説明

赤外線温度測定装置

【課題】測定対象物の表面形状に起因した反射成分による温度測定誤差を局部的に補正をすることができる赤外線温度測定装置を提供する。
【解決手段】赤外線エネルギと可視光線とから測定対象物Dの温度分布を演算する温度分布演算部30を備えた赤外線温度測定装置10であって、可視光線から可視光画像を生成する画像生成部と、可視光画像の各画素の輝度値の度数分布を演算し度数分布の度数のピークとなる輝度値を基準輝度値として演算する基準輝度値演算部と、基準輝度値よりも輝度値が大きい可視光画像の画素を抽出する画素抽出部と、抽出画素の輝度値に対する基準輝度値の比を輝度比として演算する輝度比演算部と、抽出された画素に輝度比を割り当てその他の画素に輝度比として1を割り当てマスクを作成するマスク生成部と、マスクを用いて赤外線画像の各画素の温度に輝度比を乗じて赤外線画像の各画素の温度を補正する温度補正部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物から発する赤外線エネルギを検出し、該エネルギを温度に変換して、測定対象物の温度分布を画像として表示する赤外線温度測定装置に係り、特に、測定対象物から発する赤外線の反射エネルギ分を好適に補正することができる赤外線温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工学や医学をはじめ様々な分野において、非接触で測定対象物の表面温度を測定するためにサーモグラフィが用いられる。サーモグラフィは、物体や生体の表面の温度分布を画像として表す方法である。
【0003】
具体的には、サーモグラフィを利用した赤外線温度測定装置は、一般的には、測定対象物からの赤外線エネルギを検出し、この検出したエネルギ量(エネルギの大きさ)に応じた温度に変換し、変換した温度の分布を表した赤外線画像を生成し、これを表示するものである。
【0004】
このような赤外線温度測定装置を用いることにより、測定対象物の表面温度を非接触で測定することができるだけでなく、測定対象物表面の所定領域の温度(温度分布)をリアルタイムで測定することもできる。
【0005】
しかしながら、赤外線温度測定装置により測定された温度分布は、測定対象物の移動や、その周囲の温度により大きく変動し、測定精度が劣ってしまう。この点を考慮して、例えば、測定対象物の移動の影響を考慮したものとして、赤外線カメラで撮影した画像のヒストグラムの変化を基に、補正すべき部分を特定した上で、赤外線画像を補正する赤外線温度測定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、以下の場合にも、赤外線温度測定装置による測定精度が劣ることがある。具体的には、図7(a)に示すように、赤外線ヒータHにより測定対象物Dを加熱した場合、図7(b)に示すように、赤外線ヒータHからの赤外線が測定対象物Dに吸収される。吸収された赤外線(エネルギ)で測定対象物Dは加熱され、測定対象物から赤外線が放射される。一方、赤外線ヒータHからの赤外線(エネルギ)の一部は、測定対象物Dに吸収されることなく、測定対象物Dの表面で反射する。
【0007】
そして、赤外線温度測定装置(赤外線カメラ)90は、放射された赤外線のエネルギ(放射成分)と、表面で反射した赤外線のエネルギ(反射成分)とが混在した赤外線エネルギを検出し、この赤外線エネルギの大きさを温度に変換し、変換した温度から、測定対象物Dの温度分布を測定する。
【0008】
しかしながら、赤外線温度測定装置90が、本来検出すべき赤外線エネルギは、計測対象物の温度情報である放射成分のみであり、外乱である反射成分の紫外線エネルギにより、測定された温度には誤差が生じてしまい、接触式の温度測定装置に比べて測定精度が劣ってしまう。
【0009】
このような点を鑑みて、例えば、赤外線温度測定装置の撮影範囲内に、可視光線の反射率が既知の標準サンプルを設置し、測定対象物と、標準サンプルとの赤外線信号を基に、赤外線の反射レベルを補正する赤外線温度測定装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−154646号公報
【特許文献2】特公平7−72702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に示す赤外線温度測定装置は、検出精度を向上させるために、ヒストグラムを用いて、赤外線画像に対して重み付けて補正をしているが、このヒストグラムは、測定対象物の表面における赤外線の反射の影響を考慮して、これを取り除いたものではないので、特に測定対象物の反射成分が大きい場合、温度測定精度が劣ってしまう。
