説明

貯蔵脂肪のモジュレータのスクリーニング

本発明は、貯蔵脂肪のモジュレータとして有用な化合物を同定するためのスクリーニング法に関する。具体的には、本発明は、受容体相互作用性タンパク質140(RIP140)の機能を調節する化合物をスクリーニングする方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
ここで引用された全文献の全文を引用をもって援用することとする。
【0002】
技術分野
本発明は、貯蔵脂肪のモジュレータとして有用な化合物を同定するためのスクリーニング法に関する。具体的には、本発明は、受容体相互作用性タンパク質140(RIP140)の機能を調節する化合物をスクリーニングする方法を提供するものである。
【0003】
背景技術
肥満など、貯蔵脂肪の著しい増加に関与する状態や、食欲不振など、貯蔵脂肪の著しい減少に関与する状態は、重篤な健康上の問題と関係している。肥満は、糖尿病、心疾患及び高血圧などの疾患に関係し、食欲不振は不可逆的な骨損傷を引き起こしたり、最終的には死を招く場合もある。
【0004】
かつては、このような状態は、主に、心理的要因として特定されてきた。しかしながら、貯蔵脂肪に著しい逸脱がある状態には遺伝学的機序も関与しているとの認識が高まっている (Schalling et
al, J. Intern. Med. 1999 Jun; 245(6): 613-9; Spiegelman & Flier, Cell
2001 Feb; 104: 531-543)。例えば、ob 遺伝子が、貯蔵脂肪のコントロールに必須であることが示唆されており、またこのob遺伝子にコードされたレプチン・ポリペプチドを用いて肥満を治療することができるかも知れないことも示唆されている。しかしながら、貯蔵脂肪の調節に関係する様々な遺伝子の効果を検査するために用いられてきたトランスジェニック・マウス・モデルは、必ずしも予想通りの表現型を有していた訳ではない (Arch. J.
Endocrinol. Invest. 2002 Nov; 25(10): 867-75)。従って、貯蔵脂肪を調節する更なる化合物を同定する必要がある。このように、本発明の目的の一つは、貯蔵脂肪を調節する化合物を同定する方法の提供である。
【0005】
発明の開示
Nripl (核内受容体相互作用性タンパク質1)としても知られる核内受容体相互作用性タンパク質140(RIP140)は、エストロゲン受容体α(ERα)及びエストロゲン関連受容体α(ERRα)などのエストロゲン受容体(ER)、レチノイン酸受容体(RAR)、甲状腺ホルモン受容体(TR)、レチノイドX受容体(RXR)、ビタミンD受容体(VDR)及びペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARα、PPARδ(PPARβとしても知られる)及びPPARγ)を含む様々な核内受容体ファミリ・メンバやアリール炭化水素受容体(AhR)による、転写のコアクチベータ又はコリプレッサである。また更に、ステロイド産生性急性調節タンパク質遺伝子(StAR)の転写を、転写因子であるステロイド産生性因子1(SF-1;Ad4BPとしても知られる)及びDAX-1との相互作用を通じて調節することも見出されている(Sugawara et al,
2001, Endocrinology 142: 3570-3577)。
【0006】
RIP140は、メスの受精にとって必須であることが公知であるRIP140がヌルのメスのマウスは生存は可能であるが、排卵時に卵を放出することが全くできないために不妊である (White et al,
2000, Nature Medicine, 6: 1368-1374)。RIP140は、二番目の役割を妊娠の維持において有すると考えられている (Leonardsson et
al, 2002, Endocrinology, 143 (2): 700-707)。
【0007】
驚くべきことに、RIP140は、貯蔵脂肪のコントロールで役割を果たすことも今や、発見された。コリプレッサタンパク質RIP140を欠くマウスは野生型マウスよりも痩せており、また絶食させたRIP140ヌル・マウスの脂肪は、絶食させた野生型マウスに比べて筋細胞により大量に沈着しているようである。RIP140ヌル・マウスは、高脂肪食で誘導される肥満及び肝脂肪症に耐性である。白色脂肪組織(WAT)での脂肪の蓄積は、野生型マウスに比べてRIP140ヌル・マウスでは減少している。
【0008】
加えて、野生型マウスでは褐色脂肪組織(BAT)でのみ発現する遺伝子は、RIP140ヌル・マウスのWATで発現しているはずである。WATとは違い、BATは脱共役の結果エネルギ源として用いることができる。脂肪代謝、エネルギ散逸及びミトコンドリアの脱共役に関与する遺伝子が、RIP140ヌル・マウスのWATでは著しく誘導され、酸素消費の増加が起きる。RIP140ヌル・マウスのWATで高レベル、発現している遺伝子の一つは、BATで典型的に発現している脂肪代謝に関与する鍵となる調節遺伝子であり、呼吸からの脱共役ATP合成で主要な役割を担っている脱共役タンパク質(UCP1)1である (Lowell, B. B.
& Spiegelman, B. M., 2000, Nature 404: 652-60; Kozak, L. P. & Harper,
M. E. , 2000, Annu. Rev. Nutr. 20: 339-63)。
【0009】
RIP140コリプレッサは、野生型マウスのWATでミトコンドリアの脱共役を防ぎ、RIP140ヌル・マウスの痩せは、WATをエネルギ源として用いる能力が原因であると考えられている。脂肪生成はRIP140ヌル・マウスでは影響を受けないが 、RIP140ヌル・マウスの痩せは、RIP140が、該ヌル・マウスでは阻害される脂肪細胞機能を有する役割を有していることも原因となっている可能性がある。
【0010】
RIP140ヌル・マウスの貯蔵脂肪は少ないため、RIP140の活性を調節する化合物は、貯蔵脂肪を調節するだろうと思われる。RIP140 は、ER、RAR、TR、RXR、VDR又はPPARなどの核内受容体ファミリ・メンバや、AhR、SF-1及びDAX-1などの転写因子に結合することにより、その効果を発揮するコレギュレータである。RIP140が特異的に結合する相手であるこれらのタンパク質をここでは標的タンパク質と言及する。数々の化合物は、RIP140の活性を、これらの標的タンパク質のうちの一つ以上と複合体を形成するその能力を促進又は阻害することにより、調節するであろう。
【0011】
これらの標的タンパク質のうちの一つ以上と複合体を形成するRIP140の能力を調節する化合物は、貯蔵脂肪を減少又は増加させる作用をするであろう。RIP140に結合する化合物は、標的タンパク質とのその複合体形成能を促進又は阻害するであろう。同様に、RIP140の標的タンパク質に結合する化合物は、その標的タンパク質と複合体を形成するRIP140の能力を促進又は阻害するであろう。
【0012】
RIP140は、RIP140ヌル・マウスで上方調節されている遺伝子の一つであるUCP-1遺伝子のプロモータ中の調節領域を標的とすることをここで示す。この調節領域は、PPAR、TR、RXR及びRARにとっての結合部位を含有することから、RIP140は、これらの標的タンパク質のうちの一つ以上のコリプレッサとして作用していると思われる。PPAR、TR、RXR及びRARのうちの一つ以上と複合体を形成するRIP140の能力を調節する化合物は、貯蔵脂肪を減少又は増加させる作用をするであろう。RIP140に結合する化合物は、PPAR、TR、RXR及びRARと複合体を形成するその能力を促進又は阻害するであろう。同様に、PPAR、TR、RXR及びRARに結合する化合物は、PPAR、TR、RXR及びRAR の、RIP140と複合体を形成する能力を促進又は阻害するであろう。従って、本発明は、一番目の方法として、RIP140に結合する化合物をスクリーニングする方法を提供するものであり、当該の方法は、候補化合物のRIP140への結合を評価するステップを含む。更に本発明は、RIP140の標的タンパク質に結合する化合物をスクリーニングする方法を提供するものであり、当該の方法は、該標的タンパク質への候補化合物の結合を評価するステップを含む。RIP140の標的タンパク質は、好ましくは、AhR、ER、RAR、TR、RXR、VDR、PPAR、SF-1 及びDAX-1から選択されるとよい。好ましくは、RIP140の標的タンパク質は、PPAR、TR、RXR及び RARから選択されるとよい。
【0013】
好ましくは、RIP140の標的タンパク質は、PPARα、PPARδ及びPPARγから選択されるとよい。これら3つの核内受容体は脂肪代謝において役割を有することが既に示されている。これまでの研究で、PPARγは、脂肪生成で重要な役割を果たすことが示されている (Lazar, M.A,
2002, Genes Dev., 16: 1-5; Mueller, E. et al., 2002, J. Biol. Chem. 277: 41925-30;
Ren, D. et al, 2002, Genes Dev., 16: 27-32 (2002); Barak, Y. et al.,1999, Mol.
Cell. 4 : 585-95)。PPARαは、熱発生及び脂肪酸酸化に関与していることが示されており (Kelly, D.P, 2003, Circ.
