説明

超微粒子膜層を有する積層構造体及び製法

【課題】本発明は、超微粒子の機能を大いに活用できる積層構造体を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の積層構造体は、超微粒子が凝集してなる超微粒子膜層と該膜層を支持する支持膜層からなる積層構造体であり、該支持膜層は超微粒子膜層に塗布液が塗布及び乾燥されて形成されるものであり、該塗布液は有機置換基とシロキサン結合を含む有機無機ハイブリッド物質(前駆体)からなるものであること、もしくは前駆体が有機溶媒に溶解されてなるものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微粒子膜層と有機無機ハイブリッド物質の支持膜層からなる積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性超微粒子を基材中に含有あるいは担持させた材料として、例えば、酸化チタンや白金超微粒子を含有させた光触媒膜や貴金属触媒膜、酸化マンガン(MnO)超微粒子を担持させたオゾン分解フィルター、フッ化マグネシウム超微粒子を含有させた反射防止膜などが挙げられる。
【0003】
上記のような超微粒子を基材表面に担持させる場合、超微粒子は基材との密着性が小さいため、これを改善するために、超微粒子を分散させたゾルまたはバインダー樹脂を用いたバインダー成分を併用するコーティング法が広く行われている(例えば特許文献1乃至5)。
【0004】
しかし、ゾルまたはバインダー樹脂の粘度制御を必要とするために超微粒子を高濃度に含有させることができない問題があった(例えば特許文献6参照)。また、例えば、バインダーとしてテトラアルコキシシラン(TEOS)を用い、超微粒子を均一分散させた膜を基材上に作製させると、膜表面にはTEOSに由来するSiO部分と超微粒子とが混在した状態となり、超微粒子単体膜あるいは超微粒子を高濃度に含有する膜を最表面に形成させた場合に比べ、超微粒子由来の効果が低くなってしまう問題があった。
【特許文献1】特開2006-326530号公報
【特許文献2】特開2007−222806号公報
【特許文献3】特開昭63-197524号公報
【特許文献4】特開昭64−41149号公報
【特許文献5】特開平2−26824号公報
【特許文献6】特開平7−69621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基材への密着性が小さい機能性超微粒子を基材表面に長期的に担持させるためには、有機または無機のバインダー成分の使用が望ましいが、機能性超微粒子由来の特性が損なわれる。本発明は、超微粒子の機能を大いに活用できる積層構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層構造体は、超微粒子が凝集してなる超微粒子膜層と該膜層を支持する支持膜層からなる積層構造体であり、該支持膜層は超微粒子膜層に塗布液が塗布及び乾燥されて形成されるものであり、該塗布液は有機置換基とシロキサン結合を含む有機無機ハイブリッド物質(前駆体)からなるものであること、もしくは前駆体が有機溶媒に溶解されてなるものであることを特徴とする。
【0007】
超微粒子が凝集してなる超微粒子膜層に塗布液を塗布して、有機置換基とシロキサン結合を含む有機無機ハイブリッド物質(前駆体)から形成される重縮合化合物よりなる支持膜層を形成することで、超微粒子膜層と支持膜層との密着性が良好に保たれる。また、有機無機ハイブリッド物質(前駆体)から形成される重縮合化合物よりなる支持膜層は、それ自身が形状を自律的に保てるので、超微粒子膜層と支持膜層との良好な密着性は、積層構造体自体の形状を自律的に保たせる。
【0008】
前記超微粒子の平均粒径は、好ましくは5〜200nm、より好ましくは5〜100nm、さらに好ましくは10〜50nmとされる。200nm超では超微粒子膜層の緻密性が低くなることがあり、結果として、超微粒子膜層の硬度が低くなることがある。また、積層構造体の可視光透過性の低下も起こりうる。また、5nm未満では、超微粒子膜層形成時に膜厚の不均質な超微粒子膜層となることがある。
【0009】
尚、平均粒径は、超微粒子膜層の断面の任意位置を、電子顕微鏡を用いて観測したときに像(超微粒子の像が明確に現れる倍率)に現れる全粒子の直径を測定し、結果を平均する。この操作を5回繰り返し、得られた値を平均粒径とした。
【0010】
また、乾燥後の支持膜層が粘着性を有することが好ましい。支持膜層に粘着性を持たせることで、本発明の積層構造体と基材とを張り合わせたときに支持膜層と基材とを良好に接合させることができる。
【0011】
さらに、有機無機ハイブリッド物質(前駆体)が、有機置換基として芳香族又は芳香族を含む炭化水素基を含有するものとすることが好ましい。前駆体を芳香族又は芳香族を含む炭化水素基を含有するものとすることで、支持膜層の形状を自律的に保ちやすくなり好ましい。
