説明

質量分離を伴うイオンビームスリットの引き出し法

本発明は、リボン型イオンビーム内の多数の種から所望のイオン種を選択する一対の永久磁石を構成する質量分析器を使用する。永久磁石は、所望の方向に特定の力を加える電磁石で達成できない小さい領域に適切な大きさのほぼ均一な磁界を与える。この力は、リボン型イオンビームの通過粒子に印加され、この粒子の経路をそれぞれの質量に応じて変化させる。その結果、拒絶された種および/または汚染物質が質量分析器を通過できないように(例えば、分析器にある磁石および/または他の障壁に衝突して)する力によってビームから選択されたイオン種が得られる。質量分析器により、多数の種を発生させるドーパント/種のイオン源が単一のドーパント/種を供給するイオン源の代わりに用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、イオン注入装置に関し、特に、質量分離を含むリボン型イオンビームシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入は、化学的処理である拡散に対向した物理的処理であり、半導体および/またはウエハ材料に選択的にドーパントを注入するために半導体素子製造に用いられる。このように注入動作は、ドーパントと半導体材料との間の化学的相互作用に頼るものではない。イオン注入のために、ドーパント原子/分子は、イオン化されかつ分離され、さらに加速または減速されてイオンビームを形成する。そして、このイオンビームは、ウエハを横切って走査される。このドーパントイオンは、物理的にウエハに衝突して、ウエハ表面及びこの表面の下方に残留する。
【0003】
イオン注入システムは、複雑なサブシステムの集合体であり、各サブシステムは、ドーパントイオンに対して特別の動作を実行する。ドーパント要素は、ガスまたは固体状態で、イオン室内に存在し、適当なイオン化処理によりイオン化される。1つの例示的な処理において、処理室は、低圧力(真空)に維持される。この処理室内にはフィラメントが配置され、電子がフィラメント源から作り出されるように加熱される。負に帯電した電子が処理室内で対向する正に帯電したアノードに引き寄せられる。フィラメントからアノードへの移動中、電子はドーパント源要素(分子または原子)と衝突し、そして、分子内の要素から正に帯電した多数のイオンが作り出される。
【0004】
一般的に、他の正のイオンは、所望のドーパントイオンとともに作られる。これらの所望のドーパントイオンは、質量分析、選択、またはイオン分離と言われる処理によってイオンから選択される。この選択は、イオン化室からのイオンを移動させる磁界を作り出す質量分析器を用いて達成される。多数のイオンは、比較的早い速度でイオン化室から離れて磁界によって弓状に曲げられる。弓状の半径は、個々のイオン、速度、及び磁界の強さによって決められる。質量分析器の出口は、1つのイオン種またはイオンが通過でき、所望のドーパントイオンが質量分析器から排出される。
【0005】
線形加速器と呼ばれる加速システムは、ウエハ表面を貫通するために、所望のドーパントイオンを所定の運動量(例えば、ドーパントイオンの質量に速度を乗算したもの)に加速または減速するために用いられる。この加速のために、システムは、環状の電極及びこの軸線に沿って配置された複数対の四極子レンズを備えるリニア構造を含む。四極子レンズは、正及び負の電位によって駆動される。ドーパントイオンは、このレンズを通り、強力な電極によって加速され、そして、四極子レンズによって選択的に(ビームとして)集束される。続いて、ドーパントイオンは、エンドステーションでターゲットウエハに向けて指向される。
【0006】
イオン注入システムは、2つのカテゴリー、ペンシル型及びリボンビーム型のシステムのいずれかに分類することができる。ペンシル型イオン注入装置は、ペンシル型イオンビームを用い、ここで、比較的狭いビームがイオン源によって発生し、質量分析器を通過して次に続くビームを調整し、そして、加工物に到達する前に走査される。しかし、現在の多くの利用では、比較的高いドーパント濃度で浅い注入、例えば、半導体製造における浅いソース/ドレイン領域を得ることを望んでいる。深さの浅いイオン注入、高電流、低エネルギーのイオンビームが望ましい。この場合、イオンの減じられたエネルギーは、帯電等によりイオンの相互反発によってイオンビームの集中を維持することが困難となる。高電流イオンビームは、一般的に、相互反発によって発散する帯電したイオンの高い集中を有している。上記問題点の1つの解法は、ペンシル型イオンビームの代わりにリボン型イオンビームを用いることである。リボン型イオンビームの1つの利点は、ビームの断面積が、ペンシル型ビームよりかなり大きいことである。例えば、一般的なペンシル型ビームは、約1〜5cmの直径を有するが、一方、リボン型ビームは、約1〜5cmの高さで約40cmの幅を有する。かなり大きい面積を有することにより、一定のビーム電流が電流密度を小さくしかつビームが低いパービアンスを有する。リボン型ビームを用いると、これに関連して多数のユニークな問題に挑戦することができる。
【0007】
