説明

走査型リアルタイム顕微システムおよび走査型X線高速描画システム

【課題】高い空間分解能と高い時間分解能と簡便なモニタリングとを兼ね備えた走査型リアルタイム顕微システムを実現する。
【解決手段】走査型リアルタイム顕微システム10aは、X線ビームを照射する光源3と、光源3から照射されたX線ビームを集光するゾーンプレート1と、X線ビームを集光するゾーンプレート1を動かす駆動機構2とを備え、駆動機構2は、ゾーンプレート1に入射するX線ビームの進行方向に垂直な方向の周りにゾーンプレート1を回動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線ビームを照射する光源と、光源から照射されたX線ビームを集光する集光手段とを備えた走査型リアルタイム顕微システムおよび走査型X線高速描画システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のX線顕微法では、集光法としてゾーンプレート(ZP)を用いるゾーンプレート法(非特許文献1、非特許文献2)と、反射鏡(全反射または多層膜)を用いる反射法とがあり、ゾーンプレート法および反射法それぞれに結像型と(試料を走査させる)走査型とを含んでいる。他に励起電子を結像するズーミング管を用いる方法がある。
【0003】
図6は、従来の走査型X線顕微鏡90aの構成を示す模式図である。走査型X線顕微鏡90aは、X線ビームを照射する光源93を備えている。光源93から照射されたX線ビームは、スリットを通って、円板形状をしたゾーンプレート91に入射する。ゾーンプレート91は、入射したX線ビームを回折によって試料96に集光する。試料96は、図示しない駆動機構によって、ゾーンプレート91に平行な平面に沿って駆動(走査)される。走査型X線顕微鏡90aは、検出器89を備えている。検出器89は、X線ビームが集光された試料96からの蛍光X線収量を検出し、試料走査と同期することで試料96の元素分布をマッピングする。
【0004】
図7は、従来の結像型X線顕微鏡90bの構成を示す模式図である。結像型X線顕微鏡90bは、X線ビームを照射する光源93を備えている。光源93から照射されたX線ビームは、円板形状をしたゾーンプレート91aに入射し、試料に集光されて、ゾーンプレート91bに入射し、検出器89aにおいて結像する。
【0005】
図8は、従来の放射光STM用ビーム・試料位置あわせモニター90cの構成を示す模式図である。STM用ビーム・試料位置あわせモニター90cは、X線ビームを照射する光源93を備えている。光源93から照射されたX線ビームは、アパーチャ88を通って試料6に集光され、蛍光板97に到達して影絵を構成する。STM用ビーム・試料位置あわせモニター90cには、光学顕微鏡ユニット98が設けられている。光学顕微鏡ユニット98は、蛍光板97上の影絵を拡大する。STM用ビーム・試料位置あわせモニター90cは、CCDユニット99を備えている。CCDユニット99は、光学顕微鏡ユニット98によって拡大された影絵を検出する。
【0006】
図9は、従来の走査型電子線描画システム90dの構成を示す模式図である。走査型電子線描画システム90dは、コイル87a・87bを備えている。図示しない電子線源から照射された電子ビームは、コイル87a・87bを通って偏向されて試料96に照射され、試料96に回路パターン86(配線など)を描画する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Evidence for various calcium sites in human hair shaft revealed bysub-micrometer X-ray fluorescence」,C. Merigoux 他, Biochimica et Biophysica Acta 1619 (2003) 53-58
【非特許文献2】「Synchrotron-induced X-ray microfluorescence on single cells」, Sylvain Bohic 他, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 181 (2001) 728-733
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
走査型は(試料を走査)、ゾーンプレート法であると反射法であるとを問わず、光源サイズ(100nm程度)に比べてはるかにサイズの広い試料範囲(10〜500μm程度)を走査するため、原理的に短時間での観察が不可能という問題がある。たとえば図6に示すゾーンプレート法による試料走査型の構成では、試料走査に時間がかかるため、原理的に短時間での観察が不可能である。結像型の場合も、図7に示すゾーンプレート法では、複数のゾーンプレートとX線CCD(前者は各数百万円、後者は数百〜数千万円と、ともに極めて高価)が必要になるという問題がある。図7のZPを集光鏡に置き換えた構成では、X線CCDに加えて、やはりサイズの非常に大きいミラー(数10cm程度)について、極めて繊細で大がかりな集光調整が必要になるという問題がある。さらに、ズーミング管は、放出電子の結像系(電磁レンズ)に高額な費用が必要であり、大掛かりな装備を要するという問題がある。
