説明

質量分析計

2つのモードの間で質量分析器への電源の切換えを行なう方法が提供されている。第1の所定の持続時間の間動作させられる第1の動作モードにおいて、質量分析器に結合された第1の電源が第1の非ゼロ電位を生成し、その一方で、質量分析器から切断された第2の電源が第2の非ゼロ電位を生成する。第2の所定の持続時間の間動作させられる第2の動作モードでは、第2の電位は質量分析器に結合され、その一方で、質量分析器から切断された第1の電源は第1の電位を生成する。これらの所定の持続時間は、いかなる場合でも、第1の電位および第2の電位のうちの一方のみが質量分析器に結合され、かつ第1および第2の動作モードが既定の長さの時間内で少なくとも一回実施されるように選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正荷電イオンおよび負荷電イオンの両方の精密な質量分析を実施するための質量分析計およびこのような質量分析計(mass spectrometer)の質量分析器(mass analyzer)に対して電位を提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密な質量測定を提供する多くの質量分析器は、高圧電源により生成される静電場を使用している。一部の利用分野例えば大気圧でのイオン化を伴う液体クロマトグラフィ質量分析法(LC/MS)においては、分析のための粒子のイオン化効率は、異なる極性において最適であり得る。このような場合、全てのイオンを分析するには質量分析器の静電場の極性を切換える必要がある。精密な質量分析のためには、静電場の安定性を最大にすることが望ましい。
【0003】
一部の既存の技術は、同じ極性をもつ1つ以上の電源を使用して正および負の両方の電位を提供する。このとき極性の切換えは、高圧網(高電圧ネットワーク)全体の電源を遮断し、継電器を切換えて電源出力の極性を反転させ、高圧網の電源を再投入することにより達成可能である。パルサーの配線(パルスについてのワイヤリング)またはトリガーには同様に調整が必要であり得る。その上、異なる極性の間で、電圧調節のために異なるフィードバック抵抗器連鎖(抵抗器が複数つながれたチェーン)が使用されるかもしれない。ひとたび電源が投入された時点でのネットワーク全体の加熱および安定化には何時間もかかる可能性がある。この時間中、静電場を生成するために提供される電位が不安定になり得る場合、質量分析器の精度はこれらの理由から低くなる。国際公開第2004/107388号パンフレット(特許文献1)および国際公開第2008/081334号パンフレット(特許文献2)も同様に、安定した精密な電位を必要とする質量分析器内へのイオンの入射のためのスキームを示している。
【0004】
改良された切換え速度を有する高圧電源が国際公開第2007/029327号パンフレット内に記載されている。これは、交換ダイノード(変換用の電極群の電極であるダイオード)への電力供給のために設計されている。2つの電源が用いられ、互いに反対の極性をもつ電圧を提供する。電源出力の極性は、望まれない極性を提供する電源を遮断しもう一方の電源の出力を所望のレベルで調節することによって変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/107388号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/081334号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
この背景技術とは対照的に、本発明は、質量分析器に対する電源の第1のモードと第2のモードの間での切換え方法において、第1の動作モードで、第2の電源が第2の非ゼロ電位を生成するが質量分析器からは切断されている一方で、第1の電源により生成された第1の非ゼロ電位を質量分析器に結合させるステップと;第2の動作モードで、第1の電源が第1の電位を生成するが質量分析器からは切断されている一方で、第2の電源により生成された第2の非ゼロ電位を質量分析器に結合させるステップと;第1の所定の持続時間の間、第1の動作モードで動作するステップと;第2の所定の持続時間の間、第2の動作モードで動作するステップと;を含む方法であって、第1の所定の持続時間および第2の所定の持続時間は、いかなる場合でも第1の電位および第2の電位の一方のみが質量分析器に結合されるような形で、および第1の動作モードおよび第2の動作モードで動作するステップが既定の長さの時間内で少なくとも1回実施されるような形で選択されている、切換え方法を提供している。
【0007】
2つの連続的に動作する電源を使用するということは、電源が同時に接続されることは決してないという事実にも関わらず、各電源からの電位が連続的かつ直ちに利用可能であることを意味する。これにより、別の電位を生成するために電源を投入する必要がある場合の切換え遅延の問題が軽減される。
【0008】
しかしながら、電源を過度に長時間アイドル状態に保った場合、電源の安定性は劣化するかもしれない。これに関連して「アイドル状態」とは、電源が非ゼロ電位を生成するが負荷から切断されておりそのため事実上ゼロ電流を供給するような状態を意味する。第1の電源と第2の電源の間で質量分析器を切換えて両方の電源が既定の長さの時間にわたり質量分析器に接続されているようにすることで、第1の電源により提供される平均電流および第2の電源により提供される平均電流は、既定の非ゼロレベル以上に維持される。こうして、両方の電源の安定性ひいては糖度が改善される。この切換えは質量分析器の分析上の要件とは無関係に実施される。
【0009】
電源に対し提示されるべき負荷のインピーダンスが電源のインピーダンスに整合されていることが非常に望ましい。質量分析のために使用されていない電源を質量分析器に規則的に結合することにより、有利にも電源により生成された電位の安定性がこれによって維持される。
【0010】
こうして、電源は両方共精密な出力を供給でき、このため2つの高精度の電位が電源間の切換えのために直ちに利用可能となる。これらの利点は、高い精度と共に有利な再充電電流が両方の電位のために必要とされる場合に、特に望ましい。
【0011】
好ましくは、第1の電位の極性は第2の電位の極性と反対である。したがって2つの精密な電位を正荷電および負荷電の両方の粒子の分析に使用することができる。任意には、第1の非ゼロ電位は、第2の非ゼロ電位と同規模である。
【0012】
