説明

走査型医療用プローブ、及び医療用観察システム

【課題】屈曲動作に伴う撮影画像の色再現性の劣化(変動)を避けるのに好適な走査型医療用プローブを提供すること。
【解決手段】走査型医療用プローブを、特定波長の光を伝送して射出端から射出する光ファイバと、光ファイバの特定箇所を屈曲させる手段と、光ファイバの特定箇所に形成された、特定波長の光の一部を反射するファイバブラッググレーティングと、射出端から射出された特定波長の光が被写体上で走査されるように光ファイバの射出端近傍を振動させる手段と、該走査された被写体からの反射光を所定の検出器に出力する手段とで構成し、特定箇所の屈曲に応じた特定波長の光の損失光量を、該特定波長の光に対する該ファイバブラッググレーティングの、該屈曲に伴う透過率の上昇による透過光量の増加によって補うようにファイバブラッググレーティングを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被写体を走査して観察画像を生成する医療用観察システム及び該医療用観察システムに備えられた走査型医療用プローブに関連し、詳しくは、極細径の光ファイバの先端を共振させて被写体を光走査する走査型医療用プローブ、及び光走査された被写体の観察画像を生成する医療用観察システムに関する。
【背景技術】
【0002】
術者が患者の体腔内を診断する際に使用する医療機器として、ファイバスコープや電子スコープが一般的に知られている。例えば、電子スコープを使用する術者は、電子スコープの挿入部を体腔内に挿入して、挿入部先端に備えられた挿入先端部を被写体近傍に導く。術者は、電子スコープやビデオプロセッサの操作部を必要に応じて操作して、光源装置から放射された照明光によって被写体を照明する。術者は、照明された被写体の反射光像を挿入先端部に搭載されたCCD(Charge Coupled Device)等の固体撮像素子によって撮像する。術者は、撮像された被写体の映像をモニタを通じて観察し診断や施術等を行う。
【0003】
この種の電子スコープの挿入先端部には、患者の体腔内や微少な隙間に円滑に挿入できるように小型化が恒常的に要求されている。しかし、挿入先端部の実装部品には、例えば固体撮像素子等の寸法の大きい部品が含まれる。挿入先端部の設計上可能な最小外形寸法は、このような大型な部品によって実質的に規定される。従って、挿入先端部を小径化させるためには、より一層小型化された固体撮像素子等を選択することが望まれる。しかし、例えば固体撮像素子は、一般に小型であるほど、解像度やダイナミックレンジ、SN比等に関する性能が低下する。そのため、挿入先端部を小径化させたい場合であっても、小型な固体撮像素子を安易に選択することはできない。
【0004】
そこで、固体撮像素子自体を不要とした構成を採用することによって、従来型の電子スコープ(つまり、固体撮像素子を搭載した電子スコープ)よりも小径化させることが可能な走査型医療用プローブが提案されている。この種の走査型医療用プローブを有する医療用観察システムの具体的構成例は、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された走査型医療用プローブは、単一の光ファイバ(一般的にはシングルモードファイバ)の先端を共振させて所定の走査光により被写体を所定の走査パターンで走査する。走査型医療用プローブは、被写体からの反射光を検出して光電変換しビデオプロセッサに順次出力する。ビデオプロセッサは、光電変換された信号を処理して画像化しモニタに出力する。術者は、このようにして得られた体腔内の映像を、電子スコープを使用した場合と同じくモニタを通じて観察し診断や施術等を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/084915号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
走査型医療用プローブは、一般に、手元操作部による遠隔操作によって挿入先端部の根元付近が屈曲自在に構成されている。挿入先端部の根元付近が屈曲して挿入先端部の方向が変わることにより、走査型医療用プローブによる撮影範囲が移動する。走査光を射出するシングルモードファイバは、遠隔操作による屈曲動作時に、挿入先端部の根元付近の箇所で屈曲する。
【0007】
