説明

貫流ファン、成型用金型および流体送り装置

【課題】優れた送風能力を発揮する貫流ファン、その貫流ファンの製造に用いられる成型用金型およびその貫流ファンを備える流体送り装置、を提供する。
【解決手段】貫流ファンは、周方向に互いに間隔を隔てて設けられる複数のファンブレード21を備える。ファンブレード21は、内周側に配置され、空気が流出入する内縁部26と、外周側に配置され、空気が流出入する外縁部27とを有する。ファンブレード21には、内縁部26と外縁部27との間で延在する翼面23が形成される。翼面23は、貫流ファンの回転方向の側に配置される正圧面25と、正圧面25の裏側に配置される負圧面24とからなる。ファンブレード21は、貫流ファンの回転軸に直交する平面により切断された場合に、正圧面25から凹む凹部57が形成される翼断面形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、貫流ファン、成型用金型および流体送り装置に関し、より特定的には、空気調和機や空気清浄機などに用いられる貫流ファン、その貫流ファンの製造に用いられる成型用金型およびその貫流ファンを備える流体送り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の貫流ファンについて、たとえば、特開2007−21352号公報には、設置面積を小さくするとともに、送風能力を高めることを目的とした空気清浄機が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示された空気清浄機においては、左右端部にそれぞれ吸気口と吹き出し口とを有する本体内に、モータにより駆動される縦長のクロスフローファンが配置されている。
【0003】
また、従来の各種のファンを開示する文献として、特開平8−261197号公報(特許文献2)、実開昭59−62293号公報(特許文献3)、特開2009−36187号公報(特許文献4)、特開2008−157113号公報(特許文献5)および特開2005−233126号公報(特許文献6)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−21352号公報
【特許文献2】特開平8−261197号公報
【特許文献3】実開昭59−62293号公報
【特許文献4】特開2009−36187号公報
【特許文献5】特開2008−157113号公報
【特許文献6】特開2005−233126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、地球環境の保全のため、家庭用の電気機器のさらなる省エネルギ化が求められている。たとえば、空気調和機(エアーコンディショナ)や空気清浄機といった電気機器の効率は、それに内包される送風機の効率に大きく依存することが知られている。また、回転物体として送風機に設けられたファンブレードの重量を軽量化することにより、ファンブレードを回転駆動するためのモータの消費電力が低減し、送風機または流体送り装置としての効率が向上することが知られている。
【0006】
しかしながら、ファンブレードの断面形状として採用される翼型(aerofoil)は、そもそも航空機の翼への適用を想定しており、主に航空工学分野において見い出されたものである。このため、翼型のファンブレードは、主に高レイノルズ数領域で最適化されており、家庭用の空気調和機や空気清浄機といった低レイノルズ数領域で用いられるファンブレードの断面としては、必ずしも適切であるとは言えない。
【0007】
また、ファンブレードの断面形状として翼型や二重円弧が採用される場合、ファンブレードの前縁から30〜50%の範囲に厚肉部が存在する。このため、ファンブレードの重量が大きくなり、回転時の摩擦損失などが増大する原因となる。しかしながら、単にファンブレードを軽量化するだけでは、ファンブレードの強度が低下し、割れやその他の品質不良が発生するおそれがある。
【0008】
以上の理由から、家庭用の空気調和機や空気清浄機といった電気機器の省エネルギ化のため、低レイノルズ数領域で用いられるファンブレードとして適切な翼断面形状が求められている。また、揚抗比が高く、かつ、薄くて軽く、強度が高い、翼断面形状が求められている。
【0009】
送風機に用いられるファンとしては、ファンの回転軸に平行な平面状の吹き出し流れを形成する貫流ファン(クロスフローファン)がある。その貫流ファンの用途の代表的な例として、空気調和機が挙げられる。家庭用の電気機器のさらなる省エネルギ化が求められる中、空気調和機の低消費電力化は優先順位が高い。この空気調和機の低消費電力化のため、風量を増加させたいといった要請がある。風量を増加させると熱交換器の蒸発や凝縮の性能が増加し、その分、圧縮機の消費電力を低減することができる。しかしながら、風量を増加させると、ファンの消費電力は増大するため、圧縮機における消費電力の低減分とファンの消費電力の増大分との差引きが低消費電力化された分となり、ファンの風量を増加する効果を最大限に得ることはできない。また、ファンの風量を増加させる手段として、同じファンで回転数を上げる場合、空気調和機の騒音が増大してしまう。
【0010】
また、貫流ファンの用途の他の例として、空気清浄機が挙げられている。空気清浄機の要請として、集塵能力の増加すなわち風量増加と、低騒音化とがあるが、これら2つの間には二律背反の関係がある。
【0011】
これらの両方を満足するためには、空気清浄機の吸い込み口および吹き出し口からの騒音の低減だけでなく、空気を送り出す貫流ファンの騒音を根本的に低減しなければならない。また、風量増加のためには、貫流ファンの回転数を高める必要がある。貫流ファンの回転数を高める場合、ファンに対する入力の低減が必要である。また、ファンブレードの強度を、貫流ファンの回転数の増加に伴って生じる遠心力の増大に打ち勝つほどに増大させる必要がある。
