説明

貝類養殖槽および貝類養殖方法

【課題】水槽内に仕切板を設けた循環式の養殖槽を使用して、水流の方向および水流量に規則性を持たせて養殖槽内の水を移動させやすく、水質を安定なものとするとともに、貝類を好適な環境で良好に成育させることができる、貝類養殖槽及びこれを用いた貝類養殖方法を提供する。
【解決手段】排水口10bと導水口10aを有する水槽2の内部に互いに間隔をおいて傾斜状態に配置された複数の仕切板3α,3βを備え、排水口10bから排出される排水を浄化、殺菌して導水口10aに帰還させることで水槽2内の水を循環させながら貝類を養殖する貝類養殖槽1であって、複数の仕切板3α,3βにはそれぞれ通水可能な貫通孔3a,3bが形成されており、同貫通孔3a,3bの形成位置が、隣り合う仕切板どうしで水槽2内上下方向にみて互いに上下逆となる位置関係とするにあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝類を養殖するための設備および方法に関し、特に、アワビの養殖に適した陸上の貝類養殖槽および貝類養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貝類の養殖方法について様々な方法があるが、代表的な養殖方法として海上で養殖籠を使用した方法がある。しかし、海上の養殖では台風、シケ、赤潮等の被害を受けやすく、更に四季の水温の温度差もあって、貝類の成育を管理および制御することが難しいという問題があった。このような海上での貝類の養殖方法の問題を解消するために、陸上施設による養殖方法が提案されている。陸上施設を用いた養殖方法の一例として特許文献1記載の養殖方法がある。この方法は、多数の稚貝植付穴に稚貝を植えつけた貝類養殖盤を、新鮮な海水が供給された陸上水槽内に設置することで、稚貝を成長させる貝類の養殖方法であり、自然海域における養殖方法に比べて効果的に養殖できる方法であるとしている。また、この養殖方法においては、養殖に必要な海水を海中からポンプでポンプアップして貯水槽に供給し、また海水が汚濁している場合は、陸上水槽から貯水槽に海水を戻し、濾過装置で濾過して陸上水槽に供給することにより、海水を循環させている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の貝類の養殖方法は、海水を濾過して循環させているものの、温度管理や殺菌管理等の水質管理がなされていないため、海水をある程度循環させた後に排水していると推察され、完全な閉鎖系で養殖することはできないと推察される。このため、多量の新鮮な海水を入れるために、都度ポンプアップする必要がある。また、貝類養殖盤を自然光が届くように面状に敷設して中間育成するため、水槽の空間の一部しか使用しておらず、養殖効率が悪い。
このように、特許文献1に記載の養殖方法は、海上における養殖方法の問題を解消したとはいえ、更なる改良の余地が残されており、その後も改良された循環式の養殖設備が提案されている。
【0004】
例えば特許文献2には、養殖用の稚魚、稚貝を収容するための水槽と、ミネラル分を含んだ多孔質の濾材が収容された濾過タンクと、水槽と濾過タンクとの間で水を循環させるための配管系と、この配管系に介在される循環ポンプと、水槽内の水温を制御するための水温調整器と、水槽内の貯水を流動させて一定の水流を形成する回流形成手段とを備えた魚介類の養殖システム及び養殖方法が記載されている。
【0005】
また特許文献3には、魚介類の循環式飼育装置の養殖槽内に、複数枚の仕切板からなる仕切装置を配置し、この仕切板を養殖槽の側壁に水平な底壁に対して一定の傾斜角度をとって固定し、仕切板の表面に一個ないし複数個の突出部と開口とを設けた魚介類の循環式飼育装置の仕切装置を使用した養殖方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−117628号公報
【特許文献2】特開2002−119169号公報
