説明

赤外線受発光部

【課題】赤外域の透過性を保持しつつ、任意の外観色を得ることができ、意匠設計上の自由度を拡大できる赤外線受発光部、赤外線受発光部の製造方法、及び赤外線受発光部を備えた電子機器を提供する。
【解決手段】電子機器の赤外光通信/制御ポートとして用いられるとともに前記電子機器を装飾する装飾用の赤外線受発光部は、赤外光(赤外信号光)を透過させる基材23と、基材23の外面に形成され、赤外信号光を透過させるとともに可視光を反射及び透過させる誘電体多層膜24とを備える。誘電体多層膜24は、可視光の波長域について反射率が透過率を上回る波長域と反射率が透過率を下回る波長域とからなるように設定されており、誘電体多層膜24によって反射された可視光の反射の光のみで外観を彩色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の電子機器に赤外光通信/制御ポートとして用いられる赤外線受発光部に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外光を使った赤外光通信方式は、通信線を用いる必要のない簡便な通信方式の一つとして、比較的短い位置に配置された電子機器間の通信に使用されている。例えば、赤外光通信は、TVやVTR等の家庭用電気製品の電源や音量等を遠隔制御するのに広く利用されてきた。最近では、赤外光通信は、各種の電子機器間における情報転送、情報交換を非接触で行う技術として注目されている。
【0003】
最近、デスクトップ・パソコン、ノート・パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)、電子手帳等の携帯型情報端末、デジタルカメラ等の各種の電子機器に、IrDA規格等の赤外光通信ポート(赤外線受発光部)が搭載されている。このような赤外光通信ポートを備えた電子機器間、例えばノート・パソコンと電子手帳等の携帯型情報端末との間では、情報転送や情報交換をケーブルレスで実現可能である。このような赤外線受発光部には、可視光線にも感度を有する受光素子の外乱光による誤動作を防止する目的と、機器内部が見えないように、赤外光のみを透過する暗色の樹脂が多用されてきた。
【0004】
ここで、「IrDA規格」とは、赤外光を使用した無線通信の標準化のための業界団体(Infrared・Data・Association:赤外光データ協会)が作成した赤外光データ通信の規格をいう。
【0005】
また、電子機器の筐体に設けられた窓部を塞ぐ透明プラスチック板を、その窓部に固定するのに用いられ、可視光を遮蔽し、赤外光を透過する両面粘着シートが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−226805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような暗色の樹脂を用いた赤外線受発光部では、外観の色が黒いために、電子機器の意匠上、機器全体と或いは組み合せる部品とそぐわない場合があり、意匠設計上の制約になるという問題があった。また、赤外線受発光部に赤外光を透過させる機能(赤外域の透過性)を持たせるとともに、可視域での赤外線受発光部の外観色を任意に変化させることは、着色剤の選定、開発或いは着色自体に煩雑さがあり、基材である透明プラスチックへの着色剤の添加では容易に実現できないという問題があった。つまり、赤外線受発光部の外観を任意の色に彩色することは、基材である透明プラスチックへの着色剤の添加や塗装などによって原理的には可能であるが、赤外域の透過性を保持しつつ、外観色を多種の色調に調整するのは極めて困難である。
【0007】
また、上記特許文献1に記載の両面粘着シートでは、両面粘着シートの外観色は、可視光を吸収するために暗色になる。このため、上述した暗色の樹脂を用いた赤外線受発光部の場合と同様の問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、その目的は、赤外域の透過性を保持しつつ、任意の外観色を得ることができ、意匠設計上の自由度を拡大できる赤外線受発光部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、電子機器の赤外光通信/制御ポートとして用いられるとともに前記電子機器を装飾する装飾用の赤外線受発光部であって、少なくとも赤外光を透過させる基材と、前記基材の外面及び内面の少なくとも一方に形成され、赤外光を透過させるとともに可視光を反射及び透過させる誘電体多層膜と、を備え、前記誘電体多層膜は、可視光の波長域について反射率が透過率を上回る波長域と反射率が透過率を下回る波長域とからなるように設定され、前記誘電体多層膜によって反射された可視光の反射の光のみで外観を彩色することを要旨とする。
【0010】
これによれば、少なくとも赤外光を透過する基材の外面及び内面の少なくとも一方に、赤外光を透過させるとともに可視光を反射させる誘電体多層膜を形成してある。このため、誘電体多層膜に持たせる可視域の分光反射特性を適宜選択することで、赤外域の透過性を保持しつつ、誘電体多層膜により反射される可視光の反射色を所望の色にすることができる。したがって、赤外域の透過性を保持しつつ、任意の外観色を得ることができ、意匠設計上の自由度を拡大できる。但し、可視外乱光の遮蔽に関しては前述の赤外透過暗色樹脂、赤外透過暗色印刷、赤外透過暗色塗料、可視遮蔽型受光素子などとの組み合せを行うことで、目的を損なうことなく所望の機能を実現することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、赤外域の透過性を保持しつつ、任意の外観色を得ることができ、意匠設計上の自由度を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態の説明において、同様の部材には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
まず、本発明に係る赤外線受発光部の基本構成及び原理について説明する。
【0013】
赤外線受発光部1は、図1に示すように、赤外光(赤外信号光)を透過させる基材2と、この基材2の外面に形成され、赤外光(赤外信号光)を透過させるとともに可視光を反射させる誘電体多層膜3とを有する。
【0014】
以下の説明において、誘電体多層膜3の外面(誘電体多層膜面3a)を表面とすると、その誘電体多層膜面3aと反対側の基材2の面を基材2の「裏面」と呼ぶ。また、基材2の裏面2aでの反射、つまり基材2の空気との界面で発生する反射については、誘電体多
層膜面3aの特性値に合算する反射が発生する場合は「裏面反射有り」と言い、その特性値に合算する反射が発生しない場合、つまり、その反射を無視する場合は「裏面反射無し」と言う。
【0015】
なお、基材2の屈折率を1.5とすると、基材2の空気との界面A,Bでは、図2に示すように、入射光の約4%の反射が発生する。
図3は、図1で説明した赤外線受発光部1を携帯型情報端末4のケース本体5に設けた開口部5aに取り付けた場合において、入射光ILが赤外線受発光部で反射される様子と、赤外線受発光部を透過する様子を示している。ここで入射光ILは室内照明、太陽光などの環境光である。なお、符号6は携帯型情報端末4のケース本体5内に設けられた受光素子等の部品である。
