により得られた両方のレンズより、退色速度を顕著に速くし、かつ短い時間にする。
【0083】
本発明のさらなる利点のうちの1つは、色素の分子が、上述の対象物に熱によって移動されないという事実からなる。対照的に、熱の移動に基づいた当該技術によれば、分子は、最終的にレンズの材料内部に位置するようになる。すなわち、分子自体の立体配座の可逆性にあまり有益でない環境が生じる。
【0084】
着色された光学体から形成される調光光学素子に対する本発明の適用においてさらなる利点が見出される。典型的に、そのような光学体は、光学体が形成されるポリマー中で混合される着色色素(または粒子)を有する。そのような着色された光学体に適用される本発明は、光学体の着色分子を分解せず、光学体の着色分子と相互作用しない。この理由のために、光学体の効率は、光学体の異なる着色の場合に改良される。
【0085】
他の適用において、調光層における特定の色素の使用によって異なる着色を有する調光光学素子を得ることも可能である。この調光層はレンズに対して規定の着色を提供する。従って、本発明は多種多様な着色に適用可能であり、多種多様な着色が調光光学素子に達成可能である。他方で、当該分野において、適用は少数の限定された色に制限される。
【0086】
上記の種々の実施形態において、各々の層は、以前の層に堆積される次の層を構成する溶液に溶解してはいけないことに留意されるべきである。さらに、下層は次の層を固定するのに適さなければならない。
【0087】
参照は太陽光の存在下で可逆的に活性化できる調光色素になされる。典型的に、調光色素は、UV領域の波長の存在下または非存在下で活性化されるか、または非活性化される。しかしながら、UV領域以外の波長で活性化できる他の調光色素に本発明を適用することも可能である。
【0088】
工業的利用
上記のプロセスは、上記の処理後に調光特性を有する有機眼科用レンズまたは他の光学素子を生産するために工業的に使用され得る。
【0089】
小規模または中規模での生産のために、全ての処理操作の順序の自動化が提供されなければならない。これは、質の制御を維持し、操作を完全に再現するのに必要である。この目的を達成するために、および一般に、生産プロセスについての自動化システムは、好ましくはまたは可能な場合、以下の示唆される指示に基づかなければならない(しかしながら、本発明を実施するための他の条件が完全に妥当であってもよいことは留意される)。
プロセスの工程は好ましくは、制御された温度および湿度にてクリーンルーム内で実施されなければならない;
このシステムで達成可能な製造可能性に関して、上記のプロセスは、(ディップコーティングの使用の例を参照して)種々の樹脂溶液を含有するタンク、レンズ運搬バスケットまたはパーツホルダ、ディップコーターおよび熱乾燥ステーションの寸法に応じてのみ拡張可能であることが記載されなければならない。
コントロールシステムはまた、粘度および固体含有量などのそれらの重要なパラメーターの頻繁なチェックを維持するために、種々の樹脂溶液に必要とされる。
【0090】
用語「透過性」または「透過」は、透過率を示すこととは関係なく使用されることに留意されるべきである。すなわち、光を通すことができる光学体の能力である。従って、このプロセスは別の利点を示す。すなわち、同じ種類の少数または多数の部分の製品の製造に拡張可能または適用可能である。製造ラインにおける一部の必須の構成要素の寸法を変化させる必要があるのみである。
【0091】
図1はディップコーティング法に関する工程を示す。工程1は、光学体(または一群として複数の光学体)の溶液(例えば上記の第1の溶液または第2の溶液)への浸漬を示す。工程2において、薄層が光学体の両面に形成し始める。光学体は溶液から引き出される。工程3において、上記のようにゲル化が生じる。図2は、本発明によって製造された調光光学体の構造を示し、基層を表す第1の層(2、基層(複数も含む))が堆積される光学体1(光学素子構造)を含む。この上に、調光色素を含む第2の層(3、調光層)が存在する。好ましくは、第2の層は耐熱材料から構成される。この上に、保護層を示す第3の保護層(4、保護層)が存在する。本発明はまた、有機レンズの部分または2つのガラスの光学体の間の接着部分に挿入(浸漬)されることを意図する偏向フィルムまたは着色フィルム上の薄い調光層の堆積に適用されて、それらのレンズを偏向および調光または調光のみの光学素子に変換してもよいことも言及されなければならない。その後、得られる構造は、本発明および特許請求の範囲に係る光学体になり、本発明の方法が、暗くなるかまたは薄くなる優れた特性を有する偏向調光光学体を得る目的のために適用される。上記のディップコーティングなどのウェットコーティング法を用いて、偏向フィルムまたは偏向ではなく単に着色フィルム上に薄い調光層を堆積させることも可能である。このようなフィルムは、太陽光に曝露されると暗くなり、照射されない内部環境において照射の終わりに薄くなる特徴を獲得する。調光層は、フィルムから調光層を分離するが、接着に有益である薄い基層の後での堆積後、偏向フィルム上に堆積される。調光層の堆積により、偏向フィルムは、その元の偏向能力を損失させずに、または減少を受けずに、調光特性を獲得する。