【特許文献3】特開2000−342105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載された魚介類の養殖システムの水槽内には、中空状のコンクリートブロック等を配置して、貝類はこのコンクリートブロック等に付着して成長するが、コンクリートブロックの配置の仕方によっては水流の抵抗となる。従って、コンクリートブロック間における水流は、部分的に方向を転じて、その水流量も一定ではなく、不規則な流れとなっている。
【0008】
また、特許文献3に記載された仕切装置は、循環式飼育装置の飼育槽内に各々が平行をなして配置されており、仕切板の中央部付近または上下部付近には開口部が形成されている。このため、循環水は仕切板の中央部付近または上下部付近を流れるようになっており、仕切板間における水流は、方向を部分的に転じて上昇流あるいは渦流となり、その水流量も一定ではなく不規則な流れとなっている。
【0009】
以上のように、従来の循環式の養殖設備を用いた養殖方法においては、水槽や飼育槽等の養殖槽内における水流の方向やその方向を転じた水流量が不規則であるために、養殖槽内に滞留する水が発生して水を循環させにくいという問題を抱えており、養殖槽外へ水を輸送させても水の浄化を完全に行うことができなかったり、水中に生息する細菌等の殺菌が不完全となったり、水中の溶存酸素濃度が不安定になったりする等、水質が安定しないという問題がある。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、水槽内に仕切板を設けた循環式の養殖槽を使用して、水流の方向および水流量に規則性を持たせて養殖槽内の水を移動させやすく、水質を安定なものとするとともに、貝類を好適な環境で良好に成育させることができる、貝類養殖槽及びこれを用いた貝類養殖方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の貝類養殖槽は、排水口と導水口を有する水槽の内部に互いに間隔をおいて傾斜状態に配置された複数の仕切板を備え、前記排水口から排出される排水を浄化、殺菌して前記導水口に帰還させることで前記水槽内の水を循環させながら貝類を養殖する養殖槽であって、複数の仕切板にはそれぞれ通水可能な貫通孔が形成されており、貫通孔の形成位置が、隣り合う仕切板どうしで前記水槽内上下方向にみて互いに上下逆となる位置関係にあることを特徴とする。
【0012】
貫通孔どうしが交互に仕切板の上下に位置するように仕切板を配置することにより、養殖槽内の水流の方向および水流量に規則性を持たせることができる、即ち仕切板の貫通孔に水を通して水流の方向を順次上向きと下向きに交互に変えながら養殖槽内を移動させることができる。このため、養殖槽内に水が滞留することを防止して淀みのない状態とすることができ、水を移動させて水の浄化を確実に行うことが可能となる。これにより、水中に生息する細菌等を確実に殺菌しやすくなり、水中の溶存酸素濃度を安定なものとすることができるため、仕切板で水槽を仕切りながらも水質を安定なものとすることができる。従って、貝類を水質の安定した水を用いて好適な環境で良好に管理しながら成育させることができる。
【0013】
ここで、水槽の底部に、少なくとも酸素を含む気体を噴出する散気管を設けることが望ましい。これにより、養殖槽内の水中へ十分に酸素を供給することができる。また、仕切板間の溶存酸素濃度のばらつきを小さくすることができ、水中の溶存酸素濃度を更に安定したものとすることができる。なお、少なくとも酸素を含む気体としては、空気または酸素濃度が高められた空気とすることが望ましい。
【0014】
さらに前記散気管を、仕切板の下端部の近傍であって、仕切板の傾斜角が鋭角である側に設ければ、気流が仕切板の背面に当たって、上方へ向かう水流を更に上方へ押し上げて水流を形成しやすくすることができ、養殖槽内の水を更に移動させやすいものとすることができる。
【0015】
また、仕切板の少なくとも上方の片面に複数の突条を水平に配置すれば、突条に飼料を引っ掛からせて載置することができる。