【0012】
また、特許文献2に示す赤外線温度測定装置は、補正の対象となる測定対象物と、補正の基準となる標準サンプルとを別体としているため、測定精度を上げようとした場合には、補正可能な測定対象物の形状が限定される。
【0013】
すなわち、放射線の反射率は、測定対象物の表面形状によって変化するものであり、測定精度を向上させるためには、測定対象物の形状を模した標準サンプルを製作する必要がある。特に、測定対象物の形状が複雑な場合、測定対象物を模した標準サンプルの反射率を一義的に定義できなくなる。そして、このような測定対象物に対して、仮に、温度補正を行ったとしても、オールオーバの温度補正となってしまい、正しく計測された値から逆に外れる方向に補正されてしまうことがある。
【0014】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、測定対象物の表面形状に起因した反射成分による、局部的な温度測定誤差を補正することができる赤外線温度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者は、前記課題を鑑みて鋭意検討を重ねた結果、可視光画像の画素のうち、輝度値のヒストグラムの度数のピーク値(最大値)を超えた部分は、その輝度値と、赤外線エネルギの反射成分の量とがほぼ比例関係にあり、ヒストグラムのピーク値の輝度値を用いて測定した温度を補正すれば、赤外線エネルギの反射成分による局部的に発生する測定誤差を低減することができるとの新たな知見を得た。
【0016】
本発明は、発明者のこの新たな知見に基づくものであり、本発明に係る赤外線温度測定装置は、測定対象物からの赤外線エネルギを検出する赤外線検出器と、前記測定対象物からの可視光線を検出する可視光線検出器と、検出された赤外線エネルギと可視光線とから前記測定対象物の温度分布を演算する温度分布演算部を備えた赤外線温度測定装置であって、該温度分布演算部は、前記赤外線エネルギを、該赤外線エネルギに応じた温度に変換して、前記測定対象物の温度の分布を表した赤外線画像を生成するとともに、前記可視光線から前記赤外線画像と同じ解像度の可視光画像を生成する画像生成部と、前記可視光画像の各画素の輝度値の度数分布を演算し、該度数分布の度数のピークとなる輝度値を基準輝度値として演算する基準輝度値演算部と、前記基準輝度値よりも輝度値が大きい可視光画像の画素を抽出する画素抽出部と、前記抽出された画素の輝度値に対する前記基準輝度値の比を輝度比として演算する輝度比演算部と、前記抽出された画素に前記輝度比を割り当て、その他の画素に輝度比として1を割り当てて、輝度比のマスクを生成するマスク生成部と、該マスクを用いて、前記赤外線画像の各画素の温度を、該画素に対応した前記輝度比を乗じることにより、前記赤外線画像の各画素の温度を補正する温度補正部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、まず、画像生成部により、検出した可視光線から可視光画像を生成する。次に、基準輝度値演算部により、可視光画像の各画素の輝度値を用いて、度数分布(ヒストグラム)を演算し、この度数が最大となる輝度値を基準輝度値に設定する。そして、この基準輝度値を基準として、画素抽出部により、基準輝度値よりも大きい輝度値の可視光画像の画素(座標)を抽出する。この抽出された画素が、補正を要する反射成分を多く検出した部分を表した画素となる。
【0018】
次に、輝度比演算部により、抽出された画素の輝度値に対する基準輝度値の比(0<基準輝度比/抽出された画素の輝度比<1)を、輝度比として、抽出された画素ごとに演算する。そして、マスク生成部において、基準輝度値よりも大きい輝度値の可視光画像の画素(抽出された画素)に対して演算された輝度比を割り当て、それ以外の抽出されていない画素(すなわち、基準輝度値以下の輝度値の可視光画像の画素)に対しては、輝度比として1の輝度比を割り当て、この輝度比が割り当てられた輝度比の画像をマスクとする。これにより、輝度比が1の部分は、赤外線エネルギの反射成分はないと推定し補正は行わず(温度補正量=0)、輝度比が1から小さくなるに従って、その部分の赤外線エネルギの反射成分が大きいと推定し、温度補正量を大きくするような、反射の重みを付けたマスクを得ることができる。
【0019】
一方、画像生成部により、赤外線エネルギを、赤外線エネルギに応じた温度に変換して、測定対象物の温度の分布を表した赤外線画像を生成する。この赤外線画像は、上述した可視光画像(マスク)と同じ解像度である。
【0020】
