説明

貴金属基複合材料の製造方法

【課題】素地を構成する貴金属地金合金の比重に対して分散粒子の比重が著しく小さい場合においても、添加粒子が偏析や凝集を生じることなく素地中に均一に分散するような貴金属基複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】貴金属素地を構成する合金成分からなり、比重がρ1である貴金属粉末と、比重ρ1の1/3以下となる比重ρ2を有する添加粒子とを用意し、それらを所定の比率で混合して混合粉末を得る。第1段階焼結工程として、混合粉末を第1加熱温度T1に保持しながら加圧し、第2段階焼結工程として、混合粉末を第1加熱温度T1よりも高い第2加熱温度T2に保持しながら加圧する。こうして得られた焼結体に対して加工を施して所定形状の貴金属機複合材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属基複合材料の製造方法に関するものであり、特に素地を構成する金属の比重に対して分散粒子の比重が著しく小さい場合においても、添加粒子が偏析や凝集を生じることなく素地中に均一に分散することを可能とする貴金属基複合材料の製造方法に関するものである。本発明は、特に、金、銀、プラチナ、ホワイトゴールドまたはそれらの合金の素地中に機能性セラミックス粒子を分散させることで、遠赤外線効果やマイナスイオン効果を発揮する機能性貴金属基複合材料の製造に有効な方法である。
【背景技術】
【0002】
これまでに多くの貴金属基複合材料の製造方法に関する先行技術が提案されている。例えば、金、プラチナ、銀などの貴金属系合金を素地(地金)とし、シリカなどのセラミック粒子が分散した合金を製造する方法として、特開2002−3957号公報に開示された「遠赤外線セラミック混成地金の製造方法」がある。ここでは、坩堝の底部に上記のセラミック粒子を事前に装入・充填し、その上に塊状地金を投入した状態で高周波加熱炉によって地金の溶融温度にまで加熱する。そしてこのような溶融地金(溶湯)を鋳型に流し込み、溶融地金が凝固することで地金内にセラミック粒子が均一に分散した地金を製造する。また類似の製法として、分散粒子を合金溶湯中に添加・攪拌した後、鋳型に流し込む方法もある。その際、半溶融状態の合金中にセラミック粒子を混合・攪拌して均一なスラリーとした後に鋳型に流し込んで成形するコンポキャスティング法がある。
【特許文献1】特開2002−3957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のいずれの製造方法においても、素地を構成する貴金属の比重と、素地中に分散する粒子の比重において顕著な差があるため、地金合金が溶融した時点で浮力によって分散粒子は溶融地金の湯面近傍へ上昇し、そこで凝集するといった現象が生じる。その結果、粒子を地金素地中に均一に分散することが困難となる。特に、コンポキャスティング法のように溶融あるいは半溶融状態にある地金合金を混合・攪拌すると、遠心力も作用して比重の小さい粒子は坩堝の内壁近傍部、つまり地金合金の外周部に偏析し、その後に湯面近傍へ上昇するため、さらに粒子の均一分散性は低下する。
【0004】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、素地を構成する貴金属地金合金の比重に対して分散粒子の比重が著しく小さい場合においても、添加粒子が偏析や凝集を生じることなく素地中に均一に分散するような貴金属基複合材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、貴金属素地中に添加粒子が分散する貴金属基複合材料の製造方法であって、次の工程を備えることを特徴とする。
【0006】
(1)貴金属素地を構成する合金成分からなり、比重がρ1である貴金属粉末を用意する工程。
【0007】
(2)上記の貴金属粉末の比重ρ1の1/3以下となる比重ρ2を有する添加粒子を用意する工程。
【0008】
(3)上記貴金属粉末と上記添加粒子とを所定の比率で混合して混合粉末を得る工程。
【0009】
(4)上記混合粉末を第1加熱温度T1に保持しながら加圧する第1段階焼結工程。
【0010】
(5)上記第1段階焼結工程後に引き続いて、混合粉末を、第1加熱温度T1よりも高い第2加熱温度T2に保持しながら加圧する第2段階焼結工程。
【0011】
(6)上記第2段階焼結工程後に得られた焼結体に対して加工を施して所定形状の貴金属基複合材料を得る仕上げ工程。
【0012】
一つの実施形態では、上記仕上げ工程は、焼結体を坩堝内で加熱して溶解した後、金型内に鋳込む工程を含む。他の実施形態では、上記仕上げ工程は、焼結体を加熱した状態で、この焼結体に対して、圧延加工、引抜き加工、押出加工、鍛造加工のうち少なくとも1つの塑性加工を施す工程を含む。