リボンビーム型システムは、スリット状ビームを発生させるイオン源を用いる。スリット状ビームの従来の質量分離スリットの長さが増加するにつれて、問題点が増加するようになる。スリット(またはリボン)の方向に沿って向かう磁界は、磁石片間に大きな磁気的ギャップを生じさせる。このような磁界(約ギャップの二乗)を生じさせるのに必要な電力はかなりなものである。それゆえ、いくつかのリボンビーム型システムは、質量分析器に先立って設けられ、イオン源によって発生した全ての種を注入する。結果として、イオン源は、特定の種に対して設けられ、望まないドーパントの生産を軽減するように制限された供給材料で、制限された条件において動作する。理想的な処理でないときでさえ、結果としての注入に含まれる不必要なドーパントを生じさせる。
【0008】
質量分析器には、後述するように、一般的に複数の電磁石が用いられる。しかし、リボンビーム型システムにおいて、質量分析器のために電磁石を用いることは、かなりのコスト上昇、容積の増加、及び複雑化をもたらす。それゆえ、リボン型イオン注入システムにおける質量分離のために電磁石を用いることは、しばしば実現不可能なことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の1つ以上の基本的理解を与えるために単純化した要約を以下に示す。この要約は、本発明を拡張するものではなく、また、本発明の本質または重要な部分を区別したり、技術的範囲を詳細に正確に描写するものでもない。
【0010】
むしろ、この要約の第1の目的は、本発明を単純化した形の概念を示すものであり、以下で説明するより詳細な説明の序文となるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、リボンビーム型イオン注入システムおよびその動作を容易にする。本発明は、一対の永久磁石を含む質量分析器を用いる。これらの磁石は、所望の方向に特定の力を加えてイオン等の荷電粒子を移動させる、ほぼ均一な磁界を与える。この力は、リボンビームの通過する粒子に加えられ、そして、それぞれの質量及びエネルギーに応じて粒子の径路偏向させる。それゆえ、質量分析器を通過することができない不必要な電荷質量比の除去されるイオンおよび/または汚染物質に力を作用させて(例えば、この質量分析器に存在する複数の磁石および/または他の障壁にイオンを衝突させることによって)、ビームから選択されたイオン種を得ることができる。さらに、引出電極の電位を変えることによって、質量分析器に進入するイオンのエネルギーを変えることができ、これにより、永久磁石を異なるドーパント種に対して用いることができる。質量分析器を用いる結果、複数のイオン種(ボロン、燐、砒素、および同等物)を発生させるイオン源が、単一のドーパント/種のみを供給する供給源の代わりに用いることができる。
【0012】
上述の目的および関連する目的を達成するために、以下の詳細な説明と添付図面は、本発明のある詳細な例示的構成を示している。しかし、これらの形態は、本発明の原理が採用され得るような種々の方式におけるいくつかを示しているだけである。本発明の他の目的、長所及び新規な特徴は、図面との関連で考えると、本発明の次の詳細な説明から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、図面を参照して説明するものであるが、同一の参照番号は、全体にわたって同一の要素を表すために用いられる。これらの説明及び以下の記述は、本来的に例示のためのものであり、これに限定されるものではない。
【0014】
本発明は、一対の永久磁石を含む質量分析器を用いて、リボン型イオンビーム内の複数のイオン種(例えば、イオンは、一定のエネルギーに対して所望の電荷質量比を有する。)から所望のイオン種を選択する。この永久磁石は、所望の方向に向けられたイオンビーム上に特定の力を加えるほぼ均一な磁界を与える。リボン型イオンビームの通過粒子に作用する力は、それぞれの質量に応じて粒子の経路を変える。
その結果、質量分析器を通過できない(例えば、質量分析器内に存在する磁石および/または別の障壁に衝突することによって)、拒絶された種/イオンおよび/または汚染物質に力を作用させて、選択された電荷質量比のイオンをビームから得ることができる。質量分析器の結果として、複数のイオン種(ボロン、燐、砒素)を発生させるイオン源は、単一のドーパント/種のみを供給するイオン源の代わりに用いられる。
【0015】
対照的に、質量分析器を用いない従来のリボンビームシステムは、デバイスの性能を減退させる望ましくないドーピング(イオン源が特定のイオン種のみに利用される)を受け入れて、基板を過度に加熱し、最終的には、注入機の処理能力または生産量を制限することになる。さらに、従来の質量分析器に用いる電磁石では、小さな空間内に均一な磁界を与えることは難しいけれども、本発明の質量分析器では、それが可能であり、さらに、電力量をさらに得ることも可能である。
【0016】
