説明

赤外線センサ及びこれを備えた回路基板

【課題】 測定対象物以外からの輻射熱の干渉を受け難くし、また周辺装置からの熱の影響を受け難くして、検出精度を改善することができる赤外線センサ及びこれを備えた回路基板を提供すること。
【解決手段】 絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2の一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bと、絶縁性フィルム2の一方の面に形成され第1の感熱素子3Aに接続された導電性の第1の配線膜4A及び第2の感熱素子3Bに接続された導電性の第2の配線膜4Bと、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6と、を備え、絶縁性フィルムに、第1の感熱素子および第2の感熱素子の周囲に第1の配線膜および第2の配線膜を避けて延在する長孔部2aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物からの赤外線を検知して該測定対象物の温度等を測定する赤外線センサ及びこれを備えた回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物から輻射により放射される赤外線を非接触で検知して測定対象物の温度を測定する温度センサとして、赤外線センサが使用されている。
例えば、特許文献1には、保持体に設置した樹脂フィルムと、該樹脂フィルムに設けられ保持体の導光部を介して赤外線を検知する赤外線検知用感熱素子と、樹脂フィルムに遮光状態に設けられ保持体の温度を検知する温度補償用感熱素子と、を備えた赤外線センサが提案されている。この赤外線センサでは、導光部の内側面に赤外線吸収膜を形成すると共に、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させて赤外線の吸収を高めている。
【0003】
また、特許文献2には、赤外線検知用感熱素子と、温度補償用感熱素子と、これらを密着固定する樹脂フィルムと、赤外線の入射窓側に赤外線検知用感熱素子を配置すると共に赤外線を遮蔽する遮蔽部側に温度補償用感熱素子を配置した枠体を有するケースと、を備えた赤外線検出器が提案されている。この赤外線検出器では、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させて赤外線の吸収を高めていると共に、赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子との熱勾配を無くすために熱伝導の良い材料で枠体を形成している。また、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子には、リード線がサーミスタに接続された松葉型のサーミスタが採用されている。
【0004】
これら特許文献1及び2の赤外線センサでは、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させると共に一方の感熱素子側を温度補償用に遮光する構造が採用されているが、赤外線吸収材料を含有した樹脂フィルムの熱伝導が高く、赤外線検知用と温度補償用との感熱素子間で温度差分が生じ難いという不都合があった。また、これら感熱素子間で温度差分を大きくするためには、感熱素子間の距離を大きくする必要があり、全体形状が大きくなってしまい、小型化が困難になる問題がある。さらに、温度補償用の感熱素子を遮光する構造をケース自体に設ける必要があるため、高価になってしまう。
また、特許文献2では、熱伝導の良い枠体を採用しているため、赤外線吸収膜からの熱も放熱されてしまい感度が劣化する不都合がある。また、リード線が接続された松葉型のため、サーミスタとリード線との間で熱の空間伝導が生じてしまう。
さらに、一方の感熱素子について赤外線を筐体で遮光する構造を採用しているが、赤外線を遮っているだけで遮蔽部分が赤外線を吸収してしまい、遮蔽部分の温度が変化してしまうことからリファレンスとして不完全となってしまう不都合があった。
【0005】
そのため、特許文献3に示すように、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、絶縁性フィルムの一方の面に形成され第1の感熱素子及び第2の感熱素子に別々に接続された複数対の導電性の配線膜と、第1の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、第2の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜とを備えている赤外線センサが開発されている。
【0006】