好ましい実施形態においては、第2の所定の持続時間の長さは第1の所定の持続時間の長さより短い。最も好ましくは、第1の所定の持続時間の長さは第2の所定の持続時間の長さと実質的に等しい。このようにして、2つの電源により引き出される平均電流は類似したものである。
【0013】
有利には、本方法にはさらに、第1の所定の持続時間中、質量分析器において荷電粒子を受取るステップが含まれる。好ましくは、本方法には、第1の電位を用いて質量分析器内で電場を生成し、こうして第1の所定の持続時間中にこれらの荷電粒子の分析を可能にするステップがさらに含まれる。このようにして1つの電源により生成された精密な電位を用いて、イオンを分析することができる。
【0014】
任意には、質量分析計が所定の回数だけ第1の動作モードで動作させられ、受取られた荷電粒子のこの所定の分析数が質量分析器内で実施されるようになっている場合特に、最初に第2の動作モードで動作させずに第1の動作モードで質量分析計を再度動作させることは無い。好ましくは、所定の回数は100回または20回または10回である。より好ましくは、所定の回数は3回または2回である。最も好ましくは、所定の回数は1回である。このようにして、2つの電源の安定性は実質的に等しいレベルに維持される。典型的には切換えプロセス自体だけが電流の流れを作り出し、質量分析器を横断する電位がひとたび一定になると、電流は電源を通って一切流れないということが指摘される。こうして既定の長さの時間は、単一の質量分析器サイクルの持続時間に関係づけされる。
【0015】
第1の所定の持続時間の長さが、荷電粒子を受取り電場を生成して荷電粒子の分析を可能にするステップを実施するのにかかる時間の長さに基づくものであることが有利である。このようにして、第1の所定の持続時間の長さは、1回の分析の所要時間の長さに左右される。好ましくは、第2の所定の持続時間の長さは第1の所定の持続時間の長さより短い。
【0016】
有益なことに、第2の所定の持続時間の長さは、第1の所定の持続時間の間に質量分析器が受取った荷電粒子の極性とは無関係である。
【0017】
既定の長さの時間は、好ましくは、第1の所定の持続時間の長さと第2の所定の持続時間の長さの合計より短い。
【0018】
有利には、本方法はさらに、前記第1の電位と同じ極性の第3の電位を生成するステップを含む。このとき、第1の動作モードは、第1の時限の間、第1の電位を質量分析器に結合するが、第3の電位を質量分析器に結合せず、第1の時限が第1の所定の持続時間の少なくとも一部分であるステップを含んでいてよい。好ましくは、第1の動作モードは同様に、第2の時限中、第1の電位を質量分析器に結合し、第3の電位を質量分析器に結合し、第2の時限が第1の所定の持続時間の一部分であるステップを含んでいる。好ましい実施形態において、第2の時限は、第1の時間に先行し、電源は第1の時限中第3の電位を生成し続ける。電源が第2の動作モード中、第3の電位を生成し続けることも同様に有利である。
【0019】
第3の電位は好ましくは第3の電源により生成されるか、代替的には第1の電源が第3の電位を生成してもよい。第1の電源の安定性および精度は、できれば第3の電源ものより高い。第1の電位を通って流れる電流は有利にも、それによって削減される。さらに、第3の電位の規模は、好ましくは第1の電位のものよりも大きい。こうして有利にも、第1の電位が供給された時の電圧ステップが比較的小さいことを理由として、望まれない寄生振動(「リンギング」として知られるもの)が削減される。
【0020】
同様に有利にも、本方法はさらに第2の電位と同じ極性の第4の電位を生成するステップをさらに含んでいてよい。このとき、第2の動作モードは、第3の時限の間、第2の電位を質量分析器に結合するが第4の電位を質量分析器に結合せず、第3の時限が第2の所定の持続時間の一部分であるステップを含んでいてよい。好ましくは、第2の動作モードは同様に、第4の時限の間、第2の電位を質量分析器に結合し第4の電位を質量分析器に結合し、第4の時限が第2の所定の持続時間の一部分であるステップも含んでいる。好ましい実施形態において、第4の時限は第3の時限に先行し、第3の時限の間電源は第4の電位を生成し続ける。第3の時限および第4の時限は好ましくは第1の時限および第2の時限に後続し、こうして第1の所定の持続時間が第2の所定の持続時間に先行するようになっている。電源が第1の動作モード(第1の所定の持続時間)の間第4の電位を生成し続けることが有利である。第4の電位は好ましくは第4の電源により生成されるが、代替的には、第2の電源が第4の電位を生成してもよい。第2の電源の安定性および精度は、できれば第4の電源のものよりも大きい。さらに、第4の電位の規模は、好ましくは第2の電位のものよりも大きい。
【0021】
好ましい実施形態において、質量分析計は、第1の時限と第2の時限を含む第1の動作モードでの第1の所定の持続時間内で、および第3の時限および第4の時限を含む第2の動作モードでの第2の所定の持続時間内で動作するように構成されている。
【0022】
好ましい実施形態において、質量分析器は実質的に無効な負荷を提示しており、したがってそのインピーダンスは数学的観点から見ると大部分は虚数である。このような場合、有意な電流が流れるのは、電源が負荷に接続されている時だけである。したがって、電源の安定性を維持するためには、電源を規則的にインピーダンス整合された負荷に接続し、そこから切断することが望ましい。好ましくは、質量分析器は実質的に容量性の負荷であり、さらに好ましくは、質量分析器はオービトラップ型のものである。あるいは、質量分析器は飛行時間型のものであり、任意には、質量分析器は静電トラップを含む。任意には、質量分析器は、実質的に誘導性の負荷である。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、質量分析器と;第1の電位を生成するように構成された第1の電源と;非ゼロ第2電位を生成するように構成された第2の電源と;スイッチが第1の電位を質量分析器に結合させ、第2の電位を質量分析器から切断するように構成されている第1の動作モードと、スイッチが第2の電位を質量分析器に結合させ第1の電位を質量分析器から切断するように構成されている第2の動作モードを有し、こうして、いかなる時点でも第1の電位または第2の電位の一方のみが質量分析器に結合されるようになっているスイッチと;第1の所定の持続時間の間スイッチをその第1の動作モードに設定し、第2の所定の持続時間の間スイッチをその第2の動作モードに設定するように構成され、第1の動作モードおよび第2の動作モードが既定の長さの時間内で少なくとも一回実施されるような形で第1の所定の持続時間および第2の所定の持続時間が選択されているコントローラと、を含む質量分析計にある。第2の電源は、スイッチがその第1の動作モードに構成されている場合に前記第2の電位を生成し続けるように構成されており、第1の電源は、スイッチがその第2の動作モードに構成されている場合に前記第1の電位を生成し続けるように構成されている。
