説明

貴金属の回収剤及び貴金属含有液中からの貴金属の回収方法

【課題】液中に含まれる貴金属をリサイクルするための技術分野において、凝集沈殿法によって貴金属含有液中からの貴金属の分離沈殿・回収が容易に実施できる、貴金属の回収剤及び貴金属含有液中からの貴金属の回収方法を提供する。
【解決手段】フェノール性高分子化合物を有効成分とすることを特徴とする貴金属回収剤及び、当該貴金属回収剤を、貴金属を含有する液中に添加して、貴金属の凝集体を形成させ、これを分離回収することを特徴とする貴金属回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中に含まれる貴金属をリサイクルするための技術分野に属し、フェノール性高分子を用いた貴金属の回収剤、及び当該回収剤を用いた貴金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希少性で価格的にも高価な貴金属を効率的に利用するためには、使用済みの貴金属含有液から貴金属を分離・回収する技術が不可欠であり、様々な方法が提案されている。例えば、イオン交換樹脂に貴金属を吸着させた後、イオン交換樹脂に塩化ナトリウム又は塩化アンモニウムの水溶液を接触させ、イオン交換樹脂から貴金属を脱離させる方法(特許文献1)、貴金属の選択的抽出剤を含有する抽出溶媒を貴金属含有液と液−液接触させて貴金属を選択的に抽出する方法(特許文献2)、アミノ化合物又はアミノ化合物とヘテロポリ酸を組み合わせた選択沈澱剤を使用する方法(特許文献3)、高分子基体にキレート形成基を導入した吸着剤に貴金属を吸着させた後、吸着剤に無機酸、有機酸又は有機溶剤を接触させることによって吸着剤から貴金属を脱離させる方法(特許文献4)がある。しかしながら、特許文献1や特許文献4に記載のイオン交換基やキレート基に貴金属を吸着させる方法では後段に吸着した貴金属を溶離させる工程があるため、溶離液の処理が問題となり、特許文献2に記載の抽出剤を用いる方法では抽出溶媒にクロロホルム、トルエン等の有機溶媒の使用が必須であることが問題である。また、特許文献3に記載の選択的沈殿剤を使用する方法では使用するアミノ化合物が低分子であるため臭気の問題があり、実用に際しては困難である。このため簡便、低コスト且つ選択性に優れた貴金属の分離・回収プロセスが切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−192162号公報
【特許文献2】特開2001−115216号公報
【特許文献3】特開2005−194546号公報
【特許文献4】特開2006−026588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、凝集沈殿法によって貴金属含有液中からの貴金属の分離沈殿・回収が容易に実施できる、貴金属の回収剤及び貴金属含有液中からの貴金属の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究を積み重ねた結果、フェノール性高分子化合物を有効成分とする貴金属の回収剤を使用することにより、貴金属含有液中からの貴金属の分離沈殿・回収が、簡便に実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明の貴金属回収剤は、下記一般式(1)で表される化合物、
【0007】
【化7】

【0008】
[式中、X及びXは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示す。]
【0009】
及び下記一般式(2)で表される化合物、
【0010】
【化8】

【0011】
[式中、AはCH又はCH(CH)又はC(CH又はC(CH)(C)又はC(CH又はCH(C)又はC(C又はSOを示し、X及びXは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示す。]
【0012】
及び下記一般式(3)で表される化合物、
【0013】
【化9】

【0014】
[式中、X及びXは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示す。]
【0015】
の中から選ばれる少なくとも1種と、下記一般式(4)で表される化合物、
【0016】
【化10】

【0017】
[式中、X及びXは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示し、Yは水素原子、SOM又はCHSOM(Mは水素原子又は軽金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。)を示す。]
【0018】
及び下記一般式(5)で表される化合物、
【0019】
【化11】

【0020】
[式中、AはCH又はCH(CH)又はC(CH又はC(CH)(C)又はC(CH又はCH(C)又はC(C又はSOを示し、X及びX10は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示し、Y及びYは水素原子、SOM又はCHSOM(Mは水素原子又は軽金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。)を示す。]
【0021】
及び下記一般式(6)で表される化合物、
【0022】
【化12】