この赤外線センサでは、赤外線吸収膜による部分的な赤外線吸収と赤外線反射膜による部分的な赤外線反射とにより、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルム上で第1の感熱素子と第2の感熱素子との良好な温度差分を得ることができる。すなわち、フィルムに赤外線吸収材料等を含有させていない低熱伝導性の絶縁性フィルムでも、赤外線吸収膜によって絶縁性フィルムの第1の感熱素子の直上部分のみに赤外線吸収による熱を伝導させることができる。特に、薄い絶縁性フィルムを挟んで赤外線吸収膜の熱が伝導されるため、感度の劣化がなく、高い応答性を有している。また、赤外線吸収膜の面積を任意に設定可能であるため、測定対象物との距離に合わせた赤外線検出の視野角を面積で設定でき、高い受光効率を得ることができる。また、赤外線反射膜によって絶縁性フィルムの第2の感熱素子の直上部分における赤外線を反射してその吸収を阻止することができる。なお、絶縁性フィルム上に赤外線吸収膜と赤外線反射膜とを形成しているので、赤外線吸収膜と赤外線反射膜との間の熱を伝導する媒体が、空気以外にこれら膜が対向した間の絶縁性フィルムのみとなり、伝導する断面積が小さくなる。したがって、相互の感熱素子への熱が伝わり難くなり、干渉が少なくなって検出感度が向上する。このように、低熱伝導性の絶縁性フィルム上で互いに熱の影響が抑制された第1の感熱素子と第2の感熱素子とが、それぞれ赤外線吸収膜の直下と赤外線反射膜の直下との絶縁性フィルムの部分的な温度を測定する構造を有している。したがって、赤外線検知用とされる第1の感熱素子と温度補償用とされる第2の感熱素子との良好な温度差分を得られ、高感度化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−156284号公報(段落番号0026、図2)
【特許文献2】特開平7−260579号公報(特許請求の範囲、図2)
【特許文献3】特開2011−13213号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献3の赤外線センサでは、第1の感熱素子と第2の感熱素子との良好な温度差分を得られ、高感度化を図ることができるが、赤外線の吸収熱が樹脂性フィルム全体に伝わり、周囲の干渉を受けやすい、また周囲装置からの熱の影響を受けやすいという不都合があった。そのため、これらの影響を抑制して測定対象物の温度をさらに高感度かつ高精度に検出可能な赤外線センサが要望されていた。
【0009】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、測定対象物以外からの輻射熱の干渉を受け難くし、また周辺装置からの熱の影響を受け難くして、検出精度を改善することができる赤外線センサ及びこれを備えた回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明の赤外線センサは、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜とを備え、前記絶縁性フィルムに、前記第1の感熱素子および前記第2の感熱素子の周囲に前記第1の配線膜および前記第2の配線膜を避けて延在する長孔部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
この赤外線センサでは、絶縁性フィルムに、第1の感熱素子および第2の感熱素子の周囲に第1の配線膜および第2の配線膜を避けて延在する長孔部が形成されているので、第1の感熱素子上の赤外線吸収領域から周囲への熱の伝導が長孔部により遮断され、測定対象物からの輻射熱を熱隔離して効率良く蓄えることができる。また、測定対象物からの輻射熱によって温度分布が乱されないように、周辺装置からの熱の影響を受けた部分からの熱伝導を長孔部で遮断して影響を抑制することができる。
【0012】
また、第2の発明の赤外線センサは、第1の発明において、前記絶縁性フィルムに、前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子との間に前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子とを仕切る方向に延在する中間長孔部が形成されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、絶縁性フィルムに、第1の感熱素子と第2の感熱素子との間に第1の感熱素子と第2の感熱素子との間を仕切る方向に延在する中間長孔部が形成されているので、第1の感熱素子が実装される赤外線吸収領域と第2の感熱素子が実装される赤外線反射領域との間の絶縁性フィルムによる熱伝導を中間長孔部で遮断して互いに熱隔離することで、さらに大きな温度差分を得ることができる。
【0013】
また、第3の発明の赤外線センサは、第1または第2の発明において、前記第1の配線膜が、前記第1の感熱素子の周囲にまで配されて前記第2の配線膜よりも大きな面積で形成されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、第1の配線膜が、第1の感熱素子の周囲にまで配されて第2の配線膜よりも大きな面積で形成されているので、絶縁性フィルムの赤外線を吸収した部分からの熱収集を改善すると共に、絶縁性フィルムの赤外線反射膜が形成された部分と熱容量が近づくので、変動誤差を小さくすることができる。なお、第1の配線膜の面積及び形状は、絶縁性フィルムの赤外線反射膜が形成された部分と熱容量がほぼ等しくなるように設定することが好ましい。
【0014】
第4の発明の回路基板は、第1から第3の発明のいずれか一つの赤外線センサと、前記絶縁性フィルム上に形成された回路部とを備えていることを特徴とする。