【0016】
(反射光a)入射光ILが誘電体多層膜面3aで反射される反射光a(表面での反射光)は、特定波長域の可視光が反射したものである。例えば、緑色の光が反射されると、緑色に見える。その反射光aの分光反射特性を図4(a)の曲線7で示す。図4(a)で、横軸は波長を、縦軸は反射率を示す。
【0017】
(反射光b)入射光ILのうち、誘電体多層膜面3aで反射された特定波長域の可視光の残りが誘電体多層膜3及び基材2を透過する。この透過光の一部は、図3の反射光bのように、空気との界面である基材2の裏面2aで4%程度反射されて、誘電体多層膜面3aから外部へ出射する。この反射光bの分光反射特性を図4(b)の曲線8で示す。図4(b)で、横軸は波長を、縦軸は反射率を示す。
【0018】
(反射光c)入射光ILのうち、裏面2aで反射された残りの光は、図3の反射光cのように、受光素子等の部品6の外面で反射されて、誘電体多層膜面3aから外部へ出射する。この反射光cの分光反射特性を図4(c)の曲線9で示す。但し、これら部品自体の分光反射特性は説明上、平坦であるものとして無視している。図4(c)で、横軸は波長を、縦軸は反射率を示す。
【0019】
外観色は、赤外線受発光部1の外面(誘電体多層膜面3a)で反射された反射光aと、その残りが裏面2aで反射された反射光bと、受光素子等の部品6の外面で反射された反射光cとが合成されて見える。つまり、図4(d)の太い曲線10は、反射光a、反射光b及び反射光cが合成された反射光の分光反射特性を示す。この曲線10で示す反射光が見える。このため、図4(d)から、反射光bと反射光cが少ない方が、外観色のコントラスト比が上がるのが分かる。
【0020】
例えば、基材2の裏面2aに、暗色で、赤外光を透過しかつ可視光を吸収する塗料を塗布する等して裏面2a側が黒色(黒塗装)の場合には、その裏面2aに入射する光はその塗料で吸収されて裏面2aからの反射光bと反射光cはほぼ0になる。この場合、図4(a)の曲線7で示すように、外観色は大半が誘電体多層膜面3aでの反射光aの色となり、外観色コントラスト比の大きい外観色が得られる。例えば、その反射光aが緑色の光が反射されたものであれば、外観色コントラスト比の大きい緑色の外観色が得られる。
【0021】
一方、裏面2aの黒い塗装を剥がすと、上記反射光bと反射光cが反射光aと合成されて外部に出射される。つまり、図4(d)の太い曲線10で示すような反射光a、反射光b及び反射光cが合成された反射光が出射される。この反射光は、全体としては白に近い色に見え、外観色コントラスト比の小さい外観色となり、その反射光の色がわかりにくくなる。
【0022】
(入射光ILの透過光)入射光ILのうち、誘電体多層膜面3aで反射された特定波長
域の可視光の残りが誘電体多層膜3及び基材2を透過し、その裏面2a側から出射する。入射光ILの透過光の分光透過特性を図4(e)の曲線11で示す。
【0023】
(透過光E1,E2)図3に示す透過光E1は、別の赤外投光部より入射する赤外光(赤外信号光)である。図3に示す透過光E2は、赤外光発光ダイオード等の発光素子から出射される赤外光(赤外信号光)で、基材2にその裏面2a側から入射し、基材2及び誘電体多層膜3を透過して外部へ出射する光である。
【0024】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る赤外線受発光部21を図5に基づいて説明する。
この赤外線受発光部21は、図5に示すように、電子機器としての携帯型情報端末22のケース本体に設けた開口部22aに取り付けられている。この赤外線受発光部21は、赤外光(例えば、900nm付近の赤外信号光)を使って他の電子機器との間で、情報転送や情報交換をケーブルレスで行う上述したIrDA規格等の赤外光通信ポートである。
【0025】
この赤外線受発光部21は、図5に示すように、赤外光(赤外信号光)を透過させる基材23と、基材23の外面に形成され、赤外信号光を透過させるとともに可視光を反射させる誘電体多層膜24とを備える。
【0026】
基材23は、例えば、ポリカーボネイト、アクリル等の樹脂材料で作られている。
基材23として、次のようなものが使用可能である。いずれの基材も、使用する赤外光の波長に対する透過性は必須である。
【0027】
(1)外面及び内面(裏面)がそれぞれ平滑な表面の透明な基材、
(2)透明な基材の外面及び内面のいずれか一方を梨地状に加工した摺りガラスのような半透明な基材、
(3)内部に散乱物質を分散させた乳白色の基材、
(4)暗色でかつ赤外光が透過する基材、
(5)透明な基材の内面(裏面)側に暗色でかつ赤外光が透過する塗料を塗るか印刷した不透明な基材。
【0028】
本実施形態では、基材23として、上記(1)の基材、つまり、アクリルで作られた透明な基材を用いる。
誘電体多層膜24は、低屈折材料の膜物質からなる薄膜と高屈折率材料の膜物質からなる薄膜とを交互に積層して成膜される。膜物質としては、金属酸化物、金属弗化物等から適宜選択した2種類或いは3種類の物質を使用することができる。この誘電体多層膜24は、赤外信号光の透過性を保持しつつ、所望の色の反射光、例えば、青色の反射光或いは黄色の反射光が得られるような可視域の分光反射特性を持つように作られている。なお、ここにいう「赤外信号光の透過性を保持」するとは、赤外信号光の透過率を高い値に保持することを意味する。
【0029】
また、赤外線受発光部21の内側には、赤外光(赤外信号光)を出射する赤外光発光ダイオードである発光素子25と、赤外信号光を受光する受光素子26とが、それぞれ基材23の内面に近接した位置に配置されている。赤外線受発光部21と、発光素子25と、受光素子26とにより、赤外信号光を使って他の電子機器との間で赤外光通信を行うための赤外光インターフェースが構成されている。ここでは説明の便宜上、受発光素子に前置される場合のある集光光学系や投受光を一つの素子で行う複合素子などは省略した。
【0030】
このような構成を有する赤外線受発光部21では、発光素子25から出射される赤外信号光(赤外光)30は、基材23及び誘電体多層膜24を透過し、外部へ放射される。そ
の赤外信号光30は、図3に示す上記透過光E2に相当する。外部から入射する赤外信号光31は、誘電体多層膜24及び基材23を透過し、基材23の裏面23aから出射して受光素子26で受光される。その赤外信号光31は、図3に示す上記透過光E1に相当する。一方、赤外線受発光部21に入射する可視光32の一部は誘電体多層膜24で反射され、反射光33となって外部へ出射される。その可視光32は図3に示す上記入射光ILに相当し、反射光33は同図に示す上記反射光aに相当する。
【0031】
可視光32の残りは、誘電体多層膜24及び基材23を透過するが、その一部は基材23の裏面23aで反射され、図3に示す上記反射光bと同様の反射光となって誘電体多層膜24の外面(誘電体多層膜面)から外部へ放射される。
【0032】
