説明

赤外線透過ガラス

【課題】熱的に安定で、赤外域で高い透過特性を示すガラスを提供する。
【解決手段】下記酸化物基準のモル%表示で、Biを20〜35%、GeOを20〜50%、Gaを5〜20%、CaO、SrOおよびBaOのうちのいずれか2成分以上を含有し、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が12〜35%である赤外線透過ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を透過し、COガス、COガス、NOガス等の濃度検知センサー基板、高温センサー基板、赤外線透過ファイバなどに好適なガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
COガス検知、COガス検知には4μm帯の赤外線が利用され、比較的高温の検出には3〜5μmの赤外線が利用されている。
COガスまたはCOガスの濃度検知センサーにおいては5μm以上の波長まで赤外線を透過する基板上に多層膜が形成された赤外線フィルタが使用されている。このような基板としてはサファイア基板やシリコン基板が広く用いられているが、それら基板は高価であり代替材料が求められている。
【0003】
そのような材料としてフッ化物ガラスおよびカルコゲン化物ガラスが知られているが、これらガラスのガラス転移点(Tg)はいずれも低く典型的には400℃未満であり熱的に不安定であるという問題がある。
熱的に安定で赤外線を透過するガラスとしては、Bi−PbO−ZnO−CdF系ガラス(特許文献1参照)、Bi−R’O−LiO系ガラス(R’はMg、Ca、Sr、Ba。特許文献2参照)などが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−188445号公報
【特許文献2】特開平8−208267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記Bi−PbO−ZnO−CdF系ガラスはPbOを含有する点で好ましくなかった。
前記Bi−R’O−LiO系ガラスは、フッ化物ガラスおよびカルコゲン化物ガラスより熱的に安定であるが、板状に成形したり、延伸してファイバ化を行うには、結晶化しやすいという問題がある。
本発明はこのような問題を解決できる赤外線透過ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記酸化物基準のモル%表示で、Biを20〜35%、GeOを20〜50%、Gaを5〜20%、CaO、SrOおよびBaOのうちのいずれか2成分以上を含有し、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が12〜35%である赤外線透過ガラスを提供する。
【0007】
また、CaO、SrOおよびBaOの含有量のいずれかが5モル%以上である前記赤外線透過ガラスを提供する。
また、Alを8モル%以下含有する前記赤外線透過ガラスを提供する。
また、LiOを10モル%以下含有する前記赤外線透過ガラスを提供する。
また、アルカリ金属酸化物を合計で10モル%以下含有する前記赤外線透過ガラスを提供する。
また、NaOおよびKOのいずれも含有しない、または、NaOもしくはKOをそれらの含有量の合計が1モル%以下の範囲で含有する前記赤外線透過ガラスを提供する。
また、CeOを2モル%以下含有する前記赤外線透過ガラスを提供する。
【0008】
また、SiOを含有しない、またはSiOを1モル%以下含有する前記赤外線透過ガラスを提供する。
また、Bを含有しない、またはBを1モル%未満含有する前記赤外線透過ガラスを提供する。
厚み1mmでの波長5.5μmの光の透過率が60%以上である前記赤外線透過ガラスを提供する。
また、ガラス転移点が400℃以上である前記赤外線透過ガラスを提供する。
また、前記赤外線透過ガラスからなるガラス板を提供する。
【発明の効果】
【0009】
Tgが高く熱的に安定であり、波長5.5μmでの透過率が高い赤外線透過ガラスが得られる。
また、アルカリ金属酸化物を多く含む場合、ガラスを加熱しながら多層膜を形成する過程でガラス中のアルカリ金属イオンが膜中に移動するという問題が生じるおそれがあるが、本発明の好ましい態様においてはこのような問題が発生しないまたは発生しにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の基板用ガラス(以下、本発明のガラスという。)はガス分析機器、放射温度計、赤外線センサー等のガラス基板および赤外線を透過することを目的とするファイバに好適である。
本発明のガラスのTgは400℃以上であることが好ましい。400℃未満では比較的高温の赤外線を検出するときに基板が劣化するおそれ、または多層膜を形成するための蒸着工程で基板が変形するおそれがある。より好ましくは430℃以上、特に好ましくは450℃以上である。
【0011】
本発明の結晶化温度(Tx)とTgの差(dT)は95℃以上であることが好ましい。95℃未満では、ガラス成形時に失透するおそれがある。特にガラスを加熱延伸してファイバ化する過程で失透するおそれがある。より好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上である。
【0012】
本発明のガラスは、厚み1mmでの波長5.5μmの光の透過率(T5.5)が60%以上であることが好ましい。T5.5が60%未満では必要な光量が得られなくなるおそれがある。この好ましい態様のガラスからなる基板はサファイア基板(T5.5=73%)の代替品として使用することが可能になる。
【0013】
次に、本発明のガラスの成分と含有量をモル%を単に%と表示して説明する。
Biは必須成分である。その含有量が20%未満では溶解温度が高くなる、または分相しやすくなる。好ましくは23%以上、より好ましくは25%以上である。35%超ではガラス化が困難になる。より好ましくは32%以下、特に好ましくは30%以下である。
【0014】
GeOはネットワークフォーマであり必須である。その含有量が20%未満では失透しやすくなる。より好ましくは25%以上である。50%超ではかえって失透しやすくなる。より好ましくは45%以下、特に好ましくは40%以下である。
【0015】
Gaは失透を抑制する成分であり必須である。その含有量が5%未満では十分な効果が得られない。好ましくは8%以上である。20%超では、かえって失透しやすくなる。好ましくは15%以下である。