すなわち、この回路基板では、上記本発明の赤外線センサと、前記絶縁性フィルム上に形成された回路部とを備えているので、赤外線センサと共にその制御回路等の回路部とが同一フィルム上に一体化されることで、全体の小型化及び低コスト化が可能になる。また、回路部で生じた熱が第1の感熱素子および第2の感熱素子へ伝わることを、長孔部により遮断するため、回路部で発生する熱の温度検出への影響も抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る赤外線センサ及びこれを備えた回路基板によれば、絶縁性フィルムに、第1の感熱素子および第2の感熱素子の周囲に第1の配線膜および第2の配線膜を避けて延在する長孔部が形成されているので、長孔部により測定対象物からの輻射熱を熱隔離して効率良く蓄えることができると共に、周辺装置からの熱の影響を抑制することができる。これにより、さらなる高感度化および高精度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る赤外線センサの第1実施形態を示す平面図および底面図である。
【図2】第1実施形態において、第1の感熱素子が接着された部分(a)と第2の感熱素子が接着された部分(b)とを示す要部の拡大正面図である。
【図3】本発明に係る第2実施形態の回路基板を示す平面図および底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る赤外線センサの第1実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0018】
本実施形態の赤外線センサ1は、図1及び図2に示すように、絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2の一方の面(下面)に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bと、絶縁性フィルム2の一方の面に形成され第1の感熱素子3Aに接続された導電性金属膜である一対の第1の配線膜4A及び第2の感熱素子3Bに接続された導電性金属膜である一対の第2の配線膜4Bと、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6とを備えている。
【0019】
一対の第1の配線膜4Aは、その一端部にそれぞれ絶縁性フィルム2上に形成された一対の第1の接着電極5Aを有していると共に、他端部にそれぞれ絶縁性フィルム2上に形成された一対の第1の端子電極7Aが接続されている。
また、一対の第2の配線膜4Bは、線状に形成されており、その一端部にそれぞれ絶縁性フィルム2上に形成された一対の第2の接着電極5Bを有していると共に、他端部にそれぞれ絶縁性フィルム2上に形成された一対の第2の端子電極7Bが接続されている。
【0020】
一対の第1の接着電極5Aは、第1の感熱素子3Aの周囲にまで配されて第2の接着電極5Bよりも大きな面積で形成されている。これらの第1の接着電極5Aは、一対の略中央に第1の感熱素子3Aを配し、一対で赤外線反射膜6と略同じ面積に設定されている。すなわち、第1の接着電極5Aは、絶縁性フィルム2の赤外線反射膜6が形成された部分と熱容量がほぼ等しくなるように設定している。
【0021】
なお、上記第1の接着電極5A及び第2の接着電極5Bには、それぞれ第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの端子電極3aが半田等の導電性接着剤で接着される。
また、上記第1の端子電極7A及び第2の端子電極7Bは、外部の回路との接続を行うための電極である。
【0022】
上記絶縁性フィルム2は、ポリイミド樹脂シートで形成され、赤外線反射膜6、第1の配線膜4A及び第2の配線膜4Bが銅箔で形成されている。すなわち、これらは、絶縁性フィルム2とされるポリイミド基板の両面に、赤外線反射膜6、第1の配線膜4A及び第2の配線膜4Bとされる銅箔のフロート電極がパターン形成された両面フレキシブル基板によって作製されたものである。
【0023】
この絶縁性フィルム2には、第1の感熱素子3Aおよび第2の感熱素子3Bの周囲に第1の配線膜4Aおよび第2の配線膜4Bを避けて延在する一対の長孔部2aが形成されている。これらの長孔部2aは、互いに対向させてコ字状にくり抜いた溝であり、互いの間の領域が、第1の感熱素子3Aおよび第2の感熱素子3Bが実装されると共に、第1の配線膜4A、第2の配線膜4Bおよび赤外線反射膜6が形成される中央実装領域とされる。なお、互いに対向する一対の長孔部2aの端部間は、第1の配線膜4Aおよび第2の配線膜4Bが通る配線領域とされると共に、中央実装領域の支持部となっている。
【0024】
さらに、絶縁性フィルム2には、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの間に第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとを仕切る方向に延在する中間長孔部2bが形成されている。すなわち、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの間であって第1の接着電極5Aと第2の接着電極5Bとの間に、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとを結ぶ線に対して直交する方向に延在した直線状の中間長孔部2bが、一対のコ字状の長孔部2aの間に形成されている。
