説明

貯留物質の貯留装置および貯留方法

【課題】貯留物質を直接地下の塩水性帯水層へ注入し、塩水性帯水層に効率良く貯留物質を貯留させることが可能な貯留物質の貯留装置、および貯留物質の貯留方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素タンク3は圧送装置5と接続される。圧送装置5には管体である注入井9が接合されている。注入井9は、地面7下に向けて延伸され、塩水性帯水層11まで達するように設けられる。注入井9の一部には、略水平方向に水平井10が形成される。すなわち、水平井10は、塩水性帯水層11の内部において、注入井9の一部が略水平方向に形成された部位である。水平井10には、多孔質部材であるフィルタ13が設けられる。フィルタ13としては、たとえばセラミックス製の粒子と、前記粒子を結合する結合剤とを混合して焼成した部材が使用できる。なお、フィルタ13の孔径は、細かければより細かな径のマイクロバブルを発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下の塩水性帯水層へ二酸化炭素等の貯留物質を貯留するための、貯留物質の貯留装置および貯留物質の貯留方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、温室効果ガスとしての二酸化炭素に対し、大気中への排出量の低減が急務となっている。二酸化炭素の排出量を低減するためには、二酸化炭素自体の発生量を抑える方法の他に、二酸化炭素を地中へ貯留する方法が検討されている。
【0003】
年間100万トン規模の大量の二酸化炭素を地中へ貯留する方法としては、地層内へ二酸化炭素を注入する方法がある。図9は従来の二酸化炭素貯留装置80を示す図である。管体である注入井87が二酸化炭素を貯留する貯留層91まで延伸される。二酸化炭素タンク81に貯蔵されている二酸化炭素は、圧送装置83によって注入井87を介して、貯留層91へ注入される。
【0004】
この場合、貯留層91内へ二酸化炭素を注入した後、二酸化炭素が地上へ浸み出してこないことが望ましい。したがって、図9に示すように、貯留層91上方に、背斜構造(上方への凸形状)を有するシール層89の存在が必要である。シール層89は、例えば粘土質等の二酸化炭素の通過しにくい地層である。
【0005】
地下に注入された二酸化炭素は、シール層89によって地上に浸み出すことはない。しかし、このような上への凸形状のシール層89を有する地層は限られた場所にしか存在せず、適用可能な場所が限定される。
【0006】
そこで、シール層89が背斜構造ではなく単斜構造であるような場所でも適用可能な方法として、地下の塩水性帯水層に存在する地層水に二酸化炭素を溶解させ、地下水中に二酸化炭素を効率良く貯留する方法が検討されている。
【0007】
たとえば、深部帯水層の地下水を揚水井から地上に汲み上げて注入水を作り、注入井の上部で圧入された注入水に二酸化炭素を微細気泡化して混合または溶解させることにより気液混合流体を作り、注入水を深部帯水層に届くように設けられた注入井に脈動圧を加えて圧入する二酸化炭素の地中貯留方法がある(特許文献1)。
【0008】
また、炭酸ガスを液体又は超臨界状態まで圧縮する炭酸ガス圧縮装置を用い、海水等の溶媒を圧送ポンプで圧縮し、溶媒に炭酸ガスを溶解させて炭酸ガス溶解水とし、生成された炭酸ガス溶解水を、地表面から帯水層まで貫通した注入井で地中の帯水層に圧入する炭酸ガスの地中貯留システムがある(特許文献2)。
【0009】
また、炭酸ガスを液体又は超臨界状態まで圧縮する炭酸ガス圧縮装置を用い、海水等の溶媒を圧送ポンプで圧縮し、溶媒に炭酸ガスを溶解させて炭酸ガス溶解水とし、生成された炭酸ガス溶解水を所定の高流速で流しつつ炭酸ガスを細泡化しながら混入させ、地表面から帯水層まで貫通した注入井で地中の帯水層に圧入する炭酸ガスの地中貯留システムがある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−307483号公報
【特許文献2】特開2008−238054号公報