【0012】
またさらには、超微粒子を、酸化チタン、白金、酸化マンガン、シリカ、フッ化マグネシウム、氷晶石、フッ化カルシウム、酸化亜鉛、ITO、ATOから選ばれる少なくとも1種以上からなるものとすることが好ましい。これら超微粒子は、それ自身が優れた機能性、例えば、低反射性、親水性、光触媒性、オゾン分解性、導電性、UV遮蔽性、IR遮蔽性のいずれかを有しており、積層構造体を高性能なものとでき好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、酸化チタン、白金、酸化マンガン、シリカ、フッ化マグネシウム、氷晶石、フッ化カルシウムをはじめとする超微粒子を高濃度で含有する膜を最表面に形成させた積層構造体を簡便に得ることが出来る。また、本発明の積層構造体と該積層構造体の支持膜層と接合される基材とからなる物品とすることで、基材に超微粒子に由来する機能を発現させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の積層構造体は、超微粒子が凝集してなる超微粒子膜層と該膜層を支持する支持膜層からなる積層構造体であり、該支持膜層は超微粒子膜層に塗布液が塗布及び乾燥されて形成されるものであり、該塗布液は有機置換基とシロキサン結合を含む有機無機ハイブリッド物質(前駆体)からなるものであること、もしくは前駆体が有機溶媒に溶解されてなるものであることを特徴とする。
【0015】
図1に本発明で得られた積層構造体の断面の走査型電子顕微鏡での観察結果を示す。支持膜層2上に超微粒子膜層1が形成されていることが観察される。図1の積層構造体は、超微粒子が酸化チタンからなるものであるが、超微粒子が酸化チタンの他に白金、酸化マンガン、シリカ、フッ化マグネシウム、氷晶石、フッ化カルシウム、酸化亜鉛、ITO、ATOからなるものとしてもよい。
【0016】
超微粒子膜層1が、酸化チタン超微粒子、特にはアナタース型の酸化チタンからなるものの場合、光触媒性を利用した防曇、防汚等の用途に積層構造体を活用できる。
【0017】
その他の超微粒子中、白金、酸化マンガン等は良好な触媒機能を超微粒子膜層1に発揮させ、シリカは良好な表面改質機能を超微粒子膜層1に発揮させる。さらにフッ化マグネシウムは、低屈折率、低反射性を超微粒子膜層1に発揮させる。
【0018】
超微粒子膜層1は、超微粒子が2次元的に凝集して単層からなるものや、3次元的に凝集して厚み方向にも超微粒子が積み重なったものとしてもよい。超微粒子層1の厚みは、好ましくは5nm〜20μm、より好ましくは100nm〜10μmとされる。超微粒子膜層1の厚みが大きくなると、該層の白濁感が増加し、可視光透過率の減少が見られる。かくして、該層の厚みは、20μm以下、好ましくは10μm以下とされることが好ましい。可視光透過率向上の観点に加え、該層の製造効率の観点から、該層の厚みを2μm以下、さらには1μm以下、またさらには0.5μm以下としてもよい。
【0019】
支持膜層2の厚みは、好ましくは50μm〜1000μm、より好ましくは100μm〜500μmとされる。50μm未満では、支持膜層2の自律的な形状保持性が低くなることがある。他方、1000μm超では、支持膜層2の超微粒子膜1との反対側層の平滑性が低くなることがあり、基材との張り合わせが難しくなることがある。
【0020】
また、前駆体を溶解する有機溶媒としては特に限定されないが、アルコール類、エステル類、ケトン類等が好ましく、特にエタノール、イソプロピルアルコール、酢酸イソブチル、メチルエチルケトン等が好ましい。
【0021】
また、支持膜層2は、塗布液が超微粒子膜層に塗布された後に150℃未満の温度で乾燥されてなるものであることが好ましい。150℃以上の温度では前駆体の急激な硬化反応が起こることがあり、支持膜層2内に目視で観察される泡が生じることがある。また、支持膜層2自体に粘着性を付与させたい場合、粘着性の付与が難しいことがある。
【0022】
また、有機無機ハイブリッド物質(前駆体)が、有機置換基として芳香族又は芳香族を含む炭化水素基を含有することが好ましい。芳香族又は芳香族を含む炭化水素基を含有することで、支持膜層の形状を自律的に保ちやすくなるためである。芳香族または芳香族を含む炭化水素基としてフェニル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等があるが、熱的、化学的安定性に優れるフェニル基が特に好ましい。
【0023】