【0013】
好ましくは、第1段階および第2段階焼結工程において、常温から第1加熱温度T1までの昇温速度は毎分50℃以下であり、第1加熱温度T1から第2加熱温度T2までの昇温速度は毎分30℃以下である。
【0014】
好ましくは、第1段階および第2段階焼結工程において、貴金属素地を構成する合金の融点をTmとすると、次の関係が成立するように第1加熱温度T1および第2加熱温度T2を設定する。
【0015】
0.5×Tm≦T1≦0.75×Tm
0.85×Tm≦T2≦Tm+100℃
好ましくは、第1段階焼結工程において、第1加熱温度T1での保持時間は30分以上である。
【0016】
貴金属素地を構成する合金成分は、例えば、金、銀、プラチナおよびホワイトゴールドからなる群から選ばれた貴金属またはその合金である。添加粒子は、例えば、酸化物、窒化物、炭化物およびホウ化物からなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【0017】
上記の規定内容の意義および作用効果等については、以下の項目で詳しく記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、貴金属素地中に添加粒子が分散する貴金属基複合材料において、貴金属素地を構成する合金成分からなる金属の比重をρ1、その添加粒子の比重をρ2とすると、ρ1/ρ2の値が3以上となる場合を対象とする。これは、ρ1/ρ2の値が3未満の場合には、上述した従来の製造方法であっても地金温度の厳密な管理や粒子の添加方法などにおいて工夫を凝らせば、分散粒子の偏析や凝集をある程度にまで抑えることが可能だからである。しかしながら、ρ1/ρ2の値が3以上の場合、上述した従来の製造方法では、分散粒子は浮力によって上昇し、湯面近傍に偏析・凝集する。
【0019】
このような比重の差があるような組合せにおいて、本発明者らは、素地を構成する合金成分からなる粉体を出発原料として用いることで、たとえρ1/ρ2の値が3以上の場合であっても分散粒子の偏析・凝集現象を抑制できることを見出した。
【0020】
具体的には、次のような工程を経て添加粒子が均一に分散する貴金属基複合材料を製造する。
【0021】
(1)素地を構成する合金成分からなり、比重がρ1である貴金属粉末と、素地中に分散させるものであり、比重がρ1の1/3以下となる比重ρ2を有する添加粒子とを準備する。
【0022】
(2)貴金属粉末と添加粒子とを所定の比率で混合する。この場合、乾式あるいは湿式方法のいずれでも良いが、混合処理後における貴金属粉末と添加粒子との混合具合が、最終的な複合材料における添加粒子の均一分散性を左右することから、長時間の均一混合処理が必要である。
【0023】
(3)得られた混合粉末を加熱状態で加圧・成形して焼結体を作製する。例えば、放電プラズマ焼結法のようにカーボン製型に混合粉末を充填し、カーボン製の上・下パンチ型によって混合粉末を挟んだ状態で、真空雰囲気中にて加圧軸方向の上・下パンチ型から電流を流すと同時に所定の圧力を付与する。この状態を適切な時間維持した後、電流を切り、加圧力を除荷して室温近くにまで冷却する。これによって、素地を構成する貴金属粉末同士が強固に焼結すると同時に、添加粒子は貴金属粉末の粉体粒界に存在することで焼結体内部全体において均一に分散する。なお、放電プラズマ焼結法以外にも、ホットプレス法や温間成形法などによっても同様の効果が得られる。
【0024】
(4)得られた焼結体に対して加工を施して所定形状の貴金属基複合材料を得る。この仕上げ工程の一つの実施形態は、焼結体を坩堝内に投入し、所定の温度にまで急速に昇温した後に適切な時間、その温度で保持することで素地合金を溶融あるいは半溶融の状態とし、その後、直ちに所定の金型内に鋳込むことにより、目的とする貴金属基複合材料を製造することである。仕上げ工程の他の実施形態は、焼結体を加熱した状態で圧延加工、引抜き加工、押出加工、鍛造加工のうち少なくとも1つの塑性加工を施すことで、目的とする貴金属基複合材料を製造することである。
【0025】
次に、上記の工程における詳細な条件について説明する。
【0026】
上記(3)の焼結体作製工程は、混合粉末を第1加熱温度T1に保持しながら加圧する第1段階焼結工程と、第1段階焼結工程後に引き続いて、混合粉末を、第1加熱温度T1よりも高い第2加熱温度T2に保持しながら加圧する第2段階焼結工程とを含む。
【0027】