図1において、本発明の構成に従う例示的なイオン注入システム10が、ブロック図の形で図示されている。このシステムは、イオンビーム14をビーム径路に沿って生じさせるためのイオン源12を含む。イオン源12は、例えば、関連した電源18を有するプラズマ源16を含む。イオン源12は、リボンビーム型システム用の従来の他のイオン源と同様に、特定のイオン種だけのために必要とされるものではない。
【0017】
即ち、このイオン源12は、多数の選択可能なイオン種(例えば、ボロン、燐、砒素、及び同等物)を供給/発生することができる。このプラズマ源16は、例えば、イオンビームが引き出されるプラズマ閉じ込め室を含んでいる。引き出されたイオンビームは、例えば、300mmの半導体ウエハの注入を行うために約400mmの幅を有するリボン型イオンビームからなる。
【0018】
ビームラインアセンブリ11は、イオン源12の下流に配置され、イオン源からリボンビーム14を受け入れる。ビームラインアセンブリ11は、質量分析器22、減速システム26、偏向システム28を含むことができる。ビームラインアセンブリ11は、リボンビーム14を受け入れるために、経路に沿って配置されている。質量分析器22は、ビーム径路を横切って均一な磁界を発生させる一対の永久磁石を含み、この永久磁石は、それぞれのイオンの電荷質量比に従って変わる軌道において、イオンビーム14からのイオンを偏向する。ビーム径路に沿って所望質量の個々のイオンを指向させる力を与える磁界を介してイオンを移動させ、不必要な質量のイオンは、ビーム径路から離れるように偏向させる。
【0019】
ビームライン11は、さらに、リボンビームに関連するエネルギーを変えるために制御可能でかつ選択的に操作される減速モジュール26を含むことができる。例えば、リボンビームエネルギーにおいて、実質的な変更がない中間エネルギーでは、この減速モジュールは、リボンビームが実質的に変化しないで通過できるようにする。また代わりに、低いエネルギー利用(半導体における浅い接合を形成する場合)では、リボンビームのエネルギーを減速させる必要がある。このような状況では、減速モジュール26は、減速により所望のエネルギーレベルにリボンビームのエネルギーを減少させるように操作可能である。
【0020】
ビームラインは、さらに、例えば、加工物にイオン注入する前に減速させる低エネルギーシステムで使用するために、偏向システム28を含んでいる。この偏向システム28は、ビームライン軸線からイオンビームを離すように偏向するための偏向電極等を含み、これにより、リボンビーム(偏向磁界の存在により偏向することができない)から、エネルギー汚染物質として作用するかもしれない中性粒子を取り除く。
【0021】
エンドステーション30は、ビームラインアセンブリ11から、質量分析されかつ実質的に汚染が除かれたイオンビーム14を受け入れるためにシステム10内に設けられる。エンドステーション30は、リボンビーム14を用いるイオン注入のため(しかし、偏向器28による元のビームライン軸線からオフセットされている)ビーム経路に沿って半導体ウエハ(図示略)等の1つ以上の加工物を支持する。このようなエンドステーションは、バッチシステムに用いることを考慮しており、その場合、多数の加工物がリボンビームを通過するように回転させるか、あるいは、単一の加工物を処理するエンドステーションにおいて、単一の加工物がリボンビームを通過するように走査されるか、またはビームが加工物を横切る形で走査される。
【0022】
図2において、例示的なイオン源200は、本発明に従って利用できる単純な形式で図示されている。電源及び制御システム等の詳細は、明確化かつ簡略化のために図示されていないことは理解されよう。さらに、リボン型ビームを発生する適当なイオン源は、本発明に従って使用できることも理解できよう。イオン源200は、長さ282及び幅284の大きなアスペクト比を有する細長いリボン型ビーム280を供給する。本例におけるビーム280は、制御装置の8つの磁石対50a、50bによって8つの部分、即ち、スライスに分割されている。これにより、ビーム280の密度分布は、特定の利用に対して調整することができる。1つの実施例では、ビーム長さ282は、約400mmであるので、300mmのターゲットウエハまたはフラットパネルディスプレイの単一走査による注入を容易にする。
しかし、適当な所望長さ282のビームを発生させることができる。更に、イオン源ハウジング204に設けた出口開口及び引出電極226のスリット230を適切な寸法にすることにより、適当な所望の幅284のビームを得ることもできる。さらに、引出電極226は、5つ以外の数の電極226を有する適当な形式で実現することができ、また、図示した電極226の寸法に適合させる必要もない。
【0023】
以下に詳細に記載されるように、引出電極は、使用される所望のドーパント種に基づく異なる電位にバイアスされた制御回路に接続して使用することができる。例えば、P型不純物が注入のために必要な場合、ボロンを含むイオン源ガスが用いられ、そして、複数の引出電極は、制御回路によって加えられる所定組の電位で形作られる。その結果、引き出されたボロンイオンのエネルギーは、適切な質量分析に対して所定レベルとなる。同様に、N型不純物が注入のために必要な場合、砒素を含むイオン源ガスが用いられる。この場合、制御回路は、異なる電圧で引出電極を形作り、その結果、引き出されたビームエネルギーは、適当な質量分析に対して異なる所定レベルとなる。さらに、理解できるように、質量分析器に永久磁石を用いると、その磁界強さは、ほぼ一定であり、引き出し電極を介して質量分析器に進入するビームエネルギーを変えることによって、異なる形式のドーパントに対する質量分析システムの調整を実行することができる。
