説明

質量分析のためのエレクトロスプレー装置

【課題】高分子用の装置で、テイラー円錐の体積を大きくすることなく再現することのできるエレクトロスプレー装置を提供する。
【解決手段】エレクトロスプレー装置(108)は、本体部分(116)と、本体部分(116)から延びて、高分子材料を含む先端部分(118)と、先端部分(118)をほぼ選択的に被覆する疎水性コーティング(160)とを有する。疎水性コーティング(160)は、非導電性の材料により形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析機器に関し、とりわけ質量分析に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛋白質及び他の生体分子の分析には、さまざまな分析機器を利用することが可能である。最近になって、質量分析は、高い感度と高速処理能力で、多種多様な生体分子を取り扱うことができるので、目立つようになってきた。質量分析に用いるため、さまざまなイオン源が開発されている。これらのイオン源の多くには、噴霧によって荷電化学種を生じさせるあるタイプのメカニズムが含まれている。よく利用されるある特定タイプの技法は、エレクトロスプレー・イオン化(「ESI」)である。ESIの利点の1つは、蛋白質のような多種多様な生体分子から荷電化学種を生じさせることができるという点である。ESIのもう1つの利点は、高速液体クロマトグラフィ(「HPLC」)のような多種多様な化学分離技法に関連して容易に利用することができるという点である。例えば、ESIは、蛋白質の同定のため、HPLCに関連して用いられる場合が多い。
【0003】
一般に、ESIによって、当初は液相の試料流から気相のイオン・スプレーが生じる。従来のESI質量分析システムの場合、エレクトロスプレー装置の端部とエレクトロスプレー装置の端部に隣接して配置された電極との間に比較的高い電界が印加されている間に、試料流がエレクトロスプレー装置で吸入排出される。試料流がエレクトロスプレー装置の端部から噴射される際、試料流に表面電荷が生じ、そのため、試料流が電極の方に引き寄せられる。試料流は高電界に入ると、試料流に加わる結合された電磁的・流体力学的力がその表面張力によって相殺され、その結果、「テイラー円錐」が生じる。一般に、テイラー円錐は、エレクトロスプレー装置の端部近くに位置する底面を備え、エレクトロスプレー装置の端部からある特定の距離まで延び、それを越えて、小滴のスプレーが生じる。これらの小滴が電極に向かって移動する際、クーロン反発力及び脱溶媒によって、気相のイオン・スプレーが形成されることになる。
【0004】
テイラー円錐の特性は、一般に、試料流とエレクトロスプレー装置の端部における表面との間のアフィニティによって決まる。このアフィニティに応じて、試料流によって湿潤させることが可能な表面領域が増減し、これがさらにテイラー円錐の体積に影響を及ぼす可能性がある。体積が大きいテイラー円錐は、いくつかの欠点を示す可能性がある。すなわち、テイラー円錐の体積が大きくなると、質量分析に必要な試料流の量が増大することになり、少量で存在する蛋白質及び他の生体分子を分析する場合に、問題を生じる可能性がある。また、テイラー円錐の体積が大きくなると、内部流体循環が生じる可能性のある「死空間」が形成される可能性もある。この「死空間」内では、試料流の異なるバンドが合流し、その結果、バンド分離度が損なわれる可能性がある。さらに、テイラー円錐の体積が大きくなると、イオン化効率が低下する可能性がある。従って、以上の及びその他の理由から、質量分析の結果が、所望のレベルの正確度、再現性、及び感度を備えるように、体積の小さいテイラー円錐を再現可能に作り出すのが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、質量分析に用いられるエレクトロスプレー装置として、高分子用の装置を実施しようとする試みがなされている。こうした高分子用の装置は、多種多様な技法を利用して正確に形が作られる点で望ましい。こうした高分子用の装置を首尾よく実施するための課題の1つは、試料流と、一般にこれらの高分子装置の形成に用いられる高分子材料との間のアフィニティ(類似性または親近性)に関連する。すなわち、このアフィニティは、体積の大きいテイラー円錐の形成を促進する可能性があり、このため、上述の理由から不利になる可能性がある。そこで、本発明は、高分子用の装置で、テイラー円錐の体積を大きくすることなく再現することのできるエレクトロスプレー装置またはそのためのイオン装置、またはスプレー装置を含むシステムを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ある質量分析システムが得られる。質量分析システムには、試料流を通すように構成されたエレクトロスプレー装置を含むイオン源が含まれている。エレクトロスプレー装置には、本体部分と、本体部分から延びる先端部分が含まれている。先端部分には、高分子材料が含まれる。エレクトロスプレー装置には、先端部分を少なくとも部分的に被覆するコーティングが含まれるが、本体部分は、コーティングによる被覆をほとんど施されていない。コーティングによって疎水性表面が得られる。イオン源には、エレクトロスプレー装置に関して配置された電極も含まれており、エレクトロスプレー装置と電極間の電圧が印加されると、試料流からイオンが生じ、電極に向けて送られる。質量分析システムには、イオン源に対してイオンを検出するように配置された検出器も含まれている。
【0007】
