説明

負荷制御システム、直流負荷、端末装置

【課題】複数台の直流負荷に対する制御要求が生じた場合でも、直流供給線路を伝送される通信信号について所要のSN比を確保できるようにする。
【解決手段】端末装置4は、直流供給線路2を伝送路として通信信号を授受する端末側通信部41と、通信信号を用いて直流負荷3に制御要求を与える処理部42とを有している。各直流負荷3は、直流供給線路2を伝送路として通信信号を授受する負荷側通信部31と、端末装置4からの制御要求に応じて動作状態を制御する制御部32とを有している。さらに、各直流負荷3には、端末装置4からの制御要求に応じて制御部32が動作状態を制御する制御タイミングを直流負荷3ごとにずらす調整部7が設けられている。調整部7は、負荷側通信部31が制御要求を含む通信信号を受信した時点から、各直流負荷3に固有の待ち時間が経過した時点で、制御部32に対して制御要求に応じた動作状態の制御を実行させる指示を出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流供給線路を介して端末装置が複数台の直流負荷を制御する負荷制御システム、直流負荷、端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、住宅などの分電盤に配設したAC/DCコンバータによって商用電源等の交流電源を直流電源に変換し、各部屋に配置された直流アウトレットに対して分電盤から直流電力を配電するDC配電システムが提案されている。このDC配電システムに関しては、交流電力を供給する電力線において交流電圧に通信信号を重畳させる電力線搬送技術と類似の技術として、直流電力の給電路である直流供給線路を通信路に兼用する技術が考えられている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のシステムは、複数台の直流負荷(照明器具)が接続された直流供給線路を通信路として、高周波の搬送波を用いてデータを伝送する通信信号を直流電圧に重畳することにより、端末装置(管理装置)と直流負荷との通信を可能にする。この負荷制御システム(照明制御システム)によれば、直流供給線路に接続された複数台の直流負荷の動作状態(点灯状態)を、1台の端末装置で通信信号により制御することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−158116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記負荷制御システムでは、複数台の直流負荷に対する制御要求(制御の指示)が生じた場合に、これら複数台の直流負荷の動作状態が同時に変化し、直流供給線路上の直流電圧が過渡応答によって比較的大きく変動する可能性がある。その結果、直流電圧の変動により、同じ直流供給線路を伝送される通信信号のSN比が低下し、通信信号の符号誤り率を規定値以下に保つために必要な所要のSN比を確保できなくなることがある。
【0006】
すなわち、図6(a) のように個々の直流負荷の動作状態の変化に起因した電圧変動の振幅は小さくても、複数台で動作状態が同時に変化すると、これらの電圧変動が合算され、図6(b)のように直流供給線路上の電圧変動の振幅が大きくなる。そのため、図6(a)のように振幅の小さな電圧変動では通信信号のSN比に大きな影響がなくても、図6(b)のように振幅の大きな電圧変動によって通信信号のSN比が大幅に低下して、所要のSN比を確保できなくなる。
【0007】
本発明は上記事由に鑑みて為されており、複数台の直流負荷に対する制御要求が生じた場合でも、直流供給線路を伝送される通信信号について所要のSN比を確保することができる負荷制御システム、直流負荷、端末装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の負荷制御システムは、直流供給線路を介して直流電源から電力供給を受けて動作する複数台の直流負荷と、前記直流供給線路を介して前記複数台の前記直流負荷に接続された端末装置とを備え、前記端末装置は、前記直流供給線路を伝送路として前記直流負荷に通信信号を伝送する端末側通信部と、前記通信信号を用いて前記直流負荷に制御要求を与える処理部とを有し、前記直流負荷は、前記端末装置からの前記通信信号を受信する負荷側通信部と、前記通信信号を用いて前記端末装置から与えられた制御要求に応じて動作状態を制御する制御部とを有し、前記端末装置において前記複数台の前記直流負荷に対する前記制御要求が生じた場合に、前記直流供給線路を伝送される前記通信信号に関して符号誤り率を規定値以下に保つために必要なSN比が確保されるように、前記直流負荷の前記動作状態の変化に起因して前記直流供給線路上の直流電圧に生じる電圧変動を抑制する調整部をさらに備えることを特徴とする。