【0024】
一般的に、イオン源200は、イオン源室204と同軸配置された導電要素206を含んでいる。この要素206に供給されるRFエネルギーによって、荷電された粒子を活性させる電界を生じさせる。この加速された荷電粒子は、イオン源質内に導かれたイオン源ガス原子と衝突して、イオン化され、そしてプラズマを形成する。このイオンは、引出電極226を介してイオン源室204から引き出される。
【0025】
図3は、一定の速度で移動する電荷イオン/ドーパントを含むビームに働く磁界の影響を示している。一般的に、磁界は、ローレンツ力の公式F=q(v×B)に従ってビーム内のイオンを偏向させる。
ここで、電荷は、磁界ベクトルBによって示される磁界の存在下で、速度ベクトルvで示された方向の速度で移動し、力ベクトルFによって示された方向を有する値である。特に、図3に示すように、ビーム内のイオン320が、正に帯電しかつZ方向に速度Vで移動し、磁界がイオンの移動する方向に直交するX方向に向いていると、力は、イオンをYの負方向に働く。即ち、この例では図中、下向に作用する。
【0026】
本発明の質量分析器に対する磁界がビーム内のイオンを偏向させるので、この磁界は、ビームを横切ってできるだけ均一になることが望ましい。また、リボン型またはリボン状ビームを用いる時、磁界がこのビームの全体の幅を横切ることが望ましい。リボンビームが300mmの半導体ウエハを横切って走査される1つの実施形態では、リボンビームは、300mm幅よりも大きく、かつリボンビームのエッジでの歪を最小にするために、磁界は、リボンビームの幅より実質的に大きい距離にわたって均一となることが望ましい。一般的に、磁石によって必要とされる、費用、複雑化、容積、電力等のために、このような距離に渡り均一な磁界を発生させる電磁石を用いることは難しい。従って、本発明は、均一な磁界を発生させる永久磁石を用いている。
【0027】
今度は、図4を参照すると、質量分析システム400を有するリボンビームの引き出しが、本発明の構成に従って図示されている。このシステム400は、ビーム径路内に均一な磁界を供給する永久磁石を用いて、イオンビームから所定のエネルギーに対する所定の電荷質量比を有する所望のイオンを選択する。
【0028】
イオン源(図示略)は、例えば、プラズマ源と電源を用いることによって多数種のイオンを発生させる。これらのイオン種は、例えば、正のボロンイオン(B+)および正のフッ化物イオン(F+)、正の燐イオン(P+)、および正の水素イオン(H+)、および同等物を含むことができる。イオン源は、選択されたイオン種を発生できる適当な入力ガスで、選択されたイオン種は、以下のものに限定するものではないが、砒酸塩(As5)、三フッ化硼素(BF3)、五フッ化燐(PF5)、ジボラン(B26)、ホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)、および同等物を含む。
従来のリボン型イオン注入機は、本発明の質量分析器を欠いているので、一般的に、ジボラン(B26)、ホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)等の水素を含有するガスに限定される。イオン源ガスおよび電源の選択は、イオン源によって発生されるイオン種を少なくとも部分的に決定する。三極管引き出しシステム401は、イオン源から選択されたイオン種を引き出し、それらをイオンビーム410として質量分析器に向けて加速する。イオンビーム410は、比較的大きい幅を有するリボン型ビームである。イオンビーム410の例示的な幅は、(単一通路において、ウエハを覆うのに十分な)約400mmである。引き出されたイオンのエネルギーは、注入により変えることができるが、一般的にかなり低い(例えば、500keV)。本発明は、他のイオン/ドーパントおよび/または他のエネルギー値を含んでいることを理解してほしい。
【0029】
質量分析器412は、イオンビーム410内の所望の/選択されたイオン種408を維持しながら、拒絶されたイオン種406を除去するようにイオンビーム410を作動させる。さらに、質量分析器は、水素等の望まない他の汚染物質をビームから取り除くことができる。このような汚染物質の除去は、実質的にまたはかなり電力の節約につながる。例えば、従来のリボン型イオン注入システムは、90%以上のイオンビームに水素を含んでおり、それゆえ、かなりの電力を消費する。ここで、不要なドーパント/イオン種という用語を用いたのは、所定のエネルギーに対する望まない電荷質量比を有するイオン種のイオン、または、初期のイオン源ガスに用いられる水素または他の要素等の望まないイオン種のイオンを含むことを意味していることに注目してほしい。さらに、所望のイオン種は、ここでは、望ましい電荷質量比を有するイオンであるが、このような電荷質量比が所定のイオンエネルギーを有するものであると理解すべきである。言い換えれば、質量分析器412は、予め決められた質量エネルギーを有するイオンが通過するように選択される。
