説明

走行速度制御システム

【課題】操作者に違和感のある操作を行わせることなく、油圧式走行車両の燃費を向上させるとともに車速を設定速度以下の一定の速度域に維持することが可能な走行速度制御システムを提供する。
【解決手段】この走行速度制御システムでは、容量制御部26cがポンプ容量を増加させる制御とモータ容量を減少させる制御とを行い、制御装置26が、速度検出部23から送られる速度信号に基づいて油圧式走行車両の走行速度が記憶部26aに記憶された第2設定速度を超えたと判断した場合には、速度検出部23が検出する走行速度が記憶部26aに記憶された第1設定速度を超えないように回転数制御部26dにエンジン回転数を低下させる回転数制御を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行速度制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆるHST(Hydro Static Transmission)走行システムを用いた油圧式走行車両が知られている。HST走行システムは、エンジンによって油圧ポンプを駆動させてその油圧ポンプから供給する油圧で油圧モータを駆動させ、さらに油圧モータの駆動力で車輪を回転させることによって車両の走行を行うものである。そして、このような油圧式走行車両の走行速度を制御するための走行速度制御システムの一例が下記特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示された走行速度制御システムは、変速レバーの傾動に伴って可変容量型の油圧ポンプの容量を変化させることにより、油圧モータへの作動油の供給量を制御し、それによって油圧モータの回転数を制御して車両の走行速度を制御する機構を備えている。そして、この走行速度制御システムでは、変速レバーの増速側への傾動に伴って車速が上限の設定速度まで上昇した後、変速レバーがさらに増速側へ傾動されると制御部がエンジンの回転数を低下させるようになっている。これにより、この走行速度制御システムでは、車速が上限の設定速度に達した後、操作者がさらに変速レバーを増速側へ傾動させた場合でも、車速が設定速度に維持されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−108061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、油圧式走行車両の燃費を向上することが求められている。上記特許文献1の走行速度制御システムでは、車速を上限の設定速度に維持するためにエンジンの回転数を低下させるため、その際、燃費の向上が図られる。しかし、この特許文献1の走行速度制御システムでは、より一層の燃費の向上を図ろうとすると、車速が上限の設定速度に達しているにもかかわらず、操作者は変速レバーを増速側へさらに傾動させなければならず、操作者に違和感のある変速レバーの操作を強いることになる。そして、このような燃費を向上するための運転を継続して行おうとすると、操作者は違和感のある変速レバーの操作を継続して行うことになる。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、操作者に違和感のある操作を行わせることなく、油圧式走行車両の燃費を向上させるとともに車速を上限の設定速度以下の速度域に維持することが可能な走行速度制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車輪と、エンジンと、前記エンジンによって駆動されて作動油を吐出する可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出された作動油の油圧によって駆動することにより前記車輪を回転させる可変容量型の油圧モータとを備えた油圧式走行車両に設けられ、その油圧式走行車両の走行速度を制御する走行速度制御システムであって、前記油圧ポンプの容量であるポンプ容量と前記油圧モータの容量であるモータ容量とのうち少なくとも一方の制御を行う容量制御部と、前記エンジンの回転数であるエンジン回転数の制御を行う回転数制御部と、前記油圧式走行車両の上限の走行速度として設定された第1設定速度及びその第1設定速度よりも低い設定速度である第2設定速度を記憶する記憶部とを有する制御装置と、前記油圧式走行車両の走行速度を検出し、その検出した走行速度を表す速度信号を前記制御装置へ出力する速度検出部とを備え、前記容量制御部は、前記油圧式走行車両の加速時に前記ポンプ容量を増加させる制御と前記モータ容量を減少させる制御のうち少なくとも一方の制御を行い、当該容量制御部は、前記油圧式走行車両の加速時に前記ポンプ容量を増加させる制御を行う場合には、その加速時に用いられる所定のエンジン回転数で前記油圧式走行車両の走行速度が前記第1設定速度を上回るような容量まで前記ポンプ容量を増加させる一方、前記油圧式走行車両の加速時に前記モータ容量を減少させる制御を行う場合には、その加速時に用いられる所定のエンジン回転数で前記油圧式走行車両の走行速度が前記第1設定速度を上回るような容量まで前記モータ容量を減少させ、前記制御装置は、前記速度信号に基づいて前記油圧式走行車両の走行速度が前記記憶部に記憶された前記第2設定速度を超えたと判断した場合には、前記速度検出部が検出する走行速度が前記記憶部に記憶された前記第1設定速度を超えないように前記回転数制御部に前記エンジン回転数を低下させる回転数制御を行わせることを特徴とするものである。
【0008】
この請求項1に記載の発明では、容量制御部が、油圧式走行車両の加速時にポンプ容量を増加させる制御とモータ容量を減少させる制御とのうち少なくとも一方の制御を行う。このため、車速が上昇して前記第2設定速度を超えた時点では、ポンプ容量の増加及び/又はモータ容量の減少が生じている。そして、この発明では、容量制御部が、当該油圧式走行車両の加速時にポンプ容量を増加させる制御を行う場合には、その加速時に用いられる所定のエンジン回転数で車速が前記第1設定速度を上回るような容量までポンプ容量を増加させる一方、当該油圧式走行車両の加速時にモータ容量を減少させる制御を行う場合には、その加速時に用いられる所定のエンジン回転数で車速が前記第1設定速度を上回るような容量までモータ容量を減少させる。このため、油圧式走行車両の加速時に車速は第2設定速度を超えた後も継続して上昇する。この際、本発明では、車速が第2設定速度を超えた後、回転数制御部により、速度検出部が検出する走行速度が前記第1設定速度を超えないようにエンジン回転数が低下されるので、車速が第2設定速度を超えた後、ポンプ容量の増加及び/又はモータ容量の減少に伴う車速の上昇を相殺して車速を上限の第1設定速度以下の速度域に維持することができる。そして、この際、回転数制御部によりエンジン回転数が低下されることによって、油圧式走行車両の燃費が向上する。さらに、この回転数制御部によるエンジン回転数の低下は、制御装置が、速度検出部から送られる速度信号に基づいて車速が第2設定速度を超えたと判断したことに応じて回転数制御部に自動的に行わせるため、操作者が違和感のある操作を行うこともない。従って、この請求項1に記載の発明では、操作者に違和感のある操作を行わせることなく、油圧式走行車両の燃費を向上させるとともに車速を上限の第1設定速度以下の速度域に維持することができる。