さらに、水槽の底部に、異物を吸引して排出するための異物排出管を設ければ、養殖中に発生する有機物等の異物を排出させることができる。これにより、水槽内の水をきれいに保つことができる。
【0016】
本発明の貝類養殖方法は、上記の貝類養殖槽を使用して貝類の養殖を行う方法であって、導水口から水槽内に導入した水を、複数の仕切板の間において、水流の方向が上下交互に変化するように通過させ、排水口からの排水を浄化、殺菌して前記水槽に帰還させることで水を循環させる工程を含むことを特徴とする。このように上記の貝類養殖槽を使用して、養殖槽内の水流の方向および水流量に規則性を持たせ、仕切板の貫通孔に水を通して水流の方向を順次上向きと下向きに変えながら養殖槽内を移動させることにより、仕切板で水槽を仕切りながらも養殖槽内に水が滞留することを防止して淀みのない状態とすることができ、水を移動させて水の浄化を確実に行うことが可能となる。
【0017】
さらに、水槽の底部に設置された散気管からオゾンを含む気体を噴出して水槽内の水に対して曝気を行うことが望ましい。オゾンは強力な酸化力により殺菌、脱臭、脱色作用があり、魚毒性のある亜硝酸を短時間でより毒性の低い硝酸へと酸化し、アンモニアを窒素ガス化(脱窒)することもできる。本発明においては、散気管から噴出されるオゾン濃度を低く調整することにより、貝類の成育に影響しないように、養殖槽内の異物である有機物質の分解を促進し、水に含まれる細菌等の発生を抑え、貝類の病気の予防対策とすることができる。
【0018】
さらに、複数の仕切板の全部または一部の仕切板の上面側に飼料を載置して給餌すれば、水面上から給餌することができるため、給餌を容易とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の特徴は、それぞれ通水可能な貫通孔が形成された複数の仕切板を水槽内に傾斜状態に配置して、この貫通孔の形成位置を隣り合う仕切板どうしで水槽内上下方向にみて互いに上下逆となる位置関係としたことにある。このような位置関係とすることにより、仕切板で水槽を仕切りながらも水質を安定なものとすることができる。従って、貝類を水質の安定した水を用いて好適な環境で良好に管理しながら成育させることができる。また、水を移動させやすくなることから、循環させるための原動力となるポンプ等の設備の負担を軽減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態である貝類養殖槽を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態である貝類養殖槽を利用した貝類養殖設備を示し仕切板を外した状態の構成図であり、図2は本発明の実施形態である貝類養殖槽を構成し仕切板を備えた養殖槽の垂直断面図であり、図3(a)は仕切板の正面図であり、同(b)は前記(a)のA−A線断面図であり、同(c)は前記(b)の上下を逆にした倒立図である。
【0021】
本発明の実施形態である貝類養殖槽1は、主にアワビを中心とした貝類を養殖するためのものであり、これを利用した貝類養殖設備は、海水(以下、水と略称する。)を貯留して養殖を行うための貝類養殖槽1と、循環する水を浄化するための濾過器6と、水をオゾンにより殺菌するための殺菌槽7と、オゾン量を調節するオゾン調整器8と、水温を調節するクーラー9とを備えている。貝類養殖槽1には、図示しないポンプにより一方の側面に設けられた導水口10aから浄化された水が導入され、貝類養殖槽1内を移動させて他方の側面に設けられた排水口10bから排出される。排出された水は、常時、循環用配管4を通り濾過器6により砂濾過されて水から固形不純物が除去され、更に殺菌槽7により殺菌された後、オゾン調整器8と水温を下げるためのクーラー9を通って、再び導水口10aへと浄化された水が導入される。以上のように、貝類養殖槽1は、循環式の閉鎖系の養殖槽としている。
【0022】
