説明

超伝導単一光子検出システムおよび超伝導単一光子検出方法

【課題】 極低温を安定に維持しつつシステムを小型化し、しかも高い光子検出精度を得ることができる超伝導単一光子検出システムおよび超伝導単一光子検出方法を提供する。
【解決手段】 超伝導単一光子検出器21〜24と超伝導単一磁束量子回路30との間は交流信号伝送経路によって接続され、超伝導単一光子検出器21〜24にバイアス電流を供給するバイアス電流経路51〜54は、交流信号伝送経路に高インピーダンス素子61〜64を介して接続され、高インピーダンス素子61〜64は、高周波におけるインピーダンスが超伝導単一磁束量子回路30の負荷抵抗素子Rrのインピーダンスより高いよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導単一光子検出器を用いた超伝導単一光子検出システムおよび超伝導単一光子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導単一光子検出器(Superconducting Single Photon Detector、以下SSPDと略する場合がある)は、高感度、低雑音かつ高速動作可能な単一光子検出器として量子情報通信、量子光学など様々な分野への利用が期待されている。特に、閉サイクルの冷凍機内にSSPDを実装した超伝導単一光子検出システムは、安定的に極低温(3K程度)を実現でき、しかも連続動作が可能となるため、実用上有効なシステムであることが確認されている(例えば非特許文献1,2参照)。SSPDにおいて単一光子を検出する検出素子としてはナノワイヤと呼ばれる検出素子が用いられる。ナノワイヤは例えば窒化ニオブ(NbN)からなる窒化ニオブ配線を超伝導状態で使用するものであり、受光部は、ナノワイヤが受光面にメアンダ状(蛇行形状)に形成されることにより構成されている。
【0003】
このようなSSPDを用いた超伝導単一光子検出システムにおいては、1つの光入力に対し、1つの受光部を用いて1つの出力が得られる単ピクセル素子が一般的に用いられる。このような単ピクセル素子を用いた超伝導単一光子検出システムにおいては、システムによる光子検出効率が10〜20%程度、暗計数100Hz程度、応答速度50MHz程度、ジッタ100ps程度の性能が実現できている。
【0004】
ここで、入射光子とSSPDの間で高い光結合効率を達成するためには、SSPDに入射する光のスポット直径(約9μm)に対して十分大きな受光面積を確保しなければならず、約15μm角程度の受光面積が要求される。一方で、1つのSSPDについて受光面積を大きくすると、ナノワイヤの長さが長くなるため、ナノワイヤ中の欠陥が多くなってしまい、素子性能が劣化してしまう。また、ナノワイヤの長さを長くすると、ナノワイヤのインダクタンスが増大する。したがって、ナノワイヤのインダクタンスに依存する時定数(インダクタンス/抵抗値)が増大するため、ナノワイヤを伝送する信号の速度が遅くなってしまう。この結果、応答速度が低下してしまう。
【0005】
このような課題に対する解決策として、所定の受光面積を複数の受光部(複数のピクセル)に分割する構成が知られている(例えば非特許文献3参照)。高光結合効率を達成する為の受光面積を確保しつつ、受光面積を多分割することで1ピクセルあたりのナノワイヤ長を短くすることができる。すなわち、高い光結合効率を達成しつつ、素子性能劣化・応答速度低下を防止することができる。
【0006】
前述したように、SSPDを超伝導で動作させるために、SSPDは冷凍機内に実装する必要がある。また、外部からSSPDにバイアス電流を供給する必要がある。このため、従来は交流信号伝送経路である同軸ケーブルを冷凍機内から外部へ延出させて信号読み出し回路に接続するとともに、外部に露出した同軸ケーブルにバイアスティ(Bias Tee)を介してバイアス電流を供給するバイアス経路を接続している。図8は従来の超伝導単一光子検出システムにおいて複数の超伝導単一光子検出器を用いた場合の概略構成例を示す模式図である。図8に示すように、従来においては、フォトン源104から光子が照射される複数のSSPD121〜124で構成されるSSPDアレイ102が内部に実装された冷凍機105からSSPD121〜124と同数の同軸ケーブル141〜144が外部に露出している。バイアスティT101〜T104は、各同軸ケーブル141〜144に直列接続されたキャパシタC101〜C104と、各同軸ケーブル141〜144から分岐した配線(バイアス経路)151〜154に接続されたインダクタL101〜L104とを備えている。インダクタL101〜L104に接続されたバイアス経路151〜154がバイアス電流の電圧源171〜174に接続されており、電圧源171〜174からのバイアス電流がバイアス経路151〜154および同軸ケーブル141〜144を介して各SSPD121〜124に供給される。
【0007】
このように、従来構成においては、極低温の冷凍機105内にある複数のSSPD121〜124と室温にある信号読み出し回路(図示せず)との間を繋ぐ複数の同軸ケーブル141〜144が極低温−室温間で接続されるため、当該同軸ケーブル141〜144を介した冷凍機105内への熱流入が大きくなってしまう。特に、SSPD121〜124の数を増やそうとすると、接続する同軸ケーブル141〜144の数もそれに応じて増加するため、熱流入量はより大きくなり、冷凍機105内の極低温状態を維持するのが困難になってしまい、SSPDアレイを超伝導状態にする事ができなくなってしまう。
【0008】
そこで、信号読み出し回路として極低温環境で論理演算が可能な超伝導単一磁束量子回路(superconducting Single Flux Quantum circuit、以下、超伝導SFQ回路と略する場合がある)を用いて、システム系(すなわち、SSPD、同軸ケーブルおよび信号読み取り回路)をすべて冷凍機内に実装することが考えられる(例えば特許文献1参照)。この場合でも、図8に示したような従来の接続方式を踏襲した場合、冷凍機内部にバイアスティを取り付ける必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−232311号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】G. Gol'tsman, O. Okunev, G. Chulkova, A. Lipatov, A. Semenov, K. Smirnov, B. Voronov, A. Dzardanov, C. Williams, and R. Sobolewski, “ Picosecond superconducting single photon detector,” Appl. Phys. Lett. 79, 705-707 (2001).
