説明

超純水製造システムおよびその洗浄方法、ならびにそれを用いた超純水の製造方法

【課題】 洗浄時間を短縮化できる上、使用済みの洗浄水を原水としてリサイクルできる超純水製造システムの洗浄方法を提供する。
【解決手段】 超純水製造装置11と、超純水製造装置11で製造された超純水をそのユースポイントPまで送水する送水系と、ユースポイントPで使用された使用済み超純水を回収水槽19を経由して超純水製造装置11に返送する返送系と、返送系内を回収水槽19に向かって流れる使用済み超純水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段と、添加した殺菌剤を回収水槽19と超純水製造装置11との間で除去する殺菌剤除去手段23とを備えた超純水製造システム100における送水系および返送系に対して、送水系において超純水に殺菌剤を添加して得た洗浄水を2〜10時間に亘って通水することによって洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水製造装置で製造した超純水をユースポイントに供給する超純水製造システムおよびその洗浄方法、ならびに該超純水製造システムを用いた超純水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置やその周辺材料の製造工場においては、製造工程で使用する洗浄用水や処理用水として超純水が用いられている。これら用途の超純水には極めて高い純度が要求されるため、逆浸透膜などからなる超純水製造装置を半導体装置等の製造ラインに隣接して設け、該超純水製造装置で製造した超純水をそのユースポイントと超純水製造装置との間で常時循環させながらユースポイントに供給するシステムが従来から用いられていた。図1には、かかる超純水製造装置と超純水の循環系とからなる従来の超純水製造システム50の系統図が示されている。
【0003】
この超純水製造システム50は、逆浸透膜1aおよびイオン交換樹脂塔1bを備えた超純水製造装置1と、製造ラインMの近傍に設けられている超純水のユースポイントPに超純水製造装置1で製造された超純水を供給する送水系と、ユースポイントPで使用されなかった未使用超純水を回収し、超純水製造装置1に返送する返送系とから構成されている。
【0004】
この送水系は、送水配管系4と、その途中に設けられた超純水槽2および超純水送水ポンプ3とによって主に構成されており、超純水製造装置1で製造された超純水をユースポイントPに安定して供給できるようになっている。送水系はさらにユースポイントPの手前に紫外線殺菌装置5および限外濾過膜6を有しており、極めて純度の高い超純水をユースポイントPに供給できるようになっている。
【0005】
一方、返送系は、回収配管系8と、その途中に設けられた回収水槽9および回収水送水ポンプ10とによって主に構成されており、回収した未使用超純水を原水として超純水製造装置1に安定して供給できるようになっている。なお、この超純水製造システム50では、ユースポイントPで使用した使用済み超純水は工場事業場排水として取り扱われるため、廃液配管7を介して系外に排出される。
【0006】
ところで、超純水を半導体装置等の製造ラインの洗浄用水として使用する場合は、洗浄トラブルの原因となる微粒子、有機物や無機物などの不純物が超純水に含まれていないことが要求される。そのため、超純水製造システムにおいては、定期的な系内洗浄が一般に行われている。例えば特許文献1には、超純水製造システムの系内に20℃〜100℃の塩基性洗浄液を循環させて洗浄を行うことが記載されている。また、超純水の純度の指標となる生菌数を抑制するため、系内をアルカリと2質量%過酸化水素水との混合液からなる洗浄液で洗浄する方法も一般的に知られている。
【0007】
しかし、上記したようなアルカリ性の洗浄液を用いた洗浄では、洗浄のための準備や復旧に時間がかかりすぎるという問題があった。そのため、洗浄の際は、半導体装置等の製造ラインの運転を長時間停止することが必要となり、製品となる半導体装置等の生産性に悪影響を及ぼす原因になっていた。
【0008】