【特許文献3】特開2010−201330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に記載された方法では、帯水層にある地層水を一旦汲み上げて気液混合状態にして再び帯水層へ注入する。このため、注入井の他に、地層水を汲み上げるための揚水井や揚水するためのポンプが必要となる。このため、システム全体が大がかりとなる。また、二酸化炭素の貯留のための大きな動力が必要となる。また、帯水層への注入圧力は、揚水井での吸い出し圧力とバランスさせる必要がある。また、注入された二酸化炭素は、揚水による水流に支配され、二酸化炭素が帯水層の一部に選択的に流れるため、貯留空間を有効に利用できない恐れがある。
【0012】
また、特許文献2の装置では、二酸化炭素の溶解水が注入先の水と比べて比重が大きくなる。このため、安定して二酸化炭素を貯留可能である。しかし、二酸化炭素を注入前に溶解槽で溶媒に溶解させるため、溶媒の圧送ポンプや溶解槽などの設備が必要となる。このため、システム全体が大がかりとなる。
【0013】
また、特許文献3の装置も、特許文献2と同様に、二酸化炭素を注入前に溶媒に溶解させるため、溶媒の圧送ポンプなどの設備が必要となる。このため、システム全体が大がかりとなる。
【0014】
ここで、事前に二酸化炭素を溶媒に溶解させるのではなく、帯水層に二酸化炭素を注入する場合において、より効率良く二酸化炭素を水に溶解させるためには、二酸化炭素を帯水層内部で長い時間滞留させる必要がある。
【0015】
通常、気泡として注入された二酸化炭素は、帯水層内部で上昇しながら周囲の水に溶解するものと考えられる。したがって、二酸化炭素を帯水層の深部から注入することで、二酸化炭素の滞留時間を長くすることができる。しかし、このように帯水層の深部まで注入井を設置することは、注入井の設置工数等の問題がある。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、二酸化炭素等の貯留物質を直接地下の塩水性帯水層へ注入し、塩水性帯水層に効率良く貯留物質を貯留させることが可能な貯留物質の貯留装置、および貯留物質の貯留方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、地下に二酸化炭素、二酸化炭素よりも水への溶解度が大きい物質およびメタンの内、少なくとも1種を含む貯留物質を貯留する貯留装置であって、塩水性帯水層へ達する注入井と、前記注入井へ前記貯留物質を圧送する圧送装置と、前記注入井に設けられたセラミックス製の多孔質部材と、を具備し、前記塩水性帯水層の内部において、前記注入井の少なくとも一部には略水平方向に向けて水平井が形成され、前記水平井内へ圧送される前記貯留物質を、前記多孔質部材を介して前記塩水性帯水層へ注入することが可能であり、前記多孔質部材は、セラミックス製の粒子と、前記粒子を結合する結合剤とを混合して焼成したものであり、孔径分布の最頻値が4.5μm以下であり、前記多孔質部材から前記塩水性帯水層へ前記貯留物質が注入される際に、前記貯留物質のマイクロバブルを発生させることを特徴とする貯留物質の貯留装置である。
【0018】
また、ガス田、油田またはオイルサンドのいずれかに達する生産井を更に具備し、前記生産井からはガス、石油または重油を採取可能であってもよい。
【0019】
第1の発明によれば、貯留物質を注入する水平井に4.5μm以下の孔径を有する多孔質部材が設けられるため、多孔質部材を介して注入される貯留物質のマイクロバブルの孔径を小さくすることができる。このため、詳細は後述するが、液体中の気泡の沈降現象を利用することができる。したがって、帯水層内にマイクロバブルを滞留・沈降させることで、貯留物質を効率良く塩水性帯水層へ溶解させることができる。
【0020】
なお、孔径分布の最頻値が4.5μm以下の多孔質部材は、例えば粒子の50%累積粒径が4.5μm以下であるセラミックス製の粒子と結合材とを混合焼成することで得ることができる。このような多孔質部材を用いれば、より確実に所望のマイクロバブルを発生させることができる。
【0021】
また、注入井の一部に水平井が設けられることで、より広範囲にわたって貯留物質を塩水性帯水層へ注入することができる。
