超伝導膜表面抵抗推測方法、超伝導膜表面インピーダンス推測方法、超伝導薄膜共振回路Q値推測方法、超伝導膜表面抵抗推測装置、及び、超伝導検出器製造方法
【課題】
超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる超伝導膜表面抵抗推測方法などを提供する。
【解決手段】
本発明のある側面は、ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法にある。本構成によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる方法が得られる。本発明の他の側面は、ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面インピーダンス推測し、この値を用いて当該超伝導膜で構成された高周波伝送線路の伝送損失を推測することを特徴とする超伝導膜表面インピーダンス推測方法にある。本構成によれば、超伝導膜の表面インピーダンスをより高い精度で推測できる方法が得られる。
超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる超伝導膜表面抵抗推測方法などを提供する。
【解決手段】
本発明のある側面は、ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法にある。本構成によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる方法が得られる。本発明の他の側面は、ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面インピーダンス推測し、この値を用いて当該超伝導膜で構成された高周波伝送線路の伝送損失を推測することを特徴とする超伝導膜表面インピーダンス推測方法にある。本構成によれば、超伝導膜の表面インピーダンスをより高い精度で推測できる方法が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導膜表面抵抗推測方法、超伝導膜表面インピーダンス推測方法、超伝導薄膜共振回路Q値推測方法、超伝導膜表面抵抗推測装置、及び、超伝導検出器製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導トンネル接合素子(STJ(Superconducting Tunnel Junction))を用いた光検出器の開発研究が世界でひろく行われてきた。これは、超伝導体が半導体と比較してはるかに小さいエネルギーギャップを有することを利用して、半導体検出器などの既存の光検出器に比べてエネルギー分解能がはるかに高い光検出器を原理的に実現できることが強い動機となっている。このことから、高エネルギー分解能のX線検出器、超伝導フォトン検出器、赤外線検出器への応用を目指して開発が進められてきた。
【0003】
超伝導体検出器の開発はNbを超伝導体素材として用いたもので始まり、その後エネルギーギャップがNb(3.1meV)の10分の1であるAl(0.34meV)を用いた超伝導体検出器の開発も進められてきた。一般に、超伝導体検出器は、2枚の超伝導体膜が絶縁膜を挟み込む構造をしている。動作原理は、超伝導体中で放射線のエネルギーがクーパー対を破壊して2個の準粒子(電子)を生成するのに使われ、そうして発生した準粒子が、トンネル効果によりもう一方の超伝導体電極へ流れていき、信号電流として検出されるというものである。
【0004】
超伝導フォトン検出器を一例として説明すると、超伝導フォトン検出器は、図17の模式図に示すように、超伝導体膜31及び33が絶縁体膜32で隔てられたサンドイッチ構造の超伝導トンネル接合素子を有している。この素子は、超伝導転移温度の1/10程度の温度に冷却され、また、磁場が印加されて、超伝導状態を担うクーパー対によるトンネル電流が流れないようにされている。この素子に光子(フォトン)が入射すると、クーパー対が壊れて準粒子が生成され、準粒子によるトンネル電流が増加する。このトンネル電流の増加を測定することにより、入射した光子の数やエネルギーを知ることができる。
【0005】
半導体のエネルギーギャップは1eV程度であるが、超伝導フォトン検出器の場合、超伝導エネルギーギャップが数meVと小さいため、光子のエネルギーで励起されるキャリアー数(準粒子数)が多く、半導体フォトン検出器に比べて高精度の検出が可能になる。
【0006】
特に、テラヘルツ帯高感度超伝導検出器は、天文観測装置としてだけでなく、 X線レントゲンに代わる、被ばくの少ない医療検査用途や、刃物などの危険物検出用として空港等の安全管理、また分子構造解析など幅広い分野において開発が待たれている。
【0007】
テラヘルツ帯高感度超伝導検出器のような高感度機器の開発には、高感度化に必要な最適化設計および素子ごとの歩留まりの向上が不可欠であり、そのためには高い精度で超伝導膜の物性を推測する必要がある。
【0008】
【非特許文献1】R. Monaco, R. Cristiano, L. Frunzio, and C. Nappi, “Investigation of low-temperature I-V curves of high-quality Nb/AI-AlOx/Nb Josephson junctions”, J. Appl. Phys. 71 (4), 1888-1892, 1992.
【非特許文献2】仲川博, 赤穂博司, 青柳昌宏, 黒沢格, 高田進, “X線検出用Nb/AlOx/Nbトンネル接合の作製”, 電子情報通信学会技術報告, SCE-93-39, 49-54, 1993.
【非特許文献3】B. Mitrovic and L. A. Rozema, "On the correct formula for the lifetime broadened superconducting density of states" , J. Phys.: Condens. Matter, 20, 015215, 2008.
【非特許文献4】R. C. Dynes, V. Narayanamurti and J. P. Garno, “Direct Measurement of Quasiparticle-Lifetime Broadening in a Strong-Coupled Superconductor”, Phys. Rev. Lett., 41, 1509-1512, 1978.
【非特許文献5】IEEETRANSACTIONSONAPPLIEDSUPERCONDUCTIVITY,VOL.13,NO.2,JUNE 2003,pp.119〜122
【非特許文献6】超伝導体検出器(超伝導トンネル接合素子STJを用いた赤外線検出器)開発提案書 KEK素粒子原子核研究所 山内正則ら 2006年12月19日
【特許文献1】特開2006-216795
【非特許文献7】[1] DC. Mattis and J. Bardeen, “Theory of the anomalous skin effect in normal and superconducting metals,” Physical Review, 111(2), 412-417, 1958.
【非特許文献8】[2] 吉川博道 , 小野清一郎, 小林禧夫, ” 3 流体モデルによる低温超伝導体の表面インピーダンスの解釈に関する検討,”電子情報通信学会技術研究報告, 97, 19, 71-76, 1997.
【非特許文献9】[3]川上彰 , 鵜澤佳徳, 武田正典, 王鎮, ” 単結晶 NbN を用いたサブミリ波帯 SIS 電磁波受信機の開発,”電子情報通信学会技術研究報告, 103(21), 43-48, 2003.