本発明によれば、質量分析システム用のイオン源も得られる。このイオン源には、高分子先端部分を含むエレクトロスプレー装置が含まれており、高分子先端部分は、細長く、試料流を通すように構成された導管を形成している。エレクトロスプレー装置には、高分子先端部を少なくとも部分的に被覆する疎水性コーティングも含まれている。イオン源には、エレクトロスプレー装置に隣接して配置された電極も含まれている。イオン源には、さらに、エレクトロスプレー装置及び電極に電気的に接続された電源も含まれている。電源は、エレクトロスプレー装置と電極の間に電圧を印加して、試料流からイオンを生じさせるように構成されている。
【0008】
本発明によれば、さらに、質量分析システム用のエレクトロスプレー装置も得られる。エレクトロスプレー装置には、本体部分と、本体部分から延びる先端部が含まれている。先端部には、高分子材料が含まれている。このエレクトロスプレー装置には、先端部をほぼ選択的に被覆する疎水性コーティングも含まれている。
【0009】
好都合なことには、本発明の実施態様によれば、再現可能な特性を備えるようにテイラー円錐を生じさせることが可能であり、質量分析の結果が、所望のレベルの正確度、再現性、及び感度を示すようになっている。本発明の実施態様によっては、疎水性が高く、エレクトロスプレー装置に選択的に付着させられるコーティングを利用することによって、テイラー円錐の再現性を実現可能なものもある。
【0010】
本発明の他の態様及び実施態様も検討されている。以上の要約及び下記の詳細な説明は、本発明を任意の特定の実施態様に制限することを意図したものではなく、ただ単に本発明のいくつかの実施態様の説明を意図したものにすぎない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のいくつかの実施態様の性質及び目的についてより深く理解するには、添付の図面に関連してなされる、下記詳細な説明を参照されるのが望ましい。
【0012】
定義
下記の定義は、本発明の実施態様のいくつかに関連して説明される構成要素のいくつかに適用される。これらの定義については、同様に、本明細書において、さらに詳述するものとする。
【0013】
本明細書で用いられる限りにおいて、「1つの」、「ある」、及び「その」といった単数形用語には、文脈において明らかに別段の指示がない限り、複数の指示対象が含まれている。従って、例えば、ある材料への言及には、文脈において明らかに別段の指示がない限り、複数材料が含まれている可能性がある。
【0014】
本明細書で用いられる限りにおいて、「組」という用語は、1つ以上の構成要素の集合を表わしている。従って、例えば、1組の特徴には、単一特徴または複数特徴が含まれる可能性がある。ある組の構成要素は、その組のメンバと呼ぶことも可能である。ある組の構成要素は同じであることも、あるいは、異なることもあり得る。場合によっては、ある組の構成要素は、1つ以上の共通特性を共有することもあり得る。
【0015】
本明細書において用いられる限りにおいて、「親水性の」及び「親水性」という用語は、水に関するアフィニティを表わしており、一方、「疎水性の」及び「疎水性」という用語は、水に関するアフィニティの欠如を表わしている。疎水性材料は、一般に、水が付着する傾向がほとんどまたは全くない材料に相当する。従って、疎水性材料上の水は、それ自体、玉のようになりがちである。疎水性材料は、非湿潤材料と呼ばれる場合もある。ある材料の疎水性の基準の1つは、材料の表面と、その表面との接触点において水滴に接する線との間の接触角である。こうした基準によれば、接触角が90°を超えると、材料は、一般に、疎水性であるとみなされる。材料の疎水性のもう1つの基準は、ミリニュートン/メートル(「mN/m」)で表わされる材料の表面エネルギである。こうした基準によれば、表面エネルギが20mN/m未満の場合、その材料は、一般に、疎水性であるとみなされる。
【0016】
本明細書において用いられる限りにおいて、「導電性の」及び「導電性」という用語は、電流を輸送する能力を表わしており、一方、「非導電性の」及び「非導電性」という用語は、電流を輸送する能力の欠如を表わしている。導電性材料は、一般に、電流の流れに対する抵抗をほとんどまたは全く示さない材料に相当し、一方、非導電性材料は、一般に、電流が流れる傾向をほとんどまたは全く示さない材料に相当する。ある材料の導電性(または非導電性)の基準の1つは、オーム・センチメートル(「Ω・cm」)で表わされるその抵抗率である。一般に、その抵抗率が0.001Ω・cm未満であれば、その材料は、導電性であるとみなされ、一方、その抵抗率が0.001Ω・cmを超えると、その材料は、非導電性であるとみなされる。ある材料の抵抗率は、温度と共に変動する場合もあり得る。従って、別段の指定のない限り、ある材料の抵抗率は、室温で定義される。
【0017】
本明細書において用いられる限りにおいて、「不活性な」及び「不活性」という用語は、相互作用の欠如を表わしている。不活性材料は、一般に、本明細書において解説のエレクトロスプレー装置の典型的な動作条件のような、典型的な動作条件下において試料流と相互作用する傾向をほとんどまたは全く示さない材料に相当する。一般に、不活性材料は、イオン化プロセスに従って試料流から生じる小滴スプレーまたはイオン・スプレーと相互作用する傾向も、ほとんどまたは全く示さない。本明細書において、ある材料が不活性であると称される場合があるが、その材料は、特定の条件下において試料流と相互作用する、検出可能な傾向を多少とも示す可能性があるものと考えられる。材料の不活性の基準は、その化学反応性である。一般に、試料流との化学反応性をほとんどまたは全く示さない場合、その材料は、不活性であるとみなされる。
【0018】