【0022】
また、貯留物質を水平井から水平方向よりも下方に向けて注入することで、水平井から噴出したマイクロバブルが、塩水性帯水層内部において下方に向けて注入され、その後、マイクロバブルの全部または一部が前述した沈降現象によって、貯留物質を塩水性帯水層内部で沈降させることができる。このため、より長時間安定して貯留物質を塩水性帯水層内部に滞留させることができる。なお、貯留物質を水平方向よりも上方に向けて注入してもよく、水平井の全周(全方向)に対して注入してもよい。いずれにしてもマイクロバブルの全部または一部を沈降現象によって、安定して貯留物質を塩水性帯水層内に滞留させることが可能である。
【0023】
また、ガス田等からの生産井を用い、石油等を採取するとともに、石油等と同時に採取された水を貯留物質と混合して塩水性帯水層へ注入すれば、貯留物質を地中に貯留しながら石油等の増進回収ができる。この場合、ガス田、油田またはオイルサンドのいずれかに貯留物質を注入し、貯留物質のマイクロバブルと、ガス、石油または重油とを溶解または懸濁状態とすることができる。
【0024】
第2の発明は、地下に二酸化炭素、二酸化炭素よりも水への溶解度が大きい物質およびメタンの内、少なくとも1種を含む貯留物質を貯留する貯留方法であって、塩水性帯水層へ達する注入井と、前記注入井へ前記貯留物質を圧送する圧送装置と、前記注入井に設けられたセラミックス製の多孔質部材と、を具備する前記貯留物質の貯留装置を用い、前記塩水性帯水層の内部において、前記注入井の少なくとも一部には略水平方向に向けて水平井を形成し、前記多孔質部材は、セラミックス製の粒子と、前記粒子を結合する結合剤とを混合して焼成したものであり、孔径分布の最頻値が4.5μm以下であり、前記多孔質部材を介して前記塩水性帯水層へ前記貯留物質を注入する際に、前記貯留物質のマイクロバブルを発生させ、前記マイクロバブルを、前記塩水性帯水層内部において沈降させることを特徴とする塩水性帯水層への前記貯留物質の貯留方法である。
【0025】
前記貯留装置は、ガス田、油田またはオイルサンドのいずれかに達する生産井を更に具備し、前記注入井によって、前記貯留物質を地下に注入することで、ガス、石油、重油と前記貯留物質とを懸濁状態として、前記生産井によってガス、石油または重油を採取可能であってもよい。
【0026】
第2の発明によれば、多孔質部材を介して注入される貯留物質の孔径を小さくすることができため、液体中の気泡の沈降現象を利用することができる。したがって、帯水層内にマイクロバブルを滞留・沈降させることで、貯留物質を効率良く塩水性帯水層へ溶解させることができる。特に、貯留物質を水平方向よりも下方に向けて注入することで、沈降現象の効果と相まって長時間貯留物質を塩水性帯水層内部に滞留させることができる。また、貯留物質を地中に貯留しながら石油等の増進回収を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、貯留物質を直接地下の塩水性帯水層へ注入し、塩水性帯水層に効率良く貯留物質を貯留させることが可能な貯留物質の貯留装置、および貯留物質の貯留方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】二酸化炭素貯留装置1を示す図。
【図2】フィルタ13近傍の拡大図。
【図3】二酸化炭素貯留装置20を示す図。
【図4】二酸化炭素貯留装置30を示す図。
【図5】二酸化炭素貯留試験装置40を示す図。
【図6(a)】マイクロバブル75の発生状態を示す図。
【図6(b)】マイクロバブル75の発生状態を示す模式図。
【図7(a)】マイクロバブル75の沈降現象を示す図。
【図7(b)】マイクロバブル75の沈降現象を示す模式図。
【図8】二酸化炭素貯留装置1aを示す図。
【図9】二酸化炭素貯留装置80を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本実施の形態にかかる二酸化炭素貯留装置1を示す図である。二酸化炭素貯留装置1は、主に二酸化炭素タンク3、圧送装置5、注入井9、フィルタ13等から構成される。なお、以下の実施形態では、貯留物質として二酸化炭素の例を示すが、二酸化炭素よりも水への溶解度が大きいアセチレン、アンモニア、二酸化硫黄、塩化水素、塩素、硫化水素やメタン等のフレアガスであっても同様である。
