説明

貴金属担持触媒

【課題】製造直後の時点から高い触媒活性を発揮でき、且つ長期に亘る運転の後でも高い触媒活性を維持できる貴金属担持触媒を提供する。
【解決手段】
金属の酸化物を含有する複数の粒子が凝集して形成された担体と、該担体の内部に位置する、前記粒子の表面に担持された複数の触媒貴金属の粒子とを含む貴金属担持触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属担持触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガス浄化用触媒は、エンジンから排出される排ガスに含まれる炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を酸化して水及び二酸化炭素に、窒素酸化物(NOx)を還元して窒素に、それぞれ変換する。排ガス浄化用触媒としては、通常、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の触媒貴金属の粒子を耐熱性の金属担体に担持した貴金属担持触媒が使用される。
【0003】
貴金属担持触媒は、金属担体と触媒貴金属の塩とを接触させて、金属担体に触媒貴金属の塩を担持させた後、還元処理して触媒貴金属の粒子を形成させることによって製造される。しかしながら、上記の方法を用いて製造された貴金属担持触媒は、高温の排ガスに曝されると触媒貴金属が担体の表面でシンタリングして粒成長し、触媒活性が低下することが知られていた。
【0004】
上記の問題に対し、例えば、特許文献1は、触媒貴金属源としてRhのコロイドを含む処理液中に担体を浸漬して、担体にRhのコロイドを吸着させる工程を含む、自動車排ガス浄化用触媒の製造方法を記載する。
【0005】
特許文献2は、担体上にセリウム(Ce)及びジルコニウム(Zr)を含有する酸素吸蔵材を含有し、Pdの一部が酸素吸蔵材の粒子にドープされており、残りが酸素吸蔵材粒子の表面に固着している排ガス浄化用触媒を記載する。
【0006】
特許文献3は、Ce及びZrを含有する複合酸化物の粒子のみにPdがドープされている排ガス浄化用触媒を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-284553号公報
【特許文献2】特開2008-290065号公報
【特許文献3】特開2010-12397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、自動車の排ガス浄化用途に使用し得る貴金属担持触媒として種々の技術が開発されているが、いずれの貴金属担持触媒の性能も不十分である。特に、自動車の排ガス浄化用触媒は、長期に亘って高温の排ガスに曝露されるため、製造直後の初期触媒活性が高くても、長期運転によって触媒貴金属粒子のシンタリングが発生し、徐々に触媒活性が低下するという課題が存在した。触媒貴金属粒子のシンタリングは、触媒貴金属の中でも融点の低いPdを用いた場合に顕著に発生する。それ故、特許文献1のように担体粒子の表面にPd粒子を担持した触媒の場合、初期の触媒活性は高いものの、長期運転後の触媒活性は低下する。
【0009】
これに対し、特許文献2及び3のように担体粒子内に触媒貴金属をドープした触媒の場合、シンタリングを抑制し得るものの、触媒貴金属の粒子を担体粒子に担持した触媒と比較して触媒貴金属とガスとの接触面積が低くなるため、特に製造初期の触媒活性が低いという課題が存在した。
【0010】
それ故、本発明は、製造直後の時点から高い触媒活性を発揮でき、且つ長期に亘る運転の後でも高い触媒活性を維持できる貴金属担持触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、触媒貴金属源として該貴金属のコロイドを用い、担体の金属塩と触媒貴金属のコロイドとを共沈させた後、焼成して貴金属担持触媒を形成させることにより、上記のような特性を備える貴金属担持触媒を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 金属の酸化物を含有する複数の粒子が凝集して形成された担体と、該担体の内部に位置する、前記粒子の表面に担持された複数の触媒貴金属の粒子とを含む貴金属担持触媒。