【0009】
この負荷制御システムにおいて、前記調整部は、前記制御要求に応じて前記制御部が前記動作状態を制御する制御タイミングが前記複数台の前記直流負荷で重複しないように、前記制御タイミングを前記直流負荷ごとにずらすことにより前記電圧変動を抑制することが望ましい。
【0010】
この負荷制御システムにおいて、前記調整部は、前記複数台の前記直流負荷の各々に設けられており、前記負荷側通信部が前記制御要求を含む前記通信信号を受信してから、前記直流負荷ごとに長さが異なる固有の待ち時間を経て前記制御部に前記動作状態を制御させることにより、前記制御タイミングを前記直流負荷ごとにずらすことがより望ましい。
【0011】
この負荷制御システムにおいて、前記調整部は、前記複数台の前記直流負荷の各々に設けられており、前記負荷側通信部が前記制御要求を含む前記通信信号を受信してから、前記直流負荷の各々においてランダムに設定される待ち時間を経て前記制御部に前記動作状態を制御させることにより、前記制御タイミングを前記直流負荷ごとにずらすことがより望ましい。
【0012】
この負荷制御システムにおいて、前記調整部は、前記端末装置に設けられており、前記端末側通信部から前記制御要求を含む前記通信信号を送信するタイミングを前記直流負荷ごとに異ならせることにより、前記制御タイミングを前記直流負荷ごとにずらすことがより望ましい。
【0013】
本発明の直流負荷は、上記の負荷制御システムに用いられることを特徴とする。
【0014】
本発明の端末装置は、上記の負荷制御システムに用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、複数台の直流負荷に対する制御要求が生じた場合でも、直流供給線路を伝送される通信信号について所要のSN比を確保することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1に係る負荷制御システムの構成を示し、(a)は全体のシステム構成図、(b)は要部のブロック図である。
【図2】実施形態1に係る負荷制御システムの動作を示す説明図である。
【図3】実施形態1に係る負荷制御システムの動作を示す説明図である。
【図4】SN比と符号誤り率との関係を表すグラフである。
【図5】実施形態1に係る負荷制御システムの他の動作を示す説明図である。
【図6】従来例の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の各実施形態に係る負荷制御システムは、住宅等において、直流電力を配電するDC配電システムに用いられる。このDC配電システムにおいては、電気機器からなる複数台の直流負荷が、直流供給線路を介して直流電源から直流電力の供給を受けて動作する。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態の負荷制御システム1は、図1(a)に示すように、直流供給線路2に接続された複数台(ここでは4台)の直流負荷301,302,303,304(以下、各々を区別しないときには単に「直流負荷3」という)と、端末装置4とを備えている。なお、直流供給線路2に対して接続される直流負荷3、端末装置4の台数は図1(a)の例に限らず、適宜変更可能である。
【0019】
直流供給線路2は、直流電源としてのDC/DCコンバータ5の出力に接続されている。なお、直流供給線路2は、たとえば2線式の線路からなる。DC/DCコンバータ5は、分電盤6内に収納されており、同分電盤6内に収納され交流電源(商用電源)を直流電源に変換するAC/DCコンバータ(図示せず)の出力に接続されている。DC/DCコンバータ5には、太陽光発電装置や燃料電池や蓄電池等の出力する直流電力が入力されていてもよい。
【0020】
直流供給線路2には直流負荷3と端末装置4とが接続されており、これら直流負荷3および端末装置4は、DC/DCコンバータ5の出力する直流電力の供給を受けて動作する。本実施形態では、一例として、住宅内の各所に配置されたLED(発光ダイオード)を光源とするダウンライトを直流負荷3とし、これらの直流負荷3をオンオフ制御するための装置を端末装置4として説明する。
【0021】