【0009】
また、上記特許文献1の従来構成では、油圧モータが固定容量型となっているが、この請求項1の発明において容量制御部によりモータ容量を減少させる制御を行う場合には、モータ容量の減少に起因して発生し、エンジン回転数の低下により相殺されるべき車速の上昇量が前記従来構成に比べて増加する。このため、この発明では、車速が第2設定速度を超えた後、回転数制御部によるエンジン回転数の低下量を前記従来構成に比べて増加させることができ、その結果、従来構成に比べてより大きな燃費の向上効果を得ることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の走行速度制御システムにおいて、前記容量制御部は、前記油圧式走行車両の加速時に前記ポンプ容量を増加させる制御を行う場合には、前記回転数制御において前記回転数制御部が前記ポンプ容量の増加によって上昇する走行速度が前記第1設定速度を超えないようにするために前記エンジンの燃料消費率が最低となるエンジン回転数である下限回転数以下までエンジン回転数を低下させないような容量に前記ポンプ容量を増加させ、前記油圧式走行車両の加速時に前記モータ容量を減少させる制御を行う場合には、前記回転数制御において前記回転数制御部が前記モータ容量の減少によって上昇する走行速度が前記第1設定速度を超えないようにするために前記下限回転数以下までエンジン回転数を低下させないような容量に前記モータ容量を減少させることを特徴とするものである。
【0011】
この請求項2に記載の発明によれば、油圧式走行車両の加速時に車速が第2設定速度を超えた後、回転数制御部によりエンジン回転数を低下させる回転数制御が行われる際、エンジンの燃料消費率が最低となる下限回転数以下までエンジン回転数が低下されない。このため、エンジン回転数が下限回転数以下に低下することによる燃費の悪化を防ぐことができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の走行速度制御システムにおいて、前記記憶部は、前記第1設定速度及び前記第2設定速度に加えて、前記第2設定速度よりも低い設定速度である第3設定速度を記憶しており、前記制御装置は、前記速度信号に基づいて、前記油圧式走行車両の走行速度が前記第2設定速度を超えた後、前記第3設定速度を下回ったと判断した場合に、前記回転数制御部に前記回転数制御を解除させることを特徴とするものである。
【0013】
この請求項3に記載の発明では、車速が第2設定速度を超えた後、第2設定速度よりも低い第3設定速度を下回ったときに回転数制御が解除される。ところで、この回転数制御を解除する設定速度を第2設定速度と同じ速度に設定することも考えられるが、この場合には、第2設定速度において回転数制御のオン/オフがめまぐるしく切り換わり、その回転数制御が不安定になる虞がある。これに対して、この請求項3の発明では、車速が第2設定速度よりも低い第3設定速度を下回ったときに前記回転数制御が解除されるので、車速が第2設定速度を超えて前記回転数制御がオンにされるタイミングと車速が第3設定速度を下回って前記回転数制御がオフにされるタイミングとをずらすことができる。これにより、前記回転数制御を安定化することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の走行速度制御システムにおいて、前記回転数制御部は、前記速度検出部が検出する走行速度が前記第2設定速度を超えた後、前記速度信号に基づいて前記油圧式走行車両の走行速度から前記第1設定速度よりも低く、かつ、前記第2設定速度よりも高い目標速度を減じることにより前記走行速度と前記目標速度との速度差を求め、その速度差が小さくなるように前記エンジン回転数を制御することを特徴とするものである。
【0015】
この請求項4に記載の発明によれば、車速が第2設定速度を超えた後、第1設定速度よりも低く、かつ、第2設定速度よりも高い目標速度に車速が近づくようになるので、車速が第2設定速度を超えた後、車速を上限の第1設定速度以下の一定の速度域に良好に維持することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の走行速度制御システムにおいて、操作者によって操作されるアクセル部を有し、そのアクセル部の操作量を表すアクセル信号を前記制御装置へ送るアクセル装置を備え、前記回転数制御部は、前記速度検出部が検出する走行速度が前記第2設定速度を超えた後、前記速度差が小さくなるように行うエンジン回転数の制御と前記アクセル信号に基づく前記アクセル部の操作量に応じたエンジン回転数の制御とのうちエンジン回転数が低くなる方の制御を選択して実施することを特徴とするものである。
【0017】
この請求項5に記載の発明では、車速が第2設定速度を超えた後、前記速度差が小さくなるように行うエンジン回転数の制御とアクセル部の操作量に応じたエンジン回転数の制御とのうち回転数が低くなる方の制御が実施されるため、車速が第2設定速度を超えた後、よりエンジン回転数が低くなる方の制御が常に実施されて燃費の向上が図られる。また、この発明では、アクセル部の操作量に応じたエンジン回転数の制御の方が前記速度差を小さくするエンジン回転数の制御に比べてエンジン回転数が低くなる場合には、アクセル部の操作量に応じてエンジン回転数が制御されるため、操作者によるアクセル部の操作に応じて車速を低減させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、操作者に違和感のある操作を行わせることなく、油圧式走行車両の燃費を向上させるとともに車速を上限の第1設定速度以下の速度域に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態による走行速度制御システムが適用された油圧式走行車両の駆動系統を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態による走行速度制御システムによる制御プロセスを説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態による走行速度制御システムが適用された油圧式走行車両の車速、油圧ポンプの吐出圧、ポンプ容量、モータ容量、エンジン回転数、エンジンの燃料消費量の経時変化を示す図である。
【図4】走行速度制御システムによって制御する油圧式走行車両の走行速度の経時変化のイメージを概略的に示す図である
【図5】エンジンの回転数と燃料消費率との関係を示す相関図である。
【図6】油圧ポンプの吐出圧とポンプ容量との関係を示す相関図である。
【図7】油圧ポンプの吐出圧とモータ容量との関係を示す相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0021】