(2) 触媒貴金属がパラジウム又はロジウムである、前記(1)の触媒。
(3) 金属の酸化物が、セリウム、ジルコニウム及びアルミニウムからなる群より選択される2以上の金属Aの酸化物を含有する、前記(1)又は(2)の触媒。
(4) 金属の酸化物が、イットリウム、ランタン、ネオジム、ストロンチウム及びバリウムからなる群より選択される1以上の金属Bの酸化物を更に含有する、前記(3)の触媒。
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載の貴金属担持触媒の製造方法であって、
金属塩及び触媒貴金属のコロイドの混合物にアルカリを加えて金属塩及び触媒貴金属のコロイドを共沈させる共沈工程;及び
共沈させた金属塩及び触媒貴金属のコロイドを焼成して上記触媒を得る焼成工程;
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、製造直後の時点から高い触媒活性を発揮でき、且つ長期に亘る運転の後でも高い触媒活性を維持できる貴金属担持触媒を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の貴金属担持触媒を示す模式図である。
【図2】本発明の貴金属担持触媒の製造方法を示す工程図である。
【図3】実施例1-1及び比較例1-2の貴金属担持触媒のX線回折(XRD)スペクトルを示す図である。A:実施例1-1の貴金属担持触媒のXRDスペクトル;B:比較例1-2の貴金属担持触媒のXRDスペクトル。
【図4】実施例1-1並びに比較例1-1及び1-2の貴金属担持触媒の低温浄化性能(T50)を示す図である。
【図5】実施例2-1並びに比較例2-1及び2-2の貴金属担持触媒の低温浄化性能(T50)を示す図である。
【図6】実施例1-1〜1-3の触媒製造時に使用されたPdコロイドのPd粒子径と、これらの初期触媒のT50値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1. 貴金属担持触媒>
本発明は、金属の酸化物を含有する複数の粒子が凝集して形成された担体と、該担体の内部に位置する、前記粒子の表面に担持された複数の触媒貴金属の粒子とを含む貴金属担持触媒に関する。
【0016】
本明細書において、「担体」は、触媒貴金属の粒子を担持するための材料であって、金属の酸化物を含有する複数の微小な粒子が凝集することによって形成される粗大な凝集物(バルク)を意味する。ここで、「凝集」は、金属の酸化物を含有する粒子を融点以下の温度で加熱することにより、複数の粒子が実質的に溶融することなく集合し、各々の粒子の形状及び結晶形態を略完全に又は部分的に保持したまま1個のバルクを形成することを意味する。本発明の貴金属担持触媒において、金属の酸化物を含有する複数の粒子(一次粒子)が凝集して形成された担体は、粗大な粒子(二次粒子)の形態であることが好ましい。
【0017】
複数の粒子が凝集して形成された担体においては、各々の粒子の形状が略完全に又は部分的に保持されている。このため、担体の内部では、隣接する複数の粒子の表面全体が互いに完全に密着せず、一定の空間すなわち空隙が形成される。本発明の貴金属担持触媒において、空隙は、担体の外部と連通していない閉気孔を形成していてもよく、担体の表面に形成された1以上の開放口と連結することで、開気孔を形成していてもよい。開気孔を形成していることが好ましい。
【0018】
図1は、本発明の貴金属担持触媒を示す模式図である。本発明の貴金属担持触媒1は、金属の酸化物を含有する複数の粒子11が凝集して形成された担体12を含む。担体12の内部には、複数の空隙14及び16が形成されている。空隙は、担体12の表面に形成された複数の開放口15と連結された開気孔14の形態であってもよく、いずれの開放口とも連結していない閉気孔16の形態であってもよい。触媒貴金属の粒子13は、担体12の内部に形成された空隙(開気孔14又は閉気孔16)に位置することができる。この場合、触媒貴金属の粒子13は、担体12の内部に位置する、粒子11の表面に担持されている。或いは、触媒貴金属の粒子13は、担体12の表面に位置する、粒子11の表面に担持されていてもよい。いずれの形態で触媒貴金属の粒子が担持されている場合であっても、本発明の貴金属担持触媒に包含される。触媒貴金属の粒子13が、担体12の内部に位置する、粒子11の表面に担持されている形態が好ましい。