【0012】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、優れた送風能力を発揮する貫流ファン、その貫流ファンの製造に用いられる成型用金型およびその貫流ファンを備える流体送り装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に従った貫流ファンは、周方向に互いに間隔を隔てて設けられる複数の羽根部を備える。羽根部は、内周側に配置され、空気が流出入する内縁部と、外周側に配置され、空気が流出入する外縁部とを有する。羽根部には、内縁部と外縁部との間で延在する翼面が形成される。翼面は、貫流ファンの回転方向の側に配置される正圧面と、正圧面の裏側に配置される負圧面とからなる。羽根部は、貫流ファンの回転軸に直交する平面により切断された場合に、正圧面から凹む凹部が形成される翼断面形状を有する。
【0014】
このように構成された貫流ファンによれば、貫流ファンの回転時に、外縁部から流入し、翼面を通過し、内縁部から流出する空気流れと、内縁部から流入し、翼面を通過し、外縁部から流出する空気流れとが、交互に各羽根部において発生する。この際、正圧面から凹むように形成された凹部に空気流れの渦(2次流れ)が生成されることによって、正圧面を通過する空気流れ(主流)は、凹部に生じた渦の外側に沿って流れる。これにより、羽根部は、渦が形成された分だけ翼断面形状が厚肉化された厚肉翼のような挙動を示す。結果、貫流ファンの送風能力を向上させることができる。
【0015】
また好ましくは、羽根部は、貫流ファンの回転軸に直交する平面により切断された場合に、正圧面および負圧面のうち正圧面にのみ凹部が形成される翼断面形状を有する。
【0016】
このように構成された貫流ファンによれば、空気流れの主流が翼面に対して強く押し付けられる正圧面側において、凹部に形成された渦によって主流と翼面との間の摩擦抵抗を低減させる一方、空気流れの主流が翼面から剥される方向に力が働く負圧面側において、凹部に形成された渦が主流を剥離させる要因となることを回避できる。
【0017】
また好ましくは、凹部は、貫流ファンの回転軸に沿って延びる溝断面を有する。溝断面の側面は、凹部の深さが最も大きくなる点からその両側に立ち上がるように形成される。このように構成された貫流ファンによれば、凹部に形成される渦が翼面からより盛り上がった形態となる。この場合、空気流れの主流はその盛り上がった形態の渦の外側を流れるため、厚肉翼の効果をより有効に得ることができる。
【0018】
また好ましくは、羽根部は、内縁部と外縁部との間で延びる翼断面形状の中心線が屈曲してなる屈曲部を有する。凹部は、屈曲部に形成される。このように構成された貫流ファンによれば、羽根部に屈曲部を設けることによって、正圧面から凹む凹部を形成する。
【0019】
また好ましくは、凹部は、内縁部および外縁部の近傍に形成される。このように構成された貫流ファンによれば、内縁部および外縁部の近傍において凹部による上記効果が生じ、高い揚力を発生させることができる。
【0020】
また好ましくは、凹部は、内縁部と外縁部との間の翼中央部に形成される。このように構成された貫流ファンによれば、翼中央部において凹部による上記効果が生じ、羽根部が翼として安定した能力を発揮することができる。
【0021】
また好ましくは、凹部は、貫流ファンの回転軸方向における翼面の一方端から他方端にまで延びて形成される。このように構成された貫流ファンによれば、貫流ファンの回転軸方向における翼面の一方端から他方端にまで延びて形成される凹部に、空気流れの渦が生成されるため、貫流ファンの送風能力をより効果的に向上させることができる。
【0022】
また好ましくは、凹部は、正圧面に、内縁部と外縁部とを結ぶ方向において繰り返し現れるように形成される。このように構成された貫流ファンによれば、正圧面に繰り返し現れる凹部に空気流れの渦が生成されるため、貫流ファンの送風能力をより効果的に向上させることができる。
【0023】
また好ましくは、羽根部は、貫流ファンの回転軸に直交する平面により切断された場合に、正圧面から凹む複数の凹部が形成される翼断面形状を有する。このように構成された貫流ファンによれば、複数の凹部のそれぞれに渦が生成されるため、貫流ファンの送風能力をより効果的に向上させることができる。
【0024】
また好ましくは、貫流ファンは、樹脂により形成される。このように構成された貫流ファンによれば、軽量かつ高強度の樹脂製の貫流ファンを実現することができる。
【0025】
この発明に従った成型用金型は、上述に記載の貫流ファンを成型するために用いられる。このように構成された成型用金型によれば、軽量かつ高強度の樹脂製の貫流ファンを製造することができる。
【0026】
この発明に従った流体送り装置は、上述のいずれかに記載の貫流ファンと、貫流ファンに連結され、複数の羽根部を回転させる駆動モータとから構成される送風機を備える。このように構成された流体送り装置によれば、送風能力を高く維持しつつ、駆動モータの消費電力を低減することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上に説明したように、この発明に従えば、優れた送風能力を発揮する貫流ファン、その貫流ファンの製造に用いられる成型用金型およびその貫流ファンを備える流体送り装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施の形態1における貫流ファンを示す側面図である。
【図2】図1中のII−II線上に沿った貫流ファンを示す断面斜視図である。
【図3】図1中の貫流ファンに設けられたファンブレードを示す断面図である。
【図4】図1中に示す貫流ファンが用いられる空気調和機を示す断面図である。
【図5】図4中の空気調和機の吹き出し口近傍を拡大して示す断面図である。
【図6】図4中の空気調和機の吹き出し口近傍に生じる空気流れを示す断面図である。
【図7】図5中に示す上流側領域において、ファンブレードの翼面上で生じる現象を表わした断面図である。