ところが、走査型医療用プローブのシングルモードファイバは、一般的な電子スコープのライトガイド(マルチモードファイバ束)と比べてコア径が小さいため、屈曲による光量損失(屈曲箇所における光のコア外への漏れ)が生じやすい欠点を有する。具体的には、シングルモードファイバは、曲率半径(屈曲半径)が徐々に小さくなるように屈曲されたとき、ある屈曲半径を境に、屈曲箇所における損失光量が指数関数的に増加するという性質を有する。屈曲による光量損失には波長依存性があり、長波長の光ほど損失光量が指数関数的に増加し始める屈曲半径が大きい。複数種類の波長の走査光を使用する場合、屈曲半径によっては長波長側の走査光だけ大きく損失することがある。この場合、損失の大きい波長の走査光に対応する一部の色だけが抜けた色再現性の低い画像が撮影される問題が指摘される。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、屈曲動作に伴う撮影画像の色再現性の劣化(変動)を避けるのに好適な走査型医療用プローブ、及び医療用観察システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る走査型医療用プローブは、光源から射出された特定波長の光を伝送して射出端から射出する光ファイバと、光ファイバの特定箇所を屈曲させる屈曲手段と、光ファイバの特定箇所に形成された、特定波長の光の一部を反射するファイバブラッググレーティングと、射出端から射出された特定波長の光が被写体上で走査されるように光ファイバの射出端近傍を振動させる振動手段と、該走査された被写体からの反射光を所定の検出器に出力する反射光出力手段とを有している。ファイバブラッググレーティングは、光ファイバの射出端からの射出光量を一定に保つことにより、光ファイバの屈曲動作に伴う撮影画像の色再現性の劣化(変動)が避けられるように、特定箇所の屈曲に応じた特定波長の光の損失光量を、該特定波長の光に対する該ファイバブラッググレーティングの、該屈曲に伴う透過率の上昇による透過光量の増加によって補うように形成されていることを特徴とする。
【0010】
光源からの射出光には、特定波長の光を含む複数種類の波長の光が含まれてもよい。この場合、特定波長の光は、ファイバブラッググレーティングの反射によって他の色とのバランスが崩れるのを避けるべく、光ファイバの射出端における射出光量が他の種類の波長の光の該射出端における射出光量と等しくなるように、光源の射出光量が該他の種類の波長の光より多い。なお、特定波長の光は、例えば複数種類の波長のうち最も長波長の光である。
【0011】
光ファイバは、例えば光源と結合したシングルモードファイバである。
【0012】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る医療用観察システムは、上記の何れかに記載の走査型医療用プローブに特定波長の光を射出する光源と、走査型医療用プローブから出力された被写体からの反射光を受光して画像信号を検出する検出器と、画像信号の検出タイミングに基づいて、各該画像信号により表現される画像情報の画素配置を決定する画素配置決定手段と、該決定された画素配置に従って各画像情報を空間的に配列して画像を作成する画像作成手段とを有することを特徴としたシステムである。
【0013】
光源は、特定波長の光を含む複数種類の波長の光を射出する構成としてもよい。この場合、特定波長の光は、ファイバブラッググレーティングの反射によって他の色とのバランスが崩れるのを避けるべく、光ファイバの射出端における射出光量が他の種類の波長の光の該射出端における射出光量と等しくなるように、光源の射出光量が該他の種類の波長の光より多い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、屈曲動作に伴う撮影画像の色再現性の劣化(変動)を避けるのに好適な走査型医療用プローブ、及び医療用観察システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の医療用観察システムの構成を概略的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態のプロセッサの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態の走査型医療用プローブの挿入可撓部先端の模式的な内部構造を示す側断面図である。
【図4】本発明の実施形態の走査型医療用プローブの挿入可撓部先端の模式的な内部構造を示す側断面図である。
【図5】本発明の実施形態のファイバブラッググレーティングの反射スペクトルとRパルス光との関係を示す図である。
【図6】被写体上に形成されるスポットを説明するための図である。
