説明

調整可能なヒステリシスドライバー

本発明は、入力側に配置された、機械式に駆動される回転子部(5)および/または固定子部(7’、7”)、出力側に配置され、回転しないように軸(4)に接続されている電機子(8)、及び、電機子(8)に接続されているヒシテリシス部(9)、を備えた調整可能なヒシテリシスドライバーに関するものである。固定子部(7’、7”)には、少なくとも1個の電磁石(7a)または永久磁石(18)が設けられ、それによって磁束が回転子部(5)および/または固定子部(7’、7”)内で誘導され得る。一方、ヒシテリシスドライバーの伝達可能なトルクは、電磁的または電気機械的に調整され得る。本発明の目的は、改善された調整可能なヒシテリシスドライバーを創造することである。前記目的は、ヒシテリシスドライバーが、ヒシテリシスクラッチまたはヒシテリシスブレーキによって形成され、フェイルセーフ機能を生み出すために積極的手段が設けられ、当該積極的手段は、電磁石(7a)用の電源供給が遮断されたときに、機械式クラッチまたは永久磁石の磁力効果を用いて、ヒシテリシスクラッチの回転子部(5)またはヒシテリシスブレーキの固定子部(7”)と電機子(8)との間のトルク伝達を確実にする、という事実によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項1の上位概念に従う、調整可能なヒステリシスドライバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒステリシスクラッチないしヒステリシスブレーキの形態のヒステリシスドライバーは、かなり以前から、多くの実施形態で知られている。この種のクラッチないしブレーキの利点は、本質的に、空隙を介した非接触式のトルク伝達にある。この装置の作動態様は、同期モードでの自己を引き付ける極の磁気力の作用に基づくか、あるいは、スリップモードでの当該極の近傍を移動する永久磁性のヒステリシス材の永続的な再磁気化(Ummagnetisierung)に基づいている。例えば、DE3905216A1とDE19917667A1とから、電磁的に励磁可能なヒステリシスクラッチが知られている。その伝達可能なトルクは、励磁巻線を通じて流れる電流に応じて、調整できる。
【0003】
さらに、DE3732766A1から、永久磁石で励磁されたヒステリシスクラッチが知られている。そこでは、伝達するべきトルクは、永久磁石の2つの極リングの間に形成される空隙の中で、ヒステリシスリング本体の沈む深さを手動で変更することによって、変えることができる。
【0004】
さらに、DE2261708Aから、自動車の補助駆動装置の中で、ヒステリシスクラッチを、当該ヒステリシスクラッチがエンジンの冷却流体の温度または油温に応じてオン・オフされるというように運転すること、が知られている。このヒステリシスクラッチは、相互補完的な極を有する、オン・オフ可能な複数の電磁石つまり複数の電磁場を有している。
【0005】
さらに、DE19746359C2ならびにDE10018721A1から、ヒステリシスクラッチ付きの制御可能な自動車用冷却材ポンプが知られている。この場合、前者の明細書は、永久磁石で励磁されるヒステリシスクラッチを説明しており、そのクラッチハーフの一つは、電動式調整ユニットにより軸方向に移動可能である。その結果、クラッチハーフの間に形成される空隙の幅と伝達されるべきトルクとが、エンジンの運転状況に応じて変更されることができる。それに対して、DE10018721A1は、伝達可能なトルクが電磁石の巻線を通じて流れる電流(の強さ)に応じて制御ないし調整できるという、電磁石で励磁されるヒステリシスクラッチに関する。
【0006】
ヒステリシスクラッチがトルク伝達に電気式または電気機械式の制御装置を使用していることは、これら公知のヒステリシスクラッチに共通している。そのことは、電流供給が停止した際、そのようなヒステリシスクラッチはもはやその規定どおりの役割を果たすことができない、という欠点と結びついている。
【発明の開示】
【0007】
こうした背景に基いて、本発明の課題は、一方で無段階のトルク調整を可能にし、他方で電流供給が停止した場合でもトルク伝達に関しては可能であるという、改良された調整可能または制御可能な、例えばヒステリシスクラッチまたはヒステリシスブレーキのような、ヒステリシスドライバーを提供すること、である。このようなヒステリシスドライバーは、例えば、自動車の駆動エンジンの補助駆動装置内ないし補助出力装置内にも、取り付けが可能であるべきである。