【非特許文献10】[4]T. Noguchi, T. Suzuki, A. Endo, T. Tamura, “Contribution of the imaginary part of the superconducting gap energy on the SIS tunneling current,” Physica C 469 (2009) 1585-1588
【非特許文献11】[6] W. H. Chang, “The inductance of superconducting strip transmission line,” J. Appl. Phys. 50(12), 8179-8134, 1970.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の背景技術に鑑みてなされたものであり、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる超伝導膜表面抵抗推測方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によれば、上述の目的を達成するために、特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用している。以下、この発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の第1の側面は、
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法
にある。
【0012】
本構成によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0013】
本発明の第2の側面は、
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面インピーダンス推測し、この値を用いて当該超伝導膜で構成された高周波伝送線路の伝送損失を推測することを特徴とする超伝導膜表面インピーダンス推測方法
にある。
【0014】
本構成によれば、超伝導高周波伝送線路の伝搬損失をより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0015】
本発明の第3の側面は、
超伝導転移温度より低い温度における超伝導薄膜伝送線の表面抵抗を得ることによって超伝導薄膜共振回路のQ値を推測することを特徴とする超伝導薄膜共振回路Q値推測方法
にある。
【0016】
本構成によれば、超伝導薄膜共振回路のQ値をより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0017】
本発明の第4の側面は、
ギャップエネルギーを複素数化し、光子が超伝導薄膜に入射した際に、超伝導薄膜内に存在する準粒子及びクーパー対によって吸収される確率を計算することによって超伝導薄膜表面の複素伝導度を求めることを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法
にある。
【0018】
本構成によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0019】
本発明の第5の側面は、
電流の立ち上がり部分を微分したグラフのピークの電圧値から超伝導膜のギャップエネルギーの絶対値の大きさを見積もる工程と、
電流カーブの立ち上がりの丸まりを再現するように前記超伝導膜のギャップエネルギーの虚数部と実数部との比dを求める工程と
を有する超伝導膜表面インピーダンス推測方法
にある。
【0020】
本構成によれば、超伝導膜の表面インピーダンスをより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0021】
本発明の第6の側面は、
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測装置
にある。
【0022】
本構成によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる超伝導膜表面抵抗推測装置が得られる。
【0023】
本発明の第7の側面は、
請求項1に記載の超伝導膜表面抵抗推測方法、請求項2に記載の超伝導膜表面インピーダンス推測方法、又は、請求項3に記載の超伝導薄膜共振回路Q値推測方法によって超伝導検出器を製造する超伝導検出器製造方法
にある。
【0024】
本構成によれば、最適化設計の時間短縮が可能な超伝導検出器製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる超伝導膜表面抵抗推測方法などが得られる。
【0026】
本発明のさらに他の目的、特徴又は利点は、後述する本発明の実施の形態や添付する図面に基づく詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】マイクロ波でのNbの表面インピーダンス測定の3流体理論によるフィッティングを示す図である(非特許文献8参照)。
【図2】NbNの表面インピーダンス測定とMattis‐Bardeen理論とのテラヘルツ帯での比較(非特許文献9参照)を示す図である。
【図3】Nbの準粒子状態密度と励起エネルギーの関係(BCS理論)を示す図である。
【図4】超伝導ギャップを複素数化したときの(非特許文献10参照) Nbの準粒子状態密度を示す図である。
【図5】超伝導マイクロストリップラインの模式図である。
【図6】テラヘルツ帯高感度超伝導検出器の設計案を示す図である。
【図7】超伝導接合検出器と超伝導マイクロストリップラインからなる共振器の等価回路を示す図である。
【図8】Mattis‐Bardeen理論(MB理論)と、複素ギャップを適用したMB理論による複素伝導度実部の周波数変化を示す図である。
【図9】MB理論と、複素ギャップを適用したMB理論による複素伝導度虚部の周波数変化を示す図である。
【図10】MB理論と式(4)を用いて求めた超伝導Nb膜の表面抵抗を示す図である。
【図11】MB理論と式(4)を用いて求めた超伝導Nb膜の表面リアクタンスを示す図である。
【図12】Nbからなる厚み350 nmのグランドプレーンと伝送線路、SiO2からなる厚さ250 nmも誘電体層で構成された超伝導マイクロストリップライ
【図13】上述のマイクロストリップラインを使って600 GHzでの2分の1波長共振器を作った際のQ値の温度依存性を示す図である。
【図14】超伝導トンネル接合の測定値と数値計算による求めた直流電流-電圧特性のフィッティングの様子を示す図(非特許文献10参照)である。
【図15】超伝導接合の電流電圧特性を使って、超伝導)接合に使われているNbNのギャップエネルギーの絶対値と虚数部の大きさ(実部と虚部の比
【図16】超伝導接合と同じ基板の上に作られたNbN超伝導膜の表面インピーダンスの実験値(点)と、超伝導接合の電流電圧特性から求めたNbN膜の
【図17】超伝導フォトン検出器の原理をX線検出器を例として説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[発明に至る経緯]
【0029】
上述のように、テラヘルツ帯高感度超伝導検出器は、天文観測装置としてだけでなく、 X線レントゲンに代わる、被ばくの少ない医療検査用途や、刃物などの危険物検出用として空港等の安全管理、また分子構造解析など幅広い分野において開発が待たれている。
【0030】
このテラヘルツ帯高感度超伝導検出器を早期に実現するには、高感度化に必要な最適化設計の時間短縮や素子ごとの歩留まりの向上が不可欠である。また、超伝導検出器には超伝導膜伝送線を使った回路が使われているため、超伝導薄膜の表面インピーダンスの計算精度が検出器の開発に本質的な役割を果たす。しかしながら、超伝導膜の表面インピーダンスの理論計算として広く使われてきた Mattis-Bardeen方程式(非特許文献7参照)の予測する値は、実験値とは大きく異なる。
【0031】
図1は、マイクロ波でのNbの表面インピーダンス測定の3流体理論によるフィッティングを示す図である(非特許文献8参照)。図2は、NbNの表面インピーダンス測定とMattis‐Bardeen理論とのテラヘルツ帯での比較(非特許文献9参照)を示す図である。
マイクロ波領域においては実験値を再現する方法が示されている(非特許文献8参照)が、テラヘルツ領域においては実験値が理論値と比べて2桁以上も大きいにもかかわらず(非特許文献9参照)、実験値を再現するような計算手法はこれまで提案されていない。この実験値と理論値の乖離が超伝導検出器の高感度化・歩留まりの向上を図るうえで大きな障害となっていることなどに本発明者らは着想するに至った。
【0032】
[概要]
【0033】