本発明の積層構造体は、好ましくは基材と張り合わされて使用される。当該基材は、無機質のガラス基材、プラスチック製基材、金属製基材、セラミック基材の群から選ばれるいずれかであることが好ましい。また、無機質のガラス基材の例としては、ソーダライム珪酸塩ガラス、硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラス、石英ガラス等の板状のもので特にはフロート法で製造されたものが好ましい。さらには、これらガラス基材は、クリアガラス品、グリーン、ブロンズ等の着色ガラス品、UV、IRカットガラス等の機能性ガラス品、強化ガラス、半強化ガラス、合せガラス等の安全ガラス品、鏡等も使用されうる。
【0024】
プラスチック製基材の例としては、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド等が挙げられる。
【0025】
金属製基材の例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄鋼、真鍮、マグネシウム、マグネシウム合金等が挙げられる。セラミック基材の例としては、タイル、衛生陶器として使用される酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物の焼結体等が例として挙げられる。
【0026】
使用される基材の厚みは、例えば、0.1〜10mmの厚みを有するものが使用され得る。その形状は、板状のもの、曲率を有する形状のもの等、積層構造体の用途に応じて適宜選択される。
【0027】
本発明の積層構造体は、可視光透過性を有するので、基材種としては、特には無機質のガラス基材、プラスチック製基材が好ましい。
【0028】
積層構造体と基材とは、張り合わされた後、50〜500℃、好ましくは100〜300℃で加熱されることで、支持膜層2と基材とが接合されることが好ましい。50℃未満の場合、有機無機ハイブリッド物質を硬化するのに長時間を要し、コスト高の要因となりえる。他方500℃超の場合、支持膜層2内に目視で観察される泡が生じることがある。また、硬化温度は被着体(基材)の耐熱温度以下とする必要がある。
【0029】
また、積層構造体と該積層構造体の支持膜層と接合される基材とからなる物品は、次の工程を有する製法で得られることが好ましい。また、下記の(a)、(b)、(d)の工程だけを採用して、本発明の積層構造体を提供してもよい。
【0030】
(a)超微粒子を含有する溶液を剥離性基材に塗布して超微粒子膜層を形成する工程
(b)有機置換基とシロキサン結合を含む有機無機ハイブリッド物質(前駆体)からなる塗布液、又は前駆体が有機溶媒に溶解されてなる塗布液を超微粒子膜層に塗布、乾燥して支持膜層を形成する工程
(c)支持膜層を基材に貼付する工程。
【0031】
(d)剥離性基材を超微粒子膜層から剥離させる工程。
【0032】
(e)加熱により支持膜層を硬化させる工程。
【0033】
工程(a)の剥離性基材としては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等が好ましい。また、超微粒子を含有する溶液は、所謂コロイド溶液が好適に使用され、特には表面が平坦なものが好ましい。さらに該表面が撥水性を呈するものとしてもよい。
【0034】
超微粒子を含有する溶液の溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、アセトニトリル、水等の極性溶媒が挙げられる。
【0035】
超微粒子を含有する溶液の剥離性基材への塗布方法の例としては、スピンコート、ディップコート、フローコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、バーコート印刷等の公知方法を採用できる。塗布後は、約20℃の室温で放置又は100℃までの加熱で溶媒を揮散させ剥離性基材に超微粒子膜層を形成する。
【0036】
次に超微粒子膜層に有機置換基とシロキサン結合を含む有機無機ハイブリッド物質(前駆体)からなる塗布液、又は前駆体が有機溶媒に溶解されてなる塗布液が塗布される。
【0037】
該塗布液の塗布方法の例としては、スピンコート、ディップコート、フローコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、バーコート印刷等の公知方法を採用できる。塗布後は、約20℃の室温で放置又は好ましくは150℃までの加熱で超微粒子膜層上に支持膜層を形成する。
【0038】
前記有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル等が挙げられる。
【0039】
有機無機ハイブリッド物質(前駆体)は、アルコキシシランが加水分解及び重縮合されて形成されるものが好ましく、該アルコキシシランが、芳香族又は芳香族を含む炭化水素基を含有するアルコキシシランが10〜60モル%、飽和炭化水素基を含有するアルコキシシランが20〜80モル%、不飽和炭化水素基を含有するアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種を0〜50モル%からなるものであることが好ましい。