【0019】
本発明者らは、以下で説明する本発明の貴金属担持触媒の製造方法を用いると、金属の酸化物を含有する複数の粒子が互いに凝集して担体が形成され、該担体の内部に位置する、前記粒子の表面に複数の触媒貴金属の粒子が担持されることを見出した。
【0020】
従来技術のうち、例えば特許文献1に記載の貴金属担持触媒は、触媒貴金属の粒子が担体の表面に担持されている。このため、初期の性能は高いものの、長期に亘って高温のガスに曝露されると触媒貴金属の粒子がシンタリングして触媒活性が低下する。また、特許文献3に記載の貴金属担持触媒は、金属の酸化物粒子(一次粒子)内に触媒貴金属がドープされている。このため、高温のガスに曝露されることによる触媒貴金属粒子のシンタリングを抑制することができるものの、ガスとの接触面積が低くなるため、特に製造直後の触媒において十分な触媒活性を発揮することができない。
【0021】
これに対し、本発明の貴金属担持触媒は、触媒貴金属が、担体の内部に位置する金属の酸化物を含有する粒子の表面に担持されている。このため、製造直後の触媒において高い触媒活性を発揮できるだけでなく、長期に亘って高温のガスに曝露されても触媒貴金属の粒子がシンタリングすることなく、初期の触媒活性を維持することが可能となる。
【0022】
本明細書において、「触媒貴金属」は、触媒活性を有する貴金属を意味し、限定するものではないが、例えば、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)及び白金(Pt)を挙げることができる。Pd又はRhであることが好ましい。上記の触媒貴金属を用いることにより、貴金属担持触媒の低温浄化性能を高めることが可能となる。
【0023】
本発明の貴金属担持触媒に含まれる担体に含有される金属の酸化物は、酸素吸蔵放出能を有することが好ましい。ここで、「酸素吸蔵放出能」は、排ガスの空燃比がリーンな場合には排ガス中の酸素を吸蔵して還元反応を促進し、排ガスの空燃比がリッチな場合には吸蔵されている酸素を放出して酸化反応を促進する能力を意味する。かかる金属の酸化物としては、限定するものではないが、例えば、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)及びアルミニウム(Al)からなる群より選択される金属Aの酸化物を挙げることができる。Ce、Zr及びAlからなる群より選択される2以上の金属Aの酸化物を含有することが好ましい。酸素吸蔵放出能を有する金属Aの酸化物を含有する担体を用いることにより、貴金属担持触媒の排ガス浄化性能を高めることが可能となる。
【0024】
また、本発明の貴金属担持触媒に含有される金属の酸化物は、イットリウム(Y)、ランタン(La)及びネオジム(Nd)のような希土類元素、並びにストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)のようなアルカリ土類金属元素からなる群より選択される1以上の金属Bの酸化物を更に含有することが好ましい。本発明の貴金属担持触媒に含まれる担体が金属Bの酸化物を含有することにより、担体の結晶構造内部に酸素欠陥が導入されて、酸化物イオン伝導度を向上させることが可能となる。
【0025】
本発明の貴金属担持触媒において、触媒貴金属の担持密度は、貴金属担持触媒の総質量に対して0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.01〜2質量%の範囲であることがより好ましい。
【0026】
なお、貴金属担持触媒に担持されている触媒貴金属の質量は、酸等を用いて貴金属担持触媒を溶解させた後、該溶液中の金属成分を誘導結合プラズマ(ICP)発光分析することによって決定することができる。