【0009】
図8に示す従来の放射光STM用ビーム・試料位置あわせモニター90cの構成では、試料のエッジによる回折は波長λに比例し、回折ボケで輪郭が大きく損なわれるため、軟X線には使用することができないという問題がある。また、現状の最小ビーム直径10μmよりも小さなビームを用いる場合、光学顕微鏡の分解能で制限されて、それ以上の分解能は対処できないという問題がある。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い空間分解能と高い時間分解能と簡便なモニタリングとを兼ね備えた走査型リアルタイム顕微システムおよび走査型X線高速描画システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る走査型リアルタイム顕微システムは、X線ビームを照射する光源と、前記光源から照射されたX線ビームを集光する集光手段と、前記X線ビームを集光する集光手段を動かす駆動手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
この特徴により、X線ビームの集光手段が試料よりもはるかにコンパクト・高速でかつ、駆動手段によって動かされるので、試料を動かす従来の構成では得られなかった高い空間分解能と高い時間分解能と簡便なモニタリングとをすべて兼ね備えた走査型リアルタイム顕微システムを実現することができる。
【0013】
本発明に係る走査型リアルタイム顕微システムでは、前記集光手段は、回折によりX線ビームを集光するZPを含むことが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、より小型の構成でX線ビームを集光・走査する集光手段を構成することができる。
【0015】
本発明に係る走査型リアルタイム顕微システムでは、前記駆動手段は、ピエゾ素子を含むことが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、より簡単な構成により、X線ビームを集光する集光手段を動かす駆動手段を構成することができる。
【0017】
本発明に係る走査型リアルタイム顕微システムでは、前記駆動手段は、前記ZPに入射するX線ビームの進行方向に垂直な方向の周りに(つまりビーム進行方向に対してはピッチとヨウの方向)前記ZPを回動させることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、より簡単な構成により、X線ビームを集光するZPを動かすことができる。
【0019】
本発明に係る走査型リアルタイム顕微システムでは、前記集光手段は、前記X線ビームを試料に集光した上で走査し、前記走査型リアルタイム顕微システムは、前記ビームの試料による透過コントラストを得る蛍光板と、前記蛍光板上の透過コントラスト像を拡大する光学顕微鏡ユニットとをさらに備えることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、試料の透過コントラスト像を拡大して見ることができる。
【0021】
本発明に係る走査型X線高速描画システムは、X線ビームを照射する光源と、前記光源から照射されたX線ビームを集光する集光手段と、前記X線ビームを集光する集光手段を動かして前記X線ビームにより試料に描画する駆動手段とを備えたことを特徴とする。
【0022】
この特徴によれば、X線ビームを集光する集光手段が駆動手段によって動かされるので、サイズのはるかに大きな試料を動かす従来の構成では得られなかった高い空間分解能と高い時間分解能と簡便なモニタリングとをすべて兼ね備えた走査型X線高速描画システムを実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る走査型リアルタイム顕微システムは、光源から照射されたX線ビームを集光する集光手段と、前記X線ビームを集光する集光手段を動かす駆動手段とを備えているので、試料を動かす従来の構成では得られなかった高い空間分解能と高い時間分解能と簡便なモニタリングとをすべて兼ね備えた走査型リアルタイム顕微システムを実現することができる。
【0024】