さらに、従来の超純水製造システムでは、ユースポイントで使用した使用済み超純水は排水として超純水製造システムの系内から排出されていた。半導体装置等の製造工程からの排水は、前述したように工場事業場排水として扱われて総量規制の対象となるため、できるだけ使用済み超純水として排出される排水の量を削減することが望まれていた。超純水製造システムを洗浄した際に用いた洗浄用水も同じく工場事業場排水として扱われるため、できるだけ排出量を削減することが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−317413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、半導体装置等の製造ラインに超純水の供給を行う超純水製造システムでは、洗浄の際に半導体装置等の製造ラインの運転を停止する必要があるため、洗浄に要する時間をできるだけ短くすることが求められていた。また、工場事業場排水の量を減らすべく、ユースポイントで使用した超純水をリサイクルして再度超純水として使用できるようにする技術の実現も求められていた。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、超純水製造システムの洗浄に要する時間を短縮化できる超純水製造システムおよびその洗浄方法と、ユースポイントで使用した使用済みの超純水であっても超純水製造装置に原水としてリサイクルできる超純水製造システムを提供することを目的にしている。
【0012】
特に、超純水製造システムの洗浄後に測定した系内の超純水の菌数を、従属栄養細菌(Heterotrophic Plate Count:HPC)培地法に従って35℃で48時間培養した後に目視で観察できる菌数において1個/100ml以下にできる洗浄方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために超純水製造システムの系内の洗浄時間の短縮化、および菌数の抑制方法を鋭意研究した結果、操業時および洗浄時に洗浄剤として次亜塩素酸ナトリウムを使用することが効果的であり、さらにその濃度が処理時間と菌数に影響を与えることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明が提供する超純水製造システムの洗浄方法は、超純水製造装置で製造された超純水をそのユースポイントまで送水する送水系と、ユースポイントで使用された使用済み超純水を回収水槽を経由して超純水製造装置に返送する返送系と、返送系内を回収水槽に向かって流れる使用済み超純水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段と、添加した殺菌剤を回収水槽と超純水製造装置との間で除去する殺菌剤除去手段とを備えた超純水製造システムの洗浄方法であって、送水系において超純水に殺菌剤を添加して得た洗浄水を2〜10時間に亘って送水系および返送系に通水することによって洗浄を行うことを特徴としている。
【0015】
また、本発明が提供する超純水製造システムは、超純水製造装置と、該超純水製造装置で製造された超純水をそのユースポイントまで送水する送水系と、ユースポイントで使用された使用済み超純水を回収水槽を経由して超純水製造装置に返送する返送系と、返送系内を回収水槽に向かって流れる使用済み超純水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段と、添加した殺菌剤を回収水槽と超純水製造装置との間で除去する殺菌剤除去手段とを有していることを特徴としている。
【0016】
さらに、本発明が提供する超純水の製造方法は、超純水製造装置で製造されてユースポイントで使用された使用済み超純水に対して殺菌剤を添加して殺菌処理を施し、添加された殺菌剤を殺菌剤除去手段によって除去した後、原水として超純水製造装置に供給することを特徴としている。この超純水の製造方法においては、超純水製造装置で製造した超純水をユースポイントまで送水する送水系と前記使用済み超純水を超純水製造装置まで返送する返送系とに対して、送水系において超純水に殺菌剤を添加して得た洗浄水を2〜10時間に亘って通水する洗浄を行った後に排出される洗浄水を原水として超純水製造装置に供給してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超純水製造システムの洗浄に要する時間を短縮化することができ、該超純水製造システムから超純水の供給が行われている半導体装置等の製造ラインの停止時間を短くすることができる。さらに、ユースポイントで使用された使用済みの超純水や洗浄後の洗浄水を超純水製造装置の原水としてリサイクルすることが可能となり、工場事業場排水の量を削減することができる。これにより、工場周辺の環境負荷を低減することができる。しかも本発明によれば、洗浄時間の短縮化や工場事業場排水の排出量の削減を果たしつつ、ユースポイントでの生菌数をHPC培地法で1個/100ml以下に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の超純水製造システムを示す系統図である。