本明細書において用いられる限りにおいて、「頑強な」及び「頑強性」という用語は、機械的硬さまたは強さを表わしている。頑強な材料は、一般に、本明細書に解説のエレクトロスプレー装置の典型的な動作条件のような典型的な動作条件下において、壊れる傾向をほとんどまたは全く示さない材料に相当する。ある材料の頑強性の基準の1つは、キログラム/ミリメートル(「kg/mm」)で表わされるビッカース微小硬さである。一般に、そのビッカース微小硬さが1,000kg/mmを超えると、その材料は頑強であるとみなされる。
【0019】
本明細書において用いられる限りにおいて、「イオン化効率」は、イオン化プロセスで形成されるイオン数とイオン化プロセスで用いられる電子またはフォトン数の比を表わしている。
【0020】
本明細書において用いられる限りにおいて、「一体化された」、「一体の」、及び「一体化して」といった用語は、ある物体の非個別性を表わしている。従って、例えば、本体部分と、本体部分と一体化して形成された先端部分を含むエレクトロスプレー装置は、本体部分と先端部分がモノリシック装置として形成されたエレクトロスプレー装置の実施例を表わすことが可能である。ある物体の一体化部分は、一般に、その物体の残りの部分と界面を形成しないので、その物体に取り付けられるものと異なる可能性がある。
【0021】
本明細書において用いられる限りにおいて、「マイクロデバイス」という用語は、少なくとも1つの寸法がミクロンまたはサブミクロン範囲内の、1組の機能部分を含むデバイスを表わしている。マイクロデバイスは、質量分析、電気泳動、クロマトグラフィ、化学スクリーニング及び診断、生化学スクリーニング及び診断、化学合成、生化学合成等の多種多様な用途に利用可能である。例えば、マイクロデバイスは、エレクトロスプレー装置として利用することが可能であり、入口ポート、出口ポート、導管、電極等のような1組の機能部分を含むことが可能である。マイクロデバイスの機能部分は、一般に、マイクロデバイスの特定の用途に応じて導入される。例えば、エレクトロスプレーとして利用される場合、マイクロデバイスに、断面の直径が、例えば約5マイクロメートル(「μm」)〜約75μmといった約1μmから約200μmで、長さが約0.1cm〜約100cmの導管を含むことが可能である。いくつかの用途では、マイクロデバイスに、それぞれ、例えば約10nl(ナノリットル)〜約200nlといった、約1nl〜約1,000nlの容積を有することが可能な1組の試料調製領域または反応ゾーンを含むことが可能である。マイクロデバイスは、レーザ・アブレーション、光化学エッチング、プラズマ・エッチング、化学エッチング、電気化学エッチング、イオン・エッチング、電子ビーム・エッチング、フォトレジスト・マスキング、ドライ・エッチング、ウェット・エッチング、成形、エンボス加工等のような多種多様な技法を用いて形成することが可能である。レーザ・アブレーションは、寸法的に正確なマイクロデバイスの整形を可能にするので、とりわけ望ましい技法である。レーザ・アブレーションには、一般に、固体レーザ、あるいは、F2、ArF、KrCl、KrF、またはXeClのエキサイマ・レーザのような高エネルギ・レーザの利用が必要とされる。場合によっては、レーザ・アブレーションに、約100ミリジュール/平方センチメートルを超えるパルス・エネルギと、約1マイクロ秒未満のパルス持続時間の利用が必要になることもある。光化学エッチングは、マイクロデバイスの形成にとりわけ望ましいもう1つの技法になる可能性がある。光化学エッチングの場合、物体を化学エッチング液に浸して、レーザからのような光エネルギを物体の選択部分に当て、それらの部分を除去することによって、物体の寸法的に正確な整形を実施することが可能になる。
【0022】
まず、図1に注意を向けると、本発明の実施態様の1つに従って実施される質量分析システム100が例示されている。質量分析システム100には、イオンを生じる働きをするイオン源102が含まれている。例示の実施態様の場合、イオン源102は、ESIを利用してイオンを生じる働きをする。しかし、他の任意のイオン化プロセスを利用して、イオンを生じるイオン源102を導入できるように考慮されている。図1に例示のように、質量分析システム100には、イオン源102に対して、イオンを受けるように配置された検出器106も含まれている。検出器106は、質量及び電荷の関数としてイオンを検出する働きをする。
【0023】
例示の実施態様の場合、イオン源102には、エレクトロスプレー装置108と、エレクトロスプレー装置108に隣接して配置された電極110が含まれている。イオン源102には、エレクトロスプレー装置108及び電極110に電気的に接続された電源112も含まれている。電源112は、エレクトロスプレー装置108及び電極110に電圧を印加し、これによって、エレクトロスプレー装置108と電極110との間に電界を生じさせる働きをする。図1に例示のように、イオン源102には、その内部に、エレクトロスプレー装置108、電極110、及び電源112が配置される、内部チャンバ104を形成するハウジング114も含まれている。
【0024】
図1に例示のように、エレクトロスプレー装置108は、マイクロデバイスとして実施される。すなわち、エレクトロスプレー装置108には、本体部分116と、細長く、エレクトロスプレー・エミッタの働きをする先端部分118が含まれている。先端部分118は、本体部分116から延びており、体積の小さいテイラー円錐の形成を促進するのに役立つ、比較的小さい断面積を有している。先端部分118は、円形、三角形、四角形、矩形等のような、多種多様な断面形状の任意の1つを有することが可能である。例示の実施態様の場合、先端部分118は、本体部分116と一体化して形成される。こうした実施例は、先端部分118と本体部分116の間の界面形成を回避するので望ましい可能性がある。この界面は、望ましくない混合容積を生じる可能性があり、接着剤を用いて先端部分118を本体部分116に取り付けると、汚染源となる可能性があるのは明らかである。しかし、本発明の他の実施態様に対しては、先端部分118を本体部分116に取り付けることができるように考慮されている。