Res., 92: 482-4; Peters, J.M. et al., 1997, J. Biol. Chem., 272: 27307-12;
Barbera, M. J. et al., 2001, J. Biol. Chem., 276: 1486-93) 、そしてPPARδは、脂質の恒常性に関係していることが示唆されている (Wang, Y.X. et
al., 2003, Cell 113 : 159- 70)。
【0014】
本発明は、二番目の方法として、RIP140と標的タンパク質との複合体に結合する化合物をスクリーニングする方法を提供するものであり、当該の方法は、RIP140と標的タンパク質との複合体への候補化合物の結合を評価するステップを含む。
【0015】
更に本発明は、RIP140と標的タンパク質との複合体の形成又は維持を調節する化合物をスクリーニングする三番目の方法を提供するものである。モジュレータは、RIP140対標的タンパク質の相互作用のアゴニストであっても、又はアンタゴニストであってもよい。アゴニストとは、RIP140と標的タンパク質との複合体の形成及び/又は維持を促進する化合物である。アンタゴニストとは、RIP140と標的タンパク質との複合体の形成及び/又は維持を阻害する化合物である。
【0016】
好ましくは、RIP140と標的タンパク質との複合体の形成/又は維持を調節する作用をする化合物をスクリーニングする該方法は:
(a)RIP140、標的タンパク質及び一つ以上の候補化合物を混合するステップと;
(b)前記混合物をインキュベートして、RIP140、前記標的タンパク質及び前記候補化合物を相互作用させるステップと;
(c)RIP140と前記標的タンパク質との間の相互作用が調節されたかどうかを評価するステップと
を含むとよい。
【0017】
ステップ(a)におけるRIP140、標的タンパク質及び候補化合物の前記混合は、いずれの順序で行われてもよい。
【0018】
該三番目の方法で用いられる候補化合物は、本発明の一番目の方法によりRIP140又は標的タンパク質に結合するとして既に同定された化合物であっても、あるいは、本発明の二番目の方法により、RIP140と標的タンパク質との複合体に結合するとして同定された化合物であってもよい。
【0019】
同定された化合物の機能のin vivoでの確認
ある候補化合物がin vitroで、RIP140又は標的タンパク質に結合する化合物として、RIP140と標的タンパク質との複合体に結合する化合物として、あるいは、標的タンパク質とRIP140との間の相互作用のモジュレータとして、同定されたら、貯蔵脂肪を調節する上でのこの化合物のin vivoでの機能を確認するために、更なる実験を行うことが好ましいであろう。従って、上記の方法のいずれにも、哺乳動物に候補化合物を投与する更なるステップと、貯蔵脂肪に対するその効果を評価する更なるステップとを含めてもよい。
【0020】
更に本発明は、上記の方法のいずれかにより入手された又は入手可能な化合物の貯蔵脂肪に対するin vivoでの効果を評価する方法を提供するものである。当該の方法は、前記化合物を哺乳動物に投与するステップと、貯蔵脂肪に対するその効果を評価するステップとを含む。
【0021】
従って、概略的には、本発明は、哺乳動物における貯蔵脂肪を調節する化合物をスクリーニングする方法を提供するものであり、当該の方法は、(a)RIP140又はRIP140標的タンパク質に結合する;(b)RIP140とRIP140標的タンパク質との複合体に結合する;又は(c)RIP140とRIP140標的タンパク質との間の結合相互作用を調節する、化合物を同定する一番目のステップを含み、そしてステップ(a)、(b)又は(c)で同定された候補化合物を哺乳動物に投与して、該哺乳動物における貯蔵脂肪に対するその効果を評価する二番目のステップを含む。
【0022】
当該の哺乳動物は、ヒトを含む哺乳動物のいずれの種であってもよいが、好ましくはサル、ブタ、ウサギ、モルモット、ラット又はマウスであるとよい。ヒト以外への検査が好ましいであろう。
【0023】
本発明の方法により同定された化合物を、肥満及び野生の動物モデルに投与してもよい。当該の化合物を、貯蔵脂肪に関与することが公知の遺伝子の一つ又は遺伝子の組合せがノックアウトされた動物に投与してもよい。例えば、当該の化合物を、RIP140がヌルの動物、又は、ob遺伝子がヌルの動物に投与してもよい。他のモデルが広く入手できる(例えばPomp (1999)
Molecular Medicine Today 5: 459-460)。
【0024】
RIP140又は標的タンパク質に結合する化合物、又は、RIP140と標的タンパク質との複合体に結合する化合物、又は、RIP140と標的タンパク質との間の相互作用を調節する化合物、をスクリーニングする本方法は、同定された化合物の貯蔵脂肪に対する効果を評価する方法とは異なる地理的位置で行われてもよい。
【0025】
RIP140又は標的タンパク質に結合する化合物、又は、RIP140と標的タンパク質との複合体に結合する化合物、の直接的スクリーニング
RIP140又は標的タンパク質に結合する化合物をスクリーニングする本方法で用いられるRIP140又は標的タンパク質は、溶液中で遊離していても、固体の支持体に付着していても、細胞表面上に位置していても、あるいは細胞内に位置していてもよい。
【0026】
好ましくは、候補化合物のRIP140又は標的タンパク質への結合を、候補化合物に直接又は間接的に結合させた標識により、検出するとよい。該標識は蛍光体でも、放射性同位体でも、又は他の検出可能な標識でもよい。
【0027】
例えば、候補化合物がRIP140に結合するかどうかをスクリーニングする方法においては、候補化合物及びRIP140の一方又は両方を蛍光標識で標識して、この候補化合物とRIP140との間の結合を、候補化合物がRIP140に結合したときに生じる固有の蛍光変化により検出できるようにしてもよい。例えば、該候補化合物を蛍光共鳴エネルギ移動(FRET)ドナーに、そしてRIP140をFRETアクセプタに(又はその逆)つなげて、候補化合物及びRIP140が相互作用したときに、FRETドナーの刺激がFRETアクセプタを励起して、それに光子を放出させるようにしてもよい。更に相互作用を、候補化合物及び/又はRIP140を蛍光標識して、これらが複合体を形成したときに蛍光が消失するようにして検出してもよい。
【0028】
候補化合物とRIP140との間、又は、候補化合物と標的タンパク質との間、の相互作用を評価する他の方法には、NMRを用いて、RIP140:候補化合物の複合体、あるいは標的タンパク質:候補化合物の複合体が存在するかどうかを判定する方法が含まれよう。
【0029】
更に、RIP140:候補化合物の複合体又は標的タンパク質:候補化合物の複合体の存在を、 ゲル上を泳動させたときの特定の位置のバンドとして検出してもよい。
【0030】
RIP140と候補化合物との間の相互作用を評価する別の方法は、固体表面上にRIP140を固定するステップと、遊離候補化合物の存在について検定するステップとを含むものであろう。候補化合物とRIP140との間の何ら相互作用が無ければ、遊離候補化合物が検出されるであろう。検出が容易になるように候補化合物を標識してもよい。この種類の検定法は、候補化合物を固体表面上に固定した状態で行ってもよい。固定されたRIP140と遊離候補化合物との間の相互作用を、表面プラズモン共鳴法などのプロセスにより観察してもよい。
【0031】
RIP140相互作用を研究するための他の方法が、Sugawara et al, 2001, Endocrinology 142:
3570-3577に解説されている。
【0032】
RIP140を用いた使用に関して上述したこれらの技術は、もちろん、例えば候補化合物が標的タンパク質に結合するかどうかを検出するためなど、本発明の標的タンパク質のいずれにも、必要な変更を加えて用いることができる。
【0033】
RIP140と標的タンパク質との複合体に結合する化合物の該スクリーニング法は、上述の方法を用いて、しかし、RIP140の代わりに、又は、標的タンパク質の代わりに、RIP140と標的タンパク質との複合体を用いて、行うことができる。
【0034】
RIP140と標的タンパク質との複合体のモジュレータの直接的スクリーニング
RIP140と標的タンパク質との、候補化合物の存在下での相互作用の調節を、直接評価してもよい。タンパク質対タンパク質間の相互作用の直接的検出のための多様な方法を利用することができる。
【0035】
候補化合物がRIP140、標的タンパク質、又はRIP140と標的タンパク質との複合体、に結合するかどうかを評価するための上述の方法は、更に、候補化合物がRIP140と標的タンパク質との間の相互作用を調節するかどうかを評価するためにも、用いることができる。当該の標的タンパク質はRIP140に結合することが既知であり、従って上述の方法は、この相互作用が、候補化合物により破壊又は促進されるかどうかを評価するために用いられる。
【0036】
例えば、標的タンパク質及びRIP140の両方の一方を、蛍光標識で標識して、この標的タンパク質とRIP140との間の相互作用を、RIP140:標的タンパク質の複合体が候補化合物の存在下で形成又は破壊されたときに生じる固有蛍光の変化により、検出できるようにしてもよい。
【0037】
更に、候補化合物の存在下における、RIP140と標的タンパク質との相互作用は、これらの2つのタンパク質が複合体を形成したときにマスクされるRIP140及び/又は標的タンパク質上のペプチド配列(例えばエピトープ)の到達可能性を検出することによっても、評価できよう。例えば、核内受容体と相互作用するRIP140上のモチーフが、W098/49561、Lee et al (Mol. Cell.
Biol., 1998, 18 (11): 6745-44) 及びWei et al (J. Biol. Chem., 2001,276 (19): 16107-12)で同定されている。従って、RIP140と、核内受容体である標的タンパク質との間の、候補化合物の存在下での相互作用の欠如を、このようなモチーフを抗体を用いるなどにより検出することで、判定してもよい。
【0038】
RIP140:標的タンパク質の複合体の形成及び維持のモジュレータの、二種ハイブリッド系を用いた間接的スクリーニング
標的タンパク質とRIP140との間の相互作用が候補化合物の存在下で調節されるかどうかを評価するための間接的方法を用いてもよい。標的タンパク質とRIP140との間の相互作用の候補化合物の存在下での調節をスクリーニングする間接的方法の一つは、二種ハイブリッド系を用いるものである。当該の標的タンパク質を転写因子の活性化ドメインに、そしてRIP140を転写因子のDNA結合ドメインに融合させて(又はその逆)、この標的タンパク質とRIP140との間の相互作用が、細胞内でのレポータ遺伝子の転写を促進するようにしてもよい。
【0039】
本発明は、標的タンパク質とRIP140との間の相互作用を調節する化合物をスクリーニングする方法を提供するものであり、当該の方法は:
(a)レポータ遺伝子に作動的に連結したプロモータを含む核酸分子を含有する細胞を:(i)転写因子の活性化ドメインに融合させた前記標的タンパク質及びRIP140の一方を含む第一の融合タンパク質;(ii)転写因子のDNA結合ドメインに融合させた前記標的タンパク質及びRIP140の他方を含む第二の融合タンパク質;及び(iii)候補化合物;に接触させるステップと、
(b)前記レポータ遺伝子の発現レベルを評価するステップと
を含み、但しこの場合、前記標的タンパク質とRIP140との間の相互作用は、前記プロモータを活性化することにより前記レポータ遺伝子の転写を促進するものである。
【0040】
この方法を用いて、いずれかの真核細胞内でのRIP140と標的タンパク質との間の相互作用を評価できよう。好ましくは、本方法を、酵母細胞内又は哺乳動物細胞内におけるRIP140と標的タンパク質との間の相互作用を評価するために用いるとよい。候補化合物が有機化合物であり、酵母二種ハイブリッド系を用いる場合、酵母細胞壁の透過性を、ポリミキシンBなどの化学物質を用いるなどして高めることが好ましい。
【0041】
二種ハイブリッド系でのレポータ遺伝子の該発現レベルは、標的タンパク質とRIP140との間の相互作用レベルの指標である。標的タンパク質とRIP140との間の相互作用を阻害する候補化合物は、レポータ遺伝子の発現レベルを低下又は消失させる。標的タンパク質とRIP140との間の相互作用を促進する候補化合物は、レポータ遺伝子の発現レベルを維持又は上昇させる。
【0042】
好ましくは、当該のレポータ遺伝子が容易に検定されるとよい。例えば、当該のレポータ遺伝子が、可視シグナルなどの検出可能なシグナルを生じてもよい。当該のレポータ遺伝子は、それ自体が可視のシグナルを生じるタンパク質をコードしていても、あるいは、例えば蛍光タンパク質又は酵素など、可視のシグナル又は変化を生じる反応を触媒するタンパク質をコードしていてもよい。当該のレポータ遺伝子は、両者とも着色した基質及び/又は産物と一緒に通常用いられるベータ-ガラクトシダーゼ又はペルオキシダーゼなどの酵素をコードしていてもよい。当該のレポータ遺伝子は、例えばYFP又はCFPなど、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はその蛍光誘導体をコードしていてもよい(Prasher et al,
1995, Trends Genet 11 (8): 320を参照されたい)。当該のレポータ遺伝子は、ルシフェラーゼなどの発光タンパク質をコードしていてもよい。
【0043】
当該のレポータ遺伝子は細胞内のDNA複製を惹起するものでもよく (Vasavada
et al, 1991, PNAS, 88: 10686-10690) 、あるいは薬物耐性マーカをコードしていてもよい (Fearon et al,
1992, PNAS 89 : 7958-7962)。
【0044】
当該のレポータ遺伝子は、標的細胞とRIP140との間の相互作用が阻害されている細胞の正の選抜を可能にするタンパク質をコードしていてもよい。例えば、当該のレポータ遺伝子は、当該のレポータを発現しない細胞のみが生存又は成長可能であるように、毒性又は細胞成長抑制性であるタンパク質をコードしていてもよい。その結果、生存できる細胞のみが、候補化合物が標的タンパク質とRIP140との間の相互作用を阻害するために、当該レポータ遺伝子が発現しないようなものである。酵母で使用してもよいこの種類のレポータ遺伝子の例には、URA3、LYS2及びCYH2 がある(Vidal et al,
1996, PNAN, 93: 10315-10320を参照されたい)。また、当該のレポータ遺伝子にコードされたタンパク質は、細胞媒質中の特定のアミノ酸又は他の成分の非存在下又は存在下で、細胞成長を妨げるものでもよい。例えば、当該のレポータ遺伝子は、TetRop-HIS3 遺伝子の転写を抑制するTnlOテトラサイクリンであるDNA結合タンパク質をコードするものとし、このレポータ遺伝子が発現した酵母細胞はヒスチジンの非存在下では成長しないようにしてもよい(Shih et al, 1996,
PNAS, 93: 13896-13901を参照されたい)。対照的に、RIP140と標的タンパク質との間の相互作用が破壊されている酵母細胞はTN10テトラサイクリンを発現しないために、ヒスチジンの非存在下で成長することができる。
【0045】
当該のレポータ遺伝子にコードされたタンパク質は融合タンパク質の形であってもよい。融合タンパク質の作製法は当業で標準的であり、熟練した読者であれば知るところであろう。例えば、最も一般的な分子生物学、微生物学組換えDNA技術及び免疫学技術はSambrook et al.,
(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Harbor-Laboratory Press, Cold
Spring Harbor, N. Y. , 2000) 又はAusubel et al., (Current Protocols in Molecular
Biology, Wiley Interscience, NY, 1991)に見ることができる。
【0046】
RIP140:標的タンパク質の相互作用のモジュレータのための他の間接的スクリーニング法
RIP140の標的タンパク質の多くは、相互作用RIP140により活性化する又は阻害される転写因子である。例えば、SF-1 はRIP140により阻害される転写因子であり、他方AhRによる遺伝子の転写はRIP140により活性化する (Kumar et al, J.