【図7】タイミングTにおいて検出された画像情報と画素アドレスとの関係を説明するための図である。
【図8】従来の問題点を説明するための図である。
【図9】本発明の実施形態における光量特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の医療用観察システムについて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の医療用観察システム1の構成を概略的に示す図である。図1に示されるように、医療用観察システム1は、走査型医療用プローブ100を有している。走査型医療用プローブ100は、可撓性を有するアウターシース132によって外装された挿入可撓部130を有している。術者は、挿入可撓部130を先端(以下、「挿入可撓部先端130a」と記す。)側から患者の体腔内に直接挿入して、挿入可撓部先端130aを被写体近傍に導く。または、挿入可撓部先端130aを被写体近傍にスムーズに導くため、挿入可撓部130にガイドワイヤ等を添えて体腔内に挿入する。若しくは、例えば固体撮像素子を搭載する一般的な電子スコープが有する鉗子チャンネルに挿入可撓部130を挿入し通して、挿入可撓部先端130aを被写体近傍に近接させるように操作する。
【0018】
挿入可撓部130の基端には、走査型医療用プローブ100を操作するための手元操作部150が設けられている。挿入可撓部先端130aの根元付近は、手元操作部150による遠隔操作によって屈曲自在に構成されている。挿入可撓部先端130aの根元付近が屈曲して挿入可撓部先端130aの方向が変わることにより、走査型医療用プローブ100による撮影範囲が移動する。手元操作部150から延びたユニバーサルケーブル160の基端には、コネクタ部110が設けられている。
【0019】
なお、走査型医療用プローブ100に組み込まれている屈曲機構は、一般的な電子スコープの屈曲機構と同じ機構であり、手元操作部150の操作に連動した操作ワイヤの牽引によって挿入可撓部先端130aの根元付近を屈曲させるように構成されたものである。走査型医療用プローブ100の屈曲機構は、図面を簡略化する便宜上、各図においてその図示を省略する。
【0020】
医療用観察システム1は、プロセッサ200を有している。プロセッサ200は、走査型医療用プローブ100を駆動制御すると共に走査型医療用プローブ100によって取得される観察光に基づき画像信号を生成する信号処理装置と、自然光の届かない体腔内に走査型医療用プローブ100を通じて走査光を照射する光源装置とを内蔵した一体型のプロセッサである。なお、別の実施形態では信号処理装置と光源装置とを別体で構成してもよい。プロセッサ200は、コネクタ部210を有している。コネクタ部110がコネクタ部210に差し込まれることにより、走査型医療用プローブ100とプロセッサ200とが光学的にかつ電気的に接続される。
【0021】
図2は、プロセッサ200の構成を示すブロック図である。図2においては、走査型医療用プローブ100とプロセッサ200との接続関係等を明確にするため、コネクタ部110の構成も模式的に示している。
【0022】
プロセッサ200は、被写体を走査するための光源としてR、G、Bの各波長に対応した光を発振するレーザ光源230R、230G、230Bを有している。なお、光源は、レーザ光源に限らず例えばLED(Light Emitting Diode)等の他の形態の光源としてもよい。
【0023】
プロセッサ200は、該プロセッサ200の各回路の信号処理タイミング等を統括的に制御するタイミングコントローラ240を有している。タイミングコントローラ240は、光源ドライバ232R、232G、232Bの各ドライバ回路に所定の変調制御信号を出力する。光源ドライバ232R、232G、232Bはそれぞれ、入力した変調制御信号に従ってレーザ光源230R、230G、230Bを直接変調する。具体的には、各ドライバ回路は、変調制御信号に従って所定の振幅で同位相の電流を、対応するレーザ光源に流す。レーザ光源230G、230Bは、G、Bの各波長に対応する同一強度(光量)のパルス光(以下、「Gパルス光」、「Bパルス光」と記す。)を、レーザ光源230Rは、Gパルス光又はBパルス光の約2倍の強度(光量)の、Rの波長に対応するパルス光(以下、「Rパルス光」と記す。)を、それぞれ、同期したタイミングで発振する。
【0024】
各レーザ光源から発振されたRパルス光、Gパルス光、Bパルス光は、光結合器234に入射する。光結合器234は、入射した各パルス光を位相を揃えた状態で結合して射出する。以下、説明の便宜上、光結合器234によって結合されたパルス光を「結合パルス光」と記す。