具体的には、図1に示すように、カーボン型内の混合粉末試料の温度が室温から第1加熱温度T1に到達するまで適切な温度勾配(昇温温度)a1のもとで加熱し、温度T1に達した後、ある適切な時間t1だけT1にて保持し、その後、再び、加熱することで温度T1から第2加熱温度T2に到達するまで適切な温度勾配(昇温温度)a2のもとで加熱する。そして、この場合も同様にある適切な時間t2だけT2にて保持する。その後は、電流を切り室温近傍にまで徐冷する。なお、室温からT2での加熱・保持の過程において、カーボン型内の混合粉末試料に対しては、ある適切な荷重(圧力)を付与する必要がある。このように焼結体作製工程では、カーボン型内の混合粉末試料に対して加圧した状態で、2段階の加熱・保持を付与することで、焼結体内部に空隙のない緻密な素地合金の中に添加粒子が均一に分散する貴金属基複合材料を得ることができる。
【0028】
このような2段階の昇温・加熱・保持工程において、各保持温度(T1およびT2)、昇温速度(a1およびa2)および保持時間(t1)には、それぞれ目的およびその目的を達成するための適正な範囲がある。それらの適正な範囲の全てを満足することにより、目標とする貴金属基複合材料を得るための緻密な焼結体を作製できる。
【0029】
(a)常温から第1加熱温度T1までの加熱昇温工程
この工程における加熱は、焼結体の素地を構成する貴金属粉末間の空隙(粉末3重点の空孔)に存在する気体成分、例えば、大気中の空気や貴金属粉末表面の吸着水のガス化や吸着ガスなどを空隙内に残存させることなく、外部に完全に排出させることを目的とする。
【0030】
先ず、常温から第1加熱温度T1までの昇温速度a1は毎分50℃以下であることが望ましい。急激にT1にまで昇温すると、空隙に存在する気体成分が十分に排出・除去されないだけでなく、気体成分が空隙内で急激に膨張することで焼結体に亀裂や割れが生じる。このような現象を抑制するには、常温からT1まで加熱・昇温する際の温度上昇率は毎分50℃以下とする必要がある。言い換えると、昇温速度a1がこの値よりも大きくなると、空隙内部への気体成分の残存や焼結体中の割れ・亀裂などの問題が生じる。
【0031】
このとき、貴金属素地を構成する合金の融点をTmとすると、第1加熱温度T1は0.5×Tm以上で0.75×Tm以下であることが望ましい。カーボン型内に混合粉末が充填された状態で加圧する際、貴金属粉末が塑性変形することで粉末間の空隙を閉鎖する。この場合、貴金属粉末の変形に要する温度としては、T1は0.5×Tm以上であり、これ未満であれば、粉末の変形が十分ではなく、その結果、空隙を完全に閉鎖することは困難である。一方、T1が0.75×Tmを越えて高くなると、貴金属粉末は比較的容易に変形するため、空隙内部に存在する気体成分が完全に排出・除去される前に粉末同士が焼結し、その結果、空隙内部に気体成分が残存するといった問題が生じる。
【0032】
また、第1加熱温度T1での保持時間は30分以上とすることが望ましい。上述したようにT1での加熱保持は、空隙内部に存在する気体成分を完全に排出・除去することが目的であり、保持時間が30分未満と短くなれば、空隙内部に存在する気体成分が完全に排出・除去されずに残存する。このような状態で第2加熱温度T2に向けて昇温すると、空隙内に残存した気体成分が膨張して焼結体に亀裂や割れが生じる。
【0033】
(b)第1加熱温度T1から第2加熱温度T2までの加熱昇温工程
この工程における加熱は、気体成分が十分に排出・除去された状態にある貴金属粉末同士を焼結し、緻密な焼結固化体を作製することを目的とする。
【0034】
先ず、第1加熱温度T1から第2加熱温度T2までの昇温速度a2は毎分30℃以下であることが望ましい。急激にT2にまで昇温すると、カーボン型内での温度不均一が生じ、その結果、焼結体の寸法バラツキや局所的に焼結が不十分といった問題が生じる。
【0035】
このとき、貴金属素地を構成する合金の融点をTmとすると、第2加熱温度T2は0.85×Tm以上でTm+100℃以下であることが望ましい。上述のとおり、T2での加熱は貴金属粉末同士の焼結現象を促進することであるが、T2が0.85×Tm未満であれば、粉末間の焼結が十分に進行せず、その結果、焼結体の強度が低下して次工程の塑性加工過程において試料素材に亀裂、割れ、分断、裂けなどの問題が生じうる。一方、T2がTm+100℃を越えると、貴金属粉末表面からの溶融現象が顕著に進行し、その結果、カーボン型から合金成分が液状として流出するといった問題が生じる。したがって、第2加熱温度T2は0.85×Tm以上でTm+100℃以下であることが望ましい。
【0036】
なお、焼結体作製工程は金属粉末同士の焼結を促進させる観点から、真空雰囲気中で行なうことが望ましい。
【0037】