【0030】
質量分析器412は、イオンビーム410の予想径路に沿って互いに対向配置された第1永久磁石402と第2永久磁石403を含んでいる。磁石402,403は、イオンビーム410の厚さ方向に配置され、イオンビーム410から拒絶されたイオン種406および汚染物質を選択的に取り除くように、所望の、ほぼ均一な磁界414が、イオンビーム410の最も広い部分を横切るように与えられる。イオンビーム410が通過する磁界の長さ405は、比較的短く(例えば約5cm)、これは、ドリフト領域と呼ばれている。
磁界の強さは、永久磁石402,403の大きさおよび組成による。電磁石に対向するように、永久磁石は、ほぼ一定の磁界を与える。更に、この磁界414の向きと方向は、永久磁石402,403の位置および向きによる。ここで、磁界414は、紙面を貫く方向に描かれている。永久磁石402,403は、矩形状に描かれているが、湾曲したイオンビーム径路を与えるように湾曲させることもできる。
【0031】
電磁石による質量分析器と異なり、永久磁石によって発生する磁界は、変化させることができない。引出制御システム416は、三極管引出システム401を制御し、そして、イオン源から出て質量分析器412内に入るイオンのエネルギーと速度を調整することによって異なるイオンを選択する。引き出し制御システム416は、イオンに対して適切なエネルギーを達成するために、三極管引出システム401内の電極を調整する(例えば、システムに関連した1つ以上の電極に印加電圧を変える)ために用いることができる。
【0032】
質量分析器412によって処理された後、イオンビーム410は、ポスト加速電極404を介して移動する。この電極404は、イオンビーム410内に残留するイオン/ドーパントを所望の/選択されたエネルギーレベルに加速または減速する。個々の電極は、電界がイオンビーム径路を横切って垂直に加えられるように選択された電圧にバイアスされている。電界の極は、イオンビーム内のイオンの極性と共に、加速または減速のいずれかを実行するかによって決定される。続いて、イオンビーム410は、エンドステーションで1つ以上のウエハに向けて方向付け/偏向される。これにより、所望のイオン種408およびエネルギーでイオン注入される。イオンのエネルギーは、注入によって変えられるが、ボロンに対する一般的なエネルギー値は、約1〜10keVであり、砒素の場合のエネルギー値は、約1.5keVである。
【0033】
コンポーネントにおける適当な変更は、質量分析器が1つ以上のイオン種を選択し、そして、イオンビームから不要なイオン種および汚染物質を除去するために永久磁石を用いる限り、本発明に従うものであると思料できることを理解してほしい。例えば、三極管引出システム401は、イオン源の一部として形作ることができる。別の例として、質量分析器412は、三極管引出システム401と共に一体化することができる。
【0034】
図4から図5に続く、質量分析器412の図が、本発明の構成に従って提供されている。この図4では、第1永久磁石402と第2永久磁石403の間を移動するイオンビーム410が描かれている。イオンビーム410内の粒子は、図示する方向(紙面の外に向けて)に速度vで(粒子のエネルギーによって)移動している。永久磁石402,403は、図示する方向(右側)にほぼ均一な磁界Bを与えるようにそれぞれの磁極を有して配置されている。上述したように、磁界は、ローレンツ力の公式F=q(v×B)に従ってビーム内のイオンを偏向させる。
【0035】
ここで、電荷は、磁界ベクトルBによって示される磁界の存在下で、速度ベクトルvで示された方向の速度で移動し、力ベクトルFによって示された方向を有する値である。その結果、粒子(ドーパント/イオン)は、正に荷電され、力Fは、図示するように粒子を下方に偏向させる。この力Fの強さは、磁界Bの強さに依存する。
【0036】
図6は、イオンビーム410が本発明の構成に従って移動する湾曲経路を形成する質量分析器412を図示している。ここで、磁石402,403は、僅かに湾曲して描かれている。この湾曲は、イオンビームが磁界Bと力Fによって曲げられて移動することを補償するように設けられている。選択された/所望の質量(または質量エネルギー)を有するイオン/粒子が、いずれの磁石にも衝突することなく質量分析器412を通過する。
選択されたイオン種の質量よりも大きい質量(または質量エネルギー)を有する粒子/イオンは、第1永久磁石402に衝突し、一方、選択されたイオン種の質量より小さい質量(または質量エネルギー)は、第2永久磁石403に衝突する傾向にある。それゆえ、不必要なイオン種および/または汚染物質が取り除かれる。
【0037】