また、貝類養殖槽1内の底部11には、養殖により発生した有機物等の異物を吸引して排出するための異物排出管5aが、後述する各仕切板3α,3β(図2参照)間に配置されており、この異物排出管5aを通る異物等を含んだ水は、異物排出管5bに集められてこれを通り、濾過器6により濾過されて、循環用配管4を通る水と混合されて再度同様に貝類養殖槽1内を循環する。さらに貝類養殖槽1内の底部11には、後述する散気管14が設けられている。ここで、貝類養殖槽1の大きさは、幅が略1.5m、高さが略0.8m、長さが略4mであり、仕切板3α,3βの大きさは幅が略0.5m、高さが略0.6〜0.8mとしている。
【0023】
貝類養殖槽1は、排水口10bと導水口10aを有する水槽2と、この水槽2の内部に互いに間隔をおいて傾斜状態に配置された複数の仕切板3α,3βと、水槽2の底部11に設けられ空気を噴出する散気管14とを備えている。仕切板3α,3βにはそれぞれ通水可能な貫通孔3a,3bが形成されており、同貫通孔3a,3bの形成位置が、隣り合う仕切板どうしで水槽内上下方向にみて互いに上下逆となる位置関係となっており、上部に貫通孔3aがある仕切板3αの隣の仕切板3βの貫通孔3bは、仕切板3βの下部にあり、下部に貫通孔3bがある仕切板3βの隣の仕切板3αの貫通孔3aは、仕切板3αの上部に位置している。
【0024】
ここで、図3(a)に示す仕切板3αの貫通孔3aは二列としており、且つ上下にならないように配置されている。仕切板3αは上下を逆にして使用することが可能であり、図3(a)の仕切板3αを上下を逆にして使用すると貫通孔3aは、図3(c)に示す仕切板3βの貫通孔3bとなり仕切板3の下部に位置させることができる。
【0025】
このような構成とすることにより、貫通孔3a,3bが交互に仕切板3α,3βの上下に位置するように仕切板3α,3βを配置することにより、貝類養殖槽1内の水流の方向および水流量に規則性を持たせる、即ち仕切板3α,3βの貫通孔3a,3bに水を通して水流の方向を順次上向きと下向きに交互に変えながら貝類養殖槽1内を移動させることができる。このため、貝類養殖槽1内に水が滞留することを防止して淀みのない状態とすることができ、水を貝類養殖槽1外へ移動させて、水の浄化を確実に行うことが可能となり、水中に生息する細菌等を確実に殺菌しやすくなり、水中の溶存酸素濃度を安定なものとすることができる等、仕切板3α,3βで水槽を仕切りながらも水質を安定なものとすることができる。従って、アワビを水質の安定した水を用いて好適な環境で良好に管理しながら成育させることができる。
【0026】
ここで、貫通孔3a,3bの形状は円形であり、その直径の大きさは略3〜10cmであるが、より好ましくは5〜6cmである。このような大きさとすることにより、水流が各貫通孔に分散して流れやすくなり、水が部分的に滞留することを防止して、淀みやムラをなくすことができる。しかし、貫通孔3a,3bの直径が3cm未満とすると、水の抵抗が大きくなって水が流れにくくなり好ましくない。また直径が10cmを超えると、一部の貫通孔に水の流れが集中し、水が部分的に滞留する恐れがあるため好ましくない。さらに、貫通孔3a,3bの形状は円形に限定されるものではなく、前記範囲内で楕円形としても良い。また、貫通孔3a,3bには網が設けられており、アワビが貫通孔3a,3bを通って移動することを防止している。
【0027】
また、仕切板3α,3βの上方側の片面には、棒状の突条13が水平に複数配置され、突条13どうしが互いに平行をなしている。同突条の突出高さを仕切板3α,3βの厚みと同程度の大きさとすることが望ましく、突条13の厚さと突出高さは1〜2cmとし、略1.5cmが好ましい。また、本実施形態では突条13は仕切板3α,3βの片面に5本配置しているが、飼育する貝類の種類や成育過程により変更することができる。更に、仕切板3α,3βの傾斜角度を40°〜70°とし、好ましくは65°である。以上のように、仕切板3α,3βに突条13を設けたことにより、突条13に人工飼料を引っ掛からせて載置することができる。また、突条13を棒状として突条13の突出高さを小さくすることにより、水の流れを妨げないものとすることができる。