【0030】
工場等で排出された二酸化炭素は回収され、二酸化炭素タンク3に貯留される。なお、二酸化炭素発生源が隣接する場合には、二酸化炭素タンク3へ直接配管等を接続して貯留を行ってもよい。
【0031】
二酸化炭素タンク3は圧送装置5と接続される。圧送装置5は、図示を省略したポンプ、圧力調整弁、バルブ、温度調整器等から構成される。圧送装置5には管体である注入井9が接合されている。注入井9は、地面7下に向けて延伸され、塩水性帯水層11まで達するように設けられる。塩水性帯水層11は、砂や砂利等とともに地下に存在する地層である。なお、塩水性帯水層11の上部には図示を省略したシール層(いわゆるキャップロック)が存在する。
【0032】
注入井9の一部(塩水性帯水層11の内部に位置する部位)には、略水平方向に水平井10が形成される。すなわち、水平井10は、塩水性帯水層11の内部において、注入井9の一部が略水平方向に形成された部位である。
【0033】
水平井10には、軸方向の一部に複数の多孔質部材であるフィルタ13が設けられる。フィルタ13としては、たとえばセラミックス製の粒子と、粒子を結合する結合剤とを混合して焼成した部材が使用できる。なお、フィルタ13の孔径は、細かければより細かな径のマイクロバブルを発生させることができる。
【0034】
ここで、本発明者らは、通常であれば液体中を浮上する気泡であっても、気泡径を小さくすることで、同じ液体中で気泡が沈降することを見出した。すなわち、水の中に、所定の径よりも小さな二酸化炭素のマイクロバブルを発生させることで、当該マイクロバブルが水中を沈降する現象を発見した。
【0035】
このような所定径以下のマイクロバブルを発生させるために、特に好ましいフィルタ13としては、多孔質部材の孔径分布の最頻値が4.5μm以下である。
【0036】
二酸化炭素タンク3内に貯留される二酸化炭素は、圧送装置5によって圧送される。圧送装置5は、二酸化炭素タンク3内の二酸化炭素をポンプで注入井9(水平井10)へ送り込む。この際、圧送装置5は、圧力調整弁、温度調整器等により、所定圧力、所定温度の状態で二酸化炭素を圧送することができる。
【0037】
なお、圧送装置5は、例えば、二酸化炭素を超臨界状態で圧送することもできるが、本装置においては、二酸化炭素が気体、液体またはこれらの混合状態であっても効果を得ることができる。たとえば、二酸化炭素の圧送条件としては、二酸化炭素温度20〜40℃、圧力を2〜10MPaとすればよい。これは、例えば200〜1000m深度に二酸化炭素を貯留する際に適した条件である。このような条件の二酸化炭素は、注入井9を矢印A方向に送られ、水平井10に設けられたフィルタ13を通過して塩水性帯水層11へ注入される。
【0038】
図2(a)は、水平井10のフィルタ13における断面図である。図2(a)に示すように、水平井10の一部にノズル17が設けられて、ノズル17にフィルタ13が設けられる。ノズル17は、水平井10の下方に向けて配置される。内部を流れる二酸化炭素は、フィルタ13を介して塩水性帯水層11へ噴射される。二酸化炭素は、塩水性帯水層11へ噴射される際、フィルタ13によってマイクロバブル化する。
【0039】
塩水性帯水層11内へマイクロバブル15として注入された二酸化炭素は、ノズル17の方向に噴射され(図中矢印B)、その後、全部または一部のマイクロバブルは沈降現象によって沈降する(図中矢印C)。マイクロバブル15は、浮上または沈降による滞留中に塩水性帯水層11内へ溶解する。このように、二酸化炭素を所定径以下のマイクロバブル15とすることで、二酸化炭素の塩水性帯水層11内への滞留時間を長くすることができる。また、単位量当たりの塩水性帯水層11との接触面積を大きくできるため、二酸化炭素の塩水性帯水層11への溶解を極めて効率良く進行させることができる。
【0040】