上述の構成および上記および以下に記載する機能的特徴により、本発明の構成に従う方法は、図1〜6に関連して理解できるであろう。説明を単純化するために、図7〜8の方法は、順次実行するように図示されており、本発明は説明される順序に制限されるものではなく、本発明に従って、ここに図示されかつ記載される他の構成に一致および/または異なる順序で起こるいくつかの構成が可能であることが理解できよう。さらに、本発明の構成に従う方法を実行するために、図示されていない特徴を必要とすることもできる。
【0038】
図7は、本発明の構成に従うリボン型イオンビームを発生される方法700を説明する流れ図である。この方法700は、リボン型イオンビームを発生されるために、所定エネルギーに対して予め決められた電荷質量比のイオンを選択するように作動できる。
【0039】
方法700は、ブロック702において、多数のイオン種を構成するイオンビームが選択された入力源ガスおよび電源から発生する。このイオン源は、複数のイオン種および/または汚染物質を含んでいる。ブロック704において、リボンイオンビームは、イオン源から発生/引き出される。三極管引出システム等の引き出しシステムは、イオンを引出してイオンビームをリボン型(例えば、広い幅寸法は、短い厚さ寸法よりも長い)に形作るのに用いられる。さらに、イオンビームは、ビーム内の粒子が互いに平行となるように形成される。
【0040】
除去されるイオン種および/または汚染物質は、ブロック706において、質量分析器に基づく永久磁石を介して選択された/所望のイオン種を残してイオンビームから取り除かれる。
物理的に、質量分析器は、引き出しシステムの一部を構成する。質量分析器は、互いに対向して配置される一対の永久磁石を含み、リボン型イオンビームの径路を横切って選択された強さおよび方向のほぼ均一な磁界を与えるように形作られる。イオンビーム内の粒子は、永久磁石間の磁界を通って移動するので、磁界による力が粒子に加えられる。
所定のエネルギーに対する電荷質量比(選択されたイオン種の電荷質量比に一致する)の選択された範囲から外れた粒子は、イオンビーム径路から発散する方向に向かう。その結果、選択された範囲内の質量を有する選択されたイオン種だけが、イオンビーム径路に沿っておよび質量分析器を通過して移動する。
【0041】
ブロック708において、イオンビームは、加速システムを介して所望のまたは選択されたエネルギーに加速または減速される。この加速システムは、イオンビーム内の粒子を加速または減速する電界を発生させるように選択された電圧にバイアスされた多数の電極を含んでいる。続いて、イオンビームは、ブロック710において、エンドステーションに位置するターゲットウエハに向けて偏向される。上述のような偏向システムは、一般的に、イオンビームを適当に方向付けるように用いられる。このイオンビームは、1つ以上のウエハにイオン注入を実行するために用いることができる。一般的に、発生したイオンビームは、単一パスで所望の注入を実行できる幅およびアスペクト比を有する。例えば、イオンビームの幅は、300mm径のウエハに対して300mmよりも大きい。
【0042】
図8は、本発明の構成に従う特定の注入用のリボンビーム型イオン注入システムを形成する方法800である。この方法800は、本発明の質量分析器に用いる永久磁石によって、この質量分析器を用いない従来形式のシステムにおいて、使用されるイオン源材料の中から、より多くの選択が可能になることを示している。
【0043】
方法800は、ブロック802において、イオン注入のためのイオン種/ドーパント、エネルギー、および注入角度が選択される。さらに、発生されるリボンビームに対して、選択された幅およびアスペクト比を選択または決定する。ブロック804において、他の1つ以上のイオン種と同様に選択されたドーパントを少なくとも供給する入力ガスが選択される。ブロック805において、イオン源に関連した引出電極は、所望のイオン種/ドーパントに基づいて構成される。例えば、所望のドーパントが、ボロン等のP型不純物である場合、この情報は、所定組の電位に引出電極をバイアスするのに用いられ、その結果、引き出されたイオンは、質量分析器に入来するための所定のエネルギーを有する。
【0044】
上述したように、永久磁石を用いる質量分析器は、選択された磁界を発生させ、これにより、ブロック806において、磁界を通過するイオンビームを横切って、選択された大きさの力が加わる。さらに、選択されたドーパント/イオン種が質量分析器を通過するように、質量分析器を回転および/または再配置することができる。質量分析器は、固定の磁界を有するので、入来するイオンのエネルギーは、システムを調整することを指示する。それは、システムの質量エネルギーが一定であるからである。次に、加速システムの電極は、ブロック808において、イオンビーム内の粒子に適当な大きさの加速または減速を与えるような電圧にバイアスされ、所望の注入エネルギーを達成する。最後に、ブロック810において、選択されたエネルギー、注入角度、および選択されたドーパントを用いて、イオン注入が実行される。
【0045】
永久磁石は、一定の、均一な磁界をギャップ間に生じさせるものであり、それゆえ、電磁石型の質量分析器と異なるので、磁界の強さを変えることによって、異なるイオン種またはイオンを選択するように質量分析器を調整することができないことに注目してほしい。