Mattis-Bardeen方程式(式(2)、(3))では、あるエネルギーをもった光子が超伝導薄膜に入射した際に、超伝導薄膜内に存在する準粒子及びクーパー対によって吸収される確率を計算することによって超伝導薄膜表面の複素伝導度を求めている。また、一般に超伝導転移温度よりも十分低い温度まで冷やされた超伝導体内にはほとんど準粒子が存在しないため、この超伝導体はギャップエネルギーよりも小さなエネルギーをもった(クーパー対を壊すことのできない)光子に対して抵抗をほとんどもたないはずである。しかしながら、実際にはたとえば NbNの表面インピーダンスの測定値は Mattis-Bardeen理論で示されるよりも二桁も大きな値を示す(非特許文献9参照)。
【0034】
ここで、図3は、Nbの準粒子状態密度と励起エネルギーの関係(BCS理論)を示す図である。縦軸は常伝導の値で規格化された超伝導体内の準粒子状態密度、横軸は励起エネルギー。1.55 meV以下のエネルギー(超伝導ギャップ内)で励起される準粒子は存在しないことがわかる。
【0035】
そこで、ここでは 本発明者らによって開発されたギャップエネルギーを複素数化する方法(非特許文献10参照)を使って Mattis-Bardeen方程式を計算する方法を提案する。
【0036】
ギャップエネルギーを複素数化することによって、超伝導転移温度よりも十分低い温度になっても超伝導ギャップ内に準粒子の状態密度が存在できるようになり、ギャップ周波数よりも低い周波数帯域における超過損失を説明できるようになる。
【0037】
ここで、図4は、超伝導ギャップを複素数化したときの(非特許文献10参照) Nbの準粒子状態密度を示す図である。dはギャップエネルギーの虚部と実部の比を表わす。虚部が大きくなるにつれて、超伝導ギャップ内の準粒子密度が大きくなっていることがわかる。
【0038】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0039】
[超伝導薄膜共振回路の構成]
【0040】
図5は、超伝導マイクロストリップラインの模式図である。
【0041】
超伝導薄膜共振回路として、グランドプレーンの金属(例えば、 Nb、厚み 0.2μm、横幅に十分大きい、十分に長い)と伝送線路の金属(例えば、Nb、厚み 0.2μm、横幅 6μm、十分長い)の間に絶縁層(例えば、SiO2、厚み 0.15μm、横幅十分に大きい、十分長い)があるようなマイクロストリップラインを使った共振回路を採用する場合について考える。ここでは、グランドプレーン、伝送線路の材料としてNbを選択する場合を説明するが、代わりの材料としてTa、NbN、Alなどの金属系超伝導体あるいは酸化物系超伝導体などを選択してもよい。また、絶縁層の材料としてSiO2を選択する場合を説明するが、代わりの材料としてAl2O3、MgOなどの絶縁体を選択してもよい。
【0042】
図6は、テラヘルツ帯高感度超伝導検出器の設計案を示す図である。図では、超半球サファイア基板レンズを用いた光学系(右)、レンズの後ろに取り付けられた平面アンテナ、超伝導伝送線、及び超伝導接合検出器(中)、超伝導接合の断面図(左)を示している。
【0043】
図7は、超伝導接合検出器と超伝導マイクロストリップラインからなる共振器の等価回路を示す図である。超伝導接合は抵抗と容量成分をもつが、信号を効率よく検出するためには超伝導マイクロストリップのインダクタンス成分を使って接合の容量を打ち消すような共振回路が必要である。
【0044】
[超伝導薄膜の複素電気伝導度]
【0045】
Mattis-Bardeenによれば超伝導薄膜の複素電気伝導度σは以下の式で定義される。
【0046】
【数1】
【0047】
また、伝導度の実部σ1、虚部σ2はそれぞれ以下の式で求められる。
【0048】
【数2】
【数3】
【0049】
ここで、従来の計算手法ではΔを実数として扱っていたが、複素数Δ1+iΔ2 (Δ1, Δ2は実数、iは虚数単位(-1の平方根))として計算する。Δ2/Δ1の大きさを dとした。
【0050】
σ1, σ2の Mattis-Bardeen方程式と本発明の計算値との比較について説明する。
【0051】
図8は、Mattis‐Bardeen理論(MB理論)と、複素ギャップを適用したMB理論による複素伝導度実部の周波数変化を示す図である。200 nmの厚さのNb膜で計算し、常伝導抵抗で規格化した。エネルギーギャップの複素項が大きくなるにつれて、ギャップ周波数以下の電気伝導度は大きくなっている。
【0052】
図9は、MB理論と、複素ギャップを適用したMB理論による複素伝導度虚部の周波数変化を示す図である。200 nmの厚さのNb膜で計算し常伝導抵抗で規格化した。虚部は複素項の大きさにほとんど依存しない。
【0053】
また、Δ 2/Δ1の大きさが大きいほど励起された準粒子の寿命が短い、つまり、超伝導膜に多くの欠陥が含まれることになる。
【0054】
[超伝導薄膜の表面インピーダンス]
【0055】
コヒーレンス長にくらべて、侵入長が十分小さいという極限のもとでは超伝導膜の表面インピーダンスは複素電気伝導度σを用いて次式で表すことができる。
【0056】
【数4】
【0057】
ここで、μ 0は真空の透磁率、tは超伝導膜の厚みである。これまでの方法と本実施形態で提案する方法とを比較しながら説明する。
【0058】
図10は、MB理論と式(4)を用いて求めた超伝導Nb膜の表面抵抗を示す図である。 200 nmの厚さのNb膜で計算した。エネルギーギャップの複素項が大きくなるにつれて、ギャップ周波数以下の表面抵抗が大きくなっている。
【0059】
図11は、MB理論と式(4)を用いて求めた超伝導Nb膜の表面リアクタンスを示す図である。 200 nmの厚さのNb膜で計算し、常伝導抵抗で規格化した。虚部は複素項の大きさにほとんど依存しない。
【0060】
[超伝導マイクロストリップの特性インピーダンス]
以上の議論から超伝導マイクロストリップラインを構成するグランドプレーンと伝送線路各々の表面インピーダンスを計算することができる。これらを使って超伝導マイクロストリップラインの特性インダクタンス L0及びキャパシタンス C0は、伝送線路の周りでの電界のフリンジの効果 fringeを含めた次式で求まる(非特許文献11参照)。
【0061】
【数5】
【0062】
【数6】
【0063】
ただし、 fringeは以下の式で求まる(非特許文献11参照)。添え字の1はグランドプレーンの、2は伝送線路のパラメータを表わしている。tは厚み、λは侵入長をεは絶縁層の比誘電率、ε0は真空の誘電率を表わしている。
【0064】
【数7】
【数8】
【数9】
【0065】
これらを使って、絶縁体による誘電損失がないとすると、超伝導マイクロストリップラインの特性インピーダンス Z0は次式によって表される。
【0066】
【数10】
【0067】
これまでの方法と本実施形態の方法とでの特性インピーダンスの計算結果の比較について図示する。
【0068】
図12は、Nbからなる厚み350 nmのグランドプレーンと伝送線路、SiO2からなる厚さ250 nmも誘電体層で構成された超伝導マイクロストリップラインの特性インピーダンスの周波数依存性を示す図である。伝送線路の幅は2μmとし、グランドプレーンと誘電体層は十分に大きいものとした。式(5)を使って求めた。
【0069】
[超伝導マイクロストリップを使った2分の1波長共振器]
【0070】
ある特性インピーダンスをもった伝送線路の長さ lと、入力インピーダンス Zinの関係は、この伝送線路が減衰定数をα、伝搬定数βを持つとしたときに、
【0071】
【数11】
となる。以上の関係式を使って計算を進めると、2分の 1波長の長さをもった超伝導マイクロストリップライン共振回路の Q値は以下のようになる。ただし、共振周波数をω0とした。
【0072】
【数12】
【0073】
この Q値と温度の関係を、ギャップエネルギーの虚部の大きさを変えながら求めたものを図示する。
【0074】
図13は、上述のマイクロストリップラインを使って600 GHzでの2分の1波長共振器を作った際のQ値の温度依存性を示す図である。低温になればなるほど、これまでのMB理論で計算した結果との差が大きくなることがわかる。
【0075】
[まとめ]
【0076】
本発明者らは、複素ギャップモデルを適用した超伝導薄膜の表面抵抗の推測方法、主としては下記の事項に着想するに至った。
【0077】
(1) ギャップ周波数以下での超伝導膜の超過損失を説明するための、ギャップエネルギーを複素数化した、Mattis-Bardeen方程式の計算手法。
(2)超伝導転移温度の半分以下の温度(例えばNbの場合 4.2 K)における超伝導薄膜伝送線の表面抵抗を計算することで、実際の運用温度である超低温における表面抵抗を推測し、超伝導薄膜共振回路の Q値を計算する方法。
【0078】
具体的には、超伝導薄膜の複素伝導度並びに表面インピーダンスを、ギャップエネルギーの虚部の大きさを変化させながら計算した。その結果、上述のように、ギャップエネルギーの虚部が大きくなるにつれて、ギャップ周波数以下の周波数においてこれまでの Mattis-Bardeen方程式よりも表面抵抗値が大きくなることが示唆された。
【0079】
