説明

走査型プローブ顕微鏡

【課題】
探針アプローチ時間を短縮してインライン装置としてのスループットを向上させた原子間力顕微鏡等の走査型プローブ顕微鏡を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、試料の表面の形状を計測する走査型プローブ顕微鏡であって、試料の表面の高さを探針計測位置から距離L離れた高さ計測位置において計測する高さセンサ116と、高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCを前記高さセンサ116で計測した結果を用いて試料ステージ104を上昇させて、前記高さ計測位置での試料の表面の高さと探針計測位置での試料の表面の高さとの間の高さずれ情報ΔZ又は段差情報(RhC−RhA)に基づき前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板等の表面形状を測定するなどの用途に用いられる走査型プローブ顕微鏡及びそれを用いた計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体回路の高集積化に伴い、回路パターンの微細化が進行し続ける中で、半導体製造工程における検査計測技術や不良解析技術の重要度が増している。半導体基板(ウエハ)の表面形状計測において用いられている走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)は、微小な探針の先端を試料表面に近接または間欠的に接触させながら探針を走査することにより、試料表面の形状を原子オーダーで計測する手法として広く知られている。
【0003】
特開平6−74754号公報(特許文献1)には、探針を振動させながら試料に近づけると音響的相互作用で5μm程度離れた所から、探針の振幅が減少するように構成できることを利用して試料が探針に近接することを感知することが知られている。
【0004】
また、特開平9−101317号公報(特許文献2)には、探針(カンチレバー)に照射するレーザ光の試料表面からの漏れ反射光を利用し、カンチレバーに試料が近づくと漏れ反射光の光束が絞られ検出器の出力変化が増大し、出力微分値が一定閾値以上のとき、試料が探針に接近していると判断して、高速接近から低速接近に切り替えて、アプローチ時間を短くすることが知られている。
【0005】
また、特開2000−202284号公報(特許文献3)には、探針の先端付近の高さを計測する近接センサ(光、静電容量、エアーマイクロ)を設け、先端付近の高さを、探針の試料への接近を事前に検出して高速接近制御をすることが知られている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−74754号公報
【特許文献2】特開平9−101317号公報
【特許文献3】特開2003−202284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1では、探針を振動させる構成のAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)にしか使用できないという課題を有していた。また探針と試料との間の距離が数μm以内まで近づかなければ近接を感知できないため、数μm近接を感知する別のセンサが必要であるという課題も有していた。
【0008】
また、特許文献2では、試料対象物の表面の傾き、凹凸状態、反射率変化により、漏れ反射光の反射方向が変化したり、光量変動が生じたりして、安定に高速接近から低速接近に切り替わらず、探針を損傷する可能性があるという課題を有していた。
【0009】
また、特許文献3では、試料対象物の表面の傾き、凹凸状態、反射率変化により、反射光の強度が変化して試料高さに対応した出力が得られなくなり、正確な高さを計測できない可能性があるという課題を有していた。また、静電容量センサやエアーマイクロ方式は、数mm程度の面積の平均的な出力値(高さ)になるため、表面に凹凸がある場合、探針付近高さを正確に計測できない場合があるという課題を有していた。
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解決すべく、探針アプローチ時間を短縮してインライン装置としてのスループットを向上させたAFM(原子間力顕微鏡)等の走査型プローブ顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、試料を載置する試料ステージと、該試料ステージに載置された試料の表面における探針計測位置において試料の表面に近接または接触させて該試料の表面を走査する探針と、該探針を3次元方向に駆動する探針駆動機構と、前記探針の撓みを検出する撓み検出手段とを備え、前記探針を試料の表面に近接または接触させて試料の表面を走査した際、前記撓み検出手段によって検出された探針の撓み情報に基づいて前記試料の表面の形状を計測する走査型プローブ顕微鏡であって、前記試料の表面の高さを前記探針計測位置から任意の距離L離れた高さ計測位置において計測する高さセンサを備えたことを特徴とする。
また、本発明は、更に、対物レンズを有し、該対物レンズのほぼ光軸上に配置された前記探針及び前記試料を観察する観察光学系を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、更に、前記高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCを前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記探針計測位置Aにおける試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、更に、前記高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCを前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記高さ計測位置での試料の表面の高さと前記探針計測位置での試料の表面の高さとの間の高さずれ情報ΔZ又は段差情報(RhC−RhA)に基づき前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、更に、前記高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCを前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記観察光学系で観察される試料の表面の画像情報に基づき前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、更に、予め、前記高さセンサを用いて計測して前記高さ計測位置(RC)での試料の表面の高さと前記探針計測位置(RA)での試料の表面の高さとの間の高さずれ情報ΔZ又は段差情報(RhC−RhA)を算出して記憶しておく算出手段と、前記高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCを前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記算出手段で算出して記憶しておいた前記高さずれ情報ΔZ又は段差情報(RhC−RhA)に基づき前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、更に、予め、前記試料の設計情報に基づいて前記高さ計測位置(RC)での試料の表面の高さ(RhC)と前記探針計測位置(RA)での試料の表面の高さ(RhA)との間の段差情報(RhC−RhA)を算出して記憶しておく算出手段と、前記高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCを前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記算出手段で算出して記憶しておいた前記段差情報(RhC−RhA)に基づき前記探針計測位置Aにおける試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、更に、前記高さセンサで計測された前記高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCに基づいて前記試料を前記探針に接近させるための前記試料ステージの上昇量Zhを算出し、該算出された上昇量Zhに基づき前記試料ステージを上昇させて、前記探針計測位置Aにおける試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、更に、前記高さセンサで計測された前記高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCに基づいて前記探針計測位置Aでの試料の表面の高さ情報hAを推定し、該推定された前記探針計測位置Aでの試料の表面の高さ情報hAに基づいて前記試料を前記探針に接近させるための前記試料ステージの上昇量Zhを算出し、該算出された上昇量Zhに基づき前記試料ステージを上昇させて、前記探針計測位置Aにおける試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように前記試料を前記探針に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、更に、予め、前記高さセンサを用いて計測して前記高さ計測位置(RC)での試料の表面の高さ(RhC)と前記探針計測位置(RA)での試料の表面の高さ(RhA)との間の高さずれ情報ΔZ又は段差情報(RhC−RhA)を算出して記憶しておく算出手段と、前記高さセンサで計測された前記高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