説明

超砥粒ホイールおよびその製造方法

【課題】切り屑の排出をスムーズに行うことが可能な超砥粒ホイールおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】超砥粒ホイール10は、超砥粒2cを結合材2dにより結合した超砥粒層のみからなる円環板状の超砥粒ホイールであって、超砥粒層は、ワークに接触する作用部2と、作用部2より内側に位置する内周部3とを備え、作用部2は、半径方向に一定の幅を有し、かつ、板厚方向に一定の厚みを有し、内周部3は、作用部2よりも薄い一定の厚みを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、金属材料、セラミックス材料、複合材料、電子材料や半導体製品等の各種の工作物を高精度、高能率に切断加工するのに用いられる超砥粒ホイールと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイール全体が超砥粒層からなり、その軸方向断面において超砥粒層が外周部に向かってテーパ状に形成されている薄刃の超砥粒ホイールが知られている。(例えば、特許文献1、2)
また別の超砥粒ホイールとしては、厚み方向に貫通する孔を複数設けた薄刃の超砥粒ホイールが知られている。
(例えば、特許文献3)
さらに別の超砥粒ホイールとしては、エッチングにより凹部を形成した超砥粒ホイールが知られている。
(例えば、特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62−65162号公報
【特許文献2】実開昭58−44164号公報
【特許文献3】特開2002−36121号公報
【特許文献4】特開平8−127023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の超砥粒ホイールで切断加工や溝入れ加工を行うと、加工を継続するにつれて、切り屑をスムーズに排出することができないので研削抵抗値が高くなり、ついには超砥粒層が目詰まりして加工を中断しなければならない問題が発生することがあった。
【0005】
そこで、この発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、切り屑の排出をスムーズに行うことが可能な超砥粒ホイールおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一つの局面に従った超砥粒ホイールは、超砥粒を結合材により結合した超砥粒層のみからなる円環板状の超砥粒ホイールであって、超砥粒層は、ワークに接触する作用部と、作用部より内側に位置する内周部とを備え、作用部は、半径方向に一定の幅を有し、かつ、板厚方向に一定の厚みを有し、内周部は、作用部よりも薄い一定の厚みを有する。
【0007】
このように構成された超砥粒ホイールにおいては、薄い内周部が形成されているため、この内周部がワークに接触することを防止でき、切り屑をスムーズに排出することができる。
【0008】
好ましくは、結合材は、メタルボンド、レジンボンド、ニッケルメッキおよびビトリファイドボンドの少なくとも一種を含む。
【0009】
この発明の別の局面に従った超砥粒ホイールは、超砥粒を結合材により結合した超砥粒層を有する円環板状の超砥粒ホイールであって、超砥粒層は、電鋳法により形成され、超砥粒層は、ワークに接触する作用部と、作用部より内側に位置する内周部とを備え、作用部は、半径方向に一定の幅を有し、かつ、板厚方向に一定の厚みを有し、内周部は、作用部よりも薄い一定の厚みを有する。
【0010】
このように構成された超砥粒ホイールでは、薄い内周部が形成されているため、この内周部がワークに接触することを防止でき、切り屑をスムーズに排出することができる。

【0011】
好ましくは、超砥粒層は第一面と、その第一面と反対側の第二面とを有し、第一面側において、内周部の厚みは作用部の厚みより1μm以上小さい。
【0012】
好ましくは、作用部の半径方向の幅は5mm以下である。
好ましくは、作用部の厚みは0.01mm以上1mm以下である。
【0013】
好ましくは、超砥粒ホイールの外径は10mm以上200mm以下である。
好ましくは、内周部は、遊離砥粒を用いたラップ加工により形成されることを含む。
【0014】