この代わり、本発明は、システムのための質量エネルギーが一定なので、所望質量のイオンを得るために、イオン源から引き出されたイオンのエネルギーを変化させて、質量分析システムの調整を実現する。
【0046】
本発明を1つ以上の実施形態に関して図示しかつ説明してきたが、この明細書と添付された図面とを読んで理解すると他の当業者にも同等の変更や修正が行われるものと理解されよう。特に上述の構成要素(アセンブリ、装置、回路、システム等)によって実行される種々の機能に関して、そのような構成要素を説明するのに使用される用語(「手段」に対する参照を含めて)は、他に表示されていなければ、たとえ開示された構成に構造的に同等でなくても本発明のここで図示された例示的実施においてその機能を果たせば、説明された構成要素の特定された機能を実行する(即ち、機能的に同等である)いずれかの構成要素に相当するものと意図されている。
【0047】
更に、本発明の特定の特徴が幾つかの実施の内のただ一つに対して開示されてきたが、そのような特徴は、いずれかの或る又は特定の用途にとって望ましくかつ有利な他の実施形態における一つ以上の特徴と組み合わされ得るものである。更に、「含む」、「含んでいる」、「有する」、「有している」及びそれらの変形が詳細な説明か特許請求の範囲のいずれかで使用されている限り、これらの用語は、用語の『構成されている』と同様に内包的であると理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の構成に従う例示的なイオン注入システムを説明するブロック図である。
【図2】本発明の構成に従う例示的なイオン源を説明する斜視図である。
【図3】イオンビームに対する磁界の影響を説明するための図である。
【図4】本発明の構成に従う質量分析器に用いるリボンビームの引き出しを説明するための図である。
【図5】本発明の構成に従う質量分析器を説明する図である。
【図6】本発明の構成に従う別の質量分析器を説明する図である。
【図7】本発明の構成に従うリボン型イオンビームを発生させる方法を説明するための流れ図である。
【図8】本発明の構成に従う特定の注入のためのリボン型イオンビームシステムを形作るための方法を説明する流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源材料から複数のイオン種を発生させるために使用可能なイオン源と、
前記イオン源から前記イオン種を引き出して、リボン型イオンビームを発生させるように構成された引き出しシステムと、
第1永久磁石と第2永久磁石を含み、リボン型イオンビームのビーム径路を横切るほぼ均一の磁界を発生させ、かつ前記リボン型イオンビームにおいて最初に存在する複数のイオン種から特定のイオン種を選択するための質量分析器と、を含むことを特徴とするリボンビーム型イオン注入システム。
【請求項2】
前記ビーム径路に沿って配列され、前記質量分析器の後でイオンビームを加速または減速させて、所定のイオン注入用エネルギーレベルとなるように動作する加速システムを更に含むことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記引き出しシステムは、収束するビームを生じさせる三極管引出システムであることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記引き出しシステムによって引き出されたイオンビームは、比較的低いレベルのエネルギーであることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項5】
比較的低いレベルのエネルギーは、約500eVであることを特徴とする請求項4記載のシステム。
【請求項6】
前記質量分析器によって発生した磁界の範囲は、イオンビームが通過する軌跡の約5
cmの長さを有することを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記磁界は、リボン型イオンビームの厚さ寸法を貫く方向に向けられていることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項8】
前記磁界は、急速に減衰するフリンジを有するとともに磁界の強さが大きいことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項9】
前記複数の種は、B+、F+、BF1+、及びBF2+を含み、選択された種は、B+またはBF2+であることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項10】
前記複数の種は、P+及びH+を含み、選択された種は、P+であることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項11】
イオン源材料は、三フッ化硼素(BF3)からなることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項12】