【0025】
例示の実施態様の場合、エレクトロスプレー装置108には、1組の機能部分、すなわち、入口ポート150、出口ポート152、導管120、及び電極154が含まれている。図1には例示されていないが、エレクトロスプレー装置108には、試料調整領域または反応ゾーンのような1つ以上の追加機能部分を含むことが可能なように考慮されている。図1に例示のように、本体部分116には、電極110に対して対電極の働きをする電極154が含まれている。本体部分116には、試料流122がエレクトロスプレー装置108に流入する入口ポート150が形成されている。試料流122には、質量分析システム100によって分析される分析物が含まれている。例えば、試料流122には、水のような適合する溶媒中に分散した生体分子を含むことが可能である。先端部分118に関連して、本体部分116には、試料流122が通る導管120も形成されている。図1に例示のように、先端部分118には、試料流122がエレクトロスプレー装置108を出る出口ポート152が形成されている。先端部分118には、1組の側面156と、出口ポート152に隣接して配置された末端面158が含まれている。1組の側面156と末端面158は、ほぼ平面状に例示されているが、これらの表面の1つ以上は、湾曲させることができるように考慮されている。
【0026】
一般に、エレクトロスプレー装置108は、高分子材料、セラミック、ガラス、金属、及びその複合材または積層品といった、多種多様な材料の任意の1つを用いて形成することが可能である。例示の実施態様の場合、エレクトロスプレー装置108の少なくとも先端部分118は、多種多様な技法の任意の1つを利用することによって先端部分118の正確な整形を可能にする、高分子材料を用いて形成される。本体部分116は、同じ高分子材料または異なる高分子材料を用いて形成することができるように考慮されている。高分子材料には、ホモポリマー、コポリマー、天然ポリマー、合成ポリマー、架橋ポリマー、非架橋ポリマー、及びそれらの混合物を含むことが可能である。高分子材料の特定の例には、ポリイミド、ポリエーテル・エーテル・ケトンのようなポリケトン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリフルオロカーボン、ポリスチレン、ポリ(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、アクリラート、及びポリメチル・メタクリレート、置換または非置換ポリオレフィンのようなアクリル酸ポリマー、及びそれらの混合物またはコポリマーが含まれる。ポリイミド及びポリケトンは、耐生物付着性のため、とりわけ望ましい可能性がある。ポリイミドは、Kapton(登録商標:米国のデラウェア州ウィルミントンのデュポン社による)及びUpilex(登録商標:日本国の宇部興産社による)の商標名で市販されている。
【0027】
例示の実際態様の場合、エレクトロスプレー装置108を負バイアスの電極110の近くに配置することによって、エレクトロスプレー装置108の先端部分118に電界勾配が生じる。試料流122が出口ポート152を出る際、変位電束密度のジャンプによって、試料流122の表面電荷が生じ、試料流122が電極110に引き寄せられる。これに関連して、試料流122に加わる結合された電磁的・流体力学的力がその表面張力によって相殺され、その結果、テイラー円錐124が生じる。図1に示すように、テイラー円錐124には、先端部分118の末端面158近くに位置する底面126が含まれている。テイラー円錐124には、フィラメント130内に延びる先端128も含まれている。フィラメント130はさらに電極110に向かって延びているので、表面張力、クーロン反発力、及び小さい摂動の組み合わせ効果によって、フィラメント130は崩壊し、小滴スプレー132を生じることになる。これらの小滴132が電極110に向かうと、クーロン反発力及び脱溶媒によって、イオン・スプレー134が生じることになる。
【0028】
図1に例示のように、電極110には、その中心近くにアパーチャ136が形成されている。イオン134は、アパーチャ136を介して電極110を通過し、最終的には、検出器106に到達する。例示の実施態様の場合、窒素ガスのような乾燥ガス138が、イオン134と逆方向に流れてイオン化効率を高め、望ましくない材料がアパーチャ136に導入されるのを制限する。例示の実施態様の場合、電極110がエレクトロスプレー装置108に対して縦方向に配置されている。換言すれば、導管120の中心軸140とアパーチャ136の中心軸142によって形成される角度は、ほぼ0°になる。しかし、この角度は、約75°〜約105°といった、0°とは異なる角度に調整できるように考慮されている。例えば、この角度がほぼ90°になるように、エレクトロスプレー装置108に対して電極110を直交して配置することができるように考慮されている。
【0029】
質量分析システム100の動作中、テイラー円錐124の特性が、生じるイオン134の特性に影響する可能性があり、これによって、さらに、質量分析の結果が影響を受ける可能性がある。従って、質量分析の結果が、所望のレベルの正確度、再現性、及び感度を有するように、再現可能な特性を備えたテイラー円錐が得られるようにすることが望ましい。例示の実施態様の場合、エレクトロスプレー装置108の先端部分118の疎水性を制御することにより、再現可能な特性を備えたテイラー円錐が得られることが可能になる。特に、1組の側面156を十分な疎水性にすると、テイラー円錐124の底面126が1組の側面156に沿って広がらないように抑止することが可能になる。このようにして、体積の小さいテイラー円錐124が再現可能に得られることが可能になる。