【0025】
さらに、上記赤外線反射膜6は、図1の(a)に示すように、第2の感熱素子3Bの直上に四角形状で配されており、銅箔と、該銅箔上に積層された金メッキ膜とで構成されている。この場合、金メッキ膜が、銅箔の酸化防止膜として機能すると共に赤外線の反射率を向上させることができる。なお、絶縁性フィルム2の下面には、第1の端子電極7A及び第2の端子電極7Bを除いて第1の配線膜4A及び第2の配線膜4Bを含む下面全体を覆うポリイミド樹脂のカバーレイ(図示略)が形成されている。
【0026】
この赤外線反射膜6は、絶縁性フィルム2よりも高い赤外線放射率を有する材料で形成され、上述したように、銅箔上に金メッキ膜が施されて形成されている。なお、金メッキ膜の他に、例えば鏡面のアルミニウム蒸着膜やアルミニウム箔等で形成しても構わない。この赤外線反射膜6は、第2の感熱素子3Bよりも大きなサイズでこれを覆うように形成されている。
【0027】
上記第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bは、図2に示すように、両端部に端子電極3aが形成されたチップサーミスタである。このサーミスタとしては、NTC型、PTC型、CTR型等のサーミスタがあるが、本実施形態では、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bとして、例えばNTC型サーミスタを採用している。このサーミスタは、Mn−Co−Cu系材料、Mn−Co−Fe系材料等のサーミスタ材料で形成されている。なお、これら第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bは、各端子電極3aを対応する第1の接着電極5A上又は第2の接着電極5B上に接合させて絶縁性フィルム2に実装されている。
【0028】
特に、本実施形態では、第1の感熱素子3Aおよび第2の感熱素子3Bとして、Mn,CoおよびFeの金属酸化物を含有するセラミックス焼結体、すなわちMn−Co−Fe系材料で形成されたサーミスタ素子を採用している。さらに、このセラミックス焼結体は、立方晶スピネル相を主相とする結晶構造を有していることが好ましい。特に、セラミックス焼結体としては、立方晶スピネル相からなる単相の結晶構造が最も望ましい。立方晶スピネル相を主相とする結晶構造を上記セラミックス焼結体に採用する理由は、異方性もなく、また不純物層がないので、セラミックス焼結体内で電気特性のバラツキが小さく、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとで高精度な測定が可能になるためである。また、安定した結晶構造のため、耐環境に対する信頼性も高い。
【0029】
このように本実施形態の赤外線センサ1では、絶縁性フィルム2に、第1の感熱素子3Aおよび第2の感熱素子3Bの周囲に第1の配線膜4Aおよび第2の配線膜4Bを避けて延在する長孔部2aが形成されているので、第1の感熱素子3A上の赤外線吸収領域から周囲への熱の伝導が長孔部2aにより遮断され、測定対象物からの輻射熱を熱隔離して効率良く蓄えることができる。また、測定対象物からの輻射熱によって温度分布が乱されないように、周辺装置からの熱の影響を受けた部分からの熱伝導を長孔部2aで遮断して影響を抑制することができる。
【0030】
また、絶縁性フィルム2に、第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの間に第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとの間を仕切る方向に延在する中間長孔部2bが形成されているので、第1の感熱素子3Aが実装される赤外線吸収領域と第2の感熱素子3Bが実装される赤外線反射領域との間の絶縁性フィルム2による熱伝導を中間長孔部2bで遮断して互いに熱隔離することで、さらに大きな温度差分を得ることができる。
【0031】
さらに、第1の配線膜4Aが、第1の感熱素子3Aの周囲にまで配されて第2の配線膜4Bよりも大きな面積で形成されているので、絶縁性フィルム2の赤外線を吸収した部分からの熱収集を改善すると共に、絶縁性フィルム2の赤外線反射膜6が形成された部分と熱容量が近づくので、変動誤差を小さくすることができる。
【0032】
次に、本発明に係る赤外線センサおよびこれを備えた回路基板の第2実施形態について、図3を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0033】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、絶縁性フィルム2に第1の感熱素子3Aと第2の感熱素子3Bとを実装した赤外線センサ1のみが設けられているのに対し、第2実施形態は、図3に示すように、絶縁性フィルム2に上記赤外線センサ1だけでなく、該赤外線センサ1に接続されたセンサ制御用の検出回路である回路部22も一体に設けられている回路基板21とされている点である。
【0034】
すなわち、第2実施形態の回路基板21は、上記赤外線センサ1と、絶縁性フィルム2上に形成され第1の配線膜4A及び第2の配線膜4Bに接続された回路部22とを備えている。この回路部22は、例えばオペアンプ等で構成された温度検出回路である。なお、第2実施形態では、第1の端子電極7A及び第2の端子電極7Bを絶縁性フィルム2の同じ端部に配置している。