イオン源材料は、五フッ化燐(PF5)からなることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項13】
イオン源材料は、砒酸塩(As5)からなることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項14】
イオンビームは、約300mmの幅を有することを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項15】
ウエハを有するエンドステーションを更に含み、イオンビームは、単一の経路内にあるウエハ上に選択されたイオン種を注入するように作動することを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項16】
前記引き出しシステムは、所望のイオン種を示す1つ以上の入力を受け入れ、前記1つ以上の入力に基づく引き出しシステムに関連した複数の電極に対して一組の所定電圧を出力するように作動可能な制御回路を含むことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項17】
前記一組の所定電圧は、前記質量分析器に進入するリボン型イオンビームの引き出しエネルギーを定めることを特徴とする請求項16記載のシステム。
【請求項18】
リボン型イオンビームからイオン種を選択して取り除く質量分析器であって、
リボンビーム径路の上方に配置された第1の永久磁石と、
前記リボンビーム径路の下方に配置された第2の永久磁石と、
リボン型イオン源に関連して、複数の異なるエネルギーでイオン源からリボン型イオンビームを引き出すように作動可能な引き出しシステムとを含み、
前記第1、第2の永久磁石が、磁石間を横切って通過するリボン型イオンビームを偏向させるように配置され、
前記引き出されたリボン型イオンビームのエネルギーが、所望のドーパント種の関数であることを特徴とする質量分析器。
【請求項19】
前記第1、第2の永久磁石は、前記リボンビーム径路に適合するように僅かに湾曲していることを特徴とする請求項18記載の質量分析システム。
【請求項20】
前記引き出しシステムは、所望のイオン種を示す1つ以上の入力を受け入れ、前記1つ以上の入力に基づく引き出しシステムに関連した複数の引出電極に対して一組の所定電圧を出力するように作動可能な制御回路を含むことを特徴とする請求項19記載の質量分析システム。
【請求項21】
リボン型イオンビームを発生させる方法であって、
イオン源から複数のイオン種を発生させ、
短い厚さ寸法と広い幅寸法を有し、かつ前記幅寸法は前記厚さ寸法より長くなっているリボン型イオンビームを形成するように、前記複数のイオン種を引き出し、
質量分析器に設けられた永久磁石を介してイオンビームの複数のイオン種から1つの種を選択して他の種を排除する、各ステップを有することを特徴とする方法。
【請求項22】
前記イオン種を選択した後、前記イオンビームを所望のエネルギーレベルに加速/減速するステップを更に含むことを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項23】
エンドステーションにおいて、ターゲットウエハに向けて前記イオンビームを指向させるステップをさらに含むことを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項24】
単一の径路内でイオンビームを用いて前記ターゲットウエハにイオン注入を実行するステップを更に含み、前記ターゲットウエハは、約300mmの直径を有し、前記イオンビームの幅寸法は、約300mmよりも大きいことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記イオン種は、前記永久磁石の短い厚さ寸法を横切ってイオンビームを偏向する永久磁石を介して磁界を作用させることによって選択されることを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項26】
前記複数のイオン種を引き出すステップは、前記選択されたイオン種を識別し、さらに、前記引き出されたリボン型イオンビームが前記選択されたイオン種の関数であるエネルギーを有するように、一組の所定電圧を用いて引出電極を構成することを特徴とする請求項21記載の方法。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2007−507077(P2007−507077A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−528123(P2006−528123)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/030996
【国際公開番号】WO2005/031787
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(500266634)アクセリス テクノロジーズ インコーポレーテッド (101)
【Fターム(参考)】