hC及び前記算出手段に算出して記憶しておいた前記高さずれ情報ΔZ又は段差情報(RhC−RhA)に基づいて前記探針計測位置Aでの試料の表面の高さ情報hAを推定し、該推定された前記探針計測位置Aでの試料の表面の高さ情報hAに基づいて前記試料を前記探針に接近させるための前記試料ステージの上昇量Zhを算出し、該算出された上昇量Zhに基づいて前記試料ステージを上昇させて、前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように前記試料を前記探針に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、前記算出手段において、前記高さずれ情報ΔZを、前記高さセンサを用いて計測される試料の表面における複数箇所の高さを基に得られる試料の表面の傾き量若しくは湾曲量と前記距離Lとの関係から算出するように構成したことを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、前記制御手段は、更に、前記試料を前記探針に接近させた後、前記探針駆動機構のZステージをストロークの1/2程度下降させ、前記試料ステージを前記接近速度よりも低速で上昇させて前記撓み検出手段によって探針の撓み情報が検出されたとき前記試料ステージの上昇を停止し、その後前記探針駆動機構のZステージを上昇させて元に戻すことによって探針の先端と試料の表面との間の間隙を前記探針駆動機構のZステージのストローク以内に位置決めするように構成されることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、前記制御手段は、更に、探針を交換した際、前記高さセンサで高さセンサから探針の先端までのZ方向の距離h0を計測し、該計測されたZ方向の距離h0を前記試料の前記探針への接近制御に用いるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、試料の表面が傾いていたり、表面の凹凸状態や反射率に違いが生じても、探針計測位置において、探針と試料の表面との間の間隔を所望の間隔以内(10μm〜15μm程度以内)にするための探針アプローチ時間を短縮し、インライン装置としてのスループットを向上することができる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る原子間力顕微鏡(AFM)等の走査型プローブ顕微鏡(SPM)の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る原子間力顕微鏡等の走査型プローブ顕微鏡の全体構成を示す図である。図1において、90は定盤等のベースであり、91は該ベース90上に立設された架台である。103は計測対象である半導体ウエハ、104はウエハ103を真空吸着してX、Y、Z方向並びにXY平面内の回転方向にウエハ103を移動するためのベース90上に設けられた試料ステージである。試料ステージの動作は、ステージ制御部111によって制御される。探針102は探針ホルダ303を介して探針駆動機構101によって保持されている。架台91に設けられた探針駆動機構101は、ウエハ103上において探針102をX、Y、Z方向に精密に位置決めを行う。なお、探針102はシリコン材料から成り、収束イオンビームによってその先端径が十ナノメートル以下に加工されている。探針102はカンチレバーとその先端に形成された探針によって構成されているが、本明細書中ではカンチレバーと探針を併せて単に探針と称す。探針駆動機構101上には、対物レンズ106を備えた観察光学系鏡筒105が配置されている。観察光学系105はその内部に撮像カメラを有しており、対物レンズ106で拡大されたウエハ103表面の光学像は、光学像処理部108を経由してTVモニタ107上に表示される。なお、観察光学系105並びに対物レンズ106は、図示しない移動機構によってZ方向に上下移動するフォーカス軸を備えている。
【0026】
更に、架台91上において、探針102が試料103に接触あるいは近接する位置や探針102の近傍とは異なる位置(探針102の位置から距離L離れた位置)に、試料高さを計測する高さセンサ(変位センサ)116を備えて構成する。そして、高さセンサ116は、予め試料103における探針102で計測する位置の高さを計測して全体制御部114に入力する。
【0027】
全体制御部114は、ウエハ103表面の光学像を取得する光学像処理部108、探針走査制御部112、計測対象試料表面の3次元像を生成するSPM像生成部113、設計情報格納部115、様々な画像データを記憶する記憶装置121及び図4(a)に示すネットワーク41と接続される。
【0028】
図2は図1に示した探針駆動機構101の構造を示した説明図であり、図2(a)は探針駆動機構101のXY平面図、図2(b)は探針駆動機構101のA−A'矢視断面図、図2(c)は探針駆動機構101のYZ平面図をそれぞれ示した図である。探針駆動機構101は、ホルダ201及び202とYステージ203が弾性変形部204a、204b、204c、204dを介して同一平面内に一体形成されており、更にYステージ203の同一平面内にXステージ207がYステージ203と直行する形で、弾性変形部208a、208b、208c、208dを介して一体形成された構造となっている。Xステージ207には、対物レンズ106を貫通させるためのスルーホール211が設けられている。ホルダ201、202とYステージ203との間は、積層型圧電素子素子(以下本実施例では単に圧電素子と称する)205、206が接着されており、Yステージ203は圧電素子205、206が等量だけ同時に伸縮することによってY軸方向に駆動される。圧電素子205と弾性変形部204a及び204bによって構成される駆動機構と、圧電素子206と弾性変形部204c及び204dによって構成される一対の駆動機構は、対物レンズの視野中央位置212(探針102の先端位置)を中心として、対象な位置に配置されている。
【0029】
一般的な圧電素子素子(圧電セラミック素子)は、1ボルトの直流電圧を印加することで1ナノメートル程度の変位変化を得ることができ、これを積層することにより、数十マイクロメートル程度の可動量の一軸駆動素子とすることができる。本実施例で用いた圧電素子205、206は共に、最大可動距離が20マイクロメートル、可動分解能は1ナノメートル以下、望ましくは0.1ナノメートル前後である。
【0030】
Yステージ203とXステージ207との間は、圧電素子209、210が接着されており、Xステージ207は圧電素子209、210が等量だけ同時に伸縮することによってX軸方向に駆動される。圧電素子209と弾性変形部208a及び208bによって構成される駆動機構と、圧電素子210と弾性変形部208c及び208dによって構成される一対の駆動機構は、対物レンズの視野中央位置212(探針102の先端位置)を中心として、対象な位置に配置されている。圧電素子209、210についても、その最大可動距離は20マイクロメートル、可動分解能は1ナノメートル以下、望ましくは0.1ナノメートル前後である。
【0031】
Xステージ207の底面には、Z軸機構部213がYステージ203とXステージ207の可動平面に対して直交する形で取り付けられている。Z軸機構部213は、固定部218、219とZステージ214が弾性変形部215a、215b、215c、215dを介して同一平面内に一体形成されている。固定部218、219とZステージ214との間には圧電素子216、217が接着されており、Zステージ214は圧電素子216、217が等量だけ同時に伸縮することによってZ軸方向に駆動される。圧電素子216と弾性変形部215a及び215bによって構成される駆動機構と、圧電素子217と弾性変形部215c及び215dによって構成される一対の駆動機構は、対物レンズの光軸212'に対してXZ平面上で対象な位置に配置されている。圧電素子216、217の最大可動距離は10マイクロメートル、可動分解能は1ナノメートル以下、望ましくは0.1ナノメートル前後である。探針102は探針ホルダ303を介してZステージ214に取り付けられており、探針102の先端位置は、対物レンズの視野中央位置212と一致するようになっている。
【0032】
以上説明したように、本発明に係る探針駆動機構101では、探針102を3次元的に駆動するためのXステージ207、Yステージ203、Z214ステージの動作が互いに干渉することがなく、それぞれを独立に動作させることが可能である。また、例えばYステージ203において、圧電素子205を挟み込んで、圧電素子205の伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部204a、204bで構成される一式のステージ駆動機構部が、Yステージ203の左右両側に一対(圧電素子206、弾性変形部204c、204d)で配置されていることから、圧電素子205、206がそれぞれ等量ずつ伸縮することにより、弾性変形部204a、204b、204c、204dを全て均等に変形させることができる。この結果、Yステージ203のアッベの誤差を排除し、Yステージ203の真直度を従来よりも格段に向上させることが可能となる。この動作原理は、Xステージ207、Zステージ214でも全く同様であることは自明である。なお、探針駆動機構101のXステージ207、Yステージ203、Zステージ214の動作は、探針駆動制御部110により制御される。
【0033】
なお積層型の圧電素子は、電圧を印加した場合の伸縮変位に個体差が生じる場合がある。また同一の圧電素子を用いても、印加電位と変位との間にヒステリシス特性が存在する。この場合は、圧電素子毎に異なるヒステリシス特性を予め計測しておき、所望の変位にするための印加電圧を圧電素子単位で調節して印加すれば良い。更に、本実施の形態では探針駆動機構101のXステージ207、Yステージ203、Zステージ214を動作させるために圧電素子を用いたが、各ステージの動力源(駆動源)は圧電素子に限定される訳ではなく、探針102の位置決めを行うに必要なだけの精度・能力を備えたリニアアクチュエータであれば良い。探針駆動機構101の構成材料としては、アルミニウム合金や熱膨張率(線膨張係数)の低い鉄−ニッケル合金等の材料が用いられる。