【0027】
本発明の貴金属担持触媒に含まれる触媒貴金属の粒子の粒径は、3〜8 nmの範囲であることが好ましい。
【0028】
なお、金属の酸化物を含有する粒子、担体及び触媒貴金属の粒子の粒径は、限定するものではないが、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)により長軸方向の長さを測定し、10程度の測定値の平均値として算出するか、又はX線回折装置(XRD)により小角散乱測定を行うことによって決定することができる。
【0029】
上記の特徴を有することにより、本発明の貴金属担持触媒は、製造直後から高い初期触媒活性を発揮でき、且つ長期に亘る運転の後でも高い触媒活性を維持することが可能となる。
【0030】
<2. 貴金属担持触媒の製造方法>
本発明はまた、上記で説明した本発明の貴金属担持触媒の製造方法に関する。図2は、本発明の貴金属担持触媒の製造方法を示す工程図である。以下、図2に基づき、本発明の方法の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0031】
[2-1. 共沈工程]
本発明の方法は、金属塩及び触媒貴金属のコロイドの混合物にアルカリを加えて金属塩及び触媒貴金属のコロイドを共沈させる共沈工程(工程S2)を含む。
【0032】
本発明者らは、金属塩と触媒貴金属のコロイドとを接触させた後、アルカリを加えて共沈させることにより、結果として得られる触媒貴金属の粒子が、金属の酸化物を含有する粒子(一次粒子)内部に固溶することなく、複数の該粒子が凝集して形成された担体の内部に位置する、前記粒子の表面に担持されることを見出した。かかる構造を有する貴金属担持触媒が得られる理由は、触媒貴金属の原料としてコロイドを用いることにより、一次粒子内部に触媒貴金属が固溶することが抑制されるとともに、担体の原料となる金属塩と触媒貴金属のコロイドとを共沈させた後、焼成することにより、一次粒子の表面に触媒貴金属の粒子を担持させた状態で該一次粒子が凝集して担体を形成するため、結果として該担体の表面及び内部に位置する、前記一次粒子の表面に触媒貴金属の粒子が担持された形態となることに起因する。
【0033】
本工程において、「金属塩」は、本発明の貴金属担持触媒の担体に含有される金属の塩を意味する。上記で説明した金属A及びBの塩であることが好ましい。ここで、金属A及びBのイオンと塩を形成し得る対イオンとしては、限定するものではないが、例えば、硝酸イオン、酢酸イオン及び硫酸イオンを挙げることができる。硝酸塩であることが好ましい。
【0034】
本工程において、「触媒貴金属のコロイド」は、本発明の貴金属担持触媒の担体に含有される触媒貴金属を含有するコロイドを意味する。上記で説明した触媒貴金属と、ポリビニルピロリドンのような1以上のコロイド物質とによって形成されるコロイドであることが好ましい。触媒貴金属のコロイドにおける該触媒貴金属の粒子径は、3〜8 nmの範囲であることが好ましい。なお、触媒貴金属の粒子径は、限定するものではないが、例えば、TEMにより長軸方向の長さを測定し、10程度の測定値の平均値として算出するか、又はXRDにより小角散乱測定を行うことによって決定することができる。
【0035】
上記の成分を用いることにより、好適な構造を有する貴金属担持触媒を製造することが可能となる。
【0036】
本工程で使用される複数種の金属の塩及び触媒貴金属のコロイドの混合物は、所望により1以上の酸化剤をさらに含んでもよい。本工程において使用される酸化剤は、過酸化水素(H2O2)であることが好ましい。上記の酸化剤を含むことにより、金属イオンの酸化反応を促進させることが可能となる。
【0037】
本工程で使用される金属塩及び触媒貴金属のコロイドの混合物は、通常、金属塩と触媒貴金属のコロイドと所望により1以上の酸化剤とを溶媒中に含む。上記の溶媒としては、水、並びにメタノール、エタノール及びイソプロピルアルコールからなる群より選択される1以上の水混和性溶媒と水との混合溶媒を挙げることができる。水であることが好ましい。上記の溶媒を用いることにより、金属塩及び触媒貴金属のコロイドを実質的に均質に共沈させることが可能となる。