【0030】
図1に例示のように、エレクトロスプレー装置108には、基板の働きをして、先端部分118を少なくとも部分的に被覆する疎水性コーティング160が含まれている。一般に、疎水性コーティング160は、多種多様な技法の任意の1つを利用して形成可能である。疎水性コーティング160の形成には、プラズマ蒸着がとりわけ望ましい技法であり得ることが明らかになった。一般に、プラズマ蒸着は、プラズマを生じるために、1組の反応ガスに加熱または電気的破壊を施すことが必要であり、これを基板上に付着させて、例えば高分子フィルムの形態のコーティングを形成する。利用可能な反応ガスの例には、C38のような過フッ化炭化水素、CH4のような炭化水素、崩壊すると、(CF32CO及びヘキサメチル・ジシロキサン(「HMDSO」)のような過フッ化炭化水素または炭化水素を生じるガス、SF6のようなフッ素を含むガス、及び、それらの混合物が含まれる。1組の反応ガス及び他の処理条件を適切に選択することによって、疎水性コーティング160は、例えば、疎水性、不活性、頑強性、非導電性等に関していくつかの望ましい特性を示すことが可能である。
【0031】
すなわち、疎水性コーティング160は疎水性が高いので、体積の小さいテイラー円錐が再現可能に得られることが可能になる。すなわち、疎水性コーティング160によって、約100°を超えるか、約105°を超えるか、または約110°を超えるといった、水に対して90°を超える接触角を示す疎水性表面を得ることが可能になる。代わりに、またはそれに関連して、疎水性表面は、約15mN/m未満、約10mN/m未満、または約5mN/m未満といった、20mN/m未満の表面エネルギを示すことが可能である。処理条件を適切に選択することによって、疎水性の程度は、容易に所望のレベルに調整することが可能である。また、疎水性コーティング160は、極めて不活性にすることが可能であり、従って、試料流122を含む分析物と相互作用する傾向をほとんどまたは全く示さない可能性がある。さらに、疎水性コーティング160は、極めて頑強にすることができる。従って、疎水性コーティング160は、エレクトロスプレー装置108の典型的な動作条件下において破砕する傾向をほとんどまたは全く示さず、そのため、エレクトロスプレー装置108の動作寿命を延長することになる。また、疎水性コーティング160は、非導電性とすることが可能であり、約0.01Ω・cmを超えるか、約0.1Ω・cmを超えるか、または、約1Ω・cmを超えるといったように、0.001Ω・cmを超える抵抗率を有することが可能である。実施例によっては、疎水性コーティング160の抵抗率が高くなると、イオン化プロセスに悪影響を及ぼす可能性のある放電の回避に役立つ可能性がある。しかし、疎水性コーティング160は、導電性にすることができるようにも考慮されている。処理条件を適切に考慮することによって、疎水性コーティング160の抵抗率は、所望のレベルに容易に調整することが可能になる。
【0032】
プラズマ蒸着のもう1つの利点は、この技法によれば、基板のどの表面にコーティングを施すべきで、基板のどの表面は非コーティング状態のままにすべきかについて正確な制御が可能になるという点である。こうした制御は、例えば、マスク、またはプラズマ・ツール内における基板の適切な位置決めを利用して、実現可能である。図1に例示のように、疎水性コーティング160によって、先端部分118はほぼ選択的に被覆されるが、本体部分116はほとんど被覆されない。すなわち、疎水性コーティング160は、1組の側面156をほぼ選択的に被覆するように付着させられる。こうしたやり方により、電極154のようなエレクトロスプレー装置108の残りの部分の動作に悪影響を及ぼさないようにして、1組の側面156の疎水性を制御することが可能になる。図1には、疎水性コーティング160は1組の側面156を被覆するように例示されているが、疎水性コーティング160は、末端面158を少なくとも部分的に被覆できるようにも考慮されている。こうした実施例は、テイラー円錐124の底面126が末端面158に沿って広がらないように抑止する働きが可能である。このようにして、さらに体積の小さいテイラー円錐124が、再現可能に得られることが可能になる。
【0033】
プラズマ蒸着は特に望ましい技法であり得るが、他の技法を利用して疎水性コーティング160を形成できるようにも考慮されている。例えば、疎水性材料が先端部分118に機械的に付着するように、疎水性材料を先端部分118に噴霧することも可能である。もう1つの例として、疎水性材料を適合する溶媒内に分散させて、「塗料」を生じさせることが可能であり、この塗料を先端部分118に塗布することが可能である。場合によっては、溶媒が比較的不活性である可能性もある。しかし、溶媒によって、疎水性材料と先端部分118との化学結合を促進できるようにも考慮されている。加熱により、溶媒を蒸発させるか、化学結合を促進することが可能である。もう1つの例として、疎水性コーティング160は、塗りつけコーティングまたは浸漬コーティングとして形成することが可能である。
【0034】
通常の当該技術者に対して本発明の実施態様のいくつかを例示し解説するために、それらの実施態様の特定の様相が下記の実施例により明らかにされる。これらの例は、ただ単に、本発明のいくつかの実施態様を理解し実施する上において役立つ特定の方法を提示するものでしかないので、本発明を制限するものと解釈すべきではない。
【実施例1】
【0035】