Biol. Chem. (1999) 274: 22155-22164)。この種類のRIP140と標的タンパク質との間の相互作用は、更に、当該標的タンパク質の調節を受けるプロモータの制御下にあるレポータ遺伝子を利用しても、間接的に評価できよう。RIP140の標的タンパク質への結合がこのレポータ遺伝子の転写を阻害する場合、候補化合物の存在下でRIP140:標的タンパク質の複合体が破壊されると、このレポータ遺伝子が発現することとなる。逆に、RIP140の標的タンパク質への結合が当該レポータ遺伝子の転写を促進するものである場合、RIP140:標的タンパク質の相互作用が破壊されると、このレポータ遺伝子の転写が阻害されるであろう。
【0047】
本発明は、RIP140と、転写因子である標的タンパク質との間の相互作用を調節する化合物をスクリーニングする方法を提供するものであり、前記の方法は:
a)レポータ遺伝子に作動的に連結させた、標的タンパク質により調節されるプロモータを含む核酸分子を、一種以上の候補化合物に、RIP140及び前記標的タンパク質の存在下で接触させるステップと;
b)前記レポータ遺伝子の発現レベルを評価するステップと
を含む。
【0048】
この方法では、レポータ遺伝子の転写がプロモータの制御下にあり、標的タンパク質により調節されるように、前記レポータ遺伝子に作動的に連結させたプロモータを含む核酸分子を利用する。これらの核酸をレポータ・コンストラクトと言及することとする。
【0049】
該コンストラクト中のプロモータは、標的タンパク質により調節されるプロモータであり、このプロモータから、該標的タンパク質は当該レポータ遺伝子の転写を促進することができる。プロモータの性質は、標的タンパク質の種類に依るであろう。標的タンパク質がER又はTRなどの核内ホルモン受容体である場合、当該のプロモータは、転写を開始させるためにこの核内ホルモン受容体が結合する相手であるホルモン応答因子を含有する。SF-1により調節されるプロモータは、転写を開始させるためにSF-1が結合する相手である性腺刺激ホルモン細胞特異的因子(GSE)を少なくとも1つ含有する (Bryan et al,
1999, J. Molec. Endocrin., 22: 241-249)。
【0050】
標的タンパク質により調節されるプロモータは、その転写が標的タンパク質により調節されるいずれの遺伝子の上流にある領域を由来としてもよい。
【0051】
当該プロモータにより制御されるレポータ遺伝子は、天然で当該標的タンパク質により調節される遺伝子であってもよい。このような場合、当該レポータ・コンストラクトは、好ましくは、当該レポータ遺伝子と、その天然の上流調節配列とを含むとよい。しかしながら、好ましくは、このプロモータが、二種ハイブリッド法で上述したように、容易に検定される異種レポータ遺伝子の転写を制御するものであるとよい。しかしながら、該二種ハイブリッド系では、標的タンパク質とRIP140との間の相互作用を阻害する化合物は、レポータ遺伝子の発現減少の結果として、必ず検出される。標的タンパク質の転写活性自体が検出される場合、この結果は、RIP140が標的タンパク質の活性を活性化する作用をするのか、又は阻害するように作用するかに依存する。RIP140と標的タンパク質との間の相互作用を阻害する化合物は、RIP140が標的タンパク質の活性を阻害する場合にはレポータ遺伝子の発現増加をもたらすが、RIP140が標的タンパク質の活性を活性化する場合には、レポータ遺伝子の発現減少をもたらす。
【0052】
例えば、レポータ遺伝子が蛍光タンパク質である場合、RIP140と、RIP140により阻害される標的タンパク質との間の相互作用の阻害は、蛍光タンパク質発現の増加により検出されるであろう(例えば二種ハイブリッド系)。対照的に、RIP140と、RIP140により活性化する標的タンパク質との間の相互作用の阻害は、蛍光タンパク質発現の減少により検出されるであろう。同様に、レポータ遺伝子が毒性遺伝子である場合、RIP140と、RIP140により阻害される標的タンパク質との間の相互作用の阻害は、細胞死の増加により検出されるであろう。対照的に、RIP140と、RIP140により活性化する標的タンパク質との間の相互作用の阻害は、細胞生存率の増加により検出されるであろう。
【0053】
レポータ遺伝子にコードされたタンパク質は、上述したように融合タンパク質の形であってもよい。例えば、可視のシグナルを生ずる遺伝子を、当該コンストラクト中のプロモータに天然で連鎖している遺伝子の下流に融合させてもよい。
【0054】
レポータ・コンストラクトを含むベクタ
本発明の間接的スクリーニング法で用いられるレポータ・コンストラクトは、ウィルス・ベクタの形でも、又は非ウィルス・ベクタの形でもよい。好ましくは、本発明のこれらの方法で用いられる核酸分子は、プラスミドなど、従来の非ウィルス・ベクタの形であるとよい。これらの間接的スクリーニング法を細胞ベース又は組織ベースの検定法で行う場合、動物細胞への非ウィルス・ベクタの導入は、デキストラン媒介性トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿法、ポリブレン媒介性トランスフェクション、プロトプラスト融合、 エレクトロポレーション、ポリヌクレオチドのリポソームへの封入、又はDNAの核への直接的マイクロ注入などを含め、当業で公知のいずれの方法でも行えよう。
【0055】
核酸分子の使用
本発明は、貯蔵脂肪を調節する化合物のスクリーニング法における、上述のようなレポータ・コンストラクトの使用を提供するものである。
【0056】
スクリーニング法を実施するための系
本発明の方法は、無細胞系で行っても、又は細胞もしくは組織中で行ってもよい。
【0057】
具体的には、上述した間接的スクリーニング法を、無細胞系で行っても、又は細胞もしくは組織中で行ってもよい。無細胞系は、mRNAレベルを測定することにより発現レベルを検出する場合はレポータ遺伝子の転写のために必要な全ての成分を、そしてタンパク質レベルを測定することにより発現レベルを評価する場合にはレポータ遺伝子の転写及び翻訳に必要な全ての成分を、含有していなければならない。
【0058】
本発明のスクリーニング法を無細胞系で行うことが好ましい。なぜならこれにより、候補化合物の高スループットのスクリーニングが容易になるからである。
【0059】
本発明の間接的スクリーニング法は、好ましくは、哺乳動物(例えばヒト)細胞又は組織などの真核細胞又は酵母細胞で行われるとよい。
【0060】
RIP140と標的タンパク質との相互作用を阻害する化合物を、標的タンパク質で調節されるプロモータを含む核酸分子を用いてスクリーニングする前記間接的方法を細胞内で行う場合は、当該の細胞は、好ましくは、RIP140及び標的タンパク質の両方を内因的に発現しなければならない。RIP140及び標的タンパク質が内因的には発現しない場合、このRIP140又は標的タンパク質をコードするウィルス又は非ウィルス・ベクタを用いてこれらを当該細胞内に導入してもよい。好ましくは、RIP140及び標的タンパク質をプラスミドの形で細胞内に導入するとよい。
【0061】
レポータ遺伝子の発現レベルを評価する
レポータ遺伝子の発現レベルは、レポータ遺伝子から転写されたmRNAのレベル、又は、その転写後に翻訳されたタンパク質レベル、を測定することにより、評価できよう。測定法は定性的でも、又は定量的でもよい。
【0062】
mRNAのレベルを測定する
レポータ遺伝子から転写されたmRNAのレベルは、例えば Sambrook et al[上記]に解説された伝統的なブロット技術などにより、評価することができる。メッセンジャRNAはゲル電気泳動法を用いて精製及び分離することができる。次に、ゲル上の核酸をニトロセルロースなどの固体の支持体上にブロットする。この固体の支持体を標識済みプローブに曝露した後、洗浄してハイブリダイズしなかったプローブを取り除く。次に、標識済みプローブを含有する二重鎖を検出する。典型的には、プローブを放射活性部分で標識する。
【0063】
選択的には、レポータ遺伝子から転写されるmRNAのレベルをPCRベースの方法で検出してもよい。レポータ遺伝子から転写されるmRNAを、このmRNAに特異的に結合するプライマを用いて特異的に増幅し、増幅後のmRNAを上述したブロット法で検出してもよい。更に、レポータ遺伝子の転写レベルは、レポータ遺伝子から転写されるmRNAに相補的な2つのオリゴヌクレオチドに結合させた蛍光体を利用して、蛍光共鳴エネルギ移動(FRET)を用いて検出することもできよう。 (Wouters
et al, 2001, Trends in Cell Biology 11,203-211を参照されたい)。
【0064】
無細胞系として、細胞又は組織は、mRNAが転写される元のDNAを含有することとなるが、RNA特異的検出技術を用いたり、あるいは、DNAでなくmRNA転写中に存在する配列(例えばスプライス接合部、poly Aのテール等)に注目することが好ましい。本発明の方法は、無細胞系、細胞又は組織からmRNAを抽出する;無細胞系、細胞又は組織からDNAを取り除く;及び/又は、無細胞系、細胞又は組織中の、mRNAではなくDNAを破壊する、最初のステップを含んでいてもよい。
【0065】
生物試料からRNAを選択的に抽出する方法は公知であり、その中には、グアニジウム緩衝剤、塩化リチウム、フェノール:クロロホルム抽出、SDS/酢酸カリウム等に基づく方法がある。全RNAを抽出後、オリゴ-dT技術を用いるなどしてmRNAを濃縮してもよい。生物試料からDNAを取り除く方法にはDNase消化法がある。レポータ遺伝子をコードするDNAを取り除き、それから転写されたRNAは取り除かないような方法は、DNA内の配列に特異的な作用薬を用いるものであろう。
【0066】
タンパク質レベルを測定する
mRNAレベルの測定は、高スループットのスクリーニング法では理想的でないため、レポータ遺伝子の発現を、タンパク質レベルを測定することにより評価することが好ましい。
【0067】