【0023】
[式中、X11及びX12は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示し、Y及びYは水素原子、SOM又はCHSOM(Mは水素原子又は軽金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。)を示す。]
【0024】
の中から選ばれる少なくとも1種とを、70〜100/30〜0モル%の比率で含むフェノール類及び/又はナフトール類と、ホルマリン、パラホルムアルデヒド及びトリオキサンの中から選ばれる少なくとも1種のアルデヒド類とを縮合反応させて得られるフェノール性高分子であることを特徴とする。
【0025】
さらには、本発明の貴金属回収方法は、上記貴金属回収剤の少なくとも1種を、貴金属を含有する液に混合して貴金属を吸着させ、さらに貴金属を含む凝集体を形成させて、これを分離回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の貴金属回収剤及び貴金属含有液中からの貴金属回収方法は、凝集沈殿法によって、貴金属含有液中からの貴金属の分離沈殿・回収が、簡便に実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明の貴金属回収剤は、前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物の中から選ばれる少なくとも1種と、前記一般式(4)で表される化合物及び前記一般式(5)で表される化合物及び前記一般式(6)で表される化合物の中から選ばれる少なくとも1種とを、70〜100/30〜0モル%の比率で含むフェノール類及び/又はナフトール類と、ホルマリン、パラホルムアルデヒド及びトリオキサンの中から選ばれる少なくとも1種のアルデヒド類とを縮合反応させて得ることができる。
【0029】
前記一般式(1)で表される化合物のX及びXで示される炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基等を挙げることができ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0030】
前記一般式(1)で表される化合物としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、t−ブチルフェノール、t−アミルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、レゾルシノール、クロロフェノール等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0031】
前記一般式(2)で表される化合物のX及びXで示される炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基等を挙げることができ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0032】
前記一般式(2)で表される化合物としては、ビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールB(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン)、ビスフェノールC(2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールE(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン)、ビスフェノールF(ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールS(ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン)、ビスフェノールZ(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン)等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0033】
前記一般式(3)で表される化合物のX及びXで示される炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基等を挙げることができ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0034】
前記一般式(3)で表される化合物としては、メチルナフトール、エチルナフトール、イソプロピルナフトール、t−ブチルナフトール、オクチルナフトール、ノニルナフトール、フェニルナフトール、クロロナフトール等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0035】
前記一般式(4)で表される化合物のX及びXで示される炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基等を挙げることができ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。式(4)で表される化合物のY中のMで示される軽金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
【0036】
前記一般式(4)で表される化合物としては、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、キシレノールスルホン酸、エチルフェノールスルホン酸、イソプロピルフェノールスルホン酸、t−ブチルフェノールスルホン酸、t−アミルフェノールスルホン酸、オクチルフェノールスルホン酸、ノニルフェノールスルホン酸、フェニルフェノールスルホン酸、レゾルシノールスルホン酸、クロロフェノールスルホン酸、フェノールスルホン酸リチウム、フェノールスルホン酸ナトリウム、フェノールスルホン酸カリウム、フェノールスルホン酸アンモニウム等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0037】
前記一般式(5)で表される化合物のX及びX10で示される炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基等を挙げることができ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。式(5)で表される化合物のY及びY中のMで示される軽金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
【0038】