【0024】
本発明のさらなる態様においては、質量分析計の質量分析器に電位を提供する方法において、第1の電源から第1の電位を生成するステップと;第2の電源から第2の電位を生成するステップと;第1の電位が質量分析器に結合されている第1の動作モードから、第1の電位は質量分析器に結合されていないが第1の電源が前記第1の電位を生成し続ける第2の動作モードへと切換えるステップと;第2の電位が疑似負荷に結合されている第3の動作モードから、第2の電位は疑似負荷に結合されていないが第2の電源が前記第2の電位を生成し続ける第4の動作モードへと切換えるステップ、を含む方法が提供されている。前記第1の動作モードから前記第2の動作モードへの切換えステップ、および前記第3の動作モードから前記第4の動作モードへの切換えステップは各々、既定の長さの時間内に少なくとも一回発生する。
【0025】
既定の長さの時間は、本発明のその他の態様に関して以上で説明されている通りに設定されてよい。好ましくは、質量分析器は、特性インピーダンスを有し、疑似負荷は質量分析器の特性インピーダンスを有する。
【0026】
一実施形態において、第1の電位は第2の電位と反対の極性を有する。このとき、本方法は任意には、第2の動作モード中、第3の動作モードまたは第4の動作モードから、第2の電位が質量分析器に結合されている第5の動作モードへと切換えるステップをさらに含んでいる。
【0027】
一部の実施形態においては、本方法は、第1の動作モードまたは第2の動作モードから、第1の電位が第2の疑似負荷に結合されている第6の動作モードへと切換えるステップをさらに含んでいる。第3の動作モードおよび第6の動作モードが同時に発生しない場合、第2の疑似負荷は任意には第1の疑似負荷と同じである。
【0028】
好ましくは、本方法はさらに、第3の電源から第3の電位を生成するステップおよび、第3の電位が質量分析器に結合されている第7の動作モードから第3の電位が質量分析器に結合されていない第8の動作モードへと切換えるステップを含む。有利には、第3の電位は、第1の電位と同じ極性を有し、第7の動作モードは第1の動作モードが使用されている一方で使用される。
【0029】
より好ましくは、本方法は、第7の動作モードまたは第8の動作モードから、第3の電位が第3の疑似負荷に結合されている第9の動作モードへと切換えるステップをさらに含んでいる。第9の動作モードおよび第6の動作モードが同時に発生しない場合、第3の疑似負荷は任意には第2の疑似負荷と同じである。第9の動作モードおよび第3の動作モードが同時に発生しない場合、第3の疑似負荷は任意には第1の疑似負荷と同じである。
【0030】
好ましくは、本方法はさらに、第4の電源から第4の電位を生成するステップおよび、第4の電位が質量分析器に結合されている第10の動作モードから第4の電位が質量分析器に結合されていない第11の動作モードへと切換えるステップを含む。有利には、第4の電位は、第2の電位と同じ極性を有し、第10の動作モードは第5の動作モードが使用されている一方で使用される。
【0031】
より好ましくは、本方法は、第10の動作モードまたは第11の動作モードから、第4の電位が第4の疑似負荷に結合されている第12の動作モードへと切換えるステップをさらに含んでいる。第12の動作モードおよび第3の動作モードが同時に発生しない場合、第3の疑似負荷は任意には第1の疑似負荷と同じである。第12の動作モードおよび第6の動作モードが同時に発生しない場合、第3の疑似負荷は任意には第2の疑似負荷と同じである。
【0032】
関連する一態様においては、質量分析器と;第1の電位を生成するように構成された第1の電源と;第2の電位を生成するように構成された第2の電源と;第1の電位が質量分析器に結合されている第1の動作モードと、第1の電位が質量分析器に結合されていない第2の動作モードとを有する、第1のスイッチと;第2の電位が疑似負荷に結合されている第3の動作モードと、第2の電位が疑似負荷に結合されていない第4の動作モードとを有する第2のスイッチと;第1のスイッチがその第2のモードで動作している場合、前記第1の電位を生成し続けるように第1の電源を制御し、第2のスイッチがその第4のモードで動作している場合、前記第2の電位を生成し続けるように第2の電源を制御するように構成されているコントローラと;を含む質量分析計において、コントローラがさらに、所定の時限の間に少なくとも一回前記第1の動作モードから前記第2の動作モードへと切換えるように前記第1のスイッチを制御し、かつ所定の時限の間に少なくとも1回前記第3の動作モードから前記第4の動作モードへと切換えるように前記第2のスイッチを制御するように構成されている、質量分析計が提供されている。
【0033】
有利には、疑似負荷は抵抗器を含む。任意には、疑似負荷は、コンデンサおよびインダクタンスの一方または両方と並列で抵抗器を含む。
【0034】
さらに提供されているのは、質量分析器と;第1の極性を有する非ゼロ規模Vの第1の電位を生成するように構成された第1の電源と;第2の反対の極性を有する非ゼロ規模Vの第2の電位を生成するように構成された第2の電源と;質量分析器に第1の電位を供給し、第1の動作モードにおける非ゼロ規模Vの前記第1の電位と第2の動作モードにおける非ゼロ規模Vの前記第2の電位の間で直接質量分析器に供給される電位を切換えるように構成されたコントローラとを含む質量分析計である。
【0035】
質量分析器に対する電源の第1のモードと第2のモードの間での切換え方法において、第1の動作モードで、第2の電源が第2の電位を生成するが質量分析器からは切断されている一方で、第1の電源により生成された第1の電位を質量分析器に結合させるステップと;第2の動作モードで、第1の電源が第1の電位を生成するが質量分析器からは切断されている一方で、第2の電源により生成された第2の電位を質量分析器に結合させるステップと;いかなる場合でも第1の電位または第2の電位の一方のみが質量分析器に結合されるように、第1の動作モードから第2の動作モードへと切換えるステップと、を含む方法も想定されている。