まず、図1を参照して本発明の一実施形態による走行速度制御システム1が適用された油圧式走行車両の構成について説明する。
【0022】
この油圧式走行車両は、HST走行システムを用いており、エンジン4によって駆動される走行用油圧ポンプ8から供給する作動油の油圧で走行用油圧モータ10を駆動させ、その走行用油圧モータ10の駆動力により車輪2を回転させて走行するものである。
【0023】
具体的には、この油圧式走行車両は、車輪2と、エンジン4と、パワーディバイダ6と、走行用油圧ポンプ8と、走行用油圧モータ10と、動力伝達部12と、閉回路14と、チャージポンプ16と、チャージ回路18と、作業用油圧ポンプ20と、冷却ファン22とを備えている。
【0024】
エンジン4の駆動軸には、パワーディバイダ6を介して走行用油圧ポンプ8の入力軸、チャージポンプ16の入力軸、作業用油圧ポンプ20の入力軸及び冷却ファン22の駆動軸が接続されている。これにより、エンジン4の駆動力は、パワーディバイダ6によって分割されて走行用油圧ポンプ8、チャージポンプ16、作業用油圧ポンプ20及び冷却ファン22にそれぞれ伝達される。すなわち、油圧式走行車両の走行時には、エンジン4によって走行用油圧ポンプ8のみが駆動されるわけではなく、他の駆動機器であるチャージポンプ16、作業用油圧ポンプ20及び冷却ファン22もエンジン4によって駆動されるようになっている。なお、エンジン4には、図略の燃料噴射装置が付設されており、この燃料噴射装置からエンジン4へ噴射される燃料を消費してエンジン4が駆動するようになっている。
【0025】
走行用油圧ポンプ8は、可変容量型で、かつ、両方向吐出型に構成されている。この走行用油圧ポンプ8は、本発明の油圧ポンプの概念に含まれるものである。そして、この走行用油圧ポンプ8は、一側の給排口8aと他側の給排口8bを有している。この走行用油圧ポンプ8は、エンジン4の駆動力がパワーディバイダ6を介して伝達されることによって駆動し、一側の給排口8a又は他側の給排口8bから作動油を吐出する。
【0026】
走行用油圧モータ10は、可変容量型であり、走行用油圧ポンプ8から吐出された作動油の油圧によって駆動して、車輪2を回転させるための駆動力を発する。この走行用油圧モータ10は、本発明の油圧モータの概念に含まれるものである。この走行用油圧モータ10は、一側の給排口10aと他側の給排口10bとを有する。また、走行用油圧モータ10は、出力軸10cを有しており、この出力軸10cが動力伝達部12に接続されている。
【0027】
動力伝達部12は、走行用油圧モータ10の駆動力を車輪2に繋がる車軸(図示せず)に伝達するものである。この動力伝達部12には、走行用油圧モータ10の駆動力が出力軸10cを介して入力される。動力伝達部12は、伝達軸12aを有しており、この伝達軸12aが車軸に接続されている。走行用油圧モータ10から動力伝達部12に入力された駆動力は、伝達軸12aを介して車軸へ伝達され、それによって車軸とともに車輪2が回転するようになっている。
【0028】
閉回路14は、走行用油圧ポンプ8と走行用油圧モータ10とを繋いでいる。この閉回路14は、走行用油圧ポンプ8と走行用油圧モータ10との間で作動油を循環させるためのものである。具体的には、閉回路14は、一対の給排路14a,14bを備えている。一方の給排路14aは、走行用油圧ポンプ8の一側の給排口8aと走行用油圧モータ10の一側の給排口10aとを接続している。他方の給排路14bは、走行用油圧ポンプ8の他側の給排口8bと走行用油圧モータ10の他側の給排口10bとを接続している。これにより、例えば、走行用油圧ポンプ8の一側の給排口8aから作動油が吐出された場合には、その作動油は一方の給排路14aを通って走行用油圧モータ10の一側の給排口10aに流れ込む。その後、走行用油圧モータ10の他側の給排口10bから戻り油が排出され、その戻り油は、他方の給排路14bを通って走行用油圧ポンプ8の他側の給排口8bに戻る。
【0029】
チャージポンプ16は、閉回路14に補給する作動油を吐出するものである。このチャージポンプ16は、吐出口16aを有しており、その吐出口16aにチャージ回路18が接続されている。このチャージポンプ16は、エンジン4からパワーディバイダ6を介して駆動力が伝達されることにより、吐出口16aからチャージ回路18へ作動油を吐出する。
【0030】
チャージ回路18は、チャージポンプ16から吐出された作動油を閉回路14へ導入するためのものである。このチャージ回路18は、接続路18aと、吐出路18bと、逃がし路18cと、第1チェック弁18dと、第2チェック弁18eと、第3チェック弁18fと、リリーフ弁18gとを有する。
【0031】
接続路18aは、前記一対の給排路14a,14b同士を繋いでいる。吐出路18bは、その一端がチャージポンプ16の吐出口16aに接続されており、他端が接続路18aに接続されている。逃がし路18cは、その一端が吐出路18bに接続されており、他端が作動油タンクTに接続されている。第1チェック弁18dは、接続路18aのうち前記一方の給排路14aに対する接続箇所と吐出路18bに対する接続箇所との間の部分に設けられている。第2チェック弁18eは、接続路18aのうち前記他方の給排路14bに対する接続箇所と吐出路18bに対する接続箇所との間の部分に設けられている。第3チェック弁18fは、吐出路18bのうち逃がし路18cが接続された箇所とチャージポンプ16との間に位置する部分に設けられている。リリーフ弁18gは、逃がし路18cに設けられている。
【0032】
このようなチャージ回路18の構成により、チャージポンプ16から吐出された作動油は、吐出路18bを通じて接続路18aに導入され、リリーフ弁18gの設定圧力以下の圧力で接続路18aから両給排路14a,14bへ導入される。そして、チャージポンプ16から吐出路18bに吐出された作動油のうちリリーフ弁18gの設定圧力を超える分の作動油は、逃がし路18cを通じて作動油タンクTに逃がされる。また、第1チェック弁18dにより前記一方の給排路14aから吐出路18b側への作動油の逆流が防止され、第2チェック弁18eにより前記他方の給排路14bから吐出路18b側への作動油の逆流が防止される。また、第3チェック弁18fにより接続路18aからチャージポンプ16側への作動油の逆流が防止される。
【0033】
作業用油圧ポンプ20は、油圧式走行車両に搭載される図略の作業用油圧装置(クレーン、ショベル等)へ油圧を供給するためのものである。この作業用油圧ポンプ20は、エンジン4からパワーディバイダ6を介して駆動力が伝達されることにより作動油を吐出する。
【0034】
冷却ファン22は、エンジン4を冷却するためのものである。この冷却ファン22は、エンジン4からパワーディバイダ6を介して駆動力が伝達されることにより駆動してエンジン4へ向かって送風し、それによってエンジン4の冷却を行う。
【0035】
本実施形態による走行速度制御システム1は、以上説明したような構成の油圧式走行車両に設けられており、この油圧式走行車両の走行速度を制御するものである。次に、本実施形態の走行速度制御システム1の具体的な構成について説明する。
【0036】