【0092】
このように得られる偏向調光フィルムは、それを眼科用レンズのためのモールドに挿入し、次いで同じモールドで、触媒の添加により流体のモノマーを鋳造することによって使用され得る。モノマーは、有機眼科用レンズの形成と共にその細網化を導く熱硬化に供される。その有機眼科用レンズは、フィルムに対して外部の要因から発生し得る機械的および化学的攻撃に対して樹脂の薄層により保護される、外面に対して配置される、レンズ部分に埋め込まれた偏向調光フィルムを含む。
【0093】
この方法はディップコーティングに限定されず、全ての「ウェットコーティング」法にまで及び、少なくとも一部の環境において、ディップコーティング法は多くの利点を有する。それらのものを以下に記載し得る。
ディップコーティングは、高い光学的品質の均一の薄層からなるコーティングを生成する。
ディップコーティングは、曝露される基板(眼科用レンズ、光学素子など)の両面の同時コーティングを伴い、1つの代わりに2つの活性な面を生成し、これらから導かれる2倍の利点を有する。第1に、レンズが暗くなるのに非常に効果的である。なぜなら、(内側の1つにあまり照射されなくても)1つの代わりに2つの活性な面を得るからであり、他のシステムで生産される調光レンズと比べて、太陽照射が減少するにつれて、レンズについてより急速で証明された退色速度の利点がある。この第2の利点は、この方法を用いて、基板(眼科用レンズまたは他の光学素子)上に堆積される調光分子の合計数が、1つのみの代わりに2つの層の間で分配されることを考慮することによって説明され得る。従って、調光層における樹脂の単位体積当たり、より少ない数の調光分子が存在し、分子自体が、より急速な退色速度に変換する可逆的に立体配座のプロセスを実施するのに少ない立体的障害で十分な空間を有することができる。しかしながら、理解されるように、本発明はまた、単一の面を覆うように適用されてもよい。
スピンコーティングと異なり、ディップコーティングは、トラップされた状態となり、層の均一性を損ない得る気泡の形成の問題を有さない。
1回で1つの基板のみで実施され得る迅速な実施時間を有するスピンコーティングと異なり、ディップコーティングは基板の多くのピースを同時に処理できる。
ディップコーティング法を用いて、適切な粘度のコーティング液を選択することにより、高い光学的品質を維持しながら、20nm〜50μmまで堆積される層の厚さを正確に変化させることが可能となる。
ディップコーティングを用いて、「ウェットコーティング」の他の技術と比べて十分な厚さを得ることが可能である。
この方法は、任意の事象において、既に硬化された場合、第1の層の上に第2の層を堆積する操作を反復する可能性を与えるので、厚さを増加させる。しかしながら、この方法は、他の方法と比べて十分な厚さを得ることを可能にする。多くの場合において、複数の反復処理の代わりに単一の処理が十分である。
スピンコーティング法は、ほぼ例外なく、調光分子を運搬するためにラジカル経路により重合可能(従ってUV硬化可能)なモノマーを使用するが、ディップコーティング法は薄い熱重合層の接着に優れている。
しかしながら、ディップコーティング法は、同様に、堆積される薄層を硬化する広範囲の方法を可能にする。さらに、本発明は、当該技術分野において実施されるディップコーティングに関する多くの問題を解決する。調光特性および高い光学的品質を有する適切な厚さの薄い透明層を得るために使用される場合、ディップコーティング法によって示される主な問題は以下の通りである。
後で堆積される他の層から既に形成された基板(眼科用レンズ、光学素子など)を隔離できる薄層(基層)を形成するのに適切であり、同時に基板自体に対する接着に有益である溶液に入れるための樹脂または樹脂の混合物を特定すること。
モノマー溶液自体に溶解できる調光有機化合物または化合物の混合物と混合可能である溶液に入れるフィルム形成結合剤として機能する適切な樹脂を特定すること。
調光特性を必要とされる堆積される薄層に必要な調光化合物または調光化合物の混合物の可能な限り最大の量を樹脂溶液に溶解することの困難性。上記の目的は、より良い調光特性の可能性を有する薄層の最終的な厚さを得るために数回反復されなければならない堆積プロセスを回避するのに十分な濃度の調光化合物の濃度を有する液体コーティング溶液を得ることである。
従って、太陽光での照射後、および最大で暗くなるときに、単一のディップコーティング操作によって得られる薄い調光層が、13%から18%の間からなる透過率(T%)についての値に到達することができることを確実にするのは困難である。
従って、コーティング液体および最適な濃度の結合樹脂および調光化合物の成分の溶解を確実にできる溶剤の最適な混合物を調査することは困難である。