【図2】本発明の超純水製造システムの一具体例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の超純水製造システムの洗浄方法は、超純水製造装置で製造された超純水をそのユースポイントまで送水する送水系と、ユースポイントで使用された使用済み超純水を回収水槽を経由して超純水製造装置に返送する返送系と、返送系内を回収水槽に向かって流れる使用済み超純水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段と、添加した殺菌剤を回収水槽と超純水製造装置との間で除去する殺菌剤除去手段とを備えた超純水製造システムを洗浄の対象としており、この超純水製造システムの送水系および返送系に対して、送水系において超純水に殺菌剤を添加して得た洗浄水を2〜10時間に亘って通水する洗浄を行うことを特徴としている。
【0020】
すなわち、本発明の超純水製造システムの洗浄方法は、操業時には超純水のユースポイントから回収水槽に返送される使用済み超純水に殺菌剤を添加して殺菌処理を行いつつ、洗浄時には送水系で超純水に殺菌剤を添加して得た洗浄水を、2時間から10時間に亘って送水系と返送系とに通水させることを特徴としている。ここで操業時とは、超純水製造装置で製造した超純水をそのユースポイントで使用して半導体装置などの製品を製造する時間のことをいい、洗浄時とは、かかる半導体装置などの製品の製造ラインの運転を中断して、超純水製造システムの配管系などを洗浄する時間のことをいう。
【0021】
(1)超純水製造システム
次に、図2を参照しながら本発明の超純水製造システムの一具体例について説明する。この図2に示される超純水製造システム100は、いわゆるリサイクル型の超純水製造システムであり、ユースポイントPで使用した使用済み超純水を、超純水製造装置11の原水としてリサイクルできるようになっている。
【0022】
具体的に説明すると、超純水製造システム100は、超純水の製造を行う超純水製造装置11と、製造ラインMの近傍に設けられている超純水のユースポイントPに超純水製造装置11で製造された超純水を送水する主に配管系で構成される送水系と、ユースポイントPで使用された使用済み超純水を超純水製造装置11に返送する主に配管系で構成される返送系とから構成されている。
【0023】
超純水製造装置11は、逆浸透膜11aおよびイオン交換樹脂塔11bを備えており、所定の純度の超純水を所定量製造できるようになっている。逆浸透膜11aには、例えば公知の中空糸膜等を用いることができる。また、イオン交換樹脂塔11bには、例えば公知の強酸性カチオン交換樹脂や強塩基性アニオン交換樹脂等の超純水系で一般的に使用されるイオン交換樹脂を用いることができる。
【0024】
なお、超純水製造装置11の構成は、これら逆浸透膜11aおよびイオン交換樹脂塔11bに限定されるものではなく、これらに代えてもしくはこれらに加えて他の機器が設けられてもよい。例えば、逆浸透膜11aおよびイオン交換樹脂塔11bの上流側にポンプが備わっていてもよい。
【0025】
送水系は、超純水製造装置11からユースポイントPまで超純水を送水する送水配管系14と、超純水製造装置11で製造された超純水を一時的に貯留すべく送水配管系14の途中に設けられた超純水槽12と、超純水槽12の下流側に設けられた超純水送水ポンプ13とから構成される。これにより、超純水をユースポイントPに安定的に送水することができる。
【0026】
また、この送水系は、ユースポイントPの手前に紫外線殺菌装置15および限外濾過膜16を有している。これにより、極めて純度の高い超純水をユースポイントPに供給することが可能となる。紫外線殺菌装置15および限外濾過膜16の具体的な構成については特に限定するものでなく、公知の装置を用いることができる。
【0027】
一方、返送系は、ユースポイントPで使用された使用済み超純水を超純水製造装置11に返送する返送配管系18と、回収した回収水を一時的に貯留すべく返送配管系18の途中に設けられた回収水槽19と、回収水槽19の下流側に設けられた回収水送水ポンプ20とから構成される。これにより、回収した使用済み超純水を超純水製造装置11に安定的に返送することができる。
【0028】
なお、図2に示す超純水製造システム100では、返送配管系18の途中にユースポイントPで使用されなかった未使用超純水を回収する配管系18aが合流しており、回収水槽19には使用済み超純水と未使用超純水とを受け入れるようになっている。