【0025】
光結合器234から射出された結合パルス光は、走査型医療用プローブ100が有するシングルモードファイバ112の入射端112aに入射する。シングルモードファイバ112は、コネクタ部110から挿入可撓部先端130aに亘って、挿入可撓部130の内部に収容されている。入射端112aに入射した結合パルス光は、シングルモードファイバ112内部を全反射を繰り返すことによって伝播する。
【0026】
図3及び図4は、挿入可撓部先端130aの模式的な内部構造を示す側断面図である。以降においては、走査型医療用プローブ100の構成を説明するにあたり、便宜上、走査型医療用プローブ100の長手方向をZ方向、Z方向に直交しかつ互いに直交する二方向をX方向、Y方向と定義する。この定義によれば、例えば図3は、走査型医療用プローブ100の中心軸AXを含むY−Z平面での挿入可撓部先端130aの断面図となっている。
【0027】
図1や図3等に示されるように、走査型医療用プローブ100の挿入部分である挿入可撓部130の外径は、アウターシース132によって規定されている。アウターシース132は、走査型医療用プローブ100が固体撮像素子を搭載しない構成であるため、一般的な電子スコープの外径に比べて格段に細い。そのため、走査型医療用プローブ100は、一般的な電子スコープに比べてより一層の低浸襲性が達成されている。
【0028】
図3に示されるように、アウターシース132の内側には、アウターシース132より外径の細いインナーシース134が同軸に配置されている。アウターシース132の内壁とインナーシース134の外壁とが規定する円環状のスペースには、複数本の検出用ファイバ136が全周に亘って均一に配置されている。複数本の検出用ファイバ136は、終端側がコネクタ部110内部で束ねられており、単一の光ファイババンドル136Bを構成している。
【0029】
インナーシース134内部には、支持体138が設けられている。シングルモードファイバ112の先端部112cは、支持体138の貫通穴に挿入され通されて片持ち梁の状態で支持されている。先端部112cの根元には、支持体138によって支持された二軸(X軸及びY軸)の圧電アクチュエータ140が接着されている。圧電アクチュエータ140は、一対のX軸用電極及び一対のY軸用電極を圧電体上に形成したものである。各X軸用電極及び各Y軸用電極は、終端がコネクタ部110内部に収容された電線(不図示)と接続されている。コネクタ部110とコネクタ部210とを接続させたとき、圧電アクチュエータ140は、電線を介してプロセッサ200のX軸ドライバ236X及びY軸ドライバ236Yに接続される。
【0030】
タイミングコントローラ240は、X軸ドライバ236X、Y軸ドライバ236Yの各ドライバ回路に所定の駆動制御信号を出力する。X軸ドライバ236Xは、駆動制御信号に従い、交流電圧Xを圧電アクチュエータ140のX軸用電極間に印加して、圧電体をX方向に共振させる。Y軸ドライバ236Yは、駆動制御信号に従い、交流電圧Xと同一周波数であって位相が直交する交流電圧Yを圧電アクチュエータ140のY軸用電極間に印加して、圧電体をY方向に共振させる。なお、交流電圧X、Yはそれぞれ、振幅が一定の割合で徐々に増加して、時間(X)、(Y)かけて実効値(X)、(Y)に達する電圧として定義される。
【0031】
図4に示されるように、シングルモードファイバ112は、手元操作部150の遠隔操作による走査型医療用プローブ100の屈曲動作時に、挿入可撓部先端130aの根元付近の箇所で屈曲する。この箇所のコアには、R成分について強い後方反射を引き起こすファイバブラッググレーティングFBGが形成されている。
【0032】
図5は、ファイバブラッググレーティングFBGの反射スペクトルとRパルス光(波長:638nm)との関係を示す図である。図5の横軸は、波長(単位:nm)を、図5の縦軸は、反射率(単位:%)を、それぞれ示す。図5中、符号R1は、シングルモードファイバ112が屈曲していない状態(図3参照)でのファイバブラッググレーティングFBGの反射スペクトルを示す。図5に示されるように、Rパルス光に対するファイバブラッググレーティングFBGの反射率は、シングルモードファイバ112が屈曲していない状態で40%(〜50%)程度である。そのため、Rパルス光は、光量がファイバブラッググレーティングFBGによって半分程度カットされる。従って、シングルモードファイバ112の射出端112bから射出される結合パルス光は、R、G、Bの各波長の成分が同程度の強度(光量)に揃うこととなる。