本実施形態の走行速度制御システム1は、速度検出部23と、圧力センサ30a,30bと、アクセル装置24と、エンジン回転数検出部25と、制御装置26とを備えている。
【0037】
速度検出部23は、油圧式走行車両の走行速度を検出するものである。この速度検出部23は、動力伝達部12の伝達軸12aに設けられており、その伝達軸12aの回転速度を検出する。そして、速度検出部23は、検出した伝達軸12aの回転速度に基づいて油圧式走行車両の走行速度を検出し、その検出した走行速度を表す速度信号を制御装置26へ出力する。
【0038】
圧力センサ30a,30bは、油圧ポンプ8の作動油の吐出圧を検出し、その検出した吐出圧を表す圧力信号を制御装置26へ出力する。一方の圧力センサ30aは、油圧ポンプ8の一側の給排口8aに繋がる一方の給排路14aに設けられており、他方の圧力センサ30bは、油圧ポンプ8の他側の給排口8bに繋がる他方の給排路14bに設けられている。
【0039】
アクセル装置24は、アクセル部24aと、本体部24bと、アクセル信号出力部24cとを有しており、アクセル部24aの操作量を表すアクセル信号を制御装置26へ送るように構成されている。具体的には、アクセル部24aは、操作者によって操作されるものであり、本体部24bに取り付けられている。アクセル信号出力部24cは、本体部24bの内部に設けられており、アクセル部24aの操作量(踏み込み量)を検出してその操作量を表すアクセル信号を制御装置26へ出力する。
【0040】
エンジン回転数検出部25は、エンジン4の回転数(以下、単にエンジン回転数という)を検出するものである。このエンジン回転数検出部25は、エンジン回転数を検出し、その検出したエンジン回転数を表す回転数信号を制御装置26へ出力する。
【0041】
制御装置26は、エンジン回転数の制御と、走行用油圧ポンプ8の容量(以下、ポンプ容量という)の制御と、走行用油圧モータ10の容量(以下、モータ容量という)の制御とを行う。この制御装置26は、記憶部26aと、制御部26bとを有する。
【0042】
記憶部26aは、第1設定速度、第2設定速度、第3設定速度、目標速度、ポンプ容量の最大値、モータ容量の最小値及び下限回転数を記憶するものである。
【0043】
第1設定速度は、油圧式走行車両の上限の走行速度として設定されたものである。第2設定速度は、第1設定速度よりも若干低い速度に設定されており、後述するエンジン回転数の低下制御を開始する設定速度である。第3設定速度は、第2設定速度よりも若干低い速度に設定されており、後述するエンジン回転数の低下制御を解除する設定速度である。目標速度は、第1設定速度よりも低く、かつ、第2設定速度よりも高い速度であり、車速が第2設定速度を超えた後、車速制御の目標となる速度である。ポンプ容量の最大値は、後述するポンプ容量の増加制御における目標値であり、予め設定される値である。モータ容量の最小値は、後述するモータ容量の減少制御における目標値であり、予め設定される値である。下限回転数は、エンジン4の特性上、当該エンジン4の燃料消費率が最低となるエンジン回転数である。
【0044】
制御部26bは、ポンプ容量及びモータ容量の制御を行う容量制御部26cと、エンジン回転数の制御を行う回転数制御部26dとを有する。この制御部26bは、速度検出部23から送られてくる速度信号に基づいて油圧式走行車両の走行速度が記憶部26aに記憶された第2設定速度以下であると判断した場合には、操作者によるアクセル部24aの操作量に応じて回転数制御部26dによりエンジン回転数を制御させ、それによって車速をアクセル部24aの操作量に応じた速度に制御する。
【0045】
また、制御部26bは、後述するように、所定の制御サイクル毎に油圧式走行車両の加速時に容量制御部26cに油圧ポンプ8のポンプ容量を増加させる容量制御を行わせるとともに油圧モータ10のモータ容量を減少させる容量制御を行わせる。具体的には、制御部26bは、圧力センサ30a,30bから送られてくる圧力信号を監視しており、所定の制御サイクル毎に、前記圧力信号に基づいて車速の上昇に伴う油圧ポンプ8の吐出圧の減少が生じたと判断した場合に、容量制御部26cに油圧ポンプ8のポンプ容量を増加させる容量制御を行わせるとともに油圧モータ10のモータ容量を減少させる容量制御を行わせる。
【0046】
さらに、制御部26bは、所定の制御サイクル毎に、速度検出部23から送られてくる速度信号に基づいて油圧式走行車両の走行速度が記憶部26aに記憶された第2設定速度を超えたと判断した場合には、速度検出部23が検出する走行速度が記憶部26aに記憶された第1設定速度を超えないように回転数制御部26dにエンジン回転数を低下させる制御を行わせる。具体的には、制御部26bは、第2設定速度よりも高く、かつ、第1設定速度よりも低い目標速度を設定し、この目標速度を記憶部26aに記憶させておく。そして、制御部26bは、車速が目標速度に近づくように行うエンジン回転数の制御と、アクセル部24aの操作量に応じたエンジン回転数の制御とのうちエンジン回転数が低くなる方の制御を選択して実施する。
【0047】
また、制御部26bは、前記速度信号に基づいて、油圧式走行車両の走行速度が第2設定速度を超えた後、記憶部26aに記憶された第3設定速度を下回ったと判断した場合には、回転数制御部26dに上記の回転数制御を解除させる。
【0048】
次に、図2〜図7を参照して、本実施形態の走行速度制御システム1による油圧式走行車両の走行速度の制御プロセスについて説明する。
【0049】
油圧式走行車両では、エンジン4が駆動することにより、走行用油圧ポンプ8、チャージポンプ16、作業用油圧ポンプ20及び冷却ファン22が駆動する。そして、走行用油圧ポンプ8が駆動することにより当該走行用油圧ポンプ8から作動油が吐出され、その作動油は、閉回路14の一方の給排路14a又は他方の給排路14bを通じて走行用油圧モータ10へ供給される。これにより、走行用油圧モータ10が駆動する。走行用油圧モータ10の駆動力は、動力伝達部12を通じて車軸へ伝達され、それによって車軸と共に車輪2が回転する。このようにして、油圧式走行車両の走行が行われる。
【0050】
そして、本実施形態の走行速度制御システム1では、このような油圧式走行車両の走行の過程において、図2のフローチャートに示すような制御サイクルを行う。
【0051】
油圧式走行車両が停止した状態(走行速度が0の状態)から加速していく過程では、加速により車速が上昇する(図3(a)参照)と、それに伴って油圧モータ10の回転数が増加する。そして、この油圧モータ10の回転数の増加に伴って油圧モータ10の作動油の吸収流量が増加するため、油圧ポンプ8の吐出圧が徐々に低下する(図3(b)参照)。
【0052】
ここで、まず、制御部26bが、容量制御部26cに、図6及び図7に示す関係で油圧ポンプ8の吐出圧の低下に従ってポンプ容量を増加させるとともにモータ容量を減少させる制御を行わせる(ステップS1)。この制御においてポンプ容量を増加させる際の当該ポンプ容量の最大値qp1とモータ容量を減少させる際の当該モータ容量の最小値qm1は、以下の式(1)により算出される車速Vが第1設定速度以上となるように予め設定されている。