また、マイクロバブル15は塩水性帯水層11の下方に沈降するため、塩水性帯水層11の上部で二酸化炭素を注入しても、塩水性帯水層11の貯留空間を有効に利用することができる。また、塩水性帯水層11内をゆっくりと移動しながら塩水性帯水層11へ溶解する二酸化炭素は、塩水性帯水層11の周囲に存在する岩石鉱物等との化学反応によって、炭酸塩などの化合物を形成する。したがって、二酸化炭素は塩水性帯水層のみならず地下や海底下に炭酸化合物として固定することができる。
【0041】
なお、図2(b)に示すように、フィルタ13はノズルを用いず、直接水平井10に取り付けてもよい。この場合、水平井10の所定の位置に孔19を形成し、孔19にフィルタ13を固定すればよい。なお、フィルタ13は、水平井10の断面において複数方向に形成してもよい(図では2方向)。この場合でも、フィルタ13は下方(水平方向よりも下方側)に向けて設けられることが望ましい。マイクロバブル15の沈降現象により、マイクロバブル15の滞留時間を長くすることができるためである。
【0042】
また、図2(c)に示すように、フィルタ13をリング部材21に形成してもよい。水平井10の一部にリング部材21を固定し、リング部材21の内面が水平井10の内部空間と接すればよい。この場合、リング部材21の下方(水平方向よりも下方側)のみをフィルタ13とし、他の部位(水平よりも上側)を金属等で構成することで、マイクロバブル15を下方に向けて噴射することができる。したがって、マイクロバブル15の沈降現象により、マイクロバブル15の滞留時間を長くすることができる。
【0043】
以上のように、本発明では、フィルタ13の設置形態はいずれのものでも良い。例えば、水平井10の周方向の一部(下方)にフィルタ13を配置し、水平井10の一部で水平方向よりも下方に向けてマイクロバブルを噴射することが望ましいが、水平井10の周方向の上方にフィルタ13を配置して上方に向けて噴射してもよい。
【0044】
次に、本発明にかかる二酸化炭素の貯留方法の他の実施形態について説明する。図3は、二酸化炭素貯留装置20を示す図である。なお、以下の実施の形態において、図1に示す二酸化炭素貯留装置1と同一の機能を果たす構成要素には、図1と同一番号を付し重複した説明を省略する。
【0045】
二酸化炭素貯留装置20は、二酸化炭素貯留装置1に対して、注入井9a、9bが複数設けられる点で異なる。地下に、浸透性の低い泥岩層と浸透性の高い砂岩層とが交互に存在するような砂泥互層が形成される場合には、塩水性帯水層11a、11bが存在するそれぞれの複数の砂岩層へ達するように、注入井9a、9bがそれぞれ設けられる。
【0046】
注入井9a、9bには、それぞれ水平井10a、10bが設けられる。二酸化炭素貯留装置20は、それぞれの水平井10a、10bによって、塩水性帯水層11a、11bへ二酸化炭素を同時に、または個別に注入することができる。したがって、効率良く二酸化炭素を塩水性帯水層11a、11bへ注入することができる。
【0047】
図4は、二酸化炭素貯留装置30を示す図である。二酸化炭素貯留装置30は、二酸化炭素貯留装置1に対して、海底33の下へ貯留する点で異なる。海底33下方に存在する塩水性帯水層11へ効率良く二酸化炭素を貯留するために、二酸化炭素貯留装置30は地上へ設けられる。この際、注水井9は傾斜して設けられ、先端が水平井10となる。二酸化炭素貯留装置30は、海底33下の塩水性帯水層11へ効率良く二酸化炭素を貯留することができる。なお、圧送装置を海底に設置してもよい。
【実施例】
【0048】
本発明にかかる二酸化炭素の貯留方法について、マイクロバブルの発生状況の確認を行った。図5は二酸化炭素貯留試験装置40を示す図である。
【0049】
二酸化炭素貯留試験装置40は、二酸化炭素タンク41、圧力調整弁45、シリンジポンプ43、圧力容器63等から構成される。
【0050】
二酸化炭素タンク41には二酸化炭素が貯留される。二酸化炭素タンク41にはシリンジポンプ43、圧力調整弁45、バルブ47が配管49によって接続される。シリンジポンプ43は、二酸化炭素を圧力容器63へ圧送する。なお、二酸化炭素は圧力調整弁45により任意の圧力に調整が可能であり、また図示を省略した温度調整器によって、圧力容器63へ圧送される二酸化炭素を任意の温度に調整することができる。