前記一般式(5)で表される化合物としては、ビスフェノールAスルホン酸、ビスフェノールBスルホン酸、ビスフェノールCスルホン酸、ビスフェノールEスルホン酸、ビスフェノールFスルホン酸、ビスフェノールSスルホン酸、ビスフェノールZスルホン酸等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0039】
前記一般式(6)で表される化合物のX11及びX12で示される炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基等を挙げることができ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。式(6)で表される化合物のY及びY中のMで示される軽金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
【0040】
前記一般式(6)で表される化合物としては、メチルナフトールスルホン酸、エチルナフトールスルホン酸、イソプロピルナフトールスルホン酸、t−ブチルナフトールスルホン酸、オクチルナフトールスルホン酸、ノニルナフトールスルホン酸、フェニルナフトールスルホン酸、クロロナフトールスルホン酸等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0041】
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物の中から選ばれる少なくとも1種と、前記一般式(4)で表される化合物及び前記一般式(5)で表される化合物及び前記一般式(6)で表される化合物の中から選ばれる少なくとも1種との混合比は、70〜100/30〜0モル%が好ましく、80〜100/20〜0モル%がより好ましく、さらに好適な混合比は90〜100/10〜0モル%である。
【0042】
重縮合反応は、従来公知の方法で容易に行うことができ、例えば、上記フェノール化合物及び/又はナフトール化合物とホルマリンとを、無水酢酸溶媒中で、硫酸などの酸を触媒として用いて、温度70〜150℃で2〜20時間反応させることにより行うことができる。重縮合反応に供されるホルマリンの量は、フェノール化合物の合計モル数1モルに対して0.5〜1.5モルであるのが好ましい。上記フェノール化合物及び/又はナフトール化合物に上記フェノールスルホン酸化合物及び/又はナフトールスルホン酸化合物を混合して、ホルマリンとの重縮合反応に供しても良いし、上記フェノール化合物及び/又はナフトール化合物を硫酸でスルホン化した後にホルマリンとの重縮合反応に供しても良い。重縮合反応後、重縮合反応生成物を単離して個体の状態で本発明の貴金属回収剤として得ても良いし、単離した後にアルカリを用いて水溶液の状態として得ても良いし、重縮合反応後にアルカリを混合して水溶液の状態として得ても良い。本発明の貴金属回収剤は、実用上の観点から重縮合物を10重量%〜80重量%の割合で含むアルカリ溶液として得るのが好ましい。上記アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はそれらの水溶液、あるいはアンモニア水等が挙げられるが、特に限定しない。
【0043】
本発明の方法において処理の対象とする貴金属を含有する液(以下、貴金属含有液ということがある)とは、各種工業の過程において得られる貴金属ないしその化合物(特にコロイド状態のもの)を含んでなる液をいう。これは、水性の液が通常であるが、有機性のものを排除しない。このような貴金属含有液の例としては、無電解メッキ処理を行う際の所謂触媒化工程、すなわちメッキ対象物に白金族系の金属のような触媒の活性核を種付けする工程において使用された(もしくは使用される)貴金属コロイド粒子を含有する触媒液や、貴金属を含む素材・材料中から貴金属を回収するために貴金属含有固形物を酸やアルカリで処理した浸出・溶解液や、前記浸出・溶解液をイオン交換樹脂や活性炭による吸着、電解採取、沈殿晶析、溶媒抽出法等により処理した後の、微量の貴金属を含有する残液等が例示される。
【0044】
また、本発明でいう貴金属としては、白金族金属(パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、白金)及び金、銀が例示される。工業的観点から特にパラジウム、ロジウムの回収に本発明は有用である。
【0045】
本発明の処理対象とされる貴金属含有液中の貴金属の濃度は、液中に少なくとも貴金属が含まれているのであれば、いずれの濃度であっても良いが、例えば無電解メッキ処理の触媒化工程における触媒液の場合には、塩化パラジウム量で換算して、0.1〜0.5g/Lの触媒液管理範囲より少ない量であるのが普通である。なお、このような貴金属含有液は、必要に応じて、予め濃縮もしくは希釈させた後、本発明の方法に供してもよい。
【0046】
次に、本発明の貴金属回収剤を用いた貴金属含有液中の貴金属回収方法について説明する。貴金属含有液中の貴金属と回収剤との吸着・凝集体形成反応は、常温常圧下で迅速に進行するため、特別な反応装置を用意する必要はなく、貴金属含有液と本発明の回収剤を、十分混合することで吸着反応は進行し、凝集体を形成するが、必要に応じてpH調整を行った方が好ましい。pH調整には酸としては、硫酸、塩酸などの無機酸、蟻酸、酢酸などの有機酸、スルファミン酸等が挙げられ、アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。pHは9以下であればいずれのpHでも良いが、好ましくは8以下であり、さらに好ましくは7以下である。貴金属含有液と選択的回収剤との接触時間は、通常1分〜30分で十分であり、この時間内に凝集体形成反応は完結する。
【0047】
貴金属含有液と当該貴金属回収剤を混合し、凝集体を形成後、例えば高分子凝集剤を混合し、凝集体を粗大化させた後、固液分離しても良く、当該貴金属回収剤を混合して形成された凝集体が貴金属含有液中から取除くことができればいかなる方法でも良く、特に限定されない。
【0048】
高分子凝集剤としては、例えば、アクリルアミド−アクリル酸塩の共重合物、ポリアクリルアミド部分加水分解物、ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩等が挙げられるが、これらの高分子化合物の1種又は2種以上組み合わせても良く、特に限定されない。
【0049】
アクリルアミド−アクリル酸塩の共重合物としては、例えばアクリルアミド−アクリル酸ナトリウムの共重合物、アクリルアミド−アクリル酸カリウムの共重合物、アクリルアミド−アクリル酸アンモニウムの共重合物等が挙げられる。ポリアクリル酸塩としては、例えばポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム等が挙げられる。ポリスチレンスルホン酸塩としては、例えばポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カリウム、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0050】