次に、上述のように、超伝導薄膜伝送線を使って 2分の 1波長共振器を作った際の Q値がこれまでの手法と本手法とでどのように変わるかを計算した。ギャップエネルギーが実数の場合と虚数である場合の差は温度が低くなればなるほど顕著であり、虚部の大きさが実部の一万分の1しかなくても 3桁以上の乖離が見いだされた。
【0080】
[検証]
【0081】
本手法が実験値(非特許文献9参照)を再現することができるのかを検証した。
【0082】
ここで、理論的な前提として、本発明者らが研究の成果(特願2008-187730)として得た、超伝導ギャップエネルギーの虚数部の求め方について説明する。
【0083】
(超伝導ギャップエネルギーの虚数部の求め方)
【0084】
実際の超伝導トンネル接合の超伝導体の超伝導ギャップエネルギーの虚数部の値は以下のようにして求めることができる。ここでは、Nbを超伝導体として用いた超伝導トンネル接合を例にとって説明する。
【0085】
まず、液体ヘリウム温度 4.2 Kで超伝導トンネル接合の直流電流-電圧特性を測定する。次に、(1)式を用いた数値計算により、超伝導ギャップエネルギーをパラメータとして測定した直流電流-電圧特性とのフィッティングを行う。
【0086】
図14は、超伝導トンネル接合の測定値と数値計算による求めた直流電流-電圧特性のフィッティングの様子を示す図である。ここで、図中の Im{Δ1}、Im{Δ2}は、それぞれ、両側の超伝導体の超伝導ギャップエネルギーの虚数部を表している。このようにして、ギャップ電圧付近の電流の振舞と最もよくフィットする複素超伝導ギャップエネルギーを求め、このときの超伝導ギャップエネルギーの虚数部が求める値となる。
【0087】
あるいは、非特許文献4に示されているように、4.2 Kで超伝導トンネル接合のギャップ電圧付近の微分コンダクタンスdI /dV を測定した後、(1)式を用いて超伝導ギャップエネルギの虚数部をパラメータとして数値的なフィッティングを行い、最適な超伝導ギャップエネルギの虚数部の値を求めてもよい。
このようにすれば、超伝導トンネル接合の直流電流-電圧特性などを使用して超伝導ギャップエネルギーの虚数部の値を求めることができる。
【0088】
(具体的な検証方法)
【0089】
本手法が実験値(非特許文献9参照)を再現することができるか検証するために次のことを行った。
【0090】
まず、同じ基板の上に NbN超伝導接合と超伝導薄膜伝送線路を作製する。
【0091】
次に、この超伝導ギャップエネルギーの虚数部の求め方を使って、超伝導接合の電流電圧特性からこの基板の上に作られた NbN膜のギャップエネルギーの大きさと虚数部の大きさを見積もる。具体的には、まず、電流の立ち上がり部分を微分したグラフのピークの電圧値から超伝導膜のギャップエネルギーの絶対値の大きさを見積もった。次に、電流カーブの立ち上がりの丸まりを再現するようにギャップエネルギーの虚数部と実数部の比dを求めた。
【0092】
図15は、超伝導接合の電流電圧特性を使って、超伝導接合に使われているNbNのギャップエネルギーの絶対値と虚数部の大きさ(実部と虚部の比 d)を見積もった際の図である。青が実験値で赤がギャップエネルギー2.77meV,d=0.0082とした時の理論値である。
【0093】
次に、同じ基板の上に作られた NbN膜の性質はほぼ同じだとみなせるために、電流電圧特性から見積もった値を使って同じ膜の上に作られた超伝導薄膜伝送線路の表面インピーダンスを求めた。
【0094】
図16は、超伝導接合と同じ基板の上に作られたNbN超伝導膜の表面インピーダンスの実験値(点)と、超伝導接合の電流電圧特性から求めたNbN膜のギャップエネルギーを使った表面インピーダンス計算の比較を示す図である。図において、MB理論によるグラフ、複素数化されたギャップエネルギーで拡張されたMB理論によるグラフを示す。これまでのMB理論では表現できなかったギャップ周波数以下での超過損失がよく再現されている。これは、実験値をよく再現しており本実施形態の手法の有用性を示している。
【0095】
[用途]
【0096】
上述の方法は、超伝導薄膜伝送線を使った超伝導回路の設計・理論計算に応用できる。具体的にはテラヘルツ帯高感度超伝導検出器や高温超伝導体を使った伝送線・バンドパスフィルター・マイクロ波加速器などの設計に応用することが可能である。
【0097】
また、例えば、超伝導トンネル接合電磁波検出器、光や電子、イオンの照射による励起現象を利用した各種の元素、分子の精密微量分光分析(蛍光X線法,電子ビーム励起X線法,イオンビーム衝撃X線法など)、医療用患部イメージング、材料診断、天文観測機器などの回路設計にも上述の実施形態は適用できる。また、ニュートリノ崩壊の探索、宇宙赤外線背景輻射スペクトルの測定、赤外線サーモグラフィーなどへの実用などへの適用も考えられる。さらには、粒子線検出器、短波長のX線やガンマ線まで含めた放射線検出器などの回路設計への適用も考えられる。
【0098】
[権利解釈など]
【0099】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0100】
また、この発明の説明用の実施形態が上述の目的を達成することは明らかであるが、多くの変更や他の実施例を当業者が行うことができることも理解されるところである。特許請求の範囲、明細書、図面及び説明用の各実施形態のエレメント又はコンポーネントを他の1つまたは組み合わせとともに採用してもよい。特許請求の範囲は、かかる変更や他の実施形態をも範囲に含むことを意図されており、これらは、この発明の技術思想および技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
31 超伝導体膜
32 絶縁体膜
33 超伝導体膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導膜表面抵抗推測方法、超伝導膜表面インピーダンス推測方法、超伝導薄膜共振回路Q値推測方法、超伝導膜表面抵抗推測装置、及び、超伝導検出器製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導トンネル接合素子(STJ(Superconducting Tunnel Junction))を用いた光検出器の開発研究が世界でひろく行われてきた。これは、超伝導体が半導体と比較してはるかに小さいエネルギーギャップを有することを利用して、半導体検出器などの既存の光検出器に比べてエネルギー分解能がはるかに高い光検出器を原理的に実現できることが強い動機となっている。このことから、高エネルギー分解能のX線検出器、超伝導フォトン検出器、赤外線検出器への応用を目指して開発が進められてきた。
【0003】
超伝導体検出器の開発はNbを超伝導体素材として用いたもので始まり、その後エネルギーギャップがNb(3.1meV)の10分の1であるAl(0.34meV)を用いた超伝導体検出器の開発も進められてきた。一般に、超伝導体検出器は、2枚の超伝導体膜が絶縁膜を挟み込む構造をしている。動作原理は、超伝導体中で放射線のエネルギーがクーパー対を破壊して2個の準粒子(電子)を生成するのに使われ、そうして発生した準粒子が、トンネル効果によりもう一方の超伝導体電極へ流れていき、信号電流として検出されるというものである。
【0004】
超伝導フォトン検出器を一例として説明すると、超伝導フォトン検出器は、図17の模式図に示すように、超伝導体膜31及び33が絶縁体膜32で隔てられたサンドイッチ構造の超伝導トンネル接合素子を有している。この素子は、超伝導転移温度の1/10程度の温度に冷却され、また、磁場が印加されて、超伝導状態を担うクーパー対によるトンネル電流が流れないようにされている。この素子に光子(フォトン)が入射すると、クーパー対が壊れて準粒子が生成され、準粒子によるトンネル電流が増加する。このトンネル電流の増加を測定することにより、入射した光子の数やエネルギーを知ることができる。
【0005】
半導体のエネルギーギャップは1eV程度であるが、超伝導フォトン検出器の場合、超伝導エネルギーギャップが数meVと小さいため、光子のエネルギーで励起されるキャリアー数(準粒子数)が多く、半導体フォトン検出器に比べて高精度の検出が可能になる。
【0006】
特に、テラヘルツ帯高感度超伝導検出器は、天文観測装置としてだけでなく、 X線レントゲンに代わる、被ばくの少ない医療検査用途や、刃物などの危険物検出用として空港等の安全管理、また分子構造解析など幅広い分野において開発が待たれている。
【0007】
テラヘルツ帯高感度超伝導検出器のような高感度機器の開発には、高感度化に必要な最適化設計および素子ごとの歩留まりの向上が不可欠であり、そのためには高い精度で超伝導膜の物性を推測する必要がある。
【0008】
【非特許文献1】R. Monaco, R. Cristiano, L. Frunzio, and C. Nappi, “Investigation of low-temperature I-V curves of high-quality Nb/AI-AlOx/Nb Josephson junctions”, J. Appl. Phys. 71 (4), 1888-1892, 1992.