上記の超砥粒ホイールを製造する方法は、メタルボンド、レジンボンド、ニッケルメッキおよびビトリファイドボンドの少なくとも一種を含む結合材を用いて超砥粒ホイールを形成する工程と、超砥粒ホイールの内周部を、遊離砥粒を用いたラップ加工に形成する工程を備える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に従った超砥粒ホイールの縦断面図である。
【図2】図1中の矢印IIで示す方向から見た実施の形態1に従った超砥粒ホイールの平面図である。
【図3】実施の形態1に従った図1の超砥粒ホイールがスピンドルにより支持された状態を示す断面図である。
【図4】実施の形態1に従った超砥粒ホイールにおいて工作物を加工する方法を示す断面図である。
【図5】比較例に従った超砥粒ホイールにおいて工作物を加工する方法を示す断面図である。
【図6】この発明の実施の形態2に従った超砥粒ホイールの縦断面図である。
【図7】図6中の矢印VIIで示す方向から見た実施の形態2に従った超砥粒ホイールの平面図である。
【図8】この発明の実施の形態3に従った超砥粒ホイールの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については繰返さない。また、各実施の形態を組み合わせることも可能である。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に従った超砥粒ホイールの縦断面図である。図2は、図1中の矢印IIで示す方向から見た実施の形態1に従った超砥粒ホイールの平面図である。図1および図2を参照して、実施の形態1に従った超砥粒ホイール10は、作用部2と、作用部2よりも内周側に位置する内周部3とを有する。
【0018】
作用部2は、ワークに接触してワークを切断する部分であり、先端2aと、側面2bとを有する。内周部3は、作用部2よりも厚みが薄く、超砥粒ホイール10を加工することにより形成される。円板形状の超砥粒ホイール10は、外周に位置する先端2aにおいて、厚みが厚く形成されている。
【0019】
超砥粒層は、超砥粒2cと結合材2dとにより形成される。超砥粒ホイール10は、第一面2eと、その第一面2eと対向する第二面2fとを有する。
【0020】
図3は、実施の形態1に従った図1の超砥粒ホイールがスピンドルにより支持された状態を示す断面図である。図3を参照して、超砥粒ホイール10はスライシングマシンに取付けられており、薄肉の内周部3がスピンドル4により支持されている。ホイールフランジ5が超砥粒ホイール10の中央の孔を貫通しており、超砥粒ホイール10は、ホイールフランジ5に固定され、一体となって回転する。
【0021】
図4は、実施の形態1に従った超砥粒ホイールにおいて工作物を加工する方法を示す断面図である。工作物6を加工する場合には、工作物6に作用部2を接触させた状態で超砥粒ホイール10を回転させる。
【0022】
図5は、比較例に従った超砥粒ホイールにおいて工作物を加工する方法を示す断面図である。図5を参照して、比較例に従った超砥粒ホイール80では、薄肉の内周部が設けられていないため、切り屑の排出が妨げられる可能性がある。
【0023】
(実施の形態2)
図6は、この発明の実施の形態2に従った超砥粒ホイールの縦断面図である。図7は、図6中の矢印VIIで示す方向から見た実施の形態2に従った超砥粒ホイールの平面図である。図6および図7を参照して、実施の形態2に従った超砥粒ホイール20では、実施の形態1に従った超砥粒ホイール10よりも作用部2が狭く構成されている。
【0024】
(実施の形態3)
図8は、この発明の実施の形態3に従った超砥粒ホイールの平面図である。図8を参照して、この発明の実施の形態3に従った超砥粒ホイール30では、半径方向に延在する溝9が設けられている。この溝9を設けることで、切り屑の排出をよりスムーズに行うことができる。
【0025】
超砥粒ホイール10,20,30は、超砥粒を結合材により結合した超砥粒層のみからなる円環板状の超砥粒ホイールであり、外周部には半径方向に一定の幅で、かつ一定の厚みの作用部2が形成され、作用部2の内周部3は作用部より薄く一定の厚みに形成されている。
【0026】
超砥粒ホイール10,20,30の厚さ方向に超砥粒層が内周部3よりも作用部2において突出しているので、切断加工や溝入れ加工する際に、作用部2だけが工作物6に作用して研削加工を行う。即ち、内周部3が工作物に接触することがないので、工作物6の加工面の品位を向上することができる。さらに、加工を継続して超砥粒層が減耗しても、内周部3が工作物6に接触することがないので、工作物6の加工面の品位を向上することができる。さらに、内周部3は工作物6と接触しないので、切り屑をスムーズに排出する役割を果たす。従って、超砥粒層が切り屑による目詰まりを発生することが少ない。