【非特許文献2】S. Miki, T. Yamashita, M. Fujiwara, M. Sasaki, and Z. Wang, “Multichannel SNSPD system with high detection efficiency at telecommunication wavelength,” Opt. Lett., Vol. 35, No. 13, 2133-2135, 2010
【非特許文献3】E.A.Dauler, A. J. Kerman, B. S. Robinson, J. K. W. Yang, B. Voronov, G. Gol'tsman, S. A. Hamilton, and K. K. Berggren, "Multi-element superconducting nanowire single photon detectors," IEEE Tran. Appl Super, 17, pp.279, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、バイアスティのユニット1つあたりの大きさは通常3cm角と大きいため、複数の同軸ケーブルに対応して必要となる複数のバイアスティを小型かつAC100V電源で駆動可能な実用的な冷凍機(例えばGM冷凍機)内へ実装することが困難である。一方、冷凍機を大型化すると、システムの小型化および低コスト化が困難になる。また、バイアスティを構成するキャパシタおよびインダクタをSSPDまたはSFQ回路を構成するICチップに形成することも考えられるが、一般的なバイアスティ(キャパシタンス0.2μF程度かつインダクタンス1mH程度)を実現するためには、広い面積を必要とするため、現実的ではない。将来的に、大規模SSPDアレイを実現するためには、小型で冷却能力に制限のある冷凍機に、SSPDアレイおよびSFQ回路を接続して実装できるかが重要な課題となる。
【0012】
本発明は、以上のような課題を解決すべくなされたものであり、極低温を安定に維持しつつシステムを小型化し、しかも高い性能を得ることができる超伝導単一光子検出システムおよび超伝導単一光子検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある形態に係る超伝導単一光子検出システムは、バイアス電流によって動作する超伝導単一光子検出器と、前記超伝導単一光子検出器から出力される検出信号を負荷抵抗素子を有する変換器を用いて単一磁束量子信号に変換し、演算処理を行う超伝導単一磁束量子回路と、を備え、前記超伝導単一光子検出器と前記超伝導単一磁束量子回路との間は交流信号伝送経路によって接続され、前記超伝導単一光子検出器に前記バイアス電流を供給するバイアス電流経路は、前記交流信号伝送経路に高インピーダンス素子を介して接続され、前記高インピーダンス素子は、高周波におけるインピーダンスが前記超伝導単一磁束量子回路の前記負荷抵抗素子のインピーダンスより高いよう構成されている。
【0014】
上記構成によれば、超伝導単一光子検出器と超伝導単一磁束量子回路との接続間に高インピーダンス素子を介してバイアス電流経路が接続され、超伝導単一光子検出器を動作させるためのバイアス電流がバイアス電流経路、高インピーダンス素子、および交流信号伝送経路を介して超伝導単一光子検出器に供給される。ここで、超伝導単一光子検出器は、動作時において超伝導状態となるため、極低抵抗(約0Ω)となるため、超伝導単一光子検出器と超伝導単一磁束量子回路との間にキャパシタを設けなくても、バイアス電流は、超伝導単一磁束量子回路の負荷抵抗素子より抵抗値の低い超伝導単一光子検出器側に流れる。また、高インピーダンス素子は、高周波におけるインピーダンスが超伝導単一磁束量子回路の負荷抵抗素子のインピーダンスより高いため、超伝導単一光子検出器からの検出信号がバイアス電流経路に進むのを防止することができる。このように、バイアスティを用いることなく、簡単な抵抗素子のみでバイアス電流経路を超伝導単一光子検出器に接続することができ、複数の超伝導単一光子検出器による多ピクセル化が図れる。したがって、極低温を安定に維持しつつシステムを小型化し、高い性能(高検出効率および高速応答)を得ることができる。
【0015】
前記超伝導単一光子検出器、前記超伝導単一磁束量子回路、前記交流信号伝送経路および前記高インピーダンス素子は、冷凍機内に実装されてもよい。これにより、熱侵入の要因となる室温から導入する交流信号伝送経路の本数を大幅に減らすことが可能となるため、超伝導単一光子検出器の数によらず安定した極低温を実現することができる。
【0016】
前記超伝導単一光子検出システムは、複数の前記超伝導単一光子検出器と、前記複数の超伝導単一光子検出器に対応して設けられた複数の前記超伝導単一磁束量子回路および複数の前記交流信号伝送経路と、前記複数の交流信号伝送経路に対応して設けられた複数の前記高インピーダンス素子とを備えてもよい。これによれば、複数の超伝導単一光子検出器による多ピクセル化を図ることができる。
【0017】
さらに、前記バイアス電流経路は、1つの電流源から前記複数の高インピーダンス素子へ前記バイアス電流を供給するよう構成されていてもよい。これにより、複数の超伝導単一光子検出器を設ける場合でも1本のバイアス電流経路を冷凍機内に導入し、冷凍機内で各超伝導単一光子検出器に対応する高インピーダンス素子に接続するように経路を分岐させることができる。したがって、冷凍機内への熱の流入をより抑えることができる。
【0018】
前記超伝導単一光子検出器は、単一光子を検出する超伝導ナノワイヤ検出素子を備え、前記高インピーダンス素子は、前記超伝導ナノワイヤ検出素子より線幅の細いナノワイヤで構成されていてもよい。これにより、超伝導単一光子検出器を作製するプロセスと同じプロセスで高インピーダンス素子を作製することが可能となるため、製造コストおよび製造工程数を削減することができる。また、高インピーダンス素子を小さな面積で実現することができる。