【図8】図7中に示すファンブレードを模式的に表わした図である。
【図9】図5中に示す下流側領域において、ファンブレードの翼面上で生じる現象を表わした断面図である。
【図10】図9中に示すファンブレードを模式的に表わした図である。
【図11】図1中の貫流ファンの第1変形例を示す断面図である。
【図12】図1中の貫流ファンの第2変形例を示す断面図である。
【図13】図1中の貫流ファンの第3変形例を示す断面図である。
【図14】図1中の貫流ファンの第4変形例を示す断面図である。
【図15】図1中の貫流ファンの第5変形例を示す断面図である。
【図16】図1中の貫流ファンの製造時に用いられる成型用金型を示す断面図である。
【図17】本実施例において、貫流ファンの風量と駆動用のモータの消費電力との関係を示すグラフである。
【図18】本実施例において、貫流ファンの風量と騒音値との関係を示すグラフである。
【図19】本実施例において、貫流ファンの圧力流量特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0030】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1における貫流ファンを示す側面図である。図2は、図1中のII−II線上に沿った貫流ファンを示す断面斜視図である。
【0031】
図1および図2を参照して、本実施の形態における貫流ファン(クロスフローファン)10は、複数のファンブレード21を有する。貫流ファン10は、全体として略円筒形の外観を有し、複数のファンブレード21は、その略円筒形の側面に配置されている。貫流ファン10は、樹脂により一体に形成されている。貫流ファン10は、図中に示す仮想上の中心軸101を中心に、矢印103に示す方向に回転する。
【0032】
貫流ファン10は、回転する複数のファンブレード21によって、回転軸である中心軸101に直交する方向に送風するファンである。貫流ファン10は、中心軸101の軸方向から見た場合に、中心軸101に対して一方の側の外側空間からファンの内側空間に空気を取り込み、さらに取り込んだ空気を中心軸101に対して他方の側の外側空間に送り出すファンである。貫流ファン10は、中心軸101に直交する平面内において中心軸101に交差する方向に流れる空気流れを形成する。貫流ファン10は、中心軸101に平行な平面状の吹き出し流れを形成する。
【0033】
貫流ファン10は、家庭用の電気機器などのファンに適用される低レイノズル数領域の回転数で使用される。
【0034】
貫流ファン10は、中心軸101の軸方向に並べられた複数の羽根車12が組み合わさって構成されている。各羽根車12において、複数のファンブレード21は中心軸101を中心に周方向に互いに間隔を隔てて設けられている。
【0035】
貫流ファン10は、支持部としての外周枠13をさらに有する。外周枠13は、中心軸101を中心に環状に延在するリング形状を有する。外周枠13は、端面13aおよび端面13bを有する。端面13aは、中心軸101の軸方向に沿った一方の方向に面して形成されている。端面13bは、端面13aの裏側に配置され、中心軸101の軸方向に沿った他方の方向に面して形成されている。
【0036】
外周枠13は、中心軸101の軸方向において隣り合う羽根車12間に介在するように設けられている。
【0037】
互いに隣り合って配置された図1中の羽根車12Aおよび羽根車12Bに注目すると、羽根車12Aに設けられる複数のファンブレード21は、端面13a上に立設され、中心軸101の軸方向に沿って板状に延在するように形成されている。羽根車12Bに設けられる複数のファンブレード21は、端面13b上に立設され、中心軸101の軸方向に沿って板状に延在するように形成されている。
【0038】
複数のファンブレード21は、互いに同一形状を有する。本実施の形態では、複数のファンブレード21が、中心軸101を中心する周方向においてランダムなピッチで配置されている。
【0039】
ファンブレード21は、内縁部26および外縁部27を有する。内縁部26は、ファンブレード21の内周側の端部に配置されている。外縁部27は、ファンブレード21の外周側の端部に配置されている。ファンブレード21は、内縁部26から外縁部27に向けて中心軸101を中心とする周方向に傾斜して形成されている。ファンブレード21は、内縁部26から外縁部27に向けて貫流ファン10の回転方向に傾斜して形成されている。
【0040】
ファンブレード21には、正圧面25および負圧面24からなる翼面23が形成されている。正圧面25は、貫流ファン10の回転方向の側に配置され、負圧面24は、正圧面25の裏側に配置されている。貫流ファン10の回転時、翼面23上で空気流れが発生するのに伴って、正圧面25で相対的に大きく、負圧面24で相対的に小さくなる圧力分布が生じる。ファンブレード21は、正圧面25側が凹となり、負圧面24側が凸となるように、内縁部26と外縁部27との間で全体的に湾曲した形状を有する。
【0041】
図3は、図1中の貫流ファンに設けられたファンブレードを示す断面図である。図3中には、貫流ファン10の回転軸である中心軸101に直交する平面で切断した場合のファンブレード21の翼断面形状が示されている。
【0042】
図1から図3を参照して、ファンブレード21は、中心軸101の軸方向におけるいずれの位置で切断されても同一の翼断面形状を有するように形成されている。ファンブレード21は、全体として、内縁部26および外縁部27に隣り合う位置で厚み(正圧面25と負圧面24との間の長さ)が相対的に小さく、内縁部26および外縁部27の間の翼中央部に向かうほど厚みが徐々に大きくなる翼断面形状を有する。
【0043】