本発明に係る走査型X線高速描画システムは、光源から照射されたX線ビームを集光する集光手段と、前記X線ビームを集光する集光手段を動かして前記X線ビームにより試料に描画する駆動手段とを備えているので、試料を動かす従来の構成では得られなかった高い空間分解能と高い時間分解能と簡便なモニタリングとをすべて兼ね備えた走査型X線高速描画システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態に係る走査型リアルタイム「顕微システム」の構成を示す模式図である。
【図2】上記走査型リアルタイム顕微システムに設けられた駆動機構の具体例の構成を示す模式図である。
【図3】上記走査型リアルタイム顕微システムに設けられ得るOSAを説明するための模式図である。
【図4】実施の形態に係る走査型X線高速「描画システム」の構成を示す模式図である。
【図5】実施の形態に係る、ただし既存の走査型顕微システムに設けられた集光ミラーシステムの構成を示す模式図である。
【図6】従来の走査型X線顕微鏡の構成を示す模式図である。
【図7】従来の結像型X線顕微鏡の構成を示す模式図である。
【図8】従来の放射光STM用ビーム・試料位置あわせモニターの構成を示す模式図である。
【図9】従来の走査型電子線描画システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態について図1ないし図2、4に基づいて説明すると以下の通りである。図1は、実施の形態に係る走査型リアルタイム顕微システム10aの構成を示す模式図である。走査型リアルタイム顕微システム10aは、X線ビームを照射する光源3を備えている。光源3から照射されたX線ビームは、円板状のゾーンプレート1に入射する。
【0027】
走査型リアルタイム顕微システム10aには、駆動機構2が設けられている。駆動機構2は、ピエゾ素子の伸縮運動により、ゾーンプレート1に入射するX線ビームの進行方向に垂直な方向の周りにゾーンプレート1を高速で回動させる。
【0028】
駆動機構2は、X線ビームの進行方向に垂直な平面上においてゾーンプレート1を2次元走査してもよい。この具体構成を図2を参照して説明する。図2は、駆動機構の具体例の構成を示す模式図である。駆動機構2は、チューブ形状をした中空円筒状のピエゾ素子2aによって構成されている。ゾーンプレート1は、ピエゾ素子2aの先端に取り付けられている。
【0029】
ピエゾ素子2aの中心軸に垂直な方向に沿って電圧を印加することにより、ピエゾ素子2aが首振り運動をし、ゾーンプレート1は高速で2次元走査される。この構成によれば、50kHzを超える高速走査も十分に可能である。
【0030】
なお、ピエゾ屈曲によりX線ビームからゾーンプレート(ZP)1が外れる懸念は2つの理由で完全に否定できる。1つは、焦点距離(3〜10cm)に対して集光サイズが小さい(さらに集光ビームの走査範囲が小さい)ため、実際にゾーンプレート1が振れる角度はX線ビームからゾーンプレート1が外れない程度に小さいことである。図2では誇張して書いたため、ピエゾの首振り角度が大きく見えるが、実際には仮に焦点距離3cmに対して集光ビームの走査範囲が最大30μmとしても最大1mradつまり0.06度であり、標準的ピエゾ5mm長に対して首の振れる距離は5μmである。もう1つは、入射X線ビームがピエゾ素子2aの首振りの範囲をカバーして大きいこと(通常、試料位置でφ0.5mm程度)、である。
この際、逆に、最大走査範囲が±0.06度と小さいことから、角度走査の分解能を問われるかもしれないが、むしろピエゾは既に実用されているSTMから分かる通り、原子スケールの位置分解能を有している。この(分解能という)点から見ても0.06度を100分割する程度の分解能は容易に達成可能であり、本実施の形態の構成が妥当であることが理解できる。
【0031】
ゾーンプレート1は、入射したX線ビームを回折によって試料6に集光する。走査型リアルタイム顕微システム10aには、試料のすぐ下流に蛍光板7が設けられている。
【0032】
図3は、蛍光板7の直前に置かれるピンホール(OSA(Order Sorting Aperture))13を説明するための模式図である。通常、ゾーンプレート1の集光ビームの回りには直接光の成分と回折光とが現れ(リング状のゴーストと考えてよい)、邪魔になる。これらを除くため、重元素(X線が透過しないTa、W、Pt等)により構成したピンホール13を形成する。サイズは、穴がφ10μm程度、つまりOSA全体は1〜2mm程度かそれ以下であり、重量はピンホール自体よりも、そのリングをはめ込んで支える枠、が主である。穴を形成したOSA13を置く場所は、ZPの仕様(集光サイズやX線波長)に依存するが、集光点の近くつまり、蛍光板7の直前に配置する。
【0033】
OSAは、場合により、あちこち動く集光点と一緒に動く必要がある。その場合、ピエゾ素子2aとゾーンプレート1との下流に、少し離して穴を有するOSA13も固定し、一緒に動く形にする。技術的には困難でなく、上記のピエゾ素子2aに円筒状の延長ジグを設け、その先にOSAを固定する。これにより、ピエゾ素子2aと同調して先端のOSAが移動する。あるいは、OSAを新たなピエゾ素子に固定し、それをピエゾ素子2aと同期制御することで、ゾーンプレート1とOSAを同調して制御することが可能である。