【0053】
=(2×π×ωe1×N×qp1×R)/(qm1×N)・・・(1)
ここで、ωe1は車両の加速時に用いられる予め設定された設定エンジン回転数、Nはエンジン回転数に対する油圧ポンプ8の回転数の比である油圧ポンプ8の増速比、Rは車輪2の半径、Nは車軸の回転数に対する油圧モータ10の回転数の比である車軸増速比をそれぞれ表す。
【0054】
また、ポンプ容量の最大値qp1及びモータ容量の最小値qm1は、後述する回転数制御部26dによるエンジン回転数の低下制御において下限回転数以下までエンジン回転数が低下されないような各容量にそれぞれ設定されている。具体的には、ポンプ容量の最大値qp1及びモータ容量の最小値qm1は、以下の式(2)で求められる車速Vが第2設定速度の時のエンジン回転数ωe2が下限回転数よりも高い値となるようにそれぞれ設定されている。
【0055】
ωe2=(V×qm1×N)/(2×π×N×qp1×R)・・・(2)
上記のように設定されたポンプ容量の最大値qp1及びモータ容量の最小値qm1は、記憶部26aに記憶されており、当該ステップS1では、容量制御部26cがその記憶部26aに記憶されたポンプ容量の最大値qp1に向かってポンプ容量を増加させるとともに、記憶部26aに記憶されたモータ容量の最大値qm1に向かってモータ容量を減少させる。
【0056】
そして、ステップS1の後、速度検出部23が油圧式走行車両の走行速度を検出する(ステップS2)。この走行速度の検出結果を表す速度信号が速度検出部23から制御装置26へ送られる。
【0057】
次に、制御装置26の制御部26bが、現在の制御サイクルの1つ前の制御サイクルで後述のエンジン回転数の低下制御を行っていないかを判断する(ステップS3)
このステップS3において、制御部26bは、1つ前の制御サイクルでエンジン回転数の低下制御を行ったと判断した場合には、次に、速度検出部23から送られる速度信号に基づいて油圧式走行車両の走行速度が記憶部26aに記憶された第3設定速度よりも高いか否かを判断する(ステップS5)。
【0058】
そして、制御部26bは、走行速度が第3設定速度以下であると判断した場合には、エンジン4の通常の制御を行う(ステップS7)。このエンジン4の通常の制御では、制御部26bは、操作者によるアクセル部24aの操作量(踏み込み量)に応じてエンジン回転数を制御し、それによって油圧式走行車両の走行速度を制御する。
【0059】
具体的には、操作者によるアクセル部24aの踏み込み量に応じたアクセル信号が、アクセル装置24のアクセル信号出力部24cから制御装置26へ出力される。制御部26bは、このアクセル信号に基づいて回転数制御部26dによりエンジン回転数を制御する。この際、アクセル部24aの踏み込み量の増加を表すアクセル信号が制御装置26に入力された場合には、回転数制御部26dは、エンジン回転数を上昇させる。一方、アクセル部24aの踏み込み量の減少を表すアクセル信号が制御装置26に入力された場合には、回転数制御部26dは、エンジン回転数を低下させる。このようにして、アクセル部24aの踏み込み量の増減に応じてエンジン回転数が増減される通常のエンジン4の制御が行われる。
【0060】
前記ステップS3において制御部26bが現在の制御サイクルの1つ前の制御サイクルでエンジン回転数の低下制御を行っていないと判断した場合には、次に制御部26bは速度検出部23から送られる速度信号に基づいて油圧式走行車両の走行速度が記憶部26aに記憶された第2設定速度よりも高いか否かを判断する(ステップS9)。
【0061】
このステップS9において、制御部26bは、油圧式走行車両の走行速度が第2設定速度以下であると判断した場合には、上記したステップS7のエンジン4の通常の制御を行う。
【0062】
一方、ステップS9において、制御部26bは、前記速度信号に基づいて車速が第2設定速度を超えたと判断した場合には、次に、前記速度信号に基づいて、速度検出部23が検出する油圧式走行車両の走行速度が第1設定速度を超えないように回転数制御部26dにエンジン回転数を低下させる制御を行わせる(ステップS11)。
【0063】
前記ステップS1において、容量制御部26cが、図6及び図7に示す関係で油圧ポンプ8の吐出圧の低下に伴ってポンプ容量を増加させるとともにモータ容量を減少させる制御を行う結果、ポンプ容量が増加してqp1となるとともにモータ容量が減少してqm1となった場合には、エンジン回転数が前記設定エンジン回転数ωe1以上では、車速が第1設定速度を上回ろうとする。そこで、当該ステップS11によるエンジン回転数を低下させて車速を第1設定速度以下にする制御が行われる。
【0064】
具体的には、前記ステップS1において、容量制御部26cは、図3(b)に示すように油圧ポンプ8の吐出圧が低下するのに伴い、図3(c)に示すようにポンプ容量を増加させるとともに図3(d)に示すようにモータ容量を減少させる制御を行う。この際、上記のように、ポンプ容量の最大値qp1とモータ容量の最小値qm1が、エンジン回転数が設定エンジン回転数ωe1の場合に車速Vが第1設定速度以上となるように設定されているため、車速が第1設定速度以上となろうとする。ここで、当該ステップS11において、回転数制御部26dによる車速が第1設定速度を超えないようにエンジン回転数を低下させる制御が実施され、それによって、図3(e)に示すようにエンジン回転数が加速時の前記設定エンジン回転数ωe1から低下される。従って、車両が最高速度に到達した時点のエンジン回転数ωe2は、加速時の設定エンジン回転数ωe1よりも低減することになり、図3(f)に示すようにエンジン4の燃料消費量が減少する。その結果、車両の燃費が改善する。
【0065】
そして、回転数制御部26dによるエンジン回転数の制御は、以下のようにして行われる。すなわち、回転数制御部26dは、記憶部26aに記憶された第1設定速度よりも低く、かつ、第2設定速度よりも高い目標速度にエンジン回転数が近づくようにエンジン回転数のフィードバック制御を行う。具体的には、回転数制御部26dは、速度検出部23から送られる前記速度信号に基づいて車両の走行速度から目標速度を減じることにより走行速度と目標速度との速度差を求め、その速度差が小さくなるようにエンジン回転数を制御する。この際、回転数制御部26dは、次式(3)に基づいて、前記速度差が大きいほどエンジン回転数が低下するように、エンジン回転数のフィードバック制御を行う。
【0066】
Δω=−G×(V−Vref)・・・(3)
ここで、Δωはエンジン回転数の低下量、Gはフィードバックの反応の速さを調節するための比例定数、Vは速度検出部23が検出する車両の走行速度、Vrefは目標速度をそれぞれ表す。回転数制御部26dは、上記式(3)に基づいてエンジン回転数の低下量Δωを算出し、その算出した低下量Δωだけエンジン回転数を低下させる。
【0067】