ファンブレード21は、翼面23の正圧面25に凹部57が形成される翼断面形状を有する。凹部57は、正圧面25から凹むように形成されている。凹部57は、内縁部26と外縁部27との間で湾曲して延在する正圧面25から凹むように形成されている。内縁部26と外縁部27との間で連続的に湾曲して延在する正圧面25を想定した場合に、凹部57は、凹部57が形成された位置で正圧面25を不連続とする。凹部57は、内縁部26および外縁部27から翼中央部側に離れた位置に形成されている。
【0044】
凹部57は、正圧面25および負圧面24のうち正圧面25にのみ形成されている。すなわち、負圧面24には、凹部が形成されていない。負圧面24は、内縁部26と外縁部27との間で連続的に湾曲して延在する。
【0045】
図3中に示す断面において、凹部57は、中心軸101の軸方向に沿って延びる溝断面を有する。凹部57の溝断面は、中心軸101の軸方向におけるファンブレード21の一方端と他方端との間で連続的に延びて形成されている。凹部57の溝断面は、中心軸101の軸方向におけるファンブレード21の一方端と他方端との間で直線状に延びて形成されている。凹部57の溝断面は、中心軸101の軸方向における翼面23の一方端から他方端にまで延びて形成されている。
【0046】
凹部57の溝断面の側面は、凹部57の深さh1,h2が最も大きくなる点31からその両側に立ち上がるように形成される。凹部57の溝断面の側面は、その全体が湾曲面から構成されるように形成されている。凹部57は、その溝底に平面部分を有さないように形成されている。凹部57は、U字状の溝断面を有する。
【0047】
本実施の形態では、正圧面25に複数の凹部57(凹部57pおよび凹部57q)が形成されている。凹部57は、内縁部26および外縁部27の近傍に形成されている。より具体的には、内縁部26の近傍に凹部57pが形成され、外縁部27の近傍に凹部57qが形成されている。凹部57pは、内縁部26および外縁部27の間の翼中央部よりも内縁部26に近い位置に形成され、凹部57qは、内縁部26および外縁部27の間の翼中央部よりも外縁部27に近い位置に形成されている。
【0048】
図3中には、ファンブレード21の翼断面形状の厚み方向(正圧面25と負圧面24とを結ぶ方向)における中心線106が示されている。ファンブレード21は、中心線106が内周側に向けて延びる先端に内縁部26を有し、中心線106が外周側に向けて延びる先端に外縁部27を有する。
【0049】
ファンブレード21の翼断面形状の厚みTは、内縁部26から中心線106に沿って外縁部27に向かうと徐々に増大し、凹部57pに達すると減少に転じる。ファンブレード21の翼断面形状の厚みTは、外縁部27から中心線106に沿って内縁部26に向かうと徐々に増大し、凹部57qに達すると減少に転じる。凹部57は、凹部57pが形成された位置のファンブレード21の厚みT1と、凹部57qが形成された位置のファンブレード21の厚みT2とが互いに等しくなるように形成されている。なお、図3中では、凹部57の深さh1,h2が最も大きくなる点31を基準に、凹部57が形成される位置が決められている。
【0050】
ファンブレード21は、ファンブレード21の翼断面形状の中心線106が内縁部26と外縁部27との間で屈曲する屈曲部41を有する。凹部57は、その屈曲部41に形成されている。屈曲部41は、凹部57が形成された位置で負圧面24側に凸となるように屈曲している。本実施の形態では、ファンブレード21が、内縁部26と外縁部27との間の2箇所で屈曲部41を有する。ファンブレード21は、内縁部26の近傍に配置される屈曲部41Aと、外縁部27の近傍に配置される屈曲部41Bとを有する。屈曲部41Aは、正圧面25に凹部57pを形成し、屈曲部41Bは、正圧面25に凹部57qを形成している。
【0051】
以上に説明した、この発明の実施の形態1における貫流ファン10の構造についてまとめて説明すると、本実施の形態における貫流ファン10は、周方向に互いに間隔を隔てて設けられる複数の羽根部としてのファンブレード21を備える。ファンブレード21は、内周側に配置され、空気が流出入する内縁部26と、外周側に配置され、空気が流出入する外縁部27とを有する。ファンブレード21には、内縁部26と外縁部27との間で延在する翼面23が形成される。翼面23は、貫流ファン10の回転方向の側に配置される正圧面25と、正圧面25の裏側に配置される負圧面24とからなる。ファンブレード21は、貫流ファン10の回転軸に直交する平面により切断された場合に、正圧面25から凹む凹部57が形成される翼断面形状を有する。
【0052】
続いて、図1中の貫流ファン10が用いられる空気調和機(エアーコンディショナ)の構造について説明する。
【0053】
図4は、図1中に示す貫流ファンが用いられる空気調和機を示す断面図である。図4を参照して、空気調和機110は、室内に設置され、室内側熱交換器129が設けられる室内機120と、室外に設置され、室外側熱交換器および圧縮機が設けられる図示しない室外機とから構成されている。室内機120および室外機は、室内側熱交換器129と室外側熱交換器との間で冷媒ガスを循環させるための配管により接続されている。
【0054】
室内機120は、送風機115を有する。送風機115は、貫流ファン10と、貫流ファン10を回転させるための図示しない駆動モータと、貫流ファン10の回転に伴って、所定の気流を発生させるためのケーシング122とから構成されている。
【0055】
ケーシング122は、キャビネット122Aおよびフロントパネル122Bを有する。キャビネット122Aは、室内の壁面に支持されており、フロントパネル122Bは、キャビネット122Aに着脱自在に取り付けられている。フロントパネル122Bの下端部とキャビネット122Aの下端部との間隙には、吹き出し口125が形成されている。吹き出し口125は、室内機120の幅方向に延びる略矩形に形成され、前方下方に臨んで設けられている。フロントパネル122Bの上面には、格子状の吸い込み口124が形成されている。
【0056】