【0029】
返送配管系18のうち、ユースポイントPと回収水槽19とをつなぐ配管の途中の好適にはユースポイントPの近傍に、殺菌剤添加手段としての第1薬注ユニット21が接続している。これによりユースポイントPから回収水槽19に向かって返送配管系18内を流れる使用済み超純水に殺菌剤を添加することができる。また、回収水槽19と超純水製造装置11とをつなぐ配管の途中の好適には回収水送水ポンプ20の吐出側に、添加した殺菌剤を除去する殺菌剤除去手段23が設けられている。
【0030】
第1薬注ユニット21は、具体的には次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)などの殺菌剤を貯留する殺菌剤槽21aと、当該殺菌剤槽21aを返送配管系18に接続する接続配管21bとから構成される。この接続配管21bにはバルブ21cが設けられており、バルブ21cの開度を調整することによって系内の殺菌剤の濃度を制御することができる。接続配管21bの途中にはポンプ(図示せず)が設けられていてもよく、これにより系内の殺菌剤の濃度をより正確に制御することができる。
【0031】
殺菌剤除去手段23には、活性炭、ゼオライト、シリカゲル等の吸着剤を充填した充填塔を用いることができる。これらの中では活性炭を用いることが望ましい。特に、活性炭の吸着能力を評価する項目の一つである、よう素吸着量が700mg/g以上のものを使用することがより望ましい。吸着剤の充填量は、超純水製造システム100の系内の容積、系内に添加する殺菌剤の種類や添加量、後述する超純水製造システム100の洗浄の時間や頻度などを考慮して適宜定められる。
【0032】
上記構成により、超純水製造システム100の操業時には第1薬注ユニット21を稼動して返送系内に殺菌剤を添加することによって、返送系内を流れる使用済み超純水の殺菌を行うことができる。第1薬注ユニット21によって系内に添加された殺菌剤は、殺菌剤除去手段23によって回収されるので、殺菌剤が超純水製造装置11に至ることはない。よって、殺菌剤に起因して超純水製造装置11に問題が生じることはない。
【0033】
本発明の一具体例の超純水製造システム100は、さらに洗浄時に使用する第2薬注ユニット22を備えている。この第2薬注ユニット22は、送水配管系14のうち、超純水槽12とユースポイントPとをつなぐ配管の好適にはできるだけ上流側に接続されており、送水系内を流れる超純水に殺菌剤を添加できるようになっている。第2薬注ユニット22は、第1薬注ユニット21と同様に、NaClOなどの殺菌剤を貯留する殺菌剤槽22aと、当該殺菌剤槽22aを送水配管系14に接続する接続配管22bとから構成される。
【0034】
接続配管22bにはバルブ22cが設けられており、バルブ22cの開度を調整することによって系内の殺菌剤の濃度を制御することができる。接続配管22bの途中にはポンプ(図示せず)が設けられていてもよく、これにより系内の殺菌剤の濃度をより正確に制御することができる。
【0035】
このように第2薬注ユニット22を設けることにより、洗浄時には超純水製造システム100の送水系において超純水に殺菌剤を添加することができ、これにより得られる洗浄水を、送水系および返送系に通水してそれらの内部を洗浄することができる。なお、第2薬注ユニット22によって系内に添加された殺菌剤は、送水系内および返送系内を流れた後、最終的に殺菌剤除去手段23によって回収されるので、殺菌剤が超純水製造装置11に至ることはない。よって、殺菌剤に起因して超純水製造装置11に問題が生じることはない。
【0036】
超純水製造システム100において、超純水との接液部に使用する材質は、超純水にその成分が溶出しないものであれば特に限定されるものではない。超純水と接液する機器としては、例えば、逆浸透膜11a、イオン交換樹脂塔11b、超純水槽12、超純水送水ポンプ13、送水配管系14、紫外線殺菌装置15、限外濾過膜16、回収配管系18、回収水槽19、回収水送水ポンプ20、殺菌剤除去手段23、各種継手・バルブ類などを挙げることができる。
【0037】
超純水にその成分が溶出しない材質としては、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、PPS(ポリフェニレンサルファイト)、PVDF(ポリビニルジフロライド)、FRP(繊維強化プラスチック)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ステンレス等を挙げることができる。なお、この超純水製造システム100には熱交換器など公知の装置がさらに組み込まれていてもよく、その場合は熱交換器の接液部の材質を上記のものにすることになる。