【0038】
本工程において使用される金属塩及び触媒貴金属のコロイドの量は、上記で説明した貴金属担持触媒中の触媒貴金属の担持密度に基づき、適宜設定すればよい。
【0039】
上記で説明した金属塩及び触媒貴金属のコロイドの混合物にアルカリを加えることにより、金属塩及び触媒貴金属のコロイドを共沈させる。本工程に使用されるアルカリは、限定するものではないが、例えば、濃アンモニア水であることが好ましい。
【0040】
本工程において、上記のアルカリを加えて金属塩及び触媒貴金属のコロイドを共沈させるためのpHは、10.0〜14.0の範囲であることが好ましく、12.0〜14.0の範囲であることがより好ましい。共沈させる温度は、10〜40℃の範囲であることが好ましく、20〜30℃の範囲であることがより好ましい。上記のアルカリを用いることにより、金属塩及び触媒貴金属のコロイドを完全に又は略完全に共沈させることが可能となる。
【0041】
共沈させた金属塩及び触媒貴金属のコロイドは、例えば遠心分離のような、当該技術分野で通常使用される分離手段で分離することができる。得られた金属塩及び触媒貴金属のコロイドの共沈殿物は、必要であれば上記の溶媒で洗浄した後、乾燥させて、以下の工程に使用すればよい。
上記の条件で本工程を実施することにより、金属塩及び触媒貴金属のコロイドを完全に又は略完全に共沈させることが可能となる。
【0042】
[2-2. 混合物形成工程]
本発明の方法において、金属塩及び触媒貴金属のコロイドの混合物は、予め調製された混合物を使用してもよく、共沈工程(工程S2)の前に各成分を接触させることによって調製してもよい。それ故、本発明の方法は、共沈工程(工程S2)の前に、上記で説明した金属塩と触媒貴金属のコロイドとを上記の溶媒中で接触させて、金属塩及び触媒貴金属のコロイドの混合物を得る混合物形成工程(工程S1)をさらに含んでもよい。
【0043】
本工程で形成される混合物が1以上の酸化剤をさらに含む場合、本工程は、金属塩と触媒貴金属のコロイドと1以上の酸化剤とを上記の溶媒中で接触させることによって実施される。
【0044】
本工程において、上記の金属塩と触媒貴金属のコロイドとを接触させる温度は、10〜40℃の範囲であることが好ましく、20〜30℃の範囲であることがより好ましい。
【0045】
上記の条件で本工程を実施することにより、金属塩及び触媒貴金属のコロイドの均質な混合物を得ることが可能となる。
【0046】
[2-3. 焼成工程]
本発明の方法は、共沈工程(工程S2)で共沈させた金属塩及び触媒貴金属のコロイドを焼成して上記触媒を得る焼成工程(工程S3)を含む。
【0047】
本工程において、金属塩及び触媒貴金属のコロイドの共沈殿物を焼成する温度は、600〜900℃の範囲であることが好ましい。焼成する時間は、1〜30時間の範囲であることが好ましく、2〜10時間の範囲であることがより好ましい。また、本工程は、大気雰囲気下で実施することが好ましい。
【0048】
以上詳細に説明したように、本発明の貴金属担持触媒の製造方法は、金属塩及び触媒貴金属のコロイドの混合物にアルカリを加えて金属塩及び触媒貴金属のコロイドを共沈させることにより、結果として得られる貴金属担持触媒を、金属の酸化物を含有する複数の粒子が凝集して形成された担体の内部に位置する、前記粒子の表面に複数の触媒貴金属の粒子が担持されている構成とすることができる。かかる特徴を有することにより、本発明の貴金属担持触媒は、製造直後から高い初期触媒活性を発揮でき、且つ長期に亘る運転の後でも高い触媒活性を維持することが可能となる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0050】
<貴金属担持触媒の調製>
[実施例1-1]