上記第1実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○赤外光を透過する基材23の外面に、赤外光を透過させるとともに可視光を反射させる誘電体多層膜24を形成してある。このため、誘電体多層膜24に持たせる可視域の分光反射特性を適宜選択することで、赤外域の透過性を保持しつつ、誘電体多層膜24により反射される可視光の反射色を所望の色にすることができる。したがって、赤外域の透過性を保持しつつ、任意の外観色を得ることができ、意匠設計上の自由度を拡大できる。
【0033】
○誘電体多層膜24により反射される可視光の反射色を所望の色にすることができるので、電子機器の筐体に取り付けられたとき、十分な装飾効果を発揮できる。
○赤外線受発光部21の誘電体多層膜24は、赤外光(赤外信号光)の透過性を保持しつつ、所望の色の反射光が得られるような可視域の分光反射特性を持つように作られている。これにより、赤外線受発光部21は、可視光に対しては、誘電体多層膜24の分光反射特性及び分光透過特性と、基材23の分光反射特性及び分光透過特性とが合成された特性を持ち、この合成された特性に応じた外観色(反射光の色)が得られる。
【0034】
例えば、本実施形態のように基材23として透明な基材を用いた「裏面反射有り」の場合、誘電体多層膜24が青色の光を最も強く反射する分光反射特性を持つとすると、誘電体多層膜24で反射された青色の反射光と、基材23の裏面23aで反射された青色の補色(赤色)の反射光とが混ざった外観色が得られる。
【0035】
したがって、誘電体多層膜24に持たせる可視域の分光反射特性を適宜変更することにより、赤外信号光の透過性を保持しつつ、任意の色の外観色を得ることができ、意匠設計上の自由度を拡大することができる。
【0036】
○誘電体多層膜24は、赤外信号光の透過率が高い分光透過特性を有する結果、赤外信号光の反射率が低く抑えられた分光透過特性を有する。これにより、誘電体多層膜24が、赤外信号光30,31に対して反射防止膜と同様の反射防止効果を併せ持つことになる。このため、誘電体多層膜24自体により、基材23の外面での赤外信号光30,31の反射がそれぞれ4%程度ずつ低減される。したがって、基材23の外面での反射による赤外信号光30,31の損失を低減することができる。
【実施例1】
【0037】
図5に示す上記第1実施形態に係る赤外線受発光部21についての一設計例である実施例1を、図6及び図7と、下記の表1及び表2とに基づいて説明する。
この実施例1は、赤外線受発光部21の誘電体多層膜24を、赤外信号光の透過性を保持しつつ、青色の反射光が得られるように設計したものである。具体的には、誘電体多層膜24は、下記の表1に示すように、アクリル製の基材23の外面に、高屈折率材料の膜物質(ZrO)と低屈折率材料の膜物質(SiO)とを交互に積層した8層の薄膜層から構成され、中心波長λcを目的とする反射色(青色の反射光)の波長(495nm)
として設計されている。
【0038】
【表1】

実施例1における誘電体多層膜24の分光反射特性及び分光透過特性を図6に示してある。図6において、実線の曲線40は「裏面反射無し」の場合における分光反射特性(反射率R)を、破線の曲線41は「裏面反射無し」の場合における分光透過特性(透過率T)をそれぞれ示している。但し、裏面反射とは、図1に示す基材2の裏面2aでの反射光bである。また、図6において、一点鎖線の曲線42は「裏面反射有り」の場合における分光反射特性(反射率R)を、二点鎖線の曲線43は「裏面反射有り」の場合における分光透過特性(反射率T)をそれぞれ示している。
【0039】
図6の曲線40,42から、「裏面反射無し」及び「裏面反射有り」のいずれの場合にも、900nm付近の赤外域の反射率が非常に低いこと、及び同赤外域の透過率が非常に高いことが分かる。また、「裏面反射無し」及び「裏面反射有り」のいずれの場合にも、500nm付近の波長域の光(青色の光)の反射率が70%程度と高く、その波長域の光の透過率が30%程度であることが分かる。この反射率は適宜設計することができる。
【0040】
また、下記の表2に、実施例1の色度、つまり実施例1における誘電体多層膜24の反射光の色を表わす色度座標値を示してある。この色度座標値(x、y)と、図7に示すxy色度図とから、その色度座標値が表わす色度、つまり誘電体多層膜24の反射光の色が分かる。なお、図7は、xyY表色系の色度図である。また、表2におけるYは、反射光の明るさを示している。
【0041】
【表2】

表2に示す色度座標値(x=0.23,y=0.34)が表わす色度は、図7におけるA点の色度(青色)である。
【0042】
上記実施例1によれば、以下の作用効果を奏する。
○900nm付近の赤外域の光(赤外信号光)を100%に近い高い透過率で透過させる機能と、可視光に対しては495nm付近の光(青色の光)を70%程度の反射率で反射させる機能とを併せ持つ誘電体多層膜24を得ることができる。したがって、この誘電体多層膜24を備えた実施例1に係る赤外線受発光部21によれば、赤外信号光の透過性を保持しつつ、青色の外観色(反射光)を得ることができる。
【実施例2】
【0043】
図5に示す上記第1実施形態に係る赤外線受発光部21についての別の設計例である実施例2を図8及び図7と、下記の表3及び表4とに基づいて説明する。
この実施例2は、赤外線受発光部21の誘電体多層膜24を、赤外信号光の透過性を保持しつつ、黄色の反射光が得られるように設計したものである。具体的には、誘電体多層膜24は、下記の表3に示すように、アクリル製の基材23の外面に、高屈折率材料の膜物質(ZrO)と低屈折率材料の膜物質(SiO)とを交互に積層した7層の薄膜層から構成され、中心波長λcを目的とする反射色(黄色の反射光)の波長(600nm)として設計されている。
【0044】
【表3】

実施例2における誘電体多層膜24の分光反射特性及び分光反射特性を図8に示してある。図8において、実線の曲線50は「裏面反射無し」の場合における分光反射特性(反射率R)を、破線の曲線51は「裏面反射無し」の場合における分光透過特性(透過率T)をそれぞれ示している。また、図8において、一点鎖線の曲線52は「裏面反射有り」の場合における分光反射特性(反射率R)を、二点鎖線の曲線53は「裏面反射有り」の場合における分光透過特性(透過率T)をそれぞれ示している。
【0045】
図8の曲線50,52から、「裏面反射無し」及び「裏面反射有り」のいずれの場合にも、900nm付近の赤外域の反射率が非常に低いこと、及び同赤外域の透過率が非常に高いことが分かる。また、「裏面反射無し」及び「裏面反射有り」のいずれの場合にも、600nm付近の波長域の光(黄色の光)の反射率が70%弱と高く、その波長域の光の透過率が30%強であることが分かる。
【0046】
また、下記の表4に、実施例2の色度、つまり実施例2における誘電体多層膜24の反射光の色を表わす色度座標値を示してある。この色度座標値(x、y)と、図7に示すxy色度図とから、その色度座標値が表わす色度、つまり誘電体多層膜24の反射光の色が分かる。
【0047】
【表4】

表4に示す色度座標値(x=0.47,y=0.46)が表わす色度は、図7におけるB点の色度(黄色)である。
【0048】
上記実施例2によれば、以下の作用効果を奏する。