レポータ遺伝子から発現したタンパク質のレベルは、適宜、当該レポータ遺伝子にコードされたタンパク質に結合する抗体を用いることにより、測定することができる。結合しなかった抗体を取り除いた後、当該レポータ遺伝子にコードされたタンパク質のレベルを、それに結合した抗体のレベルを評価することにより、判定することができる。これを、当該タンパク質に結合する抗体を標識したり、あるいは、第一の抗体に結合する第二の標識された抗体を用いることで、行ってもよい。
【0068】
レポータ遺伝子が、可視シグナルを生ずるタンパク質をコードしている場合、このレポータ遺伝子の発現レベルを、この可視シグナルを検出することにより評価することが好ましい。例えば、当該レポータ遺伝子がGFPなどの蛍光タンパク質や、又は、ルシフェラーゼなどの酵素をコードしている場合、発現レベルは蛍光/発光検出により評価できよう。当該レポータ遺伝子が毒性又は細胞増殖抑制性のタンパク質をコードしている場合、発現レベルは、細胞生存率又は細胞成長を観察することにより、評価できよう。
【0069】
参考基準
標的タンパク質とRIP140との間の相互作用が本発明の方法で調節されるかどうかを検出するためには、典型的には、参考基準(例えばコントロール)が必要である。候補化合物が、標的タンパク質とRIP140との間の相互作用を阻害するかどうかを検出するためには、標的タンパク質とRIP140との間の、候補化合物の存在下での相互作用を、候補化合物の非存在下での標的タンパク質とRIP140との間の相互作用に比較してもよい。
【0070】
該基準は、本発明の方法を行う前に判定しても、あるいは、本方法を行う間(例えば並行して)又は後に行ってもよい。それは以前の研究から得られた絶対的基準であってもよい。
【0071】
本発明の方法で用いるためのタンパク質
本発明の方法では、いずれの真核生物を由来とする標的タンパク質及びRIP140を用いてもよい。好ましくは、これらは、哺乳動物などの動物を由来とする標的タンパク質及びRIP140を用いるとよい。好ましくは、本発明の方法で用いられるRIP140及び標的タンパク質は、両者とも、同じ哺乳動物を由来とするとよい。RIP140及び標的タンパク質は両者ともヒトタンパク質であることが好ましい。RIP140遺伝子は、ヒト(Cavailles et al,
1995, EMBO J., 14: 3741-3751)及びマウス(Lee et al, 1998, Mol. Cell. Biol., 18: 6745-55)を含む数多くの哺乳動物種でクローニングされており、野生型配列からのアミノ酸置換、挿入又は欠失を含有する、天然の生物学的バリアント、対立遺伝子バリアントや変異体を含むバリアントがNCBIデータベースにある。
【0072】
RIP140の使用に関する、本発明における基準には、これら及び他のバリアントがあるが、但し条件として、当該の方法がRIP140/標的タンパク質の相互作用に関係する場合、当該バリアントは、目的の標的タンパク質との相互作用能を保持していなければならない。同様に、標的タンパク質のバリアントがRIP140との相互作用能を保持していれば、これらを用いてもよい。
【0073】
例えば、あるタンパク質がモジュール構造を有していれば、本発明の方法は、このタンパク質内の単一のモジュールに焦点を当てたものでもよく、特に、特定の結合活性を持つモジュール(例えばER/RIP140の相互作用に関与するERの領域上)に焦点を当てたものでもよい。RIP140で、核内受容体と相互作用するモチーフがW098/49561, Lee
et al (Mol Cell Biol, 1998,18 (11): 6745-44) 及びWei et al (J
Biol. Chem., 2001,276 (19): 16107-12)に開示されている。このように、標的タンパク質のうちでRIP140と相互作用するフラグメントと、RIP140のうちで標的タンパク質と相互作用するフラグメントを、本発明の方法で用いてもよい。RIP140及び標的タンパク質の他の適したバリアントが、文献から公知である。
【0074】
標的タンパク質及びRIP140に構造上類似のポリペプチドや、又は、RIP140及び標的タンパク質のうちで相互作用能を保持したフラグメントも、本発明の方法で用いてよい。これらは天然の標的タンパク質又はRIP140を由来としても、あるいは、これらを合成により、又は遺伝子操作技術を用いて調製してもよい。具体的には、標的タンパク質又はRIP140の三次構造、特に、標的タンパク質及びRIP140のうちで相互作用するドメイン、を模倣するようにデザインされた合成分子を、本発明の方法で用いてもよい。本発明の方法における標的タンパク質及びRIP140の使用に関する参考には、標的タンパク質及びRIP140に、あるいはこれらのフラグメントに構造上類似のポリペプチドの使用がある。
【0075】
本発明の方法における標的タンパク質及びRIP140の使用に関する参考には、更に、標的タンパク質もしくはRIP140を含む融合タンパク質、これらのバリアントもしくはフラグメントを含む融合タンパク質、あるいは、標的タンパク質もしくはRIP140に、又は標的タンパク質もしくはRIP140のフラグメントに、構造上類似のポリペプチドを含む融合タンパク質、の使用がある。このような融合タンパク質は、二種ハイブリッド法で特に有用である。
【0076】
候補化合物
スクリーニング法で用いられる候補化合物
本発明の全スクリーニング法で用いるのに典型的な候補化合物には、限定はしないが、ペプチド、ペプトイド、タンパク質、脂質、金属、低有機分子、RNAアプタマ、抗生物質及び他の公知の医薬、ポリアミン、抗体又は抗体誘導体(例えば抗原結合フラグメント、scFvを含む一本鎖抗体等)及びこれらの組合せ又は誘導体、がある。低有機分子は、約50を越え、約2,500ダルトン未満の分子量、そして最も好ましくは約300乃至約800ダルトンの分子量を有するものである。候補化合物は、合成もしくは天然化合物の大型ライブラリを由来としてもよい。例えば、合成化合物ライブラリは、メイブリッジ・ケミカル社(英国コーンウェル、レビレット)又はアルドリッチ社(ウィスコンシン州ミルウォーキー)から市販のものを入手可能である。選択的には、細菌、真菌、植物及び動物抽出物の形の天然化合物のライブラリを用いてもよい。加えて、候補化合物を、個々の化合物又は混合物のいずれかとして、コンビナトリアル化学法を用いて合成により作製してもよい。
【0077】
核内受容体へのRIP140の結合は、RIP140のうちで、この受容体と相互作用するドメインをアセチル化することにより、阻害できることが示唆されている(Vo et al, 2001,
Mol Cell Biol, 21 (18): 6181-8)。従って、候補化合物は、プレスクリーニングでRIP140をアセチル化すると特定された化合物であってもよい。
【0078】
スクリーニング法により同定された化合物
更に本発明は、上述の方法のいずれかにより入手された、あるいは、入手可能な、RIP140に、又は、標的タンパク質に結合する、あるいは、RIP140と標的タンパク質との複合体に結合する、あるいは、RIP140と標的タンパク質との間の相互作用を調節する、化合物を提供するものである。好ましくは、本発明の化合物は有機化合物であるとよい。
【0079】
更に、上述の方法のいずれかにより入手された、あるいは、入手可能な、RIP140に、又は、標的タンパク質に結合する、あるいは、RIP140と標的タンパク質との複合体に結合する、あるいは、RIP140と標的タンパク質との間の相互作用を調節する、化合物、を含む組成物も提供される。
【0080】
貯蔵脂肪を調節することが見出された化合物は、貯蔵脂肪の逸脱に関連する異常の治療にそれ自身が有用であったり、あるいは、このような異常の治療のための新薬開発用のリード化合物である場合がある。これらはまた、貯蔵脂肪の調節に関する研究にも有用であろう。
【0081】
同定された化合物の薬学的な用途
ある化合物が、本発明の方法の一つを用いて同定されたら、その薬学的な性質に関して更なる研究を行う必要がある場合がある。例えば、化合物の薬物動態特性又は生物学的利用能を向上させるためにそれを変更する必要があるかも知れない。本発明は、それらの薬物動態特性を向上させるために変更された、本発明の方法により同定されたいずれかの化合物や、そのような化合物を含む組成物にまで、渡るものである。
【0082】
更に本発明は、例えば貯蔵脂肪を増加又は減少させるためなど、本発明の方法を用いて入手された又は入手可能な化合物や、それらの化合物を含む組成物を医薬としての使用に向けて提供するものである。更に本発明は、本発明の方法を用いて入手された、又は入手可能な化合物や、それらの化合物を含む組成物の貯蔵脂肪を増加又は減少させるための医薬の製造における使用を提供するものである。本化合物を用いて、肥満又は食欲不振など、貯蔵脂肪の増加又は減少に関する異常を治療又は防止できよう。本発明の方法のいずれか一つを用いて入手された、又は入手可能な化合物や、このような化合物を含む組成物を、哺乳動物、好ましくはヒト、に投与するステップを含む、貯蔵脂肪を増加又は減少させる方法も、提供される。
【0083】
発明を実施するための形態
本発明の多様な局面及び実施態様を、以下に幾分詳細に解説する。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、詳細の変更が行えることは理解されたい。
【0084】
実施例1:
RIP140ノックアウト(Nrip1 ノックアウト)マウスが生存可能ではあるが、成長が損なわれていることが、成体体重のほぼ20乃至25%の減少で実証されるように、見出された。この減少は主に、皮下脂肪がほとんどないこと、そして鼠径部貯蔵脂肪の量が約半分であることに現れている、総体脂肪の蓄積が相当少ない(野生型に比較して75%の減少)ことの結果である(図1及び2)。
【0085】
食物摂取はRIP140ノックアウト・マウス及び野生型マウス間で同様であることが見出されていることから、RIP140ノックアウト・マウスでの脂肪減少は食物摂取の差が原因でないことが示唆された(図3)。RIP140ノックアウト・マウスにおける糖耐性は、野生型マウスでの糖耐性と同様だった(図4)。
【0086】