【0038】
上記した超純水製造システム100は、ユースポイントPが複数ある場合は、それら複数のユースポイントPで使用された使用済み超純水を全て回収して超純水製造装置11の原水としてリサイクルするものであったが、これに限定されるものではなく、複数のユースポイントPで使用された使用済み超純水のうちの一部のみを回収してリサイクルしてもよい。例えば、複数のユースポイントPのうち、界面活性剤や有機溶媒などが混入した使用済み超純水については、回収せずに廃液配管(図示せず)を介して超純水製造システムの系外に排出してもよい。
【0039】
このように界面活性剤等が混入した使用済み超純水を超純水製造システム100の系外に排出しても、ユースポイントPで使用した全ての超純水を廃液として排出していた従来の超純水製造システムに比べれば、排水の量ははるかに少なくなる。なお、界面活性剤等が混入した使用済み超純水から界面活性剤等を除去する手段を別途設けて、複数のユースポイントPで使用した使用済み超純水を全て回収してリサイクルしてもよい。
【0040】
(2)超純水製造システムの洗浄方法
次に、上記した超純水製造システム100の洗浄方法について説明する。超純水製造装置11で製造された超純水を超純水槽12に受け入れた後、この超純水槽12内の超純水を超純水送水ポンプ13を用いて昇圧してユースポイントPを経て回収水槽19に戻るように送水すると共に、送水配管14に接続されている第2薬注ユニット22を稼動して、送水される超純水に殺菌剤を添加する。
【0041】
これにより、超純水に殺菌剤を添加することによって得られる洗浄水を送水系および返送系の系内に通水することができる。洗浄水中の殺菌剤の濃度は、第2薬注ユニット22のバルブ22cの開度を適宜調整することによって所定の範囲内に制御することができる。この状態で2時間から10時間に亘って送水系および返送系に洗浄水を通水することで配管内部や限外濾過膜16の膜表面、およびユースポイントPなどに蓄積している細菌を殺菌することができる。
【0042】
この洗浄の際は、殺菌剤が酸化されて効力が低下するのを防ぐ為、紫外線殺菌装置15を停止する。また、返送配管系18内を流れる洗浄水中の殺菌剤濃度の高濃度化を防ぐ為、第1薬注ユニット21からは殺菌剤が添加されないようにする。送水系および返送系を流れた後に回収水槽19内に受け入れられた洗浄水は、回収水槽19内の底部から抜き出されて回収水送水ポンプ20で昇圧された後、殺菌剤除去手段23に送られる。
【0043】
殺菌剤除去手段23では、洗浄に使用した殺菌剤が洗浄水から除去される。この殺菌剤除去手段23は、殺菌剤により無菌化された細菌の除去も効果的に行うことができる。これにより、殺菌剤除去手段23で処理された処理水を超純水製造装置11の原水として再利用することが可能となる。すなわち、洗浄水をリサイクルして超純水として再度ユースポイントPで使用することが可能となる。
【0044】
本発明の超純水製造システムの洗浄方法は、上記したように、超純水の製造を行う操業時にユースポイントPで使用した使用済み超純水に殺菌剤を添加して殺菌処理を行う超純水製造システムを洗浄の対象としており、その洗浄時に、超純水製造システムの送水系で調製した洗浄水を送水系および返送系に2時間から10時間に亘って通水することを特徴としている。
【0045】
特に、本発明の洗浄方法が対象とする超純水製造システムにおいては、洗浄時に洗浄される返送系が、操業時にも殺菌剤で殺菌処理されているので、超純水製造システムの系内に発生する生菌の数を常に抑制することができ、よって洗浄時に要する時間を10時間以内にすることが可能となる。なお、洗浄時間を2時間以上とする理由は、洗浄が完了してから少なくとも1ヶ月間は、超純水製造システムの系内で生菌が増えないようにする為である。
【0046】
さらに、本発明の超純水製造システムの洗浄方法では、後述するように殺菌剤に次亜塩素酸ナトリウムを用いることにより、洗浄の準備を1時間程度と短くすることができ、洗浄後の洗浄液の押し出し操作も30分程度にすることができる。このように、本発明の超純水製造システムの洗浄方法によれば、適切な殺菌剤を選択することにより洗浄時間のみならず、その準備や洗浄後の洗浄水の押し出し(後始末)に要する時間も短縮化でき、最短で3時間30分程度で全ての作業を済ますことができる。よって、洗浄時に必要な半導体装置等の製造ラインの停止時間を大幅に短縮することが可能となる。なお、洗浄を行うタイミングは、系内の生菌数に増加傾向が認められた時であってもよいし、例えば1月ごとなどのように定期的なものであってもよい。