○900nm付近の赤外域の光(赤外信号光)をほぼ100%に近い高い透過率で透過させる機能と、可視光に対しては600nm付近の光(黄色の光)を70%弱の反射率で反射させる機能とを併せ持つ誘電体多層膜24を得ることができる。したがって、この誘電体多層膜24を備えた実施例2に係る赤外線受発光部21によれば、赤外信号光の透過性を保持しつつ、黄色の外観色を得ることができる。
【0049】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る赤外線受発光部21Aを図9に基づいて説明する。
この赤外線受発光部21Aは、上記第1実施形態において、誘電体多層膜24が成膜されるアクリル製の基材23の外面にハードコート処理を行った下地処理層を設けた点に特徴がある。その他の構成は上記第1実施形態と同様である。なお、図9では、図5に示す発光素子25及び受光素子26の図示を省略してある。
【0050】
アクリルのようなポリメチルメタクリレート(Polymethyl-Methacrylate:PMMA)
等は、膜の密着性に問題がある。そこで、本実施形態に係る赤外線受発光部21Aでは、誘電体多層膜24が成膜されるアクリル製の基材23の外面にハードコート処理を行った下地処理層27を設け、この下地処理層27上に誘電体多層膜24を成膜してある。
【0051】
上記第2実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○アクリル製の基材23の外面に下地処理層27を設け、この下地処理層27上に誘電体多層膜24を成膜しているので、誘電体多層膜24の密着性が向上する。これにより、耐久性に優れた赤外線受発光部21Aを実現できる。
【0052】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る赤外線受発光部21Bを図10に基づいて説明する。
上記第1実施形態では、誘電体多層膜24が基材23の外面に設けられている。これに対して、本実施形態に係る赤外線受発光部21Bでは、誘電体多層膜24が基材23の内面に設けられているとともに、その外面に反射防止膜28が設けられている。その他の構成は上記第1実施形態と同様である。なお、図10では、図5に示す発光素子25及び受光素子26の図示を省略してある。
【0053】
上記第3実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○基材23の外面に反射防止膜28が設けられているので、誘電体多層膜24と合わせて基材23両面での赤外光(赤外信号光)の反射がそれぞれ4%程度(合計8%程度)低減される。したがって、基材23の外面での反射による赤外信号光の損失を低減することができる。
【0054】
○基材23外面での反射が反射防止膜28によって減るので、可視光が誘電体多層膜24で反射されて外部へ出射される反射光(図3に示す反射光a)、例えば青色或いは黄色の反射光のコントラスト比が上がり、反射光の色(外観色)がより強調される。これにより、より明確な外観色の赤外線受発光部を実現することができる。
【0055】
○誘電体多層膜24が基材23の内面に設けられているので、誘電体多層膜24に傷が付きにくい。これにより、耐久性に優れた赤外線受発光部21Bを実現できる。
(第4実施形態)
第4実施形態に係る赤外線受発光部21Cを図11に基づいて説明する。
【0056】
この赤外線受発光部21Cは、上記第1実施形態において、基材23の内面にも誘電体多層膜29を設けた点に特徴がある。なお、図11では、図5に示す発光素子25及び受光素子26の図示を省略してある。
【0057】
この赤外線受発光部21Cでは、例えば、外側の誘電体多層膜24については、赤外信号光の透過性を保持しつつ、青色の反射光が得られるように設計し、内側の誘電体多層膜29については、赤外信号光の透過性を保持しつつ、黄色の反射光が得られるように設計する。
【0058】
上記第4実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○基材23の両面に誘電体多層膜24,29を設けてあるので、可視光が誘電体多層膜24で反射された反射光33の色と、可視光が誘電体多層膜29で反射された反射光33´の色とが混ざった外観色を得ることができる。例えば、本実施形態のように、外側の誘電体多層膜24については、青色の反射光が得られるように設計し、内側の誘電体多層膜29については、黄色の反射光が得られるように設計することで、青色と黄色が混ざった外観色を得ることができる。これにより、意匠設計上の自由度をさらに拡大することができる。
【0059】
○更に、前述の赤外光を透過し可視光を遮断する樹脂に混錬する吸収材や塗料、インクに代えて、内面側の誘電体薄膜層で可視全域から特定の赤外域までを反射により遮断することも可能である。この方法では、上記の材料を用いる場合に比し、受光部の分光特性(遮断特性)をより精密かつ容易に調整できる利点がある。
【0060】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る赤外線受発光部21Dを図12に基づいて説明する。
この赤外線受発光部21Dは、上記第1実施形態において、アクリル等の樹脂材料で作られた透明な基材23の外面を梨地状に加工し、この梨地状の外面23A上に誘電体多層膜24を設けた点に特徴がある。
【0061】
なお、本実施形態に係る赤外線受発光部21Dは梨地状の外面23Aで赤外信号光が散乱して、その赤外信号光の指向性が犠牲になるため、基材23の内面に近接して受光素子26のみを設け、赤外信号光31の散乱光31aを受光素子26で受光する赤外光受光部として構成するのが好ましい。
【0062】
上記第5実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○基材23の外面を梨地状に加工し、この梨地状の外面23A上に誘電体多層膜24を設けているので、誘電体多層膜24の反射光の色に、梨地状の外面23Aでの散乱光の色が加えられた外観色が得られる。これにより、真珠のような光沢を持つ質感が得られ、高級感を演出することができる。
【0063】
○透明な基材23の外面を梨地状に加工したことで、基材23が摺りガラスのような半透明になるため、上記外観色が得られる効果に加えて、電子機器に取り付けた状態で赤外線受発光部21D内部を隠す効果も得られる。
【0064】
○TVやVTR等の家庭用電気製品に取り付けて、その電源や音量等を遠隔制御するための赤外光信号(リモコン用波長域の赤外光)を受光するための赤外光受光窓として使用するのに適している。
【0065】
(第6実施形態)
第6実施形態に係る赤外線受発光部21Eを図13に基づいて説明する。
この赤外線受発光部21Eは、任意の曲面形状の基材60と、その外面に形成された誘電体多層膜61とで構成されている。基材60及び誘電体多層膜61は、曲面形状である点を除き、上記第1実施形態における基材23及び誘電体多層膜24と同様である。なお、図13では、図5に示す発光素子25及び受光素子26の図示を省略してある。
【0066】