そして、温度補正部により、マスクを用いて、この赤外線画像の各座標の画素の温度に、これに対応する画素(同じ座標の画素)の輝度比を乗算することで、赤外線画像の温度を補正する。このようして、測定対象物がたとえ複雑な表面形状であっても、測定対象物の表面形状に起因した反射成分による局部的に温度測定誤差を、補正をすることができる。
【0021】
また、本発明に係る赤外線温度測定装置は、測定対象物からの可視光線を検出する際に、測定対象物に可視光線を照射するための光源を備えることがより好ましい。本発明によれば、この光源を用いることにより、可視光線の反射の影響が大きい部分を強調した可視光線画像を得ることができ、測定対象物の表面形状に起因した赤外線エネルギの反射成分をより精度良く検出することができ、これにより、さらに精度のよい温度補正を行うことができる。
【0022】
また、本発明に係る赤外線温度測定装置は、前記温度補正部が、前記可視光画像と、前記赤外線画像とをマッチング処理するマッチング処理演算部を備えることがより好ましい。本発明によれば、このマッチング処理によって、可視光画像における測定対象物の形状と、赤外線画像における測定対象物の形状とが、合致するように、2つの画像のマッチング処理を行うので、撮影によるずれ等を修正し、より精度のよい補正を行うことができる。また、このマッチング処理は、パターンマッチング処理、テンプレートマッチング処理、ブロックマッチング処理など、一般的に知られたマッチング処理などであり、このマッチング処理は、可視光画像から得られるマスクに対して行ってもよく、可視光画像における測定対象物の形状と、赤外線画像における測定対象物の形状とが、より精度良く合致することができるものであれば特に、その処理方法は限定されない。
【0023】
さらに、本発明に係る前記赤外線温度測定装置は、前記赤外線検出器と前記可視光線検出器とを入れ替え可能に収納する収納部を備えていることが好ましい。本発明によれば、この収納部において、これらを入れ換えて、それぞれの画像を生成するので、同じ画角の(すなわち、同じアングルで撮影した)赤外線画像と、可視光画像とを生成することができる。このような可視光画像により得られたマスクを用いれば、適正な位置(座標)の画素において、この位置に対応した赤外線画像の温度を補正することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、測定対象物からの赤外線エネルギにより得られた温度分布を表した画像に対して、測定対象物の表面形状に起因した反射成分による局所的な温度測定誤差を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る赤外線温度測定装置の全体構成図。
【図2】図1に示す演算装置の演算ブロック図。
【図3】図2の演算ブロックの各部分の演算処理を説明するための概念図であり、(a)は、可視光画像データ記憶部に記憶された可視光画像の各画素の輝度値の概念図であり、(b)は、基準輝度値演算部が行う輝度値のヒストグラムを示した概念図、(c)は、画素抽出部の抽出を説明するための概念図、(d)は、マスク生成部が生成したマスクの概念図、(e)は、赤外線画像の各画素の温度を表した赤外線画像の概念図、(f)は、(d)に示すマスクを用いて(e)に示す各画素の測定温度を補正したときの補正後の赤外線画像の概念図。
【図4】図2に示す赤外線温度測定装置の反射部分マスク生成部の演算方法を説明するための演算フロー図。
【図5】図2に示す赤外線温度測定装置の温度分布補正部の演算方法を説明するための演算フロー図。
【図6】(a)は、可視光線検出器での測定対象物の撮影状態を説明するための図、(b)は、(a)により撮影された可視光画像図、(c)は、可視光画像の各画素の度数分布を示した図、(d)は、可視光画像から算出した輝度比のマスクを示した図、(e)は、赤外線検出器での測定対象の撮影状態を説明するための図、(f)は、(e)により撮影された赤外線画像図、(h)は、(e)の赤外線画像を、(d)のマスクで補正した赤外線画像図、(h)は、重みを付けない補正を行った場合の赤外線画像図。
【図7】これまでの赤外線温度測定装置を用いた温度の測定方法を説明するための図であり、(a)は、測定状態を説明するための図、(b)は、温度測定の詳細を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明に係る赤外線温度測定装置の実施形態を、以下の図面を参照してその詳細を説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る赤外線温度測定装置の全体構成図である。図1に示すように、本発明に係る赤外線温度測定装置10は、測定対象物Dから発する赤外線エネルギを検出し、この赤外線エネルギを、該エネルギに応じた温度に変換して、測定対象物Dの温度の分布を赤外線画像として表示するものである。