【0047】
一方、従来の超純水製造システムに対して従来から使用されているアルカリと2%過酸化水素との混合液による洗浄を行った場合は、洗浄に12時間以上必要となる上、洗浄の準備に2時間から3時間要し、さらに復旧のための作業である洗浄後の配管からのアルカリ等の洗浄液の押し出しに3時間から4時間要していた。このように、最短でも17時間程度必要であり、半導体装置等の生産性が低下する要因となっていた。
【0048】
また、本発明の超純水製造システムであれば、上述した方法で洗浄を行うことによって、使用済みの超純水を超純水製造装置の原水としてリサイクル使用した場合であっても、洗浄後の2週間以内のユースポイントでの生菌数が、従属栄養細菌(Heterotrophic Plate Count:HPC)培地法に従って35℃で48時間培養して目視で観察できる数において1個/100ml以下に抑えることが可能となる。
【0049】
(3)殺菌剤
本発明の超純水製造システムに使用する殺菌剤には、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を用いることが望ましい。また、操業時および洗浄時とも同じ殺菌剤を用いるのがより望ましい。次亜塩素酸ナトリウムを用いると、準備、洗浄、復旧含めて数時間で効果的な洗浄が可能となるからである。一方、殺菌剤にアルカリと過酸化水素との混合液を用いた場合は、前述したように、準備、洗浄、復旧に最短でも17時間程度必要であり、この間は半導体装置等の製造ラインで製造ができなくなる為、生産性が低下することが問題となる。
【0050】
操業時および洗浄時において送水系内や返送系内に通水する液中の次亜塩素酸ナトリウムの質量濃度は、1ppm以上10ppm以下とすることが望ましい。1ppm以上にする理由は、洗浄後に菌数が少なくとも1ヶ月間増えないようにする為である。一方、10ppm以下にする理由は、洗浄後の復旧に時間がかかりすぎないようにする為と、後段の殺菌剤除去手段に高い負荷がかからないようにする為である。
【0051】
(4)超純水製造システムの操業方法
次に、上記した超純水製造システム100の操業時の操作方法について説明する。操業時は、第2薬注ユニット22から殺菌剤が系内に添加されないようにしながら超純水製造装置11を運転して純度の高い超純水を送水系を介してユースポイントPに供給すると共に、ユースポイントPで使用した超純水に対しては、第1薬注ユニット21から殺菌剤を添加しながら返送系を介して回収する。
【0052】
より具体的に説明すると、逆浸透膜11aおよびイオン交換樹脂塔11bからなる超純水製造装置11で原水を処理して超純水を製造し、超純水槽12に一時的に貯留させた後、超純水槽12の底部から超純水を抜き出して超純水送水ポンプ13で昇圧し、送水配管系14、紫外線殺菌装置15、および限外濾過膜16を経てユースポイントPに供給する。その際、第2薬注ユニット22のバルブ22cは閉にしてユースポイントPには送水系から殺菌剤が流入しないようにする。
【0053】
ユースポイントPで使用した使用済み超純水は、回収配管系18を経て回収水槽19に回収する。ユースポイントPで使用しなかった未使用超純水も、配管系18aおよび回収配管系18の一部を介して回収水槽19に回収する。その際、第1薬注ユニット21を稼動し、バルブ21cを適切な開度に設定する。これにより、ユースポイントPで使用した使用済み超純水に殺菌剤を添加することができる。
【0054】
回収したこれら使用済み超純水および未使用超純水は回収水槽19の塔底から抜き出され、回収水送水ポンプ20で昇圧して殺菌剤除去手段23に供給され、ここで殺菌剤の除去が行われる。これにより、返送配管系18を介して回収される使用済み超純水を超純水製造装置11の原水としてリサイクルすることができる。
【0055】
上記した本発明の超純水製造システムは、半導体装置やその周辺材料の製造ラインで使用する洗浄用水や処理用水としての用途の超純水を提供する場合に特に好適である。例えば、半導体装置の周辺材料の一例であるCOF(Chip on Film)に用いるフレキシブル配線基板の材料となる金属化ポリイミドフィルムの製造工程では、湿式めっき法が活用されている為、上記で説明した高純度の超純水が必要不可欠となる。
【0056】