【0034】
探針駆動機構101の上部に配置されている観察光学系鏡筒105及び対物レンズ106は、図示しない移動機構によってZ軸方向に上下動が可能であり、対物レンズ106が探針駆動機構101に接触しないように、Xステージ207に設けられたスルーホール211に挿入される。本発明の探針駆動機構101の構成によれば、探針102上にその走査を行う機構部が存在しないため、対物レンズ106で探針102を直接観察できると同時に、ウエハ103表面を高解像度で観察することが可能である。例えば対物レンズ106の開口率が0.3以上、より好ましくは0.4以上で、作動距離は15ミリメートルの仕様であれば、ウエハ103上のパターンを解像度が1マイクロメートル以下、より好ましくは0.7マイクロメートル以下、の条件で鮮明に観察できる。さらに、高倍率の観察を行ないたい場合には、対物レンズ106の開口率が0.7程度、作動距離は6ミリメートルの仕様であれば、ウエハ103上のパターンを解像度が0.4マイクロメートル程度の条件で鮮明に観察できるので、必要に応じて観察光学系105を上死点まで上昇し、図示しないレボルバを回転させて対物レンズ106が交換してもよい。
【0035】
なお、探針102の位置を固定したまま、対物レンズ106が探針102に接触しない程度に、対物レンズ106と試料ステージ104を同量(例えば1ミリメートル)下降させることにより、対物レンズ106の視野内に配置された探針102の存在の影響を受けることなく、探針102直下のウエハ103上のパターンを観察することも可能である。これは対物レンズ106の開口率が大きく、探針102が対物レンズ106の視野の一部分のみを占める条件の際に得られる光学的現象を利用したものである。
【0036】
図3は、探針102とウエハ103表面との接触を検知するための探針たわみ検出部の構成を示す説明図で、探針駆動機構101のXZ平面図である。301は、発振波長が600ナノメートル、発振出力0.1ミリワットのレーザダイオードであり、このレーザダイオード301から発振されたレーザ光は、レンズ302を透過後ホルダ201に取り付けられたミラー303(図示せず)でY軸方向に折り返され、Yステージ203に取り付けられたミラー304(図示せず)で再びX軸方向に反射され、ミラー305、306を経て探針102の背面に略収束された状態で照射される。
【0037】
探針102の背面で反射されたレーザ光は、ミラー307、308で反射され、Yステージ203に取り付けられたミラー309(図示せず)でY軸方向に折り返され、ホルダ202に取り付けられたミラー310(図示せず)で再びX軸方向に反射され受光器311で受光される。ここで、レーザダイオード301を探針駆動機構101のホルダ201に、受光器311をホルダ202に、ミラー305、306、307、308を図示しない治具によりZステージ214に固定することで、探針102の位置によらず探針のたわみ量を受光器311のレーザ受光面上におけるレーザ照射位置の変化として検出することができる。受光器311としては、PSD(ポジションセンシティブデバイス)、イメージセンサ、分割フォトダイオード等が使用できる。
【0038】
結果的に、探針102とウエハ103が接触して探針102にたわみが生じると、受光器311の受光面上ではY軸方向にレーザ照射位置が移動することとなる。受光器311では、このレーザ照射位置の変化を電圧信号に変換し、探針たわみ検出部109で探針102とウエハ103の表面の接触を検知する。
【0039】
探針たわみ検出部109、探針駆動制御部110、ステージ制御部111は探針走査制御部112に接続されており、全体制御部114によって全ての装置動作が制御され、SPM像生成部113では計測対象試料表面の3次元像が生成される。
【0040】
以上に述べた通り本発明の実施の形態によれば、SPMの探針を3次元に走査する機構部において、圧電素子を挟み込みその伸縮軸の延長線上に配置された2箇所の弾性変形部で構成される一式の駆動機構部が、各ステージの左右両側に一対で配置されていることから、各ステージに用いられている2つの圧電素子がそれぞれ等量ずつ伸縮することにより、ステージの略重心位置に平均的な駆動力を加えることが可能になり、観察光学系105のために圧電素子を重心位置の延長上に配置できないにもかかわらず、駆動時の回転振動を抑制し高速なステージの駆動・位置決めを可能としている。
【0041】
また、探針を走査する3軸の移動動作が互いに干渉することがなく、それぞれの駆動軸を独立に動作させることが可能である。更に、探針上にその走査を行う機構部が存在しないため、対物レンズで探針を直接観察できると同時に、計測対象物表面を高解像度で観察することができる。これにより、計測対象試料上の探針計測位置を観察光学系で検出した後、即座に計測動作に移ることが可能となる。また、観察光学系で計測対象試料上の探針計測位置を観察しながら計測動作を実行することもできる。
以上本実施の形態によれば、計測精度並びに計測スループットを向上させた、高精度・高速インラインSPMを実現することができる。
【0042】
なお、更に、Xステージ207の変位を検出するX軸用変位センサ(図示せず)と、Yステージ203の変位を検出するY軸用変位センサ(図示せず)と、Zステージ214の変位を検出するZ軸用変位センサ(図示せず)とを設け、ステージ変位検出部(図示せず)において、X軸用変位センサ、Y軸用変位センサ及びZ軸用変位センサの各々で計測された各ステージの移動量を検出し、探針走査制御部112を介して探針駆動制御部110にフィードバックを行うステージサーボ機能を付加して構成してもよい。このようにステージサーボ機能を働かせることで、探針駆動機構101の各ステージに使用されている圧電素子素子の可動分解能、または探針駆動機構101の各ステージに使用されている変位センサの変位検出分解能程度の精度で探針駆動機構101のXステージ207、Yステージ203、Zステージ214の位置を制御できる。
【0043】
次に、図4及び図5を用いて本発明に係るSPMの動作について説明する。図4は、本発明によるSPMを用いた半導体製造工程の一部を示した図であり、インラインSPMの機能を併せて説明するものである。製造装置A(51)、製造装置B(52)の順に処理されたウエハは、1ロット単位で製造装置C(53)の処理に移るものと、SPM45で計測を行ってから製造装置C(53)の処理に移るものにわかれる。この割合は、SPMのスループット(単位時間当たりのウエハの処理枚数)を考慮して予めオペレータがホストコンピュータ40に指示する。全ての製造装置51〜53とSPM45は、半導体製造ラインのホストコンピュータ40とデータ網41で接続されており、ホストコンピュータ40では製造中の全ウエハの履歴や工程等が管理される。また、各装置間のウエハの搬送は図示しない搬送装置が行う。例えば、製造装置A(51)はドライエッチング装置、製造装置B(52)はレジスト剥離装置、製造装置C(53)は成膜装置である。
【0044】
製造装置B(52)での処理が終了したウエハは、ホストコンピュータ40で管理されているウエハの工程管理情報に基づき、予め決められた割合でSPM45に搬送される。SPM45では、搬送されたウエハの工程管理情報をホストコンピュータ40に問合せ、ウエハ上における探針計測位置の座標情報を得た後、計測を行う。SPM45では、計測の終了後ホストコンピュータ40にウエハ上の各探針計測位置の計測結果を出力し、ウエハは搬送装置によって製造装置C(53)に搬送される。
【0045】
ホストコンピュータ40ではSPM45から得た計測結果を解析し、必要に応じて各製造装置の処理条件を変更(最適化)する。例えば、SPM45でウエハ上の複数の位置でエッチング段差を計測し、そのばらつきから製造装置A(ドライエッチング装置)のエッチング条件の変更等を行う。或いは、SPM45の計測結果を解析した結果、ウエハを製造装置Bに戻して再処理を行うこともある。これらの場合の処理条件は、各製造装置における通常の処理条件とは異なる処理条件で実施されるが、この条件はSPM45の計測結果に基づいて適宜ホストコンピュータ40が決定・管理する。以上のフィードバック(状況に応じてはSPMの計測結果に基づいてSPM以降の製造工程の処理条件を決定するフィードフォワードの場合もある)作業には、オペレータが介在する場合がある。
【0046】
以上の流れの中で、SPM45の計測結果に基づいて各製造装置の処理条件を決定(最適化)するに当たり、SPM45による計測精度が高精度である程、各製造装置の処理条件をきめ細かに設定することができる。また、SPM45を半導体製造工程のインライン装置として用いるには、SPM45の上流の製造装置で処理が終了したウエハのうちSPMを経由しないウエハが次の製造装置で処理されるまでの間に、SPMを経由するウエハのSPM45による計測を終了するのが理想的であり、従ってインラインSPMのスループット向上は必須課題である。
【0047】
図5は、本発明に係るSPMの一連の動作説明図である。以下、SPMの具体的な動作を説明する。SPMの上流工程の製造装置で処理が終了したウエハは、1ロット単位でケースに格納されて半導体製造ラインの搬送装置によってSPMのウエハカセット(図示せず)に搭載される(S41)。SPM45の全体制御部114は、読み取り装置(図示せず)でウエハケースのバーコードを読み取って、これに対応した工程情報と検査条件を半導体製造ラインのホストコンピュータ40から取得する(S42)。
【0048】