【0028】
また、突条13を棒状とし厚さ(上下方向の長さ)を小さくすることにより、仕切板3α,3βの表面に所定間隔ごとに複数本の突条13を設けることができ、飼料を載置しやすい仕切板3とすることができる。なお、仕切板3の材質は、繊維強化プラスチック(FRP)製としているが、これに限定されるものではない。
【0029】
次に、散気管14について図1,図2,図4を用いて説明する。図4は図2に示す貝類養殖槽1内における水の流動状態を示す図である。
水槽2の底部11には、位置決め部材12上に仕切板3α,3βが設けられており、位置決め部材12は、使用中には仕切板3α,3βの滑り防止機能としても機能する。そして、複数の散気管14が、仕切板3α,3βの下端部の近傍であって、この仕切板3α,3βの傾斜角が鋭角である側、すなわち仕切板3α,3βの背面側に設けられており、各仕切板3α,3β間には一つずつ配置されている。このように散気管14を設置することにより、エアポンプAPから送気される空気を噴出させて、貝類養殖槽1内の水中へ十分に酸素を供給することができる。さらに、複数の水槽2を連続させて貝類養殖槽1を形成しても、貝類養殖槽1内の水中へ十分に酸素を供給することができる。
【0030】
また、気泡が仕切板3α,3βの背面に当たって、上方へ向かう水流を更に上方へ押し上げる水流を形成しやすくなって貝類養殖槽1内の水を移動させやすくなり、仕切板3α,3β間の溶存酸素濃度のばらつきを小さくすることができるとともに、水中の溶存酸素濃度を安定したものとすることができる。また、散気管14から発生する気泡が貝類に接触して、貝類に適度な刺激を与えることができると推察される。なお、散気管14は、全ての仕切板3α,3βの間に設けられているが、状況に応じて一部の仕切板3α,3βの間にのみ設けることもでき、さらに、二枚の仕切板間に複数設けても良い。
【0031】
また、図4に示すように、貝類養殖槽1内において、水流W1,W2を形成することができる。上方へ移動した水流W2は貫通孔3aを通過して下方へと移動する水流W1となり、更に貫通孔3bを通過して再度水流W2となる。従って、散気管14により空気を散気しながら水流の上下移動を繰り返すことにより、仕切板3α,3β間の溶存酸素濃度のばらつきをなくすることができる。更に、仕切板3α,3βの下方側の面(背面)にも突条13を設ければ、散気された空気が突条13に当接することによって、空気が分散しながら上方へ向かうため、空気と水との接触面積が増えて、水中の溶存酸素濃度が更に安定したものとなる。
【0032】
次に、異物の処理方法について図1,図2,図4を用いて説明する。異物は、有機物が主体であり、水流W1,W2とともに仕切板3α,3β間を対流し、一部は底部11に沈降する。ここで、異物排出管5aは、底部11上であり仕切板3α,3β間の中央付近、より詳しくは、仕切板3α,3β間の中央位置よりもやや仕切板3α,3βの背面側に配置されており、水槽2内の異物は、水流W2のあとに下方へ向かう水流W3の流れにのって異物排出管5aの方へ向かい異物排出管5a付近で溜まり異物Tとなる。
【0033】
次に、異物排出管5aについて図5を用いて説明する。図5は底部11に設けられた異物排出管5aの断面の一例を示す図である。異物排出管5aは断面C字状のパイプであり、異物Tを吸い込み可能な開口Sが、異物排出管5aを切り欠いて設けられている。異物Tを吸い込む場合には、バルブ15(図1,図2参照)の開けると異物排出管5bからの吸引力により異物Tが吸い込まれて排出し、排出後はバルブ15を閉める。
ここで、図5(a)に示す異物排出管5aは、面が底部11に接するように設けられ、且つ、開口Sがほぼ真横(図5(a)中の右方向)であり仕切板3α,3βの角度が鈍角である側を向いた状態で設けられている。異物排出管5aをこのような状態で設ければ、異物Tを開口3から吸入することができる。