すなわち、金属化ポリイミドフィルムの製造工程では、蒸着法やスパッタ法を用いた乾式めっき法でNi、Cr、Cuなどの第1次金属層を形成したのち、電気めっき法もしくは無電解めっき法、またはそれら両者を組み合わせた湿式めっき法を用いて第2次金属層である銅層を厚付けする。通常第1次金属層の厚みは数オングストロームから数千オングストロームまで、第2次金属層の厚みは数μmから数百μmまでとなるように積層する。積層の際は、基板となるポリイミドフィルムを数m〜数十m/分で搬送させながら、積層装置内の各セルごとに別々の金属層の積層が行われる。
【0057】
この湿式めっき法において超純水が使用されているが、ここで使用する超純水の純度が、得られる金属化ポリイミドフィルムの表面外観に影響を与える。これは、超純水中の菌がめっき皮膜中に取り込まれることによるものである。したがって、高品質の金属化ポリイミドフィルムの製造のためには、超純水中の菌数を抑制する必要があるが、上記にて説明したように、本発明の超純水製造システムは、洗浄後の系内の菌数を抑えることができるので、特に適しているといえる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
図2に示す超純水製造システム100に対して以下の方法で操業および洗浄を行った。すなわち、先ず超純水製造装置11を起動し、ユースポイントPに向けて超純水を送水すると共に、第1薬注ユニット21のバルブ21cの開度を調節して、ユースポイントPで使用された使用済み超純水中の殺菌剤の質量濃度が5ppmになるように第1薬注ユニット21から殺菌剤としての次亜塩素酸ナトリウムを添加した。
【0059】
上記超純水製造システム100の操業終了後、第1薬注ユニット21のバルブ21cを閉じ、第2薬注ユニット22のバルブ22cの開度を調節して送水系内をユースポイントPに向かって流れる超純水中の殺菌剤の質量濃度が5ppmになるように第2薬注ユニット22から殺菌剤としての次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この状態で、送水系と返送系に2時間通水して洗浄を行った。なお、この洗浄時には紫外線殺菌装置15は起動させなかった。
【0060】
その結果、洗浄前にユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数は、HPC培地法に従って35℃で48時間培養したところ9個/100mlであった。一方、洗浄後2週間経過してからユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数は、同様のHPC培地法で培養したところ0個/100mlと良好な結果が得られた。また、洗浄の準備に1時間を要し、洗浄後の洗浄液の押し出しに30分を要した。
【0061】
(実施例2)
殺菌剤の質量濃度を5ppmに代えて3ppmとした以外は実施例1と同様にして操業及び洗浄を行った。その結果、洗浄前にユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数は、HPC培地法で10個/100mlであった。一方、洗浄後にユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数は1個/100mlと良好な結果が得られた。
【0062】
(比較例1)
洗浄時間を2時間に代えて1時間とした以外は実施例1と同様にして操業及び洗浄を行った。その結果、洗浄前にユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数は、HPC培地法で10個/100mlであった。一方、洗浄後にユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数は5個/100mlであった。
【0063】
(比較例2)
操業時は第1薬注ユニット21を稼動させず、洗浄時は第2薬注ユニット22からアルカリ溶液(2重量%過酸化水素水と苛性ソーダの混合溶液)をpHが9.5となるように添加して12時間洗浄処理した以外は実施例1と同様にして操業及び洗浄を行った。その結果、洗浄の準備に3時間を要し、洗浄後の洗浄液の押し出しに4時間要した。また、洗浄前にユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数はHPC培地法で20個/100mlであった。一方、洗浄後にユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数は1個/100mlと良好な結果な結果が得られた。
【0064】
(参考例)