上記第6実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○赤外線受発光部21Eを見る角度によって、異なる外観色が得られる。例えば、入射角0°(法線に対する入射光の角度が0°)の場合に誘電体多層膜61の外面で反射した反射光(0度反射)の色と、入射角20°の場合における反射光(20度反射)の色と、入射角40°の場合における反射光(40度反射)の色とがそれぞれ異なる。これにより、見る角度によって色の異なる玉虫色の外観色を得ることができ、高級感を演出することができ、意匠設計上の自由度をさらに拡大することができる。
【実施例3】
【0067】
図13に示す上記第6実施形態に係る赤外線受発光部21Eについての一設計例である実施例3を、図14及び図7と、下記の表5及び表6とに基づいて説明する。
この実施例3は、上記表3で説明した実施例2の誘電体多層膜24と同様に、赤外信号光の透過性を保持しつつ、黄色の反射光が得られるように設計したものである。したがって、下記の表5に示す設計例における誘電体多層膜24は上記表3に示す設計例における誘電体多層膜24と同じである。
【0068】
【表5】

図14は、実施例3に係る赤外線受発光部21Eにおける分光反射特性の入射角度による変化を示すグラフである。この図14において、実線の曲線70は上記0度反射で「裏面反射無し」の場合の分光反射特性を、破線の曲線71は上記20度反射で「裏面反射無し」の場合の分光反射特性を、そして、一点鎖線の曲線72は上記40度反射で「裏面反射無し」の場合の分光反射特性をそれぞれ示している。
【0069】
図14の曲線70,71,72から、0度反射で「裏面反射無し」、20度反射で「裏面反射無し」、及び40度反射で「裏面反射無し」のいずれの場合にも、900nm付近の赤外域(IrDA用波長域とリモコン用波長域を含む波長域)の反射率が非常に低いこと、及び同赤外域の透過率が非常に高いことが分かる。
【0070】
また、図14の曲線70,71,72から、入射角度の異なる上記3つの場合では、反射率が最大になる可視光の波長がそれぞれ異なっていることが分かる。これによって、上記3つの場合では、反射光の色がそれぞれ異なる。
【0071】
下記の表6に、実施例3において入射光角度がそれぞれ異なる、0度反射で「裏面反射
無し」、20度反射で「裏面反射無し」、及び40度反射で「裏面反射無し」の3つの場合における誘電体多層膜24の反射光の色を表わす色度座標値を示してある。この色度座標値(x、y)と、図7に示すxy色度図とから、その色度座標値が表わす色度、つまり誘電体多層膜24の反射光の色が分かる。
【0072】
【表6】

表6に示す「0度反射 裏面無し」の場合における色度座標値(x=0.47,y=0.46)が表わす色度は、図7におけるB点の色度(黄色)である。
【0073】
表6に示す「20度反射 裏面無し」の場合における色度座標値(x=0.46,y=0.48)が表わす色度は、図3におけるB20の点の色度(黄色)である。
そして、表6に示す「40度反射 裏面無し」の場合における色度座標値(x=0.4,y=0.49)が表わす色度は、図7におけるB40の点の色度(黄色)である。
【0074】
上記実施例3によれば、以下の作用効果を奏する。
○900nm付近の赤外域の光(赤外信号光)を100%に近い高い透過率で透過させる機能を保持しつつ、見る角度によって異なる外観色が得られる。
【0075】
具体的には、「0度反射 裏面無し」の場合には図7のB点の色度(黄色)の外観色が、「20度反射 裏面無し」の場合には図7のB20の点の色度(黄色)の外観色が、そして、「40度反射 裏面無し」の場合には図7のB40の点の色度(黄色)の外観色がそれぞれ得られる。すなわち、0度から40度に向かうにつれて、元の黄色からやや緑がかった黄色に変化する。したがって、見る角度もしくは基材の曲面に沿って連続的に反射色が異なって見えることになる。これにより、見る角度によって色の異なる玉虫色のような外観色を得ることができ、高級感を演出することができ、意匠設計上の自由度をさらに拡大することができる。
【0076】
○図13に示す上記第6実施形態に係る赤外線受発光部21Eでは、誘電体多層膜61の角度依存性によって透過光E1,E2(赤外信号光)の波長帯でも分光特性上の変化は生じているが、本実施例3では図14に示すようにその帯域の特性は平坦にしてあるために、実質的な影響は僅かである。
【0077】
(第7実施形態)
第7実施形態に係る赤外線受発光部21Fを図15に基づいて説明する。なお、本実施形態および以下の各実施形態の説明において、誘電体多層膜における機器外面側から入射する可視光線の反射は、厳密には誘電体多層膜と基材或いは印刷層との界面や、誘電体多層膜内の屈折率の異なる各層間の界面で発生する。しかし、説明の便宜上および機器外面側から見たときに種々の反射色を得るという目的から、誘電体多層膜における機器外面側から入射する可視光線の反射は、誘電体多層膜の機器外面側の表面での反射を代表させることとする。また、可視光、赤外光とも(赤外光の場合は機器内部に設置した投光部からの光線も含む)誘電体多層膜における界面反射のほか、印刷により界面に施した拡散層、裏面に施した暗色赤外透過印刷、暗色赤外基材、受発光部と周囲の空気との界面でも屈折率差の存在する所では、原理的に反射が存在する。
【0078】
この赤外線受発光部21Fは、図15に示すように、図5に示す上記第1実施形態の赤
外線受発光部21と同様に、電子機器としての携帯型情報端末22のケース本体に取り付けられている。
【0079】
この赤外線受発光部21Fは、図15に示すように、赤外光(赤外信号光)および可視光を透過させる透明な基材23と、基材23の内面に成膜された誘電体多層膜24とを備える。また、赤外線受発光部21Fでは、誘電体多層膜24の機器内面側に赤外光を透過しかつ可視光の透過を阻止する赤外透過黒色印刷層91が形成されており、透明な基材23の機器外面側に拡散層90が形成されている。
【0080】
誘電体多層膜24は、分光反射特性及び透過特性を示す図16のグラフで、分光透過特性を示す曲線92から明らかなように、青色および赤色の光と赤外線信号光の透過率が高い分光透過特性を有する。このような分光透過特性を有する誘電体多層膜24を用いることにより、図16のグラフで、分光反射特性を示す曲線93から明らかなように、黄色の反射色が得られる。また、赤外透過黒色印刷層91は、図17の曲線94で示すような分光透過特性を有する。なお、図16および図17の各グラフにおいて、赤外線信号光の波長範囲は一例である。
【0081】
このような構成を有する赤外線受発光部21Fでは、透明な基材23の内面に設けた誘電体多層膜24による可視域での発色は、誘電体多層膜24での反射の原理による。成膜される基材が鏡面を有するのであれば、この種の誘電体多層膜での反射面は鏡面を呈する。誘電体多層膜24は、可視光域で図16の曲線92で示すような分光透過特性を有している。このため、赤外線受発光部21Fでは、赤外透過黒色印刷層91を誘電体多層膜24の有する透過率で透過して観察する事になるが、拡散層90が無い場合、誘電体多層膜24に外部の暗い背景などが映り込むと、反射色が見えにくくなり、黒色に近い見え方になる。しかし、透明な基材23の外面に拡散層90を設けてあるため、この拡散層90で入射光を平均化し、かつ誘電体多層膜24からの反射光に散乱成分を持たせることで観察方向への反射光成分を増加せしめる。これにより、上述のような反射色が見えにくくなり、黒色に近い見え方になるのを改善することができる。つまり、鮮明な反射色(本例では黄色の反射色)を得ることができる。