【0033】
シングルモードファイバ112の射出端112bは、圧電アクチュエータ140によるX方向、Y方向への運動エネルギーが合成されることにより、X−Y平面に近似する面(以下、「XY近似面」と記す。)上において中心軸AXを中心に渦巻状のパターンを描くように回転する。射出端112bの回転軌跡は、印加される電圧に比例して大きくなり、実効値(X)、(Y)の交流電圧が印加された時点で最も大きい径を有する円の軌跡を描く。
【0034】
結合パルス光は、圧電アクチュエータ140への交流電圧の印加開始直後から印加停止までの期間(つまり、時間(X)又は(Y)に相当する期間)、シングルモードファイバ112の射出端112bから射出され続ける。以下、説明の便宜上、この期間を「サンプリング期間」と記す。
【0035】
サンプリング期間の経過後、圧電アクチュエータ140への交流電圧の印加が停止して、シングルモードファイバ112の先端部112cの振動が減衰する。XY近似面上における射出端112bの円運動は、シングルモードファイバ112の先端部112cの振動の減衰に伴って収束し、所定時間後に中心軸AX上で停止する。以下、説明の便宜上、サンプリング期間が終了してから射出端112bが中心軸AX上に停止するまでの期間(より正確には、中心軸AX上での停止を保証するため、停止までに要する計算上の時間より僅かに長い期間)を「制動期間」と記す。一フレームに対応する期間は、サンプリング期間と制動期間で構成される。なお、制動期間を短縮するため、制動期間の初期段階に圧電アクチュエータ140に逆相電圧を印加して、制動トルクを積極的に加えてもよい。
【0036】
シングルモードファイバ112の射出端112bの前方には、集光光学系142が配置されている。射出端112bから射出された結合パルス光は、集光光学系142によって集光されて、被写体上にスポットSiを形成する。スポット径は、例えば数ミクロンオーダであり極めて小さい。
【0037】
図6に、被写体上に形成されるスポットSi(i=1〜n)を説明するための図を示す。走査型医療用プローブ100は、一枚の画像を得るべく、一サンプリング期間中、被写体上に渦巻パターンSPを描くようにn個のスポットSiをスポットS、S、S、・・・、Sn−2、Sn−1、Sの順に形成する。各スポットSiの間隔は、シングルモードファイバ112の射出端112bの運動速度や各レーザ光源の変調周波数等に依存して決まる。なお、渦巻パターンSPは、被写体上にパルス光で無く連続光を走査した場合を想定して描かれた仮想的な走査軌跡である。
【0038】
サンプリング期間中のXY近似面におけるシングルモードファイバ112の射出端112bの位置(軌跡)は、実験等を重ねた結果予め求められている。また、射出端112bの位置と、各位置で結合パルス光が射出された場合に被写体上でスポットSiが形成されるであろう撮影範囲(走査範囲)内における位置との関係も予め計算されている。更に、撮影範囲内におけるスポット形成位置と、各スポット形成位置からの反射パルス光を検出して画像化する際の画素位置との関係も予め計算されている。タイミングコントローラ240は、これらの既知情報に基づいて、X軸ドライバ236X、Y軸ドライバ236Yに対する制御(つまり、圧電アクチュエータ140に印加される交流電圧の制御)、及び光源ドライバ232R、232G、232Bに対する制御(つまり、サンプリング期間中における各レーザ光源の変調制御)のそれぞれをフレームレートに応じた周期で繰り返す。
【0039】
被写体上にスポットSiを形成した光の反射パルス光は、検出用ファイバ136の入射端136aに入射する。入射端136aに入射した反射パルス光は、検出用ファイバ136内部を全反射を繰り返すことによって伝播する。検出用ファイバ136(光ファイババンドル136B)の射出端136bは、コネクタ部110とコネクタ部210との連結部分を介してプロセッサ200の光分離器238に結合している。
【0040】
なお、光ファイババンドル136Bは、数十本程度(例えば80本)の検出用ファイバ136を束ねたものに過ぎない。そのため、光ファイババンドル136Bは、一般的な電子スコープやファイバスコープの光ファイババンドル(例えば数百〜千本の光ファイバを束ねた光ファイババンドル)と比べて遙かに径が細い。また、本実施形態において、検出用ファイバ136は最低限一本あればよい。検出用ファイバ136が一本の場合には、走査型医療用プローブ100をより一層小径化させることができる。
【0041】