ここにおいて、直流供給線路2は、直流電力の給電路としてだけでなく、通信信号の伝送路としても兼用される。すなわち、直流供給線路2に接続されている直流負荷3および端末装置4は、高周波の搬送波を用いてデータを伝送する通信信号を直流供給線路2上の直流電圧に重畳することによって、互いに通信する。
【0022】
ここでは、端末装置4は、図1(b)に示すように、直流供給線路2を伝送路として通信信号を授受する端末側通信部41と、通信信号を用いて直流負荷3に制御要求を与える処理部42と、固有のアドレスを記憶した記憶部43とを有している。直流負荷3は、直流供給線路2を伝送路として通信信号を授受する負荷側通信部31と、端末装置4からの制御要求に応じて動作状態(たとえば点灯、消灯の別)を制御する制御部32と、固有のアドレスを記憶した記憶部33と、タイマ34とを有している。これにより、端末装置4と直流負荷3とは、各々、他方のアドレスを送信先とする通信信号を端末側通信部41−負荷側通信部31間で送受信することによって、双方向に通信を行う。
【0023】
具体的に説明すると、端末装置4は、壁スイッチ(図示せず)に接続されており、壁スイッチが操作された際に壁スイッチから受ける操作入力と、直流負荷3のアドレスとを対応付けた対応テーブルを記憶部43に格納している。端末装置4は、壁スイッチから操作入力を受けると、この操作入力に対応テーブル上で対応付けられた直流負荷3に対し制御要求を与える。これにより、直流負荷3は、その動作状態が壁スイッチの操作に応じて制御されることになる。直流負荷3は、制御部32による動作状態の制御が完了すると、制御要求の送信元の端末装置4に対して通信信号を用いて制御応答を返信する。
【0024】
たとえば、壁スイッチから、直流負荷301に対応する操作入力があると、端末装置4は、直流負荷301に対して制御要求を与え、直流負荷301の動作状態を変化させる。直流負荷301は、制御要求を受けた時点で消灯していれば点灯するように制御され、制御要求を受けた時点で点灯していれば消灯するように制御される。直流負荷301は、制御後の動作状態を制御応答として端末装置4に返信する。
【0025】
ところで、端末装置4の記憶部43内の対応テーブルにおいては、1つの操作入力に対して複数台の直流負荷3が対応付けられていることがあり、このような操作入力を受けた端末装置4では、複数台の直流負荷3に対する制御要求が同時に発生する。
【0026】
つまり、端末装置4は、たとえば4台の直流負荷301,302,303,304に対応付けられた操作入力があった場合に、これら4台の直流負荷301,302,303,304に対してマルチキャストで一斉に制御要求を与えることになる。ただし、複数台の直流負荷301,302,303,304の動作状態が同時に変化すると、直流供給線路2上の直流電圧が過渡応答によって比較的大きく変動する。
【0027】
このとき、同じ直流供給線路2を伝送される通信信号のSN比が低下して、通信信号に関する符号誤り率を規定値以下に保つために必要な所要のSN比を確保できないことがある。なお、ここでいう同じ直流供給線路2を伝送される通信信号には、直流負荷301,302,303,304に制御要求を与えた端末装置4から他の直流負荷に向けて送信される通信信号や、他の端末装置4から送信される通信信号を含む。
【0028】
そこで、本実施形態の負荷制御システム1では、通信信号に関して所要のSN比が確保されるように、直流負荷3の動作状態の変化に起因して直流供給線路2上の直流電圧に生じる電圧変動を抑制する調整部7(図1(b)参照)を備えている。この調整部7は、端末装置4において複数台の直流負荷3に対する制御要求が生じた場合に、直流電圧に生じる電圧変動を抑制する。
【0029】
ここでは、調整部7は、制御要求に応じて制御部32が動作状態を制御する制御タイミングを直流負荷3ごとにずらすことにより、直流電圧に生じる電圧変動を抑制する。すなわち、端末装置4で複数台の直流負荷3に対する制御要求が生じた場合でも、調整部7は、この制御要求に応じて制御部32が動作状態を制御する制御タイミングが複数台の直流負荷3で重複しないように、制御タイミングを直流負荷3ごとにずらす。これにより、負荷制御システム1は、複数台の直流負荷3の動作状態が同時に変化することを回避でき、通信信号のSN比の低下が抑制される。
【0030】