脂肪組織の組織学的分析では、白色脂肪組織(WAT)及び褐色脂肪組織(BAT)を由来とする細胞は両者とも、RIP140ノックアウト・マウスでは有意に小さいことが示された(図5及び6)。この異常にもかかわらず、in vitro 分化検定法では、RIP140ノックアウト・マウスのWAT又はマウス胚(MEF)から単離された培養細胞は、野生型細胞と同程度まで分化することができた(図7A)。このことは、分化自体はRIP140ノックアウト・マウスでは損なわれておらず、また、痩せは、成熟脂肪細胞の機能が損なわれていることが原因である可能性を示している。成熟脂肪細胞におけるRIP140の機能上の役割が、vitroの3T3-L1 及びMEF細胞の分化中のRIP140発現の劇的な上方調節(Soukas et al,
2001, J. Biol Chem. , 36: 34167-34174)や、WATが、調べられたマウス組織の全てで最も高い発現レベルを示すという事実(図7B及び図8)で裏付けられている。しかしながら、in vitroで行われた実験の結果は、必ずしもin vivo での状況を反映するものではなく、また、脂肪細胞分化の不足が、RIP140ノックアウト・マウスで観察される痩せの寄与因子である可能性が依然、ある。
【0087】
マウス組織の詳細な遺伝子発現プロファイルから、多種の遺伝子の発現がRIP140ヌル・マウスで変化していたことが明らかになった(図9)。C/EBPα(図10)、PPARγ(図11)及びSREBPc (図12)などのWAT機能の鍵となる調節因子の発現は、すべて、RIP140ノックアウト・マウスで下方調節(2乃至10分の1)されている。予想通り、これは更に、 Glut-4(図13)及びレプチン(図14)を含む標的遺伝子の減少にもつながる。
【0088】
対照的に、脂肪酸酸化(CPT1b)及び脱共役タンパク質(UCP-1)に関与する2つの律速酵素をコードする遺伝子は、両者とも、RIP140ノックアウトWATでは劇的に上方調節(20乃至100倍)されていた(図15及び16)。
【0089】
CPT1b 及びUCP-1 は通常、BATでは高レベル発現するため、RIP140ノックアウト・マウスにおけるWATは、RIP140ノックアウト・マウスのWATでの燃料消費(酸化及び脱共役)の増加及び貯蔵減少につながった適応した「BAT様」機能を有すると考えられる。
【0090】
PPARαの発現もまた、RIP140ノックアウト・マウスで上方調節されていることが見出された(図17)。RIP140ノックアウト・マウスでの体脂肪の減少は、脂肪細胞の大きさの減少が原因のようである。発現分析及びin vitro分化では、この脂肪細胞の大きさの減少は、脂肪細胞分化が損なわれたことよりも、WAT機能が損なわれたことが原因である可能性が示される。観察される表現型に考えられる機序は、WATのミトコンドリアにおける脂肪酸輸送の増加(CTP1bの上方調節)、及び/又は、脱共役の増加(UCP-1の上方調節)である。
【0091】
RIP140ノックアウト・マウスで代謝に影響している可能性のある更なる表現型は、高脂肪食摂取後の筋肉におけるトリグリセリドの蓄積と、肝臓における脂肪蓄積からの保護である(図18)。
【0092】
実施例1での実験を、実施例2で、更なる結果と併せて、より詳細に解説する。
【0093】
実施例2:
結果
*RIP140ヌル・マウスは痩せの表現型を示す。
RIP140ヌル・マウスは、オス及びメスの両者とも、野生型マウスに比較して体重の約20%が減少して痩せており、これは年齢と共に増す(図19a及びデータは示さず)。全身の脂肪分の磁気共鳴撮像(MRI)及び分光線検査(MRS)では、皮下脂肪がほとんどないこと、そして他の貯蔵脂肪の著しい減少が明らかになった(図19b)。総体脂肪分は、全身プロトンMRSで分析したときにほぼ70%減少しており、他方、精巣上体脂肪の重量は、マウスの年齢に応じて40乃至60%、減少していた(図19c)。この体重及び脂肪分の減少は、オープン・フィールド活動測定で判断したところ、身体活動の増加が原因ではなかった(データは図示せず)。加えて、体重に対する食物摂取量は、RIP140 ヌル・マウスでは僅かに増加(それぞれ野生型及びヌル・マウスで4.93±0.37 及び4.70±0.20 g/マウス/日)していたことから、エネルギ消費をコントロールしている機序が、 RIP140ヌル・マウスでは変化していることが示された。
【0094】
鼠径部白色脂肪の組織学的分析では、脂肪細胞の直径は、野生型マウスでの63.2±3.7μmからRIP140 ヌル・マウスの45.2±3.5μmに減少していたことが示される(図19d)。これは、ほぼ50%の体積減少に等しく、精巣上体の脂肪の減少は、脂肪細胞の数ではなく、脂肪含有量の減少に比例した細胞の大きさの減少が原因であることを示している。褐色脂肪細胞の大きさ及び外観は、野生型及びRIP140ヌル・マウスの両者で同様だった。WATでの脂肪蓄積の減少は、脂肪異栄養性の表現型の関係で起きたと考えられるが、高インシュリン血症、高血糖症(データは図示せず)、又は、肝臓、筋肉及びBATを含む代替組織に貯蔵される脂肪、のいずれにも証拠は観察されないことから、これが当てはまらないことが示される(図19d)。
【0095】
高脂肪食を10日間与えた効果に対する、RIP140ヌル・マウスの応答を判定した。野生型マウスにおける平均重量増は、体重の14.5%の増加に相当する5.3±0.29 gだったが、RIP140ヌル・マウスでは、体重の3.8%に相当する僅かに1.0±0.15g増だった(図19e)。血清の生化学的検査では、遊離脂肪酸の増加及び高トリグリセリド血症は明らかにならなかった(図19f)。予想通り、脂肪組織中での脂肪分の減少は、血中レプチン・レベルの減少につながる(図19g)。WATにおける細胞の大きさの組織学的検査(図19h)及び量的分析では、野生型マウスでは69.9±3.6μmへの細胞直径の増加、そしてRIP140ヌル・マウスでは50.7±1.3μmへの細胞直径の増加があったことが示された。 このように、ヌル・マウスで観察された細胞体積の50% の減少は、前に注目された通りに、通常の固形食でも維持された。細胞の大きさの増加は、高脂肪食を与えられた野生型マウスの褐色脂肪細胞でも観察されたが、RIP140ヌル・マウスでは観察されなかった。より重要なことに、オイルレッド染色では、高脂肪食を与えられた野生型マウスの肝臓でトリグリセリドの蓄積に著しい増加が示されたが、これはRIP140ヌル・マウスではなかった(図19h)ことから、脂肪組織の変化の非脂肪異栄養性が裏付けられた。この違いは、加齢時に通常食を与えられたマウスでも明白だったことから、RIP140ヌル・マウスは肝臓脂肪症から保護されていたことが示唆された。このように、RIP140ヌル・マウスが痩せているのは、トリグリセリドを貯蔵できないからであり、驚くべきことに、高脂肪食誘導性の肥満に抵抗性であることが結論付けられ、代替的な機序が、過剰な燃料の散逸に関与していることが示唆された。
【0096】
*脂肪生成不全は、RIP140ヌル・マウスの痩せ表現型の原因ではない
マウス組織を調べると、RIP140 mRNAは広汎に発現し、最高レベルはWATでであり、その後に骨格筋が続き、最低レベルはBAT及び肝臓においてであることが分かる(図2a)。 3T3-L1 細胞の発現プロファイリング解析では、脂肪細胞への分化中にRIP140の発現に著しい進行性の増加があったことが示され (Soukas, A. et
al, 2001, J Biol Chem 276: 34167-74) 、これは、分化誘導から3乃至6日後に最大レベルを示した定量的リアルタイムRCR分析でも確認された(図20a)。これらの観察や、RIP140ヌル・マウスが示す痩せ表現型を考慮にいれて、脂肪細胞の分化や機能におけるRIP140の役割を調査した。
【0097】
まず、野生型及びRIP140ヌル胚を由来とする線維芽細胞の分化能をin vitroで比較することにより、RIP140が脂肪細胞の分化に必要だったかどうかを検査した。 標準的なホルモン分化カクテル(PPARγアゴニストであるロシグリタゾンを加えて、又はなしで)中でインキュベートしたコンフルエントな線維芽細胞は、オイル・レッド染色で判断したところ、細胞にRIP140遺伝子がない場合でも、完全に脂肪細胞に分化することができたことが見出された(図20b及びデータは図示せず)。しかしながら、細胞分化とRIP140遺伝子転写との間の関連が、ヌル・マウスにおいてRIP140コーディング配列の代わりに挿入されたβ-ガラクトシダーゼ遺伝子の発現を解析することにより、実証された(White, R. et al.,
2000 Nat Med 6: 1368-74)。図20bは、オイル・レッドO陽性細胞及びβ-ガラクトシダーゼ活性が、分化細胞にのみ検出され、脂肪表現型がRIP140プロモータ活性に必要であることが示唆されたことを示している。ホルモン治療後のRIP140発現の増加の遅れや、RIP140非存在下での胚性線維芽細胞の分化能は、脂肪生成はこの核内受容体コリプレッサに依存していないことを実証している。脂肪及び他の代謝組織の機能を維持する上でのRIP140のin vivo での役割を分析した。
【0098】
*WATにおいてエネルギ散逸に関与する遺伝子の上方調節
RIP140のないWATにおける欠陥につながる潜在的な分子機序を調査するために、詳細な遺伝子発現プロファイル解析を行い、並行研究で、BAT、筋肉及び肝臓における発現を判定した。カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1b(CPT1b;>20倍)のWATにおける発現増加 と、ミトコンドリア脱共役タンパク質1のde novo発現における発現増加(UCP1;>100倍)が観察された;更に、筋肉中でUCP-1も10倍、上方調節されていた(図21a)。CPT1bは、外側ミトコンドリア膜を透過する遊離脂肪酸の輸送に必要(McGarry, J.D.
&; Brown, N.F. , 1997, Eur J Biochem, 244: 1-14; Barrero, M. J. et al.