【0028】
赤外線温度測定装置10は、測定対象物Dを撮像するカメラ本体20と、撮像された情報に基づいて、測定対象物Dの温度分布を演算する演算装置(温度分布演算部)30と、演算された測定対象の温度分布を画像として表示する表示装置70と、を備えている。
【0029】
カメラ本体20は、赤外線検出器23と可視光線検出器24を備えている。赤外線検出器23は、測定対象物Dからの赤外線エネルギを検出する装置であり、例えばサーモグラフィの赤外線エネルギ検出部分に相当する。この赤外線検出器23は、例えばCCDなどの半導体素子を備えており、赤外線は、レンズを介してこの半導体素子で検出される。
【0030】
また、可視光線検出器24は、測定対象物からの可視光線を検出するものであり、例えばCCDなどの半導体素子を備えており、可視光線は、レンズを介してこの半導体素子で検出される。なお、この可視光線検出器24は、いわゆる可視光カメラなどの検出部分に相当する。
【0031】
このような赤外線検出器23と可視光線検出器24とが入れ替え可能なように収納部21に収納されている。具体的には、収納部21は、赤外線検出器23から得られる赤外線画像と、可視光線検出器24から得られる可視光画像とが、同じ画角となるように(同じアングルで撮影(検出)できるように)、赤外線検出器23と可視光線検出器24とを入れ替え可能な構造となっている。
【0032】
さらに、収納部21は、架台26に支持されており、収納部21の先端側(撮影方向側)には、可視光線検出器24を収納部21内にセットしたときに、測定対象物Dを照射するための光源28が取り付けられている。また、カメラ本体20には、測定対象物Dとのピントを合わせたり、露光を調整したりするための撮影条件調整部29も設けられている。
【0033】
装置使用時には、可視光線検出器24を収納部21にセットし、撮影条件調整部29で撮影条件を調整し、可視光線検出器24で可視光線を検出し、その検出信号を演算装置30に出力する。出力後、可視光線検出器24を収納部21から取り外し、赤外線検出器23を収納部21にセットし、赤外線検出器23で赤外線エネルギを検出し、演算装置30にその信号を出力する。これにより、同じアングルで測定対象物Dの赤外線エネルギ及び可視光線を検出することができる。
【0034】
演算装置30は、可視光線検出器24から出力された可視光線の検出信号と、赤外線検出器23で検出された検出信号とに基づいて、測定対象物Dの温度分布を演算するものであり、検出信号に基づくデータを記憶するROM,RAMなどのメモリと、記憶装置に記憶されたデータから測定対象物Dの温度分布を演算するCPUを備えている。
【0035】
演算装置30で演算された測定対象物Dの温度分布は、出力信号として、表示装置70に出力される。表示装置70は、温度に応じた色彩が各画素から出力されるようし、この結果、その測定対象物Dの温度分布の画像を表示するものである。
【0036】
図2は、演算装置30の演算ブロック図を示しており、図3は、図2の演算ブロックの各部分の演算処理を説明するための概念図であり、(a)は、可視光画像データ記憶部に記憶された可視光画像の各画素の輝度値の概念図であり、(b)は、基準輝度値演算部が行う輝度値のヒストグラムを示した概念図、(c)は、画素抽出部の抽出を説明するための概念図、(d)は、マスク生成部が生成したマスクの概念図、(e)は、赤外線画像の各画素の温度を表した赤外線画像の概念図、(f)は、(d)に示すマスクを用いて(e)に示す各画素の測定温度を補正したときの補正後の赤外線画像の概念図である。
【0037】
図2に示すように、上述したハードウエアで構成される演算装置(温度分布演算部)30は、ソフトウエアとして、画像生成伝送部40と、反射部分マスク生成部50と、温度分布補正部60とを少なくとも備えている。
【0038】
画像生成伝送部40は、画像生成部41と、画像データ伝送部42とからなり、画像生成部41は、赤外線検出器23で検出された赤外線エネルギを温度に変換して、測定対象物Dの温度の分布を表した赤外線画像を生成するとともに、可視光線検出器24で検出された可視光線から赤外線画像と同じ解像度(画素数)の可視光画像を生成する。
【0039】
これらの得られた赤外線画像と可視光画像とは、画像データ伝送部42に出力される。画像データ伝送部42は、入力した赤外線画像を温度分布補正部60に伝送すると共に、可視光画像を反射部分マスク生成部50に伝送する。ここでは、収納部21に対して、赤外線検出器23と可視光線検出器24とが入れ換え可能となっているので、それぞれの検出器がセットされてから、そのセットされた検出器に応じて、画像データ伝送部42が、その画像を選択的に後述する各記憶部51,61に伝送する。