本実施形態においては、調整部7は、複数台の直流負荷3の各々に設けられている。さらに、直流負荷3の記憶部33には、直流負荷3ごとに長さが異なる各直流負荷3に固有の待ち時間が予め記憶されている。待ち時間の長さは、1つの負荷制御システム1に属する複数台の直流負荷3全てで異なるように予め設定される。調整部7は、負荷側通信部31が制御要求を含む通信信号を受信した時点から、タイマ34にて各直流負荷3に固有の待ち時間のカウントを開始し、待ち時間が経過した時点で、制御部32に対して制御要求に応じた動作状態の制御を実行させる指示を出す。その結果、端末装置4が、制御要求を含む通信信号を複数台の直流負荷3に対してマルチキャストで一斉送信した場合でも、複数台の直流負荷3においては、実際に動作状態の制御が行われる制御タイミングが直流負荷3ごとにばらつくことになる。
【0031】
次に、本実施形態の負荷制御システム1の動作について図2を例に説明する。図2では、各直流負荷301,302,303,304の個々の動作状態の変化に起因した過渡応答による電圧変動を(a)に示し、個々の電圧変動が合算されて最終的に直流供給線路2上に生じる電圧変動を(b)に示す。
【0032】
この負荷制御システム1では、端末装置4が制御要求を含む通信信号を一斉送信すると、図2(a)に示すように、各直流負荷301,302,303,304は、通信信号の受信時点から固有の待ち時間t1,t2,t3,t4の経過後に動作状態が変化する。ここでは、待ち時間t1,t2,t3,t4は直流負荷3ごとに数十ms程度、異なる長さに設定されている(t1<t2<t3<t4)。
【0033】
すなわち、直流負荷301では、通信信号の受信時点から待ち時間t1の経過後に、動作状態が変化することにより、直流供給線路2上の直流電圧V1に過渡応答による電圧変動を生じる。直流負荷302では、通信信号の受信時点から待ち時間t2の経過後に、動作状態が変化することにより、直流供給線路2上の直流電圧V2に過渡応答による電圧変動を生じる。直流負荷303では、通信信号の受信時点から待ち時間t3の経過後に、動作状態が変化することにより、直流供給線路2上の直流電圧V3に過渡応答による電圧変動を生じる。直流負荷304では、通信信号の受信時点から待ち時間t4の経過後に、動作状態が変化することにより、直流供給線路2上の直流電圧V4に過渡応答による電圧変動を生じる。なお、図2の例では、各直流負荷3の動作状態の変化に起因して生じる電圧変動の振幅(peak to peak)は、いずれも「A1」で同一とする。
【0034】
このように、過渡応答による電圧変動を生じるタイミングは、直流負荷301,302,303,304ごとに異なるので、最終的に直流供給線路2上の直流電圧V0に生じる電圧変動は、図2(b)に示すように時間軸方向にばらつくこととなる。結果的に、複数台の直流負荷301,302,303,304の動作状態が同時に変化する場合のように、個々の過渡応答が合算されて電圧変動の振幅が大きくなることはなく、直流供給線路2上の直流電圧V0に生じる電圧変動の振幅は「A1」に抑えられる。
【0035】
以上説明した本実施形態の負荷制御システム1によれば、端末装置4で複数台の直流負荷3に対する制御要求が生じた場合でも、調整部7が制御タイミングを直流負荷3ごとにずらすことにより、複数台の直流負荷3の動作状態が同時に変化することを回避できる。そのため、複数台の直流負荷3の動作状態が同時に変化する場合に比べて、直流供給線路2における直流電圧の電圧変動の振幅を小さく抑えることができ、直流電圧の電圧変動に起因した通信信号のSN比の低下は抑制され、所要のSN比が確保される。ここでいう所要のSN比は、端末装置4−直流負荷3間の通信を確立できるように、通信信号に関する符号誤り率を規定値以下に保つために必要なSN比である。
【0036】
また、負荷の動作状態が変化した際の過渡応答による電圧変動は、直流電圧に限らず交流電圧でも生じ得るが、商用電源等から交流電力を配電するAC配電システムに比べて、DC配電システムでは電源容量が小さいため、過渡応答による電圧変動が生じやすい。したがって、本実施形態の負荷制御システム1は、AC配電システムではなくDC配電システムに適用されることによって、電圧変動に起因した通信信号のSN比の低下が抑制されるという効果が顕著になる。
【0037】
さらに、本実施形態の負荷制御システム1では、調整部7は、複数台の直流負荷3の各々に設けられており、通信信号の受信時点から、各直流負荷3に固有の待ち時間が経過した時点で、制御部32に対して制御要求に応じた動作状態の制御を実行させる。そのため、各直流負荷3は、通信信号を受信する度に毎回同じように固有の待ち時間を経て制御部32を制御すればよく、調整部7での複雑な演算処理が不要であるから、構成の簡略化を図ることができる。