【0040】
芳香族または芳香族を含む炭化水素基を含有するアルコキシシランがモル比で10%未満の場合、ゲル化が起こりやすく、塗布が難しくなることがある。芳香族または芳香族を含む炭化水素基を含有するアルコキシシランがモル比で60%を超える場合、硬化に長時間を要し、硬化後に十分な表面硬度を維持できないことがある。
【0041】
飽和炭化水素基を含有するアルコキシシランがモル比で20%未満の場合、硬化後に温度変化によってクラックが発生しやすく、飽和炭化水素基を含有するアルコキシシランがモル比で80%を超える場合、ゲル化が起こりやすく、塗布が難しくなる。
【0042】
不飽和炭化水素基を含有するアルコキシシランがモル比で50%を超える場合、ゴム化しやすく、硬化後に発砲体となりやすい。また、不飽和炭化水素基同士の架橋が熱または紫外光により不規則に起こり、透過率や硬度等の物性が安定しないことがある。また、テトラアルコキシシランがモル比で50%を超える場合、硬化後に発砲体となりやすい。
【0043】
アルコキシシランの加水分解及び重縮合は、アルコール溶媒中で水、酸触媒を加えて加熱撹拌することによりなされる。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。水の添加量はモル比でアルコキシシランの10倍以上が好ましい。10倍未満の場合、加水分解が不完全となる場合がある。酸触媒としては、酢酸、塩酸、硝酸、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられるが、反応の進行を制御しやすい酢酸が好ましい。また、50〜200℃で5分間〜10時間加熱撹拌することにより加水分解及び重縮合がなされることが好ましい。
【0044】
また、アルコキシシランが加水分解及び重縮合された後、20〜110℃、5分間〜10時間減圧下で保持することで有機無機ハイブリッド物質(前駆体)を安定化させることが好ましい。
【0045】
剥離性基材を超微粒子膜層から剥離させる工程は、剥離性基材と超微粒子膜層とを機械的に剥がしていくことでなされる。この剥がす作業は、手作業でも、ロボットを使用するものでもよい。加熱により支持膜層を硬化させる工程は、好ましくは50〜500℃、より好ましくは100〜300℃で加熱されることでなされる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0047】
実施例1
[超微粒子膜層の作製]
平均粒径10nmの酸化チタン(アナターゼ型)超微粒子を25質量%有するメタノール溶媒よりなるコロイド溶液を準備した。該溶液を、剥離性基材であるPETフィルム表面にスピンコートした後、該フィルムを100℃で1時間加熱し酸化チタン超微粒子膜層を形成した。
【0048】
[有機無機ハイブリッド物質(前駆体)の作製]
室温で15gのフェニルトリメトキシシラン(PhSi(OMe))、9gのジメチルジメトキシシラン(Me2Si(OMe)2)、135gの水、70gのエタノール、9mgの酢酸を混合した。混合溶液を100℃で3時間加熱した後、40℃で1時間減圧保持して安定化させて有機無機ハイブリッド物質(前駆体)を得た。
【0049】
[積層構造体の作製]
PETフィルム上に作製した超微粒子膜層の表面に、アプリケーター(ヨシミツ精機株式会社製YBA型ベーカーアプリケーター)を用いて有機無機ハイブリッド物質(前駆体)を塗布し、30℃で10分間減圧乾燥し、100℃で1時間加熱して支持膜層を形成した。該支持膜層は粘着性を有していた。
【0050】
粘着性を有する支持膜層表面を基材であるソーダライムガラス(フロート板ガラス、2mm厚さ)表面に貼付し、100℃で1時間加熱した後、PETフィルムを剥離した。
【0051】
その後、150℃で1時間加熱して支持膜層を硬化させて積層構造体と該積層構造体の支持膜層と接合される基材とからなる物品を得た。この積層構造体の断面をSEM観察したところ、図1に示すように、表面から約6μmの厚さに酸化チタン超微粒子が高濃度で密集した層を形成していることが確認された。該物品の波長550nmでの透過率は、87%であった。また、当該物品を夏場の晴天時の正午から1時間保持した後に超微粒子膜層に呼気を吹きかけても曇りは生じなかった。
【0052】
実施例2
[超微粒子膜層の作製]
平均粒径10nmの酸化チタン(アナターゼ型)超微粒子と、平均粒径10nmのシリカ超微粒子とが質量比で2:1の割合で配合されてなる複合超微粒子を20質量%有するメチルエチルケトン溶媒よりなるコロイド溶液を準備した。該溶液を、剥離性基材であるPETフィルム表面にスピンコートした後、該フィルムを100℃で2時間加熱し酸化チタン−シリカ超微粒子膜層を形成させた。