光分離器238は、光ファイババンドル136Bからの反射パルス光をR、G、Bの各波長の反射パルス光に分離して、光検出器250R、250G、250Bに出力する。
【0042】
前述したように、結合パルス光は、単一のシングルモードファイバ112によって導光されて、被写体を照射する。そのため、被写体上で反射する反射パルス光の光量は、非常に少ない。このような微弱な光を確実にかつ低ノイズで検出するため、光検出器250R、250G、250Bの各光検出器には、光電子増倍管等の高感度光検出器が採用されている。
【0043】
光検出器250R、250G、250Bは、受光された各波長の反射パルス光を光電変換してアナログ信号を生成し、後段の回路に出力する。各波長の反射パルス光に対応するアナログ信号は、サンプリング及びホールドされて、A/Dコンバータ252R、252G、252Bによりデジタル信号列に変換される。変換されたデジタル信号列は、DSP(Digital Signal Processor)254に入力する。
【0044】
DSP254は、上記の既知情報に基づいて作成された、結合パルス光のスポットSiが形成される撮影範囲中の位置(別の側面によれば画像を構成する画素のアドレス)と、各スポットSiからの反射パルス光が検出されるタイミングTとを関連付けた変換テーブルを保持している。DSP254は、変換テーブルを参照しつつ、各A/Dコンバータからのデジタル信号列を監視して、各タイミングTにおける各波長に対応する信号を各画素アドレスの画像信号(すなわち、A/Dコンバータ252Rからの信号をR色の輝度値、A/Dコンバータ252Gからの信号をG色の輝度値、A/Dコンバータ252Bからの信号をB色の輝度値)として検出する。DSP254は、検出された各画素アドレスの画像信号をフレームメモリFMにバッファリングする。
【0045】
図7を用いて、各タイミングTにおいて検出された画像信号と画素アドレスとの関係を具体的に説明する。ここでは、説明の便宜上、最終的に生成される画像が19×19からなる画素配置で構成されるものとする。DSP254は、変換テーブルを参照して、スポットSに対応するタイミングtにおける各波長に対応する画像信号を検出する。DSP254は、検出された各波長に対応する画像信号を画素アドレス(10,10)に関連付けてフレームメモリFMにバッファリングする。以降のスポットS、S・・・に対応するタイミングT、T・・・における各波長に対応する画像信号も順次検出して、画素アドレス(9,9)、(9,11)・・・に関連付けてフレームメモリFMに順次バッファリングする。フレームメモリFMには、DSP254によって生成されたスポットS〜Sに対応する一フレーム分(全画素)の画像信号がバッファリングされる。
【0046】
DSP254は、各波長に対応する画像信号を有さない画素アドレスについて、例えば所定のマスキングデータを生成してフレームメモリFMにバッファリングする。DSP254は、タイミングコントローラ240によるタイミング制御に従い、フレームメモリFMにバッファリングされた画像信号を読み出して、エンコーダ256に出力する。
【0047】
エンコーダ256は、入力した画像信号を所定の規格に準拠したビデオ信号に変換してモニタ300に出力する。これにより、R色、G色、B色からなる被写体のカラー画像がモニタ300に表示される。モニタ300に表示される画像のホワイトバランスや明るさ等は、操作パネル260を操作することによって調整することができる。
【0048】
ここで、図8に、従来の問題点を説明するため、従来のシングルモードファイバの射出端から射出されるRパルス光の光量(図8の曲線A)と、屈曲によるRパルス光の光量損失率(図8の曲線B)との関係を示す。図8の横軸は、シングルモードファイバの屈曲半径(単位:mm)を、図8の縦軸は、Rパルス光の射出光量又は屈曲による光量損失率(単位:%)を、それぞれ示す。なお、図8において、Rパルス光の射出光量は、便宜上、屈曲による光量損失がない状態を100%とし、光量損失が増えるに従って%が低下するように表現している。横軸の屈曲半径は、図8中右側ほど小さくなる。
【0049】
図8に示されるように、Rパルス光の射出光量は、屈曲箇所における損失光量がある屈曲半径(ここでは15mm)を境に指数関数的に増加するため(曲線B参照)、急激に減少する(曲線A参照)。Rパルス光の射出光量が大幅に減少した場合、先に述べたように、撮影画像がR色の抜けた色再現性の低いものになってしまう。本実施形態においても、図4に示されるように走査型医療用プローブ100を屈曲させたとき、使用波長中の長波長側の光(すなわちRパルス光)が大きく損失して撮影画像の色再現性が劣化する問題の発生が懸念される。しかし、本実施形態の走査型医療用プローブ100は、屈曲動作に伴う撮影画像の色再現性の劣化が避けられるように、ファイバブラッググレーティングFBGが形成されている。