【0038】
また、調整部7は、端末装置4から複数台の直流負荷3に対する制御要求が生じた場合にのみ、待ち時間の経過後に制御タイミングをずらすように構成されていてもよい。この構成では、制御要求が1台の直流負荷3のみに与えられた場合には、この制御要求を受けた直流負荷3は、調整部7の機能を無効にし、待ち時間をカウントすることなくすぐに制御要求に応じた動作状態の制御を実行する。これにより、制御要求が1台の直流負荷3のみに与えられた場合には、制御要求に対する直流負荷3の応答速度が低下することもない。なお、制御要求が1台の直流負荷3に対して与えられたか否かは、通信信号に含まれるアドレスから判別することができる。
【0039】
本実施形態の構成により所要のSN比が確保される点については、図3および図4を参照して以下に詳しく説明する。
【0040】
すなわち、通信信号は直流供給線路2上の直流電圧に重畳されているので、図3(a)のように、通信信号100の振幅A100に比べ直流電圧101の電圧変動の振幅A101が小さい場合には、これらが重畳されてもSN比に大きな影響はない。一方、図3(b)に示すように、通信信号100の振幅A100に比べ直流電圧102の電圧変動の振幅A102が大きい場合には、これらが重畳されると通信信号100の一部のデータのSN比がノイズとしての直流電圧102の電圧変動で大幅に低下する。つまり、通信信号100の一部のデータがノイズとしての直流電圧102の電圧変動によりつぶれる。
【0041】
図4は、多値度の異なる複数種類の変調方式について、SN比(SNR)と符号誤り率(BER)との関係(誤り訂正がない場合の理論値)を表している。図4では、BPSK(Phase Shift Keying)、QPSK、8PSK、16QAM(Quadrature AmplitudeModulation)、64QAMの5種類の変調方式について示している。多値であるほどデータ量が多い分ノイズに弱いため、同程度の符号誤り率を実現しようとした場合、図4のように所要のSN比は多値の変調方式ほど高くなる。ここでは、図4によれば、SN比が少し低下するだけでも符号誤り率は大幅に大きくなって通信エラーが生じやすくなることを表している。
【0042】
たとえば直流負荷3が照明器具からなる負荷制御システム1においては、伝送データ量が少ないためBPSKでも十分であるが、直流負荷3の高い応答速度が要求されるため、システム全体として要求される符号誤り率の条件は厳しくなる。仮に、BER≦10−7の条件を満たす、つまり規定値である10−7以下の符号誤り率が要求されているとすれば、BPSKでは、図4よりSNR≧11dBの条件を満たすSN比が必要になる。したがって、ノイズレベルは受信端での通信信号の信号レベルの約3.5分の1以下でなければ、符号誤り率を規定値(10−7)以下に保つための所要のSN比を実現できない。また、同じ条件の下、誤り訂正を用いた場合に、符号誤り率が一例として約6dB改善されるとしても、ノイズレベルが前述の2倍(つまり、信号レベルの約1.75分の1)を超えると、符号誤り率を規定値以下に保つための所要のSN比を実現できない。
【0043】
そのため、図3(b)のように通信信号100の振幅A100に比べ直流電圧102の電圧変動の振幅A102が大きい場合には、たとえ電圧変動の発生頻度が低くても、上述したように符号誤り率の規定値から要求される所要のSN比を実現することは難しい。これに対し、図3(a)のように通信信号100の振幅A100に比べ直流電圧101の電圧変動の振幅A101が小さい場合には、たとえ電圧変動の発生頻度が高くても、符号誤り率の規定値から要求される所要のSN比を実現することが可能である。要するに、本実施形態の負荷制御システム1では、直流電圧の過渡応答による電圧変動の振幅を小さく抑えたことにより、通信信号のSN比の低下が抑制され、所要のSN比を確保することができる。
【0044】
さらに、別の例として、温度センサの計測結果を用いて直流負荷3としての空調機器を制御するような負荷制御システム1においては、上述した照明器具の場合ほど直流負荷3に高い応答速度は要求されない。この場合、通信エラーにより直流負荷3が制御されなくても、端末装置4は制御要求を再送すればよいため、システム全体として要求される符号誤り率の条件は緩くなる。仮に、BER≦10−2の条件を満たす、つまり規定値である10−2以下の符号誤り率が要求されているとすれば、BPSKでは、誤り訂正がない場合でも図4よりSN比は5dB程度でよい。