【0019】
また、本発明の他の形態に係る超伝導単一光子検出方法は、バイアス電流経路を通じて超伝導単一光子検出器にバイアス電流を供給することにより、単一光子を検出する検出ステップと、検出された単一光子を検出信号として出力し、交流信号伝送経路を通じて超伝導単一磁束量子回路に伝達し、負荷抵抗素子を有する変換器を用いて単一磁束量子信号に変換した後、演算処理を行う処理ステップと、を含み、前記バイアス電流は、前記交流信号伝送経路に高インピーダンス素子を介して接続されたバイアス電流経路を通じて前記超伝導単一光子検出器に供給され、前記高インピーダンス素子は、高周波におけるインピーダンスが前記超伝導単一磁束量子回路の前記負荷抵抗素子のインピーダンスより高くなっている。
【0020】
上記方法によれば、超伝導単一光子検出器と超伝導単一磁束量子回路との間の交流信号伝送経路に高インピーダンス素子を介してバイアス電流経路が接続され、超伝導単一光子検出器を動作させるためのバイアス電流がバイアス電流経路、高インピーダンス素子および交流信号伝送経路を介して超伝導単一光子検出器に供給される。ここで、超伝導単一光子検出器は、動作時において超伝導状態となるため、極低抵抗(約0Ω)となるため、超伝導単一光子検出器と超伝導単一磁束量子回路との間にキャパシタを設けなくても、バイアス電流は、超伝導単一磁束量子回路の負荷抵抗素子より抵抗値の低い超伝導単一光子検出器側に流れる。また、高インピーダンス素子は、高周波におけるインピーダンスが超伝導単一磁束量子回路の負荷抵抗素子のインピーダンスより高いため、超伝導単一光子検出器からの検出信号がバイアス電流経路に進むのを防止することができる。このように、バイアスティを用いることなく、簡単な抵抗素子のみでバイアス電流経路を超伝導単一光子検出器と超伝導単一磁束量子回路との間の交流信号伝送経路に接続することができ、複数の超伝導単一光子検出器による多ピクセル化が図れる。したがって、極低温を安定に維持しつつシステムを小型化し、しかも高い光子検出精度を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は以上に説明したように構成され、極低温を安定に維持しつつシステムを小型化し、しかも高い性能(高検出効率・高速応答)を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の第1実施形態に係る超伝導単一光子検出システムの概略構成例を示す模式図である。
【図2】図2は図1に示す超伝導単一光子検出システムのSSPDおよびSFQ回路の構成例を示す回路図である。
【図3】図3は本発明の第2実施形態に係る超伝導単一光子検出システムの概略構成例を示す模式図である。
【図4】図4は本発明の第3実施形態に係る超伝導単一光子検出システムの概略構成例を示す模式図である。
【図5】図5は本発明の第4実施形態に係る超伝導単一光子検出システムの概略構成例を示す模式図である。
【図6】図6は本発明の実施例における光子検出効率および暗計数のSSPDバイアス電流に対する変化についての測定結果を示すグラフである。
【図7】図7は本発明の実施例におけるジッタについての測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は従来の超伝導単一光子検出システムにおいて複数の超伝導単一光子検出器を用いた場合の概略構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0024】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係る超伝導単一光子検出システムについて説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る超伝導単一光子検出システムの概略構成例を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の超伝導単一光子検出システム1は、バイアス電流によって動作する超伝導単一光子検出器(SSPD)21〜24と、超伝導単一光子検出器21〜24から出力される検出信号を変換器31〜34により単一磁束量子に変換し、出力変換回路35によって信号処理を行う超伝導単一磁束量子回路(SFQ回路)30とを備えている。
【0025】
本実施形態においては、SSPDチップ2に、複数(4つ)のSSPD21〜24が設けられており、SSPDアレイ20を構成している。超伝導単一光子検出システム1は、SSPDアレイ20に向けてフォトンを射出するフォトン源4を備えている。このように、1つのSSPDチップ2上に形成されたSSPDアレイ20に、フォトン源4からのフォトンを受光させることができるため、1つのフォトン入力に対して、多ピクセルの受光素子を形成することができる。したがって、1ピクセルあたりの受光面積を縮小化することができ、検出効率や応答速度を高めることができる。また、多ピクセル配置とすることにより、空間分解能や光子数識別能力(フォトンの擬似的な入力数)を高めることができるため、量子光学実験や量子情報通信等への利用が期待できる。
【0026】
SFQ回路30は、SFQチップ3上に設けられている。具体的には、SFQ回路30は、各SSPD21〜24に対応して設けられ、超伝導単一光子検出器21〜24から出力される検出信号をSFQパルス信号にそれぞれ変換する変換器(MC−DC/FSQコンバータ:Mutual Coupling-DC/FSQ Converter)31〜34と、変換器31〜34で変換された微弱なSFQパルス信号を観測可能なパルス信号に変換する出力変換回路35と、出力変換回路35から出力される電圧パルスのパルス幅を長くして出力信号を生成するSQUIDドライバ36とを備えている。