【0050】
なお、検出用ファイバ136は、シングルモードファイバ112ほど径が細くない(例えばマルチモードファイバである)ため、屈曲機構の可動範囲内の屈曲半径では屈曲による実質的な光量損失が生じない。Gパルス光及びBパルス光についても、波長が短いため、屈曲機構の可動範囲内の屈曲半径では屈曲による実質的な光量損失が生じない。シングルモードファイバ112は、屈曲機構による屈曲箇所以外では、食道や器官等の形状に沿って緩やかに湾曲する。しかし、このような緩やかな湾曲では、Rパルス光の実質的な光量損失は生じない。
【0051】
ファイバブラッググレーティングFBGは、図4に示されるように走査型医療用プローブ100が屈曲したとき、高屈折率部分と低屈折率部分とを交互に配置したグレーティングのピッチがシングルモードファイバ112の屈曲半径に応じて広がる。ここで、ファイバブラッググレーティングFBGが反射する光の波長λ(ピーク)は、高屈折率部分と低屈折率部分とのピッチをDと定義し、グレーティング部分の実効屈折率をnと定義した場合に、2n×Dで表されるものであり、ピッチDに比例する。すなわち、波長λは、シングルモードファイバ112がきつく曲げられて屈曲半径が小さくなるほどピッチDが広がるため、長波長側にシフトする。この反射波長のシフトを示したものが図5の符号R2である。符号R2は、シングルモードファイバ112が屈曲した状態(図4参照)でのファイバブラッググレーティングFBGの反射スペクトルを示している。図5に示されるように、ファイバブラッググレーティングFBGの反射スペクトルは、シングルモードファイバ112の屈曲に応じて長波長側にシフトする。
【0052】
図9は、図8と同じ曲線Bと、レーザ光源230Rの出力(光量)に対する、シングルモードファイバ112の射出端112bから射出されるRパルス光の光量の割合(図9の曲線C)と、Rパルス光に対するファイバブラッググレーティングFBGの反射率(図9の曲線D)及び透過率(図9の曲線E)との関係を示す図である。図9の横軸は、シングルモードファイバの屈曲半径(単位:mm)を、図9の縦軸は、レーザ光源230Rの出力(光量)に対する射出光量の割合、屈曲による光量損失率、ファイバブラッググレーティングFBGの反射率、及び透過率(単位:%)を、それぞれ示す。なお、図9において、横軸の屈曲半径は、図8と同様に、図9中右側ほど小さくなる。
【0053】
図9に示されるように、Rパルス光に対するファイバブラッググレーティングFBGの反射率は、シングルモードファイバ112が屈曲していない状態で40%程度である(曲線D参照)。このときのRパルス光の射出光量は、Rパルス光に対するファイバブラッググレーティングFBGの透過率が60%であり(曲線E参照)、屈曲による実質的な光量損失が無いから(曲線B参照)、レーザ光源230Rの出力(光量)に対して60%の光量である(曲線C参照)。
【0054】
シングルモードファイバ112が屈曲半径15mm以下の状態から更に屈曲すると、ファイバブラッググレーティングFBGの反射スペクトルがR1からR2に向けて長波長側に徐々にシフトする(図5参照)。この反射スペクトルのシフトに伴い、Rパルス光に対するファイバブラッググレーティングFBGの反射率が低下すると同時に透過率が上昇する(図5、曲線D及びE参照)。一方、屈曲による損失光量は、指数関数的に増加する(曲線B参照)。
【0055】
ファイバブラッググレーティングFBGは、Rパルス光の射出光量を一定量に保つため、屈曲によって損失した光量がファイバブラッググレーティングFBGの透過率の上昇に伴う透過光量の増加によって補われるように、反射スペクトルの波形及びシフト量が屈曲半径に応じた光量損失特性(曲線B)に合わせ込まれて設計されている。そのため、Rパルス光の射出光量は、屈曲による光量損失が生じているにも拘わらず(曲線B参照)、非屈曲時と同じくレーザ光源230Rの出力(光量)に対して60%の光量に保たれている(曲線C参照)。なお、ファイバブラッググレーティングFBGを設計するにあたり、シングルモードファイバ112の屈曲半径に応じた光量損失特性(曲線B)は、予め計算され又は測定されている。
【0056】