なお、この段階で試料ステージ104は平行出しされているものとする。該平行出しについては、図11に示す如く、試料ステージ104b上に設けられた平坦な基準高さ部D1、D2の高さを高さセンサ116で計測することによって確認することが可能である。
【0049】
次に、全体制御部114は、該取得された工程情報と検査条件を基に探針交換の有無を判断する(S43)。探針交換が無の場合には、SPM45のローダはウエハカセットからウエハ103aを1枚取り出し、ウエハのオリフラが一定の向きとなるようにして試料ステージ104に搭載して真空等により吸着される(S44)。また、探針交換が有の場合には、詳しくは後述するように、探針の交換が実行されて図7に示すように該交換された探針102の先端から高さセンサ116までの垂直方向の距離h0が計測される(S57)。該距離h0は、例えば、平坦な試料(石英ガラス等からなる平行平板(オプティカルフラット))103sを試料ステージ104に搭載し、探針駆動機構101のZステージ214を基準位置(例えばZステージ214のストロークの中間位置)に位置付けした状態で、試料ステージ104のZステージを上昇させていって探針102の先端が平坦な試料103sの表面に接触したとき、試料ステージ104のZステージを停止し、その試料103sの表面を高さセンサ116で計測することによって計測できることになる。なお、探針102の先端を平坦な試料103sに接触させたときは、後述するように探針たわみ検出部109の検出信号の変化を検出することによって検出することが可能である。また、探針102の先端が平坦な試料103sの表面に接触して試料ステージ104のZステージを停止した時点で、探針を保護するために探針駆動機構101を上方に逃がしても良いことは明らかである。また、平坦な試料103sの代わりに、図11に示すように、試料ステージ104bに平坦な基準高さ部D1、D2を設け、該D1あるいはD2を図7と同様にして探針102の先端を接触させ、そのときのD1、D2の高さを高さセンサ116で計測することによって探針102の先端から高さセンサ116までの距離h0が算出できることになる。探針102と高さセンサ116の距離Lよりも広い面積の基準高さ部D1あるいはD2を準備できない場合は、探針102の先端をD1あるいはD2に接触させた後、試料ステージ104を移動させて高さセンサ116の下に基準高さ部D1あるいはD2が位置するようにしてから、その高さを高さセンサ116で計測することによっても探針102の先端から高さセンサ116までの距離h0が算出できることになる。なお、試料ステージ104を移動する際に、探針の先端を保護するために、いったん、試料ステージ104をZtだけ下降させてから移動を行なってもよい。高さセンサ116によるD1あるいはD2の距離計測時に、再度試料ステージを上昇させない場合には、試料ステージ104を下降させた量を記録しておいて、測定されたD1あるいはD2の距離から、ステージの下降量Ztだけ減算したものが探針102の先端から高さセンサ116までの距離h0となる。
【0050】
次に、図示しない検出器でウエハ103aの表面に描画されたウエハ番号を読み取った後に、ウエハ103aは、試料ステージ104に搭載された状態で探針駆動機構101の直下である観察光学系105の位置に移動される。この時の試料ステージ104のZ軸方向位置は、探針102に試料103aが接触しないよう十分下げた高さで行われる。一方でこれまでの間に、観察光学系105は上死点まで上昇し、図示しないレボルバを回転させて対物レンズ106が交換されて、例えば10倍程度の低倍率のアライメント用対物レンズ(図示せず)に取り替えられる。対物レンズ106とアライメント用対物レンズの焦点距離は同一となっている。あるいは、別の方法として、観察光学系105中のズーム光学系によって、倍率を変更してもよい。続いて観察光学系105を降下させ、その焦点位置が探針102の背面(上面)と成るように、フォーカス位置が調節される。この焦点合わせ動作は、光学像処理部108の画像認識によって自動で行われる。
【0051】
続いて、観察光学系105を定量(例えば1ミリメートル)更に降下させ、SPM像を採取する際よりも低い位置に観察光学系105の焦点位置を移動しておく。
【0052】
試料ステージ104は、ウエハ103a上のアライメントマーク位置がアライメント用対物レンズ(図示せず)の視野に入る程度の位置までXY方向に移動した後、Z方向に徐々に上昇して観察光学系105の焦点位置にウエハ103表面を一致させ、光学像処理部108でアライメントマークを画像認識する。この時、アライメント用対物レンズの開口率が低い条件では、観察光学系105で得られる光学像において探針102が同時に観察されてしまう場合がある。従ってアライメントマークの画像認識は、観察光学系の焦点位置を探針を観察する場合よりも降下させる量をより大きくした条件で探針が観察されないような状態で行なうか、あるいは、観察光学系105の視野内において、アライメントマークと探針102とが重ならないような位置で行うのが望ましい。ウエハ103上のアライメントマークは少なくとも2箇所以上の場所で画像認識されることにより、ウエハ103上のパターンと試料ステージ104のXY座標軸との相関を得て、全体制御部114の記憶装置121に記憶される(S45)。
【0053】
ウエハ103aのアライメント動作中は、観察光学系105を定量降下させ、SPM像を採取する際よりも低い位置に焦点位置が移動していることから、ウエハ103表面と探針102の先端は接触することがない。アライメント動作終了後は、観察光学系105は上死点まで再度上昇し、図示しないレボルバを回転させて高倍率(例えば100倍)の対物レンズ106に取り替えられる。そして観察光学系105を降下させ、その焦点位置が探針102の背面(上面)と成るように、フォーカス位置が調節される。この焦点合わせ動作は、光学像処理部108の画像認識によって自動で行われる。更に、観察光学系105を定量(例えば1ミリメートル)降下させ、SPM像を採取する際よりも低い位置に焦点位置を移動しておく。なお、ここでは、ウエハ103aのアライメント時に対物レンズを交換する動作を述べたが、観察光学系105に光学像のズーム機能を備えておき、対物レンズを交換することなく観察倍率を変更する構成でも構わない。
【0054】
次に、全体制御部114はホストコンピュータ40から取得した工程情報に基いて高さセンサ(変位センサ)116での事前計測要否の判断が行われ(S46)、半導体ウエハの少なくとも所定のロット単位で高さセンサ116でのウエハ表面形状の計測が行われることになる(S47)。この事前計測要否の判断において、ロット単位でウエハの表面形状の変化が見られないことが分かっていれば、事前計測否と判断し、前の製造ロットで高さセンサ116を用いて計測されたウエハ表面形状のデータを用いればよい。異なる製造工程から得られる半導体ウエハの表面状態は変わるので、高さセンサ116での事前にウエハ表面形状の計測を行うことが必要となる。
あるいは、高さセンサ116による事前計測は試料ステージ104をXY方向に駆動しながら試料103aにたいして非接触で高速に行なわれるため、新しい試料103aを搭載する毎に行なってもよい。
あるいは、近年、半導体回路の微細化に伴って、ウエハのうねりは厳しく抑えられるようになっており、高さセンサ116の測定位置Cと探針によるウェハ測定位置Aの距離Lが50mm程度と小さければこの間のうねりによる試料表面高さの差は1マイクロメートルを下回ることが多い。これは、探針微動機構101のZ方向ストロークに比べて十分小さいため、高さセンサによる測定位置Cでの計測高さと、ウェハ測定位置Aでの高さが実用上等しいとして事前計測を行なわないことも可能である。この場合は、測定位置Cでの計測高さと、ウェハ測定位置Aでの試料表面高さの差ΔZnが0であるとして、これ以後に説明する動作を行なえばよい。
【0055】
まず、高さセンサ116を用いた事前ウエハ表面形状の計測の第1の実施例について図8を用いて説明する。該第1の実施例は、ウエハの表面がほぼ平坦であるが、微視的に見ると湾曲している場合である。ところで、図8(a)(b)に示すように、探針102でウエハの形状を計測する位置Aと高さセンサ116でウエハ高さを計測する位置Cとは、距離L離れて構成される。一方、ウエハの表面形状は平坦だとしても、微視的に見ると湾曲しており、それもロット単位で変動する可能性を有する。勿論、異なる製造工程から得られるウエハの表面形状は変わることになる。そのため、予め、ロット単位毎(例えば、ウエハカセットに収納されているロット単位毎)及びウエハの種類毎に、ウエハ103aの表面の湾曲量(中心と周囲との間の傾き量α)を、高さセンサ116を用いて事前に計測しておくことが必要となる。図8(c)には、ウエハ103aの表面の湾曲量(中心と周囲との間の傾き量α1〜α4)を求めるために、高さセンサ116で高さを計測する複数の位置B1〜B5を示す。B1はウエハのほぼ中心であり、B2〜B5はウエハの周囲である。このように、ウエハ103a上の5点程度を計測すれば、B1とB2との間、B1とB3との間、B1とB4との間、B1とB5との間の4つの傾き量α1〜α4を算出することができ、ウエハ表面の湾曲量を算出することができることになる。なお、高さセンサ116による高さ計測位置を更に増やせば、計測精度は向上することになる。
【0056】
このように、予め、ウエハ103aの表面の湾曲量(中心と周囲との間の傾き量α1〜α4)を計測して記憶装置121に記憶しておくことによって、全体制御部114は、図9に示すように、高さセンサ116により位置C1〜Cnで計測されたウエハ高さhc(down)1〜hc(down)nを元に、探針計測位置A1〜Anにおけるウエハ高さ(hc(down)1−ΔZ1)〜(hc(down)n−ΔZn)を推定することが可能となる。なお、各位置C1〜CnにおけるΔZ1〜ΔZnは、上記傾き量α1〜α4を元に例えば直線近似することによって推定することが可能である。あるいは、さらに精度を増すために、高さセンサ116による複数の高さ計測位置データをもとに、試料103a上のXY位置に関する2次関数ΔZ=A00+A10・X+A01・Y+A20・X+A11・X・Y+A02・Yを当てはめて、試料103aの湾曲形状のモデルを作り、このモデルを基に各点での高さのずれΔZを推定してもよい。このモデルは2次関数に限らず、たとえば1次関数すなわち平面、あるいは、3次関数を用いても良いことはゆうまでもない。