【0034】
また、図5(b)に示す異物排出管5aは、面が底部11に接するように設けられ、且つ、開口Sが斜め下方(図5(b)中の右下方向)であり仕切板3α,3βの角度が鈍角である側を向いた状態で設けられている。異物排出管5aをこのような状態で設ければ、溜まっている異物Tを斜め下方からすくい上げるように吸引することができ、さらに底部11の異物Tを除去しやすくなる。
さらに、図5(c)に示す異物排出管5aは、円筒状のパイプを大きく切り欠いて、下端を底部11に固着して底部11から上方に開口Sを形成しており、この開口Sは、仕切板3α,3βの角度が鈍角である側を向いている。異物排出管5aをこのように設ければ、開口Sの大きさを適宜調節することができる。
【0035】
なお、異物排出管5aの形状については上記したものに限定されることなく、異物Tを吸いこみやすいように他の形状としても良い。
以上のように、異物排出管5aを設けたことにより、水流W1,W2,W3の作用を受けて底部11に溜まった異物Tを効果的に除去することができ、一回/日程度の頻度で充分な清掃を行うことができる。
【0036】
また、仕切板3α,3β間以外の場所、即ち、貝類養殖槽1内の下流側の底部11においては散気管14の密度を増やして配置しており、更に溶存酸素濃度も高めることができる。散気管14からは、空気のみならず、酸素濃度を高めた空気や酸素を放出するようにしても良い。
さらに、散気管14から噴出される空気にオゾンを混合している。このオゾンにより、貝類養殖槽1内の異物の分解を促進し、水に含まれる細菌等の発生を抑えることができるとともに、水中に噴出されたオゾンは分解されて酸素となるため、更に溶存酸素濃度を高め、また、アンモニアを脱窒させることができる。また、貝類養殖槽1内で細菌等の発生を抑えるため、貝類の病気の予防にもなり、殺菌槽7の負荷を小さくすることもできる。
【0037】
また、貝類養殖槽1内の導水口10a付近には溶存酸素濃度とオゾン濃度を測定するためのセンサ21を設けており、濃度の測定値により、アワビの成長に応じて貝類養殖槽1内の水の循環回転数をコントロールすることもできる。例えば、溶存酸素濃度が低下すれば水流の流速を上げ、溶存酸素濃度が高くなれば水流の流速を下げて溶存酸素濃度を調整することができる。本実施例では1日当たりの貝類養殖槽1内の循環回転数を6〜15回の間で調整している。また、センサ21は図示しないオゾン発生装置と直結しているため、この装置を連続的または断続的に運転することによりオゾン濃度を調整することができる。
【0038】
ここで、本実施形態の貝類養殖槽1においては貝類養殖槽1を一つのみとして示したが、これに限定されるものではなく、貝類養殖槽1を複数連結して更に大きな貝類養殖槽とすることもできる。また、本実施形態においてはアワビを飼育を想定しているが、アワビに限定されることなく、その他の貝類にも適用することができる。水は海水に限定されることなく、貝類の種類に合わせて淡水とすることもできる。更に、本実施形態の水は、循環式であるため都度、浄化や殺菌がなされているが、長期間使用した後には新鮮な水を入れ替えて再度循環させて飼育しても良い。
【0039】
本発明の貝類養殖方法は、本発明の貝類養殖槽1を使用して貝類の養殖を行う方法であって、貝類養殖槽1の水槽の導水口10aと排水口10bの間で、水槽2内に配置された複数の仕切板3α,3βの間を水流の方向を交互に上下方向に順次変化させながら水槽2に導入した水を通過させ、排水口からの排水を浄化、殺菌して水槽2に帰還させることで水を循環させている。このように貝類養殖槽1を使用して、貝類養殖槽1内の水流の方向および水流量に規則性を持たせて、仕切板3α,3βの貫通孔3a,3bに水を通して水流の方向を順次上向きと下向きに変えながら貝類養殖槽1内を移動させることにより、仕切板3α,3βで水槽2を仕切りながらも貝類養殖槽1内に水が滞留することを防止して淀みが無くムラのない状態とすることができ、水を循環させて水の浄化を確実に行うことが可能となる。