フロントパネル122Bに対向する位置には、吸い込み口124から吸い込まれた空気に含まれる塵埃を捕集・除去するエアフィルタ128が設けられている。フロントパネル122Bとエアフィルタ128との間に形成される空間には、図示しないエアフィルタ清掃装置が設けられている。エアフィルタ清掃装置によって、エアフィルタ128に蓄積した塵埃が自動的に除去される。
【0057】
ケーシング122の内部には、吸い込み口124から吹き出し口125に向けて空気が流通する送風通路126が形成されている。吹き出し口125には、左右方向の吹き出し角度を変更可能な縦ルーバ132と、上下方向の吹き出し角度を、前方上方、水平方向、前方下方および真下方向に変更可能な複数の横ルーバ131とが設けられている。
【0058】
送風通路126の経路上における、貫流ファン10とエアフィルタ128との間には、室内側熱交換器129が配置されている。室内側熱交換器129は、上下方向に複数段、かつ前後方向に複数列に並設される蛇行した図示しない冷媒管を有する。室内側熱交換器129は、屋外に設置される室外機の圧縮機に接続されており、圧縮機の駆動によって冷凍サイクルが運転される。冷凍サイクルの運転によって、冷房運転時には室内側熱交換器129が周囲温度よりも低温に冷却され、暖房運転時には室内側熱交換器129が周囲温度よりも高温に加熱される。
【0059】
図5は、図4中の空気調和機の吹き出し口近傍を拡大して示す断面図である。図4および図5を参照して、ケーシング122は、前方壁部151および後方壁部152を有する。前方壁部151および後方壁部152は、互いに間隔を隔てて向い合って配置されている。
【0060】
送風通路126の経路上には、前方壁部151と後方壁部152との間に位置するように貫流ファン10が配置されている。前方壁部151には、貫流ファン10の外周面に向けて突出し、貫流ファン10と前方壁部151との隙間を微小とする突出部153が形成されている。後方壁部152には、貫流ファン10の外周面に向けて突出し、貫流ファン10と後方壁部152との隙間を微小とする突出部154が形成されている。
【0061】
ケーシング122は、上側ガイド部156および下側ガイド部157を有する。送風通路126は、貫流ファン10よりも空気流れの下流側において、上側ガイド部156および下側ガイド部157によって規定されている。
【0062】
上側ガイド部156および下側ガイド部157は、それぞれ、前方壁部151および後方壁部152から連なり、吹き出し口125に向けて延在している。上側ガイド部156および下側ガイド部157は、貫流ファン10によって送り出された空気を、上側ガイド部156が内周側となり、下側ガイド部157が外周側となるように湾曲させ、前方下方へと案内するように形成されている。上側ガイド部156および下側ガイド部157は、貫流ファン10から吹き出し口125に向かうほど、送風通路126の断面積が拡大するように形成されている。
【0063】
本実施の形態では、前方壁部151および上側ガイド部156がフロントパネル122Bに一体に形成されている。後方壁部152および下側ガイド部157がキャビネット122Aに一体に形成されている。
【0064】
図6は、図4中の空気調和機の吹き出し口近傍に生じる空気流れを示す断面図である。図5および図6を参照して、送風通路126上の経路上には、貫流ファン10よりも空気流れの上流側に位置して上流側外側空間146が形成され、貫流ファン10の内側(周方向に配列された複数のファンブレード21の内周側)に位置して内側空間147が形成され、貫流ファン10よりも空気流れの下流側に位置して下流側外側空間148が形成されている。
【0065】
貫流ファン10の回転時、突出部153,154を境にして送風通路126の上流側領域141には、上流側外側空間146からファンブレード21の翼面23上を通って内側空間147に向かう空気流れ161が形成され、突出部153,154を境にして送風通路126の下流側領域142には、内側空間147からファンブレード21の翼面23上を通って下流側外側空間148に向かう空気流れ161が形成される。このとき、前方壁部151に隣接する位置には、空気流れの渦162が形成される。
【0066】
図7は、図5中に示す上流側領域において、ファンブレードの翼面上で生じる現象を表わした断面図である。図8は、図7中に示すファンブレードを模式的に表わした図である。
【0067】
図7および図8を参照して、上流側領域141において、上流側外側空間146から内側空間147に向かう空気流れが形成されるとき、ファンブレード21の翼面23上では、外縁部27から流入し、翼面23上を通過し、内縁部26から流出する空気流れが発生する。この際、正圧面25に形成された凹部57には、時計回りの空気流れの渦63(2次流れ)が形成される。これにより、翼面23上を通過する空気流れの主流61は、凹部57に生じた渦63の外側に沿って流れる。
【0068】
図9は、図5中に示す下流側領域において、ファンブレードの翼面上で生じる現象を表わした断面図である。図10は、図9中に示すファンブレードを模式的に表わした図である。
【0069】
図9および図10を参照して、下流側領域142において、内側空間147から下流側外側空間148に向かう空気流れが形成されるとき、ファンブレード21の翼面23上では、内縁部26から流入し、翼面23上を通過し、外縁部27から流出する空気流れが発生する。この際、正圧面25に形成された凹部57には、反時計回りの空気流れの渦68(2次流れ)が形成される。これにより、翼面23上を通過する空気流れの主流66は、凹部57に生じた渦68の外側に沿って流れる。
【0070】
すなわち、貫流ファン10においては、ファンブレード21が上流側領域141から下流側領域142に移動すると、翼面23上における空気の流れ方向が反転し、これに伴って、凹部57に生じる渦の回転方向も反転する。
【0071】