【0036】
好ましくは、第1の電位の極性は、第2の電位の極性の反対である。したがって、2つの精密な電位は、正荷電および負荷電の両方の粒子の分析に使用可能である。
【0037】
質量分析計の質量分析器に対し電位を提供する方法において、第1の極性を有する非ゼロ規模Vの第1の電位を生成するステップと;第2の反対の極性を有する非ゼロ規模Vの第2の電位を生成するステップと;第1の電位を質量分析器に供給するステップと;第1の動作モードでの非ゼロ規模Vの前記第1の電位と第2の動作モードでの非ゼロ規模Vの前記第2の電位の間で直接質量分析器に供給される電位を切換えるステップとを含む方法が、付加的に想定されている。
【0038】
反対の極性を有する2つの別々の電位を生成しその間で直接切換え、こうして質量分析器がその他のいかなる電位にも結合されないかまたは一方の電位からもう一方の電位に接続される間に任意の有意な長さの時間、中間の電位に置かれることを不可能にすることによって、質量分析器内で精密な電位を使用する前に電源が暖まるのを待つ必要はなくなる。
【0039】
任意には、非ゼロ規模Vは、非ゼロ規模Vに等しい。
【0040】
これらの態様の組合せも同様に可能である。
【0041】
本発明はさまざまな方法で実施されてよく、そのうちの1つを以下で、添付図面を参照しながら単なる一例として記述する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る質量分析計の略図である。
【図2】図1の実施形態のより詳細な略図を示す。
【図3】図2の実施形態で使用するためのコントローラを示す。
【図4】図3のコントローラにおいて使用される例示的信号を示す。
【図5】図2の実施形態において使用するための概略的切換え構成を示す。
【図6】図5の概略的切換え構成において使用するための例示的信号を示す。
【図7】図5の概略的切換え構成からの代替的出力信号を示す。
【図8】本発明の一変形実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
ここで図1を参照すると、第1の電源10、第2の電源20、コントローラ40により制御されるスイッチ30および質量分析器50を含む質量分析計の概略図が示されている。第1の電源は第1の電位15を生成するように動作し、第2の電源は第2の電位25を生成するように動作する。
【0044】
第1の電源10および第2の電源20は、連続的に動作する。第1の電位15は接地電位に対して負の極性を有し、第2の電位25は接地電位に対して正の極性を有する。第1の電位は、質量分析器50において正イオンの分析のために使用でき、第2の電位は、質量分析器50において負イオンの分析のために使用できる。コントローラ40は、所定の時限内で第1の電位15と第2の電位25の両方が少なくとも一回質量分析器50に接続されるようにする。
【0045】
当業者であれば、図1が本発明の主要な特徴を示す目的で幾分か簡略化されていることを認識するものである。図2では、図1の実施形態のより詳細な略図が示されている。例えば、当業者であれば、オービトラップ(TM)型の質量分析器100が使用される場合、2つ以上の電位が必要とされるということを理解するものである。イオン捕獲用に電場を生成するためには粗電位(coarse potential)を使用することができ、一方イオン測定用に安定した電場を提供するためには精密電位(accurate potential)が使用される。
【0046】
第1の粗電源60は負の粗電位61を提供し、第2の粗電源70は正の粗電位71を提供する。第1の精密電源65は、負の精密電位66を提供し、第2の精密電源75は正の精密電位76を提供する。これらの電源の各々によって提供される電位は調節される。
【0047】
コントローラ45は高圧(HV)スイッチ80、81、82および83を制御する。負の粗電位61が第1のHVスイッチ80に提供され、コントローラ45はこのスイッチを制御するために第1の切換え信号46を提供する。負の精密電位66が第2のHVスイッチ81に提供され、コントローラ45はこのスイッチを制御するために第2の切換え信号47を提供する。
【0048】
正の粗電位71が第3のHVスイッチ82に提供され、コントローラ45はこのスイッチを制御するために第3の切換え信号48を提供する。正の精密電位76が第4のHVスイッチ83に提供され、コントローラ45はこのスイッチを制御するために第4の切換え信号49を提供する。
【0049】
第2のHVスイッチ81および第4のHVスイッチ83からの出力は、一緒に接続され、出力90として質量分析器100に提供される。第1の切換え信号46および第2の切換え信号47を、第3の切換え信号48および第4の切換え信号49と同時に提供することはできない。換言すると、出力90は、任意の一時点において正の電位か負の電位のいずれかでしかあり得ない。
【0050】
この好ましい実施形態において、負の精密電位66は−5kVであり、正の精密電位76は+5kVである。これら2つの電位の安定性は高い(典型的には+/−2ppm)。負の粗電位66および正の粗電位76は、それぞれの精密電位に比べて規模が約800〜1800V低い。粗電位の安定性は、精密電位の安定性よりはるかに低い(例えば+/−20−30ppm)。これら4つの電源は独立して調節され、そのため、多数の出力の安定性が改善され、詳細には精密電源からの粗電源の減結合が改善される。
【0051】
こうして、第1の粗電源60または第2の粗電源70は、電圧範囲全体の80%にわたり質量分析器負荷キャパシタンスの再充電(電線に付随するトランジスタのキャパシタンスを加えたものを含めて約50〜100pF)のためのはるかに高い電荷を供給することができるようになる。このとき負の精密電源65または正の精密電源75に残される再充電すべき電圧範囲の部分は僅かである。
【0052】
質量分析計の動作方法はコントローラ45の設計においてより良く理解できる。図3では、出力90を制御するために使用される3つの入力信号を有するコントローラが示されている。極性信号101は、出力90の極性を標示し、粗電源トリガー信号102は、出力90が粗電源出力を含むはずであることを標示し、精密電源トリガー信号103は、出力90が精密電源出力を含むはずであることを標示する。
【0053】
ゲート110は極性信号101と粗トリガー信号102を受取り、粗電源制御信号を生成する。ゲート120は極性信号101および精密トリガー信号103を受取り、精密電源制御信号を生成する。