従って、貝類を水質の安定した水を用いて好適な環境で良好に管理しながら成育させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の貝類養殖槽およびこれを用いた貝類養殖方法は、循環式の養殖施設を用いてアワビを中心とした貝類を養殖する養殖産業の分野において、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態である貝類養殖槽を利用した貝類養殖設備を示し仕切板を外した状態の構成図である。
【図2】本発明の実施形態である貝類養殖槽を構成し仕切板を備えた養殖槽の垂直断面図である。
【図3】(a)は仕切板の正面図であり、(b)は前記(a)のA−A線断面図であり、(c)は前記(b)の上下を逆にした倒立図である。
【図4】図2に示す貝類養殖槽内における水の流動状態の概要を示す断面側面図である。
【図5】底部に設けられた循環用配管の断面の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 貝類養殖槽
2 水槽
3α,3β 仕切板
3a,3b 貫通孔
4 循環用配管
5a,5b 異物排出管
6 濾過器
7 殺菌槽
8 オゾン調整器
9 クーラー
10a 導水口
10b 排水口
11 底部
12 位置決め部材
13 突条
14 散気管
15 バルブ
21 センサ
W1,W2,W3 水流
AP エアポンプ
S 開口
T 異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水口と導水口を有する水槽の内部に互いに間隔をおいて傾斜状態に配置された複数の仕切板を備え、前記排水口から排出される排水を浄化、殺菌して前記導水口に帰還させることで前記水槽内の水を循環させながら貝類を養殖する養殖槽であって、
前記複数の仕切板にはそれぞれ通水可能な貫通孔が形成されており、前記貫通孔の形成位置が、隣り合う仕切板どうしで前記水槽内上下方向にみて互いに上下逆となる位置関係にあることを特徴とする貝類養殖槽。
【請求項2】
前記水槽の底部には、少なくとも酸素を含む気体を噴出する散気管が設けられている請求項1記載の貝類養殖槽。
【請求項3】
前記散気管は、前記仕切板の下端部の近傍であって、前記仕切板の傾斜角が鋭角である側に設けられている請求項2記載の貝類養殖槽。
【請求項4】
前記仕切板の少なくとも上方の片面に複数の突条が水平に配置されている請求項1から3のいずれかの項に記載の貝類養殖槽。
【請求項5】
前記水槽の底部には、異物を吸引して排出するための異物排出管が設けられている請求項1から4のいずれかの項に記載の貝類養殖槽。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの項に記載の貝類養殖槽を使用して貝類の養殖を行う方法であって、前記導水口から前記水槽内に導入した水を、前記複数の仕切板の間において、水流の方向が上下交互に変化するように通過させ、前記排水口からの排水を浄化、殺菌して前記水槽に帰還させることで水を循環させる工程を含むことを特徴とする貝類養殖方法。
【請求項7】
さらに、前記水槽の底部に設置された散気管からオゾンを含む気体を噴出して前記水槽内の水に対して曝気を行う工程を含む請求項6記載の貝類養殖方法。
【請求項8】
さらに、前記複数の仕切板の全部または一部の仕切板の上面側に飼料を載置して給餌する工程を含む請求項6または7記載の貝類養殖方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−159507(P2007−159507A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361955(P2005−361955)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(505464383)
【Fターム(参考)】