【0082】
なお、拡散層90は、透明な基材23の外面を梨地処理のように成形、粗面化などの物理、化学加工により形成した層と、その外面に印刷などの手法で形成した層のいずれであってもよい。
【0083】
また、透明な基材23を、誘電体多層膜24との密着性に問題のある材料、例えばアクリル等の樹脂材料で作る場合、基材の内面にハードコート処理を行った下地処理層が必要となるが、図15ではその下地処理層の図示を省略してある。
【0084】
上記第7実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○拡散層90で入射光を平均化し、かつ誘電体多層膜24からの反射光に散乱成分を持たせることで観察方向への反射光成分を増加せしめる。これにより、上述のような反射色が見えにくくなり、黒色に近い見え方になるのを改善することができる。つまり、誘電体多層膜24の外面での反射色の発色を常にはっきりさせることができ、鮮明な反射色(黄色の反射色)を得ることができる。
【0085】
(第8実施形態)
第8実施形態に係る赤外線受発光部21Gを図18に基づいて説明する。図18では、赤外線受発光部21Gの平面図と、その平面図のC−C線に沿った断面図とを用いて赤外線受発光部21Gの断面構造を模式的に示してある。
【0086】
この赤外線受発光部21Gは、図15に示す上記第7実施形態に係る赤外線受発光部21Fにおいて、誘電体多層膜24と赤外透過黒色印刷層91の間に、文字やパターンが印刷された文字印刷層95が形成されたものである。
【0087】
すなわち、赤外線受発光部21Gは、透明な基材23と、その内面に成膜された誘電体多層膜が24と、その内面に形成された文字印刷層95と、その内面に形成された赤外透過黒色印刷層91と、基材23の外面に形成された拡散層90とを備える。
【0088】
文字印刷層95は、文字やパターンが印刷された単層を含む。例えば、文字印刷層95は、白色のインクで直接誘電体多層膜の機器内面側表面に文字(「B]の文字)112を印刷したパターン例で、実際には逆版(鏡像)でその文字の印刷をほどこす。なお、文字印刷層95には、文字112以外の任意の文字やパターンを印刷しても良い。
【0089】
また、透明な基材23を、誘電体多層膜24との密着性に問題のある材料、例えばアクリル等の樹脂材料で作る場合、基材の内面にハードコート処理を行った下地処理層が必要となるが、図18ではその下地処理層の図示を省略してある。
【0090】
上記第8実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○誘電体多層膜24は、可視光域での透過も配慮して構成することができ、文字印刷層95に形成された文字・パターンなどは、誘電体多層膜24を透過して表面から見ることができる。本例では、図20に示すように、黄色の反射色になった背景部111の中に白い文字(「B]の文字)112を見ることができる。これにより、外観意匠の自由度を増すことができる。
【0091】
○透明な基材23の外面に拡散層90を設けてあるため、拡散層90で入射光を平均化し、かつ誘電体多層膜24からの反射光に散乱成分を持たせることで観察方向への反射光成分を増加せしめる。これにより、図19に示す拡散層の無い赤外線受発光部100のように、観察方向の入射光が減じて暗くなった背景部101の中に白い文字102が見えるようになるのを改善できる。また、拡散層90による文字112の視認度の低下は実用性を損なわない範囲にヘイズ量(曇の程度=曇価)を抑えることで、発色改善の目的と、鮮明な反射色(本例では黄色の反射色)の中に文字やパターンが見えるようにすることの両立を図ることができる。
【0092】
○文字印刷層95は、明色の文字やパターンが印刷された単層を含む構成であるため、簡単な構成の文字印刷層95を追加するだけで、表面に見える文字112などの外観意匠の自由度を増すことができる。
【0093】
(第9実施形態)
第9実施形態に係る赤外線受発光部21Hを図21に基づいて説明する。図21では、赤外線受発光部21Hの平面図と、その平面図のD−D線に沿った断面図とを用いて赤外線受発光部21Hの断面構造を模式的に示してある。
【0094】
この赤外線受発光部21Hは、図18に示す上記第8実施形態に係る赤外線受発光部21Gにおいて、誘電体多層膜24と文字印刷層95を入れ替えたものである。
すなわち、赤外線受発光部21Hは、透明な基材23と、その機器内面側に形成された文字印刷層95と、更にその機器内面側に成膜された誘電体多層膜が24と、最も内側に形成された赤外透過黒色印刷層91と、基材23の外面に形成された拡散層90とを備える。文字印刷層95は、文字やパターンが印刷された単層を含む。例えば、文字印刷層95は、直接誘電多層膜上に印刷で形成したものである。
【0095】
上記第9実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○文字印刷層95に形成された文字・パターンなどは、拡散層90、透明な基材23を透して直接見ることができる。本例では、図20に示すように、黄色の反射色になった背景部111の中に文字112を見ることができる。これにより、外観意匠の自由度を増すことができる。
【0096】
○透明な基材23の外面に拡散層90を設けてあるため、拡散層90による文字112の視認度の低下は実用性を損なわない範囲にヘイズ量を抑えることで、発色改善の目的と、鮮明な反射色(本例では黄色の反射色)の中に文字やパターンが見えるようにすることの両立を図ることができる。
【0097】
○文字印刷層95は、文字やパターンが印刷された単層を含む構成であるため、単純な構成の文字印刷層95を追加するだけで、表面に見える文字112などの外観意匠の自由度を増すことができる。この文字印刷層を、印刷色を変えるなどして複数化することは容易に工夫でき、更に外観意匠の自由度を増すことができる。
【0098】
(第10実施形態)
第10実施形態に係る赤外線受発光部21Iを図22に基づいて説明する。
この赤外線受発光部21Iは、暗色でかつ赤外光を透過させる赤外透過暗色基材23Bと、その外面に成膜された誘電体多層膜24と、その外面に形成された保護層96とを備える。
【0099】
保護層96は、ハードコートなどによる硬質化のほか、撥水コートなどのように防汚性と滑り性を合わせ持つものをスプレー法、浸漬法、スパッタ法、真空蒸着法などで成膜することができる。特に、真空蒸着法により、有機珪素系撥水剤処理を行なった場合、滑り性、防汚性に優れるほか、浸漬法、スプレー法による細部でのコート剤の溜まりが発生しない利点がある。
【0100】
また、赤外透過暗色基材23Bを、誘電体多層膜24との密着性に問題のある材料、例えばアクリル等の樹脂材料で作る場合、基材の外面にハードコート処理を行った下地処理層が必要となるが、図22ではその下地処理層の図示を省略してある。