【0008】
この課題の解決は、主たる請求項の特徴から明らかになる。他方、本発明の有利な実施の形態やさらなる実施の形態は、下位請求項から明らかになる。
【0009】
それによると、本発明は、入力側で機械式に駆動可能な回転子部、及び/または、固定子部と、出力側で軸と回転しないように結合している電機子部と、当該電機子部と結合されているヒステリシス部と、を備えた調整可能なヒステリシスドライバーを前提として、固定子部は少なくとも一個の電磁石または永久磁石を有し、それを用いて回転子部及び/または固定子部の中に磁束が誘導可能であり、伝達可能なトルクの調整が電磁式または電気機械式に、例えば沈む深さを調整するためのサーボモーターによって、実施可能である。提示された課題を解決するために、ヒステリシスドライバーは、ヒステリシスクラッチまたはヒステリシスブレーキによって形成されており、「フェイルセーフ」機能を実現するために積極的に作用する手段を有しており、当該手段は、電磁石に対する電流供給停止の際に、機械式結合か永久磁石の磁力の作用によって、ヒステリシスクラッチの回転子部ないしヒステリシスブレーキの固定子部と電機子部との間でトルクの伝達を保証する、ということが考慮されている。
【0010】
この方策により、例えばヒステリシスクラッチを自動車のエンジンの補助駆動装置内に取り付ける際、電磁石の励磁巻線に対する電流供給が停止された場合でも、トルクはこのクラッチの入力側から出力側に伝達できる、ということが有利に保障される。このことは、エンジンのこの補助駆動装置が、エンジンのクランクシャフトからはじまり、ヒステリシスクラッチを介して、電力供給停止の際あるいは故障の際に廃熱を担う車両冷却装置を駆動することに役立つなら、特に重要であるかもしれない。
【0011】
本発明に従って形成されたヒステリシスブレーキに関して、電磁石の励磁巻線に対する電流供給停止の場合も同様に、トルク、主には負のトルク、が補助ユニットへの接続軸であり得る接続軸及び電機子部に伝達できる、ということが確認できる。
【0012】
本発明に従って形成されたヒステリシスクラッチを考慮して、本発明の第1の実施の形態に従えば、「フェイルセーフ」機能を実現するための手段は、上述の回転子部と回転しないように、しかし、軸方向には移動可能に結合された、少なくとも一つの第1機械式クラッチエレメントを包含しており、このエレメントは、電磁石に対する電流供給が停止した場合、電機子部と固定結合された第2機械式クラッチエレメントと、摩擦係合及び/または噛み合い係合して結合できる。
【0013】
これに対し、ヒステリシスブレーキが構成されている場合、この「フェイルセーフ」機能を実現するための手段は、上述の固定子部と回転しないように、しかし軸方向には移動可能に直接結合された、少なくとも一つの第1機械式クラッチエレメントを包含しており、このエレメントは、電磁石に対する電流供給が停止した場合、電機子部と固定結合された第2機械式クラッチエレメントと、摩擦係合および/または噛み合い係合して結合できる。
【0014】
本発明がさらに考慮しているように、第1機械式クラッチエレメントは、好ましくは、摩擦リングによって形成され、第2機械式クラッチエレメントは、摩擦ライニング(摩擦パッド)によって形成される。
【0015】
本発明のもう一つの実施の形態によると、2つの互いに対応する機械式クラッチエレメントが歯クラッチの構成要素として形成される、ということも考慮され得る。
【0016】
さらに、第1機械式クラッチエレメントは軸方向において、対応する第2機械式クラッチエレメントに対してばね力によって調整することができるが、通常運転では磁力によってヒステリシスクラッチの回転子部ないしはヒステリシスブレーキの固定子部に固定されている、という条件が実用的に役立つと評価される。第1機械式クラッチエレメントを局所的に固定するこの磁力は、この場合、電磁石の励磁巻線によって、または、別個の電気的補助磁石の励磁巻線によって、発生される。
【0017】
好ましくは、2つのクラッチエレメントの間で発生される摩擦係合および/または噛み合い係合を減じるまたは相殺する過負荷安全装置も装備される。これによって、ヒステリシスクラッチないしヒステリシスブレーキと共に作用する、例えば補助駆動装置ないし補助出力装置の構成要素は、損傷から効果的に保護され得る。
【0018】