【0051】
バルブ47を調整することで、二酸化炭素単体または二酸化炭素を圧力容器63へ圧送することができる(図中矢印D方向)。
【0052】
圧力容器63と配管49との接合部には、フィルタ61が設けられる。フィルタ61は直径50mmで5mm厚さの円板状の形状である。フィルタ61は交換が可能であり、たとえば孔径を変更して試験を行うことができる。
【0053】
圧力容器63には互いに対向する側面に照明窓67および撮影窓71が設けられる。照明窓67および撮影窓71は透明な窓であり、内部の様子を確認することができる。照明窓67からは、外部に設置された照明69によって内部が照射される。対向する位置に設けられた撮影窓71の外部にはカメラ73が設置される。カメラ73は、照明69によって照らされた圧力容器63内の様子を撮影することができる。なお、カメラ73はハイスピードカメラであり、フィルタ61を通過して圧力容器63内へ注入された二酸化炭素の状態を知ることができる。
【0054】
圧力容器63内には、所定の圧力の水が充填されている。また、圧力容器63には、排出弁65が設けられる。排出弁65は、圧力容器63内へ二酸化炭素が注入されても、圧力容器63内が一定の圧力に保持されるように機能する。すなわち、注入された二酸化炭素によって圧力が上昇すると、上昇した圧力が定常な状態となるように内部の水等を排出する。なお、圧力容器63内の水が、模擬的な塩水性帯水層に該当する。
【0055】
二酸化炭素貯留試験装置40を使用して、圧力容器63内へ種々の状態で注入した二酸化炭素の状態を観察した。フィルタ61としては、孔径(規格)11μmおよび4.5μmのビトリファイド砥石を使用した。
【0056】
試験条件としては、水の温度として20℃と40℃の二水準、二酸化炭素の注入圧力として6MPa、8MPa、10MPaの三水準、注入レートとして、0.1cc/min、1.0cc/min、5.0cc/minの三水準、圧力容器内の海水濃度として、0%(純水)、50%、100%の三水準に振ってそれぞれマイクロバブルの状態を確認した。
【0057】
なお、圧力が6MPaの条件は、貯留深度が600mであることを想定しており、圧力が8MPaの条件は、貯留深度が800mであることを想定したものである。
【0058】
いずれの条件においても、マイクロバブルの発生が確認された。図6(a)、図6(b)は、40℃、10MPa、5.0cc/min、海水濃度0%(純水)の条件で、フィルタ61の孔径(規格)が4.5μmのビトリファイド砥石試験を用いた際のマイクロバブルの例を示すものである。なお、図6(a)はカメラ73により撮影された映像であり、図6(b)は図6(a)の模式図である。
【0059】
図6(b)に示すように、圧力容器63の下方より二酸化炭素を注入すると、二酸化炭素は圧力容器63内の水中を矢印E方向へ噴射される。この際、多少の気泡が生じるものの、非常に細かなマイクロバブル75が確認された。マイクロバブル75は、圧力容器63の上方へ行くにつれて消滅するものも見られた。これは、マイクロバブルとなった二酸化炭素が水77中に溶解したためである。
【0060】
図7(a)、図7(b)は図6(b)のI部の拡大図である。なお、図7(a)はカメラ73により撮影された映像であり、図7(b)は図7(a)の模式図である。ぞれぞれの4つの図は、左から右に向かって時間経過を示し、0.34sec.間隔で撮影されたものである。
【0061】
図7(b)に示すように、フィルタ孔径を4.5μmとしたものでは、非常に細かなマイクロバブル75が確認された。また、このマイクロバブル(平均径4.5μm)が、時間の経過とともに、下方に沈降する現象が確認された(図中矢印J方向)。すなわち、他の比較的大きな気泡(マイクロバブルを含む)は上方に浮上するが、所定以下の小径のマイクロバブル(ナノバブルを含む)は、浮上せずに水中を沈降した。
【0062】