【0040】
反射部分マスク生成部50は、可視光画像によって得られる各画素の輝度値が、そのヒストグラムのピークを越えた輝度値となったときに、その輝度値と、赤外線エネルギの反射成分の量と、がほぼ比例関係にあることを利用して、ヒストグラムのピーク値以上の輝度値に応じた温度補正率(温度補正量)で、赤外線画像にマスキング処理(補正)を行うための手段である。
【0041】
具体的には、反射部分マスク生成部50は、可視光画像データ記憶部51と、基準輝度値演算部52と、画素抽出部53と、輝度比演算部54と、マスク生成部55と、を少なくとも、備えている。
【0042】
可視光画像データ記憶部51は、マスキング処理を行うためのマスクを生成するために、画像データ伝送部42から伝送された可視光画像を記憶する。記憶された可視光線画像の各座標の画素は、図3(a)に示すように、輝度値の情報を有している。
【0043】
次に、基準輝度値演算部52は、記憶された可視光画像の各画素の輝度値を用いて、図3(b)に示すように、可視光画像の輝度値の度数分布(ヒストグラム)を演算し、度数分布の度数のピーク(最大値)となる輝度値を基準輝度値として演算する。例えば、図3(b)に示すように、演算されたヒストグラムの場合には、ピークは、輝度が200であるので、基準輝度値は200となる。
【0044】
次に、画素抽出部53は、記憶された可視光画像に基づいて、基準輝度値よりも輝度値が大きい可視光画像の画素(座標)を抽出する。つまり、この画素抽出部53により、可視光線の輝度に比例する赤外線エネルギの反射の影響が大きい画素(座標)を推定して抽出することになる。たとえば、図3(b)のように基準輝度値が200の場合には、図3(c)に示す●を印した画素が、抽出される画素となる。
【0045】
そして、輝度比演算部54は、画素抽出部53により抽出された各座標の画素の輝度値に対する基準輝度値の比を輝度比(基準輝度比/抽出された画素の輝度比)として演算する。演算された輝度比は、0<輝度比<1の範囲となる。
【0046】
マスク生成部55は、抽出された画素に対応するように演算した輝度比を割り当て、その他の画素に輝度比として1を割り当て、輝度比のマスクを作成する。例えば、図3(d)に示すように、基準輝度値が200であり、抽出された画素の輝度値が240である場合、輝度比0.8となり、抽出された画素の輝度比が230である場合、輝度比0.9となる。ここでは、少数点第1桁までの演算を行っているが、それ以下の桁数まで演算してもよい。
【0047】
このようにして、温度補正を行うマスクには重みが付けられる(各座標の画素に補正量が設定される)ことになる。すなわち、このマスクよれば、輝度比が1の場合、赤外線エネルギの反射成分はないと推定し補正は行わず(温度補正量=0)、輝度比が1から小さくなるに従って、赤外線エネルギの反射成分が大きいと推定し、その温度補正量を大きくすることができる。
【0048】
作成されたマスクを用いて、温度分布補正部60は、温度補正を行う。具体的には、温度分布補正部60は、赤外線画像データ記憶部61と、相互相関関数演算部62と、温度補正部63とからなる。
【0049】
赤外線画像データ記憶部61は、画像データ伝送部42から伝送された赤外線画像を記憶する。この赤外線画像とは、図3(e)に示すように、赤外線エネルギをこのエネルギに応じた温度に変換して、撮影した位置に応じた各画素に温度データを含む画像、すなわち温度分布を表した熱画像である。そして、相互相関関数演算部(マッチング処理演算部)62は、可視光画像(又は製作されたマスク)と赤外線画像とを相互相関関数を演算することにより、赤外線画像と、マスクとの、測定対象物の形状のパターンマッチングを行う。これにより、赤外線画像の適正な位置の画素に対して、マスキング処理(補正)を行うことができる。
【0050】
なお、マスクの測定対象物に対して、赤外線画像の測定対象物が、一致するように、赤外線画像を変換してもよく、または、赤外線画像の測定対象物に対して、マスクの測定対象物が、一致するように、赤外線画像を変換してもよい。また、別の態様としては、可視光画像と、赤外線画像との測定対象物の形状のパターンマッチングを行うように、相互相関関数の演算を、画像データ伝送部42において行うようにしてもよい。また、後述の演算フローに示すように、相互相関関数演算部(マッチング処理演算部)で相互相関関数のみを演算し、この相互相関関数を用いて、マスクと赤外線画像が最も一致する位置で、温度補正をおこなってもよい。
【0051】