【0045】
この場合も、上述した照明器具の場合と同様に、図3(b)のように通信信号100の振幅A100に比べ直流電圧102の電圧変動の振幅A102が大きい場合には、符号誤り率を規定値(10−2)以下に保つための所要のSN比を実現することは難しい。これに対し、図3(a)のように通信信号100の振幅A100に比べ直流電圧101の電圧変動の振幅A101が小さい場合には、符号誤り率の規定値から要求される所要のSN比を容易に実現可能である。
【0046】
ところで、本実施形態では、調整部7は、直流負荷3ごとに予め設定された固有の待ち時間を用いて、制御タイミングを直流負荷3ごとにずらしているが、この例に限らず、各直流負荷3においてランダムに設定される待ち時間を用いてもよい。この場合、直流負荷3は、固有の待ち時間が設定されておらず、負荷側通信部31が制御要求を含む通信信号を受信する度に、調整部7にてランダムな待ち時間が決定される。調整部7は、負荷側通信部31が制御要求を含む通信信号を受信した時点から、ランダムに決定した待ち時間のカウントを開始し、待ち時間が経過した時点で、制御部32に対して制御要求に応じた動作状態の制御を実行させる指示を出す。
【0047】
この構成の負荷制御システム1では、端末装置4が制御要求を含む通信信号を一斉送信すると、図5に示すように、各直流負荷301,302,303,304は、通信信号の受信時点から固有の待ち時間t1,t2,t3,t4の経過後に動作状態が変化する。図5では、図2と同様に、各直流負荷301,302,303,304の個々の動作状態の変化に起因した過渡応答による電圧変動を(a)に示し、個々の電圧変動が合算されて最終的に直流供給線路2上に生じる電圧変動を(b)に示す。
【0048】
つまり、待ち時間t1,t2,t3,t4は各直流負荷3においてランダムに決定されるので(t1≠t2≠t3≠t4)、過渡応答による電圧変動を生じるタイミングは、図5(a)のように直流負荷301,302,303,304ごとに異なる。そのため、最終的に直流供給線路2上の直流電圧V0に生じる電圧変動は、図5(b)に示すように時間軸方向にばらつくこととなり、直流供給線路2上の直流電圧V0に生じる電圧変動の振幅は「A1」に抑えられる。
【0049】
この構成によれば、同一の負荷制御システム1に属する直流負荷3の台数が多くなっても、各直流負荷3の待ち時間はランダムに決定されるため、異なる直流負荷3間で制御タイミングが重複する確率は低くなる。したがって、端末装置4が、制御要求を含む通信信号を複数台の直流負荷3に対してマルチキャストで一斉送信した場合でも、複数台の直流負荷3において同時に動作状態が変化する確率を低くできる。また、負荷制御システム1の構築時などに、施工業者が直流負荷3ごとに固有の待ち時間を設定する必要がないので、施工業者の手間を省くことができる。
【0050】
(実施形態2)
本実施形態の負荷制御システム1は、調整部が各直流負荷3ではなく端末装置4に設けられている点が、実施形態1の負荷制御システム1と相違する。以下では、実施形態1と同様の構成については共通の符号を付して適宜説明を省略する。
【0051】
本実施形態では、調整部は、端末側通信部41から制御要求を含む通信信号を送信する送信タイミングを直流負荷3ごとに異ならせることにより、制御タイミングを直流負荷ごとにずらす。すなわち、端末装置4は、複数台の直流負荷3に対応付けられた操作入力を受けると、これら複数台の直流負荷3に対して同時に制御要求を与えるのではなく、送信タイミングを調整部で調整することにより直流負荷3ごとに異なるタイミングで制御要求を与える。調整部は、送信タイミングが直流負荷3ごとに異なるように、操作入力を受けた時点から、ランダムに決定される待ち時間が経過する度に、各直流負荷3宛ての通信信号を順次送信する。
【0052】
以上説明した本実施形態の負荷制御システム1によれば、端末装置4が調整部を有するので、各直流負荷3に調整部の機能は不要であり、既存の直流負荷3をそのまま用いることができる。また、端末装置4は、送信タイミングの待ち時間をランダムに決定するので、同一の負荷制御システム1に属する直流負荷3の台数が多くなっても、異なる直流負荷3間で制御タイミングが重複する確率は低くなる。
【0053】
なお、上記構成に限らず、端末装置4は、直流負荷3ごとに予め決められた待ち時間を記憶部43に記憶し、決まった順番で通信信号を送信するように構成されていてもよい。