本発明の第2の実施の形態によると、ヒステリシスドライバーは、そのヒステリシスドライバーのトルク伝達能力を調整するために、少なくとも一つの永久磁石に少なくとも一つの電磁石が割り当てられ、その磁場が永久磁石の磁場を印加された電圧に応じて変更または排除する、というように形成され得る。この場合、ヒステリシスドライバーの「フェイルセーフ」機能を実現するための手段は、永久磁石によっておのずと形成され、その磁場は、電磁石の電流供給停止の際に、変わらずに引き続き作用し、それによって、ヒステリシスクラッチの回転子部ないしはヒステリシスブレーキの固定子部と電機子部との結合を、トルクを伝達するために保証する。
【0019】
これに対し、本発明の第3の実施の形態は、ヒステリシスドライバーのトルク伝達能力を調整するために、ヒステリシスクラッチの回転子部ないしヒステリシスブレーキの固定子部とヒステリシス部の重なりを変更できる電気機械式調整ユニットが設けられることを考慮する。この場合、ヒステリシスドライバーの「フェイルセーフ」機能を実現するための手段は、少なくとも一つのスプリングエレメントによって形成されており、このエレメントは、電磁石の電流供給停止の際に、自動的に、ヒステリシスクラッチの回転子部ないしヒステリシスブレーキの固定子部とヒステリシス部とを、電機子部と共に、トルクの伝達が保証されるような位置に互いに対して移行させる。
【0020】
本発明を明確にするべく、以下の説明のために図を添付する。
【0021】
図1は、第1の実施の形態に従うヒステリシスクラッチの形態の、本発明に従って形成されたヒステリシスドライバーの断面図である。
【0022】
図2は、本発明に従って形成された、第2の実施の形態に従うヒステリシスクラッチの断面図である。
【0023】
図3は、第1の実施の形態に従うヒステリシスブレーキの形態の、本発明に従って形成されたヒステリシスドライバーの断面図である。
【0024】
図4は、本発明に従って形成された、第2の実施の形態に従うヒステリシスブレーキの断面図である。
【0025】
図1に示されたヒステリシスクラッチは、励磁ユニット1と、ヒステリシスクラッチの機能性に関して相互に作用(協働)するヒステリシスユニット2と、を有している。励磁ユニット1は、まず、主として出力軸である軸4上にボールベアリング3によって回転軸受けされた回転子部5を含んでいる。この回転子部は、ドライブプーリとして形成され、詳しくは図示されていない自動車のエンジンのクランクシャフトの柔軟なベルト材(Umschlingungsmittel)を介して、駆動可能である。さらに、固定配置されたハウジング部6と結合されている固定子部7’が、電磁石7aと共に存在し、この電磁石は、軸4ならびに回転子部5の軸に近い部分を部分的に同軸に取り囲んでいる。
【0026】
ヒステリシスユニット2は、回転対称の電機子部8によって形成されている。この電機子部8は、径方向内側で、回転しないように軸4と結合されており、径方向外側では、それ自体知られている均質のヒステリシス材から成る、軸方向に向けられたヒステリシスリングの形態のヒステリシス部9を有している。
【0027】
軸4は、ボールベアリング10によって、固定されたハウジング部6で支持され、詳しくは図示されていないが例えばクーラントポンプかファンであり得る補助ユニットと結合されている。
【0028】
ヒステリシスリングとして形成されているヒステリシス部9は、軸方向に、軟磁性材料からなる回転子5の同様に軸方向に向けられた空隙11内に、当該回転子に接することなく、達している。固定子部7’の電磁石7aの励磁巻線に電圧が印加されると、当該励磁巻線を通る電流に基づいて、磁場が形成される。この磁場は、駆動される回転子部5に、極から極へ交互に変わる極性を伴う磁束を誘導する。これは、ヒステリシス部9のヒステリシス材料の中で、回転子5の回転運動の際に、分子磁石(Elementarmagneten)の連続的変換につながり、これによって、ヒステリシス部9と固定結合されている電機子部8にトルクがもたらされる。このとき、電機子部8と回転しないように結合されている軸4は、そのトルクを、接続されている補助ユニットに伝達する。
【0029】
当業者にとっては、本発明の知識の中で、電磁石7aに対する電流供給の停止の際、回転子部5と電機子部8との間の電磁結合が中断されるということは、容易に理解することが出来る。必要な互いの相互作用で発生する電磁石7aの磁場がもはや形成され得ないからである。このことは、自動車のエンジン、及び/または、補助ユニットの秩序だった機能に依存している他の装置の厳しい運転条件に繋がる。