本発明の製造方法においては、特に金属粉体としての合金成分に制約はないが、機能性貴金属材料という点では、貴金属粉末の合金成分として金、銀、プラチナ、ホワイトゴールド、またはそれらの合金を用いるのが好ましい。また、添加粒子に関しても同様に制約はないが、例えば、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物のうち、少なくとも1種類以上から選ばれた粒子を用いる。その際、貴金属粉末と添加粒子との混合粉末における添加粒子の体積含有率は、押出、線引き、圧延などの塑性加工性の観点から20%以下であることが望ましい。
【実施例1】
【0038】
K18イエローゴールド(Au:75%,Ag:12%,Cu:12.5%,Zn:0.5%/重量%基準)の鋳造インゴット素材から切削加工によって長さ0.5〜2.2mm程度の棒状粉体試料を作製し、焼結体の素地を構成する合金粉体原料とした。添加粒子として、純度99.5%以上のSiO粉末(平均粒子径240μm)を準備した。
【0039】
なお、K18粉体の融点Tmは905℃、比重ρ1は15.4g/cm、SiO粉末の比重ρ2は2.64g/cmであることから、ρ1/ρ2=5.83>3を満足する組合せである。
【0040】
両者の混合粉末においてSiOの含有量が体積分率で5%となるように各原料を秤量・配合した後、乾式ボールミルによって1時間混合・攪拌処理を行ってSiO粒子の均一分散を行なった。次に、放電プラズマ焼結装置を用い、真空雰囲気中においてこの混合粉末をカーボン型内に充填した状態で上・下方向からカーボン製パンチによって加圧・加熱することで焼結固化体を作製した。その時の焼結条件を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
ここで、各記号は図1に対応しており、また焼結過程において上・下パンチからの加圧力は常に30MPaで一定とした。カーボン型の内側寸法は、幅10mm、長さ50mmとし、コーナー部分に直径1mmのR形状を付与して加圧によるカーボン型の割れを防止した。なお、カーボン型に充填する混合粉末の重量を調整することで、得られた焼結体の寸法はいずれも差異は小さく、厚み約5mm、幅約10mm、長さ約50mmの直方体であった。
【0043】
各焼結体の外観を観察し、亀裂・割れ等の発生の有無を確認すると共に、焼結体の端部を切断し、光学顕微鏡による組織観察を行なうことで添加粒子の均一分散性を評価した。続いてその焼結体を加熱した後、直ちに線引き加工を数パスに分けて施して最終的に直径1mmの線材とし、再度、ワイヤー線材の外観を観察した。
【0044】
試料No.1〜4は、本発明例であり、膨れや亀裂・割れなどのない健全なK18焼結複合材料が得られている。また組織観察の結果においても、SiO添加粒子は焼結体の素地中に凝集・偏析することなく均一に分散している。
【0045】
一方、試料No.5〜12は、比較例であり、それぞれの焼結条件において適切な範囲を満足していない結果、焼結体に膨れや亀裂、欠損などの問題や、焼結温度が高過ぎるために液相が流出するといった問題が生じた。またこのような膨れや亀裂などを有する焼結体に対して次工程で線引き加工や圧延加工などを施すと、塑性加工過程で焼結体が破損したり、線引き後のワイヤーが先端で裂けるといった問題が生じ、良好な製品が得られなくなる。
【実施例2】
【0046】
スターリングシルバー(Ag:92.5%,Cu:7.5%/重量%基準)の鋳造インゴット素材から切削加工によって長さ0.8〜1.5mm程度の棒状粉体試料を作製し、焼結体の素地を構成する合金粉体原料とした。添加粒子として、純度99.5%以上のSiO(平均粒子径240μm)を準備した。
【0047】
なお、スターリングシルバー粉体の融点Tmは893℃、比重ρ1は10.4g/cm、SiO粉末の比重ρ2は2.64g/cmであることから、ρ1/ρ2=3.94>3を満足する組合せである。
【0048】
両者の混合粉末においてSiOの含有量が体積分率で5%となるように各原料を秤量・配合した後、乾式ボールミルによって1時間混合・攪拌処理を行ってSiO粒子の均一分散を行なった。次に、放電プラズマ焼結装置を用い、真空雰囲気中においてこの混合粉末をカーボン型内に充填した状態で上・下方向からカーボン製パンチによって加圧・加熱することで焼結固化体を作製した。その時の焼結条件を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
ここで、各記号は図1に対応しており、また焼結過程において上・下パンチからの加圧力は常に35MPaで一定とした。カーボン型の内側寸法は、幅10mm、長さ50mmとし、コーナー部分に直径1mmのR形状を付与して加圧によるカーボン型の割れを防止した。なお、カーボン型に充填する混合粉末の重量を調整することで、得られた焼結体の寸法はいずれも差異は小さく、厚み約5mm、幅約10mm、長さ約50mmの直方体であった。
【0051】