2003, Biochem J, 369: 721-9)であると共に、UCP-1と一緒に、BATにおける熱発生に必須である。免疫組織化学分析では、UCP1タンパク質が、RIP140ヌル・マウス(図21b及びデータは図示せず)由来のWAT中の単小房及び多小房脂肪細胞の両方に現れることが示される。UCP1に関する染色は、aP2-Ucp1導入遺伝子を発現しているマウスで解説されたのと同様に、細胞膜に近い細胞質側区域に主に局在している(Rossmeisl, M. et
al., 2002, Eur J Biochem, 269: 19-28)。RIP140ヌル・マウス由来のWATにおけるUCP-1の発現増加を鑑み、in vivo の野生型マウス及びヌル・マウスで酸素消費を比較したところ、野生型動物に比較して、RIP140ヌル・マウスで8.9%の増加が見出された(61.3±4.3 ml/Kg/分に比較して66.8±5.1ml/Kg/分)。このように、RIP140ヌル・マウスにおけるCPT1b及びUCP1の上方調節が、ミトコンドリアの呼吸及びエネルギ脱共役を増加させることで、代謝組織中の脂肪の貯蔵減少又は枯渇を起こさせているのかも知れない。
【0099】
数多くの発達上、食事上、ホルモン上及び環境上の因子が、CPT1及びUCP1の発現を調節している。核内受容体、特にPPAR受容体は、これらのシグナル伝達経路の多くを媒介する上で中心的な役割を果たしているため、代謝組織中のこれらの受容体の発現を調べた。すべての場合で、発現レベルは野生型及びRIP140ヌル・マウスで同様であったが、WATは例外であり、PPARαが約3倍に増加し、PPARγ2が2分の1に減少していた(図22a)。UCP-1転写の活性化にとって鍵となるコアクチベータはPGC-1αであるが、その発現レベルは、RIP140ヌル・マウスでは上昇していなかった(図22b)。同様に、白色及び褐色組織間でエネルギ・バランスを制御していることが見出されたSRC1及びTIF2のレベルは変化していなかった(図22b)。PPARγ2に加え、脂肪細胞機能にひつようないくつかの転写因子、例えば、CEBPα及びSREBPlc、の発現は、RIP140ヌル・マウス由来のWATでは50-60% 減少していたが、他の組織では減少していなかった(データは図示せず)。これらの減少と一致して、例えばアディポネクチン、レプチン、グルコース・トランスポータ4 (Glut4)及びaP2を含む対応する標的遺伝子の発現に減少があった(図22c、図19g及びデータは図示せず)。
【0100】
*RIP140コリプレッサは、UCP1エンハンサ因子を標的とする
次に、RIP140が遺伝子発現を調節していると考えられる機序を、トランスフェクト細胞株でのUCP1及びCPT1遺伝子のプロモータを調べることにより、調査した。これらの実験を行うために、RIPKO-1細胞と呼ばれるRIP140ヌル細胞株を、マウス胚性線維芽細胞から作製した。このマウス胚性線維芽細胞は、in vitroで誘導して、数多くのマーカ遺伝子の発現能及びトリグリセリド蓄積能により判断したときに脂肪細胞に分化させることができるものである(データは図示せず)。重要なことに、3T3L1細胞とは対照的に、コンフルエントRIPKO-1細胞をホルモン・カクテルで処理して脂肪細胞分化を誘導すると、UCP1(図23a)が誘導され、CPT1の発現が増加する(データは図示せず)。この抑制解除の時間的経過は、分化を誘導した3T3L1細胞で観察されたRIP140の発現増加と相関した(図20a)が、このことをin vivoでの発現変化と組み合わせると、コリプレッサ機能とUCP1/CPT1 遺伝子調節との間の機序の上での関連があることと一致する。
【0101】
UCP1の発現増加が遺伝子転写の変化を反映しているのかどうかを分析するために、UCP1プロモータ配列の制御下にある2つのルシフェラーゼ・レポータ遺伝子を作製した。一つは、転写開始部位の上流に4kbのDNAを含有し、他方は、核内受容体にとっての複数の調節配列を含有することが前に示されている220 bpの断片を含有していた(図23b)(Lowell, B.B.
& Spiegelman, B.M., 2000, Nature 404: 652-60; Sears, I. B., et al, 1996,
Mol Cell Biol, 16: 3410-9; Larose, M. et aL, 1996, J Biol Chem 271: 31533-42;
del Mar Gonzalez- Barroso, M. et al., 2000, J Biol Chem, 275: 31722-32 (2000)。両方のレポータ遺伝子の活性化は、RIPKO-1細胞に、プロモータ活性の増加がUCP1 mRNAレベルの増加と並行するような脂肪細胞分化をこれらが起こした場合にのみ、明白だった。(図23a及び23cを比較されたい)。このように、RIP140がないと、脂肪細胞分化時に誘導される一つ以上の因子の作用と相まって、UCP1遺伝子の転写が可能となる。RIPKO-1細胞でRIP140を再発現させたときの効果を調べたところ、 それにより両方のUCPl-ルシフェラーゼ・レポータ遺伝子からの転写が著しく減少し(図23c)、その転写コリプレッサとしての機能と一致することが見出された。このように、UCP1の転写はRIP140による抑制の対象であること、そして、これは転写開始部位の2.5kb上流に見られる220bpの調節領域により、おそらくは当該プロモータのこの領域内の因子に結合する転写因子の標的決定により、媒介されていることが結論付けられた。
【0102】
UCP-1エンハンサ因子は、数多くの核内受容体シグナル伝達経路にとっての標的であることが示されており、そのうちで最もよく特徴付けられているのがPPARαである。他方、RIP140ヌル・マウスの痩せ表現型と、UCP1の上方調節のレベルは、活性化型のPPARδが脂肪組織で過剰発現しているマウスに見られるものと似ていることから、このPPARアイソフォームも抑制の標的である可能性が浮かび上がる。これらの受容体のない細胞中で3つの個々のPPARアイソフォームの転写活性を抑える上でのRIP140の抑制能を調べた。UCP1プロモータは脂肪細胞での活性に比較して、異種細胞株で最小の活性を示したため、CPT1プロモータ配列及びコントロールとしてPPREコンセンサス配列を含有するルシフェラーゼ・レポータ遺伝子を分析した。RIP140は、PPARα(図24a)PPARδ(図24b)及びPPARγ(図24c)が、CPT1bプロモータ及びPPRE含有レポータ遺伝子の両方からの転写を刺激する刺激能を抑制することができることが見出された。CPT1bのリガンド依存的発現に関するPPARα及びPPARδの重複は、前の研究と合致するものである(Gilde, A. J. et
al., 2003, Circ Res 92: 518-24)。このように、PPAR群はRIP140による抑制の潜在的標的であるため、このコリプレッサがないと、それらの転写活性が上昇し、結果的には CPT1b 及びUCP1などの遺伝子の情報調節につながると考えられる。
【0103】
議論
これまでの研究で、脂肪生成の制御と、熱発生によるエネルギ平衡の調節の両方における核内受容体による転写活性化の重要性が立証されており、PPAR群は中心的な役割を果たし、例えばPGC1aはBAT、筋肉及び肝臓において鍵となる転写コアクチベータ及び代謝調節因子であるとのかなりの証拠がある。このコアクチベータは、細胞種特異的及び組織特異的態様で遺伝子発現を調和及び誘導することにより、エネルギ平衡及び栄養上の恒常性を制御している細胞内シグナルを統合する上で、重要な役割を果たしている。更に最近の研究では、脂肪組織及び筋肉におけるERRαの作用に対するPGC1αの役割が示唆されているが、SRC1、TIF2及びPGC1α間のバランスにより、白色及び褐色脂肪組織区画間のエネルギ恒常性が調節されているようである。
【0104】
対照的に、本研究では、コリプレッサRIP140が、核内受容体のリガンド依存的転写抑制によるエネルギ恒常性の維持に必須な役割を果たしており、こうして、WATで鍵となる代謝遺伝子の発現を妨げる上で基本的な役割を果たしていることを実証する。UCP1の上方調節はRIP140のないWATの本来の特性である。なぜならこれは、ヌル細胞が細胞培養で脂肪細胞に分化したときにも観察されるからである。UCP1遺伝子がWATで通常は抑制されているのは、RIP140が、転写開始部位の2.5kb上流にある220bpのエンハンサ因子を標的としている結果だと提案する。BATでは、UCP1エンハンサは、PPARの三種類のサブタイプ全部や、レチノイド及び甲状腺ホルモンや、またβ-アドレナリン作動性受容体細胞内シグナル伝達経路の活性化を通じて、調節されているのであろう。UCP1の発現は、活性化型のPPARδの導入によりトランスジェニック・マウスのWATで、またPGC1αの発現、及び、PPARγのリガンドによる活性化によりヒト培養白色脂肪細胞でも、誘導されることが示されている(Tiraby, C. et al.,
2003, JBiol Chem, 278 : 33370-6)。RIP140 は、この研究でPPAR群に関して示されたように、これらの受容体の全てとリガンド依存的態様で相互作用することができ、また、それらの転写活性を抑制することができる(Cavailles, V. et
al., 1995, Embo J, 14: 3741-51 ; L'Horset, F. et al, 1996, Mol Cell Biol, 16:
6029-36; Treuter, E. et al, 1998, Mol Endocrinol 12 : 864-81; Tazawa, H. et
al., 2003, Mol Cell Biol, 23: 4187-98)。
【0105】
最近の研究で、RIP140が、本来の抑制活性をこのタンパク質の4つの抑制ドメインに含有して有することが実証された Vo, N. et al,
2001, Mol Cell Biol, 21: 6181-8; Kumar, V. et al., 2002, Mol Cell, 10: 857-69;データは図示せず)。RIP140発現の時間的及び細胞種特異的制御により、リプレッサ機能が更なるレベルで調節される。例えば、分化脂肪細胞の活性を調節する役割を促しながら、脂肪生成のプロセスの間にPPARγの作用への干渉を防ぐには、RIP140発現の開始を遅延させる必要がある場合がある。RIP140が、エネルギ散逸及びミトコンドリアの脱共役という、トリグリセリドの形のエネルギ貯蔵部位としての脂肪細胞の機能を損なうプロセスに関与する遺伝子の上方調節を防ぐために必須であることは明白である。
【0106】
結論的には、これらの観察は、RIP140が、エネルギ恒常性において重要な役割を果たすことを示すと共に、脂肪細胞機能を決定する際のコアクチベータ動員に加え、コリプレッサ作用にとって新規な役割を示すことを実証するものである。RIP140の核内受容体との相互作用はリガンド依存的なプロセスであるため、このコリプレッサの特異的動員は、肥満及び関連する異常の治療にとって新規な治療上のターゲットとなる。
【0107】
材料及び方法
動物
RIP140ヌル・マウスの作製は既に解説されている(White, R. et al., 2000, Nat
Med, 6: 1368-74)。この研究で用いられたマウスは、C57BL/6Jのバックグラウンドに対する戻し交配6世代目だった。マウスは、光及び温度を制御した標準的条件下に維持され、適宜、固形飼料を与えられ、例外として高脂肪食実験では、マウスには35% w/w 食(リリコ社)が与えられた。実験はすべて、ホーム・オフィス・ガイドラインに従って行われた。
【0108】
磁気共鳴画像法(MRI)及び分光法(MRS)
マウスを4.7T ヴァリアン・システム(米国、パロ・アルト社)を用いてスキャンした。全身画像(40-45スライス間;2 mm 厚)を各マウス毎にスピン-エコー・シーケンス(原語:sequence)(TR4500/TE20)を用いて得た。全身スペクトルは、TR=10 sを用いて得られた。肝臓及び筋肉の局在プロトンのスペクトルは、3x3x3 mmボクセルからPRESS シーケンス (TR10000/TE14)を用いて得られた。
【0109】
血清分析
レプチン測定値はリンコ・リサーチ社のマウス・レプチンRIAキットを用いて判定された。トリグリセリドは、トリグリセリドGPO-トリンダー試薬(シグマ社)を用いて測定され、遊離脂肪酸は、ADIFAB 遊離脂肪酸インジケータ(モラキュラー・プローブズ社)を用いて判定された。検定はすべて、メーカのプロトコルに従って行われた。
【0110】
形態学的及び免疫−組織化学的分析