すなわち、シングルモードファイバ112の非屈曲時には、Rパルス光の透過率がファイバブラッググレーティングFBGによって抑えられて、Rパルス光の射出光量が他の波長のパルス光の射出光量と等しくなる。シングルモードファイバ112の屈曲時には、屈曲によるRパルス光の損失光量がファイバブラッググレーティングFBGにおけるRパルス光の透過光量の増加によって補われて、Rパルス光の射出光量が他の波長のパルス光の射出光量と等しい状態が維持される。そのため、R色の欠落による撮影画像の色再現性の劣化が有効に避けられる。本実施形態に係る構成によれば、例えばシングルモードファイバ112の屈曲半径に応じてレーザ光源230Rの出力を変動させるという複雑な制御を行うことなく、簡単な構成(ファイバブラッググレーティングFBGをシングルモードファイバ112に書き込む)で、光量が損失したRパルス光をリアルタイムに補うことができる。
【0057】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えばGパルス光又はBパルス光についても屈曲による光量損失が生じる場合には、G光又はB光に対応するファイバブラッググレーティングをシングルモードファイバ112に形成してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 医療用観察システム
100 走査型医療用プローブ
150 手元操作部
200 プロセッサ
240 タイミングコントローラ
254 DSP
FBG ファイバブラッググレーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から射出された特定波長の光を伝送して射出端から射出する光ファイバと、
前記光ファイバの特定箇所を屈曲させる屈曲手段と、
前記光ファイバの前記特定箇所に形成された、前記特定波長の光の一部を反射するファイバブラッググレーティングと、
前記射出端から射出された前記特定波長の光が被写体上で走査されるように前記光ファイバの該射出端近傍を振動させる振動手段と、
前記走査された被写体からの反射光を所定の検出器に出力する反射光出力手段と、
を有し、
前記ファイバブラッググレーティングは、前記射出端からの射出光量が一定に保たれるように、前記特定箇所の屈曲に応じた前記特定波長の光の損失光量を、該特定波長の光に対する該ファイバブラッググレーティングの、該屈曲に伴う透過率の上昇による透過光量の増加によって補うように形成されていることを特徴とする走査型医療用プローブ。
【請求項2】
前記光源からの射出光は、前記特定波長の光を含む複数種類の波長の光を含み、
前記特定波長の光は、前記射出端における射出光量が他の種類の波長の光の該射出端における射出光量と等しくなるように、前記光源の射出光量が該他の種類の波長の光より多いことを特徴とする、請求項1に記載の走査型医療用プローブ。
【請求項3】
前記特定波長の光は、前記複数種類の波長のうち最も長波長の光であることを特徴とする、請求項2に記載の走査型医療用プローブ。
【請求項4】
前記光ファイバは、前記光源と結合したシングルモードファイバであることを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の走査型医療用プローブ。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の走査型医療用プローブに特定波長の光を射出する光源と、
前記走査型医療用プローブから出力された被写体からの反射光を受光して画像信号を検出する検出器と、
前記画像信号の検出タイミングに基づいて、各該画像信号により表現される画像情報の画素配置を決定する画素配置決定手段と、
前記決定された画素配置に従って各前記画像情報を空間的に配列して画像を作成する画像作成手段と、
を有することを特徴とする医療用観察システム。
【請求項6】
前記光源は、前記特定波長の光を含む複数種類の波長の光を射出し、
前記特定波長の光は、前記射出端における射出光量が他の種類の波長の光の該射出端における射出光量と等しくなるように、前記光源の射出光量が該他の種類の波長の光より多いことを特徴とする、請求項5に記載の医療用観察システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−50417(P2011−50417A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199614(P2009−199614)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】