【0027】
内周部3の厚みは作用部2より片面で1μm以上薄く形成されている。t2−t3は2μm以上となる。
【0028】
片面で3μm以上薄く形成されていることがより好ましく、片面で5μm以上薄く形成されていることが最も好ましい。
【0029】
これは言い換えると、内周部3の厚みt3は、作用部2の厚みt2より2μm以上薄く形成されていることが好ましい。より好ましくは6μm以上薄く形成されていることであり、最も好ましくは10μm以上薄く形成されていることである。
【0030】
作用部2の半径方向の幅は5mm以下である。
作用部2の半径方向の幅は5mm以下で、可能な限り幅を小さくするほうが、より作用部2の範囲を狭く出来るので優れた切れ味を発揮させることができる。しかしながら、幅が小さ過ぎると、超砥粒ホイールの寿命に影響を与える。従って、切れ味と寿命の両方を考慮して、作用部2の半径方向の幅は0.1mm以上5mm以下とするのが好ましい。より好ましくは0.2mm以上3mm以下であり、最も好ましくは0.3mm以上3mm以下である。
【0031】
作用部2の厚みt2は0.01mm以上、1mm以下であることが好ましい。作用部2の厚みは、可能な限り薄いほうが切れ味が良好であり、切断代による工作物6の損失を少なくできる。しかしながら、作用部2が薄くなると、内周部3も薄くなり、超砥粒ホイールの剛性が低下して、所望の切断精度が得られなくなるおそれがある。従って、所望の切断精度が得られる範囲で作用部の厚みは薄くする。
【0032】
超砥粒ホイール10,20,30の外径Dは10mm以上、200mm以下であることが好ましい。
【0033】
本発明は、超砥粒ホイールの外径の寸法が限定されることはない。しかしながら、外径は10mm以上、200mm以下の超砥粒ホイールに適用するのが好ましい。その理由は、外径が200mmを超えるときは、内周部3には超砥粒層とは異なる材料を用いることが出来るからである。この場合、内周部3の材料としては各種の鋼、超硬合金、アルミニウム合金、セラミックスなどを用いることができる。
【0034】
超砥粒層の結合材2dは、レジンボンド、メタルボンド、ニッケルめっき、ビトリファイドボンドのいずれかひとつ、またはこれらから選択された二つ以上から構成される複合結合材であることを特徴とする超砥粒ホイールである。
【0035】
本発明に適用できる結合材は特に限定されない。各種の結合材を適用することが可能である。
【0036】
上記の超砥粒ホイール10,20,30は、金属材料、セラミックス材料、複合材料、電子材料や半導体製品等の各種の工作物を高精度、高能率に切断加工することができる。
【0037】
(実施例1)
次に本発明の実施例1の超砥粒ホイールを以下のように製作し、本発明の効果を確認した。
【0038】
めっき槽に満たしためっき液中に、円環状部分を残してマスキングを施したステンレス基板を水平に浸漬し、ダイヤモンド砥粒をめっき液に添加した。次に、めっき液を攪拌してダイヤモンド砥粒を均一に分散し、金属基板を電源の陰極に、めっき液中に浸漬した陽極を電源の陽極に接続し、金属基板上に金属めっき相を析出させながら、この金属めっき相の中にダイヤモンド砥粒を取り込ませていき、金属めっき相が所定の厚さに達したときに通電を停止した。
【0039】
さらに、金属基板から超砥粒層を剥離させて、両面ラップ盤により両側面全体をツルーイング・ドレッシングし、穴径を内面研削盤で仕上げ、さらに外周部を円筒研削盤によりツルーイング・ドレッシングした。
【0040】
その後、外径57mmの金属製円板を2枚使って超砥粒層を両面からラップ加工して、超砥粒層の厚みを片面で1μmづつ除去して薄肉部(内周部3)を形成し、実施例1の超砥粒ホイールを得た。超砥粒ホイールの寸法、仕様は以下の通りである。外径:60mm、薄肉部の外径:57mm、穴径:20mm、外周部(作用部2)厚みt2:0.3mm、薄肉部(内周部3)厚みt3:0.28mm、ダイヤモンド砥粒平均粒径:40μm、金属めっき相:Ni、ダイヤモンド砥粒含有量:20vol%
(実施例2)
次に本発明の実施例2の超砥粒ホイールを以下のように製作し、本発明の効果を確認した。
【0041】