本実施の形態における貫流ファン10においては、ファンブレード21が、薄肉の翼断面形状を有するにもかかわらず、渦(2次流れ)が形成された凹部57の深さの分だけ翼断面形状が厚肉化された厚肉翼のような挙動を示す。この結果、ファンブレード21で生じる揚力を大幅に増大させることができる。また、凹部57は、内縁部26および外縁部27の近傍に形成されている。これにより、内縁部26および外縁部27の近傍において凹部57による上記効果が生じ、高い揚力を発生させることができる。
【0072】
このような貫流ファン10において、凹部に形成される空気流れの渦は、主流と翼面23との間の摩擦抵抗を低減させる機能を発揮する。主流と翼面23との間の摩擦抵抗は負圧面24よりも正圧面25の方が大きくなるため、本実施の形態では、正圧面25に凹部57を形成することにより、主流と正圧面25との間の摩擦抵抗を低減している。一方、凹部に空気流れの渦が形成されると、その渦が起点となって主流が剥離する懸念が生じる。このような主流の剥離の懸念は正圧面25よりも負圧面24で発生し易いため、本実施の形態では、負圧面24に凹部を形成しないことにより、主流の剥離をより確実に防いでいる。
【0073】
以下、上記の摩擦抵抗の低減の効果と、主流の剥離を防ぐ効果とについて、より具体的に説明する。
【0074】
貫流ファンにおける一般的なスケールや一般的な風速(風量)を考慮すると、貫流ファンの隣接するファンブレード21間に流れる空気のレイノルズ数は、比較的小さく、Re=10〜10の領域となる。この領域では、空気の粘性は慣性に対して非常に大きくなり(つまり、粘り気のある流体となり)、ファンブレード21間で主流をなす空気と翼面23との間の摩擦抵抗が大きくなる。すなわち、貫流ファンの効率を高めるには、この主流と翼面23との間の摩擦抵抗を低減することが得策となる。そこで、本実施の形態における貫流ファン10においては、翼面23に形成された凹部57に空気流れの主流ではない2次流れを形成し、凹部57で回転する渦を得ることによって、主流と翼面23との間の摩擦抵抗を低減させている。
【0075】
このようなメカニズムは、丸太を用いて巨大な石を運搬する場面を考えると容易に理解される。この場面、丸太は、「ころ」として用いられ、巨大な石と地面との摩擦抵抗を低減させる機能を発生する。本実施の形態における貫流ファン10においては、地面が翼面23に置き換えられ、巨大な石が粘り気の大きい空気(主流61,66)に置き換えられ、丸太が凹部57に発生させる渦63,68に置き換えられる。すなわち、本実施の形態では、凹部57に形成される渦63,68が丸太の役割を果たすことにより、主流61,66と翼面23との間の摩擦抵抗を低減している。
【0076】
次に、主流61,66と翼面23との間の摩擦抵抗は、以下に説明する理由から正圧面25側>>負圧面24側となる。
【0077】
正圧面25は貫流ファン10の回転方向の側に配置されるため、ファンブレード21の回転時、正圧面25に主流61,66が強く押し付けられ、その結果として、主流61,66と翼面23との間の摩擦抵抗はより大きくなる。これに対して、負圧面24は貫流ファン10の回転方向とは反対側に配置されるため、ファンブレード21の回転時、負圧面24には主流61,66が翼面23から離れていく(剥される)方向に力が働き、その結果として、主流61,66と翼面23との間の摩擦抵抗はより小さくなる。本実施の形態における貫流ファン10では、主流61,66と翼面23との間の摩擦抵抗が正圧面25でより大きくなることを考慮して、正圧面25に凹部57を形成している。
【0078】
これに対して、負圧面24側は、上述の通り、主流61,66が翼面23から剥される方向に力が働いている。特に貫流ファン10の上流側の空気流路で圧損が大きい場合にはこれが顕著となり、負圧面24側の主流61,66が翼面23から剥離するという懸念が生じる。このような剥離が生じると、ファンブレード21が翼としての働きを発揮できず、省エネルギ性が悪化するとともに、剥離による乱流発生により騒音が増大する。一方、凹部に渦が形成されると、その渦が起点となって剥離が促進されるおそれがある。そこで、本実施の形態における貫流ファン10では、負圧面24に凹部を形成していない。
【0079】
なお、負圧面24に凹部を形成した場合であっても、負圧面24に形成される凹部の数を正圧面25に形成される凹部の数よりも少なくすることにより、負圧面24側において、摩擦抵抗を低減する効果(メリット)と、剥離のリスク(デメリット)とのバランスをとることができる。
【0080】
このように構成された、この発明の実施の形態1における貫流ファン10によれば、家庭用の電気機器などのファンに適用される低レイノズル数領域において、ファンブレード21の回転に伴って生じる揚力を大幅に増大させることができる。これにより、貫流ファン10の駆動のための消費電力を低減することができる。
【0081】
また、この発明の実施の形態1における空気調和機110によれば、送風能力に優れた貫流ファン10を用いることによって、貫流ファン10を駆動させるための駆動モータの消費電力を低減させることができる。これにより、省エネルギ化に貢献可能な空気調和機110を実現することができる。
【0082】
なお、本実施の形態では、空気調和機を例に挙げて説明したが、この他に、たとえば、空気清浄機や加湿機、冷却装置、換気装置などの流体を送り出す装置に、本発明における貫流ファンを適用することが可能である。
【0083】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1における貫流ファン10の各種変形例について説明する。
【0084】
図11は、図1中の貫流ファンの第1変形例を示す断面図である。図11を参照して、ファンブレード21は、全体として、内縁部26および外縁部27に隣接する位置で厚みが相対的に小さく、内縁部26および外縁部27の間の翼中央部に向かうほど厚みが徐々に大きくなる翼断面形状を有する。
【0085】
本変形例では、ファンブレード21が、翼面23の正圧面25に凹部71が形成される翼断面形状を有する。凹部71は、内縁部26および外縁部27の間の翼中央部に位置して形成されている。凹部71は、内縁部26からの距離と外縁部27からの距離とが等しくなる正圧面25上の位置を含むように形成されている。