高分子凝集剤としては、アクリルアミド−アクリル酸塩の共重合物が好ましく、分子量は100万〜3000万程度であり、好ましくは200万〜2000万程度の分子量のものである。
【0051】
生成した貴金属の沈殿物は、固液分離が容易なため、分離ろ過操作により、効率良く溶液中の固液分離することができ、一般的な脱水機で脱水することができる。脱水機としては、例えば真空脱水機、ベルトプレス機、スクリュープレス機、遠心脱水機等が挙げられるが、特に限定されない。
【0052】
分離した貴金属の沈殿物は焼却処理することにより貴金属を回収することができ、種々の利用分野で再利用することができる。
【0053】
本発明でいう貴金属としては、白金族金属(パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、白金)及び金、銀が例示されるが、水性媒体に溶解した又はコロイド状態の白金族金属は、本発明の重縮合物に含まれるヒドロキシル基との水素結合により効果的に吸着(結合)し、回収効果が発現すると考えられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を挙げる事により、本発明の特徴をより一層明確なものとするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[回収剤合成例1]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、フェノール188.22g(2.00モル)、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を110℃まで昇温し、濃硫酸を5g添加し、ホルマリン130g(ホルムアルデヒド1.60モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡褐色の固体を234.8g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0056】
[回収剤合成例2]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、ビスフェノールS250.27g(1.00モル)、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を130℃まで昇温し、ビスフェノールSを溶解させた。内温を110℃まで冷却した後、濃硫酸を5g添加し、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を272.5g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0057】
[回収剤合成例3]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、ビスフェノールS237.76g(0.95モル)、p−フェノールスルホン酸8.71g(0.05モル)、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を130℃まで昇温し、ビスフェノールSを溶解させた。内温を110℃まで冷却した後、濃硫酸を5g添加し、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を268.95g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0058】
[回収剤合成例4]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、ビスフェノールS212.73g(0.85モル)、p−フェノールスルホン酸26.12(0.15モル)、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を130℃まで昇温し、ビスフェノールSを溶解させた。内温を110℃まで冷却した後、濃硫酸を5g添加し、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を260.88g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0059】
[回収剤合成例5]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、ビスフェノールS187.70g(0.75モル)、p−フェノールスルホン酸43.54g(0.25モル)、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を130℃まで昇温し、ビスフェノールSを溶解させた。内温を110℃まで冷却した後、濃硫酸を5g添加し、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を251.96g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0060】
[回収剤合成例6]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、ビスフェノールS250.27g(1.00モル)、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を130℃まで昇温し、ビスフェノールSを溶解させた。濃硫酸2g(硫酸0.02モル)を添加して60分反応させた後、内温を110℃まで冷却した。次いで濃硫酸を3g添加して、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を270.3g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0061】
[回収剤合成例7]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、フェノール47.06g(0.50モル)、1−ナフトール64.88g(0.45モル)、p−フェノールスルホン酸5.23g(0.03モル)、1−ナフトール−4−スルホン酸4.48g(0.02モル)、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を110℃まで昇温した。濃硫酸を5g添加して、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた、反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を143.8g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0062】