このような沈降現象は、急激な二酸化炭素の溶解によるものである。水へ二酸化炭素が溶解することで水の密度が増加する。このため、水の密度分布が生じ、二酸化炭素が溶解した水の下方への対流が生じる。この際、バブル径が小さくなることで、この対流による影響が大きくなり、バブルが水の対流によって下方に運ばれているものと考えられる。すなわち、少なくとも所定以下の径のマイクロバブル(例えば4.5μm以下)とすることで、塩水性帯水層内部でマイクロバブルを沈降させることができ、これにより、高い効率で、二酸化炭素を塩水性帯水層に貯留させることができる。
【0063】
以上本発明の実施の形態によれば、多孔質部材である砥石フィルタを介し、二酸化炭素を塩水性帯水層へ注入することで、塩水性帯水層内で二酸化炭素が効率良くマイクロバブル化させることができる。この際、孔径が4.5μm以下のフィルタを用いてマイクロバブルを発生させることで、マイクロバブルの沈降現象を利用することができる。
【0064】
このため、二酸化炭素のマイクロバブルをより長い時間に渡って、塩水性帯水層内に滞留させることができる。特に、マイクロバブルを下方に向けて発生させることで、マイクロバブルの滞留時間を十分確保することができ、効率良く、二酸化炭素を塩水性帯水層に溶解させることができる。
【0065】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0066】
例えば、図8に示すような二酸化炭素貯留装置1aとしてもよい。二酸化炭素貯留装置1aは、水平井10の略全長に渡ってフィルタ13が設けられる。このようにすることで、フィルタ13の面積を大きくすることができる。このため、より多くの二酸化炭素をより圧損が少ない状態で塩水性帯水層11に注入することができる。また、前述の例では、フィルタ13を水平性の周方向の一部に形成したが、全周に渡って形成してもよい。すなわち、フィルタ13の態様は、塩水性帯水層11に効率良く二酸化炭素を注入できるように適宜設定される。なお、このような態様は、他の二酸化炭素貯留装置20、30にも当然に適用することができる。
【0067】
また、ガス田、油田、オイルサンドなどに達する生産井を設け、注入井によって、二酸化炭素を当該地下に注入することで、生産井によってガス、石油、重油等の増進回収を行うことができる。現在のガス、石油、重油等の増進回収法においては、油等と二酸化炭素とが溶解または懸濁状態になるような高圧の二酸化炭素を圧入して、二酸化炭素と採掘する油等を混合させて増進回収を図っている。ただし、二酸化炭素と油等が元来溶解または懸濁状態になりにくく、実際には溶解または懸濁状態になる圧力が維持できる相当に深い場所に存在するガス田、油田、オイルサンドなどへ二酸化炭素を圧入しないと増進回収が図れていない。本発明をこういった増進回収に適用することで、圧入した二酸化炭素が微細気泡となり、従来よりも低い圧力で二酸化炭素と油等とが、より一層溶解または懸濁状態になりやすくなる。本発明をこういった増進回収に適用することで、これまで二酸化炭素と油等が溶解または懸濁状態になりにくく増進回収が図られていなかった比較的浅い範囲のガス田、油田、オイルサンドなどにおいても、ガス、石油、重油等の増進回収を行うことができる。
【0068】
また、この際に、生産井によって採取された油等と水の混合物から油等を回収した後、残りの水を二酸化炭素に混合して地下へ注入することで、過剰に採取した水を地下へ戻すことができ、このため地盤沈下等を抑制するとともに、塩水性帯水層へ効率良く二酸化炭素を注入することができる。
【0069】
また、二酸化炭素に、二酸化炭素よりも重い分子を混入させることで、より効率良く二酸化炭素の沈降現象を発生させることもできる。
【符号の説明】
【0070】
1、1a、20、30………二酸化炭素貯留装置
3………二酸化炭素タンク
5………圧送装置
7………地面
9………注入井
10………水平井
11………塩水性帯水層
13………フィルタ
15………マイクロバブル
17………ノズル
19………孔
21………リング部材
31………海面
33………海底
40………二酸化炭素貯留試験装置
41………二酸化炭素タンク
43………シリンジポンプ
45………圧力調整弁
47………バルブ
49………配管
61………フィルタ
63………圧力容器
65………排出弁
67………照明窓
69………照明
71………撮影窓
73………カメラ