各焼結体の外観を観察し、亀裂・割れ等の発生の有無を確認すると共に、焼結体の端部を切断し、光学顕微鏡による組織観察を行なうことで添加粒子の均一分散性を評価した。続いてその焼結体を加熱した後、直ちに線引き加工を数パスに分けて施して最終的に直径1mmの線材とし、再度、ワイヤー線材の外観を観察した。
【0052】
試料No.13〜16は、発明例であり、膨れや亀裂・割れなどのない健全なスターリングシルバー焼結複合材料が得られている。また組織観察の結果においても、SiO添加粒子は焼結体の素地中に凝集・偏析することなく均一に分散している。
【0053】
一方、試料No.17〜23は、比較例であり、それぞれの焼結条件において適切な範囲を満足していない結果、焼結体に膨れや亀裂、欠損などの問題や、焼結温度が高過ぎるために液相が流出するといった問題が生じた。またこのような膨れや亀裂などを有する焼結体に対して次工程で線引き加工や圧延加工などを施すと、塑性加工過程で焼結体が破損したり、線引き後のワイヤーが先端で裂けるといった問題が生じ、良好な製品が得られなくなる。
【実施例3】
【0054】
Pt900(Pt:90%,Pd:10%/重量%基準)の鋳造インゴット素材から切削加工によって長さ0.4〜1.1mm程度の棒状粉体試料を作製し、焼結体の素地を構成する合金粉体原料とした。添加粒子として、純度99.8%以上のAl粉末(平均粒子径120μm)を準備した。なお、Pt900粉体の融点Tmは1730℃、比重ρ1は20.0g/cm、Al粉末の比重ρ2は3.98g/cmであることから、ρ1/ρ2=5.03>3を満足する組合せである。
【0055】
両者の混合粉末においてAlの含有量が体積分率で8%となるように各原料を秤量・配合した後、乾式ボールミルによって1時間混合・攪拌処理を行ってAl粒子の均一分散を行なった。次に、放電プラズマ焼結装置を用い、真空雰囲気中においてこの混合粉末をカーボン型内に充填した状態で上・下方向からカーボン製パンチによって加圧・加熱することで焼結固化体を作製した。その時の焼結条件を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
ここで、各記号は図1に対応しており、また焼結過程において上・下パンチからの加圧力は常に45MPaで一定とした。カーボン型の内側寸法は、幅10mm、長さ50mmとし、コーナー部分に直径1mmのR形状を付与して加圧によるカーボン型の割れを防止した。なお、カーボン型に充填する混合粉末の重量を調整することで、得られた焼結体の寸法はいずれも差異は小さく、厚み約5mm、幅約10mm、長さ約50mmの直方体であった。
【0058】
各焼結体の外観を観察し、亀裂・割れ等の発生の有無を確認すると共に、焼結体の端部を切断し、光学顕微鏡による組織観察を行なうことで添加粒子の均一分散性を評価した。続いてその焼結体を加熱した後、直ちに線引き加工を数パスに分けて施して最終的に直径1mmの線材とし、再度、ワイヤー線材の外観を観察した。
【0059】
試料No.24〜27は、本発明例であり、膨れや亀裂・割れなどのない健全なPt900焼結複合材料が得られている。また組織観察の結果においても、Al添加粒子は焼結体の素地中に凝集・偏析することなく均一に分散している。
【0060】
一方、試料No.28〜32は、比較例であり、それぞれの焼結条件において適切な範囲を満足していない結果、焼結体に膨れや亀裂、欠損などの問題が生じた。またこのような膨れや亀裂などを有する焼結体に対して次工程で線引き加工や圧延加工などを施すと、塑性加工過程で焼結体が破損したり、線引き後のワイヤーが先端で裂けるといった問題が生じ、良好な製品が得られなくなる。
【実施例4】
【0061】
実施例1で作製したK18イエローゴールド(Au:75%,Ag:12%,Cu:12.5%,Zn:0.5%/重量%基準)焼結体中にSiO粉末が分散した試料を再度、高周波加熱炉を用いて坩堝内で995℃まで加熱昇温して溶融し、直ちに砂型に鋳込んだ。健全な焼結体試料No.1〜4では、欠陥や巣などなくSiO粉末が素地中に均一に分散したK18イエローゴールド鋳造合金が得られた。一方、内部に空隙や膨れを有する焼結体試料No.5〜8を用いた場合、坩堝内で溶融する過程で気泡が発生し、同時にSiO粉末が溶湯の表面に浮遊するといった問題が生じた。その結果、砂型に鋳込んだK18イエローゴールド鋳造合金の内部には、添加したSiO粉末がほとんど存在しなかった。
【実施例5】
【0062】
本発明例の試料No.13および比較例の試料No.17、19のスターリング焼結体について、線引き後のワイヤーの外観写真を図2に示す。(a)の試料No.13は、裂けることなく良好なワイヤーが得られた。他方、(b)の試料No.17と(c)の試料No.19では、焼結体内部に残存した空隙が原因でワイヤーの先端や中央部が裂けた。