【0057】
次に、高さセンサ116を用いた事前ウエハ表面形状の計測の第2の実施例について図10及び図11を用いて説明する。該第2の実施例は、ウエハの表面が段差の異なる凹凸形状を有する場合である。ところで、図10、図11に示すように、探針102でウエハの形状を計測する位置Aと高さセンサ116でウエハ高さを計測する位置Cとは、距離L離れて構成される。そのため、予め、ロット単位毎及びウエハの種類毎に、ウエハ103bの表面の異なる段差の各々において、同じ段差を有する複数の箇所(例えば、RC1−RA1、RC2−RA2、RC3−RA3、RC4−RA4、RC5−RA5は同じ段差を有し、RC6−RA6、RC7−RA7、RC8−RA8は同じ段差を有するものとする。)について該段差(RhC−RhA)を高さセンサ116を用いて事前に計測しておくことが必要となる。全体制御部114はホストコンピュータ40から得られた検査情報(座標情報)に基づき探針102でウエハの形状を計測する位置群(10〜30箇所程度)は決まるので、該位置群の中から選択された位置RA1〜RA8の表面高さRhA1〜RhA8を高さセンサ116で計測し、該選択された位置RA1〜RA8に対応する位置RC1〜RC8の表面高さRhC1〜RhC8を高さセンサ116で計測し、該計測された段差推定情報(RhC−RhA)を求めて記憶装置121に記憶しておくことによって、全体制御部114は、図9に示すように、高さセンサ116により位置C1〜Cnで計測されたウエハ高さhC1〜hCnを元に、探針計測位置A1〜Anにおけるウエハ高さhA1〜hAnを推定することが可能となる。勿論、ロット単位毎及びウエハの種類毎に、ウエハ内で同じ段差を有するものについての、段差推定情報(RhC−RhA)を求めて記憶装置121に記憶しておくことは可能である。
【0058】
なお、全体制御部114は、位置RA1〜RA8に対して距離L離れた位置RC1〜RC8の位置情報及び段差推定情報(RhC−RhA)を115に格納されたウエハの設計情報115から取得することは可能である。従って、段差推定情報(RhC−RhA)はウエハの設計情報115から事前に取得することも可能である。また、全体制御部114は、上記位置情報を用いてステージ制御部11を介して試料ステージ104を制御して高さセンサ116による高さ計測位置に位置決めすることが可能である。勿論、観察光学系105を用いた画像認識によりアライメントマークを基準にして高さセンサ116による高さ計測位置について試料ステージ104のXY軸を微調整することも可能である。
【0059】
また,この事前計測時にウエハ103aの端部を高さセンサ116によって横切りながら計測することで,ウエハエッジの位置を検出することができ,これによってウエハ103aが所定の位置に搭載されているかどうかのチェックに使用することができ,もし,正規の位置に搭載されていないと判断された場合には,再度搭載しなおすか,ユーザに警告を発することを行なうことが可能となる。
【0060】
次に、全体制御部114はホストコンピュータ40から得られた検査情報(座標情報)に基づき、1点目の探針計測位置A1(XA1、YA1)が観察光学系105視野に入る位置に試料ステージ104をXY方向に移動させる(S48)。光学像処理部108では、観察光学系105の視野(TVモニタ107上の表示領域)に含まれた探針計測位置(または探針計測位置の周辺パターン)を画像認識し、試料ステージ104のXY軸を微調整することで探針計測位置の位置出しを精密に行う。対物レンズ106の倍率は10倍から100倍であり、観察光学系105を定量(例えば1ミリメートル)降下させ、SPM像を採取する際よりも低い位置に焦点位置を移動してウエハ103表面を観察することによって、対物レンズ106の視野内に配置された探針102の存在の影響を受けることなく、ウエハ103表面を高解像度で観察することが可能である。例えば対物レンズ106の開口率が0.3の仕様であれば、ウエハ103上のパターンを解像度が1μm以下の条件で鮮明に観察できる。また探針102直下のウエハ103上のパターンを観察することも可能である。これは対物レンズ106の開口率が大きく、探針102が対物レンズ106の視野の一部分のみを占める条件の際に得られる光学的現象を利用したものである。
【0061】
なお、探針計測位置の位置出しはオペレータがTVモニタ107を観察して、全体制御部114から座標を直接指定して行っても良い。その後、観察光学系105を定量上昇させ、その焦点位置が探針102の背面(上面)と成るように、フォーカス位置が調節される。
【0062】
本発明に係るSPMによれば観察光学系105の視野内で探針計測位置が決定されてから、以後の計測動作が終了するまでの間、試料ステージ104を移動させる必要が無い。従来のSPMでは、探針の直上に探針駆動機構が存在するために、観察光学系の視野位置とSPM像計測位置が異なっており、探針計測位置をSPM像計測位置に移動させ、再び精密な位置決めを行うためにステージの動作時間が必要であった。或いは、試料ステージ104を移動させることなく探針計測位置と探針を観察する機能を有していても、探針の直上に探針駆動機構が存在するために、観察光学系の開口率を高くすることができず、充分な解像度でウエハ表面のパターンの観察ができなかった。本発明に係るSPMによれば、探針駆動機構101にスルーホール211を設けた構造のため、探針102の直上において、高開口率の対物レンズを用いて、試料ステージ104を動作させることなく、探針計測位置と探針を観察することを可能とした。
【0063】
次に、本発明の特徴とする高さセンサ116による試料表面高さ計測に基づく試料ステージ高速接近制御(S49)について説明する。まず、該試料ステージ高速接近制御の第1の実施例について図6及び図9を用いて説明する。該第1の実施例は、ウエハの表面がほぼ平坦であるが、微視的に見ると湾曲している場合である。全体制御部114は、試料ステージ104上に搭載されているウエハ103aと同じロット単位及び同じ種類(製造工程)のウエハ103aの表面の湾曲量(中心と周囲との間の傾き量α1〜α4)を記憶装置121から読み出して位置C1と探針計測位置A1との高さのずれΔZ1を推定する。高さセンサ116を用いた計測の結果、もし試料ステージ104が極僅か傾いている場合には、上記高さのずれΔZ1に試料ステージの極僅かな傾きも考慮する必要がある。次に、図9(a)に示すように、高さセンサ116により位置C1でのウエハ高さhc(down)1を計測する。次に、全体制御部114は、試料ステージ104のZステージの上昇量Zh1を次の(1)式に基づいて算出すると共に、そのときの高さセンサ116で検出されるウエハの高さhc(up)1を次の(2)式に基づいて算出する。
【0064】
Zh1=hc(down)1−(h0+hg)−ΔZ1 (1)
hc(up)1=(h0+hg)+ΔZ1 (2)
ただし、hgは、探針102の先端からワーク上昇時の設定間隔(設定ギャップ)であり、高さセンサの高さ検出精度に対して余裕を持って、たとえば、高さセンサの最大誤差が5μmであるときは、10〜15μm程度に設定される。高さセンサの最大誤差が1μmであるときは、5μm程度に設定される。また、h0は、探針交換の際、計測される探針102の先端から高さセンサ116までの垂直方向の距離である。特に、(2)式においてhc(up)1の中にはh0が含まれるため、少なくともこのh0の成分については高さセンサ116で計測する必要がある。
【0065】
なお、観察光学系105は、フォーカス位置調節機能を有することからhgを計測することは可能である。従って、高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCを上記高さセンサ116で計測しながら上記試料ステージ104を上昇させて、上記観察光学系105で観察される試料の表面の画像情報に基づき探針計測位置Aにおける試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように上記試料の表面を上記探針の先端に接近させる制御を行うことは可能である。
【0066】
次に、全体制御部114は、高さセンサ計測位置C1(XC1、YC1)でhc(up)1が検出されるまで、即ち、探針102の先端と試料との間隙がhgになるまでステージ制御部111を介して試料ステージ104のZステージを上記上昇量Zh1高速で移動(上昇)させる(S491)。次に、全体制御部114は、探針駆動制御部110を介して圧電素子Zステージ214をストローク(10〜15μm程度)の1/2程度下降させる(S492)。次に、全体制御部114は、試料ステージ104のZステージを低速で移動させる(S493)。このとき、ステップS494で探針撓み検出部109から探針撓み信号が検出されたならば、圧電素子Zステージ214を上昇させる(S495)と共に、試料ステージ104のZステージの上昇を停止する(S496)ことによって、探針計測位置A1の表面と探針102の先端との間隔をZステージ214のストローク(10〜15μm程度)以内に接近させることが可能となった。もし、ステップS494で探針撓み信号が検出されない場合には、試料ステージ104を低速で上昇させることになる。
【0067】