【0030】
このような厳しい運転状況に有効に対処できるように、本発明に従って、ヒステリシスクラッチのいわゆる「フェイルセーフ」機能を実現するために、少なくとも一つの積極的に作用する手段が設けられており、当該手段は、電磁石7aに対する電流供給が停止した場合でも、エンジンのトルクを補助ユニットへ伝達するために、回転子部5と電機子部8との間の規定の結合を保証する。
【0031】
ヒステリシスクラッチのこの「フェイルセーフ」機能を実現するための手段は、本発明の図1に示された実施の形態に従うと、少なくとも一つの、回転しないように、そして軸方向には移動可能に回転子部5と結合された第1機械式クラッチエレメント12によって形成されており、このエレメントは、電流供給の停止の際、電機子8と固定結合されている第2機械式クラッチエレメント13と摩擦係合および/または噛み合い係合して結合できる。
【0032】
第1機械式クラッチエレメント12は、本実施の形態では、摩擦ディスクとして形成されている。このエレメントは、目的に合うように、磁性鉄材で出来ている。この第1機械式クラッチエレメント12は、例えば回転子部5のガイド孔15内に取り付けられているガイドピンまたはボルト14を用いて、回転しないように、そして軸方向には移動できるように、当該回転子部5と結合され得る。
【0033】
この図示された実施の形態では、第1機械式クラッチエレメント12は、例えばコイル圧力ばね17bを介して、電機子部8の摩擦面13に対して押し付けられ得る。
【0034】
これに対するもう一つの別の可能性としては、第1機械式クラッチエレメント12がダイヤフラムばね17aと結合して、当該ばねが同様にトルクを伝達することができて、また、クラッチエレメント12の軸方向の動きを可能にするというものである。このダイヤフラムばね17aは、例えば、ボルトを使って回転子部5と結合されている。
【0035】
磁力による引力を第1機械式クラッチエレメント12に発生することができるように、回転子部5内には磁気分離が必要で、当該材料の中に、上述のガイドピンまたはボルト14も固定されている、ないしは、コイル圧力ばね17bが配置されている。
【0036】
通常の運転時、つまり、電流が電磁石7aの励磁巻線のコイルを流れる時、当該電流に基づいて磁場が形成され、その磁場は、一つには、駆動される回転子部5内で磁束を誘導し、もう一つには、第1機械式クラッチエレメント12をスプリングエレメント17のばね力に抗して磁力を使って回転子部5に固定することに役立っている。
【0037】
電磁石7aの励磁巻線によって生成される磁力の代わりに、別個の補助磁石の励磁巻線の磁力も、第1機械式クラッチエレメント12を回転子部5に固定するために使われることができる(詳しくは図示されていない)。
【0038】
異常(機能不良)により電磁石7aの励磁巻線を通る電流が停止する場合、スプリングエレメント17は以下のように作用する。すなわち、当該スプリングエレメント17が第1機械式クラッチエレメント12(摩擦ディスク)を第2機械式クラッチエレメント13(摩擦ライニング)に対して押しつけ、それによって、摩擦係合を実現し、当該摩擦係合によってヒステレシスクラッチの入力側から出力側へのトルク伝達が保証される。
【0039】
スプリングエレメント17のばね力を介して、伝達可能な最小の力についても、2つの機械式クラッチエレメント12と13との間で、例えば駆動ベルトのような構成部品やユニットの過負荷を回避するために、調整されることができる。
【0040】
摩擦ディスクと対応する摩擦ライニングとの間の摩擦係合の代わりに、本発明のもう一つの実施の形態に従えば、ヒステリシスクラッチの回転子部5と電機子部8との間での形状係合(噛み合い結合)を実現するための手段も設けられ得る。このために、例えば、詳しくは図示されていないが、相互に形状係合で噛み合わせることができる、それ自体知られた、好ましくはリング形状に形成された歯クラッチのクラッチエレメントが考えられる。
【0041】
このような歯クラッチのクラッチエレメントは、上記の実施の形態に依拠して、同様に鉄材で製造されており、通常運転で電磁石7aの励磁巻線に電流が印加された場合、上記の磁力によって互いに分離したままになる。電磁石7aの電流供給が停止したときに初めて、これら2つの機械式クラッチエレメントも、ばね力により、形状係合で相互に結合される。
【0042】