組織を中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、5μmの切片にしてポリ-L-リジンで被覆したスライド上に載せた。組織学検査用に切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。免疫組織化学検査には、脱パラフィン後の切片を、0.3% 過酸化水素(シグマ社)のメタノール溶液中で30分間、インキュベートして、内因性ペルオキシダーゼを失活させ、PBSですすぎ、非特異的なバックグラウンド染色を減らすために 1: 75の正常ヤギ血清/PBS中で30分間、インキュベートした。切片を一晩、4℃で、UCP1に対するポリクローナルウサギ抗マウス一次抗体(AB3038、ケミコン・インターナショナル社)をPBSで1:800に希釈した溶液と一緒にインキュベートした。 一次抗体は、ベクタステイン・エリートABCキット (ベクタ・ラボラトリーズ社)を用いて検出され、酵素検出は0.25 mg/ml ジアミノベンジジン(シグマ社)及び0.06% 過酸化水素のPBS溶液を用いて行われた。切片をヘマトキシリンで対比染色した。オイル・レッドO:ホルマリン固定された肝臓の凍結切片(10μm)を、ポリ-L-リジンで被覆されたスライド上に載せ、オイル・レッドO(0.15% の60%イソプロパノール溶液)で5分間、染色した。切片をヘマトキシリンで対比染色し、グリセロール・ゼラチン(シグマ社)に載せた。
【0111】
酸素消費
固形飼料を与えられた野生型及びRIP140ヌル・マウス(1群当たり7匹のマウス)の酸素消費を、OXYMAX システム v4.66 (オハイオ州コロンバス、コロンバス・インスツルメンツ社)を用いて、沈静時間を180秒、測定時間を60秒の条件下で、室内気を基準として測定した。動物は個々に4 0.3-リットルのチャンバ内に入れられた。結果をml/kg/分で表す。
【0112】
マウス胚性線維芽細胞及び3T3-L1細胞の細胞培養
マウス胚性線維芽細胞(MEF)を単離し、10%ウシ胎児血清を添加したDMEM/F12培地中で標準的プロトコルを用いて培養した。分化実験のために、4乃至6回継代培養したMEFを用いた。3T3-L1細胞は、10%ウシ新生児血清を添加したDMEM/F12培地中で培養された。コンフルエント後2日目のMEF及び3T3-L1細胞の分化を前に解説された (Soukas, A. et al,
2001, J Biol Chem 276: 34167-74)通りに、ロシグリタゾンも添加された改良MEFを用いて行われた。分化細胞をオイル・レッド O染色で明視化した。β-ガラクトシダーゼ活性を前に解説された通りに分析した(White, R. et al.,
2000, Nat Med, 6: 1368-74)。
【0113】
細胞株RIPKO-1を、RIP140 ヌルMEFを21回以上継代培養することにより作製した。UCP-1プロモータ・ルシフェラーゼ・レポータ・コンストラクトを、マウスUCP-1遺伝子の5'側フランキング領域の4Kbの断片又は220bpのエンハンサ因子(ATGに対して-2530 から-2310 bp )をpGL3/基本ベクタにクローニングすることにより、作製した。24ウェル・プレートにプレートした直後のRIPKO-1細胞に、Fugene6を用い、1μgのレポータ遺伝子、250ng のpRL-CMV 及び/又は500ng のpCI-RIPをトランスフェクトした。このトランスフェクトから24時間後に、この培地に、コントロール培地か、又は、分化カクテルを含有する培地を補充した。分化カクテルの添加から1、3及び5日後に、ルシフェラーゼ検定に向けて細胞を採集した。
【0114】
発現分析
全RNAをTRIzolをメーカの指示通りに用いて単離した。更なる分析用の第一鎖cDNAを得るために、1μgの全RNAをデオキシリボヌクレアーゼで処理し、cDNAを、RT-PCR用にスーパースクリプト・ファースト-ストランド合成システムをメーカの指示に従って用いて調製した。リアルタイムPCR はABI PRISM 7700 配列検出システムを用いて行われた。RIP140 及びL19 の発現は、特異的プライマ及びTaqManプローブを用いて判定された。他の全ての遺伝子の発現は、SYBR-グリーン試薬により、特異的プライマを用いてメーカの指示に従って判定された。全ての遺伝子の発現レベルを、2つの個別の内コントロール、リボゾーム・コーディング遺伝子L19及びシクロフィリンの平均値に相関させた。プライマ及びプローブ配列は要請時に入手可能である。
【0115】
一時的トランスフェクション
細胞は、慣例に従って、10%ウシ胎児血清を添加したDMEM中に維持された。トランスフェクションから24時間前に、細胞を、5%デキストラン・チャーコールでストリッピングされた血清を添加した無フェノール・レッド培地を入れた96ウェル微量定量プレートにプレートした。HEK293又はCos7細胞に、FuGENE 6を用いて、 20ngのルシフェラーゼ・レポータ、5ng のpRLCMV コントロール、0.5ng のpcDNA3 PPARα、δ又はγ及び/又は指示した場合には10ngのpCI RIP140 をトランスフェクトした。トランスフェクトから24時間後に細胞をリガンドWY14,643(10μM)、ロシグリタゾン(5μM)、又はGW501516 (5nM)で処理した。リガンド添加から24時間後に細胞を採集し、ルシフェラーゼ活性を、ビクタ2ルミノメータを用いて測定した。レポータ・ホタル・ルシフェラーゼ活性はLucLiteTMキットを用いて測定され、次に、内コントロールとして用いられたRenillaルシフェラーゼ活性を、このホタル・ルシフェラーゼ反応液にEDTA (8mM最終濃度)及びコエレンテラジン基質( 4.7μM(250ng/ウェル))を添加することにより判定した。該Renillaルシフェラーゼ活性を用いて、トランスフェクション効率の差を補正した。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】図1は、RIP140ヌル・マウスの体脂肪減少及び腹膜壁の脆弱化を示す。
【図2】図2A)は、野生型(WT)及びRIP140ノックアウト(KO)マウスの体重増加及び脂肪組織沈着を示す。図2B)は、野生型及びRIP140ノックアウト・マウスのMRIスキャン及び全身スペクトルを示す。
【図3】図3は、RIP140ヌル・マウスでは食物摂取は正常であることを示す。
【図4】図4は、野生型及びRIP140ヌル(Nripl ヌル)マウス間の糖耐性検査の比較を示す。
【図5】図5は、野生型(WT)及びRIP140ノックアウト(KO)マウスの白色脂肪組織(WAT)の組織学的特徴及び細胞の大きさの比較を示す。
【図6】図6は、野生型(WT)及びRIP140ノックアウト(KO)の褐色脂肪組織(BAT)及び骨格筋の組織学的特徴の比較を示す。
【図7】図7A)は、野生型(WT)及びRIP140ノックアウト(KO)細胞における脂肪細胞への分化の比較を示す。図7B)は、RIP140 mRNAの発現分析を示す。
【図8】図8は、野生型マウスの様々な組織におけるRIP140の相対的発現を示す。
【図9】図9は、様々な食餌(st=飢餓;no=通常;hf=高脂肪)を与えた野生型及びRIP140ヌル・マウスの白色脂肪組織(WAT)及び肝臓における特定の遺伝子の発現の比較を示す。図9Aでは、PPARγ、C/EBPa、C/EBPb 及びSREBPの発現を比較する。図9Bでは、Glut4、aP2、レプチン及びアディポレクチンの発現を比較する。図9Cでは、G6Pase、PEPCK 及び24p3の発現を比較する。野生型マウスでの発現を各対の柱の左側の柱に示し、RIP140ヌル・マウスでの発現を、各対の柱の右側の柱に示す。
【図10】図10は、耐性の高い及び摂食した野生型マウス(WT)及びRIP140ノックアウト・マウス(KO)の白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、筋肉及び肝臓でのC/EBPαの発現を示す。野生型マウスでの発現を各対の柱の左側の柱に示し、RIP140ヌル・マウスでの発現を、各対の柱の右側の柱に示す。
【図11】図11は、耐性の高い及び摂食した野生型マウス(WT)及びRIP140ノックアウト・マウス(KO)の白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、筋肉及び肝臓でのPPARγの発現を示す。野生型マウスでの発現を各対の柱の左側の柱に示し、RIP140ヌル・マウスでの発現を、各対の柱の右側の柱に示す。
【図12】図12は、耐性の高い及び摂食した野生型マウス(WT)及びRIP140ノックアウト・マウス(KO)の白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、筋肉及び肝臓でのSREBPlc の発現を示す。野生型マウスでの発現を各対の柱の左側の柱に示し、RIP140ヌル・マウスでの発現を、各対の柱の右側の柱に示す。
【図13】図13は、耐性の高い及び摂食した野生型マウス(WT)及びRIP140ノックアウト・マウス(KO)の白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、筋肉及び肝臓でのGlut4の発現を示す。野生型マウスでの発現を各対の柱の左側の柱に示し、RIP140ヌル・マウスでの発現を、各対の柱の右側の柱に示す。
【図14】図14は、耐性の高い及び摂食した野生型マウス(WT)及びRIP140ノックアウト・マウス(KO)の白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、筋肉及び肝臓でのレプチン の発現を示す。野生型マウスでの発現を各対の柱の左側の柱に示し、RIP140ヌル・マウスでの発現を、各対の柱の右側の柱に示す。
【図15】図15は、耐性の高い及び摂食した野生型マウス(WT)及びRIP140ノックアウト・マウス(KO)の白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、筋肉及び肝臓でのCPT1bの発現を示す。野生型マウスでの発現を各対の柱の左側の柱に示し、RIP140ヌル・マウスでの発現を、各対の柱の右側の柱に示す。
【図16】図16は、耐性の高い及び摂食した野生型マウス(WT)及びRIP140ノックアウト・マウス(KO)の白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、筋肉及び肝臓でのUCP1の発現を示す。野生型マウスでの発現を各対の柱の左側の柱に示し、RIP140ヌル・マウスでの発現を、各対の柱の右側の柱に示す。
【図17】図17は、耐性の高い及び摂食した野生型マウス(WT)及びRIP140ノックアウト・マウス(KO)の白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、筋肉及び肝臓でのPPARαの発現を示す。野生型マウスでの発現を各対の柱の左側の柱に示し、RIP140ヌル・マウスでの発現を、各対の柱の右側の柱に示す。
【図18】図18は、通常(a)又は高脂肪(35%)食(b)に10日間、維持した場合の野生型に比較したときのRIP140ヌル・マウスの肝臓組織におけるトリグリセリドの蓄積の比較を示す。
【図19】図19は、RIP140ヌル・マウスの代謝上の表現型を示す。aは、規定の固形試料を6月齢(n=7)及び15月齢(野生型ではn=14、そしてヌルではn=11)を与えられた野生型(黒)及びRIP140ヌル・マウス(灰色)の体重を示す。bは、体脂肪分の磁気共鳴画像法(MRI)及び分光法(MRS)を示す。全身プロトン含有量が定量され、脂肪ピークが示されている。3匹の代表的動物から採った計算では、RIP140ヌル・マウスに総脂肪分のほぼ70%の減少があることが明らかになった。cは、6月齢(両群でn=7)及び15月齢(野生型ではn=14、ヌルではn=11)の野生型(黒)及びRIP140ヌル・マウス(灰色)の鼠径部白色脂肪組織重量を示す。dは、コントロール固形飼料を与えた野生型(WAT)及びRIP140ヌル・マウス(KO)由来の鼠径部白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、及び肝臓の形態学的特徴を示す。白色及び褐色脂肪組織は、ヘマトキシリン及びエオシン(H/E)で染色された。脂質の蓄積を実証するために肝臓組織をオイル・レッドOで染色し、H/Eで対比染色した。尺度の棒は50μmに相当する。eは、高脂肪食(35% W/W)を10日間与えたマウスの体重増加を示す(両方の群についてn=3)。fは、高脂肪食を10日間与えた(n=6)野生型(黒)及びRIP140ヌル(灰色)マウスにおける無血清脂肪酸レベル及びトリグリセリド・レベルを示す。gは、固形飼料又は高脂肪食を与えた野生型(黒)又はRIP140ヌル(灰色)マウスのレプチン(n=3-6)の血清レベルを示す。hは、高脂肪食(35% W/W)を10日間与えた野生型(WT)及びRIP140ヌル・マウス(KO)由来の鼠径部白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、及び肝臓の形態学的特徴を示す。白色及び褐色脂肪組織はヘマトキシリン及びエオシン(H/E)で染色された。脂質の蓄積を実証するために肝臓組織をオイル・レッドOで染色し、H/Eで対比染色した。尺度の棒は50μmに相当する。