【0027】
各SSPD21〜24とSFQ回路30の各変換器31〜34との間はSSPDに対応する数の交流信号伝送経路(高周波信号伝送経路)によって接続されている。具体的には、各SSPD21〜24には、SSPDチップ2に設けられた同軸線路(SSPD同軸線路)241〜244が接続されている。また、SFQ回路30の各変換器31〜34には、SFQチップ3に設けられた同軸線路(SFQ同軸線路)341〜344が接続されている。そして、SSPD同軸線路241〜244とSFQ同軸線路341〜344との間には、同軸ケーブル41〜44が接続されている。すなわち、交流信号伝送経路は、チップ2,3に設けられた同軸線路241〜244,341〜344および同軸ケーブル41〜44を含む概念である。
【0028】
交流信号伝送経路(本実施形態においてはSFQ同軸線路341〜344)には、それぞれ、SSPD21〜24にバイアス電流を供給するバイアス電流経路(直流経路)51〜54が高インピーダンス素子61〜64を介して接続されている。すなわち、高インピーダンス素子61〜64の一端がSFQ同軸線路341〜344に接続され、高インピーダンス素子61〜64の他端がバイアス経路51〜54に接続されている。高インピーダンス素子61〜64は、それぞれ、高周波におけるインピーダンスがSFQ回路30の各変換器31〜34に設けられている負荷抵抗素子Rrのインピーダンスより高いよう構成されている。なお、高周波におけるインピーダンスとは具体的には抵抗素子における抵抗値またはインダクタにおけるインダクタンスを意味する。高インピーダンス素子61〜64は、SFQチップ3上に設けられている。バイアス電流経路51〜54には、抵抗素子81〜84を介してバイアス電流源71〜74が接続されている。具体的には、バイアス電流源71〜74から抵抗素子81〜84に印加される電圧によって定められるバイアス電流が各SSPD21〜24に供給される。
【0029】
SSPDチップ2およびSFQチップ3は、冷凍機5内に実装されている。すなわち、SSPDアレイ20、SFQ回路30、交流信号伝送経路および高インピーダンス素子61〜64は、冷凍機5内に実装されている。バイアス電流経路51〜54は冷凍機5から外部に延出され、冷凍機5の外部に設けられる抵抗素子81〜84および電流源71〜74に接続されている。冷凍機5は、例えば小型のGM(Gifford-McMahon)冷凍機などが好適に用いられる。
【0030】
上記構成によれば、SSPD21〜24とSFQ回路30との間の同軸ケーブル41〜44のそれぞれに高インピーダンス素子61〜64を介してバイアス電流経路51〜54が接続され、各SSPD21〜24を動作させるためのバイアス電流がバイアス電流経路51〜54、高インピーダンス素子61〜64および同軸ケーブル41〜44を介してSSPD21〜24に供給される。ここで、SSPD21〜24は、動作時において超伝導状態となるため、極低抵抗(約0Ω)となる。このため、SSPD21〜24とSFQ回路30との間にキャパシタを設けなくても、バイアス電流は、SFQ回路30の負荷抵抗素子Rrより抵抗値の低いSSPD21〜24側に流れる。また、高インピーダンス素子61〜64は、高周波におけるインピーダンスがSFQ回路30の負荷抵抗素子Rrのインピーダンスより高いため、SSPD21〜24からの検出信号がバイアス電流経路51〜54に進むのを防止し、SFQ回路30に効率よく検出信号を伝達することができる。このように、バイアスティを用いることなく、簡単な抵抗素子61〜64をSFQチップ3またはSSPDチップ2内に作製することでバイアス電流をSSPD21〜24に流すことができ、複数のSSPD21〜24による多ピクセル化が図れる。
【0031】
さらに、前述したとおり、SSPD21〜24とSFQ回路30との接続を交流信号伝送経路により冷凍機5内で行うことができる。これにより、室温から導入する同軸ケーブルの本数を減らすことが可能となり、室温側からの熱流入を劇的に減らすことができる。なお、バイアス電流経路51〜54は冷凍機5外に延出されているが、同軸ケーブル41〜44に比較すれば、直流経路であるバイアス電流経路51〜54におけるリード線を介しての冷凍機5内への熱の侵入は十分小さい。したがって、SSPD21〜24の数によらず安定した極低温を実現することができる。以上より、極低温を安定に維持しつつシステムを小型化し、しかも高い光子検出精度を得ることができる。
【0032】
なお、本実施形態における高インピーダンス素子61〜64は、従来のプロセスで作製可能な金属薄膜による抵抗素子で形成されている。しかし、本発明は負荷抵抗素子RrよりSSPD21〜24から出力される検出信号に対するインピーダンスが高い素子であればこれに限られず、例えばインダクタで構成してもよい。
【0033】
SFQ回路30の負荷抵抗素子Rrのインピーダンスを50Ωした場合、高インピーダンス素子61〜64のインピーダンスは、例えば、5kΩ程度あればよい。抵抗素子81〜84のインピーダンスは、例えば100kΩ程度である。
【0034】
以下に、SSPD21〜24およびSFQ回路30のより具体的な構成について説明する。図2は図1に示す超伝導単一光子検出器アレイシステムのSSPDおよびSFQ回路の構成例を示す回路図である。なお、図2においては1つのSSPD21のみを明示し、他のSSPD22〜24および対応する構成については図示を省略している。
【0035】