図2は、本発明に従って形成された第2のヒステリシスクラッチを示している。これは、本質的に、前述のヒステリシスクラッチとは、回転子部5が電磁的にではなく、少なくとも一つの、固定子部7’によって収容された永久磁石18により励磁可能であることによって、異なっている。
【0043】
ヒステリシスクラッチから伝達可能なトルクを調整するために、この少なくとも一つの永久磁石18に、少なくとも一つの電磁石19が割り当てられている。この電磁石も同様に固定子部7′によって収容されている。この電磁石19の磁場は、印加される電圧ないしは電磁石19を通って流れる電流に応じて、永久磁石18の磁場の強度を多かれ少かれ補整する。その結果、多かれ少かれより大きなスリップが、回転子部5と、電機子部8及びその上に固定されたヒステリシス部9で構成されるヒステリシスユニット2との間に生じ、これによって、ヒステリシスクラッチのトルクの大きさを調整することができる。
【0044】
電磁石19の電流供給が故障(機能不良)により停止すると、永久磁石18の磁場が完全に効力を発し、それによって結果的に、軸4や補助ユニットともども、ヒステリシス部9と固定結合している電機子部8に、規定のトルクが伝達される。
【0045】
詳しくは図示されていない本発明の第3の考えられる実施の形態に従えば、ヒステリシスクラッチを前提として、その回転子部5は少なくとも一つの永久磁石18によって励磁することができ、クラッチのトルクの調整は、電気機械式調整ユニットによって、回転子部5とヒステリシス部9との重なりまたは分離を変更可能であることにより実施される。このような公知の電気機械式調整ユニットは、例えばDE19746359C2に記述されている。
【0046】
このようなヒステリシスクラッチで、「フェイルセーフ」機能を実現するために、本発明によれば、少なくとも一つのスプリングエレメントが設けられている。そのエレメントは、電気機械式調整ユニット用の電流供給が停止した場合、回転子部5の電機子部8を含めたヒステリシス部9との結合がヒステリシスクラッチの入力側から出力側へトルクを伝達するために保証される、というようなポジションに、回転子部5とヒステリシス部9とを互いに対して自動的に移行させる。
【0047】
上述の実施の形態は、ヒステリシスクラッチの形態のヒステリシスドライバーに適合している。しかしながら、本発明によれば、軸4と回転しないように結合された電機子部8に本質的に負トルクをもたらすことに役立つヒステリシスブレーキも、ともに把握される。この軸4は、例えば、駆動されて、詳しくは図示されていない補助ユニットと結合された、接続軸であり得る。
【0048】
図3および4によれば、当該ヒステリシスブレーキは、前述のヒステリシスクラッチに対して、構造上まず単純に、回転子部5がなくて済む、ということによって異なっている。軸方向に向けられたヒステリシスリングの形態のヒステリシス部9は、いまや直接軸方向に、軟磁性材料で構成され固定配置された固定子部7”の、同様に軸方向に向けられた空隙11内に達している。この固定子部7”は、その側で、電磁石7aを包囲している。固定子部7”の電磁石7aの励磁巻線に電圧が印加されると、当該電流に基づいてその電流により磁場が形成される。この磁場が、公知のように、軸4と電機子部8とを介して外部電源によって回転駆動されるヒステリシス部9のヒステリシス材料の中で、分子磁石の連続的変換をもたらす。これによって、ヒステリシス部9と固定結合されている電機子部8及び軸4に、制動力の意味での負トルクがもたらされ得る。
【0049】
ここでもまた、電磁石7aに対する電流供給停止という厳しい運転条件に有効に対処するために、「フェイルセーフ」機能を実現するため、同様に上述の種類の第1機械式クラッチエレメント12が設けられている。このエレメントは、電流供給の停止の際、電機子部8と固定結合されている第2機械式クラッチエレメント13と摩擦係合および/または形状係合にて結合可能である。しかしながら、ヒステリシスクラッチと異なり、第1機械式クラッチエレメント12は、今や直接、固定子部7”で支持し、それによって、当該エレメントは固定配置されている(図3)。
【0050】
摩擦ディスクおよび摩擦ライニングとしての、あるいは、歯クラッチとしてのクラッチエレメント12、13の更なる形態および特別な機能性に関しては、上述のヒステリシスクラッチを考慮すれば、記すべき相違は何もない。その結果、それに対応する説明は不要とされ、図面では、同一部品に対して同一参照記号を使用している。
【0051】