130.14 gのZrO(NO3)2・2H2O及び89.35 gのCe(NO3)2・6H2Oを100 mlのイオン交換水に溶解させた後、7.70 gのH2O2を加えた。この水溶液に、16.96 gのY(NO3)3・6H2Oを溶解させた後、0.42 gのPdコロイド(Pd粒子径:3 nm)を含有する6.0 mlのPdコロイド水溶液を加えた(工程S1)。その後、この水溶液に、400 mlの濃アンモニア水を加えてpH 12.0以上に調整し、25℃で10時間静置して、金属塩及びPdコロイドを共沈させた(工程S2)。反応液を遠心分離して、アンモニアを含有する上清から生成した共沈殿物を分離し、水洗した後、120℃で一昼夜乾燥させた。得られた共沈殿物を700℃で5時間焼成し、さらに500℃で2時間焼成して、貴金属担持触媒を得た(工程S3)。得られた貴金属担持触媒に含有されるCeO2、ZrO2及びY2O3の質量比は、CeO2:ZrO2:Y2O3=35:60:5であり、Pd担持量は、触媒の総質量に対して0.42質量%であった。
【0051】
[実施例1-2]
実施例1-1の調製法において、0.42 gのPdコロイド(Pd粒子径:5 nm)を用いた他は、上記と同様の方法で貴金属担持触媒を得た。得られた貴金属担持触媒に含有されるCeO2、ZrO2及びY2O3の質量比は、CeO2:ZrO2:Y2O3=35:60:5であり、Pd担持量は、触媒の総質量に対して0.42質量%であった。
【0052】
[実施例1-3]
実施例1-1の調製法において、0.42 gのPdコロイド(Pd粒子径:8 nm)を用いた他は、上記と同様の方法で貴金属担持触媒を得た。得られた貴金属担持触媒に含有されるCeO2、ZrO2及びY2O3の質量比は、CeO2:ZrO2:Y2O3=35:60:5であり、Pd担持量は、触媒の総質量に対して0.42質量%であった。
【0053】
[比較例1-1]
130.14 gのZrO(NO3)2・2H2O及び89.35 gのCe(NO3)2・6H2Oを100 mlのイオン交換水に溶解させた後、7.70 gのH2O2を加えた。この水溶液に、16.96 gのY(NO3)3・6H2Oを溶解させた。その後、この水溶液に、400 mlの濃アンモニア水を加えてpH 12.0以上に調整し、25℃で10時間静置して、金属塩を共沈させた。反応液を遠心分離して、アンモニアを含有する上清から生成した共沈殿物を分離し、水洗した後、120℃で一昼夜乾燥させた。得られた共沈殿物を700℃で5時間焼成した後、6 gの0.42 質量%のPd(NO3)2水溶液を含浸させた。その後、500℃で2時間焼成して、貴金属担持触媒を得た。得られた貴金属担持触媒に含有されるCeO2、ZrO2及びY2O3の質量比は、CeO2:ZrO2:Y2O3=35:60:5であり、Pd担持量は、触媒の総質量に対して0.42質量%であった。
【0054】
[比較例1-2]
130.14 gのZrO(NO3)2・2H2O及び89.35 gのCe(NO3)2・6H2Oを100 mlのイオン交換水に溶解させた後、7.70 gのH2O2を加えた。この水溶液に、16.96 gのY(NO3)3・6H2Oを溶解させた後、6 gの0.42 質量%のPd(NO3)2水溶液を加えた。その後、この水溶液に、400 mlの濃アンモニア水を加えてpH 12.0以上に調整し、25℃で10時間静置して、金属塩及びPd塩を共沈させた。反応液を遠心分離して、アンモニアを含有する上清から生成した共沈殿物を分離し、水洗した後、120℃で一昼夜乾燥させた。得られた共沈殿物を700℃で5時間焼成し、さらに500℃で2時間焼成して、貴金属担持触媒を得た。得られた貴金属担持触媒に含有されるCeO2、ZrO2及びY2O3の質量比は、CeO2:ZrO2:Y2O3=35:60:5であり、Pd担持量は、触媒の総質量に対して0.42質量%であった。
【0055】
[実施例2-1]
154.33 gのZrO(NO3)2・2H2O及び60.30 gのCe(NO3)2・6H2Oを100 mlのイオン交換水に溶解させた後、17.31 gのH2O2を加えた。この水溶液に、12.82 gのNd(NO3)3・6H2Oを溶解させた後、0.20 gのRhコロイド(Rh粒子径:2 nm)を含有する7 mlのRhコロイド水溶液を加えた(工程S1)。その後、この水溶液に、300 mlの濃アンモニア水を加えてpH 12.0以上に調整し、25℃で10時間静置して、金属塩及びRhコロイドを共沈させた(工程S2)。反応液を遠心分離して、アンモニアを含有する上清から生成した共沈殿物を分離し、水洗した後、120℃で一昼夜乾燥させた。得られた共沈殿物を700℃で5時間焼成し、さらに500℃で2時間焼成して、貴金属担持触媒を得た(工程S3)。得られた貴金属担持触媒に含有されるCeO2、ZrO2及びNd2O3の質量比は、CeO2:ZrO2: Nd2O3=24:71:5であり、Rh担持量は、触媒の総質量に対して0.2質量%であった。