なお、上記式(3)に基づくエンジン回転数のフィードバック制御は、速度検出部23が検出する走行速度と目標速度との速度差に対してエンジン回転数が比例するように制御する場合の例である。このような比例制御の代わりに前記速度差の微分値にエンジン回転数が比例するように制御する微分制御や、前記速度差の積分値にエンジン回転数が比例するように制御する積分制御をエンジン回転数のフィードバック制御に適用してもよい。
【0068】
上記の制御によって、速度検出部23が検出する走行速度が目標速度よりも高い場合には、エンジン回転数が低下するように制御され、その結果、油圧式走行車両の走行速度が低下する。ただし、速度検出部23が検出する走行速度が目標速度よりも低い場合には、エンジン回転数が増加するように制御され、その結果、油圧式走行車両の走行速度が上昇する。このような制御により、油圧式走行車両の走行速度は、図4に示すように目標速度を中心として、多少の波を持ちながら、第1設定速度と第2設定速度との間の速度域で維持される。
【0069】
なお、油圧式走行車両の走行時に必要なエンジン4の動力(エンジン4の必要動力)は、走行用油圧ポンプ8の駆動に要する動力と、チャージポンプ16の駆動による損失動力と、作業用油圧ポンプ20の駆動による損失動力と、冷却ファン22の駆動による損失動力とを足し合わせたものとなる。
【0070】
本実施形態と異なり、エンジン回転数を低下させずに一定に保って油圧式走行車両の走行を行う場合には、車速が上限速度に達して加速が終了し、車速が一定の状態になると、走行用油圧ポンプ8の駆動に要する動力は減少する。ただし、この場合でも前記各損失動力は、減少しないので、エンジン4の必要動力は、走行用油圧ポンプ8の駆動に要する動力の減少分しか減少しない。
【0071】
これに対して、本実施形態のように上記のエンジン回転数を低下させる制御を行う場合には、前記各損失動力も減少する。その結果、本実施形態におけるエンジン4の必要動力は、エンジン回転数を低下させずに一定に保って車両の走行を行う場合のエンジン4の必要動力に比べて大きく減少する。
【0072】
そして、油圧式走行車両の走行燃費は、エンジン4の必要動力にエンジン4の燃料消費率を乗じることによって求められる。エンジン4の燃料消費率は、エンジン4の特性上、エンジン回転数に対して図5に示すような関係がある。すなわち、本実施形態のように、エンジン回転数を、油圧式走行車両の走行速度が上限の速度(第1設定速度)となるような回転数近傍から低下させる場合には、エンジン4の燃料消費率が低下する。これに対して、エンジン回転数を低下させず一定に保っている場合には、エンジン4の燃料消費率は低下せず、一定である。従って、エンジン4の必要動力が大きく減少するとともにエンジン4の燃料消費率が低下する本実施形態のエンジン回転数の制御では、エンジン回転数を低下させずに一定に保って車両の走行を行う場合に比べて油圧式走行車両の走行燃費が大きく向上する。また、図5に示すように、エンジン4の燃料消費率は、エンジン4の特性上、エンジン回転数が下限回転数を下回ると上昇する。しかし、本実施形態では、上記のように、車速が第2設定速度の時にエンジン回転数が下限回転数よりも高い値となるようにポンプ容量が増加される最大値qp1及びモータ容量が減少される最小値qm1が設定されているとともに、前記回転数制御部26dによるエンジン回転数の低下制御において車速が第1設定速度よりも低く、かつ、第2設定速度よりも高い目標速度に近づくようにエンジン回転数が制御されるため、当該エンジン回転数の低下制御においてエンジン回転数が下限回転数以下まで低下することがない。このため、当該エンジン回転数の低下制御においてエンジン回転数が下限回転数以下になることに起因する走行燃費の悪化が防止される。
【0073】
そして、ステップS11の後、回転数制御部26dは、上記の走行速度と目標速度との速度差が小さくなるように行うエンジン回転数の制御と、前記アクセル信号に基づくアクセル部24aの踏み込み量に応じたエンジン回転数の制御とのうちエンジン回転数が小さくなる方の制御を選択して実施する(ステップS13)。この際、回転数制御部26dは、前記速度差が小さくなるように行う回転数制御によってエンジン回転数が達する値と、前記アクセル信号に基づく回転数制御によってエンジン回転数が達する値とを比較して、よりエンジン回転数が低くなる方の制御を選択して実施する。
【0074】
そして、現在の制御サイクルが終了し、続いて次の制御サイクルが上記と同じ流れで行われる。この際、ステップS3において、制御部26bは、1つ前の制御サイクルでエンジン回転数の低下制御を行ったと判断する。そのため、制御部26bは、ステップS5において、油圧式走行車両の走行速度が第3設定速度よりも高いか否かを判断する。ここで、1つ前の制御サイクルのステップS13でアクセル信号に基づくエンジン回転数の制御が選択された場合には、走行速度が第3設定速度以下となる場合があるので、この場合には、制御部26bは、回転数制御部26dによるエンジン回転数の低下制御を解除してステップS7の通常のエンジン4の制御を行う。
【0075】
以上のようにして、本実施形態の走行速度制御システム1による油圧式走行車両の速度制御が行われる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態では、制御部26bが、容量制御部26cによりポンプ容量を増加させる制御とモータ容量を減少させる制御を行う。このため、車速が上昇して第2設定速度を超えた時点では、ポンプ容量の増加及びモータ容量の減少が生じている。そして、本実施形態では、車両の加速時に容量制御部26cがその加速時に用いられる設定エンジン回転数で車速が第1設定速度を上回るような容量までポンプ容量を増加させるとともに、その設定エンジン回転数で車速が第1設定速度を上回るような容量までモータ容量を減少させる。このため、車両の加速時に車速は第2設定速度を超えた後も継続して上昇する。この際、本実施形態では、車速が第2設定速度を超えた後、回転数制御部26dにより、速度検出部23が検出する走行速度が第1設定速度を超えないようにエンジン回転数が低下されるので、車速が第2設定速度を超えた後、ポンプ容量の増加及びモータ容量の減少に伴う車速の上昇を相殺して車速を上限の第1設定速度以下の速度域に維持することができる。そして、この際、回転数制御部26dによりエンジン回転数が低下されることによって、油圧式走行車両の燃費が向上する。さらに、この回転数制御部26dによるエンジン回転数の低下制御は、制御部26bが、速度検出部23から送られる速度信号に基づいて車速が第2設定速度を超えたと判断したことに応じて自動的に行われるため、操作者が違和感のある操作を行うこともない。従って、本実施形態では、操作者に違和感のある操作を行わせることなく、油圧式走行車両の燃費を向上させるとともに車速を第1設定速度以下の速度域に維持することができる。
【0077】
また、本実施形態では、容量制御部26cがモータ容量を減少させる制御を行うので、このモータ容量の減少に起因して発生する車速の上昇分が存在し、モータ容量が固定されている従来構成に比べて、回転数制御部26dによるエンジン回転数の低下制御によって相殺されるべき車速の上昇量が大きくなる。このため、本実施形態では、車速が第2設定速度を超えた後、回転数制御部26dによるエンジン回転数の低下量を前記従来構成に比べて増加させることができ、その結果、より大きな燃費の向上効果を得ることができる。