【0054】
2つの立上り検出器131が具備されており、これらは低論理レベルから高論理レベルへと変化する入力を検出する。1つの立上り検出器131は粗電源制御信号111を受取り、もう一方の立上り検出器131は精密電源信号121を受取る。
【0055】
2つの立下り検出器132も具備され、これらは、高論理レベルから低論理レベルへと変化する入力を検出する。1つの立下り検出器132は粗電源制御信号を受取り、もう一方の立下り検出器132は精密制御信号121を受取る。
【0056】
立上り検出器131および立下り検出器132各々の出力は、それぞれのトランジスタ出力段133に提供される。トランジスタ出力段133の出力は、この場合変圧器であるアイソレータ134に提供される。アイソレータ134の出力は各々それぞれの電荷蓄積装置135に提供される。これらは第1の切換え信号46、第2の切換え信号47、第3の切換え信号48および第4の切換え信号49を提供する。
【0057】
コントローラ45の動作は、正常な動作中に、コントローラ内で生成される信号を参照するとより良く理解できる。図4を見ると、コントローラ45内で使用される例示的信号が示されている。
【0058】
図4は、2つに分割されている。図4の左側では、極性信号101は低く、負の極性を表わす。出力90は当初、負の精密電源の電位によって提供される。粗電源トリガー信号102は最初低論理レベルから高論理レベルへと変化し、これが粗電源制御信号111内に正のパルスを導く。こうして出力90は負の精密電源が遮断されている状態で、負の精密電源の電位から正の粗電位レベルに向かって増大させられる。出力90は、短い時限141の間に定電圧に近づき、この時限141の一部分の間この電圧に安定し得る。粗電源トリガー信号102の開始から10〜10,000マイクロ秒の遅延の後、精密電源トリガー信号103は低から高に変化する。これは、精密電源制御信号121の中に正のパルスを発生させ、正の粗電源がなおも接続されている状態で、出力90のレベルは正の精密電源電位の出力まで増大することになる。
【0059】
一定時間の後、粗電源トリガー信号102は高論理レベルから低論理レベルまで遷移する。これが粗電源制御信号111内に負のパルスを発生させ、正の精密電源および正の粗電源の両方が切断されている状態で出力90のレベルは負の粗電源の電位だけ減少することになる。さらなる遅延の後、精密電源トリガー信号103は高論理レベルから低電位レベルまで遷移する。こうして精密電源制御信号121内の負のパルスが導かれ、負の粗電源がなおも接続されている状態で出力90のレベルは負の精密電源のレベルまで減少することになる。
【0060】
図4の右側では、極性信号101は高く、正の極性を表わす。出力90は当初、正の精密電源の電位によって提供される。粗電源トリガー信号102は最初低論理レベルから高論理レベルへと変化し、これが粗電源制御信号111内に負のパルスを導く。こうして出力90は、負の粗電位レベルに向かって増大させられる。出力90は、短い時限151の間定電圧に近づき、この時限151の一部分の間この電圧で安定し得る。粗電源トリガー信号102の開始に対し10〜10,000マイクロ秒の遅延の後、精密電源トリガー信号103は低から高に変化する。これは、精密電源制御信号121の中に正のパルスをひき起こし、負の粗電源がなおも接続されている状態で、出力90のレベルは負の精密電源電位の出力まで減少することになる。
【0061】
さらなる遅延の後、粗電源トリガー信号102は高論理レベルから低論理レベルまで変化する。これが粗電源制御信号111内に正のパルスを発生させ、負の精密電源および負の粗電源の両方が切断されている状態で出力90のレベルは正の粗電源電位のレベルまで増大することになる。最終的には、精密電源トリガー信号103は高論理レベルから低論理レベルまで遷移する。こうして精密電源制御信号121内に正のパルスが導かれ、正の粗電源がなおも接続されている状態で出力90のレベルは正の精密電源の電位まで増大することになる。
【0062】
図4を見ればわかるように、2つのタイプの勾配しか存在しない。最初の勾配は、「下向き勾配」であり、これは、時点130における負イオンの入射とそれに続く時点140における負イオンの検出のために使用可能と考えられる。もう一方は「上向き勾配」であり、これには時点150における負イオンの入射と時点160における正イオンの測定が続くと考えられる。
【0063】
図4から観察できるように、粗電源は遷移が起こった場合に所要の電圧差の大部分を提供し、こうしてより高速の切換えおよびより精密な電源を不要な負荷から保護する。
【0064】
図5を見てみると、概略的な切換え構成が示されている。図2および3のものと同じ構成要素が示されている場合、同じ参照番号が使用されている。この図は、「アイドル」状態にあるシステムを示している(全てのスイッチは「オフ」位置にセットされている)。粗トリガー信号の1つが高論理信号にセットされた時点で、極性信号の状態に応じて正の分岐から負の分岐へ、またはその逆にシステムが切換わる。精密トリガー信号の1つが高論理レベルにセットされた時点で、それぞれのスイッチを閉じることによってそれぞれの精密電位が追加される。抵抗器91およびコンデンサ92が低域通過フィルタとして作用し、出力90で電圧勾配を制御する。
【0065】
1つの電位とその反対の電位との間の遷移上の勾配の変化度は、ライン内の抵抗器171および抵抗器181により制御され、それぞれ正の粗電源出力76および負の粗電源出力66を提供する。ダイオード170およびダイオード180が、粗電源を損傷する可能性のあるそれぞれの精密電源に起因する粗電源出力を通した寄生逆電流を妨げている。その結果、各々の粗電源は、それぞれの極性の精密電源と並列に接続された場合にノイズ源を提供しない。その理由は、ダイオード170およびダイオード180がその逆バイアスを通して保護を提供すること;不安定度の効果が抵抗器171および181によって制御されること;および精密電源の出力が調節され、こうして残留する効果が全て補償されると考えられること、にある。事実、粗電源は実際にはノイズの源ではなく、むしろ精密電源に比べて調節の効率が低いものである。
【0066】
好ましい実施形態においては、図5に示されている構成は以下の要領で動作する。第1のステップでは、第3の切換え信号48が第3のHVスイッチ82を閉鎖させる。その他の3つのスイッチは全て開放状態に残され、こうして出力90は正の粗電位71に向かって増大する。