図4は、図2で示されたヒステリシスクラッチに準じて、電磁的ではなく、少なくとも一つの、固定子部7”に固定配置された永久磁石18により励磁可能なヒステリシスブレーキを示している。
【0052】
ヒステリシスブレーキから軸4に伝達可能な負トルクないしブレーキトルクを調整するために、この少なくとも一つの永久磁石18には、同様に、少なくとも一つの電磁石19が割り当てられている。電磁石19の磁場は、印加される電圧ないしは電磁石19を通って流れる電流に応じて、永久磁石18の磁場の強度を多かれ少かれ補整し、それによって、ヒステリシスブレーキの負トルクの大きさを調整することができる。
【0053】
電磁石19の電流供給が故障(機能不良)により停止すると、永久磁石18の磁場が完全に効力を発し、それによって結果的に、軸4や補助ユニットともども、ヒステリシス部9と固定結合している電機子部8に、規定の負トルクが伝達される。
【0054】
詳しくは図示されていない第3の考えられる実施の形態に従えば、少なくとも一つの固定子部7”に固定配置された永久磁石18によって励磁することができるヒステリシスブレーキを前提としている。もたらされるべき負トルクの調整は、すでに上でヒステリシスクラッチについて述べたのと同様に、電気機械式調整ユニットによって固定子部7”とヒステリシス部9との重なりまたは分離を変更可能であることにより実施され得る。
【0055】
このようなヒステリシスブレーキで、「フェイルセーフ」機能を実現するために、同じように、少なくとも一つのスプリングエレメントが設けられる。そのエレメントは、電気機械式調整ユニット用の電流供給が停止した場合、固定子部7”の電機子部8を含めたヒステリシス部9との結合が規定の負トルクを伝達するために保証される、というようなポジションに、固定子部7”とヒステリシス部9とを互いに対して自動的に移行させる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1の実施の形態に従うヒステリシスクラッチの形態の、本発明に従って形成されたヒステリシスドライバーの断面図である。
【図2】本発明に従って形成された、第2の実施の形態に従うヒステリシスクラッチの断面図である。
【図3】第1の実施の形態に従うヒステリシスブレーキの形態の、本発明に従って形成されたヒステリシスドライバーの断面図である。
【図4】本発明に従って形成された、第2の実施の形態に従うヒステリシスブレーキの断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側で機械式に駆動可能な回転子部(5)、及び/または、固定子部(7’、7”)
と、
出力側で、軸(4)と回転しないように結合している電機子部(8)と、
当該電機子部(8)と結合されているヒステリシス部(9)と、
を備え、
固定子部(7’、7”)は、少なくとも一個の電磁石(7a)または永久磁石(18)を有し、当該磁石を用いて、回転子部(5)及び/または固定子部(7’、7”)の中に磁束が誘導可能であり、伝達可能なトルクの調整が電磁式または電気機械式に実行できる、
という調整可能なヒステリシスドライバーであって、
当該ヒステリシスドライバーは、ヒステリシスクラッチまたはヒステリシスブレーキによって形成されており、
「フェイルセーフ」機能を実現するために、積極的に作用する手段を有しており、
当該手段は、電磁石(7a)に対する電流供給停止の際に、機械式結合によるか、あるいは、永久磁石の磁力作用によって、ヒステリシスクラッチの回転子部(5)ないしヒステリシスブレーキの固定子部(7”)と電機子部(8)との間でトルクの伝達を保証する
ことを特徴とする調整可能なヒステリシスドライバー。
【請求項2】
前記「フェイルセーフ」機能を実現するための手段は、前記回転子部(5)と回転しないように、しかし、軸方向には移動可能に結合された、少なくとも一つの第1機械式クラッチエレメント(12)によって形成されており、
当該エレメントは、電磁石(7a)に対する電流供給停止の際に、前記電機子部(8)と固定結合された第2機械式クラッチエレメント(13)と、摩擦係合および/または噛み合い係合して結合できる
ことを特徴とする、ヒステリシスクラッチの形態をした、請求項1に記載のヒステリシスドライバー。
【請求項3】
前記「フェイルセーフ」機能を実現するための手段は、前記固定子部(7”)と回転しないように、しかし、軸方向には移動可能に結合された、少なくとも一つの第1機械式クラッチエレメント(12)によって形成されており、