そして、マッチング処理後に、温度補正部63は、マスクを用いて、赤外線画像の各画素の温度に、この画素に対応した(同じ座標のマスクの)輝度比を乗じることにより、前記赤外線画像の各画素の温度を補正する。具体的には、図3(e)に示す赤外線画像の各画素の温度に対して、図3(d)に示すマスクの輝度比を乗算し、図3(f)に示す温度分布の画像を得ることができる。そして、図3(f)は、表示装置70において、温度の数値そのものではなく、この温度に応じた色彩が割り当てられた画像で表示される。
【0052】
次に、上述した赤外線温度測定装置10を用いた、温度測定方法に関して、以下の図4〜6を用いて説明する。図4は、図2に示す赤外線温度測定装置の反射部分マスク生成部の演算方法を説明するための演算フロー図であり、図5は、図2に示す赤外線温度測定装置の温度分布補正部の演算方法を説明するための演算フロー図である。
【0053】
また、図6は、図3及び図4に示す演算フローにおけるフローの一部を説明するための図であり、(a)は、可視光線検出器での測定対象物の撮影状態を説明するための図、(b)は、(a)により撮影された可視光画像図、(c)は、可視光画像の各画素の度数分布を示した図、(d)は、可視光画像から算出した輝度比のマスクを示した図、(e)は、赤外線検出器での測定対象の撮影状態を説明するための図、(f)は、(e)により撮影された赤外線画像図、(g)は、(e)の赤外線画像を、(d)のマスクで補正した赤外線画像図、(h)は、重みを付けない補正を行った場合の赤外線画像図である。
【0054】
まず、ステップS301で、カメラ本体20の収納部21に可視光線検出器24をセットする。次に、ステップS302に進み、撮影条件調整部29により、撮影条件を設定し、ステップS303に進む。ステップS303では、光源28を点灯(ON)し、測定対象物Dを照射する。
【0055】
次に、ステップS304で、図6(a)に示すように、可視光線検出器24を用いて、測定対象物Dからの可視光線を検出し、これにより測定対象物Dを撮影する。ここで、光源28を用いて、照射された測定対象物Dの表面で、光源28からの光を反射させることにより、赤外線の反射成分の影響が大きい補正すべき部分をより正確に検出することができる。
【0056】
ステップS305に進み、画像生成部41により、可視光線検出器24からの信号に基づいて、図6(b)に可視光画像を生成する。この可視光画像は、後述する赤外線画像と同じ解像度(縦横の画素数が同じ)の画像に生成される。ステップS306では、画像データ伝送部42により、この生成された可視光画像を反射部分マスク生成部50に伝送する。そして、ステップS307に進み、可視光画像データ記憶部51が、画像データ伝送部42から伝送された可視光画像をメモリに記憶(保存)する。
【0057】
ステップS308において、基準輝度値演算部52により、記憶された可視光画像に基づいて、画像の各座標に位置する画素の輝度値を演算し、図6(c)に示すように、可視光画像の各画素の輝度値の度数分布(ヒストグラム)を演算(作成)する。さらに、ステップS309において、図6(c)に示すように、度数分布の度数のピーク値(ヒストグラムの中央値(メジアン))となる輝度値(基準輝度値)を演算する。
【0058】
ステップS310において、画素抽出部53により、記憶された可視光画像に基づいて、基準輝度値よりも輝度値が大きい可視光画像の画素(座標)を抽出する(特定座標を検出する)。次にステップS311に進み、輝度比演算部54により、画素抽出部53により抽出された各画素(座標)の輝度値に対する基準輝度値の比を輝度比として演算する。
【0059】
次にステップS312に進み、マスク生成部55により、図6(d)に示すように、抽出された画素に対応する輝度比を割り当て、その他の画素に輝度比として1を割り当て、輝度比のマスクを作成する。これにより、反射レベルの重み付けマスクが生成される。
【0060】
次に、図5に示す温度分布補正の演算フローを以下に示す。まず、ステップS401で、カメラ本体20の収納部21に赤外線検出器23をセットする。次に、ステップS402に進み、撮影条件調整部29により、撮影条件を設定し、ステップS403に進む。次に、ステップS403で、図6(e)に示すように、赤外線検出器23を用いて、測定対象物Dからの赤外線エネルギを検出する(測定対象物Dを撮影する)。
【0061】
ステップS404に進み、画像生成部41は、赤外線検出器23からの信号に基づいて、図6(f)に示すように、赤外線画像を生成する。なお、赤外線画像を、前述した可視光画像と同じ画素数(縦横の画素数が同じ)に生成する。ステップS405では、画像データ伝送部42により、この生成された赤外線画像を温度分布補正部60の赤外線画像データ記憶部61に伝送する。