【0067】
第2のステップでは、第3の切換え信号48と第4の切換え信号49が第3のHVスイッチ82および第4のHVスイッチ83を閉鎖させる。その他2つのスイッチは開放されており、そのため出力90は正の精密電位76に向かって増大するようになっている。第3のステップでは、第1の切換え信号46が第1のHVスイッチ80を閉じる。その他のスイッチは全て開放されており、そのため出力90は負の粗電位61に向かって減少する。
【0068】
第4のステップでは、第1の切換え信号46および第2の切換え信号47が第1のHVスイッチ80および第2のHVスイッチ81を閉じる。その他の2つのスイッチは開放しており、そのため出力90は負の精密電位66に向かって減少する。
【0069】
ここで図6を参照すると、図5の概略的切換え構成において使用するための例示的信号が示されている。信号は、図5の対応する信号と同じ参照番号により識別されている。これらの信号が使用された場合、出力信号90’が結果として発生する。この信号構成はより高い精度そしてより速い切換えを達成することができる。
【0070】
図3に示されている実施形態は、立上りおよび立下りがトリガー事象である場合2つの制御信号(粗電源制御信号111および粗電源制御信号121)を使用しているが、一方図5の実施形態は4つの制御ライン(第1の切換え信号46、第2の切換え信号47、第3の切換え信号48、第4の切換え信号49)を使用している。付加的な制御信号を使用することで、システムの動作融通性が増大し、より速い立上り時間が可能となる。本発明は、さまざまな利用分野のために使用され得る。これらの利用分野としては、質量分析器内の電極(ダイノードを含む)またはグリッドに対し電位を提供すること;オービトラップ(TM)型質量分析器の中央電極に電圧を供給すること;オービトラップ(TM)型質量分析器のその他の電極(例えばデフレクタ、カーブドイオントラップ、イオンゲート)に電圧を供給すること;多重反射または多重偏向型を含めた飛行時間(TOF)質量分析器、静電質量分析器内の電極に電圧を供給すること;ブラッドベリー・ニールセンゲートに電圧を供給すること;検出器オフセットとして使用するための電圧を供給すること;TOF計器内の抽出電極(グリッドを含む)のために電圧を供給すること;および単一または多重反射TOF計器内の切換え可能なミラーまたはセクターに電圧を供給すること、が含まれる。
【0071】
したがってこの実施形態は、以下のアプローチに基づいて動作する。電源は、図4または図6に示されたタイプのサイクルにおいてオービトラップ(TM)質量分析器100の中央電極に循環的に接続される。イオンは、(荷電状態に応じて)時点130における勾配または時点150における勾配の間、質量分析器100内に入射される。異なる時点に到達した異なる質量のイオンは、こうして、質量分析器100の中央電極のまわりの安定した軌道内に捕獲される。このことは、Hardman,M.& Makarov,A.A.:Interfacing the Orbitrap Mass Analyzer to an Electrospray Ion Source;Anal.Chem.,2003,75,1699−1705の中でより詳しく説明されている。このようにして、精密および粗電源の組合せは同様に、オービトラップ(TM)質量分析器100におけるイオンの入射および捕獲を制御する目的にも役立つ。この電圧立上りの勾配は、質量分析器100の抵抗性、容量性および誘導性負荷および配線と組合せた抵抗器91およびコンデンサ92によって制御される。
【0072】
本明細書中で具体的実施形態が記述されてきたが、当業者であれば、さまざまな修正および置換を企図するかもしれない。例えば当業者であれば、図5に示されているスイッチが継電器、トランジスタまたは固体状態スイッチであり得るということを容易に認めるものである。
【0073】
当業者であれば同様に、高い精度を必要とせずかつ/または例えばレンズやパルサーなどの電場のために必要とされるものよりも著しく低い振幅を有する、多数の極性でのその他の高電圧を質量分析器に提供することが望ましいかもしれないということも理解するものである。上記レンズやパルサーには、従来のアプローチを用いた切換え式極性を提供できると考えられ、あるいは上述の技術を適用することもできる。
【0074】
当業者であれば、図5の動作の中で、第2のステップの後システムは「アイドル」状態に復帰してよいということを認識するものである。これを用いて、反対の極性の2つの電源が同時に負荷に接続され得ないように補助することができる。したがって、「アイドル状態」は、反対の極性の不利な逆電流に対して電源を保護するかもしれない。さらに、システムは、第4ステップ後に「アイドル」状態に復帰してよく、それに続いて、第1ステップが次に再開できる。当業者であれば、「アイドル」状態で、1つまたは複数の電源から切断された電極の電位が当初は同じ電位にとどまり、その後未定義状態へと崩壊するということを理解するものである。したがって、長時間「アイドル」状態にとどまることは通常望ましくない。
【0075】
上述のものに対する代替的な動作アプローチにおいては、図5に示されているタイプのネットワークが、イオンを飛行経路内に入射する直交加速器内の電極などの、飛行時間型質量分析計のパルサー電極に接続される。電源出力サイクルは、図4または図6に示したものと同様である。イオンは、例えば、定電圧周期141(または定電圧周期161)の間、直交加速器(またはインジェクタトラップ)内に入射される。あるいは、図5に示されている通りの一実施形態では、制御信号のタイミングを調整して、「保持」時間を含み入れることができ、この保持時間においてイオンは、保持中それぞれの粗電源上に入射され、その後それぞれ勾配130または150により飛行経路上にパルス送りされる。
【0076】
条件に応じて、その時点でアースに直接電極を接続することによってかまたは仮想アースを提供する付加的な電源を使用することによって、アースまたはその近くにさらなる「休止」点を導入してよい。そのとき、イオンは、射出パルスに先立ちパルサー(直交加速器、線形イオントラップまたは非線形イオントラップ)内に入射されると考えられる。
【0077】
ここで図7を参照すると、図5の概略的切換え構成からの代替的出力信号が示されている。この出力信号は、質量分析計電極に供給された電圧が安定しているさらなる休止点を許容する。示された信号の最初の半分は、2つの電源しか使用しない場合に関するものである。これとは対照的に、第2の半分は、4つの電源の使用に関するものであり、これは、出力信号内に特徴的な「ノッチ」または「へこみ」を結果としてもたらす。