メタルボンド成分としてCu粉末85質量%、Sn粉末15質量%の割合で配合した金属粉末に、超砥粒として平均粒径40μmのダイヤモンド砥粒と、固体潤滑剤成分として黒鉛粉末とを、メタルボンド成分:超砥粒:固体潤滑剤成分の混合比(容量%)が50:25:25となるように混合した。次にこの混合物を金型に充填してホットプレス成型して円環板状の超砥粒層を得た。
【0042】
次に、両面ラップ盤により両面全体をツルーイング・ドレッシングし、次に外周部を円筒研削盤によりツルーイング・ドレッシングした。
【0043】
その後、外径57mmの金属製円板で超砥粒層を両面からラップ加工して、超砥粒層の厚みを片面で0.01mmづつ除去して薄肉部を形成し、実施例1と同じサイズの超砥粒ホイールを得た。
【0044】
上記で得られた実施例1、2の超砥粒ホイールにより、以下の条件で直径127mmのシリコンウェーハの切断試験を行った。切断条件は、砥石回転数:30000/分、切り込み量:0.3mm、研削液:純水、である。その結果、実施例1と2は、安定して良好な切れ味を発揮し、切断面もチッピングが少なく良好な結果が得られた。
【0045】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の超砥粒ホイールは、電子材料や半導体製品等の工作物を高能率、高精度に切断加工するのに用いることが考えられる。
【符号の説明】
【0047】
2 作用部、2a 先端、2b 側面、3 内周部、4 スピンドル、5 ホイールフランジ、6 工作物、10,20,30 超砥粒ホイール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超砥粒を結合材により結合した超砥粒層のみからなる円環板状の超砥粒ホイールであって、
前記超砥粒層は、ワークに接触する作用部と、前記作用部より内側に位置する内周部とを備え、
前記作用部は、半径方向に一定の幅を有し、かつ、板厚方向に一定の厚みを有し、前記内周部は、前記作用部よりも薄い一定の厚みを有する、超砥粒ホイール。
【請求項2】
前記結合材は、メタルボンド、レジンボンド、ニッケルメッキおよびビトリファイドボンドの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の超砥粒ホイール。
【請求項3】
超砥粒を結合材により結合した超砥粒層を有する円環板状の超砥粒ホイールであって、
前記超砥粒層は、電鋳法により形成され、
前記超砥粒層は、ワークに接触する作用部と、前記作用部より内側に位置する内周部とを備え、
前記作用部は、半径方向に一定の幅を有し、かつ、板厚方向に一定の厚みを有し、前記内周部は、前記作用部よりも薄い一定の厚みを有する、超砥粒ホイール。
【請求項4】
前記超砥粒層は第一面と、その第一面と反対側の第二面とを有し、前記第一面側において、前記内周部の厚みは前記作用部の厚みより1μm以上小さい、請求項1から3のいずれか1項に記載の超砥粒ホイール。
【請求項5】
前記作用部の半径方向の幅は5mm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の超砥粒ホイール。
【請求項6】
前記作用部の厚みは0.01mm以上1mm以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の超砥粒ホイール。
【請求項7】
前記超砥粒ホイールの外径は10mm以上200mm以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の超砥粒ホイール。
【請求項8】
前記内周部は、遊離砥粒を用いたラップ加工により形成されることを含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の超砥粒ホイール。
【請求項9】
メタルボンド、レジンボンド、ニッケルメッキおよびビトリファイドボンドの少なくとも一種を含む結合材を用いて超砥粒ホイールを形成する工程と、
前記超砥粒ホイールの前記内周部を、遊離砥粒を用いたラップ加工に形成する工程を備えた、請求項1または2に記載の超砥粒ホイールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−22682(P2013−22682A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159932(P2011−159932)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】