【0016】
CaO、SrO、BaOのいずれか2成分以上を含有することにより、熱的に安定なガラスが得られる。特にdTを大きくできる。これら3成分すべてを含有することが好ましい。これら成分の含有量の合計CaO+SrO+BaOは12%以上が好ましい。より好ましくは14%以上、特に好ましくは20%以上である。35%超では、失透しやすくなる。好ましくは、30%以下である。
【0017】
Alは必須ではないが失透を抑制する成分であり、そのような目的などのために8%以下の範囲で含有してもよい。Alが8%超ではかえってガラスが失透しやすくなる。より好ましくは、Alは4%以下である。
【0018】
本発明のガラスは本発明の目的を損なわない範囲で、Bi、GeO、Ga、CaO、SrO、BaOおよびAl以外の成分を含有してもよい。以下ではそのような成分を例示的に説明する。
【0019】
LiOは必須ではないが、失透を抑制するために10%以下の範囲で含有してもよい。10%超では化学的耐久性が低下するおそれがある。好ましくは8%以下である。
先に述べたようなガラス中のアルカリ金属イオンの膜中への移動を抑制したい場合にはLiO、NaOおよびKOの含有量はそれぞれ1%以下であることが好ましい。
【0020】
CeOは必須ではないが、Biがガラス融液中で金属ビスマスとなって析出するのを防止するなどのために2%まで含有してもよい。2%超では、ガラスが失透しやすくなる。好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である。CeOを含有する場合、その含有量は0.01%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05%以上である。
【0021】
MgO、ZnO、TiO、ZrO、In、La、YおよびNbからなる群から選ばれる1種以上の酸化物を含有してもよい場合がある。この場合これら成分の含有量の合計は10%以下であることが好ましい。10%超では失透しやすくなるおそれがある。典型的には5%以下である。
【0022】
なお、SiOを含有する場合その含有量は1%未満であることが好ましい。1%超ではT5.5が低下するおそれがある。典型的にはSiOは含有しない。
また、Bを含有する場合その含有量は1%以下であることが好ましい。1%超ではT5.5が低下するおそれがある。典型的にはBは含有しない。
また、PbO、TlOは環境への悪影響が懸念されるため含有しないことが好ましい。
また、Pは典型的には含有しない。
【0023】
本発明のガラスの製造方法については特に制限はなく、たとえば、原料を調合して混合し、金ルツボ、白金ルツボ、アルミナルツボまたは石英ルツボの中に入れ、800〜1300℃で空気中で溶解して製造できる(溶融法)。また、ゾルゲル法や気相蒸着法など溶融法以外の方法で製造してもよい。
【実施例】
【0024】
表の例1〜10、12〜18について、各表のBiからCeOまでの欄にモル%表示で示す組成からなる原料を1150℃で溶解し、200℃に余熱したモールドに40g流し、徐冷してガラスを得た。例1〜10は実施例、例12〜18は比較例である。なお、表中のROはCaO+SrO+BaOである。
【0025】
例1〜10についてはガラスが得られ特に失透は認められなかったが、例12および13は表面が失透した。例14〜18は全体に失透した。
例1〜10について、Tg(単位:℃)、Tx(単位:℃)、T5.5(単位:%)を測定した。例12、13についても同様に、失透していないガラス部分についてTg、Tx、T5.5を測定した。
【0026】
例1〜10のいずれもTgが430℃以上で、表中にdTで示した(Tx−Tg)が99℃以上である。
例4のガラスについては、直径15mmのガラス棒から、加熱延伸を行うことにより直径240μmのファイバを作製することができ、成形性に優れることを確認した。
例11、19〜24はいずれも溶解を行わなかったが失透性について組成から推定し、例11についてはTg、T5.5についても組成から推定した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0030】
ガスセンサー基板および光ファイバのガラスに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記酸化物基準のモル%表示で、Biを20〜35%、GeOを20〜50%、Gaを5〜20%、CaO、SrOおよびBaOのうちのいずれか2成分以上を含有し、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が12〜35%である赤外線透過ガラス。
【請求項2】
CaO、SrOおよびBaOの含有量のいずれかが5モル%以上である請求項1の赤外線透過ガラス。
【請求項3】
Alを8モル%以下含有する請求項1または2の赤外線透過ガラス。
【請求項4】
LiOを10モル%以下含有する請求項1、2または3の赤外線透過ガラス。
【請求項5】
アルカリ金属酸化物を合計で10モル%以下含有する請求項1、2、3または4の赤外線透過ガラス。
【請求項6】
NaOおよびKOのいずれも含有しない、または、NaOもしくはKOをそれらの含有量の合計が1モル%以下の範囲で含有する請求項1〜5のいずれかの赤外線透過ガラス。
【請求項7】
CeOを2モル%以下含有する請求項1〜6のいずれかの赤外線透過ガラス。
【請求項8】
SiOを含有しない、またはSiOを1モル%以下含有する請求項1〜7のいずれかの赤外線透過ガラス。
【請求項9】
を含有しない、またはBを1モル%未満含有する請求項1〜8のいずれかの赤外線透過ガラス。
【請求項10】
ガラス転移点が400℃以上である請求項1〜9のいずれかの赤外線透過ガラス。
【請求項11】
厚み1mmでの波長5.5μmの光の透過率が60%以上である請求項1〜10のいずれかの赤外線透過ガラス。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかの赤外線透過ガラスからなるガラス板。

【公開番号】特開2010−1167(P2010−1167A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159068(P2008−159068)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】