【0062】
次に、ステップS406に進み、赤外線画像データ記憶部61により、伝送された赤外線画像をメモリに記憶する(保存する)。さらに、ステップS407に進み、相互相関関数演算部62により、保存された赤外線画像と、可視光画像により生成されたマスクと赤外線画像とを相互相関関数を演算する。
【0063】
ステップS408では、温度補正部63により、算出された相互相関関数を用いて、マスクの画像と、赤外線画像が最も一致する位置において、図6(f)に示すような赤外線画像の各画素の温度を、図6(d)で示すような該画素に対応した輝度比の反射重み付けのマスクを乗じることにより、図6(g)に示すように赤外線画像の各画素の温度を補正する。
【0064】
これにより、2つの画像の測定対象物の形状が最も一致する位置において、補正を行うことができる。この結果、図6(h)の如く、重みを付けていない補正を行った赤外線画像とは異なり、図6(g)に示すように、赤外線画像において、測定対象物からの反射が強いと想定される部位のみを局部的に補正することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、本実施形態では、赤外線検出器と可視光線検出器とを入れ換え可能な構成としたが、マッチング処理の精度を挙げることができれば、これらを共にカメラ本体に備えてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10:赤外線温度測定装置,20:カメラ本体,21:収納部,23:赤外線検出器,24:可視光線検出器,26:架台,28:光源,29:撮影条件調整部,30:演算装置,40:画像生成伝送部,41:画像生成部,42:画像データ伝送部,50:反射部分マスク生成部,51:可視光画像データ記憶部,52:基準輝度値演算部,53:画素抽出部,54:輝度比演算部,55:マスク生成部,60:温度分布補正部,61:赤外線画像データ記憶部,62:相互相関関数演算部,63:温度補正部,70:表示装置,D:測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物からの赤外線エネルギを検出する赤外線検出器と、前記測定対象物からの可視光線を検出する可視光線検出器と、検出された赤外線エネルギと可視光線とから前記測定対象物の温度分布を演算する温度分布演算部を備えた赤外線温度測定装置であって、
該温度分布演算部は、前記赤外線エネルギを、該赤外線エネルギに応じた温度に変換して、前記測定対象物の温度の分布を表した赤外線画像を生成するとともに、前記可視光線から前記赤外線画像と同じ解像度の可視光画像を生成する画像生成部と、
前記可視光画像の各画素の輝度値の度数分布を演算し、該度数分布の度数のピークとなる輝度値を基準輝度値として演算する基準輝度値演算部と、
前記基準輝度値よりも輝度値が大きい可視光画像の画素を抽出する画素抽出部と、
前記抽出された画素の輝度値に対する前記基準輝度値の比を輝度比として演算する輝度比演算部と、
前記抽出された画素に前記輝度比を割り当て、その他の画素に輝度比として1を割り当てて、輝度比のマスクを生成するマスク生成部と、
該マスクを用いて、前記赤外線画像の各画素の温度に、該画素に対応した前記輝度比を乗じることにより、前記赤外線画像の各画素の温度を補正する温度補正部と、
を備えることを特徴とする赤外線温度測定装置。
【請求項2】
前記赤外線温度装置は、前記測定対象物に可視光線を照射するための光源をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の赤外線温度測定装置。
【請求項3】
前記温度補正部は、前記可視光画像と、前記赤外線画像とをマッチング処理するマッチング処理演算部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外線温度測定装置。
【請求項4】
前記赤外線温度測定装置は、前記赤外線検出器と前記可視光線検出器とを入れ替え可能に収納する収納部を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の赤外線温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−149834(P2011−149834A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11570(P2010−11570)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】