【0054】
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【0055】
ところで、調整部は、制御要求の対象となる全ての直流負荷3について制御タイミングをずらす構成に限らず、制御要求の対象となる複数台の直流負荷3のうち一部の直流負荷についてのみ制御タイミングをずらす構成であってもよい。この場合でも、全ての直流負荷3の動作状態が同時に変化する場合に比べて、直流電圧の電圧変動を小さく抑えることができるので、通信信号のSN比の低下を抑制することができる。
【0056】
また、調整部は、制御タイミングをずらす以外の方法で、所要のSN比が確保されるように、直流負荷3の動作状態の変化に起因して直流供給線路2上の直流電圧に生じる電圧変動を抑制してもよい。詳しい説明は省略するが、調整部は、たとえば制御要求の対象となる複数台の直流負荷3のうち少なくとも1台の直流負荷3の突入電流を小さくする制御を行うといった方法でも、直流電圧に生じる電圧変動を抑制可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 負荷制御システム
2 直流供給線路
3,301,302,303,304 直流負荷
4 端末装置
7 調整部
31 負荷側通信部
32 制御部
41 端末側通信部
42 処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流供給線路を介して直流電源から電力供給を受けて動作する複数台の直流負荷と、前記直流供給線路を介して前記複数台の前記直流負荷に接続された端末装置とを備え、
前記端末装置は、前記直流供給線路を伝送路として前記直流負荷に通信信号を伝送する端末側通信部と、前記通信信号を用いて前記直流負荷に制御要求を与える処理部とを有し、
前記直流負荷は、前記端末装置からの前記通信信号を受信する負荷側通信部と、前記通信信号を用いて前記端末装置から与えられた制御要求に応じて動作状態を制御する制御部とを有し、
前記端末装置において前記複数台の前記直流負荷に対する前記制御要求が生じた場合に、前記直流供給線路を伝送される前記通信信号に関して符号誤り率を規定値以下に保つために必要なSN比が確保されるように、前記直流負荷の前記動作状態の変化に起因して前記直流供給線路上の直流電圧に生じる電圧変動を抑制する調整部をさらに備えることを特徴とする負荷制御システム。
【請求項2】
前記調整部は、前記制御要求に応じて前記制御部が前記動作状態を制御する制御タイミングが前記複数台の前記直流負荷で重複しないように、前記制御タイミングを前記直流負荷ごとにずらすことにより前記電圧変動を抑制することを特徴とする負荷制御システム。
【請求項3】
前記調整部は、前記複数台の前記直流負荷の各々に設けられており、前記負荷側通信部が前記制御要求を含む前記通信信号を受信してから、前記直流負荷ごとに長さが異なる固有の待ち時間を経て前記制御部に前記動作状態を制御させることにより、前記制御タイミングを前記直流負荷ごとにずらすことを特徴とする請求項2に記載の負荷制御システム。
【請求項4】
前記調整部は、前記複数台の前記直流負荷の各々に設けられており、前記負荷側通信部が前記制御要求を含む前記通信信号を受信してから、前記直流負荷の各々においてランダムに設定される待ち時間を経て前記制御部に前記動作状態を制御させることにより、前記制御タイミングを前記直流負荷ごとにずらすことを特徴とする請求項2に記載の負荷制御システム。
【請求項5】
前記調整部は、前記端末装置に設けられており、前記端末側通信部から前記制御要求を含む前記通信信号を送信するタイミングを前記直流負荷ごとに異ならせることにより、前記制御タイミングを前記直流負荷ごとにずらすことを特徴とする請求項2に記載の負荷制御システム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の負荷制御システムに用いられることを特徴とする直流負荷。
【請求項7】
請求項5に記載の負荷制御システムに用いられることを特徴とする端末装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−228088(P2012−228088A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94275(P2011−94275)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】