【0056】
[比較例2-1]
154.33 gのZrO(NO3)2・2H2O及び60.30 gのCe(NO3)2・6H2Oを100 mlのイオン交換水に溶解させた後、17.31 gのH2O2を加えた。この水溶液に、12.82 gのNd(NO3)3・6H2Oを溶解させた。その後、この水溶液に、300 mlの濃アンモニア水を加えてpH 12.0以上に調整し、25℃で10時間静置して、金属塩を共沈させた。反応液を遠心分離して、アンモニアを含有する上清から生成した共沈殿物を分離し、水洗した後、120℃で一昼夜乾燥させた。得られた共沈殿物を700℃で5時間焼成した後、7 gの2.8 質量%のRh(NO3)2水溶液を含浸させた。その後、500℃で2時間焼成して、貴金属担持触媒を得た。得られた貴金属担持触媒に含有されるCeO2、ZrO2及びNd2O3の質量比は、CeO2:ZrO2: Nd2O3=24:71:5であり、Rh担持量は、触媒の総質量に対して0.2質量%であった。
【0057】
[比較例2-2]
154.33 gのZrO(NO3)2・2H2O及び60.30 gのCe(NO3)2・6H2Oを100 mlのイオン交換水に溶解させた後、17.31 gのH2O2を加えた。この水溶液に、12.82 gのNd(NO3)3・6H2Oを溶解させた後、7 gの2.8質量%のRh(NO3)2水溶液を加えた。その後、この水溶液に、300 mlの濃アンモニア水を加えてpH 12.0以上に調整し、25℃で10時間静置して、金属塩及びRh塩を共沈させた。反応液を遠心分離して、アンモニアを含有する上清から生成した共沈殿物を分離し、水洗した後、120℃で一昼夜乾燥させた。得られた共沈殿物を700℃で5時間焼成し、さらに500℃で2時間焼成して、貴金属担持触媒を得た。得られた貴金属担持触媒に含有されるCeO2、ZrO2及びNd2O3の質量比は、CeO2:ZrO2: Nd2O3=24:71:5であり、Rh担持量は、触媒の総質量に対して0.2質量%であった。
【0058】
<貴金属担持触媒の物理化学特性>
実施例1-1及び比較例1-2の貴金属担持触媒のX線回折(XRD)スペクトルを測定した。結果を図3に示す。
【0059】
図3Aに示すように、実施例1-1の貴金属担持触媒のXRDスペクトルには、2θ=40°付近のPd粒子に由来する回折ピークが検出された。これに対し、図3Bに示すように、比較例1-2の貴金属担持触媒のXRDスペクトルには、Pd粒子に由来する回折ピークが検出されなかった。
【0060】
<貴金属担持触媒の耐久試験>
実施例1-1〜1-3及び2-1、並びに比較例1-1、1-2、2-1及び2-2の貴金属担持触媒を、1質量%CO/N2及び10質量%H2O雰囲気下、700℃で5時間加熱処理した。処理後の触媒を、耐久処理後の触媒とした。
【0061】
無処理の触媒(初期触媒)及び耐久処理後の触媒に、0.51質量% O2; 14.4質量% CO2; 0.41質量% CO; 0.13質量% H2; 0.30質量% C3H6; 0.33質量% NOを含有するモデルガスを、20℃/分の条件で昇温しながら10 L/分の流速で流通させた。触媒の下流側のガスに含有されるHC、CO及びNOxの濃度が、触媒に流通する前のガスに含有される濃度の50%になった時点の触媒上流側のガス温度をT50(℃)とした。本試験では、T50値が低い触媒ほど、低温浄化性能の高い触媒と評価される。結果を図4及び5に示す。
【0062】