【0078】
また、本実施形態では、所定の制御サイクル毎にポンプ容量の増加及びモータ容量の低下を行う容量制御と、その容量制御に応じたエンジン回転数の低下制御とを行うため、油圧式走行車両の走行速度が急変しないようにポンプ容量及びモータ容量とエンジン回転数とのバランスを保ちながらポンプ容量の増加制御、モータ容量の減少制御及びエンジン回転数の低下制御を行うことができる。
【0079】
また、本実施形態では、容量制御部26cは、回転数制御部26dがポンプ容量の増加によって上昇する走行速度が第1設定速度を超えないようにするために下限回転数以下までエンジン回転数を低下させないような容量にポンプ容量を増加させるとともに、回転数制御部26dがモータ容量の減少によって上昇する走行速度が第1設定速度を超えないようにするために下限回転数以下までエンジン回転数を低下させないような容量にモータ容量を減少させる。このため、本実施形態では、油圧式走行車両の加速時に車速が第2設定速度を超えた後、回転数制御部26dによりエンジン回転数を低下させる回転数制御が行われる際、エンジン4の燃料消費率が最低となる下限回転数以下までエンジン回転数が低下されない。このため、エンジン回転数が下限回転数以下に低下することによる燃費の悪化を防ぐことができる。
【0080】
また、本実施形態では、車速が第2設定速度を超えてポンプ容量の増加制御及びモータ容量の減少制御が行われている状態で、車速が第2設定速度よりも低い第3設定速度を下回ったときには、回転数制御部26dによるエンジン回転数の低下制御が解除される。このため、車速が第2設定速度を超えて前記エンジン回転数の低下制御がオンにされるタイミングと車速が第3設定速度を下回って前記エンジン回転数の低下制御がオフにされるタイミングとをずらすことができる。これにより、このエンジン回転数の低下制御を安定化することができる。
【0081】
また、本実施形態では、車速が第2設定速度を超えた後、制御部26bが、速度検出部23からの速度信号に基づいて油圧式走行車両の走行速度から目標速度を減じることにより走行速度と目標速度との速度差を求め、その速度差が小さくなるようにエンジン回転数を制御する。このため、車速が第2設定速度を超えた後、第1設定速度よりも低く、かつ、第2設定速度よりも高い目標速度に車速が近づくようになる。その結果、車速が第2設定速度を超えた後、車速を第1設定速度以下の一定の速度域に良好に維持することができる。
【0082】
また、本実施形態では、車速が第2設定速度を超えた後、実際の走行速度と前記目標速度との速度差が小さくなるように行うエンジン回転数の制御とアクセル部24aの操作量に応じたエンジン回転数の制御とのうち回転数が低くなる方の制御が制御部26bにより実施される。このため、本実施形態では、車速が第2設定速度を超えた後、よりエンジン回転数が低くなる方の制御が常に実施されて燃費の向上が図られる。また、本実施形態では、アクセル部24aの操作量に応じたエンジン回転数の制御の方が前記速度差を小さくするエンジン回転数の制御に比べてエンジン回転数が低くなる場合には、アクセル部24aの操作量に応じてエンジン回転数が制御されるため、操作者によるアクセル部24aの操作に応じて車速を低減させることができる。
【0083】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0084】
例えば、速度検出部は、走行用油圧モータ10の出力軸10cや、車軸又は車輪2に設けてもよい。速度検出部を走行用油圧モータ10の出力軸10cに設けた場合には、速度検出部は、走行用油圧モータ10の出力軸10cの回転速度を検出してその検出した回転速度から油圧式走行車両の走行速度を検出する。また、速度検出部を車軸又は車輪2に設けた場合には、速度検出部は、車軸又は車輪2の回転速度を検出してその検出した回転速度から油圧式走行車両の走行速度を検出する。
【0085】
また、上記実施形態では、車速の上昇に伴って容量制御部26cがポンプ容量を増加させる制御とモータ容量を減少させる制御を両方とも行うようにしたが、容量制御部26cがそれら両制御のうちいずれか一方のみを行うようにしてもよい。この場合、油圧ポンプ8と油圧モータ10のうち容量制御を行わない方は、固定容量型であってもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、制御部26bが圧力センサ30a,30bから送られる圧力信号に基づいて油圧ポンプ8の吐出圧が低下したと判断した場合に容量制御部26cにポンプ容量を増加させる制御及びモータ容量を減少させる制御を行わせるようにしたが、その代わりに、制御部26bが速度検出部23から送られる速度信号に基づいて車速が上昇したと判断した場合に容量制御部26cポンプ容量を増加させる制御及び/又はモータ容量を減少させる制御を行わせるようにしてもよい。
【0087】
また、回転数制御部26dは、燃料噴射装置からエンジン4への燃料の噴射量を制御することによってエンジン回転数を制御するように構成されていてもよい。この場合には、回転数制御部26dは、燃料噴射装置による燃料の噴射量を増加させることによってエンジン回転数を上昇させる一方、燃料噴射装置による燃料の噴射量を減少させることによってエンジン回転数を低下させる。そして、回転数制御部26dは、上記したエンジン回転数を低下させる制御を行う際、燃料噴射装置による燃料の噴射量を減少させることによってエンジン回転数を低下させてもよい。
【0088】
また、回転数制御部26dは、アクセル信号を適宜補正することによってエンジン回転数を調節するように構成されていてもよい。この場合には、回転数制御部26dは、上記したエンジン回転数の低下制御を行う際、アクセル信号出力部24cから受け取ったアクセル信号をアクセル部24aの踏み込み量が所定量だけ少なくなるように補正し、その補正後のアクセル信号に応じた回転数にエンジン回転数を低下させてもよい。
【0089】
また、回転数制御部26dが、上記走行速度と目標速度との速度差が小さくなるように行うエンジン回転数の制御と、アクセル信号に基づくアクセル部24aの踏み込み量に応じたエンジン回転数の制御とのうちエンジン回転数が小さくなる方の制御を選択して実施する際、それらの回転数制御に対応する燃料噴射装置の燃料噴射量を低位選択してもよく、また、それらの回転数制御で用いられるアクセル信号を低位選択してもよい。
【0090】
具体的には、回転数制御部26dが燃料噴射装置の燃料噴射量を低位選択する場合には、走行速度と目標速度との速度差が小さくなるように行うエンジン回転数の制御での燃料噴射量と、アクセル信号に基づくアクセル部24aの踏み込み量に応じたエンジン回転数の制御での燃料噴射量とを比較して少ない方の燃料噴射量を制御目標値として用い、その燃料噴射量に実際の燃料噴射装置の燃料噴射量がなるように燃料噴射装置を制御する。この場合でも、結果的に、前記両回転数制御のうちエンジン回転数が小さくなる方が選択されて実施される。