ポリイミド表面が、平行板プラズマ・ツールを利用して、過フッ化炭化水素プラズマ(C38)によって処理された。処理されたポリイミド表面及び処理されなかったポリイミド表面の界面化学は、過フッ化炭化水素プラズマ処理後に、XPSを利用して測定され、図2に例示のように、異なっていることが分った。XPSデータが示すように、処理済ポリイミド表面と未処理のポリイミド表面には異なる化学結合状態が生じた。処理済ポリイミド表面には、さまざまな過フッ化炭化水素種(例えば、287.2eVのCCFのC、289.7eVのCFのC、291.8eVのCF2のC、及び293.7eVのCF3のC)が含まれており、一方、未処理のポリイミド表面には、ポリイミドの芳香環(例えば、285eVのC=C)及びカルボニル(例えば、288.6eVのC=O)が含まれていた。処理済ポリイミド表面について観測された実質的なCF2のピークは、結果生じるコーティングがテフロン(登録商標)と同様の特性を備えることを示唆している。過フッ化炭化水素プラズマ処理後における、処理済ポリイミド表面に関する接触角測定結果は、接触角が110°であることを示した。
【実施例2】
【0036】
先端部分の端部からの数ミリメートルを除いて、エレクトロスプレー装置にマスキングを施して、エレクトロスプレー装置の高分子先端部分に疎水性コーティングを付着させた。マスキングを施したエレクトロスプレー装置をプラズマ・ツール内に配置し、適度な圧力及び電力で、数分の期間にわたって、C38プラズマを点火した。特定の例として、15sccmのC38、500ミリトルの気圧、及び100ワットの電力を利用して、疎水性コーティングを付着させた。疎水性コーティングの付着後、極めて安定したエレクトロスプレーの挙動が観測された。さらに、安定したスプレーの開始電位が低下した。
【0037】
認識しておくべきは、上述の本発明の実施態様は、一例として提示されたものであって、本発明には他のさまざまな実施態様が包含されるという点である。例えば、本明細書に解説のエレクトロスプレー装置は、イオン・スプレーを調整する制御機構と連係して有利に用いることができるように考慮されている。こうした制御機構の1つの例が、その開示が参考までに本明細書において全体として援用されている、2004年7月23日出願の、同時係属で、共同所有の米国特許出願公開第10/896,981号明細書(Sobek著、「Ion Source Frequency Feedback Device and Methods」)に記載のフィードバック・コントローラである。
【0038】
通常の当該技術者には、本明細書に解説のエレクトロスプレー装置を開発する上において、追加説明の必要はないが、その開示が本明細書で参考のためにそのまま援用される、以下の参考文献を検討することによって有用な情報が得られることもある。
Taylor G.I.、「Disintegration of Water Drops in an Electric Field」、Proceedings of the Royal Society of London、1964年、第A280号、p.383−397、
Bruins A.P.、「Mechanistic Aspects of Electrospray Ionization」、Journal of Chromatography A、1998年、第794巻、p.345−347、
Juraschek他、「Pulsation Phenomena During Electrospray Ionization」、International Journal of Mass Spectrometry、1998年、第177巻、p.1−15、
Cech他、「Practical Implications of Some Recent Studies in Electrospray Ionization Fudamentals」、Mass Spectrometry Reviews、2001年、第20巻、p.362−387、及び
Lee他、「Taylor Cone Stability and ESI Performance for LC−MS at Low Flow Rates」、Proceedings of the American Society of Mass Spectrometry、2002年。
【0039】
通常の当該技術者であれば、その開示が、本明細書において、参考のために全体として援用される以下の参考文献を検討することによって、やはり、プラズマ蒸着に関して何らかの有用な情報が得られることもある。
Inagaki N.、「Plasma Surface Modification and Plasma Polymerization」、第2章2.4節、第4章4.7節、第5章、第6章6.6節、
Lancaster:Technomic、1996年、及びD’Agostino R、Favia P.、及びFracassi F.編、「Plasma Processing of Polymers」、Boston:Kluwer Academic、1997年、p.28、p.129−146、及びp.221−230。
【0040】
上述の実施形態に即して本発明を説明すると、本発明は、本体部分(116)と、該本体部分(116)から延びて、高分子材料を含む先端部分(118)と、該先端部分(118)をほぼ選択的に被覆する疎水性コーティング(160)とを有することを特徴とする質量分析システム(100)のためのエレクトロスプレー装置(108)を提供する。
【0041】
好ましくは、前記先端部分(118)は、前記本体部分(116)と一体化して形成される。
【0042】
好ましくは、高分子材料は、ポリイミド及びポリケトンから構成されるグループから選択される。
【0043】
好ましくは、前記疎水性コーティング(160)は、非導電性とされる。
【0044】
好ましくは、前記疎水性コーティング(160)は、0.001Ω・cmを超える抵抗率を有する。
【0045】
好ましくは、前記抵抗率は、0.01Ω・cmを超える。
【0046】