【0078】
この単一または二重ステップパルスは次に、精密に定義されたエネルギーをもつ検出軌跡上にイオンを導入すると考えられる。飛行時間型質量分析器内へのイオンの入射の間の「エネルギーリフト」のために、同じ原理を使用することができる。
【0079】
同様にして本発明は、飛行時間(TOF)質量分析器のその他の構成要素、例えばレフレクトロン、多重反射または多重周回TOFデバイスのイオンミラーまたはデフレクタの電極などにも応用することができ、こうして、正および負のイオンモード間のより速い変更を可能にする。
【0080】
本発明の好ましい実施形態は、質量分析器に対し規則的に電源の各々を接続するが、当業者であれば、質量分析器のインピーダンスに整合するインピーダンスを有する負荷を代用として使用してもよいということを認識するものである。それは疑似負荷と呼ばれる。質量分析器のインピーダンスをモデリングして疑似負荷を作り出すのはきわめて困難であることが発見された。特に、製造上の誤差のため、特性インピーダンスが質量分析器間で異なっていることは許容されている。その上、オービトラップ(TM)型質量分析器のインピーダンスのモデリングは、重大な課題を提示することがわかっている。
【0081】
したがって、疑似負荷の使用は、好ましい実施形態ではない。それでも、当業者であれば、質量分析計に対し質量分析用の電位を提供する必要のない電源を接続するよりはむしろ疑似負荷を使用してもよい、ということを認識するものである。
【0082】
ここで図8を参照すると、この概念に基づいた本発明の変形実施形態が示されている。この変形実施形態は図5と類似のものであり、同じ特徴が示されている場合、同一の参照番号が使用される。高圧(HV)スイッチ190、191、192および193は、4つの電源の出力、電位61、71、66および76を、出力90または疑似負荷に接続できる。
【0083】
この実施形態において、各電源について個別の疑似負荷が具備されている。それぞれの疑似負荷抵抗器202、212、222および232の各々に対する接続を制御するために、追加のスイッチ201、211、221、および231が具備されている。各疑似負荷抵抗器202、212、222および232と並列に、それぞれのコンデンサ203、213、223および233が具備されている。
【0084】
HVスイッチ190、191、192および193の「アイドル」状態は、それぞれの疑似負荷抵抗器202、212、222および232に接続されている。追加のスイッチ201、211、221および231は任意である。疑似負荷抵抗器202、212、222および232は、オービトラップ(TM)質量分析器に対する精度要件と整合しない生産モデルなどの実負荷のコピーを含めた、実負荷(質量分析器50およびオービトラップ(TM)質量分析器100により提供されるもの)の任意のモデルであり得る。あるいは、抵抗、キャパシタンスおよびインダクタンスのネットワークを使用することもできる。
【0085】
同様に、一電源あたり1つの疑似負荷が存在する必要はない。実際の要件およびコストに応じて、さらに少ない疑似負荷を使用してもよい。例えば、疑似負荷を1つだけ、または一極性につき1つの疑似負荷を使用することができ、または精密電源のみを疑似負荷に接続することができると考えられる。代替的動作モードにおいては、精密電源を質量分析器に循環的に接続でき、粗電源を1つまたは複数の疑似負荷に接続することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析器に対する電源の第1のモードと第2のモードの間での切換え方法において、
第1の動作モードで、第2の電源が第2の非ゼロ電位を生成するが質量分析器からは切断されている一方で、第1の電源により生成された第1の非ゼロ電位を質量分析器に結合させるステップと、
第2の動作モードで、第1の電源が第1の電位を生成するが質量分析器からは切断されている一方で、第2の電源により生成された第2の非ゼロ電位を質量分析器に結合させるステップと、
第1の所定の持続時間の間、第1の動作モードで動作するステップと、
第2の所定の持続時間の間、第2の動作モードで動作するステップと、
を含む方法であって、
第1の所定の持続時間および第2の所定の持続時間は、いかなる場合でも第1の電位と第2の電位の一方のみが質量分析器に結合されるような形で、および第1の動作モードおよび第2の動作モードで動作する各ステップが既定の長さの時間内で少なくとも1回実施されるような形で選択されている、
切換え方法。
【請求項2】
第1の電位の極性が第2の電位の極性と反対である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の非ゼロ電位が前記第2の非ゼロ電位と同規模である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第2の所定の持続時間の長さが第1の所定の持続時間の長さより短い、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第1の所定の持続時間の長さが第2の所定の持続時間の長さと実質的に等しい、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
第1の所定の持続時間中、質量分析器において荷電粒子を受取るステップをさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
第1の電位を用いて質量分析器内で電場を生成し、こうして第1の所定の持続時間中に受取った荷電粒子の分析を可能にするステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第1の所定の持続時間の長さが、荷電粒子を受取り、電場を生成して荷電粒子の分析を可能にするステップを実施するのにかかる時間の長さに基づいている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第2の所定の持続時間の長さが、第1の所定の持続時間の間に質量分析器が受取った荷電粒子の極性とは無関係である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の電位と同じ極性の第3の電位を生成するステップ、
をさらに含み、