【非特許文献2】仲川博, 赤穂博司, 青柳昌宏, 黒沢格, 高田進, “X線検出用Nb/AlOx/Nbトンネル接合の作製”, 電子情報通信学会技術報告, SCE-93-39, 49-54, 1993.
【非特許文献3】B. Mitrovic and L. A. Rozema, "On the correct formula for the lifetime broadened superconducting density of states" , J. Phys.: Condens. Matter, 20, 015215, 2008.
【非特許文献4】R. C. Dynes, V. Narayanamurti and J. P. Garno, “Direct Measurement of Quasiparticle-Lifetime Broadening in a Strong-Coupled Superconductor”, Phys. Rev. Lett., 41, 1509-1512, 1978.
【非特許文献5】IEEETRANSACTIONSONAPPLIEDSUPERCONDUCTIVITY,VOL.13,NO.2,JUNE 2003,pp.119〜122
【非特許文献6】超伝導体検出器(超伝導トンネル接合素子STJを用いた赤外線検出器)開発提案書 KEK素粒子原子核研究所 山内正則ら 2006年12月19日
【特許文献1】特開2006-216795
【非特許文献7】[1] DC. Mattis and J. Bardeen, “Theory of the anomalous skin effect in normal and superconducting metals,” Physical Review, 111(2), 412-417, 1958.
【非特許文献8】[2] 吉川博道 , 小野清一郎, 小林禧夫, ” 3 流体モデルによる低温超伝導体の表面インピーダンスの解釈に関する検討,”電子情報通信学会技術研究報告, 97, 19, 71-76, 1997.
【非特許文献9】[3]川上彰 , 鵜澤佳徳, 武田正典, 王鎮, ” 単結晶 NbN を用いたサブミリ波帯 SIS 電磁波受信機の開発,”電子情報通信学会技術研究報告, 103(21), 43-48, 2003.
【非特許文献10】[4]T. Noguchi, T. Suzuki, A. Endo, T. Tamura, “Contribution of the imaginary part of the superconducting gap energy on the SIS tunneling current,” Physica C 469 (2009) 1585-1588
【非特許文献11】[6] W. H. Chang, “The inductance of superconducting strip transmission line,” J. Appl. Phys. 50(12), 8179-8134, 1970.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の背景技術に鑑みてなされたものであり、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる超伝導膜表面抵抗推測方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によれば、上述の目的を達成するために、特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用している。以下、この発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の第1の側面は、
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法
にある。
【0012】
本構成によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0013】
本発明の第2の側面は、
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面インピーダンス推測し、この値を用いて当該超伝導膜で構成された高周波伝送線路の伝送損失を推測することを特徴とする超伝導膜表面インピーダンス推測方法
にある。
【0014】
本構成によれば、超伝導高周波伝送線路の伝搬損失をより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0015】
本発明の第3の側面は、
超伝導転移温度より低い温度における超伝導薄膜伝送線の表面抵抗を得ることによって超伝導薄膜共振回路のQ値を推測することを特徴とする超伝導薄膜共振回路Q値推測方法
にある。
【0016】
本構成によれば、超伝導薄膜共振回路のQ値をより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0017】
本発明の第4の側面は、
ギャップエネルギーを複素数化し、光子が超伝導薄膜に入射した際に、超伝導薄膜内に存在する準粒子及びクーパー対によって吸収される確率を計算することによって超伝導薄膜表面の複素伝導度を求めることを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法
にある。
【0018】
本構成によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0019】
本発明の第5の側面は、
電流の立ち上がり部分を微分したグラフのピークの電圧値から超伝導膜のギャップエネルギーの絶対値の大きさを見積もる工程と、
電流カーブの立ち上がりの丸まりを再現するように前記超伝導膜のギャップエネルギーの虚数部と実数部との比dを求める工程と
を有する超伝導膜表面インピーダンス推測方法
にある。
【0020】
本構成によれば、超伝導膜の表面インピーダンスをより高い精度で推測できる方法が得られる。
【0021】
本発明の第6の側面は、
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測装置
にある。
【0022】
本構成によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる超伝導膜表面抵抗推測装置が得られる。
【0023】
本発明の第7の側面は、
請求項1に記載の超伝導膜表面抵抗推測方法、請求項2に記載の超伝導膜表面インピーダンス推測方法、又は、請求項3に記載の超伝導薄膜共振回路Q値推測方法によって超伝導検出器を製造する超伝導検出器製造方法
にある。
【0024】
本構成によれば、最適化設計の時間短縮が可能な超伝導検出器製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、超伝導膜の表面抵抗をより高い精度で推測できる超伝導膜表面抵抗推測方法などが得られる。
【0026】
本発明のさらに他の目的、特徴又は利点は、後述する本発明の実施の形態や添付する図面に基づく詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】マイクロ波でのNbの表面インピーダンス測定の3流体理論によるフィッティングを示す図である(非特許文献8参照)。
【図2】NbNの表面インピーダンス測定とMattis‐Bardeen理論とのテラヘルツ帯での比較(非特許文献9参照)を示す図である。
【図3】Nbの準粒子状態密度と励起エネルギーの関係(BCS理論)を示す図である。
【図4】超伝導ギャップを複素数化したときの(非特許文献10参照) Nbの準粒子状態密度を示す図である。
【図5】超伝導マイクロストリップラインの模式図である。
【図6】テラヘルツ帯高感度超伝導検出器の設計案を示す図である。