【0091】
また、回転数制御部26dがアクセル信号を低位選択する場合には、走行速度と目標速度との速度差が小さくなるように行うエンジン回転数の制御でアクセル信号をアクセル部24aの踏み込み量が所定量だけ少なくなるように補正した後のアクセル信号と、実際のアクセル部24aの踏み込み量に応じたアクセル信号とを比較して小さい方のアクセル信号に基づいてエンジン回転数を制御するようにしてもよい。この場合も、結果的に、前記両回転数制御のうちエンジン回転数が小さくなる方が選択されて実施される。
【0092】
また、上記実施形態では、油圧ポンプ8の給排口8a,8bに設けられた圧力センサ30a,30bから送られる圧力信号に基づいて、制御装置26の制御部26bに設けられた容量制御部26cがポンプ容量及びモータ容量を油圧ポンプ8の吐出圧に応じて制御する例を示したが、油圧ポンプの吐出圧に応じてポンプ容量及びモータ容量を制御する構成は、この構成に限定されない。例えば、油圧ポンプに当該油圧ポンプの容量を制御するための容量制御部が設けられていて、この容量制御部が油圧ポンプの作動油の吐出圧に反応して当該油圧ポンプの容量を制御する圧力感応式に構成されていてもよい。そして、その油圧ポンプに設けられた容量制御部が油圧ポンプの吐出圧が低下するにつれてポンプ容量を増加させる制御を行うように構成されていればよい。また、油圧モータに当該油圧モータの容量を制御するための容量制御部が設けられていて、この容量制御部が油圧モータに流入する作動油の油圧、すなわち油圧ポンプの吐出圧に反応して当該油圧モータの容量を制御する圧力感応式に構成されていてもよい。そして、その油圧モータに設けられた容量制御部が油圧ポンプの吐出圧が低下するにつれてモータ容量を減少させる制御を行うように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0093】
1 走行速度制御システム
2 車輪
4 エンジン
8 走行用油圧ポンプ(油圧ポンプ)
10 走行用油圧モータ(油圧モータ)
23 速度検出部
24 アクセル装置
24a アクセル部
25 エンジン回転数検出部
26 制御装置
26a 記憶部
26c 容量制御部
26d 回転数制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、エンジンと、前記エンジンによって駆動されて作動油を吐出する可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出された作動油の油圧によって駆動することにより前記車輪を回転させる可変容量型の油圧モータとを備えた油圧式走行車両に設けられ、その油圧式走行車両の走行速度を制御する走行速度制御システムであって、
前記油圧ポンプの容量であるポンプ容量と前記油圧モータの容量であるモータ容量とのうち少なくとも一方の制御を行う容量制御部と、前記エンジンの回転数であるエンジン回転数の制御を行う回転数制御部と、前記油圧式走行車両の上限の走行速度として設定された第1設定速度及びその第1設定速度よりも低い設定速度である第2設定速度を記憶する記憶部とを有する制御装置と、
前記油圧式走行車両の走行速度を検出し、その検出した走行速度を表す速度信号を前記制御装置へ出力する速度検出部とを備え、
前記容量制御部は、前記油圧式走行車両の加速時に前記ポンプ容量を増加させる制御と前記モータ容量を減少させる制御のうち少なくとも一方の制御を行い、当該容量制御部は、前記油圧式走行車両の加速時に前記ポンプ容量を増加させる制御を行う場合には、その加速時に用いられる所定のエンジン回転数で前記油圧式走行車両の走行速度が前記第1設定速度を上回るような容量まで前記ポンプ容量を増加させる一方、前記油圧式走行車両の加速時に前記モータ容量を減少させる制御を行う場合には、その加速時に用いられる所定のエンジン回転数で前記油圧式走行車両の走行速度が前記第1設定速度を上回るような容量まで前記モータ容量を減少させ、
前記制御装置は、前記速度信号に基づいて前記油圧式走行車両の走行速度が前記記憶部に記憶された前記第2設定速度を超えたと判断した場合には、前記速度検出部が検出する走行速度が前記記憶部に記憶された前記第1設定速度を超えないように前記回転数制御部に前記エンジン回転数を低下させる回転数制御を行わせることを特徴とする、走行速度制御システム。
【請求項2】
前記容量制御部は、前記油圧式走行車両の加速時に前記ポンプ容量を増加させる制御を行う場合には、前記回転数制御において前記回転数制御部が前記ポンプ容量の増加によって上昇する走行速度が前記第1設定速度を超えないようにするために前記エンジンの燃料消費率が最低となるエンジン回転数である下限回転数以下までエンジン回転数を低下させないような容量に前記ポンプ容量を増加させ、前記油圧式走行車両の加速時に前記モータ容量を減少させる制御を行う場合には、前記回転数制御において前記回転数制御部が前記モータ容量の減少によって上昇する走行速度が前記第1設定速度を超えないようにするために前記下限回転数以下までエンジン回転数を低下させないような容量に前記モータ容量を減少させることを特徴とする、請求項1に記載の走行速度制御システム。
【請求項3】
前記記憶部は、前記第1設定速度及び前記第2設定速度に加えて、前記第2設定速度よりも低い設定速度である第3設定速度を記憶しており、
前記制御装置は、前記速度信号に基づいて、前記油圧式走行車両の走行速度が前記第2設定速度を超えた後、前記第3設定速度を下回ったと判断した場合に、前記回転数制御部に前記回転数制御を解除させることを特徴とする、請求項1に記載の走行速度制御システム。
【請求項4】
前記回転数制御部は、前記速度検出部が検出する走行速度が前記第2設定速度を超えた後、前記速度信号に基づいて前記油圧式走行車両の走行速度から前記第1設定速度よりも低く、かつ、前記第2設定速度よりも高い目標速度を減じることにより前記走行速度と前記目標速度との速度差を求め、その速度差が小さくなるように前記エンジン回転数を制御することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の走行速度制御システム。
【請求項5】
操作者によって操作されるアクセル部を有し、そのアクセル部の操作量を表すアクセル信号を前記制御装置へ送るアクセル装置を備え、
前記回転数制御部は、前記速度検出部が検出する走行速度が前記第2設定速度を超えた後、前記速度差が小さくなるように行うエンジン回転数の制御と前記アクセル信号に基づく前記アクセル部の操作量に応じたエンジン回転数の制御とのうちエンジン回転数が低くなる方の制御を選択して実施することを特徴とする、請求項4に記載の走行速度制御システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−132973(P2011−132973A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290445(P2009−290445)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】