75………マクロバブル
77………水
80………二酸化炭素貯留装置
81………二酸化炭素タンク
83………圧送装置
85………地面
87………注入井
89………シール層
91………貯留層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下に二酸化炭素、二酸化炭素よりも水への溶解度が大きい物質およびメタンの内、少なくとも1種を含む貯留物質を貯留する貯留装置であって、
塩水性帯水層へ達する注入井と、
前記注入井へ前記貯留物質を圧送する圧送装置と、
前記注入井に設けられたセラミックス製の多孔質部材と、
を具備し、
前記塩水性帯水層の内部において、前記注入井の少なくとも一部には略水平方向に向けて水平井が形成され、
前記水平井内へ圧送される前記貯留物質を、前記水平井に設けられた前記多孔質部材を介して前記塩水性帯水層へ注入することが可能であり、
前記多孔質部材は、セラミックス製の粒子と、前記粒子を結合する結合剤とを混合して焼成したものであり、孔径分布の最頻値が4.5μm以下であり、
前記多孔質部材から前記塩水性帯水層へ前記貯留物質が注入される際に、前記貯留物質のマイクロバブルを発生させることを特徴とする貯留物質の貯留装置。
【請求項2】
ガス田、油田またはオイルサンドのいずれかに達する生産井を更に具備し、
前記生産井からはガス、石油または重油を採取可能であることを特徴とする請求項1記載の貯留物質の貯留装置。
【請求項3】
地下に二酸化炭素、二酸化炭素よりも水への溶解度が大きい物質およびメタンの内、少なくとも1種を含む貯留物質を貯留する貯留方法であって、
塩水性帯水層へ達する注入井と、前記注入井へ前記貯留物質を圧送する圧送装置と、前記注入井に設けられたセラミックス製の多孔質部材と、を具備する前記貯留物質の貯留装置を用い、
前記塩水性帯水層の内部において、前記注入井の少なくとも一部には略水平方向に向けて水平井を形成し、
前記多孔質部材は、セラミックス製の粒子と、前記粒子を結合する結合剤とを混合して焼成したものであり、孔径分布の最頻値が4.5μm以下であり、
前記水平井に設けられた前記多孔質部材を介して前記塩水性帯水層へ前記貯留物質を注入する際に、前記貯留物質のマイクロバブルを発生させ、
前記マイクロバブルを、前記塩水性帯水層内部において沈降させることを特徴とする塩水性帯水層への貯留物質の貯留方法。
【請求項4】
前記貯留装置は、ガス田、油田またはオイルサンドのいずれかに達する生産井を更に具備し、
前記注入井によって、前記貯留物質を地下に注入することで、ガス、石油、重油と前記貯留物質とを懸濁状態として、前記生産井によってガス、石油または重油を採取可能であることを特徴とする請求項3記載の貯留物質の貯留方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(b)】
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【図7(b)】
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【図8】
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【図9】
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【図6(a)】
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【図7(a)】
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【公開番号】特開2012−206103(P2012−206103A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76149(P2011−76149)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(591178012)公益財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】