【0034】
ただし、OSAで除去する対象は直接光と低次回折光なので(これらは集光点を中心として、そこから離れて円周上に存在する)、あちこち動く集光点と一緒に必ずしもOSAが動かなくてよいケースが多く、試料近くにOSAを固定すれば済むケースも多い。また、OSAの不要なZPも存在する。
【0035】
蛍光板7上には、試料6の透過コントラスト像が得られる。走査型リアルタイム顕微システム10aは、光学顕微鏡ユニット8およびCCDユニット9を備えている。光学顕微鏡ユニット8は、蛍光板7上の透過コントラストを拡大する。CCDユニット9は、光学顕微鏡ユニット8によって拡大された透過コントラスト像を検出する。
【0036】
本実施の形態では、ピエゾ駆動を用いてゾーンプレート1を高速制御することにより、X線マイクロビームを走査し、その下流に置いた蛍光板7を光学顕微鏡ユニット8で観察する。これにより、従来の電子銃によるブラウン管と同様に、簡便に像を構成する。この結果、特殊な検出器に頼らず(光学顕微鏡のみを用い、X線CCDは不要)、大がかりな結像系(電磁レンズ等)も複雑な調整も不要であり、簡便でコンパクトな装備により試料を置くだけで顕微観察ができるシステムを構築することができる。
【0037】
本実施の形態では、ゾーンプレート1をピエゾ駆動で制御し、X線集光ビームを高速2次元走査する。顕微法として用いる場合には、試料下流においた単結晶の蛍光板7によって試料6の透過コントラストを得る。この蛍光板7上の像を、光学顕微鏡ユニット8によって拡大して通常の光学CCDユニット9で画像化する。このシステムの分解能は、X線ビーム径と光学顕微鏡ユニットで決まる。蛍光板7が粉体でない点が重要である。なぜならば、蛍光粉末は粒径がすでに数μmあり、これが空間分解能を悪化させるからである。
【0038】
本実施の形態では、図1に示すように、ピエゾ駆動を用いたZP走査制御により、X線マイクロビームを高速走査し、その下流に置いた蛍光板7を光学顕微鏡ユニット8で観察することによって、従来の電子銃によるブラウン管と同様に、簡便に像観察を行う。この結果、特殊な検出器(X線CCD等)に頼らず、大がかりな結像系(電磁レンズ等)も要らず集光鏡のような複雑な光学調整も不要であり、簡便でコンパクトな装備により試料を置くだけで顕微観察ができるシステムを構築する。
【0039】
本システムが顕微法として好適となるのは、光学顕微鏡の限界程度の高い空間分解能が必要な場合、リアルタイム観察を要する場合、またいわゆる「肉眼」でなく透過コントラストを必要とする場合、さらに試料回りで大掛かりな装備を嫌う、といった場合である。
【0040】
ここで1つの留意点は、光学顕微鏡の原理上、本システムの空間分解能は100nmを切るような用途ではない、ということである。しかし、世の中のニーズは究極的な高分解能だけを必要とするわけではない。たとえば図1で得られる像サイズが、従来(図8)のサイズと同等な場合でも(例えば、ともにφ10μmの場合)、それが微小ビーム(φ100nm)を走査した結果であれば、従来の「ベタ当てビーム」による像と全く異なる意義を持つことは明らかである。なぜなら像の確認後、所定の座標へ微小ビームの位置決めが100nmのオーダーで可能だからである。特に描画では、この点が役に立つ。
【0041】
他に好例は、放射光STMシステムで用いられるモニターシステムである。超高真空槽の中であり、装置の空間上の制約から、大掛かりな装備は邪魔となる。さらに肉眼で見えないX線と微小な試料・探針との間の位置調整を行う必要があり、リアルタイム観察は必須である。その他、X線に関わる微細な調整を短時間で行う必要がある局面は多々、存在する。
【0042】
図4は、実施の形態に係る走査型X線高速描画システム10cの構成を示す模式図である。前述した構成要素と同一の構成要素には同一の参照符号を付している。従って、これらの構成要素の詳細な説明は省略する。走査型X線高速描画システム10cは、X線ビームを照射する光源3を備えている。光源3から照射されたX線ビームは、円板状のゾーンプレート1に入射する。
【0043】
走査型X線高速描画システム10cには、駆動機構2が設けられている。駆動機構2は、ピエゾ素子の伸縮運動により、ゾーンプレート1に入射するX線ビームの進行方向に垂直な方向の周りにゾーンプレート1を回動させる。ゾーンプレート1は、入射したX線ビームを回折によって試料に集光し、試料に回路パターン16を描画する。
【0044】