[回収剤合成例8]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、フェノール47.06g(0.50モル)、1−ナフトール72.09g(0.50モル)、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を130℃まで昇温した。濃硫酸2g(硫酸0.02モル)を添加して60分反応させた後、内温を110℃まで冷却した。次いで濃硫酸を3g添加して、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を141.8g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0063】
[比較回収剤合成例1]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、ビスフェノールS125.14g(0.50モル)、p−フェノールスルホン酸84.57g(0.50モル)g、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を130℃まで昇温し、ビスフェノールSを溶解させた。内温を110℃まで冷却した後、濃硫酸を5g添加し、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を231.55g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0064】
[比較回収剤合成例2]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、ビスフェノールS75.08g(0.30モル)、p−フェノールスルホン酸118.39g(0.70モル)g、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を130℃まで昇温し、ビスフェノールSを溶解させた。内温を110℃まで冷却した後、濃硫酸を5g添加し、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を214.92g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0065】
[比較回収剤合成例3]
攪拌装置、還流冷却機及び温度計を備えた反応容器中に、ビスフェノールS250.27g(1.00モル)、無水酢酸200gを仕込み、加熱して温度を130℃まで昇温し、ビスフェノールSを溶解させた。濃硫酸50g(硫酸0.50モル)を添加して60分反応させた後、内温を110℃まで冷却し、ホルマリン65g(ホルムアルデヒド0.80モル)を徐々に添加しながら3時間反応させた。反応終了後、水1000gを加えて反応物を析出させ、100メッシュろ布で固体を採取、乾燥させ、淡黄色の固体を271.1g得た。得られた固体を20%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、さらに水を添加して、ポリマー濃度30%に調製した。
【0066】
各回収剤のフェノール化合物及び/又はナフトール化合物とフェノールスルホン酸化合物及び/又はナフトールスルホン酸化合物とのモル比、又はフェノール化合物及び/又はナフトール化合物と硫酸とのモル比を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
本発明の方法に従って、貴金属含有液から下記の通りにしてパラジウム又はロジウムを回収した。貴金属含有液中に含まれるパラジウム並びにロジウムの濃度はICP発光分光法(島津製作所製:高周波プラズマ発光分析装置/ICPS−8000)により求めた。
【0069】
[例1]パラジウムを含有するアルカリ浸出・溶解液を処理対象液(以下、貴金属含有液Aという)として使用した。貴金属含有液Aのパラジウム濃度は363.8mg/Lであり、pHは9.95であった。この貴金属含有液Aを100ml用意し、ここに上記各貴金属回収剤及び比較回収剤及び市販のジチオカルバミン酸系高分子重金属捕捉剤(比較回収剤4)を各々添加した。この時のpHは約10であり、攪拌、混合後、硫酸を用いてpHを約7に調整した。各処理液をろ紙(ADVANTEC製、No5A)でろ過し、ろ液中のパラジウムの濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
貴金属含有液Aに対して本発明に従う方法により、貴金属含有液中のパラジウムがほとんど凝集体として沈殿し、液中のパラジウムの濃度が低減された。比較回収剤1〜4ではパラジウムの低減率が低かった。
【0072】
[例2]例1と同じ貴金属含有液Aを使用して、例1と同様に貴金属回収剤を添加し、攪拌、混合後、硫酸を用いてpHを約7に調整し、さらにアクリルアミド/アクリル酸ナトリウム(モル比80/20)共重合物の高分子凝集剤を4mg/L添加、攪拌、混合し、以下例1と同じ操作を行った。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
触媒液Aに対して本発明の回収剤を添加後、高分子凝集剤を添加することにより、凝集体が粗大化された。
【0075】
[例3]ロジウムを含有する溶解液を処理対象液(以下、貴金属含有液Bという)として使用した。貴金属含有液Bのロジウム濃度は1036mg/Lであり、pHは5.09であった。この貴金属含有液Bを100ml用意し、ここに上記各貴金属回収剤及び比較回収剤及び市販のジチオカルバミン酸系高分子重金属捕捉剤(比較回収剤4)を各々添加した。この時のpHは約10であり、攪拌、混合後、硫酸を用いてpHを約7に調整した。各処理液をろ紙(ADVANTEC製、No5A)でろ過し、ろ液中のロジウムの濃度を求めた。結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
貴金属含有液Bに対して本発明に従う方法により、貴金属含有液中のロジウムがほとんど凝集体として沈殿し、液中のロジウムの濃度が低減された。比較回収剤1〜4ではロジウムの低減率が低かった。
【0078】
[例4]例2と同じ貴金属含有液Bを使用して、例2と同様に貴金属回収剤を添加し、攪拌、混合後、硫酸を用いてpHを約7に調整し、さらにアクリルアミド/アクリル酸ナトリウム(モル比80/20)共重合物の高分子凝集剤を20mg/L添加、攪拌、混合し、以下例3と同じ操作を行った。結果を表5に示す。
【0079】
【表5】