前記第1の動作モードで、第1の時限の間、第1の電位は質量分析器に結合されているが、第3の電位は質量分析器に結合されておらず、第1の時限は第1の所定の持続時間の少なくとも1つのサブセットである、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
第1の動作モードでは、第1の電位および第3の電位は第2の時限中質量分析器に結合されており、第2の時限は第1の所定の持続時間のサブセットである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第2の時限が第1の時間に先行し、電源が第1の時限中第3の電位を生成し続ける、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
電源が、第2の動作モード中、第3の電位を生成し続ける、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第3の電位の規模が第1の電位の規模よりも大きい、請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第3の電位が第3の電源により生成され、第1の電源の精度が第3の電源の精度より高い、請求項10〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
質量分析器が実質的に無効な負荷を提示する、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
質量分析器がオービトラップ型のものである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
質量分析器が飛行時間型のものである、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
質量分析器が静電トラップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
質量分析器と、
第1の非ゼロ電位を生成するように構成された第1の電源と、
非ゼロ第2電位を生成するように構成された第2の電源と、
第1の電位を質量分析器に結合させ、第2の電位を質量分析器から切断するように構成されている第1の動作モードと、第2の電位を質量分析器に結合させ第1の電位を質量分析器から切断するように構成されている第2の動作モードとを有するスイッチであって、こうして、いかなる時点でも第1の電位または第2の電位の一方のみが質量分析器に結合されるようになっているスイッチと、
第1の所定の持続時間の間スイッチをその第1の動作モードに設定し、第2の所定の持続時間の間スイッチをその第2の動作モードに設定するように構成され、第1の動作モードおよび第2の動作モードが既定の長さの時間内で少なくとも一回実施されるような形で第1の所定の持続時間および第2の所定の持続時間が選択されているコントローラと、
を含む質量分析計において、
第2の電源は、スイッチがその第1の動作モードに構成されている場合に前記第2の電位を生成し続けるように構成されており、第1の電源は、スイッチがその第2の動作モードに構成されている場合に前記第1の電位を生成し続けるように構成されている、
質量分析計。
【請求項21】
コントローラがさらに、質量分析器を制御して、第1の所定の持続時間中に荷電粒子を受取るように構成されている、請求項20に記載の質量分析計。
【請求項22】
質量分析計の質量分析器に電位を提供する方法において、
第1の電源から第1の電位を生成するステップと、
第2の電源から第2の電位を生成するステップと、
第1の電位が質量分析器に結合されている第1の動作モードから、第1の電位は質量分析器に結合されていないが第1の電源が前記第1の電位を生成し続ける第2の動作モードへと切換えるステップと、
第2の電位が疑似負荷に結合されている第3の動作モードから、第2の電位は疑似負荷に結合されていないが第2の電源が前記第2の電位を生成し続ける第4の動作モードへと切換えるステップと、
を含む方法であって、
前記第1の動作モードから前記第2の動作モードへの前記切換えステップ、および前記第3の動作モードから前記第4の動作モードへの前記切換えステップが各々、既定の長さの時間内に少なくとも一回発生する、
方法。
【請求項23】
質量分析器が特性インピーダンスを有し、疑似負荷が質量分析器の特性インピーダンスを有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
質量分析器と、
第1の電位を生成するように構成された第1の電源と、
第2の電位を生成するように構成された第2の電源と、
疑似負荷と、
第1の電位が質量分析器に結合されている第1の動作モードと、第1の電位が質量分析器に結合されていない第2の動作モードとを有する、第1のスイッチと、
第2の電位が疑似負荷に結合されている第3の動作モードと、第2の電位が疑似負荷に結合されていない第4の動作モードとを有する第2のスイッチと、
第1のスイッチがその第2のモードで動作している場合、前記第1の電位を生成し続けるように第1の電源を制御し、第2のスイッチがその第4のモードで動作している場合、前記第2の電位を生成し続けるように第2の電源を制御するように構成されているコントローラと、
を含む質量分析計において、
コントローラがさらに、所定の時限の間に少なくとも一回前記第1の動作モードから前記第2の動作モードへと切換えるように前記第1のスイッチを制御し、かつ所定の時限の間に少なくとも1回前記第3の動作モードから前記第4の動作モードへと切換えるように前記第2のスイッチを制御するように構成されている、
質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−522365(P2011−522365A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511087(P2011−511087)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001353
【国際公開番号】WO2009/144469
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(508306565)サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー (20)
【Fターム(参考)】