次に、上記試料ステージ高速接近制御の第2の実施例について図10及び図11を用いて説明する。該第2の実施例は、ウエハの表面が段差の異なる凹凸形状を有する場合である。該第2の実施例において、上記第1の実施例と相違する点は、ステップS491にある。即ち、全体制御部114は、試料ステージ104上に搭載されているウエハ103aと同じロット単位及び同じ種類(製造工程)のウエハ103aの段差推定情報(RhC−RhA)を記憶装置121から読み出して位置C1〜Cnと探針計測位置A1〜Anとの間の段差を推定する。次に、高さセンサ116により例えば位置C3でのウエハ高さhC3を計測する。次に、全体制御部114は、試料ステージ104のZステージの上昇量Zh3を次の(3)式に基づいて算出すると共に、そのときの高さセンサ116で検出されるウエハの高さhap3を次の(4)式に基づいて算出する。
【0068】
Zh3=hC3−(h0+hg)−(RhC3−RhA3) (3)
hap3=(h0+hg)+(RhC3−RhA3) (4)
ただし、hgは、探針102の先端からワーク上昇時の設定間隔(設定ギャップ)であり、高さセンサの高さ計測精度に応じて5〜15μm程度に設定される。また、h0は、探針交換の際、計測される探針102の先端から高さセンサ116までの距離である。特に、(4)式においてhap3の中にはh0が含まれるため、少なくともこのh0の成分については高さセンサ116で計測する必要がある。
【0069】
なお、観察光学系105は、フォーカス位置調節機能を有することからhgを計測することは可能である。従って、高さ計測位置Cでの試料の表面の高さ情報hCを上記高さセンサ116で計測しながら上記試料ステージ104を上昇させて、上記観察光学系105で観察される試料の表面の画像情報に基づき探針計測位置Aにおける試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲(hg)になるように上記試料の表面を上記探針の先端に接近させる制御を行うことも可能である。
【0070】
次に、全体制御部114は、高さセンサ計測位置C3(XC3、YC3)でhap3が検出されるまで、即ち、探針102の先端と試料との間隙がhgになるまでステージ制御部111を介して試料ステージ104のZステージを上記上昇量Zh3高速で移動(上昇)させる。
【0071】
この後のステップS492からS496までは第1の実施例と同様に行われる。以上によりウエハの表面が段差の異なる凹凸形状を有する場合において、探針計測位置A3の表面と探針102の先端との間隔をZステージ214のストローク(10〜15μm程度)の前後まで接近させることが可能となった。
【0072】
次に、上記接近後、探針102の先端をウエハ103表面に接触させる動作について説明する。探針駆動機構101は、弾性変形部を有するステージを圧電素子で駆動する構造から成る3次元(X、Y、Z)の探針走査機構部であり、その底部には探針ホルダ115に保持された探針102が取り付けられている。探針駆動機構101には、対物レンズ106を非接触で挿入するスルーホールが設けられており、観察光学系105のフォーカス軸(図示せず)を調整することによって、試料ステージ104を移動させることなく探針102とウエハ103表面の観察が可能である。探針駆動機構101の可動領域は、X軸方向が20μm程度、Y軸方向が20μm程度、Z軸方向が10〜15μm程度である。
【0073】
探針102の先端とウエハ103表面との接触は、探針たわみ検出部109における検出信号をモニタリングしながら、(1)探針駆動機構101のZ軸の高さを上死点まで上昇、(2)試料ステージ104のZ軸を探針Z軸駆動機構のストロークよりも小さい7μm程度上昇、(3)探針駆動機構101のZ軸の高さを下死点まで降下、を繰り返すことで達成される。前述した(3)の過程で探針102の先端がウエハ103の表面に接触した場合、探針たわみ検出部109の検出信号が変化する(S50)。探針走査制御部112では、この変化を捉えて両者の接触を検知し、接近を停止するが、検出信号の変化に関する詳細な動作原理は図3の説明の通りである。
【0074】
あるいは、別の方法として、探針走査制御部112のZ軸を下死点に保った状態、すなわち、探針102の高さを最もウエハ103側に近づけた状態で、探針たわみ検出部109の信号を監視しながら試料ステージ104を低速で上昇させ、接触を検知した時点で試料ステージの上昇を停止させてもよい。探針走査制御部112は探針102を傷めないために、接触を感知したら即座に探針走査制御部112のZ軸の高さを上死点まで上昇させるか、あるいは、接触力を一定に保つ接触力サーボの状態にしておいて、ウエハ103の上昇にあわせて探針走査制御部112のZ軸が上昇するようにする。
【0075】
いずれの方法でも、探針102とウエハ103の接触後、探針走査制御部112のZ軸のストロークの中心付近で測定が行なえるように、試料ステージ104の高さを微調整することが望ましい。
【0076】
探針102の先端とウエハ103表面との接触を検知後、探針駆動機構101を駆動して探針102を走査しSPM像を採取する。例えば、ウエハ103上の1μm四方程度の領域をY方向に10分割し、探針102とウェハ103の間の接触力が一定となるように探針102の高さを探針駆動機構101によって制御しながら、X方向に走査を行なうことをY方向の位置を変化させながら10回行う。このときの、探針102の高さを記録することで、ウエハ103の立体形状が測定できる。また、このときに、探針102を用いて、ウエハ103の局所的な電気的性質・磁気的性質・光学的性質等の分布を測定することも可能である。探針102とウェハ103の間の接触力は探針たわみ検出部109によって検出される探針のたわみ量を用いてもいいし、探針を振動させておいて、接触力によるたわみ振動の振幅・位相・周波数変化などによって検出してもいい。探針駆動機構101の可動範囲のみでは測定範囲が足りない場合には試料ステージ104を移動させながら、探針駆動機構101の高さを制御して測定してもよい。別の実施例として、ウエハ103上の1μm四方程度の領域をX方向に256分割、Y方向に10分割し、探針102をいったんウエハ103から探針が離れるように、上昇させてから、その接触位置をX方向(Y方向)に順次移動させて、探針102とウエハ103表面との接触検知を繰り返すことで、探針102をウエハ103に対して引きずらないでウェハ103の高さ分布などの測定を実現することが可能となる。
【0077】
探針駆動機構101の動作は、探針走査制御部112によって探針駆動制御部110を介して制御されている。探針駆動機構101の各移動軸(Xステージ207、Yステージ203、Zステージ214)には、変位センサ(図示せず)が取り付けられており、各変位センサの変位はステージ変位検出部128で検出され、探針走査制御部112を経由してSPM像生成部113に保存される。
【0078】
SPM像生成部114では、探針102がウエハ103上の各接触点に接触した状態で計測された探針102の変位(探針駆動機構101のZステージ変位)の、XY平面分布像を生成する。圧電素子によって駆動されている探針駆動機構101は、2キロヘルツから3キロヘルツの応答速度で動作可能であり、以上の計測動作は数秒間で終了し、得られたSPM像(データ)は、全体制御部114の記憶装置121に保存される(S51)。
【0079】
ウエハ103上での計測座標、探針計測位置数は予め決められており、ステップS52において、ウエハ103上で他の探針計測位置が残っている場合は、観察光学系105と試料ステージ104を同量降下させ、ステージ104のXY座標を次の探針計測位置の座標に移動させて再びステップS48からステップS51までの計測動作に移る。ステップS52において、ウエハ103上で他の探針計測位置が存在しない場合は、観察光学系105と試料ステージ104を同量降下させ、ウエハ103を試料ステージ104からアンロードする(S53)。
【0080】
ただし,別の実施例として,ウエハ103があらかじめ,接近距離hgに比べて十分平坦であるとわかっている場合や,ウエハ103の湾曲状態が事前計測によって判明している場合は,2点目以降は高さセンサによる計測を省略して,一点目の接近時の接近距離情報から2点目以降の接近距離を算出しても良い。
【0081】
次に、ステップS54において、ウエハケースに計測すべき次のウエハが存在する場合は、それを試料ステージ104にロードしてステップS44からステップS53の計測を繰り返し、ウエハケース内の全ウエハの計測が終了した場合は、全体制御部114に保存されたデータをホストコンピュータ40に出力し(S55)、図示しない搬送装置がウエハケースを次の処理装置に搬送する(S56)。
【0082】
本発明のSPMの動作によれば、観察光学系105のフォーカスを調整することによって試料ステージ104を移動させることなく探針102とウエハ103表面の観察ができることから、計測位置決め動作にかかる時間を省略することができる。この結果、計測対象ウエハ1枚当たりの一連の装置動作(ウエハをロードし、例えば9点の探針計測位置でエッチング段差を計測後、ウエハをアンロードする)にかかる時間を2分以下、すなわち一時間あたりの処理枚数を30枚とすることができ、スループットが向上したインラインSPMを実現することができる。なお、最初にアライメントをおこなうことでウエハ103上の測定位置が判明しているので、各探針計測位置で観察光学系105によってさらに精度を上げて測定位置の検出を行うかまたは測定位置の光学顕微鏡像によるモニタリングが不要な場合には、対物レンズ106を試料ステージ104を同量(例えば1ミリメートル)上昇・下降して、常にウエハ103上に顕微鏡の焦点をあわせる動作は不要である。
【0083】
なお、これまでの実施例では探針102とウエハ103の間の接近動作は試料ステージ104を上下させることで行なっていたが、接近動作は探針102とウエハ103の間の相対的な距離を接近させればよいので、この代わりに探針駆動機構101を架台91に保持するところに粗動Zステージ機構を持たせ、探針駆動機構101を上下させることによっても実現できることは言うまでもない。この場合、高さセンサ116は探針駆動機構101とともに粗動Zステージ機構に取り付けられてともに上下することが、探針102とウエハ103相対的な距離を測定する目的からは望ましい。ただし、高さセンサ116を架台91に直接固定してもよく、この場合は、粗動Zステージ機構の移動量を高さセンサ115による検出値に加えて考慮すれば問題はないことはゆうまでもない。