SSPD21は、単一光子を検出する超伝導ナノワイヤ検出素子7を備えている。超伝導ナノワイヤ検出素子7は、酸化マグネシウム(MgO)基板の表面に窒化ニオブ(NbN)がメアンダ状(蛇行形状)に積層されて形成されている。例えば、数十〜数百ナノメートルの線幅で所定のピッチに形成され、冷凍機5を用いて冷却され、超伝導状態で使用される。超伝導ナノワイヤ検出素子7を含む受光面の受光面積は、SSPD21の使用目的やSSPDアレイ20を構成するSSPDの数によって適宜定められる。例えば受光面の受光面積を5×5μm角とすると、光子の検出効率を高めることができる。
【0036】
電流源71および抵抗素子81は、超伝導ナノワイヤ検出素子7に臨界電流をわずかに下回る所定のバイアス電流が流れるように電流値および抵抗値が設定される。このような構成において、光子P(シングルフォトン)が超伝導ナノワイヤ検出素子7に入射すると、光子Pが入射した箇所ではエネルギーギャップを超えるエネルギーが供給され、ホットスポットという常伝導領域(高抵抗領域)が発生する。この場合、この箇所においては、ホットスポットを迂回するように超伝導ナノワイヤ検出素子7における当該ホットスポットの幅方向両側部分に電流が集中的に流れる。
【0037】
すると、ホットスポットの周囲を流れる電流は臨界電流を超え、ホットスポットの幅方向両側部分も常伝導状態となる。すなわち、当該箇所における超伝導ナノワイヤ検出素子7の幅方向全域にわたって常伝導領域が一時的に形成されることとなる。このようにして、光子Pの超伝導ナノワイヤ検出素子7への入射に応じて超伝導ナノワイヤ検出素子7が抵抗変化することとなる。このとき、電流源71からのバイアス電流は、SFQ回路30の変換器31側へ流れる。したがって、このような抵抗変化に基づいてSSPD21に印加される電圧が変化するため、入射した光子Pが検出信号(電圧信号)として適切に検出される。検出信号は、同軸ケーブル41を介してSFQ回路30の変換器31に伝達される。
【0038】
なお、高インピーダンス素子61〜64の高周波におけるインピーダンスは、SFQ回路30の負荷抵抗素子Rrより高い値に設定される。
【0039】
変換器31は、SSPD21から出力された検出信号を単一磁束量子に変換して出力するよう構成されている。具体的には、交流信号伝送経路(同軸ケーブル41および同軸線路241,341)および負荷抵抗素子Rrに直列接続された一次コイルL1と、当該一次コイルL1と相互誘導可能に配置された二次コイルL2とを備えている。二次コイルL2には一対のジョセフソン接合J1,J2が接続されており、一対のジョセフソン接合J1,J2が超伝導量子干渉光子(SQUID:Superconducting Quantum Interference Device)を構成している。
【0040】
SSPD21から出力された検出信号は、一次コイルL1から二次コイルL2へと相互誘導し、磁束に変換される。SQUIDは、電流源6および第1抵抗素子R1により臨界電流を下回るレベルにバイアスされている。したがって、検出信号が伝達されない場合には、SQUIDには磁束が生じないため、SQUIDの両端に発生する電圧は0Vとなる。一方、検出信号が伝達され、一次コイルL1から二次コイルL2への相互誘導によりSQUIDに磁束が生じると、ジョセフソン接合J2を流れる電流が臨界電流値を超え、磁束量子(SFQ:Single Flux Quantum)がジョセフソン接合J2を含む左右の(コイルL2,L3を含む)SQUIDループに発生する。コイルL3を含むSQUIDループに発生したSFQはジョセフソン接合J5をスイッチさせ消失するとともに、さらに右側のコイルL4、L5を含むSQUIDループにSFQを発生させる。以下、ジョセフソン接合がはしご的にスイッチを繰り返すことで、SFQは回路内を伝搬する。このSQUIDループをカスケード接続したSFQの伝搬回路は、通常ジョセフソン伝送線路(JTL:Josephson Transmission Line)と呼ばれる。磁束量子の伝搬には、必ずジョセフソン接合のスイッチが伴うため、電気的には幅4〜5ps、電圧強度0.4〜0.5mVの電圧パルス(SFQパルス)が伝搬していくことと等価である。
【0041】
変換器31から出力されたSFQパルスS1は、出力変換回路35に入力される。出力変換回路35は、変換器31から出力されたSFQパルスS1をトリガとして発振するリングオシレータ(Ring Oscillator)9と、リングオシレータ9から発振された複数のSFQパルスをカウントするカウンタ8とを有している。カウンタ8は、例えば、複数段のTフリップフロップから構成される。また、リングオシレータ9は、JTLをリング状に接続することにより構成される。出力変換回路35には、他のSSPD22〜24に対応する変換器(図示せず)の出力(SFQパルスS2〜S4)も入力される(複数の変換器の出力S1〜S4が1つの出力変換回路35に入力される)。
【0042】
なお、SFQ回路30は、出力変換回路35で変換された観測可能な電圧パルス信号を1つに集約して所定の演算処理を行う演算回路(図示せず)も有している。演算回路の構成は、超伝導単一光子検出システム1が適用される装置等によって適宜定められる。例えば、量子鍵配布の目的で超伝導単一光子検出システム1が適用される装置においては、演算回路として複数入力を1出力にマージするようなOR論理回路が適用される。また、イメージングセンサに適用される場合には、演算処理回路としてカウンタ8の結果を一時的に保持する記憶部と、所定のタイミングでシリアルに読み出す読み出し回路とを含むように構成されてもよい。
【0043】