【図7】超伝導接合検出器と超伝導マイクロストリップラインからなる共振器の等価回路を示す図である。
【図8】Mattis‐Bardeen理論(MB理論)と、複素ギャップを適用したMB理論による複素伝導度実部の周波数変化を示す図である。
【図9】MB理論と、複素ギャップを適用したMB理論による複素伝導度虚部の周波数変化を示す図である。
【図10】MB理論と式(4)を用いて求めた超伝導Nb膜の表面抵抗を示す図である。
【図11】MB理論と式(4)を用いて求めた超伝導Nb膜の表面リアクタンスを示す図である。
【図12】Nbからなる厚み350 nmのグランドプレーンと伝送線路、SiO2からなる厚さ250 nmも誘電体層で構成された超伝導マイクロストリップライ
【図13】上述のマイクロストリップラインを使って600 GHzでの2分の1波長共振器を作った際のQ値の温度依存性を示す図である。
【図14】超伝導トンネル接合の測定値と数値計算による求めた直流電流-電圧特性のフィッティングの様子を示す図(非特許文献10参照)である。
【図15】超伝導接合の電流電圧特性を使って、超伝導)接合に使われているNbNのギャップエネルギーの絶対値と虚数部の大きさ(実部と虚部の比
【図16】超伝導接合と同じ基板の上に作られたNbN超伝導膜の表面インピーダンスの実験値(点)と、超伝導接合の電流電圧特性から求めたNbN膜の
【図17】超伝導フォトン検出器の原理をX線検出器を例として説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[発明に至る経緯]
【0029】
上述のように、テラヘルツ帯高感度超伝導検出器は、天文観測装置としてだけでなく、 X線レントゲンに代わる、被ばくの少ない医療検査用途や、刃物などの危険物検出用として空港等の安全管理、また分子構造解析など幅広い分野において開発が待たれている。
【0030】
このテラヘルツ帯高感度超伝導検出器を早期に実現するには、高感度化に必要な最適化設計の時間短縮や素子ごとの歩留まりの向上が不可欠である。また、超伝導検出器には超伝導膜伝送線を使った回路が使われているため、超伝導薄膜の表面インピーダンスの計算精度が検出器の開発に本質的な役割を果たす。しかしながら、超伝導膜の表面インピーダンスの理論計算として広く使われてきた Mattis-Bardeen方程式(非特許文献7参照)の予測する値は、実験値とは大きく異なる。
【0031】
図1は、マイクロ波でのNbの表面インピーダンス測定の3流体理論によるフィッティングを示す図である(非特許文献8参照)。図2は、NbNの表面インピーダンス測定とMattis‐Bardeen理論とのテラヘルツ帯での比較(非特許文献9参照)を示す図である。
マイクロ波領域においては実験値を再現する方法が示されている(非特許文献8参照)が、テラヘルツ領域においては実験値が理論値と比べて2桁以上も大きいにもかかわらず(非特許文献9参照)、実験値を再現するような計算手法はこれまで提案されていない。この実験値と理論値の乖離が超伝導検出器の高感度化・歩留まりの向上を図るうえで大きな障害となっていることなどに本発明者らは着想するに至った。
【0032】
[概要]
【0033】
Mattis-Bardeen方程式(式(2)、(3))では、あるエネルギーをもった光子が超伝導薄膜に入射した際に、超伝導薄膜内に存在する準粒子及びクーパー対によって吸収される確率を計算することによって超伝導薄膜表面の複素伝導度を求めている。また、一般に超伝導転移温度よりも十分低い温度まで冷やされた超伝導体内にはほとんど準粒子が存在しないため、この超伝導体はギャップエネルギーよりも小さなエネルギーをもった(クーパー対を壊すことのできない)光子に対して抵抗をほとんどもたないはずである。しかしながら、実際にはたとえば NbNの表面インピーダンスの測定値は Mattis-Bardeen理論で示されるよりも二桁も大きな値を示す(非特許文献9参照)。
【0034】
ここで、図3は、Nbの準粒子状態密度と励起エネルギーの関係(BCS理論)を示す図である。縦軸は常伝導の値で規格化された超伝導体内の準粒子状態密度、横軸は励起エネルギー。1.55 meV以下のエネルギー(超伝導ギャップ内)で励起される準粒子は存在しないことがわかる。
【0035】
そこで、ここでは 本発明者らによって開発されたギャップエネルギーを複素数化する方法(非特許文献10参照)を使って Mattis-Bardeen方程式を計算する方法を提案する。
【0036】
ギャップエネルギーを複素数化することによって、超伝導転移温度よりも十分低い温度になっても超伝導ギャップ内に準粒子の状態密度が存在できるようになり、ギャップ周波数よりも低い周波数帯域における超過損失を説明できるようになる。
【0037】
ここで、図4は、超伝導ギャップを複素数化したときの(非特許文献10参照) Nbの準粒子状態密度を示す図である。dはギャップエネルギーの虚部と実部の比を表わす。虚部が大きくなるにつれて、超伝導ギャップ内の準粒子密度が大きくなっていることがわかる。
【0038】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0039】
[超伝導薄膜共振回路の構成]
【0040】
図5は、超伝導マイクロストリップラインの模式図である。
【0041】
超伝導薄膜共振回路として、グランドプレーンの金属(例えば、 Nb、厚み 0.2μm、横幅に十分大きい、十分に長い)と伝送線路の金属(例えば、Nb、厚み 0.2μm、横幅 6μm、十分長い)の間に絶縁層(例えば、SiO2、厚み 0.15μm、横幅十分に大きい、十分長い)があるようなマイクロストリップラインを使った共振回路を採用する場合について考える。ここでは、グランドプレーン、伝送線路の材料としてNbを選択する場合を説明するが、代わりの材料としてTa、NbN、Alなどの金属系超伝導体あるいは酸化物系超伝導体などを選択してもよい。また、絶縁層の材料としてSiO2を選択する場合を説明するが、代わりの材料としてAl2O3、MgOなどの絶縁体を選択してもよい。
【0042】
図6は、テラヘルツ帯高感度超伝導検出器の設計案を示す図である。図では、超半球サファイア基板レンズを用いた光学系(右)、レンズの後ろに取り付けられた平面アンテナ、超伝導伝送線、及び超伝導接合検出器(中)、超伝導接合の断面図(左)を示している。
【0043】
図7は、超伝導接合検出器と超伝導マイクロストリップラインからなる共振器の等価回路を示す図である。超伝導接合は抵抗と容量成分をもつが、信号を効率よく検出するためには超伝導マイクロストリップのインダクタンス成分を使って接合の容量を打ち消すような共振回路が必要である。
【0044】
[超伝導薄膜の複素電気伝導度]
【0045】
Mattis-Bardeenによれば超伝導薄膜の複素電気伝導度σは以下の式で定義される。
【0046】
【数1】
【0047】
また、伝導度の実部σ1、虚部σ2はそれぞれ以下の式で求められる。
【0048】
【数2】
【数3】
【0049】
ここで、従来の計算手法ではΔを実数として扱っていたが、複素数Δ1+iΔ2 (Δ1, Δ2は実数、iは虚数単位(-1の平方根))として計算する。Δ2/Δ1の大きさを dとした。
【0050】
σ1, σ2の Mattis-Bardeen方程式と本発明の計算値との比較について説明する。
【0051】
図8は、Mattis‐Bardeen理論(MB理論)と、複素ギャップを適用したMB理論による複素伝導度実部の周波数変化を示す図である。200 nmの厚さのNb膜で計算し、常伝導抵抗で規格化した。エネルギーギャップの複素項が大きくなるにつれて、ギャップ周波数以下の電気伝導度は大きくなっている。
【0052】
図9は、MB理論と、複素ギャップを適用したMB理論による複素伝導度虚部の周波数変化を示す図である。200 nmの厚さのNb膜で計算し常伝導抵抗で規格化した。虚部は複素項の大きさにほとんど依存しない。
【0053】