【0084】
次に、探針102の詳細な構造について図12を用いて説明する。即ち、詳細な構造は、針401、カンチレバー402、及び探針ホルダ303からなり、レーザ入射光404aはカンチレバー表面405で反射し、反射光404bは図3の受光器311で受光される。図中P1は探針長、P2は針長(カンチレバーを含む)、P3はホルダ厚を示す。探針の製作は材料にタングステン等を用いて電解研磨法で作成する方法や、最近ではカーボンナノチューブを用いてCVDで気相成長させて作成する方法などが(表面化学Vol.23、No.2、PP.116−122、2002)が提案されている。こうして製作されたカンチレバーP2の長さの制御を数μm以内にコントロールすることは製法上困難である。また探針ホルダ303の厚さP3も加工時に数μm以内の寸法誤差以内にするには工数が多くなり高価になることから、一般的には数10μm程度の寸法誤差が生じている。これは同じ仕様で同じ材料で製作された探針の場合であり、探針の製作仕様が異なったり、メーカが異なる場合には高さP1の長さが更に異なることが考えられる。
【0085】
図13は探針を自動交換する場合の説明図である。探針を交換する場合には、探針ケース410に載置されている探針102を取り付けた探針ホルダ303を、探針吸着機構412内に設けられた電磁力あるいは空気の負圧による電磁あるいは真空チャック411で吸着するように構成される。探針吸着機構412は図1に示す探針駆動機構101に保持されている。動作は、探針吸着機構412を図13(a)に示すように下降して探針ケース410に載置されている探針102を取り付けた探針ホルダ303に近接して接触させ、チャック411で図13(b)に示すように探針ホルダ303を吸着して上昇し、図13(c)に示すように計測ステーションで試料103のXY平面分布像(SPM像)を生成して試料103の表面形状を計測する。なお、探針を交換するとき、探針の長さP1が変わることが考えられるため、前述したように高さセンサ116を用いて探針102の先端から高さセンサ116までの距離h0を計測する必要がある。なお、探針吸着機構412を下降する代わりに、探針ケース410を上昇させても良いことはゆうまでもない。たとえば、探針ケース410を試料ステージの周辺部104bに装着するようにしておけば、試料ステージ104を上昇させることで目的が達せられる。図20に示すように探針ケース410は探針ホルダ303を複数保持できるように升目状に配置された421のような形状をしており、この形で探針102は供給される。この探針ケース410が、試料ステージ周辺部104b上に形成された探針ケースホルダ420に装着される。
【0086】
次に、図13に示す如く、吸着保持した探針の探針長さを高さセンサ116を用いて計測することについて図14を用いて説明する。試料ステージ104上に設けられた基準高さ部D1又はD2を用いて(D1とD2の配置は図11参照)、平坦用若しくは浅溝用の短い探針102SがD1又はD2と接触した瞬間(探針の撓み信号の変化が生じた瞬間)で試料ステージ104を停止させ、その高さh31を高さセンサ116によって検出する。また、深溝用の長い探針102Lの高さh32を計測する場合も、同様に長い探針102LがD1又はD2(図11)と接触した瞬間(探針の撓み信号の変化が生じた瞬間)で試料ステージ104を停止させ、その高さh32を高さセンサ116によって検出する。なお、413は、探針ホルダ303のチャック面を示す。このように探針交換時に探針の長さ(探針102の先端から高さセンサ116までの距離h0)をそれぞれ計測しておくことにより、前述したように、例えば図10に示すようにウエハの表面が段差の異なる凹凸形状を有する場合でも、高速アプローチが可能となり、短時間で圧電素子Zステージ214のストローク以内に試料表面と探針の先端との間隔を設定することが可能となる。
【0087】
次に、高さセンサ(変位センサ)116の具体的実施例について図15を用いて説明する。高さセンサ116は、レーザ光源330と、集光レンズ331と、検出レンズ334と、光電検出器335とを備え、投光レーザ332の正反射あるいは散乱反射の反射光333を検出できる構成になっている。高さセンサ116は、検出範囲337内に試料表面336が配置された場合、照射部340からの反射光333を検出レンズ334によって光電検出器335で受光し、このスポット位置によって試料表面336の高さを検出するように構成され、0.1μm程度の分解能を有する。図178(a)には、本発明にかかわる高さ検出方式の原理を詳しく示す。試料336の斜め上方から入射角度Θで照明する光線により、ウェハ試料面上にスポットあるいはスリットを結像させる。そして、ウェハ上のスポットあるいはスリットの像をセンサ335上に結像させる。試料336がZだけ上方に移動した場合、センサ205上では2Z・sinΘ・mだけ像が移動する。ここで、mは光学系の倍率である。スポットあるいはスリットの幅をdとすれば、試料上の投影範囲はd/cosΘとなり、この投影範囲において平均的高さが検出される。図16及び図17は試料に段差パターンが生じている場合の高さセンサ116での高さ測定の説明図である。即ち、反射光333aは照射部341からの計測状態で平坦部336aの計測値が得られ、反射光333bは照射部342からの計測状態で平坦部336bの計測値が得られる。ところが、反射光333cは照射部343のように、段差部に照射スポットがかかっているため、光電検出器で検出される照射スポット像の光量分布に偏りが生じ、このため、正しい計測値が得られないことになる。
【0088】
図15(b)(c)反射率が異なる境界において誤差が発生する様子を説明している。同図(a)は右側が低反射率部、左側が高反射率部で構成された領域にスポットあるいはスリットが投影された様子を示している。この反射率の違いは微細パターンによる回折・散乱や材質の違いによって生じる。この様な反射率が異なる境界で反射したスポットあるいはスリットは、同図に示す様な歪んだ波形350となる。この結果、本来検出されるべき破線で示した位置351から上方にずれた位置をスリット位置352として検出してしまう。この結果、みかけ上、上方向にずれた位置が検出されたものとなる。図16のように反射率の高いエリア355と低いエリア356をもつ試料を高さセンサで検出した場合は、下段の検出高さのように境界部で検出高さに誤差を持つ。本来はエリア355の高さは336a、エリア356の高さは336bで在るが、図15で説明した現象により、場合によってはこれらよりも高かったり、低かったりする検出値を得ることとなる。これらの誤差は投影光332と検出光333の方向に対して平行でない方向のパターン境界があり、これと光投影位置340が一致した場合に一時的に生じる。そこで、投影光332と検出光333からなる方向とは直行しない方向に試料336を水平移動させながらこのときの高さ検出値を繰り返し得て、これらの検出値を平均することにより、境界部での誤差の影響を軽減し、正しい平均的な高さ336cを求めることが可能となる。これにより、高さセンサ116により安定に高さ検出を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、半導体ウエハを対象とした表面形状計測の分野で用いられる原子間力顕微鏡等の走査型プローブ顕微鏡に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の一実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す探針駆動機構101の構造図で、(a)は探針駆動機構101のXY平面図、(b)は(a)に示す探針駆動機構101のA−A'矢視断面図、(c)は探針駆動機構101のYZ平面図である。
【図3】図1に示す探針たわみ検出部の正面の断面図である。
【図4】(a)は本発明に係るSPMを用いた半導体製造工程の一部を示すブロック図、(b)は本発明に係るSPMの一連の動作を説明するフロー図である。
【図5】本発明に係るSPMの一連の動作フローの一実施例を示す図である。
【図6】図5に示す試料ステージ高速接近制御ステップの具体的制御方法の一実施例を示した制御フロー図である。
【図7】本発明に係る高さセンサと探針の先端までの距離h0を計測する方法の一実施例を説明するための図である。
【図8】本発明に係る、予め、試料の表面が微視的に見ると湾曲している場合において、高さセンサを用いて試料表面形状を計測しておく第1の実施例の説明図である。
【図9】本発明に係る、試料の表面が微視的に見ると湾曲している場合において、試料ステージ高速接近制御方法の第1の実施例を説明するための図である。
【図10】本発明に係る、試料の表面に凹凸(段差)がある場合において、試料ステージ高速接近制御方法の第2の実施例を説明するための図である。
【図11】本発明に係る、予め、試料の表面に凹凸(段差)がある場合において、高さセンサを用いて試料表面形状を計測しておく第2の実施例の平面説明図である。
【図12】本発明に係る探針の詳細な構造の一実施例を示す図である。
【図13】本発明に係る、探針を自動交換する場合の一実施例を示す説明図である。
【図14】本発明に係る、探針吸着機構に吸着保持した短い探針及び長い探針の探針長さを高さセンサを用いて計測する一実施例の説明図である。
【図15】本発明に係る高さセンサの具体的実施例の説明図である。
【図16】本発明に係る、試料表面に段差パターンが生じている場合の高さセンサでの高さ計測の一実施例を示す平面図である。
【図17】図16の断面図である。
【図18】本発明に係る、試料表面に反射率境界がある場合に高さセンサでの高さ計測誤差が出る理由を示す図である。