出力変換回路35から出力されたSFQパルスは、出力電圧レベルとして約2mVを得るためのSQUIDドライバ36に入力される。SQUIDドライバ36は例えば複数段のSQUIDが直列接続されたSQUIDループと磁気結合したRSフリップフロップで構成される。本実施形態においては、SQUIDドライバ36のセット端子Sには、変換器31の出力が入力され、リセット端子Rには、カウンタ8の出力が入力される。変換器31〜34、出力変換回路35およびSQUIDドライバ36には、個別の電流源6から電流が供給され、各回路はこれらの電流によって駆動する。なお、電流源6は共通の電流源を用いてもよい。
【0044】
なお、本実施形態においては説明を簡単化するため、変換器31の出力がそのままSQUIDドライバ36のセット端子Sに入力されることとしているが、本発明はこれに限られない。例えば、上記で説明したような信号処理回路の出力がセット端子Sに入力されることとしてもよい。
【0045】
変換器31から出力されるSFQパルスS1は、非常に微弱である(短いパルス幅および小さい電圧レベルを有している)ため、これを後段の回路およびシステムで利用可能な信号として出力するために、出力変換回路35およびSQUIDドライバ36によって増幅(パルス幅および電圧レベルともに増幅)している。例えばパルス幅4〜5psおよび電圧レベル0.4〜0.5mV程度(ピーク値)のSFQパルスS1を1ns程度のパルス幅および2mV程度の電圧レベル(ピーク値)に増幅する。
【0046】
具体的には、SFQパルスS1がSQUIDドライバ36のセット端子Sに入力されることにより、出力信号の開始トリガとなる(出力信号が立ち上がる)。その後、カウンタ8においてリングオシレータ9からのSFQパルスを所定数カウントすると、SQUIDドライバ36のリセット端子Rにカウンタ8からの出力が入力され、出力信号の終端トリガとなる(出力信号の立ち下がる)。このようにして、SQUIDドライバ36から出力された出力信号は、同軸ケーブル37を介して冷凍機5外に出力される(図1参照)。
【0047】
以上のように、冷凍機5に導入される同軸ケーブルは、SQUIDドライバ36の出力信号を伝送する同軸ケーブル37のみとなる。同軸ケーブル37の数(1本)は、SSPD21〜24の数(ピクセル数)に関係しない。例えば、従来の構成において1万ピクセルのSSPDアレイを実現しようとすると、1万本の同軸ケーブルが冷凍機外へ延びることとなるが、本実施形態によれば1本の同軸ケーブル37のみが冷凍機5外へ延びることとなる。したがって、多ピクセル化を行っても、冷凍機5内への熱の侵入量が増大するのを有効に防止することができる。
【0048】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る超伝導単一光子検出システムについて説明する。図3は本発明の第2実施形態に係る超伝導単一光子検出システムの概略構成例を示す模式図である。本実施形態において第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し説明を省略する。本実施形態の超伝導単一光子検出システム1Bが第1実施形態の超伝導単一光子検出システム1と異なる点は、図3に示すように、バイアス電流経路50が、1つの電流源70から複数の高インピーダンス素子91〜94へバイアス電流を供給するよう構成されていることである。より詳しくは、バイアス電流経路50は、冷凍機5内で1本に集約された後、冷凍機5の外部へ延出され、常温下の電流源70に接続されている。
【0049】
これにより、複数のSSPD21〜24を設ける場合でも1本のバイアス電流経路50を冷凍機5内に導入し、冷凍機5内で各SSPD21〜24に対応する高インピーダンス素子91〜94に接続するように経路を分岐させることができる。したがって、冷凍機5内への熱の流入をより抑えることができる。
【0050】
さらに、本実施形態においては、高インピーダンス素子91〜94がSSPDチップ2Bに設けられている。すなわち、高インピーダンス素子91〜94は、SSPD同軸線路241〜244に接続されている。この場合、高インピーダンス素子91〜94は、超伝導ナノワイヤ検出素子7より線幅の細いナノワイヤで構成されていてもよい。例えば、高インピーダンス素子91〜94の線幅を、SSPD21〜24の超伝導ナノワイヤ検出素子7の線幅より細くすることにより、当該高インピーダンス素子91〜94で用いられるナノワイヤの臨界電流値は当該高インピーダンス素子91〜94を介してSSPD21〜24の超伝導ナノワイヤ検出素子7に流れるバイアス電流より小さくなる。すなわち、バイアス電流を流すことにより高インピーダンス素子91〜94におけるナノワイヤは常に臨界電流を超える電流が流れるため、極低温下にあっても常伝導状態となる。したがって、ナノワイヤを比較的高いシート抵抗を有する抵抗素子として利用することができる。例えば、SSPD21〜24の超伝導ナノワイヤ検出素子7の線幅を100nmとした場合、高インピーダンス素子91〜94のナノワイヤの線幅は50nm程度とすればよい。このようなナノワイヤのシート抵抗が500Ω(例えば膜厚4mmのNbN薄膜)であるとき、長さ10μmのナノワイヤを形成することにより、100kΩの抵抗素子として利用することができる。ナノワイヤをメアンダ状に作製する場合、2μm×0.45μm(2μmの長さを5回折り返す)の面積内に、100kΩの高インピーダンス素子を実現できる。このように、非常に小さい面積で高い抵抗成分を有する高インピーダンス素子91〜94をチップ2B上に作製することが可能である。
【0051】
このように、SSPDチップ2上にSSPD21〜24を作製するプロセスと同じプロセスで高インピーダンス素子91〜94を作製することが可能となるため、製造コストおよび製造工程数を削減することができる。
【0052】
また、第1実施形態における抵抗素子81〜84を設ける代わりに高インピーダンス素子91〜94が可変抵抗として構成されている。