【0053】
[有機無機ハイブリッド物質(前駆体)の作製]
室温で6gのフェニルトリメトキシシラン(PhSi(OMe))、3gのメチルトリエトキシシラン(MeSi(OEt))、11gのジメチルジメトキシシラン(Me2Si(OMe)2)、3gのテトラエトキシシラン(Si(OEt))、135gの水、70gのエタノール、9mgの酢酸を混合した。混合溶液を100℃で3時間加熱した後、40℃で1時間減圧保持して安定化させて有機無機ハイブリッド物質(前駆体)を得た。
【0054】
[積層構造体の作製]
PETフィルム上に作製した酸化チタン−シリカ超微粒子膜層の表面に、有機無機ハイブリッド物質(前駆体)のアセトン溶液をスピンコートにより塗布し、120℃で1時間減圧乾燥し支持膜層を形成させた。粘着性を有する支持膜層表面を基材であるソーダライムガラス表面に貼付し、100℃で2時間加熱した後、PETフィルムを剥離した。さらに150℃で3時間加熱して支持膜層を硬化させて積層構造体と該積層構造体の支持膜層と接合される基材とからなる物品を得た。
【0055】
該物品の波長550nmでの透過率は、88%であった。また、当該物品を夏場の晴天時の正午から1時間保持した後に超微粒子膜層に呼気を吹きかけても曇りは生じなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明で得られた積層構造体の断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果(図面代用写真)である。
【符号の説明】
【0057】
1 超微粒子膜層
2 支持膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超微粒子が凝集してなる超微粒子膜層と該膜層を支持する支持膜層からなる積層構造体であり、該支持膜層は超微粒子膜層に塗布液が塗布及び乾燥されて形成されるものであり、該塗布液は有機置換基とシロキサン結合を含む有機無機ハイブリッド物質(前駆体)からなるものであること、又は前駆体が有機溶媒に溶解されてなるものであることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
乾燥後の支持膜層が粘着性を有することを特徴とする請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
有機無機ハイブリッド物質(前駆体)が、有機置換基として芳香族又は芳香族を含む炭化水素基を含有することを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項4】
超微粒子が、酸化チタン、白金、酸化マンガン、シリカ、フッ化マグネシウム、氷晶石、フッ化カルシウム、酸化亜鉛、ITO、ATOから選ばれる少なくとも1種以上からなるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の積層構造体と該積層構造体の支持膜層と接合される基材とからなる物品。
【請求項6】
次の工程を有する請求項5に記載の物品の製法。
(a)超微粒子を含有する溶液を剥離性基材に塗布して超微粒子膜層を形成する工程
(b)有機置換基とシロキサン結合を含む有機無機ハイブリッド物質(前駆体)からなる塗布液、もしくは前駆体が有機溶媒に溶解されてなる塗布液を超微粒子膜層に塗布、乾燥して支持膜層を形成する工程
(c)支持膜層を基材に貼付する工程。
(d)剥離性基材を超微粒子膜層から剥離させる工程。
(e)加熱により支持膜層を硬化させる工程。
【請求項7】
有機無機ハイブリッド物質(前駆体)が、アルコキシシランが加水分解及び重縮合されて形成されるものであり、該アルコキシシランが、芳香族又は芳香族を含む炭化水素基を含有するアルコキシシランが10〜60モル%、飽和炭化水素基を含有するアルコキシシランが20〜80モル%、不飽和炭化水素基を含有するアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種が0〜50モル%からなるものであることを特徴とする請求項6に記載の製法。
【請求項8】
アルコキシシランが加水分解及び重縮合された後、20〜110℃、5分間〜10時間減圧下で保持することで有機無機ハイブリッド物質(前駆体)を安定化させることを特徴とする請求項7に記載の製法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−36470(P2010−36470A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202511(P2008−202511)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】