本実施の形態は、観察(顕微法)だけでなく、作製(X線マイクロビームを用いたパターン描画システム)への応用も可能である。従来から現在に至るまで、電子回路等の微細なパターン作製ではまず電子線描画によりマスクを作製し、その後、露光とエッチング等のプロセスを経る形で行われている。つまり前半は電子線、後半は光プロセスである。後者の光プロセスでは、より微細な構造を作るため光の短波長化が進められており、将来的にX線露光も有力な手段として開発が進んでいる。この場合、電子線描画における高価で大掛かりな電磁レンズ系(高真空中)が本システムにより不要となるだけでなく、本実施の形態を用いることで、マスク描画から露光までのプロセスを一貫してX線により行うことが可能となる。
【0045】
微細化の精度については「ZPによるX線の集光ビーム径」と「ZP走査精度」によって決まる。「ZPによるX線の集光ビーム径」は、すでに50nm以下の径が実現されている(世界記録は10nm)。これは光源がX線であるため、可視光の回折限界よりもはるかに微小なサイズを実現できる利点といえる。一方、後者の走査精度についても、本実施の形態では、STMと同様な、ピエゾアクチュエータを用いる。STMではすでに「原子分解能(〜0.1 nm)」が実現され、かつ汎用的に実用されていることから、100nmスケールの制御はまったく問題なく行われる。またビーム走査という点についても(走査速度や往復の周期などの概念)、すでに確立されているブラウン管の概念を適用可能であることも本実施の形態の実現には有利な事象である。
【0046】
図5は、実施の形態に係る、既存の走査型顕微システムに設けられた集光ミラーシステムの構成を示す模式図である。ゾーンプレート1の代わりにミラーシステム11を設けて、X線ビームを集光してもよい。ただし上述の通り、ミラーシステムの高空間分解かつ高速な制御はZPを用いるシステムに比べて現状では極めて高い技術水準を要求され、かつ煩雑である。ミラーシステム11は、垂直方向を向いた凹曲面を有するミラー12aと、水平方向を向いた凹曲面を有するミラー12bとを備えている。光源から照射されたX線ビームは、ミラー12aの凹曲面で全反射した後、ミラー12bの凹曲面で全反射して2次元集光される。
【0047】
以上のように本実施の形態によれば、ZPを高速で走査することにより、500nm以下の高空間分解能かつ数10msec/1画面のリアルタイムで、試料を置くだけの極めて簡便な顕微観察をすることができる。また、このシステムにより、X線描画パターンの制御も可能になる。
【0048】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、X線ビームを照射する光源と、光源から照射されたX線ビームを集光する集光手段とを備えた走査型リアルタイム顕微システムおよび走査型X線高速描画システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 ゾーンプレート(集光手段)
2 駆動機構(駆動手段)
3 光源
6 試料
7 蛍光板
8 光学顕微鏡ユニット
9 CCDユニット
10a 走査型リアルタイム顕微システム
11 ミラーシステム
12a、12b ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線ビームを照射する光源と、
前記光源から照射されたX線ビームを集光する集光手段と、
前記X線ビームを集光する集光手段を動かす駆動手段とを備えたことを特徴とする走査型リアルタイム顕微システム。
【請求項2】
前記集光手段は、回折によりX線ビームを集光するZPを含む請求項1記載の走査型リアルタイム顕微システム。
【請求項3】
前記駆動手段は、ピエゾ素子を含む請求項1記載の走査型リアルタイム顕微システム。
【請求項4】
前記駆動手段は、前記ZPに入射するX線ビームの進行方向に垂直な方向の周りに前記ZPを回動させる請求項2記載の走査型リアルタイム顕微システム。
【請求項5】
前記集光手段は、前記X線ビームを試料に集光し、
前記走査型リアルタイム顕微システムは、
前記試料の透過コントラスト像を得る蛍光板と、
前記蛍光板上の透過コントラスト像を拡大する光学顕微鏡ユニットとをさらに備える請求項1記載の走査型リアルタイム顕微システム。
【請求項6】
前記集光手段は、前記X線ビームを全反射させるミラーシステムを含む請求項1記載の走査型リアルタイム顕微システム。
【請求項7】
X線ビームを照射する光源と、
前記光源から照射されたX線ビームを集光する集光手段と、
前記X線ビームを集光する集光手段を動かして前記X線ビームにより試料に高速描画する駆動手段とを備えたことを特徴とする走査型X線高速描画システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−266368(P2010−266368A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118868(P2009−118868)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】