【0053】
SSPD21〜24は、第1実施形態において説明したとおりナノワイヤ(超伝導ナノワイヤ検出素子7)によって形成されている。ナノワイヤを形成する際、当該ナノワイヤの最適な電流バイアス値は、製造プロセスにおける歩留りなどによって誤差が生じる。したがって、SSPD21〜24に供給するバイアス電流は、SSPD21〜24ごとに異なる値に設定する可能性が出てくる。そこで、1つの電流源70で異なるバイアス電流を設定可能とすべく高インピーダンス素子91〜94が可変抵抗として構成されている。また、この場合の高インピーダンス素子91〜94のインピーダンスは、自身のインピーダンスでバイアス電流を設定する必要があるため、第1実施形態における高インピーダンス素子91〜94より高いインピーダンスを有することが好ましい。例えば、SFQ回路30の負荷抵抗素子Rrが50Ωの場合、高インピーダンス素子91〜94は、100kΩ程度を基準とするインピーダンスを有していることが好ましい。
【0054】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る超伝導単一光子検出システムについて説明する。図4は本発明の第3実施形態に係る超伝導単一光子検出システムの概略構成例を示す模式図である。本実施形態において第2実施形態と同様の構成については同じ符号を付し説明を省略する。本実施形態の超伝導単一光子検出システム1Cが第2実施形態の超伝導単一光子検出システム1Bと異なる点は、図4に示すように、SSPDアレイ20、SFQ回路30および高インピーダンス素子91〜94が1つのチップ2C上に設けられていることである。このため、SSPD21〜24とSFQ回路30の変換器31〜34との間は、チップ2C上に形成された同軸線路241〜244のみで接続される。これにより、超伝導単一光子検出システム1C全体が1つのチップ2C上に形成されるとともに、SSPD21〜24とSFQ回路30との間の同軸ケーブルが不要となるため、製造プロセスを効率化、簡略化することができる。また、超伝導単一光子検出システム自体をより小型化することもできる。
【0055】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る超伝導単一光子検出システムについて説明する。図5は本発明の第4実施形態に係る超伝導単一光子検出システムの概略構成例を示す模式図である。本実施形態において第3実施形態と同様の構成については同じ符号を付し説明を省略する。本実施形態の超伝導単一光子検出システム1Dが第3実施形態の超伝導単一光子検出システム1Cと異なる点は、図5に示すように、高インピーダンス素子61〜64(第1実施形態と同様の構成であるためそれと同じ符号を付している)とは別にバイアス電流を設定するための可変抵抗素子91D〜94Dが設けられていることである。すなわち、高インピーダンス素子61〜64は、第1実施形態と同様に5kΩ程度のインピーダンスを有し、可変抵抗素子91D〜94Dは、100kΩ程度を基準とするインピーダンスを有している。
【0056】
さらに、本実施形態において、可変抵抗素子91D〜94Dは、冷凍機5内に設けられている。また、SSPDアレイ20、SFQ回路30および高インピーダンス素子61〜64は、1つのチップ2D上に設けられ、可変抵抗素子91D〜94Dは、当該チップ2Dとは別に設けられている。
【0057】
本実施形態の構成によれば、高インピーダンス素子61〜64は、第1実施形態と同様に5kΩ程度の比較的低いインピーダンスを有する素子としてSSPDアレイ20および/またはSFQ回路30と同じチップ2D上に形成した上で、バイアス電流を設定するための比較的高いインピーダンスを有する可変抵抗素子91D〜94Dについては別のチップまたは別の回路構成として設けることができ、チップ2Dの微細化をより容易に実現することができる。本実施形態においても、1つの電流源70から複数のSSPD21〜24に対応するバイアス電流を生成するために、抵抗素子91D〜94Dを可変抵抗とすることにより、各SSPD21〜24の超伝導ナノワイヤ検出素子7の最適電流値を適切に設定することができる。
【0058】
なお、本実施形態においては、可変抵抗素子91D〜94Dを冷凍機5内に設けることとしたが、冷凍機5外に設けることとしてもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。例えば、複数の上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせることとしてもよい。具体的には、第1実施形態、第3実施形態および第4実施形態における高インピーダンス素子を第2実施形態におけるナノワイヤによる高インピーダンス素子を用いて構成することとしてもよい。一方、第2実施形態における高インピーダンス素子を一般的な金属薄膜による抵抗素子またはインダクタとして構成してもよい。
【0060】
また、上記実施形態においては、4つのSSPD21〜24が1つのチップに形成されたSSPDアレイ20に基づいて説明したが、SSPDが1つ以上設けられる構成である限り、本発明はこれに限られない。また、複数のSSPDを有する場合、当該複数のSSPDが複数のチップ上に形成されてもよい。SFQ回路30の構成は、上記実施形態において説明した構成に限定されず、本発明の超伝導単一光子検出システムが適用される装置またはシステム等に応じて種々の改良、変更、修正が行われた構成が適用可能である。
【実施例】
【0061】