当該エレメントは、電磁石(7a)に対する電流供給停止の際に、前記電機子部(8)と固定結合された第2機械式クラッチエレメント(13)と、摩擦係合および/または噛み合い係合して結合できる
ことを特徴とする、ヒステリシスブレーキの形態をした、請求項1に記載のヒステリシスドライバー。
【請求項4】
第1機械式クラッチエレメント(12)は、摩擦リングによって形成されており、
第2機械式クラッチエレメント(13)は、摩擦ライニングによって形成されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載のヒステリシスドライバー。
【請求項5】
2つの互いに対応する機械式クラッチエレメント(12、13)は、歯クラッチの構成要素として形成されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載のヒステリシスドライバー。
【請求項6】
第1機械式クラッチエレメント(12)は、軸方向において、対応する第2機械式クラッチエレメント(13)に対してばね力によって調整することができるが、通常運転では、磁力によって、ヒステリシスクラッチの回転子部(5)ないしはヒステリシスブレーキの固定子部(7”)に固定されている
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載のヒステリシスドライバー。
【請求項7】
第1機械式クラッチエレメント(12)を局所的に固定する磁力は、電磁石(7a)の励磁巻線によって、または、別個の補助磁石の励磁巻線によって、発生される
ことを特徴とする請求項6に記載のヒステリシスドライバー。
【請求項8】
2つの機械式クラッチエレメント(12、13)の間で発生される摩擦係合および/または噛み合い係合を減じるまたは相殺する過負荷安全装置が装備されている
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載のヒステリシスドライバー。
【請求項9】
ヒステリシスドライバーのトルク伝達能力を調整するために、少なくとも一つの永久磁石(18)に、少なくとも一つの電磁石(19)が割り当てられており、その磁場は、永久磁石(18)の磁場を、印加された電圧に応じて変更または排除し、
ヒステリシスドライバーの「フェイルセーフ」機能を実現するための手段は、永久磁石(18)によっておのずと形成され、その磁場は、電磁石(19)の電流供給停止の際に、変わらずに引き続き作用し、それによって、ヒステリシスクラッチの回転子部(5)ないしはヒステリシスブレーキの固定子部(7”)と電機子部(8)との結合を、トルクを伝達するために、保証する
ことを特徴とする請求項1に記載のヒステリシスドライバー。
【請求項10】
ヒステリシスドライバーのトルクを調整するために、ヒステリシスクラッチの回転子部(5)ないしヒステリシスブレーキの固定子部(7”)とヒステリシス部(9)の重なりを変更できる電気機械式調整ユニットが設けられており、
ヒステリシスドライバーの「フェイルセーフ」機能を実現するための手段は、少なくとも一つのスプリングエレメントによって形成されており、
当該エレメントは、電磁石(7a)の電流供給停止の際に、自動的に、ヒステリシスクラッチの回転子部(5)ないしヒステリシスブレーキの固定子部(7”)とヒステリシス部(9)とを、電機子部(8)と共に、トルクの伝達が保証されるような位置に互いに対して移行させる
ことを特徴とする請求項1に記載のヒステリシスドライバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−522114(P2008−522114A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543754(P2007−543754)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012710
【国際公開番号】WO2006/058688
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(500045121)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (312)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
【Fターム(参考)】