好ましくは、前記疎水性コーティング(160)によって疎水性表面が得られ、その疎水性表面は、水に対して90°を超える接触角を示す。
【0047】
好ましくは、接触角は、105°を超える。
【0048】
好ましくは、先端部分(118)は、疎水性コーティング(160)によって、少なくとも部分的に被覆されるが、本体部分(116)は、ほとんど被覆されない。
【0049】
好ましくは、疎水性コーティング(160)は、過フッ化炭化水素、炭化水素、崩壊すると炭化水素を生じるガス、崩壊すると過フッ化炭化水素を生じるガス、フッ素を含むガス、及びそれらの混合物から選択される反応ガスのプラズマ蒸着によって形成される。
【0050】
さらに、本発明は、試料流(122)を通すように構成された細長の導管(120)を形成する高分子先端部分(118)、及び高分子先端部分(118)を少なくとも部分的に被覆する疎水性コーティング(160)を具備するエレクトロスプレー装置(108)と、エレクトロスプレー装置(108)に隣接して配置された電極(110)と、エレクトロスプレー装置(108)及び電極(110)に電気的に接続されて、エレクトロスプレー装置(108)と電極(110)の間に電圧を印加し、試料流(122)からイオンが生じるように構成された電源(112)とを備えることを特徴とする質量分析システム(100)のためのイオン源(102)を提供する。
【0051】
好ましくは、エレクトロスプレー装置(108)に、さらに、本体部分(116)が含まれ、高分子先端部分(118)は、本体部分(116)から延びる。
【0052】
好ましくは、疎水性コーティング(160)によって、高分子先端部分(118)は、少なくとも部分的に被覆されるが、本体部分(116)は、ほとんど被覆されない。
【0053】
好ましくは、高分子先端部分(118)に、側面(156)が含まれ、その側面(156)は、疎水性コーティング(160)によって、少なくとも部分的に被覆される。
【0054】
好ましくは、高分子先端部分(118)に、末端面(158)が含まれ、その末端面(158)は、疎水性コーティング(160)によって、少なくとも部分的に被覆される。
【0055】
好ましくは、疎水性コーティング(160)によって、疎水性表面が得られ、その疎水性表面は、20mN/m未満の表面エネルギを有する。
【0056】
好ましくは、表面エネルギは、15mN/m未満とされる。
【0057】
好ましくは、疎水性コーティング(160)は、過フッ化炭化水素、炭化水素、崩壊すると炭化水素を生じるガス、崩壊すると過フッ化炭化水素を生じるガス、フッ素を含むガス、及びそれらの混合物から選択される反応ガスのプラズマ蒸着によって形成される。
【0058】
さらに本発明は、本体部分(116)、本体部分(116)から延びて高分子材料を含む先端部分(118)、及び先端部分(118)を少なくとも部分的に被覆するが、本体部分(116)はほとんど被覆しない、疎水性表面が得られるようにする、コーティング(160)を具備する、試料流(122)を通すように構成されたエレクトロスプレー装置(108)、及びエレクトロスプレー装置(108)に対して、エレクトロスプレー装置(108)とそれとの間に電圧が印加されると、試料流(122)からイオンが生じて、それに向けて送られるように配置されている、電極(110)を有する、イオン源(102)と、イオン源(102)に対して、前記イオンを検出するように配置されている検出器(106)とを備えることを特徴とする質量分析システム(100)を提供する。
【0059】
好ましくは、コーティング(160)は、非導電性で、0.001Ω・cmを超える抵抗率を有している。
【0060】
好ましくは、コーティング(160)は、過フッ化炭化水素、炭化水素、崩壊すると炭化水素を生じるガス、崩壊すると過フッ化炭化水素を生じるガス、フッ素を含むガス、及び、それらの混合物から選択される反応ガスのプラズマ蒸着によって形成される。
【0061】
本発明については、その特定の実施態様に関連して説明してきたが、当該技術者には当然明らかなように、添付の請求項によって定義される本発明の真の精神及び範囲を逸脱することなく、さまざまな変更を加えることもできるし、同等物に置き換えることも可能である。さらに、ある特定の状況、材料、組成物、方法、プロセス操作を本発明の目的、精神、及び範囲に適応させるため、多くの修正を加えることも可能である。こうした全ての修正は、添付の請求の範囲内に含まれることを意図したものである。すなわち、本明細書に開示の方法は、特定の順番に実施される特定の操作に関連して解説されたが、もちろん、これらの操作を組み合わせ、細分し、あるいは、再順序付けして、本発明の教示を逸脱することなく、同等の方法を形成することが可能である。従って、本明細書において特に指示のない限り、操作の順序及びグループ化は本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施態様の1つに従って実施される質量分析システムを例示した図である。
【図2】本発明の実施態様の1つによる、処理を施さない場合、及び過フッ化炭化水素プラズマ処理を施した場合の、ポリイミド表面に関するX線光電子分光法(「XPS」)データを例示した図である。
【符号の説明】
【0063】
100 質量分析システム
102 イオン源
108 エレクトロスプレー装置
110 電極
112 電源
116 本体部分
118 先端部分
120 導管
122 試料流
156 先端部分の側面
158 先端部分の末端面
160 疎水性コーティング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部分と、
該本体部分から延びて、高分子材料を含む先端部分と、
該先端部分をほぼ選択的に被覆する疎水性コーティングとを有することを特徴とする質量分析システムのためのエレクトロスプレー装置。