【図20】図20は、in vitroの代謝組織及び分化脂肪細胞におけるRIP140の発現を示す。aは、野生型マウス(n=3-7)由来の白色脂肪組織(WAT)、褐色脂肪組織(BAT)、骨格筋(Mu)及び肝臓(Li)から採った代謝組織(左側)及び3T3-L1脂肪細胞(右側)、組織試料におけるRIP140 mRNAレベルのTaqManリアルタイムPCR分析を示す。 3T3-L1脂肪細胞の分化中のRIP140 mRNAレベルの調節。分化は、インシュリン、デキサメタゾン及びIBMXの標準的なホルモン・カクテルを用いて、2日コンフルエント細胞で誘導された。pc(プレコンフルエント細胞)。bは、上述の通りだが、PPARアゴニストであるロシグリタゾンを添加した標準的なホルモン・カクテルを用いて分化誘導されたマウス胚性線維芽細胞におけるオイル・レッドO染色を示す。同一に処理された細胞に、β-ガラクトシダーゼ活性分析も行って、RIP140プロモータ活性を実証した(右側のパネル)。野生型細胞にβ-ガラクトシダーゼ活性のないこと、そして、オイル・レッドOによる細胞着色を含有する脂肪液滴とβ-ガラクトシダーゼとの相関を注目されたい。
【図21】図21は、WATでのエネルギ散逸に関与する遺伝子の上方調節を示す。aは、野生型(黒)及びRIP140ヌル(灰色)マウス由来の代謝組織中のUCP1及びCPT1遺伝子発現のTaqManリアルタイムPCR分析を示す(n=3-7)。bは、野生型(WT)及びRIP140ヌル(KO)マウス由来のWATにおけるUCP1発現の免疫染色を示す。尺度の棒は50μmに相当する。cは、野生型及びRIP140ヌル・マウスにおける酸素消費を示す。
【図22】図22は、代謝組織中の脂肪生成性調節因子及びマーカ遺伝子の発現プロファイルを示す。a、b、cは、 野生型(黒)及びRIP140ヌル(灰色)マウス由来の代謝組織中の遺伝子発現のTaqManリアルタイムPCR分析を示す(n=3-7)。
【図23】図23は、RIP140のない細胞においてUCP-1遺伝子発現が上昇していることを示す。aは、提示したように0日目乃至5日目にロシグリタゾンを含む標準分化カクテルで処理後のプレコンフルエント(PC)な3T3L1及びRIPKO-1 細胞中のUCP-1 mRNA レベルのTaqManリアルタイムPCR分析を示す。bは、調節因子cAMP応答因子(CRE)、ペルオキシソーム増殖因子応答因子(PPRE)、レチノイド酸応答因子(RARE)、甲状腺応答因子(TRE)、及び褐色脂肪細胞調節因子(BRE)を含むマウスUCP-1エンハンサ因子の概略図を示す。cでは、RIPKO-1細胞にUCP-1プロモータ・ルシフェラーゼ・レポータ・コンストラクトを提示した通りにトランスフェクトし、ロシグリタゾンを含む様々なカクテル(D+Ro)の存在下で1、3または5日間インキュベートしたことを示す。
【図24】図24は、RIP140の発現は、CPT1bプロモータ及びPPPE調節性レポータ遺伝子のPPAR依存的転写を阻害することを示す。aのPPARα、bのPPARδ、及びcのPPARγを、pGL3レポータ(プロメガ社)にクローニングされた2.0kbのプロモータ配列と、同じベクタ中の3x PPRE-TKプロモータとから成るマウスCPT1ゲノム断片を用いて分析した。トランスフェクト実験は、COS 細胞(PPARα及びPPARγ)及びHEK 293 細胞 (PPARδ)中で、提示した通りの各受容体に対する特異的リガンドの存在下で行われた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における貯蔵脂肪を調節する化合物をスクリーニングする方法であって:以下の3つのステップ:
(i)RIP140又はRIP140標的タンパク質に結合する化合物を同定するステップ;
(ii)RIP140とRIP140標的タンパク質との複合体に結合する化合物を同定するステップ;又は
(iii)RIP140とRIP140標的タンパク質との間の結合相互作用を調節する化合物を同定するステップ
のうちの一つを含み、そして更に、ステップ(i)、(ii)又は(iii)で同定された候補化合物を哺乳動物に投与して、該哺乳動物における貯蔵脂肪に対するその効果を評価するステップを含む、方法。
【請求項2】
ステップ(iii)が:
(a)RIP140、標的タンパク質及び一つ以上の候補化合物を混合するステップと;
(b)前記混合物をインキュベートして、RIP140、前記標的タンパク質及び前記候補化合物を相互作用させるステップと;
(c)RIP140と標的タンパク質との間の相互作用が調節されたかどうかを評価するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)レポータ遺伝子に作動的に連結したプロモータを含む核酸分子を含有する細胞を:(i)RIP140及び標的タンパク質の一方を、転写因子の活性化ドメインに融合させて含む第一の融合タンパク質;(ii)RIP140及び標的タンパク質の他方を、転写因子のDNA結合ドメインに融合させて含む第二の融合タンパク質;及び(iii)候補化合物;に接触させるステップと、
(b)前記レポータ遺伝子の発現レベルを評価するステップと
を含み、但しこの場合、RIP140と前記標的タンパク質との間の相互作用は、前記プロモータを活性化することにより前記レポータ遺伝子の転写を促進するものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(iii)が:
a)レポータ遺伝子に作動的に連結した標的タンパク質調節性プロモータを含む核酸分子を、一種以上の候補化合物に、前記標的タンパク質及びRIP140の存在下で接触させるステップと;
b)前記レポータ遺伝子の発現レベルを評価するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プロモータが、天然で連鎖している先のレポータ遺伝子の転写を制御するものである、請求項2乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記レポータ遺伝子の発現が検出可能なシグナルを生ずる、請求項2乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記レポータ遺伝子が蛍光タンパク質、酵素、毒性タンパク質又は細胞増殖抑制性タンパク質をコードしている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、無細胞系、細胞又は組織内で行われる、上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記核酸分子が非ウィルスベクタの形である、請求項2乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記レポータ遺伝子の発現レベルを評価する前記ステップが、前記レポータ遺伝子から転写されたmRNAレベルを測定するステップを含む、請求項2乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記レポータ遺伝子の発現レベルを評価する前記ステップが、前記レポータ遺伝子の転写後に翻訳されたタンパク質レベルを測定するステップを含む、請求項2乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法により入手された又は入手可能な、RIP140又は標的タンパク質に結合する化合物。
【請求項13】
請求項1に記載の方法により入手された又は入手可能な、RIP140及び標的タンパク質の複合体に結合する化合物。
【請求項14】
上記請求項のいずれかに記載の方法により入手された又は入手可能な、RIP140と標的タンパク質との間の相互作用を調節する化合物。
【請求項15】
前記標的タンパク質が、AhR、ER、RAR、TR、RXR、VDR、PPAR、SF-1 及び DAX-1から選択される、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法、又は、請求項12乃至14のいずれかに記載の化合物。
【請求項16】
前記標的タンパク質が、PPARα、PPARγ及びPPARδから選択される、請求項15に記載の方法又は化合物。
【請求項17】
請求項12乃至14のいずれかに記載の化合物の貯蔵脂肪に対する効果を評価する方法であって、前記化合物を哺乳動物に投与するステップと、貯蔵脂肪に対するその効果を評価するステップとを含む、方法。
【請求項18】
請求項12乃至14のいずれかに記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項19】
医薬として用いるための、請求項12乃至14のいずれかに記載の化合物。
【請求項20】
貯蔵脂肪の増加又は減少に関連する異常を治療又は防止するための医薬の製造における、請求項12乃至14のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項21】
前記異常が肥満又は食欲不振である、請求項19に記載の使用。
【請求項22】
請求項12乃至14のいずれかに記載の化合物、又は、請求項17に記載の組成物、を投与するステップを含む、哺乳動物における貯蔵脂肪を変化させる方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図19D】
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【図19E】
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【図19F】
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【図19G】
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【図19H】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21A】
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【図21B】
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【図21C】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図23D】
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【図24A】
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【図24B】
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【図24C】
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【公表番号】特表2006−518591(P2006−518591A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502228(P2006−502228)
【出願日】平成16年2月3日(2004.2.3)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000413
【国際公開番号】WO2004/070347
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(505291192)インペリアル カレッジ イノベーション リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Imperial College Innovations Limited
【住所又は居所原語表記】Sherfield Building, Imperial College, London SW7 2AZ (GB)
【Fターム(参考)】