【0035】
したがって、第2実施形態の回路基板21では、赤外線センサ1と、絶縁性フィルム2上に形成され第1の配線膜4A及び第2の配線膜4Bに接続された回路部22とを備えているので、赤外線センサ1と共にその検出回路等の回路部22とが同一フィルム上に一体化されることで、全体の小型化及び低コスト化が可能になる。
【0036】
また、回路部22のオペアンプ等で生じた熱が第1の感熱素子3Aおよび第2の感熱素子3Bへ伝わることを長孔部2aにより遮断するため、回路部22で発生する熱の温度検出への影響も抑制することができる。
なお、絶縁性フィルム2上に赤外線センサ1と共に形成される回路部22は、赤外線センサ1の検出回路以外の回路であっても構わないと共に、回路基板21も赤外線センサ専用基板だけでなく、他の回路基板と共用した基板でも構わない。
【0037】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0038】
例えば、上記各実施形態では、第1の感熱素子が赤外線を直接吸収した絶縁性フィルムから伝導される熱を検出しているが、第1の感熱素子の直上であって絶縁性フィルム上に赤外線吸収膜を形成しても構わない。この場合、さらに第1の感熱素子における赤外線吸収効果が向上して、第1の感熱素子と第2の感熱素子とのより良好な温度差分を得ることができる。すなわち、この赤外線吸収膜によって測定対象物からの輻射による赤外線を吸収するようにし、赤外線を吸収し発熱した赤外線吸収膜から絶縁性フィルムを介した熱伝導によって、直下の第1の感熱素子の温度が変化するようにしてもよい。
【0039】
この赤外線吸収膜は、絶縁性フィルムよりも高い赤外線吸収率を有する材料で形成され、例えば、カーボンブラック等の赤外線吸収材料を含むフィルムや赤外線吸収性ガラス膜(二酸化珪素を71%含有するホーケー酸ガラス膜など)で形成されているもの等が採用可能である。特に、赤外線吸収膜は、アンチモンドープ酸化錫(ATO)膜であることが望ましい。このATO膜は、カーボンブラック等に比べて赤外線の吸収率が良いと共に耐光性に優れている。また、ATO膜は、紫外線で硬化させるので、接着強度が強く、カーボンブラック等に比べて剥がれ難い。
なお、この赤外線吸収膜は、第1の感熱素子よりも大きなサイズでこれを覆うように形成することが好ましい。
【0040】
また、チップサーミスタの第1の感熱素子及び第2の感熱素子を採用しているが、薄膜サーミスタで形成された第1の感熱素子及び第2の感熱素子を採用しても構わない。
なお、感熱素子としては、上述したように薄膜サーミスタやチップサーミスタが用いられるが、サーミスタ以外に焦電素子等も採用可能である。
【0041】
また、絶縁性フィルムの一方の面に固定されて該絶縁性フィルムを支持する筐体を設け、該筐体に、第1の感熱素子及び第2の感熱素子をそれぞれ個別に収納すると共に絶縁性フィルムよりも熱伝導率の低い空気や発泡樹脂で覆う第1の収納部及び第2の収納部を設けても構わない。
【符号の説明】
【0042】
1…赤外線センサ、2…絶縁性フィルム、2a…長孔部、2b…中間長孔部、3A…第1の感熱素子、3B…第2の感熱素子、4A…第1の配線膜、4B…第2の配線膜、6…赤外線反射膜、21…回路基板、22…回路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルムと、
該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、
前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、
前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜とを備え、
前記絶縁性フィルムに、前記第1の感熱素子および前記第2の感熱素子の周囲に前記第1の配線膜および前記第2の配線膜を避けて延在する長孔部が形成されていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線センサにおいて、
前記絶縁性フィルムに、前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子との間に前記第1の感熱素子と前記第2の感熱素子との間を仕切る方向に延在する中間長孔部が形成されていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の赤外線センサにおいて、
前記第1の配線膜が、前記第1の感熱素子の周囲にまで配されて前記第2の配線膜よりも大きな面積で形成されていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線センサと、
前記絶縁性フィルム上に形成された回路部とを備えていることを特徴とする回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−211789(P2012−211789A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76766(P2011−76766)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】