【0080】
貴金属含有液Bに対して本発明の回収剤を添加後、高分子凝集剤を添加することにより、凝集体が粗大化された。
【0081】
本発明の貴金属回収剤を添加、攪拌、混合することにより、短時間で容易に貴金属含有液中の貴金属を凝集、回収することが可能であった。一方、比較例による方法では、ほとんど貴金属含有液中の貴金属を凝集、回収することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、
【化1】

[式中、X及びXは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示す。]
及び下記一般式(2)で表される化合物、
【化2】

[式中、AはCH又はCH(CH)又はC(CH又はC(CH)(C)又はC(CH又はCH(C)又はC(C又はSOを示し、X及びXは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示す。]
及び下記一般式(3)で表される化合物、
【化3】

[式中、X及びXは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示す。]
の中から選ばれる少なくとも1種を70〜100モル%の比率で含み、下記一般式(4)で表される化合物、
【化4】

[式中、X及びXは同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示し、Yは水素原子、SOM又はCHSOM(Mは水素原子又は軽金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。)を示す。]
及び下記一般式(5)で表される化合物、
【化5】

[式中、AはCH又はCH(CH)又はC(CH又はC(CH)(C)又はC(CH又はCH(C)又はC(C又はSOを示し、X及びX10は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示し、Y及びYは水素原子、SOM又はCHSOM(Mは水素原子又は軽金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。)を示す。]
及び下記一般式(6)で表される化合物
【化6】

[式中、X11及びX12は同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜9の直鎖又は分岐のアルキル基又はフェニル基又はヒドロキシル基又はハロゲン原子を示し、Y及びYは水素原子、SOM又はCHSOM(Mは水素原子又は軽金属イオン又はアンモニウムイオンを示す。)を示す。]
の中から選ばれる少なくとも1種を、30〜0モル%の比率で含むフェノール類及び/又はナフトール類と、ホルマリン、パラホルムアルデヒド及びトリオキサンの中から選ばれる少なくとも1種のアルデヒド類とを縮合反応させて得られるフェノール性高分子であることを特徴とする貴金属回収剤。
【請求項2】
請求項1に記載の貴金属回収剤の少なくとも1種を、貴金属を含有する液に混合して貴金属を吸着させ、さらに貴金属を含む凝集体を形成させて、これを分離回収することを特徴とする貴金属回収方法。

【公開番号】特開2013−87362(P2013−87362A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242783(P2011−242783)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(391003473)センカ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】