【0101】
上記第10実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○赤外透過暗色基材23Bの外面に誘電体多層膜24を設けた赤外線受発光部において、誘電体多層膜24の擦傷、皮脂等による劣化を、最表層(最外面)に設けた保護層96により防ぐことができる。
【0102】
○保護層96を成膜するのに、真空蒸着法により有機珪素系撥水膜を成膜した場合、滑り性、防汚性に優れるほか、浸漬法、スプレー法による細部でのコート剤の溜まりが発生しない利点がある。
【0103】
○真空蒸着法では膜厚を薄く(例えば、10nm以下に)することができるために、干渉色の発生や誘電体多層膜24の分光特性への影響を極めて小さくできる。
(第11実施形態)
第11実施形態に係る赤外線受発光部21Jを図23に基づいて説明する。
【0104】
この赤外線受発光部21Jは、透明な基材23と、その外面に成膜された誘電体多層膜24と、透明な基材23の内面に形成され、赤外光を透過しかつ可視光の透過を阻止する赤外透過黒色印刷層91と、誘電体多層膜24の外面に形成された保護層96とを備える。
【0105】
保護層96は、上記第10実施形態と同様に、ハードコートなどによる硬質化のほか、撥水コートなどのように防汚性と滑り性を合わせ持つものをスプレー法、浸漬法、スパッタ法、真空蒸着法などで成膜することができる。
【0106】
また、透明な基材23を、誘電体多層膜24との密着性に問題のある材料、例えばアクリル等の樹脂材料で作る場合、基材23の外面にハードコート処理を行った下地処理層が必要となるが、図23ではその下地処理層の図示を省略してある。
【0107】
上記第11実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
○透明な基材23の外面に誘電体多層膜24を設けた赤外線受発光部において、誘電体多層膜24の擦傷、皮脂等による劣化を、最表層(最外面)に設けた保護層96により防ぐことができる。
【0108】
(赤外線受発光部の製造方法)
次に、本発明に係る赤外線受発光部の製造方法の一実施形態を説明する。
この実施形態では、上記各実施形態及び各実施例に係る赤外線受発光部のうち、上記第1実施形態に係る赤外線受発光部21の製造方法について説明する。なお、本実施形態に係る赤外線受発光部の製造方法は、第1実施形態に係る赤外線受発光部21に限らず、他の実施形態或いは上記各実施例に係る赤外線受発光部を製造する際にも適用できる。要するに、本実施形態に係る赤外線受発光部の製造方法は、基材として樹脂などの低軟化点材料を用いる場合、に広く適用可能である。
【0109】
本実施形態に係る赤外線受発光部の製造方法は、次の工程を含む。
赤外光を透過する基材23の外面に、赤外光を透過させるとともに可視光を反射させる誘電体多層膜24を、上述した「低温成膜技術」により成膜する。
【0110】
上記一実施形態に係る赤外線受発光部の製造方法によれば、以下の作用効果を奏する。
○基材23に用いるポリカーボネイト、アクリル等の樹脂材料は軟化点温度が低いので、上述した理由により、樹脂などの低軟化点材料を用いる基材23上に誘電体多層膜24を通常の真空蒸着法により成膜するのは難しい。本実施形態では、誘電体多層膜24を、基材23の外面にIAD(イオンアシスト蒸着)、プラズマCVD、スパッタ成膜(スパッタリング)等の低温蒸着技術により成膜するので、軟化点温度が低い樹脂材料で作られた基材23上に、所望の分光特性を有する誘電体多層膜24を成膜することができる。
【0111】
(赤外線受発光部を備えた電子機器)
次に、本発明に係る赤外線受発光部を備えた電子機器の一実施形態を図24に基づいて説明する。
【0112】
図15は、電子機器としての、電子手帳等の携帯型情報端末80を示している。この携帯型情報端末80の筐体の一部に、赤外線受発光部81が取り付けられている。この赤外線受発光部81は、上記各実施形態及び上記各実施例で説明した赤外線受発光部、例えば図5示す赤外線受発光部21と同様のものである。図15において、符号82は各種の操作キーであり、符号83は表示部である。
【0113】
上記一実施形態に係る赤外線受発光部を備えた電子機器によれば、以下の作用効果を奏する。
○携帯型情報端末80は、赤外信号光の透過性を保持しつつ、任意の色の外観色を得ることができる赤外線受発光部81を備えている。このため、赤外線受発光部81の外観色を携帯型情報端末80の筐体の色に応じて変えたり、或いは、その筐体の色を赤外線受発
光部81の外観色に応じて変えたりすることで、携帯型情報端末80の意匠設計上の自由度を拡大することができる。
【0114】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態において、基材23,60として、上述した(1)〜(5)のいずれかの基材を適宜選択することで、様々な外観色を演出することができる。
【0115】
・例えば、上記第1〜第4実施形態の基材23と上記第6実施形態の基材60とを、それぞれ「透明な基材」に代えて、上述した(3)の「乳白色の基材」に変更しても良い。この場合、誘電体多層膜24(上記第6実施形態では誘電体多層膜61)による反射光の色(反射色)に、乳白色の基材からの反射光の色(乳白色)が加えられた外観色が得られる。これにより、真珠のような光沢を持つ質感が得られ、高級感を演出することができる。
【0116】
・また、上記第1〜第4実施形態の基材23と上記第6実施形態の基材60とを、それぞれ「透明な基材」に代えて、上述した(4)の「暗色の基材」或いは(5)の「不透明な基材」に変更しても良い。この場合、誘電体多層膜24(上記第6実施形態では誘電体多層膜61)による反射光の色(反射色)をより明瞭にすることができるとともに、電子機器に取り付けた状態で赤外線受発光部内部を隠す効果も得られる。
【0117】
・図12に示す上記第5実施形態において、アクリル等の樹脂材料で作られた透明な基材23の外面を梨地状に加工する代わりに、基材23の内面を梨地状に加工しても良い。この場合にも、上記第5実施形態と同様の効果が得られる。
【0118】
・上記一実施形態に係る赤外線受発光部の製造方法では、基材23として軟化点温度の低いポリカーボネイト、アクリル等の樹脂材料(低軟化点材料)を用いているので、基材23上に誘電体多層膜24を前述した「低温成膜技術」により成膜している。しかし、基材として軟化点の高いガラス等の材料を用いる場合には、その基材上に誘電体多層膜を、通常の成膜法、例えば通常の真空蒸着法により成膜することができる。このように、軟化点の高いガラス等の材料を用いた基材上に、「低温成膜技術」でない通常の成膜法により誘電体多層膜を基材上に成膜して作製した赤外線受発光部にも本発明は適用可能である。
【0119】
・表1に示す上記実施例1では、誘電体多層膜24を構成する薄膜層を8層として、青色の外観色が得られる青色反射での設計例について説明したが、その薄膜層の層数は「8」に限定されない。また、薄膜層を8層として、青色以外の外観色、例えば黄色の外観色が得られるように構成した誘電体多層膜を備えた赤外線受発光部にも本発明は適用可能である。