【0086】
このような構成によれば、凹部71に空気流れの渦(2次流れ)が生成されることによって、翼面23を通過する空気流れ(主流)は、凹部71に生じた渦の外側に沿って流れる。これにより、翼中央部で生じる気流の剥離を抑制するという効果が得られ、ファンブレード21が翼として安定した能力を発揮することができる。
【0087】
図12は、図1中の貫流ファンの第2変形例を示す断面図である。図12を参照して、本変形例では、ファンブレード21の厚みTが、内縁部26と外縁部27との間の、内縁部26および外縁部27のうちいずれか一方としての内縁部26に偏った位置で最大となる。ファンブレード21は、全体として、内縁部26に隣接する位置で厚みが相対的に大きく、内縁部26および外縁部27の間の翼中央部を経由して外縁部27に向かうほど厚みが徐々に小さくなる翼断面形状を有する。
【0088】
ファンブレード21は、翼面23の正圧面25に凹部72が形成される翼断面形状を有する。正圧面25には、複数の凹部72(凹部72pおよび凹部72q)が形成されている。凹部72は、内縁部26および外縁部27の近傍に形成されている。より具体的には、内縁部26の近傍に凹部72pが形成され、外縁部27の近傍に凹部72qが形成されている。凹部72は、凹部72pが形成された位置のファンブレード21の厚みT1と、凹部72qが形成された位置のファンブレード21の厚みT2とが互いに等しくなるように形成されている。凹部72pの深さh1は、凹部72qの深さh2よりも大きくなる。
【0089】
このような構成により、図5中に示す空気調和機110において、ファンブレード21が下流側領域142を通過する際に特に大きい揚力を生じさせることができる。たとえば、下流側領域142に送風の抵抗となる部材が配置される場合など、送風能力を特に下流側領域142で高めることが必要な場合に、より適切かつ効率的な送風性能を得ることができる。
【0090】
なお、図12中に示す形態とは逆に、ファンブレード21は、全体として、外縁部27に隣接する位置で厚みが相対的に大きく、内縁部26および外縁部27の間の翼中央部を経由して内縁部26に向かうほど厚みが徐々に小さくなる翼断面形状を有してもよい。この場合、上記と同様の理由により、送風能力を特に上流側領域141で高めることが必要な場合に、好適な効果を得ることができる。
【0091】
なお、ファンブレード21の全体としての断面形状は、実施の形態1および変形例1,2に説明した形態に限られず、他の形態を有してもよい。
【0092】
図13は、図1中の貫流ファンの第3変形例を示す断面図である。図14は、図1中の貫流ファンの第4変形例を示す断面図である。図15は、図1中の貫流ファンの第5変形例を示す断面図である。
【0093】
図13から図15を参照して、ファンブレード21は、全体として、内縁部26に隣接する位置で厚みが相対的に大きく、内縁部26および外縁部27の間の翼中央部を経由して外縁部27に向かうほど厚みが徐々に小さくなる翼断面形状を有する。
【0094】
ファンブレード21は、翼面23の正圧面25に凹部73が形成される翼断面形状を有する。正圧面25には、複数の凹部73(凹部73p、凹部73q、凹部73rおよび凹部73sが形成されている。複数の凹部73は、内縁部26の近傍に位置して形成されている。図13中に示す変形例では、凹部73が、略U字状の溝断面を有する。図14中に示す変形例では、凹部73が、略V字状の溝断面を有する。図15中に示す変形例では、凹部73が、略台形状の溝断面を有する。凹部73は、その溝底に平面部分を有するように形成されている。複数の凹部73は、隣接する凹部73間に正圧面25が形成されないように連続して配置されている。凹部73(たとえば、凹部73p)の溝断面の側面と、その凹部73に隣り合う凹部73(たとえば、凹部73q)の溝断面の側面とが、直接接続されている。
【0095】
以上の変形例に示すように、正圧面25には、3以上の複数個の凹部73が形成されてもよい。また、凹部73は、各種の溝断面形状を採り得る。図13および図14中に示す溝断面と、図15中に示す溝断面とを比較した場合、凹部73の深さが最も大きくなる点からその両側に立ち上がる形状を有する図13および図14中に示す溝断面の方が、凹部73に形成される渦が翼面23からより盛り上がった形態となる。この場合、空気流れの主流はその盛り上がった形態の渦の外側を流れるため、厚肉翼の効果をより有効に得ることができる。
【0096】
(実施の形態3)
本実施の形態では、図1中の貫流ファン10の製造時に用いられる成型用金型について説明を行なう。
【0097】
図16は、図1中の貫流ファンの製造時に用いられる成型用金型を示す断面図である。図16を参照して、成型用金型210は、固定側金型214および可動側金型212を有する。固定側金型214および可動側金型212により、貫流ファン10と略同一形状であって、流動性の樹脂が注入されるキャビティ216が規定されている。
【0098】
成型用金型210には、キャビティ216に注入された樹脂の流動性を高めるための図示しないヒータが設けられてもよい。このようなヒータの設置は、たとえば、ガラス繊維入りAS樹脂のような強度を増加させた合成樹脂を用いる場合に特に有効である。
【0099】
このように構成された成型用金型210によれば、揚抗比が高く、かつ、薄くて軽く、強度が高い翼断面形状を有する貫流ファンを樹脂成型により製造することができる。
【0100】
(実施の形態4)
本実施の形態では、図1中に示す貫流ファン10と、翼面23に凹部が形成されていないファンブレードを備える比較のための貫流ファンとを、それぞれ、図4中に示す空気調和機110に組み込み、その空気調和機110を用いて行なった各種の実施例について説明する。
【0101】