また、Δ 2/Δ1の大きさが大きいほど励起された準粒子の寿命が短い、つまり、超伝導膜に多くの欠陥が含まれることになる。
【0054】
[超伝導薄膜の表面インピーダンス]
【0055】
コヒーレンス長にくらべて、侵入長が十分小さいという極限のもとでは超伝導膜の表面インピーダンスは複素電気伝導度σを用いて次式で表すことができる。
【0056】
【数4】
【0057】
ここで、μ 0は真空の透磁率、tは超伝導膜の厚みである。これまでの方法と本実施形態で提案する方法とを比較しながら説明する。
【0058】
図10は、MB理論と式(4)を用いて求めた超伝導Nb膜の表面抵抗を示す図である。 200 nmの厚さのNb膜で計算した。エネルギーギャップの複素項が大きくなるにつれて、ギャップ周波数以下の表面抵抗が大きくなっている。
【0059】
図11は、MB理論と式(4)を用いて求めた超伝導Nb膜の表面リアクタンスを示す図である。 200 nmの厚さのNb膜で計算し、常伝導抵抗で規格化した。虚部は複素項の大きさにほとんど依存しない。
【0060】
[超伝導マイクロストリップの特性インピーダンス]
以上の議論から超伝導マイクロストリップラインを構成するグランドプレーンと伝送線路各々の表面インピーダンスを計算することができる。これらを使って超伝導マイクロストリップラインの特性インダクタンス L0及びキャパシタンス C0は、伝送線路の周りでの電界のフリンジの効果 fringeを含めた次式で求まる(非特許文献11参照)。
【0061】
【数5】
【0062】
【数6】
【0063】
ただし、 fringeは以下の式で求まる(非特許文献11参照)。添え字の1はグランドプレーンの、2は伝送線路のパラメータを表わしている。tは厚み、λは侵入長をεは絶縁層の比誘電率、ε0は真空の誘電率を表わしている。
【0064】
【数7】
【数8】
【数9】
【0065】
これらを使って、絶縁体による誘電損失がないとすると、超伝導マイクロストリップラインの特性インピーダンス Z0は次式によって表される。
【0066】
【数10】
【0067】
これまでの方法と本実施形態の方法とでの特性インピーダンスの計算結果の比較について図示する。
【0068】
図12は、Nbからなる厚み350 nmのグランドプレーンと伝送線路、SiO2からなる厚さ250 nmも誘電体層で構成された超伝導マイクロストリップラインの特性インピーダンスの周波数依存性を示す図である。伝送線路の幅は2μmとし、グランドプレーンと誘電体層は十分に大きいものとした。式(5)を使って求めた。
【0069】
[超伝導マイクロストリップを使った2分の1波長共振器]
【0070】
ある特性インピーダンスをもった伝送線路の長さ lと、入力インピーダンス Zinの関係は、この伝送線路が減衰定数をα、伝搬定数βを持つとしたときに、
【0071】
【数11】
となる。以上の関係式を使って計算を進めると、2分の 1波長の長さをもった超伝導マイクロストリップライン共振回路の Q値は以下のようになる。ただし、共振周波数をω0とした。
【0072】
【数12】
【0073】
この Q値と温度の関係を、ギャップエネルギーの虚部の大きさを変えながら求めたものを図示する。
【0074】
図13は、上述のマイクロストリップラインを使って600 GHzでの2分の1波長共振器を作った際のQ値の温度依存性を示す図である。低温になればなるほど、これまでのMB理論で計算した結果との差が大きくなることがわかる。
【0075】
[まとめ]
【0076】
本発明者らは、複素ギャップモデルを適用した超伝導薄膜の表面抵抗の推測方法、主としては下記の事項に着想するに至った。
【0077】
(1) ギャップ周波数以下での超伝導膜の超過損失を説明するための、ギャップエネルギーを複素数化した、Mattis-Bardeen方程式の計算手法。
(2)超伝導転移温度の半分以下の温度(例えばNbの場合 4.2 K)における超伝導薄膜伝送線の表面抵抗を計算することで、実際の運用温度である超低温における表面抵抗を推測し、超伝導薄膜共振回路の Q値を計算する方法。
【0078】
具体的には、超伝導薄膜の複素伝導度並びに表面インピーダンスを、ギャップエネルギーの虚部の大きさを変化させながら計算した。その結果、上述のように、ギャップエネルギーの虚部が大きくなるにつれて、ギャップ周波数以下の周波数においてこれまでの Mattis-Bardeen方程式よりも表面抵抗値が大きくなることが示唆された。
【0079】
次に、上述のように、超伝導薄膜伝送線を使って 2分の 1波長共振器を作った際の Q値がこれまでの手法と本手法とでどのように変わるかを計算した。ギャップエネルギーが実数の場合と虚数である場合の差は温度が低くなればなるほど顕著であり、虚部の大きさが実部の一万分の1しかなくても 3桁以上の乖離が見いだされた。
【0080】
[検証]
【0081】
本手法が実験値(非特許文献9参照)を再現することができるのかを検証した。
【0082】
ここで、理論的な前提として、本発明者らが研究の成果(特願2008-187730)として得た、超伝導ギャップエネルギーの虚数部の求め方について説明する。
【0083】
(超伝導ギャップエネルギーの虚数部の求め方)
【0084】
実際の超伝導トンネル接合の超伝導体の超伝導ギャップエネルギーの虚数部の値は以下のようにして求めることができる。ここでは、Nbを超伝導体として用いた超伝導トンネル接合を例にとって説明する。
【0085】
まず、液体ヘリウム温度 4.2 Kで超伝導トンネル接合の直流電流-電圧特性を測定する。次に、(1)式を用いた数値計算により、超伝導ギャップエネルギーをパラメータとして測定した直流電流-電圧特性とのフィッティングを行う。
【0086】
図14は、超伝導トンネル接合の測定値と数値計算による求めた直流電流-電圧特性のフィッティングの様子を示す図である。ここで、図中の Im{Δ1}、Im{Δ2}は、それぞれ、両側の超伝導体の超伝導ギャップエネルギーの虚数部を表している。このようにして、ギャップ電圧付近の電流の振舞と最もよくフィットする複素超伝導ギャップエネルギーを求め、このときの超伝導ギャップエネルギーの虚数部が求める値となる。
【0087】
あるいは、非特許文献4に示されているように、4.2 Kで超伝導トンネル接合のギャップ電圧付近の微分コンダクタンスdI /dV を測定した後、(1)式を用いて超伝導ギャップエネルギの虚数部をパラメータとして数値的なフィッティングを行い、最適な超伝導ギャップエネルギの虚数部の値を求めてもよい。
このようにすれば、超伝導トンネル接合の直流電流-電圧特性などを使用して超伝導ギャップエネルギーの虚数部の値を求めることができる。
【0088】
(具体的な検証方法)
【0089】
本手法が実験値(非特許文献9参照)を再現することができるか検証するために次のことを行った。
【0090】
まず、同じ基板の上に NbN超伝導接合と超伝導薄膜伝送線路を作製する。
【0091】
次に、この超伝導ギャップエネルギーの虚数部の求め方を使って、超伝導接合の電流電圧特性からこの基板の上に作られた NbN膜のギャップエネルギーの大きさと虚数部の大きさを見積もる。具体的には、まず、電流の立ち上がり部分を微分したグラフのピークの電圧値から超伝導膜のギャップエネルギーの絶対値の大きさを見積もった。次に、電流カーブの立ち上がりの丸まりを再現するようにギャップエネルギーの虚数部と実数部の比dを求めた。
【0092】
図15は、超伝導接合の電流電圧特性を使って、超伝導接合に使われているNbNのギャップエネルギーの絶対値と虚数部の大きさ(実部と虚部の比 d)を見積もった際の図である。青が実験値で赤がギャップエネルギー2.77meV,d=0.0082とした時の理論値である。
【0093】
次に、同じ基板の上に作られた NbN膜の性質はほぼ同じだとみなせるために、電流電圧特性から見積もった値を使って同じ膜の上に作られた超伝導薄膜伝送線路の表面インピーダンスを求めた。
【0094】