図4に示すように、実施例1-1の触媒は、初期及び耐久処理後のいずれの場合も高い低温浄化性能を示した。これに対し、担体を形成させた後にPdの粒子を担体の表面に担持させた比較例1-1の触媒は、初期の低温浄化性能は高いものの、耐久処理後の低温浄化性能は大きく低下した。一方、金属の酸化物を含有する粒子(一次粒子)を形成させるときにPdの硝酸塩を添加して一次粒子内にPdをドープした比較例1-2の触媒は、初期の低温浄化性能は低いものの、耐久処理後の低温浄化性能は顕著に向上した。同様の傾向は、触媒貴金属としてRhを用いた実施例2-1並びに比較例2-1及び2-2の触媒でも観察された(図5)。
【0063】
実施例1-1〜1-3の触媒製造時に使用されたPdコロイドのPd粒子径と、これらの初期触媒のT50値との関係を図6に示す。
【0064】
図6に示すように、実施例1-1〜1-3の触媒製造時に使用された3〜8 nmの範囲のPd粒子径の範囲では、低温浄化性能はほぼ同等であった。
【0065】
上記の結果を考察する。比較例1-1及び2-1の触媒は、触媒貴金属(Pd又はRh)の粒子が担体の表面に担持されている。このため、初期の性能は高いものの、耐久処理の過程で触媒貴金属の粒子がシンタリングして触媒活性が低下したと考えられる。比較例1-2及び2-2の触媒は、金属の酸化物を含有する粒子(一次粒子)内に触媒貴金属(Pd又はRh)がドープされている。このため、耐久処理の過程における触媒貴金属粒子のシンタリングを抑制することができるものの、ガスとの接触面積が低くなるため、製造直後の初期触媒において十分な触媒活性を発揮することができなかったと考えられる。これに対し、実施例1-1及び2-1の触媒は、金属の酸化物を含有する複数の粒子が凝集して形成された担体の内部に位置する、前記粒子の表面に複数の触媒貴金属の粒子(Pd又はRh)が担持されている。このため、製造直後の初期触媒において高い触媒活性を発揮できるだけでなく、耐久処理の過程でも触媒貴金属の粒子がシンタリングすることなく、初期の触媒活性を維持したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、製造直後の時点から高い触媒活性を発揮でき、且つ長期に亘る運転の後でも高い触媒活性を維持できる貴金属担持触媒を得ることが可能となる。本発明の貴金属担持触媒を用いることにより、自動車触媒用途のような高温の還元条件下であっても触媒貴金属の粒子がシンタリングすることなく、長期に亘って高い触媒活性を発揮することが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1…貴金属担持触媒
11…金属の酸化物を含有する粒子(一次粒子)
12…担体(二次粒子)
13…触媒貴金属の粒子
14…空隙(開気孔)
15…開放口
16…空隙(閉気孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の酸化物を含有する複数の粒子が凝集して形成された担体と、該担体の内部に位置する、前記粒子の表面に担持された複数の触媒貴金属の粒子とを含む貴金属担持触媒。
【請求項2】
触媒貴金属がパラジウム又はロジウムである、請求項1の触媒。
【請求項3】
金属の酸化物が、セリウム、ジルコニウム及びアルミニウムからなる群より選択される2以上の金属Aの酸化物を含有する、請求項1又は2の触媒。
【請求項4】
金属の酸化物が、イットリウム、ランタン、ネオジム、ストロンチウム及びバリウムからなる群より選択される1以上の金属Bの酸化物を更に含有する、請求項3の触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の貴金属担持触媒の製造方法であって、
金属塩及び触媒貴金属のコロイドの混合物にアルカリを加えて金属塩及び触媒貴金属のコロイドを共沈させる共沈工程;及び
共沈させた金属塩及び触媒貴金属のコロイドを焼成して上記触媒を得る焼成工程;
を含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245429(P2012−245429A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116742(P2011−116742)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】