本発明に係る超伝導単一光子検出システムを作製し、このシステムにおける光子検出効率、暗計数およびタイミングジッタの性能評価を行った。本実施例においては、第1実施形態と同様の構成で2つのSSPDを用いた。なお、本実施例においては、2つのSSPDを含むSSPDアレイとはせずに、単に2つのSSPDを実装し、2つのSSPDを同時に動作させた。性能評価の方法としては、SSPDの出力から光子検出効率、暗計数およびジッタを測定する一方、SSPDに同軸ケーブルを介して接続されたSFQ回路の出力から光子検出効率、暗計数およびジッタを測定し、両者を比較した。これにより、SSPDのみの出力に対して、SFQ回路の出力の各指標が劣化していないかどうかを検証した。
【0062】
図6は本発明の実施例における光子検出効率および暗計数のSSPDバイアス電流に対する変化についての測定結果を示すグラフである。また、図7は本発明の実施例におけるジッタについての測定結果を示すグラフである。図6に示すように、本実施例におけるSFQ回路の出力における光子検出効率および暗計数は、SSPDのみの出力に対してほとんど特性変化を生じていない。このことにより、本実施例におけるSSPD−SFQ回路間の接続方法によって信号劣化が生じることなく信号処理が有効に実行できることが分かる。
【0063】
また、図7に示すように、SSPDのみでジッタを測定した結果、半値幅が40ps程度となった。これに対し、SFQ回路の出力におけるジッタは、半値幅が50ps程度となった。このように、SSPDのみの出力に比べてジッタの増大が若干見られるものの、10ps程度の増大に抑えられており、十分実用可能なジッタの値が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の超伝導単一光子検出システムおよび超伝導単一光子検出方法は、極低温を安定に維持しつつシステムを小型化し、しかも高い光子検出精度を得るために有用である。
【符号の説明】
【0065】
1,1B,1C,1D 超伝導単一光子検出システム
2,2B SSPDチップ
2C,2D チップ
3 SFQチップ
4 フォトン源
5 冷凍機
6,70〜74 電流源
7 超伝導ナノワイヤ検出素子
8 カウンタ
9 リングオシレータ
20 SSPDアレイ
21 SSPD(超伝導単一光子検出器)
30 SFQ回路(超伝導単一磁束量子回路)
31 変換器
35 出力変換回路
36 SQUIDドライバ
37,41〜44 同軸ケーブル(交流信号伝送経路)
50〜54 バイアス電流経路
61〜64,91〜94 高インピーダンス素子
81〜84 抵抗素子
91D〜94D 可変抵抗素子
241〜244 SSPD同軸線路(交流信号伝送経路)
341〜344 SFQ同軸線路(交流信号伝送経路)
J1〜J5 ジョセフソン接合
L1 一次コイル
L2 二次コイル
L3〜L5 コイル
R1,R2 抵抗素子
Rr 負荷抵抗素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアス電流によって動作する超伝導単一光子検出器と、
前記超伝導単一光子検出器から出力される検出信号を負荷抵抗素子を有する変換器を用いて単一磁束量子信号に変換し、演算処理を行う超伝導単一磁束量子回路と、を備え、
前記超伝導単一光子検出器と前記超伝導単一磁束量子回路との間は交流信号伝送経路によって接続され、
前記超伝導単一光子検出器に前記バイアス電流を供給するバイアス電流経路は、前記交流信号伝送経路に高インピーダンス素子を介して接続され、
前記高インピーダンス素子は、高周波におけるインピーダンスが前記超伝導単一磁束量子回路の前記負荷抵抗素子のインピーダンスより高い、超伝導単一光子検出システム。
【請求項2】
前記超伝導単一光子検出器、前記超伝導単一磁束量子回路、前記交流信号伝送経路および前記高インピーダンス素子は、冷凍機内に実装される、請求項1に記載の超伝導単一光子検出システム。
【請求項3】
複数の前記超伝導単一光子検出器と、
前記複数の超伝導単一光子検出器に対応して設けられた複数の前記超伝導単一磁束量子回路および複数の前記交流信号伝送経路と、
前記複数の交流信号伝送経路に対応して設けられた複数の前記高インピーダンス素子とを備えた、請求項1に記載の超伝導単一光子検出システム。
【請求項4】
前記バイアス電流経路は、1つの電流源から前記複数の高インピーダンス素子へ前記バイアス電流を供給するよう構成されている、請求項3に記載の超伝導単一光子検出システム。
【請求項5】
前記超伝導単一光子検出器は、単一光子を検出する超伝導ナノワイヤ検出素子を備え、
前記高インピーダンス素子は、前記超伝導ナノワイヤ検出素子より線幅の細いナノワイヤで構成されている、請求項1に記載の超伝導単一光子検出システム。
【請求項6】
バイアス電流経路を通じて超伝導単一光子検出器にバイアス電流を供給することにより、単一光子を検出する検出ステップと、
検出された単一光子を検出信号として出力し、交流信号伝送経路を通じて超伝導単一磁束量子回路に伝達し、負荷抵抗素子を有する変換器を用いて単一磁束量子信号に変換した後、演算処理を行う処理ステップと、を含み、
前記バイアス電流は、前記交流信号伝送経路に接続された高インピーダンス素子を介して接続されたバイアス電流経路を通じて前記超伝導単一光子検出器に供給され、
前記高インピーダンス素子は、高周波におけるインピーダンスが前記超伝導単一磁束量子回路の前記負荷抵抗素子のインピーダンスより高い、超伝導単一光子検出方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−19777(P2013−19777A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153614(P2011−153614)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】