殺菌剤の質量濃度を5ppmに代えて0.5ppmとした以外は実施例1と同様にして操業及び洗浄を行った。その結果、洗浄前にユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数はHPC培地法で12個/100mlであった。一方、洗浄後にユースポイントPで採取した超純水中に含まれる菌数は12個/100mlと良好な結果を得ることはできなかった。
【符号の説明】
【0065】
1、11 超純水製造装置
1a、11a 逆浸透膜
1b、11b イオン交換樹脂塔
2、12 超純水槽
3、13 超純水送水ポンプ
4、14 送水配管系
5、15 紫外線(UV)殺菌装置
6、16 限外濾過膜(UF)
7 廃液配管
8、18、18a 回収配管系
9、19 回収水槽
10、20 回収水送水ポンプ
21 第1薬注ユニット
22 第2薬注ユニット
23 殺菌剤除去手段
50、100 超純水製造システム
P ユースポイント
M 製造ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水製造装置で製造された超純水をそのユースポイントまで送水する送水系と、ユースポイントで使用された使用済み超純水を回収水槽を経由して超純水製造装置に返送する返送系と、返送系内を回収水槽に向かって流れる使用済み超純水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段と、添加した殺菌剤を回収水槽と超純水製造装置との間で除去する殺菌剤除去手段とを備えた超純水製造システムの洗浄方法であって、送水系において超純水に殺菌剤を添加して得た洗浄水を2〜10時間に亘って送水系および返送系に通水することによって洗浄を行うことを特徴とする超純水製造システムの洗浄方法。
【請求項2】
前記殺菌剤除去手段が活性炭であることを特徴とする、請求項1に記載の超純水製造システムの洗浄方法。
【請求項3】
前記殺菌剤が次亜塩素酸ナトリウムであり、質量濃度が1ppm以上10ppm以下となるように添加することを特徴とする、請求項1または2に記載の超純水製造システムの洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄の終了後に前記ユースポイントで採取した超純水の生菌数がHPC培地法で1個/100ml以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の超純水製造システムの洗浄方法。
【請求項5】
超純水製造装置と、該超純水製造装置で製造された超純水をそのユースポイントまで送水する送水系と、ユースポイントで使用された使用済み超純水を回収水槽を経由して超純水製造装置に返送する返送系と、返送系内を回収水槽に向かって流れる使用済み超純水に殺菌剤を添加する殺菌剤添加手段と、添加した殺菌剤を回収水槽と超純水製造装置との間で除去する殺菌剤除去手段とを有していることを特徴とする超純水製造システム。
【請求項6】
前記殺菌剤除去手段が活性炭であることを特徴とする、請求項5に記載の超純水製造システム。
【請求項7】
前記送水系内を流れる超純水に殺菌剤を添加する第2殺菌剤添加手段をさらに有していることを特徴とする、請求項5または6に記載の超純水製造システム。
【請求項8】
超純水製造装置で製造されてユースポイントで使用された使用済み超純水に対して殺菌剤を添加して殺菌処理し、添加された殺菌剤を殺菌剤除去手段によって除去した後に原水として超純水製造装置に供給することを特徴とする超純水の製造方法。
【請求項9】
前記超純水製造装置で製造した超純水を前記ユースポイントまで送水する送水系と前記使用済み超純水を超純水製造装置まで返送する返送系とに対して、送水系において超純水に殺菌剤を添加して得た洗浄水を2〜10時間に亘って通水することによって洗浄し、洗浄後に排出される洗浄水を原水として超純水製造装置に供給することを特徴とする、請求項8に記載の超純水の製造方法。
【請求項10】
前記殺菌剤が次亜塩素酸ナトリウムであり、質量濃度が1ppm以上10ppm以下となるように添加することを特徴とする、請求項8または9に記載の超純水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−96187(P2012−96187A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247232(P2010−247232)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】