図16は、超伝導接合と同じ基板の上に作られたNbN超伝導膜の表面インピーダンスの実験値(点)と、超伝導接合の電流電圧特性から求めたNbN膜のギャップエネルギーを使った表面インピーダンス計算の比較を示す図である。図において、MB理論によるグラフ、複素数化されたギャップエネルギーで拡張されたMB理論によるグラフを示す。これまでのMB理論では表現できなかったギャップ周波数以下での超過損失がよく再現されている。これは、実験値をよく再現しており本実施形態の手法の有用性を示している。
【0095】
[用途]
【0096】
上述の方法は、超伝導薄膜伝送線を使った超伝導回路の設計・理論計算に応用できる。具体的にはテラヘルツ帯高感度超伝導検出器や高温超伝導体を使った伝送線・バンドパスフィルター・マイクロ波加速器などの設計に応用することが可能である。
【0097】
また、例えば、超伝導トンネル接合電磁波検出器、光や電子、イオンの照射による励起現象を利用した各種の元素、分子の精密微量分光分析(蛍光X線法,電子ビーム励起X線法,イオンビーム衝撃X線法など)、医療用患部イメージング、材料診断、天文観測機器などの回路設計にも上述の実施形態は適用できる。また、ニュートリノ崩壊の探索、宇宙赤外線背景輻射スペクトルの測定、赤外線サーモグラフィーなどへの実用などへの適用も考えられる。さらには、粒子線検出器、短波長のX線やガンマ線まで含めた放射線検出器などの回路設計への適用も考えられる。
【0098】
[権利解釈など]
【0099】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0100】
また、この発明の説明用の実施形態が上述の目的を達成することは明らかであるが、多くの変更や他の実施例を当業者が行うことができることも理解されるところである。特許請求の範囲、明細書、図面及び説明用の各実施形態のエレメント又はコンポーネントを他の1つまたは組み合わせとともに採用してもよい。特許請求の範囲は、かかる変更や他の実施形態をも範囲に含むことを意図されており、これらは、この発明の技術思想および技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
31 超伝導体膜
32 絶縁体膜
33 超伝導体膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法。
【請求項2】
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面インピーダンス推測し、この値を用いて当該超伝導膜と同等の超伝導膜で構成された高周波伝送線路の伝搬損失を推測することを特徴とする超伝導膜表面インピーダンス推測方法。
【請求項3】
超伝導転移温度より低い温度における超伝導薄膜伝送線の表面抵抗を得ることによって超伝導薄膜共振回路のQ値を推測することを特徴とする超伝導薄膜共振回路Q値推測方法。
【請求項4】
ギャップエネルギーを複素数化し、光子が超伝導薄膜に入射した際に、超伝導薄膜内に存在する準粒子及びクーパー対によって吸収される確率を計算することによって超伝導薄膜表面の複素伝導度を求めることを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法。
【請求項5】
電流の立ち上がり部分を微分したグラフのピークの電圧値から超伝導膜のギャップエネルギーの絶対値の大きさを見積もる工程と、
電流カーブの立ち上がりの丸まりを再現するように前記超伝導膜のギャップエネルギーの虚数部と実数部との比dを求める工程と
を有する超伝導膜表面インピーダンス推測方法。
【請求項6】
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超伝導膜表面抵抗推測方法、請求項2に記載の超伝導膜表面インピーダンス推測方法、又は、請求項3に記載の超伝導薄膜共振回路Q値推測方法によって超伝導検出器を製造する超伝導検出器製造方法。
【請求項1】
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法。
【請求項2】
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面インピーダンス推測し、この値を用いて当該超伝導膜と同等の超伝導膜で構成された高周波伝送線路の伝搬損失を推測することを特徴とする超伝導膜表面インピーダンス推測方法。
【請求項3】
超伝導転移温度より低い温度における超伝導薄膜伝送線の表面抵抗を得ることによって超伝導薄膜共振回路のQ値を推測することを特徴とする超伝導薄膜共振回路Q値推測方法。
【請求項4】
ギャップエネルギーを複素数化し、光子が超伝導薄膜に入射した際に、超伝導薄膜内に存在する準粒子及びクーパー対によって吸収される確率を計算することによって超伝導薄膜表面の複素伝導度を求めることを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測方法。
【請求項5】
電流の立ち上がり部分を微分したグラフのピークの電圧値から超伝導膜のギャップエネルギーの絶対値の大きさを見積もる工程と、
電流カーブの立ち上がりの丸まりを再現するように前記超伝導膜のギャップエネルギーの虚数部と実数部との比dを求める工程と
を有する超伝導膜表面インピーダンス推測方法。
【請求項6】
ギャップエネルギーを複素数化し、Mattis-Bardeen方程式を使って超伝導膜の表面抵抗を推測することを特徴とする超伝導膜表面抵抗推測装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超伝導膜表面抵抗推測方法、請求項2に記載の超伝導膜表面インピーダンス推測方法、又は、請求項3に記載の超伝導薄膜共振回路Q値推測方法によって超伝導検出器を製造する超伝導検出器製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−60793(P2011−60793A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205379(P2009−205379)
【出願日】平成21年9月5日(2009.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 公開の事実 ▲1▼研究集会名 2009年秋季 第70回 応用物理学会 学術講演会 ▲2▼主催者名 社団法人応用物理学会 ▲3▼公開場所 http://secure1.gakkai−web.net/gakkai/jsap_pro/pro/bunrui11.html ▲4▼公開日 平成21年7月19日 ▲5▼文書の種類 インターネット ▲5▼公開者 成瀬 雅人、野口 卓、関本 裕太郎 ▲6▼公開のタイトル 「Mattis−Bardeen理論への複素ギャップモデルの応用」
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月5日(2009.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 公開の事実 ▲1▼研究集会名 2009年秋季 第70回 応用物理学会 学術講演会 ▲2▼主催者名 社団法人応用物理学会 ▲3▼公開場所 http://secure1.gakkai−web.net/gakkai/jsap_pro/pro/bunrui11.html ▲4▼公開日 平成21年7月19日 ▲5▼文書の種類 インターネット ▲5▼公開者 成瀬 雅人、野口 卓、関本 裕太郎 ▲6▼公開のタイトル 「Mattis−Bardeen理論への複素ギャップモデルの応用」
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】
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