【図19】本発明に係る、試料表面に反射率境界がある場合に高さセンサでの高さ計測値の変化の様子を示す図である。
【図20】本発明に係る、探針ケースとこれを装着する試料ステージ上の探針ケースホルダの実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
40…ホストコンピュータ、41…ネットワーク、45…SPM、51…製造装置A、52…製造装置B、53…製造装置C、90…ベース(定盤)、91…架台、101…探針駆動機構、102…探針、103…ウエハ(試料)、104…試料ステージ、105…観察光学系、106…対物レンズ、116…高さセンサ(変位センサ)、201、202…ホルダ、203…Yステージ、204a、204b、204c、204d、208a、208b、208c、208d、215a、215b、215c、215d…弾性変形部、205、206、209、210、216、217…圧電素子素子(駆動源)、207…Xステージ、211…スルーホール、213…Z軸機構部、214…Zステージ、301…レーザダイオード、302…レンズ、303…探針ホルダ、305、306、307、308…ミラー、311…受光器、330…レーザ光源、331…集光レンズ、332…投光レーザ、333…反射光、334…検出レンズ、335…光電検出器、336…平坦部、337…検出範囲、340、341、342、343…照射部、350…検出スポット強度分布、351…反射率の境界がないときの検出スポット位置、352…反射率の境界があるときの検出スポット位置、401…針、402…カンチレバー、404a…レーザ入射光、404b…反射光、405…カンチレバー表面、410…探針ケース、411…チャック、412…探針吸着機構、420…探針ケースホルダ、421…探針ケース(全体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する試料ステージと、該試料ステージに載置された試料の表面における探針計測位置において試料の表面に近接または接触させて該試料の表面を走査する探針と、該探針を3次元方向に駆動する探針駆動機構と、前記探針の撓みを検出する撓み検出手段とを備え、前記探針を試料の表面に近接または接触させて試料の表面を走査した際、前記撓み検出手段によって検出された探針の撓み情報に基づいて前記試料の表面の形状を計測する走査型プローブ顕微鏡であって、
前記試料の表面の高さを前記探針計測位置から任意の距離L離れた高さ計測位置において計測する高さセンサを備えたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
更に、対物レンズを有し、該対物レンズのほぼ光軸上に配置された前記探針及び前記試料を観察する観察光学系を備えたことを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
更に、前記高さ計測位置での試料の表面の高さ情報を前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
更に、前記高さ計測位置での試料の表面の高さ情報を前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記高さ計測位置での試料の表面の高さと前記探針計測位置での試料の表面の高さとの間の高さずれ情報又は段差情報に基づき前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
更に、前記高さ計測位置での試料の表面の高さ情報を前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記観察光学系で観察される試料の表面の画像情報に基づき前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
更に、予め、前記高さセンサを用いて計測して前記高さ計測位置での試料の表面の高さと前記探針計測位置での試料の表面の高さとの間の高さずれ情報又は段差情報を算出して記憶しておく算出手段と、
前記高さ計測位置での試料の表面の高さ情報を前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記算出手段で算出して記憶しておいた前記高さずれ情報又は段差情報に基づき前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
更に、予め、前記試料の設計情報に基づいて前記高さ計測位置での試料の表面の高さと前記探針計測位置での試料の表面の高さとの間の段差情報を算出して記憶しておく算出手段と、
前記高さ計測位置での試料の表面の高さ情報を前記高さセンサで計測しながら前記試料ステージを上昇させて、前記算出手段で算出して記憶しておいた前記段差情報に基づき前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項8】
更に、前記高さセンサで計測された前記高さ計測位置での試料の表面の高さ情報に基づいて前記試料を前記探針に接近させるための前記試料ステージの上昇量を算出し、該算出された上昇量に基づき前記試料ステージを上昇させて、前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲になるように前記試料の表面を前記探針の先端に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項9】
更に、前記高さセンサで計測された前記高さ計測位置での試料の表面の高さ情報に基づいて前記探針計測位置での試料の表面の高さ情報を推定し、該推定された前記探針計測位置での試料の表面の高さ情報に基づいて前記試料を前記探針に接近させるための前記試料ステージの上昇量を算出し、該算出された上昇量に基づき前記試料ステージを上昇させて、前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲になるように前記試料を前記探針に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項10】
更に、予め、前記高さセンサを用いて計測して前記高さ計測位置での試料の表面の高さと前記探針計測位置での試料の表面の高さとの間の高さずれ情報又は段差情報を算出して記憶しておく算出手段と、
前記高さセンサで計測された前記高さ計測位置での試料の表面の高さ情報及び前記算出手段に算出して記憶しておいた前記高さずれ情報又は段差情報に基づいて前記探針計測位置での試料の表面の高さ情報を推定し、該推定された前記探針計測位置での試料の表面の高さ情報に基づいて前記試料を前記探針に接近させるための前記試料ステージの上昇量を算出し、該算出された上昇量に基づいて前記試料ステージを上昇させて、前記探針計測位置における試料の表面と前記探針の先端との間の間隔が所望の範囲になるように前記試料を前記探針に接近させる制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項11】
前記算出手段において、前記高さずれ情報を、前記高さセンサを用いて計測される試料の表面における複数箇所の高さを基に得られる試料の表面の傾き量若しくは湾曲量と前記距離Lとの関係から算出するように構成したことを特徴とする請求項6又は10記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項12】
前記制御手段は、更に、前記試料を前記探針に接近させた後、前記試料ステージを前記接近速度よりも低速で上昇させて前記撓み検出手段によって探針の撓み情報が検出されたとき前記試料ステージの上昇を停止することによって探針の先端と試料の表面との間の間隙を前記探針駆動機構のZステージのストローク以内に位置決めするように構成されることを特徴とする請求項3乃至10の何れか一つに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項13】
前記制御手段は、探針を交換した際、前記高さセンサで高さセンサから探針の先端までのZ方向の距離h0を計測し、該計測されたZ方向の距離h0を前記試料の前記探針への接近制御に用いるように構成したことを特徴とする請求項3乃至12の何れか一つに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項14】
前記高さセンサによる高さ計測時に試料ステージを水平方向に移動させながら高さセンサによって計測された多数の高さ情報を処理して高精度な高さ検出値が得られるように構成したことを特徴とする請求項8乃至13の何れか一つに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項15】
前記制御手段は、更に、前記試料を前記探針に接近させた後、前記探針駆動機構をZストロークの上限まで引き上げてから、前記試料ステージを探針駆動機構のZストロークよりも短い距離だけ上昇させ、その後、前記撓み検出手段によって探針の撓み情報の検出を監視しながら探針駆動機構のZ軸を下降させる動作を、探針の試料との接触を検知するまで繰り返すことによって、探針の先端と試料の表面との間の間隙を前記探針駆動機構のZステージのストローク以内に位置決めするように構成されることを特徴とする請求項3乃至14の何れか一つに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項16】
前記高さセンサによって試料の端部の位置を検出し、試料ステージ上の正規の位置に試料が搭載されているかどうかを判定することを特徴とする請求項3乃至15の何れか一つに記載の走査型プローブ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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