【0120】
・表3に示す上記実施例2では、誘電体多層膜24を構成する薄膜層を7層として、黄色の外観色が得られる黄色反射での設計例について説明したが、その薄膜層の層数は「7」に限定されない。また、薄膜層を7層として、黄色以外の外観色、例えば青色の外観色が得られるように構成した誘電体多層膜を備えた赤外線受発光部にも本発明は適用可能である。
【0121】
・表5に示す上記実施例3では、誘電体多層膜24を構成する薄膜層を7層として、黄色の外観色が得られる黄色反射での設計例について説明したが、その薄膜層の層数は「7」に限定されない。また、薄膜層を7層として、黄色以外の外観色、例えば青色の外観色が得られるように構成した誘電体多層膜を備えた赤外線受発光部にも本発明は適用可能である。
【0122】
・図18に示す上記第8実施形態および図21に示す上記第9実施形態では、文字印刷層95を、文字やパターンが印刷された単層としているが、文字印刷層95を、文字やパターンが印刷された複数層で構成してもよい。このような構成により、表面に見える文字やパターンなどの外観意匠の自由度をさらに増すことができる。
【0123】
・本発明は、誘電体多層膜におけるZrO,SiOなどの蒸着物質、各層の膜厚また、その配分についても同様に限定されない。要するに、本発明は、誘電体多層膜に持たせる可視域の分光反射特性を適宜選択することで、赤外域の透過性を保持しつつ、反射される可視光の反射色を所望の色にすることができる誘電体多層膜を備えた赤外線受発光部に広く適用可能である。
【0124】
・図15に示す赤外線受発光部を備えた電子機器の一実施形態では、電子手帳等の携帯型情報端末80について説明したが、本発明は、電子手帳以外の携帯型情報端末、デスクトップ・パソコン、ノート・パソコン、PDA、デジタルカメラ等の各種の電子機器で、赤外線受発光部を備えた電子機器に適用可能である。
【0125】
・近年、CCD、C−MOS等のイメージセンサを利用した監視カメラが、各種店舗等に設置されている。このような監視カメラは近赤外線領域に感度を有する。このような監視カメラを店舗内に設置する場合、カメラの存在を目立たなくしたいという要望がある。CCDカメラ等の監視カメラを収納する筐体の、撮像レンズに対応する部分に、上記各実施形態で説明した赤外線受発光部を設けることで、カメラの存在を意識しなくてすむ監視カメラを実現できる。このような赤外線受発光部を備えた電子機器としての監視カメラにも本発明は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】赤外線受発光部の基本構成及び原理の説明図。
【図2】基材の各界面での反射を示す説明図。
【図3】図1の赤外線受発光部での反射と透過の様子を示す説明図。
【図4】(a)表面での反射光の分光反射特性を示すグラフ、(b)裏面での反射光の分光反射特性を示すグラフ、(c)内部部品での反射光の分光反射特性を示すグラフ、(d)合成された反射光の分光反射特性を示すグラフ、(e)透過光の分光透過特性を示すグラフ。
【図5】第1実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図6】実施例1の分光反射特性及び分光透過特性を示すグラフ。
【図7】xy色度図。
【図8】実施例2の分光反射特性及び分光透過特性を示すグラフ。
【図9】第2実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図10】第3実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図11】第4実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図12】第5実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図13】第6実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図14】実施例3における分光反射特性の入射角度による変化を示すグラフ。
【図15】第7実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図16】同実施形態で用いる誘電体多層膜の分光反射特性及び分光透過特性を示すグラフ。
【図17】第7実施形態で用いる赤外透過黒色印刷層の分光透過特性を示すグラフ。
【図18】第8実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図19】第8実施形態の比較例での反射色の説明に用いる説明図。に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図20】第8実施形態での反射色の説明に用いる説明図。
【図21】第9実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図22】第10実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図23】第11実施形態に係る赤外線受発光部を示す概略構成図。
【図24】赤外線受発光部を備えた電子機器の一実施形態を示す斜視図。
【符号の説明】
【0127】
1,21,21A,21B,21C,21D,21E,21F,21G,21H,21I,21J,81…赤外線受発光部、2,23,60…基材、22,80…電子機器としての携帯型情報端末、2,23,60…基材、23A…梨地状の外面、23B…赤外透過暗色基材、3,24,29,61…誘電体多層膜、27…下地処理層、28…反射防止膜、30…赤外信号光(赤外光)、32…可視光、90…拡散層、91…赤外透過黒色印刷層、95…文字印刷層、96…保護層、112…文字。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の赤外光通信/制御ポートとして用いられるとともに前記電子機器を装飾する装飾用の赤外線受発光部であって、
少なくとも赤外光を透過させる基材と、
前記基材の外面及び内面の少なくとも一方に形成され、赤外光を透過させるとともに可視光を反射及び透過させる誘電体多層膜と、
を備え、前記誘電体多層膜は、可視光の波長域について反射率が透過率を上回る波長域と反射率が透過率を下回る波長域とからなるように設定され、前記誘電体多層膜によって反射された可視光の反射の光のみで外観を彩色することを特徴とする赤外線受発光部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−160115(P2008−160115A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325973(P2007−325973)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【分割の表示】特願2005−117090(P2005−117090)の分割
【原出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】