【実施例6】
【0063】
比較例の試料No.19のスターリング焼結体について、溶解するために焼結体を900℃まで加熱した。図3(a)は焼結体の断面組織を示すが、顕著な空隙は存在しないが、900℃まで加熱すると、図3(b)に示すように焼結体内部に残存した空隙が膨張している様子がわかる。
【0064】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、例えば、遠赤外線効果やマイナスイオン効果を発揮する機能性貴金属基複合材料の製造方法として有利に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係る焼結処理条件を示す図である。
【図2】試料No.13、17、19の外観写真を示す図である。
【図3】焼結体の断面組織写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属素地中に添加粒子が分散する貴金属基複合材料の製造方法であって、
貴金属素地を構成する合金成分からなり、比重がρ1である貴金属粉末を用意する工程と、
前記貴金属粉末の比重ρ1の1/3以下となる比重ρ2を有する添加粒子を用意する工程と、
前記貴金属粉末と前記添加粒子とを所定の比率で混合して混合粉末を得る工程と、
前記混合粉末を第1加熱温度T1に保持しながら加圧する第1段階焼結工程と、
前記第1段階焼結工程後に引き続いて、前記混合粉末を、前記第1加熱温度T1よりも高い第2加熱温度T2に保持しながら加圧する第2段階焼結工程と、
前記第2段階焼結工程後に得られた焼結体に対して加工を施して所定形状の貴金属基複合材料を得る仕上げ工程とを備える、貴金属基複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記仕上げ工程は、前記焼結体を坩堝内で加熱して溶解した後、金型内に鋳込む工程を含む、請求項1に記載の貴金属基複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記仕上げ工程は、前記焼結体を加熱した状態で、この焼結体に対して、圧延加工、引抜き加工、押出加工、鍛造加工のうち少なくとも1つの塑性加工を施す工程を含む、請求項1に記載の貴金属基複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記第1段階および第2段階焼結工程において、常温から前記第1加熱温度T1までの昇温速度は毎分50℃以下であり、第1加熱温度T1から前記第2加熱温度T2までの昇温速度は毎分30℃以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の貴金属基複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記第1段階および第2段階焼結工程において、前記貴金属素地を構成する合金の融点をTmとすると、
0.5×Tm≦T1≦0.75×Tm
0.85×Tm≦T2≦Tm+100℃
の関係が成立する、請求項1〜4のいずれかに記載の貴金属基複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記第1段階焼結工程において、前記第1加熱温度T1での保持時間は30分以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の貴金属基複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記貴金属素地を構成する合金成分は、金、銀、プラチナおよびホワイトゴールドからなる群から選ばれた貴金属またはその合金である、請求項1〜6のいずれかに記載の貴金属基複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記添加粒子は、酸化物、窒化物、炭化物およびホウ化物からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の貴金属基複合材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−262533(P2007−262533A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91557(P2006−91557)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(593157297)株式会社デスク・トウー・ワン (4)
【出願人】(504100802)
【Fターム(参考)】