【請求項2】
前記先端部分は、前記本体部分と一体化して形成されることを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項3】
前記高分子材料は、ポリイミド及びポリケトンから構成されるグループから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項4】
前記疎水性コーティングは、非導電性であることを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項5】
前記疎水性コーティングは、0.001Ω・cmを超える抵抗率を有していることを特徴とする、請求項4に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項6】
前記抵抗率は、0.01Ω・cmを超えることを特徴とする、請求項5に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項7】
前記疎水性コーティングによって疎水性表面が得られることと、該疎水性表面は、水に対して90°を超える接触角を示すことを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項8】
前記接触角は、105°を超えることを特徴とする、請求項7に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項9】
前記疎水性コーティングによって、前記先端部分は、少なくとも部分的に被覆されるが、前記本体部分は、ほとんど被覆されないことを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項10】
前記疎水性コーティングは、過フッ化炭化水素、炭化水素、崩壊すると炭化水素を生じるガス、崩壊すると過フッ化炭化水素を生じるガス、フッ素を含むガス、及びそれらの混合物から選択される反応ガスのプラズマ蒸着によって形成されることを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項11】
試料流を通すように構成された細長の導管を形成する高分子先端部分、及び該高分子先端部分を少なくとも部分的に被覆する疎水性コーティングを具備するエレクトロスプレー装置と、
前記エレクトロスプレー装置に隣接して配置された電極と、
前記エレクトロスプレー装置及び前記電極に電気的に接続されて、前記エレクトロスプレー装置と前記電極の間に電圧を印加し、前記試料流からイオンが生じるように構成された電源とを備えることを特徴とする質量分析システムのためのイオン源。
【請求項12】
前記エレクトロスプレー装置に、さらに、本体部分が含まれることと、前記高分子先端部分は、前記本体部分から延びることを特徴とする、請求項11に記載のイオン源。
【請求項13】
前記高分子先端部分は、前記疎水性コーティングによって、少なくとも部分的に被覆されるが、前記本体部分は、ほとんど被覆されないことを特徴とする、請求項12に記載のイオン源。
【請求項14】
前記高分子先端部分に、側面が含まれることと、前記疎水性コーティングによって、前記側面は、少なくとも部分的に被覆されることを特徴とする、請求項11に記載のイオン源。
【請求項15】
前記高分子先端部分に、末端面が含まれることと、前記疎水性コーティングによって、前記末端面は、少なくとも部分的に被覆されることを特徴とする、請求項11に記載のイオン源。
【請求項16】
前記疎水性コーティングによって、疎水性表面が得られることと、該疎水性表面は、20mN/m未満の表面エネルギを有することを特徴とする、請求項11に記載のイオン源。
【請求項17】
前記表面エネルギは、15mN/m未満であることを特徴とする、請求項15に記載のイオン源。
【請求項18】
前記疎水性コーティングは、過フッ化炭化水素、炭化水素、崩壊すると炭化水素を生じるガス、崩壊すると過フッ化炭化水素を生じるガス、フッ素を含むガス、及びそれらの混合物から選択される反応ガスのプラズマ蒸着によって形成されることを特徴とする、請求項11に記載のイオン源。
【請求項19】
本体部分、該本体部分から延びて高分子材料を含む先端部分、及び該先端部分を少なくとも部分的に被覆するが、前記本体部分はほとんど被覆しない、疎水性表面が得られるようにする、コーティングを具備する、試料流を通すように構成されたエレクトロスプレー装置、及び
該エレクトロスプレー装置に対して、該エレクトロスプレー装置とそれとの間に電圧が印加されると、前記試料流からイオンが生じて、それに向けて送られるように配置されている、電極を有する、
イオン源と、
該イオン源に対して、前記イオンを検出するように配置されている検出器とを備えることを特徴とする質量分析システム。
【請求項20】
前記コーティングは、非導電性で、0.001Ω・cmを超える抵抗率を有していることを特徴とする、請求項19に記載の質量分析システム。
【請求項21】
前記コーティングは、過フッ化炭化水素、炭化水素、崩壊すると炭化水素を生じるガス、崩壊すると過フッ化炭化水素を生じるガス、フッ素を含むガス、及び、それらの混合物から選択される反応ガスのプラズマ蒸着によって形成されることを特徴とする、請求項19に記載の質量分析システム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−134877(P2006−134877A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311205(P2005−311205)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】