以下に説明する実施例では、φ100mmの直径、600mmの長さを有する貫流ファン10および比較のための貫流ファンを用い、ファンブレード21の大きさや配置など、凹部の有無を除いた形状は同一とした。
【0102】
図17は、本実施例において、貫流ファンの風量と駆動用のモータの消費電力との関係を示すグラフである。図17を参照して、本実施例では、貫流ファン10を用いた場合と、比較のための貫流ファンを用いた場合とのそれぞれにおいて、風量を変化させながら、各風量における駆動用のモータの消費電力を測定した。測定の結果、貫流ファン10は、比較のための貫流ファンと比較して、同一風量における駆動用のモータの消費電力が低減することを確認できた。
【0103】
図18は、本実施例において、貫流ファンの風量と騒音値との関係を示すグラフである。図18を参照して、本実施例では、貫流ファン10を用いた場合と、比較のための貫流ファンを用いた場合とのそれぞれにおいて、風量を変化させながら、各風量における騒音値を測定した。測定の結果、貫流ファン10は、比較のための貫流ファンと比較して、同一風量における騒音値が低減することを確認できた。
【0104】
図19は、本実施例において、貫流ファンの圧力流量特性を示すグラフである。図中には、一定回転数における貫流ファン10および比較のための貫流ファンの圧力流量特性(P:静圧−Q:風量)が示されている。図19を参照して、貫流ファン10は、比較のための貫流ファンと比較して、特に小さい風量の領域でのP−Q特性が向上した。
【0105】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
この発明は、主に、空気清浄機や空気調和機などの送風機能を有する家庭用の電気機器に適用される。
【符号の説明】
【0107】
10 貫流ファン、12,12A,12B 羽根車、13 外周枠、13a,13b 端面、21 ファンブレード、23 翼面、24 負圧面、25 正圧面、26 内縁部、27 外縁部、31 点、41,41A,41B 屈曲部、57,57p,57q,71,72,72p,72q,73,73p,73q,73r,73s 凹部、61,66 空気流れ、63,68,162 渦、101 中心軸、106 中心線、110 空気調和機、115 送風機、120 室内機、122 ケーシング、122A キャビネット、122B フロントパネル、124 吸い込み口、125 吹き出し口、126 送風通路、128 エアフィルタ、129 室内側熱交換器、131 横ルーバ、132 縦ルーバ、141 上流側領域、142 下流側領域、146 上流側外側空間、147 内側空間、148 下流側外側空間、151 前方壁部、152 後方壁部、153,154 突出部、156 上側ガイド、157 下側ガイド、210 成型用金型、212 可動側金型、214 固定側金型、216 キャビティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側に配置され、空気が流出入する内縁部と、外周側に配置され、空気が流出入する外縁部とを有し、周方向に互いに間隔を隔てて設けられる複数の羽根部を備え、
前記羽根部には、前記内縁部と前記外縁部との間で延在し、貫流ファンの回転方向の側に配置される正圧面と、前記正圧面の裏側に配置される負圧面とからなる翼面が形成され、
前記羽根部は、貫流ファンの回転軸に直交する平面により切断された場合に、前記正圧面から凹む凹部が形成される翼断面形状を有する、貫流ファン。
【請求項2】
前記羽根部は、貫流ファンの回転軸に直交する平面により切断された場合に、前記正圧面および前記負圧面のうち前記正圧面にのみ前記凹部が形成される翼断面形状を有する、請求項1に記載の貫流ファン。
【請求項3】
前記凹部は、貫流ファンの回転軸に沿って延びる溝断面を有し、
前記溝断面の側面は、前記凹部の深さが最も大きくなる点からその両側に立ち上がるように形成される、請求項1または2に記載の貫流ファン。
【請求項4】
前記羽根部は、前記内縁部と前記外縁部との間で延びる前記翼断面形状の中心線が屈曲してなる屈曲部を有し、
前記凹部は、前記屈曲部に形成される、請求項1から3のいずれか1項に記載の貫流ファン。
【請求項5】
前記凹部は、前記内縁部および前記外縁部の近傍に形成される、請求項1から4のいずれか1項に記載の貫流ファン。
【請求項6】
前記凹部は、前記内縁部と前記外縁部との間の翼中央部に形成される、請求項1から5のいずれか1項に記載の貫流ファン。
【請求項7】
前記凹部は、貫流ファンの回転軸方向における前記翼面の一方端から他方端にまで延びて形成される、請求項1から6のいずれか1項に記載の貫流ファン。
【請求項8】
前記凹部は、前記正圧面に、前記内縁部と前記外縁部とを結ぶ方向において繰り返し現れるように形成される、請求項1から7のいずれか1項に記載の貫流ファン。
【請求項9】
前記羽根部は、貫流ファンの回転軸に直交する平面により切断された場合に、前記正圧面から凹む複数の前記凹部が形成される翼断面形状を有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の貫流ファン。
【請求項10】
樹脂により形成される、請求項1から9のいずれか1項に記載の貫流ファン。
【請求項11】
請求項10に記載の貫流ファンを成型するために用いられる、成型用金型。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の貫流ファンと、前記貫流ファンに連結され、複数の前記羽根部を回転させる駆動モータとから構成される送風機を備える、流体送り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−180802(P2012−180802A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45180(P2011−45180)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】