以前の考慮に基づいたコーティング液についての最適な組成を調査する際に、同時に、粘度および密度についての適切な値を得ることは必要であるが、コーティング液についてのより大きな粘度および小さな密度は、実際に、他の感受性パラメーターの所定のセットについて、より大きな厚さを有する層の堆積を導く。
感受性パラメーター(粘度、密度、表面張力など)の値の間の最適な妥協のその成分(異なる溶媒および溶質)についての正確なレベルでコーティング溶液を調査することの困難性。
最後に、調光層についての感受性パラメーター、適切な厚さについての規定の値を得るために、溶液からの基板の最も適切な引き出し直線速度を特定することの困難性。
【0094】
第1の溶液は水性であり、第2の溶液は有機溶剤ベース(または有機溶剤)である、互いに異なる第1の溶液および第2の溶液を特定して選択する、本発明、さらにその実施形態により、上記の問題は解決されるかまたは少なくとも非常に低減される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の光学体から開始する調光光学素子を調製するためのプロセスであって、前記プロセスは、
前記光学体の少なくとも一部の上に透明樹脂を含む第1の層を堆積させる工程と、
先に堆積された前記第1の層の上に、調光色素を含む第2の層を堆積させる工程と、
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記第1の層を堆積させる工程は、前記透明樹脂を含む第1の基剤を有する第1の溶液を堆積させることを含み、
前記第2の層を堆積させる工程は、前記調光色素を含む第2の基剤を有する第2の溶液を堆積させることを含み、前記第2の基剤は前記第1の基剤と異なる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
第1の基剤を有する前記第1の溶液は水性溶液を含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
第2の基剤を有する前記第2の溶液は、有機溶剤ベースの溶液を含む、請求項2または3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記第2の層の上に、樹脂溶液を含む第3の層を堆積させる工程であって、前記第3の層は外部から前記第2の層を隔離する、工程をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
樹脂溶液を含む前記第3の層を堆積させる工程は、前記樹脂を含む水性溶液を堆積させることを含む、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記第3の層の上に、ポリウレタン樹脂を含む第4の層を堆積させる工程をさらに含む、請求項5または6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記第2の層は、有機溶剤中で可溶化し、樹脂溶液と混合される調光有機色素を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
前記第1の層を堆積させる工程は、前記光学体を、前記透明樹脂を含む溶液に浸漬し、次いで熱乾燥することを含む、請求項1〜8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
堆積は、ディップコーティング、噴霧およびスピンコーティングを含む技術のうちの1つによって実施される、請求項1〜9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
前記第1の層は、調光色素を含む前記第2の層を前記光学体の材料から隔離する、請求項1〜10のいずれかに記載のプロセス。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のプロセスによって得られる調光光学素子。
【請求項13】
所定の光学体と、
前記光学体上に配置される、透明樹脂を含む第1の層と、
前記第1の層上に配置される、調光色素を含む第2の層と、
を含む、調光光学素子。
【請求項14】
前記調光光学体は、2つの反対側の面を含み、前記第1の層および前記第2の層の各々は、それぞれ、前記2つの反対側の面の各々に配置される、請求項13に記載の調光光学体。
【請求項15】
請求項12、13および14に記載の調光光学素子を含む製品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−523974(P2012−523974A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505299(P2012−505299)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際出願番号】PCT/IT2010/000163
【国際公開番号】WO2010/119477
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511249224)
【Fターム(参考)】